(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097180
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】感情状態及び/又は生体状態の判定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20230630BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20230630BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
A61B5/16 120
A61B5/107 800
A61B5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213387
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 朋子
(72)【発明者】
【氏名】森田 愛
(72)【発明者】
【氏名】東 栄美
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 ゆりの
(72)【発明者】
【氏名】楊 勝帆
【テーマコード(参考)】
4C038
4C117
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PR00
4C038VA17
4C038VB40
4C038VC20
4C117XA05
4C117XB02
4C117XB18
4C117XD05
4C117XE03
4C117XG37
(57)【要約】
【課題】簡易な方法でより的確に対象者の感情状態及び/又は生体状態を判定できる方法を提供する。
【解決手段】所定のパーソナリティ分類に基づき対象者のパーソナリティ属性を決定し、前記対象者に所定の香りを嗅がせて、当該所定の香りに対する前記対象者の知覚結果を取得し、前記パーソナリティ属性及び前記知覚結果に基づき、当該対象者の感情状態及び/又は生体状態を判定することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のパーソナリティ分類に基づき対象者のパーソナリティ属性を決定し、
前記対象者に所定の香りを嗅がせて、当該所定の香りに対する前記対象者の知覚結果を取得し、
前記パーソナリティ属性及び前記知覚結果に基づき、当該対象者の感情状態及び/又は生体状態を判定することを含む、判定方法。
【請求項2】
前記所定の香りを、前記決定されたパーソナリティ属性に応じて決定することを含む、請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
前記パーソナリティ属性を、前記対象者の所定の複数の気質の傾向をそれぞれ判定して当該判定に基づき決定する、請求項1又は2に記載の判定方法。
【請求項4】
前記所定のパーソナリティ分類が、前記対象者を、2~6のパーソナリティ属性のいずれかに割り当てるものである、請求項1から3のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項5】
前記感情状態が、活動的快、非活動的快、親和、集中、驚愕、抑鬱・不安、倦怠、及び敵意に関わる感情の1以上を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項6】
前記生体状態が、肌の柔らかさ、ハリ、きめ細かさ、透明感、かさつき、及び脂っぽさの1以上を含む肌状態である、請求項1から5のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項7】
前記知覚結果が、前記香りに対して感じられる好き嫌い、強弱、重軽、甘さ、色、及び香調の1以上を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感情状態及び/又は生体状態の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被験者の生体状態の診断のために、香り若しくは匂いを利用することが知られている。例えば、特許文献1には、嗅覚刺激物の主成分となる芳香成分を分類し、当該分類と生体状態へ与える作用とを対応付け、嗅覚刺激物が被験者に与える不快度数を判定付けし、嗅覚刺激物の主成分に係る分類と生体状態への作用との相関係数の割り当てを、上記不快度数の相対的な高低に応じて変化させ、各分類に対し、相関係数に基づく被験者の生体状態を図示するための図形情報を生成することを含む方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法では、被験者は一回の診断において複数の分類(実施例では8種)の嗅覚刺激物の匂いを嗅いで順位付けすることが必須である等、特に被験者にとっては煩雑と感じられる場合がある。
