(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097783
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】斜め入り防止ナットとその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16B 37/00 20060101AFI20230703BHJP
F16B 39/26 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
F16B37/00 A
F16B39/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214086
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 朗洋
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 源太郎
【テーマコード(参考)】
3J034
【Fターム(参考)】
3J034AA08
3J034DA06
3J034EA01
(57)【要約】
【課題】ナットの大型化を可及的に抑制しつつ、ボルトの斜め入りを防止することができる斜め入り防止ナットを提供する。
【解決手段】本発明の斜め入り防止ナットは、ナット本体10のボルト挿入側の端部に、ナットに形成されためねじ12の谷径d1より小さく、ボルト20の外径d2よりも大きい内径Dの円形孔13を持つボルトガイド部13を形成したものである。ボルトガイド部13をワッシャやカラーなどの環状部材11の内面に形成し、この環状部材11をナット本体10のボルト挿入側の端部に固定した構造とすることができる。また、ボルトガイド部13をナット本体のボルト挿入側の面を押し潰して形成した構造とすることもできる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナット本体のボルト挿入側の端部に、ナットに形成されためねじの谷径より小さく、ボルトの外径よりも大きい内径を持つボルトガイド部を形成したことを特徴とする斜め入り防止ナット。
【請求項2】
前記ボルトガイド部は環状部材の内面に形成されており、この環状部材をナット本体のボルト挿入側の端部に固定した構造であることを特徴とする請求項1に記載の斜め入り防止ナット。
【請求項3】
前記環状部材は、ワッシャ又はカラーであることを特徴とする請求項2に記載の斜め入り防止ナット。
【請求項4】
前記ボルトガイド部は、ナット本体のボルト挿入側の面を押し潰して形成された構造であることを特徴とする請求項1に記載の斜め入り防止ナット。
【請求項5】
ボルト挿入側に大径の凹部が形成されたナット本体を製造し、このナット本体の凹部にナットに形成されためねじの谷径より小さく、ボルトの外径よりも大きい外径を持つガイドピンを挿入し、ナット本体の座面をガイドピンに向けて塑性変形させることにより、ナット本体のボルト挿入側の端部に、ナットに形成されためねじの谷径より小さく、ボルトの外径よりも大きい内径を持つボルトガイド部を形成することを特徴とする斜め入り防止ナットの製造方法。
【請求項6】
ナット本体はその座面に環状の突起を備えたものであり、ガイドピンを挿入した状態で前記突起をガイドピンに向けて塑性変形させることを特徴とする請求項5に記載の斜め入り防止ナットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナットに対してボルトが斜め入りすることを防止する機能を持つ斜め入り防止ナットとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボルトとナットによる締結を行う際に、ボルトとナットが同一軸線上になく、
図12のようにボルトがナットに対して斜めに入ると、ボルトのねじ山が本来接するべきナットのねじ山に隣り合うねじ山と干渉し、そのまま更にねじ込むと焼付きを起こして正しい締付ができなくなる。この現象は斜め入りと呼ばれ、焼付き(かじり、山上がりとも言う)を起こしてしまうと元に戻すことは容易ではない。このため、特に動力ドライバを用いた自動車組み立てラインなどにおいては、重大なトラブルとなる。
【0003】
