(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097592
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/12 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
G01R33/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213800
(22)【出願日】2021-12-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、文部科学省、「科学技術試験研究委託事業」、「量子計測・センシング技術研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】申 在原
(72)【発明者】
【氏名】波多野 雄治
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 孝之
(72)【発明者】
【氏名】波多野 睦子
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AC01
2G017AC03
2G017AD69
2G017CA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カラーセンタを有する素子への制約を減じたうえで外部磁場の影響を抑えて高精度な磁場の検出を可能とする。
【解決手段】センサ1は、バスバ9の周囲の磁場を検出して出力する第1センサユニット1A及び第2センサユニット1Bと、第1センサユニット1Aの出力と第2センサユニット1Bの出力との差分を演算する演算処理装置200とを備え、第1センサユニット1A及び第2センサユニット1Bは、それぞれ、バスバ9の周囲に配されNVセンタを有するダイヤモンド素子2A,2Bと、ダイヤモンド素子2A,2Bにマイクロ波の磁場を放射するアンテナ5A,5Bと、ダイヤモンド素子2A,2Bに緑色光GLを照射する光学系8と、ダイヤモンド素子2A,2Bから発生する赤色蛍光RLの強度を検出して出力する光センサ4A,4Bと、光センサ4A,4Bの出力に基づいて、バスバ9の周囲の磁場と温度との少なくとも一方出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流線の周囲の磁場を検出して出力する第1磁気センサ及び第2磁気センサと、
前記第1磁気センサの出力と前記第2磁気センサの出力との差分を演算する演算装置と
を備え、
前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサは、それぞれ、
前記電流線の周囲に配されカラーセンタを有する素子と、
前記素子にマイクロ波の磁場を放射するアンテナと、
前記素子に励起光を照射する光学系と、
前記素子から発生する蛍光の強度を検出して出力する光センサと、
前記光センサの出力に基づいて、前記マイクロ波を発振し、前記電流線の周囲の磁場と温度との少なくとも一方を算出して前記演算装置に出力する制御部と
を備えるセンサ。
【請求項2】
前記第1磁気センサの前記素子と前記第2磁気センサの前記素子とは、前記電流線を挟んで対向して配されている請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記制御部は、
所定の変調周波数の第1の位相で変調された第1マイクロ波を発振する第1マイクロ波発振器と、
前記所定の変調周波数の第2の位相で変調され前記第1マイクロ波に対して周波数が異なる第2マイクロ波を発振する第2マイクロ波発振器と、
前記第1マイクロ波発振器と前記アンテナとを接続する第1接続状態と、前記第2マイクロ波発振器と前記アンテナとを接続する第2接続状態とを切り替えるスイッチと、
前記光センサの出力が入力し、前記所定の変調周波数の前記第1の位相に対応して第1出力を出力し、前記第2の位相に対応して第2出力を出力するロックインアンプと、
前記ロックインアンプから出力された前記第1出力を積分した第1積分出力を前記第1マイクロ波発振器に出力する第1積分回路と、
前記ロックインアンプから出力された前記第2出力を積分した第2積分出力を前記第2マイクロ波発振器に出力する第2積分回路と、
前記第1積分出力と前記第2積分出力との差分に基づいて、前記電流線の周囲の磁場と温度との少なくとも一方を算出する磁場・温度算出部と
を備え、
前記第1マイクロ波発振器は、前記第1積分出力に基づいて前記第1マイクロ波の周波数を帰還制御し、
前記第2マイクロ波発振器は、前記第2積分出力に基づいて前記第2マイクロ波の周波数を帰還制御する請求項1又は2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記電流線の周囲に静磁場を発生する磁石対を備え、
前記磁石対は、前記第1磁気センサの前記素子と前記第2磁気センサの前記素子との対向方向に対して直交する方向に前記静磁場を発生する請求項2又は請求項2を引用する請求項3に記載のセンサ。
【請求項5】
前記第1マイクロ波への変調周波数入力と前記第2マイクロ波への変調周波数入力とは、互いに位相が90°異なり、
前記スイッチは、前記第1接続状態と前記第2接続状態とを、前記所定の変調周波数の2倍の周波数の信号で切り替え、
前記信号の立ち上がり位相及び立ち下がり位相が、前記第1マイクロ波への変調周波数入力及び前記第2マイクロ波への変調周波数入力の立ち上がり位相及び立ち下がり位相とは45°異なる請求項3又は請求項3を引用する請求項4に記載のセンサ。
【請求項6】
前記第1磁気センサの前記光学系と前記第2磁気センサの前記光学系とは、光源を共通にする請求項1~5の何れか1項に記載のセンサ。
【請求項7】
前記カラーセンタはNVセンタであり、
前記アンテナは、前記NVセンタの<111>方向に対して直交する方向に前記マイクロ波の磁場を放射する請求項1~6の何れか1項に記載のセンサ。
【請求項8】
前記電流線の周囲の磁場を検出して出力する第3磁気センサ及び第4磁気センサを備え、
前記演算装置は、前記第3磁気センサの出力と前記第4磁気センサの出力との差分を演算し、
前記第3磁気センサ及び前記第4磁気センサは、それぞれ、
前記素子と、
前記アンテナと、
前記光学系と、
前記光センサと、
前記制御部と
を備え、
前記第3磁気センサの前記素子と前記第4磁気センサの前記素子とは、前記第1磁気センサの前記素子と前記第2磁気センサの前記素子との対向方向に対して直交する方向に前記電流線を挟んで対向して配されている請求項2、及び請求項2を引用する請求項3~7の何れか1項に記載のセンサ。
【請求項9】
前記電流線の周囲の磁場を検出して出力する第3磁気センサ及び第4磁気センサを備え、
前記演算装置は、前記第3磁気センサの出力と前記第4磁気センサの出力との差分を演算し、
前記第3磁気センサ及び前記第4磁気センサは、それぞれ、
前記素子と、
前記アンテナと、
前記光学系と、
前記光センサと、
前記制御部と
を備え、
前記第3磁気センサの前記素子と前記第4磁気センサの前記素子とは、前記第1磁気センサの前記素子と前記第2磁気センサの前記素子との対向方向に、前記第1磁気センサの前記素子と前記第2磁気センサの前記素子とを挟んで対向して配され、
前記電流線の周囲の磁場の変化による前記第3磁気センサ及び前記第4磁気センサの出力変化が、前記電流線の周囲の磁場の変化による前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサの出力変化よりも小さい請求項2、及び請求項2を引用する請求項3~7の何れか1項に記載のセンサ。
【請求項10】
前記電流線の周囲の磁場を検出して出力する第3磁気センサ及び第4磁気センサを備え、
前記演算装置は、前記第3磁気センサの出力と前記第4磁気センサの出力との差分を演算し、
前記第3磁気センサ及び前記第4磁気センサは、それぞれ、
