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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097506
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】酸味成分配合飲料の香味改善方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
A23L2/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213659
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清水 綾子
(72)【発明者】
【氏名】米澤 洋朗
【テーマコード(参考)】
4B117
【Fターム(参考)】
4B117LC03
4B117LE01
4B117LE10
4B117LK06
4B117LK08
4B117LK16
(57)【要約】
【課題】酸味成分含有の飲料において、酸味成分を多く含有しているにもかかわらず、酸味成分独特の喉のイガイガ感や収斂味を緩和しマイルド感が付与された飲みやすい飲料を提供することにある。
【解決手段】クエン酸酸度0.09~2.0%の飲料において、ホトリエノール0.07~2.0ppm未満を添加する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホトリエノールを添加することを特徴とする、クエン酸酸度が0.09~2.0%である酸味成分配合飲料の香味改善方法。
【請求項2】
クエン酸酸度が0.09~2.0%である飲料において、ホトリエノールを0.07~2.0ppm未満含有することを特徴とする飲料。
【請求項3】
有機酸を含有することを特徴とする、請求項2に記載の飲料。
【請求項4】
前記有機酸がL-アスコルビン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸であり、これらのうちいずれか一つ以上を0.1~5.5質量%含有する請求項2または3に記載の飲料。
【請求項5】
甘味度が8以下である請求項2~4のいずれか1項以上に記載の飲料。
【請求項6】
前記飲料が容器詰飲料である、請求項2~5のいずれか1項以上に記載の飲料。
【請求項7】
水性媒体に混合して飲用する粉末飲料において、飲用時のクエン酸酸度が0.09~2.0%であって、ホトリエノールを0.7~1.3ppm未満、酸味成分1~20質量%、糖類を含有する粉末飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸味成分配合飲料の香味改善方法、及び酸味成分配合飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
クエン酸やL-アスコルビン酸(ビタミンC)などの有機酸は酸味成分として、柑橘系飲料、スポーツドリンク、機能性表示食品等の飲料に幅広く利用されている。例えばクエン酸やL-アスコルビン酸を強化した飲料は、健康・美容効果を期待して様々な形態の飲料が上市されている。
これらの飲料は、健康・美容効果の増強のために過度に酸味成分が配合される場合には,その強い酸味によって、喉越しの悪さや飲みにくさを感じてしまう。その対処方法として、一般的には砂糖等の甘味を添加して強い酸味を緩和させる方法が用いられるが、他の解決手段として、各種の成分を添加する方法が提案されている。例えば、高甘味度甘味料(特許文献1)、コハク酸ナトリウム又はフマル酸ナトリウム(特許文献2)やグルタミン(特許文献3)の添加によるクエン酸や有機酸の酸味のマスキングまたは緩和方法、ヒアルロン酸による食酢等のマスキング方法(特許文献4)、ビタミンC及びレモン果汁を含有した飲料において、アスコルビン酸のナトリウムを調整することによって酸味を調整する方法(特許文献5)が開示されている。
【0003】
一方、ホトリエノールは、紅茶、高級烏龍茶に多量に含まれていることが、非特許文献1~3に記載されている。また、特許文献6には、香気成分である3,7-ジメチル-1,5(E),7-オクタトリエン-3-オール(ホトリエノール)を香料組成物として飲料に添加することによって、自然で天然感のある香気を賦与する方法が、特許文献7にはホトリエノールが加熱後にも保持された茶飲料としてホトリエノールとアスコルビン酸類を含有した茶飲料が開示されている。
