(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097734
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】シート装飾方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20230703BHJP
B41M 3/06 20060101ALI20230703BHJP
B41M 3/00 20060101ALI20230703BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230703BHJP
B44C 1/165 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M3/06 C
B41M3/00 Z
B41J2/01 129
B44C1/165 J
B41M5/00 132
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213983
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000109727
【氏名又は名称】株式会社デュプロ
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 信晃
(72)【発明者】
【氏名】西谷 大介
【テーマコード(参考)】
2C056
2H113
2H186
3B005
【Fターム(参考)】
2C056EA30
2C056FA13
2C056FD20
2C056HA44
2H113AA04
2H113BA27
2H113BB02
2H113BB06
2H113BB07
2H113BB10
2H113BB22
2H113CA46
2H113FA23
2H113FA43
2H186AB03
2H186AB04
2H186AB06
2H186AB08
2H186AB11
2H186AB22
2H186AB23
2H186FB04
2H186FB34
2H186FB36
2H186FB38
2H186FB44
2H186FB52
3B005EA04
(57)【要約】
【課題】従来の課題の少なくともひとつを解決可能なシート装飾方法を提供する。
【解決手段】シート装飾方法は、シートに下地層を形成する下地層形成工程220と、下地層の表面に、透光性を有する液体状態のUVインクを吐出し、それを硬化させて、万線パターンおよび網点パターンの少なくとも一方を含む凹凸模様を有する装飾層を形成する装飾層形成工程230と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに下地層を形成する下地層形成工程と、
下地層の表面に、透光性を有する液体状態のUVインクを吐出し、それを硬化させて、万線パターンおよび網点パターンの少なくとも一方を含む凹凸模様を有する装飾層を形成する装飾層形成工程と、
を備えるシート装飾方法。
【請求項2】
前記下地層の表面は、UVインク層によって構成される請求項1に記載のシート装飾方法。
【請求項3】
前記下地層の表面は、金属箔層によって構成される請求項1に記載のシート装飾方法。
【請求項4】
前記下地層と、装飾層形成工程において吐出される液体状態のUVインクとの接触角は15°以上、45°以下である請求項1から3のいずれかに記載のシート装飾方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート装飾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、フレキソ印刷機を開示する。このフレキソ印刷機は、シートに文字や図柄等を有色インクにより印刷することにより下地層を形成し、下地層に凹凸万線を含む凹凸模様を透明インクにより印刷することにより透明層を形成し、印刷物を提供する。このフレキソ印刷機により提供される印刷物によれば、観察する角度によって透明層の光沢感が微妙に変化するため、高級感や風趣が醸し出される、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フレキソ印刷では、弾性体による版を作成しなければならないためコストが高く、模様を変更する場合には版を取り替えなければならず、装置も大型になる傾向があり、印刷解像度も比較的低い。
