(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009781
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】成膜方法及び熱処理装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/46 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
C23C16/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113349
(22)【出願日】2021-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】菊池 康晃
(72)【発明者】
【氏名】横井 翼
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓介
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA17
4K030BA12
4K030BA13
4K030BA20
4K030EA03
4K030FA10
4K030JA10
4K030KA09
4K030KA23
4K030KA39
4K030KA41
4K030LA15
(57)【要約】
【課題】温度制御性を改善する。
【解決手段】処理容器と、前記処理容器内の管状部材と、前記処理容器内を加熱する加熱部と、ガス供給部とを有する熱処理装置において実行される成膜方法であって、前記管状部材内に基板を準備する工程と、前記加熱部により前記管状部材内の温度を調整する工程と、前記温度を調整した後、前記ガス供給部から前記処理容器内に成膜ガスを含むガスを供給し、基板に膜を成膜する工程と、を有し、前記温度を調整する工程において前記ガス供給部から前記処理容器内に熱伝達ガスを含むガスを供給する、成膜方法が提供される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器と、前記処理容器内の管状部材と、前記処理容器内を加熱する加熱部と、ガス供給部とを有する熱処理装置において実行される成膜方法であって、
前記管状部材内に基板を準備する工程と、
前記加熱部により前記管状部材内の温度を調整する工程と、
前記温度を調整した後、前記ガス供給部から前記処理容器内に成膜ガスを含むガスを供給し、基板に膜を成膜する工程と、を有し、
前記温度を調整する工程において前記ガス供給部から前記処理容器内に熱伝達ガスを含むガスを供給する、成膜方法。
【請求項2】
前記温度を調整する工程において前記管状部材内の温度安定化、昇温、降温の温度制御の少なくともいずれかにおいて前記熱伝達ガスを含むガスを供給する、
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記基板を成膜する工程の間、又は前記基板を成膜する工程の前の所定時間に前記熱伝達ガスを含むガスを供給する、
請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記基板を成膜する工程が複数のステップを有する場合、前記複数のステップのうち前記温度を調整する工程を有するステップにおいて所定時間、前記熱伝達ガスを含むガスを供給する、
請求項3に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記熱伝達ガスは、H2ガス及びHeガスの少なくともいずれかを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記基板を成膜する工程は、基板に金属膜を成膜する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記処理容器内を真空状態にした後、前記温度を調整する工程において前記熱伝達ガスを含むガスを供給する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記温度を調整する工程において前記処理容器内に前記熱伝達ガスを含むガス及びエアーを供給する、
請求項1~7のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項9】
処理容器と、前記処理容器内の管状部材と、前記処理容器内を加熱する加熱部と、ガス供給部と、制御部と、を有する熱処理装置であって、
前記制御部は、
前記管状部材内に基板を準備する工程と、
前記加熱部により前記管状部材内の温度を調整する工程と、
