(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097232
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】ラックガイドおよびギア機構
(51)【国際特許分類】
B62D 3/12 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
B62D3/12 501D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213491
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】菊池 宏之
(72)【発明者】
【氏名】森重 晃一
(72)【発明者】
【氏名】ハムロディ ロバート
(57)【要約】
【課題】打音の発生を防止しつつ、ラックバーを安定的に支持することができるラックガイド、および、これを用いたギア機構を提供する。
【解決手段】ラックガイド30は、ラックガイド30の軸O3方向に沿って台座31の外周面314から突出する、少なくとも3つの突起部34を備える。各突起部34は、ハウジング70のシリンダケース部72の内壁面78と摺動する弾性変形可能な一対のアーム(第1の摺動部)341と、一対のアーム341より径方向内方に位置する弾性変形可能な円柱状部(第2の摺動部)342と、を有する。円柱状部342は、一対のアーム341がハウジング70のシリンダケース部72の内壁面78に近づいて大きく弾性変形した場合に、この内壁面78と摺動する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオンギアと噛み合うラックギアが形成されたラックバーを前記ラックギアの反対側から摺動可能に支持して、前記ピニオンギアの回転に応じて移動する前記ラックバーを当該ラックバーの軸方向にガイドするラックガイドであって、
前記ラックガイドの軸方向に沿って前記ラックガイドの外周面から突出する少なくとも3つの突起部を備え、
前記突起部は、
前記ラックガイドを移動可能に収容するハウジングの内周面と摺動する弾性変形可能な第1の摺動部と、
前記第1の摺動部より径方向内方に位置する弾性変形可能な第2の摺動部と、を有する
ことを特徴とするラックガイド。
【請求項2】
請求項1に記載のラックガイドであって、
前記第1の摺動部は、
径方向外方に向けて放射状に延びる一対のアームを有し、
前記第2の摺動部は、
前記第1の摺動部の前記一対のアーム間に配置されている
ことを特徴とするラックガイド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のラックガイドであって、
前記第2の摺動部は、半円柱状部材である
ことを特徴とするラックガイド。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のラックガイドであって、
前記ラックガイドの外周面に設けられ、当該ラックガイドの外周面より大きな直径を有し、かつ前記突起部より径方向内方に位置する外周面を有する支持部をさらに備える
ことを特徴とするラックガイド。
【請求項5】
請求項4に記載のラックガイドであって、
前記支持部は、
前記ラックギアの反対側に位置する前記ラックバーの背面と摺動するガイド面が設けられた前記ラックガイドの先端面側の外周面に設けられている
ことを特徴とするラックガイド。
【請求項6】
移動体の進行方向をステアリングホイールの回転に応じて変更するギア機構であって、
前記ステアリングホイールの回転に応じて回転するピニオンギアと、
前記ピニオンギアと噛み合うラックギアが形成され、前記ピニオンギアと前記ラックギアとの噛み合いにより、前記ピニオンギアの回転に応じて往復移動して前記移動体の車輪の向きを変えるラックバーと、
前記ラックバーを当該ラックバーの軸方向に移動可能に支持する請求項1ないし5のいずれか一項に記載のラックガイドと、
前記ラックガイドを当該ラックガイドの軸方向に移動可能に収容するハウジングと、を備える