前記素子と、
前記アンテナと、
前記光学系と、
前記光センサと、
前記制御部と
を備え、
前記第3磁気センサの前記素子と前記第4磁気センサの前記素子とは、前記第1磁気センサの前記素子と前記第2磁気センサの前記素子との対向方向に前記電流線を挟んで対向して配され、
前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサの前記素子の光検出磁気共鳴スペクトルの幅が、前記第3磁気センサ及び前記第4磁気センサの前記素子の光検出磁気共鳴スペクトルの幅よりも狭く、
前記電流線の周囲の磁場の変化による前記第3磁気センサ及び前記第4磁気センサの出力変化が、前記電流線の周囲の磁場の変化による前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサの出力変化よりも小さい請求項2、及び請求項2を引用する請求項3~7の何れか1項に記載のセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサに関する。
【背景技術】
【0002】
NVセンタを有するダイヤモンド素子を用いて光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)の原理により磁界を計測する磁気センサが知られている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載の磁気センサでは、外部磁場の影響を打ち消すことを目的として、一対のダイヤモンド素子が相互に近接して配され、一対のダイヤモンド素子により検出される磁場の差分が演算される。
【0003】
また、外部磁場の影響を打ち消すことを目的として構成された磁気センサとして、一対のホール素子等の磁気センサが測定対象物を挟んで配され、一対の磁気センサにより検出される磁場の差分が演算されるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
【非特許文献1】Yuta Masuyama, Katsumi Suzuki, Akira Hekizono, Mitsuyasu Iwanami, Mutsuko Hatano, Takayuki Iwasaki, Takeshi Ohshima, "Gradiometer Using Separated Diamond Quantum Magnetometers", Sensors 2021,21,977. https://doi.org/10.3390/s21030977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の磁気センサでは、一対のダイヤモンド素子の特性に差がある場合、上記演算により外部磁場の影響を打ち消すことができない。そのため、一対のダイヤモンド素子の特性を可能な限り揃えなければならないという制約が加わる。
【0007】
また、電気自動車のバッテリのバスバを流れる電流を測定する電流センサに特許文献1に記載の磁気センサを用いる場合、バスバを流れる大電流がバスバ両面に温度差を生じさせるので、一対の磁気センサにより検出される磁場に磁気センサの温度特性の影響が及ぶ。そのため、温度特性が安定した磁気センサを用いない限り、上記演算により外部磁場の影響を打ち消すことができず、磁気センサに温度特性の制約が加わる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、カラーセンタを有する素子への制約を減じたうえで外部磁場の影響を抑えて高精度な磁場の検出を可能とするセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のセンサは、電流線の周囲の磁場を検出して出力する第1磁気センサ及び第2磁気センサと、前記第1磁気センサの出力と前記第2磁気センサの出力との差分を演算する演算装置とを備え、前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサは、それぞれ、前記電流線の周囲に配されカラーセンタを有する素子と、前記素子にマイクロ波の磁場を放射するアンテナと、前記素子に励起光を照射する光学系と、前記素子から発生する蛍光の強度を検出して出力する光センサと、前記光センサの出力に基づいて、前記マイクロ波を発振し、前記電流線の周囲の磁場と温度との少なくとも一方を算出して前記演算装置に出力する制御部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カラーセンタを有する素子への制約を減じたうえで外部磁場の影響を抑えて高精度な磁場の検出を可能とするセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るセンサの概略を示す図である。
【
図2】
図2は、NVセンタを有するダイヤモンド素子の構造を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、NVセンタを有するダイヤモンド素子を備えODMRの原理により磁場を計測するダイヤモンド量子センサの原理を説明するための図である。
【
図4】
図4は、ODMRのピークの周波数と磁場との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、2点のODMRのピークの周波数と磁場と温度との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、第1センサユニット及び第2センサユニットを示す回路図である。
【
図7】
図7は、2点のODMRのピークの検出方法を説明するための波形図である。
【
図8】
図8は、ODMRと第1及び第2マイクロ波発振器の出力パルスと矩形波発生器の出力パルスとの関係を示すシーケンスチャートである。
【
図9】
図9は、共鳴周波数が変動した場合における第1及び第2積分回路のアナログ出力及び基準周波数の変動を示すタイミングチャートである。
【
図10】
図10は、本発明の他の実施形態に係るセンサの概略を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の他の実施形態に係るセンサの概略を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の他の実施形態に係るセンサの概略を示す図である。
【
図13】
図13は、
図12に示す第1~第4センサユニットにより計測される磁場の変化を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明の他の実施形態に係るセンサの概略を示す図である。
【
図15】
図15は、
図14に示す第1~第4センサユニットにより出力されるODMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用される。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係るセンサ1の概略を示す図である。この図に示すセンサ1は、電気自動車のバッテリのバスバ9を流れる電流とバスバ9の周囲の温度とを計測する。このセンサ1は、第1センサユニット1Aと、第2センサユニット1Bと、第1磁石6と、第2磁石7と、光学系8と、演算処理装置200とを備える。
【0014】
第1センサユニット1Aは、ダイヤモンド素子2Aと、光センサ4Aと、アンテナ5Aと、制御装置100Aとを備える。ダイヤモンド素子2Aは、NVセンタを有し、バスバ9の一方の面(図中の下面)に近接して配されている。光学系8は、励起光として緑色光GLをダイヤモンド素子2Aに照射する。光センサ4Aは、NVセンタの電子スピン共鳴に起因して生じる光信号を検知する。アンテナ5Aは、ダイヤモンド素子2Aに周波数可変のマイクロ波磁場を放射する。制御装置100Aは、マイクロ波発生装置10Aと、ロックイン検出装置20Aと、周波数制御装置30Aとを備える。マイクロ波発生装置10Aは、アンテナ5Aにマイクロ波を供給する。ロックイン検出装置20A、周波数制御装置30Aの機能については後述する。