前記温度を調整した後、前記ガス供給部から前記処理容器内に成膜ガスを含むガスを供給し、基板に膜を成膜する工程と、を制御し、
前記温度を調整する工程において前記ガス供給部から前記処理容器内に熱伝達ガスを含むガスを供給するように制御する、熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成膜方法及び熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体製造装置の処理容器内の温度を測定し、測定結果を処理容器内にて実行する基板処理のプロセス条件の制御に使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
真空状態の処理容器内では熱の伝達に時間がかかり、温度制御に影響を与える場合がある。
【0005】
本開示は、温度制御性を改善することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、処理容器と、前記処理容器内の管状部材と、前記処理容器内を加熱する加熱部と、ガス供給部とを有する熱処理装置において実行される成膜方法であって、前記管状部材内に基板を準備する工程と、前記加熱部により前記管状部材内の温度を調整する工程と、前記温度を調整した後、前記ガス供給部から前記処理容器内に成膜ガスを含むガスを供給し、基板に膜を成膜する工程と、を有し、前記温度を調整する工程において前記ガス供給部から前記処理容器内に熱伝達ガスを含むガスを供給する、成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
一の側面によれば、温度制御性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】処理容器内の過昇温の課題を説明するための図。
【
図3】実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示す図。
【
図4】実施形態に係る制御装置のハードウェア構成の一例を示す図。
【
図5】実施形態に係る熱伝達ガスの供給の効果を説明するための図。
【
図6】実施形態に係る成膜方法の一例を示すフローチャート。
【
図7】実施形態に係る成膜方法による熱伝達ガスの供給の効果の一例を示す図。
【
図8】
図6の成膜処理の詳細の一例を示すフローチャート。
【
図9】実施形態に係る成膜方法による熱伝達ガスの供給の効果の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
[熱処理装置]
図1を参照しながら、実施形態の熱処理装置1について説明する。
図1は、実施形態の熱処理装置1の一例を示す概略図である。
【0011】
熱処理装置1は、処理容器10と管状部材2とを有する。処理容器10は、略円筒形状を有する。管状部材2は、処理容器10の内側に配置され、内管11及び外管12を有する。内管11は、略円筒形状を有する。内管11は、例えば石英等の耐熱材料により形成されている。内管11は基板Wを収容する。内管11はインナーチューブとも称される。
【0012】
外管12は、有天井の略円筒形状を有し、内管11の周囲に同心的に設けられている。外管12は、例えば石英等の耐熱材料により形成されている。外管12は、アウターチューブとも称される。熱処理装置1は、管状部材2と処理容器10とにより二重構造となっている。
【0013】
熱処理装置1は、マニホールド13、ガス供給管21、22、23、ガス出口15、蓋体16等を有する。マニホールド13は、略円筒形状を有する。マニホールド13は、内管11及び外管12の下端を支持する。マニホールド13は、例えばステンレス鋼により形成されている。
【0014】
ガス供給部20は、マニホールド13に設けられており、内管11内へガスを導入する。ガス供給部20は、複数(図示の例では3本)の石英製のガス供給管21、22、23を有している。各ガス供給管21、22、23は、内管11内にその長手方向に沿って延在すると共に、その基端がL字状に屈曲されてマニホールド13を貫通するようにして支持されている。
【0015】
ガス供給管21、22、23は、内管11のノズル収容部27内に周方向に沿って一列になるように設置されている。各ガス供給管21、22、23には、その長手方向に沿って所定間隔で複数のガス孔hが形成されている。各ガス孔hは、水平方向に向けて各ガスを吐出する。所定間隔は、例えばウエハボート18に支持される基板Wの間隔と同じになるように設定される。また、高さ方向の位置は、各ガス孔hが上下方向に隣り合う基板W間の中間に位置するように設定されており、各ガスを基板W間の空間に効率的に供給できるようになっている。ガス供給管21、22、23には、それぞれ流量制御器、バルブ等を介してガス供給源24、25、26が接続されている。ガス供給源24、25、26は、それぞれ成膜ガス、クリーニングガス及び熱伝達ガスの供給源である。ガス供給源24、25、26からの各ガスは、流量制御器により流量が制御され、必要に応じて各ガス供給管21、22、23を介して処理容器10内に供給される。