【0005】
上記の点に鑑みて、本発明の一態様は、簡易な方法でより的確に対象者の感情状態及び/又は生体状態を判定できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、対象者の感情状態及び/又は生体状態の判定方法であって、当該判定方法が、所定のパーソナリティ分類に基づき対象者のパーソナリティ属性を決定し、前記対象者に所定の香りを嗅がせて、当該所定の香りに対する前記対象者の知覚結果を取得し、前記パーソナリティ属性及び前記知覚結果に基づき、当該対象者の感情状態及び/又は生体状態を判定することを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、簡易な方法でより的確に対象者の感情状態及び/又は生体状態を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態による判定方法のフロー図である。
【
図2】一実施形態による判定方法のための準備工程のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[対象者の感情状態及び/又は生体状態の判定方法]
本発明の一実施形態は、香りと、その香りに対する判定対象者の知覚結果との相関に基づいて、対象者の状態を判定する方法である。ここで、本発明者らは、特に判定対象者のパーソナリティに着目し、パーソナリティの分類を利用するアプローチを見出した。また、本発明者らは、判定対象者の状態を効果的に判定できる香りが、判定対象者のパーソナリティによって異なることを見出した。よって、本形態では、判定対象者のパーソナリティを把握した上で判定を進めることで、判定対象者の所定の感情状態及び/又は生体状態をより簡易に且つより的確に判定することが可能となる。本形態では、一回の判定の際に判定対象者に多岐にわたる種類の香りを嗅いで順位付けする等の工程は必要なく、判定対象者に過度な負担を生じさせない。
【0010】
一実施形態による判定方法は、判定対象者の感情状態及び/又は生体状態の判定方法であって、所定のパーソナリティ分類に基づき判定対象者のパーソナリティ属性を決定し(S1)、判定対象者に所定の香りを嗅がせて、当該所定の香りに対する当該判定対象者の知覚結果を取得し(S2)、上記パーソナリティ属性及び上記知覚結果に基づき、当該判定対象者の感情状態及び/又は生体状態を判定すること(S3)を含む。
図1に、本形態による判定方法のフロー図を示す。以下、判定方法における各工程について説明する。
【0011】
<パーソナリティ属性の決定(S1)>
判定に際しては、まず判定対象者のパーソナリティ属性を決定する(S1)。パーソナリティは、その対象者に固有の属性であり、判定対象者の人柄若しくは気質の傾向である。
【0012】
パーソナリティ属性の決定(S1)のために利用される所定のパーソナリティ分類は、特に限定されないが、例えば心理学の分野で知られた分類を利用することができる。利用できるパーソナリティ分類の具体例としては、Goldberg, L. R. (1990), An alternative "description of personality": The Big-Five factorstructure, Journal of Personality and Social Psychology,59, 1216-1229に記載されたビッグファイブ(Big Five personality traits)、すなわち「開放性」、「誠実性」、「外向性」、「協調性」、及び「神経症傾向(情緒安定性)」の5因子による分類が挙げられる。
【0013】
上記のビッグファイブの分類を利用した場合、所定の判定対象者のパーソナリティ属性は、例えば、「外向性が低く、神経症傾向が高い傾向」、「外向性が高く、勤勉性が低い傾向」、「外向性、勤勉性が高く、神経症傾向が低い傾向」、及び「外向性が低く、開放性が低い傾向」のように、5つの要因の2以上が任意に組み合わされて表される気質の傾向となり得る。分類されるパーソナリティ属性の数は2~6、好ましくは3~5とすることができる。
