(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097220
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】羽毛臭低減化方法
(51)【国際特許分類】
D06M 19/00 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
D06M19/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213466
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000222521
【氏名又は名称】東洋羽毛工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永岩 謙一
(72)【発明者】
【氏名】茂木 宏充
(72)【発明者】
【氏名】津田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】岩川 将也
【テーマコード(参考)】
4L031
【Fターム(参考)】
4L031AA06
4L031BA31
4L031DA13
(57)【要約】
【課題】羽毛製品を使用したときに感じる羽毛臭を低減化するために有効な技術を提供する。
【解決手段】羽毛をショウガ抽出物と接触させる工程を含む、羽毛臭低減化方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽毛をショウガ抽出物と接触させる工程を含む、羽毛臭低減化方法。
【請求項2】
羽毛をショウガ抽出物と接触させる工程を含む、低臭化羽毛の製造方法。
【請求項3】
羽毛に対して、ショウガ抽出物を乾燥固形分で0.1%owf~2%owf用いる請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
羽毛とショウガ抽出物の接触が20℃~80℃で行われる請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
羽毛とショウガ抽出物の接触が15分~60分間行われる請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
接触が、羽毛をショウガ抽出物水溶液中に浸漬することにより行われる請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
請求項2~6のいずれか1項記載の方法によって製造される低臭化羽毛。
【請求項8】
ショウガ抽出物を有効成分とする羽毛臭低減化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は羽毛の動物臭(羽毛臭)を低減させる羽毛臭低減化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
羽毛ふとんやダウンジャケットなど羽毛製品に使用される羽毛には独特の動物臭がする。その理由としては水鳥の飼育環境に由来する草木や泥、糞だけでなく、水鳥自身から分泌する油脂や飼料など様々な要因が考えられている。羽毛を洗浄することで羽毛臭は低減するが十分ではなく、羽毛製品の使用中に不快臭が発生してしまう。
【0003】
そこで、羽毛臭の低減化のために様々な試みが行われてきた。例えば、羽毛洗浄後に硫酸第一鉄などの鉄イオンとアスコルビン酸などの酸化抑制剤を処理する方法(特許文献1)が知られている。しかしながら、この方法では羽毛臭の消臭は必ずしも十分ではない。
また、フタロシアニン化合物を処理する方法(特許文献2)やカテキン化合物を処理する方法(特許文献3)等も報告されているが、これらは、菌の増殖を防ぐことで防臭効果を発揮する抗菌加工であり、羽毛が持つ動物臭の消臭ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-91268号公報
【特許文献2】特願2005-515390号公報
【特許文献3】特開2003-336176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、羽毛臭を低減化するために有効な技術を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、人体に対して安全性の高い天然素材の中から、ショウガ抽出物に羽毛臭を効果的に低減化できる作用があることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の1)~8)に係るものである。
1)羽毛をショウガ抽出物と接触させる工程を含む、羽毛臭低減化方法。
2)羽毛をショウガ抽出物と接触させる工程を含む、低臭化羽毛の製造方法。
3)羽毛に対して、ショウガ抽出物を乾燥固形分で0.1%owf~2%owf用いる1)又は2)の方法。
4)羽毛とショウガ抽出物の接触が20℃~80℃で行われる1)~3)のいずれかの方法。
5)羽毛とショウガ抽出物の接触が15分~60分間行われる1)~4)のいずれかの方法。
6)接触が、羽毛をショウガ抽出物水溶液中に浸漬することにより行われる、1)~5)のいずれかの方法。
7)2)~6)のいずれかの方法によって製造される低臭化羽毛。
8)ショウガ抽出物を有効成分とする羽毛臭低減化剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ショウガという安全性の高い食品素材を用いることから、人体に悪影響を及ぼすことなく効果的に羽毛臭を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、「羽毛」とは、主として水鳥から採取される羽毛が挙げられ、例えばダック、グース、マザーグースなどから採取された羽毛が挙げられる。
また、羽毛の部位は限定されず、ダウンとフェザーのいずれであってもよい。
【0010】
