(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097435
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】クエット-テイラー渦流反応を用いたシート相型擬ベーマイトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/026 20220101AFI20230630BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20230630BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20230630BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20230630BHJP
B01J 2/00 20060101ALI20230630BHJP
B01J 2/10 20060101ALI20230630BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20230630BHJP
【FI】
C01F7/026
H01M50/451
H01M50/434
H01M50/443 M
B01J2/00 A
B01J2/10 A
H01G11/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209995
(22)【出願日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】10-2021-0188565
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ユン ドン ミン
(72)【発明者】
【氏名】パク ヒェ ジン
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヨン ウン
(72)【発明者】
【氏名】チョ デ ヒュン
【テーマコード(参考)】
4G004
4G076
5E078
5H021
【Fターム(参考)】
4G004AA01
4G004GA00
4G076AA02
4G076AB13
4G076BA14
4G076BD02
4G076BD04
4G076CA08
4G076DA30
4G076FA08
5E078AA14
5E078AB01
5E078CA07
5H021CC04
5H021EE22
5H021HH03
5H021HH06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生産効率を向上させたシート相型擬ベーマイトの製造方法を提供する。
【解決手段】本開示は、クエット-テイラー渦流反応を用いたシート相型擬ベーマイトの製造方法に関する。一実施形態によると、a)アルミニウム前駆体が分散した水溶液に有機酸を投入する工程と、b)前記a)工程の産物をテイラー反応器に投入する工程と、を含んでシート相型擬ベーマイトを得、前記テイラー反応器の圧力が1~100barである、シート相型擬ベーマイトの製造方法を提供する。クエット-テイラー流れを活用したテイラー反応器は、従来のバッチ式反応器と比べて撹拌能にさらに優れ、前記テイラー反応器を高温-高圧の特定条件に制御してシート相型擬ベーマイトの生産効率を向上させることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)アルミニウム前駆体が分散した水溶液に有機酸を投入する工程と、
b)前記a)工程の産物をテイラー反応器に投入する工程と、を含んでシート相型擬ベーマイトを得、
前記テイラー反応器の圧力が1~100barである、シート相型擬ベーマイトの製造方法。
【請求項2】
前記テイラー反応器の温度は100~300℃である、請求項1に記載のシート相型擬ベーマイトの製造方法。
【請求項3】
前記テイラー反応器の反応時間は1~20時間である、請求項1に記載のシート相型擬ベーマイトの製造方法。
【請求項4】
前記テイラー反応器の撹拌速度は100~800rpmである、請求項1に記載のシート相型擬ベーマイトの製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム前駆体は、アルミニウム酢酸塩、アルミニウム硝酸塩、アルミニウム硫酸塩、アルミニウムハライド、アルミニウム硫化物、アルミニウム水酸化物、アルミニウム酸化物、アルミニウムオキシ水酸化物、アルミニウムアルコキシドのうち1つまたはこれらの混合物を含む、請求項1に記載のシート相型擬ベーマイトの製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウムハライドは、AlCl3またはAlF3である、請求項5に記載のシート相型擬ベーマイトの製造方法。
【請求項7】
アルミニウムアルコキシドは、Al(O-i-Pr)3である、請求項5に記載のシート相型擬ベーマイトの製造方法。
【請求項8】
前記アルミニウム前駆体が分散した水溶液は、
蒸留水に前記アルミニウム前駆体を分散させた後に蒸留して準備される、請求項1に記載のシート相型擬ベーマイトの製造方法。
【請求項9】
前記有機酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、シュウ酸、リンゴ酸、酒石酸、およびクエン酸のうち1つまたはこれらの混合物を含む、請求項1に記載のシート相型擬ベーマイトの製造方法。
【請求項10】
前記a)工程の産物のpHは2~6である、請求項1に記載のシート相型擬ベーマイトの製造方法。
【請求項11】
前記テイラー反応器は、連続式テイラー反応器であり、
