(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097439
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物及びそれを用いたシート
(51)【国際特許分類】
C08L 25/02 20060101AFI20230630BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20230630BHJP
C08F 279/02 20060101ALI20230630BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C08L25/02
C08L21/00
C08F279/02
C08J5/18 CET
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210760
(22)【出願日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2021213188
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】森 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】岩本 大和
(72)【発明者】
【氏名】姫村 和典
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
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4J026GA09
(57)【要約】
【課題】本発明は、流動性、耐衝撃性、耐折性、及び透明性のバランスに優れたスチレン系樹脂組成物、及び当該スチレン系樹脂組成物を成形して得られる成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体から構成されたポリマーマトリックス相並びにゴム状重合体粒子(a3)を含有するスチレン系樹脂(A)を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記ポリマーマトリックス相の数平均分子量(Mn)が5万~15万であり、
前記ゴム状重合体粒子(a3)全体の重量平均径(dv)が0.3~2.0μmであり、
前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、前記ゴム状重合体粒子(a3)の含有量が5質量%以上であり、
前記ゴム状重合体粒子(a3)の積分分布曲線における積算値の80%径(d80%)と前記積算値の20%径(d20%)との差が0.15~2.5μmであることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体から構成されたポリマーマトリックス相並びにゴム状重合体粒子(a3)を含有するスチレン系樹脂(A)を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記ポリマーマトリックス相の数平均分子量(Mn)が5万~15万であり、
前記ゴム状重合体粒子(a3)全体の重量平均径(dv)が0.3~2.0μmであり、
前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、前記ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(メチルエチルケトン/メタノール不溶分)が5質量%以上であり、
前記ゴム状重合体粒子(a3)の積分分布曲線における積算値の80%径(d80%)と前記積算値の20%径(d20%)との差が0.15~2.5μmであることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレン系樹脂組成物中に存在する前記ゴム状重合体粒子(a3)の総数のうち80%以上が、前記スチレン系共重合体を含むポリマー相を内包する、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
可塑剤(B)をさらに含有する、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記可塑剤(B)のSP値が、6.0~9.0((cal/cm3)1/2)である、請求項3に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(メチルエチルケトン/メタノール不溶分)
は、前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、5~55質量%である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記スチレン系樹脂(A)の含有量は、前記スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、60質量%以上99.99質量%以下である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物を押出し成形して得られるシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スチレン系樹脂組成物及びそれを用いたシートに関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、軽量であり、且つ成形容易性であるといった特性を備えていることから、発泡体、シート、又は筐体等として様々な産業分野に使用されている。しかし、スチレン系樹脂は、衝撃強度が低く、用途が限定されている。特に、工業材料用途としてポリスチレン系樹脂を使用する場合、弾性率等の剛性をいかに低下させずに耐衝撃性を改良するかが重要となる。そのため、このような耐衝撃性を改良したポリスチレン系樹脂である耐衝撃ポリスチレン(HIPS)は、ゴム状粒子をポリスチレン樹脂マトリックスに分散した構造であることから、耐衝撃性、寸法安定性、成形加工性等に優れ、多岐にわたる技術分野において使用されている。
【0003】
しかし、近年の技術分野の多様化に伴い、以前より増して高い水準の耐衝撃強度、成形加工性等が要求されている。特に、複雑な形状に成形加工できる近年の成形加工技術の発展も相まって、食品容器又は電子部品包装材などに使用されるスチレン系樹脂組成物には、優れた透明性及び高靭性などの特性だけでなく、繰り返しの折り曲げに対する強さである耐折性も要求される。耐衝撃ポリスチレン(HIPS)の耐衝撃強度をさらに向上させる技術としては、例えば特許文献1が挙げられる。一般的には、耐衝撃性を高めるには耐衝撃ポリスチレン(HIPS)中のゴム状粒子の配合量を上げることが知られている。しかし、ゴム状重合体の配合量を上げると、剛性、流動性が低下するという問題が生じることから、特許文献1の技術では、ポリスチレン樹脂マトリックスの連続相を構成する成分中に特定の分岐構造を有するビニル芳香族重合体成分を導入することにより、耐衝撃強度を損なう事なく、流動性を一層高めたゴム変性ビニル芳香族組成物を提供できる旨が開示されている。
【0004】
また、特許文献2の技術では、可塑剤として配合されたイソパラフィン系重合体と、スチレン系モノマー及び(メタ)アクリル酸アルキルの共重合体、更にはゴム質重合体の存在下にスチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸アルキルとをグラフト共重合して得られる樹脂と、を含有するスチレン系樹脂組成物が開示されている。さらには、特許文献3の技術として、ゴム変性スチレン系樹脂組成物に対して、テルペン系樹脂、石油ワックス又は流動パラフィンを含む混合物を添加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-169920号公報
【特許文献2】特開平11-071490号公報
【特許文献3】特開平8-199007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術は、高い流動性を示すゴム変性ビニル芳香族重合体組成物であっても、系に含まれるゴム状重合体粒子の粒子径及びゴム含有量の制御を検討していない。そのため、耐衝撃性といった強度特性だけでなく、耐折性等の靭性と透明性又は外観性とのバランスが不十分であり、特に、靭性、透明性及び外観性については改善の余地が多く残る。そして、特許文献2及び3に記載のようにスチレン系樹脂組成物に可塑剤を添加する技術では、透明性及び耐衝撃性については検討しているものの、耐折性については一切検討されていない。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するものであり、流動性、耐衝撃性、耐折性、及び透明性のバランスに優れたスチレン系樹脂組成物、及び当該スチレン系樹脂組成物を成形して得られる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の本発明を完成するに至った。
〔1〕本実施形態は、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体から構成されたポリマーマトリックス相並びにゴム状重合体粒子(a3)を含有するスチレン系樹脂(A)を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記ポリマーマトリックス相の数平均分子量(Mn)が5万~15万であり、
前記ゴム状重合体粒子(a3)全体の重量平均径(dv)が0.3~2.0μmであり、
前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、前記ゴム状重合体粒子(a3)の含有量が5質量%以上であり、
前記ゴム状重合体粒子(a3)の積分分布曲線における積算値の80%径(d80%)と前記積算値の20%径(d20%)との差が0.15~2.5μmであることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物である。
〔2〕前記スチレン系樹脂組成物中に存在する前記ゴム状重合体粒子(a3)の総数のうち80%以上が、前記スチレン系共重合体を含むポリマー相を内包することが好ましい。
〔3〕本実施形態において、前記可塑剤(B)のSP値が、6.0~9.0((cal/cm3)1/2)であることが好ましい。
〔4〕前記ゴム状重合体粒子(a3)の含有量は、前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、5~55質量%である、[1]から[3]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
〔5〕前記スチレン系樹脂(A)の含有量は、前記スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、60質量%以上99.99質量%以下である、[1]から[4]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
〔6〕可塑剤(B)をさらに含有する、[1]から[5]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物。
〔7〕[1]から[5]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物を押出し成形して得られるシートである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流動性、耐衝撃性、耐折性及び透明性のバランスに優れたスチレン系樹脂組成物及びそれを用いた成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、四酸化オスミウム処理前の実施例21のスチレン系樹脂組成物の透過電子顕微鏡(10000倍)の画像を示す。
【
図1B】
図1Bは、実施例21のスチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子(a3)の粒子径分布を積分した積分分布曲線を示し、横軸に円相当径を示し、縦軸に種々の円相当径を有するゴム状重合体粒子(a3)の体積分率(%)の積算値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
[スチレン系樹脂組成物]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)(以下、(A)成分とも称する。)を含有する。そして、前記スチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を含むポリマーマトリックス相とゴム状重合体粒子(a3)とを含有する。また、前記ポリマーマトリックス相は、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体から構成されている。そして、前記ポリマーマトリックス相の数平均分子量(Mn)が5万~15万である。前記ゴム状重合体粒子(a3)の重量平均径(dv)が0.3~2.0μmである。前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、前記ゴム状重合体粒子(a3)の含有量が5質量%以上である。また、前記ゴム状重合体粒子(a3)の積分分布曲線における積算値の80%径(d80%)と前記積算値の20%径(d20%)との差が0.15~2.5μmである。また、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、可塑剤(B)(以下、(B)成分とも称する。)を必要により含有してもよい。
