(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000975
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】窓ガラス制振部材
(51)【国際特許分類】
B60J 1/17 20060101AFI20221222BHJP
【FI】
B60J1/17 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150917
(22)【出願日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2021100660
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120765
【弁理士】
【氏名又は名称】小滝 正宏
(74)【代理人】
【識別番号】100097076
【弁理士】
【氏名又は名称】糟谷 敬彦
(72)【発明者】
【氏名】石黒 輔
(72)【発明者】
【氏名】野尻 昌利
【テーマコード(参考)】
3D127
【Fターム(参考)】
3D127AA14
3D127CB05
3D127CC05
3D127DF26
3D127EE26
(57)【要約】
【課題】自動車等の車両において、特に車内の騒音を抑制する効果を高めた窓ガラス制振部材を提供する。
【課題を解決するための手段】昇降可能な自動車等の車両の窓ガラス20の下辺部に取付けられる窓ガラス制振部材40であって、窓ガラス制振部材40は、略U字形状のチャンネル50が粘弾性部材41を介して窓ガラス20の下辺部を挟持し、粘弾性部材41は、窓ガラス20の車外側側面に当接する車外側側面部42と、窓ガラス20の車内側側面に当接する車内側側面部43と、車外側側面部42及び車内側側面部43と連結し、窓ガラス20の底面22に当接する下面部44を有し、下面部44は、少なくとも、車両上下方向の厚さが4mmから100mmであること、窓ガラスの底面側に上方突起部が形成されていること、のうちの一方を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降可能な自動車等の車両の窓ガラスの下辺部に取付けられる窓ガラス制振部材であって、
前記窓ガラス制振部材は、剛性部材の略U字形状のチャンネルが粘弾性部材を介して前記窓ガラスの下辺部を挟持し、
前記粘弾性部材は、前記窓ガラスの車外側側面に当接する車外側側面部と、
前記窓ガラスの車内側側面に当接する車内側側面部と、
前記車外側側面部及び前記車内側側面部と連結し、前記窓ガラスの底面に当接する下面部を有し、
前記下面部は、少なくとも、
車両上下方向の厚さが4mmから100mmであること、
前記窓ガラスの底面側に上方突起部が形成されていること、
の一方を有することを特徴とする窓ガラス制振部材。
【請求項2】
前記上方突起部の車両上下方向の高さは、1mmから2.5mmである請求項1に記載の窓ガラス制振部材。
【請求項3】
前記チャンネルの前記窓ガラスの車外側及び車内側には、前記粘弾性部材の前記車外側側面部及び前記車内側側面部を押圧する突条部が形成されている請求項1又は請求項2に記載の窓ガラス制振部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両において、特に車内の騒音を抑制する効果を高めた窓ガラス制振部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、ユーザーの要求の一つとして高い静粛性がある。騒音の発生源は数多くあるが、ドアに取付けられた窓ガラスやその周辺もその一つであり、例えば、走行時における車体の振動により、窓ガラスが振動し、この振動により騒音を発生している場合がある。
【0003】
この振動による騒音の軽減対策として、以下の特許文献1の技術がある。
図8に示すように、窓ガラス20の下辺部には窓ガラス制振部材40が取付けられている。粘弾性部材41であるゴム部材は、窓ガラス20の厚みに対応する溝を有している。窓ガラス制振部材40は、ゴム部材である粘弾性部材41を介して金属製のU字型のチャンネル50が、窓ガラス20の下辺部を挟持する構造をなしている。なお、特許文献1において、窓ガラス20の下辺部を挟持する粘弾性部材41の厚さに関しては記載されていないが、特許文献1の
図3及び
図4において、粘弾性部材41における窓ガラス20の側面側と下方側の厚さは同じである。
【0004】
