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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097594
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
   B23K 10/00 20060101AFI20230703BHJP
   B23K 10/02 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
B23K10/00 504
B23K10/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213804
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】高田 主税
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BA04
4E001BB11
4E001DD02
4E001DD03
4E001ME04
(57)【要約】
【課題】構造の簡素化および先端部の小型化を図りつつ、低溶融金属を溶接するのに適した溶接トーチを提供する。
【解決手段】溶接トーチA1は、軸線CL方向に延びる電極25と、電極25の外側に配置された第1部材30と、電極25の外側に配置された内側ノズル35と、第1部材30と内側ノズル35に跨って外嵌され、第1部材30と内側ノズル35の双方に係止する係止部材38と、内側ノズル35の外側に配置された外側ノズル36と、電極25の外側且つ内側ノズル35の内側に配置された芯出し部材39と、を備え、芯出し部材39は電極25に対して同心円状に外嵌され、且つ内側ノズル35は芯出し部材39に対して同心円状に外嵌され、電極25と内側ノズル35との間には、第1不活性ガスを流す第1ガス流路G1が形成され、内側ノズル35と外側ノズル36との間には、第2不活性ガスを流す第2ガス流路G2が形成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる非消耗電極と、
前記非消耗電極の径方向外側に配置された筒状の第1部材と、
前記非消耗電極の径方向外側で、且つ前記第1部材に対して前記軸線方向の一方側に配置された内側ノズルと、
前記第1部材における前記軸線方向の一方側の第1端部、および前記内側ノズルにおける前記軸線方向の他方側の第2端部に跨って外嵌され、前記第1部材および前記内側ノズルの双方に係止する係止部材と、
前記内側ノズルの径方向外側に配置された外側ノズルと、
前記非消耗電極の径方向外側で、且つ前記内側ノズルの径方向内側に配置された電極芯出し部材と、を備え、
前記電極芯出し部材は、前記非消耗電極に対して同心円状に外嵌され、且つ前記内側ノズルは前記電極芯出し部材に対して同心円状に外嵌されており、
前記非消耗電極と前記内側ノズルとの間には、第1不活性ガスを流すための第1ガス流路が形成されており、
前記内側ノズルと前記外側ノズルとの間には、第2不活性ガスを流すための第2ガス流路が形成されている、溶接トーチ。
【請求項2】
前記係止部材と前記第1部材の前記第1端部とは、ねじ接続されている、請求項1に記載の溶接トーチ。
【請求項3】
前記第1ガス流路に通じる第1ガス入口と、前記第2ガス流路に通じる第2ガス入口と、を有し、
前記第1ガス入口に導入される前記第1不活性ガスの流量、および前記第2ガス入口に導入される前記第2不活性ガスの流量は、それぞれ個別に調整される、請求項1または2に記載の溶接トーチ。
【請求項4】
前記第1不活性ガスおよび前記第2不活性ガスは、いずれもアルゴンガスおよびヘリウムガスより選択される少なくとも1種のガスである、請求項3に記載の溶接トーチ。
【請求項5】
前記第1ガス流路において前記非消耗電極と前記内側ノズルとの最小隙間である第1最小隙間は、前記第2ガス流路において前記内側ノズルと前記外側ノズルとの最小隙間である第2最小隙間の0.2~0.5倍である、請求項1ないし4のいずれかに記載の溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
非消耗電極を備えた溶接トーチを用いて行う溶接(TIG溶接法やプラズマ溶接法)では、通常、タングステンで形成された電極(非消耗電極)と被溶接物との間にアークを発生させ、そのアークの熱で被溶接物を溶融する。TIG溶接法では、ガスノズルと電極の間にシールドガスが流される。プラズマ溶接法では、シールドガスに加えて、電極の周囲に配置されたインサートチップの内部にプラズマガスを流すことで、アーク(プラズマアーク)が拘束される。その結果、集中性の良い高温プラズマ流が発生され、その保有エネルギを利用して溶接を行う。
【0003】
亜鉛めっき鋼板などの比較的融点が低い金属(低溶融金属)を溶接する場合、溶接熱によって亜鉛蒸気やヒュームが生じる。ヒューム等の金属が電極に付着すると、溶接時に発生するアークが不安定となる。TIG溶接法においては、通常、電極の先端がノズル先端から突出しており、当該電極の先端がヒューム等の金属で覆われてしまうと、溶接開始時に着火不良が生ずるおそれがある。プラズマ溶接法においては、通常、電極を囲むインサートチップの先端よりも電極の先端が退避している。また、インサートチップの内部(電極の周囲)にプラズマガスが流される。このため、亜鉛めっき鋼板などの低溶融金属を溶接する場合、プラズマ溶接法では、TIG溶接法と比べてヒューム等の金属は電極に付着しにくい。その一方、プラズマ溶接法では、上記ヒューム等の金属がインサートチップの先端に付着する場合があり、そうするとインサートチップ先端と合金化する。このインサートチップ先端の合金化によって、アーク不良や溶接不良を招くおそれがある。
