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特開2023-97332電解コンデンサ用電解液及び電解コンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097332
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】電解コンデンサ用電解液及び電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
H01G9/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126291
(22)【出願日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2021212564
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】秦 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒田 宏一
(57)【要約】
【課題】高圧用途において水素ガスの発生を抑制し長寿命化した電解コンデンサ用電解液及び電解コンデンサを提供する。
【解決手段】電解コンデンサ用電解液は、グリコール系溶媒と、耐電圧向上剤と、ホウ酸を含むアニオン成分を含む。耐電圧向上剤は、電解コンデンサ用電解液全量に対して5wt%以上含まれる。ホウ酸は、電解コンデンサ用電解液全量に対して8.5wt%以下の範囲で含まれ、電解コンデンサ用電解液中の全アニオン成分に対して占める割合が重量比で0.4以上である。電解コンデンサは、電解コンデンサ用電解液が含浸したコンデンサ素子を備える。コンデンサ素子は、弁作用金属を含み、表面に誘電体酸化皮膜が形成された陽極箔と、弁作用金属を含む陰極箔を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解コンデンサに用いられる電解コンデンサ用電解液であって、
グリコール系溶媒と、
前記電解コンデンサ用電解液全量に対して5wt%以上含まれる耐圧向上剤と、
ホウ酸を含むアニオン成分と、
を含み、
前記ホウ酸は、
前記電解コンデンサ用電解液全量に対して8.5wt%以下含まれ、
前記電解コンデンサ用電解液中の全アニオン成分に対して占める割合が重量比で0.4以上であること、
を特徴とする電解コンデンサ用電解液。
【請求項2】
マンニットを更に含み、
前記ホウ酸(A)に対する前記マンニット(B)の含有割合B/Aが重量比で0.4以上であること、
を特徴とする請求項1記載の電解コンデンサ用電解液。
【請求項3】
前記ホウ酸は、前記電解コンデンサ用電解液全量に対して5.5wt%以上であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の電解コンデンサ用電解液。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載に電解コンデンサ用電解液と、
前記電解コンデンサ用電解液が含浸されるコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子に含まれ、弁作用金属を含み、表面に誘電体酸化皮膜が形成された陽極箔と、
前記コンデンサ素子に含まれ、弁作用金属を含む陰極箔と、
を備えること、
を特徴とする電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ用電解液とこの電解液を含む電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極箔及び陰極箔として備えている。陽極箔は、弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にすることで拡面化され、拡面化された表面に誘電体酸化皮膜層を有する。陽極箔と陰極箔の間には電解液が介在する。電解液は、陽極箔の凹凸面に密接し、真の陰極として機能する。
【0003】
電解コンデンサの陰極箔は、水和反応により溶解反応を起こし、この溶解反応によって水素ガスが発生する。即ち、電解コンデンサの陰極箔では、以下の化学反応式(1)によって水素ガスが発生する。水分については、電解コンデンサの製造工程で混入等することが推測されている。
【0004】
水素ガスは電解コンデンサの内圧を上昇させ、コンデンサ素子を収容するケースの膨れや、コンデンサ素子を封止する封口体の膨れや電解コンデンサに設けた圧力開放弁の開弁を引き起こす虞がある。