【0016】
本実施形態において、成膜ガスは、モリブデン(Mo)膜等の金属膜を成膜するために用いられるガスである。なお、
図1の例では、ガス供給管21、22、23が1本ずつ配置された場合を示しているが、ガス供給管21、22、23は複数本であってもよい。
【0017】
ガス出口15は、マニホールド13に形成されている。ガス出口15には、排気配管32が接続されている。処理容器10内に供給されるガスは、ガス出口15を介して排気部30により排気される。
【0018】
蓋体16は、マニホールド13の下端の開口を気密に塞ぐ。蓋体16は、例えばステンレス鋼により形成されている。蓋体16上には、保温筒17を介してウエハボート18が載置されている。保温筒17及びウエハボート18は、例えば石英等の耐熱材料により形成されている。ウエハボート18は、複数の基板Wを鉛直方向に所定間隔をあけて略水平に保持する。ウエハボート18は、昇降部19が蓋体16を上昇させることで処理容器10内へと搬入(ロード)され、処理容器10内に収容される。ウエハボート18は、昇降部19が蓋体16を下降させることで処理容器10内から搬出(アンロード)される。基板Wの一例としてはウエハが挙げられる。
【0019】
熱処理装置1は、排気部30、加熱部40、冷却部50、制御装置90等を有する。排気部30は、排気装置31、排気配管32及び圧力制御器33を含む。排気装置31は、例えばドライポンプ、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプである。排気配管32は、ガス出口15と排気装置31とを接続する。圧力制御器33は、排気配管32に介設されており、排気配管32のコンダクタンスを調整することにより処理容器10内の圧力を制御する。圧力制御器33は、例えば自動圧力制御バルブである。
【0020】
加熱部40は、断熱材41、ヒータ42及び外皮43を含む。断熱材41は、略円筒形状を有し、外管12の周囲に設けられている。断熱材41は、シリカ及びアルミナを主成分として形成されている。ヒータ42は、発熱体の一例であり、断熱材41の内周に設けられている。ヒータ42は、処理容器10の高さ方向に複数のゾーンに分けて温度制御が可能なように処理容器10の側壁に線状又は面状に設けられている。外皮43は、断熱材41の外周を覆うように設けられている。外皮43は、断熱材41の形状を保持すると共に断熱材41を補強する。外皮43は、ステンレス鋼等の金属により形成されている。また、加熱部40の外部への熱影響を抑制するために、外皮43の外周に水冷ジャケット(図示せず)を設けてもよい。係る加熱部40は、ヒータ42に供給されるパワーによりヒータ42の発熱量が決まり、これにより、処理容器10内を所望の温度になるまで加熱する。
【0021】
冷却部50は、処理容器10に向けてエアー(空気)を供給し、処理容器10内の基板Wを冷却する。エアーは、冷却流体の一例である。冷却部50は、例えば熱処理の後に基板Wを急速降温させる際に処理容器10に向けてエアーを供給する。冷却部50は、流体流路51、吹出孔52、分配流路53、流量調整部54、排熱口55を有する。
【0022】
流体流路51は、断熱材41と外皮43との間に高さ方向に複数形成されている。流体流路51は、例えば断熱材41の外側に周方向に沿って形成された流路である。
【0023】
吹出孔52は、各流体流路51から断熱材41を貫通して形成されており、外管12と断熱材41との間の空間にエアーを吹き出す。
【0024】
分配流路53は、外皮43の外部に設けられており、エアーを各流体流路51に分配して供給する。流量調整部54は、分配流路53に介設されており、流体流路51に供給されるエアーの流量を調整する。
【0025】
排熱口55は、複数の吹出孔52よりも上方に設けられており、外管12と断熱材41との間の空間に供給されたエアーを熱処理装置1の外部に排出する。熱処理装置1の外部に排出されたエアーは、例えば熱交換器により冷却されて再び分配流路53に供給される。ただし、熱処理装置1の外部に排出されたエアーは、再利用されることなく排出されてもよい。
【0026】
