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特開2023-97274ピア構造物の洗掘防止構造体及び洗掘防止方法
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  • 特開-ピア構造物の洗掘防止構造体及び洗掘防止方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097274
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】ピア構造物の洗掘防止構造体及び洗掘防止方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/52 20060101AFI20230630BHJP
   E02D 27/34 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
E02D27/52
E02D27/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213536
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000151449
【氏名又は名称】株式会社東京久栄
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100166073
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】中井 正則
(72)【発明者】
【氏名】谷田部 宏春
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 駆
(72)【発明者】
【氏名】中林 孝之
(72)【発明者】
【氏名】西村 規宏
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046DA05
2D046DA61
(57)【要約】
【課題】施工に手間がかからず、任意の方向の流れを受ける洋上風力発電におけるピア構造物に対しても、十分な洗掘防止効果が得られる手段を提供する。
【解決手段】 (制御板の開孔部の総面積/制御板の総面積)で示される空隙率が0.60以上0.90以下の制御板(2)が2組4枚存在し、ピア構造物(1)の外周面の鉛直方向に沿って対称に位置している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(制御板の開孔部の総面積/制御板の総面積)で示す空隙率が0.60以上0.90以下の制御板が、ピア構造物の外周面の鉛直方向に沿って、対称に位置することを特徴とする、ピア構造物の洗掘防止構造体。
【請求項2】
前記制御板が、2組存在することを特徴とする、請求項1に記載のピア構造物の洗掘防止構造体。
【請求項3】
前記2組存在する4枚の制御板について、隣接する制御板との角度が、円柱状のピア構造物を四等分するように90度であることを特徴とする、請求項2に記載のピア構造物の洗掘防止構造体。
【請求項4】
ピア構造物の外周面の鉛直方向に沿って、(制御板の開孔部の総面積/制御板の総面積)で示す空隙率が0.60以上0.90以下の制御板を、対称に取り付けることで水流を制御することを特徴とする、ピア構造物の洗掘防止方法。
【請求項5】
前記制御板を、2組取り付けることを特徴とする、請求項4に記載のピア構造物の洗掘防止方法。
【請求項6】
前記2組取り付ける4枚の制御板について、隣接する制御板との角度が、ピア構造物を四等分するように90度であることを特徴とする、請求項5に記載のピア構造物の洗掘防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピア構造物の洗掘防止構造体及び洗掘防止方法に関し、詳細には洋上風力発電で必須な風車タービン台であるピア構造物の洗掘防止構造及び洗掘防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川等の水中構造物周辺に発生する洗掘を防止する洗掘防止技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。
該技術は、河川等の水中構造物周辺に発生する洗掘を防止するための工法であって、水中構造物の周囲に、下層になるほど粒径の小さい捨石を敷設し、網体の線材が曲折可能であり、網目が表層捨石よりも小さく、網目の格点において上下左右に回転可能な連結部材により連結された網体を、前記捨石上に被覆することを特徴とする洗掘防止工法である。
【0003】
また、橋脚基礎構造物の洗掘防止装置として、特許文献2に記載の技術が知られている。
該技術は、橋脚基礎構造物を囲んでおり、複数の孔が形成されている密閉板と、一面が密閉板の一面に連結されており、橋脚基礎構造物から所定距離離れ、複数の第1流れ孔が形成されている第1流れ誘導板と、一面が密閉板の他面に連結されており、橋脚基礎構造物から所定距離離れ、複数の第2流れ孔が形成されている第2流れ誘導板と、第1流れ誘導板と第2流れ誘導板とを連結し、流体の流れを防ぐ遮断板と、を含み、第1流れ誘導板と第2流れ誘導板は、橋脚基礎構造物を基準として互いに対称することを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-144675号公報
【特許文献2】特表2011-516756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、大量な捨石の敷設作業が必要であり、更に、網体で被覆する作業が必要なので、施工に手間がかかる。
