(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097786
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】排煙処理材及び排煙の処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/40 20060101AFI20230703BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20230703BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20230703BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230703BHJP
B01D 53/64 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
B01D53/40
B09B3/00 304G
B09B3/00 ZAB
C09K3/00 S
B01D53/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214092
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文夫
(72)【発明者】
【氏名】坂本 裕一
(72)【発明者】
【氏名】久保 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小林 龍
(72)【発明者】
【氏名】川辺 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】酒井 徹
【テーマコード(参考)】
4D002
4D004
【Fターム(参考)】
4D002AA02
4D002AA12
4D002AA19
4D002AA26
4D002AA31
4D002AB01
4D002AC04
4D002BA03
4D002BA14
4D002CA11
4D002DA05
4D002DA18
4D002DA45
4D002EA05
4D004AA37
4D004AB03
4D004AB06
4D004BB03
4D004CA22
4D004CA34
4D004CC03
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA10
(57)【要約】
【課題】混合粉末としての安定性が高く、排煙中のような高温環境下における熱履歴を受けた場合でも、重金属類の不溶化性能の低下を抑制した排煙処理材及び排煙の処理方法を提供する。
【解決手段】酸性ガスと飛灰を含む排煙と、水酸化カルシウム粉末及びリン酸塩粉末を含む排煙処理材と、を100℃以上200℃以下の温度帯にて接触させ、前記リン酸塩粉末は、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、及びリン酸二水素カリウムのいずれか1種以上を含み、前記水酸化カルシウム粉末と前記リン酸塩粉末との合計に対する前記リン酸塩粉末の割合が20質量%以上70質量%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウム粉末とリン酸塩粉末とを含み、
前記水酸化カルシウム粉末と前記リン酸塩粉末との合計に対する前記リン酸塩粉末の割合が20質量%以上70質量%以下であり、
前記リン酸塩粉末がリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、及びリン酸二水素カリウムのいずれか1種以上を含むものである、排煙処理材。
【請求項2】
前記排煙処理材の全量を100質量部としたとき、前記水酸化カルシウム粉末と前記リン酸塩粉末との合計が85質量部以上である、請求項1に記載の排煙処理材。
【請求項3】
酸性ガスと飛灰を含む排煙と、水酸化カルシウム粉末及びリン酸塩粉末を含む排煙処理材と、を100℃以上200℃以下の温度帯にて接触させる排煙の処理方法であり、
前記リン酸塩粉末は、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、及びリン酸二水素カリウムのいずれか1種以上を含み、
前記水酸化カルシウム粉末と前記リン酸塩粉末との合計に対する前記リン酸塩粉末の割合が20質量%以上70質量%以下である、排煙の処理方法。
【請求項4】