さらに、ホトリエノールの生理機能効果として、自律神経調節効果(特許文献8)、睡眠改善効果(特許文献9)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-215793号公報
【特許文献2】特開2005-261395号公報
【特許文献3】特開2011-254804号公報
【特許文献4】特開2016-123291号公報
【特許文献5】特開2016-42833号公報
【特許文献6】特開2000-192073号公報
【特許文献7】特開2009-089641号公報
【特許文献8】特開2019-163248号公報
【特許文献9】国際公開第2020/059080号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「茶の化学成分と機能」、弘学出版、2002年1月30日発行、p49
【非特許文献2】ACS Symposium Series Vol.988,2008 Food Flavor Capter 8,p87-97
【非特許文献3】J.Agric.Food Chem.1995,43,p200-207
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸味成分が有する強い酸味によって、喉越しの悪さや飲みにくさを感じてしまう課題に対し、従来の方法である高甘味度甘味料、コハク酸ナトリウム又はフマル酸ナトリウム、グルタミンやヒアルロン酸を添加する方法ではこれらの独特の呈味が影響し飲料自体の味が変わってしまう問題がある。また、一般的な手段として酸味を抑えて飲みやすくするために砂糖等を多く配合する方法では、酸味の強度は感じにくくなるものの、酸味成分特有の喉に感じるイガイガ感や収斂味といった不快感を軽減することができないばかりか、酸味成分を配合した飲料の香味が変化してしまい、不快感の抑制と飲料自体の香味を保持することの両方を有する飲料を得るためには十分ではなかった。
【0007】
したがって、本発明の課題は、酸味成分含有の飲料において、飲料本来の香味はそのままで、酸味成分特有の喉に感じるイガイガ感や収斂味である不快感を緩和しマイルド感が付与された飲みやすい飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ホトリエノールを添加することによって、飲料自体の香味を保持したまま、酸味成分特有の不快感を軽減し、マイルド感の付与された飲みやすい飲料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は次のとおりである。
[1]ホトリエノールを添加することを特徴とする、クエン酸酸度が0.09~2.0%である酸味成分配合飲料の香味改善方法。
[2]クエン酸酸度が0.09~2.0%である飲料において、ホトリエノールを0.07~2.0ppm未満含有することを特徴とする飲料。
[3]有機酸を含有することを特徴とする、請求項2に記載の飲料。
[4]前記有機酸がL-アスコルビン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸であり、これらのうちいずれか一つ以上を0.1~5.5質量%含有する請求項2または3に記載の飲料。
[5]甘味度が8以下である請求項2~4のいずれか1項以上に記載の飲料。
[6]前記飲料が容器詰飲料である、請求項2~5のいずれか1項以上に記載の飲料。
[7]水性媒体に混合して飲用する粉末飲料において、飲用時のクエン酸酸度が0.09~2.0%であって、ホトリエノールを0.7~1.3ppm未満、酸味成分1~20質量%、糖類を含有する粉末飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クエン酸酸度が0.09~2.0%である飲料にホトリエノールを配合することによって、酸味成分配合飲料の香味を改善することができる。具体的には酸味成分独特の喉越しに感じるイガイガ感や収斂味である不快感を緩和し、マイルド感を付与することができる。また酸味成分が配合する飲料の香味をそのまま保持することができるため、飲料自体の味質や香味のバランスに影響を与えることはない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明において、「ppm」「%」とは、質量当たりの濃度を示す。また、「下限値~上限値」の数値範囲は、特に他の意味であることを明記しない限り、「下限値以上、上限値以下」の数値単位を意味する。
