(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097848
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】金めっき液の再生処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/16 20060101AFI20230703BHJP
C23C 18/44 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C23C18/16 Z
C23C18/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214193
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 陽平
(72)【発明者】
【氏名】田邉 克久
(72)【発明者】
【氏名】前田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】西村 直志
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022BA03
4K022DA01
4K022DB06
4K022DB21
(57)【要約】
【課題】還元剤として、ホルムアルデヒドまたはその前駆体を含有する金めっき液の浴安定性を向上させるとともに、金めっき液から金属イオンを除去して、めっき性能の低下を防止することができるめっき液の再生処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】シアン化金塩と、ホルムアルデヒドまたはその前駆体である還元剤と、鉄シアン化合物とを含有し、イミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を2つ以上有するキレート化合物を含有しない金めっき液を、イミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂と接触させることにより、金めっき液から鉄イオンを除去する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化金塩と、ホルムアルデヒドまたはその前駆体である還元剤と、鉄シアン化合物とを含有し、イミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を2つ以上有するキレート化合物を含有しない金めっき液を、イミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂と接触させることにより、前記金めっき液から鉄イオンを除去することを特徴とする金めっき液の再生処理方法。
【請求項2】
前記キレート樹脂は、ポリスチレン樹脂を母材とした樹脂であり、官能基として前記イミノジ酢酸基または前記アミノメチレンホスホン酸基を有することを特徴とする請求項1に記載の金めっき液の再生処理方法。
【請求項3】
前記金めっき液が、下記一般式(1)または下記一般式(2)で表されるアミン化合物を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金めっき液の再生処理方法。
[化1]
R1-NH-C2H4-NH-R2 (1)
[化2]
R3-(CH2-NH-C2H4-NH-CH2)n-R4 (2)
(ここで、一般式(1)及び一般式(2)中、R1、R2、R3及びR4は、-OH、-CH3、-CH2OH、-C2H4OH、-CH2N(CH3)2、-CH2NH(CH2OH)、-CH2NH(C2H4OH)、-C2H4NH(CH2OH)、-C2H4NH(C2H4OH)、-CH2N(CH2OH)2、-CH2N(C2H4OH)2、-C2H4N(CH2OH)2、または-C2H4N(C2H4OH)2を示し、同一であっても異なっていてもよく、nは1~4の整数である。)
【請求項4】
前記鉄シアン化合物が、ペンタシアノニトロシル鉄(III)酸またはその塩、ペンタシアノアンミン鉄(II)酸またはその塩、ヘキサシアニド鉄(II)酸またはその塩、及びヘキサシアニド鉄(III)酸またはその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の金めっき液の再生処理方法。
【請求項5】
前記鉄シアン化合物が、フェロシアン化カリウム及びフェリシアン化カリウムの少なくとも一方であることを特徴とする請求項4に記載の金めっき液の再生処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金めっき液の再生処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金は、銀、銅の次に高い電気導電率を有し、熱圧着による接続性などの物理的性質に優れるとともに、耐酸化性、耐薬品性などの化学的性質にも優れている。そのため、金を用いた金めっきは、電子工業分野において、プリント基板の回路、ICパッケージの実装部分や端子部分などの最終表面処理法として広く使用されている。
【0003】
この金めっき処理としては、例えば、金めっき浴にプリント配線板等の被めっき物を浸漬して還元処理を行うことにより、被めっき物の表面に金めっきを施す方法が挙げられるが、金めっき浴に使用される金めっき液には、金イオン以外に還元剤やキレート化合物等が含まれており、金めっき処理を繰り返し行っていくと、金属イオン等の不純物が蓄積されて、めっき速度等のめっき性能が低下するという問題があった。
【0004】