そして、実車の窓ガラス20の下辺部に上記の窓ガラス制振部材40を取付け、時速100kmでの定常走行時における車内の騒音を測定した結果、窓ガラス制振部材40を取付けていない場合に比べて、約1.0dB音圧が低下し、特に1~4kHzの周波数帯において音圧が低下したことを確認した旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両の電動化の普及等に伴い、さらなる静粛性向上が求められており、ドアに取付けられた窓ガラスやその周辺においてもその要求は高い。なお、窓ガラスを厚くして窓ガラスの剛性を上げることにより、静粛性を向上させることは可能であるが、窓ガラスを厚くすることはキログラム単位の重量増となり、他方で必要な車体の軽量化の要請に応えることができない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、窓ガラスの振動による騒音を更に低減して、更なる静粛性向上に応えるべく、従来の構造を改良することにより、簡単な構造で車内騒音を低減する窓ガラス制振部材を提供することを目的とする。
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の本発明は、昇降可能な自動車等の車両の窓ガラスの下辺部に取付けられる窓ガラス制振部材であって、窓ガラス制振部材は、剛性部材の略U字形状のチャンネルが粘弾性部材を介して窓ガラスの下辺部を挟持し、粘弾性部材は、窓ガラスの車外側側面に当接する車外側側面部と、窓ガラスの車内側側面に当接する車内側側面部と、車外側側面部及び車内側側面部と連結し、窓ガラスの底面に当接する下面部を有し、下面部は、少なくとも、車両上下方向の厚さが4mmから100mmであること、窓ガラスの底面側に上方突起部が形成されていること、の一方を有することを特徴とする窓ガラス制振部材である。
【0009】
請求項1の本発明では、窓ガラス制振部材は、剛性部材の略U字形状のチャンネルが粘弾性部材を介して窓ガラスの下辺部を挟持し、粘弾性部材は、前記窓ガラスの車外側側面に当接する車外側側面部と、窓ガラスの車内側側面に当接する車内側側面部と、窓ガラスの底面に当接し、車外側側面部及び車内側側面部と連結する下面部を有しており、第1の場合において、下面部は、車両上下方向の厚さが4mmから100mmであるので、走行時における車体の振動により、窓ガラスが振動して発生する振動エネルギーを厚く形成した下面部がより吸収し、振動を減衰させることができ、騒音の発生を低減することができる。
【0010】
なお、4mm未満の場合は、下面部の厚みの増加に対する振動の減衰効果が小さい。又、振動の減衰効果は、厚みの増加に対して直線的に改善するものではなく、厚みの増加と共に減衰効果の程度は徐々に低下するが、100mm程度までは振動の減衰効果を有している。そして、100mm程度までは周辺部品との干渉や窓ガラス制振部材全体の重量増もあまり問題にならない。
【0011】
又、第2の場合において、下面部には、窓ガラスの底面側に上方突起部が形成されているので、粘弾性部材の上方突起部が窓ガラスの底部に弾接する時に歪み、その歪みによって窓ガラスが振動して発生する振動エネルギーを熱に変換することができ、振動を減衰させ、騒音の発生を低減することができる。
【0012】
なお、請求項1においては、少なくとも第1の場合、第2の場合の一方を有するので、第1の場合、第2の場合と第1、第2の両方を有する場合が含まれる。又、第1と第2の両方を有する場合であり、周辺部品との干渉が懸念される場合は、第1の場合の下面部の車両上下方向の厚さを第2の場合の上方突起部の高さを考慮して100mm未満に設定する。
【0013】
請求項2の本発明は、請求項1の発明において、上方突起部の車両上下方向の高さは、1mmから2.5mmである窓ガラス制振部材である。
【0014】
請求項2の本発明では、上方突起部の車両上下方向の高さは、1mmから2.5mmであるので、粘弾性部材の上方突起部が窓ガラスの底部に弾接する時に歪み、その歪みによって窓ガラスが振動して発生ずる振動エネルギーを効率よく熱に変換することができ、振動を減衰させ、騒音の発生を低減することができる。
【0015】
上方突起部の車両上下方向の高さが1mmより低い場合は、歪みの程度が少ないので、振動を十分減衰させることができず、騒音発生の低減効果が少ない。一方、上方突起部の車両上下方向の高さが2.5mmより高い場合は、窓ガラスを粘弾性部材に挿入した時に、上方突起部の変形に伴う車両上方への反力が大きくなり、窓ガラス制振部材を窓ガラスに固定し難くなる。
【0016】