【0005】
そこで、従来から、陰極箔にリン酸水溶液で、浸漬処理又は化成処理を行い、陰極箔を酸化皮膜で被覆し、陰極箔を構成する弁作用金属を電解液から保護することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-219083号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば定格550V以上の高圧用途の電解コンデンサでは、高温環境下に長時間晒されると、陰極箔に酸化皮膜が形成された場合であっても、この酸化皮膜の水和劣化により陰極箔の地金である弁作用金属が露出してしまうことが本発明者らの実験によりわかった。陰極箔の酸化皮膜は薄いため、特に陰極箔の地金は露出し易い。即ち、高圧用途の電解コンデンサでは、高温環境下に長時間晒されると、陰極箔で以下の化学反応式(2)が生じる。
【0008】
そうすると、陰極箔を酸化皮膜で保護しても、酸化皮膜の劣化によって陰極箔を構成する弁作用金属の溶解反応が起こり、水素ガスが発生し、電解コンデンサの寿命を縮めてしまう。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、高圧用途において水素ガスの発生を抑制し長寿命化した電解コンデンサ用電解液及び電解コンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するため、本発明に係る電解コンデンサ用電解コンデンサは、電解コンデンサに用いられる電解コンデンサ用電解液であって、グリコール系溶媒と、前記電解コンデンサ用電解液全量に対して5wt%以上含まれる耐圧向上剤と、ホウ酸を含むアニオン成分と、を含み、前記ホウ酸は、前記電解コンデンサ用電解液全量に対して8.5wt%以下含まれ、前記電解コンデンサ用電解液中の全アニオン成分に対して占める割合が重量比で0.4以上である。
【0011】
マンニットを更に含み、前記ホウ酸(A)に対する前記マンニット(B)の含有割合B/Aが重量比で0.4以上であるようにしてもよい。
【0012】
前記ホウ酸は、前記電解コンデンサ用電解液全量に対して5.5wt%以上であるようにしてもよい。
【0013】
また、この電解コンデンサ用電解液と、前記電解コンデンサ用電解液が含浸するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子に含まれ、弁作用金属を含み、表面に誘電体酸化皮膜が形成された陽極箔と、前記コンデンサ素子に含まれ、弁作用金属を含む陰極箔と、を備える電解コンデンサも本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水素ガスの発生が抑制され、電解コンデンサが長寿命化する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】定常状態から1分経過後に通電して5分間の電位の遷移を示す各実施形態及び比較例のグラフである。
図2】ホウ酸濃度と電位との関係を示すグラフである。
図3】ホウ酸に対するマンニットの比率と電位との関係を示すグラフである。
図4】ホウ酸とΔESRの関係をグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る電解コンデンサ用電解液及び電解コンデンサについて説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0017】
(電解コンデンサ)
電解コンデンサは、静電容量に応じた電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。この電解コンデンサは、巻回型又は積層型のコンデンサ素子を有する。コンデンサ素子は、陽極箔、陰極箔、セパレータ及び電解コンデンサ用電解液(以下、電解液という)を備える。陽極箔の表面には誘電体酸化皮膜が表面に形成されている。陰極箔の表面にも酸化皮膜が形成されている。セパレータは、陽極箔と陰極箔との間に介在している。電解液は、コンデンサ素子に含浸され、陽極箔が備える誘電体酸化皮膜の凹凸面に密接し、真の陰極として機能している。
【0018】
コンデンサ素子は、ケースに収容され、封口体で密封されている。ケースは、コンデンサ素子を収容する有底筒状であり、例えばアルミニウム製である。ケースの底部には、ケース内部の圧力が所定超になると開弁する圧力弁が形成されている。封口体は、ゴム板等の弾性絶縁体、又は合成樹脂板等の硬質基板絶縁板と弾性絶縁体の積層体であり、ケースの開口に加締め加工により取り付けられ、ケースの開口を封止する。陽極箔と陰極箔には引出端子が接続され、その引出端子は外部端子に電気的に接続される。外部端子が封口体の貫通孔を通って外部に導出されている。