本発明のショウガ抽出物において、「ショウガ」とは、ショウガ科のショウガ(学名:Zingiber officinale)を指す。
ショウガは、根茎、茎、葉から構成されるが、本発明のショウガ抽出物においては、主として根茎が使用される。ショウガの大きさに制限はなく、大ショウガ、中ショウガ、小ショウガのいずれも用いることができる。ショウガは、抽出に際してそのまま用いることもできるが、粉砕したり、摩り下ろした状態、圧搾して絞り汁とした状態として用いることもできる。
【0011】
ショウガ抽出物としては、ショウガを常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出される各種溶媒抽出物、超臨界二酸化炭素等の超臨界抽出によって得られる抽出物、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末等が挙げられる。
【0012】
抽出のための溶媒には、極性溶媒、非極性溶媒のいずれをも使用することができる。溶媒の具体例としては、例えば、水;アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等);エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル等);エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等);ポリエーテル類(例えば、ポリエチレングリコール等);炭化水素類(例えば、ヘキサン等);ならびにこれらの混合物が挙げられる。好適には、水、アルコール類水溶液(好ましくはエタノール水溶液)が挙げられ、より好ましくは水である。
なお、エタノール水溶液におけるアルコールの濃度(25℃における容量%)は、好ましくは、30~99.5容量%、より好ましくは50~99.5容量%、さらに好ましくは75~99.5容量%が挙げられる。
【0013】
抽出条件は、十分な抽出が行える条件であれば特に限定されないが、例えば、抽出時間は好ましくは0.5時間~5週間、より好ましくは3時間~2週間である。抽出温度は0℃~溶媒沸点が好ましく、5℃~90℃がより好ましい。通常、低温なら長時間、高温なら短時間の抽出を行う。
抽出手段は、特に限定されないが、例えば、固液抽出、液液抽出、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、ソックスレー抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出、攪拌等の通常の手段を用いることができる。
【0014】
本発明のショウガ抽出物は、本発明の効果を発揮するものであれば粗精製物であってもよい。また、必要に応じて、液々分配、固液分配、濾過膜、活性炭、吸着樹脂、イオン交換樹脂、澱出し等の公知の技術によって不活性な夾雑物の除去、脱臭、脱色等の処理を施すことができる。また、さらに公知の分離精製方法を適宜組み合わせてこれらの純度を高めてもよい。
【0015】
また、本発明のショウガ抽出物は、そのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、あるいは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したものでもよい。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、水・エタノール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。
【0016】
本発明において、羽毛とショウガ抽出物との接触は、ショウガ抽出物を羽毛に供給できればその手段は問われないが、ショウガ抽出物を所定量含む溶液、例えばショウガ抽出物水溶液に羽毛を浸漬することが好適に挙げられる。
通常、羽毛の加工は、原羽毛から夾雑物を取り除いた後、洗剤を用いて洗浄した後、水洗、脱水、乾燥がなされるが、本発明においてショウガ抽出物との接触に使用される羽毛は水洗の前後の羽毛であればよく、好ましくは洗浄後の羽毛が挙げられる。また、水洗中の羽毛、すなわち水洗と同時にショウガ抽出物との接触を行うことでも良い。
【0017】
羽毛との接触に使用されるショウガ抽出物の量(濃度)は、羽毛の低臭化効果を高める点から、好ましくは0.1%owf~2%owf、より好ましくは0.15%owf~1.5%owf、より好ましくは0.18%owf~1.4%owf、より好ましくは0.2%owf~1%owfである。
ここで、「owf」はon the weight of fiberの略であり、%owfは、羽毛質量当たりのショウガ抽出物の質量(乾燥固形分質量)の百分率を意味する。
なお、「乾燥固形分」とは、抽出物から溶媒を乾燥させることで除去した後に得られる残分をいう。
【0018】
羽毛とショウガ抽出物の接触温度は、好ましくは20℃~80℃であり、より好ましくは60℃~80℃である。また、接触時間は、好ましくは15分~60分であり、より好ましくは45分~60分である。より好ましい条件として、60℃~80℃で45分~60分の接触が挙げられる。
【0019】
ショウガ抽出物と接触させた羽毛は、後記実施例に示すとおり、羽毛臭が低減化される。従って、ショウガ抽出物は、羽毛の動物臭を低減化するための羽毛臭低減化剤となり得、羽毛の加工製造工程において、羽毛臭低減化のために使用できる。
【0020】
斯くして、ショウガ抽出物と接触させた羽毛を、適宜水洗を行った後、脱水、乾燥等によって水分を除去すれば、羽毛臭が低減化された低臭化羽毛を製造することができる。
得られた低臭化羽毛は、布団、枕、クッション、ダウンジャケット、寝袋の他、羽毛を使用した様々な羽毛製品に使用することができる。
【実施例0021】
以下の実施例及び比較例において使用するショウガ抽出物は、日本粉末薬品株式会社の「(食品原料用)ショウガエキス」(ショウガ乾燥固形分70%)を用いた。当該ショウガエキスエキスは、ショウガの根茎の乾燥物から、水を用いて抽出した軟エキスである。