そこで従来から、斜め入り防止機能を備えたボルトが多数開発され、実用化されている。その代表的な例は、特許文献1に示されるように正規ねじ部の先端に小径の不完全ねじ部やガイド部を形成したボルトである。しかしそれらの部分は締結された後の締結強度には寄与しないうえ、それらの部分を設けただけボルトが長くなる。このためそのような斜め入り防止ボルトは、ボルト締結のためのスペースを十分に確保できない部位には使用できなかった。また特殊形状のボルトとなるため、他部位のボルトとの共通化を図ることができず、コスト高となるなどの問題があった。
【0004】
一方、ボルトではなくナットに斜め入り防止機能を持たせたものも、特許文献2に記載されている。これは、ナットのボルト挿入側の端部をざぐり加工してナットのめねじの最大径(めねじ谷径)よりも大きい円形孔を形成し、その円形孔の部分でナットに対するボルトの挿入方向を矯正しようとするものである。しかしこの構造によってボルトの挿入方向を矯正するためには、円形孔の軸線方向の長さを大きくする必要があり、ナットの大型化を招くという問題があった。特許文献2の図面では、円形孔の軸線方向の長さはめねじのピッチの3~4倍となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-249919号公報
【特許文献2】特開2020-133819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、ナットの大型化を可及的に抑制しつつ、ボルトの斜め入りを防止することができる斜め入り防止ナットとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題を解決するために検討を重ねた結果、ナットの大型化を抑制しつつ、ボルトの斜め入りを防止する機能を高めるためには、ナットのボルト挿入側の端部に形成されるボルトガイド用の円形孔の内径をできるだけ小さくすることが有効であり、特にナット本体のめねじの最大径(めねじ谷径)よりも小さくすることが有効であることを見出した。
【0008】
上記の知見に基づいてなされた本発明の斜め入り防止ナットは、ナット本体のボルト挿入側の端部に、ナットに形成されためねじの谷径より小さく、ボルトの外径よりも大きい内径を持つボルトガイド部を形成したことを特徴とするものである。なお、前記ボルトガイド部は環状部材の内面に形成されており、この環状部材をナット本体のボルト挿入側の端部に固定した構造とすることができ、この環状部材はワッシャ又はカラーとすることができる。
【0009】
また、このような環状部材を用いず、ボルトガイド部をナット本体のボルト挿入側の面を押し潰して形成した構造とすることもできる。そのような斜め入り防止ナットは、ボルト挿入側に大径の凹部が形成されたナット本体を製造し、このナット本体の凹部にナットに形成されためねじの谷径より小さく、ボルトの外径よりも大きい外径を持つガイドピンを挿入し、ナット本体の座面をガイドピンに向けて塑性変形させることにより、ナット本体のボルト挿入側の端部に、ナットに形成されためねじの谷径より小さく、ボルトの外径よりも大きい内径を持つボルトガイド部を形成する方法により製造することができる。なお、ナット本体をその座面に環状の突起を備えたものとし、ガイドピンを挿入した状態で前記突起をガイドピンに向けて塑性変形させる方法を取ることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の斜め入り防止ナットは、ボルトの斜め入りを防止するためのボルトガイド部の内径を、ナットに形成されためねじの谷径より小さく、ボルトの外径よりも大きくしたので、円形孔の軸線方向の長さをめねじのピッチの1.2~2.0倍程度にまで短くしても、ボルトの斜め入りを防止することができる。本発明の斜め入り防止ナットを用いれば、ボルトを長くする必要がないため、ボルト締結のためのスペースを十分に確保できない部位においても締結が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態を示す断面図である。
【
図2】めねじの谷径とおねじの外径の説明図である。
【
図4】ボルトが正しく挿入される状態の説明図である。
【
図5】ボルトが斜めに挿入された状態の説明図である。
【
図6】ボルトが斜めに挿入された状態の説明図である。
【
図7】本発明の斜め入り防止ナットを固定して、ボルトを螺合させるテストを示す外観図である。
【
図8】ボルトを固定して、本発明の斜め入り防止ナットを螺合させるテストを示す外観図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態を示す断面図である。