前記排煙から捕集された飛灰と前記排煙処理材の混合物に、前記混合物100質量部に対して10質量部以上40質量部以下の水を添加する、請求項3に記載の排煙の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排煙処理材及び排煙の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみや産業廃棄物等を焼却処分するごみ焼却場において、ごみ焼却時に発生する排煙中には、ごみの原料に由来する塩化水素(HCl)、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)などを含む酸性ガスや飛灰が含まれている。これらのうち、外気への酸性ガス排出濃度を低減するために、生石灰(CaO)や消石灰(Ca(OH)2)などの塩基性を有するカルシウム化合物を含む処理材を、煙道内に吹き込む技術が確立されている。
また、排煙中の飛灰には、ごみ由来の重金属類も含まれているので、典型的には、集塵設備において飛灰を集塵したのち、重金属類の溶出量が埋立判定基準以下となるように重金属類の不溶化処理を行い、その後、最終処分場に移送し処分する。
【0003】
上述した酸性ガスや飛灰の処理を行うために、特許文献1~3には、カルシウム化合物に鉛などの重金属類を不溶化する性能を有するリン酸系化合物を添加した処理材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-109014号公報
【特許文献2】特開2000-061252号公報
【特許文献3】特開2009-131726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、前記最終処分場は廃棄物が野外に集積されているので、雨水が廃棄物層に浸透する。そのため、このような浸透水を一か所に集めて河川等に放出できるように、水質汚濁防止法で規制されている各種項目を基準値内に制御するための管理がなされている。このような管理項目としては、例えば浸透水のpHや、浸透水中の鉛などの重金属類濃度、化学的酸素要求量(COD)などが挙げられる。
これらのうち、鉛の環境中への溶出を抑制するためには、例えば特許文献1~3に記載の処理材に開示されているように、リン酸系化合物を用いることができる。
【0006】
しかし、特許文献1~3に記載の消石灰とリン酸系化合物を含有した処理材では、混合粉末として安定性が低く保管時に変質が生じる、排煙中のような高温環境下での熱履歴を受けた場合に重金属類の不溶化性能が低下する、という問題があった。
【0007】
そこで本発明の課題は、混合粉末としての安定性が高く、排煙中のような高温環境下における熱履歴を受けた場合でも、重金属類の不溶化性能の低下を抑制した排煙処理材及び排煙の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、水酸化カルシウム粉末に対して、所定のリン酸塩粉末を所定の割合で含有させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、水酸化カルシウム粉末とリン酸塩粉末とを含み、前記水酸化カルシウム粉末と前記リン酸塩粉末との合計に対する前記リン酸塩粉末の割合が20質量%以上70質量%以下であり、前記リン酸塩粉末は、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、及びリン酸二水素カリウムのいずれか1種以上を含むものである、排煙処理材を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、酸性ガスと飛灰を含む排煙と、水酸化カルシウム粉末及びリン酸塩粉末を含む排煙処理材と、を100℃以上200℃以下の温度帯にて接触させる排煙の処理方法であり、前記リン酸塩粉末は、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、及びリン酸二水素カリウムのいずれか1種以上を含み、前記水酸化カルシウム粉末と前記リン酸塩粉末との合計に対する前記リン酸塩粉末の割合が20質量%以上70質量%以下である、排煙の処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、混合粉末としての安定性が高く、排煙中のような高温環境下における熱履歴を受けた場合でも、重金属類の不溶化性能の低下を抑制した排煙処理材及び排煙の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ごみ処理槽と、排煙処理材の吹き込み位置との概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の説明では、「X~Y[Z]」(X及びYは任意の数字であり、[Z]は単位である。)と記載した場合、特に断らない限り「X[Z]以上Y[Z]以下」を意味する。
