(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097366
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】オートテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/12 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
F16H7/12 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188554
(22)【出願日】2022-11-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2021208977
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022007842
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】團 良祐
【テーマコード(参考)】
3J049
【Fターム(参考)】
3J049AA01
3J049BB05
3J049BB10
3J049BB15
3J049BB25
3J049BC03
3J049BH01
3J049BH02
3J049CA03
(57)【要約】
【課題】部品点数が少なく、軽量でコンパクトな非対称ダンピング特性を有し、ベルト張力が増加した場合の減衰力をより高い水準で確保することができるオートテンショナを提供する。
【解決手段】外筒部21を有するベース2と、アーム3と、伝動ベルト101が巻掛けられるプーリ4と、外筒部21の内周面とアーム3との間に挟まれる摩擦部材6と、摩擦部材6をアーム3に軸方向に押し付け、アーム3をベース2に対してX方向に回動付勢するコイルばね5とを備え、摩擦部材6は、円弧面60よりX方向側に位置し、アーム3に係止され、径方向外側に向かうほどX方向側に向かうように傾斜している係止面61と、コイルばね5の一端と係止される保持溝64とを有するオートテンショナ1であって、摩擦部材6及びアーム3は、摩擦部材6の係止面61に形成された凹凸と、アーム3の突出部31の係止面31aに形成された凹凸とが互いにかみ合う規制手段を有している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部を有するベースと、
前記ベースに対して回動自在に支持されたアームと、
前記アームに回転自在に設けられるとともに、ベルトが巻き掛けられるプーリと、
前記円筒部の内周面と前記アームとの間に前記円筒部の径方向に挟まれる摩擦部材と、
一端が前記摩擦部材に係止され、他端が前記ベースに係止され、前記円筒部の軸方向に圧縮された状態で配置されて前記摩擦部材を前記アームに前記軸方向に押し付けるとともに、前記摩擦部材を介して前記アームを前記ベースに対して一方向に回動付勢するコイルばねと、を備え、
前記摩擦部材は、前記円筒部の内周面に沿って摺接可能な円弧面と、前記円筒部の周方向に関して前記円弧面より前記一方向側に位置し、前記アームに係止され、前記径方向外側に向かうほど前記一方向側に向かうように前記径方向に対して傾斜している第1係止部と、
前記第1係止部より前記径方向外側で、前記コイルばねの前記一端と係止される第2係止部とを有するオートテンショナであって、
前記摩擦部材及び前記アームは、前記摩擦部材が前記アームに対して前記一方向側に移動するのを規制する規制手段を有していることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
前記規制手段は、前記摩擦部材の前記第1係止部と前記アームの係止面とが互いにかみ合うように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項3】
前記規制手段は、前記第1係止部際の、前記摩擦部材における前記一方向側の側面部分と、該側面部分と対向する、前記アームに形成された突片部とが接触するように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項4】
前記摩擦部材及び前記アームは、前記第1係止部が径方向外側に向かうほど前記一方向側に向かうように径方向に対して傾斜している度合いを表す傾斜角度(θ)が、35°以上70°以下の範囲内になるように形成されていることを特徴とする、請求項1~3の何れかに記載のオートテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトの張力を自動的に適度に保つためのオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車エンジンの補機駆動のためのベルトにおいては、エンジン燃焼に起因する回転変動によりベルト張力が変動する。このようなベルト張力の変動に起因してベルトスリップが発生し、そのスリップ音や摩耗などの問題が生じている。これを解決するために、従来から、ベルト張力が変動してもベルトスリップの発生を抑える機構として、オートテンショナが採用されている。
【0003】
特許文献1に記載のオートテンショナは、円筒部を有するベースと、ベースに対して回動自在に支持されたアームと、アームに回転自在に設けられるとともに、ベルトが巻き掛けられるプーリと、円筒部の内周面とアームとの間に円筒部の径方向に挟まれる摩擦部材と、一端が摩擦部材に係止され、他端がベースに係止され、円筒部の軸方向に圧縮された状態で配置されて摩擦部材をアームに軸方向に押し付けるとともに、摩擦部材を介してアームをベースに対して一方向に回動付勢するコイルばねと、を備え、摩擦部材は、円筒部の内周面に沿って摺接可能な円弧面と、円筒部の周方向に関して円弧面より一方向側に位置し、アームに係止される第1係止部と、第1係止部より径方向外側で、コイルばねの一端と係止される第2係止部とを有している(以上、特許文献1[0010])。
【0004】
また、特許文献1に記載のオートテンショナは、ベルト張力が増加した場合と減少した場合で、摩擦部材の摺動面で生じる摩擦力の大きさが異なっており、アームの回動方向に応じて非対称な減衰特性(非対称ダンピング特性)を持つ。すなわち、ベルト張力が増加した場合には、摩擦部材の第1係止部がアームから受ける力を、摩擦部材の円弧面をベースの円筒部の内周面に押し付ける力に使うことができるため、比較的大きい摩擦力を生じさせて、アームの揺動を十分に減衰させることができるようになっており、ベルト張力が減少した場合には、コイルばねの周方向の付勢力によって摩擦部材の円弧面がベースの円筒部の内周面に押し付けられることがないため、比較的小さい摩擦力を生じさせて、アームをベルトの張力変動に追従させることができる(以上、特許文献1[0005] [0011] [0012])。
【0005】
また、特許文献1に記載のオートテンショナは、摩擦部材とコイルばねだけで上述の非対称ダンピング特性を実現しているため、軽量であると共に、部品点数が少なく組立が容易であり、ベースの円筒部とアームとの間に径方向に挟まれた摩擦部材に、コイルばねの一端部が係止されているため、オートテンショナを径方向にコンパクト化できるとともに、第2係止部が第1係止部より径方向外側に位置するため、摩擦部材を周方向にコンパクト化できる(以上、特許文献1[0013])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のような非対称ダンピング特性を有するオートテンショナであっても、使用環境(例えば自動車エンジンの仕様)によっては、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確保する必要がある。
【0008】
