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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097655
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】新規多孔質酸化金属
(51)【国際特許分類】
   C01G 55/00 20060101AFI20230703BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20230703BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20230703BHJP
   C25B 11/091 20210101ALI20230703BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20230703BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230703BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230703BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230703BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C01G55/00
C25B11/031
C25B11/054
C25B11/091
C25B11/081
C25B1/04
C25B9/00 A
B01J37/08
B01J23/46 M
B01J23/46 301M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213884
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100184767
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100098556
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 紘造
(74)【代理人】
【識別番号】100137501
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 百合子
(72)【発明者】
【氏名】松本 和也
(72)【発明者】
【氏名】寺境 光俊
【テーマコード(参考)】
4G048
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AA08
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD06
4G048AE06
4G048AE07
4G048AE08
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169AA11
4G169BA08B
4G169BA21C
4G169BA27C
4G169BA28C
4G169BA36C
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06B
4G169BB08C
4G169BC69A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169BD12C
4G169BE14C
4G169BE16C
4G169BE46C
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EC02X
4G169EC02Y
4G169EC03X
4G169EC03Y
4G169EC04X
4G169EC04Y
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB05
4G169FB30
4G169FB36
4G169FC02
4G169FC07
4K011AA02
4K011AA11
4K011AA32
4K011DA01
4K021DB18
(57)【要約】