【0011】
本発明に係る香味改善方法は、クエン酸酸度が0.09~2.0%である酸味成分配合飲料に使用されるものであって、ホトリエノールを添加することによって酸味成分配合飲料の香味(例えば、適度な酸味や爽快さ)を保持したまま、酸味成分特有の喉に感じるイガイガ感や収斂味である不快感(以下、不快感ともいう)を軽減し、マイルド感を付与することをいう。
【0012】
本発明でいう不快感とは、酸味成分を飲用した際に感じる不快な感覚を伴う強い酸味であり、具体的には喉越しに感じるイガイガ感(喉のイガイガ感ともいう)や収斂味をいう。
本発明でいうマイルド感とは、不快感を低減し、口当たりや喉越しがマイルドまたはまろやかであることを意味する。マイルド感が強い、または優れているとは、不快感を低減し、マイルド感が充分に増すことを意味する。
【0013】
本発明における酸味成分配合飲料とは、クエン酸酸度を0.09~2.0%に調製して得られる飲料にホトリエノールを配合した飲料である。本発明の飲料は液体状(本明細書では液体飲料ともいう)であっても、粉末状等の固形物(本明細書では粉末飲料ともいう)であってもよい。
【0014】
本発明でいうクエン酸酸度とは、「果実飲料の日本農林規格」に示されている測定方法に従い、手動滴定又は自動滴定による中和滴定法によって測定・算出される無水クエン酸換算量の百分率を意味する。
本発明の飲料は、クエン酸酸度が0.09~2.0%となる飲料において、ホトリエノールの効果が発現される。好ましくはクエン酸酸度が0.1~1.5%、より好ましくは0.5~1.0%の範囲において、ホトリエノールの香味の改善効果が得られる。この範囲であれば、ホトリエノールを添加することによって、酸味が非常に強い飲料においても、マイルド感が付与されて、飲用しやすくなる。
【0015】
本発明における酸味成分配合の飲料中の酸味成分は、具体的には有機酸であって、食品用に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、L-アスコルビン酸、クエン酸、リンゴ酸、L-酒石酸、酢酸、酢酸ナトリウム、蟻酸、クエン酸、コハク酸、D-グルコン酸、グルコノラクトン、乳酸、リン酸を挙げることができる。特にL-アスコルビン酸、クエン酸、リンゴ酸、L-酒石酸が好ましい。これらの有機酸のうち、1種類また2種類以上を混合して使用することができる。
また、有機酸を含む素材として果汁・野菜汁や醸造酢類も利用できる。有機酸を含む素材である果汁・野菜汁は、レモン、オレンジ、ライム、グレープフルーツ、ユズ、ブドウ、ナシ、リンゴ、キウイ、パイナップル、ストロベリー、アセロラ、トマト、ハイビスカス等が例示できる。また、醸造酢類としては、黒酢、梅酢、リンゴ酢等が例示できる。これらの素材は配合する飲料により粉末状、液体状を選択することができ、これらの成分のうち1種類また2種類以上を混合して使用することができる。
酸味成分の配合量は、所定のクエン酸酸度となるように調整すればよく、飲料中濃度は0.09~5.5質量%であり、0.2~2.0質量%が好ましく、0.3~1.5質量%がより好ましい。これらの範囲であれば、酸味成分の爽快さは保持したまま、ホトリエノールの酸味成分配合飲料にマイルド感を与える効果が発現しやすい。
【0016】
本発明におけるホトリエノールは、化学式C10H16Oで表される、CAS登録番号20053-88-7のモノテルペンアルコール系化合物である。ホトリエノールは、3位に不斉炭素があり、3R-(-)-3,7-ジメチル-1,5(E),7-トリエン-3-オール(以下、3R-(-)体という。)と3S-(+)-3,7-ジメチル-1,5(E),7-トリエン-3-オール(以下、3S-(+)体という。)の光学活性体が存在するが、本発明に用いられるホトリエノールは、3R-(-)体であっても、3S-(+)体であってもよく、また、それらの混合物であってもよく、ラセミ混合物であってもよい。
【0017】
本発明のホトリエノールは、発酵茶等の天然物から抽出されたものであっても、化学的に全合成されたものであっても、又は発酵茶等の天然物から抽出物を化学処理して半合成されたものであっても良い。天然物からの抽出物の場合に、ホトリエノールが含まれる抽出物をそのまま又は濃縮等の操作をして用いることができ、抽出物を蒸留、カラムクロマトグラフィー等の分離精製操作を行って、ホトリエノールを単離精製したもの又はその他の成分を含む画分として用いることができる。