【0015】
第2センサユニット1Bは、ダイヤモンド素子2Bと、光センサ4Bと、アンテナ5Bと、制御装置100Bとを備える。ダイヤモンド素子2Bは、NVセンタを有し、バスバ9の他方の面(図中の上面)に近接して配されている。光学系8は、励起光として緑色光GLをダイヤモンド素子2Bに照射する。光センサ4Bは、NVセンタの電子スピン共鳴に起因して生じる光信号を検知する。アンテナ5Bは、ダイヤモンド素子2Bに周波数可変のマイクロ波磁場を放射する。制御装置100Bは、マイクロ波発生装置10Bと、ロックイン検出装置20Bと、周波数制御装置30Bとを備える。マイクロ波発生装置10Bは、アンテナ5Bにマイクロ波を供給する。ロックイン検出装置20Bの機能は、後述のロックイン検出装置20Aの機能と同様であり、周波数制御装置30Bの機能は、後述の周波数制御装置30Bの機能と同様である。
【0016】
第1センサユニット1Aのダイヤモンド素子2Aと第2センサユニット1Bのダイヤモンド素子2Bとは、方形の板状に形成されており、バスバ9をその厚み方向に挟んで対向するように配されている。また、ダイヤモンド素子2Aとバスバ9の下面との距離とダイヤモンド素子2Bとバスバ9の上面との距離とは等しい。また、ダイヤモンド素子2A,2Bの<111>方向のNV軸がバスバ9の表面に対して平行、且つバスバ9の電流の方向に対して直角に配されている。また、ダイヤモンド素子2A,2Bの<111>方向のNV軸は、相互に平行、且つ、バスバ9の電流により生成される磁場BIに対して平行に配されている。なお、本実施形態では、ダイヤモンド素子2A,2Bの厚み方向を<111>方向と定義し、ダイヤモンド素子2A,2Bのダイヤモンド結晶の配向が<111>方向に揃っているものとする。
【0017】
第1センサユニット1Aのアンテナ5Aは、ダイヤモンド素子2Aに面して配されたコイル等であり、ダイヤモンド素子2Aの<111>方向のNV軸に対して直交する方向にマイクロ波磁場を放射する。また、第2センサユニット1Bのアンテナ5Bは、ダイヤモンド素子2Bに面して配されたコイル等であり、ダイヤモンド素子2Bの<111>方向のNV軸に対して直交する方向にマイクロ波磁場を放射する。
【0018】
第1磁石6と第2磁石7とは、バスバ9をその幅方向(<111>方向に対して平行な方向)に挟んで対向するように配されている。また、第1磁石6と第2磁石7とは、ダイヤモンド素子2A,2Bを<111>方向に挟んで対向するように配されており、ダイヤモンド素子2A,2Bの<111>方向のNV軸に対して平行に静磁場を印加する。
【0019】
光学系8は、光源81と、光ファイバ82と、分波器83と、一対の光ファイバ84A,84Bとを備える。光源81は、500nmから560nmの波長を有するレーザであり、レーザビームを出射する。光ファイバ82は、光源81から分波器83まで導光する。分波器83は、光ファイバ82により導かれたレーザビームを分岐する。一対の光ファイバ84A,84Bの一方の光ファイバ84Aの先端に第1センサユニット1Aのダイヤモンド素子2Aが取り付けられており、光ファイバ84Aは、分波器83からダイヤモンド素子2Aまで導光する。また、他方の光ファイバ84Bの先端に第2センサユニット1Bのダイヤモンド素子2Bが取り付けられており、光ファイバ84Bは、分波器83からダイヤモンド素子2Bまで導光する。
【0020】
第1センサユニット1Aの光センサ4Aと第2センサユニット1Bの光センサ4Bとは、フォトダイオードである。第1センサユニット1Aの光センサ4Aは、光ファイバ84Aから図中には明記されていないダイクロイックミラーを介して分岐した光ファイバ84Cの先端に取り付けられている。この分岐した光ファイバ84Cは、ダイヤモンド素子2Aで発せられた後述の赤色蛍光RLを光センサ4Aまで導光する。また、第2センサユニット1Bの光センサ4Bは、光ファイバ84Bから同じく図中には明記されていないダイクロイックミラーを介して分岐した光ファイバ84Dの先端に取り付けられている。この分岐した光ファイバ84Dは、ダイヤモンド素子2Bで発せられた後述の赤色蛍光RLを光センサ4Bまで導光する。なお、ダイヤモンド素子2Aで発せられた赤色蛍光RLを光センサ4Aまで、光ファイバ84A→ダイクロイックミラー→光ファイバ84Cと導光する代わりに光センサ4Aをダイヤモンド素子2Aが発する赤色蛍光RLを受ける近接場所に設けることも可能である。同様にダイヤモンド素子2Bで発せられた赤色蛍光RLを光センサ4Bまで、光ファイバ84B→ダイクロイックミラー→光ファイバ84Dと導光する代わりに光センサ4Bをダイヤモンド素子2Bが発する赤色蛍光RLを受ける近接場所に設けることも可能である。
【0021】
以上のような構成のセンサ1の第1センサユニット1Aは、緑色光GLをダイヤモンド素子2AのNVセンタに照射すると共にマイクロ波に対し周波数変調を行いながらダイヤモンド素子2AのNVセンタにマイクロ波磁場を放射させ、ODMRの原理により、バスバ9の周囲の磁場BA、温度TA等を計測する。同様に、第2センサユニット1Bは、緑色光GLをダイヤモンド素子2BのNVセンタに照射すると共にマイクロ波に対し周波数変調を行いながらダイヤモンド素子2BのNVセンタにマイクロ波磁場を放射させ、ODMRの原理により、バスバ9の周囲の磁場BB、温度TB等を計測する。
【0022】
ここで、第1センサユニット1Aにより検出される磁場BAは、下記(1)式で表され、第2センサユニット1Bにより検出される磁場BBは、下記(2)式で表される。これらの式で表される磁場BA、磁場BBには、バスバ9の表面に平行且つバスバ9の電流の方向に垂直な方向の磁場が反映される。
BA=+BI+BO …(1)
BB=-BI+BO …(2)
但し、BIは、バスバ9の電流によって生じる磁場であり、BOは、外部磁場である。
【0023】
ここで、上記(1),(2)式で表される磁場BA、磁場BBの差分を演算することにより、外部磁場BOを消去することができる。そこで、センサ1では、演算処理装置200が、第1センサユニット1Aにより検出される磁場BAと第2センサユニット1Bにより検出される磁場BBとの差分を演算することにより、外部磁場BOを消去し、下記(3)式で表される磁場BIを算出する。
BI=(磁場BA-磁場BB)/2 …(3)
【0024】
図2は、NVセンタを有するダイヤモンド素子の構造を模式的に示す図である。この図に示すように、NVセンタは、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素N(Nitrogen)と、この窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔V(Vacancy)との対からなる複合不純物欠陥である。このNVセンタは、中性電荷状態NV0から電子を1個捕獲してNV
-となると、磁気量子数m
S=-1,0,+1の電子スピン3重項状態を形成する。ダイヤモンド量子センサは、この電子スピン3重項状態を用いて磁場や温度等を計測する。
【0025】
図3は、NVセンタを有するダイヤモンド素子を備えODMRの原理により磁場を計測するダイヤモンド量子センサの原理を説明するための図である。
図2及び
図3に示すように、NVセンタは、励起光としての緑色光GLを照射されると赤色蛍光RLを発する。この赤色蛍光RLの強度(輝度)は、NVセンタが基底状態(電子スピンの磁気量子数m
S=0の状態)から励起された場合には高いのに対して、NVセンタが電子スピン共鳴を生じる準位(電子スピンの磁気量子数m
S=±1の状態)から励起された場合には低くなる。
【0026】
