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特開2023-97756銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子、バスバー、リードフレーム、放熱基板
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  • 特開-銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子、バスバー、リードフレーム、放熱基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097756
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子、バスバー、リードフレーム、放熱基板
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20230703BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20230703BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
C22C9/00
C22F1/08 B
C22F1/00 606
C22F1/00 612
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 650A
C22F1/00 661A
C22F1/00 651Z
C22F1/00 681
C22F1/00 683
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 685A
C22F1/00 694Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214029
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】松永 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】森川 健二
(72)【発明者】
【氏名】船木 真一
(72)【発明者】
【氏名】福岡 航世
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優樹
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
(57)【要約】
【課題】高い導電率と優れた耐熱性とを有する銅合金を提供する。
【解決手段】Mgの含有量が10massppm超え100massppm以下、残部がCu及び不可避不純物とし、Sの含有量が10massppm以下、Pの含有量が10massppm以下、Seの含有量が5massppm以下、Teの含有量が5massppm以下、Sbの含有量が5massppm以下、Biの含有量が5masppm以下、Asの含有量が5masppm以下、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量が30massppm以下、質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6以上50以下、導電率が97%IACS以上、φ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度の平均値が1.3以上20.0未満、S方位{123}<634>に対して10°以内の結晶方位を有する結晶の面積割合が10%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgの含有量が10massppm超え100massppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、前記不可避不純物のうち、Sの含有量が10massppm以下、Pの含有量が10massppm以下、Seの含有量が5massppm以下、Teの含有量が5massppm以下、Sbの含有量が5massppm以下、Biの含有量が5masppm以下、Asの含有量が5masppm以下とされるとともに、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量が30massppm以下とされており、
Mgの含有量を〔Mg〕とし、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕とした場合に、これらの質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6以上50以下の範囲内とされており、
導電率が97%IACS以上とされ、
EBSD法による集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角で表したとき、φ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度の平均値が1.3以上20.0未満であり、
S方位{123}<634>に対して10°以内の結晶方位を有する結晶の面積割合が10%以下であることを特徴とする銅合金。
【請求項2】
Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
耐熱温度が260℃以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銅合金。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅合金からなることを特徴とする銅合金塑性加工材。
【請求項5】
異形条であることを特徴とする請求項4に記載の銅合金塑性加工材。
【請求項6】
表面に金属めっき層を有することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の銅合金塑性加工材。
【請求項7】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載された銅合金塑性加工材からなることを特徴とする電子・電気機器用部品。
【請求項8】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載された銅合金塑性加工材からなることを特徴とする端子。