スチレン系樹脂組成物全体に対して、特定の粒子径及び粒子径分布を備えたゴム状重合体粒子(a3)の含有量を特定の範囲に制御することにより、優れた透明性及び外観と、優れた耐衝撃性及び耐折性とを両立することができる。本発明に係るスチレン系樹脂組成物を構成する各成分について以下説明する。
【0013】
「スチレン系樹脂(A)」
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)を含有する。スチレン系樹脂組成物がスチレン系樹脂(A)を含有することにより、スチレン系樹脂組成物全体の耐衝撃性が向上する。特に、スチレン系樹脂(A)は、特定の重量平均径(dv)を有し、かつ粒子径分布が制御されたゴム状重合体粒子(a3)を含有することにより、分散性の向上および流動性の付与により、優れた、透明性と耐衝撃性と耐折性と流動性とを両立する相乗効果が発揮される。
本実施形態のスチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を含むポリマーマトリックス相と、ゴム状重合体粒子(a3)と、を含有する。より詳細には、前記ポリマーマトリックス相は、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体を主成分として構成されている。
また、前記ゴム状重合体粒子(a3)は、前記ポリマーマトリックス相に分散されていることが好ましい。さらには、前記ゴム状重合体粒子(a3)は、前記スチレン系共重合体を内包する構成でありうる。
したがって、換言すると、スチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体から構成されたポリマーマトリックス相と、ゴム状重合体粒子(a3)と、を含有する。そして、前記ゴム状重合体粒子(a3)は、前記スチレン系共重合体を内包しうる。
【0014】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、スチレン系樹脂(A)の含有量の上限は、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、99.99質量%以下、99.97質量%以下が好ましい。一方、スチレン系樹脂(A)の含有量の下限は、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、77質量%以上、78質量%以上、80質量%以上、83質量%以上、87質量%以上、90質量%以上、97質量%以上が好ましい。前記スチレン系樹脂(A)の含有量の上限及び下限は任意に組み合わせできる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、スチレン系樹脂(A)の含有量は、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、60質量%以上99.99質量%以下であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上99.98質量%以下である。当該含有量を70質量%以上とすることにより、組成物中のゴム状重合体粒子(a3)の分散性が良好であり、耐衝撃性をより向上させることができる。また、当該含有量を99.99質量%以下とすることにより、剛性をより向上させることができる。
【0015】
以下、スチレン系樹脂(A)の必須成分であるポリマーマトリックス相及びゴム状重合体粒子(a3)について説明する。
(ポリマーマトリックス相)
本実施形態におけるポリマーマトリックス相は、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体を主成分として含有する。本明細書における「yは、xを構成する主成分」又は「xは、yを主成分として含有する」とは、xの総量(100質量)のうち、60質量%以上がyで占めることをいう。
また、本実施形態の好ましい形態として、ポリマーマトリックス相は不可避的不純物を除き実質的にスチレン系共重合体のみから構成されてもよい。
そして、本実施形態のスチレン系共重合体は、ゴム状重合体粒子(a3)の内部と外部とに存在することが好ましく、外部のスチレン系共重合体をポリマーマトリックス相と称している。ゴム状重合体粒子(a3)の内部にスチレン系共重合体が存在する場合は、後述のサラミ型構造又はコアシェル型構造を形成する。このような構造のゴム状重合体粒子(a3)は、例えば、ゴム状重合体(粒子)の存在下でスチレン系単量体(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)を重合させて得られる。
【0016】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物におけるポリマーマトリックス相の含有量の上限は、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、80質量%以下、74質量%以下、70質量%以下、63質量%以下、60質量%以下、56質量%以下、50質量%以下、44質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、24質量%以下、20質量%以下、18質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、2.7質量%以下、又は2.3質量%以下が好ましい。一方、スチレン系樹脂組成物におけるポリマーマトリックス相の含有量の下限は、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、1質量%以上、1.2質量%以上、1.6質量%以上、9質量%以上、12質量%以上、19質量%以上、22質量%以上、25質量%以上、31質量%以上、40質量%以上又は42質量%以上が好ましい。これらの上限及び下限はそれぞれ任意に組み合わせできる。
【0017】
以下、ポリマーマトリックス相の構成成分である、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)と、スチレン系共重合体と、任意成分であるその他単量体単位と、について説明する。
<スチレン系単量体単位(a1)>
本実施形態において、ポリマーマトリックス相又はスチレン系共重合体を構成しうるスチレン系単量体(a1)としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。スチレン系単量体としては、これらを単独又は混合して使用できる。
【0018】
尚、本明細書における「スチレン系単量体単位(a1)」とは、スチレン系単量体(a1)由来の繰り返し単位を意味し、より詳細には、スチレン系単量体(a1)が重合反応又は架橋反応により、当該単量体(a1)中の不飽和二重結合が単結合になった構造単位をいう。尚、他の「単量体単位」の意味も上記と同様の意味である。
【0019】
本実施形態のスチレン系共重合体の好ましい形態において、当該スチレン系共重合体全体におけるスチレン系単量体単位(a1)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体の透明性を担保する観点から、ポリマーマトリックス相とゴム状重合体粒子(a3)との屈折率差を所定の範囲内に揃える観点で決定される。したがって、スチレン系単量体単位(a1)の含有量は、ゴム状重合体粒子(a3)の種類によって設定されるものであるが、例えば、スチレン系共重合体全体に対して、好ましくは20~99質量%であり、より好ましくは30~90質量%であり、更により好ましくは40~80質量%である。
【0020】
本実施形態において、スチレン系共重合体中のスチレン系単量体単位(a1)、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)、及びその他の単量体単位の含有量は、スチレン系共重合体を核磁気共鳴測定装置(1H-NMR)で測定したときのスペクトルの積分比から求めることができる。
【0021】
<(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)>
本実施形態において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)は、炭素原子数1~6のアルキル鎖をエステル置換基として有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)が好ましい。この際、当該炭素原子数1~6のアルキル鎖は、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を含む。そして、好ましい炭素原子数1~6のアルキル鎖は、直鎖状又は分岐状のアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、s-ブチル基又はイソブチル基などが挙げられる。
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)としては、例えば、CH2=C(R1)-COO-R2で表され、ここで、R1は水素原子又はメチル基であり、R2はエステル置換基であり、炭素原子数1~6のアルキル鎖であることが好ましい。
本実施形態において、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル等が挙げられる。これらの中でも工業的の観点から、(メタ)アクリル酸エステル単量体は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、及び(メタ)アクリル酸t-ブチルであることが好ましい。
【0022】
本実施形態において、スチレン系共重合体全体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)の含有量は、スチレン系単量体(a1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)との共重合体の屈折率が、ゴム状重合体粒子(a3)の屈折率と同等となるように調整されることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)の含有量の上限は、スチレン系共重合体全体に対して、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、68質量%以下、67質量%以下、66質量%以下、65質量%以下、64質量%以下、63質量%以下、62質量%以下、61質量%以下、60質量%以下、59質量%以下、58質量%以下、57質量%以下の順で好ましい。一方、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)の含有量の下限は、スチレン系共重合体全体に対して、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、42質量%以上、43質量%以上、44質量%以上、45質量%以上、46質量%以上、47質量%以上、48質量%以上、49質量%以上、50質量%以上の順で好ましい。上記上限及び下限は適宜組み合わせすることができる。
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)の含有量の範囲は、スチレン系共重合体全体に対して、好ましくは10~90質量%であり、より好ましくは20~80質量%であり、更により好ましくは30~70質量%であり、よりさらに好ましくは45~60質量%であり、特に好ましくは48~58質量%である。
本実施形態において、好ましくはスチレン系単量体(a1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)の共重合体であるスチレン系共重合体の屈折率と、ゴム状重合体粒子(a3)の屈折率の差が0.03以下であり、より好ましくは前記の屈折率の差が0.02以下であり、更により好ましくは0.01以下となるような、スチレン系単量体(a1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)の含有量である。当該含有量を前記の屈折率の差が0.03以下とすることにより、良好な透明性を得ることができる。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)の含有量を50質量%以下とすることにより、吸水性を抑制することができる。
【0023】
