(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097771
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/47 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
C08G63/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214054
(22)【出願日】2021-12-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 陸人
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 希有
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA07
4J029AB01
4J029AD01
4J029AD06
4J029BA02
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4J029FC36
4J029GA12
4J029GA13
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4J029HB06
4J029JB131
4J029JB182
4J029JF321
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
4J029KH01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】分解性を制御したポリエステル樹脂とその製造方法を提供すること。
【解決手段】式(1)-2の繰返し単位と式(2)の繰返し単位とを有し、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステルである分解性構造の導入率が10モル%以上であるポリエステル樹脂、及びジオール及び/又はその誘導体とジカルボン酸及び/又はその誘導体、またはこれらのオリゴマーと、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステルをモノマーとして反応させる工程を含むこのポリエステル樹脂の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)-2で表される繰返し単位と下記一般式(2)で表される繰返し単位とを有し、下記一般式(1)で表される分解性構造の導入率が10モル%以上であることを特徴とするポリエステル樹脂。
【化1】
[式中、nは繰返し単位の数を表す。]
【化2】
[式中、R
1はジオールからヒドロキシ基を取り除いた2価の連結基であり、R
2はジカルボン酸からカルボキシ基を取り除いた2価の連結基である。mは繰返し単位の数を表す。]
【化3】
【請求項2】
全繰返し単位に対して、前記一般式(1)-2で表される繰返し単位を、10モル%以上50モル%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
ジオール及び/又はその誘導体とジカルボン酸及び/又はその誘導体、またはこれらのオリゴマーと、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステルをモノマーとして反応させる工程を含む、
下記一般式(1)-2で表される繰返し単位と下記一般式(2)で表される繰返し単位とを有し、下記一般式(1)で表される分解性構造の導入率が10モル%以上であることを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【化4】
[式中、nは繰返し単位の数を表す。]
【化5】
[式中、R
1は前記ジオールからヒドロキシ基を取り除いた2価の連結基であり、R
2は前記ジカルボン酸からカルボキシ基を取り除いた2価の連結基である。mは繰返し単位の数を表す。]
【化6】
【請求項4】
全繰返し単位に対して、前記一般式(1)-2で表される繰返し単位を、10モル%以上50モル%以下含有する請求項3に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物の化学分解は、その分解の前後での物性変化を利用した解体性接着材料、レジスト材料、自己修復材料といった先端機能材料、生体適合性材料や薬物輸送などの医療材料として応用されている。さらに、近年、高分子化合物の化学分解を利用することにより、ケミカルリサイクルの高効率での実現や、自然界における分解を促進することが求められており、環境調和型材料として期待されている。
【0003】
こうした背景から、高分子化合物の主鎖に、光・熱・酸・塩基といった特定の刺激に応答して切断する、弱い共有結合を導入する分子設計が検討されている。
本発明者は、ビス[α-(ハロメチル)アクリレート]が、ジカルボン酸やビスフェノール、チオールと塩基の存在下で、共役置換反応を起こし、ポリ共役エステルを与えることを報告している(非特許文献1)。この反応は、室温でも進行し、数時間~1日以内に完結し、不活性ガス雰囲気など特殊な反応場を必要としない。そして、生成物であるポリ共役エステルは、チオールによる共役置換反応によって、副反応なく定量的に分解することができる。
共役置換反応は、脱離成分と求核剤によって、可逆的にも不可逆的にもなる反応である(非特許文献2)。そのため、非特許文献1に記載のポリ共役エステルの分解において、脱離成分がビスフェノール、求核剤がチオールの場合は、両者の酸性度が同程度であるため、共役置換反応は可逆的となり、不完全な主鎖切断・分解になる。
ジオールとジカルボン酸などのポリエステル形成性物質と低級アルキル α―メチレン-β-ヒドロキシプロピオネートを縮合重合した高分子が記載されている(特許文献1)。この高分子はペンダント不飽和結合を有する新規な不溶性ポリエステル樹脂とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y.Kohsaka,T.Miyazaki,K.Hagiwara,Polym.Chem.2018,9,1610-1617
【非特許文献2】Y.Kohsaka,Polym.J.2020,52,1175-1183.