そこで、この対策として、金めっき液にキレート樹脂を接触させる方法が提案されている。例えば、金塩、還元剤、伝導塩、錯化剤およびタリウムを含有する金めっき液に、イミノジ酢酸型の配位基を有するキレート樹脂を接触させることにより、銅イオンを除去する金めっき液の再生処理方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、鉄イオン、クエン酸、並びにコバルトイオンおよびニッケルイオンから選ばれる少なくとも1種と還元剤を含有する金めっき液を、アミノメチレンホスホン酸型の配位基を有するキレート樹脂と接触させることにより、鉄イオンを除去する金めっき液の処理方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3842063号公報
【特許文献2】特許第6795821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記従来の金めっき液においては、還元剤が含まれているため、被めっき物以外(例えば、金めっき液が収容されためっき槽等の容器)に金属が付着し、浴安定性が低下するという問題あった。
【0007】
特に、近年、浴安定性と析出速度の観点から、ホルムアルデヒドまたはその前駆体を還元剤とする金めっき液が提案されており、ホルムアルデヒドまたはその前駆体を含有する金めっき液において、浴安定性の低下と、上述の金属イオン等の不純物の蓄積に起因するめっき性能の低下とを抑制する方法が切望されている。
【0008】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑み、還元剤として、ホルムアルデヒドまたはその前駆体を含有する金めっき液の浴安定性を向上させるとともに、金めっき液から金属イオンを除去して、めっき性能の低下を防止することができるめっき液の再生処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るめっき液の再生処理方法は、シアン化金塩と、ホルムアルデヒドまたはその前駆体である還元剤と、鉄シアン化合物とを含有し、イミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を2つ以上有するキレート化合物を含有しない金めっき液を、イミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂と接触させることにより、金めっき液から鉄イオンを除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金めっき液の浴安定性を向上させるとともに、金めっき液から鉄イオンを除去することができるため、めっき性能の低下を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の再生処理方法が適用されるめっき液はとしては、プリント配線板の回路、ICパッケージの実装部分や端子部分などの形成に使用される還元型の金めっき液が挙げられる。
【0012】
<金めっき液>
還元型の金めっき液は、金供給源であるシアン化金塩と、還元剤であるホルムアルデヒドまたはその前駆体物質と、鉄シアン化合物とを含有する金めっき液である。
【0013】
(シアン化金塩)
シアン化金塩としては、シアン化金、シアン化金カリウム、シアン化金ナトリウム、シアン化金アンモニウムなどが挙げられるが、特にシアン化金カリウム、シアン化金ナトリウムであることが好ましい。なお、これらのシアン化金塩は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0014】
また、めっき液中におけるシアン化金塩の濃度は、金基準で0.02~200g/Lであることが好ましく、0.2~100g/Lであることがより好ましい。上記下限値未満であると析出速度が低下するおそれがあり、上記上限値を超えるとコストアップとなる場合がある。
【0015】
(還元剤)
還元剤は、金供給源であるシアン化金塩を還元して、金を析出させるためのものであり、本発明の金めっき液においては、ホルムアルデヒド又はその前駆体が使用される。ここで「ホルムアルデヒド前駆体」とは、水性めっき液中で分解し、かつそれによってホルムアルデヒドを形成する化合物を意味する。
【0016】
このホルムアルデヒド前駆体としては、例えば、アセタール、ヘミアセタール、アミナールおよびN,O-アセタールなどが挙げられる。より具体的には、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、ジメチロールグリコール、ヒドロキシメチルグリシン酸ナトリウム、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)5,5-ジメチルイミダゾリジン-2,4-ジオン、1,3,5,7-テトラアザトリシクロ-[3.3.1.13,7]デカン、ベンジルヘミホルマール、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、5-ブロモ-5-ニトロ-1,3-ジオキサン、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)-1-(1,3,4-トリス(ヒドロキシメチル)-2,5-ジオキソイミダゾリジン-4-イル)ウレア、1,1’-メチレンビス{3-[1-(ヒドロキシメチル)-2,5-ジオキソイミダゾリジン-4-イル]ウレア}、3,5,7-トリアザ-1-アゾニアトリシクロ-[3.3.1.13,7]-デカン-1-(3-クロロ-2-プロペニル)-クロリド、テトラメチロールグリコールウリル、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)2-イミダゾリジノン、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)ウレア、2,2,2-トリクロロエタン-1,1-ジオールおよび5,5-ジメチル-1,3-ジオキサンなどが挙げられる。
【0017】