【0019】
(電極箔)
陽極箔及び陰極箔は弁作用金属を材料とする長尺の箔体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陽極箔に関して99.9%以上が望ましく、陰極箔に関して99%程度以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。
【0020】
陽極箔は、弁作用金属の粉体を焼結した焼結体、又は延伸された箔にエッチング処理を施したエッチング箔として、表面が拡面化される。拡面構造は、トンネル状のピット、海綿状のピット、又は密集した粉体間の空隙により成る。トンネル状のピットは、陽極箔の深部を残して掘り込まれていても、陽極箔を貫通するように形成されていてもよい。
【0021】
この拡面構造は、典型的には、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流又は交流を印加する直流エッチング又は交流エッチングにより形成され、箔を酸溶液やアルカリ溶液に浸漬させ、若しくは芯部に金属粒子等を蒸着又は焼結することにより形成される。
【0022】
誘電体酸化皮膜は、典型的には、陽極箔の表層に形成される酸化皮膜であり、陽極箔がアルミニウム製であれば拡面構造領域を酸化させた酸化アルミニウムである。この誘電体酸化皮膜は、アジピン酸、ホウ酸又はリン酸等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加する化成処理により形成される。
【0023】
陰極箔は、拡面構造のないプレーン箔であってもよいし、陽極箔と同じように蒸着、焼結又はエッチングによって拡面構造を有するようにしてもよい。陰極箔の表層にも化成処理により薄い酸化皮膜(1~10V程度)が形成されてよい。陰極箔の酸化皮膜は、化成処理により意図的に形成される他、空気中で自然的に酸化された自然酸化皮膜であってもよい。さらに、酸化皮膜上に、金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物、炭化物からなる層を形成してもよい。
【0024】
引出端子は、ステッチ、超音波溶接等により陽極箔及び陰極箔のそれぞれに接続されている。この引出端子は、アルミニウム等の金属線であり、外部端子と接続することで、陽極箔、陰極箔と外部との電気的な接続を担う。
【0025】
(電解液)
(グリコール系)
電解液は、溶媒に対して溶質を溶解し、耐圧向上剤又は必要に応じて更に他の添加剤が添加された混合液である。溶媒としては、高圧用途に対応すべく、グリコール系が用いられる。グリコール系は、2つ以上の炭素を有する脂肪族炭化水素、または、環式脂肪族炭化水素が持つ、2つの炭素原子に結合した水素が、1つずつヒドロキシ基に置換した構造を持った化合物であり、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、及びメトキシプロピレングリコール等が含まれる。電解液には1種類のグリコール系の溶媒が含まれていてもよく、または2種以上のグリコール系の溶媒が含まれていてもよい。
【0026】
更に、溶媒としては、グリコール系単独で用いられてもよく、またグリコール系と他の種類を組み合わせても良い。他の種類の溶媒としては、プロトン性の極性溶媒又は非プロトン性の極性溶媒の何れでもよい。プロトン性の極性溶媒として、一価アルコール類、及び多価アルコール類、オキシアルコール類、水などが代表として挙げられる。非プロトン性の極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、スルホキシド系などが代表として挙げられる。
【0027】
一価アルコール類としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類およびオキシアルコール化合物類としては、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ジメトキシプロパノール等が挙げられる。スルホン系としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等が挙げられる。ラクトン類、環状アミド系としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等が挙げられる。ニトリル系としては、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等が挙げられる。スルホキシド系としてはジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0028】
