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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009718
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】スピーカーシステム
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/22 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
H04R1/22 310
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113224
(22)【出願日】2021-07-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】500526789
【氏名又は名称】柴原 久治
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125221
【弁理士】
【氏名又は名称】水田 愼一
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】柴原 久治
【テーマコード(参考)】
5D018
【Fターム(参考)】
5D018AA10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低音再生能力の向上及び再生音の清浄化を図るべくスピーカーの筐体内の音波制御を可能とする音響構造を持つスピーカーシステムを提供する。
【解決手段】スピーカーシステム1は、スピーカー2を設置した筐体3と、筐体3内でスピーカー2の振動板4よりも背面側に設置された、複数の細管束5で成る細管束構造体6と、を備える。細管束構造体6の細管束5の各々は、一端側を開放端7、他端側Bを閉止端8とする。スピーカー2の振動板4により発振された音波は、細管束5の開放端7より入り、細管束5内を通り閉止端8で反射してスピーカー2の振動板4位置に帰還されるようになり、細管束5の各長さを変えて音響の通過距離を個別に設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカーを設置した筐体と、前記筐体内で前記スピーカーの振動板よりも背面側に設置された、複数の細管束で成る細管束構造体と、を備えたスピーカーシステムであって、
前記細管束構造体の細管束の各々は、一端側は開放端、他端側は閉止端とし、前記スピーカーの振動板により発振された音波が細管束の開放端より入り、細管束内を通り閉止端で反射して前記スピーカーの振動板位置に帰還されるようにし、細管束の各長さを変えて音響の通過距離を個別に設定して成る、ことを特徴とするスピーカーシステム。
【請求項2】
前記細管束構造体の細管束の最長長さLが再生しようとする最低周波数:fleに於いて、細管束内の音速ct/周波数f×4=2L、従って、L=ct/8f 式(1)を満たすように設定され、かつ、1オクターブ設定として、前記細管束の長さは、最大ct/8fから最短ct/(8f×2)の間で漸減するように設定されることにより、
前記振動板による低音域での発振音波(ow)が前記細管束の最長閉止端で反射され前記振動板側に帰還される帰還波(rw)の位相が、前記発振音波(ow)に対して1/4サイクル遅れて到達して、前記帰還波(rw)の大半が前記振動板の動きに順方向に作用するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のスピーカーシステム。
【請求項3】
前記細管束構造体は、プラスチックダンボールの断面構造を持つ1枚の部材を、最長長さ辺から最短長さ辺の間で漸減するように切断したものを1層とし、それら複数枚を積層接着して成ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスピーカーシステム。
【請求項4】
前記細管束構造体は、プラスチックダンボールの断面構造を持つ部材を複数枚積層接着し、上面壁から下面壁に向けて最長長さから最短長さの間で漸減するように切削して成ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスピーカーシステム。
【請求項5】
前記細管束構造体は、その細管束の最長長さと最短長さの間の中間長さで長い側と短い側とに分け、各々の構造体を正面視で左右に分散配置し、かつ、各々の構造体の開放端は側面視で斜めに配置し、かつ、各々の構造体を蛇腹状に折り畳み構成としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスピーカーシステム。
