(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097778
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】癌治療剤及び癌治療剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/07 20060101AFI20230703BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230703BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230703BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230703BHJP
C12P 1/02 20060101ALI20230703BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
A61K36/07 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K45/00
A61K45/00 101
A61P43/00 121
C12P1/02
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214066
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】石井 栄津子
(72)【発明者】
【氏名】亀井 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ガバザ エステバン
【テーマコード(参考)】
4B064
4C084
4C088
【Fターム(参考)】
4B064AH19
4B064CA05
4B064CE08
4B064DA01
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA072
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB322
4C084ZC751
4C088AA02
4C088AC16
4C088CA06
4C088MA43
4C088NA14
4C088ZB26
4C088ZC02
(57)【要約】
【課題】担子菌であるオオシロアリタケから抽出され、獲得耐性を生じ難い抗癌剤耐性抑制剤、及びこれを含む癌治療剤を提供する。
【解決手段】オオシロアリタケ由来の有効成分を含有する、癌治療剤。前記有効成分が人工的に培養されたオオシロアリタケの培養液の乾燥粉末であってもよい。前記有効成分が人工的に培養されたオオシロアリタケの培養液からのアルコール抽出物であってもよい。前記有効成分がオオシロアリタケの子実体又は菌糸体からのアルコール抽出物であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オオシロアリタケ由来の有効成分を含有する、癌治療剤。
【請求項2】
前記有効成分が人工的に培養されたオオシロアリタケの培養液の乾燥粉末である、請求項1に記載の癌治療剤。
【請求項3】
前記有効成分が人工的に培養されたオオシロアリタケの培養液からのアルコール抽出物である、請求項1に記載の癌治療剤。
【請求項4】
前記有効成分がオオシロアリタケの子実体又は菌糸体からのアルコール抽出物である、請求項1に記載の癌治療剤。
【請求項5】
前記有効成分がAXLの発現を阻害する、請求項1~4のいずれか一項に記載の癌治療剤。
【請求項6】
前記有効成分が免疫チェックポイント分子の発現を阻害する、請求項1~5のいずれか一項に記載の癌治療剤。
【請求項7】
前記免疫チェックポイント分子がPD-L1及びPD-L2の少なくとも一方である、請求項6に記載の癌治療剤。
【請求項8】
前記オオシロアリタケは、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-03541として寄託された担子菌であるオオシロアリタケTermitomyces sp. T-120株である、請求項1~7のいずれか一項に記載の癌治療剤。
【請求項9】
前記癌治療剤が肺癌治療剤及び皮膚癌治療剤の少なくとも一方である、請求項8に記載の癌治療剤。
【請求項10】
前記オオシロアリタケは、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-03542として寄託された担子菌であるオオシロアリタケTermitomyces sp. T-108株である、請求項1~7のいずれか一項に記載の癌治療剤。
【請求項11】
前記癌治療剤が皮膚癌治療剤である、請求項10に記載の癌治療剤。
【請求項12】
さらに、抗癌剤、抗生物質、抗炎症剤、解熱剤及び鎮痛剤の少なくとも一つを含有する請求項1~11のいずれか一項に記載の癌治療剤。
【請求項13】
オオシロアリタケを液体培養する工程と、前記液体培養により得られるオオシロアリタケの培養物をろ過して培養液と残渣とに分離する工程と、前記培養液を乾燥させて乾燥固化物を得る工程と、前記乾燥固化物を粉砕して乾燥粉末を得る工程とを含む、癌治療剤の製造方法。
【請求項14】
さらに、前記乾燥粉末をアルコールと共に振とうする工程と、前記アルコールを回収し濃縮乾固してアルコール抽出物を得る工程と、を含む、請求項13に記載の癌治療剤の製造方法。
【請求項15】
