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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000978
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】医療用熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/10 20060101AFI20221222BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20221222BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20221222BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20221222BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
C08L83/10
C08L23/00
C08L23/10
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171716
(22)【出願日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2021100702
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 二朗
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA15
3E086BB01
3E086BB51
3E086BB52
3E086CA28
3E086DA01
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK52A
4F100AL02A
4F100AL05A
4F100BA02
4F100CA06A
4F100EH20
4F100GB16
4F100GB66
4F100JA04
4F100JK01
4F100YY00A
4J002BB02X
4J002BB03X
4J002BB04X
4J002BB11X
4J002BB12X
4J002BB14X
4J002BB15X
4J002BP02X
4J002CP17W
4J002GB00
4J002GF00
(57)【要約】
【課題】医療用として用いた場合、特にタンパク質等の薬剤に対して低吸着性に優れた樹脂成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】シリコーンブロックとポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体(A)とポリオレフィン系樹脂(B)を含有し、ブロック共重合体(A)として、特定の不飽和結合基を有するポリオレフィンと特定のシロキサンコポリマーを用いる、医療用熱可塑性樹脂組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンブロックとポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体(A)とポリオレフィン系樹脂(B)を含有する医療用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂(B)がポリプロピレン系樹脂である、請求項1に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ブロック共重合体(A)がシリコーンブロックとポリプロピレンブロックを有するブロック共重合体である請求項1又は2に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ブロック共重合体(A)が下記構造単位(I)を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
(式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
【請求項5】
前記構造単位(I)のR及びRがメチル基である、請求項4に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物に含まれるブロック共重合体(A)由来のプロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基数が2.5~210である、請求項5に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記ブロック共重合体(A)のプロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基数が50~300である、請求項5又は6のいずれか一項に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
[ブロック共重合体(A)の質量]/[ポリオレフィン系樹脂(B)の質量]で表される含有割合が、5/95~70/30である請求項1~7のいずれか一項に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載された医療用熱可塑性樹脂組成物よりなる成形体。
【請求項10】
前記成形体は、プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、及び注射器シリンジから選ばれる一種である請求項9に記載の成形体。
【請求項11】
ポリオレフィン系樹脂を含む基材層、及び請求項1~8のいずれか一項に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物からなる層を有する医療用積層体。
【請求項12】
前記基材層を構成するポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である請求項11に記載の医療用積層体。
【請求項13】
請求項11又は12に記載された医療用積層体を用いた医療用包装袋。
【請求項14】
請求項13に記載された医療用包装袋を用いた輸液バッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンは、優れた機械強度を有しながら加工性、耐薬品性、電気的性質にも優れ、また軽量かつ安価であるため、生活部材や工業部材等の用途に幅広く用いられている。
ポリオレフィンに対して改善が望まれている特性として、特に撥水性、撥油性、防汚性、非接着性、低吸着性、ガス透過性等の表面特性がある。これらの性能については、トイレタリーや食品などの生活産業材料分野において、また、防汚性や低吸着性などが要求される医療用衛生材料分野において、特にその改良が期待されている。
医療用衛生材料分野に用いる場合、非接着性の中でも、タンパク質等の薬剤の吸着性が低いものが特に好ましいが、ポリプロピレン材料は、タンパク質等の薬剤の吸着性が高い傾向にある。
【0003】
ところで、表面特性を改質する目的で、ポリオレフィン材料として、シリコーンをブロック共重合させることが知られている。このようなブロック共重合体の例として、特許文献1に示されているような、所定のポリプロピレンとシロキサンコポリマーの重合体があげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-59810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には、記載のポリプロピレンとシロキサンコポリマーの重合体を医療用として用いた場合についての言及がなく、特にタンパク質等の薬剤に対して吸着性を低くすることができるか否かについて、検討されていない。
そこで、この発明は、医療用として用いた場合、特にタンパク質等の薬剤に対して低吸着性に優れた樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものである。即ち、本発明の課題は、低吸着性に優れた熱可塑性樹脂組成物からなる医療用成形体を提供することを目的とする。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0007】
