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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097809
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】水性絵の具組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20230703BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230703BHJP
   C09D 5/06 20060101ALI20230703BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230703BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
C09D5/06
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214133
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村上 理沙
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG001
4J038HA366
4J038HA446
4J038KA14
4J038KA20
4J038MA10
4J038NA12
4J038PB14
4J038PC10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】綿布や麻布、画用紙といった親水性の目の粗い支持体に水で希釈して塗布してもにじみにくい水性絵の具組成物を提供すること。
【解決手段】アクリル樹脂系エマルジョンと、疎水性乾式シリカと、硫酸カルシウムを少なくとも含むことにより、水で希釈した粘度の低い状態でもゆるい凝集体を作り、布の上での顔料の移動を抑制し、水分だけを布に浸透させることでにじみや裏移りを防ぐ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂系エマルジョンと疎水性乾式シリカと硫酸カルシウムを少なくとも含む水性絵の具組成物。
【請求項2】
前記水性絵の具組成物に含まれる前記硫酸カルシウムのうち水和物を除く含有量が前記水性絵の具組成物全量に対して0.05重量%以上2.0重量%以下である請求項1に記載の水性顔料組成物。
【請求項3】
前記水性絵の具組成物に含まれる前記疎水性乾式シリカの含有量が前記水性絵の具組成物全量に対して0.05重量%以上、5重量%以下、である請求項1又は2のいずれか一項に記載の水性顔料組成物。
【請求項4】
前記水性絵の具組成物に含まれる前記硫酸カルシウムのうち水和物を除く含有量に対し前記水性絵の具組成物に含まれる前記疎水性乾式シリカの含有量が2以上10以下であり、かつその合計が水性絵具組成物全量に対して0.5重量%以上2.0重量%以下である請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の水性絵の具組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は布に塗布することに好適な水性絵の具組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性絵の具に耐水性を付与するために合成樹脂エマルジョンを使用することが知られている。このような樹脂エマルジョンを使用した水性絵具組成物は、水で希釈して濃度や塗布性能を調節することができ、乾燥した塗布面に耐水性や耐洗濯性を付与でき、さらに布やプラスチック、ガラスや木材など紙以外の素材にも使用することができるものである。
【0003】
特許文献1には顔料とアクリル樹脂系エマルジョンと体質顔料として炭酸カルシウムや二酸化珪素を使用して所定の流動特性を持ち、塗膜が耐水性を有する水性絵の具組成物が記載されている。
【0004】
特許文献2には湿式シリカを体質顔料として酢酸ビニル-アクリル樹脂系エマルジョンを用いた水性絵の具組成物が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には体質顔料として合成2水石膏(硫酸カルシウム)及び胡粉(炭酸カルシウム)を含有し、麻布のキャンバスなどに塗布することで上から塗布する絵の具に対する吸収性を示す下地用絵の具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-059878号公報
【特許文献2】特開2010-024391号公報
【特許文献3】特開昭59-105062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2の実施形態は一般的ないわゆるアクリル絵の具の配合であり、体質顔料としてはコストと隠ぺい性に優れた炭酸カルシウムや湿式シリカが汎用されている。
しかし、このような水性絵の具組成物を所望の濃度、特に淡い色や色調にするために水で薄めに希釈すると綿布、麻布や画用紙など目の粗い親水性の塗布面ではにじみが発生したり、顔料が裏抜けして発色が悪くなったりし、思い通りの描画ができない、塗膜の耐水性が不足するという問題がある。
【0008】
特許文献3の実施形態は2水石膏を用いて布キャンバスに使用できる絵の具であるが、下地用であり、希釈しない状態で厚塗りをすることで吸収性の効果を奏する組成のため、上から再描画されていない状態では水分の吸収も多く耐水性に劣る、また希釈して布に塗布すると顔料が裏抜けてしまう。
【0009】
本発明は、絵の具を所望の濃度に水で希釈して綿布、麻布や画用紙などの目の粗い親水性の塗布面に塗布してもにじみにくく、顔料が裏抜けせずに発色がよく、塗膜の耐水性が低下しない水性絵の具組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アクリル樹脂系エマルジョン、疎水性乾式シリカ、硫酸カルシウムを少なくとも含む布に塗布することに好適な水性絵の具組成物を要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る水性絵の具組成物にて、アクリル樹脂系エマルジョン、疎水性乾式シリカ、硫酸カルシウムを併用すると、塗布時ににじみにくい水性絵の具組成物となる。一般的に、にじみにくさは絵の具の粘度により調節されるが、本発明の水性絵の具組成物は絵の具を所望の濃度に水で希釈して粘度が低い状態であっても目の粗い親水性の塗布面への塗布においても十分ににじみにくく、顔料が裏抜けせずに発色がよく、塗膜の耐水性が低下しないことを見出した。水性絵具組成物を水で適宜希釈して塗布することで、アクリル樹脂エマルジョンが硫酸カルシウムによりゆるく凝集をする際に、網目構造の疎水性乾式シリカが顔料とともにアクリル樹脂エマルジョンのアクリル樹脂構造部分と凝集複合体を形成し、顔料とその定着剤であるアクリル樹脂エマルジョンと水を分離させることで高希釈度かつ低粘度でもにじみや裏抜けを起こさず描画できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
水は、水性絵の具組成物の主溶剤として使用する。
【0013】