【0004】
特許文献1においては、インサートチップの先端のプラズマガス噴出孔の周囲に、小径孔からなる複数のサイドプラズマガス噴出孔を設けた構成が開示されている。これら複数のサイドプラズマガス噴出孔を追加的に設けることで、溶接時において、インサートチップの先端へのヒューム等の付着の低減が図られている。しかしながら、特許文献1に記載された構造では、インサートチップの構造が複雑になるとともに、インサートチップ(溶接トーチ)の先端の大型化を招いてしまう。また、電極の周囲に隙間を設けて配置されたインサートチップの軸線が電極の軸芯からずれていると、インサートチップの先端から噴出するプラズマガスに偏流が生じ、溶接品質の低下を招くおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-172644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、構造の簡素化および先端部の小型化を図りつつ、低溶融金属を溶接するのに適した溶接トーチを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される溶接トーチは、軸線方向に延びる非消耗電極と、前記非消耗電極の径方向外側に配置された筒状の第1部材と、前記非消耗電極の径方向外側で、且つ前記第1部材に対して前記軸線方向の一方側に配置された内側ノズルと、前記第1部材における前記軸線方向の一方側の第1端部、および前記内側ノズルにおける前記軸線方向の他方側の第2端部に跨って外嵌され、前記第1部材および前記内側ノズルの双方に係止する係止部材と、前記内側ノズルの径方向外側に配置された外側ノズルと、前記非消耗電極の径方向外側で、且つ前記内側ノズルの径方向内側に配置された電極芯出し部材と、を備え、前記電極芯出し部材は、前記非消耗電極に対して同心円状に外嵌され、且つ前記内側ノズルは前記電極芯出し部材に対して同心円状に外嵌されており、前記非消耗電極と前記内側ノズルとの間には、第1不活性ガスを流すための第1ガス流路が形成されており、前記内側ノズルと前記外側ノズルとの間には、第2不活性ガスを流すための第2ガス流路が形成されている。
【0009】
好ましい実施の形態においては、前記係止部材と前記第1部材の前記第1端部とは、ねじ接続されている。
【0010】
好ましい実施の形態においては、前記第1ガス流路に通じる第1ガス入口と、前記第2ガス流路に通じる第2ガス入口と、を有し、前記第1ガス入口に導入される前記第1不活性ガスの流量、および前記第2ガス入口に導入される前記第2不活性ガスの流量は、それぞれ個別に調整される。
【0011】
好ましい実施の形態においては、前記第1不活性ガスおよび前記第2不活性ガスは、いずれもアルゴンガスおよびヘリウムガスより選択される少なくとも1種のガスである。
【0012】
好ましい実施の形態においては、前記第1ガス流路において前記非消耗電極と前記内側ノズルとの最小隙間である第1最小隙間は、前記第2ガス流路において前記内側ノズルと前記外側ノズルとの最小隙間である第2最小隙間の0.2~0.5倍である。
【0013】
本発明の第2の側面によって提供される溶接システムは、本発明の第1の側面に係る溶接トーチと、前記第1ガス流路および前記第2ガス流路の双方に通じるガス供給源と、前記ガス供給源と前記第1ガス流路との間に介在し、前記第1ガス流路を流れる前記第1不活性ガスの量を調整する第1ガス調整部と、前記ガス供給源と前記第2ガス流路との間に介在し、前記第2ガス流路を流れる前記第2不活性ガスの量を調整する第2ガス調整部と、を備える。
【0014】
本発明の第3の側面によって提供される溶接システムは、本発明の第1の側面に係る溶接トーチと、前記第1ガス流路に通じる第1ガス供給源と、前記第2ガス流路に通じる第2ガス供給源と、前記第1ガス供給源と前記第1ガス流路との間に介在し、前記第1ガス流路を流れる前記第1不活性ガスの量を調整する第1ガス調整部と、前記第2ガス供給源と前記第2ガス流路との間に介在し、前記第2ガス流路を流れる前記第2不活性ガスの量を調整する第2ガス調整部と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る溶接トーチは、電極芯出し部材および係止部材を備える。電極芯出し部材は非消耗電極に対して同心円状に外嵌され、且つ内側ノズル電極芯出し部材に対して同心円状に外嵌されている。これにより、内側ノズルは、電極芯出し部材を介して非消耗電極に対して同心円状に配置されている。係止部材は、第1部材における軸線方向の一方側の第1端部と、内側ノズルにおける軸線方向の他方側の第2端部とに跨って外嵌されており、第1部材および内側ノズルの双方に係止する。このような構成によれば、係止部材と第1部材あるいは内側ノズルとの間には、径方向に多少の融通を持たせることができる。したがって、たとえば非消耗電極が製造誤差等に起因して多少曲がっていても、内側ノズルを非消耗電極に対して同心円状に配置することができる。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る溶接トーチを備えた溶接システムの一例を示す概略構成図である。