本実施形態におけるスチレン系共重合体は、スチレン単量体単位(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)とを含有する二元以上の共重合体であれば特に限定されることはなく、二元~四元共重合体であることが好ましく、二元~三元共重合体であることがより好ましく、三元共重合体であることが特に好ましい。すなわち、本実施形態におけるスチレン系共重合体は、スチレン単量体単位(a1)と、2種の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)とを含有する三元共重合体であることが好ましい。これにより、流動性、耐衝撃性、耐折性及び透明性のバランスにより優れたスチレン系樹脂組成物を提供できる。また、スチレン系樹脂組成物を原料とするシート外観も向上しうる。
【0024】
<その他の単量体単位>
本実施形態におけるスチレン系共重合体又はポリマーマトリックス相は、必要により、スチレン系単量体(a1)と共重合可能な他の単量体単位を含有してもよい。本実施形態におけるスチレン系共重合体の任意成分である他の単量体単位としては、(メタ)アクリル酸単量体単位などが挙げられる。当該(メタ)アクリル酸単量体単位を構成する単量体である(メタ)アクリル酸単量体としては、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。なお、スチレン系共重合体が(メタ)アクリル酸単量体単位を含む場合、当該(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量は、スチレン系共重合体全体(100質量%)に対して、好ましくは0質量%超~10質量%である。
【0025】
また、スチレン系共重合体の必須成分である(メタ)アクリル酸エステル単量体(単位)(a2)は、(メタ)アクリル酸系単量体(単位)との分子間相互作用によって(メタ)アクリル酸単量体(単位)の脱水反応を抑制するために、及び、樹脂の機械的強度を向上させる効果も奏する。更には、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a2)は、耐候性、表面硬度等の樹脂特性の向上にも寄与する。
【0026】
尚、(メタ)アクリル酸単量体(単位)と(メタ)アクリル酸エステル単量体(単位)(a2)とが隣り合わせで結合した場合、高温、高真空の脱揮装置を用いると、条件によっては脱アルコール反応が起こり、六員環酸無水物が形成される場合がある。本実施形態のスチレン系共重合体は、この六員環酸無水物を含んでいてもよいが、流動性を低下させることから、生成される六員環酸無水物はより少ない方が好ましい。
【0027】
本実施形態におけるスチレン系共重合体の具体例としては、例えば、スチレン-アクリル酸イソプロピル共重合体、スチレン-アクリル酸t-ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸s-ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸イソブチル共重合体、若しくはスチレン-アクリル酸n-ブチル共重合体等のスチレン-アクリル系二元共重合体;スチレン-アクリル酸-アクリル酸n-ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸s-ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸t-ブチル共重合体、若しくはスチレン-アクリル酸-アクリル酸イソブチル共重合体等のスチレン-アクリル系三元共重合体;スチレン-メタクリル酸イソプロピル共重合体、スチレン-メタクリル酸t-ブチル共重合体、スチレン-メタクリル酸s-ブチル共重合体、スチレン-メタクリル酸イソブチル共重合体、若しくはスチレン-メタクリル酸n-ブチル共重合体等のスチレン-メタクリル系二元共重合体;が好ましく、スチレン-アクリル酸t-ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸s-ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸イソブチル共重合体又はスチレン-アクリル酸n-ブチル共重合体で表される、スチレン-アクリル酸ブチル二元共重合体、スチレン―(メタ)アクリル酸メチル―アクリル酸ブチル三元共重合体、もしくはスチレン―(メタ)アクリル酸メチル―アクリル酸ブチル三元共重合体がより好ましい。
【0028】
本実施形態において、スチレン系共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれでもよいが、分散性の観点からランダム共重合体が好ましい。
また、本実施形態において、スチレン系共重合体は、ゴム状重合体粒子の表面にグラフトされていてもよい。
【0029】
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレイトは、0.3~15g/10minが好ましく、1.0~12.0g/10minがより好ましく、特に好ましくは、2.0~10.0g/10minである。尚、スチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレイトは、JIS K 7210-1に従って、200℃、5kg荷重で測定した値である。
【0030】
本実施形態において、ポリマーマトリックス相の重量平均分子量(Mw)としては、好ましくは10万以上20万以下であり、より好ましくは12万以上18万以下である。前記重量平均分子量が12万より小さいとスチレン系樹脂組成物の衝撃強度が低下する恐れがあり、前記重量平均分子量が18万を超えるとスチレン系樹脂組成物中でのスチレン系共重合体の分散性が低下し、機械的強度、特に耐折強度が低下する。尚、本発明における重量平均分子量の測定方法は、「実施例」の欄に記載の方法で行っている。
【0031】
本実施形態において、ポリマーマトリックス相の数平均分子量(Mn)としては、好ましくは5万以上15万以下であり、より好ましくは5.5万以上10万以下であり、さらに好ましくは5.5万以上9万以下であり、よりさらに好ましくは6万以上8万以下である。前記数平均分子量が5万より小さいとスチレン系樹脂組成物の衝撃強度が低下する恐れがあり、前記数平均分子量が15万を超えるとスチレン系樹脂組成物中でのスチレン系共重合体の分散性が低下し、機械的強度、特に耐折強度が低下する。尚、本発明における重量平均分子量の測定方法は、「実施例」の欄に記載の方法で行っている。
本実施形態において、ポリマーマトリックス相の数平均分子量(Mn)は5.5万以上10万以下であり、かつ前記ポリマーマトリックス相の重量平均分子量(Mw)が10万以上20万以下であることが好ましい。
ポリマーマトリックス相に低分子量成分が多く含まれると、数平均分子量(Mn)自体が小さくなる傾向を示し、分子の絡み合いが少なくなるために耐折性の効果が悪化しやすくなる。一方、ポリマーマトリックス相の重量平均分子量(Mw)は、ピークトップの位置に左右されることがなく、低分子量成分の影響を受けない傾向を示す。そのため、ポリマーマトリックス相の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との両方を制御することにより、耐折性の効果の効果を最大限に発揮しうる。
【0032】
また、本実施形態におけるスチレン系共重合体のSP値の下限は、8.0((cal/cm3)1/2)以上であることがより好ましく、より好ましくは8.1((cal/cm3)1/2)以上、より好ましくは8.2((cal/cm3)1/2)、より好ましくは8.3((cal/cm3)1/2)以上、さらにより好ましくは8.4((cal/cm3)1/2)以上である。当該SP値の上限は、好ましくは9.5((cal/cm3)1/2)以下、より好ましくは9.4((cal/cm3)1/2)以下、より好ましくは9.3((cal/cm3)1/2)以下、より好ましくは9.2((cal/cm3)1/2)以下、より好ましくは9.1((cal/cm3)以下、より好ましくは9.0((cal/cm3)以下、さらにより好ましくは8.9((cal/cm3)1/2)以下である。
本実施形態のスチレン系共重合体のSP値は、8.0~9.5((cal/cm3)1/2)であることが好ましく、より好ましくは8.1~9.4((cal/cm3)1/2)、さらに好ましくは8.2~9.3((cal/cm3)1/2)である。スチレン系共重合体のSP値((cal/cm3)1/2)の範囲が、上記範囲内であると、可塑剤(B)のSP値との差を所定の範囲内に制御できることにより、耐折強度の向上効果がより大きくなる傾向を示す。
なお、本実施形態におけるSP値は、後述する方法により算出している。
【0033】
本実施形態において、スチレン系共重合体の重合方法は、特に制限はないが例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
【0034】
以下、本実施形態に用いることができるスチレン系共重合体の重合方法の一例について説明する。
スチレン系共重合体を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させる。
【0035】
スチレン系共重合体の重合に用いられる重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、なかでも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
【0036】
スチレン系共重合体の重合に用いられる連鎖移動剤としては、例えば、α-メチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等を挙げることができる。
【0037】
スチレン系共重合体の重合方法としては、必要に応じて、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。用いられる重合溶媒としては、芳香族炭化水素類、例えば、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の重合溶媒、例えば脂肪族炭化水素類等を、芳香族炭化水素類に更に混合することができる。これらの重合溶媒は、全単量体100質量部に対して、25質量部を超えない範囲で使用するのが好ましい。全単量体100質量部に対して重合溶媒が25質量部を超えると、重合速度が著しく低下し、且つ得られる樹脂の機械的強度の低下が大きくなる傾向がある。重合前に、全単量体100質量部に対して5~20質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0038】
本実施形態において、スチレン系共重合体を得るための重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、公知の重合方法に従って適宜選択すればよい。例えば、塊状重合を採用する場合には、完全混合型反応器を1基、又は複数基連結した重合装置を用いることができる。また脱揮工程についても特に制限はない。塊状重合を採用する場合、最終的に未反応モノマーが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進め、かかる未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。より詳細には、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。尚、脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度であり、190~260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0039】
(ゴム状重合体粒子(a3))
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物の必須成分であるスチレン系樹脂(A)は、ゴム状重合体の粒子(本明細書ではゴム状重合体粒子(a3)と称する。)を含有する。これにより、スチレン系樹脂組成物全体として、耐衝撃性、耐折性等の機械的特性を向上することができる。
本発明におけるゴム状重合体粒子(a3)は、ゴム状重合体を含有する粒子体であればよい。したがって、ゴム状重合体粒子(a3)の形態は、ゴム状重合体からなる中実粒子、ゴム状重合体からなる中空粒子、ゴム状重合体内にスチレン系共重合体又はスチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するポリマーを含む相が内包された内包粒子(ミクロ相分離構造、コアシェル構造及びサラミ型構造を含む)、並びに表面にスチレン系共重合体又はスチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するポリマーがグラフトされた表面グラフト化粒子を含む。また、これらの形態を複合的に備えてもよい。ゴム状重合体粒子(a3)の好ましい形態としては、ゴム状重合体からなる中実粒子の表面にスチレン系共重合体又スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するポリマーがグラフトされた表面グラフト化粒子、ゴム状重合体内にスチレン系共重合体又はスチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するポリマーを含む相が内包された内包粒子(ミクロ相分離構造、コアシェル構造及びサラミ型構造を含む)の表面に対して、スチレン系共重合体又はスチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するポリマーがグラフトされた表面グラフト化内包粒子が挙げられる。これらのうち、ゴム状重合体粒子(a3)としては、上述した、表面グラフト化粒子、内包粒子(ミクロ相分離構造、コアシェル構造及びサラミ型構造を含む)、及び表面グラフト化内包粒子が好ましい。
