(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097348
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230630BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20230630BHJP
C08K 5/03 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L1/00
C08K5/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166266
(22)【出願日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2021212395
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】廣田 真之
(72)【発明者】
【氏名】前田 麻美
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002AB012
4J002AB022
4J002AB032
4J002BC021
4J002BP011
4J002CF101
4J002CH053
4J002CK021
4J002CL071
4J002EA066
4J002EC036
4J002EL026
4J002EV026
4J002FA042
(57)【要約】
【課題】繊維状補強材(特に、繊維径がマイクロメーターサイズの繊維状補強材)を含んでいても、強度(引張強度など)および伸び(最大伸度または破断伸び)の双方に優れた熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体、ならびに熱可塑性エラストマーの伸びを向上する方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性エラストマー(A)と、繊維径1μm以上のセルロース繊維を少なくとも含む繊維状補強材(B)と、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)とを少なくとも含む熱可塑性エラストマー組成物を調製する。また、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーを少なくとも含む熱可塑性エラストマー(A)と、繊維径1μm以上のセルロース繊維を少なくとも含む繊維状補強材(B)とを少なくとも含む熱可塑性エラストマー組成物を調製してもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー(A)と、繊維状補強材(B)とを少なくとも含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記繊維状補強材(B)が、セルロース繊維(B1)を少なくとも含み、
前記セルロース繊維(B1)が、繊維径1μm以上のセルロース繊維を少なくとも含み、
さらに、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)を少なくとも含む熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー(A)が、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーおよびポリアミド系熱可塑性エラストマーから選択された少なくとも一種を含む請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー(A)の割合が、熱可塑性エラストマー組成物全体に対して、30質量%以上である請求項1または2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記セルロース繊維(B1)の平均繊維径が、1~100μmである請求項1または2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記繊維状補強材(B)の割合が、前記熱可塑性エラストマー(A)、前記繊維状補強材(B)および前記9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)の総量に対して、0.1~50質量%である請求項1または2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)が、下記式(1)
【化1】
[式中、R
1は置換基を示し、kは0~8の整数を示し、
環Z
1およびZ
2は独立して芳香族炭化水素環を示し、
R
2aおよびR
2bは独立して置換基を示し、m1およびm2は独立して0以上の整数を示し、
X
1およびX
2は独立して基-[(OA)
n-Y]
(式中、Yはヒドロキシル基、メルカプト基、グリシジルオキシ基または(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、Aはアルキレン基を示し、nは0以上の整数を示す。)
またはアミノ基を示し、p1およびp2は独立して1以上の整数を示す。]
で表される化合物を含む請求項1または2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)が、下記式(1A)
【化2】
(式中、R
1はアルキル基を示し、kは0~2の整数を示し、
環Z
1およびZ
2は独立してベンゼン環またはナフタレン環を示し、
R
2aおよびR
2bは独立してアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基またはアルコキシ基を示し、m1およびm2は独立して0~2の整数を示し、
A
1およびA
2は独立してC
2-4アルキレン基を示し、n1およびn2は独立して0~15の整数を示し、p1およびp2は独立して1~3の整数を示す。)
で表される化合物を含む請求項1または2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
前記9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)の割合が、前記熱可塑性エラストマー(A)、前記繊維状補強材(B)および前記9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)の総量に対して、0.1~10質量%であり、
前記9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)の割合が、前記繊維状補強材(B)100質量部に対して、0.1~50質量部である請求項1または2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
請求項1または2記載の熱可塑性エラストマー組成物を少なくとも含む成形体。
【請求項10】
熱可塑性エラストマー(A)に、繊維状補強材(B)および9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)を添加して、強度および伸びの双方を向上する方法であって、
前記繊維状補強材(B)が、セルロース繊維(B1)を少なくとも含み、
前記セルロース繊維(B1)が、繊維径1μm以上のセルロース繊維を少なくとも含む方法。
【請求項11】
前記熱可塑性エラストマー(A)の最大伸度に対して、伸びを25%以上向上する請求項10記載の方法。
【請求項12】
熱可塑性エラストマー(A)と、繊維状補強材(B)とを少なくとも含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記熱可塑性エラストマー(A)が、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーを少なくとも含み、
前記繊維状補強材(B)が、セルロース繊維(B1)を少なくとも含み、
前記セルロース繊維(B1)が、繊維径1μm以上のセルロース繊維を少なくとも含む熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項13】
前記熱可塑性エラストマー(A)の割合が、熱可塑性エラストマー組成物全体に対して、30質量%以上である請求項12記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項14】
前記セルロース繊維(B1)の平均繊維径が、1~100μmである請求項12または13記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項15】
前記繊維状補強材(B)の割合が、前記熱可塑性エラストマー(A)および前記繊維状補強材(B)の総量に対して、0.1~50質量%である請求項12または13記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項16】
9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)を含まない請求項12または13記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項17】
請求項12または13記載の熱可塑性エラストマー組成物を少なくとも含む成形体。
【請求項18】
熱可塑性エラストマー(A)に、繊維状補強材(B)を添加して、伸びを向上する方法であって、
前記熱可塑性エラストマー(A)が、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーを少なくとも含み、
前記繊維状補強材(B)が、セルロース繊維(B1)を少なくとも含み、
前記セルロース繊維(B1)が、繊維径1μm以上のセルロース繊維を少なくとも含む方法。
【請求項19】
前記熱可塑性エラストマー(A)の最大伸度に対して、伸びを10%以上向上する請求項18記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマーと、繊維状補強材とを少なくとも含む特定の熱可塑性エラストマー組成物[熱可塑性組成物またはエラストマー組成物(弾性組成物)]およびその成形体、ならびに熱可塑性エラストマーの伸び(破断伸びまたは最大伸度)の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムまたはエラストマー(弾性材料)は、その強度を向上するため、補強材とともに使用される場合がある。このような補強材としては、カーボンブラックなどの粒状の補強材が使用され、通常、繊維状補強材は使用されないことが多い。その理由の一つに、繊維状補強材が、エラストマーの重要な特性である伸び(引張伸び、破断伸びまたは最大伸度)の著しい低下を招く点などが挙げられる。すなわち、強度と伸びとはトレードオフの関係にあることが知られている。また、ゴム(加硫ゴム)とは異なって熱可塑性エラストマーでは、加熱溶融時の流動性(熱可塑性または成形性)も重要な特性であるが、繊維状補強材の添加によって大きく低下し易い点も挙げられる。
【0003】
熱可塑性エラストマーと、繊維状補強材としてのセルロース繊維とを含む組成物が特表2018-505239号公報(特許文献1)、特開2020-125420号公報(特許文献2)および特開2010-215887号公報(特許文献3)に具体的に記載されている。
【0004】
また、熱可塑性エラストマーおよびセルロースを含む組成物の機械的特性改善のために、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(以下、単にフルオレン化合物ともいう)を用いることが検討されており、国際公開第2020/110955号(特許文献4)には、熱可塑性エラストマー、セルロースおよびフルオレン化合物を含む特定の組成物が具体的に開示されている。
【0005】
なお、国際公開第2020/022356号(特許文献5)には、熱可塑性エラストマーとフルオレン化合物とを含む熱可塑性組成物について開示され、必要に応じて繊維状の充填剤を含んでいてもよいことが記載されているものの、何ら具体的に示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2018-505239号公報
【特許文献2】特開2020-125420号公報
【特許文献3】特開2010-215887号公報
【特許文献4】国際公開第2020/110955号
【特許文献5】国際公開第2020/022356号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、いずれの特許文献においても強度と伸びとを高い水準で両立することは記載されていない。
【0008】
特許文献1では、背景技術において、補強材はその剛性によりエラストマーの引張強度を増加できるものの、硬度および弾性率(剛度)を増加させ破断点伸び(歪み)を低下する傾向があり、この傾向が多くのエラストマー用途で不利益となるため、補強材の使用には、様々な性能間の微妙なバランスの維持および妥協を伴うことが記載されている。このような背景から特許文献1では、エラストマーと特定のナノセルロースとを組み合わせて、弾性率または剛度の過度な増加を防止したコンポジット材料が開示されている。実施例1および15では、熱可塑性ポリウレタン(TPU)に対してセルロースナノ結晶(CNC)を約0.5重量%または1重量%添加したコンポジット材料が調製され、破断点伸びの低下はなかったこと、望ましい伸び率を保持したことなどが記載されているものの、実施例1の表1では、サンプルX1(CNCなし)に対して、CNCを添加したサンプルX2~X5では引張歪みが若干低下し;実施例15の
図3および表3でも同様に、CNC添加により破断点伸びおよび引張歪みが若干低下したことが記載されている。
【0009】
また、熱可塑性エラストマーとしての特定のオレフィン系動的架橋体と、セルロースナノ繊維と、酸変性ポリオレフィンとを特定の割合で含む熱可塑性エラストマー組成物について開示されている特許文献2には、セルロースナノ繊維を含まない比較例2に対して、セルロースナノ繊維(平均繊維径90nm)を含む比較例4や実施例1~2では引張破断点伸び(EB)が大きく低下したことが記載されている。
【0010】
さらに、特許文献3には、引張強度、引張伸びなどの各性質がバランス良く向上できる組成物として、熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーから選択された1種以上の熱可塑性材料と、セルロース繊維と、OH基を有する特定のポリマー繊維とを特定の割合で含む熱可塑性材料組成物が開示されている。しかし、実施例3~5および比較例4~5において、熱可塑性材料としてのポリアミドエラストマーと、セルロース繊維としてのパルプ(平均繊維径約30μm)とを含む組成物では、パルプの増加に伴って引張伸びが低下したことが記載されている。
【0011】
また、特許文献4には、ゴム成分と、セルロースと、フルオレン化合物とを含む組成物が開示され、セルロースとフルオレン化合物とを組み合わせるため、セルロースをゴム成分中に均一に分散でき、ゴム状組成物の強度や伸びなどの機械的特性を同時に向上できることが記載されている。この文献では、ゴム成分として熱可塑性エラストマーが含まれ、熱可塑性エラストマーの中でも、セルロースの分散性向上効果が大きなスチレン系熱可塑性エラストマーが好ましいとされている。この文献の実施例7~8では、セルロースナノ繊維100質量部に対してフルオレン化合物50質量部を含む複合体を調製し、得られた複合体4.5質量部(固形分換算)をSBS(スチレン系熱可塑性エラストマー)100質量部と溶融混練して組成物を調製している。得られた熱可塑性エラストマー組成物では、SBS単独の参考例6に対して、引張強さを向上しつつ、伸びを20%程度向上できたことが記載されている。
【0012】
このように、熱可塑性エラストマーと、セルロース繊維などの繊維状補強材とを含む組成物の機械的特性を改善するために様々な検討がなされているものの、その効果は十分ではなく、繊維状補強材を含む熱可塑性エラストマー組成物における強度と伸びとを高い水準で両立すること(特に、繊維状補強材による伸びの著しい低下の抑制に留まらず、逆に伸びを大きく向上すること)は極めて困難であるとともに、強度および伸びと相関し得る耐衝撃性(または強靭性)についても同様に十分に向上できなかった。
【0013】
特に、繊維径がマイクロメーターサイズの繊維状補強材を用いる場合には、強度および伸びの両立がより一層困難であると考えられていた。実際、特許文献1には、延伸状態で使用されるエラストマー用途では、補強材の直径が大きすぎると延伸状態において潜在的な破壊点となって歪みや耐破断性の低下を引き起こすため、実質的に数μmより薄い補強材(特に、直径20nm未満のナノセルロース)しか使用できないことが記載されている。また、特許文献4においても、機械的特性の向上がセルロースの均一分散に起因しており、繊維径が大きすぎると強度などの特性が低下するおそれがあるため、繊維径がナノメーターサイズのセルロースナノ繊維であるのが好ましく、マイクロメーターサイズのセルロース繊維を実質的に含まないことなどが記載されている。
【0014】
従って、本発明の目的は、繊維状補強材(特に、繊維径がマイクロメーターサイズの繊維状補強材)を含んでいても、強度(引張強度など)および伸び(最大伸度または破断伸び)の双方に優れた熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体、ならびに熱可塑性エラストマーの伸びを向上する方法を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、繊維状補強材(特に、繊維径がマイクロメーターサイズの繊維状補強材)を含んでいても、耐衝撃性(または強靭性)に優れた熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体、ならびに熱可塑性エラストマーの伸びを向上する方法を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、繊維状補強材(特に、繊維径がマイクロメーターサイズの繊維状補強材)を含んでいても、強度および伸びを両立できるとともに、溶融流動性(成形性または加工性)に優れた熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体、ならびに熱可塑性エラストマーの伸びを向上する方法を提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、繊維状補強材を比較的多量に含んでいても、またはフルオレン化合物の割合が少量であっても、強度および伸びの双方に優れた熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体、ならびに熱可塑性エラストマーの伸びを向上する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、熱可塑性エラストマーと、繊維状補強材とを含む特定の熱可塑性エラストマー組成物では、繊維状補強材を含むにもかかわらず、意外にも強度および伸びの双方を高い水準で向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明は、下記態様などを包含していてもよい。
