(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097525
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】塗装鋼板の浸食深さの予測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213688
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】川原 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】真川 聖
(72)【発明者】
【氏名】谷口 よしの
(72)【発明者】
【氏名】上西 和樹
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050AA04
2G050BA02
2G050CA03
2G050DA02
2G050DA03
2G050EB07
2G050EC01
(57)【要約】
【課題】塗装鋼板の浸食深さを早い段階で把握することができる塗装鋼板の浸食深さの予測方法を提供する。
【解決手段】本発明の塗装鋼板の浸食深さの予測方法は、鋼板と上記鋼板の表面に設けられた塗膜とを備える塗装鋼板の浸食深さを予測する浸食深さの予測方法であって、上記塗装鋼板の腐食試験を開始する工程と、上記腐食試験の開始後に上記塗装鋼板が備える鋼板の錆発生を検知する工程と、上記塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板に対して上記腐食試験と同一条件の腐食試験を行う場合における上記同種の鋼板の浸食深さの実測値又は予測値を用いて、上記塗装鋼板が備える鋼板の上記錆発生以降の浸食深さを予測する工程と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と前記鋼板の表面に設けられた塗膜とを備える塗装鋼板の浸食深さを予測する浸食深さの予測方法であって、
前記塗装鋼板の腐食試験を開始する工程と、
前記腐食試験の開始後に前記塗装鋼板が備える鋼板の錆発生を検知する工程と、
前記塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板に対して前記腐食試験と同一条件の腐食試験を行う場合における前記同種の鋼板の浸食深さの実測値又は予測値を用いて、前記塗装鋼板が備える鋼板の前記錆発生以降の浸食深さを予測する工程と、を備えることを特徴とする塗装鋼板の浸食深さの予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板と上記鋼板の表面に設けられた塗膜とを備える塗装鋼板の浸食深さを予測する塗装鋼板の浸食深さの予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電着塗膜等の塗装が施された塗装鋼板の開発では、実際に自動車用外板として塗装鋼板を使用した場合を想定して、複合サイクル腐食試験、塩水噴霧試験、暴露試験などの腐食試験により、塗装鋼板の耐食性評価が行われている。
【0003】
塗装鋼板の耐食性評価方法としては、実際の自動車用外板の腐食との相関性を高くすることの目的として、種々の方法が使用されている。例えば、特許文献1には、自動車フードパネルに用いられる電着塗装を施した表面処理鋼板の耐食性評価方法であって、表面処理鋼板に張出し加工、ドロービード加工、平面摺動加工のいずれか1種類以上の加工を付与し、加工付与後の異種又は同種の表面処理鋼板を重ね合わせて鋼板合わせ部を形成し、次いで、鋼板合わせ部を形成した鋼板を試験片として腐食環境に供して耐食性を評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、塗装鋼板が備える鋼板の浸食は、電着塗膜等の塗膜による水分等の腐食因子の遮断や鋼板及び塗膜の密着などの複数の要因により影響を受けるので、予測が困難であると考えられていた。このため、従来の塗装鋼板の耐食性評価方法では、塗装鋼板に対して複合サイクル腐食試験などの腐食試験を長時間に亘り実施した上で、塗装鋼板の浸食深さを実測することにより、塗装鋼板の耐食性を評価していた。これに対して、塗装鋼板の開発プロセスにおいては、より早い段階で塗装鋼板の浸食深さを把握することが求められていた。
【0006】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、塗装鋼板の浸食深さを早い段階で把握することができる塗装鋼板の浸食深さの予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、塗装鋼板に対して腐食試験を行う場合における塗装鋼板の腐食プロセスが、塗膜による腐食因子の遮断や塗膜の密着などによる鋼板の防食作用が維持されるプロセスと、塗装鋼板が備える鋼板の赤錆発生以降の浸食進行プロセスとに分けられることに着眼して鋭意研究を進めた。その結果、塗装鋼板に対して腐食試験を行う場合における鋼板の錆発生以降の浸食が、塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板に対して同一条件の腐食試験を行う場合における鋼板の浸食よりも一定割合遅れて進行することを見出した。そして、本発明者らは、このような知見に基づいて、本発明の塗装鋼板の浸食深さの予測方法を完成させた。
【0008】