請求項3の本発明は、請求項1又は請求項2の発明において、チャンネルの窓ガラスの車外側及び車内側には、粘弾性部材の車外側側面部及び車内側側面部を押圧する突条部が形成されている窓ガラス制振部材である。
【0017】
請求項3の本発明では、チャンネルの窓ガラスの車外側及び車内側には、粘弾性部材の車外側側面部及び車内側側面部を押圧する突条部が形成されているので、窓ガラス制振部材を窓ガラスの下方の所定の位置に確実に挟持させることができる。
【発明の効果】
【0018】
窓ガラス制振部材は、剛性部材である略U字形状のチャンネルが粘弾性部材を介して窓ガラスの下辺部を挟持し、粘弾性部材は、前記窓ガラスの車外側側面に当接する車外側側面部と、窓ガラスの車内側側面に当接する車内側側面部と、窓ガラスの底面に当接し、車外側側面部及び車内側側面部と連結する下面部を有しており、第1の場合において、下面部は、車両上下方向の厚さが4mmから100mmであるので、走行時における車体の振動により、窓ガラスが振動して発生する振動エネルギーを厚く形成した下面部がより吸収し、振動を減衰させることができ、騒音の発生を低減することができる。
【0019】
又、第2の場合において、下面部には、窓ガラスの底面側に上方突起部が形成されているので、粘弾性部材の上方突起部が窓ガラスの底部に弾接する時に歪み、その歪みによって窓ガラスが振動して発生ずる振動エネルギーを熱に変換することができ、振動を減衰させ、騒音の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に用いる自動車のドアガラス構造の概略透視図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態の窓ガラス制振部材の断面図である。
【
図4】第1の実施形態の騒音測定の結果のグラフである。
【
図5】下面部の車両上下方向の厚さと加速度との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の第2の実施形態の窓ガラス制振部材の断面図である。
【
図7】第2の実施形態の騒音測定の結果のグラフである。
【
図8】従来の窓ガラス制振部材の断面図である。(特許文献1)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の実施形態に用いる自動車のドアガラス構造の概略透視図であり、窓ガラス20の昇降機構として、ワイヤータイプのドアウインドウレギュレータ60を使用したドアガラス構造である。本実施形態では、車両のフロントドアを例に説明する。なお、背景技術と同じ部位については、同一名称及び同一符号を付して記載する。
【0022】
(ドアガラス構造)
ドア1は、インナパネル(図示せず)とアウタパネル12とからなり、窓ガラス20が下降したときにそれを収納するドア本体13と、その上部に窓ガラス20が上昇したときにそれを支持する窓サッシュ14が一体に形成されている。自動車のドア1のドア本体13の内部の両側には、窓ガラス20が昇降する時の、車両前後の端部をガイドする一対のランチャンネル16、17が設けられている。このランチャンネル16、17の間に位置して、センタガイドレール61が固定されている。このセンタガイドレール61には、キャリアプレート62が上下移動可能に取り付けられている。窓ガラス20は、その下辺部に設けられた連結用穴21、21(
図3)とキャリアプレート62とが、連結ボルト64,64によってネジ止めされることにより、ドアウインドウレギュレータ60に連結されている。本発明の実施形態では、厚さが4mmのガラスを使用した。
【0023】
又、キャリアプレート62は、ワイヤケーブル63を介して駆動モータ30が連結されており、この駆動モータ30によりワイヤケーブル63を牽引することにより、キャリアプレート62および窓ガラス20を昇降させることができる。
【0024】
なお、
図1において、2点鎖線で示した窓ガラス20の位置は、窓ガラス20がドア本体13の内部に完全に引き込まれた状態、すなわち、窓ガラス20の全開の状態を示している。
【0025】
(窓ガラス制振部材40)
図1に示すように、窓ガラス20の下辺部分には、2個の窓ガラス制振部材40が取り付けられている。これは、窓ガラス20の下辺部分の中央部分で、連結用穴21、21が連結ボルト64,64によってドアウインドウレギュレータ60に連結されるドアガラス構造の制約によるものである。窓ガラス制振部材40は、車前後方向の長さが140mmのものを2個使用した。なお、長さは140mmには限定されない。又、車両前後方向で異なる長さの窓ガラス制振部材40を用いてもよい。更には、前後のどちらか一方に取付けてもよい。