【0040】
また、上記内包粒子は、以下の(1)~(3)の構造を含む。
(1)ポリスチレン及び/又はスチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体が、ブロック共重合体(一部又は全部水添された共重合体を含む)であり、且つこれらブロック共重合体から形成されるミクロ相分離構造、
(2)ポリスチレン及び/又はスチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体を含む相をコアとし、ゴム状重合体をシェルとするコアシェル構造体、
(3)ポリスチレン及び/又はスチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体を含む相がゴム状重合体内に複数内包したサラミ型構造
上記(1)~(3)における“ポリスチレン”とは、スチレン系単量体単位(a1)のホモポリマーをいう。
本発明におけるゴム状重合体粒子(a3)は、ポリスチレン及び/又はスチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体を含む相がゴム状重合体内に複数内包したサラミ型構造であることが特に好ましい。
尚、上記ゴム状重合体を含有する粒子体とは、ゴム状重合体粒子(a3)全体の5質量%以上をゴム状重合体が占めていることをいう。
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物中に存在するゴム状重合体粒子(a3)の総数の60%以上が、スチレン系共重合体を含むポリマー相を内包することが好ましく、より好ましくは、80%以上が、スチレン系共重合体を含むポリマー相を内包する。また、スチレン系樹脂組成物中に存在するゴム状重合体粒子(a3)の総数の60%以上が、ポリスチレン及び/又はスチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体を含む相がゴム状重合体粒子(a3)内に複数内包したサラミ型構造である。また、本実施形態において、スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子(a3)に占める前記サラミ型構造の割合の下限は、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上及び95%以上の順でより好ましい。一方、前記サラミ型構造の割合の上限は、100%以下、99%以下及び98%以下の順でより好ましい。
これにより、耐衝撃性、耐折性及び透明性がより優れたスチレン系樹脂組成物を提供できる。
スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子(a3)に占めるスチレン系共重合体を含むポリマー相を内包する数及びサラミ型構造の割合の算出方法は、後述のゴム状重合体粒子(a3)の重量平均径の算出と同様に、透過電子顕微鏡を用いて個数平均で測定している。具体的には、四酸化オスミウムで染色したスチレン系樹脂組成物から厚さ100nmの超薄切片を5つ作製し、透過電子顕微鏡を用いて倍率10000倍の明視野像を任意に10枚取得した後、所得した10枚の画像中、黒く染色された粒子がゴム状重合体粒子(a3)であり、当該ゴム状重合体粒子(a3)内に2以上の相を含んでいる粒子をサラミ型構造のゴム状重合体粒子(a3)であると判断して、10枚の画像中に映るゴム状重合体粒子(a3)の個数でサラミ型構造のゴム状重合体粒子(a3)の個数を割った値を百分率にすることにより算出している。
【0041】
本実施形態において、ポリスチレン又はスチレン系共重合体中の、ゴム状重合体に対するグラフト共重合したグラフト鎖の割合(グラフト率)は、5~100%、15~90が好ましく、20~85%であることがより好ましく、18~60%がさらに好ましい。
上記グラフト率が15%以上であると、耐衝撃性の観点から好ましく、65%以下であると、流動性の観点から好ましい。
上記ポリスチレン又はスチレン系共重合体のグラフト率の算出方法は、以下の通りである。スチレン系樹脂組成物から溶剤(トルエン等)により溶剤可溶分を取り除き、溶剤不溶分(グラフト成分含有物)を取り出し、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)測定により、ゴム状重合体及びグラフト成分(すなわち、グラフト重合した単量体)の質量を測定し、これらの値からゴム状重合体の質量に対する、グラフト重合した単量体の質量の割合を算出することにより求めることができる。
なお、ポリスチレン又はスチレン系共重合体のグラフト率は、重合条件、重合開始剤や連鎖移動剤の種類又は量等の調整によって制御できる。
【0042】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(スチレン系共重合体を含むポリマー相を含む。(トルエン不溶分))の上限は、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、45質量%以下、42質量%以下、41質量%以下、40質量%以下、38質量%以下、36質量%以下、34質量%以下、32質量%以下、30質量%以下、29質量%以下、28質量%以下、27質量%以下、26質量%以下、25質量%以下、24質量%以下、23質量%以下、22質量%以下、21質量%以下、20質量%以下、19質量%以下が好ましい。一方、本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、ゴム状重合体粒子(a3)の含有量の下限は、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、10質量%以上が好ましい。これらの上限及び下限はそれぞれ任意に組み合わせできる。
本明細書におけるゴム状重合体粒子(a3)の含有量(スチレン系共重合体を含むポリマー相を含む。(トルエン不溶分))は、以下の方法に測定している。
スチレン系樹脂組成物又はスチレン系樹脂(A)中のゴム状重合体粒子(a3)の含有量(質量%)の測定は、沈殿管にスチレン系樹脂組成物又はスチレン系樹脂(A)1gを精秤し(この質量をWtとする)、トルエン溶液20mLを加えて23℃で2時間振とう後、遠心分離機(佐久間製作所製、SS-2050A)にて5℃以下、20000rpm(遠心加速度:4510G)で60分間遠心分離した。沈殿管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除き、得られた不溶分を、引き続き160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケーター内で室温まで冷却後、トルエン不溶分の質量を精秤し(この質量をGtとする)、下記式により、ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(質量%)を求めた。
ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(=トルエン不溶分)=(Gt/Wt)×100
【0043】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(スチレン系共重合体を含むポリマー相を含む。(メチルエチルケトン/メタノール不溶分))の上限は、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、55質量%以下、52質量%以下、51質量%以下、50質量%以下、48質量%以下、46質量%以下、44質量%以下、42質量%以下、40質量%以下、39質量%以下、38質量%以下、37質量%以下、36質量%以下、35質量%以下、34質量%以下、33質量%以下、32質量%以下、31質量%以下、30質量%以下、29質量%以下、が好ましい。一方、本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、ゴム状重合体粒子(a3)の含有量の下限は、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、5質量%以上、5.4質量%以上、6質量%以上、6.6質量%以上、7質量%以上、7.3質量%以上、8質量%以上、8.6質量%以上、9質量%以上、9.4質量%以上、9.9質量%以上、10質量%以上、10.3質量%以上、11質量%以上、12質量%以上、13質量%以上、14質量%以上、14.1質量%以上、15質量%以上、16質量%以上、17質量%以上が好ましい。これらの上限及び下限はそれぞれ任意に組み合わせできる。
また、本実施形態のゴム状重合体粒子(a3)の含有量(スチレン系共重合体を含むポリマー相を含む。(メチルエチルケトン/メタノール不溶分))の好ましい範囲は、例えば、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、5質量%以上55質量%以下であり、好ましくは10質量%以上45質量%以下、より好ましくは15質量%以上35質量%以下、さらに好ましくは16質量%以上30質量%以下である。当該含有量を5質量%以上55質量%以下とすることにより、優れた耐衝撃性及び剛性を両立しやすくなる。
また、本実施形態のゴム状重合体粒子(a3)の含有量(スチレン系共重合体を含むポリマー相を含む。(メチルエチルケトン/メタノール不溶分))の好ましい範囲は、例えば、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、5質量%以上55質量%以下であり、好ましくは10質量%以上45質量%以下、より好ましくは15質量%以上35質量%以下、さらに好ましくは16質量%以上30質量%以下である。当該含有量を5質量%以上55質量%以下とすることにより、優れた耐衝撃性及び剛性を両立しやすくなる。
本明細書におけるゴム状重合体粒子(a3)の含有量(スチレン系共重合体を含むポリマー相を含む。(メチルエチルケトン/メタノール不溶分))は、以下の方法に測定している。
スチレン系樹脂組成物又はスチレン系樹脂(A)中のゴム状重合体粒子(a3)の含有量(質量%)の測定は、沈殿管にスチレン系樹脂組成物又はスチレン系樹脂(A)1gを精秤し(この質量をWとする)、メチルエチルケトン/メタノール溶液20mLを加えて23℃で2時間振とう後、遠心分離機(佐久間製作所製、SS-2050A)にて5℃以下、20000rpm(遠心加速度:4510G)で60分間遠心分離した。沈殿管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除き、得られた不溶分を、引き続き160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケーター内で室温まで冷却後、メチルエチルケトン/メタノール不溶分の質量を精秤し(この質量をGとする)、下記式により、ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(質量%)を求めた。
ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(=メチルエチルケトン/メタノール不溶分)=(G/W)×100
【0044】
ゴム状重合体粒子(a3)(或いはゴム状重合体)に用いる材料としては、共役ジエン構造を有していればよい。そのため、本実施形態におけるゴム状重合体は、共役ジエン系重合体であることが好ましく、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等を使用できる。なかでも、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、ポリブタジエンは、ポリブタジエンの一部又は全部にスチレン-ブタジエン共重合体及び/又はアクリロニトリル-ブタジエン共重合体を有してもよい。スチレン-ブタジエン共重合体及びアクリロニトリル-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体粒子(a3)は1種若しくは2種以上使用することができる。
本実施形態において、ゴム状重合体粒子(a3)(或いはゴム状重合体)に用いる材料として(メタ)アクリロニトリル単量体単位などのシアン化ビニルを含む共役ジエン系重合体を使用する場合、シアン化ビニル単量体単位の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.7質量%以下であることが特に好ましい。
【0045】
また、上記ブタジエン系ゴム、天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体)を水素添加した飽和ゴムをゴム状重合体粒子(a3)として使用してもよい。
【0046】
本実施形態において、ゴム状重合体は、シス1,4結合が90モル%以上で構成されるハイシスポリブタジエンであることが好ましい。該ハイシスポリブタジエンにおいては、ビニル1,2結合が6モル%以下で構成されることが好ましく、3モル%以下で構成されることが特に好ましい。