本発明のアクリル樹脂系エマルジョンには、アクリル共重合樹脂、アクリロニトリル・アクリル共重合樹脂、スチレン・アクリル共重合樹脂、酢酸ビニル・アクリル共重合樹脂、塩化ビニル・アクリル共重合樹脂、シリコーン・アクリル共重合樹脂等のアクリル樹脂系エマルジョンを使用することができる。アクリル樹脂系エマルジョンは経時安定性を保ったまま硫酸カルシウムとゆるい凝集体を形成することでにじみ防止性能が良好になる。本発明に使用することができるアクリル樹脂系エマルジョンはアクリル系単量体と必要に応じて他の単量体を乳化重合することで得られるものである。使用できるアクリル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル等のアクリル酸アルキルエステル系単量体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル等のメタクリル酸アルキルエステル系単量体が挙げられ、これらのアクリル系単量体を単独または2種以上組み合わせて使用することができる。また必要に応じてアクリル系単量体とともに単独又は複数用いることができるその他の単量体として、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、及びクロトン酸、シトラコン酸等のカルボキシ基含有単量体、無水マレイン酸、無水イタコン酸、等のエチレン系カルボン酸無水物、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等の芳香族ビニル系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の飽和脂肪酸ビニル系単量体、塩化ビニル、エチレン、プロピレン、ブタジエン等のオレフィン系単量体、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシメチル等の水酸基含有単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどのエチレン系カルボン酸の酸アミド類、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル等が挙げられる。
【0014】
ガラス転移温度(以下Tg)が室温よりも高い温度になると、室温乾燥では塗膜の白濁やひび割れが起こり、耐水性が低下するため、Tgは30℃以下であることが好ましい。特にTgが-15℃以下のアクリル樹脂系エマルジョンは乾燥後の塗膜が柔らかく、布でのごわつきが少ないため布に塗布することを意図した絵の具には好適である。Tgの異なる2種以上のアクリル樹脂系エマルジョンを組み合わせて使用することもできる。この場合樹脂固形分量の40%以上の樹脂のTgが-15℃以下だと塗膜を柔らかく保つことができるため好ましい。水性絵の具組成物全量に対してアクリル樹脂系エマルジョンの樹脂固形分として5~45重量%が好ましく、その中でも特に10~35重量%が好ましい。希釈時にも顔料を周りににじみにくくするのに十分な凝集複合体を作れるだけの樹脂量が十分にあり、また乾燥後、あらゆる素材の塗布面において定着力を十分に発揮し、塗膜が洗濯に耐えうる十分な耐水性を有することができるからである。また、布に塗布することを意図した絵の具は顔料捺染用に設計されたエマルジョンやホルムアルデヒドフリーの処方であるものが望ましい。また、pH6.0以上10.0以下のものは定着力や経時安定性に優れ定着用アクリル樹脂系エマルジョンとして好ましい。
【0015】
Tgが-15℃以下のアクリル樹脂系エマルジョンは、特に限定されるものではないが、市販されているものとしてリカボンドFK-284(Tg-40℃、樹脂固形分30%)、同FK-471(Tg-20℃、同55%)、同FK-489(Tg-19℃、同33%)、同FK-3830(Tg-29℃、同48%)、同FK-3840(Tg-40℃、同48%)、同FK-6100(Tg-33℃、同44%)、モビニール952B(Tg-38℃、同46%)、同966A(Tg-32℃、同45%)(以上ジャパンコーティングレジン(株))、アイカアイボンM-581(Tg-25℃、同59%)、同M-583(Tg-26℃、同55%)、同M-584(Tg-30℃、同55%)(以上アイカ工業(株))、ボンコートAB-782-ES(Tg-30℃、同45%)、同AB-886(Tg-40℃、同50%)(以上DIC(株))、ビニブラン2600(Tg-27℃、同48%)、同4003(Tg-15℃、同50%)(以上日信化学工業(株))、スミカフレックス900HL(Tg-20℃、同60%)(以上住化ケムテックス(株))等が挙げられる。この中でも特に、リカボンドFK-284、同FK-471、同FK-489、アイカアイボンM-581、同M-583、同M-584、ボンコートAB-782-ES、同AB-886は顔料捺染向きのエマルジョンであり、ホルムアルデヒドを含まないため、布へ塗布することを意図し安全性に配慮した絵の具の定着剤として特に好ましい。
【0016】
Tgが-15℃を超え30℃以下であるアクリル樹脂系エマルジョンは、プライマルAC-261T(Tg24℃、樹脂固形分49.5%)、DirtShield08(Tg12℃、同45.5%)(以上ダウ・ケミカル日本(株))、ビニゾール911(Tg-12℃、同50%)、同1637(Tg-13℃、同50%)、同900(Tg30℃、同50%)同1117(Tg24℃、同40%)(以上大同化成工業(株))ぺガールLS8146(Tg-8℃、同45%)、同LS8970(Tg-10℃、同50.7%)(以上高圧ガス工業(株))、を代表に挙げられる。これらのエマルジョンはTgが-15℃以下のアクリル樹脂系エマルジョンと併用することにより塗膜の強度、耐熱性、湿摩擦性、べたつき(タック性)、柔軟性の性能を調節することができる。
【0017】
本発明に使用する硫酸カルシウムは、アクリル樹脂系エマルジョンのエマルジョン粒子や顔料の初期分散や経時分散に影響を与えずに塗布時にアクリル樹脂の疎水性部分とゆるく凝集をすることができる。このゆるい凝集は水などの希釈で濃度が薄まっても保持され布などの粗い面に塗布してもにじみを押さえることができる。ここで使用できる硫酸カルシウムはIII型無水和物、1/2水和物、2水和物などが挙げられる。具体的には特に限定されるものではないが、市販品として硫酸カルシウムA(硫酸カルシウム2水和物)、アクセレーター(硫酸カルシウム2水和物)、桜印焼石膏特級(硫酸カルシウム1/2水和物)(以上吉野石膏(株))、乾燥用石膏(硫酸カルシウムIII型無水和物)(サンエス石膏(株))や市販の試薬などが使用できる。水和物を含む硫酸カルシウムの添加量は水和物の重量を除いて考える必要がある。その添加量は水性絵の具組成物全量に含まれる硫酸カルシウムのうち水和物を除く含有量が0.05~2.0重量%が好ましく、0.1~1.0重量%が特に好ましい。
【0018】
体質顔料は一般的に、絵の具の粘度や透明性の調整に使用する。本発明ににじみ防止用の体質顔料として使用する疎水性乾式シリカは乾式法で製造されたシリカに表面処理により疎水性を付与したものである。乾式シリカは従来公知の方法により製造されたものが使用でき、例えば四塩化ケイ素を原料とし、火炎中で加水分解して得られる乾式シリカがある。乾式シリカの表面の疎水化処理も従来公知の方法により行え、疎水化処理したものは表面が疎水性であり、湿式シリカに比べて純度が高く、粒子が微細な傾向がある。この疎水性乾式シリカは網目構造の凝集体を形成し、疎水性乾式シリカの網目構造の表面は疎水性であるため、アクリル系共重合体エマルジョンの疎水性部分と硫酸カルシウム、顔料との凝集複合体を形成しやすく、水性絵の具組成物中の顔料の経時安定性を向上させることができる。特に粒子径の大きい光輝性顔料などはこの効果が大きい。塗布時に水で希釈されたときにはその網目構造により一度凝集複合体に取り込まれた顔料が水の中に再分散するのを防ぎ、色ごとに違う種類の顔料を疎水性乾式シリカでアクリル系共重合体エマルジョンの凝集に取り込むことで、顔料の種類によらず布の上でにじみや色別れ、裏移りのない描画跡を形成できる。通常の塗布時に粘度が高くなりすぎず、かつ希釈時にもにじみ防止に十分な凝集複合体を形成するには、疎水性乾式シリカの含有量は水性絵の具組成物全量に対して0.01重量%以上、5重量%以下、特に0.1重量%以上、3重量%以下が特に好ましい。
【0019】