【課題】高い酸素発生触媒能を有しつつも、製造方法が簡便な、新規多孔質酸化金属を提供することである。
【解決手段】
白金族金属の塩化物錯イオンとプロトン化された第一級アミン化合物からなるイオン結晶、が焼成されてなる、多孔質酸化金属。焼成温度が360℃~600℃である前記の多孔質酸化金属。白金族金属の塩化物錯イオンが[IrCl3-及び/又は[RuCl3-である前記の多孔質酸化金属。第一級アミン化合物が、芳香族第一級アミン化合物及び又は脂肪族第一級アミン化合物である、前記の多孔質酸化金属。
本発明によれば、高い酸素発生触媒能を有し、製造方法も簡便な、新規多孔質酸化金属を提供することができる。さらに、白金族金属選択回収法と同様の原理で、触媒前駆体であるイオン結晶を得ているため、低品位の原料からも触媒が製造可能である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族金属の塩化物錯イオンとプロトン化された第一級アミン化合物からなるイオン結晶、が焼成されてなる、多孔質酸化金属。
【請求項2】
焼成温度が360℃~600℃である請求項1の多孔質酸化金属。
【請求項3】
白金族金属の塩化物錯イオンが[IrCl3-及び/又は[RuCl3-である、請求項1又は2の多孔質酸化金属。
【請求項4】
第一級アミン化合物が、芳香族第一級アミン化合物及び又は脂肪族第一級アミン化合物である、請求項1~3のいずれか1の多孔質酸化金属。
【請求項5】
0.5mol/L硫酸溶液中で測定したときの電気化学的活性表面積が90~700m/gである、請求項1~4のいずれか1の多孔質酸化金属。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1の多孔質酸化金属である、酸素発生触媒。
【請求項7】
白金族金属の塩化物錯イオンとプロトン化された第一級アミン化合物、からなるイオン結晶である、酸素発生触媒前駆体。
【請求項8】
(1)白金族金属を含む塩酸溶液に第一級アミン化合物を混合する工程と、
(2)生じた沈殿を焼成する工程
を含む、多孔質酸化金属の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い酸素発生触媒能を有する新規な多孔質酸化金属に関する。さらに詳しくは、イオン結晶が焼成されてなる、高い酸素発生触媒能を有する新規多孔質酸化金属に関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解による水素製造は、再生可能エネルギー発電による電力を化学エネルギーである水素に変換できることから、脱炭素社会の実現に貢献できる技術として注目されている。水電解はカソードにおける水素発生反応とアノードにおける酸素発生反応から構成されるが、特にアノードの酸素発生反応の過電圧が高いことが課題となっている。過電圧が低く、活性の高い酸素発生触媒としてイリジウム(Ir)やルテニウム(Ru)などの白金族金属およびその酸化物が有望視されている。こうした触媒は微粒子化(非特許文献1、2)や多孔質化(非特許文献3)、合金化(非特許文献4)などにより、さらなる高活性化が図られている。また、アダムス触媒と同様の合成方法、あるいはこれに準じた合成方法で高活性な酸素発生触媒が製造可能であることが知られている(非特許文献5、6、特許文献1)。しかし、いずれの製造方法も、多段階の操作となっていて製造手順が煩雑であり、しかもpH調整、還元剤量などの製造条件の厳密な制御も必須となっている。
【0003】
一方、本発明者らは、第一級アミン化合物を回収剤として用いることで、塩酸溶液から白金族金属を沈殿として回収する方法を提案している。白金族金属の中でも、積極的な回収が極めて困難であることが知られるロジウム(Rh)についても第一級アミン化合物により沈殿回収できることを報告している。沈殿として回収されたRhは、Rh(III)の塩化物錯イオン([RhCl3-)とプロトン化したアミン化合物からなるイオン結晶であることが判明している(非特許文献7~9、特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-132465号公報
【特許文献2】WO2017/170444
【特許文献3】特開2019ー163502号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ACS Catal.,2017,7,5983-5986.
