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特開2023-97775ノギンタンパク質を分泌する細胞およびそれを用いたオルガノイドの作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097775
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ノギンタンパク質を分泌する細胞およびそれを用いたオルガノイドの作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230703BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230703BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230703BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12P21/02 C
C07K14/47
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214059
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】古元 礼子
(72)【発明者】
【氏名】徳永 雅之
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA20
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA60
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】 多分化能幹細胞、ヒトおよびマウス組織から様々なオルガノイドを誘導するために必要なタンパク質であるノギンのみを分泌する細胞であって、オルガノイドの誘導効率を向上させることのできるノギンを分泌可能な細胞の提供を課題とする。
【解決手段】 ノギンをコードする核酸を有するノギン分泌細胞を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノギンをコードする核酸を有する、ノギン分泌細胞。
【請求項2】
請求項1に記載のノギン分泌細胞であって、
分泌されるノギンが以下の(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列であり、前記ノギンがオルガノイド誘導用である、ノギン分泌細胞。
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(2)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上同一性を有し、かつオルガノイド誘導能を有するアミノ酸配列
(3)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が付加、欠失若しくは置換したアミノ酸配列であり、かつオルガノイド誘導能を有するアミノ酸配列
【請求項3】
請求項1または2に記載のノギン分泌細胞であって、
前記分泌されるノギンに精製用タグが付加されている、ノギン分泌細胞。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のノギン分泌細胞であって、
分泌されるノギンが二量体を形成している、ノギン分泌細胞。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のノギン分泌細胞であって、
前記ノギン分泌細胞が、ノギンをコードする核酸を有するHEK293細胞である、ノギン分泌細胞。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のノギン分泌細胞であって、
R-spondinまたはWnt-3aの分泌をしない、ノギン分泌細胞。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のノギン分泌細胞であって、
受託番号NITE P-03381として寄託されている、ノギン分泌細胞。
【請求項8】
ノギンを含む培養物の製造方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載のノギン分泌細胞を培養する工程を含む、製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載のノギン分泌細胞を培養した培地から回収した培養物またはその精製物を含む、ノギン含有組成物。
【請求項10】
オルガノイドの作製方法であって、