【0014】
本発明の排煙処理材は、水酸化カルシウム粉末とリン酸塩粉末とを含むものである。排煙処理材は、水酸化カルシウム粉末とリン酸塩粉末とが、粉末状の混合物であることで、運搬時及び使用時における取扱性を高めることができる。本発明における粉末とは、粒子の集合体を指す。
【0015】
排煙処理材は、水酸化カルシウムを含む。水酸化カルシウムは、塩化水素(HCl)、一酸化硫黄、二酸化硫黄や三酸化硫黄等の硫黄酸化物(SOx)、並びに一酸化窒素や二酸化窒素等の窒素酸化物(NOx)などを含む酸性ガスの中和処理に用いることができる。
【0016】
水酸化カルシウム粉末は、当該粉末を構成する粒子の平均粒子径が、好ましくは1~20μm、より好ましくは1~10μm、更に好ましくは1~8μmであってもよい。このような粒子径を有していることによって、酸性ガスとの接触効率を高めて、酸性ガスの種類によらず酸性ガスを効率よく中和処理することができる。水酸化カルシウムの粒子径は、例えば粉砕機による粉砕処理や、解砕処理、あるいはふるい分け等の処理を行って適宜調整してもよい。
【0017】
水酸化カルシウム粒子の平均粒子径は、例えば以下の方法で測定することができる。まず、循環経路内をエタノール(屈折率1.36、25℃)で満たしたレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、MT-3000EXII)に測定対象のサンプルを投入し、装置内蔵の超音波分散装置で40Wの超音波を3分間照射し、分散液を得て粒度分布を測定する。得られた体積基準粒度分布のチャートから、体積基準累積50%粒子径D50を得る。このようにして得られたD50を本発明の平均粒子径とする。上述した測定装置において、粒子情報の設定は、屈折率:1.57(25℃)、形状:非球形、透過/非透過の別:透過、とする。
【0018】
水酸化カルシウム粉末は、当該粉末を構成する粒子のBET比表面積が、好ましくは30m2/g以上、より好ましくは30~60m2/g、更に好ましくは35~55m2/g、一層好ましくは40~50m2/gであってもよい。このような比表面積を有していることによって、酸性ガスとの接触効率を高めて、酸性ガスの種類によらず酸性ガスを効率よく中和処理することができる。
【0019】
酸性ガスの処理効率は、BET比表面積に加えて、上述した粒子径を好適な範囲とすることによって、より顕著となる。また、上述したBET比表面積を有する水酸化カルシウム粉末を用いることは、排煙処理材を煙道等に吹き込んで使用する等の乾式法によって排煙処理を行う際に、酸性ガスの中和処理効率を高められる点で有利である。
【0020】
BET比表面積は、例えばJIS Z8830:2013の規定に従い、BET一点法により測定することができる。このようなBET比表面積を有する水酸化カルシウムの粉末は、例えば、市販品を用いてもよく、あるいは、特開2005-350343号公報や特開2008-290940号公報に記載の方法によって得ることができる。
【0021】
また水酸化カルシウム粉末は、当該粉末を構成する粒子が細孔を有していることが好ましく、特定の細孔容積を有していることが更に好ましい。詳細には、水酸化カルシウムの粉末の20~1000Åの細孔径範囲における全細孔容積が、好ましくは0.10~0.30mL/g、より好ましくは0.15~0.25mL/g、更に好ましくは0.20~0.25mL/gであってもよい。水酸化カルシウムの粒子が細孔を有し、且つ上述の細孔容積の範囲であることによって、酸性ガスを細孔内に多く吸着させて、酸性ガスの種類によらず酸性ガスを更に効率的に中和処理することができる。酸性ガスの処理効率は、細孔容積の好適な範囲に加えて、上述した粒子径及びBET比表面積を好適な範囲とすることによって、より顕著となる。また、上述した細孔容積を有する水酸化カルシウム粉末を用いることは、排煙処理材を煙道等に吹き込んで使用する等の乾式法によって排煙処理を行う際に有利である。
【0022】