前記a)工程の産物は、0.1~10ml/minの投入速度でテイラー反応器内に投入される、請求項1に記載のシート相型擬ベーマイトの製造方法。
【請求項12】
前記テイラー反応器は、バッチ式テイラー反応器であり、
前記a)工程の産物は、テイラー反応器の全体積の80%以上投入される、請求項1に記載のシート相型擬ベーマイトの製造方法。
【請求項13】
長径が1~200nm、短径が1~200nm、厚さが1~10nmである、シート相型擬ベーマイト。
【請求項14】
前記長径/短径の比が5.0以下である、請求項13に記載のシート相型擬ベーマイト。
【請求項15】
a)アルミニウム前駆体が分散した水溶液に有機酸を投入する工程と、
b)前記a)工程の産物を圧力が1~100barのテイラー反応器に投入する工程と、を含んで製造される、請求項13に記載のシート相型擬ベーマイト。
【請求項16】
前記テイラー反応器の温度は100~300℃である、請求項15に記載のシート相型擬ベーマイト。
【請求項17】
重量%で、請求項13~16のいずれか一項に記載のシート相型擬ベーマイト0.1~30重量%、有機酸0重量%超過5重量%以下、および残りの溶媒を含む、シート相型擬ベーマイト溶液。
【請求項18】
請求項13~16のいずれか一項に記載のシート相型擬ベーマイトを含むコーティング層が一面または両面に配置された、セパレータ。
【請求項19】
請求項18に記載のセパレータを含む、電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クエット-テイラー渦流反応を用いたシート相型擬ベーマイトの製造方法に関する。具体的に、本開示は、高温-高圧でクエット-テイラー流れを用いた電池用セパレータの一面または両面セラミックコーティング用のシート相型擬ベーマイトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セパレータとは、電気自動車、携帯電話、ノートパソコンなどに用いられる電池において、正極と負極の接触を遮断して電極間の電気接触を防ぐことで安全性を高める微細フィルムである。電池用セパレータは、数十ナノメートルサイズの気孔を有しており、このような気孔を介してイオンが通過し、電池の機能を発揮するようにする。
【0003】
一般的に用いられるポリオレフィン系セパレータは、高温で熱収縮が激しく、物理的に耐久性が弱い。したがって、電池に異常が発生して内部の温度が上昇すると、セパレータの変形が生じやすく、深刻な場合、電極と電極との接触を十分に防止することができなくなり、ショート(short)による爆発が発生し得る。
【0004】
このような安定性問題を解決するために、既存のポリオレフィン系セパレータの片面や両面に無機粒子を用いて無機粒子層を形成したセラミックコーティングセパレータ(Ceramic Coated Separator、CCS)が開発されている。それに用いられる無機粒子としては、アルミナ(alumina)、水酸化アルミニウム(aluminum hydroxide)、シリカ(silica)、酸化バリウム(barium oxide)、酸化チタン(titanium oxide)、酸化マグネシウム(magnesium oxide)、水酸化マグネシウム(magnesium hydroxide)、粘土(clay)、ガラス粉末(glass powder)、ベーマイト(boehmite)、またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0005】
特に無機粒子のうち擬ベーマイトコーティング層が備えられたセパレータを用いた電池は、電池の膨張および表面摩擦力によるコーティング層中の無機粒子の離脱現象が著しく改善され、熱安定性が向上するだけでなく、アルミナなどの他の無機粒子を用いた場合よりもコーティング層の重量を減少できるという長所がある。
【0006】
擬ベーマイトは、多様な形態の相を有することができる。主相(main phase)がワイヤ(nanowire)相またはロッド(nanorod)相である針相型擬ベーマイトは、酸性条件で成長させて得ることができると知られており、主相が板(sheet)相であるシート相型擬ベーマイトは、塩基性条件で成長させて得ることができると知られている。しかし、擬ベーマイトをシート相型に製造するために塩基性条件で製造すると、十分に薄い厚さを確保できないという問題がある。
【0007】
擬ベーマイトの合成方法として、従来は、バッチ(batch)式反応器を用いて合成する方法がある。しかし、バッチ式反応器は、設備の限界などの問題により高温-高圧雰囲気を作ることができず、バッチ式反応器によりシート相型擬ベーマイトを確保するためには、通常、24時間程度の長時間の反応時間が必要であるため、生産効率が低下するという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の第1目的は、擬ベーマイトの生産効率を向上させるものであり、特に、擬ベーマイトのうちシート相型擬ベーマイトの生産効率を向上させようとする。
本開示の第2目的は、酸性雰囲気下で薄い厚さを有することができるシート相型擬ベーマイトの生産効率を向上させようとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するための一手段として、本開示の一実施形態によると、a)アルミニウム前駆体が分散した水溶液に有機酸を投入する工程と、b)前記a)工程の産物をテイラー反応器に投入する工程と、を含んでシート相型擬ベーマイトを得、前記テイラー反応器の圧力が1~100barである、シート相型擬ベーマイトの製造方法を提供することができる。
【0010】