【
図10】本発明の第3の実施形態を示す断面図である。
【
図11】本発明の第4の実施形態を示す断面図である。
【
図12】従来のナットにボルトが斜め入りした状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の第1の実施形態を示す断面図であり、10はナット本体、11はナット本体10のボルト挿入側の端部に取付けられた環状部材であり、この実施形態では環状部材11はワッシャである。本実施形態ではこれらは何れも金属製である。ナット本体10には従来と同様にめねじ12が形成されている。また環状部材11の内面には、円形のボルトガイド部13が形成されている。このボルトガイド部13の内径Dは、ナット本体10に形成されためねじ12の最大径である谷径d1より小さく、ナット本体10にねじ込まれるボルト20の外径d2よりも大きくなっている。
【0013】
めねじの谷径d1は、おねじの外径d2とほぼ等しいが、d1がd2と完全に同一であると、螺合させることが困難となる。JIS B 0101「ねじ用語」には、めねじの谷径は
図2のAであり、おねじの外径は
図2のBであることが記載されている。このようにめねじの谷径d1は、おねじの外径d2よりも僅かに大きく設定されており、環状部材11であるワッシャのボルトガイド部13の内径Dはその間の値に設定されている。すなわち、d2<D<d1となっている。
【0014】
一般にナットは外形状を鍛造加工により製造したうえで、ねじ切りする方法で製造されている。しかし上記のようなボルトガイド部13をナット本体10に形成した後にねじ切りを行うと、ボルトガイド部13の内径Dがめねじの谷径d1より小さいため、ボルトガイド部13の内面にもねじが切れてしまうこととなる。この部分にねじが切られてしまうと、斜め入りを防止する機能が不十分となる。そこで本発明の第1の実施形態形態の斜め入り防止ナットは、
図3に示すように、ボルトガイド部13を備えた環状部材11を別に製造し、ナット本体10に取り付けた構造となっている。
【0015】
このためナット本体10のボルト挿入側の端部には本体外径よりもやや小径の凸部14が形成されており、環状部材11にはこの凸部14よりわずかに小径の凹部15が形成されている。そしてその凹部15にナット本体10の凸部14を圧入することにより、ナット本体10に環状部材11を強固に取り付けてある。ただしナット本体10と環状部材11との接合手段は圧入に限定されるものではなく、例えば溶接やろう付けであっても差し支えない。
【0016】
このように構成された本発明の斜め入り防止ナットは、環状部材11に形成されたボルトガイド部13の内径Dがボルト20の外径d2よりも大きいため、
図4に示すようにボルト20がナット本体10に対して傾くことなく挿入された場合には、支障なく締結を行うことができる。なお、
図4~
図6は、径方向の違いを誇張して表示している。
【0017】
しかし
図5に示すようにボルト20がナット本体10に対して斜めに挿入された場合には、ボルト20のおねじのねじ山がボルトガイド部13の内面に接触するためそのままねじ込むことができない。
図5の傾斜角度のままではボルト20はそれ以上進むことができず、空転するため焼付きは生じない。
【0018】
図6に示すようにボルト20の傾斜角度がさらに大きくなった場合には、ボルト20の先端が環状部材11であるワッシャの端面に当たり、やはりそのままねじ込むことができず、ボルト20は空転する。このため焼付きは生じない。
【0019】
実験の結果、上記したボルトの斜め入り防止効果を得るためには、環状部材11のボルトガイド部13の軸線方向の長さを、めねじ12のピッチの1.2倍以上とすることが望ましいことを確認した。ボルトガイド部13がボルトの斜め入り防止機能を発揮する部分であるから、その軸線方向の長さがこれよりも短いと、確実に斜め入り防止効果を発揮させることができなくなる。しかし環状部材11の厚みを増大させると、斜め入り防止機能は向上するが、斜め入り防止ナットの大型化とコストアップを招く。このためボルトガイド部13の軸線方向の長さは、めねじ12のピッチの1.2~2.0倍とすることが好ましい。更に好ましくは、めねじ12のピッチの1.2~1.5倍である。このように、本発明ではボルトガイド部13の内径Dをめねじ12の谷径より小さくしたことにより、ボルトガイド部13の軸線方向の長さを、従来の半分以下にすることができる。
【0020】
本発明の効果を確認するため、
