(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097543
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】オーバーラップ部を有するプリフォームおよび成型体
(51)【国際特許分類】
B29C 70/68 20060101AFI20230703BHJP
B32B 3/28 20060101ALI20230703BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20230703BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20230703BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20230703BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
B29C70/68
B32B3/28 C
B32B5/28 A
B29C70/42
B29C70/16
B29C43/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213723
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 亘
(72)【発明者】
【氏名】三辻 祐樹
【テーマコード(参考)】
4F100
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F100AD11A
4F100AD11B
4F100AK53A
4F100AK53B
4F100BA02
4F100BA32A
4F100BA32B
4F100DB02A
4F100DB02B
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4F100DH02A
4F100DH02B
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4F100JB13A
4F100JB13B
4F100JK06
4F100JL11
4F204AA36
4F204AC03
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4F204AG03
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4F204FA01
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4F204FH19
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4F205AA36
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG03
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4F205HA08
4F205HA14
4F205HA23
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB11
4F205HG01
4F205HG06
4F205HK03
4F205HK04
4F205HK05
4F205HT16
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】 プリプレグを用いて曲面形状を有する成型品を得る場合であっても、成型時に繊維脱落および樹脂リッチなく、機械特性に優れた成型品を提供する。
【解決手段】 熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグを複数積層させたプリフォームであって、前記プリフォームは一方の表面である第1の面と他方の表面である第2の面とを有し、前記プリフォームの一辺に沿った切込により複数のプリフォーム片を設け、隣り合うプリフォーム片のうち、一方のプリフォーム片の第1の面の一部と他方のプリフォーム片の第2の面の一部とを交互に接合させたオーバーラップ部を設けたプリフォームである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグからなるプリフォームであって、前記プリフォームは一方の表面である第1の面と他方の表面である第2の面とを有し、前記プリフォームの一辺に沿った切込により複数のプリフォーム片を設け、隣り合うプリフォーム片のうち、一方のプリフォーム片の第1の面の一部と他方のプリフォーム片の第2の面の一部とを交互に接合させたオーバーラップ部を設けたプリフォーム。
