(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097853
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】スズメバチ科昆虫のベイト組成物、該ベイト組成物を備えたスズメバチ科昆虫の防除容器、及び、スズメバチ科昆虫の防除方法
(51)【国際特許分類】
A01M 1/20 20060101AFI20230703BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20230703BHJP
A01N 51/00 20060101ALI20230703BHJP
A01N 47/02 20060101ALI20230703BHJP
A01N 55/08 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
A01M1/20 A
A01P7/04
A01N51/00
A01N47/02
A01N55/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214203
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】390006596
【氏名又は名称】住友化学園芸株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500140943
【氏名又は名称】ライオンケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝本 俊行
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 穂高
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 志門
(72)【発明者】
【氏名】吉永 勝
(72)【発明者】
【氏名】安西 正人
(72)【発明者】
【氏名】田中 源悟
(72)【発明者】
【氏名】竹本 正伸
(72)【発明者】
【氏名】旭 和也
(72)【発明者】
【氏名】栗生 和樹
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121CC06
2B121CC11
2B121EA21
2B121FA01
4H011AC01
4H011BB11
4H011BB18
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】 スズメバチ科昆虫の巣を防除するため、食餌場所でベイト組成物を食餌後、巣まで飛翔可能で、栄養交換により巣のコロニーを崩壊可能な、スズメバチ科昆虫のベイト組成物や該ベイト組成物を用いた防除方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 スズメバチ科昆虫の殺虫成分を含む毒餌を配合した、ベイト組成物であって、前記殺虫成分は、ホウ酸系化合物、ジノテフラン、フィプロニルのいずれか1以上を含み、前記殺虫成分がホウ酸系化合物の場合、ベイト組成物全量に対しホウ酸系化合物は0.5質量%~15質量%であり、前記殺虫成分がジノテフランの場合、ベイト組成物全量に対しジノテフランは0.3ppm~100ppmであり、前記殺虫成分がフィプロニルの場合、ベイト組成物全量に対しフィプロニルは0.1ppm~100ppmである、ベイト組成物を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズメバチ科昆虫の殺虫成分を配合した、ベイト組成物であって、
前記殺虫成分は、有効成分としてホウ酸系化合物、ジノテフラン、フィプロニルのいずれかを含み、
前記殺虫成分がホウ酸系化合物の場合、ベイト組成物全量に対しホウ酸系化合物は0.5質量%~15質量%であり、
前記殺虫成分がジノテフランの場合、ベイト組成物全量に対しジノテフランは0.3ppm~100ppmであり、