[1]シリコーンブロックとポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体(A)とポリオレフィン系樹脂(B)を含有する医療用熱可塑性樹脂組成物。
[2]前記ポリオレフィン系樹脂(B)がポリプロピレン系樹脂である、[1]に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
[3]前記ブロック共重合体(A)がシリコーンブロックとポリプロピレンブロックを有するブロック共重合体である[1]又は[2]に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
[4]前記ブロック共重合体(A)が下記構造単位(I)を有する、[1]~[3]のいずれか一項に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
【0008】
【化1】
【0009】
(式(I)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10の炭化水素基を表す。)
[5]前記構造単位(I)のR及びRがメチル基である、[4]に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
[6]前記熱可塑性樹脂組成物に含まれるブロック共重合体(A)由来のプロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基数が2.5~210である、[5]に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
[7]前記ブロック共重合体(A)のプロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基数が50~300である、[5]又は[6]のいずれか一項に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
[8][ブロック共重合体(A)の質量]/[ポリオレフィン系樹脂(B)の質量]で表される含有割合が、5/95~70/30である[1]~[7]のいずれか一項に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物。
【0010】
[9][1]~[8]のいずれか一項に記載された医療用熱可塑性樹脂組成物よりなる成形体。
[10]前記成形体は、プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、及び注射器シリンジから選ばれる一種である[9]に記載の成形体。
[11]ポリオレフィン系樹脂を含む基材層、及び[1]~[8]のいずれか一項に記載の医療用熱可塑性樹脂組成物からなる層を有する医療用積層体。
[12]前記基材層を構成するポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である[11]に記載の医療用積層体。
[13][11]又は[12]に記載された医療用積層体を用いた医療用包装袋。
[14][13]に記載された医療用包装袋を用いた輸液バッグ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低吸着性に優れた熱可塑性樹脂組成物からなる医療用成形体を提供することができる。ポリオレフィンと表面改質効果の高いシリコーン-ポリオレフィンブロック共重合体であるシリル化ポリオレフィンを含有する樹脂組成物を用いることにより、その樹脂組成物の表面特性を効果的に改善し、特に低吸着性等の特性を向上させることができる。これにより、このタンパク質等の薬剤の低吸着性の優れた医療用成形体を、エネルギー効率よく、かつブロック構造の選択性が高い状態で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。尚、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0013】
この発明にかかる医療用熱可塑性樹脂組成物は、シリコーンブロックとポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体(A)とポリオレフィン系樹脂(B)を含有する樹脂組成物である。
【0014】
〔ブロック共重合体(A)〕
本発明のブロック共重合体(A)は下記、構造単位(I)を有するシリコーン(シリコーンブロックと呼ぶこともある)とポリオレフィンのブロック共重合体であり、式(I)中、R~Rは、それぞれ独立に、炭素数1~10の炭化水素基を表す。このR~Rは、それぞれ好ましくは炭素数1~6の炭化水素基であり、特にメチル基であることが好ましい。
【0015】
【化2】
【0016】
また、前記シリコーンブロック中に下記、構造単位(II)を有していても良い。式(II)中、Rは、炭素数1~10の炭化水素基を表す。Rは、好ましくは炭素数1~6の炭化水素基であり、特にメチル基であることが好ましい。
【0017】
【化3】
【0018】
前記ブロック共重合体(A)のポリオレフィンブロックはポリプロピレンブロックが好ましく、ポリプロピレンブロックのプロピレン単位の含有率は50質量%以上であり、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体のいずれも使用することができ、ポリオレフィン系樹脂との相溶性、耐熱性、強度や成形性に寄与する。
【0019】
前記ブロック共重合体(A)のポリプロピレンブロックがプロピレンランダム共重合体である場合、プロピレンと共重合する単量体としては、例えば、エチレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンが挙げられる。
【0020】
前記ブロック共重合体(A)のポリプロピレンブロックがプロピレンブロック共重合体
である場合、多段階で重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられ、より具体的には、第一段階でポリプロピレンを重合し、第二段階でプロピレン・エチレン共重合体を重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられる。
前記ポリプロピレンブロックは、通常本発明の効果が損なわれない範囲で、主鎖中にプロピレン以外のコモノマーに由来するセグメントを含んでいても良い。
【0021】
前記ブロック共重合体(A)のポリプロピレンブロックのプロピレン単位の含有率は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。プロピレン単位の含有率が前記下限値以上であれば耐熱性及び剛性が良好となる。前記ブロック共重合体(A)のポリプロピレンブロックのプロピレン単位の含有率の上限は、通常100質量%である。
尚、前記ブロック共重合体(A)におけるポリプロピレンブロックのプロピレン単位の含有率は、赤外分光法により求めることができる。
【0022】
前記ブロック共重合体(A)の融点(Tm)は、耐熱性や耐オートクレーブ滅菌性の観点から、高い方が好ましく、通常120℃以上、好ましくは130℃以上である。通常165℃以下である。シリル化ポリプロピレンの融点は、示差走査熱量計(DSC)によって測定する。
【0023】
前記ブロック共重合体(A)中の、プロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基数は、50~300が好ましく、70~200がより好ましい。前記ブロック共重合体(A)中のプロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基(Si(CH)数が前記下限以上であれば、タンパク質の低吸着性を発現しやすい傾向にあり、前記上限以下であれば、ポリオレフィン樹脂との相溶しやすい傾向にあり、医療用成形体としたときに強度や外観に優れる傾向にある。
【0024】
ここで、ブロック共重合体(A)中のプロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基の数は、ブロック共重合体(A)のH-NMRにおいて、下記の式(1)を用いて求めることができる。