図2】本発明に係る溶接トーチの一例を示す斜視図である。
図3図2に示す溶接トーチの平面図である。
図4図3のIV-IV線に沿う断面図である。
図5図3のV-V線に沿う断面図である。
図6図4のVI-VI線に沿う拡大断面図である。
図7図4のVII-VII線に沿う拡大断面図である。
図8図4のVIII-VIII線に沿う拡大断面図である。
図9図4の部分拡大図である。
図10】溶接システムの他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る溶接トーチを備えた溶接システムの概略構成を示す図である。図2は、本発明に係る溶接トーチの一例を示す斜視図である。図3は、図2に示す溶接トーチの平面図である。図4は、図3のIV-IV線に沿う断面図である。図5は、図3のV-V線に沿う断面図である。図6は、図4のVI-VI線に沿う拡大断面図である。図7は、図4のVII-VII線に沿う拡大断面図である。図8は、図4のVIII-VIII線に沿う拡大断面図である。図9は、図4の部分拡大図である。
【0020】
図1に示す溶接システムB1は、被溶接物9に対して溶接を行うためのものである。被溶接物9は、金属よりなる板材である。より具体的には、被溶接物9は、たとえば亜鉛めっき鋼板などの低溶融金属よりなる板材である。図1に示す溶接システムB1は、ロボット1と、溶接トーチA1と、電源部4と、制御部5と、ガス供給源6と、第1ガス調整部71と、第2ガス調整部72と、ガス配管8と、を備えている。
【0021】
ロボット1は、マニピュレータ11を備えており、たとえば多関節ロボットである。溶接トーチA1は、マニピュレータ11に支持されている。マニピュレータ11が駆動することにより、溶接トーチA1が上下前後左右に自在に移動できる。
【0022】
電源部4は、溶接トーチA1に電力を供給するものである。被溶接物9には、電源部4が接続されている。ガス供給源6は、溶接トーチA1に所定の溶接用ガスを供給するためのものである。本実施形態において、ガス供給源6は、不活性ガスを高圧状態で貯留するガスボンベである。ガス供給源6に貯留された不活性ガスのガス種は特に限定されず、たとえばアルゴン(Ar)ガスおよびヘリウム(He)ガスより選択される少なくとも1種のガスである。本実施形態において、ガス供給源6に貯留された不活性ガスは、アルゴンガスである。
【0023】
ガス配管8は、ガス供給源6から溶接トーチA1へ不活性ガスを送るためのガス流路である。本実施形態では、ガス配管8は、二手に分岐して延びる第1ガス配管81および第2ガス配管82を含む。第1ガス配管81は、第1不活性ガスを溶接トーチA1へ送るためのガス流路である。第2ガス配管82は、第2不活性ガスを溶接トーチA1へ送るためのガス流路である。
【0024】
第1ガス調整部71は、第1ガス配管81に設けられており、たとえば電磁弁および流量計を含んで構成される。本実施形態において、当該電磁弁は、溶接作業の際、適宜開度調整がなされる。本実施形態では、上記ガス供給源6から供給される不活性ガスは、第1ガス調整部71により流量が調整されて、第1不活性ガスとして溶接トーチA1へ送られる。
【0025】
第2ガス調整部72は、第2ガス配管82に設けられており、たとえば電磁弁および流量計を含んで構成される。本実施形態において、当該電磁弁は、溶接作業の際、適宜開度調整がなされる。本実施形態では、上記ガス供給源6から供給される不活性ガスは、第2ガス調整部72により流量が調整されて、第2不活性ガスとして溶接トーチA1へ送られる。
【0026】
制御部5は、非消耗電極25と被溶接物9との間の電圧の制御や、第1ガス調整部71および第2ガス調整部72の電磁弁の開度の制御を行う。制御部5は、第1ガス調整部71における電磁弁の開度と、第2ガス調整部72における電磁弁の開度とを、別々に制御する。
【0027】
図2図9に示すように、溶接トーチA1は、トーチボディ20、非消耗電極25、リアコレット26、リアコレットボディ27、コレット押え部材28、コレット29、コレットボディ30、ブロック部材31、カバー32、ロックナット33、絶縁リング34、内側ノズル35、外側ノズル36、ノズルホルダ37、係止部材38および電極芯出し部材39を備えて構成されている。
【0028】
本実施形態において、トーチボディ20は、ブロック部材21および筒状部材22~24を含む。筒状部材23は、筒状部材22の径方向外側に配置されている。筒状部材24は、筒状部材23の径方向外側に配置されている。これら筒状部材22~24は、同心円状に配置されている。ブロック部材21は、筒状部材22~24を支持している。本実施形態では、ブロック部材21に筒状部材22が挿通された状態で、ブロック部材21は筒状部材22~24を支持している。筒状部材22~24は、たとえばろう付け等の適宜手段により、ブロック部材21と一体に連結されている。ブロック部材21は、電源部4からの電力供給を受ける部材であり、導電性材料よりなる。ブロック部材21を構成する導電性材料としては、たとえば銅が挙げられる。筒状部材22~24は、導電性材料よりなる。筒状部材22~24を構成する導電性材料としては、たとえば銅が挙げられる。
【0029】