【0020】
態様[1]:熱可塑性エラストマー(A)と、繊維状補強材(B)とを少なくとも含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記繊維状補強材(B)が、セルロース繊維(B1)を少なくとも含み、
前記セルロース繊維(B1)が、繊維径1μm以上のセルロース繊維を少なくとも含み、
さらに、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)[単に、フルオレン化合物(C)ともいう]を少なくとも含む熱可塑性エラストマー組成物(第1の熱可塑性エラストマー組成物)。
【0021】
態様[2]:前記熱可塑性エラストマー(A)が、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーおよびポリアミド系熱可塑性エラストマーから選択された少なくとも一種を含む態様[1]記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0022】
態様[3]:前記熱可塑性エラストマー(A)の割合が、熱可塑性エラストマー組成物全体に対して、30質量%程度以上である態様[1]または[2]記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0023】
態様[4]:前記セルロース繊維(B1)の平均繊維径が、1~100μm程度である態様[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0024】
態様[5]:前記繊維状補強材(B)の割合が、前記熱可塑性エラストマー(A)、前記繊維状補強材(B)および前記9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)の総量に対して、0.1~50質量%程度である態様[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0025】
態様[6]:前記9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)が、下記式(1)で表される化合物を含む態様[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0026】
【0027】
[式中、R1は置換基を示し、kは0~8の整数を示し、
環Z1およびZ2は独立して芳香族炭化水素環を示し、
R2aおよびR2bは独立して置換基を示し、m1およびm2は独立して0以上の整数を示し、
X1およびX2は独立して基-[(OA)n-Y]
(式中、Yはヒドロキシル基、メルカプト基、グリシジルオキシ基または(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、Aはアルキレン基を示し、nは0以上の整数を示す。)
またはアミノ基を示し、p1およびp2は独立して1以上の整数を示す]。
【0028】
態様[7]:前記9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)が、下記式(1A)で表される化合物を含む態様[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0029】
【0030】
(式中、R1はアルキル基を示し、kは0~2の整数を示し、
環Z1およびZ2は独立してベンゼン環またはナフタレン環を示し、
R2aおよびR2bは独立してアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基またはアルコキシ基を示し、m1およびm2は独立して0~2の整数を示し、
A1およびA2は独立してC2-4アルキレン基を示し、n1およびn2は独立して0~15の整数を示し、p1およびp2は独立して1~3の整数を示す)。
【0031】
態様[8]:前記9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)の割合が、前記熱可塑性エラストマー(A)、前記繊維状補強材(B)および前記9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)の総量に対して、0.1~10質量%程度であり、
前記9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)の割合が、前記繊維状補強材(B)100質量部に対して、0.1~50質量部程度である態様[1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0032】
態様[9]:態様[1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を少なくとも含む成形体。
【0033】
態様[10]:熱可塑性エラストマー(A)に、繊維状補強材(B)および9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)を添加して、強度および伸び(得られる熱可塑性エラストマー組成物における強度および伸び)の双方を向上する方法であって、
前記繊維状補強材(B)が、セルロース繊維(B1)を少なくとも含み、
前記セルロース繊維(B1)が、繊維径1μm以上のセルロース繊維を少なくとも含む方法。
【0034】
態様[11]:前記熱可塑性エラストマー(A)の最大伸度に対して、伸びを25%以上向上する態様[10]記載の方法。
【0035】
態様[12]:熱可塑性エラストマー(A)と、繊維状補強材(B)とを少なくとも含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記熱可塑性エラストマー(A)が、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーを少なくとも含み、
前記繊維状補強材(B)が、セルロース繊維(B1)を少なくとも含み、
前記セルロース繊維(B1)が、繊維径1μm以上のセルロース繊維を少なくとも含む熱可塑性エラストマー組成物(第2の熱可塑性エラストマー組成物)。
【0036】
態様[13]:前記熱可塑性エラストマー(A)の割合が、熱可塑性エラストマー組成物全体に対して、30質量%程度以上である態様[12]記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0037】
態様[14]:前記セルロース繊維(B1)の平均繊維径が、1~100μm程度である態様[12]または[13]記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0038】
態様[15]:前記繊維状補強材(B)の割合が、前記熱可塑性エラストマー(A)および前記繊維状補強材(B)の総量に対して、0.1~50質量%程度である態様[12]~[14]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0039】
態様[16]:9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)を含まない態様[12]~[15]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0040】
態様[17]:態様[12]~[16]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を少なくとも含む成形体。
【0041】
態様[18]:熱可塑性エラストマー(A)に、繊維状補強材(B)を添加して、伸び(得られる熱可塑性エラストマー組成物における伸び、特に、強度および伸びの双方)を向上する方法であって、
前記熱可塑性エラストマー(A)が、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーを少なくとも含み、
前記繊維状補強材(B)が、セルロース繊維(B1)を少なくとも含み、
前記セルロース繊維(B1)が、繊維径1μm以上のセルロース繊維を少なくとも含む方法。
【0042】
態様[18]は、態様[18-1]:得られる前記熱可塑性エラストマー組成物における強度および伸びの双方を向上する方法であってもよい。
【0043】
態様[19]:前記熱可塑性エラストマー(A)の最大伸度に対して、伸びを10%以上向上する態様[18]記載の方法。
【0044】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC1、C6、C10などで示すことがある。例えば、炭素数が1のアルキル基は「C1アルキル」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール」で示す。
【発明の効果】
【0045】
本発明では、熱可塑性エラストマーと、繊維状補強材とを少なくとも含む特定の熱可塑性エラストマー組成物を調製するため、繊維状補強材(特に、繊維径がマイクロメーターサイズの繊維状補強材)を含むにもかかわらず、意外なことに、強度(引張強度など)および伸び(最大伸度または破断伸び)の双方に優れている。そのため、前記熱可塑性エラストマー組成物は、耐衝撃性(または強靭性)にも優れている。また、強度および伸びを両立できるとともに、溶融流動性(成形性または加工性)にも優れている。さらに、前記熱可塑性エラストマー組成物は、繊維状補強材を比較的多量に含んでいても、またはフルオレン化合物の割合が少量であっても、強度および伸びの双方に優れている。
【0046】
また、本発明の方法では、熱可塑性エラストマー組成物の伸びを容易にまたは効率よく向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物(熱可塑性組成物またはエラストマー組成物)は、熱可塑性エラストマー(以下、単にTPEともいう。)(A)と、繊維状補強材(B)とを少なくとも含んでいる。
【0048】
[熱可塑性エラストマー]
熱可塑性エラストマー(TPE)は、ソフトセグメント(軟質相、軟質ブロックまたはゴム成分)と、ハードセグメント(硬質相、硬質ブロックまたは樹脂成分)とを含む。
【0049】
代表的な熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、塩素系熱可塑性エラストマー、アイオノマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)などが挙げられる。
【0050】
(ポリスチレン系熱可塑性エラストマー)
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリスチレンなどのスチレン系重合体で形成されたハードセグメントと;ポリブタジエン、ポリイソプロピレンなどのポリジエンまたはそれらの水添物などのゴム成分で形成されたソフトセグメントとを有するエラストマーなどが挙げられる。
【0051】
具体的には、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)などのスチレン-ジエン-スチレンブロック共重合体;スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)などの前記スチレン-ジエン-スチレンブロック共重合体の水添物;ランダムスチレン-ブタジエンゴムの水添物(HSBR)と、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂との混合物などが挙げられる。
【0052】
これらのポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリスチレン系熱可塑性エラストマーのうち、飽和型(水添物)であるのが好ましく、さらに好ましくはSEBS、SEPSなどのスチレン-ジエン-スチレンブロック共重合体の水添物であり、特にSEBSが好ましい。
【0053】
(ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー)
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンで形成されたハードセグメントと;オレフィン系ゴム、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、天然ゴムなどのゴム成分で形成されたソフトセグメントとを有するエラストマーなどが挙げられる。前記オレフィン系ゴムとしては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などが挙げられる。
【0054】
TPOは、ポリオレフィンと、未架橋または部分架橋のゴム成分とを機械的に混合する単純ブレンド型TPO;各セグメントを段階的に重合して形成するインプラント化TPOまたはリアクターメイドTPO(i-TPOまたはR-TPO);ポリオレフィンと未架橋のゴム成分とを溶融混練し、さらに架橋剤や架橋促進剤を添加してせん断応力をかけながら架橋して形成する動的架橋型TPO(動的加硫型TPO)などであってもよい。
【0055】
これらのTPOは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらのTPOのうち、i-TPO(またはR-TPO)が好ましく、さらに好ましくはメタロセン触媒を用いて重合したポリプロピレン系のi-TPOが好ましい。
【0056】
(ポリジエン系熱可塑性エラストマー)
ポリジエン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンで形成されたハードセグメントと、アタクチック1,2-ポリブタジエンで形成されたソフトセグメントとを有するポリブタジエン系熱可塑性エラストマー(RB);結晶性トランス1,4-ポリイソプレンで形成されたハードセグメントと、非結晶性トランス1,4-ポリイソプレンで形成されたソフトセグメントとを有するポリイソプレン系熱可塑性エラストマー(TPI);ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂で形成されたハードセグメントと、天然ゴムで形成されたソフトセグメントとを有する天然ゴム系熱可塑性エラストマー(TPNR)などが挙げられる。これらのポリジエン系熱可塑性エラストマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0057】
(塩素系熱可塑性エラストマー)
塩素系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、高分子量ポリ塩化ビニル(PVC)、部分架橋PVCなどの硬質なPVCで形成されたハードセグメントと、可塑化PVCなどの軟質PVCや部分架橋NBRなどのゴム成分などで形成されたソフトセグメントとを有するポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC);結晶性ポリエチレン部で形成されたハードセグメントと、塩素化ポリエチレン部などで形成されたソフトセグメントとを有する塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、脂肪族ポリアミドなどのポリアミド系樹脂など、他の樹脂および/またはゴム成分とアロイを形成してもよい。これらの塩素系熱可塑性エラストマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0058】
(アイオノマー)
アイオノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸などのグラフト重合などにより、分子中に導入されたカルボキシル基などで形成されたハードセグメントと、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂などで形成されたソフトセグメントとを有するイオン架橋型ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。これらのアイオノマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0059】
(フッ素系熱可塑性エラストマー)
フッ素系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体などの結晶性フッ素樹脂などで形成されたハードセグメントと、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン三元共重合体などのフッ素ゴムなどで形成されたソフトセグメントとを有するエラストマーなどが挙げられる。これらのフッ素系熱可塑性エラストマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0060】
(ポリウレタン系熱可塑性エラストマー)
ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)は、ポリイソシアネート(またはジイソシアネート)類や、短鎖グリコール類などの鎖延長剤(または鎖伸長剤)などで形成されるハードセグメントと、長鎖ポリオール(または長鎖グリコール)類で形成されるソフトセグメントとを有しており、ポリイソシアネート類と、長鎖ポリオール類と、必要に応じて鎖延長剤とを重付加反応させてウレタン結合を形成することにより得られ、直鎖状のマルチブロックコポリマーであるのが好ましい。
【0061】
ポリイソシアネート類としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0062】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)などのC2-16アルカンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0063】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、水添ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0064】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などが挙げられる。