その対応としては、安易にコイルばねの巻き径を拡大し、コイルばねを拡径方向にねじり変形させた際の弾性復元力を大きくする対応をとることで、オートテンショナが径方向に大型化してしまうことは避けるべきである。
【0009】
そこで、特許文献1に記載のオートテンショナのように、部品点数が少なく、軽量でコンパクトな非対称ダンピング特性を有するオートテンショナの基本構造は維持したうえで、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確保することができるオートテンショナとする対応が考えられる。
【0010】
そのためには、摩擦部材がアームに係止される係止面(第1係止部)が、径方向外側に向かうほど一方向側に向かうように径方向に対して傾斜している構成(以下、構成Sとする)において、摩擦部材がアームに係止される係止面(第1係止部)が径方向外側に向かうほど一方向側に向かうように径方向に対して傾斜している度合い(傾斜角度θ)がより大、即ち、ベルト張力が増加した場合に摩擦部材に作用する、アームから受けた力Faと、コイルばねのねじり復元力Fsとの合力Frにおける、ベースの外筒部の内周面に作用する垂直抗力成分(Frの径方向成分)Frvの大きさがより大、即ち、ベルト張力が増加した場合に摩擦部材の円弧面とベースの外筒部との間に発生させる摩擦力(ひいては減衰力)がより大、となるようオートテンショナを構成すればよいと考えられる。
【0011】
しかしながら、当該構成では(つまり、傾斜角度θが、0°<θ≦90°の範囲内に設けられた構成(構成S)において、傾斜角度θをより大に設けると)、ベルト張力が減少した場合に摩擦部材が一方向側に抜け出るおそれがある。ベルト張力が減少するたびに摩擦部材がアームに対して一方向側に移動する状態が繰り返されると、摩擦部材の摺動動作が渋くなり、摩擦部材の各部(特に第1係止部や円弧面)にガタ付きや異常摩耗が生じ、その結果、ダンピング特性(摺動面で生じる摩擦力)が不安定になったり、異音が発生したりする不具合が生じてしまう。
【0012】
そこで、本発明は、部品点数が少なく、軽量でコンパクトな非対称ダンピング特性を有しつつ、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に(不具合なく、安定して)確保することができるオートテンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
円筒部を有するベースと、
前記ベースに対して回動自在に支持されたアームと、
前記アームに回転自在に設けられるとともに、ベルトが巻き掛けられるプーリと、
前記円筒部の内周面と前記アームとの間に前記円筒部の径方向に挟まれる摩擦部材と、
一端が前記摩擦部材に係止され、他端が前記ベースに係止され、前記円筒部の軸方向に圧縮された状態で配置されて前記摩擦部材を前記アームに前記軸方向に押し付けるとともに、前記摩擦部材を介して前記アームを前記ベースに対して一方向に回動付勢するコイルばねと、を備え、
前記摩擦部材は、前記円筒部の内周面に沿って摺接可能な円弧面と、前記円筒部の周方向に関して前記円弧面より前記一方向側に位置し、前記アームに係止され、前記径方向外側に向かうほど前記一方向側に向かうように前記径方向に対して傾斜している第1係止部と、
前記第1係止部より前記径方向外側で、前記コイルばねの前記一端と係止される第2係止部とを有するオートテンショナであって、
前記摩擦部材及び前記アームは、前記摩擦部材が前記アームに対して前記一方向側に移動するのを規制する規制手段を有していることを特徴とするオートテンショナである。
【0014】
本構成(規制手段を有する構成)によれば、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に確保するために、摩擦部材がアームに係止される係止面(第1係止部)が径方向外側に向かうほど一方向側に向かうように径方向に対して傾斜しているオートテンショナにおいて、摩擦部材がアームに係止される係止面(第1係止部)が径方向外側に向かうほど一方向側に向かうように径方向に対して傾斜している度合い(傾斜角度θ)をより大に設けても、ベルト張力が減少した場合に摩擦部材が一方向側に抜け出るおそれがない(ベルト張力が減少するたびに、アームに係止される摩擦部材の係止面がアームの係止面から外れるのを確実に防止できる)。
したがって、部品点数が少なく、軽量でコンパクトな非対称ダンピング特性を有するオートテンショナでありながら、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に(ダンピング特性が不安定になったり、異音が発生したりするなどの不具合が生じることなく、)確保することができる。
【0015】
また、本発明は、上記オートテンショナにおいて、
前記規制手段が、前記摩擦部材の前記第1係止部と前記アームの係止面とが互いにかみ合うように構成されていてもよい。
【0016】
本構成によれば、摩擦部材とアームとを、接着剤による接着やリベットによる固定等を行わなくても、容易に組み立てることができ、且つ、ベルト張力が減少した場合に、確実に摩擦部材をアームに対して一方向側に移動するのを規制することができる(移動不能にできる)。
【0017】
また、本発明は、上記オートテンショナにおいて、
前記規制手段が、前記第1係止部際の、前記摩擦部材における前記一方向側の側面部分と、該側面部分と対向する、前記アームに形成された突片部とが接触するように構成されていてもよい。
【0018】
本構成によれば、摩擦部材とアームとを、接着剤による接着やリベットによる固定等を行わなくても、容易に組み立てることができ、且つ、ベルト張力が減少した場合に、確実に摩擦部材をアームに対して一方向側に移動するのを規制することができる(移動不能にできる)。
【0019】
また、本発明は、上記オートテンショナにおいて、
前記摩擦部材及び前記アームは、前記第1係止部が径方向外側に向かうほど前記一方向側に向かうように径方向に対して傾斜している度合いを表す傾斜角度(θ)が、35°以上70°以下の範囲内になるように形成されていてもよい。
【0020】
本構成によれば、ベルト張力が増加した場合に摩擦部材及びアームの互いの係止面に無理な力が加わり、該係止面を含む部分が変形するなどの不具合が生じてしまうおそれなく、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
部品点数が少なく、軽量でコンパクトな非対称ダンピング特性を有しつつ、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に(不具合なく、安定して)確保することができるオートテンショナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態のオートテンショナの断面図である。
【
図2】
図1のB‐B線断面図である(傾斜角度θは70°)。
【
図4】本発明の第2実施形態のオートテンショナの断面図である(傾斜角度θは70°)。
【
図5】規制手段を有しておらず、傾斜角度θが70°に設けられたオートテンショナの断面図である。(a)はベルト張力が増加したときに摩擦部材に作用する力を示した図である。(b)はベルト張力が減少したときに摩擦部材に作用する力を示した図であって、摩擦部材がX方向(一方向)側に抜け出した状態を想定した図である。
【
図6】規制手段を有しておらず、傾斜角度θが0°に設けられたオートテンショナの
図5(a)に対応する図である。
【
図7】規制手段を有しておらず、傾斜角度θが35°に設けられたオートテンショナの
図5(a)に対応する図である。
【
図8】規制手段を有しておらず、傾斜角度θが90°に設けられたオートテンショナの
図5(a)に対応する図である。
【
