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特開2023-97603ホーニング加工制御装置、ホーニング加工システムおよびホーニング加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097603
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ホーニング加工制御装置、ホーニング加工システムおよびホーニング加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/04 20060101AFI20230703BHJP
   B24B 33/06 20060101ALI20230703BHJP
   B24B 49/18 20060101ALI20230703BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
B23Q15/04
B24B33/06
B24B49/18
G05B19/404 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213814
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】390003665
【氏名又は名称】株式会社日進製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】山岡 洋斗
(72)【発明者】
【氏名】金子 修
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 優樹
(72)【発明者】
【氏名】桑原 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】大槻 啓介
(72)【発明者】
【氏名】マコメ ジャイミ
【テーマコード(参考)】
3C001
3C034
3C158
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA02
3C001KB07
3C001TA02
3C001TB03
3C001TC05
3C034AA19
3C034BB92
3C034CA03
3C034CA05
3C034CB12
3C034DD05
3C158AA03
3C158AA09
3C158AC02
3C158BA01
3C158BB06
3C158CB01
3C269AB07
3C269BB03
3C269EF02
3C269JJ10
3C269JJ19
3C269MN09
3C269MN34
3C269QC01
3C269QD02
(57)【要約】
【課題】複数のワークに対して順次研削工程を行う際の加工精度を高めることができるホーニング加工制御装置、ホーニング加工システムおよびホーニング加工方法を提供する。
【解決手段】ホーニング加工制御装置1は、研削工程が行われた後のワークの加工孔の内径寸法に基づいて、研削工程における砥石の摩耗量を推定する摩耗量推定部112と、砥石を用いて研削工程を行った研削工程実行回数と摩耗量とに基づいて、次に行う研削工程における砥石の予測摩耗量を算出する摩耗量予測部113と、予測摩耗量に基づいて、次に行う研削工程における砥石の拡張量に対する補正量を算出する補正量算出部114と、補正量に基づいて、次に行う研削工程において、砥石を拡張方向へ拡張移動させる際の拡張量を決定する拡張量決定部115と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥石が設けられたホーニングツールを、加工孔を有するワークの前記加工孔に挿入した状態で、前記ホーニングツールを前記加工孔の中心軸周りに回転させながら、前記砥石を、予め設定された初期位置から前記中心軸に直交し且つ前記中心軸から離れる拡張方向へ拡張移動させることにより前記ワークの前記加工孔を研削する研削工程を、複数の前記ワークそれぞれに対して1つずつ順次行うホーニング加工装置へ前記砥石を前記拡張方向へ拡張移動させる際の拡張量を示す制御情報を出力することにより前記ホーニング加工装置を制御するホーニング加工制御装置であって、
前記研削工程が行われた後の前記ワークの前記加工孔の内径寸法に基づいて、前記研削工程における前記砥石の摩耗量を推定する摩耗量推定部と、
前記砥石を用いて前記研削工程を行った研削工程実行回数と前記摩耗量とに基づいて、次に行う前記研削工程における前記砥石の予測摩耗量を算出する摩耗量予測部と、
前記予測摩耗量に基づいて、前記拡張量に対する補正量を算出する補正量算出部と、
前記補正量に基づいて、次に行う前記研削工程における前記拡張量を決定する拡張量決定部と、を備える、
ホーニング加工制御装置。
【請求項2】
前記摩耗量予測部は、過去の前記摩耗量の履歴に基づいて、前記研削工程実行回数に対する前記摩耗量の推移を表す摩耗量推移関数を生成し、生成した前記摩耗量推移関数を用いて、次に行う前記研削工程における前記予測摩耗量を算出する、
請求項1に記載のホーニング加工制御装置。
【請求項3】
前記摩耗量推移関数は、前記研削工程実行回数をn、n回目の前記研削工程における前記予測摩耗量をe3[n]、係数をa、bとすると、下記式(1)で表される、