【0026】
又、窓ガラス制振部材40は、窓ガラス20の下辺部分を覆う領域が広いほど振動低減の効果が高いので、長い窓ガラス制振部材を使用してもよく、長さが短いもの、例えば、70mmの窓ガラス制振部材を複数個使用してもよい。要するに、ドアウインドウレギュレータ60との位置関係、周辺部品との間のスペースを考慮して取付けることができる。
【0027】
図2は、本発明の第1の実施形態の窓ガラス制振部材40の断面図である。なお、
図2は、窓ガラス20、窓ガラス制振部材40である粘弾性部材41と略U字形状のチャンネル50の各々の形状及びその位置関係を示したものであり、窓ガラス制振部材40を窓ガラス20に装着した時の形状を示すものではない。
【0028】
窓ガラス制振部材40は、窓ガラス20の車外側側面に当接する車外側側面部42と、窓ガラス20の車内側側面に当接する車内側側面部43と、車外側側面部42及び車内側側面部43と連結する下面部44を有する粘弾性部材41と、粘弾性部材41の外側側面を覆う略U字形状のチャンネル50によって構成され、このチャンネル50によって窓ガラス20の下辺部を挟持する構造になっている。
【0029】
粘弾性部材41は、ブチルゴムで形成し、車外側側面部42及び車内側側面部43の厚さは、同じで1.5mm、下面部44の厚さは8.0mmである。なお、下面部44の厚さは8.0mmには限定されず、4.0mmから100mmの範囲が、振動の減衰効果、周辺部品との干渉防止及び窓ガラス制振部材全体の重量増の観点で効果的である。
【0030】
なお、粘弾性部材41としては、ゴムや合成樹脂が好適に使用される。使用可能なゴム材料としては特に限定されないが、ブチルゴム以外には、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ネオプレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。又、合成樹脂材料としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン熱系などの可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0031】
粘弾性部材41の車外側側面部42及び車内側側面部43の上方には、窓ガラス20側に突出する凸部47、48と、窓ガラス20とは反対側に膨らんだ膨出部45、46が形成されている。
【0032】
一方、チャンネル50は、金属製であり、本第1の実施形態では、素材として溶融亜鉛めっき鋼板を使用した。なお、チャンネル50は、上記の通り、窓ガラス20の下辺部を粘弾性部材41と共に挟持、すなわち、拘束する必要があるので、高剛性が求められる。材質としては、粘弾性部材41を拘束可能であれば特に限定されないが、具体的には、金属製やFRP等が挙げられる。金属材料としては、コストと加工のし易さから、スチールが好適に使用される。
【0033】
チャンネル50の上方には、チャンネル50の側面部に、内側に張り出す突条部51、52が形成され、突条部51、52の上方、チャンネル50の開口部は、窓ガラス20から離れる方向に広がる傾斜部53、54が形成されている。
【0034】
(窓ガラス制振部材40の装着)
窓ガラス制振部材40は、窓ガラス20の下辺部分に粘弾性部材41を取付けた後、粘弾性部材41が取付けられた窓ガラス20をチャンネル50に挿入することによって装着される。
【0035】
図2に示すように、チャンネル50の開口部は、窓ガラス20から離れる方向に広がる傾斜部53、54が形成されているので、粘弾性部材41が取付けられた窓ガラス20をチャンネル50にスムーズに挿入することができる。又、チャンネル50は、突条部51、52が窓ガラス20とは反対方向に広がることにより、粘弾性部材41を受け容れる。
【0036】
又、
図2から明らかなように、チャンネル50の突条部51、52の下方は、粘弾性部材41の車外側側面部42及び車内側側面部43との間に隙間Sが形成されるので、粘弾性部材41が取付けられた窓ガラス20は、チャンネル50内を下方に容易に移動することができる。なお、隙間Sは、車外側側面部42側、車内側側面部43側の片方のみに形成してもよく、隙間Sを形成しない場合であってもよい。
【0037】