【非特許文献2】Int.J.Hydrog.Energy,2020,45,33491-33499.
【非特許文献3】Nanoscale,2017,9,9291-9298.
【非特許文献4】ACS Nano,2019,13,13225-13234.
【非特許文献5】Int.J.Hydrog.Energy,2018,43,19460-19467.
【非特許文献6】Catalysis,2019,9,318.
【非特許文献7】ACS Omega,2019,4,1868-1873.
【非特許文献8】ACS Omega,2019,4,14613-14620.
【非特許文献9】Metals,2020,10,324.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高い酸素発生触媒能を有しつつも、製造方法が簡便な、新規多孔質酸化金属を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために、種々検討の結果、白金族金属の塩化物錯イオンとプロトン化された第一級アミン化合物からなるイオン結晶、を焼成することで、高い酸素発生触媒能を有する多孔質酸化金属を簡便に製造できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.白金族金属の塩化物錯イオンとプロトン化された第一級アミン化合物からなるイオン結晶、が焼成されてなる、多孔質酸化金属。
2.焼成温度が360℃~600℃である前記1の多孔質酸化金属。
3.白金族金属の塩化物錯イオンが[IrCl3-及び/又は[RuCl3-である、前記1又は2の多孔質酸化金属。
4.第一級アミン化合物が、芳香族第一級アミン化合物及び又は脂肪族第一級アミン化合物である、前記1~3のいずれか1の多孔質酸化金属。
5.0.5mol/L硫酸溶液中で測定したときの電気化学的活性表面積が90~700m/gである、前記1~4のいずれか1の多孔質酸化金属。
6.前記1~5のいずれか1の多孔質酸化金属である、酸素発生触媒。
7.白金族金属の塩化物錯イオンとプロトン化された第一級アミン化合物、からなるイオン結晶である、酸素発生触媒前駆体。
8.(1)白金族金属を含む塩酸溶液に第一級アミン化合物を混合する工程と、
(2)生じた沈殿を焼成する工程
を含む、多孔質酸化金属の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い酸素発生触媒能を有し、製造方法も簡便な、新規多孔質酸化金属を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】イリジウムの塩化物錯イオン([IrCl3-)とプロトン化されたp-フェニレンジアミン(PPDA)からなるイオン結晶の構造を示した。X線構造解析で解析した結果である。
図2】焼成により多孔質酸化イリジウムが製造される原理を模式的に示した。
図3】多孔質酸化イリジウム製造の流れの一例を示した。
図4】酸素発生過電圧を調べたときの電流密度-電位曲線を示した。電流密度(縦軸)が10mA/cmに達したときの電圧(横軸)から、酸素発生の理論電位1.23Vを引いた値が、酸素発生過電圧となる。
図5】各材料で電極を作製したときの電極の耐久性を示した((A)多孔質酸化イリジウムのとき、(B)多孔質酸化ルテニウムのとき))。時間に対する電位の変化が一定であれば、耐久性が高いことになる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.白金族金属の塩化物錯イオン
白金族金属は、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)の6種類である。本発明に用いられる白金族金属の塩化物錯イオンは、これらのどの塩化物錯イオンでもよいが、イリジウム(III)又はルテニウム(III)又はその両方の塩化物錯イオンであればより好ましく、イリジウム(III)の塩化物錯イオンであれば特に好ましい。
酸化金属としての触媒能は、他の酸化金属より、酸化イリジウムと酸化ルテニウムが優れている。さらに、酸化イリジウムと酸化ルテニウムを比べると触媒能は酸化ルテニウムの方が優れているが、耐久性では酸化イリジウムの方が大きく優れており、触媒活性と耐久性のバランスの観点から、イリジウム(III)の塩化物錯イオンを用いるのが特に好ましい。