このような細孔及び細孔容積を有する水酸化カルシウムの粉末は、例えば、市販品を用いてもよく、あるいは、特開2005-350343号公報や特開2008-290940号公報に記載の方法によって得ることができる。
【0023】
水酸化カルシウム粉末における細孔容積は、例えばBJH法で測定することができる。具体的な手順は以下のとおりである。すなわち、前処理として、測定対象のサンプルを加熱処理温度105℃で8時間の真空脱気処理を行ったあと、測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、Belsorp-max)を用いて、液体窒素温度における窒素がサンプルから脱離するときの相対圧と、窒素吸着量との関係である脱着等温線を得る。そして、BJH法にて、脱着等温線から20~1000Åの細孔径範囲における全細孔容積(mL/g)を算出する。
【0024】
水酸化カルシウム粉末における見かけ比重は、ゆるみ比重において、好ましくは0.20~0.50g/cm3、更に好ましくは0.25~0.45g/cm3である。また、固め比重において、好ましくは0.40~0.70g/cm3、更に好ましくは0.45~0.68g/cm3であってもよい。このような比重を有していることによって、排煙処理材を煙道等に吹き込んで使用する等の乾式法によって排煙処理を効率的に行うことができる。
【0025】
見かけ比重におけるゆるみ比重及び固め比重は、例えばJIS Z8807:2012「固体の密度及び比重の測定方法」に準じて測定することができる。このような見かけ比重を有する水酸化カルシウムの粉末は、例えば、特開2005-350343号公報や特開2008-290940号公報に記載の方法によって得ることができる。
【0026】
排煙処理材はリン酸塩粉末を含む。リン酸塩粉末はリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)、及びリン酸二水素カリウム(KH2PO4)のいずれか1種以上を含むものであり、リン酸二水素アンモニウム、及びリン酸二水素カリウム、のいずれか1種以上を含むことが好ましく、リン酸二水素アンモニウムを含むことがより好ましい。これらのリン酸塩は、水和物であっても用いることができるが、重量当たりの有効成分の含有量から、無水物が好ましい。このようなリン酸塩粉末を用いることで、水酸化カルシウムとの混合粉末として安定であり、熱履歴を受けた場合でも不溶化性能の低下が小さく、十分な不溶化性能を発揮することができる。
【0027】
リン酸塩粉末は、粉末を構成する粒子の平均粒子径は、好ましくは5mm未満、より好ましくは1μm~3mm、更に好ましくは10μm~1mmであってもよい。このような粒子径を有していることによって、混合粉末として材料の偏析を防止し、安定した性能を発揮することができる。このような粒子径を有するリン酸塩粉末は、例えば、好適な粒子径を有する流通品として利用可能なものがあれば、それらを使用してもよく、または、粗大な粒子径を有するリン酸塩を粉砕することで得られた粉砕物を使用してもよい。
【0028】
リン酸塩粉末の平均粒子径は、例えば以下の方法で測定することができる。まず、循環経路内をエタノール(屈折率1.36、25℃)で満たしたレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、MT-3000EXII)に測定対象のサンプルを投入し、装置内蔵の超音波分散装置で40Wの超音波を3分間照射し、分散液を得て粒度分布を測定する。得られた体積基準粒度分布のチャートから、体積基準累積50%粒子径D50を得る。このようにして得られたD50を本発明の粒子径とする。上述した測定装置において、粒子情報の設定は、屈折率:1.81(25℃)、形状:非球形、透過/非透過の別:透過、とする。当該リン酸塩の屈折率は、装置説明書に記載された、対象物質の屈折率データが入手できていない場合の推奨値を採用し、各リン酸塩に同一の値を設定した。
【0029】
排煙処理材における各種リン酸塩粉末の含有割合は、無水物換算で、20~70質量%であり、好ましくは26~60質量%、より好ましくは30~45質量%である。このような含有割合となっていることによって、排煙中の鉛等の重金属類の不溶化性能を十分に発揮させることができる。
【0030】
また、排煙処理材における水酸化カルシウム粉末の含有割合は、好ましくは30~80質量%未満、より好ましくは40~74質量%、更に好ましくは55~70質量%である。このような含有割合となっていることによって、排煙中の酸化ガスの処理性能を十分に発揮させることができる。