プロピレン構造(-CH-CH(CH)-)1000個あたりのジメチルシリル基の数=1000×(0.1~0.3ppm領域のジメチルシリルシグナルの積分値/6)/(0.5-2.40ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値/6) …(1)
【0025】
前記ブロック共重合体(A)のプロピレン構造1000個あたりのヒドロシリル基(S-H)数に特に規定はないが、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。シリコーンのSH基と不飽和PPの二重結合が反応するので、SH基は未反応部分を意味する。
ここで、前記ブロック共重合体(A)のプロピレン構造1000個あたりのヒドロシリル基の数はブロック共重合体(A)のH-NMRにおいて、下記の式(2)を用いて求めることができる。
プロピレン構造1000個あたりのヒドロシリル基の数=1000×(4.8~5.0ppm領域のヒドロシリルシグナルの積分値)/((0.5-2.40ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/6) …(2)
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のブロック共重合体(A)由来のプロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基数とは、熱可塑性樹脂組成物中のブロック共重合体(A)に共有結合しているジメチルシリル基であり、ブロック共重合体(A)に共有結合していない未反応のシリコーンやその他成分のシリコーンオイル等のSi成分は含まれない。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のブロック共重合体(A)由来のプロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基数は、下記のように測定する。
まず、熱可塑性樹脂組成物に含まれるブロック共重合体(A)に共有結合していない未反応のシリコーンやその他成分のシリコーンオイル等を除去する。本発明のブロック共重合体(A)に共有結合していない未反応のシリコーンやその他成分のシリコーンオイル等を除去する方法の例として、トルエンやキシレン等の溶媒に熱可塑性樹脂組成物を加え、加熱溶解後、イソプロピルアルコール等の貧溶媒を添加、再沈・ろ過し、その後、ヘプタンやアセトン洗浄する方法等がある。
前記方法で、未反応のシリコーンやその他成分のシリコーンオイル等を除去したものを、H-NMRの試料とし、測定を実施する。得られたH-NMRスペクトルより、前記と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物中のブロック共重合体(A)由来のプロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基数とヒドロシリル基数を算出する。
【0027】
前記熱可塑性樹脂組成物に含まれるブロック共重合体(A)由来のプロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基数が2.5~210が好ましく、4~150がより好ましい。
熱可塑性樹脂組成物中のブロック共重合体(A)由来のプロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基数が前記下限以上であれば、タンパク質の低吸着性を発現しやすい傾向にあり、前記上限以下であれば、ポリオレフィン樹脂との相溶しやすい傾向にあり、医療用成形体としたときに強度や外観に優れる傾向にある。
なお、このジメチルシリル基数は、前記熱可塑性樹脂組成物に含まれるブロック共重合体(A)由来のプロピレン構造を基準としたものである。すなわち、ブロック共重合体(A)を構成するプロピレン構造の他、前記ポリオレフィン系樹脂(B)に含まれるポリプロピレン系樹脂等のプロピレン構造を含むプロピレン構造を基準としたものである。
【0028】
前記ブロック共重合体(A)の数平均分子量は8000以上が好ましく、10000以上がより好ましい。また、100000以下が好ましく、75000以下がより好ましく、50000以下が更に好ましい。ブロック共重合体(A)の数平均分子量が前記下限以上であれば、強度に優れる傾向にあり、前記上限以下であれば、成形性に優れる傾向にある。
【0029】
〔ブロック共重合体(A)の製造方法〕
本発明のブロック共重合体(A)は、例えば(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンと、(b)下記構造単位(I)及び構造単位(II)を有するシロキサンコポリマーとを反応させることにより製造することができる。
【0030】
【化4】
【0031】
【化5】
【0032】
[(a)不飽和結合基を有するポリプロピレン]
本発明において、(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンは、ポリプロピレン構造の少なくとも1つの末端に不飽和結合基を有することが好ましい。この不飽和結合基としては、ビニリデン基(CH=C<)等をあげることができる。
このビニリデン基を有するポリプロピレンの例としては、下記の一般式(III)や(IV)等で表すことができる。
【0033】
【化6】
【0034】
【化7】
【0035】
なお、一般式(III)及び(IV)の「PP」はポリプロピレン構造を表す。
ところで、この(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンは、本発明の効果が損なわれない範囲で、主鎖中にプロピレン以外のコモノマーに由来するセグメントを含んでいてもよい。
【0036】
(不飽和結合基数)
前記の(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンにおいて、不飽和結合基を有するポリプロピレンの不飽和結合基数は、当該1つの不飽和結合基に含まれる不飽和結合数をxとしたとき、H-NMR測定結果より以下の式(3)を用いて求めることができる。
(不飽和結合基数×x)/プロピレン構造1,000個=1000×(不飽和結合基由来のシグナルの積分値/不飽和結合基の水素の数)/(3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値/プロピレン構造(-CH-CH(CH)-)の水素の数)
…(3)
例えば、不飽和結合がビニル基、ビニリデン基、ビニレン基の場合、下記のH-NMR測定結果より、それぞれ以下の式(3-1)~(3-3)を用いて求めることができる。
・ビニル基数/プロピレン構造1,000個=1000×((4.9-5.1,5.7-5.9ppm領域のビニルシグナルの積分値)/3)/((3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/6) …(3-1)
・ビニリデン基数/プロピレン構造1,000個=1000×((4.69,4.74ppmのビニリデンシグナルの積分値)/2)/((3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/6) …(3-2)
・ビニレン基数/プロピレン構造1,000個=1000×((5.3-5.5ppm領域のビニレンシグナルの積分値)/2)/((3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)/6) …(3-3)
【0037】
本発明中で用いられる(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンのプロピレン構造(プロピレン単位)1,000個あたりの不飽和結合基数は1.0以上であり、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは3.0以上である。又は通常10.0以下であり、好ましくは8.0以下であり、より好ましくは6.0以下である。前記不飽和結合基数が前記下限以上とすることにより、本発明のシリル化ポリプロピレンの撥水性、撥油性、防汚性、非接着性等の効果を十分に発現することができる。また、前記不飽和結合基数が前記上限以下とすることにより、本発明のシリル化ポリプロピレンとポリプロピレンとの相溶性を十分に発現することができる。