【0014】
このようなパーソナリティ属性は、判定方法に先立って予め設定しておくことができる。そのためには、予め複数の被験者のデータを取得し、それを利用することができる。複数の被験者は、判定対象者との共通性(仕事、年齢、居住地、人種等を含む)を有する人の群であることが好ましい。このパーソナリティ属性の予めの設定においては、判定方法にて利用されるパーソナリティ分類に基づく質問を準備し、被験者に回答させ、その回答を利用してクラスター分析等によって分析し、パーソナリティ属性を設定できる(判定方法に先立って行う準備作業については、後にさらに詳述)。
【0015】
本形態による判定方法における判定対象者のパーソナリティ属性の決定(S1)は、判定対象者が、予設定しておいた(準備しておいた)複数のパーソナリティ属性のいずれに当てはまるかを決定することを含む。その際には、判定方法に先立つパーソナリティ属性の設定において用いられた手法と同様の手法で、例えば同様の内容のアンケートによる質問・回答を利用することができる。例えば、準備作業におけるパーソナリティ属性の設定に、上記のビッグファイブの分類を利用し、5つの因子のそれぞれに関して1つ以上の質問を設定して、判定対象者自身に当てはまるかどうかついて回答してもらっていた場合、判定対象者に対しても、同様に5つの因子に関する質問をして同様の形式で回答を取得し、先立って行ったパーソナリティ属性の設定の際に取得した回答データと比較することができる。本形態による判定方法に先立つパーソナリティ属性の設定については、後に詳述する。
【0016】
<嗅香、及び知覚結果取得(S2)>
判定対象者に嗅がせる所定の香りは、パーソナリティ属性の決定(S1)で決定された判定対象者のパーソナリティ属性に応じて選定できる。また、所定の香りは、判定したい所定の感情状態及び/又は生体状態によっても決定できる。よって、本形態による判定方法は、パーソナリティ属性の決定(S1)の後に、判定対象者のパーソナリティ属性に応じて香りを選定することを含むことができる。一回の判定において判定対象者が嗅ぐ香りは1つであってもよいし複数であってもよい。
【0017】
香りの選定は、本形態による判定方法に先立つ準備作業により予め取得しておいた、パーソナリティ属性と、香りと、香りに対する知覚結果との相関関係に基づいて行うことができる。これにより、判定対象者のパーソナリティ属性に応じて、また判定したい心理状態及び/又は生体状態の項目に応じて、香りを選定することができる。よって、本形態の判定方法においては、判定対象者が多数の香りを嗅いで順位付け等する必要なく、効率的にまた簡易に、判定対象者の所定の心理状態及び/又は生体状態を判定できる。
【0018】
本形態で用いられる香りは、多面的に知覚されるもの、すなわち香りを嗅いだ時に感じられる知覚が単調になり難いものが好ましい。よって、被験者のほとんどが同様に知覚するもの若しくは知覚を表現するもの、例えば香りを嗅いだ時に、90%以上の被験者が所定の同じ食物の匂いであると答えるような香りは避けることが好ましい。
【0019】
用いられる香りは、所定の1つ化合物であってもよいし、公知の又は調製された調製香料であってもよい。また、判定対象者に嗅がせる時の香りの濃度は、香りサンプルの種類に応じて適宜調整することができる。判定対象者に嗅がせるための方法も、統一されているのであれば特に限定されず、香りを付着させた物体若しくは香りを収容した容器を判定対象者自身が手にとって嗅いでもよいし、所定の濃度の香りが判定対象者の鼻に到達するように部屋内に香りを散布するようにしてもよい。
【0020】
香りを嗅いだ判定対象者は、その香りに対する知覚をアンケート形式で答え、判定者はその回答から対象者の知覚結果を取得できる。知覚は、例えば、「好み(好き嫌い)」、「強さ(強弱)」、「軽さ・重さ」、及び「甘さ」の1以上の項目について回答してもらうことができる。このような項目については、3~5段階の評価で回答してもらってもよいし、視覚的アナログスケールで回答してもらってもよい。また、被験者には、嗅いだ香りによってイメージできる色を答えてもらうこともできる。例えば明度、彩度、及び色相(マンセル表色系等による)の1つ以上、好ましくは明度を複数段階から選択して、回答してもらってもよい。香りの印象の、色としての回答は、カラーチャートにおいて当てはまるものを指し示してもらうことによって行ってもよい。
【0021】
