(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097410
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】積層多孔膜および電気化学素子用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20230630BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20230630BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20230630BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20230630BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20230630BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20230630BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20230630BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20230630BHJP
H01G 9/02 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/417
H01M50/414
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/491
H01M50/489
H01G11/52
H01G9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206392
(22)【出願日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2021212049
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022104222
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】又野 孝一
(72)【発明者】
【氏名】松本 登美子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 茂治
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
【Fターム(参考)】
5E078AA11
5E078AA15
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA07
5E078CA09
5E078CA10
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE04
5H021EE21
5H021HH00
5H021HH02
5H021HH07
(57)【要約】
【課題】ポリオレフィン微多孔膜と多孔質層の優れた密着性およびポリオレフィン微多孔膜のシャットダウン温度を超える温度領域でも安定的なシャットダウン特性を維持し、メルトダウン耐性および機械的強度に優れた電気化学素子用セパレータ、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】
ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、樹脂バインダおよび無機粒子を含む多孔質層を有する電気化学素子用セパレータであって、前記多孔質層の空隙率が30~60%であり、前記ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィン樹脂をポリオレフィン樹脂Aとしたとき、下記の処理条件Aで処理した後の前記多孔質層の空隙率が2.0%以下であり、前記多孔質層が前記ポリオレフィン樹脂Aを含む電気化学素子用セパレータ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、樹脂バインダおよび無機粒子を含む多孔質層を有する積層多孔膜であって、
前記多孔質層の空隙率が30~60%であり、
前記ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィン樹脂をポリオレフィン樹脂Aとしたとき、下記の処理条件Aで処理した後の前記多孔質層の空隙率が2.0%以下であり、前記多孔質層が前記ポリオレフィン樹脂Aを含む積層多孔膜。
[処理条件A]
1)積層多孔膜から、測定用サンプルとして、長さ15mm(機械方向)×幅7mmの長方形状の測定用サンプルを切り出す。
2)幅13mmのチューコーフロー製耐熱ポリイミドテープAPI-114AFRの中央部に3mm×3mmの正方形の孔を開け、ポリオレフィン微多孔膜側に全方向把持した状態で貼付け固定する。
3)このサンプルを固定したイミドテープをΦ3mmの穴の開いた長さ30mm×幅20mm、厚さ0.5mmのアルミ板上に貼り、もう1枚の同形状のアルミ板で挟み、アルミ板をポリイミドテープでスライドグラス上に固定し観察用可視光が透過することができるサンドサンプルを得る。
4)このサンドサンプルを100℃に加熱したメトラー・トレド製ホットステージ上に1分間静置し、2℃/分の速度で200℃まで昇温させた後、-30℃/分の速度で25℃まで降温させる。
【請求項2】
前記処理条件Aで処理した後、赤外分光法の全反射法で前記積層多孔膜の多孔質層側を測定した際の、2800cm-1から3000cm-1に出現するピークのABSORBANCEが0.05以上1.80以下である請求項1に記載の積層多孔膜。
【請求項3】
昇温インピーダンス法により測定される180℃における抵抗が1.0×103Ω/cm2以上である請求項1または2に記載の積層多孔膜。
【請求項4】
前記ポリオレフィン微多孔膜が質量平均分子量の異なる2種類以上のポリオレフィン樹脂を含み、質量平均分子量の異なる2種類以上のポリオレフィン樹脂のうち、質量平均分子量が低いポリオレフィン樹脂がポリオレフィン樹脂Aである請求項1または2に記載の積層多孔膜。
【請求項5】
ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定される前記ポリオレフィン微多孔膜の積分分子量分布曲線において、分子量1.0×104以下の成分のピーク面積%が1.0以上7.0%以下、かつ分子量1.0×106以上の成分のピーク面積%が10.0以上40.0%以下である請求項1または2に記載の積層多孔膜。
【請求項6】
前記ポリオレフィン微多孔膜が、質量平均分子量Mwが6.0×104以上3.0×105以下のポリオレフィン樹脂と、質量平均分子量Mwが7.0×105以上1.6×106以下のポリオレフィン樹脂を原料として用いて得られる請求項1または2に記載の積層多孔膜。
【請求項7】
電気化学素子用セパレータに用いられる請求項1または2に記載の積層多孔膜。
【請求項8】
請求項1または2に記載の積層多孔膜を有する電気化学素子用セパレータ。
【請求項9】
ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定される前記ポリオレフィン微多孔膜の積分分子量分布曲線において、分子量1.0×104以下の成分のピーク面積%が1.0以上7.0%以下、かつ分子量1.0×106以上の成分のピーク面積%が10.0以上40.0%以下であるポリオレフィン微多孔膜。
【請求項10】
前記ポリオレフィン微多孔膜が、質量平均分子量Mwが6.0×104以上3.0×105以下のポリオレフィン樹脂と、質量平均分子量Mwが7.0×105以上1.6×106以下のポリオレフィン樹脂を原料として用いて得られる請求項9に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層多孔膜および電気化学素子用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂微多孔膜は、リチウムイオン二次電池、ニッケル-水素電池、ニッケル-カドミウム電池、ポリマー電池、電気二重層コンデンサ、精密濾過膜等、医療用材料などのフィルターやセパレータ用途として広く用いられている。特に、エネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池は、多くのデジタル機器、工具、自動車等に使用されている。
セパレータがリチウムイオン二次電池用として用いられる場合、熱可塑性樹脂微多孔膜は、電池の高容量化、高出力化または軽量化に伴い、薄膜性、機械的強度、イオン透過性、熱的安定性、シャットダウン(SD)特性、メルトダウン(MD)耐性、電気絶縁性、注液性、耐酸化性等の物性を要求される。
その中でも、電池異常昇温時に120~150℃程度の温度において構造が閉塞(シャットダウン)することで電流を遮断する特性は、電池の安全性にとって重要な性質であるため、このSD特性を示すポリエチレンを含有する微多孔膜がリチウムイオン二次電池用セパレータとして主に使用されている。しかし、温度の暴走が激しいときはSD後も昇温が続き、膜を構成するポリエチレンの溶融粘度の低下及びゴム的な構造の収縮により、再度ポリエチレン層の開孔が起こりインピーダンスの低下が生じるため、電池の安全性にとってMD耐性はSD特性よりもさらに重要な性質と言える。
