(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097767
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】健康食品素材
(51)【国際特許分類】
A23L 31/00 20160101AFI20230703BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20230703BHJP
C12P 19/04 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
A23L31/00
C12P1/04 Z
C12P19/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214044
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】502026975
【氏名又は名称】株式会社エンザミン研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 謙治
(72)【発明者】
【氏名】降井 佐太郎
(72)【発明者】
【氏名】筒井 剛毅
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE05
4B018MD33
4B018MD47
4B018ME02
4B018ME07
4B018ME08
4B018ME09
4B018MF01
4B018MF06
4B064AF12
4B064CA02
4B064CE03
4B064DA10
(57)【要約】
【課題】機能性表示食品等に求められる健康保持の増進作用をより充分に発揮する健康食品を創出し、さらにはそのような健康食品をより効率よく製造することである。
【解決手段】培地用基材が澱粉糖化物からなり、炭素源としてショ糖を含有し、窒素源としてイーストエキスを含有する発酵用培地で培養されたパエニバチルス ポリミキサAK-T1-11株(受領番号:NITE ABP-03577)が産生する菌体外高分子物質を必須成分として含有する健康食品素材とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地用基材が澱粉糖化物もしくはショ糖またはこれらの混合物からなり、窒素源として酵母の水溶性成分を含有する発酵用培地で培養されたパエニバチルス ポリミキサAK-T1-11株(受領番号:NITE ABP-03577)が産生する菌体外高分子物質を必須成分として含有する健康食品素材。
【請求項2】
前記菌体外高分子物質が、レバン、レバンオリゴ糖及びβ-グルカンから選ばれる1種以上の多糖類を含む菌体外高分子物質である請求項1に記載の健康食品素材。
【請求項3】
前記β-グルカンが、カードランである請求項2に記載の健康食品素材。
【請求項4】
前記発酵用培地が、pH緩衝剤を含有し、pH7.6以下に調整された発酵用培地である請求項1~3のいずれかに記載の健康食品素材。
【請求項5】
澱粉糖化物もしくはショ糖またはこれらの混合物を培地用基材とし、これに窒素源として酵母の水溶性成分を添加して発酵用培地を調製し、これにパエニバチルス ポリミキサAK-T1-11株(受領番号:NITE ABP-03577)を接種して培養し、産生した菌体外高分子物質を含む液状成分を分取して食品用原液とすることからなる健康食品素材の製造方法。
【請求項6】
前記澱粉糖化物が、コーンスターチを含む澱粉をアミラーゼで加水分解した澱粉糖化物である請求5に記載の健康食品素材の製造方法。
【請求項7】
前記培養が、第1段階としてpH5.5~7.2、28~32℃で1週間以上培養した後、第2段階としてpH4.0~6.0、8℃以上13℃未満で1週間以上培養する請求項5または6に記載の健康食品素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、健康増進に好ましい機能性表示食品等に用いられる健康食品素材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの健康を増進させる健康食品であって、生体に必要な諸成分を体内で効率よく生成するように代謝活性を高めると共に、Tリンパ球を幼若化させて免疫機能を増強する作用があると考えられている発酵代謝物エキスとして、エンザミン(登録商標)が知られており、またその製造方法は特許公報にも開示されている(特許文献1)。