温度センサ60は、管状部材2内の温度を検出する。温度センサ60は、例えば内管11内に設けられている。ただし、温度センサ60は、管状部材2内の温度を検出できる位置に設けられていればよく、例えば内管11と外管12との間の空間に設けてもよい。温度センサ60は、複数のゾーンに対応して高さ方向の異なる位置に設けられた複数の測温部61~65を有する。測温部61~65は、それぞれゾーン「TOP」、「C-T」、「CTR」、「C-B」及び「BTM」に対応して設けられている。複数の測温部61~65は、例えば熱電対、測温抵抗体であってよい。温度センサ60は、複数の測温部61~65で検出した温度を制御装置90に送信する。
【0027】
温度センサ71~75(以下、総称して「温度センサ70」ともいう。)は、処理容器10の外部から処理容器10と管状部材2との間の空間に差し込まれる。これにより、温度センサ70の測温部は、ゾーン「TOP」、「C-T」、「CTR」、「C-B」及び「BTM」に対応して測温部61~65と概ね同じ高さに配置される。温度センサ70の測温部のそれぞれは、例えば熱電対、測温抵抗体であってよい。温度センサ70は、複数の測温部で検出した温度を制御装置90に送信する。
【0028】
温度センサ60、70の測温部は5個に限られず、7個又はその他の1以上の個数であってよい。ヒータ42の近くに温度センサ70があり、ヒータ42と、温度センサ70及び温度センサ60の測温部は対になっている。温度センサ60が測定する管状部材2内の温度を「Inner温度」とも表記する。温度センサ70が測定する管状部材2外であって処理容器10内の温度を「Outer温度」とも表記する。
【0029】
制御装置90は、熱処理装置1の動作を制御する。制御装置90は、例えばコンピュータであってよい。熱処理装置1の全体の動作を行うコンピュータのプログラムは、記憶媒体に記憶されている。記憶媒体は、例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、フラッシュメモリ、DVD等であってよい。
【0030】
[Outer温度の過昇温]
通常、熱処理装置1では、管状部材2内の領域(以下、「Inner領域」ともいう。)の温度(Inner温度)をレシピに設定されたターゲット温度まで上昇させて基板Wへ所望の成膜処理を行う。このとき、管状部材2外であって処理容器10内の領域(以下、「Outer領域」ともいう。)に設けられたヒータ42のパワーを制御することによりOuter領域からInner領域へ熱を伝え、Inner温度をターゲット温度まで上昇させる。本明細書においてターゲット温度は、温度制御の対象となるInner領域の目標温度である。
【0031】
ところが、熱処理装置1にて基板Wに、例えばモリブデン膜等の反射率が高い金属膜を成膜する場合、モリブデン膜の成膜時に管状部材2(内管11の表面および外管12の内面)のモリブデン膜が付着する。モリブデン膜の反射率は約0.97と高いために管状部材2の内側に付着したモリブデン膜は反射膜として機能する。内管11の表面および外管12の内面が反射率の高い膜で覆われると、管状部材2の二重構造による断熱効果が高まり、Outer領域からInner領域までの熱の伝達に時間がかかる。
【0032】
図2は、処理容器10内の過昇温の課題を説明するためのグラフである。
図2(a)はInner温度の一例を示すグラフであり、グラフの横軸は時間、縦軸は温度である。
図2(b)に示すヒータ42のパワーの制御によりInner温度は徐々に上昇している。
【0033】
ところが、管状部材2の内側に付着したモリブデン膜が反射膜として機能し、管状部材2の二重構造によりOuter領域からInner領域への熱の伝達に時間がかかり、ヒータ42のパワーを上げてもInner温度はすぐには上がらない。このため、ヒータ42のパワーをさらに上げる。
図2(b)の例では、時間が30分弱のときにヒータ42のパワーをさらに上げている。
【0034】
これによりOuter温度が予め設定された超過温度を超える過昇温が生じている状態を
図2(c)のPに示す。
図2(c)はOuter温度の一例を示すグラフであり、グラフの横軸は時間、縦軸は温度である。ヒータ42のパワーの上昇により30分弱のときにOuter温度が超過温度(1050℃)を超えた。超過温度を超えると安全上の問題からヒータ42をシャットダウンし、ヒータ42による加熱を停止する。
【0035】
以上に説明したOuter温度の過昇温を回避するために、Inner温度をゆっくり上昇させるようにヒータ42のパワーを制御することも考えられる。そうするとOuter温度は超過温度を超えないものの、Inner温度がターゲット温度まで上昇するための時間がかかり、生産性が低下する。生産性を考慮し、過昇温を回避しつつInner温度をできる限り早くターゲット温度に制御することが重要である。