さらに、判定対象者には、香りの香調を回答してもらうこともできる。香調は、例えばシトラス、フルーティ、ハーブ/グリーン、フローラル、ウッディーといった言葉で表現される香りのタイプである。判定対象者には4~18種のタイプから選択してもらうことができる。なお、香りの知覚結果の回答として、香調を利用する場合、判定対象者の居住地、人種、性別、年齢等を考慮してもよい。また、香りを形容するイメージを、2軸の基準を利用して4象限マトリクス若しくは9象限マトリクスにより平面上に表してもよい。例えば、2軸の一方を「ライト-リッチ」のスケール、他方を「クール-スイート」のスケールとして、判定対象者に平面上での位置を選んでもらってもよい。或いは、4象限マトリクス若しくは9象限マトリクスにそれぞれ当てはまる形容表現を予め示しておき、その中から選んでもらうこともできる。さらには、自由回答で、香りに対する印象を答えてもらってもよい。
【0022】
<感情状態及び/又は生体状態の判定(S3)>
上述のようにして得られた判定対象者の知覚に関する回答は、回答結果をスコア付けする等して数値化することができる。そのような数値化された知覚結果に照らして、判定対象者の状態を判定することができる。判定には、本形態による判定方法に先立って予め取得しておいた、所定の香りに対する知覚結果と所定の感情状態及び/又は生体状態との相関関係を利用して行うことができる。
【0023】
本形態によれば、判定対象者の感情状態を判定することができる。感情状態は、判定対象者の判定の際の心理的状態若しくは心の状態とも言える。判定される感情状態は、多面的感情状態尺度(寺崎正治ら、The Japanese Journal of Psychology、1992、Vol.62、No6、p350-356)による活動的快、非活動的快、親和、集中、驚愕、抑鬱・不安、倦怠、及び敵意の8つの尺度の1つ以上の状態であってよい。また、上記の8つの尺度が具体化された感情であってもよい。
【0024】
また、本形態によれば、判定対象者の生体状態を判定することができる。本明細書において生体状態とは、上述の感情状態に対して身体の生理的な状態を指す。生体状態は、体調、或いは身体の特定部位の状態であってよい。体調は、判定対象者の総合的な体調であってもよいし、食欲、冷え、血行等の具体的な体調であってもよい。また、身体の特定部位の状態は、肌状態、特に顔の肌状態であってよいし、肌以外の特定部位の状態、例えば髪の状態、爪の状態、目の状態等であってもよい。さらに、肌状態は、肌の「やわらかさ」、「ハリ」、「きめ細かさ」、「透明感」、「かさつき」、「脂っぽさ」、「毛穴の目立ち」、「目周りのくま」、「唇のあれ」等の肌の具体的な状態であってよい。
【0025】
このように、本形態では、判定対象者が香りに対する知覚を答えることによって、感情状態及び/又は生体状態を判定することができる。よって、店頭等で、顧客に香りを嗅いでもらい、その香りに対する印象を回答してもらうことで、判定結果として得られる感情状態、又は体調・肌状態をカウンセリング等に役立てることができる。
【0026】
[判定方法のための準備]
本形態による判定方法においては、当該判定方法に先立って、所定のパーソナリティ属性の被験者について、香りと、感情状態及び/又は生体状態との相関関係を取得しておき、この相関関係を利用することができる。これにより、判定対象者のパーソナリティ属性に応じて香りの種類を選定することができ、効率的な判定を行うことが可能となる。
【0027】
判定方法に先立って行う判定方法のための準備は、複数の被験者からデータを取得することを含む。より具体的には、複数の被験者のパーソナリティを分類し(ps1)、各被験者が複数種の香りを嗅いで、香りに対する知覚結果を得て(ps2)、各被験者に対して心理状態及び/又は生体状態を、複数の項目について測定し(ps3)、被験者のパーソナリティ属性ごとに且つ香りごとに、香りの知覚結果と、被験者の心理状態及び/又は生体状態との相関を求める(ps4)ことを含んでいてよい。
図2に、準備工程のフロー図を示す。
【0028】
<パーソナリティの分類(ps1)>
パーソナリティの分類は、判定方法における<パーソナリティ属性の決定(S1)>にて上述した所定のパーソナリティ分類に従って行うことができる。例えば、パーソナリティ分類として、ビックファイブに基づく分類を利用するのであれば、ビッグファイブの5因子のそれぞれに対して1つ以上の質問を設定して、被験者自身に当てはまるかどうかについて回答してもらうことができる。ここで、回答の方法は限定されず、3~5段階で答えてもらってもよいし、アナログスケール(無段階のスケール)で回答してもらってもよいし、自由回答を利用してもよい。
【0029】