得られたホトリエノールまたはホトリエノールを含む画分は目的に応じて適宜製剤化して香味改善用に用いることができる。また、ホトリエノールを含む組成物はエタノールなどの有機溶媒を含んでいても良い。また、食品上許容される安定剤等を配合してもよい。さらに、窒素置換等で気中の酸素濃度を低くしたうえで冷凍保存することで、保存性を高めることもできる。
本発明における飲料に添加するホトリエノールの形態は、粉末状、顆粒状、液体状のいずれでもよく、液体飲料に添加する場合は、ホトリエノール原液をエタノールに溶解後適宜水にとかして水溶液として配合することが好ましい。粉末飲料に添加する場合は、粉末状、顆粒状、液体状であればよく、粉末状が特に好ましい。粉末状の場合、食品として使用できる賦形剤を選択すればよく、デキストリンや乳糖が例示できる。
【0018】
本発明の飲料において、ホトリエノールの添加量は、飲用時濃度0.07~2.0ppm未満であり、0.1~1.5ppmが好ましく、0.4~1.3ppmがさらに好ましい。この範囲であれば、クエン酸酸度が0.09~2.0%の飲料において、酸味成分の不快感を低減してマイルド感を有する飲料が得られる。ホトリエノールが0.07ppm未満である場合では、酸味の不快感が残り、飲み込みづらさを感じる。また、2.0ppm以上では、ホトリエノールの独特な香味である青みのある香りだけが突出してしまい飲料自体の香味のバランスが崩れるため好ましくない。
液体飲料では、飲用時に上記の範囲の濃度になるようにホトリエノールを配合すればよく、希釈して飲用する場合は、希釈濃度に合わせてホトリエノールを配合すればよい。ホトリエノールの添加方法は、通常の液体飲料に使用される方法を用いればよい。
粉末飲料では、ホトリエノールの添加量は、10~15倍量の水等の水性溶媒に溶解後の状態において0.07~2.0ppm未満であり、0.1~1.5ppmが好ましく、0.4~1.3ppmがさらに好ましい。本発明のホトリエノールの粉末飲料への混合方法は他の粉末と均等に混ざりうる方法であれば、いかなる方法を用いても良い。例えば、リボンミキサーによる撹拌混合や、コンテナブレンダーによる転動式混合、流動層造粒などが挙げられるが、本発明のインスタント粉末飲料を製造するのに適した公知手法を適宜選択することが可能であり、これらに限定はされない。
【0019】
本発明において上述のように添加したホトリエノールについては、適切な濃度になるよう水性媒体にて溶解し、ガスクロマトグラフ質量分析法の方法を用いることで、粉体中の含有量を測定することが可能である。本発明で上述の効果範囲で添加したホトリエノールにつき、ガスクロマトグラフ質量分析法で測定したところ、検出された量としては1ppb~20000ppbであった。
なお分析方法の具体例は後述の実施例に示す。
【0020】
本発明の飲料は、クエン酸酸度が0.09~2.0%、及び飲用時の甘味度が6以下である飲料にホトリエノールを飲用時濃度0.07~2.0ppm未満となるよう配合することによって、酸味成分の不快感が抑制されマイルド感が増し、口当たりの良い飲料となる。
また、本発明の飲料の甘味度は1以上8以下であることが好ましく、2以上6以下であることがより好ましい。この範囲であれば、酸味成分を含有するクエン酸酸度が0.09~2.0%の飲料において、飲料自体の香味はそのままで、ホトリエノールによるマイルド感の付与効果を発現することができる。一方、甘味度が8を超えると、甘味ばかりが引き立ち、酸味成分配合の飲料の香味が変化してしまう。
【0021】
本発明における甘味度とは、飲用時の飲料100g中にショ糖1g含有するときの甘さを「1」とした、飲料の甘味を表す指標である。当該飲料の甘味度は各甘味成分の含有量をショ糖の甘味1に対する当該甘味成分の甘味の相対比に基いて、ショ糖の相当量に換算して、次いで当該飲料に含まれるすべての甘味成分のショ糖甘味換算量(果汁やエキス等由来の甘味成分も含む)を総計することによって求められる。なお、ショ糖の甘味度を1とした場合の糖類、低甘味度甘味料、及び高甘味度甘味料の甘味度は、前橋 健二、甘味の基礎知識、醸協(2011)第106号、第12号、p818-825 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan/106/12/106_818/_pdf)の記載に基づく。これによれば、例えば、グルコース0.64~0.74、フラクトースは1.15~1.73、、スクロースは1.0、ラクトースは0.15、アセスルファムKは200、スクラロースは600、アスパルテームは200である。