そして、窓ガラス20の底面22が、粘弾性部材41の下面部44の上面を下方に少し押すように当接して装着が完了する。この時、粘弾性部材41の車外側側面部42及び車内側側面部43の上方には、窓ガラス20側に突出する凸部47、48と、窓ガラス20とは反対側に膨らんだ膨出部45、46が形成されているので、粘弾性部材41の上端部近傍は、チャンネル50の突条部51、52によって、窓ガラス20側に押圧され、更に、その上部は、膨出部45,46がチャンネル50の傾斜部53,54によって窓ガラス20側に押圧され、又、窓ガラス20側に突出する凸部47、48によって、窓ガラス20側に押圧されるので、窓ガラス制振部材40を窓ガラス20の下辺部に強固に挟持することができる。なお、本実施形態において、窓ガラス制振部材40の重量、すなわち、粘弾性部材41とチャンネル50の重さの合計は、窓ガラス20当たり約300グラムである。
【0038】
(効果の確認;騒音測定方法)
図3は、騒音測定を説明する図である。車両の室内における人間の耳の位置(
図3の破線の円)に音源70を設置する。窓ガラス20の車外側に、窓ガラス20の振動を受信する加速度ピックアップ71(振動レベル計)を20箇所貼り付ける。加速度ピックアップ71は振動レベル計のセンサ部分であり、振動加速度に比例した電気信号を出力する。
【0039】
人間の耳に感じる周波数特性が等比的であるため、分析はオクターブ分析を使用した。騒音に対して可聴周波数の周波数範囲において、1/3 オクターブの規格に定められたバンドパスフィルタを通して各々の帯域毎の音圧レベルを測定する。なお、バンドパスフォルタの特性などはJIS C 1513:2002を参照されたい。
【0040】
(効果の確認;騒音測定結果)
図4は、窓ガラス20のみ(窓ガラス制振部材40を装着しない)の場合(■+一点鎖線)、従来の窓ガラス制振部材40(下面部の厚さが2.0mm)を取付けた場合(▲+破線)、本発明の窓ガラス制振部材40を取付けた場合(〇+実線)の測定結果である。なお、
図4においては、加速度(dB)の値が小さくなるほど窓ガラス20の振動が抑えられていることを示す。
【0041】
図4から明らかなように、本発明の窓ガラス制振部材40は、従来の窓ガラス制振部材40に比較して、1kHzを越える周波数領域において全体的に加速度の値が減少しており、特に4kHzから6kHz(少し高音域)の領域で顕著な減少が得られていることが分かる。
【0042】
上記の窓ガラス制振部材40において、窓ガラス20の下辺部では、窓ガラス20と剛性部材であるチャンネル50の間に窓ガラス制振部材40の粘弾性部材41の下面部44が存在しているので、騒音低減のメカニズムは、拘束型制振構造モデルによって説明可能と考える。
【0043】
すなわち、走行時における車体の振動により、窓ガラス20が振動した時、窓ガラス20は曲げ変形を受ける。その際に窓ガラス20と一体化されている剛性部材であるチャンネル50が、曲げ変形による窓ガラス20表面の伸縮を拘束する。
【0044】
そして、その時に、窓ガラス制振部材40には剪断応力が発生するが、この剪断応力自体は粘弾性部材41が吸収することができ、窓ガラス制振部材40の下面部44が厚くなるにつれて、振動エネルギーの吸収の程度が増加し、振動をより減衰させることができると考える。
【0045】
図5は、周波数3.15kHzにおける窓ガラス制振部材40の下面部44の車両上下方向の厚さと加速度(dB)との関係を示すグラフである。窓ガラス20の厚さが4mmであるので、コインシデンス周波数(共振周波数)である周波数3.15kHzにおける比較を行った。
図5の横軸(下面部44の厚さ(mm))は20mmまでを拡大して描かれている。なお、ガラスラン等が介在し、窓ガラス20の拘束条件が異なる場合、コインシデンス周波数は、窓ガラス20単体のコインシデンス周波数とは異なる値になる。
【0046】
窓ガラス制振部材40の下面部44の車両上下方向の厚さは、従来の窓ガラス制振部材40の厚さである2mmから2mm刻みに14mmまで、14mm以降は、20mmから100mmまで20mm刻みに変化させ、それぞれの厚みに対して加速度(dB)との関係を測定した。
【0047】
図5から明らかなように、窓ガラス制振部材40の下面部44の車両上下方向の厚さを従来(▲)の厚さの倍の4mmとすることにより顕著な振動低減効果が確認された。又、窓ガラス制振部材40の下面部44の車両上下方向の厚さを4mmから増加させると8mmまでは概ね直線的に加速度(dB)が低下することが確認された。
【0048】