【0065】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、ジフェニルエーテルジイソシアネートなどが挙げられる。
【0066】
ポリイソシアネート類は、上記ポリイソシアネート類と後述するポリオール類との反応により生成し、遊離のイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーであってもよい。
【0067】
また、ポリイソシアネート類は、例えば、二量体(ダイマーまたはウレットジオン)や三量体(トリマーまたはイソシアヌレート)などの多量体、アダクト体、ビウレット、アロファネート、カルボジイミドなどの誘導体(または変性体)であってもよい。
【0068】
これらのポリイソシアネート類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリイソシアネート類のうち、MDIやTDIなどのかさ高いポリイソシアネートがよく利用される。
【0069】
前記長鎖ポリオール類としては、ポリマーポリオール類がよく利用される。ポリマーポリオール類としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、(メタ)アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分けん化物などが挙げられる。これらのポリマーポリオール類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリマーポリオール類のうち、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどがよく利用される。
【0070】
前記ポリエステルポリオールは、例えば、ポリカルボン酸(またはジカルボン酸)成分とポリオール(短鎖ポリオールまたはジオール)成分との単独または共重合体;ラクトン成分(または対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独または共重合体;ポリカルボン酸成分および/またはポリオール成分と、ラクトン成分(または対応するヒドロキシカルボン酸成分)との共重合体などであってもよい。なお、ポリカルボン酸成分は、ポリカルボン酸と、そのエステル形成性誘導体、例えば、メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル、酸塩化物などの酸ハロゲン化物、酸無水物などを含む。
【0071】
ポリカルボン酸成分は、ジカルボン酸成分であることが多く、ジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;テトラヒドロ(無水)フタル酸、(無水)ヘット酸などの脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらのポリカルボン酸成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリカルボン酸のうち、脂肪族ジカルボン酸成分がよく利用される。好ましい脂肪族ジカルボン酸成分は、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などのC4-20アルカンジカルボン酸が挙げられ、さらに好ましくは以下段階的に、C4-16アルカンジカルボン酸、C4-12アルカンジカルボン酸、C4-8アルカンジカルボン酸であり、なかでも、アジピン酸などのC5-7アルカンジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの脂肪族ジカルボン酸成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0072】
ポリオール(または短鎖ポリオール)成分は、ジオール(または短鎖ジオール)成分であることが多く、ジオール成分としては、例えば、脂肪族ジオール成分、脂環族ジオール成分、芳香族ジオール成分、これらのアルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体などが挙げられる。
【0073】
脂肪族ジオール成分としては、例えば、アルカンジオール、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールなどの直鎖状または分岐鎖状C2-22アルカンジオールなどが挙げられる。
【0074】
脂環族ジオール成分としては、例えば、1,4-シクロヘキサンジオールなどのシクロアルカンジオール類、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどのシクロアルカンジアルカノール類、後述する芳香族ジオール成分の水添物、具体的には、水添ビスフェノールAなどの水添ビスフェノール類などが挙げられる。
【0075】
芳香族ジオール成分としては、例えば、キシリレングリコールなどの芳香脂肪族ジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、ビフェノールなどが挙げられる。
【0076】
上述のジオール成分のアルキレンオキシド付加体としては、例えば、エチレンオキシドなどのC2-4アルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)の付加体などが挙げられる。
【0077】
これらのポリオール成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリオールのうち、脂肪族ジオール成分がよく利用され、好ましくはエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールなどの直鎖状または分岐鎖状C2-16アルカンジオール、さらに好ましくは以下段階的に、直鎖状または分岐鎖状C2-12アルカンジオール、直鎖状または分岐鎖状C2-8アルカンジオールであり、直鎖状または分岐鎖状C2-6アルカンジオールが挙げられる。これらの脂肪族ジオール成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0078】
ラクトン成分としては、例えば、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン、エナントラクトンなどのC3-18ラクトンなどが挙げられる。これらのラクトン成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのラクトン成分のうち、バレロラクトン、カプロラクトンなどのC4-12ラクトン、なかでもC4-8ラクトン、特に、ε-カプロラクトンなどのC5-7ラクトンがよく利用される。
【0079】
代表的なポリエステルポリオールとして、脂肪族ポリエステルポリオール、なかでも、脂肪族ポリエステルジオールがよく利用される。脂肪族ポリエステルジオールとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分との単独または共重合体;ラクトン成分(または対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独または共重合体;脂肪族ジカルボン酸成分および/または脂肪族ジオールとラクトン成分(または対応するヒドロキシカルボン酸成分)との共重合体などが挙げられる。
【0080】
脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分との単独または共重合体(またはポリアルキレンアルカノエート)としては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリネオペンチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリジエチレングリコールアジペート、これらの共重合体などの、両末端に水酸基を有するポリ(モノないしペンタC2-12アルキレングリコール-C4-12アルカノエート)またはその共重合体などが挙げられる。これらのポリアルキレンアルカノエートは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。好ましいポリアルキレンアルカノエートとしては、ポリ(モノないしテトラC2-10アルキレン-C4-10アルカノエート)が挙げられ、さらに好ましくはポリ(モノないしトリC2-8アルキレン-C4-8アルカノエート)、特に、ポリ(モノまたはジC2-6アルキレン-C5-7アルカノエート)、またはこれらの共重合体が挙げられる。なお、共重合体である場合、脂肪族ジカルボン酸成分および脂肪族ジオール成分で形成される構成単位を主要な構成単位として含んでいればよく、他の成分、例えば、前記脂環族ジオール成分、前記芳香族ジオール成分、およびこれらのアルキレンオキシド付加体、ならびに前記脂環族ジカルボン酸成分、前記芳香族ジカルボン酸成分などと共重合して変性されていてもよい。共重合体における脂肪族ジカルボン酸成分および脂肪族ジオール成分に由来する構成単位の割合は、共重合体の構成単位全体に対して、例えば30モル%程度以上の範囲から選択してもよく、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、特に90モル%以上である。
【0081】
ラクトン成分(または対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独または共重合体(ポリラクトンまたはポリヒドロキシアルカノエート)としては、例えば、ポリβ-プロピオラクトン、ポリγ-ブチロラクトン、ポリδ-バレロラクトン、ポリβ-メチル-δ-バレロラクトン、ポリε-カプロラクトン、これらの共重合体などの、両末端に水酸基を有するポリC3-12ラクトン(またはポリC3-12ヒドロキシアルカノエート)またはその共重合体などが挙げられる。これらのポリラクトンは単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。好ましいポリラクトンとしては、ポリC4-10ラクトン、さらに好ましくはポリC4-8ラクトン、特に、ポリε-カプロラクトンなどのポリC5-7ラクトンが挙げられる。
【0082】
なお、ラクトン成分を開環重合する場合、慣用の開始剤を用いてもよい。ラクトン成分に対する開始剤としては、例えば、水、アルキレンオキシドの単独または共重合体、低分子量ポリオール、アミノ基を有する化合物などが挙げられる。アルキレンオキシドの単独または共重合体としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリアルキレングリコールなどが挙げられる。低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコールなどのアルカンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ビスフェノールAなどが挙げられる。アミノ基を有する化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミンなどのジアミン化合物などが挙げられる。これらの開始剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0083】
脂肪族ジカルボン酸成分および/または脂肪族ジオールとラクトン成分(または対応するヒドロキシカルボン酸成分)との共重合体としては、両末端に水酸基を有していればよく、例えば、C4-12アルカンジカルボン酸成分、および/または、直鎖状もしくは分岐鎖状C2-12アルカンジオール成分と、C4-12ラクトン成分との共重合体などが挙げられる。これらの共重合体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。好ましい共重合体としては、C4-8アルカンジカルボン酸成分、および/または、直鎖状もしくは分岐鎖状C2-8アルカンジオール成分と、C4-8ラクトン成分との共重合体、さらに好ましくはアジピン酸などのC5-7アルカンジカルボン酸成分、および/または、エチレングリコール、1,4-ブタンジオールなどの直鎖状もしくは分岐鎖状C2-6アルカンジオール成分と、ε-カプロラクトンなどのC5-7ラクトン成分との共重合体が挙げられる。
【0084】
これらの脂肪族ポリエステルジオールは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらの脂肪族ポリエステルジオールのうち、ラクトン成分(または対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独または共重合体(ポリラクトンまたはポリヒドロキシアルカノエート)が好ましい。
【0085】
前記ポリエーテルポリオール(またはポリエーテルジオール)としては、アルキレンオキシドを開環して単独または共重合させた反応生成物などであってもよい。開環反応には慣用の開始剤を用いてもよく、開始剤としては、前記ラクトン成分に対する開始剤として例示した開始剤と同様の開始剤などが挙げられる。アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフランなどのC2-6アルキレンオキシド、好ましくはC2-4アルキレンオキシドが挙げられる。
【0086】
代表的なポリエーテルポリオール(またはポリエーテルジオール)としては、アルキレンオキシドの単独または共重合体(ポリアルキレングリコール)、ビスフェノール類またはその水添物のアルキレンオキシド付加体などが挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、エチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体、テトラヒドロフラン-エチレンオキシド共重合体などのC2-6アルキレンオキシドの単独または共重合体(またはポリC2-6アルキレングリコール)などが挙げられる。ビスフェノール類またはその水添物のアルキレンオキシド付加体としては、例えば、ビスフェノールAまたは水添ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加体などが挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリエーテルポリオールのうち、アルキレンオキシドの単独または共重合体である場合が多く、なかでも、C2-4アルキレンオキシドの単独または共重合体、特に、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレングリコールなどのC3-4アルキレンオキシドの単独または共重合体がよく利用される。
【0087】
前記ポリエーテルエステルポリオール(またはポリエーテルエステルジオール)としては、例えば、前記ポリカルボン酸(またはジカルボン酸)またはそのエステル形成性誘導体と、前記ポリエーテルポリオールとの重合物などが挙げられる。
【0088】
前記ポリカーボネートポリオール(またはポリカーボネートジオール)は、例えば、ポリオール(またはジオール)成分とホスゲンとを反応させる方法や、ポリオール成分とカーボネート成分とを反応させるエステル交換法などにより調製される。前記カーボネート成分としては、例えば、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのジ(アルキルまたはアリール)カーボネート;環状カーボネート、例えば、エチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートなどが挙げられる。また、ポリオール成分としては、ジオール成分がよく利用され、ジオール成分としては、例えば、前記ポリエステルポリオールの項に例示したポリオール成分(脂肪族ジオール成分、脂環族ジオール成分、芳香族ジオール成分、およびこれらのアルキレンオキシド付加体)などが挙げられる。これらのポリオール成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0089】
代表的なポリカーボネートポリオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートポリオールなどの脂肪族ポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。これらのポリカーボネートポリオールは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0090】
これらのポリマーポリオール類のうち、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールがよく利用され、なかでも、ポリエステルポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリエーテルポリオールが好ましく、ポリエステルポリオールがさらに好ましく、なかでも、ラクトン成分(または対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独または共重合体(ポリラクトンまたはポリヒドロキシアルカノエート)が好ましい。
【0091】
鎖延長剤(鎖伸長剤)としては、慣用の鎖延長剤を使用でき、例えば、短鎖グリコール類などのポリオール類(短鎖ポリオール類)、ポリアミン類などが挙げられる。
【0092】
鎖延長剤としてのポリオール類としては、例えば、アルカンジオール、シクロアルカンジオール、芳香族ジオールなどのジオール類(短鎖ジオール類);トリメチロールプロパン(TMP)、グリセリン、ソルビトールなどの3以上の水酸基を有するポリオール類などが挙げられる。前記アルカンジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどのC2-6アルカンジオールなどが挙げられ、シクロアルカンジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられ、芳香族ジオールとしては、例えば、ヒドロキノンジエチロールエーテル(BHEB)などのジヒドロキシアレーン類、1,4-ジメチロールベンゼンなどのジメチロールアレーン類、ビスフェノールAなどのビスフェノール類、およびこれらのC2-4アルキレンオキシド付加体などが挙げられる。
