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特開2023-97569天然ゴムラテックス、天然ゴム、およびこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097569
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】天然ゴムラテックス、天然ゴム、およびこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08C 1/04 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
C08C1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213764
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】梶田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】塩山 晋太朗
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】有村 昭二
(57)【要約】
【課題】 硬さなどの特性のばらつきが小さいゴム製品を製造することができる天然ゴムラテックス、天然ゴム、およびこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 天然ゴムの窒素含有量は0.3質量%以上0.6質量%以下、マグネシウム含有量は0質量%以上0.02質量%以下、カリウム含有量は0.1質量%以上0.3質量%以下である。天然ゴムの製造方法は、天然ゴムラテックスを、少なくとも窒素分、マグネシウムイオン、マグネシウム化合物、カリウムイオン、およびカリウム化合物を捕捉可能な処理剤に接触させる処理工程と、処理後のラテックスを乾燥する乾燥工程と、を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分中の窒素含有量が0.3質量%以上0.6質量%以下、マグネシウム含有量が0質量%以上0.02質量%以下、カリウム含有量が0.1質量%以上0.3質量%以下であることを特徴とする天然ゴムラテックス。
【請求項2】
窒素含有量が0.3質量%以上0.6質量%以下、マグネシウム含有量が0質量%以上0.02質量%以下、カリウム含有量が0.1質量%以上0.3質量%以下であることを特徴とする天然ゴム。
【請求項3】
請求項1に記載の天然ゴムラテックスの製造方法であって、
天然ゴムラテックスを、少なくとも窒素分、マグネシウムイオン、マグネシウム化合物、カリウムイオン、およびカリウム化合物を捕捉可能な処理剤に接触させる処理工程を有することを特徴とする天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項4】
前記処理剤は、吸着剤およびキレート剤から選ばれる一種以上を有する請求項3に記載の天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項5】
前記吸着剤は、有機イオン交換体、無機イオン交換体、合成吸着剤、およびタンパク質吸着剤から選ばれる一種以上であり、
前記キレート剤は、キレート樹脂およびキレート繊維から選ばれる一種以上である請求項4に記載の天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項6】
前記処理工程は、前記天然ゴムラテックスに前記処理剤を添加する工程であり、
該処理工程の後、該処理剤が添加されたラテックスをろ過して該処理剤をろ別する処理剤除去工程を有する請求項3ないし請求項5のいずれかに記載の天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項7】
前記処理工程の前に、前記天然ゴムラテックスにpH調整剤を添加して、該天然ゴムラテックスのpH値を9以上に調整するpH調整工程を有する請求項3ないし請求項6のいずれかに記載の天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項8】
請求項2に記載の天然ゴムの製造方法であって、
天然ゴムラテックスを、少なくとも窒素分、マグネシウムイオン、マグネシウム化合物、カリウムイオン、およびカリウム化合物を捕捉可能な処理剤に接触させる処理工程と、処理後のラテックスを乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする天然ゴムの製造方法。