オオシロアリタケを液体培養する工程と、前記液体培養により得られるオオシロアリタケの培養物をろ過して培養液と残渣とに分離する工程と、前記残渣を乾燥させる工程と、乾燥させた前記残渣を粉砕する工程と、粉砕された前記残渣をアルコールと共に振とうする工程と、前記アルコールを回収し濃縮乾固してアルコール抽出物を得る工程と、を含む、癌治療剤の製造方法。
【請求項16】
前記オオシロアリタケは、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-03542として寄託された担子菌であるオオシロアリタケTermitomyces sp. T-108株、又は独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-03541として寄託された担子菌であるオオシロアリタケTermitomyces sp. T-120株である、請求項13~15の何れか一項に記載の癌治療剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌治療剤及び癌治療剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の原因疾患別死亡者数で最も多いのは、悪性腫瘍、つまり癌であり、2019年に癌で死亡した人は約3万8千人である。死亡原因になった悪性腫瘍のうち、最多のものは肺癌で、約7万5千人が亡くなっていると報告されている。
【0003】
現在のがん治療は、主に手術、放射線照射及び化学療法であるが、4つ目の治療法として免疫療法が注目されている。癌細胞が免疫の働きにブレーキをかけて、免疫細胞の活性化を阻害していることが判明している。免疫療法は、癌細胞によるこのブレーキを解除し免疫細胞を再び活性化する治療法である。
【0004】
上記の癌細胞のメカニズムにおいて、免疫抑制シグナルを誘導し得るタンパク質は、「免疫チェックポイント分子」と呼ばれている。免疫チェックポイント分子として、PD-L1(Programmed cell death ligand 1)、PD-L2(Programmed cell death ligand 2)、CTLA4受容体等が知られている。PD-L1及びPD-L2は、PD-1(Programmed cell death-1)リガンド経路に関与するT細胞上のPD-1受容体及び癌細胞上で発現するリガンドである。CTLA4受容体は、CTLA4(負の補助刺激受容体)経路に関与するT細胞上に存在する。
【0005】
PD-1分子は、CD28(正の補助刺激受容体)ファミリーに属する免疫抑制性補助シグナル受容体であり、活性化したT細胞、B細胞及び骨髄系細胞に発現し、PD-L1及びPD-L2との結合によって、抗原特異的にT細胞活性を抑制することが知られている。PD-1経路は、癌細胞に対する免疫の抑制に関与しているとされており、この経路を標的とした抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体が癌治療薬候補として期待され、抗体医薬の開発が進んでいる。
【0006】
特許文献1は、PD-1、PD-L1又はPD-L2によって誘導される免疫抑制シグナルを阻害した結果惹起される免疫賦活を介した癌の治療若しくは感染症の治療のための組成物を開示している。特許文献2は、抗ヒトPD-1モノクローナル抗体及び抗マウスPD-1モノクローナル抗体が癌又は感染症に対する治療に有用であることを開示している。特許文献3は、PD-1抗体を有効成分として含む癌治療剤を開示している。
【0007】
また、癌の種類に特有な遺伝子変異が存在することがわかってきている。肺癌では「ALK融合遺伝子変異」及び「EGFR遺伝子変異」といった遺伝子変異が存在することが判明している。EGFR(上皮増殖因子受容体)は、癌細胞表面に存在し、癌細胞が増殖するためのスイッチのような役割を果たしている。このEGFRを構成する遺伝子の一部(チロシナーゼ部位)に変異があると、癌細胞を増殖させるスイッチが常にオンとなっているような状態となり、癌細胞が限りなく増殖してしまう。肺癌では、これらの遺伝子変異をターゲットとした「個別化治療」を行えるようになりつつあり、EGFRチロシナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)や抗EGFR抗体等が開発されている。
【0008】
受容体チロシンキナーゼであるAXLの活性化が新たなEGFR-TKI耐性機序となることが報告されている。さらに、AXLと上皮間葉転換(EMT)との関連が指摘され、予後の悪化や腫瘍増大、転移にも関与することが報告されている。AXLは、様々な癌において過剰発現し、増殖や進展に関与していることが知られている。また、AXLの活性化は、EGFR-TKIの他、抗癌剤であるシスプラチンやHER2標的薬であるラパチニブ等の種々の抗癌剤の耐性獲得に関与していることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開公報2004/004771号公報
【特許文献2】特開2009-286795号公報
【特許文献3】特開2014-065748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の免疫チェックポイント分子に対して阻害的に作用する薬剤、いわゆる「免疫チェックポイント阻害剤」は、臨床的にも効果が認められつつある。しかしながら、抗体医薬による治療は、非常に費用がかかるため、患者にとっての負担が過度なものとなり得る。