一実施形態によると、前記テイラー反応器の温度は100~300℃であってもよい。
一実施形態によると、前記テイラー反応器の反応時間は1~20時間であってもよい。
一実施形態によると、前記テイラー反応器の撹拌速度は100~800rpmであってもよい。
【0011】
一実施形態によると、前記アルミニウム前駆体は、アルミニウム酢酸塩、アルミニウム硝酸塩、アルミニウム硫酸塩、アルミニウムハライド、アルミニウム硫化物、アルミニウム水酸化物、アルミニウム酸化物、アルミニウムオキシ水酸化物、アルミニウムアルコキシド、Al2O3、Al(OH)3、Al2(SO4)3、AlCl3、Al(O-i-Pr)3、Al(NO3)3、AlF3のうち1つまたはこれらの混合物を含んでもよい。
【0012】
一実施形態によると、前記アルミニウム前駆体が分散した水溶液は、蒸留水にアルミニウム前駆体を分散させた後に蒸留して準備されてもよい。
一実施形態によると、前記有機酸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、シュウ酸、リンゴ酸、酒石酸、およびクエン酸のうち1つまたはこれらの混合物を含んでもよい。
【0013】
一実施形態によると、前記a)工程の産物のpHは2~6であってもよい。
一実施形態によると、前記テイラー反応器は、連続式テイラー反応器であり、前記a)工程の産物は、0.1~10ml/minの投入速度でテイラー反応器内に投入されてもよい。
【0014】
一実施形態によると、前記テイラー反応器は、バッチ式テイラー反応器であり、前記a)工程の産物は、テイラー反応器の全体積の80%以上投入されてもよい。
【0015】
また、上述した目的を達成するための他の一手段として、本開示の一実施形態によると、長径が1~200nm、短径が1~200nm、厚さが1~10nmである、シート相型擬ベーマイトを提供することができる。
一実施形態によると、前記長径/短径の比が5.0以下であってもよい。
【0016】
一実施形態によると、前記シート相型擬ベーマイトは、a)アルミニウム前駆体が分散した水溶液に有機酸を投入する工程と、b)前記a)工程の産物を圧力が1~100barのテイラー反応器に投入する工程と、を含んで製造されてもよい。
一実施形態によると、前記テイラー反応器の温度は100~300℃であってもよい。
【0017】
また、上述した目的を達成するためのまた他の一手段として、本開示の一実施形態によると、重量%で、前述した実施形態のシート相型擬ベーマイト0.1~30重量%、有機酸0重量%超過5重量%以下、および残りの溶媒を含む、シート相型擬ベーマイト溶液を提供することができる。
【0018】
また、上述した目的を達成するためのさらに他の一手段として、本開示の一実施形態によると、前述した実施形態のシート相型擬ベーマイトを含むコーティング層が一面または両面に配置された、セパレータを提供することができる。
【0019】
また、上述した目的を達成するためのさらに他の一手段として、本開示の一実施形態によると、前述した実施形態のセパレータを含む、電気化学素子を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示の一実施形態によると、クエット-テイラー流れを活用したテイラー反応器は、従来のバッチ式反応器と比べて撹拌能にさらに優れ、前記テイラー反応器を高温-高圧の特定条件に制御してシート相型擬ベーマイトの生産効率を向上させることができる。
【0021】
従来のバッチ式反応器は、別の加圧器なしには高圧条件を作り難く、初期圧力による反応圧力の偏差が大きいが、本開示の一実施形態に係るテイラー反応器は、高圧条件を作りやすく、初期圧力による反応圧力の偏差が少ないため、大量生産に有利であるという効果がある。
【0022】
従来のバッチ式反応器を活用する場合、反応物を投入してから反応が進行する途中に反応条件を調節し難いという問題があるが、本開示の一実施形態に係るテイラー反応器は、反応が進行する途中にも反応条件を容易に調節することができるため、反応工程に対する即刻のフィードバックが可能であるため、産業上の利点に優れる。
【0023】
本開示の一実施形態によると、連続式テイラー反応器を活用してシート相型擬ベーマイトを大量に製造することができるため、産業上の利点に優れる。
本開示の一実施形態によると、酸性雰囲気下で薄い厚さを有するシート相型擬ベーマイトの生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本開示の一実施形態に係るテイラー反応器の装置図である。
【
図2】実施例1の擬ベーマイトのTEM写真である。
【
図3】実施例2の擬ベーマイトのTEM写真である。
【
図4】比較例1の擬ベーマイトのTEM写真である。
【
図5】比較例2の擬ベーマイトのTEM写真である。
【
図6】比較例3の擬ベーマイトのTEM写真である。
【
図7】比較例4の擬ベーマイトのTEM写真である。
【
図8】比較例5の擬ベーマイトのTEM写真である。
【
図9】比較例6の擬ベーマイトのTEM写真である。
【
図10】比較例7の擬ベーマイトのTEM写真である。
【
図11】比較例8の擬ベーマイトのTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示の利点および特徴、そしてそれらを達成する方法は、添付図面とともに詳細に後述している実施形態を参照すれば明らかになるであろう。ただし、本開示は、以下に開示される実施形態に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で実現できるものであり、本実施形態は、単に本開示が完全になるようにし、本開示が属する技術分野における通常の知識を有する者に開示の範囲を完全に知らせるために提供されるものであり、本開示は、請求項の範囲により定義されるだけである。以下、添付図面を参照して、本開示を実施するための具体的な内容を詳しく説明する。図面に関係なく同一の部材番号は、同一の構成要素を指し、「および/または」は、言及されたアイテムそれぞれおよび1つ以上の全ての組み合わせを含む。