【請求項2】
請求項1に記載のプリフォームであって、前記プリプレグを構成する強化繊維が切込により分断された切込プリプレグを含むプリフォーム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプリフォームであって、前記プリフォーム片の端部がプリフォーム片厚み方向に対して傾斜を有するプリフォーム。
【請求項4】
請求項1~3に記載のプリフォームであって、曲面形状を有するプリフォーム。
【請求項5】
請求項1~4に記載のプリフォームであって、積層したプリプレグの表面タック力[N]が5N以上のプリフォーム。
【請求項6】
熱硬化性樹脂と切込より分断された強化繊維から成るプリプレグを複数積層させたプリフォームの製造方法であって、少なくとも下記(1)~(3)の工程を有するプリフォームの製造方法。
(1)プリプレグを積層する積層工程
(2)積層して得られたプリフォームの一辺に沿って切込を設け複数のプリフォーム片を得る切断工程
(3)隣り合うプリフォーム片の一方の第1の面の一部と他方の第2の面の一部とを交互に接合させるオーバーラップ工程。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載のプリフォーム、または請求項6に記載のプリフォームの製造方法により得られたプリフォームを治具に沿わせ、オートクレーブ成型した成型品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維を積層したプリフォームおよびその成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維等を強化繊維として用いた強化繊維プリプレグは、その高い比強度・比弾性率を生かして、航空機や自動車等の構造材料、スポーツ用品あるいは一般産業用途の素材として利用されている。特に航空機産業においては燃料節約及び操業コストの削減を目的に、幅広く利用されている。航空機部材として、一般的に航空機胴体に合わせた曲面を有するとともに桁材や外板を接合するための複雑形状を有することが多い。代表的な成型方法としてはシート状のドライ基材を積層した後に熱硬化性樹脂を含浸させて加熱硬化するRTM成型や真空引きを行って強化繊維に樹脂を含浸させるVaRTM成型、予め熱硬化性樹脂を含浸させて、真空引きを行ってオートクレーブで加熱する成型方法がある。
【0003】
強化繊維プリプレグから曲面形状を有する形状、例えばT型やU型、V型もしくはパイ(π)型等を有する複雑形状に賦形もしくは成型する場合、強化繊維が伸縮しないため、皺や繊維の座屈および蛇行の発生に繋がる。特に分厚い形状や2つの平面以上から成る形状の場合、中立軸からの距離が大きくなり、周長差が発生し、前述したような皺や繊維蛇行や座屈が発生する。そこで、賦形時に所望の曲率となるように、切り欠きを施した基材で賦形する方法が提案されている(例えば特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013-510740号公報
【特許文献2】特許第6719495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるプリフォームは、所望の曲率に応じて予め計算された、特定の大きさのダーツと呼ばれる切り欠きを施して賦形することにより、曲率を設けている。そのため、曲率によって、切り欠き量を変えなければならず、生産の汎用性が低い。また、切り欠き部により基材が分断されているため、賦形あるいは成型時に基材が動いて、基材が欠落するリスクがあった。
【0006】
また、特許文献2に開示されるプリフォームは、上記の切り欠き部の基材の欠落を防止するために、基材同士をオーバーラップさせることを提案しているが、依然として、曲率や積層構成に応じて切込量や基材の幅を調節する必要があり、生産の汎用性に課題があった。また、オーバーラップ部のような肉厚が急激に変化する段差を有すると、基材が成型型やバギングフィルムに沿いづらく、成型時に樹脂リッチとなり、機械特性の低下を招くものであった。
【0007】
