(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097188
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】砥石保持装置および研削装置
(51)【国際特許分類】
B24B 41/04 20060101AFI20230630BHJP
B24B 47/20 20060101ALI20230630BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20230630BHJP
B24B 49/16 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
B24B41/04
B24B47/20
B24B49/10
B24B49/16
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213401
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】596066024
【氏名又は名称】西部自動機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】越智 研二
【テーマコード(参考)】
3C034
【Fターム(参考)】
3C034AA20
3C034BB25
3C034BB32
(57)【要約】
【課題】ワーク研削でのサイクルタイムを一定化かつ研削の質の均一化が達成できる砥石保持装置を提供する。
【解決手段】砥石保持装置1は砥石当接装置6、砥石回転装置9、移動体8、エアシリンダ7、制御装置を備える。砥石当接装置は移送モータ24、ボールネジを備え、そのナット25にストッパー29が一体化されている。砥石回転装置は砥石ホルダ42を備える。移動体は、ネジ軸方向に往復道可能で、ストッパーの砥石ホルダとは逆側の面に対向する面を有する被押圧部36を備える。エアシリンダはロッド34が被押圧部を砥石ホルダ側に押圧するが伸張はストッパーで制限される。制御装置は、ナットを後退位置から砥石ホルダ側に第1速度で、次により遅い第2速度で移動させこの間被押圧部とストッパーとの通電有無を検出し、通電遮断時のナット位置に基づき次のワーク研削時のナットの後退位置を決定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部、砥石当接装置、砥石回転装置、移動体、エアシリンダおよび制御装置を備え、
前記基部は、前記砥石当接装置、前記エアシリンダおよび前記砥石回転装置を保持し、
前記砥石当接装置は、前記基部に一体化された移送モータおよびこれに駆動されるボールネジを備え、
前記ボールネジのナットには、前記ボールネジのネジ軸に直交する方向に突出するストッパーが一体化され、
前記砥石回転装置は、砥石回転モータ、および砥石を保持可能な砥石ホルダを前記ネジ軸と平行な軸回りに回転させるために前記砥石回転モータに連結する伝達装置を備え、
前記移動体は、前記砥石回転装置を支持し前記基部に対して前記ネジ軸の方向に往復道可能であって、前記ストッパーにおける前記砥石ホルダが位置する側の反対側を向く面に対向する面を有する被押圧部を備え、
前記エアシリンダは、そのシリンダが前記基部に固定されてそのロッドが前記被押圧部を前記砥石ホルダ側に押圧可能に配され、
前記被押圧部と前記ストッパーとの間に電圧が印加されこれらが接しているときはこれらの間に通電可能に構成されており、
ワーク研削時において前記制御装置は、
前記ロッドの伸張を、前記被押圧部を介在させて前記ストッパーにより制限しながら、前記砥石当接装置により前記ナットをその待避位置から前記砥石ホルダ側に第1の速度で移動させた後に前記第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させ、
この間、前記被押圧部と前記ストッパーとの間の通電の有無を検出し、
前記通電が遮断されたときの前記ナットの位置をワーク当接位置として記憶し、
次のワークの研削に備えて前記ナットを後退させる待避位置を、記憶した前記ワーク当接位置に基づいて決定する、
ことを特徴とする砥石保持装置。
【請求項2】
基部、砥石当接装置、砥石回転装置、移動体、エアシリンダおよび制御装置を備え、
前記基部は、前記砥石当接装置、前記エアシリンダおよび前記砥石回転装置を保持し、
前記砥石当接装置は、前記基部に一体化された移送モータおよびこれに駆動されるボールネジを備え、