【0003】
このようにポリエチレンを含有する微多孔膜単体では、溶融後は機械的強度が極端に低下による構造破壊が起こり易い。これに対し、高温でも絶縁性を保てるように基材の表面に無機粒子を含んだ多孔質層を形成することが提案されている。
【0004】
特許文献1には、低温フューズ機能(シャットダウン機能)、充分な機械強度、及び良好な耐熱性を併せ持つPО微多孔膜を得るために、粘度平均分子量Wv50万から250万(質量平均分子量Mwに換算すると約80万から440万)のPEと、MIが2g/min~50g/minの融点120℃~137℃のポリオレフィンを併用している。
【0005】
特許文献2には、コストと耐熱性とセパレータフィルムとしての特性に優れたポリオレフィン微多孔膜を提供するために、ポリプロピレン系樹脂を含むポリオレフィン微多孔膜であって、メルトダウン温度が195℃ 以上230℃以下であるポリオレフィン微多孔膜とし、ポリプロピレン系樹脂の質量平均分子量Mwは、50万以上80万以下であることが好ましく、さらに、ポリプロピレン系樹脂の分子量分布が7.5以上16以下であることが好ましいとしている。
【0006】
特許文献3には、高温時の低収縮性、機械的特性、透気度に優れ、膜厚が薄く、140℃以下のシャットダウン温度を有し、190℃以上の耐熱性を持つポリオレフィン系微多孔膜を実現するために、超高分子量ポリエチレン25~50質量%と、ポリエチレン1~15質量%と、4-メチル‐1‐ペンテンおよび炭素数3以上のα-オレフィンの共重合体35~65質量%と、ポリブタジエン、ポリイソプレンおよびブタジエン-イソプレンコポリマーから選ばれた1以上のポリマーの水素添加物0.1~2質量%と、プロピレン系エラストマー樹脂0.5~5質量%と、を含む樹脂組成物を用いている。
【0007】
特許文献4には、電解液又は電解質の分解によるガス発生を抑えるために、耐熱性多孔質層に占める前記硫酸バリウム粒子の体積割合が50体積%~90体積%であり、前記耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満硫酸バリウム粒子を含有し、耐熱性多孔質層の空隙率が30%~70%である多孔質層を多孔質基材上に備えたセパレータを使用している。
【0008】
特許文献5では、ポリオレフィン樹脂微多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂バインダとを含む多孔質層を備え、前記多孔質層が前記無機フィラーの平均粒径が0.1μm以上3.0μm以下、前記樹脂バインダが、前記無機フィラーと前記樹脂バインダとの総量に占める割合が、体積分率で0.5%以上8%以下、前記多孔質層の層厚が、総層厚に占める割合が15%以上50%以下、を同時に満たし、コロナ処理をした前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の、表面の濡れ指数が40mN/m以上であることを特徴とする多層多孔膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-141029号公報
【特許文献2】特開2018-104713号公報
【特許文献3】特開2020-183522号公報
【特許文献4】特許6526359号公報
【特許文献5】特開2014-97656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ポリエチレンを含むポリオレフィン微多孔膜のSDは、融点以下の温度で起こるため、その温度領域から延伸による網目構造形成時に形成される緩和構造の収縮によるものと推定される。一方、溶融後の収縮応力はSD時の固体収縮と比較し非常に小さく、原料中のより高分子量成分で形成される網目構造の中でも、エントロピー弾性を示すゴム的な構造によると考えられる。セパレータ網目構造形成における構造安定化は、分子移動の時間的な制約により制限されるので、分子量が高いと、このゴム的な構造が出来やすくなる。一方、単純に高分子量成分の分子量を下げるだけでは網目構造自体の安定が保てず、溶融後に収縮が起こる。そのため、網目構造を形成する、より高分子量成分と低分子量成分を混合することで、構造形成時の時間差を生み出し、構造を安定化させることが必要である。さらに、この構造をより安定化させるために無機多孔体をコートすることで、微多孔膜/無機多孔体界面での構造保持効果で溶融収縮を抑える手法は、電気的な絶縁性および注液性も確保出来るため有効である。
【0011】
しかし、このような手法でも溶融収縮を完全に押さえることは出来ない。つまり、微多孔膜の溶融時のゴム的な性質を抑えるだけでは、高温でのインピーダンスの低下を抑えられない。
【0012】
そこで、添加する低分子量成分の分子量をさらに下げることで高分子量成分の安定化速度向上させゴム的な構造を減少し、構造の安定化を図りつつ溶融収縮量を下げ、更には溶融時に閉孔した状態を保つだけではなく、溶融時の分子の運動性を上げ、コート層への微多孔膜樹脂の浸透を行い、無機粒子を含む多孔質層を微多孔膜樹脂で充填することにより、高温領域におけるインピーダンス低下の抑制を達成することが目的としている。
【0013】
この無機多孔体への微多孔膜樹脂の浸透についての物理・化学的原理は、無機多孔体の基材界面の空隙率に関係していることから毛管現象と考えている。また電池内でも同様の現象が起こる事から、溶融した樹脂は電解液への分散よりもコート層への毛管現象が有利に働くことを示している。
【0014】
特許文献1には低温SDに関する性能向上について記載されている。しかし、ポリエチレンの溶融温度以上では、原料の中でも高分子量側の成分を用いて網目構造を形成しているポリエチレンの溶融収縮特性により、SDした膜が再度開孔する現象が避けられない。
【0015】
これに対し、従来から様々な方策が考えられてきた。例えば、PPのようなポリエチレンと相溶性が良く融点の高い樹脂との混合により溶融後の開孔を防ぐ方法がある(特許文献2)。また、微多孔膜の組成にα-オレフィンの共重合体を添加する方法(特許文献3)、更には、ポリオレフィン微多孔膜に耐熱性の高い成分をコートすることにより耐熱性を上げる方法(特許文献4)、コロナ処理により耐熱性を向上させる方法(特許文献5)等が考えられてきた。無機フィラーを用いた多孔質層コートも検討(特許文献4)されてきたが、コロナ処理を行わないとポリオレフィン微多孔膜の溶融収縮は避けられず、十分な耐熱性効果が得られない。
【0016】
上記問題を鑑み、本発明の目的は、安定的なSD特性を維持し続けることで、インピーダンス低下の無い、MD耐性に優れた電気化学素子用セパレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため本発明の多孔性フィルムは次の構成を有する。
[I]ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、樹脂バインダおよび無機粒子を含む多孔質層を有する積層多孔膜であって、
前記多孔質層の空隙率が30~60%であり、
前記ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィン樹脂をポリオレフィン樹脂Aとしたとき、下記の処理条件Aで処理した後の前記多孔質層の空隙率が2.0%以下であり、前記多孔質層が前記ポリオレフィン樹脂Aを含む積層多孔膜。
[処理条件A]
1)積層多孔膜から、測定用サンプルとして、長さ15mm(機械方向)×幅7mmの長方形状の測定用サンプルを切り出す。
2)幅13mmのチューコーフロー製耐熱ポリイミドテープAPI-114AFRの中央部に3mm×3mmの正方形の孔を開け、ポリオレフィン微多孔膜側に全方向把持した状態で貼付け固定する。
3)このサンプルを固定したイミドテープをΦ3mmの穴の開いた長さ30mm×幅20mm、厚さ0.5mmのアルミ板上に貼り、もう1枚の同形状のアルミ板で挟み、アルミ板をポリイミドテープでスライドグラス上に固定し観察用可視光が透過することができるサンドサンプルを得る。
4)このサンドサンプルを100℃に加熱したメトラー・トレド製ホットステージ上に1分間静置し、2℃/分の速度で200℃まで昇温させた後、-30℃/分の速度で25℃まで降温させる。
[II]前記処理条件Aで処理した後、赤外分光法の全反射法で前記電気化学素子用セパレータの多孔質層側を測定した際の、2800cm-1から3000cm-1に出現するピークのABSORBANCEが0.05以上1.80以下である[I]に記載の積層多孔膜。
[III]昇温インピーダンス法により測定される180℃における抵抗が180℃で1.0×103Ω/cm2以上である[I]または[II]に記載の積層多孔膜。
[IV]前記ポリオレフィン微多孔膜が質量平均分子量の異なる2種類以上のポリオレフィン樹脂を含み、質量平均分子量の異なる2種類以上のポリオレフィン樹脂のうち、質量平均分子量が低いポリオレフィン樹脂がポリオレフィン樹脂Aである[I]~[III]のいずれかに記載の積層多孔膜。