請求項8に記載の製造方法によって得られたノギンを含む組成物を用いて細胞からオルガノイドを樹立する工程を含む、作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はノギン(Noggin)タンパク質を分泌する細胞およびそれを用いたオルガノイドの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生命科学研究において、一般的には細胞の平面培養(2次元培養)が用いられているが、生体の組織や臓器は実際には3次元の立体構造を取っている。2次元培養ではプラスチックのプレート上で細胞を培養するため、細胞が平面的に引き伸ばされて強い張力を受けており、さらに細胞同士の接着や情報伝達も2次元方向のため、厳密な生理的状態を再現できない。このため3次元培養の方が本来の生理的な状態に近く、生体に近い反応を再現できる。例えば、がん細胞に対する抗がん剤などの薬剤の効果を調べるために、2次元培養が多く用いられているが、2次元培養では薬剤の到達が平面的なので、低濃度でも効果が高く現れ、実際に患者に投与すると想定される濃度では薬剤の効果が認められない場合がある。一方、3次元培養では薬剤の到達や情報の伝達も3次元的で、実際の細胞塊の内部と外部で薬剤の濃度が異なり、より生体に近い環境を再現して薬剤の効果を調べることができる。3次元培養では、細胞が凝集して塊を形成したスフェロイドがこれまで一般的であったが、最近スフェロイドに加えて幹細胞から作るオルガノイドの技術が確立された。オルガノイドは患者由来の臓器や組織、iPS細胞からも作製が可能であり、病態の解明に非常に有用で再生医療への応用も期待される。しかし、3次元培養は2次元培養よりも高コストであり、広く一般的に採用される方法ではない。特にオルガノイド培養は生体組織に存在する少数の幹細胞やiPS細胞から各種誘導因子や阻害剤を用いて、増殖・分化誘導を行うため、高い技術と費用が必要である。
【0003】
オルガノイドの培養にあたっては、ノギン(Noggin)、スポンジン(R-spondin)、ウィント(Wnt-3a)又はアクチビン(Activin)などの組換えタンパク質を購入して添加するか、これらのタンパク質を分泌する細胞の培養上清を添加する必要がある。オルガノイドの種類や培養の段階によって、加える添加物の種類や量の調整が必要である。
特に腸細胞のオルガノイド培養に際しては、少なくともノギン、スポンジン、ウィントの3種のタンパク質が必要であり、スポンジン、ウィントについては、それのみを分泌する細胞が市販されている。一方で、ノギンのみを分泌する細胞が市販されていないため、ノギンを含む複数種類のタンパクを分泌する細胞からノギンを抽出して利用するか、ノギン以外の分泌タンパク質の存在を無視して、ノギンタンパク質を利用する他になかった。また、オルガノイドの種類によってはノギン以外のスポンジン、ウィントが不要な場合もあり、そのような場合はノギン組換えタンパク質を購入して添加するしかなく、コストがかかっていた。よって、コスト面などからノギンのみを分泌する細胞の樹立が望まれていた。
【0004】
特許文献1は、背側組織作用因子および組成物に関する発明を開示しており、特に神経組織の誘導促進活性を有するヒトノギンを真核宿主細胞中で発現させるための発現ベクターを開示する。さらに特許文献1は、2つの哺乳類細胞系(COS細胞及びマウス293細胞)において生物活性ノギンの発現に成功したことを記載している。また特許文献2は、軸索伸長促進剤としてノギンをコードする核酸を含み細胞中でノギンを発現することのできる組換えベクターを開示している。
しかしながら、オルガノイド作製に適したノギン産生細胞の提供については報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3431153号公報
【特許文献2】特開2008-255071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記課題に鑑み、多分化能幹細胞、ヒト、マウス、イヌ及びほかの動物組織から様々なオルガノイドを誘導するために必要なタンパク質であるノギンを分泌する細胞であって、オルガノイドの誘導効率を向上させることのできるノギンを分泌可能な細胞の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、ノギンを分泌する細胞の樹立に成功した。また当該細胞が分泌するノギンを用いることでオルガノイドの誘導効率を向上させることを確認し、本発明の完成に至った。すなわち本発明は以下の態様を含む:
本発明の一態様は、
〔1〕ノギンをコードする核酸を有する、ノギン分泌細胞に関する。
ここで、本発明のノギン分泌細胞は一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載のノギン分泌細胞であって、
分泌されるノギンが以下の(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列であり、前記ノギンがオルガノイド誘導用であることを特徴とする:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(2)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上同一性を有し、かつオルガノイド誘導能を有するアミノ酸配列
(3)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が付加、欠失若しくは置換したアミノ酸配列であり、かつオルガノイド誘導能を有するアミノ酸配列。
また、本発明のノギン分泌細胞は一実施の形態において、