【0038】
((a)不飽和結合基を有するポリプロピレンの数平均分子量)
本発明に用いられる(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンの数平均分子量(Mn)は、製造されるシリル化ポリプロピレン及びそれを含む組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性の観点から、通常8,000以上、好ましくは9,000以上、より好ましくは10,000以上である。またその数平均分子量は、通常200,000以下、好ましくは150,000以下、より好ましくは100,000以下である。前記上限値以下だと、機械物性とシリル化ポリプロピレンの物性を両立し易い。数平均分子量はGPC測定により求められる。
【0039】
((a)不飽和結合基を有するポリプロピレンの製造方法)
本発明で用いられる(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンを製造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の不飽和結合基を有するポリプロピレンの製造方法を適宜用いることができ、熱分解やラジカル分解によって分子鎖の切断によってポリプロピレン分子の片末端、乃至両末端に不飽和結合基を導入する製造方法が好ましい。例えば、不飽和結合基がビリニデン基の場合、管状反応器を用い、高分子量ポリプロピレンを、不活性ガス中、通常300~450℃で0.5~10時間熱減成して、連続的に製造する方法などが挙げられる。
また、本発明で用いられる(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンは、市販の該当品を用いることも可能である。具体的には、不飽和結合基がビリニデン基の場合、下記に挙げる製造者等から調達可能であり、適宜選択することができる。入手可能な市販品の具体例としては、三洋化成工業(株)のビスコール(登録商標)、三井化学(株)のハイワックス(登録商標)がある。
【0040】
[(b)シロキサンコポリマー]
本発明で用いる(b)シロキサンコポリマーは、下記構造単位(I)及び構造単位(II)を有するシロキサンコポリマーである。
【0041】
【化8】
【0042】
【化9】
【0043】
式(I)、(II)中、R~Rは、それぞれ独立に、炭素数1~10の炭化水素基を表す。そして、R~Rは、好ましくは炭素数1~6の炭化水素基であり、特にメチル基であることが好ましい。
【0044】
本発明で用いる(b)シロキサンコポリマーは、前記構造単位(I)と(II)を含む。構造単位(I)はシリル化で期待される撥水性、撥油性、防汚性、接着性、吸着性、ガス透過性などの表面特性に優れた性質を示すために必要な構造単位である。構造単位(II)は上述の(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンとの反応に必要な構造単位である。本発明で用いる(b)シロキサンコポリマーとしては、構造単位(II)は不飽和結合基を有するポリプロピレンとの反応に必要な量が含まれていればよく、構造単位(II)は多すぎない方が好ましい。構造単位(II)が多くなり過ぎる場合、(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンと(b)シロキサンコポリマーとの反応中に副反応を併発する場合が多くなり、選択性の観点で好ましくない。一方で、構造単位(I)は、シリル化で期待される性質を高めるためには、多い方が好ましい。
【0045】
そのような観点から、本発明で用いる(b)シロキサンコポリマーは、好ましくは、構造単位(I)及び構造単位(II)の合計(個数)に占める構造単位(II)(個数)の割合、構造単位(II)の個数/{構造単位(II)の個数+構造単位(I)の個数}が0.8以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましく、更に好ましくは0.4以下である。一方、この比率は通常0.01以上、好ましくは0.05以上である。前記範囲では、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂との親和性とシリル化による効果を、バランスよく得やすい傾向がある。
【0046】
なお、ここでそれぞれの構造単位(I)と(II)の個数を算出する方法は以下のとおりである。
まず、構造単位(I)(個)と構造単位(II)(個)は、以下の式(4)の関係にあ
る。
シロキサンコポリマーの数平均分子量Mn(g/mol)=両末端部位の分子量+構造単位(II)(個)×構造単位(II)の分子量+構造単位(I)(個)×構造単位(I)の分子量 …(4)
【0047】
構造単位(II)(個)は、それぞれのシロキサンコポリマーのSi-H反応基置換比率(mmol/g)から計算することができる。構造単位(I)(個)を計算するためには、シロキサンコポリマーの数平均分子量Mnと、両末端部位の分子量、構造単位(II)の分子量、構造単位(I)の分子量が必要となる。ここでは、簡易的に、両末端部位の置換基、R~Rが、いずれもメチル基の場合について説明する。
両末端部位、構造単位(I)、構造単位(II)の分子量は、それぞれ[a]、[b]、[c]で示される構造単位の分子量として表すことができる。それらの構造に対応する分子量は、Mn[a]=162.38、Mn[b]=60.13、Mn[c]=74.15となる。
【0048】
【化10】
【0049】
【化11】
【0050】
【化12】
【0051】
一方、シロキサンコポリマーの数平均分子量(Mn)については、それぞれのシロキサンコポリマーの25℃における動粘度(cSt)ηを用い、Barryの式
logη=1.00+0.0123×Mn0.5
(J.Appl.Physics,1946,17,1020)を用いて計算することができる。ここでηは25℃における動粘度(cSt)、Mnは数平均分子量である。
このMnと、構造単位(II)(個)、両末端部位、構造単位(I)、構造単位(II)の分子量を前記式(4)に代入することで、構造単位(I)(個)を計算することができる。構造単位(I)と(II)の個数は、構造単位(I)と(II)の仕込み量からも
計算できる。
【0052】
本発明で用いる(b)シロキサンコポリマーの25℃における動粘度ηは、通常1cSt以上であり、好ましくは5cSt以上であり、より好ましくは10cSt以上であり、特に好ましくは50cSt以上である。動粘度が前記下限以上であると、(b)シロキサンコポリマーの分子量が十分に大きく、その分構造単位(I)を多く保有することになり、撥水性、撥油性、防汚性、接着性などの表面特性や、ガス透過性の効果が大きくなる。
【0053】
本発明で用いる(b)シロキサンコポリマーの数平均分子量(Mn)の範囲は、通常500以上であり、好ましくは1000以上である。動粘度と同様の理由で、(b)シロキサンコポリマーの分子量が大きいほど、撥水性、撥油性、防汚性、接着性などの表面特性や、ガス透過性の効果が大きくなるが、(b)シロキサンコポリマーの数平均分子量(Mn)の上限は通常20000以下である。ここで、(b)シロキサンコポリマーの数平均分子量は、前述の通り、25℃における動粘度(cSt)ηを用い、Barryの式
logη=1.00+0.0123×Mn0.5
(J.Appl.Physics,1946,17,1020)を用いて計算することができる。
【0054】
本発明に用いられるシリル化ポリプロピレンの融点(Tm)は、特に限定されるものではないが、製造されるシリル化ポリプロピレン及びそれを含む組成物の耐熱性や粘弾性等の機械的特性の観点から、高い方が好ましく、通常120℃以上、好ましくは130℃以上である。通常165℃以下である。シリル化ポリプロピレンの融点は、示差走査熱量計(DSC)によって測定する。
【0055】
本発明に好適な(b)シロキサンコポリマーの市販品としては、後掲の実施例において使用したNusil Technology社製「XL-116」の他、以下のようなものが挙げられる。なお、以下において、各々のシロキサンコポリマーについて、構造単位(I)(個)と構造単位(II)(個)から、構造単位(II)/{構造単位(I)+構造単位(II)}を計算した結果も併記した。