【0026】
他の定義がなければ、本明細書で用いられる全ての用語(技術および科学的用語を含む)は、本開示が属する技術分野における通常の知識を有する者に共通に理解できる意味として用いられてもよい。明細書の全体にわたって、ある部分がある構成要素を「含む」とする際、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。また、単数形は、文句において特に言及しない限り、複数形も含む。
【0027】
本明細書において、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」または「上部に」存在するとする際、これは、他の部分の「真上に」存在する場合だけでなく、その間にまた他の部分が存在する場合も含む。
【0028】
本明細書において、「テイラー反応器」とは、クエット-テイラー渦流(couette-taylor vortex)またはクエット-テイラー流れ(couette-taylor flow)を発生可能な全ての形態の反応器を意味する。テイラー反応器は、例えば、商用のテイラー反応器であってもよいが、これに限定されない。
【0029】
シート相型擬ベーマイトは、電池CCSのコーティング用途として活用される場合、既存の通用していた無機粒子と比べて、電池の膨張および表面摩擦力によるコーティング粒子の離脱現象が著しく改善される。すなわち、シート相型擬ベーマイトを電池CCSのコーティング層の主成分として採択すると、電池の熱安定性がさらに向上し、相対的に高重量のアルミナなどの無機粒子を代替してコーティング層の重量を低減できるという効果がある。現在のところ、シート相型擬ベーマイトを高効率で生産できる技術は定立していない状況である。
【0030】
本発明者らは、このような問題を解決するために研究を重ねた結果、テイラー反応器を特定条件に制御して擬ベーマイトを生産すると、シート相型擬ベーマイトの生産効率を向上できることを見出した。本開示の一実施形態によると、a)アルミニウム前駆体が分散した水溶液に有機酸を投入する工程と、b)前記a)工程の産物をテイラー反応器に投入する工程と、を含んでシート相型擬ベーマイトを得ることができる。各工程について詳しく記述する。
【0031】
一実施形態によると、a)アルミニウム前駆体が分散した水溶液に有機酸を投入することができる。
一実施形態によると、アルミニウム前駆体が分散した水溶液は、蒸留水にアルミニウム前駆体を分散させた後に蒸留して準備されてもよい。前記実施形態によると、前記蒸留する工程により、アルミニウム前駆体水溶液の凝縮反応副産物を除去することができる。この際、蒸留は、減圧蒸留により行われてもよく、減圧蒸留は、例えば、100~900mbar、200~800mBar、または300~700mBarで行われてもよい。水溶液の温度は、例えば、50~100℃、具体的には60~97℃、より具体的には70~95℃であってもよい。
【0032】
一実施形態に係るアルミニウム前駆体は、アルミニウム含有物質であれば良く、特に制限されない。前記アルミニウム前駆体は、アルミニウム酢酸塩、アルミニウム硝酸塩、アルミニウム硫酸塩、アルミニウムハライド、アルミニウム硫化物、アルミニウム水酸化物、アルミニウム酸化物、アルミニウムオキシ水酸化物、アルミニウムアルコキシドのうち1つまたはこれらの混合物を含むか、または、例えば、Al2O3、Al(OH)3、Al2(SO4)3、AlCl3、Al(O-i-Pr)3、Al(NO3)3、AlF3のうち1つまたはこれらの混合物を含んでもよいが、これに限定されない。
【0033】
前述した蒸留工程時の凝縮反応副産物の除去を考慮すると、アルミニウム前駆体は、例えば、アルミニウムアルコキシドであってもよい。アルミニウムアルコキシドは、加水分解反応性がさらに高く、副産物を除去しやすいという特徴がある。アルミニウムアルコキシドは、例えば、炭素数2~5のアルコキシ基を有するアルミニウムアルコキシドであってもよく、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn-ブトキシド、アルミニウムsec-ブトキシドのうち1つまたはこれらの混合物を含んでもよい。
【0034】
一実施形態に係る有機酸は、擬ベーマイトを製造するためにpHを調節する目的で添加され、上記の目的を達成する有機酸であればいずれを用いてもよい。有機酸は、例えば、酢酸(acetic acid)、プロピオン酸(propionic acid)、酪酸(butyric acid)、乳酸(lactic acid)、シュウ酸(oxalic acid)、リンゴ酸(malic acid)、酒石酸(tartaric acid)、およびクエン酸(citric acid)のうち1つまたはこれらの混合物を含んでもよい。
【0035】
前記a)工程の産物は、例えば、アルミニウムゲル溶液であってもよい。前記a)工程の産物は、例えば、pH2~6、またはpH3~5であってもよい。前記実施形態によると、有機酸を投入した酸性のa)工程の産物を用いることで、酸性条件で薄い厚さを有するシート相型擬ベーマイトを製造することができる。厚さは、例えば、1~10nm、1~5nm、または1~2nmであってもよい。
【0036】
一実施形態によると、b)前記a)工程の産物をテイラー反応器に投入することができる。