前記ボールネジのナットには、前記ボールネジのネジ軸に直交する方向に突出するストッパーが一体化され、
前記砥石回転装置は、砥石回転モータ、および砥石を保持可能な砥石ホルダを前記ネジ軸と平行な軸回りに回転させるために前記砥石回転モータに連結する伝達装置を備え、
前記砥石回転モータは、回転時の負荷電流値が計測可能に構成され、
前記移動体は、前記砥石回転装置を支持し前記基部に対して前記ネジ軸の方向に往復道可能であって、前記ストッパーにおける前記砥石ホルダが位置する側の反対側を向く面に対向する面を有する被押圧部を備え、
前記エアシリンダは、そのシリンダが前記基部に固定されてそのロッドが前記被押圧部を前記砥石ホルダ側に押圧可能に配され、
ワーク研削時において前記制御装置は、
前記ロッドの伸張を、前記被押圧部を介在させて前記ストッパーにより制限しながら前記砥石当接装置により前記ナットをその待避位置から前記砥石ホルダ側に第1の速度で移動させた後に前記第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させ、
この間、前記砥石回転モータの前記負荷電流値を検出し、
前記負荷電流値が設定値以上になったときの前記ナットの位置をワーク当接位置として記憶し、
次のワークの研削に備えて前記ナットを後退させる待避位置を、記憶した前記ワーク当接位置に基づいて決定する、
ことを特徴とする砥石保持装置。
【請求項3】
基部、砥石当接装置、砥石回転装置、移動体、エアシリンダおよび制御装置を備え、
前記基部は、前記砥石当接装置、前記エアシリンダおよび前記砥石回転装置を保持し、
前記砥石当接装置は、前記基部に一体化された移送モータおよびこれに駆動されるボールネジを備え、
前記ボールネジのナットには、前記ボールネジのネジ軸に直交する方向に突出するストッパーが一体化され、
前記砥石回転装置は、砥石回転モータ、および砥石を保持可能な砥石ホルダを前記ネジ軸と平行な軸回りに回転させるために前記砥石回転モータに連結する伝達装置を備え、
前記砥石回転モータは、回転時の負荷電流値が計測可能に構成され、
前記移動体は、前記砥石回転装置を支持し前記基部に対して前記ネジ軸の方向に往復道可能であって、前記ストッパーにおける前記砥石ホルダが位置する側の反対側を向く面に対向する面を有する被押圧部を備え、
前記エアシリンダは、そのシリンダが前記基部に固定されてそのロッドが前記被押圧部を前記砥石ホルダ側に押圧可能に配され、
前記被押圧部と前記ストッパーとの間に電圧が印加されこれらが接しているときはこれらの間に通電可能に構成されており、
ワーク研削時において前記制御装置は、
前記ロッドの伸張を、前記被押圧部を介在させて前記ストッパーにより制限しながら前記砥石当接装置により前記ナットをその待避位置から前記砥石ホルダ側に第1の速度で移動させた後に前記第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させ、
この間、前記被押圧部と前記ストッパーとの間の通電の有無を検出し、および前記砥石回転モータの前記負荷電流値を検出し、
前記通電が遮断されたときまたは前記負荷電流値が設定値以上になったとき、前記ナットの位置をワーク当接位置として記憶し、
次のワークの研削に備えて前記ナットを後退させる待避位置を、記憶した前記ワーク当接位置に基づいて決定する、
ことを特徴とする砥石保持装置。
【請求項4】
前記ストッパーは電源の一方の極に連続して前記ナットとの間が電気的に絶縁されており、
前記被押圧部は前記一方の極側と電気的に絶縁されており、
前記被押圧部に流れた電流は前記移動体を経由してアース可能に形成された
請求項1または請求項3に記載の砥石保持装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の砥石保持装置と、
ワークを保持しこれを回転させるワーク保持装置と、を有する
ことを特徴とする研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石を押圧させて被研削物を研削する際の砥石を保持する砥石保持装置および研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外周が断面円形の被研削物の表面の研削は、回転する被研削物の研削対象面に砥石を押圧することにより行われる。表面が研削される被研削物は、精密機器、各種機械等の部品として使用されることが多く、研削の精度とともに個々の研削の均質性が求められる。また、被研削物が量産品の場合には、コストの面からサイクルタイムの短縮化が求められる。