本発明の塗装鋼板の浸食深さの予測方法は、鋼板と上記鋼板の表面に設けられた塗膜とを備える塗装鋼板の浸食深さを予測する浸食深さの予測方法であって、上記塗装鋼板の腐食試験を開始する工程と、上記腐食試験の開始後に上記塗装鋼板が備える鋼板の錆発生を検知する工程と、上記塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板に対して上記腐食試験と同一条件の腐食試験を行う場合における上記同種の鋼板の浸食深さの実測値又は予測値を用いて、上記塗装鋼板が備える鋼板の上記錆発生以降の浸食深さを予測する工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塗装鋼板の浸食深さを早い段階で把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法の手順のフローチャート(左側)、並びに第1実施形態に係る予測方法で用いる鋼板の最大浸食深さの予測式の取得方法の手順のフローチャート(右側)を示す図である。
【
図2】(a)は、第1実施形態に係る予測方法で浸食深さを予測する対象となる塗装鋼板の要部を示す概略断面図であり、(b)は、(a)に示す塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板の要部を示す概略断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る予測方法で用いる塗装鋼板の浸食深さの予測式の取得方法を説明する図である。
【
図4】第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法を説明する図である。
【
図5】第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法における鋼板の赤錆発生を検知する工程を説明する図である。
【
図6】第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法及び予測式の取得方法を実行するシステムの構成を模式的に示す図である。
【
図7】従来の塗装鋼板の耐食性評価方法における複合サイクル腐食試験を説明する図である。
【
図8】第2実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法の手順のフローチャートを示す図である。
【
図9】(a)は、参考例1~10の塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板の複合サイクル腐食試験でのサイクルの実施回数及び鋼板の最大浸食深さの関係を示すグラフであり、(b)は、参考例1~10の塗装鋼板の複合サイクル腐食試験での赤錆発生以降のサイクルの実施回数及び鋼板の最大浸食深さの関係を示すグラフであり、(c)は、(b)のグラフ及び予測のグラフを一緒に示すものである。
【
図10】(a)は、実施例1の塗装鋼板の複合サイクル腐食試験におけるサイクルの実施回数及び鋼板の最大浸食深さ(実測値)の関係をプロットするとともに、実施例1の塗装鋼板が備える鋼板の最大浸食深さの予測式のグラフを示したものである。(b)~(d)は、実施例2~4の塗装鋼板についての同様のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の塗装鋼板の浸食深さの予測方法に係る実施形態について説明する。最初に、実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法の概略について、第1及び第2実施形態を例示して説明する。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法の手順のフローチャート(左側)、並びに第1実施形態に係る予測方法で用いる鋼板の最大浸食深さの予測式の取得方法の手順のフローチャート(右側)を示す図である。
図2(a)は、第1実施形態に係る予測方法で浸食深さを予測する対象となる塗装鋼板の要部を示す概略断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示す塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板の要部を示す概略断面図である。
図3は、第1実施形態に係る予測方法で用いる塗装鋼板の浸食深さの予測式の取得方法を説明する図である。
図4は、第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法を説明する図である。
図5は、第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法における鋼板の赤錆発生を検知する工程を説明する図である。
図6は、第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法及び予測式の取得方法を実行するシステムの構成を模式的に示す図である。
図7は、従来の塗装鋼板の耐食性評価方法における複合サイクル腐食試験を説明する図である。
【0013】
図2(a)に示すように、第1実施形態で浸食深さを予測する対象となる塗装鋼板1は、鋼板2Aに表面2Asに亜鉛保護膜2Bが設けられた亜鉛めっき鋼板2と、亜鉛めっき鋼板2の表面2s(亜鉛保護膜2Bの表面2Bs)に設けられた電着塗膜4とを備えている。鋼板2Aの初期の厚さは0.8mmとなっている。
【0014】