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリエステル樹脂の化学構造の一部を、共役置換反応(S
N2’反応)を受容可能な共役エステル構造、すなわち下記一般式(1)で表される分解性構造に10モル%以上置き換えることで、ポリエステル樹脂に分解性を付与することができる。
【化1】
すなわち、本発明は、分解性を制御したポリエステル樹脂とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.下記一般式(1)-2で表される繰返し単位と下記一般式(2)で表される繰返し単位とを有し、
下記一般式(1)で表される分解性構造の導入率が10モル%以上であることを特徴とするポリエステル樹脂。
【化2】
[式中、nは繰返し単位の数を表す。]
【化3】
[式中、R
1はジオールからヒドロキシ基を取り除いた2価の連結基であり、R
2はジカルボン酸からカルボキシ基を取り除いた2価の連結基である。mは繰返し単位の数を表す。]
【化4】
2.全繰返し単位に対して、前記一般式(1)-2で表される繰返し単位を、10モル%以上50モル%以下含有することを特徴とする1.に記載のポリエステル樹脂。
3.ジオール及び/又はその誘導体とジカルボン酸及び/又はその誘導体、またはこれらのオリゴマーと、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステルをモノマーとして反応させる工程を含む、
下記一般式(1)-2で表される繰返し単位と下記一般式(2)で表される繰返し単位とを有し、下記一般式(1)で表される分解性構造の導入率が10モル%以上であることを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【化5】
[式中、nは繰返し単位の数を表す。]
【化6】
[式中、R
1は前記ジオールからヒドロキシ基を取り除いた2価の連結基であり、R
2は前記ジカルボン酸からカルボキシ基を取り除いた2価の連結基である。mは繰返し単位の数を表す。]
【化7】
4.全繰返し単位に対して、前記一般式(1)-2で表される繰返し単位を、10モル%以上50モル%以下含有する3.に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル樹脂は、特定の分解性構造を含み、この分解性構造の導入量により分解性(安定性)などの化学的性質や、融点、結晶性、ガラス転移点、弾性率などの物理的性質を制御することができる。この分解性構造は、ポリエステル主鎖へ容易に導入することができ、この分解性構造を導入するポリエステルの構造は限定されないため、所望の物性を有するポリエステルに分解性を付与することができる。PET、PBT、PEN、PBS等の汎用的に用いられているポリエステル樹脂に分解性構造を導入することにより、容易に分解性を付与することができ、またその物理的性質を調整することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例8における固相分解前(実施例4)と固相分解後の
1H NMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について説明する。なお、以下の説明は、本発明の一例に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
本発明は、下記に記載された実施態様に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の技術的思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0011】
・ポリエステル樹脂
本発明のポリエステルは、ジオール及び/又はその誘導体(以下、ジオール成分ともいう)と、ジカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、ジカルボン酸成分ともいう)と、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステル(以下、アクリル成分ともいう)とをモノマーとして、エステル形成反応、およびエステル交換反応をすることで得ることができる。なお、ジオール成分とジカルボン酸成分の代わりにこれらを反応させたオリゴマーを用いてもよい。
本発明のポリエステルは、下記一般式(1)-2で表される繰返し単位と下記一般式(2)で表される繰返し単位とを有し、下記一般式(1)で表される分解性構造の導入率が10モル%以上である。
【化8】
[式中、nは繰返し単位の数を表す。]
【化9】
[式中、R
1はジオールからヒドロキシ基を取り除いた2価の連結基であり、R
2はジカルボン酸からカルボキシ基を取り除いた2価の連結基である。mは繰返し単位の数を表す。]
【化10】
【0012】
ジオール成分、ジカルボン酸成分としては、ポリエステルのモノマーとして利用されているものを特に制限することなく用いることができる。
ジオール成分としては、例えば、脂肪族ジオール、脂環式ジオール、芳香族ジオールを用いることができる。一般式(2)のR1としては、例えば、炭素数の2~24のアルキレン基、炭素数5~12のシクロアルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基が挙げられ、これらは炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、水素原子がハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基等の反応に関与しない官能基で置換されていてもよい。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオールなどの脂肪族ジオール;1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカンジメタノールなどの脂環式ジオール;1,4-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンなどの芳香族ジオールを用いることができる。また、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール等については、バイオマス由来のものを使用することもできる。ジオール成分は、1種、または2種以上を混合して使用することができる。
【0013】