【0031】
特に、排煙処理材における各種リン酸塩粉末の含有割合と、水酸化カルシウム粉末の含有割合との双方を上述した範囲に設定することによって、排煙中の鉛等の重金属類の不溶化性能及び酸化ガスの処理性能を高いレベルでバランスよく発揮させることができる点で有利である。
【0032】
本発明の排煙処理材は、更に添加材を含んでいてもよい。添加材としては、例えば、活性炭、活性白土、ゼオライトなどの多孔性物質、オルトケイ酸及びメタケイ酸等のケイ酸の金属塩、セメント粉末やカルシウムアルミネートなどの硬化性成分等を用いることができる。前述した添加材の他、原料由来の不純物等についても、本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。排煙処理材100質量部に対する水酸化カルシウム粉末とリン酸塩粉末との無水物換算での合計量は、85質量部以上であってもよく、90質量部以上が好ましく、95質量部以上がより好ましい。このような配合であることで、本発明の効果を効率的に発揮でき、排煙処理材の使用量を低減することが可能となる。
【0033】
各種添加材の添加の有無及び混合量については、予備的試験を行って、その結果に基づいて決定することが好ましい。
【0034】
本発明の排煙処理材は、例えば、必要に応じて、水酸化カルシウム及びリン酸塩の両粉末のうち少なくとも一方に対して、粉砕や解砕などの粒径制御処理を予め行った後、水酸化カルシウム粉末と、リン酸塩粉末とを混合することによって製造することができる。両粉末を混合するための装置は、当該技術分野で通常用いられる混合装置を用いることができ、例えば、リボンミキサー、パドルミキサー、ナウターミキサーなどを用いることができる。
【0035】
本発明の排煙処理材は、当該排煙処理材と、排煙とを接触させて排煙を処理する方法に供することができる。本方法は、酸性ガス及び重金属類を含有する排煙に対して排煙処理材を接触させて、排煙中の酸性ガス及び重金属類の双方を好適に中和及び不溶化処理することができる。典型的には、排煙は、酸性ガスなどを含む気体のみであるか、又は当該気体と、微粒子状の飛灰とを含む混合物である。このような排煙は、例えば、都市ごみ焼却場、産業廃棄物焼却場、あるいは、石炭を燃料とする火力発電所等で発生する。排煙中の重金属類は、主に排煙中の固形成分である飛灰に含まれており、重金属類はヒ素、六価クロム、鉛及びセレンの少なくとも一種であり、飛灰の多くは重金属として鉛を少なくとも含む。
【0036】
排煙処理材と排煙との接触方法は、例えば、排煙処理材を収容した容器に排煙を通過させたり、排煙の流路(煙道)に排煙処理材を吹き込んだりすることによって行うことができる。
【0037】
排煙1m3当たりの排煙処理材の添加量は、焼却場や火力発電所における焼却対象物の種類や処理量に応じて適宜変更可能であるが、排煙中の酸性ガス及び重金属類の効率的な処理と、処理コストの低減とを両立する観点から、好ましくは5~200g/m3であり、より好ましくは10~100g/m3であり、更に好ましくは30~90g/m3である。排煙の体積は、0℃、1気圧での値とする。
【0038】
また、飛灰の質量を100質量%とした場合、排煙処理材によって供給されるリン酸塩粉末の飛灰に対する質量割合は、好ましくは7.5~60質量%であり、より好ましくは13.5~50質量%であり、更に好ましくは15~30質量%である。このような比率となるように添加割合を調整することによって、飛灰中の鉛等の重金属類の不溶化を一層効率よく達成することができる。
【0039】
以下に、本発明の排煙処理材を用いた排煙の処理方法の一例について、
図1を参照して説明する。
図1には、ごみ焼却場の設備に関する模式図が示されている。本方法は、排煙処理材の粉末を排煙の流路に直接吹き込む乾式法を採用することが好ましい。
図1中、矢印は、排煙、排ガス及び排煙処理材の流通方向を示す。
【0040】
ごみ焼却場10の設備として、典型的には、収集車によって収集された都市ごみや産業廃棄物(以下、これらを単に「ごみ」ともいう。)を蓄積するためのごみピット20、ごみピット20に蓄積されたごみを焼却する焼却炉30、焼却炉30でのごみ焼却によって生じた高温の排煙から熱を回収する廃熱ボイラー40、排煙を冷却するための冷却塔50、冷却された排煙中の飛灰を集塵するためのバグフィルタ等の集塵設備60、及び集塵後の排煙を大気中へ排出する煙突70を備える。焼却炉30と廃熱ボイラー40との間、廃熱ボイラー40と冷却塔50との間、冷却塔50と集塵設備60との間、並びに集塵設備60と煙突70との間は、第1流路11、第2流路12、第3流路13及び第4流路14によってそれぞれ接続されており、これらの内部に排煙が流通可能なようにそれぞれ連通している。