第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法では、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験(CCT)で所定回数のサイクルを実施する場合における塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さを予測する。複合サイクル腐食試験は、JASO M609に準拠する腐食試験であり、評価対象物に対して腐食を促進する処理のサイクルを繰り返し実施することにより、評価対象物の腐食を評価する試験である。複合サイクル腐食試験の各サイクルは、塩水噴霧工程、乾燥工程、及び湿潤工程という3つの工程からなる。
【0015】
従来の塗装鋼板の耐食性評価方法において、塗装鋼板1に対して複合サイクル腐食試験を行う場合には、
図7に示すように、例えば、120回又は240回といった規定回数のサイクルを実施し、実施後の鋼板2Aの最大浸食深さを実際に測定していた。そして、実際に測定された最大浸食深さが鋼板2Aの初期の厚さの一定の割合(例えば、80%等)以下であるか否かに応じて、塗装鋼板の耐食性の合否を判定していた。このため、塗装鋼板の耐食性の合否の判明まで時間がかかり、以降のスケジュールに影響を与えていた。
【0016】
これに対して、本発明者らは、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験での腐食プロセスの具体的な内容に着眼した。具体的には、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験での腐食プロセスでは、
図7に示すように、電着塗膜4による塩水中の水分等の腐食因子の遮断や電着塗膜4の密着により鋼板2Aの浸食が回避される段階、並びに亜鉛保護膜2Bの犠牲防食により鋼板2Aの浸食が回避される段階を経て、電着塗膜4の劣化及び亜鉛保護膜2Bの犠牲防食に伴う白錆発生が起こる。この結果、腐食因子が鋼板2Aまで到達することで、鋼板2Aの腐食が開始し、鋼板2Aに赤錆が発生し始める。そして、赤錆発生以降も、鋼板2Aの浸食が進行し、最終的には鋼板2Aに浸食による穴が発生する。本発明者らは、このような塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験での腐食プロセスが、電着塗膜4による腐食因子の遮断や電着塗膜4の密着並びに亜鉛保護膜2Bの犠牲防食による防食作用が維持されるプロセスと、鋼板2Aの赤錆発生以降の浸食進行プロセスとに分けられることに着眼し、鋭意研究を進めた。これにより、本発明者らは、塗装鋼板1に対して複合サイクル腐食試験を行う場合における鋼板2Aの赤錆発生以降の浸食が、塗装鋼板1が備える鋼板2Aと同種の単体で存在する
図2(b)に示す鋼板12Aに対して同一条件の複合サイクル腐食試験を行う場合における鋼板12Aの浸食の0.2倍のペースで進行することを見出した。さらに、鋼板の複合サイクル腐食試験におけるサイクルの実施回数及び最大浸食深さの関係をシグモイド関数で近似して予測できることを見出した。第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法では、これらの知見に基づいて、塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さの予測式を予め取得しておく。そして、予測式を用いて塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さを予測する。
【0017】
(鋼板の最大浸食深さの予測式の取得方法)
ここで、
図1及び
図3を参照しながら、塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さの予測式の取得方法の手順を説明する。なお、予測式の取得方法における各処理は、
図6に示すシステム20における処理装置21、記憶装置22、入力装置23、及び表示装置24等を使用して行う。
【0018】
塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さの予測式の取得方法では、まず、
図1の右側のフローチャート及び
図3に示すように、塗装鋼板1が備える鋼板2Aと同種の単体で存在する鋼板12Aを準備した上で、CCT試験機(図示せず)を使用し、同種の鋼板12Aに対して複合サイクル腐食試験を行う(同種の鋼板の腐食試験工程)。同種の鋼板12Aは、初期の厚さも塗装鋼板1の鋼板2Aと同じ0.8mmとなっている。
【0019】
同種の鋼板の腐食試験工程では、複合サイクル腐食試験の条件を、サイクルの実施回数が調整される点を除いて塗装鋼板の浸食深さの予測方法で塗装鋼板1に対して行う複合サイクル腐食試験と同一条件にする。そして、同種の鋼板12Aの複合サイクル腐食試験では、各サイクルの実施後に鋼板12Aの最大浸食深さを測定する。鋼板12Aの最大浸食深さの測定には、例えば、株式会社キーエンス社製VR-5000等を使用する。これにより、鋼板12Aの複合サイクル腐食試験におけるサイクルの実施回数とその回数のサイクルを実施した時点の鋼板12Aの最大浸食深さ(実測値)との組み合わせを、予測式を取得するのに必要な数だけ求める。その上で、システム20の各装置を使用することにより、
図3のグラフに示すように、鋼板12Aの複合サイクル腐食試験におけるサイクルの実施回数及び最大浸食深さの複数の組み合わせを2次元座標系(x:サイクルの実施回数、y:最大浸食深さ)においてプロットする。
【0020】
次に、
図1の右側のフローチャートに示すように、上記の知見に基づいて、2次元座標系にプロットされた鋼板12Aの複合サイクル腐食試験におけるサイクルの実施回数及び最大浸食深さの関係から、塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さの予測式を取得する(予測式取得工程)。
