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特開2023-97406フィルムロール及びフィルムロールの製造方法
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  • 特開-フィルムロール及びフィルムロールの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097406
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】フィルムロール及びフィルムロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 18/28 20060101AFI20230630BHJP
   B65H 23/038 20060101ALI20230630BHJP
   B65H 20/14 20060101ALI20230630BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230630BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
B65H18/28
B65H23/038 Z
B65H20/14
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B29C55/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205295
(22)【出願日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2021212052
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大野 公平
【テーマコード(参考)】
3F055
3F103
3F104
4F071
4F210
【Fターム(参考)】
3F055AA05
3F055CA01
3F055EA02
3F103AA03
3F103BC04
3F104AA03
3F104BA04
4F071AA56
4F071AF27Y
4F071AF38
4F071AH14
4F071BB02
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F210AA30
4F210AG01
4F210QA02
4F210QA03
4F210QC06
4F210QD25
4F210QG01
4F210QG18
4F210QL15
4F210QL16
4F210QM15
4F210QW05
4F210QW15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、フィルムロールのフィルム端部面が不揃いとなる巻ずれを抑制し、かつフィルムのシワ、帯電欠点の発生を抑えたフィルムロールを提供する。
【解決手段】フィルムの幅方向端部から100mm以内の領域における帯電量の絶対値が共に3.0kVを超え4.0kV未満であり、フィルムの幅方向中央部における帯電量の絶対値が0kV以上1.5kV以下であることを特徴とするフィルムロール。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの幅方向端部から100mm以内の領域における帯電量の絶対値が共に3.0kVを超え4.0kV未満であり、フィルムの幅方向中央部における帯電量の絶対値が0kV以上1.5kV以下であることを特徴とするフィルムロール。
【請求項2】
前記フィルムが二軸配向アラミドフィルムである、請求項1又は2に記載のフィルムロール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフィルムロールを製造するフィルムロールの製造方法であって、吸引接触しながらシワを伸ばす機構を備えたシワ伸ばし装置により搬送フィルムの幅方向両端部のシワを伸ばすシワ伸ばし工程を有し、
前記シワ伸ばし工程における吸引圧力が1.0kPa以上5.0kPa以下である、フィルムロールの製造方法。
【請求項4】