本実施形態の好適なゴム状重合体は、共役ジエン単量体単位を有する共役ジエン系重合体であり、より好ましくは、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体及びアクリロニトリル-ブタジエン共重合体からなる群から選択される1種又は2種以上であり、特に好ましくは、スチレン-ブタジエン共重合体でありうる。
【0047】
尚、該ハイシスポリブタジエンの構成単位に関する異性体としてシス1,4、トランス1,4、又はビニル1,2構造を有するものの含有率は、赤外分光光度計を用いて測定し、モレロ法によりデータ処理することにより算出できる。
【0048】
また、該ハイシスポリブタジエンは、公知の製造法、例えば有機アルミニウム化合物とコバルト又はニッケル化合物を含んだ触媒を用いて、1,3ブタジエンを重合して容易に得ることができる。尚、共役ジエン構造を有する単量体としては、特に制限されることはなく、ブタジエン、イソプレン、又はクロロプレンなどが挙げられる。
【0049】
本実施形態のゴム状重合体(a3)のSP値は、8.0~8.8((cal/cm3)1/2)であることが好ましく、より好ましくは8.1~8.7((cal/cm3)1/2)である。ゴム状重合体のSP値((cal/cm3)1/2)の範囲が、上記範囲内内であると、可塑剤(B)のSP値との差を所定の範囲内に制御できることにより、耐折強度の向上効果が大きくなる傾向を示す。
【0050】
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物中に含まれるゴム状重合体粒子(a3)全体の重量平均径(dv)は、0.3μm以上2.0μm以下である。スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子(a3)全体(又は全ゴム状重合体粒子(a3)とも称する。)の重量平均径が上記特定の範囲内である態様の一つとしては、ゴム状重合体粒子(a3)が、当該ゴム状重合体粒子(a3)の粒子径分布を積分した積分分布曲線において、頻度(%)の積算値(以下、積算値と称する)が20%の20%径(d20%)と、頻度の積算値が80%の80%径(d80%)との差(以下、d80%-d20%と称する)が、0.15~2.5μmであることが好ましい。これにより、優れた耐衝撃性と耐折性とを両立しやすくなる。その理由の詳細は不明であるが、0.15μm以下では剛性はあっても耐衝撃性や耐折性などシートとしての実用強度に劣り、剛性と強度のバランスに劣り、2.5以上では透明性が低下するため、透明性と耐衝撃性や耐折性のバランスに劣る。
本発明に係るスチレン系樹脂組成物において、スチレン系樹脂組成物中に含まれるゴム状重合体粒子(a3)全体の重量平均径が0.3μm以上2.0μm以下であり、且つゴム状重合体粒子(a3)が、スチレン系樹脂組成物のマトリックス樹脂内に(分散して)存在する場合、当該ゴム状重合体粒子(a3)が存在するマトリックス樹脂中では応力場が不均一となる。これにより、所定の重量平均径又は円相当径を有するゴム状重合体粒子(a3)周囲で局部的な変形(せん断降伏変形及び/又はクレーズ変形)が粒子間をつなぐように引き起こされ、当該ゴム状重合体粒子(a3)が外部エネルギーを吸収するため、優れた耐衝撃性と耐折性とを両立することができると推定している。
【0051】
本実施形態におけるゴム状重合体粒子(a3)の形状を円と仮定し、且つ横軸に円相当径を表示し、そして縦軸に頻度(%)を表示する粒子径分布において、後述の数式(N1)を用いて、測定した円相当径及び個数から、個数基準の重量平均径が算出される。
本明細書において、ゴム状重合体粒子(a3)の重量平均径は、以下の方法により測定している。四酸化オスミウムで染色したスチレン系樹脂組成物から厚さ100nmの超薄切片を作製し、透過電子顕微鏡を用いて倍率10000倍の明視野像を取得する。所得した画像中、黒く染色された粒子がゴム状重合体粒子(a3)である。前記画像から、下記数式(N1):
重量平均径=ΣniDri4 /ΣniDri3 (N1)
(上記数式(N1)中、niは、粒子径Driのゴム状重合体粒子(a3)粒子の個数であり、粒子径Driは、写真中の粒子の面積から円相当径として算出した粒子径である。)
により面積平均粒子径を算出し、ゴム状重合体粒子(a3)の重量平均径とする。上記解析は、画像解析ソフトImageJ(アメリカ国立衛生研究所製)を用いて次の通り実施する。取得した前記画像を大津の手法(Otsu metod)で二値化し、ゴム状重合体粒子(a3)以外の白部分(ポリマーマトリックス相(例えば、スチレン-(メタ)アクリルエステル共重合体に相当)を塗りつぶす。隣接接触しているゴム状重合体粒子(a3)同士をWatershed処理により分割し、ゴム状重合体粒子(a3)の面積を算出後、円相当径に換算した。得られた円相当径の数値群から体積基準、個数基準のヒストグラム及び平均値を導出する。本明細書では、円相当径の数値群から個数基準のヒストグラムを算出した結果を使用している。尚、使用した装置等は以下の通りである。
ウルトラミクロトーム:UC7/ライカ
透過電子顕微鏡:HT7700/日立ハイテクノロジーズ
また、上記のゴム状重合体粒子(a3)の重量平均径の測定方法は、スチレン系樹脂組成物中に含有されるゴム状重合体粒子(a3)全体の重量平均径の測定方法である。
【0052】
本明細書において、「粒子径分布」とは、横軸に円相当径を示し、縦軸に頻度(%)(種々の円相当径を有するゴム状重合体粒子(a3)の体積分率(%))を示す場合における、ゴム状重合体粒子(a3)の粒子径分布をいう。
本明細書において、「積分分布曲線」とは、横軸に円相当径を示し、縦軸に前記頻度(%)の積算値(種々の円相当径を有するゴム状重合体粒子(a3)の体積分率(%)の積算値)を表示した場合における、ゴム状重合体粒子(a3)の円相当径を積算した曲線をいう。また、積分分布曲線は、前記粒子径分布を積分した関数である。
図1Bに、実施例21の積分分布曲線を一例として示す。
尚、体積分率は、上述した重量平均径の測定の際に得られたゴム状重合体粒子(a3)を球体とみなしたときの体積の割合を示したものである。
【0053】
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物中に含まれる全ゴム状重合体粒子(a3)の重量平均径の下限は、0.3μm以上、0.4μm以上、0.43μm以上、0.5μm以上、0.52μm以上、0.57μm、0.62μm以上、0.68μm以上、0.7μm以上、又は0.73μm以上であることが好ましい。当該全ゴム状重合体粒子(a3)の重量平均径の上限は、2.0μm以下、1.8μm以下、1.6μm以下、1.2μm以下、0.8μm以下であることが好ましい。上記重量平均径の範囲は、上記重量平均径の上限及び下限を任意に組み合わせすることができる。
【0054】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、ゴム状重合体粒子(a3)は、当該ゴム状重合体粒子(a3)の粒子径分布を積分した積分分布曲線において、頻度(%)の積算値(以下、積算値と称する)が20%の20%径(d20%)と、頻度の積算値が80%の80%径(d80%)との差(以下、d80%-d20%と称する)が、0.15μm以上であり、0.20μm以上であり、0.20μm以上2.5μm以下であることが好ましく、0.35μm以上1.95μm以下であることがさらに好ましく、0.4μm以上1.9μm以下であることが特に好ましい。
【0055】
優れた耐衝撃性及び耐折性の観点から、d80%-d20%が、0.15~2.5μmである。また、ここでいう、頻度(%)の積算値が80%の場合の80%径(d80%)及び頻度(%)の積算値が20体積%の場合の20%径(d20%)は、横軸が円相当径であり、且つ縦軸が頻度(%)の積算値(種々の円相当径を有するゴム状重合体粒子(a3)の体積分率(%)の積算値)を表示する積分分布曲線において、積算値がそれぞれ20%及び80%に対応する重量平均径をいう。したがって、「ゴム状重合体粒子(a3)の積分分布曲線における積算値の20%径(d20%)」とは、ゴム状重合体粒子(a3)の積分分布曲線において、当該積分分布曲線の縦軸である頻度(%)の積算値が20%の場合の円相当径をいう。
【0056】
ゴム状重合体粒子(a3)の積分分布曲線において、(縦軸の)積算値が80%の80%径(d80%)としては、0.40μm以上が好ましく、0.5μm以上2.8μm以下が好ましく、0.6μm以上2.0μm以下がより好ましい。80%径(d80%)が2.0μm以下であると、成形品表面の平滑性が向上する。
【0057】
ゴム状重合体粒子(a3)の積分分布曲線において、(縦軸の)積算値が20%の20%径(d20%)としては、2.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1.5μm以下がより好ましく、0.2μm以上1.2μm以下がさらに好ましく、0.3μm以上1.0μm以下がよりさらに好ましい。20%径(d20%)が0.3μm以上であると、成形性が向上する。
【0058】
d80%-d20%を0.15~2.5μmにコントロールする条件としては、所定の重量平均径を有するゴム状重合体粒子の選定又は混合、及び重合時の撹拌条件、重合開始剤などが挙げられる。
【0059】
本実施形態において、ゴム状重合体粒子(a3)として、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体が表面にグラフトした、ポリブタジエン又はポリブタジエン-スチレン共重合体内に、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含む相が内包された表面グラフト化内包粒子を少なくとも1種有し、かつ前記ゴム状重合体粒子(a3)が、好ましくは0.30μm以上1.6μm以下の範囲、より好ましくは0.4μm以上1.2μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上1.0μm以下の範囲の重量平均径を有する表面グラフト化内包粒子である形態が好ましい。
この場合、本実施形態において、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、表面グラフト化内包粒子は、3~40質量%含有することが好ましく、11~30質量%含有することがより好ましい。3質量%未満の場合、流動性は良好であるが耐衝撃性や耐折性が発現しにくく、40質量%超とすると流動性や透明性などの外観が低下する。
【0060】
「可塑剤(B)」
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、必要により可塑剤(B)を含有してもよい。本実施形態のスチレン系樹脂組成物が可塑剤(B)を含有する場合において、当該可塑剤(B)の含有量は、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、0.07質量以上5質量%以下であることが好ましく、0.15質量%以上2.8質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下であることがさらに好ましく、0.6質量%以上1.8質量%以下であることがさらに好ましい。また、別の態様としては、1.1質量%以上1.8質量%以下であることが好ましい。さらに別の態様としては、0.6質量%以上0.9質量%以下であることがさらに好ましい。
【0061】
また、本実施形態における可塑剤(B)のSP値の下限は6.0((cal/cm3)1/2)以上であることがより好ましく、より好ましくは6.2((cal/cm3)1/2)以上、より好ましくは6.4((cal/cm3)1/2)、より好ましくは6.7((cal/cm3)1/2)以上、さらにより好ましくは6.8((cal/cm3)1/2)以上である。当該SP値の上限は9.0((cal/cm3)以下であることが好ましく、より好ましくは8.9((cal/cm3)以下、さらに好ましくは8.8((cal/cm3)以下、よりさらに好ましくは8.3((cal/cm3)未満である。また、本実施形態における可塑剤(B)のSP値の好ましい範囲は、上記SP値の上限と、上記SP値の下限とを任意に組み合わせした範囲でありうる。
本実施形態の可塑剤(B)のSP値は、6.0~9.0((cal/cm3)1/2)であることが好ましく、より好ましくは6.3~8.9((cal/cm3)1/2)、さらに好ましくは6.4((cal/cm3)1/2)以上8.3((cal/cm3)1/2)未満である。可塑剤(B)のSP値の範囲が、上記範囲内内であると、可塑剤(B)のSP値との差を所定の範囲内に制御できることにより、耐折強度の向上効果が大きくなる傾向を示す。
また、本実施形態の好ましい態様の一つは、ポリマーマトリックス相を構成するスチレン系共重合体のSP値((cal/cm3)1/2)をα、ゴム状重合体粒子(a3)を構成するゴム状重合体のSP値をβ、可塑剤(B)のSP値をγとし、かつスチレン系共重合体と可塑剤(B)とのSP値の差の絶対値を|α―γ|とし、ゴム状重合体粒子(a3)を構成するゴム状重合体と可塑剤(B)とのSP値((cal/cm3)1/2)の差の絶対値を|β―γ|としたとき、