【0021】
予測式取得工程では、まず、鋼板の複合サイクル腐食試験におけるサイクルの実施回数及び最大浸食深さの関係をシグモイド関数で近似できるという上記の知見に基づいて、システム20の各装置を使用することにより、
図3のグラフに示すように、2次元座標系にプロットされた鋼板12Aの複合サイクル腐食試験におけるサイクルの実施回数及び最大浸食深さの関係を下記のシグモイド関数の式(1)で近似する。具体的には、式(1)で鋼板12Aの複合サイクル腐食試験におけるサイクルの実施回数及び最大浸食深さの関係を近似できるように係数a~dの値を適宜設定する。これにより、式(1)を塗装鋼板1が備える鋼板2Aと同種の鋼板12Aの複合サイクル腐食試験で所定回数のサイクルを実施する場合における鋼板12Aの最大浸食深さを予測する予測式とする。
【0022】
【0023】
続いて、塗装鋼板1に対して複合サイクル腐食試験を行う場合における鋼板2Aの赤錆発生以降の浸食が、塗装鋼板1が備える鋼板2Aと同種の鋼板12Aに対して同一条件の複合サイクル腐食試験を行う場合における鋼板12Aの浸食の0.2倍のペースで進行するという上記の知見に基づいて、上記の予測式(1)から塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さの予測式を取得する。具体的には、塗装鋼板1が備える鋼板2Aと同種の鋼板12Aの複合サイクル腐食試験で鋼板12Aの浸食のペースが0.2倍に変化する場合におけるサイクルの実施回数及び最大浸食深さの関係を表す式として、上記の予測式(1)においてサイクルの実施回数xに係数として0.2を付加した下記の式(2)を取得する。そして、塗装鋼板1が備える鋼板2Aでは、同種の単体で存在する鋼板12Aとは異なり赤錆発生以降に浸食が進行することを算入するために、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験における鋼板2Aの赤錆発生時のサイクルの実施回数をx0として、下記の式(2)においてxを(x-x0)に置き換える。これにより、塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さの予測式として、下記の予測式(3)を取得する。そして、下記の予測式(3)を、記憶装置22に記憶させる。
【0024】
【0025】
【0026】
(塗装鋼板の浸食深さの予測方法)
続いて、
図1、
図4、及び
図5を参照しながら、第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法を説明する。なお、食深さの予測方法における各処理は、
図6に示すシステム20における処理装置21、記憶装置22、入力装置23、及び表示装置24等を使用して行う。
【0027】
第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法では、まず、
図1の左側のフローチャート及び
図4に示すように、鋼板2Aに表面2Asに亜鉛保護膜2Bが設けられた亜鉛めっき鋼板2と、亜鉛めっき鋼板2の表面2sに設けられた電着塗膜4とを備える塗装鋼板1を準備した上で、CCT試験機(図示せず)を使用し、塗装鋼板1に対して複合サイクル腐食試験を開始する(腐食試験開始工程)。この際の複合サイクル腐食試験の条件は、上記の通り、鋼板の最大浸食深さの予測式の取得方法において鋼板12Aに対して行う複合サイクル腐食試験と同一条件とする。
【0028】
次に、
図1の左側のフローチャート、
図4、及び
図5に示すように、塗装鋼板1が備える鋼板2Aの赤錆発生を検知する(錆発生検知工程)。この際には、複合サイクル腐食試験の各サイクルの実施後に、
図5に示すように光学顕微鏡を使用して塗装鋼板1の電着塗膜4の表面4sを目視で観察することにより、電着塗膜4の表面4sに浮き出る赤錆の存在の有無を確認する。そして、電着塗膜4の表面4sに浮き出る赤錆を視認できた時にそれにより鋼板2Aの赤錆発生を検知し、赤錆を視認できた時点でのサイクルの実施回数(例えば、60回)を、赤錆発生時のサイクルの実施回数として入力装置23を介してシステム20に入力し記憶装置22に記憶させる。塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験では、赤錆を視認できるまでサイクルを繰り返し、赤錆を視認できた時点で試験を終了する。すなわち、
図4に示すように、電着塗膜4による腐食因子の遮断や電着塗膜4の密着により鋼板2Aの浸食が回避される段階、並びに亜鉛保護膜2Bの犠牲防食により鋼板2Aの浸食が回避される段階を経て、腐食因子が鋼板2Aまで到達することで、鋼板2Aの腐食が開始し、鋼板2Aに赤錆が発生し始めた時点で試験を終了する。
【0029】
次に、
図1の左側のフローチャート及び
図4に示すように、予め取得された塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さの予測式及び赤錆発生時のサイクルの実施回数を用いて、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験で所定回数のサイクルを実施する場合における塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さを予測する(浸食深さ予測工程)。
【0030】
