(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097662
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】車両用前照灯の制御装置、車両用前照灯の制御方法、車両用前照灯システム
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/115 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
B60Q1/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213892
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤本 和宏
【テーマコード(参考)】
3K339
【Fターム(参考)】
3K339AA02
3K339BA01
3K339BA25
3K339CA01
3K339DA01
3K339DA04
3K339DA06
3K339GB01
3K339HA13
3K339LA02
3K339LA11
3K339MA10
3K339MC41
3K339MC45
3K339MC48
3K339MC49
3K339MC50
3K339MC52
3K339MC61
3K339MC68
(57)【要約】 (修正有)
【課題】車両の状態に応じた光軸調整が可能な車両用前照灯の制御装置を提供する。
【解決手段】車両の状態を特定する車両状態特定部12と、車両状態特定部12による特定結果を受けて照射光の光軸を調整する光軸調整部23を含む、車両状態特定部12は、第1処理として、車両がエンジン車である場合には加速度に関する基準値を第1値に設定するとともに車両がエンジン車以外である場合には基準値を第1値より小さい第2値に設定して、加速度センサ21を用いて検出される加速度の絶対値が基準値より小さい場合には車両の状態が停車状態であると特定し、加速度の絶対値が基準値以上である場合には車両の状態が非停車状態であると特定する処理を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前照灯による照射光の光軸を制御するための装置であって、
前記車両に搭載された加速度センサと、
前記車両の状態が停車状態であるか非停車状態であるかを特定する特定部と、
前記特定部による特定結果を受けて前記車両の状態が前記停車状態である場合と前記非停車状態である場合の各々に対応した制御により前記照射光の光軸を調整する光軸調整部と、
を含み、
前記特定部は、第1処理として、前記車両がエンジン車である場合には加速度に関する基準値を第1値に設定するとともに前記車両がエンジン車以外である場合には当該基準値を当該第1値より小さい第2値に設定して、前記加速度センサを用いて検出される加速度の絶対値が当該基準値より小さい場合には前記車両の状態が前記停車状態であると特定し、当該加速度の絶対値が当該基準値以上である場合には前記車両の状態が前記非停車状態であると特定する処理を行う、
車両用前照灯の制御装置。
【請求項2】
前記特定部は、前記第1処理において、前記車両がエンジン車であって当該車両がアイドルストップの状態ではない場合に前記基準値を前記第1値に設定し、前記車両がエンジン車であっても当該車両がアイドルストップの状態である場合には前記基準値を前記第2値に設定する、
請求項1に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項3】
前記加速度センサを用いて検出される前記加速度は、前記車両の上下方向に対応する加速度である、
請求項1又は2に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項4】
前記特定部は、第2処理として、前記車両がオートマチック車であって当該車両のシフトレバー位置が停車に対応する位置である場合には前記第1処理を行うことなく前記車両の状態が前記停車状態であると特定し、前記車両がオートマチック車でない場合及び/又は当該車両のシフトレバー位置が停車に対応する位置ではない場合には前記車両の状態が前記非停車状態であると特定する処理を行い、
前記特定部は、前記第2処理において前記車両の状態が前記非停車状態と特定された場合には更に前記第1処理を行って前記車両の状態を特定する、
請求項1~3の何れか1項に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項5】
前記特定部は、第3処理として、前記車両の車速及び/又は車輪速に基づいて前記車両の状態が前記停車状態であるか前記非停車状態であるかと特定する処理を行い、