【請求項9】
前記処理剤は、吸着剤およびキレート剤から選ばれる一種以上を有する請求項8に記載の天然ゴムの製造方法。
【請求項10】
前記吸着剤は、有機イオン交換体、無機イオン交換体、合成吸着剤、およびタンパク質吸着剤から選ばれる一種以上であり、
前記キレート剤は、キレート樹脂およびキレート繊維から選ばれる一種以上である請求項9に記載の天然ゴムの製造方法。
【請求項11】
前記処理工程は、前記天然ゴムラテックスに前記処理剤を添加する工程であり、
該処理工程の後、該処理剤が添加されたラテックスをろ過して該処理剤をろ別する処理剤除去工程を有し、
前記乾燥工程は、該処理剤除去工程で得られたろ液を乾燥する工程である請求項8ないし請求項10のいずれかに記載の天然ゴムの製造方法。
【請求項12】
前記処理工程の前に、前記天然ゴムラテックスにpH調整剤を添加して、該天然ゴムラテックスのpH値を9以上に調整するpH調整工程を有する請求項8ないし請求項11のいずれかに記載の天然ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非ゴム成分の含有量が調整された天然ゴムラテックス、天然ゴム、およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、引張り強さが大きく、振動による発熱が少ないなどの優れた性質を有しているため、タイヤ、防振ゴム、ベルトなどの様々なゴム製品に用いられる。天然ゴムには、ゴム成分の他に、タンパク質、脂質、金属分などの非ゴム成分が含まれており、当該非ゴム成分が、ゴム組成物の加工性や、製造されるゴム製品の特性に影響を及ぼすことが知られている。このため、ゴム製品に応じて所望の特性が得られるよう、当該特性に影響を及ぼす非ゴム成分を低減するための処理方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、耐熱老化性と低発熱性とが両立された天然ゴムを得ることを目的として、遠心分離などの機械的手段により天然ゴムラテックスからタンパク質を除去して、ゴム中の窒素含有量を0.1質量%を超えて0.4質量%以下にする方法が記載されている。特許文献2には、低粘度化して加工しやすい天然ゴムを得ることを目的として、天然ゴムラテックスに水溶性アンモニウム塩を添加して、カリウム、マグネシウムなどの金属分を金属塩として除去する方法が記載されている。特許文献3には、耐熱老化性が向上した天然ゴムを得ることを目的として、天然ゴムラテックスにキレート剤を添加して金属イオンを水相に移動させることにより、ゴム中のマンガンイオン濃度を1質量ppm以下、鉄イオン濃度を25質量ppm以下、銅イオン濃度を1質量ppm以下にする方法が記載されている。特許文献4には、損失正接tanδが低減された天然ゴムを得ることを目的として、天然ゴムラテックスをアルカリによりケン化処理した後、洗浄処理することにより、ゴム中のリン含有量を200ppm以下、ナトリウムとカリウムとの合計含有量を350ppm以下、窒素含有量を0.3質量%以下にする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-262973号公報
【特許文献2】特開2007-146114号公報
【特許文献3】特開2013-185095号公報
【特許文献4】特開2012-180530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
天然ゴムの成分には、天然物由来の大きなばらつきがある。本発明者の検討によると、非ゴム成分の含有量にばらつきがあると、製造されるゴム製品における特性のばらつきが大きいことが確認された。そして、非ゴム成分のなかでも、窒素、マグネシウム、カリウムの含有量のばらつきは、天然ゴムの硬さ、スコーチ性への影響が大きいことが確認された。天然ゴムの硬さ、スコーチ性のばらつきは、ゴム製品の特性のばらつきに直結するため、極力小さくすることが望ましい。例えば、防振ゴムにおいては、エンジンなどの重量物を支持する強度や、振動を吸収し抑制する防振性能が要求される。防振性能を示す特性の一つとして、動倍率がある。動倍率は、動的ばね定数と静的ばね定数との比(動的ばね定数(Kd)/静的ばね定数(Ks))であり、動倍率が小さいほど防振性能が高い。したがって、防振ゴムにおいては、硬さ、静的ばね定数などのばね特性が重要になる。
【0006】