【0011】
また、免疫チェックポイント阻害剤を長期にわたって投与すると、悪性腫瘍が再増悪する症例も観察されている(獲得耐性ともいう)。この獲得耐性は、癌治療において新たな障害となっている。
【0012】
キノコ類は、古来より東洋医学にも使用されており、悪性腫瘍の予防や治療に対しても、免疫強化やアポトーシスの誘導などにより有益であるとされている。しかしながら、キノコ等の天然物から得られる化合物の免疫チェックポイント阻害効果及びAXLの阻害効果等に関する報告はあまり知られていない。
【0013】
本発明の目的は、担子菌であるオオシロアリタケから抽出され、獲得耐性を生じ難い抗癌剤耐性抑制剤、及びこれを含む癌治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]オオシロアリタケ由来の有効成分を含有する、癌治療剤。
[2]前記有効成分が人工的に培養されたオオシロアリタケの培養液の乾燥粉末である、[1]に記載の癌治療剤。
[3]前記有効成分が人工的に培養されたオオシロアリタケの培養液からのアルコール抽出物である、[1]に記載の癌治療剤。
[4]前記有効成分がオオシロアリタケの子実体又は菌糸体からのアルコール抽出物である、[1]に記載の癌治療剤。
[5]前記有効成分がAXLの発現を阻害する、[1]~[4]のいずれか一つに記載の癌治療剤。
[6]前記有効成分が免疫チェックポイント分子の発現を阻害する、[1]~[5]のいずれか一つに記載の癌治療剤。
[7]前記免疫チェックポイント分子がPD-L1及びPD-L2の少なくとも一方である、[6]に記載の癌治療剤。
[8]前記オオシロアリタケは、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-03541として寄託された担子菌であるオオシロアリタケTermitomyces sp. T-120株である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の癌治療剤。
[9]前記癌治療剤が肺癌治療剤及び皮膚癌治療剤の少なくとも一方である、[8]に記載の癌治療剤。
[10]前記オオシロアリタケは、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-03542として寄託された担子菌であるオオシロアリタケTermitomyces sp. T-108株である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の癌治療剤。
[11]前記癌治療剤が皮膚癌治療剤である、[10]に記載の癌治療剤。
[12]さらに、抗癌剤、抗生物質、抗炎症剤、解熱剤及び鎮痛剤の少なくとも一つを含有する、[1]~[11]のいずれか一つに記載の癌治療剤。
[13]オオシロアリタケを液体培養する工程と、前記液体培養により得られるオオシロアリタケの培養物をろ過して培養液と残渣とに分離する工程と、前記培養液を乾燥させて乾燥固化物を得る工程と、前記乾燥固化物を粉砕して乾燥粉末を得る工程とを含む、癌治療剤の製造方法。
[14]さらに、前記乾燥粉末をアルコールと共に振とうする工程と、前記アルコールを回収し濃縮乾固してアルコール抽出物を得る工程と、を含む、[13]に記載の癌治療剤の製造方法。
[15]オオシロアリタケを液体培養する工程と、前記液体培養により得られるオオシロアリタケの培養物をろ過して培養液と残渣とに分離する工程と、前記残渣を乾燥させる工程と、乾燥させた前記残渣を粉砕する工程と、粉砕された前記残渣をアルコールと共に振とうする工程と、前記アルコールを回収し濃縮乾固してアルコール抽出物を得る工程と、を含む、癌治療剤の製造方法。
[16]前記オオシロアリタケは、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-03542として寄託された担子菌であるオオシロアリタケTermitomyces sp. T-108株、又は独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-03541として寄託された担子菌であるオオシロアリタケTermitomyces sp. T-120株である、[13]~[15]の何れか1つに記載の癌治療剤の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
上記態様によれば、担子菌であるオオシロアリタケから抽出され、獲得耐性を生じ難い抗癌剤耐性抑制剤、及びこれを含む癌治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一態様である実施例1~3のヒト肺癌細胞株A549におけるAXL発現抑制効果を示すグラフである。
【
図2】本発明の一態様である実施例1~3のヒト肺癌細胞株A549におけるPD-L1発現抑制効果を示すグラフである。
【
図3】本発明の一態様である実施例1~3のヒト肺癌細胞株A549におけるPD-L1発現抑制効果を示すグラフである。
【
図4】本発明の一態様である実施例2~5のマウス皮膚癌細胞株B16.F101におけるAXL発現抑制効果を示すグラフである。
【
図5】本発明の一態様である実施例2~5のマウス皮膚癌細胞株B16.F101におけるPD-L1発現抑制効果を示すグラフである。
【
図6】本発明の一態様である実施例2~5のマウス皮膚癌細胞株B16.F101におけるPD-L2発現抑制効果を示すグラフである。
【