【請求項9】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載された銅合金塑性加工材からなることを特徴とするバスバー。
【請求項10】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載された銅合金塑性加工材からなることを特徴とするリードフレーム。
【請求項11】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載された銅合金塑性加工材からなることを特徴とする放熱基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子、バスバー、リードフレーム、放熱基板等の電子・電気機器用部品に適した銅合金、この銅合金からなる銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子、バスバー、リードフレーム、放熱基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、端子、バスバー、リードフレーム、放熱部材等の電子・電気機器用部品には、導電性の高い銅又は銅合金が用いられている。
ここで、電子機器や電気機器等の大電流化にともない、電流密度の低減およびジュール発熱による熱の拡散のために、これら電子機器や電気機器等に使用される電子・電気機器用部品の大型化、厚肉化も図られている。
【0003】
ここで、大電流に対応するために、上述の電子・電気機器用部品には、導電率に優れた無酸素銅等の純銅材が適用される。しかしながら、通電時の発熱や使用環境の高温化に伴い、銅材には高温での硬度低下のしにくさを表す耐熱性に優れた銅材が求められているが、純銅材は、これらの特性に劣っており、高温環境下での使用ができないといった問題があった。
そこで、特許文献1には、Mgを0.005mass%以上0.1mass%未満の範囲で含む銅圧延板が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載された銅圧延板においては、Mgを0.005mass%以上0.1mass%未満の範囲で含み、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有しているので、Mgを銅の母相中に固溶させることで、導電率を大きく低下させることなく、強度、耐熱性を向上させることが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-056414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、これらの材料は耐熱特性を溶質元素の添加により改善させているため、導電率は純銅と比較して劣っていた。
最近では、上述の電子・電気機器用部品を構成する銅材においては、大電流が流された際の発熱を十分に抑制するために、また、純銅材が用いられていた用途に使用可能なように、導電率をさらに向上させることが求められている。
さらに、上述の電子・電気機器用部品は、エンジンルーム等の高温環境下で使用されることが多く、電子・電気機器用部品を構成する銅材においては、従来にも増して耐熱性を向上させる必要がある。すなわち、導電率と耐熱性とをバランス良く向上させた銅材が求められている。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高い導電率と優れた耐熱性とを有する銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電子機器用部品、端子、バスバー、リードフレーム、放熱基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、高い導電率と優れた耐熱性をバランス良く両立させるためには、Mgを微量添加するとともに、Mgと化合物を生成する元素の含有量を規制し、さらに、組成に合わせた組織制御を行うことにより、従来よりも高い水準で導電率と耐熱性とをバランス良く向上させることが可能となるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の銅合金は、Mgの含有量が10massppm超え100massppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、前記不可避不純物のうち、Sの含有量が10massppm以下、Pの含有量が10massppm以下、Seの含有量が5massppm以下、Teの含有量が5massppm以下、Sbの含有量が5massppm以下、Biの含有量が5masppm以下、Asの含有量が5masppm以下とされるとともに、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量が30massppm以下とされており、Mgの含有量を〔Mg〕とし、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕とした場合に、これらの質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6以上50以下の範囲内とされており、導電率が97%IACS以上とされ、EBSD法による集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角で表したとき、φ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度の平均値が1.3以上20.0未満であり、S方位{123}<634>に対して10°以内の結晶方位を有する結晶の面積割合が10%以下であることを特徴としている。
【0010】
この構成の銅合金によれば、Mgと、Mgと化合物を生成する元素であるS,P,Se,Te,Sb,Bi,Asの含有量が上述のように規定されているので、微量添加したMgが銅の母相中に固溶することで、導電率を大きく低下させることなく耐熱性を向上させることができ、具体的には導電率を97%IACS以上とすることができる。
また、方位密度およびS方位が上述の範囲となるように結晶組織を制御しているので、転位の移動による回復や再結晶が起こりにくく、耐熱性を十分に向上させることが可能となる。
【0011】
