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特開2023-9773算出装置、体外循環システム及び算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009773
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】算出装置、体外循環システム及び算出方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20230113BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
A61M1/16 107
A61M1/36 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113336
(22)【出願日】2021-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000200677
【氏名又は名称】泉工医科工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100161090
【弁理士】
【氏名又は名称】小田原 敬一
(72)【発明者】
【氏名】小林 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 拓
(72)【発明者】
【氏名】大澤 直弥
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA02
4C077BB06
4C077CC03
4C077DD07
4C077EE01
4C077HH03
4C077HH20
4C077HH21
4C077JJ03
4C077JJ20
4C077JJ24
4C077KK19
4C077KK25
(57)【要約】
【課題】低侵襲な手法によってリサーキュレーション率を得る。
【解決手段】送血ライン13から送血される送血側血液のうち脱血ライン12から再循環する血液の量の程度を示すリサーキュレーション率を算出する算出装置30は、脱血ライン12から脱血される脱血側血液の酸素飽和度の平均値である脱血側平均値と、脱血側血液の酸素飽和度の最低値である脱血側最低値とを取得する取得部33と、脱血側平均値及び脱血側最低値に基づいて得られた値を用いて、リサーキュレーション率を算出する算出部31とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送血ラインから送血される送血側血液のうち脱血ラインから再循環する血液の量の程度を示すリサーキュレーション率を算出する算出装置であって、
前記脱血ラインから脱血される脱血側血液の酸素飽和度の平均値である脱血側平均値と、前記脱血側血液の酸素飽和度の最低値である脱血側最低値とを取得する取得部と、
前記脱血側平均値及び前記脱血側最低値に基づいて得られた値を用いて、前記リサーキュレーション率を算出する算出部とを備える、算出装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記脱血側平均値から前記脱血側最低値を減算して得られた値を、100から前記脱血側最低値を減算して得られた値で除算することによって、前記リサーキュレーション率を算出する、請求項1に記載の算出装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記脱血側平均値から前記脱血側最低値を減算して得られた値を、前記送血側血液の酸素飽和度の平均値である送血側平均値から前記脱血側最低値を減算して得られた値で除算することによって、前記リサーキュレーション率を算出する、請求項1に記載の算出装置。
【請求項4】
前記取得部は、所定長さの時間における前記脱血側平均値と前記脱血側最低値とを取得する、請求項1から3のいずれか一項に記載の算出装置。
【請求項5】
前記取得部は、患者の心拍数を取得するとともに、前記所定長さの時間として、所定の心拍数に対応する時間における前記脱血側平均値と前記脱血側最低値とを取得する、請求項4に記載の算出装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の算出装置と、
前記送血側血液を送血する送血ポンプと、
算出された前記リサーキュレーション率を表示する表示部とを備える、体外循環システム。
【請求項7】
送血ラインから送血される送血側血液のうち脱血ラインから再循環する血液の量の程度を示すリサーキュレーション率を算出する算出方法であって、
前記脱血ラインから脱血される脱血側血液の酸素飽和度の平均値である脱血側平均値と、前記脱血側血液の酸素飽和度の最低値である脱血側最低値とを取得し、