図7】本発明の一態様である実施例1の抽出物によるヒト肺癌細胞株A549におけるアポトーシス誘導作用を示す図である。
【
図8】本発明の一態様である実施例1の抽出物によるヒト肺癌細胞株A549におけるアポトーシス誘導作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一態様は、オオシロアリタケ由来の有効成分を含有する、癌治療剤である。また、本発明の他の態様は、オオシロアリタケを液体培養する工程と、前記液体培養により得られるオオシロアリタケの培養物をろ過して培養液と残渣とに分離する工程と、前記培養液を乾燥させて乾燥固化物を得る工程と、前記乾燥固化物を粉砕する工程とを含む、癌治療剤の製造方法である。
【0018】
本発明において、「癌治療剤」とは、癌治療において有効な効果を現す物質をいう。癌治療において有効な効果とは、抗癌剤治療に対して耐性を発揮するように作用し得るメカニズム、例えば免疫チェックポイント分子の発現の上昇や、AXLの活性化を抑制する効果が挙げられる。
【0019】
<オオシロアリタケ由来の有効成分及びその製造方法>
本発明で使用するオオシロアリタケ(Termitomyces sp.)は、熱帯性食用担子菌オオシロアリタケ属菌である。アジアやアフリカに自生し、日本での自生地域として沖縄県石垣島及び西表島が挙げられる。
【0020】
本発明のオオシロアリタケ由来の有効成分は、オオシロアリタケの培養物から調製してもよい。より好ましくは、オオシロアリタケのT-120株の培養物又はオオシロアリタケのT-108株の培養物から調製される。オオシロアリタケのT-120株及びT-108株は、沖縄県石垣島で発見され、2021年に本願発明者によって最初に単離された。T-120株は、2021年12月21日付で、受託番号NITE P-03541として、T-108株は、2021年12月21日付で、受託番号NITE P-03542として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託されている。
【0021】
オオシロアリタケは、子実体として採取したものでもよく、菌糸体として培養してもよい。生産性を高める観点から、オオシロアリタケを菌糸体として培養することが好ましい。
【0022】
オオシロアリタケの有効成分は、以下の3つが挙げられる。
1.オオシロアリタケの培養液の乾燥粉末
2.オオシロアリタケの培養液からのアルコール抽出物
3.オオシロアリタケの子実体又は菌糸体からのアルコール抽出物
【0023】
オオシロアリタケの有効成分が、1.オオシロアリタケの培養液の乾燥粉末である場合、本発明の一態様における癌治療剤の製造方法は、以下の工程を含む。
【0024】
まず、オオシロアリタケ菌株を液体培地に接種し液体培養する。オオシロアリタケの菌株は、自生する菌株でもよく、継代培養した菌株でもよい。培地は、オオシロアリタケが生育する培地であれば特に限定されないが、例えばポテトデキストロースブロス(PDB,Difco社製)、酵母エキス、麦芽エキス及びポリペプトン等のうち少なくとも1つを含んでいる培地が挙げられる。培養液のpHは、pH5.0~7.0が好ましく、pH5.5~6.0がより好ましい。培養温度は、20~30℃であることが好ましく、24~27℃であることがより好ましい。培養時の湿度は、40~80%RHであることが好ましく、50~60%RHであることがより好ましい。培養時の振とう速度は、0~100rpmであることが好ましく、0~50rpmであることがより好ましい。液体培地は、通気していてもよく、通気ガスは酸素を含むことが好ましい。培養期間は、オオシロアリタケが十分に生育する限り特に限定されないが、菌糸体として培養する場合、例えば30日間~120日間が挙げられる。
【0025】
上述の方法で得られるオオシロアリタケの培養物を、ろ過により菌糸体と培養液とに分離する。得られる培養液を凍結乾燥し、その後粉砕して乾燥粉末を得ることができる。
【0026】
オオシロアリタケの有効成分が、2.オオシロアリタケの子実体又は菌糸体からのアルコール抽出物である場合、本発明の一態様における癌治療剤の製造方法は、以下の工程を含む。
【0027】
上述の方法で得られた乾燥粉末をアルコールに添加し、一昼夜振とうすることで乾燥粉末に含まれる有効成分を抽出する。アルコールを回収し、新たなアルコールの添加及び一昼夜の振とうの工程を繰り返す。この抽出工程は複数回行ってもよく、例えば2~4回行ってもよい。回収したアルコール全てをエバポレーターにて濃縮乾固し、窒素ガス雰囲気下にて再度凍結乾燥することで、オオシロアリタケを培養した後の培養液からのアルコール抽出物が得られる。
【0028】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール及びイソプロパノール等の1価アルコール;及びエチレングリコール、1,2-プロパンジオール及び1,3-プロパンジオール等の2価アルコールが挙げられる。前記アルコールは、1価アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、又はイソプロパノールがより好ましい。
【0029】
アルコールに代えて、アルコール水溶液を用いてもよい。アルコール水溶液は、1種以上の前記アルコールを含む水溶液である。前記アルコール水溶液の総質量に対する前記アルコールの合計の含有量は、有効成分の抽出効率を高める観点から、50~99質量%が好ましく、60~95質量%がより好ましく、70~90質量%がさらに好ましい。