[V]ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定される前記ポリオレフィン微多孔膜の積分分子量分布曲線において、分子量1.0×104以下の成分のピーク面積%が1.0以上7.0%以下、かつ分子量1.0×106以上の成分のピーク面積%が10.0以上40.0%以下である[I]~[IV]のいずれかに記載の積層多孔膜。
[VI]前記ポリオレフィン微多孔膜が、質量平均分子量Mwが6.0×104以上3.0×105以下のポリオレフィン樹脂と、質量平均分子量Mwが7.0×105以上1.6×106以下のポリオレフィン樹脂を原料として用いて得られる[I]~[V]のいずれかに記載の積層多孔膜。
[VII]電気化学素子用セパレータに用いられる[I]~[VI]のいずれかに記載の積層多孔膜。
[VIII][I]~[VII]のいずれかに記載の積層多孔膜を有する電気化学素子用セパレータ。
[IX]ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定される前記ポリオレフィン微多孔膜の積分分子量分布曲線において、分子量1.0×104以下の成分のピーク面積%が1.0以上7.0%以下、かつ分子量1.0×106以上の成分のピーク面積%が10.0以上40.0%以下であるポリオレフィン微多孔膜。
[X]前記ポリオレフィン微多孔膜が、質量平均分子量Mwが6.0×104以上3.0×105以下のポリオレフィン樹脂と、質量平均分子量Mwが7.0×105以上1.6×106以下のポリオレフィン樹脂を原料として用いて得られる[IX]に記載の積層多孔膜。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、樹脂バインダおよび無機粒子を含む多孔質層を有する電気化学素子用セパレータは、ポリオレフィン樹脂のメルトダウン温度を超えた温度領域でもメルトダウンせず安定的にシャットダウン特性を維持する、メルトダウン耐性に優れた積層多孔膜および電気化学素子用セパレータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の積層多孔膜を処理条件Aで処理した後の断面を示す一例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されるべきものではなく、本発明の技術的思想に符合する意味と概念に沿って解釈されるべきものである。
【0021】
(ポリオレフィン微多孔膜)
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、樹脂バインダおよび無機粒子を含む多孔質層を有する積層多孔膜に関する。本発明のポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル1-ペンテン、1-ヘキセンなどを重合した単独重合体、2段階重合体、共重合体またはこれらの混合物等が挙げられる。単一物又は2種以上の異なるポリオレフィン樹脂の混合物、例えば、ポリエチレンとポリプロピレンの混合物やその積層品であってもよいし、異なるオレフィンの共重合体でもよいが、プロセスの単純化、高生産性であること、また、特に、延伸時等に起こる緩和構造に由来するシャットダウン特性の観点からポリエチレン(融点70~150℃)の単層品が好ましい。
【0022】
ポリエチレンとしては、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンなどが挙げられる。また、重合触媒には特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒やフィリップス系触媒やメタロセン系触媒などを用いることができる。これらのポリエチレンはエチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外のα-オレフィンとしてはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル、スチレン等が好適である。ポリエチレンとしては、2種以上のポリエチレンからなるポリエチレン混合物であることが好ましい。
【0023】
ポリエチレン混合物としては、質量平均分子量(Mw)の異なる2種類以上の超高分子量ポリエチレンの混合物、高密度ポリエチレンの混合物、中密度ポリエチレンの混合物、又は低密度ポリエチレンの混合物を用いてもよいし、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンからなる群から選ばれた2種以上のポリエチレンの混合物を用いてもよい。特に、質量平均分子量Mwが6.0×104以上3.0×105以下のポリエチレン(低分子量ポリエチレン)と、Mwが7.0×105~1.6×106以下のポリエチレン(超高分子量ポリエチレン)を原料として用いて得られることが好ましい。混合物中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、引張り強度の観点から40~99質量%が好ましい。また、本発明の一態様として、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定される前記ポリオレフィン微多孔膜の積分分子量分布曲線において、分子量1.0×104以下の成分のピーク面積%が1.0以上7.0%以下、かつ分子量1.0×106以上の成分のピーク面積%が10.0以上40.0%以下であるポリオレフィン微多孔膜が挙げられる。
【0024】
ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、3μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは4μm以上30μm以下である。ポリオレフィン微多孔膜の厚みが50μmより厚くなるとポリオレフィン微多孔膜の内部抵抗が高くなる場合がある。また、ポリオレフィン微多孔膜の厚みが3μmより薄くなると質量が足らなくなり無機粒子を含む多孔質層の十分なSD効果が得られない。
【0025】
ポリオレフィン微多孔膜に存在する細孔のサイズは0.01~80μmが好ましい。また、無機粒子を含む多孔質層の空隙率は30~60%であり、より好ましくは30~50%である。このような無機粒子を含む多孔質層の厚み、細孔のサイズ、空隙率を有することにより、十分なイオン電導性と機械的安定な多孔質膜を得られ、かつ高温に於いて高いインピーダンスを維持可能となる。
【0026】
ここで細孔のサイズとは、JIS K3832やASTM F316-86に記載のあるバブルポイント法およびASTM E1294-89のハーフドライ法に準じて測定された貫通孔径である。
【0027】
また、多孔質膜の空隙率とは、構成材料がa、b・・・、nからなり、構成材料の質量がWa、Wb・・・、Wn(g・cm2)であり、それぞれの真密度がda、db・・・、dn(g/cm3)で、着目する膜厚をt(cm)としたとき、次式(1)で求められる値(ε(%))である。
ε={1-(Wa/da+Wb/db+・・・+Wn/dn)/t}×100
・・・(1)
ポリオレフィン微多孔膜の透気抵抗度は、50秒/100cm3以上1000秒/100cm3以下であることが好ましく、より好ましくは50秒/100cm3以上、また500秒/100cm3以下である。透気抵抗度が1000秒/100cm3よりも大きいと、十分なイオン移動性が得られず、電池特性が低下してしまう場合がある。透気抵抗度が50秒/100cm3よりも小さい場合は、十分な力学特性が得られない場合がある。
【0028】
本発明の積層多孔膜は、前記ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィン樹脂をポリオレフィン樹脂Aとしたとき、下記の処理条件Aで処理した後、前記多孔質層の空隙率が2.0%以下であり、前記多孔質層に前記ポリオレフィン樹脂Aを含む。処理条件Aで処理した後、前記多孔質層の空隙率が2.0%以下であり、前記多孔質層に前記ポリオレフィン樹脂Aを含むということは、
図1に示されるように樹脂バインダおよび無機粒子を含む多孔質層の空隙に、ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィン樹脂成分が多孔質層の無機粒子に浸透し、無機粒子の空隙を充填していることを意味する。下記の処理条件Aで処理した後、前記多孔質層の空隙率は、1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
[処理条件A]
1)積層多孔膜から、測定用サンプルとして、長さ15mm(機械方向)×幅7mmの長方形状の測定用サンプルを切り出す。
2)幅13mmのチューコーフロー耐熱ポリイミドテープAPI-114AFRの中央部に3mm×3mmの正方形の孔を開け、ポリオレフィン微多孔膜側に全方向把持した状態で貼付け固定する。
3)このサンプルを固定したイミドテープをΦ3mmの穴の開いた長さ30mm×幅20mm、厚さ0.5mmのアルミ板上に貼り、もう1枚の同形状のアルミ板で挟み、アルミ板をポリイミドテープでスライドグラス上に固定し観察用可視光が透過することができるサンドサンプルを得る。
4)このサンドサンプルを100℃に加熱したメトラー・トレド製ホットステージ上に1分間静置し、2℃/分の速度で200℃まで昇温させた後、-30℃/分の速度で25℃まで降温させる。