従来技術1や従来技術2に記載の体質顔料である親水性の炭酸カルシウムや湿式シリカは、表面が親水性のため洗濯される使用状況が前提の布用絵の具としては耐水性が不十分である。特に、絵の具で多用される湿式シリカはアクリル樹脂系エマルジョンでの分散性が悪く、1次粒子の粒度が数百~数千nmと大きいため硫酸カルシウムとゆるい凝集を作ったエマルジョンの隙間に入り込むことができず、湿式、乾式いずれも親水性シリカはアクリル樹脂との疎水性相互作用を起こさないため、顔料を巻き込んだ凝集複合体を形成できず親水性シリカ同士の凝集体の周りをアクリル樹脂と硫酸カルシウムの凝集体が取り囲むため、非常に大きく硬い凝集体を形成し、顔料の分散を妨げるため、発色と見た目を損なう。さらに塗布後の乾燥過程で塗膜表面に析出し、多孔質で屈折率が高く粒径が大きいため表面が白っぽくなり、明度の低い色や光沢のある色では乾燥後の塗膜の発色や質感が損なわれる。また、炭酸カルシウムや湿式シリカは細孔内部に水を保持しやすいため、乾燥が遅くなり、布でのにじみを促進してしまう。また、炭酸カルシウムは通常、絵具の隠ぺい力と粘度の調整で添加されるが、吸油量は湿式シリカや乾式シリカよりもはるかに少ないため、好ましい隠ぺい力や粘度に調整するには多量に添加する必要があり、塗膜の柔軟性を損なうため布に描くことを目的とした絵具には適さない。疎水性乾式シリカはアクリル樹脂系エマルジョンの疎水性部分との相互作用により分散性が良好で塗膜表面に析出しにくく塗膜表面の顔料とアクリル樹脂の定着性を向上させることができる。粒子表面には細孔がなく吸油量に係る性能は粒子同士の構造から発生しているため水分の放出が速く塗膜の中に水を残しにくいこと、塗膜内で顔料を巻き込んだ凝集複合体部分構造が乾燥後には塗膜強度を向上させることができるため塗布面の耐水性・耐洗濯性に優れ、吸油量が高いので粘度調整には少量の添加で済み、透明な微細粒子のため明度の低い色や光沢のある色、輝度の高い色でも着色顔料の発色や質感や輝度が良好な塗膜を形成できる。
【0020】
さらには、アクリル樹脂系エマルジョンと顔料と疎水性シリカの凝集複合体がその場で造膜し始め水と分離する際には、凝集複合体中のシリカの網目構造がざるの役割をして凝集複合体から水だけ浸透させ顔料が周りににじまない。他の体質顔料ではアクリル樹脂系エマルジョンから離れやすく、水を保持しながら水と一緒に布の上や中に移動してしまい、顔料の滲み出しが発生したり水と一緒に顔料が布のり面に浸透し裏抜けが発生したりしてしまう。
【0021】
疎水性乾式シリカは特に限定されるものではないが、一次粒子の平均径が5nm以上50nm以下のものを使用することができ、特に好ましいのは7nm以上20nm以下のものである。また、水:メタノール=1:1溶液に疎水性乾式シリカを4%分散させたときのpH値が3.0以上8.0以下のものが好ましい。具体的にはアエロジルR972(1次粒子の平均径16nm、pH4.0以上5.5以下)、同R972V(同16nm、pH4.0以上5.5以下)、同R972CF(同16nm、pH4.0以上5.5以下)、同R974(同12nm、pH3.8以上5.0以下)、同R976(同7nm、pH3.8以上5.0以下)、同R976S(同7nm、pH4.0以上5.5以下)、同R9200(同16nm、pH3.0以上5.0以下)、同RY200(同12nm、pH4.0以上7.0以下)、同R202(同14nm、pH4.0以上6.0以下)、同R805(同12nm、pH3.5以上5.5以下)、同R812(同7nm、pH5.5以上8.0以下)、同RA200H(同12nm、pH8.5以上10.5以下)、同R711(同12nm、pH4.0以上6.0以下)、同NX90G(同20nm、pH5.0以上7.5以下)(以上日本アエロジル(株))、レオロシールMT-10(同15nm、pH4.8)、同DM-10(同15nm、pH4.8)、同DM-20S(同12nm、pH4.8)、同DM-30(同7nm、pH4.5)、同DM-30S(同7nm、pH4.5)、同KS-20SC(同12nm、pH5.1)、同HM-20L(同12nm、pH6.0)、同HM-30S(同7nm、pH6.6)、同ZD-30ST(同7nm、pH6.4)、同PM-09(同22nm、pH5.2)、同PM-20(同12nm、pH5.2)、同X-20(同12nm、pH5.3)、同X-30(同7nm、pH5.3)(以上(株)トクヤマ)などが挙げられ、特に好ましいのはアエロジルR972、同R972V、同R972CF、レオロシールMT-10、同DM-10である。
【0022】
その他、体質顔料として従来公知の湿式シリカや親水性乾式シリカ、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、セリサイト、マイカ、カオリン、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウムなどをにじみや耐洗濯性に影響のない範囲で単独または2種以上を併用することもできる。その添加量は水性絵の具組成物全量に対して5重量%以下が好ましい。
【0023】
着色顔料は、従来公知のものを適宜選択して使用できる。一例を挙げると、有機顔料としてPigment Yellow 1、同2、同3、同5、同6、同10、同12、同13、同14、同16、同17、同24、同55、同62、同65、同73、同74、同81、同83、同93、同94、同95、同97、同98、同100、同104、同108、同109、同110、同111、同115、同117、同119、同128、同129、同137、同138、同139、同150、同151、同152、同154、同155、同166、同167、同170、同173、同175、同180、同181、同183、同185、同190、Pigment Orange 1、同5、同13、同16、同22、同34、同36、同43、同48、同49、同61、同62、同64、同66、同67、同68、同69、同71、同73、同81、同206、Pigment Red 1、同2、同3、同4、同5、同8、同9、同17、同22、同23、同31、同38、同41、同48、同48:1、同48:2、同48:3、同48:4、同49:1、同49:2、同49:3、同52:1、同53:1、同57:1、同58:2、同58:4、同63:1、同63:2、同64:1、同81、同81:1、同81:3、同81:4、同83、同88、同90、同112、同114、同122、同123、同144、同146、同149、同150、同166、同168、同169、同170、同171、同172、同173、同174、同175、同176、同177、同178、同179、同184、同185、同188、同190、同194、同202、同206、同207、同208、同209、同216、同221、同242、同254、同255、同257、同260、同264、同272、Pigment Violet 1、同3、同3:3、同19、同23、同29、同37、同38、同39、同42、同50、Pigment Blue 1、同9、同15、同15:1、同15:2、同15:3、同15:4、同15:6、同16、同17:1、同18、同25、同60、同66、同75、同79、Pigment Green 4,同5、同7、同8、同36、同41、同58、Pigment Brown 23、同25、Pigment Black 1、同31、ピグメントグリーンB、インダスレンブリリアントオレンジGK、パーマネントブラウンFG、ファイヤーレッド、チオインジゴレッド、ボルドー5B、カーマインレーキ、ファストバイオレットB、インダスレンバイオレット、アシッドグリーンレーキ、アルカリブルーなどがある。
無機顔料としてPigment White 1、同4、同5、同6、同14、同18、同19、同20、同21、同22、同24、同26、同27、同28、Pigment Black 6、同7、同8、同9、同10、同11、同26、同27、同28、同35、Pigment Yellow 34、同35、同35:1、同37、同37:1、同40、同41、同42、同43、同46、同53、同157、184、Pigment Orange 20、同20:1、同21、Pigment Red 101、同102、同104、同105、同106、同108、同108:1、同259、Pigment Violet 14、同15、同47、同49、Pigment Blue 27、同28、同29、同33、同35、同36、Pigment Green 15、同17、同18、同19、同21、同23、同24、同26、同50、Pigment Brown 6、同7、同8、同9、同11、同24、同33、などが挙げられる。