前記脱血側平均値及び前記脱血側最低値に基づいて得られた値を用いて、前記リサーキュレーション率を算出する、算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサーキュレーション率の算出装置、算出方法及び算出装置を備える体外循環システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、人工心肺システムである体外循環システムが開示されている。当該体外循環システムは、脱血ラインと、送血ラインとを備えている。さらに、体外循環システムは、送血ポンプと、人工肺とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-178750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
体外循環システムを用いて患者から脱血した血液を患者に送血する際に、送血ラインから送血された血液のうち体循環されずに脱血ラインから再循環する現象(以下、リサーキュレーションともいう)が発生することがある。例えば、V-VECMO(Veno-Venous ExtraCorporeal Membrane Oxygenation)を実施する場合、患者にとって呼吸の補助の程度を高く維持する必要がある。そのためには、送血ラインから送血された血液のうち体循環されずに脱血ラインから再循環する血液の量の程度(以下、リサーキュレーション率ともいう)が過度に高くならないようにする必要がある。
【0005】
例えば、リサーキュレーション率を得るためには、上大静脈血、下大静脈血、及び冠静脈血が混合された混合静脈血の混合静脈血酸素飽和度を測定する方法がある。例えば下記数式1のように、リサーキュレーション率(R)は、脱血された脱血側血液の酸素飽和度(Spre)から混合静脈血酸素飽和度(SvO)を減算して得られる値を、1から混合静脈血酸素飽和度を減算して得られる値で除算することによって求めることができる。
【0006】
R=(Spre-SvO)÷(1-SvO)(数式1)
【0007】
しかし、混合静脈血酸素飽和度を測定するためには、患者の肺静脈又は右心室にカニューレを差し込む必要がある。これにより、当該方法は侵襲性が高いことから、実施することが困難であることが多い。そこで、低侵襲な手法によってリサーキュレーション率を得る方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る算出装置は、送血ラインから送血される送血側血液のうち脱血ラインから再循環する血液の量の程度を示すリサーキュレーション率を算出する算出装置であって、前記脱血ラインから脱血される脱血側血液の酸素飽和度の平均値である脱血側平均値と、前記脱血側血液の酸素飽和度の最低値である脱血側最低値とを取得する取得部と、前記脱血側平均値及び前記脱血側最低値に基づいて得られた値を用いて、前記リサーキュレーション率を算出する算出部とを備える。
【0009】
また、本発明の他の態様に係る体外循環システムは、上記算出装置と、前記送血側血液を送血する送血ポンプと、算出された前記リサーキュレーション率を表示する表示部とを備える。
【0010】
また、本発明の他の態様に係る算出方法は、送血ラインから送血される送血側血液のうち脱血ラインから再循環する血液の量の程度を示すリサーキュレーション率を算出する算出方法であって、前記脱血ラインから脱血される脱血側血液の酸素飽和度の平均値である脱血側平均値と、前記脱血側血液の酸素飽和度の最低値である脱血側最低値とを取得し、前記脱血側平均値及び前記脱血側最低値に基づいて得られた値を用いて、前記リサーキュレーション率を算出する。
【発明の効果】
【0011】
これにより、低侵襲な手法によってリサーキュレーション率を得ることができる。
【0012】
本発明のさらなる特徴は、添付図面を参照して例示的に示した以下の実施例の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】体外循環システムの概略全体図。
図2】三尖弁の開放時の概略説明図。
図3】三尖弁の閉鎖時の概略説明図。
図4】低いリサーキュレーション率の状態の酸素飽和度を示す概略グラフ。
図5】高いリサーキュレーション率の状態の酸素飽和度を示す概略グラフ。
図6】算出処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態において説明する寸法、材料、形状及び構成要素の相対的な位置は任意に設定でき、本発明が適用される装置の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施形態に限定されない。
【0015】
図1に示すように、体外循環システム100は、患者Pの血液の体外循環を行う。例えば、体外循環システム100は、患者Pの血液の循環動作と、血液に対する酸素の付加及び二酸化炭素の除去とを行う。そのために、体外循環システム100は、脱血回路の一例である脱血ライン12と、血液を移送する送血回路の一例である送血ライン13とを備えている。
【0016】