特許文献2に記載の技術は、通常の河川や洪水流のような一方向流や潮汐流のような一軸往復流れに代表される特定方向の流れには有効であるが、水平面内における360度の不特定の任意の方向の流れを受ける環境下にある洋上風力発電におけるピア構造物に対して、十分な洗掘防止効果が得られるものではなかった。
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、施工に手間がかからず、任意の方向の流れを受ける洋上風力発電におけるピア構造物に対しても、十分な洗掘防止効果が得られる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するための手段は、下記のとおりである。
【0008】
第1に、
(制御板の開孔部の総面積/制御板の総面積)で示される空隙率が、0.60以上0.90以下、望ましくは0.65以上0.85以下、より望ましくは0.70以上0.80以下、さらに望ましく0.73以上0.77以下の制御板が、円柱状のピア構造物の外周面の鉛直方向に沿って、対称に位置することを特徴とする、ピア構造物の洗掘防止構造体。
第2に、
制御板が、2組存在することを特徴とする、前記第1に記載のピア構造物の洗掘防止構造体。
第3に、
2組存在する4枚の制御板について、隣接する制御板との角度が、円柱状のピア構造物を四等分するように90度であることを特徴とする、前記第2に記載のピア構造物の洗掘防止構造体。
【0009】
第4に、
円柱状のピア構造物の外周面の鉛直方向に沿って、(制御板の開孔部の総面積/制御板の総面積)で示す空隙率が、0.60以上0.90以下、望ましくは0.65以上0.85以下、より望ましくは0.70以上0.80以下、さらに望ましく0.73以上0.77以下の制御板を、対称に取り付けることで水流を制御することを特徴とする、ピア構造物の洗掘防止方法。
第5に、
制御板を、2組取り付けることを特徴とする、前記第4に記載のピア構造物の洗掘防止方法。
第6に、
2組取り付ける4枚の制御板について、隣接する制御板との角度が、円柱状のピア構造物を四等分するように90度であることを特徴とする、前記第5に記載のピア構造物の洗掘防止方法。
【0010】
前記第1から第6に示す手段における高空隙率の「制御板」は、ピア構造物の周辺に発生する馬蹄形渦を制御し弱体化することで、渦渡の低下を図り、水底土砂の巻き上げを抑制し、局所洗掘を軽減させるものである。
すなわち、高空隙率の制御板は、馬蹄形渦をぶつ切りにすると共に、横切り流れに対して「阻害→通過」のように作用転換することにより、新たな組織渦の発生を抑制するものである。
高空隙率の制御板としては、薄肉の網状平板を採用することができるが、薄肉平板に多数の開孔群を設けることで形成することもできる。
ここで、「空隙率」とは、制御板に対して貫通している開孔部の存在割合を示したものであり、次式で表されるものである。
空隙率=(制御板の開孔部の総面積/制御板の総面積)
【0011】
前記第1から第6に示す手段において制御板の位置について対称とは、円柱状のピア構造物を挟んで存在する2枚1組の制御板が、円柱状のピア構造物の中心線を含む縦断面の延長面上にあることをいう。
例えば、円柱状のピア構造物の場合には、複数の制御板を等角度間隔で、ピア構造物の中心から半径外周方向に突き出した形で、円筒状の外周面に接して配置することで制御板の位置を完全対称にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば以下の効果を奏することができる。
【0013】
本発明は、高空隙率の制御板を対称に設置するだけなので、施工に手間がかからず、任意の方向の流れを受ける洋上風力発電におけるピア構造物に対しても、十分な洗掘防止効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1の説明図である。
図2】本発明の実施例2の説明図である。
図3】本発明の実施例3の説明図である。
図4】本発明の試験例1の説明図である。
図5】本発明の試験例2の説明図である。
図6】本発明の試験例3の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ具体的に説明する。
ここで、添付図面において同一の部材には同一符号を付しており、また重複した説明は省略されている。
なお、ここでの説明は本発明が実施される一形態であることから、本発明は当該形態に限定されるものではない。
【実施例0016】
図1に示すとおり、本実施例1のピア構造物の洗掘防止構造体は、洋上風力発電で必須な風車タービン台であるピア構造物1に、空隙率が0.75の網状平板である制御板2を、90度の間隔で4枚取り付けたものである(図1中の(A)参照)。
該実施例1のピア構造物1の洗掘防止構造体は、2組の制御板2が、対称位置に取り付けられている。。
制御板4は、高さがピア構造物1の半径と略等しく、長さがピア構造物1の直径と略等しいものである(図1中の(B)参照)。
なお、図1(B)中、符号3は、ピア構造物1が設置されている海底面を表している。
【実施例0017】
図2に示すとおり、本実施例2のピア構造物の洗掘防止構造体は、洋上風力発電で必須な風車タービン台であるピア構造物1に、空隙率が0.75の網状平板である制御板2を、60度の間隔で6枚取り付けたものである。
該実施例2のピア構造物の洗掘防止構造体は、3組の制御板2が、対称位置に取り付けられている。。
該実施例2の制御板2も、実施例1と同様に、高さがピア構造物の半径と略等しく、長さがピア構造物1の直径と略等しいものである(図1中の(B)参照)。
【実施例0018】