【0003】
被研削物表面の研削に対するこれらの要求に対し、例えばフェルールの端面の研削加工においては、砥石を被研削物に押圧させる際のその被研削物に向けての移動を速度制御機構に行わせ、砥石が被研削物に到達した後の砥石の押圧を定圧切込機構に行わせる端面研削装置が本件出願人により提案されている(特許文献1)。
特許文献1で提案された端面研削装置は、速度制御機構がボールネジで構成され、定圧切込機構が空圧シリンダで構成される。速度制御機構は、被研削物への砥石の押圧を行う空圧シリンダにおけるロッドの自由な伸張をスライダ(ボールネジのナットへの一体化物)で抑制しながら砥石(砥石ヘッド)を被研削物に向けて移動させ、砥石が被研削物に到達した後も暫くナットの移動を継続させる。
【0004】
定圧切込機構の空圧シリンダは、砥石が被研削物に到達した以降には速度制御機構によるロッドの伸張の抑制が解除されてシリンダ内の空気圧で砥石を被研削物に押圧させる。
この端面研削装置は、距離センサを用いて砥石ヘッドとスライダとの間の距離、つまり砥石が被研削物に当接しその移動が制限された後のナットの移動距離を検出する。そして、砥石ヘッドとスライダとの間の距離が設定された値になったときのナットの位置を記憶し、次の被研削物を研削する際のナットの動作にこの記憶された位置を参照する。
【0005】
このことにより、特許文献1で提案された端面研削装置は、砥石に摩耗が生じても新たな被研削物に対して極めて近傍まで砥石を早送りすることができ、研削に寄与しない時間を短縮化できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1における端面研削装置では、砥石が被研削物に到達する前には速度制御機構におけるボールネジのナットと定圧切込機構における空圧シリンダのロッドとは一体に移動し、距離センサが示すべき距離は本来零である。しかし、距離センサは、このとき検出対象部分に若干の隙間が形成されるように、その取り付け位置が調整される(段落0024)。
【0008】
これは隙間が無いまたは一定の隙間より小さな場合に、距離センサは正確に距離を検出することができないことに依る。
このことから、この端面研削装置における制御装置は、形成された初期の隙間距離に対し、検出誤差および装置の振動等による振れ以上の大きさの距離を距離センサが検出したとき、砥石が被研削物に到達したと判断する。したがって、制御装置は、距離センサが設定された値以上の距離を検出したとき砥石が被研削物に到達したと判断し、このときのナットの位置を記憶する。しかし、この記憶されたナットの位置が、実際に砥石が被研削物に到達した正確な位置か否かが明確ではない。
【0009】
また、特許文献1における端面研削装置は、設置された環境の温度変化より検出対象部分の膨張、収縮により前述の「若干の隙間」の値が変化するので、制御装置が判断する砥石の被研削物への到達時の(ボールネジにおける)ナットの位置も不安定であった。
特許文献1に提案された端面研削装置は、直前の(=一つ前の)このナットの位置を記憶して次の被研削物に対する砥石(ナット)の動作を制御し、被研削物に対して常に同じ距離、同じ所要時間で砥石を移動させ、サイクルタイムを一定化させることを課題とする。しかし、砥石の被研削物への到達時の(ボールネジにおける)ナットの位置、つまり砥石が被研削物に当たる位置の把握が不安定なことにより、サイクルタイムおよび研削時間(研削の質)にバラツキを生じさせるという問題が生じた。
【0010】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、砥石が被研削物に到達したときを正確に把握し、サイクルタイムを一定化させかつ研削の質の均一化が達成できる砥石保持装置および研削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る砥石保持装置は、複数の被研削物を一つずつ取り替えて行う研削処理に用いられる。
砥石保持装置は、基部、砥石当接装置、砥石回転装置、移動体、エアシリンダおよび制御装置を備える。基部は、砥石当接装置、エアシリンダおよび砥石回転装置を保持する。砥石当接装置は、基部に一体化された移送モータおよびこれに駆動されるボールネジを備える。ボールネジのナットには、ボールネジのネジ軸に直交する方向に突出するストッパーが一体化されている。