請求項2に記載のホーニング加工制御装置。
【数1】
・・・式(1)
【請求項4】
前記摩耗量予測部は、過去の前記摩耗量の履歴に対して、前記式(1)の関係式を最小二乗法によりフィッティングさせることにより、前記係数を決定することにより、前記摩耗量推移関数を生成する、
請求項3に記載のホーニング加工制御装置。
【請求項5】
砥石が設けられたホーニングツールを、加工孔を有するワークの前記加工孔に挿入した状態で、前記ホーニングツールを前記加工孔の中心軸周りに回転させながら、前記砥石を、予め設定された初期位置から前記中心軸に直交し且つ前記中心軸から離れる拡張方向へ拡張移動させることにより前記ワークの前記加工孔を研削する研削工程を、複数の前記ワークそれぞれに対して1つずつ順次行うホーニング加工装置と、
前記加工孔の内径寸法を計測する計測装置と、
前記計測装置により計測された前記研削工程後の前記加工孔の内径寸法に基づいて決定された前記砥石を前記拡張方向へ拡張移動させる際の拡張量を示す制御情報を前記ホーニング加工装置へ出力することにより前記ホーニング加工装置を制御するホーニング加工制御装置と、を備え、
前記ホーニング加工制御装置は、
前記研削工程が行われた後の前記ワークの前記加工孔の内径寸法に基づいて、前記研削工程における前記砥石の摩耗量を推定する摩耗量推定部と、
前記砥石を用いて前記研削工程を行った研削工程実行回数と前記摩耗量とに基づいて、次に行う前記研削工程における前記砥石の予測摩耗量を算出する摩耗量予測部と、
前記予測摩耗量に基づいて、前記拡張量に対する補正量を算出する補正量算出部と、
前記補正量に基づいて、次に行う前記研削工程における前記拡張量を決定する拡張量決定部と、
前記拡張量決定部により決定された前記拡張量を示す前記制御情報を前記ホーニング加工装置へ出力する制御情報出力部と、を有する、
ホーニング加工システム。
【請求項6】
加工孔を有する複数のワークそれぞれの前記加工孔に対して研削工程を1つずつ順次行うホーニング加工方法であって、
砥石が設けられたホーニングツールを前記複数のワークから選択される1つのワークの加工孔に挿入した状態で、前記ホーニングツールを前記加工孔の中心軸周りに回転させながら、前記砥石を、予め設定された初期位置から前記中心軸に直交し且つ前記中心軸から離れる拡張方向へ拡張移動させることにより前記1つのワークの前記加工孔を研削する研削工程と、
前記研削工程の後における前記加工孔の内径寸法を計測する計測工程と、
前記計測工程において計測された前記内径寸法に基づいて、前記研削工程における前記砥石の摩耗量を算出する摩耗量算出工程と、
前記砥石を用いて前記研削工程を行った研削工程実行回数と前記摩耗量とに基づいて、次に行う前記研削工程における前記砥石の予測摩耗量を算出する摩耗量推定工程と、
前記予測摩耗量に基づいて、前記砥石を前記拡張方向へ拡張移動させる際の拡張量に対する補正量を算出する補正量算出工程と、
前記補正量に基づいて、次に行う前記研削工程における前記拡張量を決定する拡張量決定工程と、を含む、
ホーニング加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホーニング加工制御装置、ホーニング加工システムおよびホーニング加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円形状の砥石が装着された装着具を回転させ且つワークに対して相対的に移動させて砥石によりワークを研削工程する研削処理と、装着具に装着されている砥石の摩耗量を計測する計測処理と、を交互に繰り返し実行し、研削処理を実行する前に、その直前の計測処理で計測された摩耗量に基づいて砥石のワークへの侵入量のような加工条件を補正する研削装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-120226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載した研削装置で複数のワークを順次研削処理する場合において、砥石のワークへの侵入量を1つのワークの研削処理後の計測処理で計測された摩耗量に相当する分だけ増加するように補正した後、次のワークの研削処理を行うとする。この場合、次のワークの研削処理中においても砥石が経時的に摩耗していくため、次のワークの研削量が目標とする研削量よりも小さくなってしまう。そこで、砥石のワークの侵入量を補正する際、計測処理で計測された摩耗量よりも次のワークの研削処理中における砥石の摩耗量に相当する分だけ大きくなるように適切に補正することにより、研削処理される複数のワーク全ての研削量が目標とする研削量となるようにする手法が要請されている。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、複数のワークに対して順次研削工程を行う際の加工精度を高めることができるホーニング加工制御装置、ホーニング加工システムおよびホーニング加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るホーニング加工制御装置は、