一実施形態に係るテイラー反応器は、クエット-テイラー渦流(couette-taylor vortex)またはクエット-テイラー流れ(couette-taylor flow)を発生可能な全ての形態の反応器であれば良く、一実施形態に係るテイラー反応器は、内側に空間を有する生産チャンバと、前記生産チャンバの内側空間を複数に区画し、前記区画された複数の空間の温度を制御するヒータと、前記区画されたそれぞれの空間に備えられ、モータにより回転する内筒と、前記生産チャンバの圧力を制御する圧力装置と、前記生産チャンバに反応物を供給する加圧ポンプと、を含んでもよい。以下、理解を助けるために前述した例示のテイラー反応器およびその構成により本開示を説明するが、本開示がこれに限定されないことを留意しなければならない。
【0037】
一実施形態によると、a)工程の産物は、別の貯蔵容器に貯蔵された後、テイラー反応器に提供されることができる。一実施形態によると、テイラー反応器の一側に備えられた加圧ポンプを活用し、生産チャンバにa)工程の産物を提供することができる。加圧ポンプは、上述した目的を達成すれば良く、構成に特に制限はないが、例えば、HPLC(High Performance Liquid Chromatography)ポンプ、回転ポンプ(rotary pump)、シリンジポンプ(syringe pump)、チュービングポンプ(tubing pump)、ダイヤフラムポンプ(diaphragm pump)、ソレノイドポンプ(solenoid pump)、高圧ピストンポンプ(high pressure piston pump)、高圧プランジャポンプ(high pressure plunger pump)のうち1つまたはこれらの組み合わせであってもよい。
【0038】
他の一実施形態によると、テイラー反応器の一側に備えられた加圧ポンプを活用するとともに、他の一側には圧力調節装置を備え、生産チャンバにa)工程の産物をさらに効率的に提供することができる。圧力調節装置は、例えば、背圧レギュレータ(back pressure regulator、BPR)、圧力調節ボールバルブ、ニードルバルブ(needle valve)のうち1つまたはこれらの組み合わせであってもよい。一実施形態によると、前記圧力調節装置の後段には、生成物を貯蔵可能な別の貯蔵容器が備えられてもよい。
【0039】
本実施形態に係るテイラー反応器は、クエット-テイラー流れを活用しており、従来のバッチ式反応器と比べて撹拌能にさらに優れ、反応器内の雰囲気を高温-高圧に作ってシート相型擬ベーマイトの生産効率を向上させることができる。
【0040】
一実施形態によると、テイラー反応器の温度は100~300℃であってもよい。前記テイラー反応器の温度が100℃未満であると、結晶が円滑に成長しないため、結晶自体が形成されていない非晶質相(amorphous phase)、針相(needle phase)、またはロッド相(rod phase)の割合が高くなる恐れがある。これに対し、前記テイラー反応器の温度が300℃を超過すると、結晶が過度に成長して薄い厚さのシート相型擬ベーマイトを確保し難く、擬ベーマイトを室温で得るための時間または費用が過多になる恐れがある。前述した効果をさらに向上させるという点で、テイラー反応器の温度は、例えば、150~250℃であってもよく、または170~200℃であってもよい。
【0041】
一実施形態によると、テイラー反応器の圧力は1~100barであってもよい。前記テイラー反応器の圧力が1bar未満であると、結晶が円滑に成長しないため、結晶自体が形成されていない非晶質相、針相、またはロッド相の割合が高くなる恐れがある。これに対し、前記テイラー反応器の圧力が100barを超過するように制御するのは、連続工程設備の限界上難しい。前述した効果をさらに向上させるという点で、テイラー反応器の圧力は、例えば、5~40bar、5~30bar、10~40bar、10~30bar、20~40bar、または20~30barであってもよい。
【0042】
一実施形態によると、テイラー反応器の温度および圧力を上述した範囲に制御して高温-高圧雰囲気を作り、前記高温-高圧雰囲気で擬ベーマイトを成長させる場合、擬ベーマイトをシート相型として確保するための反応時間を著しく低減することができる。シート相型擬ベーマイトを確保するための反応時間は、例えば、1~20時間、具体的には3~10時間であってもよく、より具体的には5~7時間であってもよい。別の追加装置または器具を用いることなく従来のバッチ式反応器によりシート相型擬ベーマイトを確保しようとすると、約24時間以上の長時間が必要であるが、一実施形態によると、シート相を確保するための反応時間が著しく減少し、例えば、シート相型擬ベーマイトを確保するための反応時間を6時間程度に著しく低減することができるため、シート相型擬ベーマイトの生産効率を従来と比べて約4倍程度向上可能であることが分かる。
【0043】
高温-高圧雰囲気は、一実施形態によると、テイラー反応器の圧力を5bar以上に制御する場合、テイラー反応器の温度は180℃以上であることが好ましい。この際、テイラー反応器の圧力および温度は、例えば、5~40barおよび180~300℃、5~40barおよび180~250℃、または5~40barおよび180~200℃であってもよい。
【0044】
高温-高圧雰囲気は、他の一実施形態によると、テイラー反応器の圧力を10bar以上に制御する場合、テイラー反応器の温度は170℃以上であることが好ましい。この際、テイラー反応器の圧力および温度は、例えば、10~40barおよび170~300℃、10~40barおよび170~250℃、または10~40barおよび170~200℃であってもよい。
【0045】