【0012】
砥石回転装置は、砥石回転モータ、および砥石を保持可能な砥石ホルダをネジ軸と平行な軸回りに回転させるために砥石回転モータに連結する伝達装置を備える。移動体は、砥石回転装置を支持し基部に対してネジ軸の方向に往復道可能であって、ストッパーにおける砥石ホルダが位置する側の反対側を向く面に対向する面を有する被押圧部を備える。エアシリンダは、そのシリンダが基部に固定されてそのロッドが被押圧部を砥石ホルダ側に押圧可能に配されている。
【0013】
被押圧部とストッパーとの間には電圧が印加されこれらが接しているときはこれらの間に通電可能に構成されている。
砥石保持装置の制御装置は、ワーク研削時において、ロッドの伸張を、被押圧部を介在させてストッパーにより制限しながら砥石当接装置によりナットをその待避位置から砥石ホルダ側に第1の速度で移動させた後に第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させ、この間、被押圧部とストッパーとの間の通電の有無を検出し、通電が遮断されたときのナットの位置をワーク当接位置として記憶し、次のワークの研削に備えてナットを後退させる待避位置を、記憶したワーク当接位置に基づいて決定する。
【0014】
本発明に係る他の砥石保持装置は、被押圧部とストッパーとの間に電圧を印加する構成に代えて、砥石回転モータの回転時の負荷電流値が計測可能に構成されている。
制御装置は、ワーク研削時において砥石回転モータの負荷電流値を検出し、負荷電流値が設定値以上になったときのナットの位置をワーク当接位置として記憶し、次のワークの研削に備えてナットを後退させる待避位置を、記憶したワーク当接位置に基づいて決定する
本発明に係る他の砥石保持装置は、被押圧部とストッパーとの間に電圧が印加されこれらが接しているときはこれらの間に通電可能に構成され、且つ砥石回転モータの回転時の負荷電流値が計測可能に構成されている。
【0015】
制御装置は、ワーク研削時において、被押圧部とストッパーとの間の通電の有無を検出し、および砥石回転モータの負荷電流値を検出する。そして、通電が遮断されたときまたは負荷電流値が設定値以上になったとき、ナットの位置をワーク当接位置として記憶し、次のワークの研削に備えてナットを後退させる待避位置を、記憶したワーク当接位置に基づいて決定する。
【0016】
前記ストッパーは電源の一方の電極に連続してナットとの間が電気的に絶縁されている。前記被押圧部は一方の電極側と電気的に絶縁されている。砥石保持装置は、被押圧部に流れた電流が移動体を経由してアース可能に形成されている。
本発明に係る研削装置は、前述した砥石保持装置と、ワークを保持しこれを回転させるワーク保持装置と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、砥石が被研削物に到達したときを正確に把握し、サイクルタイムを一定化させかつ研削の質の均一化が達成できる砥石保持装置および研削装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】
図2は砥石保持装置の側面部分断面図である。
【
図3】
図3は制御装置が制御する砥石ヘッドの動作フローチャート図である。
【
図4】
図4はワークを研削するときの砥石ヘッドの動作を示す図である。
【
図5】
図5は研削処理における砥石の移動時間と接点間の通電量および砥石移動距離との関係を示す図である。
【
図6】
図6は砥石回転モータの負荷電流値を指標とする砥石ヘッドの動作フローチャート図である。
【
図7】
図7は研削処理における砥石の移動時間と砥石回転モータ負荷電流値および砥石移動距離との関係を示す図である。
【
図8】
図8は通電有無検出法とモータ負荷検出法とを組み合わせたときの砥石ヘッドの動作フローチャート図である。
【
図9】
図9は接点近傍の絶縁構造を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は砥石保持装置1の平面図、
図2は砥石保持装置1の側面部分断面図である。
砥石保持装置1は、基台11、回動台12、横移動支持台13、砥石ヘッド2および制御装置を備える。
基台11は、全体として厚みのある板材で形成され、その上に回動台12、横移動支持台13および砥石ヘッド2がこの順に設けられている。基台11は、平面視において2つの直角の頂角が並び、他に4つの鈍角の頂角が並ぶ特殊な形状の六角形である。基台11は、4つ並ぶ鈍角の内方の一つの頂角近傍に厚み方向を軸心とする回動軸14を備える。