砥石が設けられたホーニングツールを、加工孔を有するワークの前記加工孔に挿入した状態で、前記ホーニングツールを前記加工孔の中心軸周りに回転させながら、前記砥石を、予め設定された初期位置から前記中心軸に直交し且つ前記中心軸から離れる拡張方向へ拡張移動させることにより前記ワークの前記加工孔を研削する研削工程を、複数の前記ワークそれぞれに対して1つずつ順次行うホーニング加工装置へ前記砥石を前記拡張方向へ拡張移動させる際の拡張量を示す制御情報を出力することにより前記ホーニング加工装置を制御するホーニング加工制御装置であって、
前記研削工程が行われた後の前記ワークの前記加工孔の内径寸法に基づいて、前記研削工程における前記砥石の摩耗量を推定する摩耗量推定部と、
前記砥石を用いて前記研削工程を行った研削工程実行回数と前記摩耗量とに基づいて、次に行う前記研削工程における前記砥石の予測摩耗量を算出する摩耗量予測部と、
前記予測摩耗量に基づいて、前記拡張量に対する補正量を算出する補正量算出部と、
前記補正量に基づいて、次に行う前記研削工程における前記拡張量を決定する拡張量決定部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、摩耗量予測部が、砥石を用いて研削工程を行った研削工程実行回数と砥石の摩耗量とに基づいて、次に行う研削工程における砥石の予測摩耗量を算出し、補正量算出部が、予測摩耗量に基づいて、砥石の拡張量に対する補正量を算出する。そして、拡張量決定部が、算出された補正量に基づいて、次に行う研削工程における砥石の拡張量を決定する。これにより、複数のワークに対して1つずつ順次研削工程を行う際の複数のワークそれぞれに対応する拡張量が適切に決定されるので、複数のワークに対して順次研削工程を行う際の加工精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係るホーニング加工システムの概略図である。
図2】実施の形態に係るホーニングツールの一部を示し、(A)は砥石が基準位置にある状態を示す断面図であり、(B)は砥石がワークの加工孔の内壁に接触した状態を示す断面図である。
図3】実施の形態に係るエアマイクロメータの一部を示す側面図である。
図4】実施の形態に係るホーニング加工制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図5】実施の形態に係るホーニング加工制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図6】実施の形態に係るホーニング加工システムの動作を説明するための制御ブロック図である。
図7】実施の形態に係るホーニング加工制御装置が実行するホーニング加工制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8】(A)は比較例1に係るホーニング加工システムの動作を説明するための制御ブロック図であり、(B)は比較例2に係るホーニング加工システムの動作を説明するための制御ブロック図である。
図9】(A)は比較例1に係るホーニング加工システムで研削工程を行った場合の結果を示す図であり、(B)は実施の形態に係るホーニング加工システムで研削工程を行った場合の結果を示す図である。
図10】(A)は比較例2に係るホーニング加工システムで研削工程を行った場合の結果を示す図であり、(B)は実施の形態に係るホーニング加工システムで研削工程を行った場合の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係るホーニング加工制御装置について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態に係るホーニング加工制御装置は、砥石が設けられたホーニングツールを、加工孔を有するワークの加工孔に挿入した状態で、ホーニングツールを加工孔の中心軸周りに回転させながら、砥石を、予め設定された初期位置から加工孔の中心軸に直交し且つ中心軸から離れる拡張方向へ拡張移動させることによりワークの加工孔を研削する研削工程を、複数のワークそれぞれに対して1つずつ順次行うホーニング加工装置へ砥石を拡張方向へ拡張移動させる際の拡張量を示す制御情報を出力することによりホーニング加工装置を制御する。このホーニング加工制御装置は、研削工程が行われた後のワークの加工孔の内径寸法に基づいて、研削工程における砥石の摩耗量を推定する摩耗量推定部と、砥石を用いて研削工程を行った研削工程実行回数と摩耗量とに基づいて、次に行う研削工程における砥石の予測摩耗量を算出する摩耗量予測部と、予測摩耗量に基づいて、拡張量に対する補正量を算出する補正量算出部と、補正量に基づいて、次に行う研削工程における拡張量を決定する拡張量決定部と、を備える。
【0010】
図1に示すように、本実施の形態に係るホーニング加工システムは、ワークWの加工孔Whの内壁Waをホーニング加工するためのものであり、ホーニング加工装置2と、加工孔Whの孔径を計測する計測装置3と、ホーニング加工制御装置1と、を備える。ホーニング加工装置2は、ワークWの加工孔Whを研削する研削工程を、複数のワークWそれぞれに対して1つずつ順次行う。ホーニング加工装置2は、回転主軸22と、回転主軸22の先端部に連結されたホーニングツール21と、回転主軸22を駆動する駆動部28と、ホーニング加工制御装置1から入力される制御情報に基づいて駆動部28を制御する制御部29と、を備える。図1では、ワークWが、その加工孔Whの中心軸J2と回転主軸22の中心軸J1とが一致する姿勢で配置されている。駆動部28は、図1の矢印AR0に示すように、回転主軸22をその中心軸J1周りに回転させながら、図1の矢印AR1に示すように、中心軸J1方向へ往復移動させる。これにより、駆動部28は、回転主軸22に連結されたホーニングツール21を回転させながら、加工孔Whの中心軸J2方向へ往復移動させて加工孔Whの内壁Waをホーニング加工する。