【0003】
上記製造方法によってコーンスターチを含む澱粉をアミラーゼで加水分解した糖化物を培地用基材とし、これに窒素源としてイーストエキスを添加して発酵用培地を調整し、この培地に、上記特許文献の出願当初にバチルス ズブチルス AKと称され、現在では赤澤(AK)菌と称されているパエニバチルス ポリミキサ(Paenibacillus polymyxa)赤澤株を接種し、長期培養した後、生成した液状成分を分取して食品用原液とし、これを用いて健康食品、保健栄養食品や化粧品を製造することができる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3902015号公報
【特許文献2】特開2012-143187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した健康食品の製造方法では、健康食品として有用な指標成分が特定されていなかったため、特定成分をより効率よく産生するように菌株や培養条件の改良はさらに改良の余地を残していた。
【0006】
従来の納豆菌類またはバチルス属菌とされるAK菌の多くは、継代培養や長期の乾燥保存のうち淘汰され、生理活性物質の産生量が多い菌群が選択されてきたが、有効な特定機能性成分が、どのような発酵段階でどの程度の量を産生しているのか判明していなかった。
【0007】
そのため、過去の経験に頼った試行によって培養されているに過ぎず、指標となる特定成分の経時的な濃度変化を判定し、最適な培養条件で健康食品をより効率よく製造できるようにする必要があった。
【0008】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、有用な特定指標成分をより効率よく産生する菌株を特定すると共に、かつそれを所定の培養条件で培養することにより、機能性表示食品等に求められる健康保持の増進作用をより充分に発揮する健康食品を創出し、かつそのような優れた健康食品をより効率よく製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明では、パエニバチルス ポリミキサの従来株を改良し、さらに培養条件も含めて研究を進めたことにより、培地用基材が澱粉糖化物もしくはショ糖またはこれらの混合物からなり、窒素源として酵母の水溶性成分を含有する発酵用培地で培養されたパエニバチルス ポリミキサAK-T1-11株(受領番号:NITE ABP-03577)が産生する菌体外高分子物質を必須成分として含有する健康食品素材としたのである。
【0010】
上記した健康食品素材は、所定の培地で培養されたパエニバチルス ポリミキサAK-T1-11株が、ヒトの健康に有用な指標成分である菌体外高分子物質を効率よく産生するので、これらの菌株から産生する所定の菌体外高分子物質を必須成分に用いた健康食品素材が得られる。
【0011】
前記菌体外高分子物質としては、菌体外多糖(EPS)と称される多糖類が挙げられ、例えばレバン、レバンオリゴ糖及びβ-グルカンから選ばれる1種以上の多糖類を含んだものである。前記β-グルカンの代表例としては、カードランが挙げられる。
【0012】
このような健康食品素材を食品に所要量を配合すれば、機能性表示食品等に求められる健康保持の増進作用をより充分に発揮する健康食品を創出することができる。
【0013】
このような健康食品素材を用いた健康食品を製造するために、澱粉糖化物もしくはショ糖またはこれらの混合物を培地用基材とし、これに窒素源としてイーストエキスを添加して発酵用培地を調製し、これにパエニバチルス ポリミキサAK-T1-11株を接種して培養し、産生した菌体外高分子物質を含む液状成分を分取して食品用原液とする健康食品素材の製造方法を採用することができる。
【0014】
上記製造方法によると、所定の培地で所定の菌株が効率よく糖および窒素源を資化し、発酵生産物として各種の活性を有するレバンやβ-グルカンなどの菌体外多糖(EPS)、オリゴ糖の他、脂質、アミノ酸、菌体の細胞壁構成成分や核酸などを生成する。
【0015】
因みに、レバンやそのオリゴ糖は、健康増進に有利な糖類であり、機能性の食物や医薬関連品、及び飼料にも利用でき、高親水性であることから化粧品への利用も研究されている。
【0016】
また、β-グルカンは、菌体の細胞壁に存在する物質であり、不溶性食物繊維の一種であり、血中のコレステロール値を下げる働きがある他、例えばβ-1,3-結合のみを有するカードランは、増粘多糖類として食品添加物にも利用されている。