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載のノギン分泌細胞であって、
前記分泌されるノギンに精製用タグが付加されていることを特徴とする。
また、本発明のノギン分泌細胞は一実施の形態において、
〔4〕上記〔1〕または〔3〕に記載のノギン分泌細胞であって、
分泌されるノギンが二量体を形成している、ノギン分泌細胞。
また、本発明のノギン分泌細胞は一実施の形態において、
〔5〕上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のノギン分泌細胞であって、
前記ノギン分泌細胞が、ノギンをコードする核酸を有するHEK293細胞であることを特徴とする。
また、本発明のノギン分泌細胞は一実施の形態において、
〔6〕上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のノギン分泌細胞であって、
R-spondinまたはWnt-3aの分泌をしないことを特徴とする。
また、本発明のノギン分泌細胞は一実施の形態において、
〔7〕上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のノギン分泌細胞であって、
受託番号NITE P-03381として寄託されていることを特徴とする。
また、本発明の別の態様は、
〔8〕ノギンを含む培養物の製造方法であって、
上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のノギン分泌細胞を培養する工程を含む、製造方法に関する。
また、本発明の別の態様は、
〔9〕上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のノギン分泌細胞を培養した培地から回収した培養物またはその精製物を含む、ノギン含有組成物に関する。
また、本発明の別の態様は、
〔10〕オルガノイドの作製方法であって、
上記〔9〕に記載のノギン含有組成物を用いて細胞からオルガノイドを樹立する工程を含む、作製方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により提供されるノギン分泌細胞を用いることで、高価な組み換え型ノギンタンパク質を購入する必要がなくなり各種試験のコストを抑えることが可能となる。また、オルガノイド作製においてスポンジンやウィントなどのタンパク質単体投与と同様に、必要とされる培養タイミングで必要量だけ、あるいは他のタンパク質を自由に組み合わせてノギンタンパク質を投与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、下記実施例で作製した、Noggin-Fcタグタンパク質発現ベクター、または、Noggin-STIIタグタンパク質発現ベクターをトランスフェクションしたノギン発現細胞について、トランスフェクション後培養7日目に光学顕微鏡下で撮像した画像を示す。
図2図2は、下記実施例で作製した、pPBP-3×EGFPK発現ベクターをトランスフェクションしたノギン発現細胞について、トランスフェクション後培養7日目に光学顕微鏡(左側下段の画像)および蛍光顕微鏡(左側上段の画像)下で撮像した画像ならびにそれらの合成画像(右側上段の画像)を示す。
図3図3は、下記実施例で作製した、Noggin-Fcタグタンパク質発現ベクター、または、Noggin-STIIタグタンパク質発現ベクターをトランスフェクションしたノギン発現細胞について、トランスフェクション後培養14日目に光学顕微鏡下で撮像した画像を示す。
図4図4は、下記実施例で作製した、pPBP-3×EGFPK発現ベクターをトランスフェクションしたノギン発現細胞について、トランスフェクション後培養14日目に光学顕微鏡(左側下段の画像)および蛍光顕微鏡(左側上段の画像)下で撮像した画像ならびにそれらの合成画像(右側上段の画像)を示す。
図5図5は、下記実施例で用いたpPBP-3×EGFPK発現ベクター、pPBP-3×Noggin-Fc発現ベクター、および、pPBP-3×Noggin-STII発現ベクターの各ベクターより産生されるポリペプチドの概略図およびアミノ酸残基数を示す。図中、FlはFLAG(登録商標)タグを示す。
図6図6は、下記実施例で用いたpPBP-3×Noggin-FC発現ベクター、および、pPBP-3×Noggin-STII発現ベクターの各ベクターより産生されるポリペプチドにおいて、シグナルペプチド切断後の概略図およびアミノ酸残基数を示す。図中、FIはFLAG(登録商標)タグを示す。
図7図7は、下記実施例で作製したノギン発現細胞の培養上清より回収したFcタグ融合ノギンタンパクをSDS-PAGEに供し、CBB染色(左図)およびPOD標識抗ヒトIgG抗体(右図)を用いたウェスタンブロッティングの結果を示す。レーン1はそれぞれ未変性溶出サンプルを示し、レーン2はSDSバッファーを用いて変性処理したサンプルを示す。