【0011】
ホーニングツール21の内部には、例えば図2(A)に示すように、径方向へ拡縮可能に設けられた複数の砥石23と、複数の砥石23それぞれが固定される砥石台24と、砥石23および砥石台24を拡張移動させるためのウェッジロッド211と、砥石23を収縮移動させて基準位置に復帰させるための復帰ばね(図示せず)と、を有する。ウェッジロッド211の先端部には、砥石台24を押圧するためのウェッジ211aが設けられている。また、ウェッジロッド211は、回転主軸22の内部におけるウェッジロッド211の上方に配置され駆動部28により駆動される拡張ロッド(図示せず)に連結されている。また、砥石23は、前述の復帰ばねにより常時収縮方向へ付勢されている。これにより、図2(B)に示すように、駆動部28が、拡張ロッドを介してウェッジロッド211を下方へ移動させると(図2(B)の矢印AR21参照)、これに伴い、砥石台24がウェッジ211aに押圧されて砥石23が拡張方向へ移動する(図2(B)の矢印AR22参照)。一方、駆動部28が、拡張ロッドを介してウェッジロッド211を上方へ移動させると、砥石台24および砥石23が収縮方向へ移動する。
【0012】
制御部29は、ホーニングツール21を、加工孔Whに挿入した状態で、ホーニングツール21を加工孔Whの中心軸J2周りに回転させながら、砥石23を、予め設定された初期位置から中心軸J2に直交し且つ中心軸J2から離れる拡張方向へ拡張移動させるように駆動部28を制御する。また、制御部29は、1つのワークWの研削工程が完了する毎に研削工程が完了したことを通知する完了通知情報をホーニング加工制御装置1へ出力する。ホーニング加工装置2での研削工程が完了したワークWは、計測装置3へ搬送される(図1の矢印AR10参照)。
【0013】
図1に戻って、計測装置3は、研削工程の後におけるワークWの加工孔Whの内径寸法を計測する計測工程を実行する。計測装置3は、エアマイクロメータ31と、エアマイクロメータ31を駆動する駆動部38と、駆動部38を制御する制御部39と、を備える。エアマイクロメータ31は、図3に示すように、本体部311と、ゲージ312と、接続部313と、を備える。本体部311は、長尺の円柱状の外形を有し、加工孔Whの内径寸法計測時において、長手方向の一端部側(図3における下端部側)が加工孔Whに挿入される。本体部311の側壁には、気体を吐出するための吐出孔311aが設けられている。ゲージ312は、円柱状であり、外径寸法D2が本体部311の外径寸法D1よりも長い。ゲージ312は、本体部311の下端部に接続部313を介して固定されている。駆動部38は、本体部311を移動させて本体部311をワークWの加工孔Whの内側へ挿入した状態で吐出孔311aから気体を吐出させることにより加工孔Whの内径寸法を計測する。制御部39は、駆動部38から入力される本体部311の側壁と加工孔Whの内壁Waとの間の隙間の大きさに応じた計測信号に基づいてワークWの加工孔Whの内径寸法の計測値を示す計測値情報を生成する。また、制御部39は、ワークの加工孔Whの内径寸法の計測が完了すると完了通知情報をホーニング加工制御装置1へ出力する。更に、制御部39は、ホーニング加工制御装置1から後述する計測値要求情報を取得すると、これに応じて、生成した計測値情報をホーニング加工制御装置1へ出力する。
【0014】
ホーニング加工制御装置1は、図4に示すように、CPU(Central Processing Unit)101と、主記憶部102と、補助記憶部103と、入力部105と、インタフェース106と、各部を接続するバス109と、を有する。主記憶部102は、例えばRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリであり、CPU101の作業領域として使用される。補助記憶部103は、磁気ディスク、半導体メモリ等の不揮発性メモリであり、制御部39の各種機能を実現するためのプログラムを記憶する。入力部105は、キーボード、タッチパネル等とバス109に接続するためのインタフェースとを有する。入力部105は、ユーザがキーボードまたはタッチパネルを操作することにより入力した各種操作情報を受け付けると、受け付けた各種操作情報をCPU101へ出力する。インタフェース106は、ホーニング加工装置2の制御部29および計測装置3の制御部39に接続されており、CPU101から入力される制御情報を制御信号に変換して、ホーニング加工装置2の制御部29へ出力する。また、インタフェース106は、CPU101から入力される後述の計測値要求情報を計測値要求信号に変換して、計測装置3の制御部39へ出力する。また、インタフェース106は、計測装置3の制御部39から入力される計測値情報をCPU101へ出力する。
【0015】