以下の式(I):
|α―γ|>|β―γ|の関係を満たすことが好ましい。
ポリマーマトリックス相を構成するスチレン系共重合体と、ゴム状重合体粒子(a3)を構成するゴム状重合体と、可塑剤(B)との各SP値の相関関係が上記式(I)の条件を満たすと、可塑剤(B)は前記ゴム状重合体又はゴム状重合体粒子(a3)近傍に選択的に存在する(すなわち、可塑剤(B)が前記ゴム状重合体又はゴム状重合体粒子(a3)近傍に偏在する)可能性が高くなる傾向を示す。そのため、ゴム状重合体又はゴム状重合体粒子(a3)が有する耐衝撃性向上又は耐折性向上などの効果をより発揮しやすくなる。
【0062】
さらに、本実施形態の好ましい態様の一つは、上記|α―γ|が1.0~3.0であることが好ましく、1.1~2.8であることがより好ましく、1.2~2.6であることがさらに好ましい。また、本実施形態の好ましい態様の一つは、上記|β―γ|が、2.0未満であることが好ましく、1.8未満であることがより好ましい。
ポリマーマトリックス相を構成するスチレン系共重合体と、可塑剤(B)とのSP値の差の絶対値|α―γ|が上記範囲内であると、耐折強度の向上効果が小さくなる傾向を示す。一方、ゴム状重合体粒子(a3)を構成するゴム状重合体と、可塑剤(B)とのSP値((cal/cm3)1/2)との差の絶対値|β―γ|が上記範囲内であると、耐折強度の向上効果が大きくなる傾向を示す。したがって、上記式(I)を満たすことにより、可塑剤(B)がスチレン系共重合体と分離しやすくなり、かつ可塑剤(B)が前記ゴム状重合体又はゴム状重合体粒子(a3)近傍により偏在しやすくなるため、スチレン系樹脂組成物全体として耐折強度の向上効果がより大きくなる傾向を示す。
本実施形態において規定する溶解度パラメータ(SP値)は、下式に示す凝集エネルギー密度の関数を用いて算出している。
SP値((cal/cm3)1/2)=(△E/V)1/2 式(1)
(△Eは、分子間凝集エネルギー(蒸発熱)を示し、Vは、混合液の全体積を示し、△E/Vは、凝集エネルギー密度を示す。)
また、混合による熱量変化△Hmは、SP値を用いて次の式で示される。
△Hm=V(δ1-δ2)・Φ1・Φ2 ・・・式(2)
(δ1は、溶媒のSP値を示し、δ2は、溶質のSP値を示し、Φ1は、溶媒の体積分率を示し、Φ2は、溶質の体積分率を示す。)
上記の式(1)及び(2)より、δ1及びδ2の値が近いほど、△Hmは小さくなり、ギムスの自由エネルギーが小さくなるため、SP値の差が小さいもの同士は親和性が高くなる。
SP値を求める方法としては、実験により算出しても、あるいは計算(例えば、Fedorsの推算法又はHoyの計算方法)により算出してもよい。具体的には、「J.Appl.Polym.Sci.,12,2359(1968)」又は「国際公開2020-175422号公報」等を参照して濁度滴定法により算出する方法、「国際公開2020-204081号公報」又は公知の文献を参照してHasen球法により算出する方法、製造会社のカタログ値を使用する方法、あるいは後述の文献値を使用して算出する方法が挙げられる。なお、Hansen球法を用いたsp値の測定及び算出は、一般財団法人化学物質評価研究機構にて依頼することができる。SP値は加成性が成立するため、本実施形態では、スチレン系樹脂(A)のポリマーマトリックス相およびゴム状重合体粒子(a3)のSP値はモノマー組成比から計算により求めた値を用いた。各モノマーを重合したポリマーのSP値は文献(J. Brandrup, E. H. Immergut, E. A. Grulke,, A. Abe, D. R. Bloch, Polymer Handbook, Fourth Edition, John Wiley & Sons, Inc., Wiley-interscience publication (1999))の値を用いた。例えばPMMAは18.27(MPa1/2)、8.96((cal/cm3)1/2)である。また、可塑剤(B)のSP値については、製造会社のカタログ値あるいは文献値を用いた。
【0063】
本実施形態の可塑剤(B)の具体例としては、熱安定性の観点から流動パラフィン、高級脂肪酸化合物、又は肪族若しくは環式の炭化水素(例えば、ノナン、デカン、デカリン、p-キシレン、ウンデカン若しくはドデカン)、シリコンオイルが挙げられる。なかでも、本実施形態の可塑剤(B)としては、シリコンオイル又は流動パラフィンがより好ましい。
【0064】
上記流動パラフィンとは、ミネラルオイルとも称され、パラフィン系炭化水素を含むオリゴマー状及び重合体である。上記流動パラフィンは、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、パラフィン・ワックスを含み、パラフィン炭化水素とアルキルナフテン炭化水素との混合物である。15℃における比重が0.8494以下のものも、15℃における比重が0.8494を超えるものも含む。また、上記流動パラフィンのナフテン含有量は、当該流動パラフィン100質量%に対して、15質量%以上55質量%以下であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下であることがより好ましく、19質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
本実施形態において、流動パラフィンの動粘度(40℃)は、使用目的に応じて適宜設定することができるが、3~500mm2/sであることが好ましく、5~400mm2/sであることがより好ましく、6~300mm2/sであることがさらに好ましく、7~150mm2/sであることが特に好ましい。また、本実施形態の好ましい流動パラフィンは、SP値が7.0~7.5((cal/cm3)1/2)であることが好ましい。
【0066】
また、上記流動パラフィンの動粘度の測定方法は、JIS K2283に準じる方法で測定しており、具体的には、測定温度40℃、ウベローデ粘度計(粘度計番号2番)による自動粘度測定装置(VMC-252型)(株式会社離合社製)を用いている。
【0067】
例えば、代表的な流動パラフィンとしては、特に制限されることは無いが、エクソンモービル有限会社製のクリストール(登録商標)N352、プライモール(登録商標)N382;Sonneborn社製のPL-380;出光興産(株)製のダイアナプロセスオイル(登録商標)PW-380、PW-150、PW-100、PW-90、ダフニーオイル(登録商標)CP68N、CP50S、PS350S、LP530-SP;三光化学工業製の流動パラフィン350-S;Formosa製のF380N;SEOJIN CHEMICAL社製のPARACOS KF-550、PARACOS KF-350;シェルケミカルズジャパン社製Edelex226が好適である。
【0068】
(スチレン系樹脂組成物の好ましい形態)
本実施形態の特に好ましい形態は、スチレン系単量体単位(a1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)を有するスチレン系共重合体から構成されたポリマーマトリックス相並びにゴム状重合体粒子(a3)を含有するスチレン系樹脂(A)を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記ポリマーマトリックス相の数平均分子量(Mn)が5万~15万であり、
前記スチレン系共重合体全体における前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)の含有量は、45質量%以上60質量%以下であり、
シアン化ビニル単量体単位の含有量は、前記スチレン系樹脂組成物全体に対して、0.7質量%以下であり、
前記ゴム状重合体粒子(a3)全体の重量平均径(dv)が0.3~2.0μmであり、
前記スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、前記ゴム状重合体粒子(a3)の含有量が20質量%以上30質量%以下であり、
前記ゴム状重合体粒子(a3)の積分分布曲線における積算値の80%径(d80%)と前記積算値の20%径(d20%)との差が0.15~2.5μmであることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物である。
【0069】
「他の任意成分」
本実施形態において、上記各成分(A)~(B)を製造する際の回収工程の前後の任意の段階、又はスチレン系樹脂組成物を調製、押出加工又は成形加工する段階において、必要に応じ本発明の目的を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、ヒンダートフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、各種染料や顔料、無機結晶核剤(酸化チタン、酸化スズ等の金属酸化物)、有機結晶核剤、蛍光増白剤、光拡散剤、選択波長吸収剤を添加してもよい。
【0070】
(添加物)
本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、さらに無機結晶核剤として金属酸化物を含有してもよい。本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、金属酸化物(例えば、二酸化チタン)の含有量は、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して、0.07質量以上5.5質量%以下であることが好ましく、0.65質量%以上3.8質量%以下であることがより好ましく、1.2質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。また、別の態様としては、1.1質量%以上2.8質量%以下であることが好ましい。さらに別の態様としては、0.2質量%以上0.9質量%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
尚、スチレン系樹脂組成物中の上記各種添加剤は、スチレン系樹脂組成物100質量%に対して6.0質量%以下であることが好ましく、3.5質量%以下であることがより好ましく、0.9質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることがよりさらに好ましい。
【0072】
[スチレン系樹脂組成物の物性]
<デュポン衝撃強さ>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物のデュポン衝撃強度は、2kg・cm以上であることが好ましく、より好ましくは3kg・cm以上である。2kg・cm未満であると、使用中に破損する懸念がある。尚、本開示で、デュポン衝撃強度は、ISO 179に準拠して測定される値である。
【0073】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、メルトマスフローレイトが、0.6g/10min以上であることが好ましい。メルトマスフローレイトが0.6g/10min以上であれば、押出成形時や真空成形時の成形性が良好である。0.6g/10minのメルトマスフローレイトは、各成分(A)~(C)のメルトマスフローレイト、並びにこれらの樹脂の混合比を調整することにより達成できる。尚、本開示で、メルトマスフローレイトは、ISO 1133に準拠して、温度200℃、5.00kgにて測定される値である。
【0074】
本発明に係るスチレン系樹脂組成物の用途としては、インジェクションブロー成形、シート体(フィルムも含む)、射出成形、又は押出成形に供されることが好ましい。
【0075】
<スチレン系樹脂組成物の製造方法>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物の製造方法は、スチレン系樹脂(A)及び必要により添加される流動パラフィンを配合、溶融、混練、造粒する方法は特に限定されず、樹脂組成物の製造で常用されている方法を用いることができる。例えば、ドラムタンブラー、ヘンシェルミキサー等で配合(混合)した上記各成分をバンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー等を用いて溶融、混練し、ロータリーカッター、ファンカッター等で造粒することによって樹脂組成物を得ることができる。溶融、混練における樹脂温度は180~240℃が好ましい。目標とする樹脂温度にするためには、押出機等のシリンダー温度は樹脂温度よりも10~20℃低い温度に設定することが好ましい。樹脂温度が180℃未満では混合が不十分となり好ましくない。一方、樹脂温度が240℃を超えると樹脂の熱分解が起こり好ましくない。
【0076】
<<成形体>>
本実施形態の成形体は、上記のスチレン系樹脂組成物を成形して得ることができる。当該成形体は、上記の樹脂組成物を成形して得たものであれば特に限定されないが、また、本実施形態の成形体は、特に限定されないが、射出成形体、押出成形体、又はシート体(フィルムを含む)であることが好ましい。本実施形態の押出成形体したシートを用いた二次成形体の一例として、キャリアテープなどをはじめとした電子部品等の包装容器が挙げられ、当該容器は、押出機出口にて直接成形(賦形)することによって製造してもよく、または押出機を用いて得たシートをさらに成形することにより製造してもよい。また、本実施形態のシートは、電子部品包装容器だけでなく他の容器をはじめとした成形体を製造(成形)するために用いることができる。