(ホウ酸)
電解液には、溶質としてホウ酸が含まれる。ホウ酸は、電解液全量中、8.5wt%以下の範囲内で含まれる。ホウ酸がこの範囲で電解液に含まれることで、高圧用途として、電解コンデンサが高温環境下に長時間晒されていても、電解液中の水分による陰極箔の酸化皮膜の溶解、陰極箔の地金である弁作用金属の溶解、又はこれらの両方が抑制される。陰極箔の酸化皮膜の溶解が抑制されると、陰極箔の地金である弁作用金属が電解液に露出し難く、弁作用金属と電解液に含まれる水分とが反応して水素ガスが発生する現象が抑制される。水素ガスの発生が抑制されることで、電解コンデンサの開弁が抑制され、電解コンデンサが長寿命化する。
【0029】
好ましくは、ホウ酸は、電解液全量中、8.0wt%以下である。ホウ酸がこの範囲で電解液に含まれることで、電解液中の水分による陰極箔の酸化皮膜の溶解、陰極箔の地金である弁作用金属の溶解、又はこれらの両方が特に抑制される。
【0030】
もっとも、電解液中にホウ酸の量が少ない場合、高温環境下に長時間晒された電解コンデンサはESR(等価直列抵抗,Equivalent Series Resistance)が著しく悪化してしまう。そのため、ホウ酸を電解液全量中に8.5wt%以下の範囲内で含有させた場合、ホウ酸は、電解液に含まれる全アニオン中、重量比で0.4以上を占めるように含有させる。ホウ酸が全アニオン中に重量比で0.4以上を占めることで、ホウ酸が電解液全量中に8.5wt%以下であっても、高温環境下に長時間晒された電解コンデンサのESRの悪化が抑えられる。更に好ましくは、ホウ酸の割合を電解液全量中、5.5wt%以上にする。ホウ酸が電解液全量中、5.5wt%以上であれば、電解コンデンサのESRを更に低く抑えることできる。
【0031】
好ましくは、ホウ酸を電解液全量中に8.5wt%以下の範囲内で含有させた場合、ホウ酸は、電解液に含まれる全アニオン中、重量比で0.5以上を占めるように含有させる。ホウ酸が全アニオン中に重量比で0.5以上を占めることで、ホウ酸が電解液全量中に8.5wt%以下であっても、高温環境下に長時間晒された電解コンデンサのESRの悪化が大きく抑えられる。
【0032】
電解液に含めることのできるホウ酸以外のアニオンとしては、有機酸、無機酸又は有機酸と無機酸の複合化合物が挙げられる。有機酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、t-ブチルアジピン酸、11-ビニル-8-オクタデセン二酸等のカルボン酸、フェノール類、スルホン酸が挙げられる。また、無機酸としては、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0033】
電解液には、ホウ酸と共にマンニットが含まれることが好ましい。ホウ酸とマンニットとは錯化合物を形成していてもよい。ホウ酸とマンニットは、電解液中のホウ酸の重量A及びマンニットの重量Bとして、ホウ酸に対するマンニットの含有割合B/Aが重量比で0.4以上であることが好ましい。ホウ酸とマンニットが共に含まれ、この重量比であると、高圧用途として、電解コンデンサが高温環境下に長時間晒されていても、陰極箔に形成されている酸化皮膜が電解液に溶解することが抑制される。
【0034】
好ましくは、ホウ酸に対するマンニットの含有割合B/Aが重量比で0.9以上であることが好ましい。ホウ酸とマンニットが共に含まれ、この重量比であると、電解液中の水分による陰極箔の酸化皮膜の溶解、陰極箔の地金である弁作用金属の溶解、又はこれらの両方が特に抑制される。
【0035】
電解液には、溶質としてアニオンの他にもカチオンが含まれる。カチオンとしては、アンモニウム、四級アンモニウム、四級化アミジニウム、アミン、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。四級アンモニウムとしてはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミンなど、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0036】
尚、アニオン及びカチオンは、イオン解離性のある塩の状態で電解液に添加されてもよいし、アニオンとなる酸及びカチオンとなる塩基を溶質成分として別々に電解液に添加してもよい。アニオン及びカチオンは、それぞれ単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