CPU101は、補助記憶部103が記憶する前述のプログラムを主記憶部102に読み出して実行することにより、図5に示すように、計測値取得部111、摩耗量推定部112、摩耗量予測部113、補正量算出部114、拡張量決定部115、制御情報出力部116および研削工程実行回数監視部117として機能する。補助記憶部103は、ワークWの加工孔Whの内径の目標値を示す目標値情報を記憶する目標値記憶部131と、計測装置3から取得した計測値情報を記憶する計測値記憶部132と、ホーニング加工装置2の砥石23の摩耗量の履歴を示す摩耗量履歴情報を記憶する摩耗量履歴記憶部133と、を有する。計測値記憶部132は、ワークWの加工孔Whの実際の内径寸法を示す計測値情報を、そのワークWの研削工程を行う以前の過去の研削工程の実行回数を示す研削工程実行回数情報に対応づけて記憶する。摩耗量履歴記憶部133は、計測値情報と、砥石23の拡張量と、補正量とに基づいて算出された摩耗量と対応する研削工程の回数とから構成される摩耗量履歴情報を記憶する。
【0016】
また、補助記憶部103は、予測摩耗量を算出する際に用いられる摩耗量推移関数を示す情報を記憶する関数記憶部134と、ホーニング加工装置2による研削工程の実行回数を示す研削工程実行回数情報を記憶する研削工程実行回数記憶部135と、決定した拡張量を示す拡張量情報を記憶する拡張量記憶部136と、を有する。関数記憶部134は、例えば下記式(1)で表される摩耗量推移関数を示す情報を記憶する。
【0017】
【数1】
・・・式(1)
【0018】
ここで、nは、新たな砥石23に交換した後、その砥石23を用いて研削工程を行った回数である研削工程実行回数を示し、e3[n]は、n回目の研削工程における砥石23の予測摩耗量を示し、a、bは、係数を示す。
【0019】
研削工程実行回数記憶部135が記憶する研削工程実行回数情報が示す値は、ホーニング加工装置2の砥石23が新たな砥石23に交換された後、後述するホーニング加工制御処理が実行される毎に「0」に初期化される。
【0020】
計測値取得部111は、計測装置3に対して計測値情報の出力を要求する計測値要求情報を出力することにより、計測装置3から出力される計測値情報を取得する。計測値取得部111は、取得した計測値情報を計測値記憶部132に記憶させる。
【0021】
摩耗量推定部112は、計測値取得部111が取得した計測値情報が示す研削工程が行われた後のワークWの加工孔Whの内径寸法に基づいて、研削工程における砥石23の摩耗量を推定する摩耗量推定工程を実行する。具体的には、摩耗量推定部112は、拡張量記憶部136が記憶する計測値情報に対応するワークWの研削工程時における砥石23の拡張量を示す拡張量情報を取得する。そして、摩耗量推定部112は、取得した拡張量情報が示す拡張量と計測値情報が示す加工孔Whの内径寸法の計測値とから砥石23の摩耗が発生しないと仮定した場合の理論内径寸法を算出する。次に、摩耗量推定部112は、算出した理論内径寸法と計測値情報が示す研削工程後のワークWの加工孔Whの実際の内径寸法との差分寸法に相当する量を算出する。そして、摩耗量推定部112は、差分寸法に相当する量について、下記式(2)の関係式を用いて変換して得られる量を砥石23の推定される摩耗量として算出する。
【0022】
【数2】
・・・式(2)
【0023】
ここで、nは、新たな砥石23に交換した後、当該砥石23を使用して研削工程を行った回数を示し、e1[n]は、n回目の研削工程の対象となったワークWの前述の差分寸法に相当する量を示し、e2[n]は、n回目の研削工程における砥石23の摩耗量を示す。
【0024】
また、摩耗量推定部112は、推定した砥石23の摩耗量を示す摩耗量情報を、対応する研削工程を行った回数を示す研削工程実行回数情報に対応づけて摩耗量履歴記憶部133に記憶させる。
【0025】
摩耗量予測部113は、砥石23を用いて研削工程を行った過去の研削工程実行回数と砥石23の摩耗量とに基づいて、次に行う研削工程における砥石23の予測摩耗量を算出する摩耗量推定工程を実行する。具体的には、摩耗量予測部113は、まず、摩耗量履歴記憶部133が記憶する砥石23が新たな砥石23に交換された直後からの砥石23の摩耗量の履歴に基づいて、研削工程実行回数に対する砥石23の摩耗量の推移を表す摩耗量推移関数を生成する。ここで、摩耗量予測部113は、例えば下記式(3)で表される評価関数を用いて算出される評価値が最小となるときの係数a、bを、前述の式(1)における係数a、bとして算出する。
【0026】
【数3】
・・・式(3)
【0027】
ここで、e2[n]は、n回目の研削工程における砥石23の摩耗量を示し、a、bは係数を示し、Jは、評価値を示す。
【0028】
即ち、摩耗量予測部113は、過去の砥石23の摩耗量の履歴に対して、式(1)の関係式を最小二乗法によりフィッティングさせて係数a、bを決定することにより、摩耗量推移関数を生成する。そして、摩耗量予測部113は、生成した摩耗量推移関数を用いて、次に行う研削工程における予測摩耗量を算出し、算出した予測摩耗量を示す予測摩耗量情報を補正量算出部114に通知する。
【0029】
補正量算出部114は、ワークWの内径寸法の目標値と計測値情報が示す研削工程後のワークWの実際の内径寸法との差分寸法と、摩耗量予測部113から通知される予測摩耗量情報が示す予測摩耗量とに基づいて、次に行う研削工程における砥石23の拡張量に対する補正量を算出する補正量算出工程を実行する。ここで、補正量算出部114は、まず、下記式(4)で表される関係式を用いて、暫定補正量を算出する。