【0036】
そこで、本開示では、Inner温度をターゲット温度に制御する時間を短縮できる成膜方法を提案する。実施形態に係る成膜方法は、制御装置90により制御され、熱処理装置1により実行される。以下、制御装置90の機能構成及びハードウェア構成について
図3及び
図4を参照しながら説明し、その後に実施形態に係る成膜方法について説明する。
図3は、実施形態に係る制御装置90の機能構成の一例を示す図である。
図4は、実施形態に係る制御装置90のハードウェア構成の一例を示す図である。以下の説明では、実施形態に係る成膜方法においてモリブデン膜を成膜する例を説明する。
【0037】
図3を参照すると、制御装置90は、制御部150と記憶部160とを有する。記憶部160は、基板Wにモリブデン膜を成膜するときの手順が設定されたレシピを記憶する。レシピには、1又は複数のステップ毎にガス種、ガス流量、圧力、温度、処理時間等のプロセス条件が設定される。
【0038】
制御部150は、取得部151、温度制御部152、成膜制御部153、ヒータ制御部154及びガス制御部155を有する。取得部151は、温度センサ60(Inner TC)からInner温度を取得する。
【0039】
温度制御部152は、取得したInner温度に基づきInner領域がターゲット温度になるように制御する。ヒータ制御部154がヒータ42のパワーの制御を行い。これによって温度制御部152はInner温度を調整する。成膜制御部153は、レシピに設定されたプロセス条件により基板Wにモリブデン膜を成膜する。ガス制御部155は、成膜ガス、クリーニングガス等を供給する。また、ガス制御部155は、Inner領域の温度安定化、昇温、降温の温度制御の際に熱伝達ガスを供給する。
【0040】
制御装置90のハードウェア構成の一例について、
図4を参照しながら説明する。制御装置90は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、I/Oポート104、操作パネル105、HDD106(Hard Disk Drive)を有する。各部はバスBによって接続されている。
【0041】
CPU101は、RAM103に読み込まれた各種のプログラムや、成膜処理、クリーニング処理等の処理の手順を規定したレシピに基づき、熱処理装置1の各種の動作及び成膜処理、クリーニング処理等の処理を制御する。プログラムには、実施形態に係る成膜方法を実行するプログラムが含まれる。CPU101は、RAM103に読み込まれたこれらのプログラムに基づき、実施形態に係る成膜方法を実行する。
【0042】
ROM102は、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ、ハードディスク等により構成され、CPU101のプログラムやレシピ等を記憶する記憶媒体である。RAM103は、CPU101のワークエリア等として機能する。
【0043】
I/Oポート104は、温度、圧力、ガス流量等を検出する各種センサの値を熱処理装置1に取り付けられた各種センサから取得し、CPU101に送信する。また、I/Oポート104は、CPU101が出力する制御信号を熱処理装置1の各部へ出力する。また、I/Oポート104には、操作者(ユーザ)が熱処理装置1を操作する操作パネル105が接続されている。
【0044】
HDD106には、補助記憶装置であり、プロセスレシピやプログラム等が格納されてもよい。また、HDD106には、各種センサが計測した測定値のログ情報が格納されてもよい。
【0045】
記憶部160は、ROM102、RAM103、EEPROM、フラッシュメモリ、HDD106のいずれかにより実現され得る。取得部151は、I/Oポート104により実現され得る。温度制御部152、成膜制御部153、ヒータ制御部154及びガス制御部155は、CPU101により実行され得る。
【0046】
[温度制御性の改善]
次に、
図5を参照して、実施形態に係るH
2ガスによる温度制御性の改善方法について、参考例と比較して説明する。
図5(a)及び(c)は、参考例のN
2ガスによる温度制御である。
図5(b)及び(d)は、実施形態のH
2ガスによる温度制御である。
図5(a)~(d)はInner領域の温度がターゲット温度になるまでの時間を示す。
図5(a)はガス供給部20から処理容器10内にN
2ガスを供給しながら、温度センサ60から取得したInner温度に基づきInner領域がターゲット温度になるように制御した場合である。この場合、温度がターゲット温度に安定するまでにアンダーシュート、オーバーシュートが生じている。