前記吸引接触しながらシワを伸ばす機構が吸引機構と複数のローラーを備え、前記ローラーの表面粗さRaが0.20μm以上である、請求項3に記載のフィルムロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻き姿が良好なフィルムロール、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、磁気記録媒体用フィルムには非常に高度な表面平滑性が求められる。そのため、磁気記録媒体用フィルムを製造する際には、巻き取り時にロール上で蛇行が生じてロール端部が不揃いになる巻きズレや、層間の摩擦による帯電に起因する欠点(帯電欠点)が生じやすい。フィルムロールにこのような巻きズレや帯電欠点が生じると、巻き出して加工する工程でフィルムにシワが発生したり、帯電欠点由来の変形痕が生じたりするため、得られる磁気記録媒体の品質にも影響を及ぼす。
【0003】
巻きズレを抑制する方法としては、例えばフィルムロール端部に凹凸または突起を形成して巻き取る方法が知られている(特許文献1)。このような方法では、凹凸または突起の配列方向や距離を適当な範囲に調節することで、フィルムを巻き取る工程において随伴流によりフィルム間に巻き込まれた空気が抜けて巻ズレ等を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-272003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、巻きズレはある程度軽減できるものの、帯電欠点の低減効果は不十分であった。また、特許文献1の方法は、ポリエステルフィルムのような剛性が比較的低いフィルムには好適であるが、剛性が高く凹凸や突起が形成されにくいアラミドフィルムに等においては、凹凸や突起を強く転写させる必要があり、その際に局所的にダメージを受けてフィルムが破断する問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点を解消し、フィルムロールのフィルム端部面が不揃いとなる巻ずれを抑制し、かつフィルムのシワ、帯電欠点の発生を抑えたフィルムロールを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のフィルムロールは以下の構成よりなる。すなわち、本発明のフィルムロールは、フィルムの幅方向端部から100mm以内の領域における帯電量の絶対値が共に3.0kVを超え4.0kV未満であり、フィルムの幅方向中央部における帯電量の絶対値が0kV以上1.5kV以下であることを特徴とするフィルムロールである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、巻ずれを抑制し、かつフィルムのシワ、帯電欠点の発生を抑えたフィルムロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例におけるフィルムロールの製造工程を表す模式図である。
図2】実施例におけるシワ伸ばし装置を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のフィルムロールについて具体的に説明する。本発明のフィルムロールは、フィルムの幅方向端部から100mm以内の領域における帯電量の絶対値が共に3.0kVを超え4.0kV未満であり、フィルムの幅方向中央部における帯電量の絶対値が0kV以上1.5kV以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明において、フィルムロールとは任意の材質の筒状コアにフィルムが巻かれたものをいい、フィルムとは、熱可塑性樹脂もしくは熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物をシート状に成形した成形体をいう。フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、芳香族ナイロン、アラミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエステルエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、セルロース系樹脂、およびアクリル系樹脂等を単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0012】
中でも、剛性が高く、幅方向端部に凹凸を形成して巻きズレを防止する方法を採用しづらい点からアラミドを単独でまたは他の熱可塑性樹脂と組み合わせて用いることが好ましい。言い換えれば、本発明のフィルムロールにおけるフィルムは、アラミドフィルムであることが好ましく、二軸配向アラミドフィルムであることがより好ましい。ここで、アラミドフィルムとはフィルムを構成する全成分中95質量%以上100質量%以下がアラミドであるフィルムをいう。また、二軸配向とは直交する二方向に樹脂の分子鎖が配向していることをいい、通常、直交する二方向に延伸することで実現できる。なお、上記各種樹脂は本発明の効果を損なわない範囲で、分子鎖中に共重合成分を含んでいてもよい。