前記特定部は、前記第3処理において前記車両の状態が前記非停車状態と特定された場合には更に前記第2処理を行って前記車両の状態を特定する
請求項4に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項6】
車両の前照灯による照射光の光軸を制御するための方法であって、
(a)車両の状態が停車状態であるか非停車状態であるかを特定すること、
(b)前記(a)による特定結果を受けて前記車両の状態が前記停車状態である場合と前記非停車状態である場合の各々に対応した制御により前記照射光の光軸を調整すること、
を含み、
前記(a)は、第1処理として、前記車両がエンジン車である場合には加速度に関する基準値を第1値に設定するとともに前記車両がエンジン車以外である場合には当該基準値を当該第1値より小さい第2値に設定して、前記加速度センサを用いて検出される加速度の絶対値が当該基準値より小さい場合には前記車両の状態が前記停車状態であると特定し、当該加速度の絶対値が当該基準値以上である場合には前記車両の状態が前記非停車状態であると特定する処理を行う、
車両用前照灯の制御方法。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項に記載の制御装置と、
前記制御装置によって光軸を制御される前照灯と、
を含む、車両用前照灯システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用前照灯を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2013-71477号公報(特許文献1)には、車両停止中においては車室ドア開閉センサが出力する信号またはトランクドア開閉センサが出力する信号を受信した場合に傾斜センサの出力値を用いて車両用灯具の光軸調節を指示する調節信号を生成して出力するよう制御し、車両走行中においては調節信号の出力を回避するか光軸位置の維持を指示する維持信号を生成して出力するよう制御する車両用灯具の制御装置が記載されている。この制御装置において、車両が停車中か走行中かの判断には車速センサの検出値が用いられている。
【0003】
ところで、一般に車速センサは車軸の1回転あたり10個以下(例えば2~8個)のパルス信号を発生させるものが多い。このため、車両がクリープ走行している場合など車速が極低い(例えば時速5km以下など)場合には、車両が動き始めてからパルス信号が生じるまでにある程度の時間を要する。この時間においては停止中に対応した光軸調整が実行される可能性があり、適切な光軸とならない場合が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示に係る具体的態様は、車両の状態に応じた光軸調整を実行することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本開示に係る一態様の車両用前照灯の制御装置は、(a)車両の前照灯による照射光の光軸を制御するための装置であって、(b)前記車両に搭載された加速度センサと、(c)前記車両の状態が停車状態であるか非停車状態であるかを特定する特定部と、(d)前記特定部による特定結果を受けて前記車両の状態が前記停車状態である場合と前記非停車状態である場合の各々に対応した制御により前記照射光の光軸を調整する光軸調整部と、を含み、(e)前記特定部は、第1処理として、前記車両がエンジン車である場合には加速度に関する基準値を第1値に設定するとともに前記車両がエンジン車以外である場合には当該基準値を当該第1値より小さい第2値に設定して、前記加速度センサを用いて検出される加速度の絶対値が当該基準値より小さい場合には前記車両の状態が前記停車状態であると特定し、当該加速度の絶対値が当該基準値以上である場合には前記車両の状態が前記非停車状態であると特定する処理を行う、車両用前照灯の制御装置である。
[2]本開示に係る一態様の車両用前照灯の制御方法は、車両の前照灯による照射光の光軸を制御するための方法であって、(a)車両の状態が停車状態であるか非停車状態であるかを特定すること、(b)前記(a)による特定結果を受けて前記車両の状態が前記停車状態である場合と前記非停車状態である場合の各々に対応した制御により前記照射光の光軸を調整すること、を含み、前記(a)は、第1処理として、前記車両がエンジン車である場合には加速度に関する基準値を第1値に設定するとともに前記車両がエンジン車以外である場合には当該基準値を当該第1値より小さい第2値に設定して、前記加速度センサを用いて検出される加速度の絶対値が当該基準値より小さい場合には前記車両の状態が前記停車状態であると特定し、当該加速度の絶対値が当該基準値以上である場合には前記車両の状態が前記非停車状態であると特定する処理を行う、車両用前照灯の制御方法である。