図8図8は、下記実施例で作製したノギン発現細胞の培養上清より回収したSTIIタグ融合ノギンタンパクをSDS-PAGEに供し、POD標識抗Strep Tag II抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示す。レーン1はアフィニティ精製をせずにSDS-PAGEに供したサンプルを示し、レーン2はProtein G ビーズによるアフィニティ精製を経たサンプルをSDS-PAGEに供したサンプルを示し、レーン3はStrepTactin(登録商標)ビーズによる精製を経たサンプルをSDS-PAGEに供したサンプルを示す。図中の矢印は約27kDaのバンドを示す。
図9図9は、本発明のノギン含有組成物を用いてマウス腸オルガノイド誘導を行った際の培養6日目における細胞の状態を光学顕微鏡下で撮像した画像を示す。上段左図は、市販の組換えノギン(100ng/ml)を用いた誘導結果を示し、それ以外の図は、本発明のノギン含有組成物を0%~30%(vol/vol)の濃度で誘導培地に添加した際の誘導結果を示す。
図10図10は、発現したノギンが細胞内で二量体を形成しているか否かをウェスタンブロット解析により確認した結果を示す。各未変性サンプルと変性サンプルをSDS-PAGE後にPOD標識抗ヒトIgG抗体でイムノブロットを行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様は、ノギンをコードする核酸を有する、ノギン分泌細胞を提供する。
本発明のノギン分泌細胞により分泌されるノギンタンパク質の由来は特に限定されず、当該ノギン分泌細胞は各種生物由来のノギンタンパク質を好適に産生することができる。好ましくは哺乳動物由来のノギンタンパク質である。哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ウシ、ブタ等を挙げることができ、好ましくはヒトまたはマウスである。
一実施の形態において、ノギンをコードする核酸は、以下の(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列をコードする核酸として示すことができる:
(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(2)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上同一性を有し、かつオルガノイド誘導能を有するアミノ酸配列
(3)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が付加、欠失若しくは置換したアミノ酸配列であり、かつ、オルガノイド誘導能を有するアミノ酸配列。
【0011】
上記のように、本明細書におけるノギンには、配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上同一性を有し、かつオルガノイド誘導能を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドも含まれる。なお好ましい実施の形態において、当該ポリペプチドは配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0012】
本明細書において「1又は数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは22個以下、20個以下、15個以下、10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。
なお、配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して付加、欠失、置換などの変異を有する場合、当該アミノ酸配列のN末端側に変異を有することが好ましく。また、当該アミノ酸配列のC末端側のジスルフィド(S-S)結合を形成するシステイン以外のアミノ酸に変異を有することがより好ましい。
【0013】
「ノギンをコードする核酸」には、細胞外へノギンを分泌するための分泌シグナルペプチド、および、タンパク質精製用のタグなどをコードする核酸を付加することが好ましい。
分泌シグナルペプチドは、発現させるタンパク質であるノギンのN末端側に前記シグナルペプチドのC末端側を結合した融合タンパク質の形で発現させるように付加すればよい。分泌シグナルペプチドは、宿主細胞からノギンを細胞外へ分泌できる限りにおいて限定されず公知の分泌シグナルペプチドを採用することができる。分泌シグナルプチドとしては以下に限定されないが、国際公開第2015/133074号パンフレット及び国際公開第2011/078351号パンフレットに記載の分泌シグナルペプチドを挙げることができる。当業者は、宿主細胞や培養条件等により適宜好ましい分泌シグナルペプチドを選択することができる。
タンパク質精製用のタグは、発現させるタンパク質のC末端側でもN末端側でもよいが、翻訳後修飾を考慮するとC末端側であることが好ましい。発現させるタンパク質に前記タンパク質精製用タグのN末端側を結合した融合タンパク質の形で発現させるように付加すればよい。タンパク質精製用のタグは、培養液中に分泌されたノギンを回収可能な限りにおいて限定されず公知のタグを採用することができる。タンパク質精製用のタグとしては以下に限定されないが、目的に応じて適宜選択することができ、例えば配列番号2に記載の部分ヒトIgG重鎖FcタグなどのFcタグ、配列番号3に記載のストレプトアビジンに結合する8アミノ酸残基から成るStrepタグ(Strept-tag(登録商標)II/STII)、ヒスチジンタグ、システインタグ、FLAG(登録商標)タグ、HAタグを挙げることができる。当業者は、宿主細胞や培養条件に応じて精製に適した好ましいタグを選択することができる。なお、ノギンとタンパク質精製用のタグは、例えば配列番号4に示すリンカーによってつながっていてもよい。