【0020】
回動台12は、全体として厚みのある板材で形成され、平面視において鈍角三角形の底辺に略矩形の一辺が連続する略五角形の形状である。回動台12は、三角形の頂角近傍が回動軸14回りに回動可能に基台11に一体化されている。回動台12の回動は角度調整ノブ15により行われる。基台11に対する回動台12の回動は、回動台12の上面に設けられた、回動軸14を中心とする平面視が円弧状のクランプ溝16,16と複数のクランプボルト17,…,17とにより制限される。
【0021】
横移動支持台13は、回動台12の上面に固定され、上面にアリガタ21を有する。アリガタ21は、後に説明するボールネジ22のネジ軸23に直交する方向に延びている。
砥石ヘッド2は、基部5、砥石当接装置6、砥石押圧装置7、移動体8および砥石回転装置9等からなる。
基部5は、砥石当接装置6、砥石押圧装置7および砥石回転装置9等を保持する骨格(フレーム、ベース)である。基部5はその下方にアリミゾ26が設けられている。アリミゾ26は横移動支持台13のアリガタ21に噛み合わされており、基部5はアリガタ21が延びた方向に往復移動可能である。基部5の往復移動はクランプボルト27,27により制限される。
【0022】
砥石当接装置6は、研削開始時には砥石ヘッド2が備える砥石61を被研削物の研削対象面まで移動させてこれに当接させ、研削終了後は砥石61を待避位置まで後退させる装置である。砥石当接装置6は、ボールネジ22および移送モータ24を備える。ボールネジ22はそのネジ軸23の一端が移送モータ24に連結されている。 移送モータ24は、砥石保持装置1において回動軸14とは平面視(
図1)で反対側の端に、駆動軸を回動軸14側に向けて基部5に固定される。したがって、ネジ軸23は全体として回動軸14側に延びている。移送モータ24は、サーボモータであり、図示しない制御装置によりその回転が制御される。
【0023】
ボールネジ22のナット25には、ネジ軸23に略直交して上方に突出する厚板状のス
トッパーブロック29が一体化されている。ストッパーブロック29の上端には案内棒30が取り付けられている。案内棒30は丸棒であり、一端がストッパーブロック29に固定され、ネジ軸23に平行に移送モータ24側に延びている。
ストッパーブロック29における案内棒30取り付け位置の下方には、その頭部を移送モータ24側に突出させてストッパーボルト31が螺合されている。
【0024】
ストッパーブロック29は、ストッパーボルト31とナット25との間に不導体で形成された絶縁シート32を備える。絶縁シート32により、ストッパーブロック29におけるストッパーボルト31よりも上側とナット25に連続する下側とが、電気的に絶縁されている。
砥石押圧装置7は、研削時に砥石61を被研削物に押圧する働きをする。砥石押圧装置7にはエアシリンダが採用される。エアシリンダはその往復動方向(ロッド34が延びた方向)がボールネジ22のネジ軸23に平行になるようにそのシリンダ35が基部5に固定される。エアシリンダは、回動軸14側に突出するロッド34の延長がストッパーボルト31の頭部に当たる位置に配される。
【0025】
移動体8は、砥石回転装置9を支持するフレームである。移動体8は図示しないリニアガイドにより基部5に連結されており、基部5に対してそのアリミゾ26の延びた方向に直交する方向に、被研削物の研削においては被研削物に対して往復移動可能である。
移動体8は、砥石押圧装置7におけるロッド34の押圧力を砥石61に伝えるための被押圧部36を備える。被押圧部36は、回動軸14側に突出するロッド34の先端とストッパーボルト31の頭部との間に位置する。移動体8は、(ボールネジ22の)ナット25に一体化された案内棒30を貫通させる案内孔37を備える。
【0026】
案内孔37の内径は案内棒30の外径よりも大きく、これらの間隙には不導体で形成されたスリーブ部材38が配される。スリーブ部材38は円筒の一方の開口にフランジ形状の部分を有する。スリーブ部材38は、他方の開口から案内孔37に差し入れられ、その内側を案内棒30が貫通する。スリーブ部材38は、自己潤滑性および電気絶縁性を備えた材料、例えばFEP,PTFE等のフッ素樹脂で形成される。
【0027】
案内棒30と案内孔37との組み合わせは、ストッパーブロック29を一体化するナット25の移動体8に対する移動を円滑に行わせる。