図3に示すとおり、本実施例3のピア構造物の洗掘防止構造体は、洋上風力発電で必須な風車タービン台であるピア構造物1に、空隙率が0.75の網状平板である制御板2を、45度の間隔で8枚取り付けたものである。
該実施例3のピア構造物の洗掘防止構造体は、4組の制御板2が、対称位置に取り付けられている。。
該実施例3の制御板2も、実施例1と同様に、高さがピア構造物の半径と略等しく、長さがピア構造物1の直径と略等しいものである(図1中の(B)参照)。
【0019】
次に、前記実施例1-3に示すピア構造物の洗掘防止構造体によるピア構造物の洗掘防止方法について説明する。
【0020】
円柱状のピア構造物1の外周面の鉛直方向に沿って、空隙率が0.75である制御板2を、対称に取り付ける。
対称位置に制御板2を取り付けることで、ピア構造物1の周辺に発生する馬蹄形渦を制御し弱体化を図ることができるので、水底土砂の巻き上げを抑制し、局所洗掘を軽減させることが可能となる。
すなわち、高空隙率の制御板2は、馬蹄形渦をぶつ切りにすると共に、横切り流れに対して「阻害→通過」のように作用転換することにより、新たな組織渦の発生を抑制することで水流を制御し、ピア構造物の洗掘防止を図ることができる。
【0021】
次に、試験例について説明する。
始めに、共通の試験条件について説明する。
【0022】
各試験は、試験用の直線水路(水平設置)において試験を行った。
該直線水路は、長さ6(m)、幅40(cm)、高さ25(cm)である。
試験条件は、土砂粒径d≒0.1(mm)、水深h=(3.3cm)、流速u=14.8(cm/s)である。
各図において、白抜矢印は流れ方向を示している。
レイノルズ数は、Re=4.8×10である。
【0023】
各試験におけるピア構造物は、直径d=5.0(cm)である。
各試験における制御板は、長さL=5.0(cm)、高さH=1.0(cm)、空隙率Φ=0.75である。
【0024】
図4に示すとおり、実施例1の4枚タイプのピア構造物の洗掘防止構造体は、図4中の(1)に示すように、1枚の制御板が流れ方向と合致するように取り付けられている。
図4中の(2)は、1枚の制御板が流れ方向対して45度の角度を有するように取り付けられている。
図4中の(3)は、制御板を全く取り付けない場合を示し、図中のA,B,C,Dは、各試験例に共通するデータの測定地点を示している。
【0025】
図5に示すとおり、実施例2の6枚タイプのピア構造物の洗掘防止構造体は、図5中の(1)に示すように、1枚の制御板が流れ方向と合致するように取り付けられている。
図5中の(2)は、1枚の制御板が流れ方向対して30度の角度を有するように取り付けられている。
図5中の(3)は、制御板を全く取り付けない場合を示し、図中のA,B,C,Dは、各試験例に共通するデータの測定地点を示している。
【0026】
図6に示すとおり、実施例3の8枚タイプのピア構造物の洗掘防止構造体は、図6中の(1)に示すように、1枚の制御板が流れ方向と合致するように取り付けられている。
図6中の(3)は、制御板を全く取り付けない場合を示し、図中のA,B,C,Dは、各試験例に共通するデータの測定地点(以下、「測点」と略することがある。)を示している。
【0027】
各試験時間は5分間とし、5分後に測点A,B,C,Dについて、洗掘深さを測定し、cm単位で表記した。
また、前面側の測点A、側面側の測点B,Dにおける洗掘深さの低減率(単位は%)について求めた。
なお、測点Cについては「堆積」なので、評価の対象外とした。
【0028】
図4に示す試験例の結果は、次のとおりである。
(1)のケースの洗掘深さは、測点Aが0.61,測点Bが1.23,測点Cが-0.30,測点Dが1.08であった(単位はcm)。
(2)のケースの洗掘深さは、測点Aが0.69,測点Bが1.05,測点Cが-0.50,測点Dが1.19(単位はcm)。
(3)のケースの洗掘深さは、測点Aが1.38,測点Bが1.79,測点Cが-0.15,測点Dが1.31であった(単位はcm)。
(1)のケースの低減率は、測点Aが56、測点B,Dの平均が25であった(単位は%)。
(2)のケースの低減率は、測点Aが50、測点B,Dの平均が28であった(単位は%)。
【0029】
図5に示す試験例の結果は、次のとおりである。
(1)のケースの洗掘深さは、測点Aが0.75,測点Bが1.23,測点Cが-0.04,測点Dが1.57であった(単位はcm)。
(2)のケースの洗掘深さは、測点Aが1.20,測点Bが1.38,測点Cが-0.49,測点Dが1.50(単位はcm)。
(3)のケースの洗掘深さは、測点Aが1.38,測点Bが1.79,測点Cが-0.15,測点Dが1.31であった(単位はcm)。
(1)のケースの低減率は、測点Aが46、測点B,Dの平均が10であった(単位は%)。
(2)のケースの低減率は、測点Aが13、測点B,Dの平均が7であった(単位は%)。
【0030】
図6に示す試験例の結果は、次のとおりである。
(1)のケースの洗掘深さは、測点Aが0.72,測点Bが0.96,測点Cが-0.53,測点Dが1.28であった(単位はcm)。
(3)のケースの洗掘深さは、測点Aが1.38,測点Bが1.79,測点Cが-0.15,測点Dが1.31(単位はcm)。
(1)のケースの低減率は、測点Aが48、測点B,Dの平均が28であった(単位は%)。
【0031】
前記試験結果によると、ピア構造物の前面(測点A)の洗堀は、制御板を取り付けた各試験例についてほぼ50%以上の軽減が確認された。
また、ピア構造物の側面(測点B,D)の洗堀も、制御板を取り付けた各試験例について25%以上の軽減が確認された。
【符号の説明】
【0032】
1 ピア構造物
2 制御板
3 海底面
図1
図2
図3
図4
図5
図6