前記殺虫成分がフィプロニルの場合、ベイト組成物全量に対しフィプロニルは0.1ppm~100ppmである、ベイト組成物。
【請求項2】
前記ベイト組成物は、スズメバチ科昆虫の誘引成分をさらに含む、請求項1に記載のベイト組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のベイト組成物を備え、スズメバチ科昆虫が前記ベイト組成物を食餌可能で、かつ、食餌後に退出可能な構造を有する、スズメバチ科昆虫の防除容器。
【請求項4】
殺虫成分を配合してベイト組成物を調製し、
スズメバチ科昆虫が食餌可能で、かつ、食餌後に退出可能な構造を有する防除容器に、前記ベイト組成物をセットし、
前記防除容器をスズメバチ科昆虫の巣から所定距離離れた場所に設置する、スズメバチ科昆虫の防除方法であって、
前記殺虫成分は、有効成分としてホウ酸系化合物、ジノテフラン、フィプロニルのいずれかを含み、
前記殺虫成分がホウ酸系化合物の場合、ベイト組成物全量に対しホウ酸系化合物は0.5質量%~15質量%であり、
前記殺虫成分がジノテフランの場合、ベイト組成物全量に対しジノテフランは0.3ppm~100ppmであり、
前記殺虫成分がフィプロニルの場合、ベイト組成物全量に対しフィプロニルは0.1ppm~100ppmである、防除方法。
【請求項5】
前記ベイト組成物は、スズメバチ科昆虫の誘引成分をさらに含む、請求項4に記載の防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スズメバチ科昆虫のベイト組成物に関する。特に、スズメバチ科昆虫の巣を防除するためのベイト組成物、該ベイト組成物を備えた防除容器、及び、防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハチの中でも比較的大きなスズメバチ科(特にスズメバチ亜科)の昆虫は、凶暴に攻撃してくる性質を有する。刺された場合、毒物質が全身を巡り、急性アレルギー反応を引き起こす場合があることが知られている。
スズメバチ科昆虫は、営巣し、その中に卵を産む。巣はスズメバチ科昆虫にとって、幼虫が孵化し成長して蛹となり羽化して成虫となる重要な拠点でもあるため、巣を力づくではたき落とされそうになる等の刺激を与えられたりすると、スズメバチ科昆虫は興奮し、凶暴に攻撃してくる。
そのため、スズメバチ科昆虫の防除は、従前よりさまざまな工夫がなされてきた。たとえば、エアゾールで殺虫する方法(特許文献1)や捕獲器(特許文献2、3)等が知られている。
【0003】
しかしながら、エアゾールで殺虫する方法は、巣に対し刺激を与えることになり、スズメバチが興奮して凶暴に攻撃してくる危険があるため、かかる殺虫は専門家により確実に行うことが望ましく、手間がかかるという課題があった。また、巣の外を飛翔するスズメバチを捕獲する方法では、巣の中で生長中の卵、幼虫、羽化直後の成虫等を防除することができず根本的な駆除にはならないという問題があった。さらには、1つの巣に50~100頭のスズメバチがコロニーを形成し群れをなしており、偶然に捕獲器に飛来したスズメバチを駆除しても効果的な駆除にはならないという問題があった。さらに巣の位置がわからない場合は、駆除はさらに困難であった。
【0004】
一方で、アリやゴキブリ等の昆虫の防除では毒餌を用いた方法も提案されている。すなわち、餌に殺虫成分を配合し、毒餌を巣まで運ばせ、巣をまるごと駆除するものである。
しかしながら、アリやゴキブリの駆除とは異なり、飛翔性昆虫であるスズメバチ科昆虫の防除においては、殺虫成分を配合したベイト組成物を備えた防除容器の食餌場所(餌場)まで飛翔させて食餌させ、さらに食餌場所から巣まで飛翔させ、巣内で栄養交換(餌交換)をさせ、かつ、そのあとに巣のコロニーを崩壊させることが可能なベイト組成物、該ベイト組成物を用いた防除方法が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-156235号公報
【特許文献2】登録実用新案第3201021号公報