本発明における甘味料は、例えば、砂糖、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、アセスルファムK、スクラロース、アスパルテーム、ステビアなどを用いることができる。また、これらの甘味料を混合して使用してもよい。
【0022】
本発明の飲料は、果汁を添加することができる。
クエン酸酸度が0.09~2.0%となるように、果汁を配合することができ、粉末果汁、濃縮果汁等飲料に合わせて、粉末状、液体状の果汁を適宜使用することができる。例えば、レモン、オレンジ、ライム、グレープフルーツ、ユズ、モモ、ブドウ、ナシ、リンゴ、キウイ、パイナップル、マンゴ、ストロベリーなどが挙げられ、それらの2種以上の混合物でもよい。
【0023】
本発明の飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される着色料、栄養補助剤、ポリフェノール、アミノ酸類、酸化防止剤などを添加することができる。
また、粉末飲料の場合は、流動性改良剤としての二酸化ケイ素、微粒二酸化ケイ素、又はリン酸三カルシウム等の添加剤を利用することができる。
【0024】
本発明における飲料は、液体状や粉末状とすることができる。
本発明の液体状の飲料は、そのまま飲用できる容器詰飲料(いわゆるRTD飲料)や水又はお湯、あるいは炭酸水で希釈して飲料されるポーションタイプとすることができる。また、粉末飲料は、冷水や温水、あるいは炭酸水などの水性媒体に溶解し希釈して飲用する粉末状あるいは顆粒状、粉末を塊状に成型したタブレット状とすることができる。
本発明の粉末飲料は、酸味成分や粉末果汁の他に、糖類を配合する。糖類は、香味の観点から、粉末飲料全体に対し、50重量%以上、好ましくは60重量%以上の糖類を含有することが好ましい。上限は98重量%であることが好ましい。。ここで、糖類とはブドウ糖・果糖などの単糖類、ショ糖・麦芽糖・乳糖などの二糖類、グラニュー糖、パラチノース、トレハロース、オリゴ糖類、糖アルコール類等の甘味を呈す水溶性成分が挙げられる。
また、本発明の粉末飲料の、酸味成分は、粉末飲料に対して、1.0重量%以上20.0重量%以下、特に5.0重量%以上~15.0重量%配合することが好ましい。
【0025】
容器詰飲料とする場合の容器とは、容器はポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック製ボトル、スチール、アルミ等の金属缶、瓶、紙容器等が挙げられる。中でも、PETボトルのような透明な容器に充填された飲料であることが好ましい。容器への飲料の充填や殺菌処理は、常法により行うことができる。
これらは加熱処理による殺菌工程と衛生的な容器充填が必要である。殺菌は食品衛生法に定められた殺菌条件にて行い、包装容器としてはPETボトルなどのプラスチックボトル、缶、瓶、紙パックを用い、容器に応じてホットパック充填やアセプティック充填を行えばよい。本発明の飲料を液体飲料とする場合には、有機酸やホトリエノール、その他副素材を配合して各成分が所定の濃度となるように調合し、前述の殺菌・容器充填することで製造することができる。
【0026】
粉末飲料とする包装形態は、バルク状の包装容器内からスプーンなどで飲用分を取り出す方法でも良いが、スティック包装や三方シール包装などで一杯分を個包装するのが、品質保持の点で好ましい。包装資材としては樹脂製資材とアルミ箔を組み合わせたラミネート品が品質保持の点で好適である。本発明の飲料を粉末飲料とする場合には、飲用状態で成分含有量が所定の濃度となるように酸味成分とホトリエノールを含有素材、その他副素材を混合し、および必要に応じて造粒し前述の包装資材に充填することで製造することができる。また、アルミ袋などの大容量に詰められた粉末飲料をカップ式自動販売機やディスペンサー等で使用することも可能である。
【0027】
本発明の飲料は、特許文献8、9に記載のホトリエノールの機能性を付与した、例えば機能性表示食品として利用することができる。
【実施例0028】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