【0011】
2.第一級アミン化合物
本発明に用いられる第一級アミン化合物は、特に限定されないが、芳香族第一級アミン化合物、及び又は脂肪族第一級アミンであればより好ましい。
芳香族第一級アミン化合物の芳香環は、含窒素複素環などの複素環でもよい。
脂肪族第一級アミンは直鎖状アルキルモノアミンであればより好ましく、炭素数6~18の直鎖状アルキルモノアミンであればさらに好ましい。炭素数6~18の直鎖状アルキルモノアミンは、白金族金属を選択回収できる(特許文献2参照)ので、低品位の原料から触媒を製造でき、また触媒の再利用も容易になる。
また、異なる第一級アミン化合物を混合して用いてもよい。
芳香族第一級アミン化合物として、例えば下記が挙げられる。
(I)アニリンや4-ブチルアニリン、4-フェノキシアニリン等の芳香族第一級モノアミン化合物
(II)p-フェニレンジアミン(PPDA)やm-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、4,4’-オキシジアニリン等の芳香族第一級ジアミン化合物、
(III)1,3,5-ベンゼントリアミンやメラミン、2,4,6-トリアミノピリミジン等の芳香族第一級トリアミン化合物、
(IV)m-キシリレンジアミン(MXDA)やp-キシリレンジアミン等のアミンが2つ以上結合しているベンジルアミン化合物
脂肪族第一級アミン化合物として例えば、下記が挙げられる。
(V)n-ノニルアミンなどの炭素数6~18の直鎖状アルキルモノアミン
プロトン化された第一級アミン化合物は、アミノ基がプロトン化されることが多いが、複素環に窒素を有する場合その窒素がプロトン化されていてもよい。例えば、アニリンの場合は、アミノ基がプロトン化されるし、メラミンの場合は、複素環中の窒素の1つ又は2つがプロトン化される。
【0012】
3.イオン結晶
本発明で形成されるイオン結晶は、焼成することで酸素発生触媒用多孔質酸化金属となる、触媒前駆体として用いることができる。
イオン結晶は、白金族金属の塩化物錯イオンとプロトン化された第一級アミン化合物からなるが、これはこの2つを主成分として含むということで、イオン結晶の形成に影響を与えない範囲で、それ以外の混合物を含んでいてもよい。
イオン結晶は、マイナスの電荷をもつ白金族金属の塩化物錯イオンと、プラスの電荷をもつプロトン化された第一級アミン化合物が、イオン結合して形成される。例えば、イリジウムの塩化物錯イオン([IrCl3-)とプロトン化した4-ブチルアニリンのイオン結晶は、[IrCl3-の周囲を、6つのプロトン化した4-ブチルアニリンと3つの塩化物アニオンが取り囲んだイオン対を基本単位とする構造である。
また、例えば、[IrCl3-とプロトン化したp-フェニレンジアミン(PPDA)のイオン結晶は、[IrCl3-とプロトン化したPPDA(PPDA-2H)、塩化物アニオン、水が「[IrCl3-:PPDA-2H:Cl:HO=1:2:1:2」の比率で結晶を構築している(図1)。
イオン結晶の粒径に特に制限はなく、また様々な粒径が混ざっていてもよいが、取り扱いの容易さから1μm~5mmの範囲の結晶であればより好ましい。粒径は、通過するフィルターの孔径から計算する。
また、イオン結晶は単結晶でも多結晶でもよく、結晶子(単結晶であれば結晶)の大きさに制限はない。必ずしも結晶が大きく成長している方が好ましいということもない。
【0013】
4.多孔質酸化金属
イオン結晶を焼成すると多孔質酸化金属を製造することができる。例えば、イリジウムの塩化物錯イオン([IrCl3-)とp-フェニレンジアミン(PPDA)からなるイオン結晶を焼成すると、空孔が形成され、多孔質酸化イリジウムを製造することができる(図2図3右下のSEM像)。
また、ルテニウム(III)を含むイオン結晶からは多孔質酸化ルテニウムを製造することができる。さらに、イリジウム(III)とルテニウム(III)の両方を含むイオン結晶からは合金の多孔質酸化金属(酸化イリジウム/酸化ルテニウム)が得られる。金属を組み合わせてアロイ化することも可能である。
本願発明の、酸化イリジウム、酸化ルテニウムの主成分は、IrO、RuOであるが、Ir、Ruなど酸化数の異なる酸化物が含まれている可能性もある。