【0005】
本発明はこうした状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、上述の課題の少なくともひとつを解決可能なシート装飾方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のシート装飾方法は、シートに下地層を形成する下地層形成工程と、下地層の表面に、透光性を有する液体状態のUVインクを吐出し、それを硬化させて、万線パターンおよび網点パターンの少なくとも一方を含む凹凸模様を有する装飾層を形成する装飾層形成工程と、を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上述の課題の少なくともひとつを解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態のシート装飾システムを模式的に示す側面図である。
【
図2】実施の形態のシート装飾システムを模式的に示す平面図である。
【
図3】シートに装飾を施した装飾シートの断面図である。
【
図4】装飾シートを作成する作成工程を示す工程図である。
【
図5】装飾層用のUVインク吐出データをイメージ化した図である。
【
図6】ぬれ性の判断方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。
【0011】
図1、2は、シート装飾システム10を模式的に示す図である。
図1は側面図であり、
図2は平面図である。シート装飾システム10は、シートを搬送しながらシートに所定の装飾を施す装置である。シートの素材は、紙、布、樹脂、金属などさまざまである。以降、シートが搬送される方向(
図1、2において右から左に向かう方向)を搬送方向Y、搬送方向Yと直交する方向(
図1において紙面に直交する方向であって
図2における上下方向)を幅方向Xと呼ぶ。
【0012】
シート装飾システム10は、シートを1枚ずつ給紙する給紙装置12と、1枚ずつ給紙されるシートにUVインク(紫外線硬化性インク)を塗布する塗布装置14と、UVインクのタック性を利用してシート上のUVインクに箔を転写する(すなわち箔押しする)箔押し装置16と、シートを蓄積するスタッカ18と、シート装飾システム10を統括的に制御する制御装置20と、を備える。給紙装置12、塗布装置14、箔押し装置16、スタッカ18は、搬送方向Yに上流側(
図1、2では右側)からこの順に一列に並ぶ。制御装置20は、給紙装置12、塗布装置14、箔押し装置16およびスタッカ18とネットワーク2を介して接続される。
【0013】
給紙装置12は、フィーダ22と、レジスト部24と、コロナ処理部26と、を備える。フィーダ22は、テーブル28と、吸着ヘッド30と、を含む。テーブル28にはシートが積載される。テーブル28の幅方向Xの一端側(図示の例では上流側から搬送方向Yに見て右側)に設けられたガイド板に突き当てて積載される。テーブル28は、昇降可能に構成される。吸着ヘッド30は、テーブル28に積載されたシートを上から順に1枚ずつ送り出す。
【0014】
レジスト部24は、幅方向Xの一端側に設けられるレジスト基準ガイド32を含む。レジスト基準ガイド32は、幅方向Xに直交し、搬送方向Yに延びるガイド面32aを有する。レジスト部24は、フィーダ22が送り出したシートをガイド面32aに突き当てることによって、そのシートの幅方向Xの位置を揃える。
【0015】
コロナ処理部26は、搬送路34の上方に配置される電極36と、電極36と上下で対向するように搬送路34の下方に配置される誘電ローラ38と、を含む。コロナ処理部26は、電極36と誘電ローラ38との間のコロナ放電により、フィーダ22が送り出したシートの表面改質を行う。なお、エア吸引部40によってシートを搬送路34に吸着させた状態で搬送すると、電極36とシートとの距離が一定となり、コロナ放電が安定する。エア吸引部40は、不図示の排気用ブロワーの吸引口の一つを配置して負圧を発生させるものであるが、吸引ファンを配置して負圧を発生させる構成としてもよい。誘電ローラ38は、コロナ処理部26の筐体に対して回転可能でもよいし、固定でもよい。さらに、電極36との間にコロナ放電を生じさせるものであれば、その形状はローラ状に限らない。コロナ処理部26は、レジスト部24の上流側に配置されてもよい。