さらに、体外循環システム100は、送血ポンプ14と、算出装置の一例である制御部30と、表示部60とを備えている。算出装置である制御部30は、送血ライン13から送血される血液である送血側血液のうち体循環されずに脱血ライン12から再循環する血液の量の程度を示すリサーキュレーション率を算出する。送血ポンプ14は、送血ライン13を介して送血側血液を患者Pの体内へ送血する。また、表示部60は、算出されたリサーキュレーション率を表示する。
【0017】
表示部60は、単体のディスプレイであってもよく、又は複数のディスプレイを有していてもよい。また、表示部60は、制御部30に有線又は無線接続されている。一例として、表示部60は、リサーキュレーション率に加えて、酸素飽和度を表示する。また、表示部60は、患者Pの心拍数、脱血側平均値、脱血側最低値、及び送血側平均値等をさらに表示してもよい。
【0018】
さらに、体外循環システム100は、血液中の二酸化炭素を排出して血液に酸素を付加する人工肺15を備えている。
【0019】
体外循環システム100は、患者Pの心拍数を測定する心拍測定装置17をさらに備えている。例えば、心拍測定装置17は、患者Pに取り付けられており、心電計、心電図解析装置、又は心拍計である。そして、心拍測定装置17は、測定した心拍数を制御部30へと送信する。制御部30は、不図示の記憶部を備えており、心拍数を測定時刻と関連付けて記憶する。なお、心拍数の測定時刻は、後述する酸素飽和度の検知時刻と同一の時間軸で表示できるように、検知時刻と同期されている。代替的に、心拍測定装置17が体外循環システム100とは別に設けられていて、体外循環システム100が当該心拍測定装置17から情報を取得してもよい。
【0020】
脱血ライン12には、酸素飽和度を検知する脱血側センサS1が設けられている。また、送血ライン13には、酸素飽和度を検知する送血側センサS2が設けられている。脱血側センサS1は、脱血ライン12を流れる脱血側血液の酸素飽和度を検知して、制御部30へと送信する。また、送血側センサS2は、送血ライン13を流れる送血側血液の酸素飽和度を検知して、制御部30へと送信する。そして、制御部30の記憶部は、脱血側血液及び送血側血液の酸素飽和度を、検知時刻と関連付けて記憶する。
【0021】
さらに、脱血ライン12には、脱血流量調整部(不図示)が設けられている。この脱血流量調整部は、送血ポンプ14のモータの回転数によって脱血流量を調整する。具体的には、モータの回転数が上がると脱血流量が増加し、モータの回転数が下がると脱血流量が減少する。代替的に、脱血流量調整部は、クランプ部材及びその駆動部を有していてもよい。手動により又はモータ等の駆動部の駆動力により、脱血流量調整部のクランプ量(挟込量)を調整できる。これにより、脱血ライン12の断面積を変化させて、脱血ライン12を流れる脱血流量を調整できる。さらに、脱血ライン12には、脱血流量を検知するセンサ、及び血液濃度を検知するセンサが接続されてもよい。
【0022】
さらに、送血ライン13には、送血流量調整部(不図示)が設けられていてもよい。この送血流量調整部は、一例としてクランプ部材であり、手動により、又は接続されたモータからの駆動力により、クランプ量を調整できる。これにより、送血ライン13の断面積を変化させて、送血ライン13を流れる送血流量を調整できる。また、送血ライン13には、送血流量を検知するセンサ及び血液濃度を検知するセンサが設けられていてもよい。
【0023】
送血ポンプ14は、モータによりインペラ羽根を回転させて、人工肺15に送血する遠心ポンプである。また、送血ポンプ14のモータは、流量制御部32から出力される制御信号によって回転数が制御される。そして、送血ポンプ14は、増減される回転数に応じた流量の血液を送血する。代替的に、送血ポンプ14は、回転ローラがチューブを押し潰しながら回転移動することにより、チューブ内の血液を吸引及び押し出すローラポンプであってもよい。
【0024】
人工肺15は、例えば、気体透過性に優れた中空糸膜又は平膜等を備えており、血液中の二酸化炭素を排出して酸素を付加する。また、人工肺15は、血液の温度を調整するための熱交換部を有している。
【0025】
脱血ライン12においては、脱血カニューレ121(図2)を介して患者Pから脱血した脱血側血液(以下、静脈血ともいう)が流れる。そして、静脈血は、送血ポンプ14によって人工肺15に送られ、送血ライン13を介して患者Pに循環される。すなわち、送血側血液(以下、動脈血ともいう)は、送血ライン13及び送血カニューレ131(図2)を介して患者Pに送血される。一例として、脱血ライン12、送血ライン13及び血液ライン16は、ポリ塩化ビニルにより形成されたチューブを有している。
【0026】