ここで、磁場の大きさが0の場合に共鳴周波数(約2.87GHz)のマイクロ波磁場MWをNVセンタに放射すると、NVセンタが電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)を生じる準位(m
S=±1)に遷移する。この準位から励起された電子の一部は、無輻射遷移を経て基底状態に戻ることにより発光に寄与しない。従って、上述のように、NVセンタが電子スピン共鳴を生じる準位から励起された場合、赤色蛍光RLの強度は低下する。なお、本実施形態では、第1磁石6と第2磁石7とによりダイヤモンド素子2A,2Bの周囲に静磁場を印加していることにより、ダイヤモンド素子2A,2Bの周囲には常に磁場が存在する(
図1参照)。
【0027】
図4は、ODMRのピークの周波数と磁場Bとの関係を示すグラフである。このグラフに示すように、磁場Bが0の場合には、ODMRのピークは1点のみであるのに対し、磁場Bが0より大きな値B
1,B
2,B
3(B
3>B
2>B
1>0)である場合には、ODMRのピークは2点存在する。ここで、2点のODMRのピークに対応するマイクロ波の周波数のスプリットΔf(f
1-f
2)は、磁場Bの大きさに比例して大きくなる。
【0028】
図5は、2点のODMRのピークの周波数と磁場と温度との関係を示すグラフである。このグラフに示すように、計測対象の温度変化に応じて、2点のODMRのピークが同様に遷移する。即ち、計測対象の温度変化に応じて、一方のODMRのピークが低周波側に変動した場合、他方のODMRのピークも低周波側に同じ周波数だけ変動する。逆に、計測対象の温度変化に応じて、一方のODMRのピークが高周波側に変動した場合、他方のODMRのピークも高周波側に同じ周波数だけ変動する。従って、計測対象の温度変化は、2点のODMRの周波数の中央値を変化させる。
【0029】
ところで、本実施形態のセンサ1は、電気自動車の電池残量を計測する電池センサとして使用される。ここで、電気自動車の電池残量は、バッテリのバスバ9(
図1参照)を流れる電流の積算値に基づいて算出される。そのため、バッテリのバスバ9の電流値の変化に対する応答速度を高めて時刻毎の電流値の計測精度を向上させることにより、電流値の累積値に基づく電池残量の計測精度を向上させることが要求される。さらに、電気自動車の停止時における微量の漏洩電流の電流値を高精度に計測すると共に、電気自動車の急加速時や急減速時に生じる数百アンペアの電流値の変動に応答してこの時の電流値を高精度に計測することが要求される。このような要求に対応するために、本実施形態のセンサ1では、第1センサユニット1Aの制御装置100Aが、以下に説明するマイクロ波発生装置10A、ロックイン検出装置20A、及び周波数制御装置30Aを備える。同様に、第2センサユニット1Bの制御装置100Bが、以下に説明するマイクロ波発生装置10B、ロックイン検出装置20B、及び周波数制御装置30Bを備える。
【0030】
図6は、第1センサユニット1A及び第2センサユニット1Bを示す回路図である。なお、第1センサユニット1A及び第2センサユニット1Bは同様の構成である。そのため、第1センサユニット1Aについて説明し、第2センサユニット1Bについては第1センサユニット1Aについての説明を援用する。
【0031】
図6に示すように、マイクロ波発生装置10Aは、第1マイクロ波発振器11と、第2マイクロ波発振器12と、スイッチ13と、パワーアンプ14とを備える。第1マイクロ波発振器11の出力端子Foutは、スイッチ13の第1入力端子MW1に接続され、第2マイクロ波発振器12の出力端子Foutは、スイッチ13の第2入力端子MW2に接続されている。スイッチ13の出力端子は、パワーアンプ14の入力端子に接続されている。スイッチ13は、ダイオードスイッチであり、第1マイクロ波発振器11とパワーアンプ14とを接続する第1接続状態と、第2マイクロ波発振器12とパワーアンプ14とを接続する第2接続状態とをスイッチング信号S
MODで切り替える。パワーアンプ14の出力端子は、アンテナ5Aの入力端子に接続されている。
【0032】
スイッチ13の第1接続状態において、第1マイクロ波発振器11が発振したマイクロ波が、パワーアンプ14により増幅されてアンテナ5Aに入力する。他方で、スイッチ13の第2接続状態において、第2マイクロ波発振器12が発振したマイクロ波が、パワーアンプ14により増幅されてアンテナ5Aに入力する。
【0033】
第1マイクロ波発振器11と第2マイクロ波発振器12とは、FM(Frequency Modulation)変調入力端子FMaと、FM変調入力端子FMbと、基準周波数入力端子FDとを備える。
【0034】
ロックイン検出装置20Aは、プリアンプ21と、ロックインアンプ22と、第1積分回路23と、第2積分回路24とを備える。プリアンプ21の入力端子は、光センサ4Aの出力端子に接続されている。
【0035】
プリアンプ21の出力端子は、ロックインアンプ22の入力端子に接続されている。光センサ4Aから出力された赤色蛍光RLの強度の検出信号が、プリアンプ21により増幅されてロックインアンプ22に入力する。また、ロックインアンプ22のXA出力端子には第1積分回路23の入力端子が接続され、ロックインアンプ22のYA出力端子には第2積分回路24の入力端子が接続されている。
【0036】
周波数制御装置30Aは、MC(マイクロコントローラ)31と、矩形波発生器32と、タイミング制御器33と、第1AD変換器34と、第2AD変換器35とを備える。矩形波発生器32の出力端子は、第1マイクロ波発振器11のFM変調入力端子FMaと第2マイクロ波発振器12のFM変調入力端子FMaとに接続されており、矩形波発生器32により発生された周波数FM1の矩形波が、変調信号として第1マイクロ波発振器11と第2マイクロ波発振器12とに入力する。
【0037】
ロックインアンプ22には、矩形波発生器32から出力された周波数FM1のFM変調信号が入力する。ロックインアンプ22は、矩形波発生器32の、この出力信号に同期して、後述の微分ODMRのアナログ信号を出力する。
【0038】
第1積分回路23の出力端子は、第1AD変換器34の入力端子と、第1マイクロ波発振器11のFM変調入力端子FMbに接続されている。他方で、第2積分回路24の出力端子は、第2AD変換器35の入力端子と、第2マイクロ波発振器12のFM変調入力端子FMbに接続されている。ロックインアンプ22のXA出力端子から出力されたアナログ信号である出力XAは、第1積分回路23で積分される。第1積分回路23の積分出力IXAは、第1AD変換器34と第1マイクロ波発振器11とに入力する。他方で、ロックインアンプ22のYA出力端子から出力されたアナログ信号である出力YAは、第2積分回路24で積分される。第2積分回路24の積分出力IYAは、第2AD変換器35と第2マイクロ波発振器12とに入力する。
【0039】
第1AD変換器34は、第1積分回路23から出力されたアナログ信号である積分出力IXAをデジタル信号に変換する。第2AD変換器35は、第2積分回路24から出力されたアナログ信号である積分出力IYAをデジタル信号に変換する。
【0040】
ロックインアンプ22は、矩形波発生器32から出力された周波数FM1のFM変調信号に同期して、プリアンプ21からの入力信号を検出する。MC31は、監視部311と、第1帰還制御部312と、第2帰還制御部313と、磁場・温度算出部314とを備える。なお、磁場・温度算出部314は、磁場と温度との少なくとも一方を算出すればよく、磁場と温度との双方を算出することは必須ではない。
【0041】
第1帰還制御部312の出力端子は、第1マイクロ波発振器11の基準周波数入力端子FDに接続されている。第1帰還制御部312は、第1AD変換器34から出力された第1デジタル信号に基づいて、第1マイクロ波発振器11の基準周波数FD1を算出して第1マイクロ波発振器11に出力する。基準周波数FD1は、ODMRのピーク(共鳴周波数RL)の近似値に設定される。
【0042】