一実施形態によると、テイラー反応器の撹拌速度は100~800rpmであってもよく、200~700rpm、または300~600rpmであってもよい。さらに向上した撹拌能を確保するために、例えば、撹拌速度は100rpm以上であってもよい。設備限界および費用を考慮すると、撹拌速度は800rpm以下であることが好ましい。
一実施形態によると、テイラー反応器の運転形態は、連続(continuous)式またはバッチ(batch)式であってもよい。
【0046】
一実施形態に係る連続式テイラー反応器は、一側にはa)工程の産物を投入し、他の一側には反応による生成物を得ることができる。a)工程の産物は、0.1~10ml/minの投入速度でテイラー反応器内に投入されてもよい。投入速度は、反応物が反応器に滞留する時間を考慮すると、例えば、0.5~5ml/min、または1~3ml/minであってもよい。連続式テイラー反応器に投入されるa)工程の産物の滞留時間は、シート相型擬ベーマイトを確保するために、例えば、滞留時間は、例えば1~20時間、生産効率を考慮すると3~10時間であってもよく、または生産効率をさらに考慮すると5~7時間であってもよい。
【0047】
一実施形態に係るバッチ式テイラー反応器は、一側にa)工程の産物を投入し、この際、投入されるa)工程の産物は、テイラー反応器の全体積の80%以上であってもよい。バッチ式テイラー反応器に投入されるa)工程の産物の反応時間は、例えば1~20時間、生産効率を考慮すると3~10時間であってもよく、または生産効率をさらに考慮すると5~7時間であってもよい。
擬ベーマイトを大量に生産するために、本開示の具体的な一実施形態によると、テイラー反応器の運転条件は連続式であってもよい。
【0048】
理解を助けるために、添付の
図1を活用して具体的な一実施形態に係るテイラー反応器について記述する。添付の
図1は、テイラー反応器の装置図である。テイラー反応器をバッチ式で構成する場合には、
図1の装置図において圧力調節装置400を除いて構成することができ、テイラー反応器を連続式で構成する場合には、
図1に示された全ての構成を含むように構成することができる。バッチ式は、テイラー反応器300に圧力が到達した状態で反応が行われるため、追加の圧力調節装置400が必要ない。これに対し、連続式は、持続的に生成物を吐出させるために、テイラー反応器300の内部圧力が低下する現象を防止するために反応器の後段に圧力を調節する圧力調節装置400をさらに構成する。
【0049】
図1を参照して、一実施形態に係るバッチ式テイラー反応器によると、ゲルスラリー貯蔵容器100から撹拌された反応物(アルミニウムゲル)は、加圧ポンプ200によりテイラー反応器300に一定速度で移送されることができる。テイラー反応器300内で、クエット-テイラー流れを活用して反応を進行する。その後、反応が完了した生成物は、貯蔵容器500に移送される。
【0050】
図1を参照して、一実施形態に係る連続式テイラー反応器によると、ゲルスラリー貯蔵容器100から撹拌された反応物(アルミニウムゲル)は、加圧ポンプ200によりテイラー反応器300に一定速度で移送されることができる。テイラー反応器300内で、クエット-テイラー流れを活用して反応を進行する。その後、反応が完了した生成物は、貯蔵容器500に移送される。この際、テイラー反応器300の後段に圧力調節装置400を配置してテイラー反応器300の内部圧力が低下しないように防止し、これにより、持続的に生成物を吐出させることができる。
【0051】
一実施形態によると、前述した工程のうち1つまたはその組み合わせにより製造される擬ベーマイトは、シート相型擬ベーマイトであってもよい。
一実施形態に係るシート相型擬ベーマイトは、TEMで観測した際に、長径1~200nm、短径1~200nmであってもよい。具体的な一実施形態によると、前記長径/短径の比が5.0以下、または3.0以下であってもよい。本明細書において、「長径」とは、TEMで観測される擬ベーマイト上の最も長い長軸方向の長さを意味し、「短径」とは、前記長径に直交する方向への擬ベーマイト上の最も長い長さを意味する。
【0052】
一実施形態によると、シート相型擬ベーマイトの厚さ方向と鉛直な方向にTEM観測を行うため、シート相型擬ベーマイトは、薄い厚さを有する。一実施形態によると、シート相型擬ベーマイトの厚さは1~10nm、1~5nm、または1~2nmであってもよい。
【0053】
一実施形態によると、重量%で、前述したシート相型擬ベーマイト0.1~30重量%、有機酸0重量%超過5重量%以下、および残りの溶媒を含む、シート相型擬ベーマイト溶液を提供することができる。シート相型擬ベーマイト溶液は、一実施形態によると、別の装置または器具を介してセパレータの一面または両面に噴霧されて乾燥されてもよい。
【0054】
一実施形態によると、前述したシート相型擬ベーマイトを含むコーティング層が一面または両面に配置されたセパレータを提供することができる。
一実施形態によると、前述したセパレータを含む電気化学素子を提供することができる。電気化学素子は、特に限定されず、例えば、一次電池、二次電池、燃料電池、キャパシタなどが挙げられる。電気化学素子が電池である場合、負極、正極、および前記負極と正極との間にセパレータを配置して組み立て、電解液を注入して完成することができる。
【0055】
正極活物質としては、通常の物質であれば制限されず、例えば、リチウムマンガン酸化物(lithiated magnesium oxide)、リチウムコバルト酸化物(lithiated cobalt oxide)、リチウムニッケル酸化物(lithiated nickel oxide)、またはこれらの組み合わせにより形成される複合酸化物などが挙げられる。
【0056】