【0014】
ノギンタンパク質発現細胞により発現されるノギンタンパク質は、オルガノイド誘導能を有する限り、ノギンタンパク質のフラグメントでもよく、ノギンタンパク質のアミノ酸配列以外のアミノ酸配列を含むものでもよい。ノギンタンパク質のアミノ酸配列以外のアミノ酸配列は特に限定されないが、例えば上記のタンパク質精製用タグのアミノ酸配列の付加などが挙げられる。また、ノギンタンパク質のアミノ酸配列は、GenBank等のデータベースから取得できるアミノ酸配列と完全に一致している必要はなく、オルガノイド誘導能を有する限り、データベースから取得できるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列であってもよい。実質的に同一のアミノ酸配列は、データベースから取得できるアミノ酸配列と少なくとも85%同一、より好ましくは少なくとも90%、92%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列が挙げられる。
【0015】
本明細書において、「オルガノイド誘導能を有する」とは、本明細書に記載のオルガノイド作製方法または公知のオルガノイド作製方法における培養に使用した際に、ノギンタンパク質としての作用を発揮して対象の細胞をオルガノイドに誘導することができることをいう。
対象細胞のオルガノイドへの誘導は、例えば後述の実施例に記載の方法のように、Wnt-3a及びR-spondinと共に本発明のノギン含有組成物を培地に添加して対象細胞を培養することにより確認することができる。
【0016】
ノギン分泌細胞の由来となる細胞としては、ノギン遺伝子の導入が可能であり、培養によりノギンを発現して分泌可能な細胞であれば限定されず公知の培養細胞を採用することができる。遺伝子導入条件や培養条件が確立されており操作が容易な細胞であればより好ましく、以下に限定されないが、例えば、HEK293細胞、COS7細胞、CHO細胞などを挙げることができる。
【0017】
本発明のノギン分泌細胞は一実施の形態において、R-spondinまたはWnt-3aの分泌をしない。R-spondinやWnt-3aは、ノギンと同様にオルガノイド作製において重要な因子である。オルガノイド誘導に有用なR-spondinやWnt-3aを分泌せず、ノギンのみを分泌するノギン分泌細胞を用いることで、ノギンタンパク質のみを所望の濃度やタイミングでオルガノイド誘導に用いることができる。
【0018】
また本発明のノギン分泌細胞は一実施の形態において、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(日本国千葉県木更津市東かずさ鎌足2-5-8)に受託番号NITE P-03381として2021年2月10日に寄託されている細胞である。
【0019】
ノギンタンパク質を発現する細胞は、公知の遺伝子組換え技術を用いて作製することができる。すなわち、所望のノギンタンパク質をコードするDNAを公知の発現ベクターに挿入し、得られた発現ベクターを適切な宿主細胞に導入してノギンタンパク質発現細胞を作製することができる。作製されたノギンタンパク質を安定発現する細胞、またはノギンタンパク質を一過性に発現する細胞は、いずれも本発明のノギン発現細胞として好適に用いることができる。ノギンタンパク質のアミノ酸配列やノギンタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、GenBank等の公知のデータベースから取得することができる。ヒトノギンタンパク質のアミノ酸配列のGenBankアクセッション番号はAAA83259、ヒトノギンタンパク質をコードする塩基配列のGenBankアクセッション番号はU31202、マウスノギンタンパク質のアミノ酸配列のGenBankアクセッション番号はEDL15873、マウスノギンタンパク質の塩基配列のGenBankアクセッション番号はNM_008711.2である。
【0020】
本発明の一態様は、上記のノギン分泌細胞を培養する工程を含む、ノギンを含む培養物の製造方法を提供する。
ノギンタンパク質発現細胞の培養に用いる培地は特に限定されず、細胞の種類に応じて適切な培地を公知の培地(例えば、DMEM high glucose w/L-glutamine(WAKO#044-29765))から選択して用いることができる。培養期間も特に限定されず、培地交換せずに培養可能な期間を適宜選択すればよい。血清は、細胞培養用に調製された血清であれば特に限定されないが、ウシ由来の血清であることが好ましい。ウシ由来の血清としては、ウシ胎児血清(FBS)、新生コウシ血清、コウシ血清等が挙げられ、いずれも好適に用いることができる。血清の添加量は特に限定されず、使用するノギンタンパク質発現細胞の培養に推奨される濃度になるように培地に添加すればよい。以下に限定されないが、一実施の形態においては、FBSを10%(vol/vol)の濃度で公知の培地に添加することができる。