しかしながら、従来の方法を用いても、非ゴム成分のうちの窒素、マグネシウム、カリウムの含有量を同時に所定の範囲に収めることは難しい。また、従来の方法には、以下のような問題がある。特許文献1に記載されている遠心分離法によると、濃縮を複数回行ったり、濃縮後の固形分を再度希釈する必要があるなど、工程が煩雑でコスト高になる。また、マグネシウムの含有量を低減させる条件で行うと、窒素、カリウムの含有量が少なくなりすぎる。特許文献2に記載されている水溶性アンモニウム塩添加法によると、処理後に沈殿物を除去し、遠心分離する必要があり、その際に収率が低下するおそれがある。特許文献3に記載されているキレート剤添加方法においては、天然ゴムラテックスにキレート剤を添加して、ゴム中の金属イオンを水相に移動させ、その状態でギ酸などを添加して凝固、洗浄、乾燥させて固形の天然ゴムを得ている。このため、天然ゴムラテックスはキレート剤を含んだ状態であり、得られた天然ゴムにキレート剤が残存するおそれがある。特許文献4に記載されているケン化処理によると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリを使用するため、ナトリウム、カリウムを残存させないよう、凝固させたゴムの丁寧な洗浄が必要になる。
【0007】
本開示は、このような実状に鑑みてなされたものであり、硬さなどの特性のばらつきが小さいゴム製品を製造することができる天然ゴムラテックス、天然ゴム、およびこれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本開示の天然ゴムラテックスは、固形分中の窒素含有量が0.3質量%以上0.6質量%以下、マグネシウム含有量が0質量%以上0.02質量%以下、カリウム含有量が0.1質量%以上0.3質量%以下であることを特徴とする。
【0009】
(2)本開示の天然ゴムは、窒素含有量が0.3質量%以上0.6質量%以下、マグネシウム含有量が0質量%以上0.02質量%以下、カリウム含有量が0.1質量%以上0.3質量%以下であることを特徴とする。
【0010】
(3)本開示の天然ゴムラテックスの製造方法は、上記(1)の構成の天然ゴムラテックスの製造方法であって、天然ゴムラテックスを、少なくとも窒素分、マグネシウムイオン、マグネシウム化合物、カリウムイオン、およびカリウム化合物を捕捉可能な処理剤に接触させる処理工程を有することを特徴とする。
【0011】
(4)本開示の天然ゴムの製造方法は、上記(2)の構成の天然ゴムの製造方法であって、天然ゴムラテックスを、少なくとも窒素分、マグネシウムイオン、マグネシウム化合物、カリウムイオン、およびカリウム化合物を捕捉可能な処理剤に接触させる処理工程と、処理後のラテックスを乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
(1)本開示の天然ゴムラテックスにおいては、固形分における窒素(N)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)の含有量が低減され、各々の含有量が所定の範囲に収まっている。このため、本開示の天然ゴムラテックスによると、N、Mg、Kが、各々、所定の範囲内の量の天然ゴムが得られる。そして、得られた天然ゴムを用いることにより、硬さ、スコーチ性などの特性が良好で、かつ特性のばらつきが小さいゴム製品を製造することができる。結果、ゴム製品の品質向上および品質均一化を図ることができる。
【0013】
(2)本開示の天然ゴムにおいては、N、Mg、Kの含有量が低減され、各々の含有量が所定の範囲に収まっている。このため、本開示の天然ゴムを用いることにより、硬さ、スコーチ性などの特性が良好で、かつ特性のばらつきが小さいゴム製品を製造することができる。結果、ゴム製品の品質向上および品質均一化を図ることができる。
【0014】
(3)本開示の天然ゴムラテックスの製造方法においては、天然ゴムラテックスを所定の処理剤に接触させることにより、ラテックス中の窒素分、マグネシウムイオン、マグネシウム化合物、カリウムイオン、およびカリウム化合物が処理剤に取り込まれる。これにより、固形分(ゴム分)におけるN、Mg、Kの含有量が所定の範囲に低減される。本開示の天然ゴムラテックスの製造方法によると、天然ゴムラテックスを所定の処理剤に接触させるという単純な方法により、固形分中のN、Mg、Kの含有量を低減し、かつそのばらつきを小さくすることができる。例えば、天然ゴムラテックスに処理剤を添加した場合でも、処理後のラテックスから処理剤を除去することにより、処理剤の影響を極力減らすことができる。