【0013】
本発明のフィルムロールは、巻きズレの発生を軽減する観点から、フィルムの幅方向端部から100mm以内の領域における帯電量の絶対値が共に3.0kVを超え4.0kV未満であることが重要である。ここで、幅方向とは製造工程中をフィルムが走行する方向(長手方向)にフィルム面内で直交する方向をいい、フィルムロールにおいては筒状コアの中心軸に平行な方向がこれに相当する。「フィルムの幅方向端部から100mm以内の領域」とは、フィルムの幅方向端部からの距離が100mmとなるように直線を引いたときに、この直線と幅方向端部に挟まれる幅100mmの帯状の区間をいう。また、「帯電量の絶対値が共に3.0kVを超え4.0kV未満である」とは、フィルムの幅方向端部から100mm以内の領域両側において、帯電量の絶対値が3.0kVを超え4.0kV未満であることをいう。本発明において帯電量は、公知の静電気測定器にて測定することができ、測定器としては例えばKEYENCE社製のSK-H050等を用いることができる。
【0014】
フィルムの幅方向端部から100mm以内の領域における帯電量の絶対値が少なくとも一方において3.0kV以下であると、幅方向端部においてロールに巻かれたフィルムの間の静電気力が不足して密着性が弱まるため、巻きズレ防止効果が不十分となる。一方、フィルムの幅方向端部から100mm以内の領域における帯電量の絶対値が少なくとも一方において4.0kV以上であると、幅方向端部においてロールに巻かれたフィルムの間の静電気力が過剰となり、帯電欠点が生じることや、次工程においてフィルムを巻き出すのが難しくなることがある。
【0015】
本発明のフィルムロールは、製品部分の帯電欠点を減らす観点から、フィルムの幅方向中央部における帯電量の絶対値が0kV以上1.5kV以下であることが重要である。ここでフィルムの幅方向中央部とは、各幅方向端部からの距離が等しい位置をいう。フィルムの幅方向中央部における帯電量の絶対値1.5kVを超えると、帯電が過多となり、製品部分に帯電欠点が生じやすくなる。一方、帯電量の絶対値が0kVであることは帯電が全く生じていないことを意味し、帯電量の絶対値の下限は理論上0kVとなる。なお、帯電欠点とは、フィルム層間で放電現象が発生し、放電箇所で局所的にフィルムが変形する欠点である。
【0016】
フィルムの幅方向端部から100mm以内の領域における帯電量の絶対値を共に3.0kVを超え4.0kV未満とし、フィルムの幅方向中央部における帯電量の絶対値を0kV以上1.5kV以下とする方法は特に限定されないが、例えば吸引機構を備えるシワ伸ばし装置で搬送フィルムの幅方向両端部のシワを伸ばした後、公知の除電器にてフィルム面全体の除電を行う方法が挙げられる。以下、本方法についてより具体的に説明する。
【0017】
まず、搬送中のフィルムの幅方向端部から100mm以内の領域にシワ伸ばし装置接触面を設置して吸引することで、搬送フィルムとシワ伸ばし装置が吸引密着し、搬送中のフィルムのシワを伸ばすことができる。シワ伸ばし装置は搬送フィルムに接する接触面に回転自在な複数のローラーが配列されており、両接触面はフィルムの搬送方向に対してそれぞれ一定角度傾斜して配置され、傾斜の方向は搬送方向に対して開く方向に配置されていることが好ましい。このような態様とすることで搬送フィルムが幅方向中央部から各幅方向端部側に向かって引っ張られるため、シワ伸ばし効果が大きくなる。なお、接触面にある複数のローラー間には開口部として隙間が存在し、さらにフィルムをローラー側に密着させるように吸引する吸引機構を備えている。このように、吸引機構を備えるシワ伸ばし装置によって搬送フィルムのシワを伸ばすと、吸引接触した箇所は局所的に摩擦帯電するため、その後、除電器で電荷を除去する。
【0018】
シワ伸ばし装置の吸引圧力は1.0kPa以上5.0kPa以下の範囲が好ましく、より好ましくは2.0kPa以上3.0kPa以下である。吸引圧力が5.0kPa以下であると帯電過多とならず、帯電欠点の発生が抑えられる。一方、吸引圧力が1.0kPa以上であると、シワを十分に伸ばすことができる程度に搬送フィルムが吸引され、かつ巻きズレを抑える程度に帯電量が十分となってフィルムロールに巻かれたフィルム間の密着が強くなる。そのため、シワの発生が抑えられる上、巻き取り時にフィルムロールの幅方向端部面(円形の面)からエアーが抜けることによるフィルムの滑りが抑えられ、幅方向端部面が不揃いとなるのを軽減できる。また、吸引圧力を1.0kPa以上とすることで、フィルムが滑ることによる摩擦帯電も抑えられるため、製品となるフィルムロール中央部に生じる帯電欠点を減らすこともできる。