[3]本開示に係る一態様の車両用前照灯システムは、上記[1]の制御装置と、この制御装置によって光軸を制御される前照灯と、を含む、車両用前照灯システムである。
【0007】
上記のような構成によれば、車両の状態に応じた光軸調整が実行される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、車両制御ECUを実現するコンピュータシステムの構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、前照灯ユニットの構成および動作を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、車輪速センサの構成例を模式的に示す図である。
【
図5】
図5(A)、
図5(B)は、車輪速センサのホール素子から出力される検出信号の一例を示す波形図である。
【
図6】
図6は、車両用前照灯システムの動作手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図6に示すステップS11の詳細な動作手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、
図6に示すステップS13の詳細な動作手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、
図6に示すステップS15の詳細な動作手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。図示の車両用前照灯システムは、コントローラ10、一対の前照灯ユニット30L、30R、車速センサ40、車輪速センサ41、ドライブシャフト回転検出センサ42、プロペラシャフト回転検出センサ43を含んで構成されている。
【0010】
コントローラ10は、前照灯ユニット30L、30Rの点消灯制御及び光軸制御(レベリング)を行うためのものである。このコントローラ10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有するコンピュータシステムを用い、このコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることによって実現されるものである。本実施形態のコントローラ10は、CPUでの動作プログラムの実行により実現される機能ブロックとしての車両内情報取得部11、車両状態特定部(特定部)12、角度演算部22、光軸調整部23を有する。また、本実施形態のコントローラ10は、加速度センサ21を内蔵している。
【0011】
前照灯ユニット30L、30Rは、車両前部の左右の所定位置に設置されて、車両前方へ光を照射するためのものである。本実施形態の前照灯ユニット30L、30Rは、それぞれ、光源31とレベリングアクチュエータ32を含んで構成されている。この前照灯ユニット30L、30Rは、コントローラ10と接続されており、コントローラ10により、光源31の点消灯動作が制御されるとともに、レベリングアクチュエータ32の動作が制御されることによって光源31の出射光の光軸が調整される。
【0012】
車速センサ40は、車両の車軸(車輪を取り付けるための軸)の回転数に応じて間欠的な信号であるパルス信号(車速パルス)を発生させるものであり、コントローラ10と接続されている。車速センサ40は、例えば車軸の1回転あたり数個のパルス信号を発生させる。このため、例えば車両がクリープ現象などによって時速5km/h以下のようなごく低速で動いているような場合には、車速センサ40からパルス信号が発生するまでに比較的長い時間を要する。
【0013】
車輪速センサ41は、車両の車軸に取り付けられた車輪の回転速度である車輪速を検出するものであり、コントローラ10と接続されている。本実施形態の車輪速センサ41は、例えば、アスクルハブ、ブレーキドラム、ドライブシャフトなどの車輪に伴って回転する部分の回転速度を検出することで間接的に車輪の回転速度を検出するものであってもよいし、車輪から直接的に回転速度を検出するものであってもよい。
【0014】
ドライブシャフト回転検出センサ42は、車両のドライブシャフトの回転速度を検出するものであり、コントローラ10と接続されている。ここでいうドライブシャフトとは、エンジンまたはモータなどの動力源によって生み出される駆動力を車両の車輪へ伝えるためのものである。なお、上記した車輪速センサ41がドライブシャフトの回転速度に基づいて車輪速を検出するものである場合には、ドライブシャフト回転検出センサ42は省略されてもよい。