【0030】
また、本発明の積層多孔膜は、前記ポリオレフィン微多孔膜が質量平均分子量の異なる2種類以上のポリオレフィン樹脂を含み、質量平均分子量の異なる2種類以上のポリオレフィン樹脂のうち、質量平均分子量が低いポリオレフィン樹脂がポリオレフィン樹脂Aであることが好ましい。
【0031】
また、本発明の積層多孔膜は、質量平均分子量Mwが6.0×104以上3.0×105以下のポリオレフィン樹脂と、質量平均分子量Mwが7.0×105以上1.6×106以下のポリオレフィン樹脂を原料として用いて得られることが好ましく、質量平均分子量Mwが9.0×104以上1.5×105以下のポリオレフィン樹脂と、質量平均分子量Mwが9.0×105以上1.4×106以下のポリオレフィン樹脂を原料として用いて得られることがより好ましい。
【0032】
また、本発明の積層多孔膜のポリオレフィン微多孔膜は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定される前記ポリオレフィン微多孔膜の積分分子量分布曲線において、重量平均分子量Mwの1.0x104以下の成分のピーク面積%が1.0以上7.0以下、かつ、分子量1.0×106以上の成分のピーク面積%が10.0以上40.0以下であることが好ましい。
【0033】
本発明のさらに好ましい態様について説明する。ポリオレフィン微多孔膜に、後述する多孔質層を積層した積層多孔膜を、四方把持状態で200℃まで昇温させた後、室温まで降温させ、赤外分光法の全反射法で上記積層多孔膜の多孔質層側を測定した際の、2800cm
-1から3000cm
-1に出現するピークのABSORBANCEが0.05以上1.80以下であることが好ましい。これが意味するところは、
図1に示されるように本来樹脂バインダと無機粒子からなる多孔質層(製造時はポリオレフィンは含まれていない)の空隙に、ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィン樹脂成分が多孔質層の無機粒子に浸透し、無機粒子の空隙を充填し、一部は多孔質層表層に析出していることを意味する。この現象はポリエチレンの融点以上で徐々に開始される為、上記ピークのABSORBANCEが0.05以上1.80以下に至る特性であれば、ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリエチレンの融点以上の150℃以上の温度領域で安定的にSD機能を維持可能で、ポリオレフィン微多孔膜に後述する多孔質層を積層した積層多孔膜のインピーダンス法により測定される180℃における抵抗が1.0×10
3Ω/cm
2の以上の絶縁特性を発現することが容易となる。
【0034】
このような積層多孔膜は、ポリオレフィン微多孔膜に単に多孔質層を積層するだけでは得ることができない。そこで本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、後述する条件にて溶融時に移動性の高い低分子量樹脂と構造を形成する高分子量樹脂を用い調製したポリオレフィン多孔膜上に、無機粒子を含む低分子量樹脂の多孔質層への毛管現象を用いた移動に適した構造の多孔質層を塗布したものが、かかる性能を発現することを突き止め、本発明のより好適な態様に至った。
【0035】
高分子量樹脂から成る網目構造は溶融時に溶融収縮するが、エントロピー弾性を持つゴム状構造が形成されなければ、溶融した樹脂が収縮し開孔することにはならない。このために網目構造を形成する高分子量樹脂の分子量が高いことは好ましくなく、ゴム状構造を形成しなければ、伸長した分子は分子間力により比較的安定に存在することが可能であり、開孔を起こさない。しかし、ゴム状構造の分子が形成された場合、ゴム状構造の分子は融点以上の高温域でそれ自体が安定になるように最も熱的に安定な核に向かって収縮し開孔することになる。この、より高温での開孔現象による短絡を防ぐために、溶融時に運動性の高い低分子量成分を加えることにより、その熱運動性により低分子量成分が多孔質コート層に浸透し、溶融温度以上で絶縁性を維持できることを見出した。このように、網目構造成過程を分子量の違いを用いコントロールし、充分な物理特性を発現させ、かつ、溶融時の機能を付与することが重要である。この無機粒子を含む多孔質層への低分子量樹脂の浸透は毛管現象によるものと推察され、毛管現象であるが故、多孔質層の空隙率および多孔質層/微多孔膜界面での多孔質層の開孔の大きさは重要な因子となる。
【0036】
積層多孔膜のインピーダンス法により測定される180℃における抵抗が1.0×103Ω/cm2以上が好ましく、5.0×103Ω/cm2以上がより好ましく、1.0×104Ω/cm2以上がさらに好ましい。上限は特に制限されるものではないが、1.0×106Ω/cm2以下が好ましい。インピーダンス法により測定される180℃における抵抗を前述の範囲以上であることにより、積層多孔膜を用いた電池が加熱された際、あるいは内部短絡等により電池内部の温度が上昇した際でも、積層多孔膜の抵抗値が高い状態を維持し、短絡しにくい、あるいは僅かに短絡しても大電流が流れず、電池を熱暴走に至らしめにくい効果が高いことを意味する。
【0037】
(多孔質層)
ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面には、多孔質層が積層している。本発明における多孔質層とは、内部に空隙を有する層をいう。多孔質層は、樹脂バインダおよび無機フィラーを含んでおり、樹脂バインダは無機粒子同士を結合させる役割やポリオレフィン微多孔膜と多孔質層とを結合させる役割を担う目的で使用され、無機バインダは多孔質層の強度を担保するために使用される。
【0038】
(樹脂バインダ)
多孔質層に含まれる樹脂バインダは、その中間点ガラス転移温度が-80℃~0℃が好ましく、より好ましくは、-40℃~0℃である。樹脂バインダの中間点ガラス転移温度が0℃より大きいと、室温における樹脂バインダに含まれる高分子鎖の流動性が低く粘着性が低いため、ポリオレフィン微多孔膜と多孔質層の剥離強度が低下し、多孔質層の剥がれが発生する懸念がある。樹脂バインダの中間点ガラス転移温度が0℃以下であると、室温における樹脂バインダに含まれる高分子鎖の流動性が大きく粘着性が高いため、良好なポリオレフィン微多孔膜と多孔質層の密着性が得られる。樹脂バインダの中間点ガラス転移温度が-80℃未満であると、室温における樹脂バインダの流動性が高く粘着性が高いため、積層多孔膜のみを捲回した場合に、ブロッキングが発生し生産性が低下する恐れがある。また、中間点ガラス転移温度が-40℃以上であると、室温における樹脂バインダの流動性を抑えることができるため、ポリオレフィン微多孔膜に多孔質層を積層した際に、ポリオレフィン微多孔膜と多孔質層の積層面に存在するポリオレフィン微多孔膜中の微多孔に多孔質層に含まれる樹脂バインダが侵入し、積層多孔膜の透気抵抗度が増加し、イオン移動性が悪化する恐れが低減できる。ここで中間点ガラス転移温度とは、例えば「JIS K7121:2012プラスチックの転移温度測定方法」の規定に準じた示差走査熱量測定(DSC)において、昇温、冷却した後の2回目の昇温時の低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線のこう配が最大になるような点で引いた接線との交点を意味する。
【0039】
多孔質層に用いる樹脂バインダとして、例えば、ポリビニルアルコール、セルロースエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂などが挙げられる。
【0040】
(無機粒子)
無機粒子としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、ベーマイト、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウムなどの無機酸化物粒子、窒化アルミニウム、窒化硅素などの無機窒化物粒子、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶粒子などが挙げられる。これらの粒子を1種類で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0041】
用いる無機粒子の形状としては、球状、板状、針状、棒状、楕円状などが挙げられ、いずれの形状であってもよい。
【0042】
無機粒子の含有量の下限は、樹脂バインダと無機粒子との合計に対して、50質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上97質量%未満が好ましい。無機粒子の含有量がこの範囲であると、多孔質層の強度が適度に保たれる。
【0043】
無機粒子の1次平均粒径は、多孔質層の強度、空隙率の観点から0.20μm以上3.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.30μm以上1.5μm以下である。1次平均粒径の下限を前述の範囲以上とすることで、多孔質層が緻密になり、ポリオレフィン微多孔膜の孔を閉孔させてしまうことで透気抵抗度が高くなり電池特性が悪化することを防止できる。また、1次平均粒径の上限を前述の範囲以下とすることで、第1多孔質層が不均一な構造となり十分な熱収縮率が得られなくなることを防ぎ、また多孔質層の膜厚が増大し、電池特性が低下することを防止できる。なお、無機粒子の1次平均粒径は、JISZ8825(2013)に従いレーザー回折式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、LA-960V2)を用いて評価ができ、体積基準積算率が50%のときの値を無機粒子の1次平均粒径とした。