8mmより厚くなるとその低下の度合いは徐々に小さくなり、14mm付近でサチュレート傾向となることが確認された。また、20mmから100mmまで20mm刻みに厚さを増加させた場合は、加速度(dB)の低下の度合いは非常に小さくなるが、100mm程度までは、振動の減衰効果を維持していることが確認された。上記の低下の度合いが小さくなる傾向は、窓ガラス制振部材40に発生する剪断応力を粘弾性部材41が吸収する能力が下面部44の厚さの増加につれて減少するためと考えられる。したがって、下面部44の厚さは、4mmから100mmで振動低減効果があり、好ましくは4mmから14mmである。
【0049】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図6は、本発明の第2の実施形態の窓ガラス制振部材40の断面図である。なお、
図6は、上記の
図2と同様に、窓ガラス20、窓ガラス制振部材40である粘弾性部材41と略U字形状のチャンネル50の各々の形状及びその位置関係を示したものであり、窓ガラス制振部材40を窓ガラス20に装着した時の形状を示すものでなはい。
【0050】
第2の実施形態の上記第1の実施形態のとの相違点は、下面部44の厚さは従来と同様の2.0mmであり、下面部44の窓ガラス20の底面22側に上方突起部49を形成したことである。上方突起部49の形状は、断面が二等辺三角形であり、上方突起部49の高さは、1.5mmである。なお、上方突起部49の形状は、二等辺三角形に限られず、正三角形でもよいし、半円でもよく、又は、台形等他の形状であってもよい。
【0051】
上記の第1の実施形態と同様に、窓ガラス制振部材40は、窓ガラス20の下辺部分に粘弾性部材41を取付けた後、粘弾性部材41が取付けられた窓ガラス20をチャンネル50に挿入することによって実装されるが、本実施形態2では、窓ガラス20の底面22が、粘弾性部材41の下面部44の上方に形成された上方突起部49を押し潰すように当接して装着が完了する。
【0052】
(効果の確認;騒音測定結果)
図7は、従来の窓ガラス制振部材40を取付けた場合(▲+破線)、第2の実施形態の窓ガラス制振部材40を取付けた場合(〇+実線)の測定結果である。なお、
図7においても加速度(dB)の値が小さくなるほど窓ガラス20の振動が抑えられていることを示す。
【0053】
図7から明らかなように、第2の実施形態では、第1の実施形態の場合と効果の現れ方が異なり、2.5kHz以下の領域で減少が観測され、特に2kHzで大きく低減されていることが分かる。
【0054】
これは、本第2の実施形態では、窓ガラス20の底面22が、粘弾性部材41の下面部44の上方に形成された上方突起部49を押し潰すように当接して装着が完了するので、上方突起部49には窓ガラス20の底面22によって押し潰されることに伴う歪みが発生している。
【0055】
そして、その歪みによって窓ガラス20が振動して発生する振動エネルギーを熱に変換し、特定の周波数(帯域)の振動を減衰させ、騒音の発生を低減したものと考える。
【0056】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0057】
例えば、上記の第1及び第2の実施形態では、窓ガラス制振部材40を窓ガラス20の昇降機構として、ワイヤータイプのドアウインドウレギュレータ60を使用したドアガラス構造に適用したが、他のタイプ、例えば、X型ドアウインドウレギュレータを使用したドアガラス構造に適用することも可能である。
【0058】
例えば、第1の実施形態と第2の実施形態を同時に有する形態としてもよい。この場合は、第1の実施形態と第2の実施形態の双方の効果が現れると考える。
【0059】
例えば、第2の実施形態の上方突起部49を、下面部44の下方であり剛性部材であるチャンネル50に弾接する下方突起部として形成してもよい。なお、下方突起部を形成する場合は、
図6の上方突起部49を下面部44の下方側にそのまま移動させるような形状に形成する形態としてもよいが、チャンネル50の方が窓ガラス20の底面22より広い領域が下方突起部の形成対象となるので、
図6の上方突起部49を下面部44の下方に複数(2箇所以上)形成してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 ドア
20 窓ガラス
22 底面
40 窓ガラス制振部材
41 粘弾性部材
42 車外側側面
43 車内側側面
44 下面部
45、46 膨出部
47、48 凸部
49 上方突起部
50 チャンネル
51、52 突条部
53、54 傾斜部
60 ドアウインドウレギュレータ
70 音源
71 加速度ピックアップ