【0047】
一方、
図5(b)はガス供給部20から処理容器10内にH
2ガスを供給しながら、温度センサ60から取得したInner温度に基づきInner領域がターゲット温度になるように制御した場合である。この場合、アンダーシュートが生じた後、ターゲット温度に制御された。これにより、オーバーシュートを抑え、ターゲット温度へ到達するまでの時間を短縮できた。
【0048】
図5(c)はガス供給部20から処理容器10内にN
2ガスを供給しながら、Inner領域をターゲット温度まで降温させた場合である。一方、
図5(d)はガス供給部20から処理容器10内にH
2ガスを供給しながら、Inner領域をターゲット温度まで降温させた場合である。この結果、
図5(d)に示すH
2ガスを供給した場合、
図5(c)に示すN
2ガスを供給した場合と比較して降温時間を約1/4に短縮できた。
【0049】
H2ガスの500℃のときの熱伝導率は、267mW/(m・K)である。N2ガスの500℃のときの熱伝導率は、38.64mW/(m・K)である。H2ガスは、N2ガスに比べて熱伝導率が約7倍である。このようにH2ガス等の熱伝導率の高いガスを処理容器10内に供給することで熱伝導が大幅に改善し、Inner領域の温度調整(温度安定化)時間を大幅に短縮できる。
【0050】
[成膜方法]
次に、実施形態に係る温度調整を含む成膜方法について、熱処理装置1を用いて基板に膜を成膜する場合を例に挙げて説明する。
図6は、実施形態に係る成膜方法の一例を示すフローチャートである。
【0051】
まず、昇降部19により複数の基板Wを保持したウエハボート18を上昇させてローディングエリアに搬入(ロード)し、蓋体16により処理容器10の下端の開口を気密に塞ぎ密閉し、基板Wを準備する(工程S1)。次に、処理容器10内を真空引きする(工程S3)。
【0052】
工程S1では、処理容器10の下端の開口が開かれ、比較的温度の低い基板Wがローディングエリアに搬入されたことにより、Inner領域の温度が低下する。ヒータ制御部154は、低下した処理容器10内の温度が予めレシピ等で定められた設定温度(例えば、300~700℃)に維持されるように、温度センサ60の測温部61~65の検出温度に基づいてヒータ42のパワーを制御し、これにより温度制御部152は、Inner領域の温度をターゲット温度に調整する(工程S5)。また、ガス制御部155は、処理容器10内にH2ガスを供給する(工程S7)。なお、工程S5と工程S7は、同時でもよいし、工程S7が開始された後に工程S5が開始されてもよい。
【0053】
次に、温度制御部152は、Inner領域の温度がターゲット温度になったかを判定する(工程S9)。温度制御部152は、ターゲット温度になっていないと判定すると工程S5に戻り、ターゲット温度になるまで工程S5~S9を繰り返す。工程S9においてターゲット温度になったと判定すると、温度制御部152はInner領域の温度が安定化したと判断して温度の調整を完了し、成膜制御部153はモリブデン膜の成膜処理を実行する(工程S11)。
【0054】
工程S11の成膜処理の一例は、後ほど
図8のフローチャートを参照して説明する。工程S11の成膜処理の後、昇降部19により複数の基板Wを保持したウエハボート18を処理容器10外に搬出(アンロード)し、本処理を終了する(工程S13)。
【0055】
以上、本実施形態に係る成膜方法について説明した。本実施形態に係る成膜方法では、処理容器内に基板を準備する工程と、加熱部により処理容器内の温度を調整する工程と、温度を調整した後、ガス供給部から処理容器内にガスを供給し、基板に膜を成膜する工程と、を有し、温度を調整する工程においてガス供給部から処理容器内に熱伝達ガスを含むガスを供給する。これにより、温度調整時の熱伝達ガスの供給により、伝熱効果を高め、温度制御性を改善できる。
【0056】
[効果の一例]
以上に説明した実施形態に係る成膜方法の効果の一例について、
図7を参照しながら説明する。
図7は、実施形態に係る成膜方法による熱伝達ガスの供給の効果の一例を示す図である。
【0057】
図7(a)~(c)は、参考例である。
図7(a)~(c)は、ロード→真空引き→温度調整(温度安定化)→成膜の流れにおいて、温度調整の工程の間にArガスを処理容器内に供給した場合の時間(横軸)に対する温度センサ60の測温部61、63、65による検出温度(縦軸)を示す。
図7(d)~(f)は、本実施形態である。
図7(d)~(f)は、ロード→真空引き→温度調整(温度安定化)→成膜の流れにおいて、温度調整の工程の間にH
2ガスを処理容器内に供給した場合の時間(横軸)に対する温度センサ60の測温部61、63、65による検出温度(縦軸)を示す。