【特許文献3】特開2014-103933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スズメバチ科昆虫の巣を防除するため、食餌場所でベイト組成物を食餌後、巣まで飛翔可能で、かつ、栄養交換により巣のコロニーを崩壊可能な、スズメバチ科昆虫のベイト組成物や該ベイト組成物を用いた防除方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための方法】
【0007】
本発明者らは、上記事情に鑑みて鋭意検討した結果、スズメバチ科昆虫の殺虫成分を適切に配合することで、スズメバチ科昆虫が食餌場所でベイト組成物を食餌後、巣まで飛翔可能で、かつ、帰巣したスズメバチ科昆虫による栄養交換により巣のコロニーを崩壊可能な、ベイト組成物を見出した。
【0008】
すなわち、本発明のベイト組成物は、スズメバチ科昆虫の殺虫成分を配合した、ベイト組成物であって、前記殺虫成分は、有効成分としてホウ酸系化合物、ジノテフラン、フィプロニルのいずれかを含み、前記殺虫成分がホウ酸系化合物の場合、ベイト組成物全量に対しホウ酸系化合物は0.5質量%~15質量%であり、前記殺虫成分がジノテフランの場合、ベイト組成物全量に対しジノテフランは0.3ppm~100ppmであり、前記殺虫成分がフィプロニルの場合、ベイト組成物全量に対しフィプロニルは0.1ppm~100ppmである。
【0009】
上記ベイト組成物は、スズメバチ科昆虫の誘引成分をさらに含んでもよい。
【0010】
本発明のスズメバチ科昆虫の防除容器は、上記ベイト組成物を備え、スズメバチ科昆虫が前記ベイト組成物を食餌可能で、かつ、食餌後に退出可能な構造を有する。
【0011】
本発明のスズメバチ科昆虫の防除方法は、殺虫成分を配合してベイト組成物を調製し、スズメバチ科昆虫が食餌可能で、かつ、食餌後に退出可能な構造を有する防除容器に、前記ベイト組成物をセットし、前記防除容器をスズメバチ科昆虫の巣から所定距離離れた場所に設置する、スズメバチ科昆虫の防除方法であって、前記殺虫成分は、有効成分としてホウ酸系化合物、ジノテフラン、フィプロニルのいずれかを含み、前記殺虫成分がホウ酸系化合物の場合、ベイト組成物全量に対しホウ酸系化合物は0.5質量%~15質量%であり、前記殺虫成分がジノテフランの場合、ベイト組成物全量に対しジノテフランは0.3ppm~100ppmであり、前記殺虫成分がフィプロニルの場合、ベイト組成物全量に対しフィプロニルは0.1ppm~100ppmである。
【0012】
上記防除方法における前記ベイト組成物は、スズメバチ科昆虫の誘引成分をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のベイト組成物、ベイト組成物を備えた防除容器、及び、ベイト組成物を用いた防除方法により、スズメバチ科昆虫が食餌場所でベイト組成物を食餌後、巣まで飛翔可能で、かつ、帰巣したスズメバチ科昆虫による栄養交換により巣のコロニーを崩壊させることができる。すなわち、ベイト組成物を食餌場所に設置するだけで、スズメバチ科昆虫を直接的に刺激することなく、巣のコロニーを崩壊させて巣をまるごと防除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】評価試験に使用した、防除容器を示したものである。
【
図2】評価試験1において、各巣の場所とベイト組成物をセットした防除容器の配置概要図である。
【
図3】評価試験1において、ジノテフラン5.0ppmのベイト組成物をセットした場合の、コガタスズメバチの巣の写真である。
【
図4】評価試験1において、ジノテフラン5.0ppmのベイト組成物をセットした場合の、コガタスズメバチの巣の解体写真である。
【
図5】評価試験2において、各巣の場所とベイト組成物をセットした防除容器の配置概要図である。
【
図6】評価試験2において、ジノテフラン5.0ppmのベイト組成物をセットした場合の、コガタスズメバチの巣の写真である。
【