【0030】
【数4】
・・・式(4)
【0031】
ここで、u0[n]は、暫定補正量を示し、E0[n](E0[i])は、ワークWの内径寸法の目標値と計測値情報が示すn回目(i回目)の研削工程による研削後のワークWの実際の内径寸法との差分寸法を示し、k、kは、ゲイン係数を示す。また、ゲイン係数k、kは、例えば「1.0」、「0.075」に設定される。
【0032】
そして、補正量算出部114は、算出した暫定補正量に前述の予測摩耗量を加算して得られる量を補正量として算出し、算出した補正量を示す補正量情報を拡張量決定部115に通知する。
【0033】
拡張量決定部115は、次に行う研削工程において、砥石23を前述の拡張方向へ拡張移動させる際の拡張量を決定する拡張量決定工程を実行する。具体的には、拡張量決定部115は、拡張量記憶部136が記憶する直前に行われた研削工程で採用した拡張量を示す拡張量情報を取得する。次に、拡張量決定部115は、取得した拡張量情報が示す拡張量に補正量算出部114から通知される補正量情報が示す補正量を加算して得られる量を次に行う研削工程で採用する拡張量として決定する。また、拡張量決定部115は、ホーニング加工装置2において砥石23が新しい砥石23に交換された場合、ワークWの内径寸法の目標値のみに基づいて拡張量を決定する。そして、拡張量決定部115は、決定した拡張量を示す拡張量情報を制御情報出力部116に通知するとともに拡張量記憶部136に記憶させる。
【0034】
制御情報出力部116は、拡張量決定部115から通知される拡張量情報に基づいて、制御情報を生成し、生成した制御情報をホーニング加工装置2へ出力する。研削工程実行回数監視部117は、ホーニング加工装置2で実行される研削工程の実行回数を監視する。研削工程実行回数監視部117は、ホーニング加工装置2において砥石23が新しい砥石23に交換された直後からホーニング加工装置2から完了通知情報が入力される毎に、研削工程実行回数を1ずつインクリメントしていく。また、研削工程実行回数監視部117は、利用者が砥石23を新しい砥石23に交換した後、研削工程の実行回数をリセットする操作を入力部105に対して行うと、研削工程実行回数を「0」に初期化する。
【0035】
本実施の形態に係るホーニング加工システムで実行される制御は、図6に示すような制御モデルで表すことができる。ここで、nは、ホーニング加工装置2での砥石23の交換直後からの研削工程の実行回数を示し、r[n]は、n回目の研削工程におけるワークWの加工孔Whの内径寸法の目標値を示し、y[n]は、n回目の研削工程後におけるワークWの加工孔Whの実際の内径寸法を示す。また、e0[n]は、n回目の研削工程における砥石23の実際の摩耗およびワークWの弾性変形に起因した誤差成分を示し、d0[n]は、計測装置3における計測誤差成分を示す。ホーニング加工制御装置1は、まず、加工孔Whの内径寸法の目標値r[n]と加工孔Whの実際の内径寸法y[n]との差分寸法E0[n]から、関数Cを用いて次に行う研削工程における砥石23の拡張量に対する暫定補正量u0[n]を求める。ここで、関数Cは、例えば前述の式(4)で表される。また、ホーニング加工制御装置1は、n-1回目に行った研削工程後における砥石23の摩耗が発生しないと仮定した場合の加工孔Whの理論内径寸法x0[n-1]と求めた暫定補正量u0[n]との和に相当するn回目に行った研削工程後における理論内径寸法x0[n]を算出する。次に、ホーニング加工制御装置1は、算出した理論内径寸法x0[n]と計測装置3により計測されたn回目の研削工程後の加工孔Whの実際の内径寸法の計測値y[n]との差分寸法e1[n]を算出する。そして、ホーニング加工制御装置1は、関数Fを用いて前述の摩耗量e2[n]を推定して摩耗量履歴記憶部133に記憶させる。ここで、関数Fは、例えば前述の式(2)で表される。
【0036】
続いて、ホーニング加工制御装置1は、摩耗量履歴記憶部133が記憶する砥石23の摩耗量の履歴に基づいて、次に行われる研削工程における砥石23の摩耗量e3[n]を予測する。そして、ホーニング加工制御装置1は、前述の暫定補正量u0[n]と予測した摩耗量e3[n]との和を、次に行われる研削工程における補正量として算出し、算出した補正量に基づいて砥石23の拡張量を決定する。ここで、ホーニング加工制御装置1は、決定した砥石23の拡張量を示す制御情報を生成してホーニング加工装置2へ出力する。一方、ホーニング加工装置2は、ホーニング加工制御装置1から入力される制御情報に基づいてワークWの加工孔Whの研削工程を実行する。これにより、加工孔Whの内径寸法がx1[n]のワークWが作製される。
【0037】
次に、本実施の形態に係るホーニング加工制御装置1が実行するホーニング加工制御処理について図7を参照しながら説明する。このホーニング加工制御処理は、ユーザがホーニング加工装置2の砥石23を交換した後、入力部105を介してホーニング加工制御処理を開始させるための操作を行ったことを契機として開始される。
【0038】