浸食深さ予測工程では、システム20の各装置を使用することにより、記憶装置22に記憶された塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さの予測式(上記の式(3))において、赤錆発生時のサイクルの実施回数x0に対し、記憶装置22に記憶された赤錆発生時のサイクルの実施回数(例えば、60回)を割り当てる。さらに、これにより得られる固有の予測式において、サイクルの実施回数xに鋼板2Aの最大浸食深さを予測したい所定回数(例えば、120回又は240回)を入力する。これにより、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験において所定回数のサイクルを実施する場合における塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さの予測値として、上記の固有の予測式のyの値を取得する。このようにして、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験で所定回数のサイクルを実施する場合における塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さを予測する。
【0031】
第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法によれば、予め取得された塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さの予測式を用いることにより、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験で所定回数のサイクルを実施する場合における塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さを、赤錆発生を検知した時点で予測できる。これにより、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験において、塗装鋼板1の耐食性の合否を、赤錆発生を検知した時点で判定できる。このため、より早い段階で、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験の合否に応じた対策を講じることができる。
【0032】
[第2実施形態]
図8は、第2実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法の手順のフローチャートを示す図である。第2実施形態に係る塗装鋼板1の浸食深さの予測方法における各処理は、
図6に示すシステム20における処理装置21、記憶装置22、入力装置23、及び表示装置24等を使用して行う。
【0033】
第2実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法では、第1実施形態に係る予測方法と同様に、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験(CCT)で所定回数のサイクルを実施する場合における塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さを予測する。そして、塗装鋼板1が備える鋼板2Aと同種の単体で存在する鋼板12Aの複合サイクル腐食試験での各サイクルの実施後の最大浸食深さの実測値を予め取得し、記憶装置22に記憶させておく。なお、同種の鋼板12Aの複合サイクル腐食試験の条件は、サイクルの実施回数が調整される点を除いて塗装鋼板の浸食深さの予測方法で塗装鋼板1に対して行う複合サイクル腐食試験と同一条件にする。そして、塗装鋼板の浸食深さの予測方法では、予め取得された鋼板12Aの最大浸食深さの実測値を用いて塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さを予測する。
【0034】
第2実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法では、まず、
図8に示すように、第1実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法と同様に、塗装鋼板1を準備した上で、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験を開始する(腐食試験開始工程)。
【0035】
次に、
図8に示すように、第1実施形態に係る予測方法と同様に、塗装鋼板1が備える鋼板2Aの赤錆発生を検知する(錆発生検知工程)。この際には、第1実施形態に係る予測方法と同様に、赤錆を視認できた時点でのサイクルの実施回数(例えば、60回)を、赤錆発生時のサイクルの実施回数として記憶装置22に記憶させる。
【0036】
次に、
図8に示すように、予め取得された鋼板12Aの最大浸食深さの実測値及び赤錆発生時のサイクルの実施回数を用いて、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験で所定回数のサイクルを実施する場合における塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さを予測する(浸食深さ予測工程)。
【0037】