ここで、本発明の銅合金においては、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、Agを上述の範囲で含有しているので、Agが粒界近傍に偏析し、粒界拡散が抑制され、耐熱性をさらに向上させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の銅合金においては、耐熱温度が260℃以上であることが好ましい。
この場合、耐熱温度が260℃以上とされているので、耐熱性に十分に優れており、高温環境下においても安定して使用することができる。
【0013】
本発明の銅合金塑性加工材は、上述の銅合金からなることを特徴としている。
この構成の銅合金塑性加工材によれば、上述の銅合金で構成されていることから、導電性、耐熱性に優れており、大電流用途、高温環境下で使用される端子、バスバー、リードフレーム、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0014】
ここで、本発明の銅合金塑性加工材においては、異形条であってもよい。
この場合、長手方向に直交する断面において厚さが異なるような異形条にするために強加工しても、耐熱性を十分に確保することができる。
【0015】
また、本発明の銅合金塑性加工材においては、表面に金属めっき層を有することが好ましい。
この場合、表面に金属めっき層を有しているので、端子、バスバー、リードフレーム、放熱部材等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0016】
本発明の電子・電気機器用部品は、上述の銅合金塑性加工材からなることを特徴としている。なお、本発明における電子・電気機器用部品とは、端子、バスバー、リードフレーム、放熱基板等を含むものである。
この構成の電子・電気機器用部品は、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途、高温環境下においても、優れた特性を発揮することができる。
【0017】
本発明の端子は、上述の銅合金塑性加工材からなることを特徴としている。
この構成の端子は、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途、高温環境下においても、優れた特性を発揮することができる。
【0018】
本発明のバスバーは、上述の銅合金塑性加工材からなることを特徴としている。
この構成のバスバーは、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途、高温環境下においても、優れた特性を発揮することができる。
【0019】
本発明のリードフレームは、上述の銅合金塑性加工材からなることを特徴としている。
この構成のリードフレームは、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途、高温環境下においても、優れた特性を発揮することができる。
【0020】
本発明の放熱基板は、上述の銅合金塑性加工材からなることを特徴としている。
この構成の放熱基板は、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途、高温環境下においても、優れた特性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高い導電率と優れた耐熱性とを有する銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電子機器用部品、端子、バスバー、リードフレーム、放熱基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態である銅合金(銅合金塑性加工材)の断面説明図である。
図2】本実施形態である銅合金の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態である銅合金について、図面を参照して説明する。
本実施形態である銅合金は、端子、バスバー、リードフレーム、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として最適に用いられるものである。
また、本実施形態である銅合金塑性加工材は、本実施形態である銅合金からなるものとされている。図1に示すように、本実施形態である銅合金塑性加工材10は、長手方向に直交する断面において互い厚さの異なる厚部11と薄部12とを備えた異形条とされている。
【0024】
本実施形態である銅合金は、Mgの含有量が10massppm超え100massppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、前記不可避不純物のうち、Sの含有量が10massppm以下、Pの含有量が10massppm以下、Seの含有量が5massppm以下、Teの含有量が5massppm以下、Sbの含有量が5massppm以下、Biの含有量が5masppm以下、Asの含有量が5masppm以下とされるとともに、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量が30massppm以下とされている。
【0025】
そして、Mgの含有量を〔Mg〕とし、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕とした場合に、これらの質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6以上50以下の範囲内とされている。
なお、本実施形態である銅合金においては、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内であってもよい。
【0026】
また、本実施形態である銅合金においては、導電率が97%IACS以上とされている。
さらに、本実施形態である銅合金においては、耐熱温度が260℃以上であることが好ましい。
【0027】
そして、本実施形態である銅合金においては、EBSD法による集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角で表したとき、φ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度の平均値が1.3以上20.0未満とされている。
さらに、本実施形態である銅合金においては、S方位{123}<634>に対して10°以内の結晶方位を有する結晶の面積割合が10%以下とされている。