そこで本発明の課題は、機械特性を極端に下げることなく、汎用的な曲率で成型できるオーバーラップ部を設けたプリフォームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明のプリフォームは以下の構成を採用する。すなわち、熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグからなるプリフォームであって、前記プリフォームは一方の表面である第1の面と他方の表面である第2の面とを有し、前記プリフォームの一辺に沿った切込により複数のプリフォーム片を設け、隣り合うプリフォーム片のうち、一方のプリフォーム片の第1の面の一部と他方のプリフォーム片の第2の面の一部とを交互に接合させたオーバーラップ部を設けたプリフォームである。
【0009】
本発明のプリフォームの好ましい態様によれば、プリプレグを構成する強化繊維が切込により分断された切込プリプレグが好ましい。
【0010】
本発明のプリフォームの好ましい態様によれば、プリフォーム片の端部がプリフォーム厚み方向に対して傾斜を有することが好ましい。
【0011】
本発明のプリフォームの好ましい態様によれば、曲面形状を有する。
【0012】
本発明のプリフォームの好ましい態様によれば、積層したプリプレグの表面タック力[N]が5N以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、賦形時の皺を抑制しながら、成型後の機械的特性を維持しつつ、汎用的に曲率を調整できるプリフォームを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施態様に係るプリフォームの概略図であり、(a)長手方向における断面がL字形状であるプリフォーム、(b)長手方向における断面がU字形状であるプリフォーム、をそれぞれ示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施態様に係るプリフォームの図であり、(a)切込111を入れたストレート形状のプリフォームの斜視図、(b)前記切込をオーバーラップさせ、プリフォーム長手方向に撓むように曲げた形状のプリフォームの斜視図、(c)前記の曲げたプリフォーム脚部のオーバーラップの上面図、である。
【
図3】本発明の一実施態様に係るプリフォームの図であり、(a)切込112ストレート形状のプリフォームの斜視図、(b)前記切込をオーバーラップさせ、プリフォーム長手方向に撓むように曲げた形状のプリフォームの斜視図、(c)前記の曲げたプリフォーム脚部のオーバーラップの上面図、である。
【
図4】本発明の一実施態様に係るプリフォームの図であり、(a)切込111ストレート形状のプリフォームの斜視図、(b)前記切込を捻じってオーバーラップさせ、プリフォーム長手方向に撓むように曲げた形状のプリフォームの斜視図、(c)前記の曲げたプリフォーム脚部のオーバーラップの上面図、である。
【
図5】本発明の一実施態様に係るプリフォームの図であり、(a)切込114ストレート形状のプリフォームの斜視図、(b)前記切込を捻じってオーバーラップさせ、プリフォーム長手方向に撓むように曲げた形状のプリフォームの斜視図、(c)前記の曲げたプリフォーム脚部のオーバーラップの上面図、である。
【
図6】本発明の一実施態様に係る、成型後のプリフォームの図であり、(a)前記切込を捻じってオーバーラップさせたプリフォームを、オートクレーブ成型して得られた成型品の脚部の上面図、(b)捻じらずにオーバーラップさせたプリフォームを、オートクレーブ成型して得られた成型品の脚部の上面図、である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す実施態様は、あくまで本発明の好ましい実施の形態の例示であって、本発明は、これら実施態様に限定されるものではない。なお、本発明における「切込」は強化繊維を直線上に分断されているもので、プリフォーム自体は失われていない。「切り欠き」はプリフォームの一部を矩形型に切り取ったものである。
【0016】
本発明のプリフォームは
図1に示すとおり、一方の表面である第1の面と他方の表面である第2の面とを有し、プリフォームの一辺に沿った切込により複数のプリフォーム片を設け、隣り合うプリフォーム片のうち、一方のプリフォーム片の第1の面の一部と他方のプリフォーム片の第2の面の一部とを交互に接合させたオーバーラップ部を設けたものである。プリプレグをU字やL字等の屈曲部を有する形状に賦形した後に、オーバーラップを形成しながら曲面状に曲げることで周長差を解消することができるものである。