<ホトリエノールの分析方法>
本発明で得られた飲料は、適宜希釈し、希釈液10mLと塩化ナトリウム3gを20mLバイアルに入れ、内部標準物質としてシクロヘプタノール(東京化成工業株式会社製)を終濃度で50ppbとなるように添加した。このサンプル液について下記の条件で固相マイクロ抽出法(Solid Phase Micro Extraction:SPME)を用いたGC/MS分析に供した。評価にはホトリエノールのピークエリアと内部標準物質のピークエリアの比を使用した。
<SPME-GC/MS条件>
GC:TRACE GC ULTRA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
MS:TSQ QUANTUM XLS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
SPMEファイバー:50/30μm Divinylbenzene/Carboxen/Polydimethylsiloxane Stableflex
抽出:60℃、30分
カラム:SUPELCO WAX10(0.25mmI.D.×60m×0.25μm、シグマアルドリッチ社製)
オーブンプログラム:40℃で2分間保持した後、100℃まで3℃/分で昇温、200℃まで5℃/分で昇温、240℃まで8℃/分で昇温し、240℃で8分間保持した
キャリアーガス:ヘリウム(100kPa、一定圧力)
インジェクター:スプリット(スプリットフロー 10mL/分)、240℃
イオン化:電子イオン化
イオン化電圧:70eV
測定モード:スキャン
モニタリングイオン:ホトリエノール;m/z=71
【0030】
<クエン酸酸度の測定方法>
クエン酸酸度の測定は、電位差自動滴定装置AT-710(京都電子工業株式会社製)を使用した。測定は装置付帯のマニュアルに従って行い、測定試料は0.1N-NaOHでの滴定量が1~10mLとなるように適宜希釈し、pH8.1を中和終点として0.1N-NaOHで自動滴定した。この滴定量から試料の質量あたりのクエン酸換算量を質量%として算出し、これをクエン酸酸度とした。
【0031】
<官能評価方法>
官能評価における評価は、風味や異臭についての識別やそれらの濃度識別についてトレーニングされた専門パネラー5名により実施した。パネラー5名の評価点は平均化した。
評価項目の内、酸味の不快感は喉のイガイガ感(喉越しの悪さ)および収斂味を評価し、表1の評価基準に従い、評定法により官能評価を実施した。喉のイガイガ感、収斂味が強ければ+方向、弱ければ-方向として評価し、点数化した。
また、酸味のマイルド感は、表2の評価基準に従い官能能評価を実施した。香気成分(ホトリエノール等)を添加していない試験例をコントロールとし、酸味のマイルド感がコントロールと同等であれば0、強くなれば+方向、弱くなれば-方向として評価し、点数化した。
また、評価パネラーのコメントを取り纏め、代表的なコメントを抽出した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
<試験例1> L-アスコルビン酸の香味評価
最初にL-アスコルビン酸の香味評価を実施した。L-アスコルビン酸(DSM社製)を、常温のイオン交換水に所定の濃度になるように添加し、表1の基準に従って官能評価を実施した。
結果、表3の通り、L-アスコルビン酸の飲用時濃度が0.25~1.0%(クエン酸酸度0.09%以上)において、喉のイガイガ感、収斂味といったL-アスコルビン酸由来の不快味が確認できた。
【0035】
【表3】
【0036】
<試験例2> 砂糖配合した場合の香味評価
次にL-アスコルビン酸の飲用時濃度が1.0%(クエン酸酸度0.36%)になる様に調製した水溶液に、甘味度0~10.0となる様にグラニュー糖を添加した場合における官能評価を表1の基準に従って実施した。官能評価結果を表4に示す。また、これらにホトリエノールを添加して表1、2の基準に従ってマイルド感、不快感を評価した。
表4の通り、通常の液体及び粉末飲料における甘味度の範囲では、甘味(砂糖)を添加しただけでは、不快感(喉のイガイガ感や収斂味)は改善されないことが確認できた。甘味度10.0では、喉のイガイガ感や収斂味は感じにくくなるものの若干残り、また甘すぎるため飲料としては適さなかった。