【請求項6】
前記細管束構造体は、渦巻状に折り返し構成としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスピーカーシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低音再生能力の向上及び再生音の清浄化を図ったスピーカーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のスピーカーシステムにおいて、密閉型の筐体構造を持つものがある。この筐体内に向けて放射された音波について低音域に着目すると、振動体の大きな振幅は筐体内の空気圧力の変動となって現れる。この圧力の変動は振動体に反力として作用し、小型の筐体であればあるほど振動体の運動による振動板への阻害は大きくなり、その結果、スピーカーの低音再生機能は低くなる。また、この阻害によりこの音域ではインピーダンスが上昇し振動体が充分動けていないことが分かる。
【0003】
さらに、低音再生能力を上げるための既存技術として以下のようなものがある。
a)スピーカーの振動板口径を大きくする。
b)筐体を大きくすることにより振動体の発する圧力の反力の割合を下げる。
c)振動板の質量を上げる。振動体の慣性を大きくすることにより、振動板の運動エネルギーを保存する。
d)バスレフ方式とする。筐体にバスレフダクトを設置することにより筐体をヘルムホルツ共鳴箱として作動させ、ヘルムホルツ共振値を中心値とした一定の再生帯域での共鳴を利用し、低音のブーストを図るものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再公表特許WO2018/167908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記既存技術a)、b)、c)においては、筐体が大きくなるデメリットがあり、筐体内の音の乱反射による定在波、振動板への圧力反力がなくなるわけではない。d)においては、上記一定の再生帯域でしか効果がなく、帯域外では密閉型と変わらず筐体内の音の乱反射による定在波、振動体への圧力反力がなくなるわけではない。なお、ヘルムホルツ効果は管楽器等の楽器の音階を形成する理論であり、スピーカーユニットに用いた場合、へルムホルツ効果で出力される音波は共振の内容であり、入力される電気信号に対して再生音はリニアリティーを欠くものとなってしまう。バスレフ方式のインピーダンス性能曲線を見ると、ヘルムホルツ効果がある音域でインピーダンスが上昇しており、これは振動体の動きが入力に対しリニアでなく、振動体に変な制動を与えていることが分かる。
【0006】
本発明は、上記問題を解消するものであり、低音再生能力の向上を図るべくスピーカーの筐体内の音波制御を可能とする音響構造を持ち、また、同時に音響構造の帰還波の総量の減少により振動体への影響を減じ清浄な再生音とするスピーカーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、スピーカーを設置した筐体と、前記筐体内で前記スピーカーの振動板よりも背面側に設置された、複数の細管束で成る細管束構造体とを備えたスピーカーシステムであって、前記細管束構造体の細管束の各々は、一端側は開放端、他端側は閉止端とし、前記スピーカーの振動板により発振された音波が細管束の開放端より入り、細管束内を通り閉止端で反射して前記スピーカーの振動板位置に帰還されるようにし、細管束の各長さを変えて音響の通過距離を個別に設定して成る、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、筐体内に設置した細管束構造体による細分化された音響の通過距離設定により、筐体内の振動板に対する音圧の影響、筐体内の無作為な音波の乱反射波によるオーディオ再生音に対する悪影響を解消でき、低音域再生の増強及び再生音の清浄化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るスピーカーシステムの側断面図。
図2】同スピーカーシステムの平面断面図。
図3図1の矢視方向断面図。
図4】(a)は同スピーカーシステムにおける1層の細管部材の平面図、(b)は(a)の矢視方向断面図。
図5】同スピーカーシステムにおける細管束構造体の斜視図。
図6】同スピーカーシステムにおける振動板による所定周波数(例えば30Hz)での発振音波(ow)と細管束構造体の最長閉止端で反射した帰還波(rw)の波形図。