【0058】
図7では、ゾーン「TOP」、「CTR」及び「BTM」のターゲット温度を「Target TOP」、「Target CTR」、「Target BTM」で示す。これらのターゲット温度は同一温度に設定されてもよいし、異なる温度に設定されてもよい。
図7の例では、「Target TOP」、「Target CTR」、「Target BTM」は370℃である。
【0059】
前記各ゾーンのInner領域の温度を、「Inner TOP」、「Inner CTR」、「Inner BTM」で示す。また、各ゾーンのヒータ42のパワーを「Power TOP」、「Power CTR」、「Power BTM」で示す。エアーの出力を「Power Air」で示す。
【0060】
図7(a)及び
図7(d)を参照すると、ロード開始(0分)から約6分まではウエハボート18をローディングエリアに搬入したために、搬入した例えば100枚の基板Wの温度でInner領域の温度が下がった。このため、温度センサ60(測温部61、63、65)が測定した検出温度が下がった。
【0061】
そこで、
図7(c)及び
図7(f)に示すように、「Power CTR」、「Power BTM」で示される各ゾーンのヒータの出力が6分程度から大きくなり、遅れて「Power TOP」のヒータが出力され、Inner領域が昇温させるように制御された。しかし、6分程度から排気部30による排気(真空引き)が開始され、処理容器10内が減圧雰囲気になったため熱伝導が悪くなった。なお、エアーは、「Power Air」で示されるように処理開始から出力された。エアーは、温度調整とArガス又はH
2ガスの排気を促進する効果を有する。ただし、エアーは供給してもよいし、供給しなくてもよい。
【0062】
26分程度で各ゾーンのヒータの出力が急激に大きくなり温度が下げ止まり、その後の各ゾーンのターゲット温度への温度調整によって各ゾーンの温度が上昇し始めた。
図7では30分程度からArガス又はH
2ガスの供給が始まった。
【0063】
参考例の温度制御では、
図7(c)に示すように、温度調整(温度安定化)中、「Power BTM」のヒータの出力が大きく、「Power TOP」、「Power CTR」のヒータ42のパワーがほとんど出力されていない。これは、Outer領域からInner領域へ熱が伝わりにくいために、「Power BTM」のヒータの出力が大きくなり過ぎたことに起因する。この結果、
図7(b)に拡大して示すように、オーバーシュートが生じ、センターとトップのInner領域の温度がターゲット温度を上回ってしまった。
【0064】
実施形態の温度制御では、
図7(f)に示すように、温度調整(温度安定化)中、「Power TOP」、「Power CTR」、「Power BTM」のヒータ42のパワーがいずれも出力されている。これは、H
2ガスによりOuter領域からInner領域への伝熱効果が高まったために、各ゾーンのヒータ42のパワーが正常に出力されたと考えられる。この結果、
図7(e)に拡大して示すように、オーバーシュートが生じず、各ゾーンのInner領域の温度が各ゾーンのターゲット温度を上回らなかった。以上の結果から、実施形態に係る成膜方法では、温度制御性を改善し、温度安定化の時間を短縮できる。
【0065】
[成膜処理]
次に、
図6の工程S11において実行される成膜処理の詳細について、
図8を参照しながら説明する。
図8は、
図6の工程S11の成膜処理の詳細の一例を示すフローチャートである。成膜処理では、ガス供給部20は、H
2ガスの供給を停止し、成膜ガスを供給する(工程S21)。
【0066】
次に、成膜制御部153は、レシピに基づき基板Wにモリブデン膜を成膜する(工程S23)。次に、成膜制御部153は、次ステップがあるかを判定し(工程S25)、次ステップがあると判定した場合、温度制御部152は、次ステップの成膜を行う前にInner領域を昇温又は降温に制御するかを判定する(工程S27)。工程S27において、温度制御部152は、Inner領域を昇温又は降温に制御すると判定した場合、温度センサ60の測温部61~65の検出温度に基づいてヒータ42のパワーを制御し、H2ガスを供給する(工程S29)。
【0067】
次に、温度制御部152は、ターゲット温度になったかを判定し(工程S31)、ターゲット温度になっていないと判定すると工程S29に戻り、ターゲット温度になるまで工程S29~S31を繰り返す。温度制御部152はターゲット温度になったとき、工程S21に戻り、工程S21~S23において基板Wを成膜する。
【0068】