ジカルボン酸成分としては、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸を用いることができる。一般式(2)のR2としては、例えば、炭素数6~20のアリーレン基、炭素数5~12のシクロアルキレン基、炭素数の2~24のアルキレン基が挙げられ、これらは炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、水素原子がハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基等の反応に関与しない官能基で置換されていてもよい。具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,3-ノルボルネンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、及び、これらの酸無水物(無水フタル酸、無水コハク酸等)、(ジ)アルキルエステル(テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、コハク酸ジメチル等)、(ジ)ハロゲン化物(テレフタル酸ジクロライド、コハク酸ジクロライド等)等を挙げることができる。ジカルボン酸成分は、1種、または2種以上を混合して使用することができる。
【0014】
ジオール成分とジカルボン酸成分は、ジオール成分とジカルボン酸成分のみから得られるポリエステルに求める性質に応じて適宜選択することができる。例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)等は、種々の物性に優れているため熱可塑性樹脂として広く用いられており、これらの原料モノマーの組み合わせで好適に用いることができる。また、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペート(PBA)の原料モノマーの組み合わせであれば、生分解性を備えることができる。
【0015】
本発明のポリエステルは、ジオール成分、ジカルボン酸成分に加え、さらに、アクリル成分として下記化学式(3)で表されるα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステルをモノマーとする。
【化11】
[式中、Rはアルキル基である。]
【0016】
アクリル成分は、アルキル基の炭素数が多くなると、重合反応時に生じる副反応物であるアルキルアルコールが重合反応を阻害する場合がある。そのため、重合時にはアルキルアルコールを反応系外に除去することが好ましい。アルキルアルコールを反応系外に除去する方法は特に制限されないが、真空加熱による方法が容易である。この観点から、アルキルアルコールは低沸点であることが好ましく、化学式(3)のRで表されるアルキル基の炭素数は8以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、2以下であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明のポリエステルを合成する際には、ジオール成分、ジカルボン酸成分、アクリル成分以外のその他のモノマーを共重合させることもできる。共重合させることのできるその他のモノマーとしては、ポリエステル主鎖中に挿入可能な、ヒドロキシ基、カルボキシ基を有する化合物であれば特に限定されない。例えば、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の3官能以上の多価アルコール;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3官能以上の多価カルボン酸;乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、フマル酸等のオキシカルボン酸及びこれらオキシカルボン酸のエステル等の誘導体が挙げられる。
【0018】
ジオール成分とジカルボン酸成分とから、一般式(2)で表される繰返し単位が形成される。
【化12】
[式中、R
1は前記ジオールからヒドロキシ基を取り除いた2価の連結基であり、R
2は前記ジカルボン酸からカルボキシ基を取り除いた2価の連結基である。mは繰返し単位の数を表す。]
【0019】
アクリル成分から、一般式(1)-2で表される繰返し単位が形成される。
【化13】
[式中、nは繰返し単位の数を表す。]
そのため、本発明のポリエステルは、一般式(1)-2で表される繰返し単位と一般式(2)で表される繰返し単位とを有する。
【0020】
ここで、アクリル成分であるα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステルは、ジカルボン酸成分とエステル形成反応により結合する。具体的には、下記反応式に示すように、ジカルボン酸成分由来のカルボキシ基が、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステルのヒドロキシ基に攻撃されることにより、アシル置換反応が開始し、ジカルボン酸成分とアクリル成分との間にエステル結合が形成される。
【化14】
【0021】
さらに、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステルのアルキルエステル部位(-OR)は、ジオール成分とエステル交換反応により結合する。
そして、エステル形成反応とエステル交換反応により、アルキル成分がポリエステル主鎖中に組み込まれることにより、一般式(1)で表される分解性構造が形成される。
【化15】
そのため、本発明のポリエステルは、一般式(1)で表される分解性構造を有する。
【0022】
(分解性構造導入率)
本発明において、分解性構造の導入率(以下、分解性構造導入率ともいう。単位モル%)とは、主鎖内部に位置する共役エステル(アクリル酸エステル)単位数を、全繰返し単位数で割った割合を意味する。分解性構造導入率は、例えば、1H NMRスペクトルから、定法により、各繰返し単位のいずれか1以上の水素原子の積分強度と分解性構造のビニリデン水素の信号の積分強度を比較することで算出することができる。本発明のポリエステルが、ジオール成分、ジカルボン酸成分、アクリル成分のみからなる場合は、飽和エステル基のO-メチレン水素の信号の積分強度と分解性構造のビニリデン水素の信号の積分強度を比較することで算出することができる。実施例においては、1H NMRスペクトルは核磁気共鳴(NMR)装置(ブルカー(株)製AVANCE NEO)を用いて25℃で測定し、測定溶媒は、重水素化クロロホルムを用い、内部標準は、テトラメチルシランを用いているが、これらの機器や溶媒等に限定されるものではない。溶媒として用いた重水素化クロロホルムに溶解しない生成ポリマーの場合には、固相分解等で分子量を低下させて溶解性を高めてから行えばよい。