【0056】
i)Nusil Technology社製、製品名「XL-110」
・メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサンコポリマー
・数平均分子量:1,047
・動粘度(25℃):4cSt
・Si-H反応基置換比率:7.0mmol/g
・屈折率:1.40
・構造単位(II)/{構造単位(II)+構造単位(I)}:0.55
【0057】
ii)Nusil Technology社製、製品名「XL-115」
・メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサンコポリマー
・数平均分子量:3,229
・動粘度(25℃):50cSt
・Si-H反応基置換比率:4.2mmol/g
・屈折率:1.40
・構造単位(II)/{構造単位(I)+構造単位(II)}:0.31
【0058】
[(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンと(b)シロキサンコポリマーとの反応]
本発明における(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンの(b)シロキサンコポリマーによるヒドロシリル化反応においては、その一つの態様において、遷移金属錯体の触媒を使用する。この触媒としては、周期律表第8~10族の遷移金属錯体が好ましく、例
えば、白金錯体、ロジウム錯体、コバルト錯体、パラジウム錯体及びニッケル錯体が挙げられる。本発明においては、これらのうち白金触媒を用いることが好ましく、中でも塩化白金酸及び白金オレフィン錯体などの白金錯体を用いることが好ましい。触媒の使用割合は、(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンに対して、金属換算で通常0.1~1000質量ppm程度、好ましくは1~500質量ppm、特に好ましくは5~100質量ppmである。
【0059】
(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンと(b)シロキサンコポリマーの仕込み比率((a)/(b))(モル比)は、(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンの不飽和結合基としてビニリデン基を用いた場合において(以下、「(a)ビニリデン基を有するポリプロピレン」と称することがある。)、通常1:0.1~30、好ましくは1:0.5~10である。(a)ビニリデン基を有するポリプロピレンの不飽和結合基と(b)シロキサンコポリマーのヒドロシリル基のヒドロシリル化反応を効果的に行うためには、(a)ビニリデン基を有するポリプロピレンよりも(b)シロキサンコポリマーを過剰に仕込む必要がある。
なお、(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンの不飽和結合基としてビニリデン基以外の不飽和結合基を用いる場合は、その1つの不飽和結合基に含まれる不飽和結合数をxとしたとき、(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンと(b)シロキサンコポリマーの仕込み比率(モル比)について、((a)×x)/(b))が前記した範囲を満たせばよい。
【0060】
前記ヒドロシリル化反応は、溶融状態で行ってもよく、溶液状態で行ってもよい(以下、それぞれ「溶融反応」及び「溶液反応」と称することがある。)。溶融反応の場合、反応温度は、(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンの溶融温度以上とすることを要し、通常100~250℃程度、好ましくは150~200℃である。溶液反応の場合、反応温度は、通常-30~150℃程度、好ましくは30~140℃である。反応時間は、1分~20時間程度である。ヒドロシリル化反応は、通常、常圧において行うが、加圧下で行ってもよい。
【0061】
前記溶融反応には、典型的な加工処理装置(例えば押出機、バッチミキサー及びホットプレスなど)を用いることができる。反応は回分式で行っても連続式で行ってもよい。この溶融反応は、(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンの溶融相で行う。この場合、(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンと(b)シロキサンコポリマーと触媒である遷移金属錯体は、反応前に混合してもよく、反応器に逐次的に添加してもよい。
【0062】
前記溶液反応においては、反応装置に特に制限はないが、例えば、回分式又は連続式の攪拌装置を有する槽型反応基などを使用することができる。溶液反応において用いる反応溶媒としては、炭化水素溶媒か、エーテル系溶媒などが挙げられる。炭化水素溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン及びデカンなどの飽和脂肪族炭化水素、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサンなどの飽和脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン及びキシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。溶媒としては、炭化水素溶媒が好ましく、より好ましくは飽和脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素である。
【0063】
ポリマーが溶解している状態となる量であればよく、特に制限ないが、通常、(a)不飽和結合基を有するポリプロピレンと(b)シロキサンコポリマーの合計の濃度を5~50質量%とする量であり、好ましくは10~40質量%とする量である。
【0064】
<ポリオレフィン系樹脂(B)>
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂(B)は特に制限はなく、従来公知のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂を使用することができるが、これらのなかでも耐熱性、剛性、成形性の観点からポリプロピレン系樹脂が好ましい。
前記ポリエチレン系樹脂は、全単量体単位に対するエチレン単位の含有率が50質量%を超えるポリオレフィン樹脂である。本発明の医療用成形体において、ポリエチレン系樹脂は柔軟性に寄与する。
【0065】
前記ポリエチレン系樹脂としては、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のエチレン単独重合体;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・ヘキセン共重合体、エチレン・オクテン共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・ヘキセン共重合体、エチレン・プロピレン・オクテン共重合体、エチレン・ブテン・ヘキセン共重合体、エチレン・ブテン・オクテン共重合体、エチレン・ヘキセン・オクテン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のエチレン系(共)重合体等が挙げられる。ここで、(共)重合体とは重合体及び/又は共重合体を意味する。
【0066】
前記ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.05g/10分以上であり、流動性の観点から、より好ましくは0.1g/10分以上、更に好ましくは0.5g/10分以上である。また、好ましくは100g/10分以下であり、成形性の観点から、より好ましくは70g/10分以下、更に好ましくは50g/10分以下である。このMFRは、ISO R3133に従って、測定温度190℃、測定荷重2.16kgの条件で測定することができる。
【0067】