図7】評価試験2において、ジノテフラン5.0ppmのベイト組成物をセットした場合の、コガタスズメバチの巣の状況の写真である。
【
図8】評価試験2において、ジノテフラン5.0ppmのベイト組成物をセットした場合の、コガタスズメバチの巣の状況の写真である。
【
図9】評価試験3において、フィプロニル10ppmのベイト組成物をセットした場合の、コガタスズメバチの巣の解体写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について、以下に具体的に説明する。
【0016】
(ベイト組成物)
本発明のベイト組成物は、スズメバチ科昆虫の殺虫成分を含む毒餌を配合したものであり、少なくとも後述する殺虫成分を含むものである。
【0017】
スズメバチ科昆虫には、ハラボソバチ類、アシナガバチ類、スズメバチ類が含まれる。また、スズメバチは、スズメバチ科に属する昆虫のうちスズメバチ亜科に属するものであり、コガタスズメバチやキイロスズメバチが例示される。
ベイト組成物を食べたスズメバチ科昆虫は、帰巣して巣内の幼虫等に餌を運び、また、成虫同士で栄養交換を行う。かかる栄養交換において、ベイト組成物中の殺虫成分も一緒に交換され、同じ巣に生息している幼虫、巣を拠点としている成虫が死亡し、その後に卵から孵化した幼虫は餌を与えらずに死亡する。
【0018】
(殺虫成分)
ベイト組成物に配合される毒餌に含まれる殺虫成分は、スズメバチ科昆虫を殺虫する成分であり、特に巣において栄養交換を行うことにより、巣に生息する幼虫、羽化直後の成虫等や、巣に出入りする成虫を、まとめてコロニーごと崩壊させることができるものである。
スズメバチ科昆虫の殺虫成分としては、ホウ酸(オルトホウ酸、メタホウ酸、ボロン酸、ボリン酸、過ホウ酸、次ホウ酸)及びその塩、八ホウ酸二ナトリウム四水和物(ティンボア)等のホウ酸系化合物、ジノテフラン((RS)-1-メチル-2-ニトロ-3-(テトラヒドロ-3-フリルメチル)グアニジン)、フィプロニル(5-アミノ-1-[2、6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-トリフルオロメチルスルフィニル)ピラゾール-3-カルボニトリル)、シラフルオフェン(4-エトキシフェニル[3-(4-フルオロー3-フェノキシフェニル)プロピル]ジメチルシラン)、ピリプロール(1-[2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-[(ジフルオロメチル)チオ]-5-[(2-ピリジニルメチル)アミノ]-1H-ピラゾール-3-カルボニトリル)、ヒドラメチルノン(N-[1,5-ビス[4-(トリフルオロメチル)フェニル]ペンタ-1,4-ジエン-3-イリデンアミン]-5,5-ジメチル-4,6-ジヒドロ-1H-ピリミジン-2-アミン)、ペルメトリン((3-フェノキシベンジル=(1RS,3RS)-(1RS,3RS)-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシラート)、シペルメトリン((RS)-α-シアノ-3-フェノキシベンジル=(1RS,3RS)-(1RS,3RS)-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシラート)、フェンバレレート(α-シアノ-3-フェノキシベンジル-2-(4-クロロフェニル)-3-メチルブタノエート)、ビフェントリン(2-メチルビフェニル-3-イルメチル(Z)-(1RS,3RS)-3-(2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロパ-1-エニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシラート)、エトフェンプロックス(2-(4-エトキシフェニル)-2-メチルプロピル=3-フェノキシベンジルエーテル)、シフルトリン(シアノ(4-フルオロ-3-フェノキシフェニルメチル-3-(2,2-ジクロロエテニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート)、CYAP(O,O-ジメチル-O-p-シアノフェニル=チオホスフェート)、DMTP(O,O-ジメチル-S[5-メトキシ-1,3,4-チアジアゾル-2(3H)オニル-(3)-メチル]ジチオホスフェート)、BRP(ジメチル-1,2-ジブロム-2,2-ジクロロエチルホスフェート)、サリチオン(2-メトキシ-4H-1,3,2-ベンゾジオキサホスホリン-2-スルフィド)、DDVP(ジメチル2,2-ジクロルビニルホスフェート)、フェニトロチオン(MEP)、(O,O-ジメチル-O-(3-メチル-4-ニトロフェニル) チオホスフェート) 、クロチアニジン((E)-1-(2-クロロ-1,3-チアゾール-5-イルメチル)-3-メチル-2-ニトログアニジン)、イミダクロプリド(1-6-クロロ-3-ピリジルメチル)-N-ニトロイミダゾリジン-2-イリデンアミン)、アセタミプリド((E)-N1-[(6-クロロ-3-ピリジル)メチル]-N2-シアノ-N1-メチルアセトアミジン)、チアメトキサム((EZ)-3-(2-クロロ-1,3-チアゾル-1-イルメチル)-5-メチル-1,3,5-オキサジアジナン-4-イリデン(ニトロ)アミン)、マラソン(S-〔1,2,-ビス(エトキシカルボニル)エチル〕ジメチルホスホロチオールチオネート)、ジメトエート(ジメチルS-(N-メチルカルバモイルメチル)ジチオホスフェート)、PAP(S-〔α-(エトキシカルボニル)ベンジル〕ジメチルホスホロチオールチオネート) 、フェンチオン(O,O-ジメチル-O-(3-メチル-4-メチルチオフェニルチオホスフェート))、BPMC(O-sec-ブチルフェニルメチルカーバメート)、MTMC(m-トリルメチルカーバメート)、メオパール(3,4-ジメチルフェニル-N-メチルカーバメート)、NAC(1-ナフチル-N-メチルカーバメート)、プロポクスル(メチルカルバミド酸2-イソプロピルオキシフェニル)、メソミル(Sメチル-N〔(メチルカルバモイル)オキシ〕チオアセトイミド)、カルタップ(1,3-ビス(カルバモイルチオ)-2-(N,N-ジメチルアミノ)プロパンハイドロクロライド)等が挙げられるがこれに限定されない。これらの殺虫成分は併用してもよい。なかでもホウ酸系化合物、ジノテフラン、フィプロニルが好ましく、ホウ酸系化合物がより好ましい。
【0019】
殺虫成分の配合量は、食餌後、巣まで飛翔でき、栄養交換可能であり、かつ、栄養交換後は巣に生息する卵、幼虫、羽化直後の成虫等が死亡して巣のコロニーが崩壊する程度に調製される。適切な濃度は、殺虫成分の種類により異なる。
殺虫成分がホウ酸系化合物の場合、ベイト組成物全量に対しホウ酸系化合物は0.5質量%~15質量%であり、0.5質量%~10質量%が好ましく、0.5質量%~8質量%、0.5質量%~6質量%がより好ましい。
殺虫成分がジノテフランの場合、ベイト組成物全量に対しジノテフランは0.3ppm~100ppmであり、0.3ppm~10ppmが好ましく、0.3ppm~5ppm、0.5ppm~5ppmがより好ましい。
殺虫成分がフィプロニルの場合、ベイト組成物に対しフィプロニルは0.1ppm~100ppmであり、0.1ppm~20ppmが好ましく、0.1ppm~15ppm、0.1ppm~10ppmがより好ましい。
配合量の詳細については、後述する。
【0020】
(ベイト組成物の配合)
ベイト組成物とは、スズメバチ科昆虫の餌である。すなわち、殺虫成分の他、樹液、花蜜、果樹等に含まれる成分を配合することが一般的であり、また、幼虫の餌となる成分の固形物、たとえば生体(昆虫、クモ、バッタ、コオロギ等)、肉、魚、キャットフード、ドッグフード、昆虫ゼリーを配合してもよい。
【0021】
(誘引成分)
ベイト組成物はスズメバチ科昆虫の餌場付近に設置することが好ましいが、さらに、スズメバチ科昆虫をベイト組成物の設置場所まで誘引するために、ベイト組成物に誘引成分を含んでもよい。