【0016】
塗布装置14は、シートセンサ42と、少なくとも1つのUVインク吐出部46と、半硬化用紫外線ランプ48と、本硬化用紫外線ランプ50と、を含む。UVインク吐出部46、半硬化用紫外線ランプ48、本硬化用紫外線ランプ50は、この順に上流側から並ぶように配置される。図示の例では、塗布装置14は3つのUVインク吐出部46を含んでいるが、これには限定されず、塗布装置14は幅方向Xの印刷が必要な領域の全域にわたって延在する1つのUVインク吐出部46を含んでもよいし、2つまたは4つ以上のUVインク吐出部46を含んでもよい。半硬化用紫外線ランプ48および本硬化用紫外線ランプ50には紫外線を照射するLEDを用いるが、紫外線を照射するものであれば、電球や蛍光灯などの他の光源であってもよい。光源は出力調整可能なものが望ましい。
【0017】
シートセンサ42は、給紙装置12から給紙されたシートを検出する。
【0018】
UVインク吐出部46は、ライン型のインクジェットヘッドである。UVインク吐出部46は、シートセンサ42によるシートの先端側(下流側)のエッジの検出をトリガとして、UVインク吐出データ(版画像データ)にしたがってUVインクを吐出し、シートにUVインクを塗布する。UVインク吐出データは、シートのどこにUVインクを塗布するのかを示すデータである。
【0019】
半硬化用紫外線ランプ48は、シートに箔押しする場合に、シート上のUVインクに出力が比較的抑制された紫外線を照射してUVインクを半硬化させる。半硬化は、UVインクの流動性を低下させつつも完全には硬化させない程度に軽く(例えばさらに硬化させることができる状態に)硬化させることをいう。半硬化状態のUVインクは、箔押し装置16の箔押し用紫外線ランプ66において本硬化される。
【0020】
半硬化用紫外線ランプ48は、シートに箔押ししない場合は、オフにされるか、出力が極小にされる。なお、箔押ししない場合に半硬化用紫外線ランプ48を使用してもよい。例えば、シート上に塗布したUVインクが滲みやすい場合には、半硬化用紫外線ランプ48をオンにし、半硬化させておくことによって滲みを抑える効果がある。
【0021】
本硬化用紫外線ランプ50は、シートに箔押ししない場合に、シートに塗布されたUVインクに紫外線を照射してUVインクを本硬化させる。本硬化用紫外線ランプ50は、シートに箔押しする場合は、オフにされる。
【0022】
本硬化用紫外線ランプ50は、シートに箔押しする場合は、オフにされる。
【0023】
つまり、シートに箔押しする場合は、半硬化用紫外線ランプ48によってUVインクを半硬化させ、箔押し装置16の箔押し用紫外線ランプ66によって半硬化状態のUVインクを本硬化させる。この場合、本硬化用紫外線ランプ50はオフにする。シートを箔押ししないすなわちシートにUVインクを塗布するだけのときは、本硬化用紫外線ランプ50でUVインクを本硬化させる。この場合、半硬化用紫外線ランプ48は出力を極小とし、箔押し装置16の箔押し用紫外線ランプ66はオフにする。なお、上述したように、箔押ししない場合に半硬化用紫外線ランプ48をオンにすることがある。また、箔押し用紫外線ランプ66の光源には紫外線を照射するLEDを用いるが、紫外線を照射するものであれば他の光源でもよい。
【0024】
箔押し装置16は、ウェブ52をロール・ツー・ロールで搬送する。ウェブ52は、フィルムに箔が保持された箔保持フィルムである。箔は、例えば金属箔である。箔押し装置16では、シート上の半硬化状態のUVインクのタック性を利用して、当該UVインクにウェブ52が保持する箔を接着させる。そして、箔がウェブ52に保持され、かつ、シート上のUVインクに接着した状態で、箔押し用紫外線ランプ66によって、箔が接着した半硬化状態のUVインクに紫外線を照射し、UVインクを本硬化させる。これにより、ウェブ52が箔を保持する力よりも本硬化したUVインクが箔を接着する力の方が強い状態となる。この状態でシートとウェブ52とを分離させることで、ウェブ52に保持されていた箔を、シート上のUVインクが塗布された部分に転写できる。
【0025】
スタッカ18は、箔押し装置16から搬出されたシートを蓄積する。
【0026】