第2帰還制御部313の出力端子は、第2マイクロ波発振器12の基準周波数入力端子FDに接続されている。第2帰還制御部313は、第2AD変換器35から出力された第2デジタル信号に基づいて、第2マイクロ波発振器12の基準周波数FD2を算出して第2マイクロ波発振器12に出力する。基準周波数FD2は、ODMRのピーク(共鳴周波数RH)の近似値に設定される。
【0043】
第1帰還制御部312から出力された基準周波数FD1と第2帰還制御部313から出力された基準周波数FD2とは、監視部311に入力する。監視部311は、第1帰還制御部312から出力された基準周波数FD1と、第1AD変換器34から出力されて第1帰還制御部312に入力した周波数(第1積分回路23のアナログ出力がAD変換されたものであり第1帰還制御部312の入力)との合計値を積算し、該積算値を監視する。他方で、監視部311は、第2帰還制御部313から出力された基準周波数FD2と、第2AD変換器35から出力されて第2帰還制御部313に入力した周波数(第2積分回路24のアナログ出力がAD変換されたものであり第2帰還制御部313の入力)との合計値を積算し、該積算値を監視する。
【0044】
第1マイクロ波発振器11には、第1帰還制御部312のデジタル出力である基準周波数FD1の信号と、矩形波発生器32の矩形波出力である周波数FM1のFM変調信号と、第1積分回路23のアナログ出力である積分出力IXAとが入力される。第1マイクロ波発振器11は、基準周波数FD1の信号を周波数FM1のFM変調信号と積分出力IXAとで周波数変調した周波数FAL(下記(4)式参照)のFM変調波を出力する。
FAL=FD1+IXA*α±FDEV …(4)
但し、αは、第1マイクロ波発振器11のFMb端子への1Vの入力による周波数の偏移幅である。
【0045】
第2マイクロ波発振器12には、第2帰還制御部313のデジタル出力である基準周波数FD2の信号と、矩形波発生器32の矩形波出力である周波数FM1のFM変調信号と、第2積分回路24のアナログ出力である積分出力IYAとが入力される。第2マイクロ波発振器12は、基準周波数FD2の信号を周波数FM1のFM変調信号と積分出力IYAとで周波数変調した周波数FAH(下記(5)式参照)のFM変調波を出力する。
FAH=FD2+IYA*α±FDEV …(5)
但し、αは、第2マイクロ波発振器12のFMb端子への1Vの入力による周波数の偏移幅である。
【0046】
磁場・温度算出部314は、下記(6)式により磁場BAを算出し、下記(7)式により温度TAを算出する。
BA=1/γ*{(FD1+IXA*α)-(FD2+IYA*α)} …(6)
TA=1/T*{((FD1+IXA*α)+(FD2+IYA*α))/2} …(7)
γは磁気回転比(28.07MHz/mT)である。TはNVセンタの温度係数(-74.2kHz/K)である。
【0047】
図7は、2点のODMRのピークの検出方法を説明するための波形図である。
図7の上段の波形は、ODMRの蛍光強度のスペクトルを示し、
図7の下段の波形は、基準周波数FD1の信号を周波数FM1のFM変調信号で周波数変調した場合に得られるODMRの蛍光強度の変化率(以下、微分ODMRという)のスペクトルを示す。この図の左側のODMRのピークの周波数(共鳴周波数R
L)は、基準周波数FD1の近似値であり、この図の右側のODMRのピークの周波数(共鳴周波数R
H)は、基準周波数FD2の近似値である。
【0048】
図7の下段左側に示す微分ODMRが0になる周波数は共鳴周波数R
Lと一致する。
図7の下段左側に示す微分ODMRは、ロックインアンプ22のXA出力端子からの出力である。他方で、
図7の下段右側に示す微分ODMRが0になる周波数は共鳴周波数R
Hと一致する。
図7の下段右側に示す微分ODMRは、ロックインアンプ22の出力端子YAからの出力である。
【0049】
第1センサユニット1Aでは、ロックインアンプ22の出力端子XA,YAからの出力XA,YAを用いて、第1及び第2マイクロ波発振器11,12のマイクロ波の周波数FAL,FAHを一組の共鳴周波数RL,RHに同時に追随させ、温度ドリフトの影響を分離した磁場BAを計測する。
【0050】
図8は、ODMRと第1及び第2マイクロ波発振器11,12の出力パルスと矩形波発生器32(
図6参照)の出力パルスとの関係を示すシーケンスチャートである。このシーケンスチャートに示すように、第1マイクロ波発振器11のFM変調信号の周波数FM1と第2マイクロ波発振器12のFM変調信号の周波数FM1とは、同一である。他方で、第1マイクロ波発振器11のFM変調信号と第2マイクロ波発振器12のFM変調信号との位相は90°異なる。また、スイッチ13により第1マイクロ波発振器11の出力と第2マイクロ波発振器12の出力とを切り替えるスイッチング信号S
MODの周波数は、周波数FM1の2倍である。さらに、当該スイッチング信号の変化点(立ち上がり位相及び立ち下がり位相)が、第1マイクロ波発振器11及び第2マイクロ波発振器12のFM変調信号の変化点(立ち上がり位相及び立ち下がり位相)とは、45°異なる。
【0051】
ここで、上述したロックインアンプ22の出力XAは、共鳴周波数RLからのずれを表す値であり、下記(8)式で表される。また、上述したロックインアンプ22の出力YAは、共鳴周波数RHからのずれを表す値であり、下記(9)式で表される。
XA=K((PLA+PLB)/2-RL)…(8)
YA=K((PHA+PHB)/2―RH)…(9)
但し、PLAは、共鳴周波数RLの低周波側の動作点であり、下記(10)式で表され、PLBは、共鳴周波数RLの高周波側の動作点であり、下記(11)式で表される。また、Kは比例定数である。
PLA=FD1+IXA*α-FDEV…(10)
PLB=FD1+IXA*α+FDEV…(11)
また、PHAは、共鳴周波数RHの低周波側の動作点であり、下記(12)式で表され、PHBは、共鳴周波数RHの高周波側の動作点であり、下記(13)式で表される。
PHA=FD2+IYA*α-FDEV…(12)
PHB=FD2+IYA*α+FDEV…(13)
【0052】
4点の動作点PLA,PLB,PHA,PHBは、ODMRの共鳴周波数の近傍のスペクトルにおける「谷」の両斜面上で同じ蛍光強度の点であり、第1及び第2マイクロ波発振器11,12のFM変調信号の1周期内で90°ずつ位相をずらして出現する。
【0053】
ロックインアンプ22の出力XA,YAは、相互に直交位相成分の関係にある。出力XAを積分した積分出力IXAが第1マイクロ波発振器11のFM変調入力端子FMbに入力されることにより第1マイクロ波発振器11のマイクロ波の周波数FALが制御される。また、YAを積分した積分出力IYAが第2マイクロ波発振器12のFM変調入力端子FMbに入力されることにより第2マイクロ波発振器12のマイクロ波の周波数FAHが制御される。これにより、第1及び第2マイクロ波発振器11,12のマイクロ波の周波数FAL,FAHの帰還制御を相互に独立に実施できる。
【0054】
ここで、第1マイクロ波発振器11のマイクロ波の周波数FALを共鳴周波数RLに追随させるためには、共鳴周波数RLの動作点PLA,PLBの中央値(PLA+PLB)/2からの変化量が、ODMRスペクトルの「谷」のピークに対する半値半幅H/2程度以内である必要がある。Hは、半値全幅であり、ダイヤモンド素子2AのNVセンタの特性により異なるが、一般的には数百kHz~数MHzの範囲である。
【0055】
同様に、第2マイクロ波発振器12のマイクロ波の周波数FAHを共鳴周波数RHに追随させるためには、共鳴周波数RHの動作点PHA,PHBの中央値(PHA+PHB)/2からの変化量が、ODMRスペクトルの「谷」のピークに対する半値半幅H/2程度以内である必要がある。
【0056】