【0023】
本発明のポリエステルが、ジオール成分、ジカルボン酸成分、アクリル成分のみからなる場合は、1H NMRスペクトルでの分解性構造導入率の評価は、飽和エステル基のO―メチレン水素の信号の積分強度と分解性構造(主鎖内部に挿入された共役エステル)の1つのビニリデン水素の信号の積分強度をもとに下記式(1)により分解性構造導入率を評価することができる。それらの信号はモノマー、生成ポリマー等によって適宜選択すればよい。
(分解性構造導入率)
=(ビニリデン水素の信号積分強度)
/{(飽和エステル基のO-メチレン水素の信号積分強度)/4+(ビニリデン水素の信号積分強度)}×100% (1)
なお、ビニリデン水素のピークには末端に導入されたα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステル基の信号が観測されるが、末端に位置するアクリル成分は一般式(1)で表される分解性構造を持たないため、分解性構造ではない。
【0024】
本発明のポリエステルは、全繰返し単位に対して、一般式(1)-2で表される繰返し単位を、10モル%以上50モル%以下含有することが好ましい。この全繰返し単位に対する一般式(1)-2で表される繰返し単位の含有率により、ポリエステル中における一般式(1)で表される分解性構造の導入率(10モル%以上)をコントロールすることができ、ポリエステルの分解性や物理特性等を調整することができる。この含有率は、13モル%以上であることがより好ましい。また、40モル%以下であることがより好ましく、30モル%以下であることがさらに好ましい。
本発明のポリエステルにおいて、その数平均分子量は特に制限されないが、高分子としての性質を発揮するために1500以上であることが好ましく、3000以上であることがより好ましい。数平均分子量が大きくなりすぎると溶解性が低下する、粘度が高くなる等により取り扱い性が低下するため、100,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることがさらに好ましい。
【0025】
・ポリエステルの製造方法
本発明のポリエステルの製造方法は、ジオール成分とジカルボン酸成分、またはこれらのオリゴマーと、アクリル成分をモノマーとして反応させる工程を含む。本発明のポリエステルの製造方法は、この工程以外は、従来公知の方法を使用することができる。この際、全モノマーに対するアクリル成分の仕込み比により、分解性構造導入率やポリエステル中の一般式(1)-2で表される繰返し構造の含有率を制御することができる。
アクリル成分は、ジオール成分、ジカルボン酸成分とともに原料として最初から仕込んでもよく、ジオール成分とジカルボン酸成分を先にある程度重合させてオリゴマーとした後に添加することもできる。ジオール成分である1,4-ブタンジオールとジカルボン酸成分であるコハク酸の代わりに、オリゴブチレンサクシネートを用いる例が挙げられる。アクリル成分を後から添加する場合は、一度に添加してもよく、少量ずつ添加することもできる。
【0026】
・分解反応
一般式(1)で表される分解性構造は、アリル位に脱離性基を置換した共役エステルであり、求核能を備える分解開始剤と均一溶液中又は懸濁状態や固体状態で混合するだけで、共役置換反応(SN2’反応)によって定量的に分解する。
具体的には、下記反応式に示すとおり、分解開始剤(:Nu)が、一般式(1)で表される分解性構造におけるビニリデン基のβ炭素を攻撃することを起点とする共役置換反応(SN2’反応)により主鎖が切断される。なお、この分解反応は、高分子化合物の主鎖が一般式(1)で表される分解性構造において切断されており、単なる粉砕とは明確に区別することができる。
【0027】
【0028】
本発明のポリエステル樹脂は一般式(1)で表される分解性構造を有するが、この分解性構造導入率を10モル%以上とすることにより、その分解性を有効に活用することができる。分解性構造の導入率は、13モル%以上であることが好ましい。また、50モル%以下であることが好ましく、40モル%以下であることがより好ましく、30モル%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
さらに、この分解反応は、一般式(1)で表される分解性構造を有しさえすれば進行するため、一般式(1)で表される分解性構造を有する高分子化合物は、本発明のポリエステルに限定されることなく、分解することができる。ただし、この一般式(1)で表される分解性構造は、その両端にエステル結合とカルボニル基を有する。そのため、この一般式(1)で表される分解性構造を効率よく導入する観点から、高分子化合物はポリエステルの他には、ポリウレタン、ポリカーボネートを主な構成要素とすることが好ましく、ポリカーボネートを主な構成要素とすることがより好ましい。
ポリカーボネートとしては、ビスフェノール等のジオールとホスゲン/又はその誘導体とα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステルとをモノマーとし、一般式(1)-2で表される繰返し単位と一般式(2)で表される繰返し単位とを有するポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0030】
分解開始剤は、分解性構造のビニリデン基のβ炭素に対して求核剤として機能するもの、すなわち、脱離するカルボキシラートイオンと同等以上に強い塩基であれば、特に制限することなく使用することができる。なお、本明細書において、分解開始剤とは、一般式(1)で表される分解性構造を共役置換反応(SN2’反応)により切断することを目的とする化合物を意味し、求核能を備えるが、不純物、残留物、または他の機能付与を目的とする添加剤等である、一般式(1)で表される分解性構造の共役置換反応(SN2’反応)による切断を目的としない化合物は、これに含まれない。
分解開始剤としては、具体的には、アミノ基、カルボキシ基、メルカプト基(スルファニル基)、ヒドロキシ基、およびそれらの塩を少なくとも1つ有する化合物が挙げられ、アミノ酸のように化合物内に上記した官能基の2種以上を有する化合物でもよい。