溶融した低分子量樹脂が毛管現象を用い多孔質膜の空隙に浸透するためには、多孔質膜の空隙率は30~60%である必要がある。
【0044】
(ポリオレフィン微多孔膜の製造方法)
次いで、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法について説明する。
【0045】
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、可塑剤としての成形用溶剤を使用しない乾式法、使用する湿式法(相分離法)があり、微細孔の均一化や平面性の観点から湿式法が好ましい。
【0046】
湿式法による製造方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂と成形用溶剤とを加熱溶融混練し、得られた樹脂溶液をダイより押出し、冷却することにより未延伸ゲル状シートを形成し、得られた未延伸ゲル状シートに対して一軸方向以上に延伸を実施し、前記成形用溶剤を除去し、乾燥・熱固定することによって微多孔膜を得る方法などが挙げられる。
【0047】
ポリオレフィン微多孔膜は単層膜であってもよいし、分子量あるいは平均細孔径の異なる二層以上からなる多層膜であってもよい。多層膜の場合、少なくとも一つの最外層のポリエチレン樹脂が前記分子量、および分子量分布を満足することが好ましい。
【0048】
二層以上からなる多層ポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、例えば、a層及びb層を構成する各ポリオレフィン樹脂を成形用溶剤と加熱溶融混練し、得られた各樹脂溶液をそれぞれの押出機から1つのダイに供給し、一体化させて共押出する方法や各層を重ね合わせて熱融着する方法のいずれでも作製できる。共押出法の方が、層間の接着強度を得やすく、層間に連通孔を形成しやすいため高い透過性を維持しやすく、生産性にも優れているため好ましい。
【0049】
本発明のポリオレフィン微多孔膜を得るための製造方法について詳述する。本発明では未延伸ゲル状シートをロール法、テンター法もしくはこれらの方法の組み合わせによって機械方向(「縦方向」ともいう)及び幅方向(「横方向」ともいう)の二方向に所定の倍率で延伸する。延伸は縦方向及び横方向を順次行う逐次二軸延伸法と、縦方向及び横方向に同時に行う同時二軸延伸法の2種類あるが、本発明においては延伸法を問わない。
【0050】
本発明に用いるポリオレフィン微多孔膜の製造方法は以下の(a)~(e)の工程を含むものである。
(a)ポリオレフィン樹脂と成形用溶剤とを溶融混練し、ポリオレフィン樹脂溶液を調製する工程
(b)前記ポリオレフィン樹脂溶液を押出し、冷却し、未延伸ゲル状シートを形成する工程
(c)前記のゲル状シートを延伸する延伸工程
(d)前記二軸延伸ゲル状シートから成形用溶剤を除去し、乾燥する工程
(e)前記乾燥後のシートを熱固定してポリオレフィン微多孔膜を得る工程
以下、各工程について説明する。
(a)ポリオレフィン樹脂溶液の調製工程
ポリオレフィン樹脂溶液の調製工程としては、ポリオレフィン樹脂に成形用溶剤を添加した後、溶融混練し、ポリオレフィン樹脂溶液を調製する。溶融混練方法として、例えば、特公平06-104736号公報および日本国特許第3347835号公報に記載の二軸押出機を用いる方法を利用することができる。溶融混練方法は公知であるので説明を省略する。
【0051】
成形用溶剤としては、ポリオレフィンを十分に溶解できるものであれば特に限定されない。例えば、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィンなどの脂肪族または環式の炭化水素、あるいは沸点がこれらに対応する鉱油留分などがあげられるが、流動パラフィンのような不揮発性の溶剤が好ましい。
【0052】
ポリオレフィン樹脂溶液中のポリオレフィン樹脂濃度は、ポリオレフィン樹脂と成形用溶剤の合計を100質量部として、25~40質量部であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂濃度が上記範囲であると、ポリオレフィン樹脂溶液を押し出す際のダイ出口でスウェルやネックインを防止でき、ゲル状シートの成形性及び自己支持性が維持される。
【0053】
(b)未延伸ゲル状シートを成形する工程
未延伸ゲル状シートを成形する工程としては、ポリオレフィン樹脂溶液を押出機から直接的に又は別の押出機を介してダイに送給し、シート状に押し出し、冷却して未延伸ゲル状シートを成形する。同一または異なる組成の複数のポリオレフィン溶液を、押出機から一つのダイに送給し、そこで層状に積層し、シート状に押出してもよい。
【0054】
押出方法はフラットダイ法及びインフレーション法のいずれでもよい。押出し温度は140~250℃が好ましく、押出速度は0.2~15m/分が好ましい。ポリオレフィン溶液の各押出量を調節することにより、膜厚を調節することができる。押出方法としては、例えば、特公平06-104736号公報および日本国特許第3347835号公報に開示の方法を利用することができる。
【0055】
シート状に押し出されたポリオレフィン樹脂溶液を冷却することによりゲル状シートを形成する。冷却方法としては冷風、冷却水等の冷媒に接触させる方法、冷却ロールに接触させる方法等を用いることができるが、冷媒で冷却したロールに接触させて冷却させることが好ましい。例えば、冷媒で表面温度20℃から40℃に設定した回転する冷却ロールにシート状に押し出されたポリオレフィン樹脂溶液を接触させることにより未延伸ゲル状シートを形成することができる。押出されたポリオレフィン樹脂溶液は25℃以下まで冷却するのが好ましい。
【0056】
(c)延伸工程
次に、得られたゲル状シートを少なくとも一軸方向に延伸する。ゲル状シートは、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、またはこれらの組合せにより、所定の倍率で延伸することが好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよく、二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸および多段延伸(例えば、同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれも用いることができる。
【0057】
この延伸工程における延伸倍率(面積延伸倍率)は、25倍以上が好ましい。また、機械方向および幅方向での延伸倍率は、互いに同じでも異なってもよい。この延伸工程における延伸倍率とは、延伸工程直前のゲル状シートを基準として、次工程に供される直前の微多孔性基材の面積延伸倍率のことをいう。
【0058】
この延伸工程の延伸温度は、ポリオレフィンの結晶分散温度(Tcd)~Tcd+30℃の範囲内にすることが好ましく、Tcd+5℃~Tcd+28℃の範囲内にすることがより好ましく、Tcd+10℃~Tcd+26℃の範囲内にすることが特に好ましい態様である。例えば、ポリエチレンの場合は、延伸温度を90~140℃とすることが好ましく、より好ましくは100~130℃にする。結晶分散温度(Tcd)は、ASTM D4065による動的粘弾性の温度特性測定により求められる。
【0059】
以上のような延伸により、例えばポリオレフィンとして特にポリエチレンを用いた場合、溶液内で三次元的に不規則に連結した構造が、冷却時に球晶状構造を生成し、この構造の開裂により多数のフィブリルが形成され網目構造を形成する。この網目構造は、延伸による結合点のひずみ硬化で機械的強度が向上するが、適切な条件で延伸を行うことにより、貫通孔径を制御し、さらに薄い膜厚でも高い空隙率を有することが可能となる。
【0060】
(d)二軸延伸ゲル状シートから成形用溶剤を除去し、乾燥する工程
二軸延伸ゲル状シートから洗浄溶剤を用いて成形用溶剤を除去(洗浄)し、乾燥する。洗浄溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素などの塩素化炭化水素を用いることができる。これらの洗浄溶剤はポリオレフィンの溶解に用いた成形用溶剤に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いる。洗浄方法は、洗浄溶剤に浸漬し抽出する方法、洗浄溶剤をシャワーする方法、またはこれらの組合せによる方法などにより行うことができる。上述のような洗浄は、シートの残留溶剤が1質量%未満になるまで行う。その後、シートを乾燥するが、乾燥方法は加熱乾燥、風乾などの方法で行うことができる。
【0061】
(e)乾燥後のシートを熱処理してポリオレフィン微多孔膜を得る工程