ことを特徴とするギア機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のステアリング装置等に用いられるラックアンドピニオンにおいて、ラックバーをその軸方向にガイドしながらピニオンに押し当てて支持するラックガイド(サポートヨーク)、および、これを用いたギア機構に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のステアリング装置等に用いられるラックアンドピニオンにおいて、ハウジングに収容されたラックバーの背面(ラックギアの反対側の面)側に配置され、ラックバーをその軸方向にガイドしながらピニオンに押し当てて支持するラックガイドとして、例えば、特許文献1に記載のラックガイドが知られている。このラックガイドは、ハウジングに移動可能に収容され、押しばねによってその軸方向に付勢されることにより、ラックバーの背面と摺動してラックバーを支持する。ラックガイドの外周面には、その軸方向に延びる細幅のスリットが等間隔で複数箇所に設けられており、各スリットには、棒状の固体潤滑材がラックガイドの外周面から露出してハウジングの内周面と摺動するように埋設されている。この固体潤滑材により、ラックガイドはハウジングにガタなく収容され、ラックガイドがハウジング内でガタつくことによる打音の発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のラックガイドは、その軸に対称となる位置に棒状の固体潤滑材を配置している。このため、それぞれ固体潤滑材が配置された、ラックガイドの軸を挟んだ両側において、ラックガイドがハウジングに対して締め代となり、固体潤滑材とハウジングの内周面との摩擦力が大きくなって、ラックガイドがハウジング内をスムーズに移動しなくなる可能性がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、打音の発生を防止しつつラックバーを安定的に支持することができるラックガイド、および、これを用いたギア機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るラックガイドでは、ラックガイドの軸方向に沿ってその外周面から突出する少なくとも3つの突起部を設け、各突起部に、ハウジングの内周面と摺動する弾性変形可能な第1の摺動部と、第1の摺動部より径方向内方に位置する弾性変形可能な第2の摺動部と、を設けた。そして、第1の摺動部がハウジングの内周面に近づいて弾性変形した場合に、第2の摺動部がハウジングの内周面と摺動するようにした。
【0007】
例えば、本発明のラックガイドは、
ピニオンギアと噛み合うラックギアが形成されたラックバーを前記ラックギアの反対側から摺動可能に支持して、前記ピニオンギアの回転に応じて移動する前記ラックバーを当該ラックバーの軸方向にガイドするラックガイドであって、
前記ラックガイドの軸方向に沿って前記ラックガイドの外周面から突出する少なくとも3つの突起部を備え、
前記突起部は、
前記ラックガイドを移動可能に収容するハウジングの内周面と摺動する弾性変形可能な第1の摺動部と、
前記第1の摺動部より径方向内方に位置する弾性変形可能な第2の摺動部と、を有する。
【0008】
また、本発明のギア機構は、
移動体の進行方向をステアリングホイールの回転に応じて変更するギア機構であって、
前記ステアリングホイールの回転に応じて回転するピニオンギアと、
前記ピニオンギアと噛み合うラックギアが形成され、前記ピニオンギアと前記ラックギアとの噛み合いにより、前記ピニオンギアの回転に応じて往復移動して前記移動体の車輪の向きを変えるラックバーと、
前記ラックバーを当該ラックバーの軸方向に摺動可能に支持する上述のラックガイドと、
前記ラックガイドを当該ラックガイドの軸方向に移動可能に収容するハウジングと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ラックガイドの軸方向に沿ってラックガイドの外周面から突出する少なくとも3つの突起部にそれぞれ設けられた第1の摺動部が、ハウジングの内周面と摺動することによりラックガイドを支持するので、ラックガイドがハウジングにガタなく収容され、打音の発生を防止することができる。また、第1の摺動部が弾性変形することにより、第1の摺動部とハウジングの内周面との摩擦力を低くして、ラックガイドをスムーズにハウジング内を移動させることができる。さらに、ラックガイドに大きな荷重が加わって、この荷重によりハウジングの内周面に近づいた突起部に設けられた第1の摺動部が弾性変形した場合、この突起部に設けられた第2の摺動部がハウジングの内周面と摺動してラックガイドを支持するので、打音の発生をより効果的に防止することができる。したがって、本発明によれば、打音の発生を防止しつつラックバーを安定的に支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係るステアリング装置のギア機構1の概略断面図である。
【
図2】
図2(A)、
図2(B)、および
図2(C)は、
図1に示すラックガイド30の平面図、正面図および底面図である。
【
図3】
図3(A)および
図3(B)は、