【0017】
またβ-グルカンは、マクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞などの自然免疫担当細胞の細胞膜上の外来異物レセプターに結合することで、免疫担当細胞を活性化し、免疫力を高める作用もある。
【0018】
上記澱粉糖化物は、コーンスターチを含む澱粉をアミラーゼで加水分解した低分子量の澱粉糖化物であることが好ましく、また澱粉糖化物に加えて、もしくは澱粉糖化物に代えてショ糖を用いることができる。上記のようにショ糖を用いることにより、顕著に菌体外多糖の産生量を増加させることができる。
【0019】
また前記発酵用培地はpH7.0以下に調整されていることが好ましく、そのためにpH緩衝剤を適量添加することにより、培養時の酸性域への移行を遅らせることができ、これにより第1段階での培養時間を充分に確保して所期した最終産生物をより効率よく生産することができる。
【0020】
上記培養が、第1段階の培養としてpH5.5~7.2、28~32℃の培養条件で1週間以上培養した後、第2段階としてpH4.0~6.0、8℃以上13℃未満で1週間以上培養することが好ましい。
【0021】
上記2段階の培養法によれば、特定のタイプの有効成分、特にEPSの産生量を増やすことができる。このようにして得られるEPS等は、従来の培養方法で産生される有効成分量やその機能をさらに高めるものである。
【発明の効果】
【0022】
この発明の健康食品素材は、パエニバチルス ポリミキサの特定株が所定の培地で培養された際に産生する所定の菌体外高分子物質を必須成分として含有するので、機能性表示食品等に求められる健康保持の増進作用をより充分に発揮する健康食品を創出できるという利点がある。
【0023】
また、この発明の健康食品素材の製造方法は、可及的に効率よく有用な指標成分を産生する発酵性菌類の菌株を選択し、かつ所定の培養条件に調整し、それによって機能性表示食品等に求められる健康保持の増進作用をより充分に発揮する健康食品素材を効率よく製造できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】HPLCによる分子量既知の多糖類の保持時間と検出強度との関係を示すクロマトグラム
【
図2】HPLCによる分子量既知の多糖類の保持時間とlog分子量(MW)との関係を分子量較正曲線として示す図表
【
図3】実施例1の培養後の液状成分の分子量分布を示し、HPLCによる保持時間とlog分子量(MW)との関係を示すクロマトグラム
【
図4】実施例2の培養後の液状成分の分子量分布を示し、HPLCによる保持時間とlog分子量(MW)との関係を示すクロマトグラム
【
図5】実施例3の培養後の液状成分の分子量分布を示し、HPLCによる保持時間とlog分子量(MW)との関係を示すクロマトグラム
【
図6】実施例4の培養後の液状成分の分子量分布を示し、HPLCによる保持時間とlog分子量(MW)との関係を示すクロマトグラム
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の実施形態の健康食品素材は、所定の培地で培養されたパエニバチルス ポリミキサの所定株が産生する菌体外高分子物質を必須成分として含有するものであり、以下のようにして澱粉糖化物もしくはショ糖またはこれらの混合物を培地用基材とし、これに窒素源として酵母の水溶性成分を添加して発酵用培地を調製し、これにパエニバチルス ポリミキサAK-T1-11株を接種して培養し、産生した菌体外高分子物質を含む液状成分を分取して食品用原液とすることにより製造できる。
【0026】
培地用基材の澱粉糖化物は、穀類、芋類、植物の根や幹、豆類などの植物由来の澱粉を分解する過程の最終工程で消化酵素のアミラーゼで加水分解したものであり、特にコーンスターチを含む澱粉をアミラーゼで加水分解した低分子量の澱粉糖化物であることが好ましい。
【0027】
炭素源としてのショ糖(スクロース)は、多くの植物から得られる二糖類であり、これを主成分とするグラニュー糖を用いることが好ましい。この発明では、炭素源をショ糖のみで供給することができる。
【0028】
酵母の水溶性成分は、イーストエキスまたは酵母エキスとも別称される酵母からの抽出物であり、酵母の菌体自体を自己消化または酸加水分解することにより得られ、アミノ酸、核酸等の他、ミネラル、ビタミンも含まれる微生物培養の培地用成分として周知なものである。
【0029】