特に、電気自動車の出力電流のレンジの拡大に伴う測定レンジの拡大に対応するために、第1及び第2マイクロ波発振器11,12のマイクロ波の周波数FAL,FAHを、動作点PLA,PLB,PHA,PHBの1GHz以上の変動に追随して遷移させる必要がある。そこで、本実施形態では、以下説明するように、第1積分回路23のアナログ出力を、共鳴周波数RLの変動時間よりは十分に短い一定時間毎に、第1AD変換器34によりAD変換し、第1マイクロ波発振器11の基準周波数FD1に帰還制御する。また、第2積分回路24のアナログ出力を、共鳴周波数RHの変動時間よりは十分に短い一定時間毎に、第2AD変換器35によりAD変換し、第2マイクロ波発振器12の基準周波数FD2に帰還制御する。
【0057】
図9は、共鳴周波数R
Lが変動した場合における第1積分回路23のアナログ出力及び基準周波数FD1の変動を示すタイミングチャートである。なお、共鳴周波数R
Lが変動した場合における第1積分回路23のアナログ出力及び基準周波数FD1の変動について説明するが、共鳴周波数R
Hが変動した場合における第2積分回路24のアナログ出力及び基準周波数FD2の変動も同様である。
【0058】
図9のタイミングチャートに示すように、共鳴周波数R
Lの変化量がODMRのピークの半値半幅H/2以内であれば、第1積分回路23のアナログ出力は、共鳴周波数R
Lに必ず追随して変化する。しかしながら、共鳴周波数R
Lの変化量が半値半幅H/2を超える場合は、第1積分回路23のアナログ出力は、共鳴周波数R
Lに追随できなくなる場合が生じる。そこで、共鳴周波数R
Lの変化量が半値半幅H/2の一定割合以上の場合には、基準周波数FD1を半値半幅H/2の一定割合だけ変化させる。ここで一定割合とは1未満の定数である。これにより第1積分回路23のアナログ出力は0に戻る。共鳴周波数R
Lの変化量がさらに増大して半値半幅H/2の一定割合に達する場合には、基準周波数FD1をさらに半値半幅H/2の一定割合だけ変化させる。これにより第1積分回路23のアナログ出力は0に戻る。このように共鳴周波数R
Lの変化量に合わせて基準周波数FD1を変化させることを繰り返すことにより、第1積分回路23の出力を、第1マイクロ波発振器11の周波数変調幅として、ODMRのピークの半値半幅H/2の一定割合に対応した値以内に抑えることができる。
【0059】
ここで、第1積分回路23から第1マイクロ波発振器11のFM変調入力端子FMbへの制御パスはアナログ信号であることから、共鳴周波数RLの変化に高速に追随できる。しかしながら、帰還制御、基準周波数FD1の更新、基準周波数FD1の更新に基づく第1マイクロ波発振器11のマイクロ波の周波数FALの変化は、第1AD変換器34におけるAD変換とその結果のデジタル信号処理を伴うデジタル信号のパスであることから、一定の遅延を伴う。このため、基準周波数FD1を監視するだけでは動作点PLA,PLBを監視していることにはならない。
【0060】
また、第2積分回路24から第2マイクロ波発振器12のFM変調入力端子FMbへの制御パスはアナログ信号であることから、共鳴周波数RHの変化に高速に追随できる。しかしながら、帰還制御、基準周波数FD2の更新、基準周波数FD2の更新に基づく第2マイクロ波発振器12のマイクロ波の周波数FAHの変化は、第2AD変換器35におけるAD変換とその結果のデジタル信号処理とを伴うデジタル信号のパスであることから、一定の遅延を伴う。このため、基準周波数FD2を監視するだけでは動作点PHA,PHBを監視していることにはならない。
【0061】
そこで、本実施形態では、電池残量を正確に計測するために、監視部311が、第1帰還制御部312から出力された基準周波数FD1と、第1AD変換器34から出力されて第1帰還制御部312に入力した周波数(第1積分回路23のアナログ出力がAD変換されたものであり第1帰還制御部312の入力)との合計値を積算し、該積算値を監視する。また、監視部311が、第2帰還制御部313から出力された基準周波数FD2と、第2AD変換器35から出力されて第2帰還制御部313に入力した周波数(第2積分回路24のアナログ出力がAD変換されたものであり第2帰還制御部313の入力)との合計値を積算し、該積算値を監視する。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係るセンサ1では、第1及び第2センサユニット1A,1Bにより、温度ドリフトの影響を分離した磁場BA,BBを計測することができる。従って、計測された磁場BA,BBの差分を演算して当該差分に基づいてバスバ9の電流による磁場BIを求めることにより、ダイヤモンド素子2A,2Bの位置による温度差にかかわらず、外部磁場BOの影響を抑えた高精度な磁場BIの計測を実現できる。
【0063】
特に、本実施形態に係るセンサ1では、第1センサユニット1Aのダイヤモンド素子2Aと第2センサユニット1Bのダイヤモンド素子2Bとが、バスバ9を挟んで対向するように配されている。また、ダイヤモンド素子2Aとバスバ9の下面との距離とダイヤモンド素子2Bとバスバ9の上面との距離とが等しく設定されている。これにより、第1及び第2センサユニット1A,1Bにより、バスバ9周囲の磁場及び温度を計測できる。また、バスバ9の上下両側の温度勾配を計測できる。
【0064】
また、第1及び第2センサユニット1A,1Bでは、ダイヤモンド素子2A,2Bから発せられる赤色蛍光RLが光センサ4A,4Bで検出された後、ロックイン検出装置20Aから周波数制御装置30Aを介してマイクロ波発生装置10Aに至る帰還制御及びロックイン検出装置20Bから周波数制御装置30Bを介してマイクロ波発生装置10Bに至る帰還制御によりマイクロ波の周波数FAL,FAH,FBL,FBHが制御される。この制御においては、ダイヤモンド素子2A,2BのODMRスペクトルの”谷”の中心位置を追跡しているのであって、”谷”の深さや”谷”の幅などの細部の特性がダイヤモンド素子2Aと2Bとで相互に若干異なっても影響が無い。従って、ダイヤモンド素子2A,2Bの特性のばらつきにかかわらず、外部磁場BOの影響を抑えた高精度な磁場BIの計測を実現できる。また、ロックインアンプ22の出力XA,YAを第1及び第2積分回路23,24で積分してから直接、第1及び第2マイクロ波発振器11,12に帰還することによる、ロックイン検出装置20Aからマイクロ波発生装置10Aに直接に帰還する制御、及び、ロックイン検出装置20Bからマイクロ波発生装置10Bに直接に帰還する制御が可能であるので、第1及び第2マイクロ波発振器11,12のマイクロ波の周波数FAL,FAH,FBL,FBHを高速で共鳴周波数RL,RHに追随させることができる。
【0065】
また、本実施形態に係るセンサ1では、ロックイン検出装置20A,20Bの出力を周波数制御装置30A,30Bに入力させる。そして、ロックイン検出装置20A,20Bの出力が、ODMRの半値半幅H/2の1未満の一定割合以上である場合に、マイクロ波発生装置10A,10Bの基準周波数を変化させる。これにより、ODMRのピークの変動レンジがODMRのピークの半値半幅H/2を超える程大きい場合でも、ODMRのピークの変動に追随してマイクロ波発生装置10A,10Bの周波数FAL,FAH,FBL,FBHを調整することができる。従って、ダイナミックレンジの大きい外乱への追随も可能になり、電気自動車のバスバ9の漏洩電流等の高精度な検出も可能となる。また、ロックイン検出装置20A,20B出力は、光センサ4A,4Bの出力変化を積分したものであり、ダイヤモンド素子2A,2Bで検知される磁場・温度変化を積分したものとなっている。このため過渡的に急激な磁場・温度変化が生じたとしても、ロックイン検出装置20A,20Bの出力には積分時定数で平滑化された変化しか現れない。このため、周波数制御装置30A,30Bが上記積分時定数よりは十分に短い時間間隔でロックイン検出装置20A,20B出力及びその計測結果に基づいて周波数制御装置30A,30Bがマイクロ波発生装置10A,10Bに指示する基準周波数の変更指示を積算することにより、磁場・温度の正確な積算が可能である。このため、過渡的には、上記負帰還回路の帰還制御に遅れが生じたとしても、ある時間が経過後に、上記負帰還回路の帰還制御が追随すれば、電流の積分値は正確に計測できていることになる。よって、電気自動車において特に重要となるバッテリからの電荷の充放電量の正確な把握が可能になる。