【0041】
これに加えて、排煙処理材と排煙とが接触できるように構成された処理材供給部100を備えている。
図1に示す処理材供給部100は第3流路13と連通しており、第3流路13内に対して排煙処理材を吹き込むことによって、排煙処理材と、第3流路13内に流通する排煙とが互いに接触できるように構成されている。
【0042】
ごみ焼却場10においては、まず、ごみピット20に蓄積されたごみをクレーン等の移送設備を用いて空気とともに焼却炉30に供給し、ごみを焼却処理する。焼却炉30では、約800~1000℃程度で焼却処理が行われており、ごみの焼却に伴って、主灰と、高温の排煙が発生する。主灰は別途集積され、最終処分場にて処分されたり、他の製品の原材料として再利用されたりする。また、発生した排煙には、ごみの原料に起因して、酸性ガスや、鉛等の重金属類や塩化物、ケイ素化合物等を含む飛灰が含まれている。高温の排煙は、第1流路11、廃熱ボイラー40、第2流路12及び冷却塔50を通過して、300℃程度に急速冷却される。冷却後の排煙には、気体成分である酸性ガスや、固体成分として当該ガスとともに飛散した飛灰が含まれている。冷却後の排煙は、排煙中成分からのダイオキシン再合成を抑制する観点から200℃以下に冷却されており、一般に100℃~200℃、好ましくは140℃~200℃である。冷却後の排煙は、第3流路13側に流通する。なお、好ましい下限値である100℃は、第3流路13等における結露の防止の観点から定められたものである。
【0043】
次いで、排煙処理材と冷却後の排煙とを接触させる。接触方法は、粉末状の排煙処理材を排煙流路内に予め保持しておき、当該排煙処理材に排煙を通過させる方法であってもよく、排煙流路内に排煙処理材を吹き込む方法であってもよい。これらのうち、排煙が流通している第3流路13内に、処理材供給部100から本発明の排煙処理材を吹き込んで行うことが排煙処理の利便性を高める観点から好ましい。
【0044】
排煙処理材は水酸化カルシウムを含むので、水酸化カルシウムと、塩化水素等を含む酸性ガスとを接触させることで、中和反応により塩化カルシウム等の中性カルシウム塩を形成させて、排煙中の酸性ガスを除去する。生成した中性カルシウム塩及び未反応の排煙処理材は、粉状等の固体の性状で第3流路13を流通するので、これらは飛灰とともに集塵設備60にて回収除去され、排煙から固体成分が除去された排ガスとなる。集塵設備60にて集塵された排煙処理材、各種塩及び飛灰等の固体成分は、捕集灰として飛灰集積部61に収容される。このとき、飛灰集積部61では、集積された粉体の発塵を防止することを目的として、捕集灰に対して、水を散布等によって添加して、水と接触させることがある。水の散布量は、集積された粉体全量に対して20~40質量%が一般的である。
【0045】
飛灰集積部61に集積された捕集灰は、一定期間、例えば1日以上養生したあと、最終処分場へ移送され、処分される。そして、集塵設備60を通過した排ガスは、必要に応じて、有害物質除去設備や脱硝設備等を通過させて、排ガスに残存している酸性ガスや有害物質を除去してもよい。その後、排ガスは、第4流路14を介して煙突70から大気中へ排出される。
【0046】
排煙の処理にあたり、飛灰を含む排煙に、当該排煙中の酸性ガスを処理すべく水酸化カルシウムを接触させると、処理後の捕集灰は強アルカリ性になる。排煙中の重金属類、特に鉛は両性金属元素であり、飛灰中の含有量が多いので、飛灰中の鉛が強アルカリ条件にさらされると、水への溶出量が多くなるイオン形に変化しやすくなる。このため、従来、典型的には、例えば上述した飛灰集積部61等の集塵設備などに排煙を通過させて、排煙中の飛灰を集塵したあと、集塵した飛灰を含む粉体に対して有機キレート材を混合して、鉛等の重金属類を不溶化処理し、不溶化処理後の飛灰を廃棄物として処分場にて処分する。
【0047】
詳細には、飛灰を含む固形廃棄物は、排水処理施設を有する管理型の最終処分場にて埋め立て処分される。管理型の処分場では、廃棄物を透過した雨水等の水が上述の排水処理施設に集められるが、鉛等の重金属類を含む水やCODが高い水は、別途浄化処理が必要であり、その結果、長期にわたって莫大な処理コストが発生する。有機キレート材を用いない場合は、鉛などの重金属類の不溶化が達成できず、処理場から発生した排水処理コストを低減できない。また有機キレート材を用いる場合、鉛等の重金属類の不溶化はある程度達成可能であるが、処分場において有機キレート材が分解して、処分場からの浸出水のCODが過度に高くなり、この場合でも、処理場から発生した排水処理コストの低減が困難である。