本願発明では、焼成することで、イオン結晶を形成する第一級アミン化合物が除去され、空隙(空孔)が形成され、多孔質な酸化金属となる。実際に触媒として機能する部分の面積である電気化学的活性表面積(ECSA)が後述のように大きい値であることから緻密な多孔質構造を有しているといえる。
この多孔質な構造を一義的に規定できる方法はなく、多孔質な酸化金属を構造から特定するのは不可能非実際的である。多孔質性の一応の指標としてBET比表面積が存在するが、当然ながら、BET比表面積で、多孔質な構造を一義的に規定できるものではない。
【0014】
5.イオン結晶を利用した多孔質酸化金属の製造
イオン結晶は、既に報告されている方法で作製可能である(非特許文献7~9、特許文献2~4)。Ir(III)やRu(III)に関しても、塩酸溶液中でRh(III)と同様の塩化物錯イオン([IrCl3-および[RuCl3-)として存在するため、Rhと同様に第一級アミン化合物とイオン結晶を形成すると考えられ、既に報告されている方法で作製が可能である。
具体的には、例えば、塩酸に溶解した白金族金属に第一級アミン化合物を混合し、静置、振とう又は攪拌し、白金族金属(例えばIr(III))含有イオン結晶を作製することができる。生じた沈殿を回収し、イオン結晶を得ることができる。「3.イオン結晶」
で記載したとおり、必ずしも結晶を成長させる必要はないので、混合してイオン結晶の沈殿が生じればよく、操作は、静置、振とう、攪拌などどのような方法でもよいし、それらを組み合わせて行ってもよい。このように本発明のイオン結晶は、複雑な条件なしに簡便に製造することができる。
次に、回収したイオン結晶を焼成する。焼成温度は360~600℃がより好ましく、380~480℃がさらに好ましく、380~400℃が特に好ましい。焼成は、空気雰囲気下、より好ましくは10~50℃/min、さらに好ましくは15~25℃/minの昇温速度で目的温度まで加熱し、より好ましくは10~60分間さらに好ましくは10~20分間、目的温度を維持することで行うとより好ましい。
このように、本発明の多孔質酸化金属製造方法によれば、イオン結晶を触媒前駆体として用い、これを焼成するだけで、多孔質酸化金属を製造することができる。
また、従来法では、高純度の出発原料(塩化イリジウム酸やイリジウム錯体など)しか用いることができなかったが、本発明では白金族金属選択回収法(非特許文献7~9、特許文献2、3)と同様の原理でイオン結晶を得ているため、原料のイリジウムやルテニウムに他の金属元素が入っていても選択的にイリジウムやルテニウムのみを含むイオン結晶を得ることができ、低品位の原料からも触媒が製造可能である。さらに、使用済みの触媒を塩酸で浸出させれば、また触媒に再生することが可能である。第一級アミン化合物として、4-ブチルアニリンやp-フェニレンジアミン、メラミン、2,6-ジアミノピリジン等を用いれば、その他の白金族金属元素が混ざっていても、イリジウムやルテニウムのみのイオン結晶を得ることができる。
【0015】
6.多孔質酸化金属の用途
本発明の多孔質酸化金属は酸素発生触媒能を有し、例えば、カーボンファイバーなどの導電性の担体とともに、水の電気分解装置のアノードとして使用することができる。
【0016】
7.多孔質酸化金属の触媒能
酸素発生触媒として、グラッシーカーボン電極にキャストし、さらにNafion(商品名)でコーティングして、電極を作製したときの、0.5M硫酸水溶液中での触媒能は、以下の通りであることが好ましい。
触媒としての性能は、例えば、上記で作製した電極を作用極として用い、電位1.2~1.4Vの範囲において、掃引速度を5~80mV/sで変化させてサイクリックボルタンメトリーを行い、掃引速度に対する電気二重層の増加量から酸化イリジウムおよび酸化ルテニウムの比容量を35μF/cmとして電気化学的活性表面積(ECSA)を求めたときに、ECSA90~700m/gであればより好ましく、200~700m/gであればさらに好まく、500~700m/gであれば特に好ましい。
さらに、電位1.1Vから1.9Vまで掃引速度10mV/sでリニアスイープボルタンメトリーを行い、電流密度10mA/cmに到達した電位と酸素発生の理論電位である1.23Vとの差を酸素発生過電圧として計算したときに、酸素発生過電圧240~350mVであればより好ましく、240~320mVであればさらに好ましく、240~285mVであれば特に好ましい。