比較例2-1~4にホトリエノール(1%ホトリエノール含有液体香料(エタノール溶液))を表4(試験例2-1~4)に示す濃度になるように添加したところ、ホトリエノール無添加のものより不快感が抑制でき、マイルド感が増すことがわかった。特に甘味度2~8の範囲においては、酸味の爽やかな香味はそのまま保持でき、酸味の香味を十分に感じられる飲料が得られた。なお、酸味のマイルド感は比較例2-1~5をそれぞれコントロールとして表2の基準に従って評価した。
【0037】
【表4】
【0038】
<試験例3>香気成分の種類による効果の確認
試験例2で香味の改善効果が確認されたホトリエノールが属するテルペン系香気成分として代表的なリナロール及びゲラニオールについて、それぞれマイルド感付与効果、不快感(喉のイガイガ感及び収斂味)抑制効果を比較評価した。
L-アスコルビン酸が飲用時濃度1.0%(クエン酸酸度0.36%)となる様に調製した水溶液に、飲用時の香気成分濃度が0.4ppmとなる様に1%ホトリエノール含有液体香料(エタノール溶液)、リナロール液体香料(東京化成工業株式会社製)、ゲラニオール液体香料(東京化成工業株式会社製)を40ppm添加し、表1、2の基準に従い官能評価を実施した。なお、マイルド感は香気成分を添加していない比較例3をコントロールとし評価した。結果を表5に示す。
その結果、表5の通り、添加した香気成分の内、ホトリエノールにおいて、L-アスコルビン酸由来の酸味をマイルドにする効果、不快感の抑制効果が他の香気成分より優れていることが確認できた。また、ホトリエノールと構造の近いリナロール、ゲラニオールについては、香りが前面に出ることで、飲料の香味が変化してしまうことが確認された。一方で、ホトリエノールを添加したものは、飲料自体の香味、ここでは酸味成分の爽快な香味は保持されたまま、不快感が抑制されマイルド感が付与された。すなわち、ホトリエノールに確認された本発明の効果はホトリエノールに特有のものであることが確認された。
【0039】
【表5】
【0040】
<試験例4> ホトリエノールの添加量
L-アスコルビン酸が飲用時濃度1.0%(クエン酸酸度0.36%)となる様に調製した水溶液に、飲用時のホトリエノール濃度が0.4~2.0ppmとなる様に1%ホトリエノール含有液体香料(エタノール溶液)を40~200ppm添加し、表2の基準に従って官能評価を実施した。マイルド感は、香気成分を添加していない比較例4をコントロールとして評価した。なお、不快感(喉のイガイガ感、収斂味)はコメントに記載した。
その結果、表6の通り、飲用時のホトリエノール濃度0.4~2.0ppmにおいて、L-アスコルビン酸由来の不快感の抑制効果、マイルド感の付与効果が確認できた。特に、ホトリエノール濃度が0.40~1.6ppmにおいては、ホトリエノールの香りが感じにくいため、飲料そのものの香味に影響を及ぼすことなくマイルド感が付与できることが確認できた。
【0041】
【表6】
【0042】
<試験例5> 各酸味成分(L-アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸)での効果確認
L-アスコルビン酸、クエン酸(扶桑化学工業株式会社製)、リンゴ酸(磐田化学工業株式会社製)、酒石酸(磐田化学工業株式会社製)を飲用時濃度が其々1.0%、0.36%、0.38%、0.43%(全て飲用時クエン酸酸度0.36%)となる様に添加した水溶液を調製し、飲用時のホトリエノール濃度が0.4ppmとなる様に1%ホトリエノール含有液体香料(エタノール溶液)を40ppm添加し、表2の基準に従って官能評価を実施した。
官能評価は、ホトリエノールを添加していない比較例5-1~4をコントロールとして評価した。なお、不快感(喉のイガイガ感、収斂味)はコメントに記載した。
その結果、表7の通り、ホトリエノールにはL-アスコルビン酸だけでなく、代表的な有機酸であるクエン酸・リンゴ酸・酒石酸のいずれに対しても、酸味をマイルドにする効果、不快感の抑制効果が確認できた。この結果より、本発明は有機酸全般の酸味に対して有効であることが確認された。
【0043】
【表7】
【0044】
<試験例6>クエン酸酸度0.1~0.4%におけるホトリエノールの効果確認
飲用時のクエン酸濃度が0.1~0.4%(クエン酸酸度0.1~0.4%)になる様に調製した水溶液に、飲用時のホトリエノール濃度が0.4ppmとなる様に1%ホトリエノール含有液体香料(エタノール溶液)を40ppm添加し、表2の基準に従って官能評価を実施した。
官能評価は、香気成分を添加していない比較例6-1~4をコントロールとして評価した。なお、不快感(喉のイガイガ感、収斂味)はコメントに記載した。