移動体8における被押圧部36は、砥石押圧装置7のロッド34の伸張に伴って移動する。
砥石回転装置9は、研削に用いる砥石61の回転に関わる装置である。砥石回転装置9は、砥石回転モータ39、精密軸受40、伝達装置41および砥石ホルダ42等からなる。
【0028】
砥石回転モータ39は、その駆動軸をロッド34と平行に且つ回動軸14側に位置するようにして、移動体8の上部に取り付けられている。
精密軸受40は、砥石ホルダ42をその一端に一体化する回転軸を支持し、砥石ホルダ42が保持する砥石61の回転ぶれを防止するため軸方向に長くなっている。精密軸受40は、支持する回転軸が砥石押圧装置7のロッド34の軸心の延長となるように配されて、移動体8の内部に一体化されている。移動体8は砥石61を回転可能に保持し、砥石61と一体となって基部5に対して往復動する。
【0029】
伝達装置41は2つのプーリ43,44およびタイミングベルト45で構成される。一方のプーリ43は砥石回転モータ39の駆動軸に、他方のプーリ44は精密軸受40から突出した回転軸に固定され、2つのプーリ43,44はタイミングベルト45により連結されている。砥石回転モータ39にはサーボモータが採用される。
砥石回転装置9は移動体8とともに往復移動する。
【0030】
上述のように構成された砥石保持装置1は、砥石当接装置6のストッパーブロック29(ストッパーボルト31)が砥石押圧装置7のロッド34の伸張を制限する。また、砥石回転モータ39としてサーボモータが使用されることによりナット25の移動を任意に制御でき、制御装置が移動体8の被研削物に向けての砥石の移動および移動速度を適切に行うことができる。
【0031】
砥石回転装置9は、ワーク保持装置65等とともに研削装置を構成する。
砥石保持装置1は、ストッパーボルト31と被押圧部36との間に電圧が印加されており、これらが接するとき、これらの間を数mAの電流が流れるように構成されている。制御装置は、研削処理を行うときに、ストッパーボルト31と被押圧部36との通電の有無を検出する。ストッパーボルト31(の頭部)と被押圧部36とを併せて「接点」という。
【0032】
次に、砥石保持装置1を用いた被研削物(以下「ワークW」という)の端面の研削処理について説明する。なお、研削時にはワークWはワーク保持装置65に保持されて回転し、その回転軸は砥石61の回転軸に平行または若干の角度で傾斜する。
図3は制御装置が制御する砥石ヘッド2の動作フローチャート図、
図4はワークWを研削するときの砥石ヘッド2の動作を示す図である。
【0033】
研削装置が休止する状態からの研削処理の開始を指示された制御装置は、砥石61が既に待避位置にあるか否かを確認し、待避位置に砥石61がなければ、砥石61が初期の設定待避位置(
図4(a))まで後退するよう移送モータ24を動作させ(ボールネジ22の)ナット25を後退させる。
続いて制御装置は、ワークWがワーク保持装置65に保持されたことを確認したら、移送モータ24を動作させて砥石61をワークWに向けて移動させる(S1)。砥石61の往復移動はボールネジ22(砥石当接装置6)のナット25の移動、後退により行われる。
【0034】
ここで、砥石61およびナット25等のワークWに向けての移動を「移動」といい、これとは逆方向の砥石61およびナット25等の移動を「後退」というものとする。
砥石61は、ワークWの直近まで高速移動し、その後はワークWに到達したときの衝撃による砥石61の損傷を防ぐために低速移動する。研削処理開始後初めてのワークWに対しては、全移動過程で砥石61を低速移動させる、または事前に設定された距離を高速移動させた後低速移動させる、等を行う。
【0035】
砥石61の移動時、砥石保持装置1において、移動体8はその被押圧部36が砥石押圧装置7のロッド34によりワークW側に押されるがストッパーブロック29によりその自由な移動が阻止される。
制御装置は、砥石61が低速移動する間、ストッパーボルト31と被押圧部36との通電の有無を監視する。砥石61がワークWの被研削面に到達すると(
図4(b))、砥石61の移動がワークWにより阻止され、移動体8はその移動を停止する。
【0036】
制御装置は、この後も移送モータ24に動作を継続させナット25はさらに移動し続ける。さらなるナット25の移動により、ストッパーボルト31は停止した移動体8の被押圧部36との接触が解除され、これらの間の通電が切断される。制御装置は、通電が途切れたことを検知し(S2でNO)、このときのナット25の位置を記憶する(S3)。