制御装置20は、例えばPCなどの情報処理端末である。制御装置20は、印刷ジョブの定義についての入力を受け付ける。制御装置20は、所定のジョブ管理画面を表示し、当該ジョブ管理画面を介して、ジョブの定義についての入力を受け付けてもよい。ジョブの定義には、例えば、印刷を施すシートの枚数(印刷部数)、印刷を施すシートのシートサイズ、UVインク吐出データ、箔押しの有無、が含まれる。制御装置20は、ジョブの定義に基づいて、給紙装置12、塗布装置14および箔押し装置16を制御する。
【0027】
以上がシート装飾システム10の基本構成である。
【0028】
変形例として、シート装飾システム10は、給紙装置12に代えて、シートに下地画像とレジストレーションマークを印刷するプリンタを備え、プリンタから1枚ずつシートを給紙してもよい。
【0029】
また、シート装飾システム10は、箔押し装置16とスタッカ18との間に、シートを切断したり綴じたりする後処理装置、箔表面を保護するための第2のUVインク塗布装置、表面保護目的の合紙挿入機、シートを所定形状に打抜いてカートン材料等を作成する打ち抜き機、合い紙などの表面保護目的の後処理機、などを備えてもよい。
【0030】
シート装飾システム10を使用した装飾シートの作成方法について説明する。
【0031】
図3は、シート(基材)100に装飾を施した装飾シート102の断面図である。
図4は、装飾シート102を作成する作成工程200を示す工程図である。装飾シート102を作成工程200は、色彩層110を形成する色彩層形成工程210と、下地層120を形成する下地層形成工程220と、装飾層130を形成する装飾層形成工程230と、を含む。装飾シート102は、シート装飾システム10にシート100を3回通すことで作成される。具体的には、1回目で色彩層110を形成し、2回目で下地層120を形成し、3回目で装飾層130を形成する。
【0032】
色彩層形成工程210では色彩層110を形成する。色彩層110の上面の色が装飾の基調色となる。
図3の例では色彩層110はシート100上に形成されているが、シート100と色彩層110との間にさらに別の層が設けられてもよい。
【0033】
色彩層110は、
図3の例では、接着層112と、接着層112に接着(転写)された箔層(典型的には金属箔層)114と、を含む。色彩層形成工程210は、接着層112を形成する接着層形成工程212と、接着層112に箔を転写して箔層114を形成する箔押し工程214と、を含む。接着層形成工程212では、塗布装置14のUVインク吐出部46からシート100にUVインクを吐出し、シート100に吐出されたUVインクを半硬化用紫外線ランプ48により半硬化させ、接着層112としてのUVインク層を形成する。箔押し工程214では、箔押し装置16により、接着層112としてのUVインク層に箔を転写する。なお、接着層112は、UVインク層に限定されない。接着層112がUVインク層ではない場合、接着層112は塗布装置14とは別の装置で形成されればよい。
【0034】
色彩層110は、
図3の例に限定されず、例えば有色インク層であってもよい。この場合、色彩層形成工程210は、接着層形成工程212および箔押し工程214の代わりに、シート100に有色インクを塗布(印刷)する塗布工程を含めばよい。塗布工程は、塗布装置14とは別の装置で印刷(塗布)されてもよいし、塗布装置14が有色インクを塗布(印刷)する塗布部をさらに備えてもよい。
【0035】
変形例として、作成工程200は、色彩層形成工程210を含まなくてもよい。つまり、色彩層110は形成されなくてもよい。この場合、シートの色が装飾の基調色となる。あるいは、下地層120が有色(すなわち不透明)の場合、下地層120の色が装飾の基調色となる。
【0036】
下地層形成工程220では、下地層120を形成する。下地層120は、本実施の形態ではUVインク層である。下地層120の表面には装飾層が形成されるので、下地層120の表面は極力凹凸がない平坦な面であることが望ましい。
【0037】
色彩層110がある場合、色彩層110の上面の全体に下地層120を塗布してもよいし、色彩層110の上面の一部にのみ下地層120を塗布してもよい。また、色彩層110の上面の全体もしくは一部に加えて、色彩層110が形成されていない部分(例えばシート100の表面)に下地層120を形成してもよい。
【0038】
色彩層110がない場合は、シート100の表面に下地層120を形成する。
【0039】
下地層形成工程220は、透光性を有するUVインクを塗布する下地塗布工程222と、UVインクを硬化させる下地硬化工程224と、を含む。