【0077】
本実施形態のシートは、非発泡又は発泡のシートである。また、本実施形態のシートは、ポリスチレン樹脂等のスチレン系樹脂等と多層化して用いてもよく、また、当該スチレン系樹脂等の層に加えて、又は代えて、該スチレン系樹脂以外の樹脂と多層化して用いてもよい。スチレン系樹脂以外の樹脂としては、PC樹脂、ABS樹脂、PP樹脂、PP/PS系樹脂、PET樹脂、ナイロン樹脂等が挙げられる。
【0078】
本実施形態の容器は、上記のスチレン系樹脂組成物を用いてインジェクションブロー成形により得られた容器、または、上記のシートを成形して得られた容器であることが好ましい。
【0079】
また、本実施形態の、上記のシートを成形して得られた容器としては、特に限定されず、シート又はこれを含む多層体より成形した、弁当の蓋材又は惣菜等を入れる容器が挙げられる。
【0080】
<成形体の製造方法>
本実施形態において、樹脂組成物から成形体を得る製造方法は、特に限定されず、公知の成形方法、例えば押出成形加工や射出成形加工により製造することができる。具体的には押出成形加工としては、例えば、押出成形、カレンダ成形、中空成形、押出発泡成形、異形押出成形、ラミネート成形、インフレーション成形、Tダイフィルム成形、シート成形、真空成形、圧空成形、ダイレクトブロー成形などが挙げられる。また、射出成形加工としては、例えば、射出成形、RIM成形、射出発泡成形、インジェクションブロー成形、射出延伸ブロー成形などが挙げられる。
【0081】
本実施形態において、成形体のなかでもシートの製造方法としては、特に限定されないが例えば、Tダイを取り付けた短軸又は二軸押出機で押し出しし、一軸延伸機又は二軸延伸機でシートを引き取る方法等を挙げることができる。
【0082】
また、本実施形態において、シートより成形して得る容器の製造方法は、特に限定されず例えば圧空成形、真空成形が挙げられる。
【0083】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記例に限定されることは無く、適宜変更を加えることができる。
【実施例0084】
以下、実施例及び比較例に基づいて本開示の実施形態を更に具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
「測定及び評価方法」
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の物性の測定及び評価は、次の方法に基づいて行った。
【0085】
<樹脂又は樹脂組成物の特性解析>
(1)スチレン系樹脂(A)のスチレン系単量体単位(a1)、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位(a2)の各々の単量体単位の含有量(質量%)の算出
(NMR測定)
プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、樹脂組成を定量した。
試料調製:樹脂ペレット30mgをd6-DMSO 0.75mlに60℃で6時間加熱溶解した。
測定機器:日本電子 JNM ECA-500
測定条件:測定温度 25℃、観測核 1H、積算回数 64回、繰り返し時間 11秒
(NMRスペクトルの帰属)
DMSO重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属は、0.5~1.5ppmのピークはメタクリル酸、メタクリル酸メチル及び六員環酸無水物のα-メチル基の水素、1.6~2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(-COOCH3)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素である。また、6.5~7.5ppmのピークはスチレンの芳香族環の水素である。尚、本実施形態の樹脂は六員環酸無水物の含有量が少ないため、本測定の方法では通常定量化は難しい。
【0086】
(2)分子量の測定
スチレン系共重合体及びポリマーマトリックス相の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
装置:東ソー製HLC―8220
分別カラム:東ソー製TSK gel Super HZM-H(内径4.6mm)
を2本直列に接続
ガードカラム:東ソー製TSK guard column Super HZ-H
測定溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
試料調製:測定試料5mgを10mLの溶媒に溶解し、0.45μmのフィルターで
ろ過を行った。
注入量:10μL
測定温度:40℃
流速:0.35mL/分
検出器:示差屈折率検出器(RI-8020)
検量線の作成には東ソー製のTSK標準ポリスチレン11種類(F-850、F-45
0、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、
A-5000)を用いた。1次直線の近似式を用いて検量線を作成した。
【0087】
(3)ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(内包されているスチレン系共重合体を含む)の測定
(3-1)ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(トルエン不溶分)
スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子(a3)の含有量(質量%)の測定は、沈殿管にゴム変性スチレン系樹脂組成物1gを精秤し(この質量をWtとする)、トルエン溶液20mLを加えて23℃で2時間振とう後、遠心分離機(佐久間製作所製、SS-2050A)にて5℃以下、20000rpm(遠心加速度:4510G)で60分間遠心分離した。沈殿管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除き、得られた不溶分を、引き続き160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケーター内で室温まで冷却後、トルエン不溶分の質量を精秤し(この質量をGtとする)、下記式により、ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(質量%)を求めた。
ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(=トルエン不溶分)=(Gt/Wt)×100
(3-2)ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(メチルエチルケトン/メタノール不溶分)
スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子(a3)の含有量(質量%)の測定は、沈殿管にゴム変性スチレン系樹脂組成物1gを精秤し(この質量をWとする)、メチルエチルケトン/メタノールの9:1の混合溶液20mLを加えて23℃で2時間振とう後、遠心分離機(佐久間製作所製、SS-2050A)にて5℃以下、20000rpm(遠心加速度:4510G)で60分間遠心分離した。沈殿管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除き、得られた不溶分を、引き続き160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケーター内で室温まで冷却後、メチルエチルケトン/メタノール不溶分の質量を精秤し(この質量をGとする)、下記式により、ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(質量%)を求めた。
ゴム状重合体粒子(a3)の含有量=(G/W)×100
上記(3-1)ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(トルエン不溶分)及び上記(3-2)ゴム状重合体粒子(a3)の含有量(メチルエチルケトン/メタノール不溶分)の実験結果から、使用する溶媒種によって、ゴム状重合体粒子(a3)の含有量の数値が大きく変わることが確認された。傾向としては、溶媒種としてメチルエチルケトン/メタノールを使用するに比べて、トルエンを溶媒種として用いたゴム状重合体粒子(a3)の含有量(トルエン不溶分)は、メチルエチルケトン/メタノールを溶媒種として用いたゴム状重合体粒子(a3)の含有量(メチルエチルケトン/メタノール不溶分)の約半分以下となった。
具体的には、実施例18において、トルエンを溶媒種として用いたゴム状重合体粒子(a3)の含有量(トルエン不溶分)は8質量%、メチルエチルケトン/メタノールを溶媒種として用いたゴム状重合体粒子(a3)の含有量(メチルエチルケトン/メタノール不溶分)は18質量%であった。また、実施例19において、トルエンを溶媒種として用いたゴム状重合体粒子(a3)の含有量(トルエン不溶分)は13質量%、メチルエチルケトン/メタノールを溶媒種として用いたゴム状重合体粒子(a3)の含有量(メチルエチルケトン/メタノール不溶分)は30質量%であった。さらに、実施例21において、トルエンを溶媒種として用いたゴム状重合体粒子(a3)の含有量(トルエン不溶分)は10質量%、メチルエチルケトン/メタノールを溶媒種として用いたゴム状重合体粒子(a3)の含有量(メチルエチルケトン/メタノール不溶分)は21質量%であった。
【0088】
(4)トルエン不溶分の膨潤指数の測定
膨潤指数の測定は、沈殿管にスチレン系樹脂組成物1gを精秤し、トルエン20mLを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機(佐久間製作所製、SS-2050A)にて10℃以下、20000rpm(遠心加速度:4510G)で60分間遠心分離した。沈殿管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除いた。トルエンを含んだ不溶分の質量を精秤し(この質量をW1とする)、引き続き、160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケーター内で室温まで冷却後、トルエン不溶分の質量を精秤し(この質量をW2とする)、下記式により、トルエン不溶分の膨潤指数を求めた。 トルエン不溶分の膨潤指数=(W1/W2)
【0089】
(5)屈折率の測定
ポリマーマトリックス相(スチレン系共重合体)とゴム状重合体粒子(b3)との屈折率は、ポリマーマトリックス相とゴム状重合体粒子(b3)とを上記(4)トルエン不溶分の含有量、膨潤指数の測定と同じ方法で分離し、溶媒のトルエンを乾燥させた後、アッベ屈折計を用いて、25℃で測定し、屈折率及びその差を算出した。
【0090】
(6)全光線透過率、曇り度(Haze)の測定
30mmφシート押出機(創研株式会社製)を用いて、実施例及び比較例で作製したスチレン系樹脂組成物を以下の条件で押し出し、厚さ0.3mmのシートを作成した。得られたシートについて、全光線透過率(%)をJIS K 7105に準拠して測定した。また、曇り度(Haze)(%)をISO14728に準拠して測定した。
押出し条件
スチレン-系樹脂組成物を用いて、押出機の樹脂溶融ゾーンの設定温度:220~230℃、Tダイ温度設定:240℃、ロール温度:60℃~100℃に設定し、吐出量:7kg/時にて0.3±0.03mmのシートを作製した。
【0091】
(7)MIT耐折強度(回)の測定
JIS P8115に準拠し、後述の「シートの製造方法」の欄に記載の方法で作製したシートのMD方向及びTD方向のそれぞれに対して、MIT耐折強度(回)を測定した。そして、測定結果を下記の基準で評価した。
◎+:試験片を5000回以上屈折させても割れなかった。
◎:試験片を1000~4999回屈折させることで割れた。
○:試験片を101~999回屈折させることで割れた。
△:試験片を11~99回屈折させることで割れた。
×:試験片を10回以下屈折させることで割れた。
【0092】
(8)デュポン衝撃強度の測定
後述の「シートの製造方法」の欄に記載の方法で作製したシートから縦8cm×横8cmの試験片を切り出し、(株)東洋精機製作所製のデュポン衝撃試験機(No451)を用いて落錘衝撃強度(デュポン衝撃強度)を測定した。落下重錘の質量150g、撃心突端の半径9.4mmで、n=30で試験を行い、50%破壊高さから落錘衝撃強度を求めた。
【0093】
(9)引張弾性率の測定
後述の「シートの製造方法」の欄に記載の方法で作製したシートを押出方向に切り出し、JIS K6872に準拠してMD方向及びTD方向のそれぞれの引張弾性率を測定した。
【0094】
(10)シート外観の測定
実施例及び比較例で作製したスチレン系樹脂組成物を用いて、30mmφ短軸シート押出機で連続3時間シートを押出した後、厚さ0.3mmのシートから10cm×20cmの大きさのシートを5枚切り出し、シート5枚の表面の(長径+短径)/2の平均径が0.5mm以上の欠点・異物であるフィッシュアイ、気泡の個数を数え、以下の方法で外観判定とした。
○:フィッシュアイ、気泡の個数が3点以下
△:フィッシュアイ、気泡の個数が4点以上10点以下