【0015】
プロペラシャフト回転検出センサ43は、車両のプロペラシャフトの回転速度を検出するものであり、コントローラ10と接続されている。ここでいうプロペラシャフトとは、例えば四輪駆動車や後輪駆動車などにおいて車両前部に配置されたエンジンまたはモータなどの動力源によって生み出される駆動力を車両後部のディファレンシャルギア等へ伝えるためのものである。なお、プロペラシャフトを備えない車両の場合にはこのプロペラシャフト回転検出センサ43は省略される。
【0016】
コントローラ10の車両内情報取得部10は、車両内に搭載された複数の車載装置の相互間でデータ通信を行うために車両内に設けられている通信ネットワーク(図示省略)に接続し、この通信ネットワーク上で送受信可能な種々の車両内情報(車両内情報データ)44を取得する。車両内情報44は、車両内に搭載された複数の車載装置から適宜、取得可能に構成されている。例えば、車両の動作制御を行う電子制御システムから、その車両に関する種々の情報(車名、型式等)を取得することができる。本実施形態において用いられる車両内情報の具体例については後述する。
【0017】
コントローラ10の車両状態特定部12は、車速センサ40から得られるパルス信号と、車輪速センサ41から得られる車輪速信号を用いて、車両の状態が「停車状態」であるか「非停車状態」であるかを特定する。具体的な特定方法については後述する。
【0018】
コントローラ10の加速度センサ21は、例えば互いに直交する3軸のそれぞれにおける加速度を検出するものであり、3軸それぞれが車両の前後方向、左右方向、上下方向に対応するように車両内に設置されるがこの限りではない。なお、本実施形態では加速度センサ21はコントローラ10に内蔵されているが、加速度センサ21はコントローラ10に内蔵されずに外付けされていてもよい。
【0019】
コントローラ10の角度演算部22は、加速度センサ21によって検出される加速度を用いて車両の姿勢角度を演算する。車両の姿勢角度とは車両の前後軸と路面(基準軸)とのなす角度である。この姿勢角度の変化に応じて前照灯ユニット30による照射光の光軸が光軸調整部23により調整される。
【0020】
本実施形態の角度演算部22は、車両の状態が停車状態である場合には車両の姿勢角度を演算するが、車両の状態が非停車状態である場合には車両の姿勢角度を演算しない。停車状態における車両の姿勢角度の演算方法については公知の種々の方法を用いることができ、特に限定はない。簡単な一例を挙げると、加速度センサ21を用いて得られる車両前後方向に対応した加速度をXa、車両上下方向に対応した加速度をYaとすると、車両の姿勢角度θは、θ=tan-1(Xa/Ya)と求めることができる。なお、車両の状態が非停車状態である場合にも姿勢角度を演算してもよい。その場合の演算方法についても公知の種々の方法を用いることができ、特に限定はない。
【0021】
コントローラ10の光軸調整部23は、角度演算部22によって求められる車両の姿勢角度に基づいて、前照灯ユニット30L、30Rによる照射光の光軸を調整する。具体的には、光軸調整部23は、前照灯ユニット30L、30Rのレベリングアクチュエータ32を動作させるための制御信号を生成する。
【0022】
前照灯ユニット30L、30Rの光源31は、図示しない電源から電力供給を受けて光を発生させるものである。この光源31は、光を発生し得るものであればよく、例えばハロゲンランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ、あるいはLEDなどの半導体発光素子が用いられる。
【0023】
前照灯ユニット30L、30Rのレベリングアクチュエータ32は、光軸調整部23から供給される制御信号に基づいて、光源31による光の主たる進行方向である光軸の角度を調整するために光源31の向きを可変に設定する。
【0024】
図2は、車両制御ECUを実現するコンピュータシステムの構成例を示す図である。図示のコンピュータシステムは、相互に通信可能に接続されたCPU201、ROM202、RAM203、記憶装置204、外部インタフェース(I/F)205、加速度センサ207を含んで構成されている。CPU201は、ROM202から読み出される基本制御プログラムをベースにして動作し、記憶装置204に格納されたプログラム(アプリケーションプログラム)206を読み出してこれを実行する。これにより、上記した車両内情報取得部10、車両状態特定部12、角度演算部22、光軸調整部23などの機能が実現される。RAM203は、CPU201の動作時に使用されるデータを一時的に記憶する。記憶装置204は、例えばハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの不揮発性のデータ記憶装置であり、プログラム206など種々のデータを格納する。外部インタフェース205は、CPU201と外部装置を接続するインタフェースである。本実施形態では、車速センサ40、車輪速センサ41等とCPU201との接続に用いられる。加速度センサ207は、上記した加速度センサ21に対応する。