図2(A)に示すラックガイド30のA-A断面図およびB-B断面図である。
【
図4】
図4(A)は、ハウジング70のシリンダケース部72に収容されたラックガイド30をギア機構1の底面側から見た図であり、
図4(B)は、
図4(A)のC部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0012】
なお、以下の説明の便宜上、ラックバー20の軸心O2方向(ラックバー20の往復移動の方向)をX方向、ピニオンギア11に対するラックギア21の押し当て方向をZ方向、XおよびZ方向に垂直な方向をY方向と定義し、これらの方向を各図に適宜表示する。
【0013】
図1は、本実施の形態に係るステアリング装置のギア機構1の概略断面図である。
【0014】
本実施の形態に係るステアリング装置は、ステアリングシャフトの回転運動を直線運動に変換し、この直線運動を、車輪の向きを変えるリンク機構に伝達するラックアンドピニオン式のギア機構1を有している。なお、このステアリング装置は、ピニオンギア11またはラックバー20の動きをモータでアシストするパワーステアリング機構が搭載されているものおよび搭載されていないもののいずれであってもよい。
【0015】
図示するように、このギア機構1は、ピニオンギア11が形成されたピニオンシャフト10と、ピニオンギア11と噛み合うラックギア21が形成されたラックバー20と、ピニオンシャフト10を回転可能に支持する一対の転がりベアリング40と、ピニオンギア11の回転に伴いX方向に往復移動するラックバー20をガイドするラックガイド30と、これらの部品10~40が組み込まれたハウジング70と、ハウジング70を塞ぐキャップ60と、を備えている。
【0016】
ピニオンシャフト10は、Y方向に対して軸心O1がX方向に傾斜するように配置された円柱状の部材であり、その外周面12には、ピニオンギア11として例えばヘリカルギアが形成されている。ピニオンギア11は、ハウジング70に設けられたピニオンギア収容室73に収容されており、ピニオンシャフト10は、ピニオンギア11の両側の位置において、一対の転がりベアリング40を介して軸心O1周りに回転可能にハウジング70に支持されている。ピニオンシャフト10の一方の端部13は、ハウジング70に形成された開口部74からピニオンギア収容室73の外側に突き出て、不図示のステアリングシャフトに連結されている。これにより、ステアリングホイールの操作に応じて回転するステアリングシャフトに連動してピニオンギア11が回転する。
【0017】
ラックバー20は、X方向に沿って配置された円柱状の部材であり、図示していないが、その両端は、ボールジョイントを介して、車輪の向きを変えるリンク機構に連結されている。ラックギア21を構成する複数の歯は、ラックバー20の外周面にX方向に並んで形成され、ハウジング70のピニオンギア収容室73において、ピニオンギア11の歯と所定の噛み合い位置で噛み合っている。ラックバー20の背面(ラックギア21の反対側に位置する、YZ断面形状が円弧状の外周面)22は、ラックバー20がラックガイド30に付与する荷重の大きさに応じて、ラックガイド30により摺動可能に支持される。ステアリングシャフトとともにピニオンシャフト10が回転すると、ピニオンギア11とラックギア21との噛み合いにより、ラックバー20は、ラックガイド30にガイドされてX方向に往復移動してリンク機構を揺動させる。これにより、ステアリングホイールの操作に応じて車輪の向きが変わる。
【0018】
ハウジング70は、X方向に沿って配置された筒状のラックケース部71と、ラックケース部71の外周からZ方向に突き出した筒状のシリンダケース部72と、を有する。
【0019】
ラックケース部71には、ラックバー20がX方向に往復移動可能に収容されている。また、このラックケース部71には、ピニオンギア収容室73が設けられている。このピニオンギア収容室73には、上述したように、ピニオンギア11と、このピニオンギア11が所定の噛み合い位置でラックギア21と噛み合うようにピニオンシャフト10を回転可能に保持する一対の転がりベアリング40と、が収容されている。また、このラックケース部71には、ピニオンギア収容室73の内部と外部とを繋ぐ開口部74が不図示のステアリングシャフト側に向けて形成されており、不図示のステアリングシャフトに連結されたピニオンシャフト10の一方の端部13は、この開口部74からピニオンギア収容室73の外部に突き出している。
【0020】
一方、シリンダケース部72は、ラックバー20に対してピニオンギア11の反対側に位置するようにラックケース部71に一体的に形成されており、シリンダケース部72の内部とラックケース部71の内部とは、ピニオンギア収容室73内のピニオンギア11に面した開口部75を介して繋がっている。また、このシリンダケース部72の内壁面78の開放端部76には、キャップ60を固定するためのネジ部77が形成されている。