作用極を1600rpmで回転させ,電流密度を10mA/cmに固定し、時間に対する電位の変化を測定し、耐久性を評価したときに、酸化イリジウムであれば12時間以上、酸化ルテニウムであれば、5時間以上の耐久時間があればより好ましい。
驚くべきことに、本発明の製造方法は極めて簡便であるにも関わらず、この方法で製造した多孔質酸化イリジウムは、酸素発生過電圧が0.34V以下の優れた酸素発生触媒能を示す(表1)。
また「Ir(III)-PPDA 380℃」は、酸素発生過電圧が270mVで(表1)、酸化イリジウム触媒としてほぼ最高の酸素発生触媒能を示す。
さらに耐久時間も市販品と比べ驚くほど長くなっているが、安定性の低い酸化ルテニウムの耐久時間が5時間以上に改善したことは特に驚くべきことである。
【実施例0017】
実施例1 多孔質酸化イリジウムの製造
1.多孔質酸化イリジウムの製造
イリジウム(Ir)を含有した5M塩酸溶液に、p-フェニレンジアミン(PPDA)塩酸塩を、Ir:PPDA=1:8となるように添加し、1週間静置した。
生じた沈殿をろ過して回収した。この沈殿(Ir(III)とp-フェニレンジアミン(PPDA)がイオン結合したイオン結晶)を空気雰囲気下、毎分20℃の昇温速度で380℃まで加熱し、15分間焼成することで多孔質酸化イリジウムを得た(図3)。
【0018】
実施例2 焼成の際の加熱温度を振った多孔質酸化イリジウムの製造
加熱温度を360~580℃の範囲で変化させ、それ以外は実施例1と同様にして多孔質酸化イリジウムを得た(表1「Ir(III)-PPDA」の焼成温度参照)。
【0019】
実施例3 異なる芳香族第一級アミン化合物を用いた多孔質酸化イリジウムの製造
4-ブチルアニリン(BuA)、メラミン、またはm-キシリレンジアミン(MXDA)それぞれの塩酸塩を用い、それ以外は実施例1と同様にして多孔質酸化イリジウムを得た(表1「Ir(III)-BuA」~「Ir(III)-MXDA」)。
【0020】
実施例4 脂肪族第一級アミン化合物を用いた多孔質酸化イリジウムの製造
n-ノニルアミン(NoA)塩酸塩を用いた以外は実施例1と同様にして多孔質酸化イリジウムを得た(表1「Ir(III)-NoA」)。
【0021】
実施例5 多孔質酸化ルテニウムの製造
ルテニウム(Ru)を含有した5M塩酸溶液を用い、それ以外は実施例1と同様にして多孔質酸化ルテニウムを得た(表1「多孔質酸化ルテニウム」)。
【0022】
実施例6 多孔質酸化イリジウム/酸化ルテニウムの製造
イリジウムIr及びルテニウムRuを含有した5M塩酸溶液に、p-フェニレンジアミン(PPDA)塩酸塩を加えて、イオン結晶中のIr:Ru=1:1となるようにした。それ以外は実施例1と同様にして多孔質酸化イリジウム/酸化ルテニウムを得た(表1「多孔質酸化イリジウム/酸化ルテニウム」)。
【0023】
実施例7 触媒評価
1.作用極の作製
前記実施例にて作製した多孔質酸化イリジウムを水と2-プロパノールを体積比1:2で混合させた溶媒に分散させ、電極面積0.196cmのグラッシーカーボン電極にキャストすることで電極上に0.128mg/cmの酸化イリジウムを乗せた。乾燥後、電極に0.25wt%のNafionエタノール溶液を5μLキャストし、Nafionでコーティングした。同様の方法で多孔質酸化ルテニウムまたは多孔質酸化イリジウム/酸化ルテニウムを乗せたグラッシーカーボン電極も作製した。
また、比較対象として市販の酸化イリジウム(Aldrich,製品番号206237)および酸化ルテニウム(Aldrich,製品番号238058)についても同様の方法で電極を作製した。
2.電気化学測定
前記のように作製したグラッシーカーボン電極を作用極、白金ワイヤーを対極、銀-塩化銀電極を参照極とし、電解液として0.5mol/L硫酸水溶液(窒素ガス飽和)を用いて電気化学測定を実施した。なお、すべての電位は可逆水素電極(RHE)基準に換算して示している。また、コントロールとして市販品の酸化イリジウム、酸化ルテニウムを用いた。
2-1電気化学的活性表面積の評価
電位1.2~1.4Vの範囲において、掃引速度を5~80mV/sで変化させてサイクリックボルタンメトリーを行い、掃引速度に対する電気二重層の増加量から酸化イリジウムおよび酸化ルテニウムの比容量を35μF/cmとして電気化学的活性表面積(ECSA)を求めた。
2-2酸素発生過電圧の評価