【0025】
図3は、前照灯ユニットの構成および動作を模式的に示す図である。本実施形態の前照灯ユニット30L、30Rは、それぞれ、上記した光源31と、この光源31を収容するハウジング33と、光源31の前方(光の出射する方向)に配置されておりハウジング33に固定されているレンズ34を備える。ハウジング33の内側面には、光源31からの光を前方へ反射させる反射面が設けられている。アクチュエータ32は、光源31を収容するハウジング33と連結されており、このハウジング33の姿勢を変化させる。それにより、光源31からの光の光軸aを可変に設定することができる。例えば、車両の後部が相対的に下がっている場合には光軸aが下向きとなるように制御され、車両の前部が相対的に下がっている場合には光軸aが上向きとなるように制御される。その際にどの程度下向きまたは上向きにするかは車両の姿勢角度に応じて設定される。光軸aは、光の照射方向と言い換えることもできる。
【0026】
図4は、車輪速センサの構成例を模式的に示す図である。本実施形態の車輪速センサ41は、磁気センサロータ50、ホール素子(検出素子)51、信号処理回路52を含んで構成されている。磁気センサロータ50は、例えば磁性化されたゴムを用いて構成されており、円周方向に沿ってN極とS極が交互に配置されている。この磁気センサロータ50は、上記したアクスルハブなどの車輪の回転に連動して回転する部分(回転体)に設けられている。一対の磁極(1つのN極とそれに隣り合う1つのS極の対)の設置範囲rは、小さいほど好ましい。設置範囲rが小さいほど、車輪のわずかな回転に対応して車輪速を検出し得るからである。具体的には、設置範囲rは、例えば磁気センサロータ50の円周の1/nに設定してもよく、この場合のnは、少なくとも4より大きい数とすることができ、8より大きい数とすることもでき、16より大きい数とすることもできる。nが大きいほど車輪速の検出をより早い時点から行うことができる。ホール素子51は、磁気センサロータ50の回転により生じる磁界の変化を検出するものであり、磁気センサロータ50の表面との間に所定の隙間をあけて配置されている。信号処理回路52は、ホール素子51と接続されており、ホール素子51の検出信号に対して所定の信号処理を行うことによって車輪速信号を生成する。なお、
図4に示す構成は一例であり車輪速センサ41の構成はこれに限定されない。
【0027】
図5(A)、
図5(B)は、車輪速センサのホール素子から出力される検出信号の一例を示す波形図である。本実施形態の車輪速センサ41では、磁気センサロータ50の回転に伴う磁界の連続的な変化に応じて、正負交互に繰り返す正弦波状の検出信号がホール素子51から得られる。
図5(A)に示す検出信号の波形は相対的に回転速度が小さい場合の検出信号であり、
図5(B)に示す検出信号の波形は相対的に回転速度が大きい場合の検出信号である。回転速度が大きくなるほど検出信号の周波数が高くなる。原理上、この検出信号は、磁気センサロータ50の回転速度が極小さくても得られる。ホール素子51と対向する位置のN極とS極が入れ替わる毎に1周期分の信号が得られるからであり、N極とS極は比較的狭い範囲で交互に配置することが可能だからである。本実施形態の車輪速センサ41では、このようなホール素子51による検出信号が信号処理回路52によって適宜増幅、整形された後、矩形波信号に変換される。本実施形態では、この矩形波信号が車輪速信号として用いられる。具体的には、矩形波信号の車輪速信号がコントローラ10に入力されると、コントローラ10は、車輪速信号に基づいて矩形波の周波数を演算し、この周波数の大きさに基づいて車輪速を得る。なお、ここで示した信号処理方法は一例であり、これに限定されない。
【0028】
図6は、車両用前照灯システムの動作手順を示すフローチャートである。なお、情報処理の結果に矛盾、齟齬を生じない限り、各ステップの順番を適宜入れ替えてもよいし、図示しない他のステップが追加されてもよい(
図7~
図9に示すフローチャートにおいても同様)。
【0029】