【0021】
ラックガイド30は、ラックバー20の背面22を摺動可能に支持するガイド面300をラックバー20の背面22側に向けて、シリンダケース部72にZ方向に収容され、ラックバー20に対してピニオンギア11の反対側(ピニオンギア11とラックギア21との噛み合い位置におけるラックバー20の背面22側)に位置付けられている。このラックガイド30の詳細な構造については後述する。
【0022】
キャップ60は、シリンダケース部72の開放端部76にはめ込み可能な円板形状を有し、そのキャップ60の外周にはネジ部62が形成されている。ハウジング70のシリンダケース部72内にラックガイド30を挿入して、キャップ60のネジ部62を、シリンダケース部72の開放端部76のネジ部77にねじ込むことにより、シリンダケース部72の開放端部76にキャップ60が固定されてシリンダケース部72が塞がれる。
【0023】
つぎに、ラックガイド30の詳細な構造について説明する。
【0024】
図2(A)、
図2(B)、および
図2(C)は、
図1に示すラックガイド30の平面図、正面図および底面図である。また、
図3(A)および
図3(B)は、
図2(A)に示すラックガイドのA-A断面図およびB-B断面図である。
【0025】
図示するように、ラックガイド30は、円柱状の台座31と、台座31の先端面(ラックバー20側の端面)310に設けられたラックガイドシート32と、台座31の先端面310側において外周面314から張り出すように設けられた支持部33と、ラックガイド30の軸O3方向に沿って台座31の外周面314に設けられた複数の突起部34と、コイルスプリング、板バネ等のバネ部材で構成される付勢部材35と、を有する。
【0026】
台座31は、ラックバー20の背面22と対面する凹面状の先端面310に設けられ、ラックガイドシート32をこの先端面310上に保持するためのシート保持部311と、付勢部材35を収容するためのスプリングガイド312と、突起部34を装着するための複数の装着溝313と、を有する。
【0027】
シート保持部311は、台座31の先端面310の中央部に設けられ、ラックガイドシート32の第1ボス320を保持する第1保持部315と、ラックバー20の軸O2(ラックバー20との摺動方向)に沿って、第1保持部315の両側に配置され、ラックガイドシート32の第2ボス321を保持する複数の第2保持部316と、を有する。
【0028】
スプリングガイド312は、後端面(キャップ60側の端面)に開口を有する円柱穴であり、この円柱穴内に付勢部材35を収容する。
【0029】
装着溝313は、ラックガイド30の軸O3方向に沿って台座31の外周面314に周方向に複数設けられている。
【0030】
ラックガイドシート32は、ラックバー20の背面22と摺動するガイド面300を形成する凹面状の摺動部材であり、台座31の先端面310に設けられる。ラックガイドシート32は、背面(ガイド面300と反対側の面)において、中央部に設けられた第1ボス320と、ラックバー20の軸O2(ラックバー20との摺動方向)に沿って第1ボス320の両側に設けられた第2ボス321と、を有する。第1ボス320および第2ボス321が台座31の第1保持部315および第2保持部316に保持されることにより、ラックガイドシート32は台座31の先端面310に強固に固定される。また、第2ボス321は、グリース溜まりとして機能する。ラックガイドシート32には、摺動性に優れた合成樹脂が用いられる。
【0031】
なお、ラックガイドシート32は、台座31がガラス繊維強化ポリアミド等の合成樹脂製の場合には、二色成形により台座31と一体化してもよく、台座31がアルミ等の金属製の場合には、インサート成形により台座31と一体化してもよい。
【0032】
支持部33は、台座31の外周面314の直径D1より大きな直径D2を有し、かつ後述する突起部34の半円柱部342よりも径方向内方(半円柱部342の先端部を結ぶ円の直径D3>D2)に位置する外周面330を有する円筒状の部材であり、台座31の先端面310側に装着される。支持部33には、ラックガイドシート32と同様、摺動性に優れた合成樹脂が用いられる。
【0033】
なお、支持部33は、ラックガイドシート32と同様、台座31がガラス繊維強化ポリアミド等の合成樹脂製の場合には、二色成形により台座31と一体化してもよく、台座31がアルミ等の金属製の場合には、インサート成形により台座31と一体化してもよい。
【0034】