具体的に、患者Pの体外に脱血又は誘導された酸素付加前の静脈血は、人工肺15へ送血される。人工肺15は、静脈血から熱交換部の外周に配置されたフィルタによって、気泡を分離する。その後に、人工肺15は、熱交換部によって静脈血を温調する。そして、人工肺15は、ガス交換部によって、ガス交換エレメントを介して静脈血を動脈血化する(すなわち、酸素を付加し且つ二酸化炭素を除去する)。人工肺15は、ガス交換部の内周に配置されたフィルタによって、酸素付加後の動脈血から凝固塊を分離する。その後、動脈血は、送血ライン13を通って患者Pへと送血される。
【0027】
また、体外循環システム100には、体外循環血液中の気泡、異物及び白血球を除去するためのラインフィルタ、又は血液を冷却加温する熱交換器が設けられてもよい。
【0028】
[制御系について]
体外循環システム100の制御部30は、送血ポンプ14等を制御する。一例として、制御部30は、不図示のプロセッサと、制御プログラムを記憶した記憶部としてのメモリとを有しているコンピュータである。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、又はMPU(Micro-Processing Unit)であり、メモリに記憶されたプログラムに基づいて、体外循環システム100の全体を制御すると共に、各種処理についても統括的に制御する。また、メモリは、プロセッサが動作するためのシステムワークメモリであるRAM(Random Access Memory)、並びにプログラム及びシステムソフトウェアを格納するROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disc Drive)及びSSD(Solid State Drive)等のコンピュータ読取可能な非一時的な記憶媒体を含む。以下、CPUが、ROM又はHDDに記憶された制御プログラムに従って、種々の演算、制御、及び判別等の処理動作を実行する例について説明する。
【0029】
また、制御部30には、所定の指令及びデータを入力するキーボード若しくは各種スイッチを含む不図示の操作部が、有線接続又は無線接続されている。さらに、制御部30は、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、CF(Compact Flash)カード、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の可搬記録媒体、又はインターネット上のサーバ等の外部記憶媒体に記憶されたプログラムに従って制御を行うこともできる。
【0030】
さらに、制御部30は、算出部31と、流量制御部32と、取得部33とを備えている。そして、算出部31は、制御部30の記憶部に記憶された算出プログラムに基づいてリサーキュレーション率を算出する。算出部31、流量制御部32、及び取得部33は、論理的装置であり、制御部30のハードウェア資源と、ソフトウェア資源としての算出プログラム又は制御プログラムとの組合せによって実現される。
【0031】
算出部31は、取得部33が取得した脱血ライン12から脱血される脱血側血液の酸素飽和度の平均値である脱血側平均値、及び脱血側血液の酸素飽和度の最低値である脱血側最低値に基づいて得られた値を用いて、リサーキュレーション率を算出する。具体的に算出部31は、下記数式2のように、脱血側平均値(SpreAve)から脱血側最低値(SpreMin)を減算して得られた値を用いて、リサーキュレーション率(R)を算出する。すなわち、算出部31は、脱血側平均値から脱血側最低値を減算して得られた値を、100から脱血側最低値を減算して得られた値で除算することによって、リサーキュレーション率を算出する。
【0032】
R=(SpreAve-SpreMin)÷(100-SpreMin)(数式2)
【0033】
さらに算出部31は、脱血側平均値から脱血側最低値を減算して得られた値を、送血ライン13を介して送血される送血側血液の酸素飽和度の平均値である送血側平均値(SpostAve)から脱血側最低値(SpreMin)を減算して得られた値で除算することによって、リサーキュレーション率を算出してもよい。具体的に算出部31は、下記数式3のように、リサーキュレーション率を算出してもよい。ただし、送血側血液の酸素飽和度は、約100%となるように維持させることができる。そのため、上述した数式2に示すように、脱血側平均値及び脱血側最低値に基づいてリサーキュレーション率を算出することによって、送血側血液の酸素飽和度の利用を省略できる。
【0034】
R=(SpreAve-SpreMin)÷(SpostAve-SpreMin)(数式3)
【0035】
例えば、脱血側平均値が84%、脱血側最低値が75%、送血側平均値が99%である場合、数式3に従って得られるリサーキュレーション率は、37.5%(=(84-75)÷(99-75))となる。
【0036】
取得部33は、脱血ライン12から脱血される脱血側血液の酸素飽和度の平均値である脱血側平均値と、脱血側血液の酸素飽和度の最低値である脱血側最低値とを取得する。さらに、取得部33は、送血ライン13から送血される送血側血液の酸素飽和度の平均値である送血側平均値を取得してもよい。例えば、取得部33は、制御部30の記憶部に記憶されている脱血側血液及び送血側血液の酸素飽和度を取得する。