【0015】
(4)本開示の天然ゴムの製造方法においては、天然ゴムラテックスを所定の処理剤に接触させた後、処理後のラテックスを乾燥するという単純な方法により、N、Mg、Kの含有量が低減され、かつそのばらつきが小さい天然ゴムを、容易に製造することができる。また、本開示の天然ゴムの製造方法においては、処理後のラテックスに酸を添加するなどして凝固させる必要はない。例えば、天然ゴムラテックスに処理剤を添加した場合でも、処理後のラテックスから処理剤を除去することにより、得られる天然ゴム中に処理剤が残存するのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の天然ゴムラテックス、天然ゴム、およびこれらの製造方法の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0017】
<天然ゴムラテックス>
本開示の天然ゴムラテックスにおいては、後に製造方法を説明するように、原料の天然ゴムラテックスを所定の処理剤に接触させることにより、固形分における窒素、マグネシウム、カリウムの含有量が所定の範囲に収まっている。原料の天然ゴムラテックスとしては、タッピングにより採液されたフィールドラテックス、それにアンモニアを加えて処理されたラテックス(ハイアンモニアラテックス)などを用いればよい。天然ゴムラテックスの固形分(ゴム分)濃度は、特に限定されない。固形分濃度が低すぎると、乾燥して得られるゴムが少なくなり経済的ではない。反対に、固形分濃度が高すぎると、ラテックス中のゴム粒子同士の凝集が起きやすくなり安定しない。例えば、本開示の天然ゴムラテックスの固形分濃度は、10質量%以上60質量%以下であることが望ましい。
【0018】
本開示の天然ゴムラテックスにおける固形分中の窒素含有量は、0.3質量%以上0.6質量%以下である。窒素含有量は主にタンパク質に由来する。天然ゴム中のタンパク質は、天然ゴムを硫黄架橋した場合に、架橋速度および架橋密度を大きくする役割を果たす。よって、固形分中の窒素含有量が0.3質量%未満の場合には、タンパク質が少なすぎるため、架橋速度、架橋密度が小さくなり、架橋物(ゴム製品)における引張強度が低下するおそれがある。反対に、窒素含有量が0.6質量%より大きい場合には、スコーチしやすくなったり、ゴム製品の耐へたり性や破断伸びが低下したりするおそれがある。また、ゴム製品の動的ばね定数が大きくなり、ゴム製品の防振性能が低下するおそれがある。
【0019】
本開示の天然ゴムラテックスにおける固形分中のマグネシウム含有量は、0質量%以上0.02質量%以下である。固形分中のマグネシウムは、架橋速度の低下、耐老化性の指標になる可塑度残留指数(PRI)の低下、良溶媒に不溶なゲル分の増加などの原因となる。よって、固形分中のマグネシウム含有量が0.02質量%より大きい場合には、ゴム製品の静的ばね定数が小さくなり、硬さや防振性能が低下したり、耐老化性が低下したりするおそれがある。固形分中のマグネシウム含有量は少ない方がよく、0質量%でもよい。換言すると、固形分はマグネシウムを含まなくてもよい。
【0020】
本開示の天然ゴムラテックスにおける固形分中のカリウム含有量は、0.1質量%以上0.3質量%以下である。固形分中のカリウムは、架橋速度、スコーチ性などに影響する。固形分中のカリウム含有量が0.1質量%未満の場合には、架橋速度が低下したり、加硫誘導時間が長くなる。反対に、カリウム含有量が0.3質量%より大きい場合には、加硫誘導時間が短くなる。
【0021】
<天然ゴム>
本開示の天然ゴムは、本開示の天然ゴムラテックスを乾燥して得られる固形の天然ゴムである。本開示の天然ゴムにおける窒素含有量は0.3質量%以上0.6質量%以下、マグネシウム含有量は0質量%以上0.02質量%以下、カリウム含有量は0.1質量%以上0.3質量%以下である。後に製造方法を説明するように、天然ゴムラテックスの乾燥方法は、特に限定されない。酸による凝固を行うことなく、天然ゴムラテックスを直接乾燥させればよい。
【0022】
例えば、本開示の天然ゴムを用いてゴム製品を製造する場合、天然ゴムに架橋剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、加工助剤、補強材、老化防止剤、軟化剤などを配合してゴム組成物を調製し、それを架橋すればよい。本開示の天然ゴムは、硬さなどの特性のばらつきが小さいため、エンジンマウント、サスペンションブッシュなどの車両部品や、建築、住宅分野で使用される防振ゴムなどの材料として好適である。