【0019】
次いで、除電器による除電について説明する。フィルムの幅方向端部から100mm以内の領域における帯電量の絶対値を共に3.0kVを超え4.0kV未満とし、フィルムの幅方向中央部における帯電量の絶対値を0kV以上1.5kV以下とするには、除電器の出力電圧を8.0kV以上9.0kV以下に設定して、フィルム面全体を同じ条件で除電することが好ましい。シワ伸ばし装置を経た搬送フィルムは、幅方向両端部が摩擦帯電により中央部よりも強く帯電しているため、フィルム面全体を同じ条件で除電すれば幅方向中央部と両端部とに帯電量の差が生じることとなる。
【0020】
除電器の出力電圧が8.0kV以上であると、端部のシワ伸ばしに起因する帯電が適度に除去されるため、帯電欠点の発生や、巻太りが進むことによるフィルムロール中央部への帯電欠点の移動が軽減される。一方、除電器の出力電圧が9.0kV以下であることにより、巻きズレを防止する程度に端部のシワ伸ばし装置による帯電が維持され、フィルムロール端部におけるフィルム間の密着が強固になり、フィルムロールの幅方向端部の不揃いが軽減される。
【0021】
続いて、本発明のフィルムロールの製造方法について説明する。本発明のフィルムロールの製造方法は、吸引接触しながらシワを伸ばす機構を備えたシワ伸ばし装置により搬送フィルムの幅方向両端部のシワを伸ばすシワ伸ばし工程を有し、前記シワ伸ばし工程における吸引圧力が1.0kPa以上5.0kPa以下である、フィルムロールの製造方法である。上記シワ伸ばし工程によりシワを減らすことができ、吸引圧力を上記範囲とすることでシワ伸ばし効果と帯電欠点軽減効果を両立できる。
【0022】
また、本発明のフィルムロールの製造方法は、吸引接触しながらシワを伸ばす機構が吸引機構と複数のローラーを備え、ローラーの表面粗さRaが0.20μm以上であることが好ましい。吸引機構とはシワ伸ばし装置のローラーの上を走行するフィルムをローラー側に密着させるように吸引する機構をいい、ローラーとは回転自在なローラーをいう。また、「ローラーの表面粗さRaが0.20μm以上である」とは、後述の方法により測定したローラーの表面粗さRaが0.20μm以上であることをいう。
【0023】
吸引接触しながらシワを伸ばす機構を構成する複数のローラーは、それぞれ搬送方向に対して開く方向に回転するように配置されていることが好ましく、このような態様とすることで搬送フィルムが幅方向中央部から各幅方向端部側に向かって引っ張られるため、シワ伸ばし効果が大きくなる。なお、このとき吸引機構は複数のローラー間の隙間から、フィルムをローラー側に密着させるように吸引する。
【0024】
本発明のフィルムロールの製造方法においては、ローラーの表面粗さRaが0.20μm以上であると、吸引圧力を1.0kPa以上5.0kPa以下としたときに、ローラーとの接触箇所が程好く摩擦帯電することで、フィルムにおける帯電欠点の発生を抑制できる。なお、ローラーの表面粗さRaの上限は特に制限されないが、帯電とシワ伸ばしの観点から0.50μmが好ましい。
【0025】
ローラーの表面粗さRaは、シワ伸ばし装置を構成する各ローラーについて、幅方向の位置が異なるように任意に3つの測定点を定めて各測定点における表面粗さRaを測定し、得られた全測定値の平均値として算出することができる。各測定点における表面粗さRaは、公知の表面粗さ測定器(例えば、ミツトヨ製 SJ210等)を用いて測定することができる。また、シワ伸ばし効果と帯電欠点軽減効果の両立の観点から、各測定点における表面粗さRaは、当該平均値から±0.15μm以内であることが好ましく、0μmに近いほど好ましい。
【0026】
以下、本発明のフィルムロールの製造方法について具体的に説明するが、本発明のフィルムロールはこれに限定されない。
【0027】
まずN-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性有機溶媒中で酸クロライドとジアミンを溶液重合し、その際に発生する塩化水素を水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化リチウム、炭酸リチウムなどの無機の中和剤、あるいはエチレンオキサイド、トリエチルアミン、ジエタノールアミンなどの中和剤によって中和する。これらのポリマー溶液はそのまま製膜原液として使用してもよく、また、一旦単離したのち有機溶剤あるいは硫酸などの無機溶剤に再溶解して用いてもよい。また表面粗さの調整などのため、粒子を添加する場合は、この際に添加することが好ましい。なお添加方法および希釈方法は公知の方法が適用できる。