特殊顔料として、着色樹脂粒子や蛍光顔料、光輝性顔料、蓄光顔料など従来公知のものを使用することができる。樹脂粉体を染料や顔料で着色した着色樹脂粒子の市販品としては、GT-21コロナ・マゼンタ、同11オーロラ・ピンク、同13ロケット・レッド、同14Nファイヤー・オレンジ、同15Nブレイズ・オレンジ、同17Nサターン・イエロー、T-11オーロラ・ピンク、同12ネオン・レッド、同13ロケット・レッド、同14ファイヤー・オレンジ、同15ブレイズ・オレンジ、同16アーク・イエロー、同17Nサターン・イエロー、同18シグナル・グリーン、同19ホライゾン・ブルー(デイグロ社)、NKP-8301、同8312、同8303、同8304、同8315、同8306、同8307、同8327、同8328、同8337、同8347、同8377(日本蛍光化学(株))、などがある。蛍光顔料としては、安全性の観点から布に描くことを意図した絵具や欧州玩具安全指令に対応する絵具では一般的に微量のホルムアルデヒドを含む蛍光顔料が使用できないため、ホルムアルデヒドフリーの蛍光顔料を使用し、GWT-10シャルトリューズ、同11グリーン、同13オレンジ、同15レッド、同17ピンク、同19ブルー(以上ラディアント社)、SX-103レッド、同104オレンジ、同105イエロー、同106オレンジイエロー、同108concブルー、同117ピンク(以上シンロイヒ(株))、などが挙げられる。光輝性顔料としてはアルミニウム粉末、ブロンズ粉末などの金属粉顔料や、酸化チタンの表面をアルミナ及び/又はシリカ及び/又はジルコニアで表面処理したもの、パール顔料やグリッター顔料、ホログラム顔料なども使用できる。光輝性顔料は一般的な有機顔料や無機顔料などの着色顔料より粒子径分布が大きく、にじみ部分に粒径の細かい粒子や併用した着色顔料が偏在して境界のぼやけた不鮮明な塗布面になりやすいが、にじみを防ぐことで境界が鮮明な光輝性の塗布面が得られる。これらの顔料は、水洗後乾燥したり、表面処理を行ったり、アルカリ剤等のpH調整剤でpH調整したものを用いることができ、単独もしくは2種以上混合して使用することもできる。パール顔料などの市販品としては、天然マイカの表面を金属酸化物で被覆した、パールグレイズMM100R(シルバー、粒度15μm以下)、同MF-100(シルバー、粒度5~30μm)、同MF100RN(シルバー、粒度5~30μm)、同ME-100(シルバー、粒度10~60μm)、同ME-100R(シルバー、粒度10~60μm)、同MS-100R(シルバー、粒度20~100μm)、同ML-100R(シルバー、粒度20~200μm)、同MXL-100R(シルバー、粒度45~500μm)、同MY-100RF(干渉色ゴールド、粒度5~30μm)、同MY-100R(干渉色ゴールド、粒度10~60μm)、同MY2100R(干渉色ゴールド、粒度10~60μm)、同MY100RL(干渉色ゴールド、粒度10~125μm)、同MR-100R(干渉色レッド、粒度10~60μm)、同MR2100R(干渉色レッド、粒度10~60μm)、同MRB-100RF(干渉色レッドブルー、粒度5~30μm)、同MRB100R(干渉色レッドブルー、粒度10~60μm)、同MRB2100R(干渉色レッドブルー、粒度10~60μm)、同MRB100RL(干渉色レッドブルー、粒度10~125μm)、同MV-100RF(干渉色バイオレット、粒度5~30μm)、同MV-100R(干渉色バイオレット、粒度10~60μm)、同MV-2100R(干渉色バイオレット、粒度10~60μm)、同MB-100RF(干渉色ブルー、粒度5~30μm)、同MB-100R(干渉色ブルー、粒度10~60μm)、同MB-2100R(干渉色ブルー、粒度10~60μm)、同MB-100RL(干渉色ブルー、粒度10~125μm)、同MG-100RF(干渉色グリーン、粒度5~30μm)、同MG-100R(干渉色グリーン、粒度10~60μm)、同MG-2100R(干渉色グリーン、粒度10~60μm)、同MG-100RL(干渉色グリーン、粒度10~125μm)、同MDY-100(淡いゴールド、粒度10~60μm)、同MC-302(ゴールド、粒度5~30μm)、同MRY-100(ゴールド、粒度10~60μm)、同MC-351(ゴールド、粒度10~100μm)、同MC-323R(やや赤味ゴールド、粒度5~30μm)、同MC-303R(やや赤味ゴールド、粒度10~60μm)、同MC-355R(やや赤味ゴールド、粒度30~100μm)、同MC-326(赤味ゴールド、粒度5~30μm)、同MC-325R(赤味ゴールド、粒度5~30μm)、同MC-305R(赤味ゴールド、粒度10~60μm)、同MC-520(ブロンズ、粒度5~30μm)、同MC-500(ブロンズ、粒度10~60μm)、同MC-530(ブロンズ、粒度15~125μm)、同MC-522(レッドブラウン、粒度5~20μm)、同MC-502(レッドブラウン、粒度10~60μm)、同MC-532(レッドブラウン、粒度10~125μm)、同MC-524(レッド、粒度5~30μm)、同MC-504(レッド、粒度10~60μm)、同MC-534(レッド、粒度10~125μm)、同MC-505(レッドブルー、粒度10~60μm)(以上日本光研工業(株))や、合成マイカの表面を金属酸化物で被覆したツインクルパールシリーズ(日本光研工業(株))、ガラスフレークの表面を金属酸化物で被覆したメタシャインシリーズ(日本板硝子(株))などが挙げられる。また、グリッター顔料やホログラム顔料として、フィルムにアルミニウムを蒸着させ細かくカットしたダイヤモンドピースNo.55(シルバー、LGゴールド、DGゴールド、グリーン、ブルー、レッド等計14色、平均粒度100μm)、同No.501(同色、平均粒度200μm)、同No.530(同色、平均粒度300μm)、No.580(同色、平均粒度800μm)(以上ダイヤ工業(株))、光の干渉により見る角度で色彩が変化する多重層フィルムを細かくカットしたクリスタルカラーX-5(オパーネ、トパーズ、ブルートパーズ、エメラルド、コーラル、サファイヤ、ダイヤモンド、アクアマリーン、ペリードット、ブルームーン、平均粒度100μm)、同X-20(同色、平均粒度200μm)、同X-40(同色、平均粒度400μm)(以上ダイヤ工業(株))、オーロラフレークレッド0.01、同0.05、オーロラフレークグリーン0.01、同0.05、オーロラフレークブルー0.01、同0.05、オーロラフレークバイオレット0.01、同0.05(各色平均粒度0.01:150μm、0.05:200μm)(以上(株)角八魚鱗箔)、目に見えない無数の細かい溝によるプリズム効果で虹色に輝き、見る角度で赤・青・黄・緑・オレンジと三次元に発色し、アルミニウム蒸着がしてあるダイヤホログラムHG-S20(シルバー、LG.ゴールド、DG.ゴールド、平均粒度200μm)、同HG-S40シルバー(平均粒度400μm)(以上ダイヤ工業(株))、などが挙げられる。これらの光輝性顔料は、単独での使用や、粒度や色味や組成の違う光輝性顔料を2種以上併用しての使用や、有機顔料、無機顔料、他の特殊顔料と光輝性顔料を併用して輝度や色味を調整することもできる。また、蓄光顔料としては耐水性のあるものは使用でき、具体的にはアルミン酸ストロンチウム系化合物のアルファベガGDK11010WP、同GDK11025WP、同GDK11060WP、同BDK11025WP、同GDK13025WP、同BDK13030WP(以上エルティーアイ(株))、ルミノーバG-300M、同BG-300M、同BS-300M、R-300M(以上根本特殊化学(株))が挙げられ、暗闇での発光度合いを強めるために隠ぺい性の高い酸化チタンや光輝性顔料やその他着色顔料と併用することもできる
安全性を考慮する場合、欧州規格EN71-7:2014に記載の有機顔料や無機顔料を使うことが好ましい。一例を挙げると、C.I.PINGEMT YELLOW 1、同3、同12、同13、同14、同17、同74、同138、同139、同151、同154、同155、同185、同42、C.I.PIGMENT ORANGE 13、同34、同43、同71、C.I.PIGMENT RED 48:2、同57:1、同63:1、同68、同83、同122、同181、同214、同242、同254、同255、同、264、同272、同101、C.I.PIGMENT VIOLET 19、同23、C.I.PIGMENT BLUE 15、同16、同60、同29、C.I.PIGMENT GREEN 7、同36、C.I.PIGMENT WHITE 6、同18、同19、同21、同25、C.I.PIGMENT BLACK 6、同7、同11がある。
その他、ここに挙げた以外の顔料についても、本発明の目的を損なわない範囲で任意の顔料を添加配合することができる。着色顔料の使用量は、顔料の種類や所望の色調・光輝性・隠蔽性により適宜調整できるが、水性絵の具組成物全量に対して0.01重量%~40重量%が好ましい。
【0024】