【0048】
この点に関して、無機化合物を含んで構成されている本発明の排煙処理材を排煙処理に用いることによって、排煙中の酸性ガスの除去と、鉛等の重金属類の排出抑制とを有機キレート材を別途用いなくとも両立して達成することができる。
【0049】
これに加えて、処理後の飛灰に対しても、重金属類や有機物質に起因する水質環境への悪影響が低減され、処理場から発生した排水の処理コストも低減できるという利点も奏される。また、本発明で利用する各リン酸塩は水酸化カルシウムとの相互作用が少ないので、水酸化カルシウムと混合して用いても変質が低減できるので有利である。
【0050】
このように、本発明の排煙処理材を用いることによって、排煙中の酸性ガスを効率的に除去し、飛灰中の重金属類を不溶化することができる。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0052】
〔安定性試験〕
排煙処理材(実施例)及び混合粉末(比較例)の保管中における変質の有無を評価した。水酸化カルシウム:リン酸塩=7:3の比率で配合した排煙処理材を、深皿のシャーレに10g分取し、恒温恒湿槽を用いて35℃、70%RHの環境で保管し、24時間、48時間経過後の重量変化と、48時間経過後の異相形成の有無を評価した。なお、水酸化カルシウム及びリン酸塩については、後述の“模擬灰の作製”に記載したものと同じものを用いた。
異相形成の評価としては、下記条件で2θ=5~50°の範囲にてXRD測定を行った結果を用いた。配合した原料組成以外の検出ピークを保管中に形成された異相として、XRDパターンでの異相ピーク検出の有無を確認した。
【0053】
(XRD測定条件)
装置:X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス製NEW D8 ADVANCE)
X線源:CuKα(Niフィルター使用)、管電圧:40kV、管電流:40mA、検出器:1次元半導体高速検出器LynxEye、入射/受光スリット:0.30度、ステップ幅:0.02度、計数時間:1秒/ステップ
【0054】
【0055】
試験条件は、保管・流通環境として想定される範囲で、過酷な環境に暴露され続けたものとして設定した。これにより、室温等の良好な条件で保管した場合と比較して、短期間で変質等の影響を確認することができる。
【0056】
比較例1のリン酸水素二カリウムを配合した混合粉末では24時間経過の時点で大きな重量増加が確認され、その他の本発明外の比較例2、3における第一リン酸カルシウム、リン酸二水素ナトリウムを配合した混合粉末でも重量増加が確認された。このような試料では吸湿による付着性の増大、粒子間または粒子と装置内壁での固結等の問題が発生しやすく、取扱性の大幅な悪化が生じやすい。また、比較例1、2のリン酸水素二カリウムや第一リン酸カルシウムを配合した混合粉末では、それぞれ異相が確認された。このような試料では、保管・流通中に排煙処理材中の有効成分の含有量が減少し、性能低下による使用量増加が懸念される。
【0057】
なお、本発明となる実施例1―3のリン酸塩を配合した排煙処理材では顕著な重量増加はなく、異相の形成も認められない。このようなリン酸塩を用いることにより、鉛等の重金属類の不溶化を十分に行うことができ、当該重金属類の排出抑制を安定して発揮することができる。
【0058】
〔重金属類の不溶化性能の評価〕
(模擬灰の作製)
重金属類として鉛を対象に、排煙処理材(実施例)及び混合粉末(比較例)による不溶化性能の評価を行った。まず、ごみ焼却施設等の灰集積部から回収される捕集灰を想定して、シリカ源、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、塩化鉛、及び、各配合で使用するリン酸塩粉末を混合し、鉛を含む模擬灰を作製した。
(模擬灰)
シリカ源:フライアッシュ(JIS試験用粉体1の5種)
水酸化カルシウム:宇部マテリアルズ製、カルブリードSII平均粒子径(D50):6.5μm、BET比表面積:45m2/g、20~1000Åの細孔径範囲における全細孔容積:0.22mL/g、見かけ比重(ゆるみ比重):0.36g/cm3、見かけ比重(固め比重)0.65g/cm3