(耐圧向上剤)
耐圧向上剤として、電解液には、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリオキシエチレングリセリン、ポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレンポリオール、コロイダルシリカ、シリコーンオイル、ポリビニルアルコール等が含まれる。耐圧向上剤としては、電解液全量に対して5wt%以上含まれる。これら耐圧向上剤としてこの範囲で含有させることにより、電解コンデンサの耐電圧を650V以上にすることができる。
【0038】
(他の添加剤)
電解液には、他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、リン酸、リン酸エステル等のリン酸化合物、ニトロ化合物等が挙げられる。ニトロ化合物としては、o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、p-ニトロベンセン、o-ニトロベンゼン及びm-ニトロベンゼン等が挙げられる。ニトロ化合物は、水素ガスの吸収作用を有する。
【0039】
(セパレータ)
セパレータは、陽極箔と陰極箔のショートを防止すべく、陽極箔と陰極箔との間に介在し、また電解液を保持する。セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【実施例0040】
(実施例)
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0041】
次のようにして実施例1乃至5並びに比較例1及び2の電解コンデンサを作製した。実施例1乃至5並びに比較例1及び2の電解コンデンサは、直径10mm及び高さ25mmの巻回型のコンデンサ素子を備える。陽極箔、陰極箔及びセパレータは、実施例1乃至5並びに比較例1及び2で共通である。
【0042】
陽極箔は帯状のアルミニウム箔である。陽極箔には、直流エッチング処理を施し、トンネル状のエッチングピットにより成る拡面層を箔両面に形成した。拡面層を形成した後、陽極箔に対して、誘電体酸化皮膜を拡面層表面に形成する化成処理を行った。陰極箔は帯状のアルミニウム箔である。陰極箔には、交流エッチング処理を施し、海綿状のエッチングピットにより成る拡面層を箔両面に形成した。
【0043】
陰極箔に対する交流エッチング処理では、液温25℃及び約8重量%の塩酸を主たる電解質とする酸性水溶液に陰極箔を浸し、交流10Hz及び電流密度0.14A/cmの電流を基材に約5分間印加し、アルミニウム箔の両面を拡面化した。次いで、陰極箔に化成処理を施し、拡面層の表面に酸化皮膜を形成した。陰極箔に対する化成処理では、リン酸水溶液で交流エッチング処理の際に付着した塩素を除去した後、リン酸二水素アンモニウムの水溶液内で10Vの電圧を印加した。
【0044】
陽極箔と陰極箔には、それぞれアルミニウム製のタブ形状の引出端子を超音波接続した。この陽極箔と陰極箔との間にセパレータを挟んで巻回し、コンデンサ素子とした。セパレータとしては、クラフト製のセパレータを挟んで巻回し、コンデンサ素子とした。
【0045】
実施例1乃至5並びに比較例1及び2の電解コンデンサは、電解液が異なる。下表1のように調製された電解液をコンデンサ素子に含浸し、底に圧力弁が形成された円筒ケースに収容し、円筒ケースの開口を封口体で封止することで、実施例1乃至5並びに比較例1及び2の電解コンデンサを作製した。作製した電解コンデンサに対し、300Vの電圧を印加し再化成(エージング)を施した。
【0046】
(表1)
【0047】
表1に示すように、実施例1乃至5並びに比較例1及び2の電解液には、電解コンデンサの高圧対応のために、全てエチレングリコールとジエチレングリコールの混合液が溶媒として用いられている。また、実施例1乃至5並びに比較例1及び2の電解液には、アニオンとしてホウ酸及び1,6-デカンジカルボン酸が含まれ、カチオンとしてアンモニアが吹き込まれ、更にマンニット、添加剤としてリン酸及びニトロ化合物、及び耐圧向上剤としてシリコーンオイルが添加されている。
【0048】
実施例1乃至5並びに比較例1及び2の電解液の表1のような組成比により、実施例1乃至5並びに比較例1及び2の電解液は、ホウ酸の量、全アニオン中にホウ酸が占める割合、及びホウ酸(A)に対するマンニット(B)が以下表2のように異なっている。尚、全アニオンとは、ホウ酸と1,6-デカンジカルボン酸の合計量である。
【0049】
(表2)