水性絵の具組成物の塗布し易さの調整、にじみ防止、顔料沈降防止、盛り上げ性の調節のために従来公知の粘度調整剤、レオロジー調整剤として、水溶性糊料、増粘用アクリル樹脂系エマルジョン、無機系増粘剤などが使用できる。水溶性糊料は、水性絵の具組成物の塗布し易さを向上する目的で使用するもので、具体的には、水溶性樹脂として、アラビアガム(Acaciasenegal、Acaciaseyal等)、膠、黄色デキストリン、白色デキストリン、ブリティッシュガム等の天然水溶性高分子や、ローカストビーンガム、グアーガム、タラガム、トラガカントガム、黄色デキストリン、白色デキストリン、ブリティッシュガム、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、ポリビニルピロリドン、カゼイン、アルギン酸塩、水溶性アクリル系樹脂、等の水溶性樹脂が使用できる。絵の具ののびが良く適度な浸透速度で塗布しやすくし、塗膜の耐水性を保持するために、水性絵の具組成物全量に対して固形分が0.01~5.0%が好ましく使用できる。
増粘作用のあるアクリル樹脂系エマルジョンは未中和のカルボキシ基を有しており、耐水性被膜を作る目的ではなくアルカリで中和する事により水性絵の具組成物中で溶解又は膨潤し増粘する。絵具組成物の経時安定性と塗布面の柔軟性から水性絵の具組成物全量に対してアクリル樹脂系エマルジョンの樹脂固形分として0.1重量%以上5.0重量%以下が好ましく使用できる。
無機系増粘剤としては、ベントナイト、ヘクトライト、サポナイト、モンモリロナイト等が使用でき水性絵の具組成物全量に対して5.0重量%以下が好ましく使用できる。必要なレオロジー性能を得るため各種水溶性糊料、増粘用アクリル樹脂系エマルジョン、無機系増粘剤を単独または2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0025】
水溶性糊料は特に限定されるものではないが、市販されているものとしてメトローズSMシリーズ(メチルセルロース)、メトローズSHシリーズ(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、メトローズSEシリーズ(ヒドロキシエチルメチルセルロース)、チローゼHシリーズPタイプ(ヒドロキシエチルセルロース)、チローゼOシリーズPタイプ(ヒドロキシプロピルセルロース)(以上信越化学工業(株))、セロゲンシリーズ(カルボキシメチルセルロース、第一工業製薬(株))、NISSO HPCシリーズ(ヒドロキシプロピルセルロース、日本曹達(株))などが特に好ましい。
【0026】
増粘作用のあるアクリル樹脂系エマルジョンは、特に限定されるものではないが、市販されているものとしてプライマルASE-60(樹脂固形分28%)(ダウ・ケミカル日本(株))、ビニゾール1020(同29%)(大同化成工業(株))、ビスカレックスHV30(同30%)(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株))、アロンB-300(同44%、)、アロンA-7070(同20%、)(以上東亜合成(株)製)、アイカアイボンK-50(同45%)、同V-280(同28%)(以上アイカ工業(株))などが挙げられる。
【0027】
無機系増粘剤としては、特に限定されるものではないが、市販されているものとしてクニピア-F、クニピア-G4、クニピア-G(以上、精製ベントナイト)、スメクトンSA(合成サポナイト)、スメクトン-SWN、スメクトンSWF(以上、合成ヘクトライト)(以上、クニミネ工業(株))などが挙げられる。
【0028】
塩基性化合物は、上記増粘用アクリル樹脂エマルジョンを増粘させたり、増粘作用のないアクリル樹脂系エマルジョンの分散安定性を向上させたりするアルカリ剤として、また、水性絵の具組成物のpH調節剤として使用するものである。塩基性物質としては、無機化合物及び有機化合物のいずれでも使用でき、無機化合物としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、有機化合物としては、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、テトラヒドロパラオキサジンなどが使用でき、単独でも2種以上を混合して使用することもできる。特に好ましい塩基性化合物はトリエタノールアミン単独又はトリエタノールアミンと水酸化ナトリウムの併用であり、その添加量は水性絵の具組成物全量に対してトリエタノールアミンが0.1重量%以上5.0重量%以下、水酸化ナトリウム10%水溶液が10.0重量%以下が好ましく、この添加量の範囲で水性絵の具組成物のpHを、経時的な増粘やゲル化を防止する為に8.0以上11.0以下の範囲に調製するのが好ましい。
【0029】
水溶性高沸点溶剤は、水性絵の具組成物の乾燥調整剤、凍結防止剤、低温造膜性向上などを目的として使用するもので、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、グリセリンなどのグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチルシクロヘキサン、エチルグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルアセテート、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、トリエタノールアミン、ジイソノニルシクロヘキサンジカルボキシレート、などを単独或いは2種以上混合して使用することができる。その使用量は、適度な乾燥性と凍結耐性、流動性と粘度を適切に保つために、水性絵の具組成物全量に対して、0.5重量%以上、20重量%以下が好ましく使用できる。
【0030】
防腐剤は、水性絵の具組成物に経時的にカビが発生し、腐敗菌が繁殖するのを防ぐものである。水性絵の具組成物に一般的に用いられる防腐剤を使用することができ、特に限定されるものではないが、フェノール、クロロアセトアミド、2-ピリジンチオール-1-オキサイド・ナトリウム塩、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、フェノキシエタノール、トリクロサン、2-フェニルフェノールナトリウム、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメイト、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-オクチル-2H-イソチアゾール-3-オン、チアベンダゾール、フッ化ナトリウム、4-(2-ニトロブチル)モルホリン、1,3-ジモルホリノ-2-エチル-2-ニトリプロパン、ピリチオン亜鉛、2,2’-ジチオビス(N-メチルベンズアミド)、メチレンジチオシアネート、2-ブチルベンゾ[d]イソチアゾール-3(2H)-オン、4,5-ジクロロ-2-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミド、カルベンダジム、シルバージンクゼオライト、ジヨードメチル-p-トリルスルホン、3-(4-クロロフェノキシ)-1,2-プロパンジオール、カプリリルグリコール、デシレングリコール、エチルヘキシルグリセリン、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、5-クロロ-2-(2,4‐ジロロフェノキシ)フェノール、チモール、イソプロピルメチルフェノールなどが挙げられ、単独または2種以上を併用することができる。
【0031】
少ない添加量で高い防腐防カビ効果を発揮し、アクリル絵の具での顔料分散に影響がないものとしては、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ブチルベンゾ[d]イソチアゾール-3(2H)-オン、4,5-ジクロロ-2-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、カルベンダジムが特に好ましく、単独または2種以上を使用することができる。また、安全性が高く、アクリル絵の具での顔料分散に影響がないものとしては、ピリチオン亜鉛、2,2’-ジチオビス(N-メチルベンズアミド)、2-ピリジンチオール-1-オキサイド・ナトリウム塩、トリクロサン、2-フェニルフェノールナトリウム、イソプロピルメチルフェノール、ジヨードメチル-p-トリルスルホンが特に好ましく、単独または2種以上を使用することができる。少量添加で効果の高いタイプのものと安全性の高いタイプを組み合わせるなど所望の性能により適宜種類と添加量を調整することができる。また、組合せにより相乗効果が期待できることが公知のものを組み合わせるなどしても良い。