【0066】
また、本実施形態に係るセンサ1では、第1マイクロ波発振器11のFM変調信号と第2マイクロ波発振器12のFM変調信号とは、互いに位相が90°異なる。また、スイッチ13により、第1マイクロ波発振器11と第2マイクロ波発振器12の出力とを切り替えるスイッチング信号SMODの周波数は、第1及び第2マイクロ波発振器11,12のFM変調信号の周波数FM1の2倍である。さらに、当該スイッチング信号の変化点(立ち上がり位相及び立ち下がり位相)が、第1マイクロ波発振器11及び第2マイクロ波発振器12のFM変調信号の変化点(立ち上がり位相及び立ち下がり位相)とは45°異なる。これにより、第1及び第2センサユニット1A,1Bのそれぞれに1個のロックインアンプ22を設ければよく、第1及び第2センサユニット1A,1Bの装置構成を簡素化できる。
【0067】
また、本実施形態に係るセンサ1では、一対の第1及び第2磁石6,7がバスバ9を挟んで対向するように配してバスバ9の周囲に静磁場を印加することにより、常に、共鳴周波数RL,RHのスプリット(RL-RH)を所定値(>0)以上に維持している。これによって、共鳴周波数RL,RHのスプリットが減少する方向に大きく変化した場合であっても、スプリットを確保でき、スプリットで規定される磁場BA,BBを計測できる。
【0068】
また、本実施形態に係るセンサ1では、ダイヤモンド素子2A,2Bがバスバ9を挟んで対向するように配したことにより、バスバ9がダイヤモンド素子2A,2B間で電磁シールドとして機能する。これにより、第1及び第2センサユニット1A,1Bの相互間でマイクロ波の干渉を防止できる。
【0069】
また、本実施形態に係るセンサ1では、第1センサユニット1Aと第2センサユニット1Bとで光学系8の光源81を共通にしたことにより、光源81の同相ノイズに対して不感とすることができる。
【0070】
図10は、本発明の他の実施形態に係るセンサ1’の概略を示す図である。なお、上述の実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、上述の実施形態についての説明を援用する。
【0071】
図10に示すように、本実施形態のセンサ1’では、第1センサユニット1Aのダイヤモンド素子2Aと第2センサユニット1Bのダイヤモンド素子2Bとが、バスバ9をその厚み方向に挟んで対向するように配されている。ここで、ダイヤモンド素子2A,2Bの<111>方向が、バスバ9の上下面に対して垂直に配されている。
図1では<111>方向がバスバ9の上下面に平行に配置されていたが、このように垂直に配されても、ダイヤモンド素子2A,2Bの複数のNV軸は、バスバ9の上下面に平行な成分を有するNV軸を含む。なぜなら
図2に示すようにNV軸は必ず4方位を有するからである。
図1と同様に、第1磁石6と第2磁石7とは、ダイヤモンド素子2A,2Bを挟んでバスバ9の上下面に平行な方向の静磁場をダイヤモンド素子2A,2Bに印加する。それに対して、アンテナ5A,5Bは、バスバ9の電流の方向に対して直交する方位のNV軸に対して直交する方向にマイクロ波磁場を放射する。
【0072】
図11は、本発明の他の実施形態に係るセンサ1”の概略を示す図である。なお、上述の実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、上述の実施形態についての説明を援用する。
【0073】
図11に示すように、本実施形態のセンサ1”は、第1及び第2センサユニット1A,1Bに加えて、第3及び第4センサユニット1C,1Dを備える。第1及び第2センサユニット1A,1Bの構成は、上述の実施形態のセンサ1’と同様である。
【0074】
第3センサユニット1Cは、ダイヤモンド素子2Cと、光センサ4Cと、アンテナ5Cと、制御装置100Cとを備える。ダイヤモンド素子2Cは、NVセンタを有し、バスバ9の一方の側面(図中の左側面)に近接して配されている。光学系8は、励起光として緑色光GLをダイヤモンド素子2Cに照射する。光センサ4Cは、NVセンタの電子スピン共鳴に起因して生じる光信号を検知する。アンテナ5Cは、ダイヤモンド素子2Cに周波数可変のマイクロ波磁場を放射する。制御装置100Cは、マイクロ波発生装置10Cと、ロックイン検出装置20Cと、周波数制御装置30Cとを備える。マイクロ波発生装置10Cは、アンテナ5Cにマイクロ波を供給する。ロックイン検出装置20Cの機能は、上述のロックイン検出装置20A,20Bと同様であり、周波数制御装置30Cの機能は、上述の周波数制御装置30A,30Bの機能と同様である。
【0075】
第4センサユニット1Dは、ダイヤモンド素子2Dと、光センサ4Dと、アンテナ5Dと、制御装置100Dとを備える。ダイヤモンド素子2Dは、NVセンタを有し、バスバ9の他方の側面(図中の右側面)に近接して配されている。光学系8は、励起光として緑色光GLをダイヤモンド素子2Dに照射する。光センサ4Dは、NVセンタの電子スピン共鳴に起因して生じる光信号を検知する。アンテナ5Dは、ダイヤモンド素子2Dに周波数可変のマイクロ波磁場を放射する。制御装置100Dは、マイクロ波発生装置10Dと、ロックイン検出装置20Dと、周波数制御装置30Dとを備える。マイクロ波発生装置10Dは、アンテナ5Dにマイクロ波を供給する。ロックイン検出装置20Dの機能は、上述のロックイン検出装置20A,20B,20Cと同様であり、周波数制御装置30Dの機能は、上述の周波数制御装置30A,30B,30Cの機能と同様である。
【0076】
ダイヤモンド素子2Cとダイヤモンド素子2Dとが、バスバ9を電流の方向に対して直交する方向に挟んで対向するように配されている。ここで、ダイヤモンド素子2C,2Dの<111>方向が、バスバ9の側面に対して平行に配されている。ダイヤモンド素子2C,2Dの複数のNV軸は、バスバ9の電流の方向に対して直交する方位のNV軸を含む。それに対して、アンテナ5C,5Dは、ダイヤモンド素子2C,2Dのバスバ9の電流の方向に対して直交する方位のNV軸に対して直交する方向にマイクロ波磁場を放射する。
【0077】
第1磁石6及び第2磁石7は、バスバ9の厚み方向にダイヤモンド素子2A,2B及びバスバ9を挟むように配されており、ダイヤモンド素子2A~2Dのバスバ9の電流の方向に対して直交する方位のNV軸に対して平行な方向に静磁場を印加する。
【0078】
演算処理装置200は、バスバ9の電流による磁場BIを下記(14)式により算出する。
BI=((BD-BC)+(BB-BA)/β)/4…(14)
ただし、BAは第1センサユニット1Aで計測される磁場であり、下記(15)式により算出される。また、BBは第2センサユニット1Bで計測される磁場であり、下記(16)式により算出される。また、βは、バスバ9に流れる電流から生じる磁場BIがダイヤモンド素子2A,2Bの<111>方向に対し垂直に印加されることによる第1及び第2センサユニット1A,1Bの感度低下を考慮して設定された定数である。この定数βは、事前のキャリブレーションまたはシミュレーションにより推定される。また、BCは第3センサユニット1Cで計測される磁場であり、下記(17)式により算出される。また、BDは第4センサユニット1Dで計測される磁場であり、下記(18)式により算出される。
BA=-β×BI+BO…(15)
BB=β×BI+BO…(16)
BC=-BI+BO…(17)
BD=BI+BO…(18)
【0079】
本実施形態のセンサ1”によれば、外部磁場BOの影響をより精密に除去してバスバ9の電流による磁場BIを計測できる。
【0080】
図12は、本発明の他の実施形態に係るセンサ1Yの概略を示す図である。なお、上述の実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、上述の実施形態についての説明を援用する。