【0050】
(陰極箔の劣化)
実施例1乃至5並びに比較例1及び2の電解コンデンサを150℃の高温環境下で1500時間の間、無負荷で放置した。これら電解コンデンサを分解し、陰極箔を水で洗浄し、陰極箔の電位(E vs.Pt)の遷移を測定した。電位は、定常状態から1分経過後測定を開始した。その結果を表3並びに図1に示す。表1は、測定開始から10秒後の陰極箔の電位を示す。図1は、定常状態から測定開始を経て5分間の電位の遷移を示す各実施形態及び比較例のグラフである。
【0051】
(表3)
【0052】
表3及び図1に示すように、実施例1乃至4及び比較例2は、測定開始から電位が速やかに大きくなり、4分弱で2Vに達していることがわかる。一方、比較例1は、測定開始からの電位が小さく、その後も電位の上昇が緩やかであり、5分を経過しても0V超にしか到達していない。この結果から、実施例1乃至4及び比較例2を除き、比較例1だけが陰極箔の酸化皮膜を修復する化成モードになっていることがわかる。換言すれば、実施例1乃至4及び比較例2は、電解コンデンサを150℃の高温環境下に1500時間放置しても、陰極箔の酸化皮膜の溶解が抑制されていることがわかる。よって、陰極箔の地金である弁作用金属が電解液に露出しにくく、弁作用金属と電解液に含まれる水分との反応が抑制され、水素ガスの発生が抑制される。
【0053】
図2は、縦軸を電位とし、横軸をホウ酸濃度とし、ホウ酸濃度と電位との関係を示すグラフである。図2に示すように、ホウ酸濃度が8.5wt%を境にしてホウ酸濃度が大きくなると、測定開始から10秒後の電位が急激に小さくなっており、一方ホウ酸濃度が8.5wt%を境にしてホウ酸濃度が小さくなると、測定開始から10秒後の電位が高く保たれていることがわかる。即ち、ホウ酸の濃度が8.5wt%以下であれば、陰極箔の酸化皮膜の劣化が抑制されることが確認できる。
【0054】
図1及び図2に示すように、ホウ酸濃度が8.0wt%以下であると、測定開始から電位が特に速やかに立ち上がっていることがわかる。即ち、ホウ酸の濃度が8.0wt%以下であれば、陰極箔の酸化皮膜の劣化が特に抑制されることが確認できる。
【0055】
また、図3は、縦軸を電位とし、横軸をホウ酸に対するマンニットの比率とし、ホウ酸に対するマンニットの比率と電位との関係を示すグラフである。図3に示すように、ホウ酸に対するマンニットの比率が0.4以上になると、測定開始から10秒後の陰極箔の電位は高くなり、陰極箔の酸化皮膜の劣化が抑制されていることが確認できる。ホウ酸に対するマンニットの比率が0.9以上になると、測定開始から10秒後の陰極箔の電位は特に高くなり、陰極箔の酸化皮膜の劣化が特に抑制されていることが確認できる。
【0056】
ここで、下表4の組成比の電解液を有する実施例6及び比較例3の電解コンデンサを作製した。実施例6及び比較例3の電解コンデンサは、電解液の組成が異なる他は、実施例1乃至5と同一構成、同一製法及び同一条件で作製された。
【0057】
(表4)
【0058】
実施例6及び比較例3の電解液の表4のような組成比により、実施例6及び比較例3の電解液は、以下表5のように、全アニオン中にホウ酸が占める割合、及びホウ酸(A)に対するマンニット(B)の割合が同じであり、ホウ酸の量のみが異なっていることがわかる。尚、全アニオンとは、ホウ酸と1,6-デカンジカルボン酸の合計量である。
【0059】
(表5)
【0060】
そして、実施例1乃至5並びに比較例1及び2と同様に、実施例6及び比較例3の電解コンデンサを、150℃の高温環境下で1500時間の間、無負荷で放置した。これら電解コンデンサを分解し、陰極箔を水で洗浄し、陰極箔の電位(E vs.Pt)の遷移を測定した。その結果を下表6に示し、また菱形のプロットを用いて図2に加えた。表6は、表1と同様に、測定開始から10秒後の陰極箔の電位を示す。
【0061】
(表6)
【0062】
表6及び図2の実施例6と比較例3に対応するプロットからわかるように、ホウ酸濃度が高い比較例3は、測定開始から10秒後の電位が小さく、ホウ酸濃度が低い実施例6は、測定開始から10秒後の電位が高く保たれていることがわかる。即ち、ホウ酸の濃度以外の他の組成比については同一である実施例6と比較例3の結果の違いから、ホウ酸の濃度と陰極箔の酸化皮膜の劣化に密接な因果が存在し、ホウ酸の濃度が8.5wt%以下であれば、陰極箔の酸化皮膜の劣化が抑制されることは、より確からしいといえる。
【0063】
また、下表7の組成比の電解液を有する実施例7及び8の電解コンデンサを作製した。実施例7及び8の電解コンデンサは、電解液の組成が異なる他は、実施例1乃至5と同一構成、同一製法及び同一条件で作製された。表7には先の実施例6も加えてある。