まず、拡張量決定部115は、ワークWの内径寸法の目標値のみに基づいて拡張量を決定する(ステップS1)。次に、制御情報出力部116は、拡張量決定部115から通知される拡張量情報に基づいて、制御情報を生成し、生成した制御情報をホーニング加工装置2へ出力する(ステップS2)。このとき、ホーニング加工装置2は、ホーニング加工制御装置1から入力される制御情報に基づいて、ワークWの加工孔Whのホーニング加工を実行する。ホーニング加工装置2でのワークWのホーニング加工が完了すると、ワークWが計測装置3へ搬送される。そして、計測装置3は、ワークWの加工孔Whの内径寸法を計測し、計測した内径寸法の計測値を示す計測値情報をホーニング加工制御装置1へ出力する。
【0039】
続いて、計測値取得部111は、ワークWについてホーニング加工装置2での研削工程および計測装置3でのワークWの加工孔Whの内径寸法の計測が終了したか否かを判定する(ステップS3)。ここで、計測値取得部111は、ホーニング加工装置2および計測装置3の両方から完了通知情報を取得した場合、ワークWの加工孔Whの研削工程および内径寸法の計測が終了したと判定する。計測値取得部111が、ワークWの加工孔Whの研削工程および内径寸法の計測が未だ終了していないと判定すると(ステップS3:No)、後述のステップS11の処理が実行される。
【0040】
一方、計測値取得部111は、ワークWの加工孔Whの研削工程および内径寸法の計測が終了したと判定すると(ステップS3:Yes)、前述の計測値要求情報を計測装置3へ出力することにより、計測装置3から出力される計測値情報を取得する(ステップS4)。その後、摩耗量推定部112は、計測値取得部111が取得した計測値情報が示す研削工程が行われた後のワークWの加工孔Whの内径寸法に基づいて、研削工程における砥石23の摩耗量を推定する。そして、摩耗量推定部112は、推定した砥石23の摩耗量を示す摩耗量情報を、対応する研削工程を行った回数を示す研削工程実行回数情報に対応づけて摩耗量履歴記憶部133に記憶させる(ステップS5)。
【0041】
次に、補正量算出部114は、ワークWの内径寸法の目標値と計測値情報が示す研削工程後のワークWの実際の内径寸法との差分寸法とに基づいて、次に行う研削工程における砥石23の拡張量に対する暫定補正量を算出する(ステップS6)。続いて、摩耗量予測部113は、過去の砥石23の摩耗量の履歴から摩耗量推移関数を生成し、生成した摩耗量推移関数を用いて、次に行う研削工程における予測摩耗量を算出する(ステップS7)。
【0042】
その後、補正量算出部114は、算出した暫定補正量に前述の予測摩耗量を加算して得られる量を補正量として算出する(ステップ8)。次に、拡張量決定部115は、直前に行われた研削工程で採用した拡張量に補正量算出部114が算出した補正量を加算して得られる量を次に行う研削工程で採用する拡張量として決定する(ステップS9)。続いて、制御情報出力部116は、拡張量決定部115が決定した拡張量を示す拡張量情報に基づいて、制御情報を生成し、生成した制御情報をホーニング加工装置2へ出力する(ステップS10)。
【0043】
その後、計測値取得部111は、予め設定された砥石交換時期が到来したか否かを判定する(ステップS11)。ここで、計測値取得部111は、砥石交換時期が未だ到来していないと判定すると(ステップS11:No)、再びステップS3の処理を実行する。一方、計測値取得部111が、砥石交換時期が到来したと判定すると(ステップS11:Yes)、ホーニング加工制御処理が終了する。
【0044】
次に、本実施の形態に係るホーニング加工システムの性能について、比較例に係るホーニング加工システムと比較しながら説明する。比較例1に係るホーニング加工システムで実行される制御は、図8(A)に示すような制御モデルで表すことができる。なお、図8(A)において、図6と同一の符号は図5における意味と同じ意味を表す符号である。比較例1に係るホーニング加工システムでは、ホーニング加工制御装置8001が、加工孔Whの内径寸法の目標値r[n]と加工孔Whの実際の内径寸法y[n]との差分寸法E0[n]から、関数kを用いて次に行う研削工程における砥石23の拡張量に対する補正量u8[n]を求める点で実施の形態に係るホーニング加工システムと相違する。ここで、関数kは、差分寸法E0[n]をゲイン1でそのまま出力する関数を表す。また、比較例2に係るホーニング加工システムで実行される制御は、図8(B)に示すような制御モデルで表すことができる。なお、図8(B)においても、図6と同一の符号は図5における意味と同じ意味を表す符号である。比較例2に係るホーニング加工システムでは、ホーニング加工制御装置9001が、加工孔Whの内径寸法の目標値r[n]と加工孔Whの実際の内径寸法y[n]との差分寸法E0[n]から、関数Cを用いて次に行う研削工程における砥石23の拡張量に対する補正量u9[n]を求める点で比較例1に係るホーニング加工システムと相違する。ここで、関数Cは、実施の形態で説明した関数Cと同一である。即ち、比較例2に係るホーニング加工システムは、差分寸法E0[n]に基づいて補正量u9[n]に対してPIフィードバックを行う点で比較例1に係るホーニング加工システムと相違する。
【0045】