図9】実施例に係る耐久性試験で使用する試験用ベルトシステムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施形態1)
次に、本発明の実施形態1について説明する。本実施形態は、特に、自動車用エンジンの補機を駆動する伝動ベルト101の弛み側張力を一定に保つオートテンショナに本発明を適用した一例である。
【0024】
(オートテンショナ1の構成)
本実施形態のオートテンショナ1は、自動車用エンジンのクランクシャフトに連結された駆動プーリ(図示省略)と、オルタネータ等の補機を駆動する従動プーリ(図示省略)とにわたって伝動ベルトが巻き掛けられている補機駆動システムに用いられている。詳細には、オートテンショナの後述するプーリ4は、伝動ベルトの弛み側に接触するように配置されている。この補機駆動システムは、クランクシャフトの回転が伝動ベルトを介して従動プーリに伝達されて、補機が駆動されるようになっている。
【0025】
図1に示すように、本発明の第1実施形態のオートテンショナ1は、
図1中二点鎖線で示すエンジンブロック100に固定されるベース2と、このベース2に対して軸Rを中心に回動自在に支持されたアーム3と、このアーム3に回転自在に設けられたプーリ4と、コイルばね5と、摩擦部材6とを備えている。なお、
図1中の左右方向を前後方向と定義する。また、軸Rを中心とした径方向を単に径方向、軸Rを中心とした周方向を単に周方向と定義する。
【0026】
ベース2は、例えば、アルミニウム合金鋳物等からなる金属部品であり、エンジンブロック100に固着される環状の台座部20と、台座部20の外縁部から前方に延びる外筒部(円筒部)21と、台座部20の中央部から前方に延びる内筒部22とを備えている。内筒部22の内側には軸受け7を介して、前後方向(軸R方向)に延びるシャフト8が回動自在に挿通されている。
【0027】
内筒部22およびアーム3の後述する突出部31と、外筒部21との間には、ばね収容室9が形成されている。このばね収容室9にコイルばね5が配置されている。
図1~
図3に示すように、コイルばね5は、後端部(他端)から前端部(一端)に向かってX方向に螺旋状に巻かれている。なお、
図1は、
図2及び
図3に示すC‐C線断面図である。
【0028】
図1及び
図3に示すように、台座部20の前面には、コイルばね5の後端部(他端)を保持(係止)する保持溝(端部保持手段)23が形成されている。コイルばね5は、後端近傍において後端が径方向内側に向かう方向に屈曲しており、この屈曲部より後端側の部分が直線状に延びている。この直線状の部分が保持溝23に保持されている。コイルばね5の後端部は、保持溝23の両側面に径方向に挟まれていると共に、保持溝23の底面に接触している。
【0029】
なお、コイルばね5の後端面はどの部材にも当接していないが、コイルばね5の後端部の直線状に延びる部分における屈曲部の近傍が保持溝23によって径方向に挟持されているため、コイルばね5の後端部が、ねじり変形による弾性復元力によって移動するのを防止できる。
【0030】
また、台座部20の前面には、前方に突出する2つの姿勢支持部24、25が周方向に間隔を空けて形成されている。姿勢支持部24、25は、保持溝23から周方向に離れており、保持溝23からX方向にこの順で並んでいる。
図3に示すように、姿勢支持部24は、軸Rに略直交する軸方向支持面24aと、周方向に沿った径方向支持面24bとを有する。
図3に示すように、姿勢支持部25は、軸Rに略直交する軸方向支持面25aを有する。
【0031】
軸方向支持面24a、25aには、コイルばね5の後面が接触し、径方向支持面24bには、コイルばね5の軸Rを中心とした径方向外側の面が接触する。したがって、コイルばね5の後端側の一巻き目領域における保持溝23で保持された部分より前端部側の部分は、2つの姿勢支持部24、25によって軸方向および径方向に支持される。これにより、コイルばね5が安定してねじり変形することができる。
【0032】
アーム3(回動部材)は、ベース2の外筒部21の前方に配置される円盤部30と、円盤部30の中央部から後方に延びる突出部31と、円盤部30の外縁の一部から張り出して形成されたプーリ支持部32とを備えている。このアーム3も前述のベース2と同様に、アルミニウム合金鋳物等からなる金属部品である。
【0033】
円盤部30と突出部31の中央部には、前後方向に延びる孔が形成されており、この孔にシャフト8が相対回転不能に挿入されている。したがって、アーム3は、シャフト8を介して、ベース2に回動自在に支持されている。
【0034】
プーリ支持部32には、プーリ4が回転自在に取り付けられている。プーリ4には、伝動ベルト101が巻き掛けられる。伝動ベルト101の張力の増減に伴って、プーリ4(およびアーム3)は、軸Rを揺動中心として揺動する。なお、
図1中、プーリ4の内部構造は省略して表示している。
【0035】
円盤部30の後面の外縁近傍には、ベース2の外筒部21の前端部が収容される環状溝30aが形成されている。また、円盤部30の後面において、突出部31より径方向外側で環状溝30aより径方向内側の部分は、軸Rに垂直な平坦状に形成されている。
【0036】
突出部31は、略円筒状に形成されている。
図2に示すように、突出部31の前側部分には、扇形状の切欠きが形成されている。この切欠きの周方向両側は、係止面31aと接触面31bで構成されている。軸R方向から見て、係止面31aは、係止面31aの任意の点と軸Rとを通る直線に対して交差する。つまり、係止面31aは、径方向に対して傾斜している。より詳細には、係止面31aは、径方向外側に向かうほどX方向に向かうように径方向に対して傾斜している(詳細は後述)。また、接触面31bは、径方向外側に向かうほどX方向と逆方向に向かうように径方向に対して傾斜している。
【0037】
ここで、このアーム3の突出部31の係止面31aには、後述する摩擦部材6の係止面61(第1係止部)に形成された凹凸と互いにかみ合う、凹凸が形成されている。具体的には、
図2に示すように、軸R方向から見て、係止面31aの中央寄りに、高さ(係止面31aと直交する方向の長さ)1mm、ピッチ1.1mm、ピッチ数3からなる、一連の三角形状(電光形状)の凹凸が形成されている。なお、係止面31aに形成する凹凸の、サイズ、形状、ピッチ等は、任意に変更可能である。但し、係止面31aの両端寄りに凹凸を設けることは、摩擦部材6の強度面の確保が困難となるため極力避け、本実施形態のように、係止面31aの中央寄りに凹凸を設けることが望ましい。
【0038】
摩擦部材6は、ベース2の外筒部21の内周面とアーム3の突出部31との間に径方向に挟まれている。摩擦部材6の前後方向長さは、係止面31aおよび接触面31bの前後方向長さとほぼ同じである。摩擦部材6の前面は、平坦状であって、その全面又は一部がアーム3の円盤部30の後面に接触する。
【0039】
摩擦部材6は、合成樹脂に繊維、充填剤、固体潤滑材等を配合させた潤滑性の高い材料を射出成形したもので形成されている。摩擦部材6を構成する合成樹脂としては、例えば、ポリアミド(ナイロン6T)、ポリアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポロフェニレンサルファイド、超高分子量ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、または、フェノール等の熱硬化性樹脂が用いられる。なお、摩擦部材6は、前面と後述する円弧面60が上述の材料で構成されていれば、上記以外の材料を含んでいてもよい。
【0040】
摩擦部材6は、軸Rに直交する断面形状が略扇形状であって、円弧面60と、この円弧面60に対向する係止面61と、周方向に対向する2つの側面62、63を有する。円弧面60は、外筒部21の内周面とほぼ同じ曲率に形成されており、外筒部21の内周面に沿って摺接可能である。係止面61(第1係止部)は、アーム3の突出部31の係止面31aに接触する。2つの側面62、63のうちX方向と逆方向側の側面63の径方向内側端部は、アーム3の突出部31の接触面31bに接触する。