図7】所定周波数(例えば45Hz)での発振音波(ow)と細管束構造体の3個所(最長、中間、最短)の閉止端で反射した帰還波(rw)の波形図、帰還波(rw)を合成した帰還波の波形図。
図8】上記の2倍周波数(例えば90Hz)での発振音波(ow)と細管束構造体の3個所(最長、中間、最短)の閉止端で反射した帰還波(rw)の波形図、帰還波(rw)を合成した帰還波の波形図。
図9】上記の3倍周波数(例えば135Hz)での発振音波(ow)と細管束構造体の3個所(最長、中間、最短)の閉止端で反射した帰還波(rw)の波形図、帰還波(rw)を合成した帰還波の波形図。
図10】上記の4倍周波数(例えば180Hz)での発振音波(ow)と細管束構造体の3個所(最長、中間、最短)の閉止端で反射した帰還波(rw)の波形図、帰還波(rw)を合成した帰還波の波形図。
図11】上記の8倍周波数(例えば360Hz)での発振音波(ow)と細管束構造体の3個所(最長、中間、最短)の閉止端で反射した帰還波(rw)の波形図、帰還波(rw)を合成した帰還波の波形図。
図12】(a)は本発明の応用例として細管束構造外部露出型のスピーカーシステムの側断面図、(b)は同スピーカーシステムの正面図、(c)は(a)の矢視方向断面図、(d)は細管束構造体の構成説明図。
図13】(a)は本発明の応用例としてトールボーイ型スピーカーシステムの側断面図、(b)は同スピーカーシステムの正面図、(c)は(a)の矢視方向断面図、(d)は細管束構造体の構成説明図。
図14】(a)は本発明の応用例として一回折り細管束構造体を持つスピーカーシステムの側断面図、(b)は(a)の矢視方向断面図、(c)は同スピーカーシステムの正面図、(d)は細管束構造体の正面図、(e)は細管束構造体の構成説明図。
図15】(a)は本発明の応用例として複数折り細管束構造体を持つブックシェルフ型スピーカーシステムのA側断面図、(b)は同スピーカーシステムのB側断面図、(c)は同スピーカーシステムの正面図、(d)は(a)の矢視方向平面図、(e)は細管束構造体の正面図、(f)は細管束構造体の構成説明図。
図16】(a)は本発明の応用例として渦巻型細管束構造体を持つブックシェルフ型スピーカーシステムの断面図、(b)は(a)の矢視方向断面図、(c)は同スピーカーシステムの正面図、(d)は細管束構造体の正面図、(e)は細管束構造体の構成説明図。
図17】(a)は本発明の応用例として車載用スピーカーシステムを斜め後方から見た図、(b)は同システムの側面図、(c)は細管束構造体の平面図、(d)は細管束構造体の構成説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るスピーカーシステムについて図面を参照して説明する。図1図5において、スピーカーシステム1は、スピーカー2を設置した筐体3と、筐体3内でスピーカー2の振動板4よりも背面側に設置された、複数の細管束5で成る細管束構造体6と、を備えている。
【0011】
細管束構造体6の細管束5の各々は、Aで示す一端側は開放端7、Bで示す他端側は閉止端8とし、スピーカー2の振動板4により発振された音波が細管束5の開放端7より入り、細管束5内を通り閉止端8で反射してスピーカー2の振動板4位置に帰還されるようにし、細管束5の各長さを変えて音響の通過距離を個別に設定して成る。閉止端8の後方はデッドスペース9である。ここに、細管束5の長さの個別設定は、所定の周波数、特に低周波域において、振動板4が所定サイクル遅れて帰還した音波によって背面より加勢されるように設定することにより、スピーカー2の低音域再生の増強が図れる。
【0012】
細管束構造体6の実際の製作では、例えば、多チューブ状のプラスチックダンボールを長さが漸減するように切って積層し制作することができる。
【0013】
本明細書において、音の周波数をf、最低周波数をfle、音速cの仮数値340(m/s)、温度tでの音速は330+0.6t、細管束5内の音速ct、細管束5内の音速定数はct/c=k(細管束5の形状等によって変化)、細管束5の最大長さをLとする。
【0014】
本実施形態のスピーカーシステム1において、スピーカー2の振動板4の発振による音波と閉止端8で反射され振動板4位置に帰還された音波との位相が、振動板4の動きから1/4サイクル遅れて到達するように細管束構造体6が設定された場合を説明する。この場合にあって、振動板4による音波(ow)と、細管束構造体6の最長の細管束5の閉止端8で反射された帰還波(rw)とは、図6に示した通りとなる。同図において、音波(ow)は振動板4による所定の周波数f(例えば30Hz)のサイン波である。横軸は時間t、縦軸は音圧(正負)であり、cは空気中の音速、kは細管中の音速/空気中の音速でなる定数(条件によって変わる)であり、ckは速度、2l(“l”は図6図11では筆記体で表記、上記“L”と同等物)は細管束5の往復長さであり、ck/2lは1/4サイクル相当の時間である。