【0028】
ここで、本実施形態の銅合金において、ここで、上述のように成分組成、各種特性、結晶組織を規定した理由について以下に説明する。
【0029】
(Mg)
Mgは、銅の母相中に固溶することで、導電率を大きく低下させることなく、耐熱温度を向上させる作用効果を有する元素である。
ここで、Mgの含有量が10massppm以下の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができなくなるおそれがある。一方、Mgの含有量が100massppmを超える場合には、導電率が低下するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Mgの含有量を10massppm超え100massppm以下の範囲内に設定している。
【0030】
なお、耐熱温度をさらに向上させるためには、Mgの含有量の下限を20massppm以上とすることが好ましく、30massppm以上とすることがさらに好ましく、40massppm以上とすることがより好ましい。
また、導電率をさらに高くするためには、Mgの含有量の上限を90massppm以下とすることが好ましく、80massppm以下とすることがさらに好ましく、70massppm以下とすることがより好ましい。
【0031】
(S,P,Se,Te,Sb,Bi,As)
上述のS,P,Se,Te,Sb,Bi,Asといった元素は、一般的に銅合金に混入しやすい元素である。そして、これらの元素は、Mgと反応し化合物を形成しやすく、微量添加したMgの固溶効果を低減するおそれがある。このため、これらの元素の含有量は厳しく制御する必要がある。
そこで、本実施形態においては、Sの含有量を10massppm以下、Pの含有量を10massppm以下、Seの含有量を5massppm以下、Teの含有量を5massppm以下、Sbの含有量を5massppm以下、Biの含有量を5masppm以下、Asの含有量を5masppm以下に制限している。
さらに、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を30massppm以下に制限している。
【0032】
なお、Sの含有量は、9massppm以下であることが好ましく、8massppm以下であることがさらに好ましい。
Pの含有量は、6massppm以下であることが好ましく、3massppm以下であることがさらに好ましい。
Seの含有量は、4massppm以下であることが好ましく、2massppm以下であることがさらに好ましい。
Teの含有量は、4massppm以下であることが好ましく、2massppm以下であることがさらに好ましい。
Sbの含有量は、4massppm以下であることが好ましく、2massppm以下であることがさらに好ましい。
Biの含有量は、4massppm以下であることが好ましく、2massppm以下であることがさらに好ましい。
Asの含有量は、4massppm以下であることが好ましく、2massppm以下であることがさらに好ましい。
さらに、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量は、24massppm以下であることが好ましく、18massppm以下であることがさらに好ましい。
【0033】
(〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕)
上述のように、S,P,Se,Te,Sb,Bi,Asといった元素は、Mgと反応して化合物を形成しやすいことから、本実施形態においては、Mgの含有量と、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量との比を規定することで、Mgの存在形態を制御している。
Mgの含有量を〔Mg〕とし、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕とした場合に、これらの質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が50を超えると、銅中にMgが過剰に固溶状態で存在しており、導電率が低下するおそれがある。一方、質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6未満では、Mgが十分に固溶しておらず、耐熱温度が十分に向上しないおそれがある。
よって、本実施形態では、質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕を0.6以上50以下の範囲内に設定している。
【0034】
なお、導電率をさらに高くするためには、質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕の上限を35以下とすることが好ましく、25以下とすることがさらに好ましい。
また、耐熱性をさらに向上させるためには、質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕の下限を0.8以上とすることが好ましく、1.0以上とすることがさらに好ましい。
【0035】
(Ag:5massppm以上20massppm以下)
Agは、250℃以下の通常の電子・電気機器の使用温度範囲ではほとんどCuの母相中に固溶することができない。このため、銅中に微量に添加されたAgは、粒界近傍に偏析することとなる。これにより粒界での原子の移動は妨げられ、粒界拡散が抑制されるため、耐熱性が向上することになる。
ここで、Agの含有量が5massppm以上の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることが可能となる。一方、Agの含有量が20massppm以下である場合には、導電率が確保されるとともに製造コストの増加を抑制することができる。
以上のことから、本実施形態では、Agの含有量を5massppm以上20massppm以下の範囲内に設定している。
【0036】
ここで、耐熱性をさらに向上させるためには、Agの含有量の下限を6massppm以上とすることが好ましく、7massppm以上とすることがさらに好ましく、8massppm以上とすることがより好ましい。また、導電率の低下およびコストの増加を確実に抑制するためには、Agの含有量の上限を18massppm以下とすることが好ましく、16massppm以下とすることがさらに好ましく、14massppm以下とすることがより好ましい。