非消耗電極25は、軸線CLに沿って延びる棒状の導体である。非消耗電極25は、たとえばタングステンからなる。非消耗電極25は、たとえばコンジットケーブル(図示略)を介して電源部4に接続されており、被溶接物9との間にアーク電圧を印加した際には被溶接物9との間にアークを発生させる。
【0030】
非消耗電極25は、電極主部251および電極テーパー部252を有する。電極主部251は、外径寸法が一定とされた部位であり、非消耗電極25の先端を除いた大部分を占める。なお、電極主部251は、設計上において外径寸法が一定となるように略円柱状に形成された部位であり、製造上における多少の誤差を含み得る。電極主部251の外径寸法は特に限定されず、本実施形態においては、たとえば約3.2mmである。電極テーパー部252は、電極主部251に対して非消耗電極25の先端側(軸線CL方向の一方側)につながっている。電極テーパー部252は、非消耗電極25の先端側(軸線CL方向の一方側)に向かうにつれて径寸法が小とされており、略円錐形状である。
【0031】
リアコレット26、リアコレットボディ27、コレット押え部材28、コレット29、およびコレットボディ30は、これらが互いに協働することにより非消耗電極25を保持するものである。リアコレット26、リアコレットボディ27、コレット押え部材28、コレット29、およびコレットボディ30は、導電性材料よりなる。リアコレット26、リアコレットボディ27、コレット押え部材28、コレット29、およびコレットボディ30を構成する導電性材料としては、たとえば銅が挙げられる。
【0032】
リアコレット26およびコレット29は、非消耗電極25を囲んでいる。リアコレット26は、非消耗電極25の基端寄り(軸線CL方向の他方側:図4図5における図中上側)に配置されている。コレット29は、非消耗電極25の先端寄り(軸線CL方向の一方側:図4図5における図中下側)に配置されている。
【0033】
リアコレットボディ27は、リアコレット26の径方向外側に配置されている。また、リアコレットボディ27は、筒状部材22の径方向内側に配置されている。詳細な図示説明は省略するが、リアコレットボディ27は、筒状部材22に対してねじ部が螺合している。リアコレットボディ27の軸線CL方向における他方側(図4図5における図中上側)には摘み部271が設けられている。この摘み部271を回すことによって、リアコレットボディ27は、筒状部材22に対する軸線CL方向の位置の調整が可能である。リアコレットボディ27の軸線CL方向における一方側端は、コレット29の軸線CL方向における他方側端に当接している。リアコレットボディ27を軸線CL方向の一方側に移動させると、コレット29は軸線CLの一方側に押し付けられる。コレットボディ30は、コレット29の径方向外側に配置されている。コレットボディ30は、トーチボディ20に対して軸線CL方向の一方側に配置されている。コレットボディ30は、非消耗電極25の径方向外側に配置されており、筒状とされている。コレットボディ30の軸線CL方向における他方側端は、筒状部材22の軸線CL方向の一方側に、たとえばねじ接続されている。これにより、コレットボディ30は、トーチボディ20(筒状部材22)に支持されている。
【0034】
コレット押え部材28は、リアコレットボディ27の径方向内側に配置されている。詳細な図示説明は省略するが、コレット押え部材28は、リアコレットボディ27に対してねじ部が螺合している。コレット押え部材28の軸線CL方向における他方側(図4図5における図中上側)には摘み部281が設けられている。この摘み部281を回すことによって、コレット押え部材28は、リアコレットボディ27に対する軸線CL方向の位置の調整が可能である。コレット押え部材28の軸線CL方向における一方側端は、リアコレット26の軸線CL方向における他方側端に当接している。コレット押え部材28を軸線CL方向の一方側に移動させると、リアコレット26は軸線CLの一方側に押し付けられる。
【0035】
リアコレット26およびコレット29は、それぞれ、先端側(軸線CL方向の一方側:図4図5における図中下側)において軸線CL方向に延びる複数のスリットが形成されており、隣接する相互のスリットの間に位置する複数ずつの可動片261,291を有する。上述のように、リアコレットボディ27を軸線CL方向の一方側に移動させると、コレット29は軸線CLの一方側に押し付けられる。そして、コレット29先端の複数の可動片291がコレットボディ30の先端部に押し付けられて縮径し、コレット29が非消耗電極25を挟んで保持する。また、上述のように、コレット押え部材28を軸線CL方向の一方側に移動させると、リアコレット26は軸線CLの一方側に押し付けられる。そして、リアコレット26先端の複数の可動片261がリアコレットボディ27の先端内周部に押し付けられて縮径し、リアコレット26が非消耗電極25を挟んで保持する。このように、リアコレット26、リアコレットボディ27、コレット押え部材28、コレット29、およびコレットボディ30が互いに協働することによって、非消耗電極25が強固に保持される。
【0036】
カバー32は、絶縁性材料からなる筒状部材であり、筒状部材24を覆っている。ロックナット33は、筒状部材24の下端(図4図5における図中下方側端)にねじ接続されており、かつカバー32の下端に当接している。
【0037】