制御装置は、通電が途切れた後にナット25を所定距離D2移動させたらナット25の移動を停止し(S4、
図4(c))、ワークWの研削が終わるまでの処理時間の経過を待つ(S5でNO)。
【0037】
ワークWの研削が終了すると(S5でYES)、制御装置は砥石61を待避位置に後退させるために砥石当接装置6の移送モータ24を動作させる(S6)。
制御装置は、次の未研削のワークWがワーク保持装置65に保持されたことを確認したら(S7でYES)、初めに砥石61を待避位置からワークWに向けて高速移動させ(S8)、その後ワークWを低速移動させて砥石61をワークWの被研削面に当接させる(S9)。
【0038】
2つ目以降のワークWの研削についても、ナット25(砥石61)の待避位置からの高速移動および低速移動は、
図4(a)~(c)と同じ動作をする。また、そのときのナット25の待避距離、および高速移動距離は、毎回その1つ前のワークWの研削時に記憶されたナット25の位置(S3)に基づいて決定される。
一例を挙げれば、研削時に砥石61がワークWに到達した位置から次のワークWに交換するためのナット25の後退距離は10.5mmであり、後退位置を起点とする交換後の
ワークWに対するナット25の高速移動距離は10mmである。低速移動距離は0.5mmよりも長い距離である(
図4におけるD1≒10.5mm)。
【0039】
低速移動距離が「10.5-高速移動距離=0.5(mm)」より大きく設定されるのは、砥石61がワークWに当接した後もナット25を低速移動させ、ストッパーボルト31と被押圧部36との通電を遮断するためである。
後退距離は1つ前の研削時に通電が途絶えたときのナット25の位置(S3)が基準であり、数多くのワークWを研削するなかで砥石61の摩耗等でこの基準位置は徐々に変化する。
図3のS5における、砥石61がワークWに到達後さらにナット25が移動した後のナット25の移動距離(
図4におけるD2)を加算した位置(D1+D2)は、ナット25の後退位置等を求める基準ではない。
【0040】
砥石回転モータ39による研削のための砥石61の回転は、低速移動時(S)および研削時(S5でNO)に限って行っても、
図3に示される研削の全工程に渡って行っても良い。
図5はワークWの研削処理における砥石61の移動時間と接点間の通電量および砥石移動距離との関係を示す図である。
図5において(a)は接点間の通電検出の仕組みを示す図である。
【0041】
図5におけるナット25の移動条件は、高速移動距離が10mm、このときの所要時間が0.4秒、低速移動距離が0.5+αmm、このときの0.5mmを移動する所要時間が0.5秒である。
図5から解るように、砥石61がワークWに到達した後もナット25は単独で低速移動を続け、砥石61が移動を停止した瞬間に接点間の通電量は急激に零にまで低下する。これにより、砥石61がワークWに到達したときのナット25の位置を正確に検出することができる。また、砥石61がワークWに到達した時を正確に把握してこの時を起点に一定時間研削をするので、連続する被研削物の研削においても研削の質が一定化する。かつワークW到達時のナット25位置の正確な検出は、砥石の後退距離等を一定化させ、サイクルタイムも安定する。
【0042】
一方、距離センサを用いる検出法では、砥石がワークに到達した以降の距離の検出値はナットが低速移動するため急激には増加(変化)しない(例:
図5の一点鎖線J部参照)。また、距離センサは初めから検出対象部分に若干の隙間が形成されていることから、検出ノイズおよび砥石回転モータ等に起因する振動等による変動範囲を明確に超えた距離を検出して初めて砥石がワークに到達したと判断される。このため検出したナットの位置は、実際に砥石がワークに到達したときのナットの位置よりもワーク側にズレてしまう。また、実際の砥石のワーク到達持と検出を判断した時との差違の程度も都度変化し不安定であるため、修正により砥石がワークに到達した正確なナットの位置および時を知るのが困難である。
【0043】
砥石保持装置1は単純に接点の通電有無を判断するため、距離センサが検出する距離を判断する方法に比べて、正確にかつ安定に砥石61がワークWに到達したときのナット25の位置を検出することができる。
ワークWの例えば端面を研削するとき、ワークWの材質の硬さおよび砥石の砥粒の粗さ等の組み合わせから、砥石保持装置1を用いた研削においてナット25の低速移動速度と研削による侵食速度(ワークWの被研削面の後退速度)とが一致し、接点が常に通電状態になる場合がある。そのような場合には、