なお、Agを意図して添加しない場合には、Agの含有量が5mass%未満であってもよい。
【0037】
(その他の不可避不純物)
上述した元素以外のその他の不可避的不純物としては、Al,B,Ba,Be,Ca,Cd,Cr,Sc,希土類元素,V,Nb,Ta,Mo,Ni,W,Mn,Re,Ru,Sr,Ti,Os,Co,Rh,Ir,Pb,Pd,Pt,Au,Zn,Zr,Hf,Hg,Ga,In,Ge,Y,Tl,N,Si,Sn,Li等が挙げられる。これらの不可避不純物は、特性に影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
ここで、これらの不可避不純物は、導電率を低下させるおそれがあることから、総量で0.1mass%以下とすることが好ましく、0.05mass%以下とすることがさらに好ましく、0.03mass%以下とすることがより好ましく、さらには0.01mass%以下とすることが好ましい。
また、これらの不可避不純物のそれぞれの含有量の上限は、10massppm以下とすることが好ましく、5massppm以下とすることがさらに好ましく、2massppm以下とすることがより好ましい。
【0038】
(φ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度の平均値)
オイラー角は、試料座標系と個々の結晶粒の結晶軸との関係により結晶方位を表しており、結晶軸(X-Y-Z)が一致した状態から、(Z-X-Z)軸周りにそれぞれ(φ1,Φ,φ2)回転させることで結晶方位が表現される。3次元オイラー空間に級数展開方によりODF(crystal orientation distribution function)を表示することで、測定範囲の結晶方位密度の分布を確認することが可能となる。この方位密度分布は、標準粉末試料等で得られる完全にランダムな配向状態を1としており、例えばある方位の方位密度が3である場合、その方位はランダムな配向の3倍存在しているという意味になる。
【0039】
オイラー角(φ1,Φ,φ2)で表した際にφ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における結晶方位は、特定の熱処理と加工の組み合わせによって形成される再結晶組織であり、他の結晶方位と比較しひずみが局所化しにくい傾向にある。そのため、オイラー角(φ1,Φ,φ2)で表した際にφ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度が高まると、転位の移動による回復や再結晶が起こりにくく、銅材の耐熱性は向上する。
よって、上述の方位密度の平均値が1.3以上であることにより、十分に高い耐熱性を得ることができる。一方、上述の方位密度の平均値が20.0未満であることにより、耐熱性を保持しながらも一定の強度を得ることが可能となり製造時のハンドリングが向上する。
以上のことから、本実施形態では、φ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度の平均値を1.3以上20.0未満の範囲内に設定している。
【0040】
ここで、上述の方位密度の平均値の下限は、1.6以上とすることが好ましく、2.0以上とすることがより好ましく、2.5以上とすることがさらに好ましく、3.0以上とすることが最も好ましい。一方、上述の方位密度の平均値の上限は、18以下とすることがより好ましく、15以下とすることがさらに好ましい。
なお、異形条の様に、厚部、薄部が存在し、その材料組織が異なる場合には、オイラー角(φ1,Φ,φ2)で表した際にφ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度は、厚部および薄部ともに上記の範囲内とする。
【0041】
(S方位{123}〈634〉に対して10°以内の結晶方位を有する結晶の割合)
S方位{123}〈634〉は銅の代表的な圧延集合組織であるが、他の方位と比べひずみが局所化しやすいため、S方位の割合が高まることで転位の移動による回復が起きやすく、銅材の耐熱性が劣化する。
以上のことから、本実施形態では、S方位{123}<634>に対して10°以内の結晶方位を有する結晶の面積割合を10%以下としている。
【0042】
ここで、S方位{123}<634>に対して10°以内の結晶方位を有する結晶の面積割合は、8%以下とすることが好ましく、6%以下とすることがさらに好ましく、4%以下とすることがより好ましい。
また、特に下限は求めないが、圧延により形状を出す場合は、一般的に0.1%以上となる。
なお、異形条の様に、厚部、薄部が存在し、その材料組織が異なる場合には、S方位{123}<634>に対して10°以内の結晶方位を有する結晶の面積割合は、厚部および薄部ともに上記の範囲内とする。
【0043】
(導電率)
本実施形態である銅合金においては、導電率が97.0%IACS以上とされている。導電率を97.0%IACS以上とすることにより、通電時の発熱を抑えて、純銅材の代替として端子、バスバー、リードフレーム、放熱部材等の電子・電気機器用部品として良好に使用することが可能となる。
ここで、導電率は97.5%IACS以上であることが好ましく、98.0%IACS以上であることがさらに好ましく、98.5%IACS以上であることがより好ましく、99.0%IACS以上であることがより一層好ましい。
なお、異形条の様に、厚部、薄部が存在し、その材料組織が異なる場合には、導電率は、厚部および薄部ともに上記の範囲内とする。
【0044】
(耐熱温度)
本実施形態である銅合金において、耐熱温度が高い場合には、高温環境下での使用により適する。
そのため、本実施形態である銅合金においては、耐熱温度は260℃以上であることが好ましい。
ここで、耐熱温度は280℃以上であることがさらに好ましく、300℃以上であることがより好ましく、320℃以上であることが最も好ましい。
なお、異形条の様に、厚部、薄部が存在し、その材料組織が異なる場合には、耐熱温度は、厚部および薄部ともに上記の範囲内とする。
【0045】
次に、このような構成とされた本実施形態である銅合金の製造方法について、図1に示すフロー図を参照して説明する。