【0041】
係止面61は、円弧面60より周方向に関してX方向側に位置する。また、係止面61は、径方向外側に向かうほどX方向側に向かうように、径方向に対して傾斜している。2つの側面62、63は、径方向外側に向かうほどX方向と逆方向側に向かうように、径方向に対して傾斜している。
【0042】
摩擦部材6の係止面61は、係止面61が径方向外側に向かうほどX方向側に向かうように径方向に対して傾斜している度合いを表す傾斜角度(θ)(傾斜角度(θ)の起点は係止面61とシャフト8の外周面との接触点)は、0°<θ≦90°の範囲内であることが想定される。ここで、傾斜角度(θ)は、35°≦θ≦70°の範囲内になるように形成されるのが好ましい(
図2参照)。なお、摩擦部材6の係止面61が接触する、アーム3の突出部31の係止面31aに関しても、径方向外側に向かうほど一方向側に向かうように径方向に対して傾斜している度合いを表す角度は、当該傾斜角度(θ)と同じである。
【0043】
なお、傾斜角度(θ)が0°の構成とは、摩擦部材6の係止面61が径方向(円筒部21の径方向)に沿って形成されていることを示す。
また、傾斜角度(θ)が90°の構成とは、摩擦部材6の係止面61が接線方向(円筒部21の接線方向)に沿って形成されていることを示す。
【0044】
傾斜角度(θ)を、35°≦θ≦70°の範囲内にしたのは以下の理由による。
傾斜角度(θ)が35°を下回る場合(0°<θ<35°の場合)、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に確保することができる効果が薄いものとなるからである。
一方、傾斜角度(θ)が70°を上回る場合(70°<θ<≦90°の場合)、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)を極めて高い水準に確保することができるが、ベルト張力が増加した場合に摩擦部材6の係止面61及び突出部31の係止面31aに無理な力が加わり、アーム3の一部である突出部31はアルミニウム合金鋳物製であるが摩擦部材6を合成樹脂製の1部品で構成した場合は、オートテンショナ1の機能上問題ないものの、摩擦部材6がアーム3に係止される係止面61の外縁近傍(軸R方向から見て、先細りの部分)が変形することが考えられるからである。
従って、傾斜角度(θ)を、35°≦θ≦70°の範囲内にすることにより、ベルト張力が増加した場合に摩擦部材6の係止面61及び突出部31の係止面31aに無理な力が加わり、摩擦部材6がアーム3に係止される係止面61の外縁近傍が変形するなどの不具合が生じてしまうおそれなく、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に確保することができる。
【0045】
更に、摩擦部材6の係止面61には、前述した突出部31の係止面31aに形成された凹凸と互いにかみ合う、凹凸が形成されている。具体的には、
図2に示すように、軸R方向から見て、係止面61の中央寄りに、高さ(係止面61と直交する方向の長さ)1mm、ピッチ1.1mm、ピッチ数3からなる、一連の三角形状(電光形状)の凹凸が形成されている。なお、係止面61に形成する凹凸の、サイズ、形状、ピッチ等は、任意に変更可能である。但し、係止面61の両端寄りに凹凸を設けることは、摩擦部材6の強度面の確保が困難となるため極力避け、本実施形態のように、係止面61の中央寄りに凹凸を設けることが望ましい。
【0046】
このように、摩擦部材6の係止面61に形成された凹凸と、アーム3の突出部31の係止面31aに形成された凹凸とが互いにかみ合う構成は、摩擦部材6がアーム3の突出部31に対してX方向側に移動するのを規制する規制手段としての役割を果たす。
【0047】
摩擦部材6の後面には、コイルばね5の前端部(一端)を保持(係止)する保持溝64(第2係止部)が形成されている。コイルばね5の前端部は、後端部と同様に、先端近傍において屈曲して、屈曲部より先端側の部分が直線状に延びている。この直線状の部分が保持溝64に保持されている。保持溝64は、係止面61より径方向外側に位置すると共に、周方向に関して係止面61よりX方向と逆方向側に位置する。
【0048】
コイルばね5は、軸R方向(前後方向)に圧縮された状態で配置されている。そのため、コイルばね5は、軸R方向の弾性復元力によって、摩擦部材6をアーム3の円盤部30の後面に押し付けている。
【0049】
また、コイルばね5は、拡径方向にねじられた状態で配置されている。そのため、コイルばね5は、周方向の弾性復元力によって、摩擦部材6を介してアーム3をX方向、即ち、プーリ4を伝動ベルト101に押し付けて伝動ベルト101の張力を増加させる方向に回動付勢している。
【0050】
(オートテンショナ1の動作)
次に、オートテンショナ1の動作について説明する。
伝動ベルト101の張力が増加した場合には、アーム3はコイルばね5の周方向の付勢力に抗して、
図2に示す矢印A方向(X方向と逆方向)に回動する。摩擦部材6はアーム3の係止面31aから力Faを受けて矢印A方向に回動し、摩擦部材6の円弧面60がベース2の外筒部21の内周面と摺動する。
【0051】
摩擦部材6の円弧面60は、摩擦部材6の係止面61よりも周方向に関してX方向と逆方向側(矢印A方向側)に位置している。さらに、本実施形態では、係止面61の任意の点における接線方向と円弧面60とが交差している。摩擦部材6の係止面61がアーム3から受ける力Faは、係止面61における接線方向の力であるため、係止面61から力Faの方向の直線上に円弧面60が存在することになる。そのため、摩擦部材6の係止面61がアーム3から受ける力Faを、摩擦部材6の円弧面60をベース2の外筒部21の内周面に押し付ける力に使うことができる。
【0052】
また、摩擦部材6は、コイルばね5を拡径方向にねじり変形させたことによる弾性復元力(以下、「ねじり復元力」という。)Fsを受けている。ねじり復元力Fsは、X方向の分力Fs1と、縮径方向の分力Fs2との合力である。
【0053】
したがって、摩擦部材6には、アーム3から受けた力Faと、コイルばね5のねじり復元力Fsとの合力Frが作用する。力Faはねじり復元力Fsよりも大きいため、合力Frは径方向外向きの力となり、摩擦部材6の円弧面60は合力Frによってベース2の外筒部21の内周面に押し付けられる。そのため、摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21との間に大きい摩擦力を生じさせることができ、アーム3の揺動を十分に減衰させるような大きな減衰力を発生させることができる。
【0054】
逆に、伝動ベルト101の張力が減少した場合には、コイルばね5のねじり復元力Fsにより、アーム3が
図2に示す矢印B方向(X方向と同じ方向)に回動し、プーリ4がベルト張力を回復させるように揺動する。摩擦部材6はコイルばね5からねじり復元力Fsを受けて矢印B方向に回動し、摩擦部材6の円弧面60がベース2の外筒部21の内周面と摺動する。摩擦部材6はねじり復元力Fsの縮径方向の分力Fs2によって径方向内側に付勢されるため、摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21の内周面との間に生じる摩擦力は小さい。
【0055】
仮に、円弧面60のX方向側端部が係止面61の周方向範囲まで延びている場合、コイルばね5のねじり復元力Fsの周方向の分力Fs1によって、摩擦部材6の円弧面60が外筒部21の内周面に押し付けられることになるが、本実施形態では、摩擦部材6の円弧面60が、摩擦部材6の係止面61よりも周方向に関してX方向と逆方向側に位置しているため、コイルばね5のねじり復元力Fsの周方向の分力Fs1によって、摩擦部材6の円弧面60が外筒部21の内周面に押し付けられることがなく、摩擦部材6の円弧面60と外筒部21の内周面との間の摩擦力の増加を防止できる。