【0064】
(表7)
【0065】
実施例7及び8並びに先の実施例6の電解液の表7のような組成比により、実施例6乃至8の電解液は、以下表8のように、ホウ酸の量、及び全アニオン中にホウ酸が占める割合が同じであり、ホウ酸(A)に対するマンニット(B)の割合のみが異なっていることがわかる。尚、全アニオンとは、ホウ酸と1,6-デカンジカルボン酸の合計量である。
【0066】
(表8)
【0067】
そして、実施例1乃至5並びに比較例1及び2と同様に、実施例6乃至8の電解コンデンサを、150℃の高温環境下で1500時間の間、無負荷で放置した。これら電解コンデンサを分解し、陰極箔を水で洗浄し、陰極箔の電位(E vs.Pt)の遷移を測定した。その結果を下表9に示し、また図3に菱形のプロットを用いて加えた。表9は、測定開始から10秒後の陰極箔の電位を示す。
【0068】
(表9)
【0069】
表9及び図3の6乃至8に対応する実施例6乃至8のプロットより、ホウ酸(A)に対するマンニット(B)の割合が高い順に、測定開始から10秒後の電位が高くなることがわかる。即ち、ホウ酸(A)に対するマンニット(B)の割合以外の他の組成比については同一である実施例6乃至8の結果の違いから、ホウ酸の濃度が8.5wt%以下であれば、ホウ酸(A)に対するマンニット(B)の割合を上げると陰極箔の酸化皮膜の劣化が更に抑制されることは、より確からしいといえる。
【0070】
(等価直列抵抗(ESR)の測定)
実施例1乃至5及び比較例2の電解コンデンサのΔESRを測定した。ΔESRの測定では、電解コンデンサを高温環境下に置く前の初期のESRを測定し、150℃の高温環境下に150時間置いて再度ESRを測定し、初期のESRに対する高温環境下に晒した後のESRの比をΔESRとして計算した。ESRの測定は、LCRメータの端子を接続して行った。測定条件は、周囲温度を20℃、交流電圧レベルを1.0Vrmsの正弦波、測定周波数を100kHzとした。
【0071】
ΔESRを以下表10に示す。また、電解液中の全アニオンに対するホウ酸の比率を横軸に取り、縦軸にΔESRに取って、ホウ酸とΔESRの関係を図4に示した。
(表10)
【0072】
表10及び図4に示すように、比較例2を除いて各実施例の電解コンデンサはΔESRが低く抑えられている。即ち、全アニオンに対するホウ酸の比率が0.4以上になると、ΔESRが低く抑えられていることがわかる。このように、電解コンデンサを高温環境下に長時間晒しても、全アニオンに対するホウ酸の比率が0.4以上になると、ESRが抑制されることが確認された。特に、全アニオンに対するホウ酸の比率が0.5以上になると、ΔESRが更に低く抑えられていることがわかる。
【0073】
総じて、ホウ酸が、電解液全量に対して8.5wt%以下の範囲で含まれ、且つ電解液中の全アニオン成分に対して占める割合が重量比で0.4以上であれば、電解コンデンサは、ESRが良好でありながらも、水素ガスの発生を抑制でき、長寿命化することが確認された。
【0074】
(耐電圧試験)
以下、表11に示す実施例9及び参考例の電解コンデンサと実施例4の電解コンデンサの耐電圧を計測した。実施例9及び参考例の電解コンデンサは、電解液の組成が異なる他は、実施例1乃至5と同一構成、同一製法及び同一条件で作製された。
【0075】
(表11)
【0076】
表11に示すように、実施例4、実施例9及び参考例は、耐圧向上剤としての高分子の添加量が異なる。これら実施例4、実施例9及び参考例の電解コンデンサを105℃の恒温槽内に置き、電流密度2mA/pc.で電圧を印加し、200V以上電圧降下した直前の電圧値を耐電圧値とした。その耐電圧測定結果を以下表12に示す。
【0077】
(表12)
【0078】
表12に示すように、耐圧向上剤として電解液に含有させた高分子が5.0wt%以上であると、耐電圧が650Vを超えた。これにより、高圧用途としては、ホウ酸を、電解液全量に対して8.5wt%以下の範囲で含有させ、電解液中の全アニオン成分に対して占める割合を重量比で0.4以上としつつ、耐圧向上剤を電解液全量に対して5wt%以上含めることが好ましいことが確認された。
【0079】
本実施例では高温環境下で無負荷放置した後の電解コンデンサに用いた陰極箔の電位の遷移を測定することで、陰極箔の劣化(酸化皮膜の溶解)について検証した。酸化皮膜を意図的に形成していない陰極箔を用いる場合は、例えば高温環境下で無負荷放置後の電解コンデンサの水素ガス発生量を測定することで、陰極箔の劣化を検証することが可能である。
図1
図2
図3
図4