【0021】
ノギンタンパク質発現細胞を培地で培養することで、ノギンタンパク質発現細胞が発現したノギンタンパク質を含む培養物が得られる。培養物としては、培養上清、培養上清と細胞の混合物、培養上清と細胞破砕物の混合物などが挙げられ、公知の方法により調製することができる。ノギンタンパク質は、シグナルペプチドの付加により培地中に分泌される。したがって、培養物は培養上清を含むものであることが好ましく、細胞を除去した培養上清がより好ましい。
【0022】
本発明の別の態様は、上記ノギン分泌細胞を培養した培地から回収した培養物またはその精製物を含む、ノギン含有組成物を提供する。ノギン含有組成物は例えば、ノギン発現細胞を培養した培地の培養上清をそのまま用いることもできるし、精製後の精製物を含むものとして用いることもできる。
精製物の調製方法は、ノギンタンパク質をタンパク質精製用のタグを付加したタグ融合ノギンタンパク質として発現させて、タグを利用したアフィニティ精製にて回収することができる。精製手段は、用いたタグに応じて公知の最適なシステムを選択することができる。Fcタグを利用する方法を実施する場合は、例えばProtein Gビーズなどを用いることができ、Strepタグを用いる場合には、Strep-Tactin(登録商標)ビーズを用いることができる。
調製したノギン含有組成物は、真空フィルターなどの公知の方法により滅菌処理を行い、使用するまで分注凍結保存しておくことが好ましい。
【0023】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例0024】
(1.ノギンタンパク質発現ベクターの作製)
マウスノギンのORF及び部分ヒトIgG重鎖(Fc)をコードするcDNAを保持するプラスミド(pCDNA3 mNog-hFc:慶應義塾大学より入手)を鋳型とし、High Fidelity PCR enzymeを用いてマウスノギンをコードするcDNA(配列番号5)及びヒトIgG重鎖(Fc)をコードするcDNA(配列番号6)を含むcDNAを増幅させた。得られた増幅cDNAはIn-fusion HD Cloning Kitを用いてプラスミドpPBP-3×EGFPK(CMV enhance/promoterでドライブするEGFP発現ベクターであり、3×はFlagタグ配列が3連続した配列を意味し、Kは制限酵素KpnIサイトを含有することを意味する)の制限酵素KpnI、PmeI処理サイトにライゲーションしてNoggin-Fcタグタンパク質発現ベクター(pPBP-3×Flag-Nogging-Fc)を作製した。なお、3×FLAGタグをコードする塩基配列を配列番号7に記載する。
同様に、上記プラスミドpCDNA3 mNog-hFc(慶應義塾大学より入手)を鋳型とし、Strep-TagIIをコードする塩基配列を含むプライマー、及びHigh Fidelity PCR enzymeを用いてマウスノギンをコードするcDNA(配列番号5)を含むcDNAを増幅させた。得られたマウスノギン及びStrep-TagIIをコードするcDNAはIn-fusion HD Cloning Kitを用いてプラスミドpPBP-3×EGFPKの制限酵素KpnI、PmeI処理サイトにライゲーションしてNoggin-STIIタグタンパク質発現ベクター(pPBP-3×Flag-Nogging-STII)を作製した。なお、STIIをコードする塩基配列は配列番号8に記載する。
得られたプラスミドを常法に従い大腸菌DH5αコンピテントセルに形質転換した。形質転換後、コロニー形成させたDH5αからプラスミドを分離し、制限酵素処理、および、ゲル電気泳動により制限酵素サイトとサイズの確認を行った。また、シークエンスにより塩基配列が正しいことを確認した。
以下に記載するHEK293細胞への遺伝子導入には、本実施例で作製したDH5αコロニーから抽出および精製して得られたベクターを用いた。
【0025】
(2.ノギン発現細胞の作製)
ヒト胎児腎臓由来のHEK293細胞にpPBP-3×EGFPK発現ベクター(ベクターコントロール)、Noggin-Fcタグタンパク質発現ベクター、またはNoggin-STIIタグタンパク質発現ベクターをPiggyBac Transposon Vector System(System Biosciences社)によって遺伝子導入した。具体的には、以下のようにしてトランスフェクションを行った。
まずHEK293細胞を6well plateに播種(2×10細胞/well)した(培養1日目)。その翌日にトランスフェクション試薬XtremeGENE9(Roche Diagnostics社)を用いて遺伝子導入を試みた(培養2日目)。Noggin-Fcタグタンパク質発現ベクターまたはNoggin-STIIタグタンパク質発現ベクターをpiggyBacトランポゼース発現ベクターpCMV-HyPBaseと1:1の比率でトランスフェクションした。またトランスフェクション効率を確認するためのコントロールとして、ノギンcDNAを挿入していないpPBP-3×EGFPK(7121bp)もトランスフェクションに使用した。
【0026】