【0023】
<天然ゴムラテックスの製造方法>
本開示の天然ゴムラテックスの製造方法は、天然ゴムラテックスを、少なくとも窒素分、マグネシウムイオン、マグネシウム化合物、カリウムイオン、およびカリウム化合物を捕捉可能な処理剤に接触させる処理工程を有する。
【0024】
原料の天然ゴムラテックスについては、前述したように、フィールドラテックス、ハイアンモニアラテックスなどを用いればよい。処理剤は、少なくとも窒素分、マグネシウムイオン、マグネシウム化合物、カリウムイオン、およびカリウム化合物を捕捉可能なものであればよく、例えば、吸着剤、キレート剤などが、入手が容易で扱いやすいため好適である。吸着剤およびキレート剤から選ばれる一種以上を用いる場合、吸着剤、キレート剤のいずれか一方を用いてもよく、両方を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
吸着剤としては、有機イオン交換体、無機イオン交換体、合成吸着剤、およびタンパク質吸着剤が挙げられる。このうち、有機イオン交換体としては、ポリマーにイオン交換性の官能基が化学的に結合されたイオン交換樹脂や、アルギン酸などが知られている。イオン交換樹脂としては、三菱ケミカル(株)製の「ダイヤイオン(登録商標)シリーズ」、オルガノ(株)が販売している「アンバーライト(登録商標)シリーズ」などを用いることができる。無機イオン交換体としては、含水金属酸化物やその複合酸化物が知られており、例えば、ゼオライト、ハイドロタルサイトなどの鉱物が挙げられる。無機イオン交換体としては、例えば、東亜合成(株)製の「IXE(登録商標)シリーズ」などを用いることができる。合成吸着剤は、多孔性構造と、溶剤などに不溶な架橋構造と、を有する巨大網目構造の合成高分子である。合成吸着剤としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂などからなる球状の粒子が知られている。合成吸着剤としては、例えば、三菱ケミカル(株)製の「ダイヤイオン(登録商標)HPシリーズ」、オルガノ(株)が販売している「アンバーライト(登録商標)XAD(登録商標)シリーズ」などを用いることができる。
【0026】
キレート剤としては、キレート樹脂およびキレート繊維が挙げられる。このうち、キレート樹脂は、スチレン系樹脂などに特定のイオンをキレート化して吸着するキレート官能基が導入されたものであり、例えば、住友ケムテックス(株)が販売している「デュオライト(登録商標)シリーズ」、オルガノ(株)が販売している「AMBERSEP(アンバーセップ、登録商標)シリーズ」、キレスト(株)製の「キレスパール(登録商標)シリーズ」などを用いることができる。キレート繊維は、セルロース繊維などにキレート剤が化学的に結合されたものであり、例えば、キレスト(株)製の「キレストファイバー(登録商標)シリーズ」、(株)カネカ製の「カネカロン(登録商標)シリーズ」などを用いることができる。キレート官能基、キレート剤としては、アミノポリカルボン酸、イミノ二酢酸、アミノメチルリン酸などが挙げられる。
【0027】
天然ゴムラテックスを処理剤に接触させる方法は、特に限定されない。例えば、天然ゴムラテックスに処理剤を添加してもよく、処理剤を充填したカラムに天然ゴムラテックスを流してもよい。接触させる際の温度は室温でよく、例えば10℃以上40℃以下が好適である。処理剤を添加する方法においては、天然ゴムラテックスと処理剤とを反応させるため、処理剤を添加した状態を所定時間維持することが望ましい。維持時間は、1時間以上、3時間以上にするとよく、生産性を考慮すると48時間以下、30時間以下、さらには24時間以下にするとよい。この間、静置してもよいが、振とう、撹拌などを行い、天然ゴムラテックスと処理剤との反応を促進させてもよい。
【0028】
処理剤を添加する方法の場合、処理剤の添加量については、その種類に応じて捕捉効果が発揮されるように適宜決定すればよい。例えば、処理剤の添加量は、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して20質量部以上、さらには30質量部以上であることが望ましい。なお、処理剤の添加量が多すぎても捕捉効果の向上は見込めない。このため、処理剤の添加量は、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して85質量部以下、さらには75質量部以下であることが望ましい。
【0029】