乾燥後のシートを熱処理してポリオレフィン微多孔膜を得る。熱処理は熱収縮率及び透気抵抗度の観点から90~150℃の範囲内の温度で行うのが好ましい。熱処理工程の滞留時間は、特に限定されることはないが、通常は1秒以上10分以下、好ましくは3秒から2分以下で行われる。熱処理はテンター方式、ロール方式、圧延方式、フリー方式のいずれも採用できる。
【0062】
熱処理工程では縦方向及び横方向の両方向の固定を行いながら、縦方向及び横方向の少なくとも一方向に収縮させポリオレフィン微多孔膜の残留歪の除去を行うことができる。熱処理工程における縦方向又は横方向の収縮率は、熱収縮率及び透気抵抗度の観点から0.01~50%が好ましく、より好ましくは3~20%である。さらに、機械的強度向上のために再加熱し、再延伸・再緩和してもよい。再延伸工程は延伸ロール式もしくはテンター式のいずれでもよい。
【0063】
(多孔質層の製造方法)
多孔質層の組成や形成方法は特に制限されないが、塗工工程及び膜固定工程を行うことによって得ることができる。
【0064】
多孔質層を形成するための塗工液を調製する順序としては特に限定はされないが、無機粒子を均一分散し、塗工液中の無機粒子の1次平均粒径を均一にする観点から、樹脂バインダと極性溶媒を混合、溶解させた溶解液と、無機粒子と極性溶媒を用いて分散させた分散液を混合し、さらに必要に応じてその他の有機樹脂、添加剤等を添加し、塗工液を調製することが好ましい。
【0065】
ここで、無機粒子を分散させる溶媒としては、水、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、エチレンカーボネート、フルフリルアルコール、及びメタノール等の極性溶媒を用いることができる。
【0066】
塗工液中には、樹脂バインダと無機粒子以外にも、必要に応じて、有機樹脂、分散剤、増粘剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等を添加してもよい。
【0067】
塗工液の分散方法としては、特に限定はされないが、多孔質層の表面形状を平たん均一化する観点から、塗工液中の無機粒子が均一分散し、無機粒子の1次平均粒径が均一であることが重要であり、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミルなどを用いて、無機粒子を溶媒に分散したのち、当該溶媒に有機樹脂を分散させることが好ましい。特に、塗工液中の無機粒子の1次平均粒径の均一性の観点から、ビーズミルを用いて分散することが好ましく、ビーズミルに用いるビーズ径は0.1~1mmが好ましく、使用するビーズの材質は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、ジルコニア強化アルミナなどを用いることが好ましい。
【0068】
また、フッ素含有樹脂を加えての分散は、複数回行うことが好ましく、さらに樹脂を溶媒と混合する際に使用する混合装置の周速は、無機粒子を溶媒に分散する速度より高速でかつ、段階的に高速にすることが、塗工液中の無機粒子の1次平均粒径の均一性の観点から好ましい。
【0069】
塗工液の粘度は、3mPa・s以上、200mPa・s以下であることが好ましく、5mPa・s以上、150mPa・s以下であることがより好ましく、10mPa・s以上、100mPa・s以下であることがさらに好ましい。塗工液の粘度が200mPa・s以下であると、高速塗工が可能であり良好な生産性が得られる。塗工液が低粘度であれば高速塗工に適するため好ましいが、例えば安定な塗膜形成の観点から3mPa・sを下回らないことが好ましい。塗工液の粘度は、塗工液の固形分濃度、有機樹脂と無機粒子の混合比率、有機樹脂の分子量によって制御することができる。
【0070】
得られた塗工液をポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に塗工する際に用いる塗工方法としては、例えば、ディップコーティング、グラビアコーティング、チャンバードクターコーティング、スリットダイコーティング、ナイフコーティング、コンマコーティング、キスコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、スクリーン印刷、パット印刷などの方式が挙げられる。これらの中でも、塗膜層の量産性の観点から、グラビアコーティング、チャンバードクターコーティング、スリットダイコーティングが好ましく、塗工液をポリオレフィン微多孔膜の両面に塗工する場合は、グラビアコーティング、チャンバードクターコーティングが特に好ましい。上記のようにして、塗工工程において塗膜層を形成することができる。
【0071】
連続的に塗工工程を行う場合、ポリオレフィン微多孔膜の搬送速度は例えば5m/分~200m/分の範囲に設定でき、生産性と塗膜の厚みの均一性の点から、塗工方式に応じて適宜設定することができる。
【0072】
多孔質層は、塗膜層を膜固定して多孔質層とする膜固定工程を行うことによって得ることができる。膜固定とは、塗工液に含まれる溶媒を乾燥によって除去し、多孔質層を得ることをいう。多孔質層は、イオン透過性の観点から、内部に空隙を含むことが好ましく、膜固定工程によって内部に空隙を含むことができる。
【0073】
膜固定工程は、塗工液に含まれる溶媒が揮発する手法であれば限定されることなく、温風乾燥、赤外線乾燥、吸引乾燥、真空乾燥、マイクロ波乾燥から選択される少なくとも一つの工程を含むことが好ましい。乾燥は、例えば100℃以下の熱風で行うことができる。
【0074】
多孔質層の膜厚(微多孔膜の両面に有する場合はその合計)は、好ましくは1.0~5.0μmより好ましくは1.5~4.0μmである。膜厚が1.0μmより小さいと、ポリオレフィンの融点に至るまでにポリオレフィン微多孔膜が溶融収縮することを抑制できず、破膜を引き起こし絶縁性が損なわれる恐れがある。膜厚が1.0μm以上であれば、充分な多孔質層とポリオレフィン基材との界面効果が得られ、ポリオレフィン微多孔膜が融点以上で溶融収縮することを防ぎ、破膜強度と絶縁性を確保できる。膜厚が5.0μmより大きいと、ポリオレフィンの融点以上で溶融したポリオレフィンが多孔質層の表層まで到達できず、良好なメルトダウン耐性を維持できない。また、膜厚が5.0μm以下であれば、巻き嵩を抑えることができ、電気化学素子の高容量化に適している。
【0075】
(電気化学素子)
本発明で言う電気化学素子は、電極組立体と、電極組立体を収容する電池ケースとを備える。電極組立体は、正極、負極、及び正極と負極との間に介されたセパレータを含む。本発明の積層多孔膜は上記電気化学素子用セパレータに好適に用いることができる。また、本発明のポリオレフィン微多孔膜に多孔質層を設けたものも上記セパレータに好適に用いることができる。
【0076】
このような電気化学素子としては、例えば、一次電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサ等が挙げられる。
【0077】
一次電池としては、例えば、マンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池、フッ化黒鉛・リチウム電池、二酸化マンガン・リチウム電池、固体電解質電池、注水電池、熱電池等が挙げられる。
【0078】
二次電池としては、例えば、リチウム二次電池、鉛蓄電池、ニッケル・カドニウム電池、ニッケル・水素電池、ニッケル・鉄蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池、二酸化マンガン・リチウム二次電池、コバルト酸リチウム・炭酸系二次電池、バナジウム・リチウム二次電池等が挙げられる。
【0079】
これらの中でも、長期に利用できることから、二次電池が好ましく、有機溶媒を利用することにより高エネルギー密度を実現しているリチウム二次電池がより好ましい。
【0080】
電池ケースとしては、例えば、アルミニウム製のケース、内面がニッケルメッキされた鉄製のケース、アルミニウムラミネートフィルムからなるケース等を用いることができる。
【0081】
電池ケースの形状は、パウチ型、円筒型、角型、コイン型等が挙げられる。これらの中でも、高エネルギー密度を実現でき、低コストで自由に形状を設計できることから、パウチ型が好ましい。
【0082】
正極は、活物質、バインダ樹脂、および導電助剤からなる正極材が集電体上に積層されたものである。
【0083】
活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、Li(NiCoMn)O2などの層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMn2O4などのスピネル型マンガン酸化物、およびLiFePO4などの鉄系化合物などが挙げられる。
【0084】
バインダ樹脂としては、耐酸化性が高い樹脂を使用すればよい。具体的には、フッ素含有樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂などが挙げられる。
【0085】
導電助剤としては、カーボンブラック、黒鉛などの炭素材料などが挙げられる。
【0086】
集電体としては、金属箔が好適であり、特にアルミニウムが用いられることが多い。
【0087】
負極は、活物質およびバインダ樹脂からなる負極材が集電体上に積層されたものである。
【0088】