【0015】
図6に示したように、音波(ow)は、その正のピークから負のピークの領域で下向き矢印で示した通りの帰還波(rw)の音圧を受ける。この帰還波(rw)の音圧は、振動板4自体の動きに対して順方向であって、振動板4を背面より押す正の音圧となる。つまり、所定の周波数fのとき、振動板4は1/4サイクル遅れて到達した帰還波(rw)の音波によって加勢されることになる。このような作用は、振動板4が連続して振動する場合、振動板4の発振の1/4サイクル遅れで継続する。また、筐体3で発生している圧力波の大半は細管束構造体6に入り、筐体3で発生している圧力波の筐体3による反射波を大幅に抑制する効果もある。
【0016】
上記のように細管束構造体6を設定するには、細管束5の最大長さLの決定は下の数式を満たせば良い。
ct/f×4=2L
よって、L=ct/8f・・式(1)
【0017】
(実際の設計への展開)
先ず、一般周波数に対応する細管束構造体6の設計と効果について説明する。一般のオーディオ信号は多数の周波数が混在しているため、特定周波数とその整数倍の周波数のみの効果だけではなく、実際の音域の対応を検討する。
条件:スピーカーの再生音域への対応
最低周波数fle、上限:オクターブごとに波長は半減するので、細管束5の寸法は最長部より1オクターブの設定として、それ以上の音域も、基底オクターブ×n倍として、対応するものとする。よって、細管束5の長さは、ct/8f~ct/(8f×2)の間で漸減する構造で設定して検証する。
【0018】
(効果の検証)
以下は検討計算の都合で、細管束5の長さが(3/4)Lでの帰還波を基準に検討する。本実施形態の細管束構造体6での各周波数fについての帰還波の波形を検討するが、細管束5の長さは、Lから漸減する構造であるため、L,(3/4)L、(1/2)L点の波形を抽出し検討する。
【0019】
細管束5の管数がnとすると、各細管束5による帰還波の量は振動体4が発する全量の1/nとなるが、図7以降の図の帰還波の波形は、便宜上n倍された線として表記している。帰還波の総和のみは実量で表記している。
【0020】
図7は、f=(3/2)fle、かつ細管束5の長さが、L、(3/4)L、(1/2)Lの場合の帰還波とその合成を示す。帰還波は、それぞれrw-c、rw-b、rw-aの各曲線となる。ここに、長さ(3/4)Lの細管束5による帰還波(rw-b)が、音波(ow)の1/4サイクル遅れた正のピークに到達するような位相となる。細管束構造体6全体での帰還波の総和Σrw(a~b~c)は、概ね斜線部のようになる。これより、帰還波の合成による振動板4への働きは順方向に有効なことが分かる。
図8は、f=6/2×fle、かつ細管束5の長さが、L、(3/4)L、(1/)2Lの場合の帰還波とその合成を示す。ここに、長さ(3/4)Lの細管束5による帰還波(rw-b)が、1/2サイクル遅れた音波(ow)のゼロクロスに到達するような位相となる。
図9は、f=9/2×fle、かつ細管束5の長さが、L、(3/4)L、(1/2)Lの場合の帰還波とその合成を示す。ここに、長さ(3/4)Lの細管束5による帰還波(rw-b)が、3/4サイクル遅れた音波(ow)の負のピークに到達するような位相となる。
図10は、f=12/2×fle、かつ細管束5の長さが、L、(3/4)L、(1/2)Lの場合の帰還波とその合成を示す。 ここに、長さ(3/4)Lの細管束5による帰還波(rw-b)が、2サイクル遅れた音波(ow)の負のピークに到達するような位相となる。
図11は、f=24/2×fle、かつ細管束5の長さが、L、(3/4)L、(1/2)Lの場合の帰還波とその合成を示す。ここに、長さ(3/4)Lの細管束5による帰還波(rw-b)が、3サイクル遅れた音波(ow)の負のピークに到達するような位相となる。
【0021】
上記の各波形図より本実施形態の構造で振動板4側に帰還される音波は、f=(3/2)fleでは大半の帰還波が振動板4の動きに順方向に作用する。この効果により、この周波数付近では振動板4の低音域増強効果が可能である。一定周波数の増幅効果は、その周波数の上下1オクターブの帯域幅内で両端に向かって減衰すると考えられるので、f=fle以下の周波数でも減衰しながらも再生は可能である。
【0022】
これに対して、バスレフ方式では、ヘルムホルツ共振周波数を中心とした一定の範囲でしか低音域が増強されない。増強音域以外の音域では、振動板4の発した音波は筐体3内で反射、充満し振動板4に対し制動成分となる。
【0023】