【0030】
抽出工程の前記アルコール若しくは前記アルコール水溶液の温度は、例えば4~40℃が挙げられる。抽出時の前記粉砕物と前記アルコール若しくは前記アルコール水溶液の質量比は、例えば10:1~1:10の範囲で適宜調整すればよい。
【0031】
オオシロアリタケの有効成分が、3.オオシロアリタケの培養液からのアルコール抽出物である場合、本発明の一態様における癌治療剤の製造方法は、以下の工程を含む。
【0032】
オオシロアリタケの子実体又は菌糸体を凍結乾燥し、その後粉砕する。菌糸体は、先述の方法でオオシロアリタケを培養し、培養物をろ過して得られる菌糸体であってもよい。粉砕物をアルコールに添加し、一昼夜振とうすることで粉砕物に含まれる有効成分を抽出する。使用するアルコールは、上述のものを使用することができ、アルコールに変えて上述のアルコール水溶液を用いてもよい。アルコールを回収し、新たなアルコールの添加及び一昼夜の振とうの工程を繰り返す。この抽出工程は複数回行ってもよく、例えば2~4回行ってもよい。回収したアルコール全てをエバポレーターにて濃縮乾固し、窒素ガス雰囲気下にて再度凍結乾燥することで、アルコール抽出物が得られる。
【0033】
<免疫チェックポイント分子及びAXL>
本発明の一態様におけるオオシロアリタケ由来の有効成分は、免疫チェックポイント分子の発現を阻害することができる。本発明の一態様において、その発現が阻害される免疫チェックポイント分子としては、PD-L1及びPD-L2が挙げられる。
【0034】
PD-L1(CD274とも呼ばれる)及びPD-L2(CD273とも呼ばれる)は、免疫グロブリンファミリーに属する55kDのI型膜タンパク質であるPD-1のリガンドとして知られている。ヒトPD-L1のcDNAの塩基配列情報等は、GenBank accession No. AF233516(NCBIデータベース等でGene ID: 29126)又はNM_014143、ヒトPD-L2のcDNAの塩基配列情報等は、GenBank accession No.NM_025239(Gene ID: 80380)からそれぞれ取得することができる。
【0035】
本発明の一態様におけるオオシロアリタケ由来の有効成分は、AXLの発現を阻害することができる。AXLは、受容体チロシンキナーゼファミリーのメンバーである。AXLは、細胞増殖や分化の制御に関与する複雑なシグナル伝達ネットワークに関わっており、発癌にも関与することが知られている。ヒトAXLのcDNAの塩基配列情報等は、NCBIデータベース等でGenBank accession No. NM_001699(Gene ID: 558)として取得することができる。
【0036】
<免疫チェックポイント分子及びAXLの発現阻害の評価>
PD-L1、PD-L2及びAXLの発現阻害は、これらの分子を発現する細胞を含むin vitro又はin vivoの系で確認することができる。in vitroの系としては、PD-L1、PD-L2及びAXLを発現する標的細胞を含む系を利用することができる。標的細胞としては、ヒト癌細胞が挙げられる。ヒト癌細胞の例として、胃癌細胞、肺癌細胞、乳癌細胞、大腸癌細胞、卵巣癌細胞、子宮癌細胞、前立腺癌細胞、膵臓癌細胞、肝臓癌細胞、骨髄腫細胞及び皮膚癌細胞等が挙げられる。in vivoの系としては、例えば癌を発症させた動物モデルを用いて確認することができる。
【0037】
in vitro及びin vivoにおける遺伝子の発現阻害は、特に限定するものではないが、例えば以下の方法で行われる。上記のin vitro又はin vivoの系を用いて本発明の一態様におけるオオシロアリタケ由来の有効成分を添加又は投与したサンプル及び添加又は投与していないサンプルからmRNAを抽出し、逆転写反応によってcDNA化する。目的の遺伝子をコードするポリヌクレオチドの塩基配列情報に基づいて作製したプライマーを用いたPCRによりcDNAを鋳型としたDNA断片の増幅を行った後、その発現量を確認することができる。プライマーはまた、プライマーセットとして市販されているものを使用することもできる。なお、当分野において通常行われているように、発現量が一定であると考えられるグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の発現に対する比としてPD-L1、PD-L2及びAXLの発現量を表すことができる。本発明の一態様におけるオオシロアリタケの抽出物によるこれらの分子の発現の阻害の有無は、本発明の一態様におけるオオシロアリタケの抽出物を添加又は投与しない場合との比較によって決定することができる。
【0038】
上記の方法でPD-L1及びPD-L2の少なくとも一方の発現量が少ないと確認された場合、本明細書においては、免疫チェックポイント阻害効果があると判断する。また、上記の方法でAXLの発現量が少ないと確認された場合、癌治療薬としての効果、例えば癌細胞の増殖、浸潤及び転移の少なくとも1つを抑制する効果や、抗がん剤の獲得耐性の抑制に効果があると判断する。
【0039】
<アポトーシス誘導作用の評価>
in vitroの系において本発明の一態様におけるオオシロアリタケの抽出物存在下で標的細胞を培養し、フローサイトメトリーにて標的細胞のアポトーシスを評価することで、オオシロアリタケの抽出物のアポトーシス誘導作用を評価することができる。アポトーシス誘導作用が大きいことは、標的細胞、即ち癌細胞の増殖を抑制できることを意味する。
【0040】