活物質としては、人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどの炭素材料、スズ、シリコンなどのリチウム合金系材料、リチウムなどの金属材料、およびチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)などが挙げられる。
【0089】
バインダ樹脂としては、フッ素含有樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂などが挙げられる。
【0090】
集電体としては、金属箔が好適であり、特に銅箔が用いられることが多い。
【0091】
本発明の電気化学素子は、電解液を含有することが好ましい。電解液は、二次電池等の電気化学素子の中で正極と負極との間でイオンを移動させる場となっており、電解質を有機溶媒にて溶解させた構成をしている。
【0092】
電解質としては、LiPF6、LiBF4、およびLiClO4などが挙げられるが、有機溶媒への溶解性、イオン電導度の観点からLiPF6が好適に用いられている。
【0093】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどが挙げられ、これらの有機溶媒を2種類以上混合して使用してもよい。
【0094】
以下、電気化学素子の中でも好ましく用いられるリチウム二次電池の作製方法について説明する。
【0095】
リチウム二次電池の作製方法としては、まず活物質と導電助剤をバインダ樹脂溶液中に分散して電極用塗布液を調製し、この塗布液を集電体上に塗工して、溶媒を乾燥させることで正極、負極がそれぞれ得られる。乾燥後の塗工膜の膜厚は50μm以上500μm以下とすることが好ましい。
【0096】
得られた正極と負極の間にリチウム二次電池用セパレータを、それぞれの電極の活物質層と接するように配置し、アルミラミネートフィルム等の外装材に封入し、電解液を注入後、負極リードや安全弁を設置し、外装材を封止する。
【0097】
このようにして得られたリチウム二次電池は、電極との接着性が高く、かつ優れた電池特性を有し、また、低コストでの製造が可能となる。
【実施例0098】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0099】
[測定法]
1.積層多孔膜および多孔質層の厚み
接触式膜厚計((株)ミツトヨ製「ライトマチック」(登録商標)series318)を使用して測定した。測定は、超硬球面測定子φ9.5mmを用いて、加重0.01Nの条件で20点を測定し、得られた測定値の平均値を厚みとした。また、多孔質層の厚みtは、次式を用いて計算した。
t=多孔質層形成後の試料の厚み(t1)-多孔質層形成前の試料の厚み(t2)。
【0100】
2.質量測定
サンプルの質量は、電子天秤(ザルトリウスCPA225D)で0.01mgまで測定した。
【0101】
3.質量平均分子量
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)および、高密度ポリエチレン(HDPE)の質量平均分子量(Mw)は以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。測定装置は、Agilent製高温GPC装置PL-GPC220を用い、Agilent製PL1110-6200(20μm MIXED-A)カラムを2本使用した。カラム温度は160℃、溶媒(移動相)は1,2,4-トリクロロベンゼン、溶媒流速は1.0mL/分で行った。酸化防止剤の存在下160℃/3.5時間浸透溶解させた濃度0.1質量%のサンプルを、インジェクション量500μLで注入した。検出器は、Agilent製示差屈折率検出器(RI検出器)、および、粘度計:Agilent製粘度検出器を用い、単分散ポリスチレン標準試料を用いたユニバーサル検量線法にて質量平均分子量を計算した。
【0102】
4.シャットダウン温度、メルトダウン温度
積層多孔膜から、測定用サンプルとして、直径19mmの円形状の測定用サンプルを切り出した。また、宝泉社製2032型コインセルの部材(上蓋、下蓋、PFA製ガスケット、直径15.5mm、厚み1.0mmの円形状のスペーサー、ウェーブワッシャー)を用意した。
【0103】
まず、露点温度を-35℃以下としたドライルーム内にて、下蓋に、下蓋側から順に、測定用サンプル1枚、ガスケット1個を入れたセルを2個ずつ作製した。そして、作製した上記セルに、LiBF4にエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(EC/PC=50/50(質量比))を配合した濃度1Mのキシダ化学株式会社製電解液に、DIC製界面活性剤F-444を0.3質量%添加した溶液を注液した。次いで、ガスケット中空部の測定用サンプルの上に、スペーサーを設置した後、セルを約-50kPaの圧力で1分間静置することを2回繰り替えし、測定用サンプルに電解液を含浸させた。その後、スペーサーの上に、スペーサー側から順に、ウェーブワッシャー、上蓋を載置し、コインセルカシメ器で密閉してサンプルセルを得た。
【0104】
得られたサンプルセルはオーブン内に設置した同軸コンタクトプローブで挟み、日置電機製LCRメータIM3523(若しくはケミカルインピーダンスアナライザIM3590)を用いて、振幅50mV、周波数1kHzにて該セルの抵抗を測定した。コインセルの温度は、該セルの上蓋に測温抵抗体を密着させて測定した。室温から50℃に昇温したのち、10分静置し、5℃/分の速度で180℃まで昇温しながら抵抗を測定した。抵抗が1.0×103Ω/cm2に到達したときの温度をSD温度とし、前記SD温度に到達後さらに昇温を継続しながら測定した抵抗が再び1.0×103Ω/cm2となる温度をMD温度とした。上記180℃で1.0×103Ω/cm2以上であれば、積層多孔膜を含んだ電池が加熱された際、あるいは内部短絡等により電池内部の温度が上昇した際でも、積層多孔膜がSD特性を維持しており、短絡しにくい、あるいは短絡しても大電流が流れず、メルトダウン耐性が高いと判断した。
【0105】
5.赤外分光法ATR法 2800cm-1から3000cm-1に出現するピークのABSORBANCE
積層多孔膜から、測定用サンプルとして、長さ15mm(機械方向)×幅7mmの長方形状の測定用サンプルを切り出した。幅13mmのチューコーフロー製耐熱ポリイミドテープAPI-114AFRの中央部に3mm×3mmの正方形の孔を開け、ポリオレフィン微多孔膜側を全方向把持した状態で貼付け固定した。このサンプルを固定したイミドテープをΦ3mmの穴の開いた長さ30mm×幅20mm、厚さ0.5mmのアルミ板上に貼り、もう1枚の同形状のアルミ板で挟み、これらをポリイミドテープでスライドガラス上に固定し観察用可視光が透過することができるサンドサンプルを得た。サンドサンプルをメトラー・トレド製ホットステージFP82HTに装着、顕微鏡下で100℃に昇温後、1分間静置し、2℃/分の速度で200℃まで昇温した後、-30℃/分の速度で25℃まで降温させ、加熱処理後の積層多孔膜をスライドガラスから取り出した。
【0106】
堀場製作所製FT-720を用いて、スキャン回数:30回、装置関数:H-G、走査速度:5.0mm/秒、分解能:4cm-1、ゲイン:AUTO、測定波数領域:600cm-1~4000cm-1の条件にて、加熱処理後の積層多孔膜のΦ3mmの穴の位置の多孔質層側をダイヤモンドATR法で測定した。測定は、装置付属のサンプルホルダ上に加熱処理後の積層多孔膜の多孔質層側をATRクリスタル側に向けてのせ、装置付属の抑え棒で同じトルクで押さえつけ、実施した。得られたスペクトルの2700cm-1と3000cm-1とを結ぶ線分をベースラインとし、ベースライン補正を行った。そして、得られたスペクトルの2800cm-1から3000cm-1の波数の範囲における、ABSORBANCEを記録した。赤外分光法全反射法における積層多孔膜の厚み方向の赤外線の侵入深さは2μm以下であるため、多孔質層の厚みが2μmよりも大きい積層多孔膜では、上記ABSORBANCEが0.05より小さければ、加熱処理後の積層多孔膜のポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンが多孔質層へ浸透が進行しておらず、当該ABSORBANCEが0.05以上1.80以下であれば、加熱処理後の積層多孔膜のポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンが多孔質層へ浸透し、多孔質層へ浸透したポリオレフィンの一部が多孔質層の表面に到達したと判断した。
【0107】
6.多孔質層の空隙率(アルゴンガスを用いたイオンミリング法による断面加工と二値化処理)