図4図5に示すように、内側ノズル35は、非消耗電極25の先端寄り(軸線CL方向の一方側)の周囲に配置されている。内側ノズル35は、コレットボディ30に対して下方側(軸線CL方向の一方側)に配置されている。内側ノズル35は、略円筒状とされており、非消耗電極25(電極主部251)の径方向外側に配置されている。本実施形態では、内側ノズル35と非消耗電極25との間には、電極芯出し部材39が介在している。
【0038】
係止部材38は、コレットボディ30および内側ノズル35の双方に跨って外嵌されている。より具体的には、係止部材38は、コレットボディ30の下端部(軸線CL方向の一方側の端部)と、内側ノズル35の上端部(軸線CL方向の他方側の端部)とに跨って外嵌されている。係止部材38は、雌ねじ部381および先端側円筒部382を有する。雌ねじ部381は、係止部材38の上端側の内周に形成されている。先端側円筒部382は、係止部材38の下端側に設けられている。先端側円筒部382は、他の部位よりも小径とされた円筒形状部である。段部383は、係止部材38における軸線CL方向の中央に設けられている。図示した例において、係止部材38は、袋ナット構造とされている。
【0039】
本実施形態においては、図4図5図9に示すように、係止部材38とコレットボディ30の下端部とは、ねじ接続されている。たとえばコレットボディ30の下端部の外周には雄ねじ部301が形成されており、係止部材38の雌ねじ部381がコレットボディ30の雄ねじ部301に螺合している。一方、係止部材38の先端側円筒部382は、内側ノズル35に外嵌されるとともに、内側ノズル35の軸線CL方向の他方側端の外周に設けられた鍔部351によって係止部材38の段部383が係止されている。これにより、内側ノズル35および係止部材38の軸線CL方向への相対移動が制限されている。なお、上記構成のコレットボディ30は、本発明の「第1部材」の一例に相当する。
【0040】
電極芯出し部材39は、概略円筒状とされており、非消耗電極25の径方向外側で、且つ内側ノズル35の径方向内側に配置されている。内側ノズル35における軸線CL方向の他方側の内周には凹部353が形成されており、この凹部353に電極芯出し部材39の一部が内嵌されている。電極芯出し部材39の内径寸法は非消耗電極25(電極主部251)の外径寸法よりも僅かに大きい。これにより、これにより、電極芯出し部材39は、非消耗電極25に対して同心円状に外嵌されている。また、内側ノズル35(凹部353)の内径寸法は電極芯出し部材39の外径寸法よりも僅かに大きい。これにより、内側ノズル35は、電極芯出し部材39に対して同心円状に外嵌されている。したがって、内側ノズル35は、電極芯出し部材39を介して、非消耗電極25に対して同心円状に配置されている。図8に示すように、電極芯出し部材39の内周部には、複数の凹溝391が形成されている。これら凹溝391は、電極芯出し部材39の周方向に一定間隔で設けられている。凹溝391が形成された部位は、非消耗電極25との間に隙間が形成されており、当該隙間が後述の第1ガス流路G1を構成している。
【0041】
本実施形態において、非消耗電極25の先端は、軸線CL方向において内側ノズル35の先端と一致する、あるいは内側ノズル35の先端から軸線CL方向の一方側に少し突出している。非消耗電極25の先端が内側ノズル35の先端から軸線CL方向の一方側に突出する突出長さP1は、たとえば0~2mmの範囲である。
【0042】
ノズルホルダ37は、筒状とされている。ノズルホルダ37は、コレットボディ30の軸線CL方向の中間部の外周に、たとえばろう付け等の手段によって一体に連結されている。
【0043】
図4図5に示すように、外側ノズル36は、内側ノズル35の径方向外側に配置されている。図示した例では、外側ノズル36は、概略円筒状とされており、先端側(軸線CL方向の一方側)が他の部位と比べて小径とされている。本実施形態において、外側ノズル36は、非消耗電極25および内側ノズル35に対して同心円状に配置されている。外側ノズル36は、ノズルホルダ37の外周にねじ接続により取り付けられている。
【0044】
図4図9等に示すように、本実施形態において、内側ノズル35の先端は、外側ノズル36の先端から軸線CL方向の一方側に突出している。内側ノズル35の先端が外側ノズル36の先端から軸線CL方向の一方側に突出する突出長さP2は、たとえば0~5mmの範囲である。
【0045】
絶縁リング34は、絶縁性材料からなる筒状部材である。絶縁リング34は、軸線CL方向においてロックナット33と外側ノズル36との間に介在している。
【0046】
図4図9に示すように、本実施形態において、溶接トーチA1には、第1ガス流路G1、第2ガス流路G2および冷却水流路Wが形成されている。
【0047】
第1ガス流路G1は、第1不活性ガスを流すための流路である。図4図5図9において、第1ガス流路G1における第1不活性ガスの流れを二点鎖線の矢印で示す。第1ガス流路G1は、リアコレットボディ27と筒状部材22との間、コレット29とコレットボディ30との間、非消耗電極25(電極主部251)とコレット29との間、非消耗電極25(電極主部251)とコレットボディ30との間、非消耗電極25(電極主部251)と電極芯出し部材39との間、および非消耗電極25(電極主部251)と内側ノズル35との間、にそれぞれ形成されている。
【0048】