また、前記発酵用培地には、pH緩衝剤を含有させ、pH7.0以下に調整することが好ましい。例えば、前記炭素源としてグルコース等の代謝され易い成分を用いた場合には、培地中に酸が蓄積されやすくなるが、pHが低下すると発酵に関わる菌類がダメージを受ける場合があるからである。
【0030】
pH緩衝剤としては、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウムなどが挙げられる。また、菌体内外の浸透圧を適切に調整するために、必要に応じて適量の塩化ナトリウム、塩化カルシウム等を添加する場合もある。
【0031】
上記のような必須成分等を含む発酵用培地に接種する発酵菌は、パエニバチルス ポリミキサAK-T1-11株であり、さらにこの発明の目的を阻害しない程度に、好ましい生育条件や菌体外高分子物質の産生能などの特性が若干異なる変異株を一種以上含ませてもよい。
【0032】
パエニバチルス ポリミキサAK-T1-11株は、最新のAPI50CHによる生化学的性状分類と細菌16S rRNA全塩基配列の成績により、1993年の細菌種の再分類でBacillus属から移されたPaenibacillus属のPaenibacillus polymyxa であることが判明している。
【0033】
このPaenibacillus polymyxa AK-T1-11株は、コーンスターチを含む澱粉をアミラーゼで加水分解した糖化物もしくはショ糖またはこれらの混合物を基材とし、これに窒素源として少量のイーストエキス等の酵母の水溶性成分を添加した培地で効率よく増殖するものであり、通常の細菌とは異なり、大気中の窒素を固定することができるため、ごく少量の窒素源しか含まない培地中でも容易に増殖する。
【0034】
このことは、腐敗臭の発生やアレルゲンとなる物質の産生を防ぐために有効である。また、高熱や紫外線に耐性である芽胞を形成し、高・低温環境などの過酷な環境や条件下でも生残することができるため、保存が容易であり、この性質を利用してバクテリオファージの感染による菌力低下を抑えることができる。また逆に、各種の生理活性物質を特異的に多く産生する変異株を得ることも容易である。
【0035】
上記菌株の菌学的性状は、以下の通りである。
<パエニバチルス ポリミキサ AK-T1-11株>
(a) 形態学的性質
(1)細胞の形及び大きさ:桿菌0.6~0.8×3.0~50μm 連鎖 単~短
(2)細胞の多形性の有無:無し
(3)運動性の有無: 有り (周毛性の鞭毛)
(4)芽胞の有無: 有り 楕円 菌体のほぼ中央 菌体膨張 有り
(b) 培養的性質
(1)肉汁寒天平板培養:円形粘調集落
(2)肉汁液体培養:上部に菌体凝集
(c) 生化学的性質
(1)グラム反応: 不定
(2)硝酸塩の還元: 陽性
(3) VPテスト: 陽性
(4) ウレアーゼ: 陰性
(5)インドールの生成: 陰性
(6)硫化水素の生成: 陰性
(7)クエン酸の利用: 陽性
(8)カタラーゼ: 陽性
(9)オキシダーゼ: 陰性
(10)生育の範囲:pH 5.5~7.6、温度 10℃~45℃
【0036】
このPaenibacillus polymyxa AK-T1-11株は、2021年12月24日(受領日)に独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)に受領番号:NITE ABP-03577として国際受託されている。
【0037】
この発明で採用することが好ましい第1段階の培養条件は、菌株により詳細は異なるが、pH5.5~7.2、28~32℃の条件で1週間以上2ヶ月未満である。上記より強い酸性域で所定温度未満の条件では、2ヶ月以上培養しても、この発明に用いる所定の菌株が効率よく糖および窒素源を資化しないと推定され、得られた食品に期待した効果が充分得られない。また、上記のpH域を超えたアルカリ性の条件で所定温度を超えた高温では培養不十分で所定の細菌が効率よく糖および窒素源を資化せず、得られた機能性表示食品は上記同様に期待した効果が充分得られないものになる。
【0038】
この発明で採用することが好ましい第2段階の低温培養条件は、pH4.0~6.0で培養温度は13~17℃、好ましくは8℃以上13℃未満であり、培養期間は1週間以上4ヶ月未満である。
【0039】
上記より強い酸性域で所定温度未満の条件では、4ヶ月以上培養しても、発酵生産物として各種の活性を有するアミノ酸、リポ多糖(リポポリサッカライド)、リピッドなどが充分に低分子量化しないと推定され、得られた食品に所期した効果が充分得られない。