アミノ基を有する化合物としては、ジエチルアミン、n-プロピルアミン等が挙げられる。
カルボキシ基を有する化合物としては、酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、テトラブチルアンモニウムアセテート、安息香酸、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
メルカプト基を有する化合物としては、ベンジルメルカプタン、1-ドデカンチオール、チオグリセロール等が挙げられる。
ヒドロキシ基を有する化合物としては、メタノール、エタノール、フェノール等が挙げられる。
これらの中で、化合物またはその共役酸の酸性度、電子密度、立体障害、最高占有軌道(HOMO)の一般式(1)のうちビニリデン基のβ炭素の最低空軌道(LUMO)とのエネルギー準位差等を考慮して、選択すればよい。具体的には、分解反応が不可逆的なことから、アミノ基、メルカプト基、ヒドロキシ基を有する化合物が好ましく、下記で述べるように塩基が不要なことからアミノ基を有する化合物がより好ましい。
【0031】
均一溶液中での分解方法は、高分子化合物と分解開始剤が溶解していれば、溶媒の種類や温度に制限されず、ジクロロメタン、クロロホルム、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、ジオキサン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、2-ブタノン、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶媒、および水を用いることができる。均一溶液中での分解方法は、分解性に優れるが、分解対象である高分子化合物は溶媒に溶解できるものに限定されてしまう。
懸濁状態での分解方法は、高分子化合物又は分解開始剤の一方もしくは両方が液体に懸濁した状態で、浸漬、撹拌、対流、振とう、分散、乳化等の方法で高分子化合物と分解開始剤の接触を促す方法である。液体は、高分子化合物又は分解開始剤の一方もしくは両方を完全に溶解しない性質があれば制限がなく、水、アルコール類、エーテル類、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等を用いることができる。懸濁状態での分解方法は、分解対象である高分子化合物は限定されないが、分解生成物が液体に溶解しないと分解が頭打ちとなる。これは、分解生成物が溶解しないと、固体の分解生成物が表面に付着して分解性構造が露出しないためであると推測される。
固体状態での分解方法(固相分解)は、高分子化合物と分解開始剤の混合物に、物理的刺激を与えることで分解を促す方法である。なお、分解開始剤が液状である場合も固相分解に含まれる。物理的刺激には、乳鉢、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の公知の撹拌装置や粉砕装置を用いることができる。固相分解は、分解対象である高分子化合物が限定されないため、溶解性に乏しい高分子化合物も分解することができ、また物理的刺激により分解性構造が露出するため分解反応の反応率も高い。
【0032】
分解開始剤の使用量は、高分子が円滑に分解する限り特に制限されるものではないが、過少な場合は主鎖切断を全く起こさずに残留する高分子鎖が生じやすく、過剰な場合は原子効率が低下し未反応の分解開始剤が多く残留する。そのため、分解開始剤の使用量は、一般式(1)で表される分解性構造に対して0.10モル等量以上5.0モル等量以下が好ましく、0.15モル等量以上2.0モル等量以下がより好ましく、0.20モル等量以上1.5モル等量以下がさらに好ましい。
分解時の温度は特に制限されないが、5℃以上80℃以下とすることができる。この分解反応は低温でも進行するため、エネルギーコストやアクリル成分の熱によるラジカル重合を防ぐ観点から、60℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。
【0033】
共役置換反応(SN2’反応)を効率的に進行させるために、塩基を用いることができる。塩基は、共役置換反応(SN2’反応)が進行する範囲で自由に選択することができ、あるいは使用しなくてもよい。カルボン酸、チオール、アミン、アルコール、フェノールから、それぞれカルボキシラートイオン、チオラートイオン、アミドイオン、アルコキシドイオン、フェノラートイオンを反応系中で発生させる場合は、塩基として、トリエチルアミン、ピリジン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、イミダゾールなどの3級アミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ水酸化物塩を使用することが好ましい。また、n-プロピルアミン、ジエチルアミン等のアミノ基を有する化合物のように、求核剤が塩基の性質を兼ね備える場合は、塩基を加えなくてもよい。
塩基の使用量は、一般式(1)で表される分解性構造に対して0.05モル等量以上2.0モル等量以下が好ましく、0.10モル等量以上1.5モル等量以下がより好ましく、0.20モル等量以上1.2モル等量以下がさらに好ましい。
【実施例0034】
<分析機器>
(1H NMRスペクトル)
核磁気共鳴(NMR)装置(ブルカー(株)製AVANCE NEO)を用いて25℃で測定した。測定溶媒は、重水素化クロロホルムを用い、内部標準は、テトラメチルシランを用いた。
【0035】
(分解性構造導入率:生成ポリマーが重水素化クロロホルムに可溶な場合)
生成ポリエステルが重水素化クロロホルムに可溶な場合は、1H NMRスペクトルで分解性構造の導入率を評価した。具体的には、4.4-3.8ppmに飽和エステル基の4つのO―メチレン水素の信号が、6.36ppmに分解性構造(主鎖内部に挿入された共役エステル)の1つのビニリデン水素の信号が観測されたので、これらの積分強度をもとに下記式(2)により分解性構造導入率を評価した。
(分解性構造導入率)
=(6.36ppmの信号積分強度)
/{(4.4-3.8ppmの信号積分強度)/4+(6.36ppmの信号積分強度)}×100% (2)
なお、6.26ppmには末端に導入されたα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルエステル基の信号が観測されたが、末端に位置するアクリル成分は一般式(1)で表される分解性構造を持たないため分解性構造ではない。すなわち、分解性構造導入率とは、主鎖内部に位置する共役エステル(アクリル酸エステル)単位数を、全繰返し単位数で割った割合を意味する。