【0032】
消泡剤は、合成樹脂エマルジョンを多く含む配合において、撹拌や分散時に巻き込む泡の消泡を補助するものである。水性組成物に一般的に用いられるシリコーン系消泡剤や鉱物油系消泡剤などを使用することができ、特に限定されるものではないが、アクアレン8021N、同SB-520、同SB-630、フローレンAO-5(以上共栄社化学(株))、SNデフォーマ113,同393、同399,同1311、同1315、同5016、ノプタム777-F,同3590、同8034-F(以上サンノプコ(株)製)などが使用できる。その使用量は少なすぎると十分な消泡効果が得られず、多すぎると塗膜の光沢性や耐水性、平滑性を損なうことから、0.05重量%以上、2.0重量%以下が好ましい。
【0033】
その他、脱泡剤や脱気剤、界面活性剤なども必要に応じて併用することもできる。
【0034】
本発明の水性絵の具組成物を製造する方法は、成分をディスパー、ホモジナイザー、ターボミキサー、ヘンシェルミキサー、減圧ヘンシェルミキサー、3本ロールミル、横型ボールミルまたは、横型ビーズミルなどといった従来公知の攪拌、分散機にて混合分散することにより容易に得ることができる。
【実施例0035】
実施例1
アイカアイボンM-584(アクリル樹脂系エマルジョン、Tg-30℃、樹脂固形分5
5%、pH約7、アイカ工業(株)製) 60.0重量部
アエロジルR972(疎水性乾式シリカ、1次粒子の平均径16nm、pH4.0以上5
.5以下、日本アエロジル(株)製) 1.0重量部
硫酸カルシウムA(硫酸カルシウム2水和物、吉野石膏(株)製) 0.3重量部
(内水和物を除く硫酸カルシウム:0.24重量部)
ビニゾール1020(増粘用アクリル樹脂系エマルジョン、樹脂固形分29%、大同化成
工業(株)製) 2.2重量部
チローゼH4000P 4%水溶液(ヒドロキシエチルセルロース、信越化学工業(株)
製) 4.0重量部
トリエタノールアミン(アルカリ剤) 2.0重量部
プロピレングリコール(湿潤剤) 12.0重量部
フタロシアニングリーン(有機顔料) 4.0重量部
デンシルP(防腐剤、有効成分:2,2’-ジチオビス(N-メチルベンズアミド)、ロ
ンザ・ジャパン(株)製) 0.2重量部
SNデフォーマ113(消泡剤、サンノプコ(株)製) 0.3重量部
水 14.0重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い緑色の水性絵具組成物を得た。
【0036】
実施例2
リカボンドFK-284(アクリル樹脂系エマルジョン、Tg-40℃、樹脂固形分30
%、pH約7、ジャパンコーティングレジン(株)製) 50.0重量部
アエロジルR974(疎水性乾式シリカ、1次粒子の平均径12nm、pH3.8以上5
.0以下、日本アエロジル(株)製) 6.0重量部
特級焼石膏(硫酸カルシウム1/2水和物、吉野石膏(株)製) 2.0重量部
(内水和物を除く硫酸カルシウム:1.85重量部)
セロゲン7A 4%水溶液(カルボキシメチルセルロース、第一工業製薬(株)製)
7.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
水酸化ナトリウム10%水溶液(アルカリ剤) 2.0重量部
プロピレングリコール 5.0重量部
Pigment Black 7(無機顔料) 15.0重量部
タマパールTP-111(軽質炭酸カルシウム、奥多摩工業(株)製) 4.0重量部
ソジウムオマジン40%水溶液(防腐剤、有効成分:ソジウムピリチオン、ロンザ・ジャ
パン(株)製) 0.2重量部
SNデフォーマ113 0.3重量部
水 14.0重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い黒色の水性絵具組成物を得た。
【0037】
実施例3
アイカアイボンM-581(アクリル樹脂系エマルジョン、Tg-25℃、樹脂固形分5
9%、pH約8、アイカ工業(株)製) 70.0重量部
アエロジルR972 0.05重量部
硫酸カルシウムA 0.3重量部
(内水和物を除く硫酸カルシウム:0.24重量部)
ビニゾール1020 2.1重量部
NISSO HPC H 4%水溶液 (ヒドロキシプロピルセルロース、日本曹達(株 )製) 4.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
水酸化ナトリウム10%水溶液 2.0重量部
プロピレングリコール 5.0重量部
Pigment Blue 15(有機顔料) 5.0重量部
デンシル P 0.2重量部
SNデフォーマ113 0.5重量部
水 9.85重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い青色の水性絵具組成物を得た。
【0038】
実施例4
アイカアイボンM-584 40.0重量部
アエロジルR972 2.0重量部
特級焼石膏 0.5重量部
(内水和物を除く硫酸カルシウム:0.46重量部)
ビニゾール1020 3.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
水酸化ナトリウム10%水溶液 2.0重量部
プロピレングリコール 9.0重量部
Pigment Red 101(無機顔料) 11.0重量部
カープレックス1120(親水性湿式シリカ、エボニックジャパン(株)製)
1.0重量部
バイオカットTR-120(防腐剤、有効成分:有機窒素系化合物(チアゾリン系)、日
本曹達(株)製) 0.2重量部
Orotan1288(分散剤、アクリル酸重合物ナトリウム塩、ダウ・ケミカル日本(
株)製) 0.2重量部
SNデフォーマ113 0.3重量部
水 29.8重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い茶色の水性絵具組成物を得た。
【0039】
実施例5
リカボンドFK-284 50.0重量部
アエロジルR974 0.7重量部
D-101A(III型無水石膏、(株)ノリタケカンパニーリミテド製)0.5重量部
ビニゾール1020 2.0重量部
チローゼH4000P 4%水溶液 3.5重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
プロピレングリコール 10.0重量部
パールグレイズMC-502(パール顔料、レッドブラウン、粒度10~60μm、日本
光研工業(株)製) 10.0重量部
パールグレイズMC-532(パール顔料、レッドブラウン、粒度10~125μm日本
光研工業(株)製) 10.0重量部
ソジウムオマジン40%水溶液 0.2重量部
水 12.1重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い銅色の高輝性水性絵具組成物を得た。
【0040】
実施例6
DirtShield08(アクリル樹脂系エマルジョン、Tg12℃、樹脂固形分45
.5%、pH約7.5以上8.5以下、ダウ・ケミカル日本(株)製) 30.0重量部
アエロジルRA200H(疎水性乾式シリカ、1次粒子の平均径12nm、pH8.5以
上10.5以下、日本アエロジル(株)製) 7.0重量部
硫酸カルシウムA 3.0重量部
(内水和物を除く硫酸カルシウム:2.37重量部)
チローゼH4000P 4.0%水溶液 0.5重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
水酸化ナトリウム10%水溶液 5.0重量部
プロピレングリコール 10.0重量部
パールグレイズML-100R(パール顔料、シルバー、粒度20~200μm、日本光
研工業(株)製) 7.0重量部
パールグレイズMC-502 1.0重量部
デンシルP 0.2重量部
水 35.3重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い薄銅色の高輝性水性絵具組成物を得た。
【0041】
実施例7
アイカアイボンM-581 50.0重量部
アエロジルRA200H 4.5重量部
D-101A 2.1重量部