なお、これらの還元剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
また、めっき液中における還元剤の濃度は、0.01~100g/Lであることが好ましく、0.1~10g/Lであることがより好ましい。上記下限値未満であると析出速度が低下するおそれがあり、上記上限値を超えると浴安定性が低下し、浴分解が生じる場合がある。
【0019】
(鉄シアン化合物)
鉄シアン化合物は、金めっき液の浴安定性を向上させるためのものであり、本発明の金めっき液においては、ペンタシアノニトロシル鉄(III)酸またはその塩、ペンタシアノアンミン鉄(II)酸またはその塩、ヘキサシアニド鉄(II)酸またはその塩、及びヘキサシアニド鉄(III)酸またはその塩が挙げられ、具体的には、フェロシアン化カリウム(ヘキサシアニド鉄(II)酸カリウム)、フェリシアン化カリウム(ヘキサシアニド鉄(III)酸カリウム)が挙げられる。なお、これら鉄シアン化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0020】
そして、本発明においては、ホルムアルデヒドまたはその前駆体を還元剤とする還元型の金めっき液に対して、非毒性の鉄シアン化合物を添加することにより、ホルムアルデヒドまたはその前駆体と鉄シアン化合物から遊離したシアンイオンとの反応により、シアノヒドリンが発生し、このシアノヒドリンが揮発するまで浴安定性の維持に寄与するため、還元型の金めっき液の浴安定性を向上させることが可能になる。
【0021】
また、めっき液中における鉄シアン化合物の濃度は、0.1~1000mg/Lであることが好ましく、1~100mg/Lであることがより好ましい。上記下限値未満であると、上述の浴安定性効果が十分に得られない場合があり、上記上限値を超えると析出速度が低下する場合がある。
【0022】
(アミン化合物)
本発明の金めっき液は、必要に応じて、還元型の金めっき液に配合される公知の各種添加剤を更に含有することができ、この添加剤としては、例えば、アミン化合物が挙げられる。
【0023】
このアミン化合物は、本発明の金めっき液を使用してめっき処理を行う場合に、金の析出を促進するためのものであり、例えば、下記一般式(1)または一般式(2)で表されるアミン化合物が挙げられる。
【0024】
[化1]
R1-NH-C2H4-NH-R2 (1)
【0025】
[化2]
R3-(CH2-NH-C2H4-NH-CH2)n-R4 (2)
【0026】
(ここで、一般式(1)及び一般式(2)中、R1、R2、R3及びR4は、-OH、-CH3、-CH2OH、-C2H4OH、-CH2N(CH3)2、-CH2NH(CH2OH)、-CH2NH(C2H4OH)、-C2H4NH(CH2OH)、-C2H4NH(C2H4OH)、-CH2N(CH2OH)2、-CH2N(C2H4OH)2、-C2H4N(CH2OH)2、または-C2H4N(C2H4OH)2を示し、同一であっても異なっていてもよく、nは1~4の整数である。)
【0027】
また、めっき液中におけるアミン化合物の濃度は、0.01~500g/Lであることが好ましく、0.1~200g/Lであることがより好ましい。上記下限値未満であると析出速度が低下する場合があり、上記上限値を超えると浴が不安定になる場合がある。
【0028】
(キレート化合物)
本発明の金めっき液は、イミノジ酢酸型の配位基(イミノジ酢酸基)またはアミノメチレンホスホン酸型の配位基(アミノメチレンホスホン酸基)を2つ以上有するキレート化合物を含有していない。
【0029】
より具体的には、例えば、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、1,3-プロパンジアミン四酢酸、1,3-ジアミノ-2-プロパノール四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸等のイミノジ酢酸基を2つ以上有するキレート化合物や、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等のアミノメチレンホスホン酸基を2つ以上有するキレート化合物を含有していない。
【0030】
これは、イミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を2つ以上有するキレート化合物を含有すると、後述のキレート樹脂よりも鉄イオンとの錯化が強力であるため、還元型の金めっき液から鉄イオンを除去することが困難になるためである。
【0031】
従って、本発明の金めっき液は、イミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を2つ以上有するキレート化合物を含有しない構成であるが、それ以外の(すなわち、イミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を2つ以上有していない)キレート化合物、例えば、ニトリロ三酢酸やニトリロトリス(メチレンホスホン酸)を含有する構成としてもよい。
【0032】
(pH)
本発明の金めっき液のpHは5~10が好ましい。pHが5未満の場合は、めっき速度が不十分になる場合があるためであり、pHが10よりも大きい場合は、めっき液が不安定になる場合があるためである。
【0033】
なお、めっき液のpHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、水酸化テトラメチルアンモニウム、硫酸、塩酸、ホウ酸、リン酸、モノカルボン酸、ジカルボン酸等のpH調整剤で調整可能である。
【0034】
(めっき液の温度)
めっき液の温度としては、特に限定されないが、50~95℃が好ましい。めっき液の温度が50℃未満であると、析出速度が遅くなり、めっき処理時間が長くなるため、好ましくない。また、温度が95℃を超えると、析出速度が速くなりすぎるため、粗雑な皮膜となり、めっき後の皮膜の熱収縮により被めっき物に反りが発生することがあるため、好ましくない。