誘引成分は、発酵乳等の乳製品、食酢等を含む液体、糖類、香料、精油、アルコール類、果汁等が例示される。これらを1種、又は、2種以上併用してもよい。さらには、樹液、花蜜、果樹等に含まれる成分を配合してもよく、また、幼虫の餌となる成分の固形物、たとえば生体(昆虫、クモ、バッタ、コオロギ等)、肉、魚、キャットフード、ドッグフード、昆虫ゼリーを配合して誘引成分としてもよい。
【0022】
(その他成分)
ベイト組成物には、殺虫成分、誘引成分の他、殺虫剤の分野で使用される、防腐剤、酸化防止剤、溶剤、凍結防止剤、消泡剤等を配合してもよい。防腐剤としてはベストサイド750(日本曹達株式会社製)等が例示される。また、ベイト組成物の全部又は成分の一部をゲル状又は固体にするため、寒天、グァーガム、ポリアクリル酸ナトリウム等のゲル化剤、増粘剤等を混合してもよい。さらには、ヒトによる誤飲防止のため苦味剤等を配合してもよい。苦味剤としてはビトレックス等が例示される。
【0023】
(防除容器)
本発明のスズメバチ科昆虫の防除容器は、上記ベイト組成物を備えたものである。
防除容器の形状は、スズメバチ科昆虫がベイト組成物を食餌することができ、かつ、ベイト組成物によって溺死せず、食餌後退出可能、飛翔可能な構造を有するものであれば、特に限定されない。
ベイト組成物が液体又は流動性の高いゲル状の場合、嘴でベイト組成物をついばむことが可能な位置に足場があることが望ましい。たとえば、ベイト組成物はカップ等の防除容器にセットされ得る。
なお、風雨の影響を受けにくく、乾燥しにくくするために、ベイト組成物をある程度深さのあるカップである防除容器にセットする場合、スズメバチ科昆虫がカップの中の液面近傍に降りられ、食餌後に退出できるよう、適宜足場を設けることが好ましい。
【0024】
また、ベイト組成物が固体や流動性の低いゲル状の場合、スズメバチ科昆虫が通過するような平面上にベイト組成物の小片がセットされ、かつ、スズメバチ科昆虫が自由に出入り可能な防除容器であってもよい。
さらには、ベイト組成物が液体や流動性の高いゲル状の場合、紙や脱脂綿のようなベイト組成物保持体にベイト組成物を含浸させることにより、同様にスズメバチ科昆虫が通過するような平面上にベイト組成物を含浸させたベイト組成物保持体がセットされ、かつ、スズメバチ科昆虫が自由に出入り可能な防除容器であってもよい。
【0025】
(防除方法)
本発明のスズメバチ科昆虫の防除方法は、少なくとも殺虫成分を配合してベイト組成物を調製し、スズメバチ科昆虫が食餌可能、かつ、食餌後に退出可能な構造を有する防除容器に、前記ベイト組成物をセットし、前記防除容器をスズメバチ科昆虫の巣から所定距離離れた場所に設置するものである。
すなわち、ベイト組成物が設置された場所にスズメバチ科昆虫が飛翔し、殺虫成分を配合してなるベイト組成物を食餌し、その後に退出して飛翔して巣まで戻り、巣内の成虫と栄養交換し、死亡し、巣のコロニーを崩壊させるように構成される。
【0026】
防除方法における殺虫成分及びその配合量は、ベイト組成物において上述した内容と同様である。なお、殺虫成分により溶解性が異なるため、濃度により溶媒を変更することが好ましい場合がある。
また、ベイト組成物には誘引成分を含んでもよい。誘引成分は、ベイト組成物について上述した内容と同様である。
さらに、ベイト組成物にはその他成分を含んでもよい。その他成分は、ベイト組成物について上述した内容と同様である。
【0027】
上記ベイト組成物を、スズメバチ科昆虫が食餌可能、かつ、食餌後に退出可能、飛翔可能な構造を有する防除容器にセットする。
防除方法における防除容器は、防除容器について上述した内容と同様である。
【0028】
上記防除容器は、スズメバチ科昆虫の巣から所定距離離れた場所に設置する。該設置場所は、地形や樹木の状況、スズメバチ科昆虫の飛翔状況、風雨の影響、他の天敵の影響、さらには餌場の近辺であること等を考慮して適宜設定される。その結果、巣から防除容器までの所定距離はおおよそ0.5m~20m、あるいは1m~10m、もしくは1m~5m程度となることが多い。また、スズメバチ科昆虫が飛翔しやすく食餌しやすいように、地上高さは0.5m~4.0mの範囲に設置することが好ましく、0.5m~3.0mの範囲に設定することがより好ましい。