ビニゾール1020 2.0重量部
チローゼH4000P 4.0%水溶液 3.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
水酸化ナトリウム10%水溶液 5.0重量部
プロピレングリコール 15.0重量部
パールグレイズML-100R 5.0重量部
オーロラフレークブルー0.05(多層フィルムグリッター顔料、偏光ブルー、平均粒度
200μm、(株)角八魚鱗箔製) 5.0重量部
ソジウムオマジン40%水溶液 0.2重量部
SNデフォーマ113 0.2重量部
水 7.0重量部
上記成分のうち、水とオーロラフレークブルー0.05を除いたもの全てをラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い、低速で撹拌しながら水とオーロラフレークブルーの混合物を添加し、偏光青色の高輝性水性絵具組成物を得た。
【0042】
実施例8
アイカアイボンM-581 50.0重量部
アエロジルR974 1.0重量部
硫酸カルシウムA 0.1重量部
(内水和物を除く硫酸カルシウム:0.08重量部)
ビニゾール1020 2.2重量部
NISSO HPC H 4%水溶液 3.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
プロピレングリコール 9.0重量部
オーロラフレークブルー0.05 7.0重量部
オーロラフレークレッド0.05(多層フィルムグリッター顔料、偏光レッド、平均粒度
200μm、(株)角八魚鱗箔製) 8.0重量部
デンシルP 0.2重量部
SNデフォーマ113 0.2重量部
水 18.3重量部
上記成分のうち、水とオーロラフレークブルー0.05とオーロラフレークレッド0.05を除いたもの全てをラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い、低速で撹拌しながら水とオーロラフレークブルー0.05とオーロラフレークレッド0.05の混合物を添加し、青色と赤色の偏光色が反射する高輝性水性絵具組成物を得た。
【0043】
実施例9
アイカアイボンM-584 50.0重量部
アエロジルR974 1.0重量部
硫酸カルシウムA 0.5重量部
(内水和物を除く硫酸カルシウム:0.4重量部)
ビニゾール1020 2.2重量部
チローゼH4000P 3.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
水酸化ナトリウム10%水溶液 1.0重量部
プロピレングリコール 9.0重量部
ジエチレングリコールモノメチルエーテル 1.0重量部
パールグレイズME-100(パール顔料、シルバー、粒度10~60μm、日本光研工
業(株)製) 5.0重量部
アルファベガGDK11010WP(蓄光顔料、発光色グリーン、体色薄黄緑色、平均粒
度10μm、エルティーアイ(株)製) 15.0重量部
バイオカットTR-120 0.2重量部
SNデフォーマ113 0.2重量部
水 10.9重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い、暗闇で緑色に発光する薄黄緑色の高輝性水性絵具組成物を得た。
【0044】
実施例10
アイカアイボンM-584 60.0重量部
アエロジルR972 1.5重量部
硫酸カルシウムA 0.2重量部
(内水和物を除く硫酸カルシウム:0.16重量部)
ビニゾール1020 2.2重量部
チローゼH4000P 4%水溶液 4.0重量部
トリエタノールアミン 2.0重量部
プロピレングリコール 5.0重量部
Pigment Blue 15 5.0重量部
パールグレイズME-100 5.0重量部
パールグレイズMB-100R(パール顔料、干渉色ブルー、粒度10~60μm、日本
光研工業(株)製) 5.0重量部
デンシルP 0.2重量部
SNデフォーマ113 0.3重量部
水 9.6重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い、青色の高輝性水性絵具組成物を得た。
【0045】
比較例1
実施例1の硫酸カルシウムAをタマパールTP-111(炭酸カルシウム)に置き換えたものをラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い緑色の水性絵具組成物を得た。
【0046】
比較例2
実施例1のアイカアイボンM-584をスミカフレックス201HQ(エチレン-酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、Tg-20℃、樹脂固形分55%、pH約3.0以上6.0以下、住化ケムテックス(株)製)に置き換えたものをラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い緑色の水性絵具組成物を得た。
【0047】
比較例3
実施例1のアエロジルR-972をカープレックス1120に置き換えたものをラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い緑色の水性絵具組成物を得た。
【0048】
比較例4
プライマルAC-261T(アクリル樹脂系エマルジョン、Tg24℃、樹脂固形分49
.5%、pH約8.5以上9.1以下、ダウ・ケミカル日本(株)製) 30.0重量部
DirtShield08 30.0重量部
ビニゾール1020 2.3重量部
セロゲン7A 3.0重量部
トリエタノールアミン 2.0重量部
水酸化ナトリウム10%水溶液 1.0重量部
プロピレングリコール 5.0重量部
Pigment Blue 15 5.0重量部
パールグレイズME-100 5.0重量部
パールグレイズMB-100R 5.0重量部
カープレックス1120 1.0重量部
プロクセルGXL(防腐剤、有効成分:1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、ロン
ザ・ジャパン(株)製) 0.2重量部
バイオカットTR-120 0.2重量部
SNデフォーマ113 0.3重量部
水 10.0重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い青色の高輝性水性絵具組成物を得た。
【0049】
比較例5
アイカアイボンM-584 60.0重量部
アエロジルR972 1.0重量部
ビニゾール1020 2.0重量部
NISSO HPC H 4%水溶液 2.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
水酸化ナトリウム10%水溶液 1.5重量部
プロピレングリコール 12.0重量部
Pigment Black 7 5.0重量部
パールグレイズMB-100R 5.0重量部
プロクセルGXL 0.3重量部
SNデフォーマ113 0.2重量部
水 10.0重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い黒色の高輝性水性絵具組成物を得た。
【0050】
比較例6
アイカアイボンM-584 60.0重量部
硫酸カルシウムA 0.3重量部
(内水和物を除く硫酸カルシウム:0.24重量部)
ビニゾール1020 2.5重量部
チローゼH4000P 4%水溶液 4.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
水酸化ナトリウム10%水溶液 3.0重量部
プロピレングリコール 9.0重量部
Pigment Blue 15 5.0重量部
バイオカットTR-120 0.2重量部
SNデフォーマ113 0.3重量部
水 14.7重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い青色の水性絵具組成物を得た。
【0051】
比較例7
デキストリン45%水溶液(定着剤) 40.0重量部
アエロジルR972 1.0重量部
硫酸カルシウムA 1.0重量部
(内水和物を除く硫酸カルシウム:0.8重量部)
セロゲン7A 4%水溶液 4.5重量部
グリセリン(湿潤剤) 10.0重量部
Pigment Red 101 15.0重量部
タマパールTP-111 15.0重量部
デンシルP 0.5重量部