負極活物質としては、通常の負極活物質が使用可能であり、非制限的な例を挙げると、リチウム金属、活性化炭素、グラファイトなどの炭素系などが挙げられるが、特にこれに限定されない。
【0057】
正極活物質および負極活物質は、それぞれ正極集電体または負極集電体に結着して用いる。正極集電体としては、アルミニウム箔、ニッケル箔などを用いてもよく、負極集電体としては、銅、ニッケルなどから選択されるが、通常用いられるものであれば制限なくいずれを用いてもよいため、これを制限しない。
また、電解液は、当該分野で用いられるものであれば制限されないため、本開示ではこれ以上説明しない。
【0058】
以下、本実施形態の具体的な実施例および比較例を記載する。ただし、下記の実施例は、本実施形態の具体的な一実施例にすぎず、本実施形態が下記の実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例
以下の実施例1~2、比較例1~8において、初期圧力は、反応物の投入前または反応物の投入直後の反応器内の圧力を意味する。反応圧力、反応時間は、反応物を投入してから昇温して目標温度に達した後の反応器内の圧力、反応時間を意味する。滞留時間は、テイラー反応器の運転条件が連続式である際の反応物が反応器内に滞留する時間を意味する。
【0060】
(実施例1)
蒸留水1600gにアルミニウム前駆体306gを投入して分散させ、この際、アルミニウム前駆体としては、アルミニウムイソプロポキシド(aluminium isopropoxide)を用いた。その後、500mbar、95℃で減圧蒸留してイソプロピルアルコールを除去し、アルミニウム前駆体が分散した水溶液を準備した。
【0061】
a)準備されたアルミニウム前駆体が分散した水溶液に有機酸を投入し、pH4~5のアルミニウムゲル溶液を準備した。この際、有機酸としては、乳酸10gを用いた。
【0062】
b)準備されたアルミニウムゲル溶液は、テイラー反応器のシャフト(shaft)を600rpmで稼動してテイラー流れを生成させつつ、テイラー反応器内に投入し、テイラー反応器の全体積の90%まで満たした後に締結し、テイラー反応器の内部温度を180℃まで昇温させた。その後、テイラー反応器内の反応圧力を10barに制御し、表1に記載の反応時間だけ維持して反応させた。反応後には、シャフトを稼動させた状態で温度だけ室温まで冷却させた後、生成物を反応器の下部側から得た。この際、テイラー反応器の運転条件はバッチ(batch)式であった。
【0063】
(実施例2)
実施例2のアルミニウムゲル溶液は、実施例1と同様の条件で準備した。準備されたアルミニウムゲル溶液は、テイラー反応器の後段に背圧レギュレータ(back pressure regulator、BPR)を配置した後、テイラー反応器のシャフトを600rpmで稼動してテイラー流れを生成させ、テイラー反応器の内部温度を180℃まで昇温させた。アルミニウムゲル溶液は、一側から1ml/minずつテイラー反応器内に投入し、他の一側から反応による生成物を得た。この際、テイラー反応器内の初期圧力は10bar、反応圧力は10barに制御し、テイラー反応器内の反応物は、表1に記載の滞留時間だけ滞留した。テイラー反応器の運転条件は連続(continuous)式であった。
【0064】
(比較例1)
表1に記載の反応時間を除いては、実施例1と同様の条件で生成物を得た。比較例1の反応時間は3時間であった。この際、テイラー反応器の運転条件はバッチ式であった。
【0065】
(比較例2)
表1に記載の反応時間を除いては、実施例1と同様の条件で生成物を得た。比較例2の反応時間は1時間であった。この際、テイラー反応器の運転条件はバッチ式であった。
【0066】
(比較例3)
比較例3のアルミニウムゲル溶液は、実施例1と同様の条件で準備した。準備されたアルミニウムゲル溶液は、プロペラ付きの従来のバッチ式反応器に投入された。この際、撹拌速度は300rpmであり、5℃/minで180℃まで昇温させた後、180℃で24時間維持して反応させた。反応時間の間のバッチ式反応器内の反応圧力は最大5bar未満であった。その後、室温まで冷却させた後に生成物を得た。
【0067】
(比較例4)
表1に記載の反応時間と、別の加圧器でN2ガス加圧し、反応時間の間の従来のバッチ式反応器内の初期圧力を5bar、180℃で6時間維持して反応させた。反応時間の間のバッチ式反応器内の反応圧力は最大10bar未満であった。その後、室温まで冷却させた後に生成物を得た。
【0068】
(比較例5)
表1に記載の反応時間を除いては、従来のバッチ式反応器を用いて比較例3と同様の条件で生成物を得た。
【0069】
(比較例6)
表1に記載の反応時間と、反応時間の間に開放系(open system)バッチ式反応器を用いて反応圧力が常圧(1bar)であることを除いては、比較例3と同様の条件で生成物を得た。
【0070】
(比較例7、8)
表1に記載の滞留時間を除いては、実施例2と同様の条件で生成物を得た。比較例7の滞留時間は1.42時間、比較例8の滞留時間は0.94時間であった。この際、テイラー反応器の運転条件は連続式であった。
【0071】
表1の結果は、FEI社製のTecnai F30透過型電子顕微鏡(TEM)装置を用いて各実施例および比較例のTEM写真を撮った後、シート相型(実施例1、2、比較例3、4)、非晶質相型(比較例2)に分類して示した。シート相型と非晶質相型が全て観察される比較例1、比較例5~8は、結晶化が完了することができず、シート相と非晶質相が混在することを意味する。
【0072】