トランスフェクションから72時間後(培養5日目)にトリプシン処理し、10cmディッシュにHEK293細胞を播き直した。図1および図2に、培養7日目における各発現ベクターを導入したHEK293細胞の光学顕微鏡または蛍光顕微鏡下で撮像した画像を示す。培養8日目に、選択薬剤としてピューロマイシン(Cat#ant-pr-1;Final concentration:1μg/mL:Invivogen社)を添加してノギンタンパク質を発現する細胞をスクリーニングし、樹立した。培養11日目に培養液を新しい培養液に置換し培養を継続した。図3および図4に、培養14日目における各発現ベクターを導入したHEK293細胞の光学顕微鏡または蛍光顕微鏡下で撮像した画像を示す。培養15日目にノギンタンパク質を発現する細胞をフィルターろ過により回収した。回収した細胞は、血清不含細胞凍結保存溶液であるセルメニティ(ワケンビーテック製)を用いて細胞ストックとして凍結保存した。また、Noggin-Fcタグタンパク質発現ベクターを導入したHEK293細胞のうち1株は独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NITE特許微生物寄託センター:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2021年2月10日付けで受託番号 NITE P-03381として寄託した。
【0027】
(3.ノギン発現細胞の培養および培養上清の調製)
本実施例では、上記で作製したノギン発現細胞を培養することで培養液中にノギンの分泌を確認した。
3-1.培地の組成
本実施例の培養に用いた培地(10%FBS、抗生物質含有DMEM培地)の組成は下記の通りである:
【表1】
【0028】
3-2.凍結保存細胞の解凍
凍結保存していたノギン発現細胞(NITE P-03381)は以下の方法で解凍した。培地を15mLチューブに5mL注ぎ、また10cm dishに10mL注ぎ、それぞれを37℃のインキュベーターで温めた。ノギン発現細胞を含む凍結保存液をバイアルディープフリーザーから取り出し、速やかに37℃の恒温槽で1~2分加温して小氷片が残るぐらいまで溶かした。溶けたノギン発現細胞液をピペッターで培地の入った15mLチューブに移し、懸濁した。次いで、1,000rpmで5分間遠心処理を行った。遠心処理後に上清を除去し、新鮮な培地1mLを加えた。15mLチューブ内の培地の全量を培地の入った10cm dishに移した。その後、37℃、5% COで培養を行った。翌日、培地を新鮮な培地に交換した。ノギン発現細胞を起こしてから3日後にピューロマイシンを最終濃度1μg/mLとなるように培地に添加した。
【0029】
3-3.培養上清の調製
解凍したノギン発現細胞は90%のコンフルエント状態になるまで培養したのち、以下のようにして継代培養を行った。培地をアスピレーションにより除去した。細胞を5~10mLのPBSで洗浄した。洗浄後、0.25% Trypsin/1mM EDTAを1mL添加し、37℃で2分間インキュベートした。5mLの培地を加え、細胞を回収後、15mLチューブに移した。次いで、1,000rpmで5分間遠心処理を行った。遠心処理後に上清を除去した。新鮮な選択培地(10%FBS、抗生物質、ピューロマイシン含有DMEM培地)を加え、新たなT175cmフラスコへ分配した(1:4希釈;25mL)。その後、37℃で3~5日間、コンフルエントの状態になるまで培養を行った。細胞がコンフルエントの状態になったら、トリプシン処理を行い、T175cmフラスコへ移し、10%(vol/vol)FBS含有DMEM(Puromycin不含)を25mL加えた(1:5希釈)。その後37℃で3~5日間コンフルエント状態になるまでインキュベートした。再度、細胞がコンフルエントの状態になったら、トリプシン処理を行い、T175cmフラスコへ移し、25mLの10%(vol/vol)FBS含有DMEM(Puromycin不含)培地(1:2希釈)を用いて細胞を培養した。その後37℃で1週間コンフルエント状態になるまでインキュベートした。これらの継代培養によりPuromycinの培地への持ち込みを防いだ。1週間の培養後、培養上清を回収し、新たに25mLの10%(vol/vol)FBS含有DMEM培地を添加した。それからさらに培養2日後、培養上清を回収し、新たに25mLの10%(vol/vol)FBS含有DMEM培地を添加した。なお、培養上清の回収は、3~4回繰り返して行うことができる。
回収した培養上清は300gで5分間遠心処理し、次いで真空フィルターを用いて滅菌処理した。滅菌処理した培養上清を15mLの凍結保存用バイアルに一定量ずつ分注し、-20℃にて使用するまで凍結保存した。
【0030】
3-4.電気泳動およびウェスタンブロッティング
図5に上記実施例で用いたpPBP-3×EGFPK、pPBP-3×Noggin-FC、および、pPBP-3×Noggin-StIIの各ベクターより産生されるポリペプチドの概略図およびアミノ酸残基数を示す。また図6に、pPBP-3×Noggin-FC、および、pPBP-3×Noggin-StIIの各ベクターより産生されるポリペプチドにおいて、シグナルペプチド切断後の概略図およびアミノ酸残基数を示す。