前記ポリプロピレン系樹脂は、全単量体単位に対するプロピレン単位の含有率が50質量%以上のポリオレフィン樹脂である。本発明の医療用成形体において、ポリプロピレン系樹脂は強度や成形性に寄与する。
【0068】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体のいずれも使用することができる。
ポリプロピレン系樹脂がプロピレンランダム共重合体である場合、プロピレンと共重合する単量体としては、例えば、エチレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンが挙げられる。
【0069】
前記ポリプロピレン系樹脂がプロピレンブロック共重合体である場合、多段階で重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられ、より具体的には、第一段階でポリプロピレンを重合し、第二段階でプロピレン・エチレン共重合体を重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の含有率は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。プロピレン単位の含有率が前記下限値以上であれば耐熱性及び剛性が良好となる。ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の含有率の上限は、通常100質量%である。尚、ポリプロピレン系樹脂のプロピレン単位の含有率は、赤外分光法により求めることができる。
【0070】
前記ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.05g/10分以上であり、流動性の観点から、より好ましくは0.1g/10分以上、更に好ましくは0.5g/10分以上である。また、好ましくは100g/10分以下であり、成形性の観点から、より好ましくは70g/10分以下、更に好ましくは50g/10分以下である。
MFRは、ISO R3133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定することができる。
【0071】
前記ポリプロピレン系樹脂の製造方法としては、オレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた多段重合法が挙げられる。この多段重合法には、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等を用いることができ、これらを2種以上組み合わせて製造してもよい。
ポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
本発明のポリオレフィン系樹脂としては、市販品を用いることができる。前記ポリエチレン系樹脂の市販品の具体例としは、日本ポリエチレン(株)製「ノバテック(登録商標)HD」、「ノバテック(登録商標)LD」、「ノバテック(登録商標)LL」シリーズ、旭化成ケミカルズ(株)製「クレオレックス(登録商標)」、「サンテックーHD(登録商標)」、「サンテックーLL登録商標)」シリーズ、プライムポリマー(株)製「ハイゼックス(登録商標)」シリーズ、「エボリューH(登録商標)」、「エボリュー(登録商標)」シリーズ、サウディ石油化学(株)製「QAMAR-HD(登録商標)」、「QAMAR(登録商標)」シリーズ等が挙げられる。
【0073】
また、前記ポリプロピレン系樹脂の市販品の具体例としては、日本ポリプロ(株)製「ノバテック(登録商標)PP」、(株)プライムポリマー製「Prim Polypro(登録商標)」、住友化学(株)製「住友ノーブレン(登録商標)」、サンアロマー(株)製「ポリプロピレンブロックコポリマー」、LyondellBasell社製「Moplen(登録商標)」、ExxonMobil社製「ExxonMobil PP」、Formosa Plastics社製「Formolene(登録商標)」、Borealis社製「Borealis PP」、LG Chemical社製「SEETEC PP」、A.Schulman社製「ASI POLYPROPYLENE」、INEOS Olefins&Polymers社製「INEOS PP」、Braskem社製「Braskem PP」、SAMSUNG TOTAL PETROCHEMICALS社製「Sumsung Total」、Sabic社製「Sabic(登録商標)PP」、TOTAL PETROCHEMICALS社製「TOTAL PETROCHEMICALS Polypropylene」、SK社製「YUPLENE(登録商標)」が挙げられる。
【0074】
<医療用熱可塑性樹脂組成物>
本発明の医療用熱可塑性樹脂組成物は、前記のブロック共重合体(A)とポリオレフィン系樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物からなる。
前記熱可塑性樹脂組成物は、[ブロック共重合体(A)の質量]/[ポリオレフィン系樹脂(B)の質量]で表される質量比が、5/95~70/30であることが好ましく、6/94~65/35であることがより好ましく、7/93~60/40であることが好ましい。前記範囲内であれば、低吸着性、強度が良好となる。
【0075】
<その他の成分>
本発明の医療用熱可塑性樹脂組成物には、その他の成分として、樹脂組成物に常用されている配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
添加剤等としては、各種の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤、造核剤、可塑剤、衝撃改良剤、相溶化剤、消泡剤、増粘剤、架橋剤、界面活性剤、滑剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、着色剤、無機結晶核剤等が挙げられる。
【0076】
前記の熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が環境面で好ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。
【0077】
前記充填剤は、有機充填剤と無機充填剤に大別される。有機充填剤としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
【0078】
前記造核剤としては、ソルビトール化合物及びその金属塩;安息香酸及びその金属塩;燐酸エステル金属塩;エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスアクリル酸アミド、エチレンビスアクリル酸アミド、ヘキサメチレンビス-9,10-ジヒドロキシステアリン酸ビスアミド、p-キシリレンビス-9,10-ジヒドロキシステアリン酸アミド、デカンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、ヘキサンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジアニリド、N,N’,N’’-トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、トリメシン酸トリス(t-ブチルアミド)、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジアニリド、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、N,N’-ジベンゾイル-1,4-ジアミノシクロヘキサン、N,N’-ジシクロヘキサンカルボニル-1,5-ジアミノナフタレン、エチレンビスステアリン酸アミド、N,N’-エチレンビス(12-ヒドロキシステアリン酸)アミド、オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド等のアミド化合物などが挙げられる。また、前記無機結晶核剤としては、タルク、カオリン、シリカ等が挙げられる。
【0079】
これらの内、酸化防止剤、特にフェノール系、硫黄系又はリン系の酸化防止剤を含有させることが好ましい。酸化防止剤は、前記熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して0.01~2.0質量部含有させることが好ましく、0.01~1.0質量部含有させることがより好ましく、0.01~0.5質量部含有させることが更に好ましく、0.01~0.2質量部含有させることが特に好ましい。
