(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009748
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】摩擦係数安定剤排出機能を備えた締結部材
(51)【国際特許分類】
F16B 35/00 20060101AFI20230113BHJP
F16B 37/00 20060101ALI20230113BHJP
F16B 33/06 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
F16B35/00 K
F16B37/00 D
F16B33/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113277
(22)【出願日】2021-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 有希
(72)【発明者】
【氏名】森 俊也
(72)【発明者】
【氏名】宇佐見 翔
(57)【要約】
【課題】座面に残留する摩擦係数安定剤を効率よく排出し回転ゆるみの防止を図るとともに、被締結物の陥没による軸力低下も防止することができる摩擦係数安定剤排出機能を備えた締結部材を提供する。
【解決手段】座面に残留する摩擦係数安定剤を排出するための円周溝12を平坦な座面11に形成した締結部材である。円周溝12は、任意の半径線上に複数本が存在するように形成されている。外周寄りの部分の幅を内周寄り部分の幅よりも広く形成することが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面に残留する摩擦係数安定剤を排出するための円周溝を平坦な座面に形成した締結部材であって、
前記円周溝は、任意の半径線上に複数本が存在するように形成されていることを特徴とする摩擦係数安定剤排出機能を備えた締結部材。
【請求項2】
前記円周溝は、その外周寄りの部分の幅が内周寄り部分よりも広く形成されていることを特徴とする摩擦係数安定剤排出機能を備えた締結部材。
【請求項3】
前記円周溝は、同心円溝または螺旋溝であることを特徴とする請求項1または2に記載の摩擦係数安定剤排出機能を備えた締結部材。
【請求項4】
前記円周溝の半径方向の断面は、半円形、四角形、半楕円形の何れかであることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の摩擦係数安定剤排出機能を備えた締結部材。
【請求項5】
前記座面が、ボルトまたはナットの座面であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の摩擦係数安定剤排出機能を備えた締結部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦係数安定剤排出機能を備えたボルト、ナットなどの締結部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボルト、ナットなどの締結部材を締め付けたときに高い軸力を安定して発生させる方法の一つとして、特許文献1に示すように、座面やねじ部に摩擦係数安定剤を塗布し、摩擦係数を下げる方法がある。
【0003】
特許文献1には摩擦係数安定剤として、低分子ポリエチレンと合成樹脂エマルジョンを水に分散したもの、水溶性アルキド樹脂を水に分散したもの、水分散ウレタン樹脂を水に分散したものなどが記載されている。これらの樹脂系の摩擦係数安定剤のほか、摩擦係数安定剤として油を用いることもあるため、本明細書では摩擦係数安定剤に油を含むものとする。このような摩擦係数安定剤は締付時には軸力向上に寄与するものであり、機械部品などの締結に広く用いられている。摩擦係数安定剤は締付時に徐々に剥がれ、ボルトやナットの座面に残留する。
【0004】
ボルトの軸直角方向から荷重を受ける締結部においては、被締結物の動き量がボルトの限界すべり量(ボルト座面で滑りが発生しない被締結物の最大すべり量)を超えた場合に、ボルトの回転ゆるみが発生する。この限界すべり量は座面の摩擦係数が高い場合に有利になることが分かっている。ボルトやナットの座面に残留している摩擦係数安定剤は座面の摩擦係数を低下させ、限界すべり量を低下させる要因となる。従って摩擦係数安定剤は締付時には軸力向上に寄与する一方、締付完了後は回転ゆるみの要因となる。
【0005】