浸食深さ予測工程では、塗装鋼板1に対して複合サイクル腐食試験を行う場合における鋼板2Aの赤錆発生以降の浸食が、塗装鋼板1が備える鋼板2Aと同種の鋼板12Aに対して同一条件の複合サイクル腐食試験を行う場合における鋼板12Aの浸食の0.2倍のペースで進行するという上記の知見に基づいて、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験において所定回数のサイクルを実施する場合における塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さの予測値を取得する。この場合には、記憶装置22に記憶された鋼板12Aの最大浸食深さの実測値(鋼板12Aの複合サイクル腐食試験での各サイクルの実施後の最大浸食深さの実測値)の中から適切な実測値を選択して予測値として取得する。具体的には、まず、塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さを予測したいサイクルの所定回数(例えば、120回又は240回)から記憶装置22に記憶された赤錆発生時のサイクルの実施回数(例えば、60回)を差し引いた回数をさらに0.2倍した回数(例えば、12回又は36回)を取得する。続いて、鋼板12Aの最大浸食深さの実測値(鋼板12Aの複合サイクル腐食試験での各サイクルの実施後の最大浸食深さの実測値)の中から、取得した回数のサイクル実施後の最大浸食深さの実測値を選択して予測値として取得する。このようにして、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験で所定回数のサイクルを実施する場合における塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さを予測する。
【0038】
第2実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法によれば、予め取得された鋼板12Aの最大浸食深さの実測値を用いることにより、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験で所定回数のサイクルを実施する場合における塗装鋼板1が備える鋼板2Aの最大浸食深さを、赤錆発生を検知した時点で予測できる。これにより、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験において、塗装鋼板1の耐食性の合否を、赤錆発生を検知した時点で判定できる。このため、より早い段階で、塗装鋼板1の複合サイクル腐食試験の合否に応じた対策を講じることができる。
【0039】
(作用効果)
よって、実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法によれば、第1及び第2実施形態のように、塗装鋼板の浸食深さを早い段階で把握することができる。
【0040】
続いて、実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法における各工程等の構成の詳細について、説明する。
【0041】
1.腐食試験開始工程
腐食試験開始工程においては、上記塗装鋼板の腐食試験を開始する。ここで、「腐食試験」とは、評価対象物の腐食を促進する条件下で評価対象物の腐食に対する耐性を評価するための試験のことを指す。腐食試験の方法としては、例えば、JASO M609に準拠する複合サイクル腐食試験(CCT)等が挙げられる。JASO M609に準拠する複合サイクル腐食試験では、評価対象物に対し、例えば、塩水噴霧工程(2時間、35±1℃、5%NaCl溶液)、乾燥工程(4時間、60±1℃)、及び湿潤工程(2時間、50±1℃、>95%RH)という3つの工程からなるサイクルを繰り返すことにより、評価対象物の腐食を評価する。
【0042】
塗装鋼板の種類としては、鋼板と鋼板の表面に設けられた塗膜とを備える塗装鋼板であれば特に限定されないが、例えば、鋼板に表面に亜鉛保護膜のめっき膜が設けられた亜鉛めっき鋼板と、亜鉛めっき鋼板の表面に設けられた塗膜とを備えるものの他、鋼板と鋼板の表面に直接設けられた塗膜とを備えるものなどが挙げられる。また、塗膜の種類としては、特に限定されないが、例えば、電着塗膜等が挙げられる。
【0043】
2.錆発生検知工程
錆発生検知工程においては、上記腐食試験の開始後に上記塗装鋼板が備える鋼板の錆発生を検知する。塗装鋼板が備える鋼板の錆発生を検知する方法としては、特に限定されず、腐食試験の方法に応じて適宜必要な方法が適用されるが、腐食試験の方法が複合サイクル腐食試験である場合には、複合サイクル腐食試験の各サイクルの実施後に、塗装鋼板の電着塗膜の表面を目視で観察することにより、鋼板の錆発生を検知する方法などが挙げられる。
【0044】
3.浸食深さ予測工程
浸食深さ予測工程においては、上記塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板に対して上記腐食試験と同一条件の腐食試験を行う場合における上記同種の鋼板の浸食深さの実測値又は予測値を用いて、上記塗装鋼板が備える鋼板の上記錆発生以降の浸食深さを予測する。
【0045】
塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板の浸食深さの実測値を用いて、塗装鋼板が備える鋼板の錆発生以降の浸食深さを予測する方法としては、特に限定されないが、腐食試験の方法が複合サイクル腐食試験である場合には、例えば、塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板の複合サイクル腐食試験での各サイクルの実施後の最大浸食深さの実測値を用いて、塗装鋼板が備える鋼板の錆発生以降の浸食深さを予測する方法などが挙げられる。
【0046】
塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板の浸食深さの予測値を用いて、塗装鋼板が備える鋼板の錆発生以降の浸食深さを予測する方法としては、特に限定されないが、腐食試験の方法が複合サイクル腐食試験である場合には、例えば、塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板の複合サイクル腐食試験で所定回数のサイクルを実施する場合における鋼板の最大浸食深さを予測する予測式を用いて、塗装鋼板が備える鋼板の錆発生以降の浸食深さを予測する方法などが挙げられる。
【0047】
塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板の複合サイクル腐食試験で所定回数のサイクルを実施する場合における鋼板の最大浸食深さを予測する予測式としては、例えば、上記の式(1)が挙げられる。そして、塗装鋼板の複合サイクル腐食試験で所定回数のサイクルを実施する場合における塗装鋼板が備える鋼板の最大浸食深さを予測する予測式としては、例えば、上記の式(3)でよいが、上記の式(3)を一般化した下記の式(4)を用いることができる。
【0048】
【0049】
例えば、塗装鋼板に対して腐食試験を行う場合における鋼板の錆発生以降の浸食が、塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板に対して同一条件の腐食試験を行う場合における鋼板の浸食の0.5倍のペースで進行する場合には、式(4)においてtは0.5となる。第1実施形態の場合には、式(4)においてtは0.2となり、の式(4)は式(3)となる。
【0050】
4.塗装鋼板の浸食深さの予測方法
塗装鋼板の浸食深さの予測方法は、鋼板と上記鋼板の表面に設けられた塗膜とを備える塗装鋼板の浸食深さを予測する浸食深さの予測方法であって、腐食試験開始工程と、錆発生検知工程と、浸食深さ予測工程とを備える。
【実施例0051】
以下、参考例及び実施例を挙げて、実施形態に係る塗装鋼板の浸食深さの予測方法についてさらに説明する。
【0052】
[参考例]
参考例1~10の塗装鋼板に対して所定条件の複合サイクル腐食試験を行った。参考例1~10の塗装鋼板は、同一仕様の塗装鋼板であって、鋼板(厚さ:0.8mm)に表面に亜鉛保護膜が設けられた亜鉛めっき鋼板と、亜鉛めっき鋼板の表面に設けられた電着塗膜とを備えるものである。さらに、参考例1~10の塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板に対して塗装鋼板の試験と同一条件の複合サイクル腐食試験を行った。同種の鋼板は、塗装鋼板が備える鋼板と同種かつ同じ厚さの単体で存在する鋼板である。
【0053】
図9(a)は、参考例1~10の塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板の複合サイクル腐食試験でのサイクルの実施回数及び鋼板の最大浸食深さの関係を示すグラフであり、
図9(b)は、参考例1~10の塗装鋼板の複合サイクル腐食試験での赤錆発生以降のサイクルの実施回数及び鋼板の最大浸食深さの関係を示すグラフであり、
図9(c)は、
図9(b)のグラフ及び予測のグラフを一緒に示すものである。
図9(c)に示す予測のグラフは、
図9(a)に示す塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板の複合サイクル腐食試験でのグラフについてサイクルの実施回数を5倍にして示したものである。
【0054】
図9(c)において、
図9(b)のグラフに対して予測のグラフが重なったことから、塗装鋼板の複合サイクル腐食試験での赤錆発生以降の鋼板の浸食が、塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板の複合サイクル腐食試験での鋼板の浸食の0.2倍のペースで進行することがわかる。
【0055】
[実施例]
実施例1~4の塗装鋼板に対して所定条件の複合サイクル腐食試験を行った。実施例1~4の塗装鋼板は、同一仕様の塗装鋼板であって、鋼板(厚さ:0.8mm)に表面に亜鉛保護膜が設けられた亜鉛めっき鋼板と、亜鉛めっき鋼板の表面に設けられた電着塗膜とを備えるものである。さらに、実施例1~4の塗装鋼板が備える鋼板と同種の鋼板に対して実施例1~4の塗装鋼板の試験と同一条件の複合サイクル腐食試験を行った。同種の鋼板は、塗装鋼板が備える鋼板と同種かつ同じ厚さの単体で存在する鋼板である。そして、同種の鋼板の複合サイクル腐食試験におけるサイクルの実施回数及び最大浸食深さ(実測値)の複数の組み合わせを用いて、第1実施形態と同様の方法により、実施例1~4の塗装鋼板が備える鋼板の最大浸食深さの予測式(上記の式(3)のx0に赤錆発生時のサイクルの実施回数を割り当てたもの)を取得した。
【0056】
図10(a)は、実施例1の塗装鋼板の複合サイクル腐食試験におけるサイクルの実施回数及び鋼板の最大浸食深さ(実測値)の関係をプロットするとともに、実施例1の塗装鋼板が備える鋼板の最大浸食深さの予測式のグラフを示したものである。
図10(b)~
図10(d)は、実施例2~4の塗装鋼板についての同様のグラフである。
【0057】
図10(a)~
図10(d)に示すように、実施例1~4のいずれにおいても、塗装鋼板の複合サイクル腐食試験における鋼板の最大浸食深さ(実測値)のプロットが、予測式のグラフに重なる結果となった。
【0058】
以上、本発明に係る実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。