本実施形態では、図5に示すように、筒状部材22の上端部には、第1不活性ガスを導入する第1ガス入口221が設けられている。第1ガス入口221は第1ガス流路G1に通じている。第1ガス入口221から第1不活性ガスが導入されると、当該第1不活性ガスは、第1ガス流路G1において軸線CL方向の他方側から一方側に流れ、非消耗電極25(電極主部251)と内側ノズル35との間を通過した後に内側ノズル35の先端の開口352から噴出する。
【0049】
第2ガス流路G2は、第2不活性ガスを流すための流路である。図4図5図9において、第2ガス流路G2における第2不活性ガスの流れを点線の矢印で示す。第2ガス流路G2は、筒状部材23と筒状部材24との間、筒状部材22と筒状部材24との間、コレットボディ30と筒状部材22との間、コレットボディ30と絶縁リング34との間、ノズルホルダ37、係止部材38と外側ノズル36との間、および内側ノズル35と外側ノズル36との間、にそれぞれ形成されている。本実施形態において、図4および図7に示すように、筒状部材22の下端部には、筒状部材22の厚さ方向に貫通する複数の連通孔222が形成されている。複数の連通孔222は、筒状部材22の周方向において均等に分散している。第2ガス流路G2において、筒状部材22と筒状部材24との間、およびコレットボディ30と筒状部材22との間は、複数の連通孔222を介して通じている。
【0050】
本実施形態では、図5に示すように、トーチボディ20(ブロック部材21)には、第2不活性ガスを導入する第2ガス入口211が設けられている。第2ガス入口211は第2ガス流路G2に通じている。第2ガス入口211から第2不活性ガスが導入されると、当該第2不活性ガスは、第2ガス流路G2において軸線CL方向の他方側から一方側に流れ、内側ノズル35と外側ノズル36との間を通過した後に外側ノズル36の先端の開口362から噴出する。
【0051】
冷却水流路Wは、冷却水を流すための流路である。図4において、冷却水流路Wにおける冷却水の流れを実線の矢印で示す。冷却水流路Wは、主に筒状部材22と筒状部材23との間に形成されている。冷却水流路Wは、送水側流路W1および復水側流路W2を含む。詳細な図示説明は省略するが、ブロック部材21の適所に設けられた冷却水導入口から冷却水が導入されると、当該冷却水は、送水側流路W1において軸線CL方向の他方側から一方側に流れる。その後、冷却水は、筒状部材23の下端付近で折り返して復水側流路W2において軸線CL方向の一方側から他方側に流れ、ブロック部材21に設けられた冷却水導出口から導出される。
【0052】
本実施形態において、第1ガス入口221に導入される第1不活性ガスの流量は、上述の第1ガス調整部71(図1参照)により調整される。第1ガス調整部71は、ガス供給源6と第1ガス流路G1との間に介在している。第1ガス流路G1を流れる第1不活性ガスの量は、第1ガス調整部71によって所望に調整される。
【0053】
本実施形態では、第1ガス入口221に導入される第1不活性ガスの流量の調整は、第1ガス調整部71において第1ガス配管81を流れる第1不活性ガスの流量を調整することにより行う。第1ガス調整部71の構成はこれに限定されず、たとえば第1ガス調整部71において第1不活性ガスのガス圧力や流速を調整することにより、第1ガス入口221に導入される第1不活性ガスの流量を調整してもよい。したがって、第1ガス調整部71において第1不活性ガスのガス圧力あるいは流速を調整する場合においても、本発明の「第1ガス入口(221)に導入される第1不活性ガスの流量を調整する」ことに含まれる。
【0054】
本実施形態において、第2ガス入口211に導入される第2不活性ガスの流量は、上述の第2ガス調整部72(図1参照)により調整される。第2ガス調整部72は、ガス供給源6と第2ガス流路G2との間に介在している。第2ガス流路G2を流れる第2不活性ガスの量は、第2ガス調整部72によって所望に調整される。したがって、上述の第1ガス入口221に導入される第1不活性ガスの流量、および第2ガス入口211に導入される第2不活性ガスの流量は、それぞれ個別に調整することが可能である。第1ガス入口221に導入される第1不活性ガスの流量、および第2ガス入口211に導入される第2不活性ガスの流量は、それぞれ特に限定されない。第1ガス入口221に導入される第1不活性ガスの流量の一例を挙げると、5~12L/min程度である。第2ガス入口211に導入される第2不活性ガスの流量の一例を挙げると、5~15L/min程度である。
【0055】
本実施形態では、第2ガス入口211に導入される第2不活性ガスの流量の調整は、第2ガス調整部72において第2ガス配管82を流れる第2不活性ガスの流量を調整することにより行う。第2ガス調整部72の構成はこれに限定されず、たとえば第2ガス調整部72において第2不活性ガスのガス圧力や流速を調整することにより、第2ガス入口211に導入される第2不活性ガスの流量を調整してもよい。したがって、第2ガス調整部72において第2不活性ガスのガス圧力あるいは流速を調整する場合においても、本発明の「第2ガス入口(211)に導入される第2不活性ガスの流量を調整する」ことに含まれる。
【0056】