【0093】
鎖延長剤としてのポリアミン類としては、例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルキレンジアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)などの芳香族ジアミンなどが挙げられる。
【0094】
これらの鎖延長剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらの鎖延長剤のうち、ポリオール類(短鎖ポリオール類)、なかでも、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ヒドロキノンジエチロールエーテル(BHEB)、1,4-ジメチロールベンゼン、ビスフェノールAまたはそのエチレンオキシド付加体などの短鎖ジオール類や糖アルコール類が好ましく、特に、1,4-ブタンジオールがよく利用される。
【0095】
このようなポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。TPUとしては、ポリエステルポリオールをソフトセグメントに含むポリエステル型TPU、ポリエーテルポリオールをソフトセグメントに含むポリエーテル型TPU、ポリカーボネートポリオールをソフトセグメントに含むポリカーボネート型TPUなどがよく利用され、ポリエステル型TPU、なかでも、ラクトン成分(または対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独または共重合体(ポリラクトンまたはポリヒドロキシアルカノエート)をソフトセグメントに含むポリエステル型TPUが好ましい。
【0096】
(ポリエステル系熱可塑性エラストマー)
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)は、芳香族結晶性ポリエステル、液晶分子などで形成されるハードセグメントと、ガラス転移温度の低いポリエーテルまたはポリエステルなどで形成されるソフトセグメントとを有しており、マルチブロックコポリマーであるのが好ましい。
【0097】
TPEEは、ポリエステル・ポリエーテル型TPEE(またはTEEE)、ポリエステル・ポリエステル型TPEE、液晶性TPEEに大別できる。
【0098】
ポリエステル・ポリエーテル型TPEE(またはTEEE)は、ハードセグメントとしての芳香族結晶性ポリエステルと、ソフトセグメントとしてのポリエーテルとを含んでいる。
【0099】
ハードセグメントの芳香族結晶性ポリエステルとしては、ポリアルキレンアリレートがよく用いられる。ポリアルキレンアリレートを形成するジオール成分としては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのC2-6アルキレングリコールなどが挙げられる。ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などのC6-12アレーン-ジカルボン酸成分などが挙げられる。これらのジオール成分および/またはジカルボン酸成分は、それぞれ単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0100】
ポリアルキレンアリレートとして代表的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレートなどのポリC2-6アルキレンC8-16アリレートなどが挙げられる。これらのポリアルキレンアリレートは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリアルキレンアリレートのうち、ポリC2-5アルキレンC8-14アリレート、なかでも、PBTなどのポリC2-4アルキレンC8-12アリレートがよく利用される。
【0101】
ソフトセグメントのポリエーテルは、通常、ジオール成分として、ハードセグメントを形成するジオール成分およびジカルボン酸成分とともに共重合されることにより、TEEEに導入される。このようなポリエーテル(またはソフトセグメントを形成するジオール成分)としては、例えば、前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)の項に記載のポリエーテルポリオール(ポリエーテルジオール)と同様のポリエーテルなどが挙げられる。代表的なポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのC2-6アルキレンオキシドの単独または共重合体(またはポリC2-6アルキレングリコール)などが挙げられる。これらのポリエーテルは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリエーテルのうち、C2-4アルキレンオキシドの単独または共重合体であることが多く、なかでも、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのC3-4アルキレンオキシドの単独または共重合体がよく利用される。
【0102】
ポリエステル・ポリエステル型TPEEは、ハードセグメントとしての芳香族結晶性ポリエステルと、ソフトセグメントとしてのポリエステルとを含んでいる。芳香族結晶性ポリエステルとしては、前記ポリエステル・ポリエーテル型TPEE(またはTEEE)の項に例示のポリアルキレンアリレートと好ましい態様を含めて同様である。
【0103】
ソフトセグメントとしてのポリエステルとしては、必ずしも両末端に水酸基を有していなくてもよい点を除いて、前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)の項に記載のポリエステルポリオールと同様のポリエステルが挙げられ、なかでも、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分との単独または共重合体;ラクトン成分(または対応するヒドロキシカルボン酸成分)の単独または共重合体;脂肪族ジカルボン酸成分および/または脂肪族ジオールとラクトン成分(または対応するヒドロキシカルボン酸成分)との共重合体などの脂肪族ポリエステルジオールとして例示したポリエステルと好ましい態様を含めて同様の脂肪族ポリエステルなどが挙げられる。これらのソフトセグメントとしてのポリエステルは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0104】
ポリエステル・ポリエステル型TPEEは、必要に応じて鎖延長剤(鎖伸長剤)を化学構造中に含んでいてもよく、鎖延長剤(鎖伸長剤)としては、例えば、前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)の項に記載の鎖延長剤と同様のものが挙げられ、なかでも、短鎖ジオールなどのポリオール(短鎖ポリオール)が好ましい。
【0105】
液晶性TPEEは、ハードセグメントとしての液晶分子と、ソフトセグメントとしてのポリエステルとを含んでいる。液晶分子としては、低分子液晶性化合物、例えば、ジヒドロキシーパラクォーターフェニル(DHQ)などのジヒドロキシ-環集合アレーン化合物などが挙げられる。これらの液晶分子は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。ソフトセグメントを形成するポリエステルは、例えば、ポリエステル・ポリエステル型TPEEの項に記載のポリエステルと同様のものが挙げられ、脂肪族ポリエステルであるのが好ましい。これらのソフトセグメントとしてのポリエステルは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0106】
これらのTPEEは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらのTPEEのうち、ポリエステル・ポリエーテル型TPEE(またはTEEE)が好ましい。
【0107】
(ポリアミド系熱可塑性エラストマー)
ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)は、ポリアミドで形成されるハードセグメントと、ガラス転移温度の低いポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネートなどで形成されるソフトセグメントとを有しており、マルチブロックコポリマーであるのが好ましい。
【0108】
ハードセグメントのポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12などの脂肪族ポリアミドなどが挙げられる。これらのポリアミドは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリアミドのうち、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12などがよく利用される。
【0109】
ソフトセグメントは、通常、ハードセグメントのポリアミドとエステル結合を介して連結するため、ソフトセグメントを形成するポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネートとしては、長鎖ポリオール(または長鎖ジオール)成分が用いられることが多い。このような長鎖ポリオール(長鎖ジオール)成分としては、前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)の項に記載のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールと好ましい態様を含めて同様の長鎖ポリオール成分などが挙げられる。これらの長鎖ポリオール成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0110】
また、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)は、必要に応じて、鎖延長剤(鎖伸長剤)、例えば、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体などを化学構造中に含んでいてもよい。
【0111】
これらのTPAは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0112】
なお、これらの熱可塑性エラストマー(A)は、必ずしも直鎖状または線状構造でなくてもよく、部分的に架橋されていてもよい。熱可塑性エラストマー(A)の形態としては、その種類に応じて、例えば、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ゴム成分と樹脂との混合物、イオン架橋型高分子などであってもよい。ブロック共重合体である場合、トリブロック構造、マルチブロック構造、ラジアルブロック(星形)構造などの種々のブロック構造を有していてもよい。また、これらの熱可塑性エラストマー(A)は、官能基などの導入により変性されていてもよい。
【0113】
熱可塑性エラストマー(A)のハードセグメントの分子量(または重量平均分子量)としては、例えば50~1000程度の範囲から選択してもよい。
【0114】
熱可塑性エラストマー(A)において、ハードセグメントとソフトセグメントとの質量割合は、例えば、前者/後者=10/90~90/10程度であってもよい。
【0115】
熱可塑性エラストマー(A)の数平均分子量Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)において、ポリスチレン換算で、例えば10000~1000000程度であってもよい。
【0116】
熱可塑性エラストマー(A)のガラス転移温度Tgは、例えば-100~20℃、好ましくは-70~0℃、さらに好ましくは-50~-20℃程度であってもよい。Tgは、DSC(示差走査熱量測定)などにより測定できる。
【0117】
これらの熱可塑性エラストマー(A)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらの熱可塑性エラストマー(A)のうち、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)およびポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)から選択された少なくとも一種を含むのが好ましい。さらに好ましくはTPO、TPU、TPEE、TPAが挙げられ、特に、TPU、TPEE、TPAなどのエンジニアリングプラスチック(エンプラ)系熱可塑性エラストマーを少なくとも含むのが好ましく、強度と伸びとを両立し易い点から、SEBSなどのポリスチレン系熱可塑性エラストマー、メタロセン触媒を用いて重合したポリプロピレン系R-TPOなどのTPO、およびポリエステル型TPUなどのTPUから選択された少なくとも一種を含むのも好ましく、強度および伸びの両立だけでなく、溶融流動性も保持または向上し易い点から、TPUが最も好ましい。
【0118】
なお、TPU、TPEEおよびTPAは、重付加または重縮合やエステル交換反応などにより得られ、マルチブロック構造を有するためか、強度と伸びとをより有効に向上できるとともに、繊維状補強材(B)の添加により大きく低下し易い溶融流動性(成形性または生産性)を保持または向上できる場合が多いようである。これらのエンプラ系熱可塑性エラストマーのなかでも、TPU、TPEEが好ましく、TPUが特に好ましい。なお、熱可塑性エラストマー(A)がTPUを含むと、特に、繊維径1μm以上のセルロース繊維[後述する(B1-1)]を含む繊維状補強材(B)と組み合わせた際に、強度および伸びをより一層し易いようである。そのため、熱可塑性エラストマー(A)がTPUを含む態様では、熱可塑性エラストマー組成物(第2の熱可塑性エラストマー組成物)は、必ずしもフルオレン化合物(C)を含んでいなくてもよく、実質的に含んでいなくてもよい。
【0119】
前記好ましい熱可塑性エラストマー(ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、TPO、TPU、TPEEおよびTPA)の総量の割合は、熱可塑性エラストマー(A)全体に対して、例えば50質量%以上、具体的には60~100質量%程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であり、実質的に100質量%であるのが好ましい。前記割合は、熱可塑性エラストマー(A)全体に対するTPO、TPU、TPEEおよびTPAの総量の割合;TPU、TPEEおよびTPAの総量の割合;または、TPUおよびTPEEの総量の割合であってもよく;ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、TPOおよびTPUの総量の割合であってもよく;熱可塑性エラストマー(A)全体に対するTPUの割合であってもよい。好ましい熱可塑性エラストマーの割合が少なすぎると、強度と伸びとを両立し難くなるおそれがある。
【0120】
熱可塑性エラストマー(A)の割合は、熱可塑性エラストマー(A)、繊維状補強材(B)およびフルオレン化合物(C)[単に、成分(A)~(C)ともいう]の総量に対して、例えば50質量%以上、具体的には60~99質量%程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、70~98質量%、80~97質量%、85~95質量%、87~93質量%である。熱可塑性エラストマー(A)の割合が少なすぎると、成形性が低下するおそれがある。
【0121】
熱可塑性エラストマー(A)の割合は、熱可塑性エラストマー組成物全体に対して、例えば10質量%程度以上の範囲から選択してもよく、例えば30質量%以上、具体的には40~99質量%程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、50~98質量%、60~97質量%、70~96質量%、80~95質量%、85~94質量%、87~93質量%である。熱可塑性エラストマー(A)の割合が少なすぎると、成形性(熱可塑性または溶融流動性)が低下するおそれがある。
【0122】
[繊維状補強材(B)]
繊維状補強材(B)としては、例えば、無機繊維、有機繊維などが挙げられる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、ウィスカー、ワラストナイトなどが挙げられる。有機繊維としては、例えば、ポリアルキレンアリレート繊維などのポリエステル繊維;ポリアミド繊維、具体的には、ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など;セルロース繊維[セルロース繊維(B1)ともいう]などが挙げられる。
【0123】
これらの繊維は単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。通常、繊維状補強材の添加によって組成物の伸度は大きく低下する傾向にあるが、強度と伸びとを有効に向上し易い点から、これらの繊維のなかでもセルロース繊維(B1)を少なくとも含むのが好ましい。
【0124】
(セルロース繊維(B1))
セルロース繊維(B1)を形成するためのセルロースとしては、リグニン、ヘミセルロースなどの非セルロース成分の含有量が少ないパルプ、例えば、植物由来のセルロース原料{例えば、木材[例えば、針葉樹(マツ、モミ、トウヒ、ツガ、スギなど)、広葉樹(ブナ、カバ、ポプラ、カエデなど)など]、草本類[麻類(麻、亜麻、マニラ麻、ラミーなど)、ワラ、バガス、ミツマタなど]、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、竹、サトウキビなど};動物由来のセルロース原料(ホヤセルロースなど);バクテリア由来のセルロース原料(ナタデココに含まれるセルロースなど)などから製造されたパルプなどが挙げられる。これらのセルロースは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのセルロースのうち、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなど)、種子毛繊維パルプ(例えば、コットンリンターパルプ)など、植物由来のセルロースなどが好ましい。なお、パルプは、パルプ材を機械的に処理した機械パルプであってもよいが、非セルロース成分の含有量が少ない点から、パルプ材を化学的に処理した化学パルプが好ましい。
【0125】