【0029】
-殺虫成分の濃度検討試験1-
殺虫成分としてホウ酸系化合物のうちの八ホウ酸二ナトリウム四水和物(ティンボア/USボラックス社製/以下、ティンボアとする)を選択した場合、スズメバチ科昆虫の防除に適した濃度を検討するため、以下の試験を行った。
【0030】
表1に示すように、ティンボアの濃度を変えたベイト組成物を用意した。
【0031】
【0032】
ガラスシャーレ(直径3cm、蓋なし)に脱脂綿を入れ、各試料を8ml浸み込ませた。これを試験容器(プラスチックケージ、18x9x10cm)の隅に置いた。絶食させたコガタスズメバチ成虫1頭を低温麻酔し、試験容器に入れ、経時的に死亡の有無を確認し、累積死亡率を調査した。累積死亡率とは、行動停止を示した個体の割合である。なお、試験開始時は、コガタスズメバチ成虫が試料を摂取した直後とした。
濃度検討試験1は、試料1~8について、それぞれ3回行った。
表2に各試料における累積死亡率の推移を示す。
【0033】
【0034】
表2に示すように、試料1~8いずれも摂食後5時間までは死亡が確認されなかった。また、試料1(ティンボア6.0質量%)は摂食後10時間、試料2(ティンボア4.0質量%)は摂食後24時間、試料3(ティンボア2.0質量%)は摂食後15時間で累積死亡率が100%となった。試料4(ティンボア1.0質量%)及び試料5(ティンボア0.5質量%)は試験を行った摂食後46時間で累積死亡率は100%とならなかったが、試料4は摂食後21時間で一部のコガタスズメバチ成虫の死亡が確認され、試料5は摂食後46時間で一部のコガタスズメバチ成虫の死亡が確認された。
【0035】
本発明のスズメバチ科昆虫のベイト組成物は、スズメバチ科昆虫がベイト組成物を摂食した後、巣に戻ることができ、巣内及び巣付近の幼虫や成虫と栄養交換を行い、殺虫成分が含まれるいわゆる毒餌を摂取した個体、幼虫、成虫が死亡するような組成であることが求められる。ここで、スズメバチ科昆虫の餌の採取時間は、5分~20分程度とされていることから、ベイト組成物の摂取後、30分程度行動(あるいは飛翔)可能な個体であればよいと考えられる。よって、ベイト組成物の濃度の上限は、摂食(食餌)後30分間は死亡しない範囲に設定されればよい。
一方、ベイト組成物の濃度の下限は、最終的に毒餌を摂取した個体、栄養交換をした幼虫、成虫、卵から孵化後餌を与えられない幼虫が死亡し、巣のコロニーが崩壊する可能性がある濃度に設定される。
【0036】
濃度検討試験1の結果から、殺虫成分がホウ酸系化合物のティンボアの場合の濃度の上限は、ベイト組成物全量に対し、15質量%、好ましくは10質量%、8質量%、より好ましくは6質量%に設定すればよく、摂取後30分程度行動可能となることが分かった。一方、濃度の下限は、ベイト組成物全量に対し、0.5質量%、好ましくは1.0質量%に設定すればよいことが分かった。
よって、殺虫成分がホウ酸系化合物の場合、ベイト組成物全量に対しティンボアは0.5質量%~15質量%であり、0.5質量%~10質量%が好ましく、0.5質量%~8質量%、0.5質量%~6質量%がより好ましい。
【0037】
-殺虫成分の濃度検討試験2-
殺虫成分としてジノテフラン((RS)-1-メチル-2-ニトロ-3-(テトラヒドロ-3-フリルメチル)グアニジン)を選択した場合、スズメバチ科昆虫の防除に適した濃度を検討するため、以下の試験を行った。
【0038】
表3に示すように、ジノテフランの濃度を変えたベイト組成物を用意した。
【0039】
【0040】
ガラスシャーレ(直径3cm、蓋なし)に脱脂綿を入れ、各試料を8ml浸み込ませた。これを試験容器(プラスチックケージ、18x9x10cm)の隅に置いた。絶食させたコガタスズメバチ成虫3頭を低温麻酔し、試験容器に入れ、経時的に死亡の有無を確認し、累積死亡率を調査した。累積死亡率とは、行動停止を示した個体の割合である。なお、試験開始時は、コガタスズメバチ成虫が試料を摂取した直後とした。