本開示の天然ゴムラテックスの好適な製造方法として、処理工程が天然ゴムラテックスに処理剤を添加する工程であり、処理工程の後、処理剤が添加されたラテックスをろ過して処理剤をろ別する処理剤除去工程を有する形態が挙げられる。処理剤をろ別することにより、天然ゴムラテックスから処理剤を除去することができ、固形分への影響を極力小さくすることができる。ろ過の方法は、処理剤を除去できれば特に限定されず、例えばメッシュ(金網)などのフィルターを使用すればよい。この形態によると、処理剤添加→処理剤ろ別という単純な工程により、処理剤を残存させることなく、固形分中の窒素、マグネシウム、カリウムの含有量を低減し、かつそのばらつきを小さくすることができる。
【0030】
また、処理剤に接触させる際に天然ゴムラテックスの凝集、凝固を抑制するという観点から、本開示の天然ゴムラテックスの好適な製造方法として、処理工程の前に、天然ゴムラテックスにpH調整剤を添加してpH値を9以上に調整するpH調整工程を有する形態が挙げられる。pH調整剤としては、アンモニア、ジエタノールアミン、水酸化アンモニウムなどを用いればよい。
【0031】
<天然ゴムの製造方法>
本開示の天然ゴムの製造方法は、天然ゴムラテックスを、少なくとも窒素分、マグネシウムイオン、マグネシウム化合物、カリウムイオン、およびカリウム化合物を捕捉可能な処理剤に接触させる処理工程と、処理後のラテックスを乾燥する乾燥工程と、を有する。処理工程は、前述した本開示の天然ゴムラテックスの製造方法のそれと同じであるため、ここでは、乾燥工程について説明する。
【0032】
処理後の天然ゴムラテックスの乾燥方法は、特に限定されないが、酸などを添加して凝固、洗浄、乾燥する方法によると、ラテックスに含まれる有用な成分が流出しやすい。このため、有用成分の流出を抑制する、生産性を高めるなどの観点から、天然ゴムラテックスをそのまま乾燥することが望ましい。本開示の天然ゴムの好適な製造方法として、処理工程が天然ゴムラテックスに処理剤を添加する工程であり、処理工程の後、処理剤が添加されたラテックスをろ過して処理剤をろ別する処理剤除去工程を有し、乾燥工程は、処理剤除去工程で得られたろ液を乾燥する工程である形態が挙げられる。処理後の天然ゴムラテックスを乾燥する前に、処理剤を除去しておくことにより、天然ゴムラテックスをそのまま乾燥させることができる。この形態によると、処理剤添加→処理剤ろ別→ろ液乾燥という単純な工程により、処理剤を残存させることなく、窒素、マグネシウム、カリウムの含有量が低減され、かつそのばらつきが小さい天然ゴムを製造することができる。
【0033】
天然ゴムラテックスをそのまま乾燥させる方法としては、例えば、天然ゴムラテックスをオーブン中で加熱すればよい。熱による天然ゴムの劣化や、生産性を考慮すると、加熱された基材に天然ゴムラテックスを塗布して、または吹き付けて、乾燥することが望ましい。こうすると、乾燥時間を短縮することができる。よって、天然ゴムの熱劣化を抑制することができると共に、生産性が向上する。なかでも、天然ゴムラテックスを吹き付ける方法が、望ましい。吹き付けられた天然ゴムラテックスは、基材表面にドット状に付着する。このため、基材表面に塗布した場合と比較して、比表面積が大きくなり、乾燥しやすい。したがって、天然ゴムラテックスを、より短時間で乾燥させることができる。
【0034】
基材の形状などは、特に限定されない。例えば、基材としてドラムなどの回転部材を使用するとよい。この場合、回転部材の加熱された無端環状面(例えばドラムの外周面)に、天然ゴムラテックスを吹き付けて、無端環状面を回転させながら、塗液を乾燥する。そして、得られた固形の天然ゴムを、順に無端環状面から剥離すればよい。こうすることにより、天然ゴムラテックスの吹き付け→乾燥→天然ゴムの剥離、という一連の工程の自動化が可能となる。したがって、生産性が格段に向上する。基材表面の温度は、120℃以上200℃以下の範囲が望ましい。基材表面の温度が低すぎると、実用的な乾燥時間で、天然ゴムラテックスの乾燥を充分に行うことができない。反対に、基材表面の温度が高すぎると、付着した天然ゴムラテックスが過剰に加熱され、劣化するおそれがある。
【0035】
処理剤除去工程については、前述した本開示の天然ゴムラテックスの製造方法のそれと同じである。また、本開示の天然ゴムの製造方法においても、処理剤に接触させる際に天然ゴムラテックスの凝集、凝固を抑制するという観点から、処理工程の前に、天然ゴムラテックスにpH調整剤を添加してpH値を9以上に調整するpH調整工程を有する形態が望ましい。