セルロース繊維(B1)は、ヘミセルロースやリグニンなどの非セルロース成分を含んでいてもよいが、セルロース繊維(B1)中の非セルロース成分の割合は、例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。セルロース繊維(B1)は、非セルロース成分を実質的に含まない(特に0質量%の)セルロース繊維であってもよい。
【0126】
セルロース繊維(B1)の繊維径は、マイクロメーターサイズ(ミクロンオーダー)であってもよく、ナノメーターサイズ(ナノオーダー)であってもよい。すなわち、セルロース繊維(B1)は、(B1-1)繊維径1μm以上の繊維(マイクロメーターサイズのセルロース繊維)および/または(B1-2)繊維径1μm未満の繊維(ナノメーターサイズのセルロース繊維、セルロースナノ繊維)で構成される。
【0127】
セルロース繊維(B1)は、セルロースナノ繊維(B1-2)のみで構成されていてもよいが、組成物中にナノメーターサイズで分散(ナノ分散)していなくても強度と伸びとを両立できる点から、セルロース繊維(B1)は、繊維径1μm以上の繊維(B1-1)を少なくとも含むのが好ましい。通常、セルロースナノ繊維の調製には、より微細な繊維構造とするために解繊などの煩雑な処理または操作が必要であるが、本発明では、繊維径1μm以上の繊維(B1-1)を用いても[組成物中にナノメーターサイズで分散(ナノ分散)していなくても]、意外なことに強度と伸びとを両立できるため、容易にまたは効率よく熱可塑性エラストマー組成物を調製できる。そのため、セルロース繊維(B1)は、非セルロースナノ繊維であってもよい。
【0128】
なお、セルロース繊維(B1)が、セルロースナノ繊維(B1-2)を含む場合、セルロースナノ繊維は、慣用の方法、例えば、高圧ホモジナイザー法、水中対抗衝突法、グラインダー法、ボールミル法、二軸混練法などの物理的方法で得られたナノ繊維であってもよく、TEMPO触媒、リン酸、二塩基酸、硫酸、塩酸などを用いた化学的方法で得られたナノ繊維であってもよい。
【0129】
セルロース繊維(B1)中の繊維径1μm以上の繊維(B1-1)の割合は、例えば1%以上(例えば5~100%程度)であってもよく、50%以上(例えば60~90%程度)であってもよく、ナノメーターサイズの繊維(B1-2)を実質的に含んでいなくてもよい。マイクロメーターサイズの繊維(B1-1)の割合が少なすぎると、強度と伸びとを有効に向上できないおそれがある。なお、マイクロメーターサイズの繊維(B1-1)の割合は、走査型電子顕微鏡写真の画像(ランダムに撮影した画像)から、セルロース繊維(B1)の面積全体に対する(B1-1)の面積割合(面積%)として算出してもよい。
【0130】
セルロース繊維(B1)の平均繊維径は、例えば0.1~500μm(例えば0.5~300μm、好ましくは0.8~200μm、特に1~100μm)程度の範囲から選択してもよく、例えば3~90μm(例えば5~80μm)、好ましくは10~70μm(例えば20~60μm)、さらに好ましくは30~50μm(特に35~45μm)である。平均繊維径が大きすぎると、強度と伸びとを有効に向上できないおそれがあり、小さすぎると調製し難くなるおそれがある。なお、セルロース繊維(B1)の最大繊維径は、例えば1~1000μm(例えば4~900μm)、好ましくは5~700μm(例えば10~500μm)、さらに好ましくは15~400μm(例えば20~300μm、好ましくは30~100μm、特に40~80μm)程度であってもよい。セルロース繊維(B1)の最小繊維径は、例えば3nm~10μm(例えば10nm~1μm)、好ましくは100~700nm(例えば200~500nm)程度であってもよい。
【0131】
セルロース繊維(B1)の平均繊維長は、例えば0.01μm以上(例えば0.01~500μm、好ましくは0.1~400μm)程度の範囲から選択でき、通常1μm以上(例えば5~300μm)、好ましくは10μm以上(例えば20~200μm)、さらに好ましくは30μm以上(特に50~150μm)であってもよく、1mm以上(例えば1~5mm、好ましくは1.5~3mm)であってもよい。平均繊維長が短すぎると、強度を十分に向上できないおそれがあり、逆に長すぎると、分散性が低下して不均質な組成物となる(機械的特性などが安定しない)おそれがある。
【0132】
セルロース繊維(B1)の平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は、例えば5以上(例えば5~10000程度)、好ましくは10以上(例えば10~5000程度)、さらに好ましくは20以上(例えば20~3000程度)、特に50以上(例えば50~2000程度)であってもよく、100以上(例えば100~1000程度)、さらには200以上(例えば200~800程度)であってもよい。また、アスペクト比が小さすぎると、補強効果が低下するおそれがあり、アスペクト比が大きすぎると、繊維が分解(または損傷)し易くなるおそれがあり、分散性が低下して不均質な組成物となる(機械的特性などが安定しない)おそれがある。
【0133】
なお、本明細書および特許請求の範囲では、セルロース繊維(B1)の平均繊維径、平均繊維長およびアスペクト比は、走査型電子顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出してもよい。また、最大繊維径および最小繊維径は、平均繊維径を算出するために測定した個々の繊維径(ランダムに選択した50個の繊維の繊維径)のうち、最大または最小の繊維径としてもよい。
【0134】
セルロース繊維(B1)中のセルロースは、結晶性の高いセルロースであってもよく、セルロースの結晶化度は、例えば40~100%(例えば50~100%)、好ましくは60~100%、さらに好ましくは70~100%(特に75~99%)程度であってもよく、結晶化度が60%以上(例えば60~98%)であってもよい。また、セルロースの結晶構造としては、例えば、I型、II型、III型、IV型などが例示でき、線膨張特性や弾性率などに優れたI型結晶構造が好ましい。なお、本明細書および特許請求の範囲において、結晶化度は、粉末X線回折装置((株)リガク製「Ultima IV」)などを用いて測定できる。
【0135】
セルロースの重合度は、組成物の機械的特性の点から、500以上であってもよく、好ましくは600以上(例えば600~10万程度)であってもよく、セルロースナノ繊維の場合、粘度平均重合度が、例えば100~10000、好ましくは200~5000、より好ましくは300~2000程度であってもよい。
【0136】
粘度平均重合度は、TAPPI T230に記載の粘度法により測定できる。すなわち、セルロース(セルロース繊維(B1)または原料セルロース)0.04gを精秤し、水10mLと1M銅エチレンジアミン水溶液10mLとを加え、5分間程度攪拌してセルロースを溶解する。得られた溶液をウベローデ型粘度管に入れ、25℃下で流下速度を測定する。水10mLと1M銅エチレンジアミン水溶液10mLとの混合液をブランクとして測定する。これらの測定値に基づいて算出した固有粘度[η]を用い、木質科学実験マニュアル(日本木材学会編、文永堂出版)に記載の下記式に従って粘度平均重合度を算出できる。
【0137】
粘度平均重合度=175×[η]。
【0138】
なお、セルロース繊維(B1)は、部分的に化学修飾された修飾セルロース繊維であってもよいが、修飾されていない非修飾セルロース繊維であるのが好ましい。
【0139】
セルロース繊維(B1)の割合は、繊維状補強材(B)全体に対して、例えば50質量%以上、具体的には60~100質量%程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であり、実質的に100質量%であるのが好ましい。セルロース繊維(B1)の割合が少なすぎると、強度と伸びとを両立し難くなるおそれがある。
【0140】
繊維状補強材(B)の割合は、成分(A)~(C)の総量に対して、例えば0.1~50質量%程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、1~30質量%、3~20質量%、5~15質量%、7~13質量%である。なお、熱可塑性エラストマー(A)がTPUを含み、実質的にフルオレン化合物(C)を含まない態様(第2の熱可塑性エラストマー組成物)では、前記繊維状補強材(B)の割合は、熱可塑性エラストマー(A)および繊維状補強材(B)の総量に対する割合であってもよい。繊維状補強材(B)の割合が少なすぎると、強度と伸びとを十分に向上できなくなるおそれがあり、逆に多すぎると、成形性(または生産性)が低下するおそれがある。
【0141】
繊維状補強材(B)の割合は、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、例えば0.1~100質量部程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、0.5~50質量部、1~30質量部、3~20質量部、5~15質量部、8~14質量部である。前記割合は、TPU 100質量部に対するセルロース繊維(B1)の割合であってもよい。繊維状補強材(B)の割合が少なすぎると、強度と伸びとを十分に向上できなくなるおそれがあり、逆に多すぎると、成形性(または生産性)が低下するおそれがある。
【0142】
なお、繊維状補強材(B)は、組成物中での分散性の観点から、繊維構造体(糸や布帛など)を形成していないのが好ましい。繊維構造体であると、強度と伸びとを十分に向上できなくなったり、成形性(または生産性)が低下したりするおそれがある。
【0143】
[9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)]
熱可塑性エラストマー組成物は、強度および伸びをより一層有効にまたは容易に(効率よく)向上できる点から、熱可塑性エラストマー(A)および繊維状補強材(B)に加えて、さらに9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(C)[フルオレン化合物(C)ともいう]を含むのが好ましい。
【0144】
前述のように、繊維状補強材は、一般的に組成物の伸度を大きく低下する傾向にあるが、熱可塑性エラストマー(なかでも、TPU,TPEE,TPA;特にTPU)に関しても、成形の際に作用する応力などにより分子が配向すると、通常、伸度が著しく低下し易い。本発明の熱可塑性エラストマー組成物が強度および伸びを両立できる理由(特に伸びの著しい低下を抑制し、逆に向上できる理由)は定かではないが、組成物中にフルオレン化合物(C)が繊維状補強材(B)とともに存在することで、前記配向を効率よく緩和できるためではないかと推測される。
【0145】
また、通常、繊維状補強材を含むと伸びだけでなく、溶融流動性も低下する場合が多いが、フルオレン化合物(C)を組み合わせることにより、溶融流動性を大きく低下することなく(または向上しつつ)強度および伸びをより一層高い水準で両立できる。
【0146】
なお、前述のように、熱可塑性エラストマー(A)としてのTPUと、繊維状補強材(B)としての繊維径1μm以上のセルロース繊維(B1-1)とを組み合わせる場合などでは、意外にも強度と伸びとを両立し易いため、必ずしもフルオレン化合物(C)を含んでいなくてもよい。
【0147】
フルオレン化合物(C)は、反応性基または官能基を有していない化合物、例えば、9,9-ビスフェニルフルオレンなどの9,9-ビスアリールフルオレンなどであってもよいが、反応性基または官能基を有しているのが好ましい。
【0148】
反応性基または官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、N-置換アミノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、グリシジルオキシ基などのエポキシ基含有基などが挙げられる。フルオレン化合物は、これらの反応性基を、単独でまたは二種以上組み合わせて有していてもよい。
【0149】
反応性基または官能基は、9,9-ビスアリールフルオレンに直接的に結合していてもよく、(ポリ)オキシアルキレン基などの適当な連結基を介して結合していてもよい。具体的なフルオレン化合物(C)としては、例えば、下記式(1)で表される化合物などが挙げられる。
【0150】
【0151】
[式中、R1は置換基を示し、kは0~8の整数を示し、
環Z1およびZ2は独立して芳香族炭化水素環を示し、
R2aおよびR2bは独立して置換基を示し、m1およびm2は独立して0以上の整数を示し、
X1およびX2は独立して基-[(OA)n-Y]
(式中、Yはヒドロキシル基、メルカプト基、グリシジルオキシ基または(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、Aはアルキレン基を示し、nは0以上の整数を示す。)
またはアミノ基を示し、p1およびp2は独立して1以上の整数を示す。]
【0152】
前記式(1)において、環Z1およびZ2で表される芳香族炭化水素環(またはアレーン環)としては、例えば、ベンゼン環などの単環式芳香族炭化水素環、多環式芳香族炭化水素環などが挙げられる。多環式芳香族炭化水素環としては、例えば、縮合多環式芳香族炭化水素環、環集合多環式芳香族炭化水素環などが挙げられる。
【0153】
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン環、縮合三環式アレーン環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。縮合二環式アレーン環としては、例えば、ナフタレンなどのC8-20縮合二環式アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環などのC10-14縮合多環式アレーン環が挙げられる。
【0154】
環集合多環式アレーン環としては、例えば、ビフェニル環、フェニルナフタレン環、ビナフチル環などのビまたはテルC6-10アレーン環などが挙げられる。好ましい環集合多環式アレーン環としては、ビフェニル環などのビC6-10アレーン環が挙げられる。
【0155】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「環集合アレーン環」とは、2つ以上の環系(アレーン環系)が一重結合(単結合)か二重結合で直結し、環を直結する結合の数が環系の数より1つだけ少ないものを意味し、例えば、上述のように、フェニルナフタレン環、ビナフチル環などは縮合多環式アレーン環骨格を有していても環集合アレーン環に分類され、ナフタレン環(非環集合アレーン環)などの「縮合多環式アレーン環」と明確に区別される。
【0156】
環Z1およびZ2はそれぞれ独立して、同一または異なる環であってもよく、同一の環であるのが好ましい。好ましい環Z1およびZ2は、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環であり、さらに好ましくはベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環であり、特に、ベンゼン環が好ましい。
【0157】
置換基R1としては、熱可塑性エラストマー(A)や繊維状補強材(B)に対する非反応性置換基、例えば、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、アルキル基、アリール基などの炭化水素基、アルキルカルボニル基などのアシル基などが挙げられる。
【0158】
アルキル基としては、例えば、アルキル基としては、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-8アルキル基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。アルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキルカルボニル基などが挙げられる。
【0159】
これらのうち、R1は、特に、アルキル基などである場合が多い。好ましいアルキル基としては、直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、なかでも、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基が挙げられる。
【0160】
置換基R1の置換数kは、0~6程度の整数であってもよく、好ましい範囲は、以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数であり、さらに好ましくは0または1であり、特に0である。
【0161】
なお、kが2以上である場合、2以上のR1の種類は互いに同一または異なっていてもよい。また、R1の置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2および7位などが挙げられる。
【0162】
置換基R2aおよびR2bとしては、熱可塑性エラストマー(A)や繊維状補強材(B)に対する非反応性置換基などが挙げられ、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基(または基RH)、基-ORH、基-SRH(式中、RHは前記炭化水素基を示す。)、アシル基、アルコキシカルボニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、モノまたはジアルキルアミノ基、モノまたはビス(アルキルカルボニル)アミノ基などの置換アミノ基などが挙げられる。
【0163】
炭化水素基RHで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-8アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基が挙げられる。炭化水素基RHで表されるシクロアルキル基としては、例えば、シクロへキシル基などのC5-10シクロアルキル基などが挙げられる。炭化水素基RHで表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。炭化水素基RHで表されるアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。
【0164】
基-ORHとしては、例えば、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが挙げられ、具体的には、前記炭化水素基RHとして例示のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基にそれぞれ対応する基-ORHなどが挙げられる。