【0036】
(分子量)
分子量(数平均分子量Mn)及び分子量分散度D(Mw/Mn)は、EXTREMAクロマトグラフ(日本分光)に40℃に加熱したサイズ排除カラム「Shodex GPC HK-404L」(昭和電工(株))を2本直列に装填し、溶出液としてクロロホルム(高速液体クロマトグラフ用、和光純薬工業)を0.3mL/分で流して、紫外吸収分光計「UV-4070」(254nmで検出、日本分光)および示差屈折率計(RI-4035、日本分光)で検出したクロマトグラムを、標準ポリスチレン(東ソー、TSKゲルオリゴマーキット、Mn:6.03×105、2.522×105、1.416×105、2.912×104、8.59×103、4.25×103、1.46×103、8.30×102)による三次曲線で較正して評価した。
【0037】
(融点)
融点は、熱重量示差走査熱量分析装置(TG-DTA、リガク製、示差熱天秤Thermo plus EVO2 試料観察TG-DTA)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で50~500℃で測定した。
【0038】
(比較例1)ポリブチレンサクシネートの合成
無水コハク酸(1.64g、16.4mmol)と1,4-ブタンジオール(3.06g、33.9mmol)をアルゴン雰囲気下、160℃で3時間加熱した。続いて3時間減圧を行った(<1Torr)。室温に戻した後、オルトチタン酸テトライソプロピル(16μL、55μmol)を加え、180℃で0.075Torrに減圧して7時間加熱した。生成物をクロロホルム(12mL)に溶解し、メタノール(240mL)を用いて再沈殿した。沈殿物をろ過し、真空乾燥して白色固体としてポリブチレンサクシネート(1.74g、62.0%)を得た。
数平均分子量は8580、分子量分散度は2.00であった。
【0039】
(オリゴブチレンサクシネート(オリゴマー)の合成)
無水コハク酸(6.67g、66.6mmol)と1,4-ブタンジオール(9.00g、99.9mmol)をアルゴン雰囲気下、160℃で3時間加熱し、白色固体としてオリゴブチレンサクシネート(13.7g)を得た。
数平均分子量は検量線の範囲外であったが、サイズ排除クロマトグラムのピークにおける分子量は340であった。
化学式(4)、(5)に、得られたオリゴマーの化学構造を模式的に示す。なお、実際には各末端の構造がアルコールとカルボン酸のオリゴマーも存在するが、ここでは簡単のため、それらは化学式(4)、(5)に包含されるものとする。
【化17】
【化18】
【0040】
上記の化学構造に対し、1H NMRスペクトルで、主鎖内部のコハク酸エステル部位の信号Aが、カルボン酸末端に由来するメチレン基の信号A’とともに2.62ppmに観測された。また、4.13ppmにエステル基のO-メチレン水素の信号Bが、3.67ppmにアルコール末端に由来する信号B’が観測された。主鎖内部のコハク酸エステル部位の信号強度Aは、4.13ppmのエステル基のO-メチレン水素の信号強度Bと一致するはずである。したがって、カルボン酸末端に由来するメチレン基の信号A’の積分強度は、
(信号A’の積分強度)
=(信号AおよびA’の積分強度)―(信号Bの積分強度) (3)
として見積もられる。
従って、数平均重合度nは、
n=(信号Bの積分強度)
/[{(信号A’の積分強度)+(信号B’の積分強度)}/2] (4)
として見積もられる。
また、全末端に占めるカルボン酸末端、アルコール末端の割合は、それぞれ下記式(5)、(6)で見積もることができる。
(カルボン酸末端の割合)
=(信号A’の積分強度)/{(信号A’の積分強度)+(信号B’の積分強度)} (5)
(アルコール末端の割合)
=(信号B’の積分強度)/{(信号A’の積分強度)+(信号B’の積分強度)} (6)
このとき、オリゴマー全体の数平均分子量Mnは、
Mn=(繰返し単位の分子量)×n+(コハク酸の分子量)×(カルボン酸末端の割合)+(1,4-ブタンジオールの分子量)×(アルコール末端の割合) (7)
で求められる。
計測の結果、オリゴブチレンサクシネートの数平均分子量Mnは317.5と求められた。
【0041】
(実施例1)ポリブチレンサクシネート共重合体の合成
オリゴブチレンサクシネート(1.07g、3.37mmol/chain、末端基を含めたコハク酸単位5.15mmol)とα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(200mg、1.72mmol、コハク酸単位に対し33mol%)、オルトチタン酸テトライソプロピル(5μL、19μmol)、4-メトキシフェノール(1mg)を180℃で0.20Torrに減圧して加熱した。加熱中、1時間後と3時間後に一度冷却し、サンプルを適宜採取した。最終的に合計で7時間加熱を行い、生成物をクロロホルム(5mL)に溶解し、メタノール(250mL)を用いて再沈殿した。沈殿物をろ過し、真空乾燥して白色固体(0.653g)を得た。
生成物はクロロホルム(重水素化クロロホルム含む)に可溶で、数平均分子量は9800、分子量分散度は1.22、分解性構造導入率は15mol%であった。
【0042】
(実施例2)ポリブチレンサクシネート共重合体の合成
オリゴブチレンサクシネート(1.04g、3.28mmol/chain、末端基を含めたコハク酸単位5.00mmol)とα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(254mg、2.19mmol、コハク酸単位に対し44mol%)を用いた以外は実施例1と同様の操作で行い、白色固体(0.528g)を得た。
生成物はクロロホルム(重水素化クロロホルム含む)に可溶で、数平均分子量は18000、分子量分散度は1.35、分解性構造導入率は16mol%であった。
【0043】
(実施例3)ポリブチレンサクシネート共重合体の合成
オリゴブチレンサクシネート(1.03g、3.25mmol/chain、末端基を含めたコハク酸単位4.97mmol)とα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(314mg、2.71mmol、コハク酸単位に対し55mol%)を用いた以外は実施例1と同様の操作で行い、白色固体(0.287g)を得た。