【実施例0036】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。
【0037】
(1)N、Mg、K含有量の測定
<実施例1>
天然ゴムラテックスとして、タイ産のフレッシュラテックスを使用した。まず、フレッシュラテックスを固形分濃度が15質量%となるように希釈した後、アンモニア水を添加してpH値を9に調整した。次に、希釈された天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して、キレート繊維(キレスト(株)製「キレストファイバー(登録商標) IRY-L」)の71質量部、および合成吸着剤(オルガノ(株)が販売している「アンバーライト(登録商標)XAD(登録商標) 7HP」)の35質量部を添加して、室温にて24時間振とうした。続いて、反応後のラテックスをメッシュでろ過し、キレート繊維および合成吸着剤をろ別した。
【0038】
それから、得られたろ液を、回転するドラムの外周面に吹き付けて乾燥させた。ドラムの回転速度は、約1rpm(1分間に約1回転)であり、ドラムの外周面は、予め約150℃に加熱されている。吹き付けられたろ液の液滴は、ドラムの回転と共に乾燥しながら互いに結着して、シート状に固形化される。そして、ドラムが約3/4回転したところで、形成されたシートを、ドラムの外周面から剥離した。このようにして、固形の天然ゴムを製造した。製造された天然ゴムを、実施例1の天然ゴムと称す。実施例1の天然ゴム中の窒素、マグネシウム、カリウムの含有量を、次のようにして測定した。以下、本実施例における窒素、マグネシウム、カリウムの含有量の測定方法は、全て同じである。
【0039】
[窒素]
天然ゴムを950℃で燃焼した後、PerkinElmer社の有機微量元素分析装置「2400II CHNS/O」により元素分析して窒素量を測定した。そして、天然ゴムの全体を100質量%とした場合の窒素の質量割合を、窒素含有量とした。
【0040】
[マグネシウム]
天然ゴムを、空気中で550℃に加熱して燃焼する乾式灰化法により灰化した後、(株)日立ハイテク製の偏光ゼーマン原子吸光光度計「Z-2310」を用いて分析し、マグネシウムイオン濃度を測定した。測定されたマグネシウムイオン濃度を、天然ゴム中のマグネシウム含有量とした。
【0041】
[カリウム]
天然ゴムを、PerkinElmer社のICP発光分光分析装置「Optima4300DV」により分析し、カリウムイオン濃度を測定した。測定されたカリウムイオン濃度を、天然ゴム中のカリウム含有量とした。
【0042】
<実施例2>
実施例1の天然ゴムの製造において、キレート繊維を使用せず合成吸着剤のみを使用した点以外は、実施例1と同様にして天然ゴムを製造し、窒素、マグネシウム、カリウムの含有量を測定した。合成吸着剤の添加量は、希釈された天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して、35質量部とした。製造された天然ゴムを、実施例2の天然ゴムと称す。
【0043】
<比較例1>
実施例1の天然ゴムの原料として使用したフレッシュラテックスを固形分濃度が28質量%となるように希釈した後、実施例1と同様に、回転するドラムの外周面に吹き付けて乾燥させて天然ゴムを製造した。製造された天然ゴムを、比較例1の天然ゴムと称す。比較例1の天然ゴム中の窒素、マグネシウム、カリウムの含有量を測定した。
【0044】
<比較例2>
実施例1の天然ゴムの原料として使用したフレッシュラテックスを、遠心分離機を用いて、回転速度8000rpmで40分間遠心分離処理した。処理後の固形分に等量の純水を加えてラテックスとし、さらに同じ操作(遠心分離処理→純水添加による再分散)を2回繰り返して、精製ラテックスを得た。得られた精製ラテックスを、実施例1と同様に、回転するドラムの外周面に吹き付けて乾燥させて天然ゴムを製造した。製造された天然ゴムを、比較例2の天然ゴムと称す。比較例2の天然ゴム中の窒素、マグネシウム、カリウムの含有量を測定した。
【0045】
<測定結果>
表1に、実施例1、2および比較例1、2の天然ゴムについての測定結果を示す。
【表1】
表1に示すように、実施例1、2の天然ゴムにおいては、比較例1の未処理の天然ゴムと比較して、N、Mg、Kのいずれの含有量も減少した。そして、N量は0.3質量%以上0.6質量%以下、Mg量は0質量%以上0.02質量%以下、K量は0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲であった。特に、キレート剤と吸着剤とを併用した実施例1の天然ゴムによると、K量が少なくなった。実施例1、2の天然ゴムは、本開示の天然ゴムの概念に含まれる。また、実施例1、2の天然ゴムを製造する過程で得られたろ液は、本開示の天然ゴムラテックスの概念に含まれる。これに対して、遠心分離により処理した比較例2の天然ゴムにおいては、窒素およびカリウムが除去されすぎており、N量およびK量が0.0質量%になり所望の範囲から外れた。