【0165】
基-SRHとしては、例えば、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基などが挙げられ、具体的には、前記炭化水素基RHとして例示のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基にそれぞれ対応する基-SRHなどが挙げられる。
【0166】
アシル基としては、例えば、アセチル基などのC1-6アシル基などが挙げられる。
【0167】
アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ-カルボニル基などが挙げられる。
【0168】
置換アミノ基のうち、モノまたはジアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基などのモノまたはジC1-4アルキルアミノ基などが挙げられる。また、モノまたはビス(アルキルカルボニル)アミノ基としては、例えば、ジアセチルアミノ基などのモノまたはビス(C1-4アルキル-カルボニル)アミノ基などが挙げられる。
【0169】
好ましい置換基R2aおよびR2bとしては、炭化水素基、C1-4アルコキシ基などのアルコキシ基が挙げられる。好ましい炭化水素基としては、直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基などのアルキル基、C5-8シクロアルキル基などのシクロアルキル基、C6-10アリール基などのアリール基、C6-8アリール-C1-2アルキル基などのアラルキル基などが挙げられる。さらに好ましくは、アルキル基、アリール基であり、なかでも、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基、フェニル基などのC6-10アリール基が好ましい。なお、R2aがアリール基であるとき、R2aは環Z1とともに前記環集合炭化水素環を形成してもよく、R2bおよび環Z2についても同様であってもよい。
【0170】
基R2aおよびR2bの置換数m1およびm2は、それぞれ独立して、環Z1およびZ2の種類に応じて選択でき、例えば、それぞれ、0~8程度の整数の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、0~6の整数、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数であり、なかでも0または1、特に0が好ましい。なお、置換数m1およびm2は、互いに同一または異なっていてもよく、同一であるのが好ましい。
【0171】
なお、R2aおよびR2bの種類は、互いに同一または異なっていてもよく、同一であることが多い。また、置換数m1が2以上である場合、2以上のR2aの種類は、互いに同一または異なっていてもよく、m2が2以上である場合、2以上のR2bの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0172】
基X1およびX2としては、基[-(OA)n-Y]であるのが好ましい。
【0173】
基Aで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基などが挙げられる。好ましいアルキレン基Aとしては、直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレン基が挙げられ、さらに好ましくはエチレン基、プロピレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレン基が挙げられ、特にエチレン基が好ましい。
【0174】
オキシアルキレン基(OA)の数(または付加モル数)nは、0以上の整数、例えば0~20程度の整数の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、0~15、0~12、0~10、0~8、0~7、0~6、0~5、0~4、0~3、0~2の整数である。また、付加モル数nが0の場合に比べて熱分解温度を向上し易い点から、nは1以上であるのが好ましく、より好ましくは以下段階的に、1~12、1~10、1~8、1~7、1~6、1~5、1~4、1~3、1~2の整数であり、さらに好ましくは1である。また、付加モル数nは、前記式(1)で表される化合物の分子集合体における平均値(または平均付加モル数)であってもよく、その好ましい範囲としては上記整数の範囲と同様である。付加モル数nが大きすぎると、機械的特性や熱的特性が低下するおそれがある。
【0175】
基Yとしては、ヒドロキシル基、メルカプト基が好ましく、ヒドロキシル基がさらに好ましい。
【0176】
基X1およびX2の種類は互いに同一または異なっていてもよい。基X1およびX2が基[-(OA)n-Y]である場合、2以上の基[-(OA)n-Y]における基Yの種類、アルキレン基Aの種類および付加モル数nは、互いに同一または異なっていてもよく、基Yおよびアルキレン基Aの種類はX1およびX2においてそれぞれ同一であることが多い。また、nが2以上である場合、基[-(OA)n-Y]を形成する2以上のアルキレン基Aの種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であることが多い。
【0177】
基X1およびX2の置換数p1およびp2は、それぞれ独立して、例えば1~6程度の整数から選択してもよく、好ましくは1~4の整数、より好ましくは1~3の整数、さらに好ましくは1または2、特に1である。置換数p1およびp2は互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。p1が2以上である場合、2以上の基X1の種類は、同一または異なっていてもよく、p2が2以上である場合、2以上の基X2の種類は、同一または異なっていてもよい。
【0178】
前記式(1)において、基X1およびX2の置換位置は特に限定されず、環Z1およびZ2の適当な置換位置に置換していればよい。例えば、基X1およびX2は、環Z1およびZ2がベンゼン環である場合、2~6位のいずれの位置であってもよく、例えば、フェニル基の2位、3位および/または4位に置換し、好ましくは4位に置換している。
【0179】
また、基X1およびX2は、環Z1およびZ2が縮合多環式炭化水素環である場合、フルオレンの9位に結合した環とは別の環に置換することが多い。例えば、環Z1およびZ2がナフタレン環である場合、フルオレンの9位がナフタレン環の1位または2位に(1-ナフチルまたは2-ナフチルの関係で)結合し、基X1およびX2がナフタレン環の5位または6位などに置換する場合が多く、なかでも、1,5位または2,6位の位置関係、特に、2,6位の位置関係で置換するのが好ましい。また、基X1およびX2は、環Z1およびZ2が環集合多環式炭化水素環である場合、フルオレンの9位に結合した環と同じ環に置換することが多い。例えば、環Z1およびZ2がビフェニル環である場合、フルオレンの9位がビフェニル環の3位に結合するのが好ましく、基X1およびX2はビフェニル環の6位に置換するのが好ましい。
【0180】
式(1)で表される化合物のうち、好ましい化合物は、基X1およびX2がそれぞれ基[-(OA)n-Y]であり、基Yがヒドロキシル基である下記式(1A)で表される。
【0181】
【0182】
(式中、A1およびA2は独立してアルキレン基を示し、n1およびn2は独立して0以上の整数を示し、
R1、k、Z1およびZ2、R2aおよびR2b、m1およびm2、ならびにp1およびp2は、それぞれ好ましい態様を含めて前記式(1)と同様である)。
【0183】
前記式(1A)において、アルキレン基A1およびA2は、それぞれ好ましい態様を含めて、前記式(1)におけるアルキレン基Aと同様である。なお、A1およびA2の種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0184】
また、アルキレン基A1およびA2の置換数n1およびn2は、それぞれ好ましい態様を含めて、前記式(1)における置換数nと同様である。n1およびn2は、互いに同一または異なっていてもよい。なお、n1が2以上である場合、2以上のA1の種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましく、n2が2以上である場合、2以上のA2の種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0185】
前記式(1)または(1A)で表される代表的なフルオレン化合物としては、(C1) 9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類;前記化合物(C1)のアルキレンオキシド付加体、すなわち、(C2) 9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類;およびこれらの化合物(C1)および(C2)において、末端のヒドロキシル基を、メルカプト基、グリシジルオキシ基または(メタ)アクリロイルオキシ基に置換した化合物などが挙げられる。なお、本明細書および特許請求の範囲において、「(ポリ)アルコキシ」は、アルコキシ基およびポリアルコキシ基の双方を含む意味に用いる。
【0186】
(C1) 9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類としては、例えば、(C1-1) 9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類、(C1-2) 9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類などが挙げられる。
【0187】
(C1-1) 9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0188】
9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(モノまたはジC1-4アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0189】
9,9-ビス(アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(モノまたはジC6-10アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0190】
9,9-ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(3,4-ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3,5-ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ジまたはトリヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0191】
(C1-2) 9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類としては、前記(C1-1)9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基をナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
【0192】
(C2) 9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類は、前記化合物(C1)のヒドロキシル基1モル当たりに、アルキレンオキシド(または対応するアルキレンカーボネートもしくはハロアルカノール)が、例えば1~20モル程度、好ましくは1~10モル、さらに好ましくは1~5モル付加した付加体が挙げられる。また、アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシドなどのC2-4アルキレンオキシドなどが挙げられる。具体的な化合物(C2)としては、例えば、(C2-1) 9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン類、(C2-2) 9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレン類などが挙げられる。
【0193】
(C2-1) 9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン類には、例えば、nが1(n1およびn2がそれぞれ1)である9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類;nが2以上(n1およびn2がそれぞれ2以上)である9,9-ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン類などが挙げられる。
【0194】
9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アリール-ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0195】
9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0196】
9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(モノまたはジC1-4アルキル-ヒドロキシC2-4アルコキシ-フェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0197】
9,9-ビス(アリール-ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(モノまたはジC6-10アリール-ヒドロキシC2-4アルコキシ-フェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0198】
9,9-ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン類としては、上述のnが1(n1およびn2がそれぞれ1)である9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類として例示した化合物に対応して、nが2以上(n1およびn2がそれぞれが2以上)の化合物などが挙げられ、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシジアルコキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシジないしデカアルコキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。より具体的には、9,9-ビス{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシジないしデカC2-4アルコキシ-フェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0199】
(C2-2) 9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレン類としては、前記化合物(C2-1)に対応して、環Z1およびZ2のベンゼン環をナフタレン環に置き換えた化合物、例えば、nが1(n1およびn2がそれぞれ1)である9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン類;nが2以上(n1およびn2がそれぞれが2以上)である9,9-ビス(ヒドロキシポリアルコキシナフチル)フルオレン類などが挙げられる。
【0200】
9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシ-ナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
【0201】
9,9-ビス(ヒドロキシポリアルコキシナフチル)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシジアルコキシナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシジないしデカアルコキシナフチル)フルオレンなどが挙げられる。より具体的には、9,9-ビス{6-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]-2-ナフチル}フルオレン、9,9-ビス{6-[2-(2-ヒドロキシプロポキシ)プロポキシ]-2-ナフチル}フルオレン、9,9-ビス{5-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]-1-ナフチル}フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシジないしデカC2-4アルコキシ-ナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
【0202】
これらのフルオレン化合物(C)は、単独でまたは二種以上組み合わせてもよい。これらのフルオレン化合物(C)のうち、フェノール性ヒドロキシル基よりもアルコール性ヒドロキシル基を有するのが好ましく、例えば、(C2) 9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン類が好ましく、さらに好ましくは9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類であり、なかでも、9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンが好ましく、特に、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシ-フェニル)フルオレンが好ましい。
【0203】
なお、フルオレン化合物(C)は、市販品を用いてもよく、慣用の方法、例えば、フルオレノン類とフェノール類またはヒドロキシ(ポリ)アルコキシアレーン類とを、硫酸などの酸触媒、および助触媒、例えば、3-メルカプトプロピオン酸などのチオール類などの存在下で反応させる方法などにより合成してもよい。
【0204】