Noggin-Fcタグタンパク質発現ベクターを導入した細胞の培養上清からProtein Gビーズを用いたアフィニティ精製によりNoggin-Fcタグタンパク質を回収した。回収後のFcタグ融合ノギンタンパクをSDS-PAGEに供し、CBB染色およびPOD標識抗ヒトIgG抗体(POD Goat anti-human IgG, Cat# 109-035-003:Jackson社)を用いたウェスタンブロッティングを行った。その結果、図7に示すように、ノギンおよびFcタグからなる単量体を示す約57kDaのバンドが確認できた。
また、Noggin-STIIタグタンパク質発現ベクターを導入した細胞の培養上清からStrep Tactinビーズを用いたアフィニティ精製によりNoggin-STIIタグタンパク質を回収した。回収後のStrepタグ融合ノギンタンパクをSDS-PAGEに供し、POD標識抗Strep Tag II抗体(Anti-Strep-tag II antibody, mouse mono, Cat# M211-3:MBL社)を用いたウェスタンブロッティングを行った。その結果、図8に示すように、ノギンおよびSTIIタグからなる単量体を示す約27kDaのバンドが確認できた。
【0031】
(4.オルガノイドの作製)
上記でNoggin-Fcタグタンパク質発現ベクターを導入した細胞の培養上清にノギンを含有することが確認できた。そこで、この培養上清をノギン含有組成物として、オルガノイドを作製可能かどうかについて調べた。
【0032】
Wnt-3a及びR-spondinを含有するDMEM-F12培地に、市販の組換え型マウスノギン(終濃度100ng/ml:Peprotech社)又は上記で得られたNoggin-Fcタグタンパク質発現ベクターを導入した形質転換体(受託番号 NITE P-03381)の培養上清(0,10,20,30%)を加えて、マウス腸組織由来細胞を37℃で6日間培養してオルガノイドを作製した。培養後の顕微鏡写真を図9に示す。図9に示すように、市販の組換え型マウスノギンを加えた場合と同様に、Noggin-Fcタグタンパク質発現ベクターを導入した形質転換体の培養上清を加えた場合でもオルガノイドが形成されることが確認された。また、培養上清を用いることでオルガノイドが形成されていることから、ノギンは細胞外に分泌されていること、細胞を破砕せずに培養上清をノギン含有組成物として用いることが可能であることが確認された。
【0033】
(5.細胞内でのノギンタンパク質の2量体形成)
ノギンはジスルフィド結合により二量体を形成することが知られている(Jay Groppe et al., Nature Vol.420, 12 December 2002, 636-642(2002))。そこで、発現したノギンが細胞内で二量体を形成しているか否かを調べた。
【0034】
表2に示すRIPA bufferを用いてノギン細胞抽出液を調製した。まず培地を吸引除去して4mLの冷却したPBSで2回洗浄した。次に、80μLのRIPA Bufferを加え、セルスクレーパーで沈殿を回収して1.5mLチューブに移した。攪拌後に10分氷上に起き、3分に1回ボルテックスで撹拌し、超音波処理で細胞を破壊した。14,000rpm、40分、4℃下で遠心して上澄みを使用するまで-80℃でストックした。ウェスタンブロット解析を行う際には、後述の2×SDS-サンプルバッファー又は未変性条件サンプルバッファーを等量加えてノギン細胞抽出液とした。
【0035】
【表2】
【0036】
次にNoggin-Fcタグタンパク質発現ベクターを導入した細胞の培養上清(Noggin細胞培地)及び上記ノギン細胞抽出液を、以下の3群に分けて処理した。
(a)プロテインGで精製なし /未変性(SDSバッファー処理なし)
(b)プロテインGで精製あり /未変性(SDSバッファー処理なし)
(c)プロテインGで精製あり / 変性(SDSバッファー処理あり)
そしてウェスタンブロット解析を行った。結果を図10に示す。上記(a)~(c)をそれぞれレーン1~3にアプライした。なお、変性条件(SDSバッファー処理あり)は、2×SDS-サンプルバッファー(組成:(1)0.125mol/l Tris-HCl,pH 6.8(2)4w/v% SDS,(3)20w/v% Glycerol,(4)0.002w/v% BPB,(5)10vol% 2-メルカプトエタノール)を等量加え、混合し、95℃、5分加熱とした。また、未変性条件(SDSバッファー処理なし)は、未変性条件サンプルバッファー(組成:(1)0.125mol/l Tris-HCl,pH 6.8(3)20w/v% Glycerol,(4)0.002w/v% BPB,(5)10vol% 2-メルカプトエタノール)を等量加え、混合(加熱なし)とした。
【0037】
図10から明らかなように、ノギン細胞の抽出液、ノギン細胞培地のいずれも、未変性のレーン2では110kDa付近にバンドがあり、変性のレーン3で57kDa付近のバンドが確認された。したがって、ノギンが細胞内で2量体を形成し、かかる2量体が細胞外に分泌されていることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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