【0080】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、ブロック共重合体(A)及びポリオレフィン系樹脂(B)以外の樹脂成分やエラストマー成分を含有させてもよい。
このような樹脂成分としては、例えば、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、石油樹脂が挙げられる。
またエラストマー成分としては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ナイロン系エラストマーが挙げられる。
【0081】
その他の成分の配合は、熱可塑性樹脂の溶融混練に常用されている混練方法にてブロック共重合体(A)及びポリオレフィン系樹脂(B)に添加してもよいし、ブロック共重合体(A)と共に有機溶媒へ溶解させて混合してもよい。
その他の樹脂成分やエラストマー成分の含有率は、熱可塑性樹脂組成物全体を100質量%としたときに、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0082】
<医療用熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の医療用熱可塑性樹脂組成物は、前記ブロック共重合体(A)、前記ポリオレフィン系樹脂(B)、及び必要に応じて前記のその他の成分を、通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。
これらの製造方法の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。
本発明の医療用熱可塑性樹脂組成物を押出機等で混練して製造する際には、通常170~300℃、好ましくは190~230℃に加熱した状態で溶融混練する。
【0083】
<医療用成形体及びその製造方法>
本発明の医療用熱可塑性樹脂組成物を成形することにより、各種医療用成形体を得ることができる。
成形方法としては、例えば射出成形(インサート成形法、二色成形法、サンドイッチ成形法、ガスインジェクション成形法、インジェクションブロー成形法等)、押出成形法、インフレーション成形法、Tダイフィルム成形法、ラミネート成形法、ブロー成形法、中空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法等の成形法により種々の成形体に加工することができる。
いずれの成形においても、成形温度は180~300℃であり、好ましくは200~240℃である。射出成形の場合、射出圧力は5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。金型温度は0~100℃であり、好ましくは20~95℃である。更に好ましくは30~90℃である。Tダイ成形の場合、冷却ロール温度は10~95℃であり、好ましくは20~90℃である。
【0084】
<医療用成形体の用途>
本発明の医療用成形体は、プラスチックスライドガラス;点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル等の医薬品収納容器;試験管、採血管、検体容器等のサンプリング容器;プレフィルドシリンジ、注射器シリンジ等のシリンジ類等に好適に使用できる。特にタンパク質構造を有するバイオ医薬品を扱う用途に好適である。
【0085】
<医療用積層体>
次に本発明の医療用積層体について説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形することにより各種医療用積層体を得ることができる。
本発明の医療用積層体は、ポリオレフィン系樹脂を含む基材層、及び本発明の医療用熱可塑性樹脂組成物からなる低吸着層を有する。基材層は耐熱性と成形性の観点からポリプロピレン系樹脂が好ましい。
本発明の積層体は、本発明の低吸着層と前記基材層の間に中間層を介さず、本発明の低吸着層と前記基材層とが直接隣接して接触させ、積層されていることが好ましい。前記低吸着層は、ヒートシール性能を有し、前記基材層と直接、積層させることができる。
【0086】
本発明の医療用積層体の製造法としては、前記の各層を積層一体化できる方法であればどのような方法であってもよく、例えば、ドライラミネーション、押出ラミネーション、共押出ラミネーション(Tダイ法、水冷インフレーション法、空冷インフレーション法)、ヒートラミネーション等、あるいはこれらの方法を組み合わせたラミネーション法を例示できる。これらの中でも積層体全体の透明性を得る観点、内層の密閉性を得る観点から、特に好ましいのは水冷インフレーション法である。
【0087】
本発明の医療用積層体において、各層の厚みは使用目的に応じて適宜選択可能であるが、本発明の低吸着層の厚みは、5~100μmであることが好ましく、特に10~50μmであることが好ましい。低吸着層の厚みが前記下限値範囲内であると低吸着特性、ヒートシール強度の観点で好ましい。
【0088】
また、本発明の医療用積層体において、本発明の基材層の厚みは100μm以上、例えば140~330μmが好ましく、特に150~250μmであることが好ましい。本発明の基材層の厚みが、前記下限値範囲内であると機械的強度や透明性が優れる。
特に、本発明の積層体は、各層の厚み比が、低吸着層:基材層=1:30~1:3であることが好ましい。
【0089】
<医療用積層体の用途>
本発明の医療用積層体は、低吸着性に優れることから、医療用包装袋等の医療用容器として好適に用いることができ、その中でも輸液バッグとして用いることが好適である。
医療用容器は、前記積層体を用いて、真空成形、圧空成形等のシート成形法(熱成形法)、多層共押出ブロー成形等のブロー成形法、あるいは所定の形状に切断した枚葉形態の積層体同士の周縁部を熱融着(強溶着)又は接着剤で接着して袋状物を作製する方法等を用いて製造することができる。特にタンパク質構造を有するバイオ医薬品を扱う用途に好適である。
【実施例0090】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例、比較例で用いた評価方法及び使用樹脂は、以下の通りである。
【0091】
[評価方法]
<不飽和結合基を有するポリプロピレンの数平均分子量Mnの測定>
試料約20mgをポリマーラボラトリー社製高温GPC用前処理装置PL-SP260VS用のバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHTを含有するo-ジクロロベンゼン(BHT濃度=0.5g/L)を加え、ポリマー濃度が0.1(質量%)になるように調製した。ポリマーを前記高温GPC用前処理装置PL-SP260VSで135℃に加熱して溶解させ、グラスフィルターにて濾過して試料を調製した。なお、このGPC測定において、グラスフィルターに捕捉されたポリマーはなかった。
次に、カラムとして、東ソー(株)製TSKgel GMH-HT(30cm×4本)及びRI検出器を装着したウォーターズ社製V2000を使用してGPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液注入量:524.5μl、カラム温度:135℃、溶媒:o-ジクロロベンゼン、流量:1.0ml/minを採用した。
分子量の算出は、以下のように行った。すなわち、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料及びポリプロピレンの粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、該校正曲線に基づいて分子量の算出を行った。
なお、粘度式としては、[η]=K×Mαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38×104、α=0.70を使用し、ポリプロピレンに対しては、K=1.03×104、α=0.78を使用した。
【0092】
<不飽和結合基を有するポリプロピレンの不飽和結合基数の測定>