電位1.1Vから1.9Vまで掃引速度10mV/sでリニアスイープボルタンメトリーを行い、電流密度10mA/cmに到達した電位と酸素発生の理論電位である1.23Vとの差を酸素発生過電圧とした。
2-3耐久性の評価
作用極を1600rpmで回転させ、電流密度を10mA/cmに固定し、時間に対する電位の変化を測定した。
2-4.測定結果
Ir(III)とp-フェニレンジアミン(PPDA)からなるイオン結晶から製造した多孔質酸化イリジウム(表1「Ir(III)-PPDA」の多孔質酸化イリジウム)は、焼成温度が380℃のときに、ECSAは536m/gで最大となり、より低温および高温での焼成ではECSAが小さくなった。焼成温度に関わらず、Ir(III)とPPDAからなるイオン結晶から製造した多孔質酸化イリジウム(表1「Ir(III)-PPDA」の多孔質酸化イリジウム)は市販の酸化イリジウム(「酸化イリジウム(市販品)」)よりも大きいECSAを示した。
Ir(III)とPPDAからなるイオン結晶から製造した多孔質酸化イリジウム(表1「Ir(III)-PPDA」の多孔質酸化イリジウム)は、焼成温度が380℃のとき、最も低い酸素発生過電圧270mVを示した。酸素発生過電圧はECSAの大きさと相関があり、ECSAが大きいほど過電圧は低い値となる傾向が見られた。焼成温度に関わらず、Ir(III)とPPDAからなるイオン結晶から製造した多孔質酸化イリジウム(表1「Ir(III)-PPDA」の多孔質酸化イリジウム)は、市販の酸化イリジウム(表1「酸化イリジウム(市販品)」)よりも低い過電圧を示し(酸素発生過電圧は図4から求められる)、酸素発生触媒として優れていることが示された。
様々なアミン化合物とIr(III)からなるイオン結晶から製造した多孔質酸化イリジウム(表1「Ir(III)-BuA」、「Ir(III)-Meramine」、「Ir(III)-MXDA」、「Ir(III)-NoA」)は、いずれも市販の酸化イリジウム(表1「酸化イリジウム(市販品)」)と比べて大きなECSAおよび低い酸素発生過電圧を示した。酸素発生触媒としての性能はアミン化合物の種類には大きく影響されないことが示された。
Ru(III)とPPDAからなるイオン結晶から製造した多孔質酸化ルテニウム(表1「Ru(III)-PPDA」の多孔質酸化ルテニウム)は、同様に製造した多孔質酸化イリジウム(表1「Ir(III)-PPDA、380℃」の多孔質酸化イリジウム)よりも低い酸素発生過電圧を示した。RuはIrよりも高い酸素発生触媒能を示すことが知られているため、これを反映した結果となった。また、多孔質酸化ルテニウムは市販の酸化ルテニウム(表1酸化ルテニウム(市販品))よりも大きなECSAおよび低い酸素発生過電圧を示し、酸化イリジウムと同様にイオン結晶の焼成による多孔質化により酸素発生触媒能が向上したことが示された。
IrとRuをモル比1:1で含む合金の多孔質酸化物(酸化イリジウム/酸化ルテニウム)(表1「Ir(III)/Ru(III)-PPDA」の多孔質酸化イリジウム/酸化ルテニウム)は、多孔質酸化イリジウム(表1「Ir(III)-PPDA、380℃」の多孔質酸化イリジウム)と多孔質酸化ルテニウムの中間的な酸素発生過電圧を示した。IrとRuのモル比をコントロールすることで、酸素発生触媒能を変化させることができることが示された。
耐久性試験の結果、市販の酸化イリジウムは1.5時間程度で電位が大きく上昇したが、多孔質酸化イリジウムは12時間という長時間の測定でも電位は大きく変化しなかった(図5(A))。また、酸化ルテニウムも、市販品はすぐに電位が大きく上昇したが、多孔質酸化ルテニウムは5時間という長時間の測定で電位は大きく変化しなかった(図5(B))。多孔質化により、酸素発生過電圧だけでなく、触媒の耐久性も向上することが示された。
【0024】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、触媒活性の高い酸素発生触媒を、簡便な方法で製造することが可能となる。この触媒は、水の電気分解の電極として使うことができるので、自然エネルギーで生産した電気を、水の電気分解を利用して、水素として、保存する、一連の流れに関わる業界、特に、水の電気分解装置に関わる業界に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5