図8図11においては、周波数fが増加するに従い、各点の帰還される波のピークの間隔が広がってゆき、帰還波の正負の部分が重なり、帰還波の総和Σrw(a~b~c)としては減少してゆく。この結果により、振動板4に帰還される音波の影響は漸次に減少してゆき、その結果、振動板4の運動は筐体3からの反射音の影響から解放される方向に作用した結果、再生音は澄んだ原音に近い音となる。つまり、細管束構造体6の音響構造による帰還波の総量の減少により、振動体4への影響を減じて清浄な再生音とすることができる。定在波の発生する筐体3の空間が細管束構造体6にほぼ占領され、帰還波も原理上減少するため、定在波はほぼ発生しないと考えられる。
【0024】
(問題点と対策)
本実施形態の構造で実際に音楽信号を再生すると、中音域が曇った再生音になるが、これは低音域再生時の帰還波の圧力が振動板4の動きを制動し、中音域の再生を阻害していると考察される。この現象は筐体3に適度な小孔(リリーフホールと呼称)を設置することで解消する。
【0025】
(細管束構造体6の製作技術の検討)
細管束構造体6の作成は以下の2方法が考えられる。
(1)細管束5は既製品のプラスチックダンボール状の断面構造を持つものを切断し積層し組み立てる方法
(2)細管束構造体6をスピーカー2の軸、上下方向に構造を断面で切り、その断面をn層とし、その1/nを1層として、その1層を成形品とすると、n枚積層接着し、開放端側の長さを漸次減に細工することで構造体を作ることが可能である。積層するので片側の上面壁は次層下面壁で兼用可能となる。
【0026】
(筐体3構造の工夫)
スピーカー2の用途により筐体3の形状及び細管束構造体6の構成を以下に記述する。仮に、ct=360k、f=30、k=1とすれば、式(1)より、L=360×1/(8×30)=1.5mとなる(振動板4から開放端7の距離は便宜上無視)。当然、周波数fを高く設定すれば、L、(1/2)L寸法も小さくなり、細管束構造体6の容積は小さくなる。
【0027】
(応用例)
図12は、本発明の応用例として細管束構造外部露出型のスピーカーシステム1の例を示す。このシステム1は、スピーカーとしてウーファー2a、ツィーター2bを有する。細管束構造体6は、筐体3内に下向きの開放端7があり、筐体3の外に後方ほど斜め上方に立ち上がった閉止端8がある。
【0028】
図13は、他の応用例としてトールボーイ型スピーカーシステム1の例を示す。このシステム1は、ウーファー2a、ツィーター2bを有し、細管束構造体6は筐体内に収められ、その開放端7は後方ほど上方に立ち上がった上端にあり、閉止端8は下端にある。
【0029】
図14は、他の応用例として一回折り細管束構造体を持つスピーカーシステム1の例を示す。このシステム1によれば、全体のコンパクト化が図れる。
【0030】
図15は、他の応用例としてブックシェルフ型スピーカーシステム1の例を示す。このシステム1は、筐体3内に設けられる細管束構造体6を複数回折り畳んだ構成としてコンパクト化を図っている。細管束構造体6は、その細管束5の最長長さと最短長さの間の中間長さで、長いA側と短いB側とに分け、各々の構造体を正面視で左右に分散配置し、各々の構造体の開放端7は側面視で斜めに配置し、かつ、各々の構造体を蛇腹状に折り畳み構成としている。
【0031】
図16は、他の応用例として渦巻型細管束構造体を持つブックシェルフ型スピーカーシステム1を示す。このシステム1は、細管束構造体6を渦巻状に折り返し構成としたものである。
【0032】
図17は、他の応用例として車載用スピーカーシステム1を示す。このシステム1は、カーステレオ用ドア取付けスピーカーであり、ドア取付用フランジ31を介してドア内板32に取り付けられる。細管束構造体6は、円環状に複数層(n1×n2)が積層されており、スピーカー2の外周を囲むように配置される。細管束構造体6の外周側を長い細管束とし、内周側を短い細管束としている。開放端7は各層で斜め斜面上にあり、閉止端8は背面から見て半径に沿う面上にある。この構成により、コンパクトな車載用スピーカー提供できる。
【0033】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限られず、種々の変形が可能である。例えば、オーディオ用スピーカーだけでなく、大音量(PA)システム、楽器用アンプ、サブウーファー、等にも応用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 スピーカーシステム
2 スピーカー
3 筐体
4 振動板
5 細管束
6 細管束構造体
7 開放端
8 閉止端
L 細管束5の最大長さ
ow 振動板4の動きの波形
rw 帰還波の波形

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【手続補正書】