【0035】
(被めっき物)
本発明の金めっき液が用いられる被めっき物の種類については特に限定はなく、従来の金めっきの処理対象物(例えば、プリント基板の回路、ICパッケージの実装部分や端子部分等)を被めっき物とすることができる。
【0036】
<めっき液の再生処理方法>
鉄シアン化合物を含有する還元型の金めっき液を使用してめっき処理を行う場合、めっき液において、鉄シアン化合物から鉄イオンが生成して蓄積し、当該鉄イオンに起因して、めっき速度(金の析出速度)が低下するという問題があった。
【0037】
そこで、本発明者らは、上記問題点について検討したところ、上記鉄イオンが含まれる金めっき液に、イミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂を接触させることにより、金めっき液から鉄イオンを除去して、金めっき液を再生することが可能であることを見出した。
【0038】
以下、本発明の金めっき液の再生処理方法について説明する。
【0039】
本発明で使用できるキレート樹脂は、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂またはアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂である。
【0040】
キレート樹脂の母材としては、例えば、ポリスチレン樹脂、セルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、レゾルシン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。なお、これらの形状は、特に限定されず、例えば、球状、柱状、リング状、鞍状、ハニカム状等が挙げられる。
【0041】
また、キレート樹脂の母材として、天然繊維、再生繊維、半合成繊維等の繊維を使用してもよく、このうち、綿、麻、パルプ等のセルロース系繊維を用いることが好ましい。
【0042】
また、母材に対してアミノポリカルボン酸またはリンのオキソ酸を化学的に結合させた構造の樹脂であることが好ましい。アミノポリカルボン酸としては、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ニトリロ三酢酸、ニトリロ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、プロパンジアミン四酢酸、ジアミノヒドロキシプロパン四酢酸などが挙げられる。また、リンのオキソ酸としては、ホスホン酸基、リン酸基、ホスフィン酸基を有するものが挙げられ、特にホスホン酸基またはリン酸基を有するものが好ましい。
【0043】
また、アミノポリカルボン酸またはリンのオキソ酸は、母材に直接結合していてもよく、連結基を介して母材に結合していてもよい。連結基としては、-CH2-、-NH-、-CO-、-O-、-S-、-SO2-が挙げられる。なお、複数の連結基がつながったものを使用してもよい。
【0044】
そして、本発明のキレート樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂を母材としたマクロポーラス型の樹脂であって、官能基としてイミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂を使用することができる。
【0045】
なお、キレート樹脂としては市販品を用いることができる。例えば、ポリスチレン樹脂を母材としたマクロポーラス型の樹脂であって、官能基としてイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂としては、住化ケムテックス(株)製、商品名「スミキレート MC700」を使用することができ、ポリスチレン樹脂を母材としたマクロポーラス型の樹脂であって、官能基としてアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂としては、住化ケムテックス(株)製、商品名「デュオライト C747UPS」を使用することができる。
【0046】
そして、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂またはアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂をカラムに充填し、ポンプ等により金めっき液をカラムに通液させて、金めっき液を、カラムに充填されたキレート樹脂と接触させることにより、金めっき液から鉄イオンを除去する構成としている。なお、この際の通液速度は、使用するキレート樹脂の処理性能に応じて、適宜、設定すればよいが、空間速度(SV)として、例えば、0.2hr-1~50hr-1の範囲で調整することができる。
【0047】
また、キレート樹脂を、直接、金めっき液に添加して、キレート樹脂を分散させた後、ろ過により取り除いてもよい。例えば、めっき処理後に貯留された金めっき液にキレート樹脂を添加する方法や、めっき処理に用いた金めっき液を別の容器に移してキレート樹脂と接触させる方法が挙げられる。
【0048】
また、キレート樹脂を繊維状の袋に収納し、この袋をめっき液に浸すことにより、キレート樹脂と金めっき液とを接触させる構成としてもよい。
【0049】
金めっき液とキレート樹脂との接触時間は、特に限定されないが、鉄イオンを確実に除去するとの観点から、3~2000分が好ましく、5~1000分がより好ましい。また、同様の観点から、キレート樹脂の使用量は、金めっき液1Lに対して0.1~100g/Lが好ましく、1~50g/Lがより好ましい。
【実施例0050】
以下、実施例及び比較例に基づき本出願に係る発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