本発明の一態様におけるオオシロアリタケ由来の有効成分は、免疫チェックポイント分子であるPD-L1及びPD-L2の発現を抑制することができる。また、本発明の一態様におけるオオシロアリタケの抽出物は、AXLの発現を抑制することができる。従って、オオシロアリタケの抽出物を含む癌治療剤は、免疫チェックポイント阻害効果を有する。また、オオシロアリタケの抽出物を含む癌治療剤は、癌細胞の増殖、浸潤及び転移の少なくとも1つを抑制する効果を有し、獲得耐性を生じ難い。
【0041】
本発明の一態様におけるオオシロアリタケ由来の有効成分は、前記T-120株由来の有効成分であってもよい。後述の実施例で示す通り、前記T-120株由来の有効成分は、少なくとも肺癌細胞及び皮膚癌細胞のPD-L1、PD-L2及びAXLの発現を抑制することができる。前記T-120株由来の有効成分を含有する癌治療剤は、肺癌治療剤及び皮膚癌治療剤として用いることができる。前記T-120株由来の有効成分は、オオシロアリタケを培養した後の培養液からのアルコール抽出物及びオオシロアリタケを培養した後の培養液の少なくとも一方であることが好ましい。
【0042】
本発明の一態様におけるオオシロアリタケ由来の有効成分は、前記T-108株由来の有効成分であってもよい。後述の実施例で示す通り、前記T-108株由来の有効成分は、PD-L1の発現を抑制することができる。より具体的には、前記T-108株由来の有効成分は、少なくとも皮膚癌細胞のPD-L1の発現を抑制することができる。前記T-108株由来の有効成分を含有する癌治療剤は、皮膚癌治療剤として用いることができる。前記T-108株由来の有効成分は、オオシロアリタケを培養した後の培養液からのアルコール抽出物であることが好ましい。
【0043】
<その他の有効成分>
本発明の一態様における癌治療剤は、オオシロアリタケ由来の有効成分に加え、更なる有効成分、例えば抗癌剤、抗生物質、抗炎症剤、解熱剤及び鎮痛剤の少なくとも一つを含んでいてもよいが、本発明はこれに限定されない。
【0044】
本発明の一態様における癌治療剤の対象となる疾患は、胃癌、肺癌、乳癌、大腸癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、膵臓癌、肝臓癌、白血病、リンパ腫、骨髄腫、皮膚癌等が挙げられるが、特に限定されるものではない。免疫チェックポイント分子の関わるメカニズムや獲得耐性に関するメカニズムは、あらゆる癌細胞に対する免疫応答において見られる。従って、本発明の一態様における癌治療剤は、免疫チェックポイント分子等の免疫を抑制するタンパク質や獲得耐性に関するタンパク質の発現を阻害して、標的細胞である癌細胞に対する免疫応答を増強することができる。
【0045】
本発明の一態様におけるオオシロアリタケ由来の有効成分と更なる有効成分とは、別個に投与することもでき、また同時に、例えば単一の医薬組成物として配合することもできる。医薬組成物の形態、投与経路等は、特に限定されるものではなく、当分野において通常用いられる形態、投与経路を適宜選択することができるが、好ましくは経口投与又は静脈注射等が挙げられる。医薬組成物として製剤化する場合には、調剤において通常使用される賦形剤、増量剤、崩壊剤、防腐剤、着色料、甘味料、香料及び被膜形成剤等の少なくとも1つを適宜配合することができる。本発明の一態様におけるオオシロアリタケ由来の有効成分は、注射剤としての投与も可能である。注射剤としての投与する場合、溶解補助剤等の使用、エマルジョン形態を利用することも可能である。
【0046】
癌治療剤として投与する場合、投与量は、投与経路、患者の年齢、体重及び症状などの種々の要因を考慮して適宜設定することができる。一例として、1日当たり0.2~8mg/kg体重、好ましくは1日当たり0.4~4mg/kg体重の用量で使用可能である。投与の回数及び頻度等は、治療及び予防が予期される疾患により、また投与対象者の体調等によって適宜調整することができる。
【0047】
本発明の一態様におけるオオシロアリタケ由来の有効成分は、保健機能食品及び病者用食品等の飲食品として、又はサプリメントとして使用することができる。飲食品又はサプリメントとして使用する場合、オオシロアリタケ由来の有効成分のヒトにおける推奨摂取量は、1日あたり好ましくは1mg~5g、より好ましくは100mg~2gの範囲である。飲食品又はサプリメントの形態は、粉末、錠剤、カプセル剤及び液剤等のいずれの形態であっても良く、本発明はこれらに限定されるものではない。飲食品又はサプリメントは、医薬組成物と同様に、通常使用される賦形剤、増量剤、崩壊剤、防腐剤、着色料、甘味料、香料及び被膜形成剤等の少なくとも1つを適宜含有することができる。また、オオシロアリタケ由来の有効成分は、一般的な食品と共に摂取するための形態であってもよいし、食品中に混合されていてもよい。
【実施例0048】
以下に本発明を実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0049】
[肺癌細胞試験]
ヒト肺癌細胞株A549(the American Type Culture Collection(Rockville,MD,USA)CCL185)を10%FBS含有のDMEM培地(Thermo Fisher Scientific社製)中で37℃、5%CO2下で前培養後、12ウェルプレート上に、1×106/wellの細胞密度で播種した。その後、後述する方法で得られたオオシロアリタケ由来の有効成分を20μg/mlになるように各プレート上に添加した。37℃、5%CO2下で24時間培養した。培養した細胞をトリプシン処理し、1500rpm、4℃、5分間の遠心分離に供し、A549細胞のペレットを回収した。