【0040】
下地塗布工程222では、塗布装置14のUVインク吐出部46からシート100にUVインクを吐出する。下地塗布工程222では特に、ピクセルごとにUVインクの吐出の要否が指定された下地層用のUVインク吐出データにしたがって、吐出が「要」であるピクセルに相当するシート(特に色彩層110)上の箇所にUVインクを吐出する。下地硬化工程224では、シート100に吐出されたUVインクを本硬化用紫外線ランプ50により本硬化させる。なお、半硬化用紫外線ランプ48により半硬化させてから、本硬化用紫外線ランプ50により本硬化させてもよい。
【0041】
装飾層形成工程230では、透光性を有するUVインクによる凹凸模様を有する装飾層130を形成する。凹凸模様は、万線パターンおよび網点パターンの少なくとも一方を含む。万線パターンを構成する線は、下地層の大きさに比べて十分に細い線である。万線パターンを構成する線は、直線であっても、曲線であってもよい。凹凸模様は、線の長さ、向き、太さ、および直線/曲線の別、のうちの少なくとも1つが互いに異なる複数の万線パターンを含んでいてもよい。また、網点パターンを構成する点は、下地層の大きさに比べて十分に小さい点である。凹凸模様は、網点の形状、大きさ、および密度、のうちの少なくとも1つが互いに異なる複数の網点パターンを含んでいてもよい。
【0042】
装飾層形成工程230は、透光性を有するUVインクを吐出するUVインク吐出工程232と、UVインクを硬化させるUVインク硬化工程234と、を含む。
【0043】
UVインク吐出工程232では、塗布装置14のUVインク吐出部46から下地層120の上にUVインクを吐出する。UVインク吐出工程232では特に、ピクセルごとにUVインクの吐出の要否が指定された装飾層用のUVインク吐出データにしたがって、吐出が「要」であるピクセルに相当する下地層120上の箇所にUVインクを塗布する。したがって、装飾層用のUVインク吐出データにおける吐出が「要」の領域に対応する形状にUVインクが吐出される。
【0044】
UVインク硬化工程234では、下地層120の上に吐出されたUVインクを本硬化用紫外線ランプ50により本硬化させる。なお、半硬化用紫外線ランプ48により半硬化させてから、本硬化用紫外線ランプ50により本硬化させてもよい。
【0045】
つづいて、装飾用のUVインク吐出データひいては装飾層103の凹凸模様について詳細に説明する。
図5は、装飾層用のUVインク吐出データをイメージ化した図である。
図5は、装飾シート102を上から見た図と捉えることもできる。なお、二点鎖線は下地層120が塗布される領域を示している。
【0046】
図5において、斜線を付した領域は、塗布が「要」であるピクセル群、すなわちUVインクが塗布される領域(以下、吐出領域という)である。複数の線状の吐出領域240は、万線パターンPTN1を構成する。万線パターンPTN1を構成する線状の吐出領域240の幅Wは、5μm以上、200μm以下であってもよい。また、線状の吐出領域240の間隔Dは、600μm以下であってもよい。なお、
図5では、万線パターンPTN1を構成する線状の吐出領域242を誇張して太く描いている。複数の点状の吐出領域242は、網点パターンPTN2を構成する。網点パターンPTN2を構成する線状の吐出領域242の幅(あるいは直径)Wは、5μm以上、200μm以下であってもよい。また、点状の吐出領域242の間隔D2は、600μm以下であってもよい。
【0047】
装飾塗布データは、塗布が要であるピクセルの塗布量(吐出量)に関する情報を含んでもよい。装飾塗布データは、塗布量によって、すなわち塗布量が0であるかそうでないかによって、塗布の要否を示してもよい。装飾塗布データが線状の塗布要領域を含む場合、その線状の塗布要領域は長手方向でUVインクの塗布量が異なっていてもよい。
【0048】
つづいて、UVインク吐出工程232において吐出されるUVインクと下地層120の素材について説明する。
【0049】
UVインク吐出工程232においてUVインク吐出部46から吐出される液体状態(すなわち半硬化や本硬化される前)のUVインクについて、下地層120とのぬれが良すぎると、UVインクが流れ、万線パターンの線同士がつながったり、あるいは網状のパターンの点同士がつながったりして細かい表現ができず、下地層120とのぬれが悪すぎると、UVインクがはじかれてしまい、下地層120にインクが乗らない。したがって、UVインクと下地層120とのぬれが適当である必要がある。
【0050】
図6は、ぬれ性の判断方法について説明する図である。ぬれ性を判断する方法のひとつとして、固体300の表面300aに着滴した液体302の形状を観察する方法が知られている。固体300の表面300aに対して液体302が広がっていれば、ぬれが良いと判断でき、丸まっていれば、ぬれが悪いと判断できる。ぬれ性は、定量的には、接触角θにより判断される。接触角θは、液体302の自由表面302aが固体300の表面300aに接する場所での液体302の自由表面302aと固体300の表面300aとのなす角であり、0°から180°までの値をとり得る。接触角θが小さいほどぬれが良いと判断され、接触角θが大きいほどぬれが悪いと判断される。
【0051】
いったん硬化させたUVインクの上に、さらにUVインクを塗布すると、弾きやすく(ぬれが悪く)なる傾向がある。したがって、例えばノズル不良等で部分的に生じた不塗布部分を、その上から再度塗って補うようなことも、少なくともUVインクでは推奨されない。本発明はこの傾向を装飾に利用することに着目し、実験により適切な条件を見出したものである。
【0052】
本発明者らが行った実験によれば、UVインク吐出部46から吐出されるUVインクの温度が30以上40以下であり、シート100ひいては下地層120が室温(例えば25℃)である場合において、吐出されたUVインクが下地層120に着滴してから所定時間経過した時点でのUVインクと下地層120との接触角θが15°以上45°以下のとき、UVインクは下地層120にはじかれず且つUVインクはそこまで濡れ広がらないため細かい凹凸模様を表現できることが確認された。つまり、ぬれ性が適当であることが確認された。また、接触角θが20°以上40°以下のとき、より細かい凹凸模様を表現できる、すなわち、ぬれ性がより適当であり、接触角θが23°以上35°以下のとき、さらに細かい凹凸模様を表現できる、すなわち、ぬれ性がさらに適当であることが確認された。
【0053】
所定時間は、UVインクが着滴してから本硬化用紫外線ランプ50の照射範囲に到達するまでの時間であってもよく、半硬化させてから本硬化させる場合はUVインクが着滴してから半硬化用紫外線ランプ48の照射範囲に到達するまでの時間であってもよい。所定時間は、例えば、3秒以下であってもよい。
【0054】
下地層120がUVインク層すなわち硬化したUVインクの層である場合、下地層120と、UVインク吐出工程232においてUVインク吐出部46から吐出される液体状態のUVインクとの接触角θが15°以上45°以下になることが確認された。
【0055】
この場合、下地層120のUVインクと、装飾層130のUVインクは、同一のUVインクであってもよい。同一のUVインクの場合、下地層形成工程220と装飾層形成工程230との間で、UVインク吐出部46や、UVインク吐出部46にUVインクを供給するための経路を洗浄する必要がない。
【0056】
あるいは、下地層120のUVインクと、装飾層130のUVインクは、別々のUVインクであってもよい。別々のUVインクの場合、下地層形成工程220と装飾層形成工程230との間でUVインクのインクカートリッジを交換してもよいし、塗布装置14が複数の種類のインクカートリッジをセット可能であってもよい。これらの場合、下地層形成工程220と装飾層形成工程230との間で、UVインク吐出部46や、UVインク吐出部46にUVインクを供給するための経路を洗浄する。変形例として、下地層形成工程220および装飾層形成工程230のそれぞれを、別々のUVインクのカートリッジがセットされた別々の塗布装置14で行ってもよい。UVインク吐出部46やそこへの経路の洗浄は不要である。
【0057】
ここで、接触角θは、液体302の自由表面302aが固体300の表面300aに接する場所における、固体300の表面張力、液体302の表面張力、および固体300と液体302との界面張力によって決まり、それらの間には以下の式(1)の関係が成り立つ。式(1)はYoungの式と呼ばれる。
γS=γL×cosθ+γSL・・・(1)
ここで、
γS:固体の表面張力
γL:液体の表面張力
γSL:固体と液体の界面張力
である。
【0058】
式(1)は、以下の式(2)のように書換えられる。
cosθ=(γS-γSL)/γL・・・(2)
【0059】