【0028】
このようにして得られた製膜原液を、いわゆる公知の溶液製膜法によってフィルム化する。具体的には、製膜原液を口金からドラム、エンドレスベルト等の支持体上に押し出して薄膜とし、薄膜層から溶媒を飛散させて薄膜自体が自己支持性を持つまで乾燥する。この際、薄膜中の有機高分子体の濃度が30質量%から70質量%となるように乾燥温度、乾燥時間を選択する。続いて得られた薄膜を支持体から剥離し、20~70℃の水中を通過させて脱塩、脱溶媒する。また、この際にロール周速差を用いて、該薄膜を長手方向に1.0倍~1.5倍の倍率で延伸する。水中を通過させた後、長手方向に延伸した薄膜を、一旦50~100℃の温度で予熱し、幅方向両端部を把持した状態でステンターに導いて乾燥する。さらに幅方向両端部を把持した状態で、ステンターにて乾燥後の薄膜を幅方向に延伸する。延伸温度は230~400℃の温度範囲とし、3秒間以上熱処理し、1.2倍~2.0倍の倍率で延伸する。こうして得られた二軸延伸フィルムはフィルムロールとして巻き取られる。
【0029】
本発明のフィルムロールの製造方法は、例えば延伸終了後から巻き取りまでの間に、吸引接触しながらシワを伸ばす機構を備えたシワ伸ばし装置により搬送フィルムの幅方向両端部のシワを伸ばすシワ伸ばし工程を有し、シワ伸ばし工程における吸引圧力は1.0kPa以上5.0kPa以下である。このようなシワ伸ばし工程により、帯電欠点やシワの発生を軽減することができる。上記観点から、吸引接触しながらシワを伸ばす機構は、吸引機構と複数のローラーを備え、ローラーの表面粗さRaが0.20μm以上であることが好ましい。
【0030】
また、フィルムロールからフィルムを巻き出し、公知のスリッター等で所定の幅に裁断して再度巻き取りより幅の小さいフィルムロールとしてもよい。なお必要に応じて、延伸前、延伸中、延伸後のいずれかに、コーティングやコロナ放電などの処理を行ってもよい。
【0031】
本発明のフィルムロールのフィルムを磁気記録媒体用フィルムとするには、該フィルムの表面に磁性体粉末を含んだ高分子バインダーを塗布する方法、あるいはコバルト等の磁性金属を減圧下で蒸着する方法によって磁性体を施し、表面処理などを行う。こうして得られた磁気記録媒体用フィルムを所定の幅に裁断し、カセット等の筐体に組み込み磁気記録媒体製品とする。このようにして得られた磁気記録媒体(テープ)は、コンピューターメモリー用のデジタルデーターストレージ用途に好適に用いられる。
【実施例0032】
以下、本発明のフィルムロールの製造方法を実施例に基づき説明する。本発明のフィルムロールの製造方法は下記実施例に限定されるものではない。各実施例の記述に先立ち、実施例で採用した測定方法や評価方法を記載する。
【0033】
測定評価方法
(1)フィルムロールの帯電量
幅方向と平行かつ幅方向両端部を結ぶ直線を取り、幅方向両端部のシワ伸ばし装置走行箇所(各幅方向端部から100mm以内の箇所)と幅方向中央の3点での、帯電量を静電気測定器(KEYENCE製 SK-H050)で測定した。
【0034】
(2)フィルムロール端部面の不揃いの評価方法
巻ズレの評価方法はロール端部面から飛び出し箇所を鋼尺で計測し、2mm以上飛び出す箇所があるものを×、ないものを○として評価した。
【0035】
(3)帯電欠点の有無
フィルムロール表面全周を目視で確認して、幅方向両端部のシワ伸ばし装置走行箇所以外の箇所に、放電による変形があるものを×、ないものを○として評価した。
【0036】
(4)しわ伸ばし装置回転ローラーの表面粗さ
各ローラー(全5本)について、幅方向の位置が異なるように任意に3つの測定点を定め、表面粗さ測定器(ミツトヨ製 SJ210)を用いて各測定点の表面粗さを測定した。得られた全測定値より最大値、最小値を特定し、平均値を算出した。当該平均値をしわ伸ばし装置回転ローラーの表面粗さとした。
【0037】
[実施例1]
<芳香族ポリアミド溶液A>
N-メチル-2-ピロリドン(以下NMP)に、85モル%に相当する2-クロロパラフェニレンジアミン(以下CPA)と15モル%に相当するジフェニルエーテル(以下DPE)を溶解させ、この溶液をろ過精度1.0μmのポリプロピレンからなるフィルターに通してろ過した後、重合槽へ移送した。その後、該溶液に、ろ過精度1.0μmのポリプロピレンからなるフィルターに通した98.5モル%に相当するクロロテレフタル酸クロライド(以下CTPE)を添加し、さらに重合前にポリエーテルサルホン(住友化学(株)製“スミカエクセル”(登録商標)5400P)を芳香族ジアミン成分に対して0.45質量%になるよう添加して、30℃以下で2時間の攪拌を行い、重合ポリマーを得た。