車両状態特定部12は、車両状態を特定するための処理の1つとして、車速及び車輪速に基づく処理を行う(ステップS11)。本ステップS11での処理の詳細については後述する(
図7参照)。本ステップS11における処理結果として得られた車両状態が「停車状態」である場合には(ステップS12;YES)、次のステップS13に進む。なお、ここでの処理が「第3処理」に対応する。
【0030】
車両状態特定部12は、車両状態を特定するための処理の1つとして、車両のトランスミッションに関する情報に基づく処理を行う(ステップS13)。本ステップS13での処理の詳細については後述する(
図8参照)。本ステップS13における処理結果として得られた車両状態が「停車状態」である場合には(ステップS14;YES)、次のステップS15に進む。なお、ここでの処理が「第2処理」に対応する。
【0031】
車両状態特定部12は、車両状態を特定するための処理の1つとして、車両に設けられた加速度センサ21を用いて得られる加速度に基づく処理を行う(ステップS15)。本ステップS15での処理の詳細については後述する(
図9参照)。本ステップS15における処理結果として得られた車両状態が「停車状態」である場合には(ステップS16;YES)、車両状態特定部12は、車両状態を「停車状態」であると特定する。なお、本ステップS11での処理が「第1処理」に対応する。
【0032】
車両の状態が「停車状態」であると特定された場合に、コントローラ10の角度演算部22は、加速度センサ21により得られる加速度の値を用いて、停車状態に対応した演算方法により車両の姿勢角度を演算する。そして、光軸調整部23は、角度演算部22により求められた姿勢角度に応じて前照灯ユニット30L、30Rの光軸aを調整するための制御信号を生成して前照灯ユニット30L、30Rへ出力する。この制御信号に基づいてレベリングアクチュエータ32が動作することにより、光源31からの光の光軸aが調整される。すなわち、停止時に対応した光軸制御が実行される(ステップS17)。
【0033】
他方、ステップS12、S14、S16の何れかにおいて得られた車両状態が「停車状態」ではない場合には(ステップS12、S14、S16;NO)、車両状態特定部12は、車両状態を「非停車状態」であると特定する。ここでいう「非停車状態」とは、車両が走行状態である場合と、安定した停車状態ではない場合のいずれも含み得る。
【0034】
車両の状態が「非停車状態」であると特定された場合に、コントローラ10の角度演算部22は、車両の姿勢角度を演算しない。この場合、光軸調整部23は、角度演算部22により求められた姿勢角度に応じて前照灯ユニット30L、30Rの光軸aを調整するための制御信号を出力しないか、あるいは前回の演算で求められた姿勢角度に応じた制御信号の出力を継続する。これにより、光源31からの光の光軸aが変化しないまま維持される。すなわち、走行時に対応した光軸制御が実行される(ステップS18)。なお、角度演算部22は、車両状態が「非停車状態」である場合に適した公知の種々の方法により車両の姿勢角度を演算してもよい。この場合には、得られた姿勢角度に応じた制御信号が光軸調整部23によって出力される。
【0035】
図7は、
図6に示すステップS11の詳細な動作手順を示すフローチャートである。以下、
図7を参照しながら、車両状態を特定するための処理の1つとしての車速及び車輪速に基づく処理について詳細に説明する。
【0036】
コントローラ10の車両状態特定部12は、車速センサ40から出力されるパルス信号(車速パルス)に基づいて車速が時速0km以下であるか否かを判定する(ステップS31)。上記したように、車速センサ40が車軸の一回転ごとに数個のパルスを発生させるものである場合、例えば車両がわずかに動き出したようなときには、車両の動き出しの時点からパルス信号が得られるまでに相応の時間を要する。そのような場合、あるいは車両が本当に停止している場合においては、本ステップにおいて、パルス信号が得られていないため、時速0km以上ではない(停車状態)と判定され得る。
【0037】
車速パルスに基づく車速が時速0km以下である場合には(ステップS31;YES)、車両状態特定部12は、車輪速センサ41からの車輪速信号に基づいて、車輪速が時速0km以下であるか否かを判定する(ステップS32)。上記したように、車輪速信号は、車輪の回転が始まっていればそれに応じて速やかに得られる。このため、例えば車両がわずかに動きだしたようなときにも対応できる。
【0038】
車輪速信号に基づく車輪速が時速0km以下である場合には(ステップS32;YES)、車両状態特定部12は、車両の状態が「停車状態」であると特定する(ステップS33)。
【0039】