【0056】
したがって、摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21の内周面との間には、アーム3が矢印A方向に回動した場合に比べて小さい摩擦力が発生するため、アーム3はコイルばね5のねじり復元力を十分に受けることができ、アーム3の揺動をベルト張力の減少に対して十分に追従させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、伝動ベルト101の張力が減少した場合、摩擦部材6の係止面61に形成された凹凸と、アーム3の突出部31の係止面31aに形成された凹凸とが互いにかみ合い(規制手段)、摩擦部材6がアーム3の突出部31に対してX方向側に移動するのを規制することから、傾斜角度(θ)が70°に設けられても、ベルト張力が減少した場合に摩擦部材6がX方向側に抜け出るおそれは無くなり、オートテンショナ1の作動中に、ダンピング特性が不安定になったり、異音が発生したりするのを防止することができる。したがって、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に(不具合なく、安定して)確保することができる。
【0058】
また、摩擦部材6の円弧面60が係止面61よりもX方向と逆方向側に位置していることと、摩擦部材6がコイルばね5のねじり復元力Fsの縮径方向の分力Fs2によって径方向内側に付勢されていることから、摩擦部材6がコイルばね5のねじり復元力Fsの周方向の分力Fs1によって周方向に移動して係止面61がアーム3の係止面31aから外れるのを防止できる。
【0059】
また、本実施形態のオートテンショナ1は、摩擦部材6とコイルばね5だけで非対称ダンピング特性を実現しているため、軽量であると共に、部品点数が少なく組立が容易である。また、ベース2の外筒部21とアーム3との間に径方向に挟まれた摩擦部材6にコイルばね5の前端部が係止されているため、コイルばね5とベース2の外筒部21との間に大きい空間を確保する必要がなく、オートテンショナをコンパクト化できる。
【0060】
また、本実施形態では、摩擦部材6の円弧面60は係止面61よりX方向と逆方向側に形成されているため、保持溝64も係止面61よりX方向と逆方向側に形成することにより、保持溝64の周方向範囲内に係止面61が形成されている場合と比べて、摩擦部材6を周方向にコンパクト化できる。
【0061】
また、本実施形態では、摩擦部材6の係止面61が径方向外側に向かうほどX方向側に向かうように径方向に対して傾斜しているため、摩擦部材6の組み付けが容易である。
【0062】
(規制手段の有用性の説明)
傾斜角度(θ)と、ベルト張力が増加した場合に、ベース2の外筒部21の内周面に作用する垂直抗力成分Frvの大きさ、即ち、ベルト張力が増加した場合に摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21との間に発生させる摩擦力(ひいては減衰力)と、の関係(比例関係)を踏まえて、規制手段の有用性について説明する。
【0063】
図5~8(規制手段を有さないオートテンショナにおいて、ベルト張力が増加したとき、またはベルト張力が減少したときに摩擦部材に作用する力を示した図)に示すように、摩擦部材の係止面が、径方向外側に向かうほどX方向(一方向)側に向かうように径方向に対して傾斜している構成において、摩擦部材の係止面の傾斜角度(θ)が大きくなるほど、ベルト張力が増加した場合にベースの外筒部の内周面に作用する垂直抗力成分Frvの大きさが大きくなる。
【0064】
例えば、ベースの外筒部の内周面に作用する垂直抗力成分Frvの大きさ(指数)は、摩擦部材の係止面の傾斜角度(θ)が0°の構成(つまり摩擦部材の係止面の傾斜角度(θ)が径方向に沿って形成された構成)(
図6参照)において100(指数)とした場合の相対比較で、摩擦部材の係止面の傾斜角度(θ)が35°の構成(
図7参照)では、120(指数)、摩擦部材の係止面の傾斜角度(θ)が70°の構成(
図5(a))では、134(指数)、摩擦部材の係止面の傾斜角度(θ)が90°の構成(
図8)では、137(指数)、となる。
ひいては、摩擦部材の円弧面とベースの外筒部の内周面との間の摩擦係数、ならびにコイルばねのねじり復元力が同じである限り、摩擦部材の係止面の傾斜角度(θ)が大きくなるほど、ベルト張力が増加した場合の減衰力も大きくなると考えられる。
【0065】
また、摩擦部材の係止面の傾斜角度(θ)が大きくなるほど、ベルト張力が減少した場合に、摩擦部材がコイルばねのねじり復元力Fsの周方向の分力Fs1によって周方向(X方向側)に移動して摩擦部材の係止面がアームの突出部の係止面から外れやすくなる(摩擦部材がX方向側に抜け出やすくなる)と考えられる。
【0066】
例えば、自動車エンジンの補機駆動ベルトシステム用のオートテンショナ、つまり、ベルト走行中、アームの揺動幅は概ね10°以下であって、ベルト張力が減少した場合の摩擦部材の位置が、所定の初期張力を付与した時点の摩擦部材の位置(基準位置)から、軸Rを揺動中心としてX方向に概ね5°の範囲内に留まるオートテンショナにおいて、傾斜角度θが70°に設けられているが、規制手段を有していない構成(
図5(a))とした場合、
図5(b)に示すように、ベルト張力が減少するたびに摩擦部材がX方向(一方向)側に若干程度抜け出す(アームの突出部の係止面に係止される摩擦部材の係止面が、アームの突出部の係止面から外れる)おそれがあると考えられる。
【0067】
そこで、本実施形態のように、摩擦部材6の係止面61に形成された凹凸と、アーム3の突出部31の係止面31aに形成された凹凸とが互いにかみ合う規制手段を設けることにより、傾斜角度(θ)をより大に設けても、ベルト張力が減少した場合に摩擦部材6が一方向側に抜け出るおそれがない(ベルト張力が減少するたびに、アーム3の突出部31の係止面31aに係止される摩擦部材6の係止面61がアーム3の突出部31の係止面31aから外れるのを確実に防止できる)。
【0068】
即ち、摩擦部材6とアーム3とを、接着剤による接着やリベットによる固定等を行わなくても、容易に組み立てることができ、且つ、ベルト張力が減少した場合に、確実に摩擦部材6をアーム3に対してX方向側に移動するのを規制することができる(移動不能にできる)。
したがって、部品点数が少なく、軽量でコンパクトな非対称ダンピング特性を有するオートテンショナ1でありながら、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に(ダンピング特性が不安定になったり、異音が発生したりするなどの不具合が生じることなく、)確保することができる。
【0069】
(実施形態2)
上記実施形態1では、摩擦部材6がアーム3の突出部31に対してX方向側に移動するのを規制する規制手段として、摩擦部材6の係止面61に形成された凹凸と、アーム3の突出部31の係止面31aに形成された凹凸とが互いにかみ合う構成について説明した。規制手段としては、
図4に示すように、摩擦部材6の係止面161際の側面162(摩擦部材のX方向側の側面)の端部と、この側面162の端部と対向する、アーム3の突出部131の係止面131aに形成された突片部131cとが接触する構成としてもよい。
【0070】
この場合、突片部131cは、アーム3の突出部131の係止面131aの前方から後方に延びた形状をしており、突出部131の一部分として形成されている。突片部131cの大きさに関しては、前後方向(軸R方向)の長さは、摩擦部材6の前後方向長さ(厚み)と同じか若干長くし、摩擦部材6のX方向側の側面162に沿う方向の長さL(