【0038】
次に、重合ポリマー中の塩化水素に対して98.5モル%の炭酸リチウムを添加して4時間の中和を行い、重合ポリマー中の塩化水素に対して10モル%のトリエタノールアミンを添加して1時間の撹拌を行い、ポリマー濃度10.8質量%の芳香族ポリアミド溶液Aを得た。
【0039】
<芳香族ポリアミド溶液B>
NMPに、85モル%に相当するCPAと15モル%に相当するDPEを溶解させ、この溶液を濾過精度1.0μmのポリプロピレンからなるフィルターに通して濾過した後、重合槽へ移送し、これに濾過精度1.0μmのポリプロピレンからなるフィルターに通した98.5モル%に相当するCTPCを添加して、30℃以下で2時間の撹拌を行い、重合ポリマーを得た。次に、重合ポリマー中の塩化水素に対して98.5モル%の炭酸リチウムを添加して4時間の中和を行い、平均1次粒径が16nmのシリカ(日本アエロジル株式会社製“AEROSIL”(登録商標)R972タイプ)をポリマーに対して0.3質量%添加して1時間の攪拌を行った後、重合ポリマー中の塩化水素に対して10モル%のトリエタノールアミンを添加して1時間の撹拌を行い、ポリマー濃度10.8質量%の芳香族ポリアミド溶液Bを得た。
【0040】
<フィルムロール>
以下、フィルムロールの製造方法について、図1を参照しながら説明する。重合した芳香族ポリアミド溶液Aを濾過精度1.0μmのステンレスからなる金属繊維フィルターに通し、また、芳香族ポリアミド溶液Bを濾過精度5.0μmのステンレスからなる金属繊維フィルターに通した後に口金1の内部で積層した。この時の芳香族ポリアミド溶液AとBの積層比率(厚み比)は、50%ずつになるようにした。その後、エンドレスベルト2上に、積層した芳香族ポリアミド溶液B側がベルト面になるよう口金1より押出し、120℃の熱風で2分間加熱して溶媒を蒸発させ、自己保持性を得た膜体をベルトから連続的に剥離した。次いで、45℃の水中搬送ロール3を介してシートを搬送しながら脱塩と脱溶媒を行い、この間に複数ロールの周速差を用いてシートを長手方向に1.16倍に延伸して一軸延伸フィルムを得た。さらに、得られた一軸延伸フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してステンターオーブン4に導き、245℃で幅方向へ1.4倍に延伸し、250℃で熱処理した後冷却して厚み3.6μmの二軸延伸フィルムを得た。こうして得られた二軸延伸フィルムの幅方向端部から75mmの位置に設置されたシワ伸ばし装置5のローラーの間隙(図2)より、吸引圧力2.5kPaで搬送フィルムを吸引しながらシワを伸ばして巻き取り機6へ搬送し、コンタクトロール接圧85N/m、巻き取り張力35N/m、速度25.5m/minで巻き取った。このとき、巻き取りロール上でノズル式除電器7にて出力電圧8.0kVで除電しながら二軸延伸フィルムを巻き取り、幅2140mm、巻長さ16860mのフィルムロール8を得た。こうして得られたフィルムロールの評価結果を表1に示す。なお、シワ伸ばし装置5は、図2に示すようにフィルムの走行に合わせて幅方向の外側に向かって、回転自在なローラーが回転するように設置した。また、図2の白矢印は搬送フィルムの走行方向、符号9は搬送フィルム、符号10は搬送ロールを表す(搬送ロールの点線部分は搬送フィルムより下側にあることを意味する。しわ伸ばし装置も同様。また、図1には搬送ロールは図示しない。)。
【0041】
[実施例2~3 比較例1~8]
シワ伸ばし装置の吸引圧力条件とローラー表面粗さ、および除電器の出力電圧を表1のとおりにした以外は実施例1と同様にしてフィルムロールを得た。得られたフィルムロールの評価結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、巻ずれを抑制し、かつフィルムのシワ、帯電欠点の発生を抑えたフィルムロールを提供することができる。本発明のフィルムロールは、特に基材フィルムの平滑性が求められるデジタルビデオテープやデータストレージテープなどの磁気記録媒体用のフィルムロールを製造する際に、ベースフィルムとして極めて好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 口金
2 エンドレスベルト
3 水中搬送ロール
4 ステンターオーブン
5 シワ伸ばし装置
6 巻き取り機
7 ノズル式除電器
8 フィルムロール
9 搬送フィルム
10 搬送ロール
図1
図2