図3に示された接点の通電の有無を検出する方法では、砥石61がワークWに到達したときの判断はできない。但しこのような場合であっても、低速移動開始時から回転を続ける砥石回転モータ39は、砥石61がワークWに当接すると研削による負荷が加わり、負荷電流値が急増する。これを利用して、砥石61がワークWに到達したときのナット25の位置を検出することができる。
【0044】
図6は砥石回転モータ39の負荷電流値を指標として制御装置が制御する砥石ヘッド2の動作フローチャート図、
図7はワークWの研削処理における砥石61の移動時間と砥石回転モータ39負荷電流値および砥石移動距離との関係を示す図である。
図6において、ステップ符合(例えばS3)が
図3におけるものと同一のときは、制御装置は
図3の通電有無検出の方法における動作と同じ動作を行う。
【0045】
例えば、
図5と同一の高速移動および低速移動条件でナット25が移動し、低速移動において砥石61がワークWに到達すると、砥石61の回転はワークWにより抵抗を受けて砥石回転モータ39の負荷電流値は急激に増加する(
図7)。制御装置はこの急激なモータ負荷電流値の増加(予め記憶装置に記憶した設定値以上の負荷電流値)を検出したとき(
図6のS12でYES)、砥石61がワークWに到達したと判断しそのときのナット25の位置を記憶する。
【0046】
砥石回転モータ39の負荷電流値を指標とする方法も通電有無を指標とする方法と同様に、正確にかつ安定に砥石61がワークWに到達したときのナット25の位置を検出することができる。
砥石回転モータ39の負荷電流値を指標とする方法と通電有無を指標とする方法とを組み合わせれば、より汎用性の高い砥石保持装置とすることができる。
【0047】
図8はこの2つの方法を組み合わせたときの制御装置が制御する砥石ヘッド2の動作フローチャート図である。
図8において、ステップ符合が
図3または
図6におけるものと同一のときは、制御装置は
図3または
図6の動作と同じ動作を行う。
図9は接点近傍の絶縁構造を示す部分断面図である。「接点」とは、前述した通りストッパーボルト31(の頭部)と被押圧部36とを併せた呼称である。
【0048】
図9を参照して、案内棒30には電源の一方の電極に連続する導線51が接続されている。案内棒30は、スリーブ部材38により案内孔37と電気的に絶縁されている。また、ストッパーボルト31は、絶縁シート32によりストッパーブロック29の下側(ナット25)と電気的に絶縁されている。電源は、交流および直流のいずれも使用可能である。
【0049】
砥石保持装置1は、砥石がワークに達するまでストッパーボルト31が被押圧部36に接しており、電流は案内棒30、ストッパーブロック29の上側、被押圧部36および移動体8を経由して、アース(接地)される。この状態では接点に電流が流れ(例えば
図3のS2でYES)、砥石は未だワークに到達していない。
砥石がワークに達してロッド34の伸張が阻止された後もナット25が移動すると、接点は離れて接点間の通電が途絶える。このときもストッパーボルト31は、スリーブ部材38および絶縁シート32により移動体8とは絶縁されている。
【0050】
接点の通電の有無を指標とする砥石がワークに到達した位置の検出法は、接点を形成するストッパーボルト31における電源の一方の電極に連続する経路から接点を経由せずに電流がアースされることを防ぐ必要がある。
図9では、このアース防止をスリーブ部材38および前縁シート32が担っている。
上述の実施形態において、砥石保持装置1、および砥石保持装置1の各構成または全体の構造、形状、寸法、個数、材質などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、砥石を押圧させて被研削物を研削する際の砥石を保持する砥石保持装置および研削装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 砥石保持装置
7 砥石押圧装置(エアシリンダ)
5 基部
6 砥石当接装置
7 砥石押圧装置(エアシリンダ)
8 移動体
9 砥石回転装置
11 基台
22 ボールネジ
23 ネジ軸
24 移送モータ
25 ナット
29 ストッパーブロック(ストッパー)
31 ストッパーボルト(ストッパー)
34 (エアシリンダの)ロッド
36 被押圧部
39 砥石回転モータ
41 伝達装置
42 砥石ホルダ
W ワーク(被研削物)