【0040】
また上記の酸性域を超えて中性またはアルカリ性の条件で所定温度を超えて高温で培養しても、活性が低下すると推定され、得られた機能性表示食品は上記同様に所期した効果が充分得られないものになる。
【0041】
このようにこの発明で採用することが好ましい上記培養は、第1段階としてpH5.5~7.2、28~32℃で1週間以上、好ましくは2か月未満培養した後、第2段階としてpH4.0~6.0、8℃以上13℃未満で1週間以上、好ましくは4か月未満培養することである。
【0042】
生成した液状成分を分取するには、連続遠心分離器を使用し、得られた食品用原液は、そのまま利用できるが、必要に応じて濃縮し、または希釈して利用することもできる。
【0043】
得られた食品用原液中には、当該菌による発酵で産生したレバン、カードラン等のβグルカン、オリゴ糖が存在するが、このことを確認するには、サイズ排除クロマトグラフィカラムを装着した高速液体クロマトグラフ(HPLC)による分子量分布で測定することができる。
【0044】
また、このような定性的な分析だけでなく、定量分析を行うには、エタノール沈殿法で処理した後、希硫酸による加水分解で多糖類の構成糖に分解し、HPLC法で構成糖を定量する方法で測定することができる。
【実施例0045】
<培地の調製>
表1に示す配合割合(以下に示す「部」は、全て質量部である。)で以下の手順に従って、発酵用培地を調製した。
【0046】
【0047】
[実施例1、2]
コーンスターチ1.5部に対し、塩化カルシウム0.05部、食塩(焼塩、塩化ナトリウム)0.1部に精製水を18.3部入れ、撹拌しながら蒸気で加温した。これを91℃まで昇温し、コーンスターチを糊化させた。さらに精製水を加えながら撹拌し、60℃付近まで温度を下げたところでアミラーゼ0.03部を加え、撹拌しながら糖化させた。
【0048】
糖化後、ショ糖(グラニュー糖)1部または11部、グルコース(ブドウ糖)1部、酵母エキス(国内産)0.3部、リン酸水素二ナトリウム0.05部を投入して撹拌し溶解し、さらに米飴1部の入ったカゴをタンク内に入れて溶かした。
【0049】
米飴溶解後、精製水を100部まで加水しながら10%水酸化ナトリウム0.2部を投入してpHを調整した。
【0050】
pH・Brixを測定し、規格基準内にあることを確認し、基準値内(pH7.2~7.6、Brix4.5~4.8)であれば培養缶に分注し、高圧蒸気滅菌(121℃、15分間)を行なった後、水冷による急速冷却を行なった。なお、前記pH基準値は、培養後の培地pHが速やかにpH5.5~7.2になることを前提に設定した。
【0051】
[実施例3、4]
ショ糖(グラニュー糖)10部または15部に対し、イーストエクストラクト(BBL社製)0.2部、リン酸水素二カリウム0.55部及び硫酸マグネシウム0.02部を投入して撹拌し溶解した。
次いで、精製水を100部まで加水しながら10%水酸化ナトリウム0.2部を投入して培地のpHを調整した。
【0052】
pH・Brixを測定し、前記規格基準内にあることを確認し、基準値内(pH7以下、Brix4.5~4.8)であれば培養缶に分注し、高圧蒸気滅菌(121℃、15分間)を行なった後、水冷による急速冷却を行なった。
【0053】
<AK菌の接種と培養>
芽胞状態で菌株保存用ビーズに吸着させて-80℃で保存していたAK-T1-11株を前記培地に接種する直前に85℃10分間の加熱処理(芽胞の発芽を促進する処理)した後500mL、1ビーズずつ、500mL容コルベンに入れた200mLの増菌培地に投入し、回転式振盪培養器で30℃、150rpmで一夜培養した。
【0054】
次いで、振盪培養が終了した培養液は、直ちに新鮮液体培地30L入りステンレス培養
缶に各100mLづつ無菌的に接種した後、30℃恒温室内に静置し1週~2ヶ月間第1
段階の培養を行なった。
【0055】
所定の培養期間が経過した培養缶は、8~10℃の恒温室に移動させ、2~4ヶ月間、第2段階の低温培養を行った。
【0056】
<分子量分布の測定>
上記低温培養後の培養液に対してHPLCを行ない、その際に島津製品の送液ポンプ(LC-20AD)、システムコントローラー(CBM-20ALite)、脱気ユニット(DGU-20A3R)、カラム恒温槽(CTO-20A)、UV-VIS検出器(SPD-20A)、示差屈折率計検出器(RID-20A)、LC-ワークステーション(Lab solution single)を使用した。
【0057】