図7、
図8に示すテストを行った。テストに用いたボルトナットは、M10サイズで1.25mmピッチのものである。
図7に示すようにバイス30に第1の実施形態の斜め入り防止ナットを固定し、インパクトレンチ40にボルト20を取り付け、斜め方向からボルト締めを行った。傾斜角度を約15度とした
図7の状態でインパクトレンチ40を回転させたが、ボルト20は焼付きくことなく空転するだけであった。その後、インパクトレンチ40を回転させたまま傾斜角度を小さくして行くと、斜め入り防止ナットとボルト20が同軸となったところでボルト20を螺合させることができた。
【0021】
次に
図8に示すようにバイス30にボルト20を固定し、インパクトレンチ40に本発明の斜め入り防止ナットを取付けて同様のテストを行った。この場合にも傾斜角度を約15度とした
図8の状態でインパクトレンチ40を回転させたが、ナットは焼付きくことなく空転するだけであった。その後、インパクトレンチ40を回転させたまま傾斜角度を小さくして行くと、斜め入り防止ナットとボルト20が同軸となったところでナット20を螺合させることができた。このように、ボルト締めの場合でもナット締めの場合でも、焼付きを生じないことが確認できた。
【0022】
以上に説明した第1の実施形態では環状部材11は薄肉のワッシャであり、ナット本体10の外側に圧入されていた。しかし
図9に示す第2の実施形態では、環状部材11はカラーであり、ナット本体10の座面に形成された凹部16の内部に圧入されている。このカラーの内径は、ナット本体10に形成されためねじの谷径より小さく、ボルトの外径よりも大きくなっている。なお
図9に示すように、フランジナットの内面にねじ切りを行った後に凹部16にカラーを圧入すれば、カラーのボルトガイド部13にねじが形成されることはない。
【0023】
これらの第1、第2の実施形態では、ナット本体10に環状部材11を取付けた2部材構造を採用したが、
図10に示す第3の実施形態では、ボルトガイド13部はナット本体10のボルト挿入側の面を押し潰して形成されている。
図10の上図に示すように、フランジナットの内面にねじ切りを行った後にめねじの谷径よりやや大径の凹部17を形成し、その後にナット本体10の座面を押し潰すことにより
図10の下図に示すように凹部17の内径を縮小し、めねじの谷径より小さく、ボルトの外径よりも大きいボルトガイド部13を形成する。この第3の実施形態では斜め入り防止ナットを1部材構造とすることができる。
【0024】
なお、
図10に示すように、ナット本体10の座面を押し潰すに先立ち、ナット本体10の内部にガイドピン50を挿入しておくことが望ましい。このガイドピン50は、ナット本体10のめねじ部に挿入される小径部52と、ナット本体10の凹部17に位置する大径部53を備える。大径部53の外径はめねじの谷径より小さく、ボルトの外径よりも大きくなっている。これにより、
図10の下図に示される通り、ナット本体10のボルト挿入側の端部に、ナットに形成されためねじの谷径より小さく、ボルトの外径よりも大きい内径を持つボルトガイド部13を形成することができる。ガイドピン50によって正確な寸法とすることができるので、ボルトガイド部13の寸法精度を高めることができる利点がある。
【0025】
図11に示す第4の実施形態では、先ずボルト挿入側に大径の凹部17が形成され、座面に環状の突起51が形成されたナット本体10を製造する。次にこのナット本体10の内部に、第3の実施形態と同様のガイドピン50を挿入する。
図11の上図に示すようにガイドピン50を挿入した状態で、ナット本体10の座面の環状の突起51をガイドピン50に向けて塑性変形させれば、
図11の下図に示される通り、ナット本体10のボルト挿入側の端部に、ナットに形成されためねじの谷径より小さく、ボルトの外径よりも大きい内径を持つボルトガイド部13を形成することができる。この第4の実施形態のボルトガイド部13もガイドピン50を用いたことによって、ボルトガイド部13の寸法精度を高めることができる利点がある。
【0026】
以上に説明したように、本発明の斜め入り防止ナットによれば、ナットの大型化を可及的に抑制しつつ、ボルトの斜め入りを防止することができる。
【符号の説明】
【0027】
10 ナット本体
11 環状部材
12 めねじ
13 ボルトガイド部
14 凸部
15 凹部
16 凹部
17 凹部
20 ボルト
30 バイス
40 インパクトレンチ
50 ガイドピン
51 突起
52 小径部
53 大径部