表1の結果から、シート相型は、観測されたTEM写真を基準にシート相が一定量以上形成されたものを指し、非晶質相型は、観測されたTEM写真を基準に非晶質相が一定量以上形成されたものを指すことができる。この際、「シート相」とは、擬ベーマイトの厚さが長径または短径よりも小さく、長径/短径の比が5.0以下である相を意味するか、またはTEM分析時に電子(electron)回折パターンが現れる相を意味し得る。「非晶質相」とは、規則的な形状がない無定形の形状を有しているか、またはTEM分析時に電子(electron)回折パターンが現れない相を意味し得る。
【0073】
前記「シート相」および「非晶質相」に対する理解を助けるために、例えば、
図2と
図9にそれぞれ前記相の領域を表示したが、これに限定されないことを留意する必要がある。
【0074】
【0075】
以下、表1および添付図面を参照して、各実施例および比較例を比較評価する。本実施形態に係る実施例1、2は、反応時間、滞留時間がそれぞれ6時間以内の相対的に少ない時間であるにもかかわらず、テイラー反応器を用いてシート相型擬ベーマイトを確保することができた。
【0076】
テイラー反応器の運転条件をバッチ式で構成した場合、反応時間に応じた影響を評価するために、反応時間のみを異なるように制御した実施例1、比較例1、2の結果を比較した。反応時間が6時間である実施例1ではシート相型擬ベーマイトが製造され(
図2)、反応時間が3時間である比較例1ではシート相型および非晶質相型の擬ベーマイトが製造され(
図4)、反応時間が1時間である比較例2では非晶質相型擬ベーマイトが製造された(
図5)。前述した結果から、シート相型擬ベーマイトを確保するためには、本実施形態において限定する反応時間を満たさなければならないことが分かる。
【0077】
テイラー反応器の運転条件を連続式で構成した場合、反応時間に応じた影響を評価するために、反応時間のみを異なるように制御した実施例2、比較例7、8の結果を比較した。反応時間または滞留時間が2.83時間である実施例2ではシート相型擬ベーマイトが製造され(
図3)、反応時間が1.42時間である比較例7、および反応時間が0.94時間である比較例8ではシート相型および非晶質相型の擬ベーマイトが製造された(
図10~11)。
図3、10、11を比較すると、実施例2、比較例7、8はいずれもシート相型擬ベーマイトが製造されたが、
図3のシート相(sheet phase)が最も明瞭であって、実施例2の結晶の成長程度が最も高く、
図3と
図10を比較すると、比較例7は、実施例2と比べてシート相が円滑に形成されなかったが、
図10と
図11を比較すると、比較例7は、比較例8と比べてシート相が比較的に明瞭に形成された。上述した結果から、反応時間が長いほど、シート相型擬ベーマイトを確保するのに有利であることが分かる。
【0078】
反応器タイプに対する影響を評価するために、反応時間が同一である実施例1、比較例4の結果を比較した。実施例1は、初期加圧なしに6時間の反応時間でシート相型擬ベーマイトを製造したのに対し(
図2)、比較例4は、従来のバッチ式反応器を用いて初期圧力5Barで加圧し、実施例1と同様の反応条件で擬ベーマイトを製造した(
図7)。これは、同一反応時間の場合、テイラー反応器がクエット-テイラー流れを活用しているため、撹拌能にさらに優れ、このようなクエット-テイラー流れを活用したテイラー反応器は、高温-高圧条件で通常のバッチ式反応器よりも高いシート相型擬ベーマイトの生産効率を確保することができるためである。
【0079】
反応圧力に対する影響を評価するために、反応時間が同一である実施例1、比較例5、6の結果を比較した。比較例5、6は、反応時間が6時間として実施例1と同様であったが、比較例5は、閉鎖系(close system)バッチ式反応器であって、別の加圧器が備えられていないため、反応圧力が5barであり、比較例6は、開放系バッチ式反応器を用いて、反応圧力が常圧(1bar)であった。実施例1は、シート相型擬ベーマイトが製造されたが(
図2)、比較例5、6は、反応圧力が実施例1と比べて低いため、シート相型および非晶質相型の擬ベーマイトが製造された(
図8、9)。
図8と
図9を比較すると、反応圧力が比較的に高い比較例5が、比較例6と比べてシート相が比較的に明瞭に形成された。上述した結果から、反応圧力が高いほど、シート相型擬ベーマイトを確保するのに有利であることが分かる。
【0080】
シート相型擬ベーマイトを確保するための要求反応条件を評価するために、シート相型擬ベーマイトを形成した実施例1、比較例3の結果を比較した。実施例1は、6時間の反応時間でシート相型擬ベーマイトを製造したのに対し(
図2)、通常のプロペラ付きのバッチ式反応器のみを構成した比較例3は、シート相型擬ベーマイトを製造するための反応時間が24時間であって、生産効率に4倍以上差が出た(
図6)。この結果は、従来のバッチ式反応器は、テイラー反応器と比べて撹拌能が劣るためである。比較例4は、別の加圧器を活用して初期圧力を5bar、反応圧力を10barに構成し、6時間の反応時間でシート相型擬ベーマイトを確保したが(
図7)、別の加圧器を必ず活用しなければならないという点で、実施例1と比べて産業上の利点に欠ける。上述した結果から、テイラー反応器がクエット-テイラー流れを活用しているため、撹拌能にさらに優れ、このようなクエット-テイラー流れを活用したテイラー反応器は、高温-高圧条件で通常のバッチ式反応器よりも高いシート相型擬ベーマイトの生産効率を確保可能であることが分かる。
【0081】
以上、本実施形態の例示的な実施例を説明したが、本実施形態は、これに限定されず、当該技術分野における通常の知識を有するものであれば、後述の請求の範囲を逸脱しない範囲内で多様な変更および変形が可能であることを理解することができるであろう。
【符号の説明】
【0082】
100:ゲルスラリー貯蔵容器
200:加圧ポンプ
300:テイラー反応器
400:圧力調節装置
500:貯蔵容器