【0017】
次に、本発明の実施形態の詳細を説明する。
【0018】
[強化繊維]
プリプレグを構成する強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維、天然繊維、および鉱物繊維などを使用することができ、これらは1種または2種以上を併用することができる。中でも、比強度と比剛性が高く軽量化効果の観点から、PAN系、ピッチ系およびレーヨン系などの炭素繊維が好ましく用いられる。また、得られる成型品の導電性を高めるという観点から、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0019】
プリプレグ内の強化繊維は、例えば、連続繊維を用いることができる。強化繊維として連続繊維を用いたプリプレグによるプリフォームは、その成型品が負荷にさらされたときに繊維が持つ強度を利用しやすいため、高強度である構成として例示することができる。連続繊維を用いたプリプレグとしては、その連続繊維が同じ方向に並んだ一方向プリプレグや、連続繊維が織られた形態の織物プリプレグ、もしくは連続繊維が編まれたブレーディングに樹脂を含浸した構成を例示することができる。
【0020】
[熱硬化性樹脂]
プリプレグに使用される熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール、ユリア・メラミン、マレイミドおよびポリイミド等の樹脂、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂が挙げられる。中でも、得られる成型品の力学特性の観点からエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0021】
[プリプレグ]
本発明で使用されるプリプレグは、強化繊維と熱硬化性樹脂から構成され、プリプレグ表面は熱硬化樹脂によるタックが発現していることが好ましい。オーバーラップ部をプリプレグのタックで仮留めでき、成型までの段階でオーバーラップ部が崩れないようにハンドリングするためである。タック値の好ましい範囲としては4.9N(0.5kgf)以上19.6N(2.0kgf)以下で、タックが低すぎると、オーバーラップ部が外れて成型時に欠落しやすくなり、タック値が高すぎると、賦形時のハンドリング性が悪化し皺発生の原因となる。タック値はタックテスター(例えば、EMX-1000N:株式会社イマダ製)を用い、18×18mm2のプリプレグ同士を4.9N(0.5kgf)の荷重で1秒間圧着し、30m/minの速度にて剥離し、剥がれる際の抵抗力を測定することで求めることができる。プリプレグの表面を外気から遮断するためフィルム状のもので覆う場合、そのカバーフィルムを剥離した直後のタック値である。
【0022】
強化繊維として連続繊維を用いたプリプレグにおいては、この連続繊維を横切るように複数の切込をいれることも好ましい(以下、このようなプリプレグを、切込プリプレグという)。機械特性の観点からは、一方向プリプレグに切り込みをいれ、切込プリプレグとして用いることがより好ましい。
【0023】
切込プリプレグを用いると、切込挿入箇所に開口、ずれが生じやすくなり、プリプレグの強化繊維方向への伸張性が向上する。また、繊維が分断されることで賦形後のスプリングバックも抑制される。オートクレーブ成型時も流動で切込挿入箇所が開放して強化繊維の繊維束同士が離反することで、プリプレグとして柔軟性を示すようになり、流動性が高まる。この結果、賦形型やバグフィルムへの追従性が高まり、樹脂リッチ部の形成を抑制することができる。
【0024】
切込によって切込された強化繊維の長さは、繊維の流動性および成型時の機械特性の維持の観点から、好ましくは3mm以上100mm以下であり、より好ましくは5mm以上75mm以下であり、さらに好ましくは10mm以上50mm以下である。切込の具体的な形態としては、例えば再公表WO2017-159567号公報に記載された形態とすることができる。
【0025】
プリプレグとして好ましい強化繊維の体積含有率は、好ましくは40%以上80%未満であり、より好ましくは45%以上75%未満であり、さらに好ましくは50%以上70%未満である。上述したように、一方向プリプレグや切込プリプレグは、強化繊維の充填効率に優れることから、強化繊維の補強効果を引き出すのに好適であり、成型品の剛性を改善する上で効果的である。