試料200~300mgをo-ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン(CBr)=4/1(体積比)2.4ml及び化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れて窒素置換した後封管し、加熱溶解して均一な溶液としてNMR測定に供した。NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカー・バイオスピン(株)のNMR装置AVANCEIII400を用いた。
H-NMRの測定は試料の温度80℃、パルス角4.5°、パルス間隔2秒、積算回数512回とした。
不飽和結合基を有するポリプロピレンのプロピレン構造1000個あたりの不飽和結合基数は、H-NMR測定結果より以下のとおり算出し、その合計値とした。
・ビニル基数/プロピレン構造1,000個=2000×(4.9-5.1,5.7-5.9ppm領域のビニルシグナルの積分値)/(3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)
・ビニリデン基数/プロピレン構造1,000個=3000×(4.69,4.74ppmのビニリデンシグナルの積分値)/(3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)
・ビニレン基数/プロピレン構造1、000個=3000×(5.3-5.5ppm領域のビニレンシグナルの積分値)/(3.0-0.5ppm領域の主鎖由来のシグナルの積分値)
13C-NMRの測定は、試料の温度80℃、パルス角90°、パルス間隔51.5秒、積算回数1024回とし、逆ゲートデカップリング法で測定した。
【0093】
<不飽和結合基を有するポリプロピレンの融点(Tm)の測定>
Perkin Elmer社製PYRIS Diamond DSC示差走査熱量測定装置を使用して、試料(約5mg)を210℃で5分間融解後、10℃/分の速度で-20℃まで降温し、-20℃で5分保持した後に、10℃/分の速度で210℃まで昇温することにより融解曲線を得た。降温段階における主発熱ピークのピークトップ温度を結晶化温度Tcとした。また、融解曲線を得るために行った最後の昇温段階における主吸熱ピークのピークトップ温度を融点Tmとした。
【0094】
<強度>
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友重機械工業(株)製「SE18D」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度250℃、金型温度50℃にて、厚さ2mm×幅40mm×長さ80mmのプレート(試験片)を成形し、試験片取り出しの際に割れが生じたものを×、割れがないものを〇とした。なお、割れがないものは強度が優れている。
【0095】
<吸着量>
前記で得られたプレート(試験片)で割れがないものに対して、10mm×40mmに打ち抜き、試験片を作製した。
この試験片を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させたアルブミン(ウシ由来、
BSA)溶液1mg/mLに37℃で2時間浸漬させる。2時間浸漬後、PBSで試験片を洗浄した後、ドデシル硫酸ナトリウム水溶液6mLに浸し、5分間超音波洗浄を行なった。
96ウェルプレートに超音波洗浄後の溶液を150μL入れ、市販のBCAキットのタンパク質定量試薬150μLを超音波洗浄後の溶液に入れた部分に入れ、37℃で2時間保持する。2時間保持後、プレートリーダーにて562nmの吸光度を測定し、濃度既知のアルブミン溶液から得られる検量線に当てはめることでアルブミンの吸着量を算出した。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の吸着量は、低吸着性の指標であり、好ましくは0.6μg/cm以下、より好ましく0.4μg/cm以下、更に好ましく0.2μg/cm以下である。値が小さいほど低吸着性に優れる。
【0096】
[原料]
<成分(a)不飽和結合基を有するポリプロピレン>
a-1…三洋化成工業(株)製:ビスコール(商標登録)330-PSK
・数平均分子量(Mn):12000
・不飽和結合基:ビニリデン基
・プロピレン構造1000個あたりの不飽和結合基数:3.3
・融点(Tm):155℃
【0097】
<成分(b)シロキサンコポリマー>
b-1…Nusil Technology社製、製品名「XL-116」
・メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサンコポリマー
・数平均分子量(Mn):6,610
・動粘度(25℃):100cSt
・Si-H反応基置換比率:0.9mmol/g
・屈折率:1.40
・構造単位(II)(個数)の割合:0.07
【0098】
[シリル化ポリプロピレンA-1の製造]
メカニカルスターラー付き500mLセパラブルフラスコに、a-1(37g、3.1mmol)とb-1(10.79g、1.6mmol)と脱水トルエン625mLを加え、15分間窒素バブリングした。その後、100℃まで昇温し、均一に撹拌した後に、Gelest Inc.社製 白金触媒SIP6831.2(白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液、白金含有率:2.1~2.4質量%、0.015mL)を投入し、100℃で2.5時間撹拌した。その後、ヘプタンを375mL添加して85℃まで降温し、イソプロパノール(500mL)を撹拌しながら添加してポリマーを析出させた。その後さらにイソプロパノールを500mL加え室温まで冷却した。析出したポリマーは濾過により回収し、ヘプタン(1000mL×2回)、さらにアセトン(1000mL×2回)で洗浄した。得られたポリマーを70℃で減圧乾燥し、シリル化ポリプロピレンA-1を得た(収量40.2g)。
得られたシリル化ポリプロピレンA-1の物性は下記の通りである。
【0099】
<シリル化ポリプロピレンA-1>
・融点:143℃
・プロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基数:78
・プロピレン構造1000個あたりのヒドロシリル基数:4
・数平均分子量:24,000
【0100】
<(B)ポリオレフィン系樹脂>
B-1:ポリプロピレン系樹脂、日本ポリプロ(株)製、製品名ノバテックMA1B
・プロピレン単独重合体
・MFR(230℃、荷重2.16kg)20g/10分
・密度0.90g/cm
・融点165℃
【0101】
<実施例1>
(A-1)を10質量部、(B-1)を90質量部、及び酸化防止剤としてBASF社製イルガフォス168を0.05部加え、同方向2軸押出機((株)テクノベル製:KZW15-45MG、Φ15、L/D=45)にて2kg/hの速度で投入し、220℃の範囲で昇温させて溶融混練を行ない、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを用いて熱可塑性樹脂組成物中のブロック共重合体(A)由来のプロピレン構造1000個あたりのジメチルシリル基数及び吸着量を測定した結果を表1に示す。
【0102】
<実施例2~3、比較例1~2>
表1に示す配合に従い、実施例1と同様にして、溶融混練を行い、得られたペレットの各種物性を評価した。結果を表1に示す。
なお、比較例2は、試験片取り出しの際に割れが生じたので、吸着量測定を行わなかった。
【0103】
【表1】
【0104】
表1より、本発明に該当するブロック共重合体(A)とポリオレフィン系樹脂(B)からなる実施例1は強度と低吸着性に優れることがわかった。
これに対して、ブロック共重合体(A)を含まない比較例1は低吸着性が乏しいことがわかった。また、ポリオレフィン系樹脂(B)を含まない比較例2は強度が乏しいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の医療用成形体は、プラスチックスライドガラス;点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル等の医薬品収納容器;試験管、採血管、検体容器等のサンプリング容器;プレフィルドシリンジ、注射器シリンジ等のシリンジ類として非常に有用である。