図4参照)は、ベルト張力が減少した場合に、確実に摩擦部材6をアーム3に対してX方向側に移動するのを規制することができる(移動不能にできる)ことと、ベルト張力が増加した場合に減衰力をより高い水準に確実に確保できることと、を両立できる必要最小限の長さ(例えば1~2mm程度)に留めるのが望ましい。なぜなら、摩擦部材6のX方向側の側面162の長手方向に沿う方向の長さを長くするほど、ベース2の外筒部21の内周面に作用する垂直抗力成分(Frの径方向成分)Frv(
図5参照)の大きさ、即ち、ベルト張力が増加した場合に摩擦部材6の円弧面60とベース2の外筒部21との間に発生させる摩擦力(ひいては減衰力)が減少してしまうからである。
【0071】
本実施形態では、伝動ベルト101の張力が減少した場合、摩擦部材6の側面162の端部が、アーム3の突出部131の係止面131aに形成された突片部131cに接触し(規制手段)、摩擦部材6がX方向側に移動するのを規制することから、傾斜角度(θ)が70°に設けられても、ベルト張力が減少した場合に摩擦部材6がX方向側に抜け出るおそれは無くなり、オートテンショナ110の作動中に、ダンピング特性が不安定になったり、異音が発生したりするのを防止することができる。したがって、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に(不具合なく、安定して)確保することができる。
【0072】
(その他の実施形態)
(1)上記実施形態では、摩擦部材6の係止面61は、係止面61が径方向外側に向かうほどX方向側に向かうように径方向に対して傾斜している度合いを表す傾斜角度(θ)が、35°≦θ≦70°の範囲内の場合について詳細に説明したが、摩擦部材6の係止面61は、係止面61が径方向外側に向かうほどX方向側に向かうように径方向に対して傾斜していればよいことから、傾斜角度(θ)は、0°<θ≦90°の範囲内に設けられていればよい。
【0073】
(2)上記実施形態では、摩擦部材が1部品で構成されているが、摩擦部材は2部品で構成されていてもよい。
【0074】
例えば、摩擦部材6は、円弧面60と前面(即ち、円弧面60に連続する、摩擦部材6における軸方向にアーム3と接触する面)とを構成する第1部品、及び、係止面61と保持溝64とを構成する第2部品からなる構成であってもよい(特許文献1の第3実施形態参照)。この場合、第2部品は、第1部品よりも表面硬度が高いことが好ましい。例えば、第1部品は、ポリアミド(ナイロン6T)等の合成樹脂を射出成形し、第2部品は、アルミニウム合金鋳物(ADC12)等の金属部品で形成することが挙げられる。
【0075】
このように、係止面61と保持溝64とが比較的表面硬度の高い第2部品で構成されているため、ベルト張力の増加に伴い係止面61および保持溝64に作用する力が増大した場合でも、係止面61および保持溝64の損傷(変形や陥没)を防止できる。また、係止面61および保持溝64の損傷が防止されるため、大きなベルト張力が要求される高負荷駆動システムへの対応、摩擦部材6のコンパクト化等の実現も可能である。なお、第1部品は、円弧面60と前面とを構成しており、軸方向の抜け落ちが防止されるようになっている。
【0076】
また、第1部品と第2部品とは、それぞれ互いに対向する面に凹凸を有しており、互いに周方向に関してかみ合うように構成されていてもよい。これにより、第1部品と第2部品とを、接着剤による接着やリベットによる固定等を行わなくても、互いに周方向に移動不能に配置することができ、容易に組み立てることができる。
【実施例0077】
本発明のオートテンショナにおいては、部品点数が少なく、軽量でコンパクトな非対称ダンピング特性を有しつつ、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に(ダンピング特性が不安定になったり、異音が発生したりするなどの不具合が生じることなく、)確保する必要がある。
そこで、本実施例では、実施例1~12、参考例1~3および比較例1~4に係るオートテンショナ(以下、各供試体)を作製し、トルク測定試験、および耐久性試験を行い、比較検証を行った。
なお、以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0078】
[供試体]
各試験に用いた供試体(実施例1~12、参考例1~3および比較例1~4のオートテンショナ)は、下記のように、摩擦部材とアームの構成に係る、規制手段の有無・構成ならびに係止面(第1係止部)の傾斜角度が異なる点以外は供試体間で同じ構成とし、特許文献1に記載のオートテンショナのように、部品点数が少なく、軽量でコンパクトな非対称ダンピング特性を有するオートテンショナの基本構造は維持し得る構成とした。
【0079】
(摩擦部材)
摩擦部材は、1部品で構成(2部品の場合と比較し、強度面の確保が不利な構成)とし、ポリアミド樹脂(PA6T)を射出成形して形成させた。
摩擦部材の揺動軸の軸心方向(軸R方向)に見た円弧面の中心角は43°である。
摩擦部材の前後方向長さは、コイルばねの線径の約1.4倍である。
【0080】
(軸受)
軸受は、円筒状の金属製軸受(所謂メタル軸受)である。
軸受の揺動軸と接触する内周面は、ポリ四フッ化エチレンの潤滑材を含有する樹脂組成物(低摩擦材)で構成される。
【0081】
(ベースとアーム)
ベースとアームは、アルミニウム合金鋳物(ADC12)で形成させた。
【0082】
(摩擦部材とアームにおける規制手段の有無・構成:表1及び表2)
表1及び表2に示すように、実施例1~6のオートテンショナは、上記実施形態1(
図2参照)のオートテンショナと同じ構成とした。即ち、摩擦部材及びアームが互いの係止面(互いの係止面に形成された凹凸)が互いにかみ合うように構成された規制手段を有する。
当該規制手段(摩擦部材の係止面の凹凸及びアームの係止面に形成された凹凸)は、軸R方向から見て、互いの係止面の中央寄りに、係止面と直交する方向に沿う長さ1mm(高さ)、ピッチ1.1mm、ピッチ数3からなる一連の三角形状の凹凸とした。
【0083】
実施例7~12のオートテンショナは、上記実施形態2(
図4参照)のオートテンショナと同じ構成とした。即ち、摩擦部材の係止面際の側面(摩擦部材のX方向側の側面)の端部と、この側面の端部と対向する、アームの係止面に形成された突片部とが接触するように構成された規制手段を有する。
当該突片部は、前後方向(軸R方向)の長さを摩擦部材の前後方向の長さ(厚み)と同じとし、摩擦部材のX方向側の側面に沿う方向の長さ(L寸法:
図4参照)を2mmに設けた。
【0084】
参考例1~3および比較例1~4のオートテンショナは、規制手段を有さない構成とした。
【0085】
(摩擦部材とアームにおける係止面の傾斜角度(θ):表1及び表2)
表1及び表2に示すように、実施例1~6、および実施例7~12のオートテンショナは、それぞれ、傾斜角度(θ)が5°、30°、35°、70°、75°、90°と、傾斜角度(θ)が0°<θ≦90°の範囲内で比較的小さい水準から比較的大きい水準まで段階的に変化するように、摩擦部材及びアームを構成した。
【0086】
参考例1~3のオートテンショナは、傾斜角度(θ)が0°(基準)、5°、30°と、傾斜角度(θ)が0°<θ≦90°の範囲内で比較的小さい水準(特許文献1記載の実施形態1の傾斜角度(特許文献1の
図4からは約33°と推定)と同等以下の水準)にとどまるように、摩擦部材及びアームを構成した。
【0087】
比較例1~4のオートテンショナは、傾斜角度(θ)が35°、70°、75°、90°と、傾斜角度(θ)が0°<θ≦90°の範囲内で比較的大きい水準にとどまるように、摩擦部材及びアームを構成した。
【0088】
[オートテンショナの評価:項目、方法、基準]