【0046】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述の元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。なお、各種元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、上述の元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
ここで、銅原料は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。
溶解時においては、Mgの酸化を抑制するため、また水素濃度低減のため、HOの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気溶解を行い、溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。
そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0047】
(均質化/溶体化工程S02)
次に、得られた鋳塊の均質化および溶体化のために加熱処理を行う。鋳塊の内部には、凝固の過程においてMgが偏析で濃縮することにより発生したCuとMgを主成分とする金属間化合物等が存在することがある。そこで、これらの偏析および金属間化合物等を消失または低減させるために、鋳塊を300℃以上1080℃以下にまで加熱する加熱処理を行うことで、鋳塊内において、Mgを均質に拡散させたり、Mgを母相中に固溶させたりする。なお、この均質化/溶体化工程S02は、非酸化性または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
【0048】
ここで、加熱温度が300℃未満では、溶体化が不完全となり、母相中にCuとMgを主成分とする金属間化合物が多く残存するおそれがある。一方、加熱温度が1080℃を超えると、銅素材の一部が液相となり、組織や表面状態が不均一となるおそれがある。よって、加熱温度を300℃以上1080℃以下の範囲に設定している。
なお、後述する粗圧延の効率化と組織の均一化のために、前述の均質化/溶体化工程S02の後に熱間加工を実施してもよい。この場合、加工方法に特に限定はなく、例えば圧延、引抜、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。また、熱間加工温度は、300℃以上1080℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0049】
(粗加工工程S03)
所定の形状に加工するために、粗加工を行う。なお、この粗加工工程S03における温度条件は特に限定はないが、再結晶を抑制するために、あるいは寸法精度の向上のため、冷間または温間圧延となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。加工率については、20%以上が好ましく、30%以上がさらに好ましい。また、加工方法については、特に限定はなく、例えば圧延、引抜、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。
なお、粗加工工程S03と後述する中間熱処理工程S04を繰り返し実施してもよい。
【0050】
(中間熱処理工程S04)
粗加工工程S03後に、加工性向上のための軟化、または再結晶組織にするために熱処理を実施する。
この際、連続焼鈍炉による短時間の熱処理が好ましく、Agが添加された場合には、Agの粒界への偏析の局在化を防ぐことができる。
この熱処理条件については特に限定しないが、一般的には200℃から1000℃の範囲で行う。
【0051】
(機械的表面処理工程S05)
中間熱処理工程S04後に、機械的表面処理を行う。機械的表面処理は、表面近傍に圧縮応力を与える処理であり、後述の上前熱処理工程S07と組み合わせることにより、オイラー角(φ1,Φ,φ2)で表した際にφ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度が高まり、S方位は減るため、耐熱性を向上させることができる。
機械的表面処理は、ショットピーニング処理、ブラスト処理、ラッピング処理、ポリッシング処理、バフ研磨、グラインダー研磨、サンドペーパー研磨、テンションレベラー処理、1パス当りの圧下率が低い軽圧延(1パス当たりの圧下率1~10%とし3回以上繰り返す)など一般的に使用される種々の方法が使用できる。
【0052】
(異形圧延加工S06)
厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板を所望の場合、異形圧延加工S06を行ってもよい。
異形圧延加工では、凹凸面を有する平板状のダイと、このダイの成形面に対向して成形面に沿って往復移動される圧延ロールとにより、機械的表面処理後S05の材料を冷間にて異形圧延加工して、粗厚肉部と粗薄肉部とが幅方向に並んだ粗異形断面銅合金板を得る。
この異形圧延加工S06での加工と後述の上前熱処理工程S07によって、オイラー角(φ1,Φ,φ2)で表した際にφ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度は増加するが、一方で、S方位も増加する傾向にあるため、加工率は5%以上90%以下の範囲内とすることが好ましい。また、厚部および薄部での材料組織、それによる耐熱性の差異を極力減少させるため、異形圧延加工S06において、厚部の厚さと、薄部の厚さとの比を1.1以上8.0以下の範囲内とすることが好ましい。
【0053】
(上前熱処理工程S07)
次に、熱処理を行う。特に、異形圧延加工S06を行った場合には、異形圧延加工S06と上前熱処理工程S07での再結晶によって、オイラー角(φ1,Φ,φ2)で表した際にφ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度が高まり、S方位が減ることになる。
ここで、上前熱処理工程S07における熱処理温度は250℃以上650℃以下の範囲内とすることが好ましく、熱処理温度での保持時間は0.1時間以上100時間以下の範囲内とすることが好ましい。例えば、熱処理温度が400℃の場合は、保持時間を10時間とすることが好ましい。
【0054】
(仕上加工工程S08)
上前熱処理工程S07後に、強度の調整行うために仕上加工工程S08を行う。仕上加工工程S08を実施しないと、再結晶組織のままとなるため、著しく強度が低く、ハンドリングが難しくなる。