水 13.0重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い茶色の水性絵具組成物を得た。
【0052】
比較例8
アイカアイボンM-584 60.0重量部
ニップシールSS-50F(疎水性湿式シリカ、平均粒子径0.6μm以上1.7μm以
下、pH6.5以上8.5以下、東ソー・シリカ(株)製) 1.0重量部
硫酸カルシウムA 0.3重量部
(内水和物を除く硫酸カルシウム:0.24重量部)
ビニゾール1020 2.2重量部
チローゼH4000P 4.0重量部
トリエタノールアミン 2.0重量部
プロピレングリコール 5.0重量部
Pigment Blue 15 5.0重量部
パールグレイズME-100 5.0重量部
パールグレイズMB-100R 5.0重量部
デンシルP 0.2重量部
水 10.3重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い青色の高輝性水性絵具組成物を得た。
【0053】
比較例9
比較例8のニップシールSS-50Fをアエロジル200(親水性乾式シリカ、1次粒子の平均径約12nm、pH4.0以上4.5以下、日本アエロジル(株)製)に置き換えたものをラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い青色の高輝性水性絵具組成物を得た。
【0054】
比較例10
アイカアイボンM-584 20.0重量部
アエロジルR974 1.0重量部
ビニゾール1020 2.2重量部
チローゼH4000P 4%水溶液 4.0重量部
トリエタノールアミン 1.0重量部
水酸化ナトリウム10%水溶液 1.0重量部
プロピレングリコール 5.0重量部
Pigment Green 7 20.0重量部
タマパールTP-111 30.0重量部
プロクセルGXL 0.2重量部
水 15.6重量部
上記成分をラボミキサーにて15分間撹拌した後、3本ロールミルにて3回通しを行い緑色の水性絵具組成物を得た。
【0055】
上記実施例1~10、比較例1~10により得た水性絵具組成物のにじみ試験と洗濯堅牢性試験と経時安定性試験と発色を確認した結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
にじみ試験:
25℃40%に温度と湿度を管理した部屋で縦約15cm、横約8cmに切った布(綿ブロード#60)を布の裏面が接地しないよう刺繍枠に弛みなく張った状態にて取り付けて固定する。水性絵具組成物1gに水1gを加え均一に溶く。水で溶いた水性絵具組成物をマイクロピペッターで吸い込み、布に0.45μLずつ5箇所に滴下する。滴下した試料が完全に乾いた後、布を刺繍枠から外し、にじみ広がった試料の5個の円の直径を測定し平均を算出する。高希釈下でのにじみの評価としてそれぞれの実施例・比較例の結果を以下の基準で評価した。
◎:10mm未満(非常ににじみにくい)
○:10mm以上、12mm未満(にじみにくい)
△:12mm以上、15mm未満(ややにじみにくい)
×:15mm以上(にじみやすい)
【0058】
洗濯堅牢性試験:
25℃40%に温度と湿度を管理した部屋で水性絵具組成物1gに水0.5gを加え、均一に溶く。これを縦約15cm、横約8cmに切った布(綿ブロード#60)を布の裏面が接地しないよう刺繍枠に弛みなく張った状態にて取り付けて固定し、筆で縦約2cm、横約8cmの幅で塗布する。他の色も同様に塗り、1日乾燥させる。この布を縦半分に切り、片方を洗濯前試料、もう片方を洗濯用試料とする。それぞれの実施例・比較例の洗濯用試料全てをフェイスタオル4枚とともに縦型洗濯機(NA-F60H1、パナソニック(株)製)に入れ、水量40L、粉末洗剤(アタック高活性バイオEX、花王(株)製)30g(水量に対する推奨される量)にて、全自動モードで洗濯(10分)、すすぎ(20分)、脱水(10分)の一連の工程を行った。洗濯用試料が乾燥したら洗濯前試料と洗濯後試料との洗濯前後の色差を測定する。色差測定には、日本電色工業株式会社製の分光式色彩計SE7700を使用し、光源D65、視野10°で色度を測定し色差ΔE00を算出した。それぞれの実施例・比較例の結果を以下の基準で評価した。
◎:ΔE00が1.0未満(洗濯堅牢性が非常に高い)
○:ΔE00が1.0以上2.0未満(洗濯堅牢性が比較的高い)
△:ΔE00が2.0以上3.0未満(洗濯堅牢性がやや不十分)
×:ΔE00が3.0以上(洗濯堅牢性が低い)
【0059】
経時安定性試験:
水性絵具組成物12mLをぺんてる株式会社エフ水彩(WFC1-12)に使用のポリチューブに充填し、50℃恒温槽に3ヶ月間静置した後取出し、常温まで冷ました後、初期品質と比較する。評価項目としては、水性絵具組成物1gに水0.5gを加え、均一に溶いたものを布(綿ブロード#60)に筆で塗布して分散や発色を確認し、JIS K 5101 顔料試験法10.1 スプレッド法にて硬さの測定をする。
◎:50℃3ヶ月品と初期品質に差がなく、50℃3ヶ月品と初期品質に実使用上の問題がない(経時安定性が非常に高い)
○:50℃3ヶ月品と初期品質の差が小さく、50℃3ヶ月品と初期品質に実使用上の問題がない(経時安定性が高い)
△:50℃3ヶ月品と初期品質の差があるが、50℃3ヶ月品と初期品質に実使用上の問題がない(経時安定性が許容範囲)
×:50℃3ヶ月品と初期品質の差が大きく、50℃3ヶ月品に実使用上の問題がある。(経時安定性が低い)
【0060】
発色:
洗濯堅牢性試験用に作成した試験片を1日乾燥後洗濯前に発色を目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎:色むらがなく非常に発色がよい
○:色むらがなく発色がよい
△:少し色むらがあるが概ね発色がよい
×:色むらがあり発色が悪い(顔料の裏抜けや硬い凝集が起こっている)
【0061】
実施例1~10はにじみ試験、洗濯堅牢性試験、経時安定性試験、発色いずれにおいても良好である。
特に、実施例1、9、10は硫酸カルシウムの水和物を除く含有量が水性絵具組成物全量に対して0.05重量%以上2.0重量%以下、かつ疎水性乾式シリカの添加量が水性絵具組成物全量に対して0.05%重量%以上、5%以下であり、かつ水性絵の具組成物に含まれる硫酸カルシウムのうち水和物を除く含有量に対する水性絵の具組成物に含まれる疎水性乾式シリカの含有量の比率が2以上10以下であり、かつその合計が水性絵具組成物全量に対して0.5重量%以上2.0重量%以下であるため、にじみが非常に少なくかつ色むらのない非常に鮮明な発色と耐洗濯性を兼ね備えている。
比較例1~10はアクリル樹脂系エマルジョン、疎水性乾式シリカと硫酸カルシウムのいずれかが含まれていないためにじみを防ぐ凝集複合体が形成されず、にじみが防止できない。比較例1は硫酸カルシウムの代わりに従来公知の体質顔料として炭酸カルシウムが添加されているが、にじみやすく、裏抜けして発色が悪い。比較例2はアクリル樹脂系エマルジョンではなく、エチレン-酢酸ビニル樹脂系エマルジョンであるため、にじみや発色が悪い他、経時安定性が悪い。比較例3は疎水性乾式シリカの代わりに親水性湿式シリカが添加されているが、表面が親水性であること、粒度が大きい湿式シリカであるため、にじみと発色が悪い。比較例4は硫酸カルシウムと疎水性乾式シリカが添加されておらず、にじみと発色が悪い。比較例5は硫酸カルシウムが添加されておらずにじみと発色が悪い。比較例6は疎水性乾式シリカが添加されておらず、にじみと発色が悪い。比較例7は樹脂系エマルジョンの代わりに水溶性糊料が添加されており塗膜が水に溶けるため、にじみと洗濯堅牢性が悪い。比較例8は疎水性乾式シリカの代わりに疎水性湿式シリカが添加されているが、湿式シリカは粒度が大きいため非常に大きな凝集体を形成することから、発色と経時安定性が悪い。比較例9は疎水性乾式シリカの代わりに親水性湿式シリカが添加されているが、親水性であるため、アクリル樹脂系エマルジョンと相互作用を起こさず、にじみと発色が悪い。比較例10はアクリル樹脂系エマルジョンが少なく、顔料や体質顔料などの固形分が多いため高希釈度でも粘度低下が小さいアクリルガッシュの配合であっても硫酸カルシウムが添加されていないため、にじみと発色が悪い。また洗濯堅牢性も劣る。
【0062】
以上、詳細に説明したように、本発明に係る水性絵具組成物はにじみにくさと洗濯堅牢性と発色が良好で、経時的にゲル化や硬い凝集などが発生しない優れた特性を有している。