図9に示すように、第1ガス流路G1における非消耗電極25(電極主部251)と内側ノズル35との隙間は、第2ガス流路G2における内側ノズル35と外側ノズル36との隙間よりも小である。第1ガス流路G1において非消耗電極25(電極主部251)と内側ノズル35との最小隙間(第1最小隙間L1)は、たとえば0.5~1.5mm程度である。第2ガス流路G2において内側ノズル35と外側ノズル36との最小隙間(第2最小隙間L2)は、たとえば2~5mm程度である。第2最小隙間L2に対する第1最小隙間L1の割合について、第1最小隙間L1は、たとえば第2最小隙間L2の0.2~0.5倍であり、好ましくは第2最小隙間L2の0.2~0.3倍である。また、第1ガス流路G1の第1最小隙間L1を流れる第1不活性ガスの流速は、たとえば8~18m/sec程度である。
【0057】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0058】
本実施形態の溶接トーチA1は、軸線CL方向に延びる非消耗電極25と、内側ノズル35と、外側ノズル36と、を備えている。内側ノズル35は、非消耗電極25の外側に同心円状に配置されており、非消耗電極25と内側ノズル35との間には、第1不活性ガスを流すための第1ガス流路G1が形成されている。外側ノズル36は、内側ノズル35の径方向外側に配置されており、内側ノズル35と外側ノズル36との間には、第2不活性ガスを流すための第2ガス流路G2が形成されている。このような構成によれば、溶接作業時には、第1ガス流路G1を流れて内側ノズル35の先端から噴出する第1不活性ガスがプラズマガスとして機能し、かつ第2ガス流路G2を流れて外側ノズル36の先端から噴出する第2不活性ガスがシールドガスとして機能する。これにより、被溶接物9と非消耗電極25先端との間に発生するアークが絞られ、エネルギ密度の高いアーク(プラズマアーク)を利用して、溶接を効率よく行うことができる。
【0059】
溶接トーチA1は、電極芯出し部材39および係止部材38を備える。電極芯出し部材39は、非消耗電極25に対して同心円状に外嵌されている。また、内側ノズル35は、電極芯出し部材39に対して同心円状に外嵌されている。これにより、内側ノズル35は、電極芯出し部材39を介して、非消耗電極25に対して同心円状に配置されている。
【0060】
係止部材38は、コレットボディ30(第1部材)の下端部(軸線CL方向の一方側の第1端部)と、内側ノズル35の上端部(軸線CL方向の他方側の第2端部)とに跨って外嵌されており、コレットボディ30および内側ノズル35の双方に係止する。このような構成によれば、係止部材38とコレットボディ30あるいは内側ノズル35との間には径方向に多少の融通を持たせることができる。したがって、たとえば非消耗電極25が製造誤差等に起因して多少曲がっていても、内側ノズル35を非消耗電極25に対して同心円状に配置することができる。
【0061】
内側ノズル35が非消耗電極25に対して芯ずれを起こすと、内側ノズル35の先端の開口352から噴出する第1不活性ガス(プラズマガス)に偏流が生じる。第1ガス流路G1を構成する非消耗電極25(電極主部251)と内側ノズル35との最小隙間(第1最小隙間L1)は狭く、内側ノズル35が芯ずれを起こすと第1不活性ガス(プラズマガス)の偏流を招きやすいが、上述のように電極芯出し部材39および係止部材38を具備する構造により、内側ノズル35が非消耗電極25に対して同心円状に配置されることが担保されている。このことは、溶接品質の向上に適する。
【0062】
係止部材38とコレットボディ30の下端部(軸線CL方向の一方側の第1端部)とは、ねじ接続されている。このような構成によれば、比較的簡単な構造によって、係止部材38とコレットボディ30との間に適度な寸法の融通を持たせることができる。また、内側ノズル35を交換する際には、係止部材38の雌ねじ部381を緩めることで内側ノズル35を容易に取り外すことが可能であり、内側ノズル35の交換作業性に優れる。
【0063】
また、内側ノズル35が非消耗電極25の径方向外側に同心円状に配置されているため、非消耗電極25と内側ノズル35との間の第1ガス流路G1を流れる第1不活性ガスについては、非消耗電極25の周囲において略均一で比較的に高速な気流となって、内側ノズル35先端の開口352から噴出する。これにより、亜鉛めっき鋼板などの低溶融金属よりなる被溶接物9を溶接する場合においても、非消耗電極25の周囲を流れた高速気流の第1不活性ガスによって、溶接時に生じたヒューム等が吹き飛ばされる。したがって、非消耗電極25先端や内側ノズル35先端へのヒューム等の付着を防止することができる。
【0064】
さらに、非消耗電極25の先端は軸線CL方向において内側ノズル35の先端と一致する、あるいは内側ノズル35の先端から軸線CL方向の一方側に少し突出している。非消耗電極25の先端が内側ノズル35の先端から軸線CL方向の一方側に突出する突出長さP1は、0~2mmの範囲である。このような非消耗電極25の先端位置によれば、非消耗電極25と内側ノズル35との隙間については、内側ノズル35の軸線CL方向の中間から先端近傍に至る範囲において略一定に狭く保たれる。したがって、非消耗電極25の周囲を流れる高速気流の第1不活性ガスは、内側ノズル35先端の開口352から、流速が殆ど低下せずに噴出する。このことは、非消耗電極25先端や内側ノズル35先端へのヒューム等の付着を防止する上で好ましい。また、上述の作用効果は内側ノズル35の形状や配置の工夫により実現され、溶接トーチA1の構造を比較的簡素にし、かつ溶接トーチA1の先端部の小型化を図ることが可能である。
【0065】