表1及び表2に示す各供試体について、本願課題を解決し得るオートテンショナが得られたかどうかを見極めるために、ダンピング特性(減衰トルクの幅、トルクカーブの安定性)、および耐久性(異音の発生の有無、摩擦部材の状態)を検証した。
【0089】
[ダンピング特性(減衰トルクの幅、トルクカーブの安定性)]
(試験機)
トルク測定装置を用いた。
【0090】
(試験方法)
後述する耐久性試験での試験時間で10分間(初期段階)、1時間、100時間、200時間、および300時間(目標試験時間)に到達の毎に、オートテンショナを装置から取り外し、トルク測定装置を用いてトルク測定試験を行い、トルクカーブ(アーム回動角度と減衰トルクとの関係を示す線図)を得た。このトルクカーブから、コイルばねの組み付け時にアームを回動させる角度(以下、アーム回動角度という、例えば60°)における減衰トルクの幅[N・m]を読み取るとともに、トルクカーブの安定性(トルクカーブに乱れがないかどうか)を読み取った。
【0091】
ここで、減衰トルクの幅[N・m]とは、任意のアーム回動角度(例えば60°)における、ベルト張力が増加した場合の減衰トルク[N・m]から、ベルト張力が減少した場合の減衰トルク[N・m]を差し引いた値を指す。
【0092】
減衰トルクの幅に関する評価結果は、基準とする傾斜角度0°のオートテンショナ(参考例1)での減衰トルクの幅を100(指数)とした場合の指数で表した。
【0093】
後述の判定基準に従い、ダンピング特性(減衰トルクの幅、トルクカーブの安定性)に係る判定が合格レベル(a判定、b判定)のオートテンショナに限り、後述する耐久性試験の試験機に戻し、以降の耐久性試験を続行させた。
【0094】
(判定基準)
ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に(特にダンピング特性が不安定になることなく)確保することができているかどうかの判断の指標として、減衰トルクの幅(値が小さすぎるとベルト張力が増加した場合の減衰力をより高い水準に確保することができなくなる)、ならびにトルクカーブの安定性(トルクカーブに乱れがあると、ダンピング特性が不安定になる)を指標とした。
【0095】
減衰トルクの幅(指数)が120以上で、且つ、トルクカーブに乱れがない場合は、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に(ダンピング特性が不安定になることなく)確保することができると評価し、a判定とした。
【0096】
減衰トルクの幅(指数)が100を上回るが120未満で、且つ、トルクカーブに乱れがない場合は、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に(ダンピング特性が不安定になることなく)確保する観点でやや劣ると評価し、b判定とした。
【0097】
減衰トルクの幅(指数)によらず(たとえ120以上でも)、トルクカーブに乱れが認められる場合は、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に(ダンピング特性が不安定になることなく)確保することができないと評価し、c判定とした。
【0098】
そして、主用途(自動車エンジンの補機駆動ベルトシステム用)での実使用に対する適正(ダンピング特性の確保)の観点から、a判定、b判定のオートテンショナを合格レベルとした。
【0099】
[耐久性(異音の発生の有無、摩擦部材の状態)]
(試験機)
アームを強制的に揺動させる試験を行うため、試験には、
図9に示す試験用ベルトシステム200を使用した。
【0100】
試験用ベルトシステム200は、鉛直上方に延びる1枚のフレーム220に固定されており、このフレーム220は、床等に固定されて略水平方向に延在する架台221に固定されている。試験用ベルトシステム200は、1つの駆動プーリ203によって同時に駆動される2つのベルトシステム(第1ベルトシステム201と第2ベルトシステム202)を有する。
2つのベルトシステム201、202は、駆動軸204を有する1つの駆動モータと、駆動軸に接続された1つの駆動プーリ203とを共有する。第1ベルトシステム201は、オートテンショナ205と、従動プーリ206と、ベルト207とを有する。第2ベルトシステム202は、オートテンショナ208と、従動プーリ209と、ベルト210とを有する。第1ベルトシステム201の3つのプーリの位置と、第2ベルトシステム202の3つのプーリの位置は、駆動軸204の軸心を中心として点対称である。
【0101】
駆動軸204は、フレーム220と直交する方向に配置した。従動プーリ206、209には補機を接続しなかった。駆動プーリ203の外周面には、ベルト207、210が並列に巻き掛けられる2つの周溝を、軸方向に離して設けた。駆動プーリ203は、オートテンショナ205、208のアーム3を強制的に揺動させることができるよう、駆動軸204の軸心方向に見て駆動軸204の軸心が駆動プーリ203の中心から所定の偏心量dだけ離れた位置に形成されている、いわゆる偏心プーリとした。アーム3の揺動幅(摩擦部材の摺動幅)が10°となるように、偏心量dは4mmとした。ベルト207、210は、Vリブドベルト(三ツ星ベルト社製)で、ベルト呼称が6PK730(K形リブ、ベルト幅方向のリブ山の数6、ベルト長さ(POC)730mm、ベルト幅21.4mm)のものを用いた。ベルト207、210に埋設されている心線は、ポリエステルコードを用いた撚糸ロープである。
【0102】
そして、1つの駆動プーリ203によって同時駆動される2つのベルトシステム201、202のそれぞれのオートテンショナ205、208のところに取り付ける供試体(オートテンショナ)は、実施例1~12、参考例1~3および比較例1~4の中から任意(組み合わせ自由)に選択した。
【0103】
(試験方法)
試験は、雰囲気温度95℃で行った。ベルト207、210の初期張力は330Nであった。初期張力を付与してから、慣らし走行(10秒程度)を行った後、駆動プーリ203を時計回りに回転数1200rpmで10分間駆動させ、その時点で異音の発生の有無を判定した。異音(例えばギシギシ音)の発生の有無は、検査員(立ち位置:供試体の前方1m)の聴覚で確認した。
【0104】
その後、一旦、オートテンショナ(供試体2つ)を装置から取り外し、前述のトルク測定装置を用いたトルク測定試験に供し、ダンピング特性(減衰トルクの幅、トルクカーブの安定性)の評価を行った後、判定が合格レベル(a判定、b判定)のオートテンショナに限り、当試験機(試験用ベルトシステム200)に戻し、以降の耐久性試験を続行させた。
【0105】
以降、耐久性試験での試験時間で1時間、100時間、200時間、および300時間(目標試験時間)に到達の毎に、異音の発生の有無を判定するとともに、オートテンショナ(供試体2つ)を装置から取り外し、上述のトルク測定装置を用いたトルク測定試験を繰返すものとした。300時間に達した場合、摩擦部材は、約2000万回往復して摺動する計算になる。
【0106】
最終的に、目標試験時間300時間(実車寿命に相当)に達したオートテンショナ、もしくは、耐久試験途上でのダンピング特性(減衰トルクの幅、トルクカーブの安定性)の評価で不合格レベル(c判定)と判定され耐久試験打ち切りとなったオートテンショナについては、オートテンショナを分解し、摩擦部材(特に係止面(第1係止部)や円弧面)の状態(変形、ガタ付き、異常摩耗の有無)を目視にて観察した。
【0107】
(判定基準)
ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)を確実に(特に異音が発生したりするなどの不具合が生じることなく)確保することができているかどうかの判断の指標として、異音の発生の有無(異音の発生があると、実用に耐えることができなくなる)、ならびに摩擦部材の状態(摩擦部材の各部にガタ付きや異常摩耗が生じると、その結果、異音が発生したりダンピング特性が不安定になる)を指標とした。