【0050】
回収した細胞よりtotal RNAを抽出し、逆転写酵素Revertra Ace(東洋紡社製)を用いてRNAを鋳型としたDNAを合成し、そのDNAを鋳型としてPCRを行った。その後、PD-L1、PD-L2及びAXLのそれぞれに対応するプライマーを使用し、mRNAの存在量を調べた。PCRは、PD-L1 mRNAについてはフォワードプライマー1(配列番号1)及びリバースプライマー1(配列番号2)、PD-L2 mRNAについてはフォワードプライマー2(配列番号3)及びリバースプライマー2(配列番号4)、AXL mRNAについては、フォワードプライマー3(配列番号5)及びリバースプライマー3(配列番号6)、対照として使用したGAPDH mRNAについてはフォワードプライマー4(配列番号7)及びリバースプライマー(配列番号8)のプライマーセットを用いて実施した。
【0051】
[皮膚癌細胞試験]
マウスメラノーマ細胞B16.F10(JCRB1675)を10%FBS含有のDMEM培地(Thermo Fisher Scientific社製)中で37℃、5%CO2下で前培養後、12ウェルプレート上に、1×106/wellの細胞密度で播種した。その後、後述する方法で得られたオオシロアリタケ由来の有効成分を20μg/mlになるように各プレート上に添加した。37℃、5%CO2下で24時間培養した。培養した細胞をトリプシン処理し、1500rpm、4℃、5分間の遠心分離に供し、B16.F10細胞のペレットを回収した。
【0052】
回収した細胞よりtotal RNAを抽出し、逆転写酵素Revertra Ace(東洋紡社製)を用いてRNAを鋳型としたDNAを合成し、そのDNAを鋳型としてPCRを行った。その後、PD-L1、PD-L2及びAXLのそれぞれに対応する上述のプライマーを使用し、mRNAの存在量を調べた。
【0053】
[アポトーシス誘導作用]
上述の[癌細胞試験]に記載の方法で、ヒト肺癌細胞株A549を培養し、12ウェルプレート上に、1×106/wellの細胞密度で播種した。その後、後述する方法で得られたオオシロアリタケ抽出液を20μg/mlになるように各プレート上に添加した。37℃、5%CO2下で24時間培養した。培養した細胞をトリプシン処理し、1500rpm、4℃、5分間の遠心分離に供し、A549細胞のペレットを回収した。アポトーシス検出キット(FITC Annexin V Apoptosis Detection Kit with PI,Biolegend,San Diego、CA)を使用し、Annexin V 及びヨウ化プロピジウム(PI)を用いて細胞を染色した。その後、フローサイトメトリー(FACScan,BD Biosciences,Oxford,UK)にて、Annexin V-FITC/PIを測定した。
【0054】
(実施例1)
ポテトデキストロースブロス(PDB,Difco社製)培地10mLに、沖縄県石垣島及び西表島に自生するオオシロアリタケ菌株(T-120株、受託番号NITE P-03541)を接種し、25℃で静置培養した。約1ヶ月後に、ろ過により菌糸体と培養液とに分離した。得られた培養液は、凍結乾燥し、その後粉砕して乾燥粉末(0.5g)を得た。以下、この乾燥粉末をオオシロアリタケ由来の有効成分1と記載する場合がある。
【0055】
(実施例2)
実施例1と同じ方法でT-120株を培養し、ろ過により菌糸体と培養液とに分離した。分離した菌糸体を凍結乾燥し、その後粉砕して乾燥粉末(0.1g)を得た。得られた乾燥粉末100mgにメタノール40mLを添加し、一昼夜振とうさせた。その後、残渣とメタノールを分別して回収し、残渣に新たなメタノールの添加及び一昼夜の振とうの工程を2回繰り返した後、回収したメタノール抽出液の全てをエバポレーターにて濃縮乾固した。その後、窒素ガスを添加して再度凍結乾燥し、アルコール抽出物を得た。以下、このアルコール抽出物をオオシロアリタケ由来の有効成分2と記載する場合がある。
【0056】
(実施例3)
実施例1で得られた乾燥粉末100mgにメタノール40mLを添加し、一昼夜振とうさせた。その後、残渣とメタノールを分別して回収し、残渣に新たなメタノールの添加及び一昼夜の振とうの工程を2回繰り返した後、回収したメタノール抽出液の全てをエバポレーターにて濃縮乾固した。その後、窒素ガスを添加して再度凍結乾燥し、アルコール抽出物を得た。以下、このアルコール抽出物をオオシロアリタケ由来の有効成分3と記載する場合がある。
【0057】
(実施例4)
ポテトデキストロースブロス(PDB,Difco社製)培地10mLに、沖縄石垣島及び西表島に自生するオオシロアリタケ菌株(T-108株、NITE P-03542)を接種し、25℃で静置培養した。約1ヶ月後に、ろ過により菌糸体と培養液とに分離した。得られた菌糸体は、凍結乾燥し、その後粉砕して乾燥粉末(0.1g)を得た。
【0058】
得られた乾燥粉末100mgにメタノール40mLを添加し、一昼夜振とうさせた。その後、残渣とメタノールを分別して回収し、残渣に新たなメタノールの添加及び一昼夜の振とうの工程を2回繰り返した後、回収したメタノール抽出液の全てをエバポレーターにて濃縮乾固した。その後、窒素ガスを添加して再度凍結乾燥し、アルコール抽出物を得た。以下、このアルコール抽出物をオオシロアリタケ由来の有効成分4と記載する場合がある。