フルオレン化合物(C)は耐熱性(または熱分解温度)が高いため、高温でも容易に分解することなく、強度および伸びを有効に向上できるとともに、溶融流動性も保持または向上できる。フルオレン化合物(C)の熱分解温度は、例えば300~420℃、好ましくは320~400℃である。前記熱分解温度は、前記式(1)または(1A)において、nが0~2(n1およびn2がそれぞれ0~2)程度の化合物の熱分解温度であってもよい。本明細書および特許請求の範囲において、熱分解温度は、熱重量分析(TGA)により測定できる。
【0205】
また、フルオレン化合物(C)は、結晶または非晶形態であってもよく、いずれの場合にも耐熱性が高い。結晶形態のフルオレン化合物の融点は、例えば80~240℃、好ましくは100~200℃、さらに好ましくは110~180℃である。また、非晶形態のフルオレン化合物のガラス転移温度は、例えば50~120℃、好ましくは60~110℃、さらに好ましくは70~100℃である。本明細書および特許請求の範囲において、融点およびガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)により測定できる。
【0206】
前記式(1)で表される化合物の割合は、フルオレン化合物(C)全体に対して、例えば50質量%以上、具体的には60~100質量%程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であり、実質的に100質量%であるのが好ましい。また、この割合は、前記式(1A)で表される化合物のフルオレン化合物(C)全体に対する割合であってもよい。前記式(1)または(1A)で表される化合物の割合が少なすぎると、強度と伸びとを両立し難くなったり、溶融流動性(成形性または生産性)を保持または向上し難くなったりするおそれがある。
【0207】
フルオレン化合物(C)の割合は、成分(A)~(C)の総量に対して、例えば0.01~50質量%程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、0.03~20質量%、0.05~15質量%、0.1~10質量%、0.2~5質量%、0.25~3.5質量%、0.3~3質量%、0.35~2.5質量%である。フルオレン化合物(C)の割合が多すぎると、強度(引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率など、特に引張強度)を十分に向上できないおそれがあり、少なすぎると、強度と伸びとを両立し難くなったり、溶融流動性(成形性または生産性)を保持または向上し難くなったりするおそれがある。本発明では、フルオレン化合物(C)の割合が極めて少なくても、強度と伸びとを有効にまたは効率よく向上できるため、上記割合における上限値は、例えば2質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に0.8質量%以下であってもよい。
【0208】
フルオレン化合物(C)の割合は、繊維状補強材(B)100質量部に対して、例えば0.1~500質量部程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、0.3~200質量部、0.5~150質量部、1~100質量部、2~50質量部、2.5~35質量部、3~30質量部、3.5~25質量部である。この割合は、セルロース繊維(B1)100質量部に対するフルオレン化合物(C)の割合であってもよい。フルオレン化合物(C)の割合が多すぎると、強度(引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率など、特に引張強度)を十分に向上できないおそれがあり、少なすぎると、繊維状補強材(B)を分散し難くなったり、強度と伸びとを両立し難くなったり、溶融流動性(成形性または生産性)を保持または向上し難くなるおそれがある。本発明では、フルオレン化合物(C)の割合が極めて少なくても、強度と伸びとを有効にまたは効率よく向上できるため、上記割合における上限値は、例えば20質量部以下、好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下、特に8質量部以下であってもよい。
【0209】
フルオレン化合物(C)の割合は、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、例えば0.01~50質量部程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、0.05~20質量部、0.1~10質量部、0.2~5質量部、0.3~4質量部、0.4~3質量部、0.5~2.5質量部である。フルオレン化合物(C)の割合が多すぎると、強度(引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率など、特に引張強度)を十分に向上できないおそれがあり、少なすぎると、強度と伸びとを両立し難くなったり、溶融流動性(成形性または生産性)を保持または向上し難くなったりするおそれがある。本発明では、フルオレン化合物(C)の割合が極めて少なくても、強度と伸びとを有効にまたは効率よく向上できるため、上記割合における上限値は、例えば2質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下、特に0.8質量部以下であってもよい。
【0210】
[熱可塑性エラストマー組成物およびその特性]
熱可塑性エラストマー組成物は、必ずしも必要ではないが、本発明の効果を害しない範囲であれば、前記成分(A)~(C)[または成分(A)および(B)]に加えて、これらの成分とは異なる他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、ゴム成分(加硫または架橋ゴム)、熱可塑性樹脂、添加剤などが挙げられる。
【0211】
ゴム成分(熱可塑性エラストマー(A)とは異なる加硫または架橋ゴム)としては、慣用のゴム、例えば、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム(ACM、ANM)、ブチルゴム(IIR)、エピクロロヒドリンゴム(CO)、多硫化ゴム(OT、EOT)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FFKM、FKM)、含イオウゴムなどが挙げられる。ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム、ポリブタジエン[例えば、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエン(VBR)など]、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)などが挙げられる。これらのジエン系ゴムは、水添ゴム(例えば、水素化BR、水素化NBR、水素化SBRなど)であってもよい。オレフィン系ゴムとしては、例えば、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-ブテンゴム、エチレン-1-ブテン-ジエンゴム、プロピレン-1-ブテン-ジエンゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレン-酢酸ビニルゴム、マレイン酸変性エチレン-プロピレンゴム(M-EPM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M-CM)などが挙げられる。オレフィン系ゴムに含まれるジエン単位(非共役ジエン単位)としては、例えば、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン由来の単位などが挙げられる。なお、共重合ゴムは、ランダムまたはブロック共重合体であってもよく、ブロック共重合体には、AB型、ABA型、テーパー型、ラジアルテレブロック型の構造を有する共重合体などであってもよい。
【0212】
これらの熱可塑性エラストマー(A)以外のゴム成分(加硫または架橋ゴム)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの熱可塑性エラストマー(A)以外のゴム成分(加硫または架橋ゴム)の割合は、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、例えば0~100質量部程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、50質量部以下、30質量部以下、10質量部以下であり、さらに好ましくは熱可塑性エラストマー(A)以外のゴム成分(加硫または架橋ゴム)を実質的に含まない(特に、0質量部)のが好ましい。熱可塑性エラストマー(A)以外のゴム成分(加硫または架橋ゴム)の割合が多すぎると、熱可塑性が損なわれ、溶融流動性または成形性(再成形性またはリサイクル性も含む)が低下するおそれがある。
【0213】
熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂などのオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂などのハロゲン含有ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのアクリル樹脂;ポリスチレン(PS)、スチレン系共重合体、例えば、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)など、ゴム成分含有スチレン系樹脂(またはゴムグラフトスチレン系共重合体)、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、AXS樹脂[例えば、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS樹脂)、アクリロニトリル-(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)-スチレン共重合体(AES樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステルなどのポリエステル樹脂;ビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂などのポリカーボネート樹脂(PC);脂肪族ポリアミド樹脂、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66など、芳香族ポリアミド樹脂(またはアラミド樹脂)、例えば、ポリ(m-フェニレンイソフタルアミド)、ポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)などのポリアミド樹脂(PA);ポリアセタール樹脂(POM);ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE);ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS);ポリスルホン樹脂(PSF)(ポリエーテルスルホン(PES)などを含む);ポリエーテルケトン樹脂(PEK)(ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)を含む);ポリイミド樹脂(ポリエーテルイミド(PEI)、液晶性ポリマー(LCP)を含む)などが挙げられる。
【0214】
これらの熱可塑性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて含んでいてもよい。また、必要に応じて、熱可塑性エラストマー(A)は、前記他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイを形成してもよい。また、ポリマーアロイは相溶化剤を含んでいてもよい。熱可塑性樹脂の割合は、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、例えば0~100質量部程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、50質量部以下、30質量部以下、10質量部以下である。熱可塑性樹脂の割合が多すぎると、伸びが低下するおそれがある。
【0215】
添加剤としては、例えば、非繊維状(粉粒状など)の充填剤(補強剤または強化剤)、染顔料などの着色剤、導電剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、滑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、相溶化剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤、核剤、結晶化促進剤などを含んでいてもよい。安定剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。
【0216】
これらの添加剤は単独でまたは二種以上組み合わせてもよい。添加剤の合計割合は、熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、例えば0~30質量部程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、20質量部以下、10質量部以下、5質量部以下である。
【0217】
熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、熱可塑性エラストマー(A)と、繊維状補強材(B)と、必要に応じて、フルオレン化合物(C)や他の成分(熱可塑性樹脂や添加剤など)とを均一に分散できる方法であれば特に制限されず、例えば、慣用の混合または混練機[例えば、ホモジナイザー、ミキサーもしくは混合機、混練機(ニーダー、ロール、押出機など)など]を用いて、乾式混合、湿式混合、溶融混練などの慣用の方法で混合または混練することにより調製できる。そのため、熱可塑性エラストマー組成物は、ペレット状などの形態であってもよい。好ましい製造方法は、乾式混合した後に溶融混練する方法である。
【0218】
なお、混合または混練する際の温度は、熱可塑性エラストマーの種類などに応じて適宜選択してもよく、例えば100~300℃(例えば150~250℃)、好ましくは170~230℃である。また、混練機(または、二軸押出機などの押出機)を用いる場合、スクリュー径Dは、例えば5~200mm程度であってもよく;回転速度(またはスクリュー回転数)は、例えば10~1000rpm程度であってもよく;吐出量(または処理速度)は、例えば0.1~10000kg/時程度であってもよい。
【0219】
これらの製造方法または製造条件は、原料の種類や量などに応じて、適宜調整してもよい。
【0220】
(特性、向上方法または改善方法)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、繊維状補強材(B)を含むにもかかわらず、強度と伸びとを高い水準で両立できる。すなわち、所定の熱可塑性エラストマー組成物を調製することで、容易にまたは効率よく伸び(特に、伸びおよび強度)を向上できる。そのため、本発明は、熱可塑性エラストマー(A)に、繊維径1μm以上のセルロース繊維を少なくとも含む繊維状補強材(B)およびフルオレン化合物(C)を添加して、強度および伸びの双方を向上または改善する方法(方法1ともいう);ならびに、TPUを含む熱可塑性エラストマー(A)に、繊維径1μm以上のセルロース繊維を少なくとも含む繊維状補強材(B)を添加して、伸び(特に、強度および伸び)を向上または改善する方法(方法2ともいう)を包含する。
【0221】
方法1では、前記繊維状補強材(B)およびフルオレン化合物(C)[成分(B)~(C)]を含まないブランク組成物[特に、成分(A)単独]の最大伸度(または破断伸び)に対して、得られる第1の熱可塑性エラストマー組成物の最大伸度を、例えば10%以上(例えば20~100%)、好ましくは25%以上(例えば30~80%)、さらに好ましくは40%以上(例えば45~70%、好ましくは50~60%)向上できる。
【0222】
方法2では、ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の最大伸度に対して、得られる第2の熱可塑性エラストマー組成物の最大伸度を、例えば10%以上(例えば15~50%)、好ましくは20%以上(例えば25~40%)向上できる。
【0223】
なお、ブランク組成物の最大伸度は成分(A)の種類などに応じて、例えば100~500%、好ましくは200~400%程度であってもよい。
【0224】
本明細書および特許請求の範囲において、最大伸度は、後述する実施例に記載の方法(射出成形サンプルの引張試験)に準じて測定できる。熱可塑性エラストマー(A)[なかでも、TPU,TPEE,TPA、特にTPU]は、射出成形などの分子が配向し易い成形体では伸度が低下し易い傾向があるが、本発明の熱可塑性エラストマー組成物または方法1~2では、伸度を有効に向上できる。
【0225】
本明細書および特許請求の範囲において、前記成分(B)~(C)を含まないブランク組成物は、熱可塑性エラストマー組成物中の成分(B)~(C)に代えて、成分(B)~(C)と同じ質量の熱可塑性エラストマーを(A)を添加した組成物を意味する。
【0226】
また、方法1では、ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の25%引張強さに対して、得られる第1の熱可塑性エラストマー組成物の25%引張強さを、例えば10%以上(例えば30~200%)、好ましくは50%以上(例えば70~110%)向上でき;ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の50%引張強さに対して、第1の熱可塑性エラストマー組成物の50%引張強さを、例えば10%以上(例えば30~200%)、好ましくは50%以上(例えば70~100%)向上でき;ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の100%引張強さに対して、第1の熱可塑性エラストマー組成物の100%引張強さを、例えば10%以上(例えば30~150%)、好ましくは40%以上(例えば50~70%)向上でき;ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の最大引張強度に対して、第1の熱可塑性エラストマー組成物の最大引張強度を、例えば10%以上(例えば20~80%)、好ましくは25%以上(例えば30~50%)向上できる。
【0227】