なお、異形圧延加工S06によって厚部と薄部を有する異形条とされている場合には、段付きロールと平ロールとからなる圧延ロールによる冷間加工にて実施することが好ましい。
【0055】
この仕上加工工程S08によって圧延集合組織が形成されるため、加工率が高すぎるとオイラー角(φ1,Φ,φ2)で表した際にφ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度が低くなり、S方位も増大する。
そのため、仕上加工工程S08における加工率は、50%以下とすることが好ましく、45%以下とすることがより好ましい。また、加工率は、5%以上とすることが好ましく、8%以上とすることがさらに好ましい。
【0056】
なお、仕上加工工程S08の後に、低温焼鈍を行ってもよい。また、テンションレベラー等による矯正工程を加えてもよい。
【0057】
このようにして、本実施形態である銅合金(銅合金塑性加工材)が製出されることになる。なお、圧延により製出された銅合金塑性加工材を銅合金圧延板という。
ここで、本実施形態の銅合金(銅合金塑性加工材)10においては、図1に示すように、長手方向に直交する断面において互いに厚さの異なる厚部11および薄部12を有しており、厚部11の厚さt1が0.2mm以上10mm以下の範囲内、薄部12の厚さt2が0.1mm以上5.0mm以下の範囲内であることが好ましい。
また、厚部11の厚さt1と薄部12の厚さt2との比t1/t2が1.1以上8.0以下の範囲内であることが好ましい。
なお、異形圧延加工S06を行わない場合には、銅合金(銅合金塑性加工材)10の厚さは0.1mm以上10mm以下の範囲内となることが好ましい。
【0058】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金においては、Mgの含有量が10massppm超え100massppm以下の範囲内とされ、Mgと化合物を生成する元素であるSの含有量を10massppm以下、Pの含有量を10massppm以下、Seの含有量を5massppm以下、Teの含有量を5massppm以下、Sbの含有量を5massppm以下、Biの含有量を5masppm以下、Asの含有量を5masppm以下、さらに、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を30massppm以下に制限しているので、微量添加したMgを銅の母相中に固溶させることができ、導電率を大きく低下させることなく、耐熱温度を向上させることが可能となる。
【0059】
そして、Mgの含有量を〔Mg〕とし、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量を〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕とした場合に、これらの質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6以上50以下の範囲内に設定しているので、Mgが過剰に固溶して導電率を低下させることなく耐熱温度を十分に向上させることが可能となる。
よって、本実施形態の銅合金によれば、高い導電率と優れた耐熱性とを両立することが可能となる。具体的には、導電率を97%IACS以上とし、高い導電率を確保することができる。
【0060】
さらに、本実施形態の銅合金において、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内とされている場合には、Agが粒界近傍に偏析することになり、このAgによって粒界拡散が抑制され、耐熱温度をさらに確実に向上させることが可能となる。
【0061】
さらに、本実施形態の銅合金において、耐熱温度が260℃以上である場合には、耐熱性に十分に優れており、高温環境下においても安定して使用することができる。
【0062】
本実施形態である銅合金塑性加工材は、上述の銅合金で構成されていることから、導電性、耐熱性に優れており、端子、バスバー、リードフレーム、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0063】
また、本実施形態である銅合金塑性加工材は、長手方向に直交する断面において、互いに板厚の異なる薄部と厚部とを備えた異形条とされているので、電子・電気機器用部品の各部位に薄部および厚部をそれぞれ適用することで、特性に優れた電子・電気機器用部品を得ることができる。
【0064】
さらに、本実施形態である銅合金塑性加工材の表面に、金属めっき層を形成した場合には、表面に様々な特性を付与することができ、端子、バスバー、放熱部材等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0065】
さらに、本実施形態である電子・電気機器用部品(端子、バスバー、リードフレーム、放熱部材等)は、上述の銅合金塑性加工材で構成されているので、大電流用途、高温環境下においても、優れた特性を発揮することができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態である銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品(端子、バスバー、リードフレーム等)について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、銅合金(銅合金塑性加工材)の製造方法の一例について説明したが、銅合金の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
また、本実施形態では、図1に示す形状の異形条を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、他の断面形状の異形条であってもよいし、板厚が一定の条材であってもよい。また、線材や棒材等であってもよい。
【実施例0067】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
帯溶融精製法により、純度99.999mass%以上の純銅からなる原料を高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。