【0022】
実施例1
羽毛を、ショウガ抽出物が乾燥固形分換算で0.18%owfとなるようにショウガ抽出物水溶液に浸し、60℃で30分浸漬した。その後、脱水、乾燥させてショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0023】
実施例2
ショウガ抽出物が乾燥固形分換算で0.35%owfとなるようにショウガ抽出物水溶液を変えた他は実施例1と同様に行い、ショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
実施例3
【0024】
ショウガ抽出物が乾燥固形分換算で0.7%owfとなるようにショウガ抽出物水溶液を変えた他は実施例1と同様に行い、ショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
実施例4
【0025】
ショウガ抽出物が乾燥固形分換算で1.4%owfとなるようにショウガ抽出物水溶液を変えた他は実施例1と同様に行い、ショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0026】
比較例1
ショウガ抽出物を含まない溶液に変えた他は実施例1と同様に行い、ショウガ抽出物未処理羽毛を作製した。
【0027】
比較例2
ショウガ抽出物が乾燥固形分換算で0.07%owfとなるようにショウガ抽出物水溶液を変えた他は実施例1と同様に行い、ショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0028】
比較例3
ショウガ抽出物が乾燥固形分換算で2.8%owfとなるようにショウガ抽出物水溶液を変えた他は実施例1と同様に行い、ショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0029】
比較例4
ショウガ抽出物が乾燥固形分換算で7.0%owfとなるようにショウガ抽出物水溶液を変えた他は実施例1と同様に行い、ショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0030】
実施例1~4及び比較例1~4で製造したショウガ抽出物処理羽毛を無臭袋に詰め、5人のパネラーに臭気を嗅いでもらい、官能評価を行った。比較例1のショウガ抽出物未処理羽毛と比較して、臭気の強度を4段階(1.低減した、2.やや低減した、3.変化無し、4.強くなった)で評価した。また異臭について3段階(1.なし、2.わずかに感じる、3.明確に感じる)で評価した。結果を表1に示す。
【0031】
【0032】
実施例1~4はショウガ抽出物未処理羽毛(比較例1)と比較して臭気強度が低下していた。比較例2はショウガ抽出物濃度が低すぎて効果が十分に発揮されず、比較例3,4はショウガ抽出物濃度が高すぎてショウガの臭気を異臭として強く感じていた。ショウガ抽出物の濃度は0.18~1.4%owfであることが好ましいことがわかった。
【0033】
実施例5
羽毛を、ショウガ抽出物が乾燥固形分換算で0.35%owfとなるようにショウガ抽出物水溶液に浸し、20℃で30分浸漬した。その後、脱水、乾燥させてショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0034】
実施例6
40℃で30分浸漬に変えた他は実施例5と同様に行い、ショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0035】
実施例7
60℃で30分浸漬に変えた他は実施例5と同様に行い、ショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0036】
実施例8
80℃で30分浸漬に変えた他は実施例5と同様に行い、ショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0037】
実施例5~8で製造したショウガ抽出物処理羽毛を無臭袋に詰め、5人のパネラーに臭気を嗅いでもらい、官能評価を行った。比較例1のショウガ抽出物未処理羽毛と比較して、臭気の強度を4段階(1.低減した、2.やや低減した、3.変化無し、4.強くなった)で評価した。また異臭について3段階(1.なし、2.わずかに感じる、3.明確に感じる)で評価した。結果を以下の表2に示した。
【0038】
【0039】
実施例5~8はショウガ抽出物未処理羽毛(比較例1)と比較して臭気強度が低下していた。浸漬時の温度は高い方が効果が高いことがわかった。
【0040】
実施例9
羽毛を、ショウガ抽出物が乾燥固形分換算で0.70%owfとなるようにショウガ抽出物水溶液に浸し、60℃で15分浸漬した。その後、脱水、乾燥させてショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0041】
実施例10
30分浸漬に変えた他は実施例7と同様に行い、ショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0042】
実施例11
45分浸漬に変えた他は実施例7と同様に行い、ショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0043】
実施例12
60分浸漬に変えた他は実施例7と同様に行い、ショウガ抽出物処理羽毛を作製した。
【0044】
実施例9~12で製造したショウガ抽出物処理羽毛を無臭袋に詰め、5人のパネラーに臭気を嗅いでもらい、官能評価を行った。比較例1のショウガ抽出物未処理羽毛と比較して、臭気の強度を4段階(1.低減した、2.やや低減した、3.変化無し、4.強くなった)で評価した。また異臭について3段階(1.なし、2.わずかに感じる、3.明確に感じる)で評価した。結果を以下の表3に示した。
【0045】
【0046】
実施例9~12はショウガ抽出物未処理羽毛(比較例1)と比較して臭気強度が低下していた。浸漬時間は長い方が効果が高いことがわかった。