方法2では、ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の25%引張強さに対して、得られる第2の熱可塑性エラストマー組成物の25%引張強さを、例えば10%以上(例えば30~200%)、好ましくは50%以上(例えば70~110%)向上でき;ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の50%引張強さに対して、第2の熱可塑性エラストマー組成物の50%引張強さを、例えば10%以上(例えば30~200%)、好ましくは50%以上(例えば70~110%)向上でき;ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の100%引張強さに対して、第2の熱可塑性エラストマー組成物の100%引張強さを、例えば10%以上(例えば30~150%)、好ましくは40%以上(例えば50~90%)向上でき;ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の最大引張強度に対して、第2の熱可塑性エラストマー組成物の最大引張強度を、例えば10%以上(例えば20~80%)、好ましくは25%以上(例えば30~50%)向上できる。
【0228】
なお、ブランク組成物の各引張強度は成分(A)の種類などに応じて、25%引張強さは、例えば1~10MPa、好ましくは3~7MPa程度;50%引張強さは、例えば2~11MPa、好ましくは4~9MPa程度;100%引張強さは、例えば5~15MPa、好ましくは7~13MPa程度;最大引張強度は、例えば10~50MPa、好ましくは20~30MPa程度であってもよい。
【0229】
本明細書および特許請求の範囲において、各引張強度は、後述する実施例に記載の方法(射出成形サンプルの引張試験)に準じて測定できる。
【0230】
このように、熱可塑性エラストマー組成物は、強度および伸びの双方に優れているため、これらと相関し得る耐衝撃性(または強靭性)、例えば、アイゾット衝撃強度などを大きく低下することなく保持または向上できる。本明細書および特許請求の範囲において、アイゾット衝撃強度は、後述する実施例に記載の方法に準じて測定できる。
【0231】
また、熱可塑性エラストマー組成物または方法1~2では、曲げ弾性率、曲げ強度も有効に向上できる場合がある。
【0232】
方法1では、ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の曲げ弾性率に対して、得られる第1の熱可塑性エラストマー組成物の曲げ弾性率を、例えば10%以上(例えば30~200%)、好ましくは40%以上(例えば50~120%)向上できる。
【0233】
方法2では、ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の曲げ弾性率に対して、得られる第2の熱可塑性エラストマー組成物の曲げ弾性率を、例えば10%以上(例えば15~100%)、好ましくは20%以上(例えば30~70%)向上できる。
【0234】
なお、ブランク組成物の曲げ弾性率は成分(A)の種類などに応じて、例えば10~300MPa、好ましくは20~220MPa程度であってもよい。
【0235】
方法1では、ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の曲げ強度に対して、得られる第1の熱可塑性エラストマー組成物の曲げ強度を、例えば10%以上(例えば30~150%)、好ましくは40%以上(例えば50~90%)向上できる。
【0236】
方法2では、ブランク組成物[特に、成分(A)単独]の曲げ強度に対して、得られる第2の熱可塑性エラストマー組成物の曲げ強度を、例えば10%以上(例えば15~100%)、好ましくは20%以上(例えば30~70%)向上できる。
【0237】
なお、ブランク組成物の曲げ強度は成分(A)の種類などに応じて、例えば1~20MPa、好ましくは2~10MPa程度であってもよい。
【0238】
本明細書および特許請求の範囲において、曲げ弾性率および曲げ強度は、後述する実施例に記載の方法に準じて測定できる。
【0239】
また、熱可塑性エラストマー組成物または方法1~2では、溶融流動性も大きく低下することなく、有効に保持または向上し易い。
【0240】
方法1で得られる第1の熱可塑性エラストマー組成物のメルトフローレート(MFR)[またはメルトフローインデックス(MFI)]は、ブランク組成物[特に、成分(A)単独]のMFRに対して、例えば50%以上(例えば70~300%)、好ましくは100%以上(例えば150~200%)である。
【0241】
方法2で得られる第2の熱可塑性エラストマー組成物のMFRは、ブランク組成物[特に、成分(A)単独]のMFRに対して、例えば30%以上(例えば50~200%)、好ましくは60%以上(例えば70~120%)である。
【0242】
なお、ブランク組成物のMFRは成分(A)の種類などに応じて、例えば1~50g/10min、好ましくは10~30g/10min程度であってもよい。
【0243】
本明細書および特許請求の範囲において、MFRは、後述する実施例に記載の方法に準じて測定できる。
【0244】
[熱可塑性エラストマー組成物を含む成形体]
また、本発明は、熱可塑性エラストマー組成物を少なくとも含む成形体も包含する。成形体中の熱可塑性エラストマー組成物の割合は特に制限されず、例えば10~100質量%、好ましくは50~90質量%程度であってもよい。成形体の形状は特に限定されず、用途に応じて適宜選択でき、例えば、線状(または糸状)、棒状などの一次元的構造体、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造体、ブロック状、中空状(管状またはチューブ状)、種々の形状を組み合わせた複雑形状などの三次元的構造体などであってもよい。また、成形体は、フォーム状(または発泡体)であってもよいが、中実状が好ましい。
【0245】
熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性(または溶融流動性)を備えているため、熱可塑性樹脂を成形するための慣用の成形法または成形機により成形できる。そのため、成形体は、例えば、圧縮成形法、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法、カレンダ加工、発泡成形法などの慣用の成形法を利用して製造することができる。
【実施例0246】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。また、各種評価方法および使用した原料を下記に示す。
【0247】
[評価方法]
(引張特性)
射出成形で成形した試験片の引張特性をJIS K 7161に準じて、試験機[(株)島津製作所製「オートグラフAG-250kNI M1」]および伸び計[(株)島津製作所製「TR-View-X」]を用いて下記条件でn=5回測定し、最大伸度(破断伸び)および引張強さ(伸度が25%、50%、100%のときの引張強さおよび最大強度)をそれぞれ平均値として算出した。
【0248】
試験片:A12ダンベル試験片(全長75mm、チャック間距離58mm、幅5mm、厚み2mm、標線間距離25mm)
引張速度:伸度0~0.3%の区間で0.25mm/分、
伸度0.3%以上の区間で50mm/分
つかみ部:エアーチャック式
【0249】
(アイゾット衝撃試験)
JIS K 7110に準じて、IZOD衝撃値(ノッチ有)を測定した。なお、n=3回測定して、その平均値を算出した。
【0250】
(曲げ特性)
JIS K 7171に準じて、支点間距離64mm、試験速度2mm/分の条件で試験し、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。なお、n=3回測定して、その平均値をそれぞれ算出した。
【0251】
(MFR)
JIS K 7210に準じて、保持時間を5分とし、用いた熱可塑性エラストマーの種類に応じて温度および試験荷重を適宜設定して測定した。なお、n=3回測定して、その平均値を算出した。
【0252】
[原料]
(熱可塑性エラストマー)
TPU:熱可塑性ウレタンエラストマー、日本ミラクトラン(株)製「ミラクトラン E590PNAT」
TPEE(またはTEEE):熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー、東レ・デュポン(株)製「ハイトレル 5557」
TPO:熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、エチレン単位を含むポリプロピレン系重合体(メタロセン触媒を用いたR-TPO)、日本ポリプロ(株)製「WELNEX RFX4V」
SEBS:熱可塑性ポリスチレンエラストマー、アロン化成(株)製「AR-741N」
【0253】
(繊維状補強材)
セルロース繊維:植物由来のパルプ(化学修飾されていないセルロース繊維)シートを2mm×5mm角程度のチップ状に裁断したもの、平均繊維径 約40μm、平均繊維長
1mm以上。
【0254】
(フルオレン化合物)
BPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製「BPEF」。
【0255】
[実施例1(1-1~1-5)および比較例1]
TPUを80℃で6時間順風乾燥(予備乾燥)した後、TPUとセルロース繊維とBPEFとを下記表に示す質量割合でドライブレンドした。その後、二軸押出機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「Process11」、スクリュー径:11mm)を用いて、温度200℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量500g/時の条件で混練して、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を調製した。
【0256】
なお、実施例1-1ではBPEFを添加することなく、比較例1ではセルロース繊維およびBPEFを添加することなく調製した。また、セルロース繊維を用いた実施例では、組成物中でセルロース繊維が凝集することなく均一に分散していた。
【0257】
得られた組成物を用いて、80℃で6時間順風乾燥(予備乾燥)した後、射出成形により各評価用の試験片を作製した。なお、引張特性評価用の射出成形は、装置:エプソンテックフオルム(株)(旧(株)新興セルビック)製「C,Mobile0813」、可塑化部温度:190℃、射出部温度:200℃、金型温度:40℃、押出量:最小の条件で、金型には離形剤を吹き付けて行った。曲げ特性、アイゾット衝撃試験評価用の射出成形は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「HAAKE MiniJet Pro」を用いて、シリンダー温度:210℃、金型温度:40℃の条件で、金型には離形剤を吹き付けて行った。
【0258】
配合割合および評価結果を表1に示す。なお、MFRは、温度210℃、試験荷重21.18Nの条件で行った。
【0259】
【0260】
表1から明らかなように、実施例1ではセルロース繊維(特に、繊維径がマイクロメーターサイズのセルロース繊維)を含むにもかかわらず、意外にも比較例1に比べて最大伸度を大きく向上できた。なお、試験片は射出成形により作製したが、射出成形では分子が配向し易いためか、他の成形方法(プレス成形など)に比べて伸度が低下する傾向にあるが、射出成形品であっても最大伸度を大きく向上できた。特に、実施例1-2では、わずかなBPEFの添加によって最大伸度が顕著に向上していることから、BPEFは配向を緩和する効果が特に高いものと考えられる。なお、実施例1-3~1-4では、伸度の増加度合いは緩やかであった。
【0261】
また、引張強さ、曲げ弾性率および曲げ強度のいずれも比較例1よりも高く、低分子化合物であるBPEFを含んでいても、引張強さは大きく低下することなく保持され、曲げ特性は向上しており、セルロース繊維によって強化された機械的強度と優れた伸度とを両立できた。そのため、耐衝撃性(強靭性)も良好であった。
【0262】
さらに、通常、繊維状補強材の添加はMFR低下の要因となる場合が多いが、BPEFの添加に伴ってMFRも保持または向上でき、成形性(または生産性)にも優れていた。
【0263】
[実施例2、比較例2および参考例2]
TPEEを80℃で6時間順風乾燥(予備乾燥)した後、TPEEとセルロース繊維とBPEFとを下記表に示す質量割合でドライブレンドした。その後、実施例1と同様に二軸押出機で混練してペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を調製した。
【0264】
なお、参考例2ではBPEFを添加することなく、比較例2ではセルロース繊維およびBPEFを添加することなく調製した。また、セルロース繊維を用いた実施例および参考例では、組成物中でセルロース繊維が凝集することなく均一に分散していた。
【0265】
得られた組成物を用いて、80℃で6時間順風乾燥(予備乾燥)した後、射出成形により各評価用の試験片を作製した。なお、射出成形は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「HAAKE MiniJet Pro」を用いて、シリンダー温度:210℃、金型温度:40℃の条件で、金型には離形剤を吹き付けて行った。
【0266】
配合割合および評価結果を表2に示す。
【0267】
【0268】
[実施例3、比較例3および参考例3]
TPOとセルロース繊維とBPEFとを下記表に示す質量割合でドライブレンドした。その後、実施例1と同様に二軸押出機で混練してペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を調製した。
【0269】
なお、参考例3ではBPEFを添加することなく、比較例3ではセルロース繊維およびBPEFを添加することなく調製した。また、セルロース繊維を用いた実施例および参考例では、組成物中でセルロース繊維が凝集することなく均一に分散していた。
【0270】
得られた組成物を用いて、射出成形により各評価用の試験片を作製した。なお、射出成形は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「HAAKE MiniJet Pro」を用いて、シリンダー温度:210℃、金型温度:40℃の条件で、金型には離形剤を吹き付けて行った。
【0271】
配合割合および評価結果を表3に示す。なお、MFRは、温度230℃、試験荷重21.18Nの条件で行った。
【0272】
【0273】
表3から明らかなように、実施例3は参考例3に比べて耐衝撃性が向上しており、強度と伸びとを両立できることが示唆された。実際に引張特性を評価したところ、実施例3の最大伸度および引張強さ(最大強度)が、ともに参考例3よりも優れていることが分かった。
【0274】
[実施例4、比較例4および参考例4]
SEBSとセルロース繊維とBPEFとを下記表に示す質量割合でドライブレンドした。その後、実施例1と同様に二軸押出機で混練してペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を調製した。
【0275】
なお、参考例4ではBPEFを添加することなく、比較例4ではセルロース繊維およびBPEFを添加することなく調製した。また、セルロース繊維を用いた実施例および参考例では、組成物中でセルロース繊維が凝集することなく均一に分散していた。
【0276】
得られた組成物を用いて、射出成形により各評価用の試験片を作製した。なお、射出成形は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「HAAKE MiniJet Pro」を用いて、シリンダー温度:210℃、金型温度:40℃の条件で、金型には離形剤を吹き付けて行った。
【0277】
配合割合および評価結果を表4に示す。なお、MFRは、温度240℃、試験荷重49.03Nの条件で行った。また、比較例4および参考例4では、曲げ弾性率および曲げ強度が小さすぎて測定できなかった。
【0278】
【0279】
表4から明らかなように、実施例4は高い耐衝撃性を示しており、強度と伸びとを両立できることが示唆された。引張特性を評価したところ、実施例4の最大伸度および引張強さ(最大強度)が、ともに参考例4よりも優れていることが分かった。
代表的な用途としては、履物、例えば、シューズ、サンダル、スリッパ、これらの履物用底材など;雑貨、例えば、歯ブラシの柄、文房具、玩具、造花など;スポーツ用品、例えば、スポーツシューズ用底材・甲被材、スキー靴・登山靴のシェル・カフ、スキーストックグリップ、スキー板、テニスラケットのフレームやエンドグリップ、野球用ベース、サッカーボール、ゴルフボール、ゴルフクラブのグリップ、トレーニングマシンなど;自動車用部品、例えば、バンパー、ステアリングホイール、ドアーラッチ、ドアーストライカー、シートベルト部品、エンブレム、コントロールケーブルカバー、トランクルームの内貼りなどの車体用部品、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツ、ストラットサスペンション、ブッシュ、ギヤーカバーキャップ、バンプラバー、ロアーアームボールシートなどのシャーシ・ステアリング用部品、エアダクトホース、フューエルラインカバーなどのエンジン周辺部品;防音材、内装表皮材などの内装用部材など;ホースまたはチューブ類、例えば、油圧ホース、高圧ホース、超高圧ホース、ダクトホース、消防用ホース、農薬用ホース、塗装用ホース、洗濯機用ホース、燃料チューブ、空圧チューブ、コイルチューブ、ガス管、ホースの外装など;ベルト類;ギヤ、軸受け、ローラー、キャスターなどの機械部品;パッキン、ガスケット、Oリングなどのシール材;パイプの内装用ライニング、水道管の補修用ライニングなどのライニング材;フレキシブルコンテナ、ダイヤフラム、キーボードシート、ガソリンタンクシート、防水シートなどのシート材;包装資材;食品包装用フィルム;フレックスハンマー、クッショングリップ、消音ギヤ、防振・防音部品などの制振材料;OA機器・オーディオ機器配線、光ファイバー被覆材、カールコード、ロボット用ケーブルなどの電線・ケーブル・絶縁材料;スポンジなどの発泡材料;形状記憶材料;医療用チューブ、バッグ類、医療用シールド電線などの医療器具;ホットメルト系接着剤などの接着剤または粘着剤;改質剤、例えば、耐衝撃性改質剤、低収縮剤、相溶化剤などの樹脂またはゴム改質剤、ルーフィング用改質剤、道路舗装用改質剤などのアスファルト改質剤などが挙げられる。