【0081】
図12に示すように、本実施形態のセンサ1Yは、第1~第4センサユニット1A~1Dを備える。第1センサユニット1Aのダイヤモンド素子2Aと第2センサユニット1Bのダイヤモンド素子2Bとは、バスバ9をその厚み方向に挟んで対向している。ここで、ダイヤモンド素子2Aは、バスバ9の下面に近接され、ダイヤモンド素子2Bは、バスバ9の上面に近接されている。
【0082】
第3センサユニット1Cのダイヤモンド素子2Cと第4センサユニット1Dのダイヤモンド素子2Dとは、バスバ9及びダイヤモンド素子2A,2Bをバスバ9の厚み方向に挟むように配されている。ここで、ダイヤモンド素子2Cとバスバ9との距離は、ダイヤモンド素子2Aとバスバ9との距離よりも長い。また、ダイヤモンド素子2Dとバスバ9との距離は、ダイヤモンド素子2Bとバスバ9との距離よりも長い。
【0083】
図13は、
図12に示す第1~第4センサユニット1A~1Dにより計測される磁場の変化を示す図である。この図には、バスバ9の電流が同一である場合に第1~第4センサユニット1A~1Dにより計測される磁場の変化を示している。また、この図の横軸はマイクロ波の周波数であり、この図の縦軸はODMR(蛍光強度)である。
【0084】
図13に示すように、バスバ9の電流によってバスバ9の周囲に発生する磁場B
Iの大きさは、バスバ9から離れるほど小さくなる。他方で、バスバ9の電流の急激な変化は、バスバ9の近傍の第1及び第2センサユニット1A,1Bでは大きな磁場の変化として出現する。そのため、バスバ9の電流の急激な変化に第1及び第2センサユニット1A,1Bのマイクロ波の周波数F
AL,F
AH,F
BL,F
BHを追随させるのが困難になることも考えられる。他方で、バスバ9から離間した第3及び第4センサユニット1C,1Dに出現する磁場の変化は小さい。
【0085】
そこで、本実施形態では、バスバ9の電流に急激な変化があった場合には、第3及び第4センサユニット1C,1Dを使用することで、バスバ9の電流の急激な変化にセンサ1Yの磁気計測を追随させる。具体的には、演算処理装置200(
図1等参照)が、(IYA-IXA)-(IYB-IXB)の絶対値を算出し、算出した値が一定の短時間内に所定値を超える変化を示した場合には、バスバ9の電流に急激な変化があったと判断し、第3及び第4センサユニット1C,1Dの出力を用いて磁場B
Iを算出する。
【0086】
上述したように、IXAは、第1センサユニット1Aにおける一組の動作点PLA,PLBの共鳴周波数RLからのずれを表す出力XAの積分値であり、IYAは、第1センサユニット1Aにおける一組の動作点PHA,PHBの共鳴周波数RHからのずれを表す出力YAの積分値である。同様に、IXBは、第2センサユニット1Bにおける一組の動作点PLA,PLBの共鳴周波数RLからのずれを表す出力XBの積分値であり、IYBは、第2センサユニット1Bにおける一組の動作点PHA,PHBの共鳴周波数RHからのずれを表す出力YBの積分値である。(IYA-IXA)-(IYB-IXB)の絶対値の増大は、第1積分回路23及び第2積分回路24による第1及び第2センサユニット1A,1Bの動作点PLA,PLB,PHA,PHBへのフィードバックの増大を表している。即ち、(IYA-IXA)-(IYB-IXB)の絶対値の急激な増大は、バスバ9の電流に急激な変化が生じたことを表している。
【0087】
ここで、(IYA-IXA)の絶対値、或いは(IYB-IXB)の絶対値を観測する場合には外部磁場BOの影響が観測に及ぶ。それに対して、(IYA-IXA)-(IYB-IXB)の絶対値を観測することにより、外部磁場BOという雑音の影響を除去し、バスバ9の電流で発生する磁場BIの大きさを精度良く計測できる。
【0088】
図14は、本発明の他の実施形態に係るセンサ1Zの概略を示す図である。なお、上述の実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、上述の実施形態についての説明を援用する。
【0089】
図14に示すように、本実施形態のセンサ1Zは、第1~第4センサユニット1A~1Dを備える。第1センサユニット1Aのダイヤモンド素子2Aと第3センサユニット1Cのダイヤモンド素子2Cとがバスバ9の上面側においてバスバ9の幅方向に並べて配されている。他方で、第2センサユニット1Bのダイヤモンド素子2Bと第4センサユニット1Dのダイヤモンド素子2Dとがバスバ9の下面側においてバスバ9の幅方向に並べて配されている。また、ダイヤモンド素子2Aとダイヤモンド素子2Dとがバスバ9をその厚み方向に挟んで対向するように配され、ダイヤモンド素子2Cとダイヤモンド素子2Bとがバスバ9をその厚み方向に挟んで対向するように配されている。
【0090】
図15は、
図14に示す第1~第4センサユニット1A~1Dにより出力されるODMRスペクトルを示す図である。この図に示すように、第1及び第2センサユニット1A,1BのODMRスペクトルの「谷」の幅は、第3及び第4センサユニット1C,1DのODMRスペクトルの「谷」の幅よりも狭い。ここで、この「谷」の幅が狭いほど、上記(8),(9)式の比例定数Kが大きくなる。この比例定数Kが大きくなるほど、信号対雑音比が向上する。しかしながら、比例定数Kが大きくなるほど、センサ出力が最大値に達した状態(飽和状態)になり易くなる。このため、上述の実施形態のセンサ1Yと同様、本実施形態では、バスバ9の電流に急激な変化があった場合には、第3及び第4センサユニット1C,1Dを使用することで、バスバ9の電流の急激な変化にセンサ1Yの磁気計測を追随させる。具体的には、演算処理装置200(
図1等参照)が、(IYA-IXA)-(IYB-IXB)の絶対値を算出し、算出した値が一定の短時間内に所定値を超える変化を示した場合には、バスバ9の電流に急激な変化があったと判断し、第3及び第4センサユニット1C,1Dの出力を用いて磁場B
Iを算出する。
【0091】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み合わせてもよい。
【0092】
例えば、本実施形態では、励振対象のカラーセンタを有する素子はNVセンタを有するダイヤモンド素子としたが、当該素子を、スズ(Sn)と空孔とからなるSnVカラーセンタを有するダイヤモンド素子、シリコン(ケイ素)(Si)と空孔とからなるSiVカラーセンタを有するダイヤモンド素子、又はゲルマニウム(Ge)と空孔とからなるGeVカラーセンタを有するダイヤモンド素子等の他のものにしてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1,1’, 1”, 1Y,1Z:センサ
1A :第1センサユニット(第1磁気センサ)
1B :第2センサユニット(第2磁気センサ)
1C :第3センサユニット(第3磁気センサ)
1D :第4センサユニット(第4磁気センサ)
2A,2B,2C,2D :ダイヤモンド素子(素子)
4A,4B,4C,4D :光センサ
5A,5B,5C,5D :アンテナ
6,7 :磁石(磁石対)
8 :光学系
9 :バスバ(電流線)
11 :第1マイクロ波発振器
12 :第2マイクロ波発振器
13 :スイッチ
22 :ロックインアンプ
23 :第1積分回路
24 :第2積分回路
81 :光源
100A,100B :制御装置(制御部)
100C,100D :制御装置(制御部)
200 :演算処理装置(演算装置)
314 :磁場・温度算出部
BA,BB,BC,BD,BI:磁場(出力)
FAL :周波数(第1マイクロ波の周波数)
FAH :周波数(第2マイクロ波の周波数)
SMOD :スイッチング信号
TA,TB :温度(出力)
FM1 :周波数(所定の変調周波数)
XA :出力(第1出力)
YA :出力(第2出力)
IXA :積分出力(第1積分出力)
IYA :積分出力(第2積分出力)
GL :緑色光(励起光)
RL :赤色蛍光(蛍光)