突起部34は、ハウジング7のシリンダケース部72の内壁面78と摺動する柱状の摺動部材である。本実施の形態では、台座31の装着溝313各々に装着されることにより、4つの突起部34が軸O3方向に沿って台座31の外周面314に周方向に設けられている。また、突起部34は、径方向外方に向けて放射状に延びて、ハウジング70のシリンダケース部72の内壁面78と摺動する、弾性変形可能な一対のアーム341と、一対のアーム341の間に配置された弾性変形可能な半円柱部342と、を有する。半円柱部342は、一対のアーム341の先端部より径方向内方(アーム341の先端部を結ぶ円の直径D4>半円柱部342の先端部を結ぶ円の直径D3)に位置し、一対のアーム341がハウジング70のシリンダケース部72の内壁面78に近づいて弾性変形した場合に、この内壁面78と摺動する。
【0035】
突起部34には、ETFE(Ethylene-tetrafluoroethylene)、分子量を100~700万に高めたポリエチレンである高分子量ポリエチレン(Ultra High Molecular Weight Polyethylene)、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等の、弾性を有しかつ摺動性に優れた合成樹脂、あるいは、密度0.942g/m3以上のポリエチレンである高密度ポリエチレン(High-density Polyethylene)、ポリアミド、ポリアセタール等の、摺動性に優れた合成樹脂が用いられる。
【0036】
なお、突起部34は、ラックガイドシート32および支持部33と同様、台座31がガラス繊維強化ポリアミド等の合成樹脂製の場合には、二色成形によりラックガイドシート32とともに台座31と一体化してもよく、台座31がアルミ等の金属製の場合には、インサート成形によりラックガイドシート32とともに台座31と一体化してもよい。
【0037】
なお、本実施の形態では、ラックガイドシート32、支持部33、および突起部34が一体化されているが、これらの少なくとも一つは別個の部品であってもよい。この場合、部品毎に異なる材料を用いてもよい。
【0038】
付勢部材35は、台座31のスプリングガイド312内に配置されている。また、付勢部材35は、スプリングガイド312の高さ(深さ)よりも長い自然長を有しており、付勢部材35の一方の端部は、スプリングガイド312の開口から突出して、キャップ60と当接する。このため、キャップ60が付勢部材35のばね座として機能し、付勢部材35は、台座31をラックバー20側に押し出す方向に付勢して、ラックガイドシート32のガイド面300をラックバー20の背面22に圧接する。これにより、ラックギア21がピニオンギア11に押圧され、ラックギア21とピニオンギア11の噛み合い位置における歯の離間が防止される。
【0039】
図4(A)は、ハウジング70のシリンダケース部72に収容されたラックガイド30をギア機構1の底面側から(Z方向に)見た図であり、
図4(B)は、
図4(A)のC部拡大図である。
【0040】
図4(A)に示すように、ラックガイド30は、ラックガイド30の軸O3方向に沿って台座31の外周面314から突出してハウジング70のシリンダケース部72の内壁面78と摺動する複数の突起部34により、軸O3方向に移動可能にシリンダケース部72にガタなく収容される。
【0041】
具体的には、
図4(B)に示すように、突起部34に設けられた、径方向外方に向けて放射状に延びる一対のアーム341が弾性変形しながらシリンダケース部72の内壁面78と摺動することにより、突起部34とシリンダケース部72の内壁面78との摩擦力を低くして、ラックガイド30をシリンダケース部72にスムーズに移動可能に収容する。また、ラックガイド30に大きな荷重が加わって、この荷重によりシリンダケース部72の内壁面78により押圧された突起部34に設けられた一対のアーム341が大きく弾性変形した場合、この一対のアーム341の間に配置された弾性変形可能な半円柱部342が、シリンダケース部72の内壁面78と摺動してラックガイド30を支持する。そして、ラックガイド30にさらに大きな荷重が加わって、この荷重によりシリンダケース部72の内壁面78に近づいた突起部34に設けられた半円柱部342が弾性変形した場合、台座31の先端面310側において外周面314から張り出すように設けられた支持部33が、シリンダケース部72の内壁面78と摺動してラックガイド30を支持する。
【0042】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。
【0043】