出願人の調査によれば、締結部材の座面に残留する摩擦係数安定剤の排出に関する先行特許文献は見当たらなかった。特許文献2には座面に水抜き用の溝を形成した締結部材が記載されているが、これは水抜きを目的とした一定幅の溝であり、座面から摩擦係数安定剤を効率よく排出できる構造であるとは考えられない。
【0006】
なお特許文献3には、締結部材の座面に放射状または渦巻状に多数の三角山状突起を形成し、締め付け時に三角山の先端を塑性変形させることによって座面の摩擦力を高め、回転ゆるみを防止することが開示されている。しかしこの構造は座面と被締結物との接触面積が小さいため、締結後に被締結物の面圧が局所的に高くなって陥没し、軸力が低下して非回転ゆるみが発生する可能性がある。このほか特許文献3の構造は、締付時に必要なトルクが高くなって必要な軸力が得られなかったり、締付時に焼付きや被締結物の疵付きが発生して、正常な締め付けが行えない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-323023号公報
【特許文献2】実開昭54-38764号公報
【特許文献3】特開平10-148093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、座面に残留する摩擦係数安定剤を効率よく排出し回転ゆるみの防止を図るとともに、被締結物の陥没による軸力低下も防止することができる摩擦係数安定剤排出機能を備えた締結部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、座面に残留する摩擦係数安定剤を排出するための円周溝を平坦な座面に形成した締結部材であって、前記円周溝は、任意の半径線上に複数本が存在するように形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
なお、前記円周溝は、その外周寄りの部分の幅を内周寄り部分よりも広く形成することができる。また、前記円周溝は、同心円溝または螺旋溝とすることができる。また、前記円周溝の半径方向の断面は、半円形、四角形、半楕円形の何れかとすることができる。また、前記座面が、ボルトまたはナットの座面であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の締結部材は、座面に残留する摩擦係数安定剤を排出するための円周溝を平坦な座面に形成したものである。締結の最終段階において締結部材の座面は被締結物と接触しつつ回転することとなる。座面に塗布された摩擦係数安定剤は座面が被締結物に近接するに連れて加圧され、円周溝の内部に流入する。このとき回転中心に近い内周寄り部分よりも回転中心から遠い外周寄り部分の方が座面の移動距離が長く、面積も大きいため、より多くの摩擦係数安定剤が押し出されて円周溝内に流入する。
【0012】
特許文献2に示されたように放射溝を座面に形成した場合には、締付時により多くの摩擦係数安定剤が流入する放射溝の外周寄り部分の内圧が、内周寄り部分の内圧よりも高くなり、摩擦係数安定剤が座面の外周端から排出されにくくなる。これに対して本発明の円周溝は、より多くの摩擦係数安定剤を円周溝の内部に流入させることができ、特に外周寄りの部分の幅を内周寄りの部分よりも広く形成することにより、その効果を高めることができる。
【0013】
この結果、本発明の締結部材は摩擦係数安定剤により締付時には摩擦係数を下げて軸力を高めることができるとともに、締付時に摩擦係数安定剤を効率よく座面から円周溝内に移動させ、座面における摩擦係数安定剤の残存量を減少させて、回転ゆるみの発生を防止することができる。しかも本発明の締結部材の座面は放射状溝以外の部分は平坦であるので、特許文献3のように座面で陥没が発生することはなく、非回転ゆるみによる軸力低下も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態を示す平面図、断面図、底面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態を示す平面図、断面図、底面図である。
【
図4】本発明をナットに適用した場合の断面図である。
【
図5】実施例に用いたユンカー式ゆるみ試験機の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は本発明をボルトに適用した実施形態を示す図面である。
図1に示されるのはフランジ付きボルトであるが、ボルト本体10の形状は特に限定されるものではなく、例えば一般的な六角ボルトであってもよい。