他方、車速パルスに基づく車速が時速0kmより大きい場合(ステップS31;NO)、または、車輪速信号に基づく車輪速が時速0kmより大きい場合には(ステップS32;NO)、車両状態特定部12は、車両の状態が「非停車状態」であると特定する(ステップS34)。
【0040】
以上のようにして、車速及び車輪速に基づく処理が終了し、車両状態が「停車状態」または「非停車状態」の何れかに特定されると、上記したステップS12へ進む(
図6参照)。なお、ここでの処理においては、車速に基づく処理と車輪速に基づく処理のいずれか一方のみを行ってもよい。
【0041】
図8は、
図6に示すステップS13の詳細な動作手順を示すフローチャートである。以下、
図8を参照しながら、車両状態を特定するための処理の1つとしてのトランスミッションに関する情報に基づく処理について詳細に説明する。
【0042】
車両状態特定部12は、車両内情報取得部11によって車両内ネットワークを介して他の車載装置から取得される車両内情報を用いて、自車両がオートマチック車であるか否かを判定する(ステップS41)。なお、本明細書での「オートマチック車」とは、車両の発進時から通常走行までのギアチェンジが自動的に行われる車両をいう。そして、自車両がオートマチック車であるか否かは、例えば車両内情報の一例である車種情報に基づいて特定することができる。この場合において、車種情報には、車両の名称、グレード、年式、型式など、その車両に搭載されている変速機(トランスミッション)がオートマチックであるか否かを特定可能な情報が含まれているものとする。
【0043】
自車両がオートマチック車である場合に(ステップS41;YES)、車両状態特定部12は、車両内情報取得部11によって車両内ネットワークから取得される車両内情報を用いて、自車両のシフトレバーの位置が「P(停車)」であるか否かを判定する(ステップS42)。なお、シフトレバーの位置については、車両のシフトレバーの位置を示すシフトポジション情報に基づいて特定することができる。シフトポジション情報は、シフトレバーの位置に応じて車両内ネットワークを介して受信可能であるとする。
【0044】
シフトレバーの位置が「P」である場合には(ステップS42;YES)、車両状態特定部12は、車両の状態が「停車状態」であると特定する(ステップS43)。
【0045】
他方、自車両がマニュアル車等であり、オートマチック車ではない場合(ステップS41;NO)、または、自車両のシフトレバーの位置が「P」以外である場合には(ステップS42;NO)、車両状態特定部12は、車両の状態が「非停車状態」であると特定する(ステップS44)。
【0046】
以上のようにして、トランスミッションに関する情報に基づく処理が終了し、車両状態が「停車状態」または「非停車状態」の何れかに特定されると、上記したステップS14へ進む(
図6参照)。
【0047】
図9は、
図6に示すステップS15の詳細な動作手順を示すフローチャートである。以下、
図9を参照しながら、車両状態を特定するための処理の1つとしての車両に設けられた加速度センサ21を用いて得られる加速度に基づく処理について詳細に説明する。
【0048】
車両状態特定部12は、車両内情報取得部11によって車両内ネットワークを介して他の車載装置から取得される車両内情報を用いて、自車両がエンジン車であるか否かを判定する(ステップS51)。なお、本明細書での「エンジン車」とは、主たる動力源としてエンジン(内燃機関)のみを用いる車両をいい、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンを備える車両をいう。そして、自車両がエンジン車であるか否かは、例えば車両内情報の一例である車種情報に基づいて特定することができる。この場合において、車種情報には、車両の名称、グレード、年式、型式など、その車両がエンジン車であるか否かを特定可能な情報が含まれているものとする。
【0049】
自車両がエンジン車である場合に(ステップS51;YES)、車両状態特定部12は、車両内情報取得部11によって車両内ネットワークを介して他の車載装置から取得される車両内情報を用いて、自車両がいわゆるアイドルストップの状態以外の状態であるか否かを判定する(ステップS52)。なお、本明細書での「アイドルストップの状態」とは、エンジン車である車両が一時的に停車した状態において自動的にエンジンが停止される機能を備えた車両において、当該機能が発揮された状態をいう。アイドルストップの状態かどうかは、車両内ネットワークを介して受信される車両のステータス情報に基づいて判定することができるものとする。
【0050】