【0026】
プリプレグに含まれる強化繊維の量は、シート状物とした場合における強化繊維の目付け量として、50g/m2以上1000g/m2未満であることが好ましい。目付けを上記好ましい範囲の下限値以上とすることにより繊維強化樹脂おいて弱部となる空孔を排除することができるようになる。また、目付けが上記好ましい範囲の上限未満であれば、成型の予熱において内部へ熱を均一に伝えることができるようになる。目付けは、構造としての均一性と伝熱の均一性を両立させる上で、より好ましくは100g/m2以上600g/m2未満であり、さらに好ましくは150g/m2以上400g/m2未満である。強化繊維の目付け量の測定は、強化繊維のシート状物から10cm角の領域を切り出し、その質量を測り、面積で除することで実施する。測定は強化繊維のシート状物の異なる部位について10回行い、その平均値を強化繊維の目付け量として採用する。
【0027】
[プリフォーム]
本発明の「プリフォーム」はプリプレグからなり、プリプレグを積層した積層基材をそのまま用いる以外にも、
図1に示すように、屈曲部を有し、複数の脚部および底部が存在してもよい。加熱された賦形型に沿わせて、賦形することで屈曲させ、脚部11と底部12を形成する。なお、本発明に係るプリフォームは、一方の表面を第1の面とし、他方の表面を第2の面とする。
【0028】
賦形方法は特に限定されず、積層プリプレグを加熱し、基材中の樹脂の粘度を10~500Pa・sに軟化させて賦形したものである。樹脂粘度が高過ぎるままだと、プリフォーム要素が硬過ぎて所望の形状まで変形させにくくなる。樹脂粘度が低くなり過ぎると、軟化により崩れて所望の形状に形成させにくくなる。また、樹脂の硬化が進むと、成型の際に型に沿わず成型不良が発生するおそれがある。なお、樹脂粘度はあらかじめプリフォームを構成する樹脂を昇温測定し、得られた樹脂粘度カーブから逆算し、第1の賦形型の加熱温度から設定した粘度である。プリプレグ中の樹脂の粘度カーブは、TAインスツルメンツ社製ARES-G2を用いて周波数3.14rad/sec、昇温速度1.7℃/minで測定して得られたものである。
【0029】
また、積層基材の最外層表面の離型カバーは剥がさずに担持したまま賦形することが好ましい。別の離型カバーを改めて被覆させると密着性が損なわれ、離型カバーと表面プリプレグとの間に隙間(浮き)が発生し、シワが発生し、表面品位が損なわれるおそれがある。
【0030】
賦形型は積層基材を引っ掛けるための溝や段差等の位置決め機構があることが賦形後のプリフォームの寸法精度の観点から好ましい。また、材質も特に限定されないが、プロフォーム要素前駆体への熱伝導性が高いことが好ましいため、例えばアルミニウム合金等や銅合金が挙げられ、治具内にヒーター機構や熱水の通水機構があることが好ましい。
【0031】
その後、冷却する際に、プリフォームがスプリングバックして、後述するプリフォーム片の位置関係が変化しないようにバギング処置を実施することが好ましい。バギング処置を実施すると、層間を密着できスプリングバックを抑制できる。
【0032】
プリフォーム曲面形状を有するプリフォームとしては、プリプレグ平面上に積層したものを、後から賦形もしくは曲げることで形成してもよく、最初から曲面形状治具に沿って賦形してもよい。
【0033】
[プリフォーム片の形成]
オーバーラップ部を形成するには、プリフォームの一辺に沿った切込により複数のプリフォーム片を設け、隣り合うプリフォーム片のうち、一方のプリフォーム片の第1の面の一部と他方のプリフォーム片の第2の面の一部とを交互に接合させることが重要である。プリフォームの一辺に沿った切込は、プリフォームの長手方向に一定間隔に切込を入れることが好ましい。切込を入れる方法は特に限定されず、超音波カッターやレーザー等の手法が挙げられる。このとき、離型カバーごと切込を入れることで、刃先への樹脂付着なく、プリフォーム切断面も良好に仕上げることができる。また、プリフォーム片を設ける位置は特に限定するものではないが、屈曲部を設けたプリフォームの場合、プリフォームの脚部にプリフォーム片を設けると、プリフォーム全体を曲げる自由度が増え、複雑形状を形成しやすくなる。
【0034】
[オーバーラップ]
前述のとおり、形成したプリフォーム片同士を重ねることをオーバーラップと称する。オーバーラップ部分の接着強度を上げるために、オーバーラップ部分の両側から治具で加熱することが好ましい。
【0035】