生成物はクロロホルム(重水素化クロロホルム含む)に可溶で、数平均分子量は8000、分子量分散度は1.24、分解性構造導入率は22mol%であった。
【0044】
(実施例4)ポリブチレンサクシネート共重合体の合成(スケールアップ)
オリゴブチレンサクシネート(1.93g、6.08mmol/chain、末端基を含めたコハク酸単位9.29mmol)とα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(363mg、3.06mmol、コハク酸単位に対し33mol%)を用いた以外は実施例1と同様の操作で行い、白色固体(1.32g)を得た。
生成物はクロロホルム(重水素化クロロホルム含む)に可溶で、数平均分子量は8500、分子量分散度は1.59、分解性構造導入率は17mol%であった。
【0045】
(ポリブチレンサクシネート共重合体の熱物性)
表1に、比較例1および実施例1~4の重合結果と、各ポリマーの融点をまとめる。α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの仕込み比に応じて分解性構造の導入率、アクリル単位の含有率が増加し、それに比例して融点が低下した。このことから、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの仕込み比によって熱物性等の物理特性を制御できることが確かめられた。
【表1】
【0046】
(実施例5)ベンジルメルカプタンによるポリブチレンサクシネート共重合体の均一溶液中での分解
実施例4で得たポリブチレンサクシネート共重合体(58mg、アクリル単位0.065mmol)のクロロホルム(0.4mL)溶液に対し、ベンジルメルカプタン(71μL、0.89mmol)とトリエチルアミン(58μL、0.067mmol)のクロロホルム(0.2mL)溶液を加えて24時間撹拌した。水(0.6mL)を加えて有機層を洗浄し、さらに水層をクロロホルム(0.6mL)で3回抽出した。有機層を合わせて濃縮、真空乾燥し白色固体(65mg)を得た。
1H NMRスペクトルでは6.36ppm、5.87ppmにあったビニリデン水素の信号が完全に消失し、共役置換反応による主鎖切断を確認した。一方で、4.12ppmのエステル基のO-メチレン基の信号は変化せず、分解性構造において官能基選択的に主鎖切断したことがわかった。サイズ排除クロマトグラムは検量線の範囲外に到達していたため、精確な数平均分子量は評価できなかったが、ピーク最大値における分子量は1200であり、実施例4における8500から大幅に減少しており、共役置換反応(SN2’反応)による主鎖切断が確認できた。
【0047】
(実施例6)ジエチルアミンによるポリブチレンサクシネート共重合体の均一溶液中での分解
実施例4で得たポリブチレンサクシネート共重合体(26mg、アクリル単位0.030mmol)のクロロホルム(0.1mL)溶液に対し、ジエチルアミン(25μL、0.24mmol)を加えて24時間撹拌した。濃縮、真空乾燥し白色固体(24mg)を得た。
1H NMRスペクトルでは4.87ppmにあったアリル水素の信号が完全に消失したことから、共役置換反応による主鎖切断を確認した。一方で、4.12ppmのエステル基のO-メチレン基の信号は変化せず、分解性構造において官能基選択的に主鎖切断したことがわかった。サイズ排除クロマトグラムは検量線の範囲外に到達していたため、精確な数平均分子量は評価できなかったが、ピーク最大値における分子量は1000であり、実施例4における8500から大幅に減少しており、共役置換反応(SN2’反応)による主鎖切断が確認できた。
【0048】
(実施例7)アンモニア水によるポリブチレンサクシネート共重合体の懸濁状態での分解
実施例4で得たポリブチレンサクシネート共重合体(16mg、アクリル単位0.023mmol)を1Mアンモニア水(1mL)に懸濁し、6時間撹拌した。凍結乾燥し白色固体(24mg)を得た。
1H NMRスペクトルでは6.36ppm、5.87ppmにあったビニリデン水素の信号が減少し、新たに6.25、5.29ppmに信号が出現したことから、共役置換反応による主鎖切断を確認した。6.36ppmと6.25ppmの積分強度比から、共役置換反応の進行度は56%と見積もられた。一方で、4.12ppmのエステル基のO-メチレン基の信号は変化せず、分解性構造において官能基選択的に主鎖切断したことがわかった。サイズ排除クロマトグラムは検量線の範囲外に到達していたため、精確な数平均分子量は評価できなかったが、ピーク最大値における分子量は3000であり、実施例4における8500から減少しており、主鎖切断が確認できた。これらの結果から、水系の不均一条件でも共役置換反応(SN2’反応)により主鎖切断できることが確かめられた。
【0049】
(実施例8)N-メチルオクタデシルアミンによるポリブチレンサクシネート共重合体の固相分解
実施例4で得たポリブチレンサクシネート共重合体(20mg、アクリル単位0.029mmol)にN-メチルオクタデシルアミン(5.9mg、0.021mmol、室温で固体)を添加し、ミキサーミル(MM200、レッチェ)で周波数30Hz、6時間の混合粉砕をした後、反応物をトリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルムに溶解し、可溶部の
1H NMRスペクトルを測定した。分解前後の
1H NMRスペクトルを
図1に示す。
1H NMRスペクトルでは4.84ppmにあったアリル水素の信号が減少し、新たに3.30ppmに置換体に帰属されるアリル水素の信号が出現したことから、共役置換反応による主鎖切断を確認した。両者の積分強度比から、共役置換反応の進行度は78%と見積もられた。一方で、4.12ppmのエステル基のO-メチレン基の信号は変化せず、分解性構造において官能基選択的に主鎖切断したことがわかった。サイズ排除クロマトグラムは検量線の範囲外に到達していたため、精確な数平均分子量は評価できなかったが、ピーク最大値における分子量は760(検量線の範囲外のため参考値)であり、実施例4における8500から減少しており、主鎖切断が確認できた。これらの結果から、無溶媒で固相中、物理的な刺激を加えるだけでも共役置換反応(S
N2’反応)により主鎖切断できることが確かめられた。
【0050】
(比較例2)ポリブチレンテレフタラートの合成