【0037】
さらに、取得部33は、所定長さの時間における脱血側最低値を取得するとともに、当該所定長さの時間における脱血側平均値と送血側平均値とを算出して取得する。一例として、取得部33は、制御部30の記憶部に記憶されている患者Pの心拍数を取得する。例えば、取得部33は、所定長さの時間として、所定の心拍数に対応する時間を用いる。そして、取得部33は、所定の心拍数に対応する長さの時間における脱血側平均値と脱血側最低値とを取得する。
【0038】
一例として、所定の心拍数は5回であり、取得部33は、5回の心拍数が測定される間における脱血側平均値と脱血側最低値とを取得する。代替的に、取得部33は、所定長さの時間として、所定の秒数における脱血側平均値と脱血側最低値とを取得してもよい。一例として、心拍数が30bpmであるとき、取得部33は、10秒間又は15秒間の脱血側平均値と脱血側最低値とを取得する。また、取得部33は、患者の心拍数に関わりなく、所定の秒数(例えば、5秒から15秒の任意の時間)の脱血側平均値と脱血側最低値とを取得してもよい。
【0039】
また、取得部33は、体外循環システム100とは別のガスモニタ又は体外循環用の血液ガス分析装置から、脱血側平均値、脱血側最低値、及び送血側平均値を取得してもよい。これらのガスモニタ又は血液ガス分析装置は、体外循環システム100に有線又は無線接続されていてもよい。代替的に、ガスモニタ又は血液ガス分析装置は、体外循環システム100の一部を構成していてもよい。
【0040】
流量制御部32は、送血側血液の流量が増減されるように、送血ポンプ14を制御する。また、流量制御部32は、脱血ライン12を流れる脱血側血液の流量が増減されるように、脱血流量調整部(不図示)をさらに制御してもよい。
【0041】
[リサーキュレーション]
図2及び図3は、患者Pの心臓を模式的に示している。そして、図2は三尖弁が開放している状態を示しており、図3は三尖弁が閉鎖している状態を示してる。また、図2及び図3の例では、送血カニューレ131が上行大静脈に留置されており、脱血カニューレ121が下行大静脈に留置されている。他の例では、送血カニューレ131が上行大静脈に留置され、脱血カニューレ121が右心房に留置される。
【0042】
患者Pの血液を循環させる場合、脱血カニューレ121と送血カニューレ131の位置が近すぎると、送血カニューレ131から送血される動脈血が、そのまま再度脱血カニューレ121に吸い込まれる再循環が発生することがある。この現象が、リサーキュレーションであり、送血側血液の流量に対する再循環する血液の流量の割合がリサーキュレーション率に対応する。すなわち、リサーキュレーション率は、送血ライン13から送血された血液のうち、体循環されずに脱血ライン12から再循環する血液の量の程度を示す。リサーキュレーション率が高くなると、酸素化された動脈血が体循環されずに再循環する量が増え、肺を補助する役割が果たされない。そのため、患者Pに対する呼吸の補助の程度が低下してしまう。
【0043】
リサーキュレーション率が高くなる原因としては、患者Pの心機能の低下、及び脱血カニューレ121と送血カニューレ131の位置ずれ等がある。そのため、リサーキュレーション率が高いと判断されると、脱血カニューレ121若しくは送血カニューレ131の位置変更、エコー検査、又は胸部X線撮影検査等が必要となる。一例として、リサーキュレーション率が50%(又は0.5)よりも高い場合には、リサーキュレーション率が高いと判断される。
【0044】
リサーキュレーション率は、三尖弁が開いている開放時と、三尖弁が閉じている閉鎖時とで変化し、心臓の脈動と連動する。すなわち、図2に示すように三尖弁が開いている場合、送血カニューレ131から送血される血液は右心室に流れリサーキュレーション率が低くなる。一方、図3に示すように三尖弁が閉じている場合、送血される血液は右心室に流れなくなり、脱血カニューレ121に吸い込まれやすくなる。このリサーキュレーション率の変化は、脱血側血液の酸素飽和度の変化に影響する。そのため、脱血側血液の酸素飽和度に基づいて、リサーキュレーション率を算出できる。
【0045】
一例として、図4及び図5は、三尖弁の閉鎖タイミングT1及び開放タイミングT3と、脱血側血液の酸素飽和度との関係を示すグラフである。図4及び図5において、横軸は経過時間(秒)を示している。また、図4及び図5の上側のグラフは、心筋の電気的変化を示しており、縦軸が電位差(mV)を示している。さらに、図4及び図5の下側のグラフは、脱血側血液の酸素飽和度の変化を示しており、縦軸が酸素飽和度(%)を示している。また、図4は低いリサーキュレーション率の状態を示すグラフであり、図5は高いリサーキュレーション率の状態を示すグラフである。
【0046】