式(2)より、液体の表面張力(γL)を小さくするおよび/または固体の表面張力(γS)を大きくすると、cosθが大きくなるすなわち接触角θが小さくなることが、言い換えるとぬれが良くなることがわかる。
【0060】
また、式(2)より、液体の表面張力(γL)を大きくするおよび/または固体の表面張力(γS)を小さくすると、cosθが小さくなるすなわち接触角θが大きくなることが、言い換えるとぬれが悪くなることがわかる。
【0061】
つまり、液体の表面張力を調整することにより、液体接触角θを調整できる。本実施の形態の場合で考えれば、UVインク吐出工程232で吐出するUVインクの表面張力を調整することにより、吐出されたUVインクの液体と下地層120との接触角θ、ひいてはぬれ性を調整できる。
【0062】
UVインクの液体状態の表面張力は、例えばモノマーの含有量によって調整できる。表面張力の低いモノマーの含有量が多くなるほど、UVインク(液体)の表面張力は小さくなる。モノマーは、例えば、単官能アクリレート、2官能アクリレートである。
【0063】
また例えば、UVインクの液体状態の表面張力は、表面張力調整剤の添加量によって調整できる。表面張力調整剤の添加量が多くなるほど、UVインクの表面張力は小さくなる。表面張力調整剤は、例えば、アルコール類、グリコールエーテル類などの有機溶媒、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、変性シリコーンオイルなどである。
【0064】
UVインクの液体状態の表面張力は、好ましくは19~33mN/mであり、より好ましくは19~25mN/mである。表面張力が33mN/m以下、好ましくは25mN/m以下であることにより、UVインクがはじかれずにUVインクが下地層120に乗る。また、表面張力が19mN/m以上であることにより、UVインクが流れすぎない。
【0065】
本実施の形態によれば、UVインク吐出部46すなわちインクジェットヘッドによりUVインクが吐出され、フレキソ印刷の場合のような弾性体による版が不要であるため、コストを抑えられ、また模様を変更する場合もUVインク吐出データを変更するだけで済むため模様の変更が容易であり、装置も比較的小型にでき、印刷解像度も比較的高くできる。
【0066】
また、本実施の形態によれば、透光性を有する装飾層130の凹凸模様は、微細な万線パターンや網点パターンを含み、観察する角度によって装飾層130の光沢感が微妙に変化するため、高級感や風趣を感じさせることができる。
【0067】
また、本実施の形態によれば、下地層120はUVインク層であり、この場合、装飾層形成工程230において下地層120の上に吐出されるUVインクと下地層120との接触角θが15°以上45°以下になるため、言い換えると吐出されるUVインクと下地層120とのぬれが適当であるため、吐出されるUVインクによって凹凸模様による細かい表現ができる。
【0068】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0069】
実施の形態では、下地層120がUVインク層である場合について説明したが、下地層120は液体状態のUVインクとの接触角θが15°以上45°以下の固体の層であればよく、UVインク層に限定されない。下地層120は、例えば、接着層(例えばUVインク層)と、接着層に接着された箔層(例えば金属箔層)と、を含んでもよい。つまり、下地層120の表面は、箔層の表面によって構成されてもよい。この場合、下地層120は色彩層を兼ねる。本変形例によれば、実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0070】
上述した実施の形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。また、請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、実施の形態および変形例において示された各構成要素の単体もしくはそれらの連係によって実現されることも当業者には理解されるところである。
【符号の説明】
【0071】
10 シート装飾システム、 100 シート、 120 下地層、 130 装飾層、 220 下地層形成工程、 230 装飾層形成工程、 PTN1 万線パターン、 PTN2 網点パターン、 θ 接触角。