×:フィッシュアイ、気泡の個数が11点以上
【0095】
(11)ゴム状重合体粒子の観察、粒子径分布、積分分布曲線及び重量平均径の測定
後述の実施例のスチレン系樹脂組成物及び比較例の樹脂組成物を、四酸化オスミウムで染色した後、厚さ100nmの超薄切片を5つ作製し、透過電子顕微鏡を用いて、それぞれ5つの明視野像(倍率10000倍)を取得した。そして、それぞれの5つ明視野像を合計して、下記数式(N1):
重量平均径=ΣniDri
4 /ΣniDri
3 (N1)
(上記数式(N1)中、niは、粒子径Driのゴム状重合体粒子(a3)粒子の個数であり、粒子径Driは、明視野画像中の粒子の面積から円相当径として算出した粒子径である。)により面積平均粒子径を算出し、ゴム状重合体粒子(a3)の重量平均径とした。上記解析は、画像解析ソフトImageJ(アメリカ国立衛生研究所製)を用いて次の通り実施した。取得した前記画像を大津の手法(Otsu metod)で二値化し、ゴム状重合体粒子(a3)以外の白部分(マトリックス相)に相当)を塗りつぶした。隣接接触しているゴム状重合体粒子(a3)同士をWatershed処理により分割し、ゴム状重合体粒子(a3)の面積を算出後、円相当径に換算した。得られた円相当径の数値群から個数基準のヒストグラム及び平均値を導出した。また使用した装置等は以下の通りである。
ウルトラミクロトーム:UC7/ライカ
透過電子顕微鏡:HT7700/日立ハイテクノロジーズ
例えば、
図1Aに、四酸化オスミウム処理前の実施例21のスチレン系樹脂組成物の透過電子顕微鏡(10000倍)の画像を示す。
図1Aの写真に示す通り、海島構造を形成していることが確認できる。多数の粒状のものが、ゴム状重合体粒子(a3)であり、内部にスチレン系共重合体の相を取り込んでいることも観察できる。
【0096】
(13)流動パラフィンの含有量の測定
流動パラフィンの含有量(質量%)は、以下の条件や手順で測定した。
(試料調製)
スチレン系樹脂組成物2gを精秤し、メチルエチルケトン40mLを加えて23℃で40分間振とうし、メタノール200mL中に滴下し、60℃で10分間加温した後、23℃に冷却し、穴径0.45μmのメンブランフィルターで濾過した。濾別した濾液を減圧蒸留濃縮し、80℃で30分間乾燥した後、23℃に冷却し、ノルマルヘキサンに溶解させ、10mLの試料を得た。そして、以下の測定条件を用いて流動パラフィンの含有量(質量%)を算出した。
(測定条件)
機器: 島津製作所製高速液体クロマトグラフィー LC-10A
カラム:平均粒子径5μmの全多孔性シリカゲル、内径4.6mm、長さ250mm
溶媒:ノルマルヘキサン
温度:23℃
溶媒流量:2g/min
注入量:200μm
【0097】
(14)グラフト率の測定
実施例・比較例で得られたスチレン系樹脂組成物1.0gをトルエン20mLに溶解し、2時間振とうした後、20000rpmで1時間、遠心分離することによりトルエン可溶分、及びトルエン不溶分に分離する。トルエン不溶分を0.5g採取し、230℃条件でコンプレッションすることにより0.1mm厚のフィルムを作製し、透過法FT-IRで測定することにより算出した。
(15)SP値の算出方法
実施例・比較例において使用した各材料のSP値は、スチレン系樹脂(A)のポリマーマトリックス相およびゴム状重合体粒子(a3)のSP値はモノマー組成比から計算により求めた値を用いた。各モノマーを重合したポリマーのSP値は文献(J. Brandrup, E. H. Immergut, E. A. Grulke,, A. Abe, D. R. Bloch, Polymer Handbook, Fourth Edition, John Wiley & Sons, Inc., Wiley-interscience publication (1999))の値を用いた。例えばPMMAは18.27(MPa1/2)、8.96((cal/cm3)1/2)である。また、可塑剤(B)については製造会社のカタログ値あるいは前記文献値を用いた。
【0098】
「実施例・比較例に使用した原料」
(1)スチレン系樹脂(A)
スチレン系樹脂(A)として、以下のスチレン系樹脂(A-1)~(A-12)を使用した。
・スチレン系樹脂(A-1)~(A-5)及び(A-8)は、以下の方法で合成した。
攪拌機付き原料容器にスチレン系単量体(a1)としてスチレン41.3質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a2)としてアクリル酸n-ブチル3.4質量%、メタアクリル酸メチル36.4質量%、ゴム状重合体(a3)としてスチレン-ブタジエンブロック共重合体(旭化成株式会社製:アサプレン625A)9.4質量%、溶剤としてエチルベンゼン9.5質量%、重合開始剤として1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.01質量%、連鎖移動剤としてα-メチルスチレンダイマー0.17質量%、を混合溶解した重合液を、攪拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-1に、2.5リットル/Hrで連続的に仕込み、温度を113℃/116℃/120℃に調整した。
続いて層流型反応器-1と直列に接続された、攪拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-2に反応液を送った。攪拌機の回転数は毎分15回転とし、温度は125℃/131℃/134℃に設定した。続いて攪拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-3に反応液を送った。温度は140℃/145℃/150℃に設定した。
重合反応器(層流型反応器-3)から連続して排出される重合体溶液を真空ベントつき押出機で、10torrの減圧下、脱揮後ペレタイズして、ペレット状のスチレン系樹脂(A)であるスチレン-(メタ)アクリル系樹脂(スチレン系樹脂(A-1))を得た(表1参照)。
同様に、層流型反応器-2の回転数を変更し、ゴム状重合体粒子(a3)の粒子径を制御することによりスチレン系樹脂(A)であるスチレン-(メタ)アクリル系樹脂(スチレン系樹脂(A-2)~(A-5)及び(A-8))を得た(表1参照)。
上記グラフト率の測定方法により、スチレン系樹脂(A-1)~(A-5)についてのグラフト率を測定した結果、グラフト率が15~65%の範囲内になることを確認した。
【0099】
・スチレン(A-6)~(A-7)及び(A-11)は、表1に記載の条件で合成した。
・スチレン樹脂(A-9)は、以下の方法で合成した。
攪拌機付き原料容器にスチレン系単量体としてスチレン40.6質量%、アクリル酸n-ブチル3.4質量%、メタアクリル酸メチル35.7質量%、ゴム状重合体としてスチレン-ブタジエンブロック共重合体(旭化成株式会社製:アサプレン625A)10.8質量%、溶剤としてエチルベンゼン9.5質量%、重合開始剤として1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.01質量%、連鎖移動剤としてα-メチルスチレンダイマー0.17質量%とした他は、スチレン系樹脂(A-1)と同じ条件で、ペレット状のスチレン系樹脂(A)であるスチレン-(メタ)アクリル系樹脂(スチレン系樹脂(A-9))を得た(表1参照)。
・スチレン樹脂(A-10)は、以下の方法で合成した。
攪拌機付き原料容器にスチレン系単量体としてスチレン42.0質量%、アクリル酸n-ブチル3.5質量%、メタアクリル酸メチル37.0質量%、ゴム状重合体としてスチレン-ブタジエンブロック共重合体(旭化成株式会社製:アサプレン625A)8.0質量%、溶剤としてエチルベンゼン9.5質量%、重合開始剤として1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.01質量%、連鎖移動剤としてα-メチルスチレンダイマー0.17質量%とした他は、スチレン系樹脂(A-1)と同じ条件で、ペレット状のスチレン系樹脂(A)であるスチレン-(メタ)アクリル系樹脂(スチレン系樹脂(A-10))を得た(表1参照)。
【0100】
・スチレン樹脂(A-12)は、以下の方法で合成した。
攪拌機付き原料容器にスチレン系単量体としてスチレン42.8質量%、アクリル酸n-ブチル3.4質量%、メタアクリル酸メチル37.8質量%、ゴム状重合体としてスチレン-ブタジエンブロック共重合体(旭化成株式会社製:アサプレン625A)6.5質量%、溶剤としてエチルベンゼン9.5質量%、重合開始剤として1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.01質量%、連鎖移動剤としてα-メチルスチレンダイマー0.17質量%とした他は、スチレン系樹脂(A-1)と同じ条件でペレット状のスチレン系樹脂(A)であるスチレン-(メタ)アクリル系樹脂(スチレン系樹脂(A-12))を得た(表1参照)。
・スチレン系樹脂(A-13)~(A-19)は、上記スチレン系樹脂(A-1)と同様の手法で、ペレット状のスチレン系樹脂(A)であるスチレン-(メタ)アクリル系樹脂(スチレン系樹脂(A-13)~(A-19))を得た(表1参照)。
【0101】
(2)可塑剤(B)
可塑剤(B-1)として、流動パラフィン(商品名「ダフニーオイルCP68N」 出光興産製 動粘度(40℃)69.09mm2/s(カタログ表示値))、sp値=7.3(カタログ値)を使用した。また、使用した流動パラフィン中のナフテン量は、全流動パラフィンに対して15~55質量%含有する。
可塑剤(B-2)として、アジピン酸ジイソデシル(商品名「DIDA」 ジェイプラス製)、SP値=8.3はカタログ値を使用した。
可塑剤(B-3)として、シリコンオイル(商品名「KF-96」 信越シリコーン製)、SP値=7.4は文献値を使用した。
可塑剤(B-4)として、フタル酸系エステル(商品名「LV-848」 ADEKA製)、SP値=9.1はカタログ値を使用した。
【0102】
「実施例1~24のスチレン系樹脂組成物の製造方法」
上記の「実施例・比較例に使用した原料」の欄及び下記の表2-1に従い原料をそれぞれ調製した後、計量した原料をドラムタンブラーで配合し、二軸押出機(東芝機械株式会社製TEM-26SS)でシリンダー設定温度220℃、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し溶融ストランドとして抜き出した。溶融ストランドを水冷しロータリーカッターでストランドをカッティングすることにより、実施例1~24のペレット状のスチレン系樹脂組成物を得た。そして、上記に記載の評価・測定方法に従い、得られた実施例1~24のスチレン系樹脂組成物の物性の測定及び評価を行った。その結果を表2-1に示す。
【0103】
「比較例1~11の樹脂組成物の製造方法」
上記の「実施例・比較例に使用した原料」の欄及び下記の表2-2に従い、原料をそれぞれ調製した後、計量した原料をドラムタンブラーで配合し、二軸押出機(東芝機械株式会社製TEM-26SS)でシリンダー設定温度220℃、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し溶融ストランドとして抜き出した。溶融ストランドを水冷しロータリーカッターでストランドをカッティングすることにより、比較例1~11のペレット状の樹脂組成物を得た。そして、上記に記載の評価・測定方法に従い、得られた比較例1~11の樹脂組成物の物性の測定及び評価を行った。その結果を表2-2に示す。
【0104】
「シートの製造方法」
実施例1~24及び比較例1~11で得られたペレット状のスチレン系樹脂組成物又は樹脂組成物をそれぞれ創研株式会社製のスクリュー径30mmのシート押出機に供給した。樹脂溶融ゾーンの温度は180~220℃に設定し、Tダイ(コートハンガーダイ)より吐出量10kg/hで溶融押出した後、80℃に設定したキャストロール、タッチロールに圧着し、幅300mm、厚み0.3mmのシートを得た。そして、上記に記載の評価・測定方法に従い、シートの物性の測定及び評価を行った。その結果を表2-1及び表2-2に示す。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
(型転写性の評価)
上記で作製した、実施例1、実施例14~実施例17のスチレン系樹脂組成物について型キャリアテープを成形した時のポケットの成形性(型転写性)の評価を行った。すなわち、これら実施例のスチレン系樹脂組成物をインライン成形機(型の形状:5mm×5mm 深さ3mmの6つの凹部を有する)により、エンボス加工して、凹部を有するスチレン系樹脂組成物からなるシート体を作製した。
そして、前記凹部を有するスチレン系樹脂組成物からなるシート体の凹部(ポケット)を6個観察し、角部分の成形性評価を以下の基準で行った。
評価基準
優:凹部の底面の角が観察できる。
良:凹部の底面の角が一部丸まっている。
不可:凹部の底面の角部に破れが観察される。
インライン成形:押出機出口から直接金型によりエンボス加工、スリット加工によりキャリアテープを作製する成形法
【0109】
【0110】
上記評価結果から、スチレン系共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が、44~71質量%程度であると、良好な型転写性を示すことが確認された。