結果、表8通り、飲用時クエン酸濃度0.1~0.4%において、ホトリエノールによるクエン酸由来の酸味をマイルドにする効果が確認できた。
【0045】
【表8】
【0046】
<試験例7>甘味成分の影響
甘味成分を添加し、更に酸味を強くした場合における効果を検証するため、飲用時のクエン酸酸度が0.4~2.0%となる様にL-アスコルビン酸濃度を1.1~5.5%、クエン酸濃度を0.4~2.0%に調製した水溶液に、甘味度が表9~11に示す甘味度となる様にグラニュー糖および甘味料製剤(守田化学工業株式会社製「レバウディオ ACK350」(甘味度200、アセスルファムK 65%、ステビア抽出物 35%)、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製「サンスイート SA-5050」(甘味度200、アセスルファムK 45%、スクラロース 15%)を添加し、各水溶液に飲用時のホトリエノール濃度が0.4ppmとなる様に1%ホトリエノール含有液体香料(エタノール溶液)を40ppm添加し、表2の基準に従って官能評価を実施した。
官能評価は、ホトリエノールを添加していない比較例7-1~17をコントロールとして評価した。
その結果、表9~10の通り、甘味度2~8の範囲でクエン酸酸度0.4~2.0%のL-アスコルビン酸水溶液、また、クエン酸酸度0.4~2.0%のクエン酸水溶液において、ホトリエノールによる酸味をマイルドにする効果が確認できた。
また、表11の通り、甘味度6.0となる様に甘味料製剤を添加したクエン酸酸度0.36%のL-アスコルビン酸水溶液においても、同様の効果が確認できた。
【0047】
【表9】
【0048】
【表10】
【0049】
【表11】
【0050】
<試験例8> 果汁を添加した飲料の製造例
果汁を添加した場合における効果を検証するため、L-アスコルビン酸濃度を1.0%に調製した水溶液に、液体の濃縮レモン果汁(6倍濃縮)(株式会社果香製)、濃縮りんご果汁(andre社製)を飲用時果汁濃度が5.0%となる様に添加し、各水溶液に飲用時のホトリエノール濃度が0.4ppmとなる様に1%ホトリエノール含有液体香料(エタノール溶液)を40ppm添加し、表2の基準に従って官能評価を実施した。クエン酸酸度は飲用時の値を示す。
官能評価は、香気成分を添加していない比較例8-1~2をコントロールとして評価した。
結果、表12の通り、果汁添加時においてもホトリエノールによる酸味をマイルドにする効果が確認できた。また、ホトリエノールの添加によって、飲料自体の香味をそのまま保持したまま、マイルド感が付与されたことが確認できた。
【0051】
また、粉末飲料において果汁を添加した場合の効果を検証するため、L-アスコルビン酸濃度を1.0%に調製した水溶液に、グラニュー糖を飲用時濃度6.0%(甘味度6.0)となる様に加え、粉末レモン果汁(高砂香料工業株式会社製)、粉末アップル果汁(小川香料株式会社製)、粉末ピーチ果汁(コーケンフード&フレーバー株式会社製)を飲用時果汁濃度が0.1%となる様に添加し、ホトリエノール濃度が飲用時で0.13ppmとなる様にホトリエノール含有粉末香料(ホトリエノール含有量0.13%の香料組成物)を100ppm添加し、表1、2の基準に従って官能評価を実施した。マイルド感は香気成分を添加していない比較例8-3~5をコントロールとして評価とした。クエン酸酸度は飲用時の値を示す。
結果、表13の通り、果汁を添加した場合においてもホトリエノールは、L-アスコルビン酸由来の不快感を弱め、マイルド感を付与する効果が確認できた。
【0052】
【表12】
【0053】
【表13】
【0054】
〈試験例9〉粉末飲料の製造例
L-アスコルビン酸、砂糖を配合の粉末飲料(三井農林株式会社製C&レモン)にホトリエノール含有粉末香料(ホトリエノール含有量0.13%の香料組成物)を表14の配合量となるように混合し、粉末飲料を得た。官能評価は比較例9をコントロールとして、試験例8と同様に実施した。その結果、ホトリエノール0.07ppm以上で喉のイガイガ感、収斂味が弱まり、マイルド感が付与されることが確認できた。
【0055】
【表14】
【0056】
以上の結果より、本発明の方法によって、酸味成分配合飲料の香味改善効果が確認でき、飲料自体の香味を損なうことなく、不快感が抑制されマイルド感が付与された飲みやすい飲料が得られた。