そして、得られたデータを利用して、クラスター分析を行うことができる。クラスター分析としては、平方ユークリッド距離を用いた、ウォード法(最小分散法)による階層的クラスター分析を用いることが好ましい。上述のように、パーソナリティ属性の数は2~6、好ましくは3~5であってよい。
【0030】
<嗅香、及び知覚結果取得(ps2)>
続いて、各被験者に香りを嗅がせ、その香りに対する知覚結果を取得する。被験者に嗅がせる所定の香り、香りの嗅がせ方、及び香りに対する知覚結果の取得の仕方等については、上述の<嗅香、及び知覚結果取得(S2)>にて説明した方法と同様の方法で行うことができる。
【0031】
<心理状態及び/又は生体状態の測定(ps3)>
測定される心理状態及び/又は生体状態の内容は、判定方法における上述の<心理状態及び/又は生体状態の判定(S3)>で判定される心理状態及び/又は生体状態と同様である。
【0032】
心理状態の測定は、各被験者に対し、アンケート形式で回答してもらうことによって行うことができる。例えば、上述の多面的感情状態尺度を利用した場合に、8つの尺度にそれぞれ対応する項目に対し、自身の状態が当てはまるかどうかで回答してもらうことができる。その場合、3~5段階で点数付けをして、尺度毎に合計値を算出しておくことができる。
【0033】
また、生体状態についても、各被験者に対し、アンケート形式で回答してもらうことによって行うことができる。3~5段階で点数付けをすることができる。なお、生体状態、特に肌状態は、公知の機器によって測定することもできる。
【0034】
上述の心理状態の測定及び生体状態の測定、すなわちアンケート形式での質問・回答は、上記嗅香の前に行ってもよいし、後に行ってもよい。但し、特に心理状態の測定は、嗅香の前であると、香りの、被験者の状態への影響を抑えることができるので、好ましい。
【0035】
<香り知覚結果と心理状態及び/又は生体状態との相関(ps4)>
上述の<嗅香、及び知覚結果取得(ps2)>で得られた結果と、<心理状態及び/又は生体状態の測定(ps3)>で得られた結果との相関を、パーソナリティ属性ごとに調べる。相関は、例えば、ピアソンの積率相関係数として表すことができる。これにより、所定のパーソナリティ属性に対して、どの種類の香りと、心理状態及び/又は生体状態のどの項目とが特に相関が高いかを知ることができる。相関関係をデータベースとして保存しておくことで、判定の際に、判定対象者のパーソナリティ属性に応じて香りを絞り込むことができるので、判定対象者の負担を軽減して簡便に、またより的確に判定を行うことができる。
【実施例0036】
以下の試験では、20~59歳の被験者49人に、所定の香りを嗅いでもらい、香りに対する各人の知覚の結果を記録した。一方で、各被験者の心及び身体の状態を、被験者に対するアンケートによって調べた。そして、香りに対する知覚の結果と、心及び身体の状態との間での相関を求めた。また、被験者をパーソナリティにより群分けした。
【0037】
<パーソナリティ属性の決定>
ビッグファイブの分類、すなわち、「開放性」、「誠実性」、「外向性」、「協調性」、及び「神経症傾向」の5つの分類に基づき、被験者をパーソナリティにより群分けした。より具体的には、上記5つの分類に対応する以下の設問を設定し、被験者に、自分の性質について、「違うと思う(1)」、「どちらでもない(2)」、及び「そう思う(3)」の3段階から回答してもらった。
・外向性「人との交流が好きで、外向的である」
・協調性「人を思いやる気持ちを持ち、対立を避けようとする」
・勤勉性「秩序を好み、自分を律することができる」
・神経症傾向「緊張をしやすく、心配性でストレスをためやすい」
・開放性「新しいものへの関心が高く、豊かな想像力を持っている」
回答を集計し、クラスター分析(階層的クラスター分析、ウォード法(最小分散法))により分析したことで、被験者はP1~P4の4つのタイプ(属性)のいずれかに分類された。
・P1:外向性が低く、神経症傾向が高い
・P2:外向性が高く、勤勉性が低い
・P3:外向性、勤勉性が高く、神経症傾向が低い
・P4:外向性が低く、開放性が低い
【0038】
表1に、パーソナリティ属性P1~P4に分類された被験者の回答例を示す。
【0039】
【0040】
<心理状態の測定>