サイズ排除クロマトグラフィカラムは、糖類の分子量分布を測定するためShodex製Sugar KS-803(φ8mm×300mm)とKS-804(φ8mm×300mm)の連結カラムを使用し、カラム恒温槽80℃、移動相(水)、流量1.25mL/min、示差屈折率計検出器の測定条件で20μL注入する方法で行なった。
【0058】
分子量は、予め分子量既知の成分を測定し、保持時間(溶出時間)と分子量との関係から算出した分子量較正曲線式を作成し、未知成分の分子量を求めた。分子量既知の成分はグルコース(分子量:MW180)、スクロース(MW342)、グルコースのみからなる多糖類の一種プルラン(MW6,100、MW9,600、MW22,000、MW47,100、MW107,000、MW194,000、MW337,000)の9成分とし、濃度1,000mg/Lを測定したクロマトグラムを
図1に示した
【0059】
分子量較正曲線式は、9成分の保持時間を説明変数、分子量の対数値を目的変数にした最小二乗法により算出し、分子量較正曲線を
図2中に示し、分子量較正曲線式は、前記同様に算出すると以下の式で示された。
【0060】
分子量較正曲線式:y=‐0.4636x+9.2797
寄与率:0.9964
【0061】
上記培養開始後に採取した実施例1-4の培養液について、上記HPLCにより分子量分布を測定し、その結果を
図3-6に示した。
また、エタノール沈澱処理で上記低温培養後の培養液に含まれている多糖類を分離し、加水分解により単糖に分解した後、HPLC法で単糖の測定を行ったところ、フルクトースが検出された。これによりエンザミン原液に含まれている多糖類は、フルクトースがグリコシド結合で繋がったポリマーを形成しているレバンであると判定された。
さらにまた、上記低温培養後の培養液沈査物に含まれている非水溶性の多糖類を分離し、加水分解により単糖に分解した後、HPLC法で単糖の測定を行ったところ、グルコースがグリコシド結合で繋がったβ-1,3-グルカンであるカードランであると判定された。
【0062】
このように多糖類の二種類の種別が判定され、さらに
図3-
図6に示される結果からも明らかなように、培養後に二糖(スクロース)は単糖に分解されており、新たにオリゴ糖と二種類の多糖類(レバン及びカードラン)が産生されていることが確認された。
そして、水酸化ナトリウムを添加してpHを7.3~7.8の範囲内に調整し、これを培養缶に入れて120℃で20分間高圧滅菌した。これを冷却した後、パエニバチルス ポリミキサ(従来周知のバチルス ズブチリスAK株:FERM P-18291)を接種し、温度30±2℃の恒温室でpH4.5~6.5で60日間発酵させ、次いで温度15±2℃の恒温室でpH4.0~6.0の条件下で180日間熟成させて培養液を透明化させた。これをフィルターによってろ過し、54.3部の液状の保健栄養食品の原液(以下、培養濾液と称する。)を得た。
上記培養濾液について、東ソー社製カラム(TSKgel G2500PWXL)を用い、移動相を水、アセトニトリルおよびトリフルオロ酢酸の55:45:0.1混合液とする液体高速クロマトグラム(Shodex社製: GPC SYSTEM-21)でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を測定し、そのときの検出器感度(紫外分光光度計:mV)を分子量既知の標準品の溶出時間と比較して分析した分子量分布から、分子量画分の面積が全体に占める割合(百分率)を表2に示した。
表2に示される結果からも明らかなように、比較例では従来周知のパエニバチルス ポリミキサ(バチルス ズブチリス AK株:FERM P-18291)を用いており、分子量500以下のオリゴ糖の産生が認められたが、分子量10000以上の多糖類の産生は顕著ではなかった。
これに対して、前記した実施例1~4では、パエニバチルス ポリミキサAK-T1-11株を用いているため、多糖類の顕著な産生が認められ、分子量log(MW)約5.5付近にレバン及び分子量log(MW)約6.0付近にカードランの産生が認められた。
このようなレバン及びカードランの産生量は、培地に添加されるショ糖(グラニュー糖)の配合量の増加に伴って顕著な増加が認められ、かつ実施例3、4のように、pH緩衝剤を含有し、pH7.2以下、例えばpH7.0に調整された発酵用培地を用いることにより、培養時の酸性域への移行を遅らせ、これにより第1段階での培養時間を充分に確保することによって、さらなる産生量の増加が認められた。