オーバーラップ方法は、前述のとおり、プリフォームの一辺に沿った切込により複数のプリフォーム片を設け、隣り合うプリフォーム片のうち、一方のプリフォーム片の第1の面の一部と他方のプリフォーム片の第2の面の一部とを交互に接合させたオーバーラップ部を設けることが重要である。具体的には、
図2に示すように、プリフォーム片を形成したプリフォームの一辺の上面視において、左右交互、すなわち、互い違いに並ぶように配置し、一方のプリフォーム片の第1の面の端部と他方のプリフォーム片の第2の面の端部とを接着することができる。このように接着すると、
図2(b)に示す上面視右側に凸状に湾曲する形状を形成するにあたり、周長差を解消させながらプリフォームを曲げることができ、さらに成形時にプリフォーム片同士の接着強度を向上させることができ、樹脂リッチ部も抑制できる。
【0036】
また、このオーバーラップ部の段差は
図3のオーバーラップ部1121のように、切込を入れるプリフォームの一辺の長手方向に対して直角以外の角度を持った傾斜であることが好ましい。
図3では、脚部11長手方向に対して角度をつけた切込112を設けており、切込角度の絶対値は切込を入れるプリフォームの一辺の長手方向に対して20度以上80度以下が好ましい。切込角度絶対値が小さいほど、オーバーラップ部の傾斜が緩やかになり、成型時のバギングフィルムや成型型に対して鈍角構造になり、樹脂リッチなく成型できる。逆に角度絶対値が小さ過ぎると、プリフォームがうまく切込めず、プリフォーム片の形状が崩れやすくなる。このとき、
図3のように長手方向に対して互い違いに切込112を入れることが好ましい。互い違いに設けない場合、成型時にバギングフィルムや成型型に対して鋭角構造が発生し、樹脂リッチとなるリスクが増すおそれがある。
【0037】
オーバーラップ部の段差の別の態様としては、
図4に示すように、プリフォーム片を形成したプリフォームの一辺の上面視において、プリフォーム片の端部の同じ側(
図4(b)ではプリフォーム片下端部の左側)に隣接するプリフォーム片をすだれ状に配置して、一方のプリフォーム片の第1の面の端部と他方のプリフォーム片の第2の面の端部とを接着することができる。
【0038】
最も好ましい態様としては、
図5に示すように、プリフォームの一辺に、等間隔に角度を付けた切込114を設ける態様である。このようなプリフォーム片を形成しておくと、プリフォームの脚部部分を脚部長手方向から捻じることで、プリフォーム片が自然と角度を付けた切込114に沿ってスライドし、すだれ状のオーバーラップ部を形成することができる。このように形成されたオーバーラップ部のプリフォーム片の第1の面および第2の面の両面を接着されることで、オーバーラップ部1141を形成することができる。片面のみのオーバーラップ1111もしくは1121と比較して、オーバーラップ部を強固に接着することができる。さらにプリフォーム片の肉厚変化域を抑えるために、オーバーラップ量を変えたくない場合でも前述した捻じり角度を調節することにより、同一のプリフォームでも任意の曲率に調節することができる。
【0039】
[曲げ賦形]
プリフォームを曲げる方法としては、加熱された、所望の曲率の曲面を有する治具にプリフォームの底部12を沿わせて賦形することができる。このとき、所望の曲率よりも大きな曲率の治具を用意し、曲率を段階的に変えながら賦形してもよい。
【実施例0040】
次に、実施例により本発明のプリフォームおよびその成型品について、さらに詳細に説明する。本発明で用いた評価方法は、次のとおりである。
【0041】
[プリプレグ]
プリプレグとして、トレカT800糸および3900系エポキシ樹脂を用いた一方向プリプレグを用いた。特性は次の通りである。
・炭素繊維密度:1.80g/cm3
・樹脂含有率:35%
・厚み:0.17mm
・離型カバー:裏面に厚み50μmの離型カバーを担持させたもの
・タック(プリプレグ両表面):5~17N
本発明のプリプレグにおける表面タック値は次のように測定した。
【0042】
温度24±2℃、湿度50±5%RHの測定環境下にて、15~30分間暴露した。その後、(株)東洋精機製作所製PICMAタックテスターIIを用い、18mm×18mmのカバーガラスを4Nの荷重で5秒間プリプレグに圧着させた。その後、30mm/分の速度にて引き剥がし、剥がれる際の抵抗力の最大値を測定して求めた。カバーガラスは、顕微鏡測定用のものを使用した。本実施例では、MICRO COVER GLASS 18mm×18mm、厚み:0.12~0.17mm(MATSUNAMI製)を使用した。