【0016】
ボルトの座面11には、円周溝12が形成されている。円周溝は、任意の半径線上に複数本が存在するように形成されており、
図1に示す実施形態では、円周溝12は2本である。このように複数本の円周溝12を形成することにより、座面11のどの部分に付着した摩擦係数安定剤も円周溝12の内部に流入させ易くなる。
【0017】
座面11の円周溝12以外の部分は、平坦面となっている。円周溝12の本数を増加させて行くと平坦面の幅が狭くなり、特許文献3のように締め付け時に座面11で陥没が発生する可能性が生ずるので、円周溝12の本数は5本以下とすることが好ましい。1本では摩擦係数安定剤を排出する効果が不十分となる。
【0018】
円周溝12の溝幅は、外周寄りの円周溝12の幅が内周寄りの円周溝12の幅よりも広く形成されている。この実施形態では、外周寄りの円周溝12の幅は内周寄りの円周溝12の溝幅の1.5倍となっている。回転中心に近い内周寄り部分よりも回転中心から遠い外周寄り部分の方が座面の移動距離が長く、面積も大きいため、より多くの摩擦係数安定剤が押し出されるが、外周寄りの円周溝12の断面積を大きくしたため、支障なく円周溝12に流入させることができる。
【0019】
放射状溝12の半径方向の断面形状は、
図3に示すように半円形、四角形、半楕円形などとすることができる。なお、放射状溝12と平坦部14との交点となるエッジ部分は、座面11に付着させた摩擦係数安定剤を効率よく剥離するため、シャープな形状であることが好ましい。
【0020】
図1に示した第1の実施形態では、ボルトの軸線方向から見た放射状溝12の形状は、同心円を描いている。しかし
図2に示す第2の実施形態のように螺旋溝とすることもできる。この場合にも、任意の半径線上に複数本が存在するように形成されている。なお、同心円溝または螺旋溝に半径方向に延びる放射状溝を組み合わせても差し支えない。
【0021】
以上に説明した実施形態では、本発明をボルトの座面11に適用した。しかし本発明は
図4に示すように、締結部材であるナットの座面15にも同様に適用することができる。
【0022】
本発明の締結部材は、座面11に摩擦係数安定剤を塗布して締結する場合に用いられるものである。前記したように座面11に摩擦係数安定剤を塗布すれば締付時に座面の摩擦係数を低下させることができ、その分だけ軸力を高めることができるが、前記した通り、この摩擦係数安定剤は締結後には回転ゆるみの発生原因となる。
【0023】
しかし本発明の締結部材は締付時における座面11の回転を利用して座面に付着させた摩擦係数安定剤をかきとり、円周溝12の内部に流入させることができる。このため締結完了後の座面11と被締結物との間に残留する摩擦係数安定剤を減少させ、摩擦係数安定剤がそのまま残留していた従来よりも、座面11の摩擦係数を高めることができ、限界すべり量を高めることによって回転ゆるみを抑制することができる。また本発明の締結部材は座面11に広い平坦部14を持つため、軸力によって座面11の陥没が発生することもなく、非回転ゆるみも防止することができる。
【実施例0024】
以下に本発明の実施例を示す。
この実施例では、
図5に示すユンカー式ゆるみ試験機を用い、締結部材であるボルトの軸力残存率を測定した。ユンカー式ゆるみ試験機はベース20の下面の固定用治具24に試験対象となるボルト22を挿入してナット21で固定し、ボルト22の首部を振動板25によって軸線に対して直角方向に振動させ、ベース20と固定用治具24との間に設けたロードセル26によって軸力を測定する装置である。なお、23は振動板25とボルト22との間に介在入させる試験用焼き入れワッシャである。振動板25にはその片側に設けられた偏芯円盤27によって毎分1000回の振動が加えられ、その振幅は反対側に設置したダイヤルゲージ28で測定される。またロードセル26によって検出されたひずみは動ひずみ計29とデジタルレコーダ30に入力され、記録される。
【0025】
本発明の座面を形成したボルトをこのユンカー式緩み試験機にセットし、座面に樹脂系の摩擦係数安定剤を塗布し、振幅0.34m×1000回の振動を加えた。なお、ボルトのサイズはM8であり、座面の形状は
図1の通りである。試験開始時の軸力と試験後の軸力の比である軸力残存率を測定したところ、座面全体が平坦な従来のボルトの軸力残存率は62%であったが、本発明の座面を形成したボルトの軸力残存率は83%であり、本発明の優れた効果が確認された。