溶接トーチA1は、第1ガス流路G1に通じる第1ガス入口221と、第2ガス流路G2に通じる第2ガス入口211と、を有する。第1ガス入口221に導入される第1不活性ガスの流量、および第2ガス入口211に導入される第2不活性ガスの流量は、それぞれ個別に調整される。このような構成によれば、第2不活性ガス(シールドガス)の流量を増減させる調整を行う場合にも、第1不活性ガス(プラズマガス)の流量が意図せずに変化することはなく、第1不活性ガスの流量を好ましい値にすることが可能である。逆に第1不活性ガス(プラズマガス)の流量を調整した場合でも、第2不活性ガス(シールドガス)の流量は変化しない。すなわち、溶接トーチA1および溶接システムB1によれば、非消耗電極25と被溶接物9との間に望ましい量の第1不活性ガス(プラズマガス)を供給可能であり、かつ、第2不活性ガス(シールドガス)を十分に供給可能である。第1不活性ガス(プラズマガス)の供給量を意図したように設定することができるため、被溶接物9と非消耗電極25との間に発生するアーク(プラズマアーク)の制御がより容易となる。
【0066】
溶接トーチA1に供給されるガス(第1不活性ガスおよび第2不活性ガス)は、いずれもアルゴンガスおよびヘリウムガスより選択される少なくとも1種のガスである。このようにガス種が限定された不活性ガスだけが溶接トーチA1に供給される構成によれば、溶接用ガスの取り扱いおよび管理が容易である。また、本実施形態のように第1不活性ガスおよび第2不活性ガスが同一のガス種(アルゴンガス)である場合、溶接システムB1においては、第1不活性ガスおよび第2不活性ガスの供給源として単一のガス供給源6を備えていればよい。したがって、溶接トーチA1に供給されるガス(第1不活性ガスおよび第2不活性ガス)の管理がより容易であり、溶接システムB1の構成が簡略化される。
【0067】
溶接トーチA1において、第1ガス流路G1における非消耗電極25(電極主部251)と内側ノズル35との最小隙間(第1最小隙間L1)は、第2ガス流路G2における内側ノズル35と外側ノズル36との最小隙間(第2最小隙間L2)の0.2~0.5倍である。このように第2最小隙間L2に対する第1最小隙間L1の割合が小さくされていると、非消耗電極25と内側ノズル35との間を流れる第1不活性ガスの流速を効率よく速めることが可能である。したがって、非消耗電極25先端や内側ノズル35先端へのヒューム等の付着が適切に防止されるとともに被溶接物9と非消耗電極25との間に生ずるアーク(プラズマアーク)が緊縮され、当該アークの集中性がより高まる。
【0068】
図10は、本発明に係る溶接システムの他の例を示している。図10に示した溶接システムB2においては、第1不活性ガスおよび第2不活性ガスの供給態様が上記実施形態の溶接システムB1と異なっている。溶接システムB2においては、上記実施形態のガス供給源6に代えて、第1ガス供給源61および第2ガス供給源62を備えている。第1ガス供給源61は、第1不活性ガスを高圧状態で貯留するガスボンベである。第2ガス供給源62は、第1不活性ガスとは異なる第2不活性ガスを高圧状態で貯留するガスボンベである。第1ガス供給源61に貯留された第1不活性ガスおよび第2ガス供給源62に貯留された第2不活性ガスのガス種は、特に限定されない。第1ガス供給源61内の第1不活性ガスは、たとえばアルゴンガスである。第2ガス供給源62内の第2不活性ガスは、たとえば、アルゴンガス、ヘリウムガスおよび窒素(N2)ガスのいずれか1種、またはこれらの混合ガスである。
【0069】
第1ガス供給源61には第1ガス配管81が連結されており、第1ガス調整部71は、第1ガス配管81に設けられている。第1ガス供給源61から供給される第1不活性ガスは、第1ガス調整部71により流量が調整されて、溶接トーチA1へ送られる。第2ガス供給源62には第2ガス配管82が連結されており、第2ガス調整部72は、第2ガス配管82に設けられている。第2ガス供給源62から供給される第2不活性ガスは、第2ガス調整部72により流量が調整されて、溶接トーチA1へ送られる。図10に示した溶接システムB2において、上記実施形態の溶接トーチA1および溶接システムB1と同様の構成の範囲において、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0070】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【0071】
上記実施形態の溶接トーチA1において、外側ノズル36が内側ノズル35に対して同心円状に配置される場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。外側ノズル36が内側ノズル35に対して径方向にオフセットして配置されていてもよい。また、第2不活性ガスを導入するための第2ガス入口については、外側ノズル36の側面に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0072】
A1:溶接トーチ、211:第2ガス入口、221:第1ガス入口、25:非消耗電極、30:コレットボディ(第1部材)、35:内側ノズル、36:外側ノズル、38:係止部材、39:電極芯出し部材、G1:第1ガス流路、G2:第2ガス流路、CL:軸線、P1:突出長さ、L1:第1最小隙間、L2:第2最小隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10