また、図4及び図5において、三尖弁の閉鎖タイミングT1はQRS波のピークタイミングに一致している。また、三尖弁の開放タイミングT3は、閉鎖タイミングT1からR波の始まりからT波の終わりまでの時間であるRT間隔が経過したタイミングである。さらに、リサーキュレーション率が安定する安定タイミングT2は、脱血側血液の酸素飽和度の最低値と最高値との差ΔSpreが最大となったタイミングである。
【0047】
図4及び図5に示すように、脱血側血液の酸素飽和度は、閉鎖タイミングT1から増加して開放タイミングT3より前の安定タイミングT2で変化が安定する。そして、閉鎖タイミングT1から安定タイミングT2までの時間Δtは、リサーキュレーション率が低い状態(図4)では長くなり、リサーキュレーション率が高い状態(図5)では短くなる。また、脱血側血液の酸素飽和度の最高値は、リサーキュレーション率が低い状態では小さくなり、リサーキュレーション率が高い状態では大きくなる。一例として、リサーキュレーション率が高い状態の、脱血側血液の酸素飽和度の最高値は75%であり、最低値は63%であり、閉鎖タイミングT1から安定タイミングT2までの時間Δtは0.1秒である。この場合、脱血側血液の酸素飽和度の最低値と最高値との差ΔSpreは12%となる。
【0048】
[算出処理]
図6を参照して、リサーキュレーション率を算出する算出処理について説明する。例えば、算出処理は、算出プログラムがコンピュータである制御部30の各部を機能させることによって実行される。
【0049】
体外循環システム100が患者Pの血液の体外循環を開始すると、脱血側センサS1が脱血側血液の酸素飽和度を検知して、送血側センサS2が送血側血液の酸素飽和度を検知する(S101)。そして、脱血側センサS1及び送血側センサS2は酸素飽和度を制御部30の記憶部に送信して、記憶部は受信した酸素飽和度を記憶する。続いて、取得部33は、記憶部から脱血側血液及び送血側血液の酸素飽和度を取得する(S102)。そして、取得部33は、脱血側最低値を取得するとともに、脱血側平均値と送血側平均値を算出して取得する(S103)。さらに、取得部33は、脱血側最低値、脱血側平均値、及び送血側平均値を、記憶部に記憶させてもよい。
【0050】
そして、算出部31は、リサーキュレーション率を算出する(S104)。ここで、算出部31は、随時リサーキュレーション率を算出してもよく、所定のタイミング(例えば1分毎のタイミング)でリサーキュレーション率を算出してもよい。さらに、算出部31は、算出して得られるリサーキュレーション率を記憶部に記憶させてもよい。そして、表示部60は、算出部31が算出したリサーキュレーション率を表示する(S105)。これにより、表示部60は、リサーキュレーション率を体外循環システム100のユーザに通知して、算出処理が終了する。なお、表示部60は、リサーキュレーション率を示す数字を表示してもよく、リサーキュレーション率を示すグラフを表示してもよい。
【0051】
なお、取得部33は、脱血側血液の酸素飽和度の最低値と最高値との差ΔSpre、及び閉鎖タイミングT1から安定タイミングT2までの時間Δtをさらに取得してもよい。また、表示部60は、図4及び図5の下側に示す脱血側血液の酸素飽和度の変化を示すグラフをさらに表示してもよい。
【0052】
以上説明した体外循環システム100によれば、脱血側平均値及び脱血側最低値に基づいて得られた値を用いてリサーキュレーション率を算出できる。そのため、混合静脈血の酸素飽和度を測定する必要がなく、低侵襲な手法によってリサーキュレーション率を得ることができる。さらに、脱血側血液の酸素飽和度は連続して測定できるため、リサーキュレーション率を連続的に算出して監視することができる。これにより、体外循環システム100のユーザ(例えば医療従事者)は、リサーキュレーション率が過度に高くならないように必要な措置を取ることができる。
【0053】
以上、各実施形態を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。また、各実施形態及び各変形形態は、本発明に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【0054】
例えば、算出装置は、体外循環システム100の制御装置とは別体であってもよい。すなわち、算出装置は、制御部30とは別体のコンピュータであってもよい。この場合、算出装置は、算出部31及び取得部33と、リサーキュレーション率を表示する表示部60とをさらに備えていてもよい。また、体外循環システム100は、大腿動脈等の動脈にもカニューレを留置して送血するV-VAECMOを実施する場合にも用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
12 :脱血ライン
13 :送血ライン
14 :送血ポンプ
30 :制御部(算出装置)
31 :算出部
33 :取得部
60 :表示部
100 :体外循環システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6