【0059】
(実施例5)
実施例4と同じ方法でT-108株を培養し、ろ過により菌糸体と培養液とに分離した。分離した培養液を凍結乾燥し、その後粉砕して乾燥粉末(0.5g)を得た。得られた乾燥粉末100mgにメタノール40mLを添加し、一昼夜振とうさせた。その後、残渣とメタノールを分別して回収し、残渣に新たなメタノールの添加及び一昼夜の振とうの工程を2回繰り返した後、回収したメタノール抽出液の全てをエバポレーターにて濃縮乾固した。その後、窒素ガスを添加して再度凍結乾燥し、アルコール抽出物を得た。以下、このアルコール抽出物をオオシロアリタケ由来の有効成分5と記載する場合がある。
【0060】
得られたオオシロアリタケ由来の有効成分1~5を用いて、上述の[肺癌細胞試験]を行った。また、オオシロアリタケの有効成分2~5を用いて、上述の[皮膚癌細胞試験]を行った。さらに、オオシロアリタケ由来の有効成分1を用いて、[アポトーシス誘導作用]を行った。
【0061】
(比較例1)
オオシロアリタケ由来の有効成分に代えてポテトデキストロースブロスを用いて、上述の[肺癌細胞試験]及び[皮膚癌細胞試験]を行った。
【0062】
(比較例2)
株式会社岩出菌学研究所から入手したヒメマツタケ(Agaricus blazei,岩出101株)の乾燥子実体100gを0.3mm~3.0mm程度の大きさに粉砕した。粉砕物を約90℃の熱水によって180分間抽出し、熱水抽出物44.2gを得た。抽出されずに残った残渣(55g)を約30℃で24時間約5%NaOH水溶液で抽出し、得られた濾液の画分を乾燥し、ヒメマツタケのアルカリ抽出物41.5gを得た。
【0063】
オオシロアリタケ由来の有効成分に代えてヒメマツタケのアルカリ抽出物を用いて、上述の[肺癌細胞試験]、[皮膚癌細胞試験]及び[アポトーシス誘導作用]を行った。
【0064】
(比較例3)
オオシロアリタケ由来の有効成分に代えて生理食塩水を用いて、上述の[肺癌細胞試験]、[皮膚癌細胞試験]及び[アポトーシス誘導作用]を行った。
【0065】
実施例1~3及び比較例1~3の[肺癌細胞試験]におけるPD-L1、PD-L2及びAXLの結果をそれぞれ
図1~3に示す。また、実施例2~5及び比較例1~3の[皮膚癌細胞試験]におけるPD-L1、PD-L2及びAXLの結果をそれぞれ
図4~6に示す。なお、実施例1~5及び比較例1~3のデータ数Nは、3である。PD-L1、PD-L2及びAXLに関するmRNAの量は、対象であるGAPDHの発現量に対する比として算出し、ネガティブコントロールである比較例3の平均値を1.0とした場合の値として記載されている。
【0066】
比較例2で用いたヒメマツタケの抽出物は、PD-L1、PD-L2及びAXLの発現を低下させる効果が知られている。よって、比較例2をポジティブコントロールとした。
【0067】
[肺癌細胞試験]において、実施例1~3におけるAXLに関するmRNA量は、比較例1及び3と比較して有意に減少したことが確認された。特に、実施例1では、比較例2と比較してもmRNA量が少ないことが確認された。
【0068】
[肺癌細胞試験]において、実施例2~3におけるPD-L1に関するmRNA量は、比較例1及び3の場合と比較して減少傾向にあることが確認された。特に実施例3では、比較例2と同程度の効果があることがわかった。
【0069】
[肺癌細胞試験]において、実施例1~3におけるPD-L2に関するmRNA量は、比較例2には劣るものの、比較例1及び3の場合と比較して有意に減少したことが確認された。
【0070】
[皮膚癌細胞試験]において、実施例3におけるAXLに関するmRNA量は、比較例1及び3と比較して有意に減少したことが確認された。
【0071】
[皮膚癌細胞試験]において、実施例2~3及び5におけるPD-L1に関するmRNA量は、比較例1及び3の場合と比較して減少傾向にあることが確認された。特に実施例3では、比較例2と比較してもmRNA量が少ないことが確認された。
【0072】
[皮膚癌細胞試験]において、実施例2~3におけるPD-L2に関するmRNA量は、比較例1及び3の場合と比較して有意に減少したことが確認された。特に実施例3では、比較例2と同程度の効果があることがわかった。
【0073】
実施例1及び比較例2~3の[アポトーシス誘導作用]の結果を
図7~8に示す。
図7の各グラフで4分割された領域の内、左下の領域が生細胞領域であり、右下の領域がアポトーシス初期領域であり、右上がアポトーシス後期領域である。アポトーシス初期領域及びアポトーシス後期領域にプロットされた点が多いほど、アポトーシス誘導作用が強いことを意味する。
図8は、Annexin V
+で染色された細胞の割合を示す。
【0074】
実施例1においてAnnexin V+で染色された細胞の割合は、比較例3と比較して優位に多く、比較例2と同程度であることが確認された。
【0075】
以上の結果から、オオシロアリタケの抽出物は、PD-L1、PD-L2及びAXLの発現を抑制することが確認された。T120株は、肺癌細胞及び皮膚癌細胞のPD-L1、PD-L2及びAXLの発現を抑制することが確認された。T108株は、皮膚癌細胞に対し、PD-L1の発現抑制効果があることが確認された。
【0076】
また、実施例1~5ではオオシロアリタケの子実体ではなく人工的に培養した菌糸体又は培養液からの有効成分を用いている。実施例1~5の結果から、人工的に培養した菌糸体又は培養液からの有効成分であってもPD-L1、PD-L2及びAXLの発現を抑制することが確認された。