被験者の心理状態の測定には、多面的感情状態尺度(寺崎正治ら、The Japanese Journal of Psychology、1992、Vol.62、No6、p350-356)を利用した。活動的快、非活動的快、親和、集中、驚愕、抑鬱・不安、倦怠、及び敵意の8つの尺度にそれぞれ対応する項目のうち5項目を選定された合計40項目(多面的感情状態尺度短縮版)に対し、各被験者に回答してもらった。回答は、各項目について「感じている」(3点)、「少し感じている」(2点)、「あまり感じていない」(1点)、及び「全く感じていない」(0点)の4つから選んでもらった。回答結果は上位カッコ内の数値で数値化し、尺度毎に合計値を算出した。なお、本試験例では、心理状態の測定は、香りを嗅いでもらう前に行った。
【0041】
<体調・肌状態の測定>
生体状態として体調及び肌状態を測った。被験者に以下のような設問に対して回答してもらった。
・体調…「とても良い」、「良い」、「どちらでもない」、「良くない」、及び「とても悪い」の5つから選択
・肌の総合的状態…「とても良い」、「良い」、「どちらでもない」、「良くない」、及び「とても悪い」の5つから1つ選択
・肌の具体的状態…「かさつき」、「脂っぽさ」、「毛穴の目立ち」、「目周りのくま」、「唇のあれ」、「きめ細かさ」、「透明感」、「やわらかさ」、及び「ハリ」のそれぞれについて、「全く感じていない」、「あまり感じていない」、「どちらでもない」、「少し感じている」、及び「はっきり感じている」の5つから1つ選択
なお、本試験例では、体調・肌状態の想定は、香りを嗅いでもらった後に行った。
【0042】
<嗅香及び知覚結果の取得>
3種類の香りサンプルをそれぞれ、各被験者に嗅いでもらった。
・香りA:リナロール(CAS番号78-70-6)
・香りB:α-ダマスコン(CAS番号43052-87-5)
・香りC:メチルジヒドロジャスモネート(CAS番号24851-98-7)
被験者には、香りA~Cのそれぞれに対し、「好み」、「強さ」、「軽さ・重さ」、「甘さ」、及び「色の明度」の5つの知覚項目について回答してもらった。回答の形式はそれぞれ以下の通りとした。
・「好み」…「非常に好き」、「好き」、「どちらともいえない」、「好きではない」、及び「全く好きではない」の5つから1つを選択
・「強さ」…「非常に弱い」、「弱い」、「ちょうどよい」、「強い」、及び「非常に強い」の5つから1つを選択
・「軽さ・重さ」…「軽い」及び「重い」が両端にそれぞれ示された視覚的アナログスケールで回答
・「甘さ」…「甘さを全く感じていない」及び「甘さをはっきり感じている」が両端にそれぞれ示された視覚的アナログスケールで回答
・「色の明度」…マンセル表色系による明度約1.0~9.5の色見本(5段階)から1つを選択
上記の被験者の知覚結果を知覚項目ごとに数値化した。
【0043】
<相関>
上記知覚結果と、上記心理状態の測定結果との相関係数を求めた。結果を表2に示す。また、上記知覚結果と、上記体調・肌状態の測定結果との相関係数を求めた。結果を表3に示す。表2及び表3中のアスタリスク「*」、「**」、及び「***」はそれぞれ、無相関検定の結果、5%、1%、及び0.1%の有意水準において有意であったことを示す。また、表2及び表3には、相関係数の絶対値が0.40以上であり且つ「*」、「**」又は「***」であった項目をピックアップして示した。そのうち、相関係数の絶対値が0.50以上を太字で表示した。
【0044】
【0045】
【0046】
表2より、所定のパーソナリティ属性を有する被験者について、所定の心理状態項目(感情状態尺度)と、所定の香りに対する被験者の知覚結果との間に相関があることが分かった。同様に表3より、所定のパーソナリティ属性を有する被験者について、所定の体調・肌状態と、所定の香りに対する被験者の知覚結果との間に相関があることが分かった。よって、相関についてのデータを事前に取得しておくことで、所定のパーソナリティ属性を有する被験者に対し、所定の香りを適用して、香りに対する知覚結果を取得することで、所定の心理状態及び/又は所定の体調・肌状態を推定することが可能となる。
【0047】
なお、発明者らは、被験者のパーソナリティ属性を決定することなく、対象者に所定の香りを嗅がせて、その知覚結果と、対象者の感情状態及び/又は生体状態との関連性を検討した。しかしながら、被験者のパーソナリティ属性を決定した上で、特定のパーソナリティ属性を有する被験者について見出された関連性ほどには、顕著な関連性が見いだされなかった。
【0048】
以上、本発明を具体的な実施形態に基づいて説明したが、これらの実施形態は例として提示したものにすぎず、本発明は上記実施形態によって限定されるものではない。本発明の開示の範囲内において、様々な変更、修正、置換、削除、付加、及び組合せ等が可能である。