自車両がアイドルストップの状態以外である場合に(ステップS52;YES)、車両状態特定部12は、後述するステップS55の判定処理に用いる基準値を第1値に設定する(ステップS53)。他方で、自車両がいわゆるハイブリッド車や電気自動車などのエンジン車以外の車両である場合(ステップS51;NO)または自車両がアイドルストップ状態である場合(ステップS52;NO)、車両状態特定部12は、後述するステップS55の判定処理に用いる基準値を第2値に設定する(ステップS54)。
【0051】
ここで、上記「基準値」とは、自車両が停車状態であるか否かを加速度に基づいて判定する際の閾値として用いるものである。自車両がエンジン車であってアイドルストップの状態以外である場合には、車両の振動が相対的に大きくなるため、第1値としては第2値より相対的に大きい値が用いられる。自車両がエンジン車以外である場合やアイドルストップの状態である場合には、車両の振動が相対的に小さくなるため、第2値としては第1値より相対的に小さい値が用いられる。
【0052】
第1値、第2値のそれぞれは実験やシミュレーション等に基づいて適宜に設定することが可能であり、車種に応じて異なる値とすることも好ましい。一例として、本実施形態では、第1値を絶対値で5mGとし、第2値を絶対値で2mGとする。なお、これらの数値は例示に過ぎない。
【0053】
車両状態特定部12は、加速度センサ21を用いて得られる加速度(一例として車両上下方向に対応する加速度)の絶対値が基準値(第1値または第2値)よりも小さいか否かを判定する(ステップS55)。車両上下方向に対応する加速度は、自車両が等速度で走行中の場合や停車時にはほとんど変動せず、加減速時においては変動する。このため、加速度を基準値と比較することで車両が停車しているか否かを判定することができる。
【0054】
加速度の絶対値が基準値より小さい場合には(ステップS55;YES)、車両状態特定部12は、車両の状態が「停車状態」であると特定する(ステップS56)。
【0055】
他方、加速度の絶対値が基準値以上である場合には(ステップS55;NO)、車両状態特定部12は、車両の状態が「非停車状態」であると特定する(ステップS57)。
【0056】
以上のようにして、加速度に基づく処理が終了し、車両状態が「停車状態」または「非停車状態」の何れかに特定されると、上記したステップS16へ進む(
図6参照)。
【0057】
以上のような実施形態によれば、車両の状態に応じた光軸調整が実行される。詳細には、車速や車輪速に基づく処理、トランスミッションに関する情報に基づく処理並びに加速度に基づく処理を行うことで車両状態を特定する精度が向上するので、光軸調整の精度が向上する。
【0058】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態では、車速や車輪速に基づく処理、トランスミッションに関する情報に基づく処理並びに加速度に基づく処理の3つを行っていたが、何れか1つの処理のみを行ってもよいし、何れか2つの処理を組み合わせて行ってもよい。
【0059】
また、上記した実施形態では車輪速センサにより検出される車輪速に基づいて制御を行っていたが、これに代替して上記の各センサによりドライブシャフトまたはプロペラシャフトの回転を検出したときに車両が「非停車状態」であると特定し、回転が検出されないときに車両が「停車状態」であると特定してもよい。
【0060】
また、上記した実施形態では、制御対象となる前照灯ユニットとしてアクチュエータを用いて機械的に光軸(光の照射方向)を調整する形式のものを例示していたが前照灯ユニットの構成はこれに限定されない。例えば、複数の発光素子を用いて光照射範囲を自在に制御可能な前照灯ユニットを用い、各発光素子の点消灯を制御することで光軸を調整してもよい。また、光源とその光源からの光を部分ごとに透過および遮光(ないし減光)することが可能な複数のシャッター素子を有する光変調装置(液晶装置など)を備えるランプユニットを用い、光変調装置による遮光範囲を制御することで光軸を調整してもよい。また、レーザ素子と、このレーザ素子の出射光のオン/オフを制御するコントローラと、レーザ光の向きを走査して蛍光体へ入射させる走査デバイスと、レーザ光に応じて蛍光を発生させる蛍光体とを備えるランプユニットを用い、レーザ光による走査状態を制御することで光軸を調整してもよい。
【符号の説明】
【0061】
10:コントローラ、11:車両内情報取得部、12:車両状態特定部、21:加速度センサ、22:角度演算部、23:光軸調整部、30L、30R:前照灯ユニット、31:光源、32:レベリングアクチュエータ、40:車速センサ、41:車輪速センサ、42:ドライブシャフト回転検出センサ、43:プロペラシャフト回転検出センサ