テレフタル酸ジメチル(7.57g、38.6mmol)、1,4-ブタンジオール(7.22g、77.1mmol)、酢酸亜鉛(36mg、0.18mmol)を加えてアルゴン気流下、190℃で1時間加熱し、オルトチタン酸テトライソプロピル(54μL、29μmol)を加え、再び265℃に加熱した。すぐに0.075Torrに減圧して290℃に加熱し、1時間後に270℃に冷却してさらに3時間加熱した。フラスコに固着しクロロホルムに不溶な褐色固体が得られた。
【0051】
(参考例1)ポリブチレンテレフタラート共重合体の合成
テレフタル酸ジメチル(7.57g、38.6mmol)、1,4-ブタンジオール(7.37g、81.7mmol)を加えて均一になるまで混合し、オルトチタン酸テトライソプロピル(36μL、18μmol)およびα-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(453mg、3.86mmol、テレフタル酸単位に対し10mol%)、4-メトキシフェノール(10mg)を加え、200℃に加熱した。すぐに0.075Torrに減圧して1時間加熱した。フラスコに固着しクロロホルムに不溶な橙色固体(8.08g、98.4%)が得られた。
【0052】
(参考例2)ポリブチレンテレフタラート共重合体の合成
テレフタル酸ジメチル(7.50g、38.6mmol)、1,4-ブタンジオール(7.39g、82.0mmol)、オルトチタン酸テトライソプロピル(56μL、30μmol)、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(914mg、7.88mmol、テレフタル酸単位に対し20mol%)、4-メトキシフェノール(10mg)を用いたこと以外は実施例10と同じように行い、フラスコに固着しクロロホルムに不溶な橙色固体が得られた。
【0053】
(実施例9)ポリブチレンテレフタラート共重合体の合成
テレフタル酸ジメチル(7.58g、39.0mmol)、1,4-ブタンジオール(7.15g、79.3mmol)、オルトチタン酸テトライソプロピル(66μL、33μmol)、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(1.81g、15.6mmol、テレフタル酸単位に対し40mol%)、4-メトキシフェノール(20mg)を用いたこと以外は実施例8と同じように行い、フラスコに固着しクロロホルムに不溶な橙色固体が得られた。
【0054】
(ポリブチレンテレフタラート共重合体の熱物性)
表2に、比較例2、参考例1,2および実施例9の重合結果と、各ポリマーの熱物性をまとめる。α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの仕込み比に応じてアクリル単位の含有量が増加し、それに比例して融点が低下していることがわかった。つまり、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの仕込み比によって熱物性等の物理特性を制御できることが確かめられた。
【表2】
【0055】
(参考例4)ポリブチレンテレフタラート共重合体の固相分解
参考例1で得られたポリマー(19mg)に対しジエチルアミン(3mg)を加え、ミキサーミル(MM200、レッチェ)で周波数30Hz、6時間の混合粉砕をした後、反応物をトリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム(v/v=1/10、0.3mL)に溶解した。
参考例1で得られたポリマーは、クロロホルムに不溶であったが、固相分解により分子量が低下して溶解性が向上したことが確かめられた。1H NMRスペクトルでは6.88-5.99ppmにビニリデン水素に由来する複数の信号が出現した。8.15ppmにテレフタロイル骨格の芳香族水素の信号が確認されたので、これらとビニリデン水素の積分強度比を、プロトン数を考慮して比較することで、アクリル成分(分解性構造および末端基)の含有率が4.6モル%と見積もられた。分解性構造導入率は4.6モル%未満と見込まれる。
【0056】
(参考例5)ポリブチレンテレフタラート共重合体の固相分解
参考例2で得られたポリマーに対して参考例4と同様の操作を行った。
参考例2で得られたポリマーも、クロロホルムに不溶であったが、固相分解により分子量が低下して溶解性が向上したことが確かめられた。また、アクリル成分(分解性構造および末端基)の含有率は7.8モル%と見積もられた。分解性構造導入率は7.8モル%未満と見込まれる。
【0057】
(実施例10)ポリブチレンテレフタラート共重合体の固相分解
実施例9で得られたポリマー(21mg)に対しジエチルアミン(41mg)を加え、ミキサーミル(MM200、レッチェ)で周波数30Hz、6時間の混合粉砕をした後、反応物をトリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム(v/v=1/10、0.3mL)に溶解した。
実施例9で得られたポリマーは、クロロホルムに不溶であったが、固相分解により分子量が低下して溶解性が向上したことが確かめられた。また、1H NMRスペクトルでは6.88-5.99ppmにビニリデン水素に由来する複数の信号が出現した。8.15ppmにテレフタロイル骨格の芳香族水素の信号が確認されたので、これらとビニリデン水素の積分強度比を、プロトン数を考慮して比較することで、アクリル成分(分解性構造および末端基)の含有率は13モル%、分解性構造導入率は10モル%以上と見積もられた。
【0058】
(実施例11)ポリエチレンテレフタラート共重合体の合成
テレフタル酸ジメチル(7.52g、38.7mmol)、エチレングリコール(4.93g、79.5mmol)、オルトチタン酸テトライソプロピル(46μL、23μmol)、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(1.79g、15.4mmol、テレフタル酸単位に対し40mol%)、4-メトキシフェノール(29mg)を用いたこと以外は実施例10と同じように行い、フラスコに固着しクロロホルムに不溶な橙色固体(6.78g)が得られた。
【0059】
(実施例12)ポリエチレンテレフタラート共重合体の固相分解
実施例11で得られたポリマー(25mg)に対してジエチルアミン(5mg)を加えて実施例10と同様の操作を行った。
実施例11で得られたポリマーは、クロロホルムに不溶であったが、固相分解により分子量が低下して溶解性が向上したことが確かめられた。また、アクリル成分(分解性構造および末端基)の含有率は12モル%、分解性構造導入率は10モル%以上と見積もられた。