日立ハイテクサイエンス製IM4000を用い100℃から2℃/分の速度で200℃まで昇温させた後、-30℃/分の速度で25℃まで降温させ処理した後の前記多孔質層断面の空隙率算出用断面加工を行った。サンプルを約1mm幅の短冊状にカットし、銅箔テープにアルミ箔・サンプル・アルミ箔の順番で貼り付ける。凡そ8mm×8mm片に割断したシリコンウエハーの結晶面のエッジが立っている面をサンプル・銅箔テープ上に固定する。シリコンウエハーよりアルミ箔とサンプルが1mm程度出ている状態に切り落とし、試料ホルダーへセットした。試料にアルゴンイオンビームが当たるようにマスク端部から25μm程度サンプルが出るように位置を調製し、真空チャンバー内にセットし、冷却用組線を試料ホルダー全面にネジで固定し真空にした。液体窒素で冷却、液体窒素投入後2時間後、冷却ユニットのPV値が-160℃以下になっていることを確認し、加速電圧4kV、ディスチャージ電圧1.5kV、速度:30往復/分、スイング角度:±30°で断面加工を約2時間行った。サンプルを室温に戻した後、白金蒸着後断面SEM観察を行った。空隙率は、MVTec Software社HALCON13を用い断面SEM画像を二値化処理し次のようにして求めた。二値化処理前の画像は加速電圧2kV、倍率10000倍、11.7μm×9.4μm(1280画素×1024画素)、8bit(256階調)グレースケールの画像を用いた。二値化処理は、断面SEM画像に対して、3画素×3画素平均にてノイズ除去を行った後に、21画素×21画素平均した画像から-20階調をしきい値として動的二値化処理をすることで、暗部を抽出(画像処理)した。この暗部を空隙部として、断面部の任意の面積に対して二値化抽出された暗部が占める割合を多孔質層の空隙率(%)として求めた。
また、以下の[処理条件A]の処理を行った後のサンプルについても同様にして処理条件A後の多孔質層の空隙率(%)を求めた。
1)積層多孔膜から、測定用サンプルとして、長さ15mm(機械方向)×幅7mmの長方形状の測定用サンプルを切り出す。
2)幅13mmのチューコーフロー製耐熱ポリイミドテープAPI-114AFRの中央部に3mm×3mmの正方形の孔を開け、ポリオレフィン微多孔膜側に全方向把持した状態で貼付け固定する。
3)このサンプルを固定したイミドテープをΦ3mmの穴の開いた長さ30mm×幅20mm、厚さ0.5mmのアルミ板上に貼り、もう1枚の同形状のアルミ板で挟み、アルミ板をポリイミドテープでスライドグラス上に固定し観察用可視光が透過することができるサンドサンプルを得る。
4)このサンドサンプルを100℃に加熱したメトラー・トレド製ホットステージ上に1分間静置し、2℃/分の速度で200℃まで昇温させた後、-30℃/分の速度で25℃まで降温させる。
【0108】
[実施例1]
(ポリオレフィン微多孔膜の作製)
質量平均分子量1.0×105のポリエチレン2質量%と質量平均分子量1.0×106のポリエチレン98質量%からなる組成物100質量部に、テトラキス[メチレン‐3‐(3,5‐ジターシャリーブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)‐プロピオネート]メタン0.375質量部をドライブレンドし、ポリエチレン組成物を作成した。得られたポリエチレン組成物25質量部を二軸押出機に投入し、流動パラフィン75質量部を二軸押出機のサイドフィーダーから供給、溶融混練して、押出機中にてポリエチレン樹脂溶液を調製した。続いて、この押出機の先端に設置されたダイから190℃でポリエチレン樹脂溶液を押し出し、内部冷却水温度を25℃に保った冷却ロールで未延伸ゲル状シートを成形した。
【0109】
得られた未延伸ゲル状シートを同時二軸延伸機に導入し、機械方向及び幅方向にそれぞれ7×7倍に延伸を行った。この時の延伸温度を115℃に調整した。得られた二軸延伸ゲル状シートを30℃まで冷却し、25℃に温調した塩化メチレンの洗浄槽内にて流動パラフィンを除去、室温で乾燥後、120℃10分で熱固定し、ポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0110】
(塗布液の調製)
アルミナ(略球形状、粒子サイズ0.5μm)、アクリル系樹脂A(中間点ガラス転移温度-25℃)、カルボキシルメチルセルロース(回転半径25nm)を、質量比98:1:1の割合で水に添加して撹拌することで均一な分散スラリーを得た。
【0111】
〈多孔質層の積層〉
ポリオレフィン微多孔膜の片面にグラビアコート法にてスラリーを塗布し、熱風乾燥炉(温度60℃)で20秒間乾燥し、片面に多孔質層厚み3μmの積層多孔膜を得た。
【0112】
本積層多孔膜につき、積層多孔膜の質量平均分子量、昇温インピーダンス法により測定される180℃における抵抗が1.0×103Ω/cm2以上であること、赤外分光法全反射法(IR法)によるABSORBANCE測定、多孔質層空隙率を表1に示した。また、アルゴンガスを用いたイオンミリング法による断面加工し、断面SEM画像の二値化により多孔質層断面部の空隙率を求めた。
【0113】
[実施例2]
質量平均分子量1.0×105のポリエチレン10質量%と質量平均分子量1×106のポリエチレン90質量%からなる組成物100質量部であること以外は実施例1と同様に行った。
【0114】
[実施例3]
質量平均分子量1.0×105のポリエチレン20質量%と質量平均分子量1.0×106のポリエチレン80質量%からなる組成物100質量部であること以外は実施例1と同様に行った。
【0115】
[実施例4]
質量平均分子量1.0×105のポリエチレン40質量%と質量平均分子量1.0×106のポリエチレン60質量%からなる組成物100質量部であること以外は実施例1と同様に行った。
【0116】
[実施例5]
得られた未延伸ゲル状シートを同時二軸延伸機に導入し、機械方向及び幅方向にそれぞれ5×5倍に延伸を行ったこと以外は実施例1と同様に行った。
【0117】
[実施例6]
ポリエチレン組成物30質量部を二軸押出機に投入した。さらに、流動パラフィン70質量部を二軸押出機のサイドフィーダーから供給したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0118】
[実施例7]
ポリエチレン組成物40質量部を二軸押出機に投入した。さらに、流動パラフィン60質量部を二軸押出機のサイドフィーダーから供給したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0119】
[実施例8]
質量平均分子量1.0×105のポリエチレン2質量%と質量平均分子量1.5×106のポリエチレン98質量%からなる組成物100質量部であること以外は実施例1と同様に行った。
【0120】
[実施例9]
質量平均分子量1.0×105のポリエチレン10質量%と質量平均分子量1.5×106のポリエチレン90質量%からなる組成物100質量部であること以外は実施例1と同様に行った。
【0121】
[実施例10]
質量平均分子量1.0×105のポリエチレン20質量%と質量平均分子量1.5×106のポリエチレン80質量%からなる組成物100質量部であること以外は実施例1と同様に行った。
【0122】
[実施例11]
質量平均分子量2.0×105のポリエチレン10質量%と質量平均分子量1.0×106のポリエチレン90質量%からなる組成物100質量部であること以外は実施例1と同様に行った。
【0123】
[実施例12]
質量平均分子量7.0×104のポリエチレン10質量%と質量平均分子量8.0×105のポリエチレン90質量%からなる組成物100質量部であること以外は実施例1と同様に行った。
【0124】
[実施例13]
アルミナ粒子として粒径が0.25μmのものを用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0125】
[実施例14]
アルミナ粒子として粒径が2.0μmのものを用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0126】
[比較例1]
多孔質層を積層しないこと以外は実施例1と同様に行った。
【0127】
[比較例2]
質量平均分子量1.5×106のポリエチレン100質量%からなる組成物100質量部であること以外は実施例1と同様に行った。
【0128】
[比較例3]
質量平均分子量2×104のポリエチレン2質量%と質量平均分子量1×106のポリエチレン98質量%からなる組成物100質量部であること以外は実施例1と同様に行った。
【0129】
[比較例4]
質量平均分子量1.0×105のポリエチレン30質量%と質量平均分子量2.0×106のポリエチレン70質量%からなる組成物100質量部であること、また、得られた未延伸ゲル状シートを同時二軸延伸機に導入し、機械方向及び幅方向にそれぞれ5×5倍に延伸を行ったこと以外は実施例1と同様に行った。
【0130】
[比較例5]
質量平均分子量3.0×105のポリエチレン30質量%と質量平均分子量1.0×106のポリエチレン70質量%からなる組成物100質量部であること、また、得られた未延伸ゲル状シートを同時二軸延伸機に導入し、機械方向及び幅方向にそれぞれ5×5倍に延伸を行ったこと以外は実施例1と同様に行った。
【0131】
[比較例6]
質量平均分子量1.0×105のポリエチレン2質量%と質量平均分子量6×105のポリエチレン98質量%からなる組成物100質量部であること以外は実施例1と同様に行った。
【0132】
[比較例7]
アルミナ粒子として粒径が2.5μmのものを用い、多孔質空隙率を62%とした以外は実施例1と同様に行った。
【0133】
[比較例8]
アルミナ粒子として粒径が0.15μmのものを用い、多孔質空隙率を29%とした以外は実施例1と同様に行った。
【0134】
【0135】