次に、比較例1に係るホーニング加工システムと本実施の形態に係るホーニング加工システムとのそれぞれで、70個のワークWの加工孔Whについて70回の研削工程を行った結果について図9(A)および(B)を用いて説明する。なお、図9(A)は、比較例1に係るホーニング加工システムについての結果を示し、図9(B)は、本実施の形態に係るホーニング加工システムについての結果を示す。また、図9(A)および(B)それぞれにおける左側の図は、砥石23の交換直後からの研削工程の実行回数が1回乃至35回までの加工孔Whの内径寸法の目標値からのずれ量を示し、右側の図は、砥石23の交換直後からの研削工程の実行回数が36回乃至70回までの加工孔Whの内径寸法の目標値からのずれ量を示し、右側の図の縦軸は、左側の図の縦軸を4倍に拡大したものに相当する。図9(A)および(B)に示す結果から、本実施の形態に係るホーニング加工システムでワークWを加工した場合、比較例1に係るホーニング加工システムでワークWを加工した場合に比べて特に36回乃至70回でのずれ量並びにずれ量のばらつきが低減していることが判った。具体的には、比較例1に係るホーニング加工システムでは、前述のずれ量の平均値が-0.47μmであり標準偏差が0.51μmであったのに対して、本実施の形態に係るホーニング加工システムでは、前述のずれ量の平均値が-0.08μmであり標準偏差が0.36μmと低減されていることが判った。このことから、本実施の形態に係るホーニング加工システムによれば、比較例1に係るホーニング加工システムに比べてワークWの加工孔Whの加工精度が高まることが判った。
【0046】
また、比較例2に係るホーニング加工システムと本実施の形態に係るホーニング加工システムとのそれぞれで、15個のワークWの加工孔Whについて15回の研削工程を行った結果について図10(A)および(B)を用いて説明する。なお、図10(A)は、比較例2に係るホーニング加工システムについての結果を示し、図10(B)は、本実施の形態に係るホーニング加工システムについての結果を示す。図10(A)および(B)に示す結果から、本実施の形態に係るホーニング加工システムでワークWを加工した場合、比較例2に係るホーニング加工システムでワークWを加工した場合に比べてずれ量並びにずれ量のばらつきが低減していることが判った。このことから、本実施の形態に係るホーニング加工システムでは、摩耗量予測部113による摩耗量推定機能がワークWの加工孔Whの加工精度の向上に大きく寄与していることが判った。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態にホーニング加工制御装置1では、摩耗量予測部113が、砥石23を用いて研削工程を行った研削工程実行回数と砥石23の摩耗量とに基づいて、次に行う研削工程における砥石の予測摩耗量を算出する。また、補正量算出部114が、予測摩耗量に基づいて、砥石23の拡張量に対する補正量を算出し、拡張量決定部115が、算出された補正量に基づいて、次に行うワークWの研削工程における砥石23の拡張量を決定する。これにより、複数のワークWに対して1つずつ順次研削工程を行う際の複数のワークWそれぞれに対応する拡張量が適切に決定されるので、複数のワークWに対して順次研削工程を行う際の加工精度を高めることができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前述の実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば、摩耗量推移関数が、式(1)以外の形状を有するものであってもよい。
【0049】
実施の形態では、摩耗量予測部113が摩耗関数を用いて予測摩耗量を算出する例について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば前述の理論内径寸法と計測装置3で計測される実際の内径寸法の差分寸法と研削工程実行回数と実際の砥石23の摩耗量とに基づいて機械学習された学習済モデルを用いて、予測摩耗量を算出するものであってもよい。
【0050】
以上、本発明の実施の形態および変形例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、実施の形態および変形例が適宜組み合わされたもの、それに適宜変更が加えられたものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、複数のワークについて順次ホーニング加工を実施するホーニング加工装置として好適である。
【符号の説明】
【0052】
1:ホーニング加工制御装置、2:ホーニング加工装置、3:計測装置、21:ホーニングツール、22:回転主軸、23:砥石、24:砥石台、28,38:駆動部、29,39:制御部、31:エアマイクロメータ、101:CPU、102:主記憶部、103:補助記憶部、105:入力部、106:インタフェース、109:バス、111:計測値取得部、112:摩耗量推定部、113:摩耗量予測部、114:補正量算出部、115:拡張量決定部、116:制御情報出力部、117:研削工程実行回数監視部、131:目標値記憶部、132:計測値記憶部、133:摩耗量履歴記憶部、134:関数記憶部、135:研削工程実行回数記憶部、136:拡張量記憶部、211:ウェッジロッド、211a:ウェッジ、311:本体部、311a:吐出孔、312:ゲージ、313:接続部、J1,J2:中心軸、W:ワーク、Wa:内壁、Wh:加工孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10