得られた銅溶湯内に、6N(純度99.9999mass%)以上の高純度銅と2N(純度99mass%)以上の純度を有する純金属を用いて作製した各種0.1mass%母合金を用いて表1,2に示すに示す成分組成に調製し、断熱材(イソウール)鋳型に注湯して、鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約30mm×幅約60mm×長さ約150~200mmとした。
【0068】
得られた鋳塊に対して、Arガス雰囲気中において、各種温度条件で1時間の加熱を行い、酸化被膜を除去するために表面研削を実施し、所定の大きさに切断を行った。
その後、適宜最終厚みになる様に厚みを調整して切断を行った。切断されたそれぞれの試料について、室温にて、表3,4に示す加工率で粗圧延を行った後、表3,4に記載された熱処理条件にて中間熱処理を実施した。
【0069】
そして、これらの試料に表3,4に記載された手法で機械的表面処理工程を施した。
なお、バフ研磨は♯1000の研磨紙を用いて行った。
テンションレベラーはφ16mmのロールを複数備えたテンションレベラーを用い、ラインテンション100N/mmにて実施した。
軽圧延(1パス当りの圧下率が低い圧延)は、最終3パスを1パス当たりの圧下率を4%として実施した。
【0070】
次に、一部の試料を除いて、厚部と薄部の厚さがそれぞれ表3,4に記載された値となるように、平板状のダイと、このダイの成形面に対向して成形面に沿って往復移動される圧延ロールとにより段付き異形加工を実施した。
そして、一部の試料を除いて、表3,4に記載された条件で上前熱処理を実施した。
その後、表3,4に記載の条件で仕上加工を行い、表5,6に示す厚さで幅が約60mmの特性評価用条材を製出した。
【0071】
得られた特性評価用条材に対して、以下のようにして評価を実施した。
【0072】
(組成分析)
得られた鋳塊から測定試料を採取し、Mgは誘導結合プラズマ発光分光分析法で、その他の元素はグロー放電質量分析装置(GD-MS)を用いて測定した。
なお、測定は試料中央部と幅方向端部の2カ所で測定を行い、含有量の多い方をそのサンプルの含有量とした。その結果、表1,2に示す成分組成であることを確認した。
【0073】
(導電率)
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。評価結果を表5,6に示す。
【0074】
(結晶方位)
得られた特性評価用条材から幅20mm×長さ20mmに切り出し、圧延の幅方向に垂直な面、すなわちTD面(Tranverse Direction)を観察面として樹脂に埋め、水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行い観察用サンプルとした。
その後、走査型電子顕微鏡を用いて、試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、後方散乱電子線回折によるパターンを得て、SEM-EBSD(Electron Backscatter Diffraction Patterns)測定装置によって、オイラー角(φ1,Φ,φ2)で表した際にφ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度、およびS方位割合を下記のように測定した。
【0075】
隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間の境界を大角粒界とした。この際、双晶境界も大角粒界とした。また、各サンプルで100個以上の結晶粒が含まれるように測定範囲を調整した。得られた方位解析の結果から大角粒界を用いて結晶粒界マップを作成した。JIS H 0501の切断法に準拠し、結晶粒界マップに対して、縦、横の所定長さの線分を5本ずつ引き、完全に切られる結晶粒の数を数え、その切断長さ(結晶粒界で切り取られた線分の長さ)の合計を結晶粒の数で割り平均値、すなわち平均結晶粒径をまず求めた。
【0076】
続いて、求めた平均結晶粒径の10分の1以下となる測定間隔のステップで観察面をEBSD法により測定した。総数1000個以上の結晶粒が含まれるように、複数視野で合計面積が10000μm以上となる測定面積で、測定結果をデータ解析ソフトOIMにより解析して各測定点のCI(Confidence Index)値を得た。CI値が0.1以下である測定点を除いて、データ解析ソフトOIMにより集合組織の解析を行い、S方位割合、および結晶方位分布関数を得た。
【0077】
解析により得られた結晶方位分布関数はオイラー角で表示された。得られたS方位割合、およびφ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度の平均値を表5,6に示す。なお、表5,6においては、「ODF」の欄に、φ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度の平均値を記載している。
【0078】
(耐熱温度)
耐熱温度は日本伸銅協会のJCBA T325:2013に準拠し、1時間の熱処理でのビッカース硬度による等時軟化曲線を取得し、熱処理前の硬度の80%の硬度となる加熱温度を求めることで評価した。なお、ビッカース硬度の測定面は圧延面とした。評価結果を表5,6に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
比較例1は、Mgの含有量が本発明の範囲よりも少ないため、耐熱温度が低く、耐熱性が不十分であった。
比較例2は、Mgの含有量が本発明の範囲を超えており、導電率が低くなった。
比較例3は、SとPとSeとTeとSbとBiとAsの合計含有量が30massppmを超えており、耐熱温度が低く、耐熱性が不十分であった。
比較例4は、質量比〔Mg〕/〔S+P+Se+Te+Sb+Bi+As〕が0.6未満であり、耐熱温度が低く、耐熱性が不十分であった。
【0086】
比較例5は、φ2=0°、φ1=0°~20°、Φ=35°~55°の範囲における方位密度の平均値が1.3未満であり、耐熱温度が低く、耐熱性が不十分であった。
比較例6は、S方位{123}<634>に対して10°以内の結晶方位を有する結晶の面積割合が10%を超えており、耐熱温度が低く、耐熱性が不十分であった。
【0087】
これに対して、本発明例1~24においては、導電率と耐熱性とがバランス良く向上されていることが確認された。
以上のことから、本発明例によれば、高い導電率と優れた耐熱性とを有する銅合金を提供可能であることが確認された。
図1
図2