塩化カルシウム、塩化鉛:市販品
各種リン酸塩:市販品
水酸化カルシウムを用いて酸性ガス処理を行った際の捕集灰に含まれる未反応水酸化カルシウムの再現として、模擬灰での水酸化カルシウムの含有量は、未反応率(水酸化カルシウムのモル数/(水酸化カルシウムのモル数+塩化カルシウムのモル数))40%とした。
【0059】
〔不溶化性能評価〕
上記の手順で作製した模擬灰を水と混合した後、1日間養生(室温で静置)した。水は模擬灰全量に対して20質量%とした。その後、養生した模擬灰に対して、水分率約40体積%の湿り空気500ml/min流通下で、180℃、3時間加熱した。加熱条件は、前述した集塵設備の環境を想定している。鉛の溶出試験を産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法(昭和48年2月環境庁告示第13号、以下環境庁告示第13号)に定められた方法に準じて行い、鉛イオン濃度(mg/L)とpHを測定した。なお、模擬灰配合にてリン酸塩を用いない場合、環境庁告示第13号試験における結果は、鉛イオン濃度10mg/L、pH12であった。
【0060】
鉛イオン濃度の評価基準値を0.3mg/Lとし、当該基準値以下であれば、鉛の不溶化性能は良好であると評価した。鉛イオン濃度が低いほど、鉛の不溶化性能が高いことを示す。結果を以下の表2に示す。なお表2に示す各排煙処理材のリン酸塩割合は、模擬灰配合における水酸化カルシウム相当量とリン酸塩配合量との合計に対するリン酸塩配合量の比率である。
【0061】
【0062】
実施例5、実施例8、実施例10及び比較例7-10におけるリン酸塩割合28重量%の排煙処理材及び混合粉末で比較すると、本発明の3種のリン酸塩を配合した排煙処理材では加熱後であっても目標値(0.3mg/L)を十分に満たしているが、他リン酸塩を配合した混合粉末では目標値に到達せず、特に比較例9、10のリン酸二水素ナトリウムやリン酸水素マグネシウムを配合した混合粉末では不溶化性能が大幅に劣っている。
【0063】
実施例4―7及び比較例5におけるリン酸二水素アンモニウムを配合した排煙処理材及び混合粉末の不溶化性能とリン酸塩割合の関係から、本発明で特定する範囲のリン酸塩割合では、十分な不溶化が達成される。また、実施例7のリン酸塩割合61重量%の排煙処理材では不溶化後のpHが酸性となっているが鉛は溶出していないことから、pH変動に対して耐性がある形態での不溶化が達成されていることが分かる。
【0064】
上記の結果から、本発明で特定する範囲で水酸化カルシウムとリン酸塩の配合を調整することにより、混合粉末として安定であり、熱履歴を受けた場合であっても安定して高い性能を発揮可能な排煙処理材を得られることが確認できる。
【0065】
〔酸性ガス除去性能の評価〕
水酸化カルシウム単独(参考例)並びに水酸化カルシウム及びリン酸塩の混合粉末である排煙処理材(実施例12)を用いて、酸性ガス除去性能の評価を行った。具体的な手順は以下のとおりである。まず、水酸化カルシウム10gと、水酸化カルシウム及びリン酸二水素アンモニウムの10g(水酸化カルシウム:リン酸二水素アンモニウム=70:30)とからなる排煙処理材を粒径1mm程度の顆粒状に成形して、当該成形品を常温で24時間真空脱気処理した。その後、当該成形品を吸着カラム内に充填して180℃に加熱し、系内にO2:10体積%、HCl:1000体積ppm、SO2:100体積ppm、H2O:15体積%、CO2:10体積%、N2:残部とした模擬排ガスをSV50000/hにて供給した。そして、吸着カラムを通過した模擬排ガスを捕集液(組成:0.3%過酸化水素水)に導入し、1時間捕集した。
【0066】
各捕集液は250mlにメスアップし、捕集液中のHCl及びSO2濃度をイオンクロマトグラフ法にて定量、捕集液中のHCl及びSO2濃度の算術平均値を算出し、カラム通過後の模擬排ガス中における酸性ガス濃度とした。供給された模擬排ガス中の酸性ガス濃度に対する、カラム通過前後での模擬排ガス中の酸性ガス濃度変化量を、酸性ガス除去率として、排煙処理材の酸性ガス処理性能を表3に整理した。酸性ガス除去性能の評価規準は、参考例とする水酸化カルシウムのみからなる排煙処理材のガス処理性能に対して、水酸化カルシウム相当分である70%以上の除去性能を発揮すれば良好とした。
【0067】
【0068】
リン酸二水素アンモニウムを30質量%含有する実施例12の排煙処理材は、参考例とした排煙処理材に対して、水酸化カルシウム含有割合から想定される以上の酸性ガス処理性能を発揮した。