<金めっき液の調製>
シアン化金塩(シアン化金カリウム)と、還元剤と、アミン化合物と、キレート化合物と、鉄シアン化合物とを、表1に示す濃度となるように混合して攪拌することにより、実施例1の金めっき浴を調製した。なお、めっき浴のpHを7.0に設定した。
【0052】
<浴安定性評価>
次に、この金めっき液を容器に収容し、80℃まで昇温した後、当該温度で10時間保持した。その後、金めっき液の状態を目視により観察し、浴分解の兆候である容器への金析出の有無を調べた。そして、金の析出がないものを〇(安定性に優れる)、金の析出が見られたものを×(安定性に劣る)と評価した。以上の結果を表1に示す。
【0053】
<キレート樹脂による鉄イオンの除去率の算出>
次に、上述の80℃で10時間保持した金めっき液を、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂(住化ケムテックス(株)製、商品名:スミキレート MC700)及びアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂(住化ケムテックス(株)製、商品名:デュオライト C747UPS)と接触させた。より具体的には、金めっき液1Lに対して10gの粒状キレート樹脂を添加し、120分間、スターラーで分散させ、金めっき液とキレート樹脂とを接触させた。その後、ろ過により、金めっき液からキレート樹脂を除去し、原子吸光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、商品名:Z-5300)により、金めっき液における鉄イオンの濃度[mg/L]を測定し、金めっき液における鉄イオンの除去率を、下記式(1)を使用して求めた。以上の結果を表1に示す。
【0054】
[数1]
鉄イオンの除去率[%]=100-[(キレート樹脂による鉄イオン除去処理後の金めっき液における鉄イオンの濃度[mg/L])/(キレート樹脂による鉄イオン除去処理前の金めっき液の鉄イオンの濃度[mg/L])]×100 (1)
【0055】
<析出速度の測定>
まず、上村工業株式会社製のBGA基板に対して、前処理、無電解Niめっき、及び無電解Pdめっきを行い、Ni/Pdめっき皮膜が形成された試料を作製した。次に、この試料に対して、作製した金めっき浴を用いて、80℃で10分間、めっき処理を行った際に形成される金めっき皮膜のめっき析出速度(μm/10min)を、蛍光X線膜厚計(フィッシャー・インストルメンツ社製、商品名:XDV-u)を用いて測定した。以上の結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2~8、比較例1~5)
金めっき液の組成を表1~表2に示す組成に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして金めっき液を調製した。
【0057】
そして、上述の実施例1と同様にして、浴安定性評価、キレート樹脂による鉄イオンの除去率の算出、及び析出速度の測定を行った。以上の結果を表1~表2に示す。
【0058】
なお、比較例4における金めっき液は、鉄シアン化合物を含有していないため、キレート樹脂による鉄イオンの除去率の算出は行わなかった。
【0059】
【0060】
【0061】
表1に示すように、実施例1~8においては、金めっき液を、イミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を有するキレート樹脂と接触させることにより、金めっき液から鉄イオンを効率よく除去できていることが分かる。
【0062】
また、実施例1~8においては、還元剤としてホルムアルデヒドまたはその前駆体を含有しているため、金めっき液に対して鉄シアン化合物を添加することにより、ホルムアルデヒドまたはその前駆体と鉄シアン化合物から遊離したシアンイオンとの反応により発生したシアノヒドリンが浴安定性の維持に寄与し、金めっき液の浴安定性に優れていることが分かる。
【0063】
一方、表2に示すように、比較例1においては、金めっき液の還元剤としてヒドラジンが使用されており、ホルムアルデヒドまたはその前駆体が使用されていないため、鉄シアン化合物から遊離したシアンイオンとホルムアルデヒドまたはその前駆体との反応によりシアノヒドリンが生成せず、金めっき液の浴分解が発生しており、金めっき液の浴安定性に乏しいことが分かる。
【0064】
また、比較例1,5においては、ホルムアルデヒドまたはその前駆体が使用されていないため、鉄シアン化合物から遊離したシアンイオンとホルムアルデヒドまたはその前駆体との反応が起こらず、金めっき液において、鉄シアン化合物から遊離したシアンイオンの濃度が一定に保たれている状態となり、鉄シアン化合物から新たなシアンイオンが遊離しにくくなるため、キレート樹脂で除去され得る鉄イオンが発生しにくくなり、結果として、鉄イオンの除去率に乏しいことが分かる。
【0065】
また、比較例2~3においては、キレート化合物として、イミノジ酢酸基またはアミノメチレンホスホン酸基を2つ以上有するキレート化合物(エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸)を含有しているため、キレート樹脂よりもキレート化合物の鉄イオンとの錯化が強力となり、金めっき液から鉄イオンを除去することが困難になるため、鉄イオンの除去率に乏しいことが分かる。
【0066】
また、比較例4においては、鉄シアン化合物が含まれていないため、鉄シアン化合物から遊離したシアンイオンとホルムアルデヒドまたはその前駆体との反応によりシアノヒドリンが生成せず、金めっき液の浴分解が発生しており、金めっき液の浴安定性に乏しいことが分かる。
【0067】
また、比較例5においては、還元剤を含まない浴であるため、析出速度が低下していることが分かる。