【0046】
(2)N、Mg、K含有量、加硫誘導時間および硬さのばらつき評価
<評価方法>
[実施例1]
前述した実施例1の天然ゴムと同様に、キレート繊維および合成吸着剤による処理→ろ過→乾燥により、天然ゴムを10個製造した。そして、各々の天然ゴム中の窒素、マグネシウム、カリウムの含有量を測定し、そのばらつきを調べた。加えて、天然ゴムのスコーチ性の指標になる加硫誘導時間、および硬さを次のようにして測定し、そのばらつきを調べた。以下、本実施例における加硫誘導時間および硬さの測定方法は、全て同じである。
【0047】
[加硫誘導時間(T10)]
天然ゴムに、架橋剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、加工助剤、補強材、老化防止剤、軟化剤を配合してゴム組成物を調製し、調製したゴム組成物の加硫誘導時間(T10)を測定した。加硫誘導時間(T10)の測定は、JIS K6300-2に準拠した、(株)東洋精機製作所製のロータレス・レオメータを用いて行った。測定温度は150℃とした。加硫誘導時間(T10)は、JIS K6300-2:2001に記載されているように、加硫曲線における加硫開始点に対応する。
【0048】
[硬さ]
天然ゴムに、架橋剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、加工助剤、補強材、老化防止剤、軟化剤を配合してゴム組成物を調製し、150℃×20分の条件でプレス成形して、厚さ2mmのゴムシートを作製した。作製したゴムシートを3枚重ねて試験片とし、試験片のタイプAデュロメータ硬さを、JIS K6253-3:2012に準拠した硬度計(高分子計器(株)製「ASKER P1-A型」)を用いて測定した。タイプAデュロメータ硬さとしては、押針と試験片とが接触した直後から15秒後の値を採用した。
【0049】
[比較例1]
前述した比較例1の天然ゴムと同様に、原料として使用したフレッシュラテックスを乾燥させて、天然ゴムを26個製造した。そして、各々の天然ゴム中の窒素、マグネシウム、カリウムの含有量、加硫誘導時間および硬さを測定し、そのばらつきを調べた。
【0050】
[比較例2]
前述した比較例2の天然ゴムと同様に、遠心分離処理→純水添加による再分散→乾燥により、天然ゴムを17個製造した。そして、各々の天然ゴム中の窒素、マグネシウム、カリウムの含有量、加硫誘導時間および硬さを測定し、そのばらつきを調べた。
【0051】
<評価結果>
表2に、実施例1および比較例1、2の天然ゴムについての測定結果を示す。なお、ばらつきを測定したサンプル数は、測定対象により異なる。このため、表2において、測定したサンプル数をn値で示す。例えば、「n=10」は、10個のサンプルにおける測定値であることを意味する。
【表2】
【0052】
表2に示すように、実施例1の天然ゴムにおいては、比較例1の未処理の天然ゴムと比較して、N量、Mg量、K量の下限値がいずれも小さくなり、N量、Mg量、K量のばらつきも小さくなった。実施例1の天然ゴムにおいては、N量は0.3質量%以上0.6質量%以下、Mg量は0質量%以上0.02質量%以下、K量は0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲に収まった。実施例1の天然ゴムの加硫誘導時間のばらつきは、比較例1の天然ゴムのそれと比較して小さくなった。同様に、実施例1の天然ゴムの硬さばらつきも、比較例1の天然ゴムのそれと比較して小さくなった。これに対して、遠心分離処理した比較例2の天然ゴムにおいては、N量およびK量が少なすぎ、所望の範囲から外れた。また、加硫誘導時間については、ばらつきは小さいが、値が大きくなり加硫速度が遅くなることが確認された。硬さについては、ばらつきは小さいが、値が小さくなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本開示の天然ゴムは、硬さなどの特性のばらつきが小さいため、エンジンマウント、サスペンションブッシュなどの車両部品や、建築、住宅分野で使用される防振ゴムなどの材料として有用である。