本実施の形態では、ラックガイド30の軸O3方向に沿ってラックガイド30の台座31の外周面314から突出する複数の突起部34にそれぞれ設けられた一対のアーム341が、弾性変形しながらシリンダケース部72の内壁面78と摺動することによりラックガイド30を支持するので、ラックガイド30がシリンダケース部72にガタなく収容され、打音の発生を防止することができる。また、一対のアーム341が弾性変形することにより、突起部34とシリンダケース部72の内壁面78との摩擦力を低くして、ラックガイド30をスムーズにシリンダケース部72内を移動させることができる。さらに、ラックガイド30に大きな荷重が加わって、この荷重によりシリンダケース部72の内壁面78に近づいた突起部34に設けられた一対のアーム341が大きく弾性変形した場合、この一対のアーム341間に配置された弾性変形可能な半円柱部342が、シリンダケース部72の内壁面78と摺動してラックガイド30を支持するので、打音の発生をより効果的に防止することができる。したがって、本実施の形態によれば、打音の発生を防止しつつラックバー20を安定的に支持することができる。
【0044】
また、本実施の形態では、台座31の先端面310側において外周面314から張り出すように設けられた支持部33を有する。この支持部33は、台座31の外周面314の直径D1より大きな直径D2を有し、かつ突起部34の半円柱部342よりも径方向内方(半円柱部342の先端部を結ぶ円の直径D3>D2)に位置する外周面330を有する円筒状の部材である。このため、ラックガイド30にさらに大きな荷重が加わって、この荷重によりシリンダケース部72の内壁面78に近づいた突起部34に設けられた半円柱部342が弾性変形した場合、支持部33の外周面330がシリンダケース部72の内壁面78と摺動してラックガイド30を支持するので、打音の発生をさらに効果的に防止することができる。
【0045】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形は可能である。
【0046】
例えば、本実施の形態では、4つの突起部34を軸O3方向に沿って台座31の外周面314に周方向に設けているが、本発明はこれに限定されない。突起部は3つ以上設けられていればよい。
【0047】
また、本実施の形態では、支持部33を台座31の先端面310側に設けているが、本発明はこれに限定されない。支持部33は、台座31の軸O3方向の中央あるいは後端面側に設けられていてもよく、あるいは、台座31の外周面314の全面を覆うように設けられていてもよい。また、例えば突起部34により打音の発生を十分に防止できる場合には、支持部33を省略してもかまわない。
【0048】
さらに、本実施の形態では、突起部34に、径方向外方に向けて放射状に延びて、ハウジング70のシリンダケース部72の内壁面78と摺動する、弾性変形可能な一対のアーム341と、一対のアーム341の間に配置された弾性変形可能な半円柱部342と、を設けている。しかし、本発明はこれに限定されない。突起部34は、ハウジング70のシリンダケース部72の内壁面78と摺動する弾性変形可能な第1の摺動部と、第1の摺動部より径方向内方に位置し、第1の摺動部がシリンダケース部72の内壁面78に近づいて弾性変形した場合に、シリンダケース部72の内壁面78と摺動する、弾性変形可能な第2の摺動部と、を有するものであればよい。
【0049】
また、上記実施の形態では、車両のステアリング装置への適用例を挙げているが、本発明は、車両のステアリング装置に限らず、例えば光学機器のピント合わせ機構等、ラックアンドピニオン式のギア機構を利用している機器に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1:ギア機構 10:ピニオンシャフト
11:ピニオンギア 12:ピニオンシャフト10の外周面
13:ピニオンシャフト10の端部 20:ラックバー
21:ラックギア 22:ラックバー20の背面
30:ラックガイド 31:台座
32:ラックガイドシート 33:支持部
34:突起部 35:付勢部材 40:転がりベアリング
60:キャップ 62:キャップ60のネジ部
70:ハウジング 71:ラックケース部
72:シリンダケース部 73:ピニオンギア収容室
74、75:開口部 76:シリンダケース部72の開放端部
77:シリンダケース部72のネジ部
78:シリンダケース部72の内壁面
300:ガイド面 310:台座31の先端面
311:シート保持部 312:スプリングガイド
313:装着溝 314:台座31の外周面
315:第1保持部 316:第2保持部
320:第1ボス 321:第2ボス
330:支持部33の外周面
341:アーム 342:半円柱部