工程S27において、温度制御部152は、Inner領域を昇温又は降温に制御しないと判定した場合、Inner領域の温度安定化の制御を行うかを判定する(工程S33)。工程S33において、温度制御部152は、Inner領域の温度安定化の制御を行うと判定した場合、温度センサ60の測温部61~65の検出温度に基づいてヒータ42のパワーを制御し、H2ガスを供給する(工程S29)。次に、温度制御部152は、ターゲット温度になったかを判定し(工程S31)、ターゲット温度になっていないと判定すると工程S29に戻り、ターゲット温度になるまで工程S29~S31を繰り返す。温度制御部152はターゲット温度になったとき、工程S21に戻り、工程S21~S23において基板Wを成膜する。
【0069】
工程S31において、温度制御部152は、Inner領域の温度安定化の制御を行わないと判定した場合、工程S21に戻り、工程S21~S23において基板Wを成膜する。工程S25において次ステップがないと判定したとき、本処理を終了する。
【0070】
以上、本実施形態に係る成膜方法について説明した。本実施形態に係る成膜方法では、基板Wを成膜する工程が複数のステップを有する場合に各ステップの実行前に温度を調整する工程を有するかを判定する工程と、この判定する工程において温度を調整する工程を有すると判定された場合、温度を調整する工程において所定時間、熱伝達ガスを含むガスを供給する。温度を調整する工程においてInner領域の温度の安定化中だけでなく、Inner領域の昇温又は降温中にも熱伝達ガスを含むガスを供給することで温度制御性を改善できる。
【0071】
[効果の一例]
以上に説明した実施形態に係る成膜方法の効果の一例について、
図9を参照しながら説明する。
図9は、実施形態に係る成膜方法による熱伝達ガスの供給の効果の一例を示す図である。
【0072】
図9(a)は参考例であり、
図9(b)は本実施形態である。
図9(a)は、Inner領域の温度をターゲット温度に降温制御する工程の間にArガスを処理容器内に供給した場合の時間(横軸)に対する温度センサ60の測温部61、63、65による検出温度(縦軸)を示す。
図9(b)は、Inner領域の温度をターゲット温度に降温制御する工程の間にH
2ガスを処理容器内に供給した場合の時間(横軸)に対する温度センサ60の測温部61、63、65による検出温度(縦軸)を示す。
【0073】
これによれば、「Inner TOP」、「Inner CTR」、「Inner BTM」の各ゾーンにおいて降温時にH2ガスを供給すると、降温時にArガスを供給したときと比較してターゲット温度に到達するまでに約150分短縮できた。つまり、H2ガスによる伝熱効果が高まったために、この例では温度調整時間が約1/4に短縮できた。
【0074】
昇温についても同一の効果が得られる。これにより、短時間にInner領域をターゲット温度まで昇温又は降温させることができる。例えば、成膜前や成膜中のステップ間でInner領域の温度安定化、昇温及び降温が必要なタイミングにH2ガス等の熱伝達ガスを供給することで、熱伝達ガスがヒータ42の熱をOuter領域からInner領域へ伝達する効率を高めることができる。これにより、伝熱効果の向上による温度調整時間の短縮等、温度制御性の改善が可能となる。
【0075】
熱伝達ガスは、H2ガスに限らず、例えばHe等の熱伝導率の高いガスを使用できる。熱伝達ガスは、H2ガス、He等の熱伝導率の高いガスのみでもよいし、それ以外のガスを含む混合ガスでもよい。
【0076】
なお、以下の実施形態では、成膜方法の一例として化学気相堆積(CVD:Chemical Vapor Deposition)法による成膜方法を説明したが、これに限定されず、例えば原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法においても同様に適用できる。
【0077】
例えば、ALD法による成膜方法にて、成膜中にH2ガス、成膜ガス(例えば反応ガス)、H2ガス、成膜ガス(例えば還元ガス)・・・を交互に供給することを繰り返してもよい。これにより、成膜ガスによる成膜前の温度調整時間を短縮できる。
【0078】
なお、実施形態に係る成膜方法は、モリブデン膜に限らず、タングステン膜、ニオブ膜等の金属膜を成膜してもよい。或いは、金属膜以外の膜を成膜してもよい。
【0079】
今回開示された実施形態に係る成膜方法及び熱処理装置は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 熱処理装置
2 管状部材
10 処理容器
20 ガス供給部
21、22、23 ガス供給管
42 ヒータ
90 制御装置
150 制御部