【提出日】2022-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカーを設置した筐体と、前記筐体内で前記スピーカーの振動板よりも背面側に設置された、複数の細管束で成る細管束構造体と、を備えたスピーカーシステムであって、
前記細管束構造体の細管束の各々は、一端側は開放端、他端側は閉止端とし、前記スピーカーの振動板により発振された音波が細管束の開放端より入り、細管束内を通り閉止端で反射して前記スピーカーの振動板位置に帰還されるようにし、細管束の各長さを変えて音響の通過距離を個別に設定して成り、
前記細管束構造体の細管束の最長長さLが再生しようとする最低周波数:fleに於いて、細管束内の音速ct/周波数f×4=2L、従って、L=ct/8f 式(1)を満たすように設定され、かつ、1オクターブ設定として、前記細管束の長さは、最大ct/8fから最短ct/(8f×2)の間で漸減するように設定されることにより、
前記振動板による低音域での発振音波(ow)が前記細管束の最長閉止端で反射され前記振動板側に帰還される帰還波(rw)の位相が、前記発振音波(ow)に対して1/4サイクル遅れて到達して、前記帰還波(rw)の大半が前記振動板の動きに順方向に作用するようにしたことを特徴とするスピーカーシステム。
【請求項2】
前記細管束構造体は、プラスチックダンボールの断面構造を持つ1枚の部材を、最長長さ辺から最短長さ辺の間で漸減するように切断したものを1層とし、それら複数枚を積層接着して成ることを特徴とする請求項に記載のスピーカーシステム。
【請求項3】
前記細管束構造体は、プラスチックダンボールの断面構造を持つ部材を複数枚積層接着し、上面壁から下面壁に向けて最長長さから最短長さの間で漸減するように切削して成ることを特徴とする請求項に記載のスピーカーシステム。
【請求項4】
前記細管束構造体は、その細管束の最長長さと最短長さの間の中間長さで長い側と短い側とに分け、各々の構造体を正面視で左右に分散配置し、かつ、各々の構造体の開放端は側面視で斜めに配置し、かつ、各々の構造体を蛇腹状に折り畳み構成としたことを特徴とする請求項に記載のスピーカーシステム。
【請求項5】
前記細管束構造体は、渦巻状に折り返し構成としたことを特徴とする請求項に記載のスピーカーシステム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
上記既存技術a)、b)、c)においては、筐体が大きくなるデメリットがあり、筐体内の音の乱反射による定在波、振動板への圧力反力がなくなるわけではない。d)においては、上記一定の再生帯域でしか効果がなく、帯域外では密閉型と変わらず筐体内の音の乱反射による定在波、振動体への圧力反力がなくなるわけではない。なお、ヘルムホルツ効果は、スピーカーユニットに用いた場合、へルムホルツ効果で出力される音波は共振の内容であり、入力される電気信号に対して再生音はリニアリティーを欠くものとなってしまう。バスレフ方式のインピーダンス性能曲線を見ると、ヘルムホルツ効果がある音域でインピーダンスが上昇しており、これは振動体の動きが入力に対しリニアでなく、振動体に変な制動を与えていることが分かる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明は、スピーカーを設置した筐体と、前記筐体内で前記スピーカーの振動板よりも背面側に設置された、複数の細管束で成る細管束構造体と、を備えたスピーカーシステムであって、前記細管束構造体の細管束の各々は、一端側は開放端、他端側は閉止端とし、前記スピーカーの振動板により発振された音波が細管束の開放端より入り、細管束内を通り閉止端で反射して前記スピーカーの振動板位置に帰還されるようにし、細管束の各長さを変えて音響の通過距離を個別に設定して成り、
前記細管束構造体の細管束の最長長さLが再生しようとする最低周波数:fleに於いて、細管束内の音速ct/周波数f×4=2L、従って、L=ct/8f 式(1)を満たすように設定され、かつ、1オクターブ設定として、前記細管束の長さは、最大ct/8fから最短ct/(8f×2)の間で漸減するように設定されることにより、
前記振動板による低音域での発振音波(ow)が前記細管束の最長閉止端で反射され前記振動板側に帰還される帰還波(rw)の位相が、前記発振音波(ow)に対して1/4サイクル遅れて到達して、前記帰還波(rw)の大半が前記振動板の動きに順方向に作用するようにしたことを特徴とする。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】削除
【補正の内容】