【0108】
異音の発生がなく、且つ、摩擦部材の状態に異常がない(摩擦部材の各部にガタ付きや異常摩耗がない)場合は、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)を確実に(異音が発生したりするなどの不具合が生じることなく)確保することができると評価し、a判定とした。
【0109】
異音の発生がなく、且つ、摩擦部材の各部にガタ付きや異常摩耗がないものの、部分的な変形が生じている場合は、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)を確実に(異音が発生したりするなどの不具合が生じることなく)確保する観点でやや劣ると評価し、b判定とした。
【0110】
異音の発生がある場合、および/または、摩擦部材の各部にガタ付きや異常摩耗がある場合は、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)を確実に(異音が発生したりするなどの不具合が生じることなく)確保することができないと評価し、c判定とした。
【0111】
主用途(自動車エンジンの補機駆動ベルトシステム用)での実使用に対する適正(耐久性の確保)の観点から、a判定、b判定のオートテンショナを合格レベルとした。
【0112】
(総合判定)
本課題を解決し得るオートテンショナとしての総合的な判定(ランク付け)の基準は、上記2つの試験項目(ダンピング特性、耐久性)における判定の結果から、以下の通りとした。
【0113】
ランクA:上記の試験項目で、ともにa判定であった場合は、実用上全く問題ないものと判断し、最良のランクとした。
ランクB:上記の試験項目で、c判定はないが、1つでもb判定があった場合は、実用上問題ないが、やや劣るランクとした。
ランクC:上記の試験項目で、1つでも判定がc判定であった場合は、本課題の解決策として不充分なランク(不合格)とした。
【0114】
(検証結果および考察)
[規制手段有無での検証]
検証結果を表1及び表2に示す。
【0115】
【0116】
【0117】
(傾斜角度を変量した比較)
(実施例1~6、参考例1~3、比較例1~4)
摩擦部材及びアームの互いの係止面に関わる構成(傾斜角度(θ)、規制手段有無)以外の構成を同じにしたオートテンショナにおいて、係止面の傾斜角度(θ)を変量し、比較した。
【0118】
傾斜角度(θ)が0°(参考例1)を基準に、5°、30°、35°、70°、75°、90°と大きくなるほど、減衰トルクの幅(指数)が増加する傾向が見られた。
【0119】
傾斜角度(θ)が5°(実施例1、7、参考例2)、および30°(実施例2、8、参考例3)の場合には、いずれも、規制手段の有無によらず、耐久性(異音の発生の有無、摩擦部材の状態)では、目標試験時間300時間まで終始良好(a判定)であったが、ダンピング特性(減衰トルクの幅、トルクカーブの安定性)では、トルクカーブに乱れが認められなかったものの、減衰トルクの幅(指数)が100を上回るが120を下回り、b判定(総合判定でもランクB)となった。
【0120】
この結果から、傾斜角度(θ)を比較的小さい水準(5°、30°)に設けた場合、規制手段の有無によらず、ベルト張力が減少した際に摩擦部材がコイルばねの付勢方向(X方向)側に抜け出すことはなく、ダンピング特性が不安定になったり、異音が発生したりするなどの不具合が生じることはないが、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確保する観点でやや劣ると云える。
【0121】
傾斜角度(θ)が35°(実施例3、9、比較例1)、および70°(実施例4、10、比較例2)の場合、規制手段を有する構成(実施例3、4、9、10)では、ダンピング特性(減衰トルクの幅、トルクカーブの安定性)がa判定で、耐久性(異音の発生の有無、摩擦部材の状態)もa判定(総合判定でもランクA)であったが、規制手段を有さない構成(比較例1、2)では、ダンピング特性(減衰トルクの幅、トルクカーブの安定性)がc判定で、耐久性(異音の発生の有無、摩擦部材の状態)もc判定(総合判定でもランクC)となった。
【0122】
また、規制手段を有さない構成で、傾斜角度(θ)が35°(比較例1)の場合と、傾斜角度(θ)が70°(比較例2)の場合を比較すると、ダンピング特性(減衰トルクの幅、トルクカーブの安定性)、耐久性(異音の発生の有無、摩擦部材の状態)ともに、傾斜角度(θ)がより大の方(比較例2)が早期にc判定(総合判定でもランクC)となった。
【0123】
これらの結果から、傾斜角度(θ)をやや大きい水準(35°~70°)に設けた場合、規制手段を有する構成とすることで、ベルト張力が増加した場合に摩擦部材及びアームの互いの係止面に無理な力が加わり、該係止面を含む部分が変形するなどの不具合が生じてしまうおそれなく、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に(ダンピング特性が不安定になったり、異音が発生したりするなどの不具合が生じることなく)確保することができると云える。
【0124】
また、これらの結果から、規制手段を有さない構成では、傾斜角度(θ)が35°以上に設けられると、傾斜角度(θ)がより大になるほど、ベルト張力が減少するたびに摩擦部材がコイルばねの付勢方向(X方向)側により抜け出し易くなり(
図5(b)の状態)、これが繰り返されると、傾斜角度(θ)がより大になるほどより早期に、(i)摩擦部材の各部(特に係止面(第1係止部)や円弧面)にガタ付きが生じ、摩擦部材の摺動動作(特に周方向の方向転換時の動き出し)に円滑さを欠いてしまう、ことに加え、(ii)摩擦部材の抜け出しにより、摩擦部材の円弧面で異常摩耗(円弧面のX方向側の端部で異常摩耗)が生じ、その摩耗粉(樹脂の粉)が摩擦部材の円弧面とベースの外筒部の内周面との間(摺動面)に噛み込むことで摺動面の摩擦係数が変化してしまう、と考えられる。
このため(上記i、iiより)、規制手段を有さない構成では、傾斜角度(θ)がより大になるほどより早期に、ダンピング特性が不安定(トルクカーブが乱れ、減衰トルクの幅も不安定)になり、かつ異音(ギシギシ音)が発生する不具合が生じたと伺える。
【0125】
傾斜角度(θ)が75°(実施例5、11、比較例3)、および90°(実施例6、12、比較例4)の場合、規制手段を有する構成(実施例5、6、11、12)では、ダンピング特性(減衰トルクの幅、トルクカーブの安定性)がa判定で、耐久性(異音の発生の有無、摩擦部材の状態)がa判定またはb判定(総合判定はランクAまたはB)であったが、規制手段を有さない構成(比較例3、4)では、ダンピング特性(減衰トルクの幅、トルクカーブの安定性)がc判定で、耐久性(異音の発生の有無、摩擦部材の状態)もc判定(総合判定でもランクC)となった。
【0126】
この結果から、傾斜角度(θ)を最も大きい水準(75°~90°)に設けた場合、規制手段を有する構成とすることで、ベルト張力が増加した場合に摩擦部材及びアームの互いの係止面に無理な力が加わり、該係止面を含む部分(摩擦部材の係止面(第1係止部)の外縁近傍)が変形する不具合が生じるものの、ダンピング特性が不安定になったり、異音が発生したりするなどの不具合が生じることなく、ベルト張力が増加した場合の減衰力(ダンピング力)をより高い水準に確実に確保することができると云える。
【0127】
以上の結果から、傾斜角度(θ)の水準については、ダンピング特性(減衰トルクの幅、トルクカーブの安定性)、および耐久性(異音の発生の有無、摩擦部材の状態)の確保の観点から、35°以上70°以下が好適な範囲と云える。