【0043】
[切込プリプレグ]
プリプレグを自動裁断機に通し、平均の切込長さ(強化繊維の繊維直交方向への投影長さ)が0.24mm、切込方向とプリプレグの強化繊維の主軸方向の成す角が14°の切込を挿入し、切込された強化繊維の平均長さが25mmの切込プリプレグを得た。なお、切込はプリプレグの厚み方向に貫通させた。
【0044】
[積層基材]
プリプレグを所望のサイズに裁断し、積層構成が[45/0/-45/90]sとなるように積層し、積層基材を作製した。[45/0/-45/90]sにおける各数字は、プリフォームの長手方向を0°方向とし、プリフォーム要素前駆体の長さ方向と強化繊維の主軸方向との成す角の大きさ(°)を表し、「s」とは、[ ]内の組合せを繰り返して積層したものと、この順序と逆順に積層したものとを準備し、これらを対称となるように積層した態様を示す。積層基材を得る際、最外層の表裏面のみに離型カバーを残すように、不要な離型カバーをプリプレグから剥がしながら積層した。
【0045】
[賦形]
加熱させた積層基材を、コーナー部を有する治具に沿わせて賦形した。治具は加熱と冷却で積層基材の屈曲させたい箇所に接する治具のコーナー部の曲率を分けて、加熱時の曲率は曲率半径8mmで、冷却時は曲率半径2mmの治具を用いて、バギング処置しながら冷却を実施した。治具の材質はアルミニウム合金製のものを用いた。このとき最外層の表裏面に離型カバーを残したまま賦形しプリフォームを得た。
【0046】
[プリフォーム片形成]
プリフォーム脚部はSUZUKI製SUW-30CD超音波カッターにより切込を入れた。
【0047】
[成型]
プリフォームはバギング処置した状態で、オートクレーブにより、高温高圧環境下で硬化させ、成型した。
【0048】
[成型品の樹脂リッチ量]
曲げ賦形後に得られたプリフォームを前記の曲率半径300mmまたは曲率半径600mmの曲率の型に沿わせた状態で、オートクレーブで成型し、水平面でカットし、断面を顕微鏡で観察した。樹脂リッチ部が成型品全体の5%以下であれば〇とした。顕微鏡はキーエンス製VHX-6000マイクロスコープを用いて、同軸落射法により繊維の無い部分を樹脂リッチ部とみなした。
【0049】
(実施例1)
切込プリプレグを80mm×300mmに裁断し、積層し、積層基材を作製した。得られた積層基材を65℃に加熱した賦形治具で賦形し、脚部40mm、底部40mmのL字形状の断面となるプリフォームを得た。得られたプリフォームの脚部上面からみて長手方向に対して垂直方向に、長手方向に50mm間隔で切込111を入れプリフォーム片を形成した。このプリフォームの脚部を2°捻じり、65℃に加熱された、曲率半径600mmの円弧型の治具上で曲げ、プリフォーム片の第1の面と第2の面とを交互に2mm重なり合うようにオーバーラップさせながら曲げ賦形した。そのまま、バギングフィルムで覆い、フィルム内を減圧処理したまま、オートクレーブ成型した。成型品を水平面でカットし、断面を顕微鏡で観察した。観察した画像から単位ユニット1131を矩形選択し、その中の樹脂リッチ部1133の割合を確認した結果、切込で分断された繊維が流動し、樹脂リッチ部は1.3%であったことから、〇とした。
【0050】
(実施例2)
切込プリプレグを90mm×300mmに裁断し、実施例1と同様に積層した。得られた積層基材を同様に賦形し、脚部40mm、底部10mmのU字形状の断面となるプリフォームを得た。得られたプリフォームの脚部上面からみて長手方向に対して角度が45度となるように傾斜のある切込114を長手方向に50mm間隔で入れプリフォーム片を形成した。実施例1と同様にプリフォーム片の第1の面と第2の面とを交互に2mm重なり合うようにオーバーラップさせながら曲げ賦形した。実施例1と同様にオートクレーブ成型した結果、樹脂リッチ部は0.8%であったことから、〇とした。
【0051】
(比較例1)
プリプレグを2つのL字用に80mm×300mm、に裁断し、実施例1と同様に積層した。得られた積層基材を同様に賦形し、脚部40mm、底部40mmのL字形状のプリフォームを得た。プリフォームの脚部上面からみて長手方向に対して垂直となるように切込111を長手方向に50mm間隔で入れプリフォーム片を形成した。プリフォーム片を
図2のようなオーバーラップを形成するように曲げ賦形し、そのまま成型した結果、
図6(b)のようにオーバーラップ部付け根の樹脂リッチ部が8.7%形成されたことから、×とした。
【0052】