濃度検討試験2は、試料9~18について、それぞれ3回行った。
表4に各試料における累積死亡率の推移を示す。
【0041】
【0042】
表4に示すように、試料12~18いずれも摂食後30分までは死亡が確認されなかった。また、試料11(ジノテフラン10.0ppm)は摂食後30分で22.2%の累積死亡率が確認され、一部のコガタスズメバチが死亡したが、半数以上のコガタスズメバチは行動停止することはなかった。試料10(ジノテフラン50.0ppm)及び試料9(ジノテフラン100.0ppm)は摂食後30分で66.7%の累積死亡率が確認された一方、33.3%は行動停止しないことが確認された。
試料12~14(ジノテフラン0.5ppm~5.0ppm)は摂食後20時間までに累積死亡率が100%となった。試料15(ジノテフラン0.3ppm)は試験を行った摂食後30時間までに累積死亡率は100%とならなかったが、摂食後24時間で半数以上のコガタスズメバチ成虫の死亡が確認され、殺虫活性を有することが分かった。試料16~18(ジノテフラン0ppm~0.2ppm)では、試験を行った摂食後30時間に死亡は確認されなかった。
【0043】
濃度検討試験2の結果から、殺虫成分がジノテフランの場合の濃度の上限は、ベイト組成物全量に対し、100ppm、好ましくは10ppm、5ppmに設定すればよいことが分かった。一方、濃度の下限は、ベイト組成物全量に対し、0.3ppm、好ましくは0.5ppmに設定すればよいことが分かった。
よって、殺虫成分がジノテフランの場合、ベイト組成物全量に対しジノテフランは0.3ppm~100ppmであり、0.3ppm~10ppmが好ましく、0.3ppm~5ppm、0.5ppm~5ppmがより好ましい。
【0044】
-殺虫成分の濃度検討試験3-
殺虫成分としてフィプロニル(5-アミノ-1-[2、6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-トリフルオロメチルスルフィニル)ピラゾール-3-カルボニトリル)を選択した場合、スズメバチ科昆虫の防除に適した濃度を検討するため、以下の試験を行った。
【0045】
表5に示すように、フィプロニルの濃度を変えたベイト組成物を用意した。なお、フィプロニルは水への溶解性が低いため、溶解補助剤を配合した。
【0046】
【0047】
ガラスシャーレ(直径3cm、蓋なし)に脱脂綿を入れ、各試料を8ml浸み込ませた。これを試験容器(プラスチックケージ、18x9x10cm)の隅に置いた。絶食させたコガタスズメバチ成虫1頭を低温麻酔し、試験容器に入れ、経時的に死亡の有無を確認し、累積死亡率を調査した。累積死亡率とは、行動停止を示した個体の割合である。なお、試験開始時は、コガタスズメバチ成虫が試料を摂取した直後とした。
濃度検討試験3は、試料19~24について、それぞれ3回行った。
表6に各試料における累積死亡率の推移を示す。
【0048】
【0049】
表6に示すように、試料19~24いずれも基準となる摂食後30分のみならず摂食後3時間までは死亡が確認されなかった。また、試料19(フィプロニル10.0ppm)は摂食後5時間、試料20(フィプロニル1.0ppm)は摂食後19時間、試料21(フィプロニル0.2ppm)及び試料22(フィプロニル0.1ppm)は摂食後21時間で累積死亡率が100%となった。
試料23(フィプロニル0.05ppm)は試験を行った摂食後46時間で累積死亡率は100%とならなかったが、摂食後21時間で一部のコガタスズメバチ成虫の死亡が確認された。また、ブランクである試料24(フィプロニル0ppm)も、試料23と同様な累積死亡率を示したことから、溶解補助剤も累積死亡率に影響を与えることが考えられる。
【0050】
濃度検討試験3の結果から、殺虫成分がフィプロニルの場合の濃度の上限は、ベイト組成物全量に対し、100ppm、好ましくは20ppm、10ppmに設定すればよく、摂取後30分程度行動可能となることが分かった。一方、濃度の下限は、ベイト組成物全量に対し、0,1ppmに設定すればよいことが分かった。
よって、殺虫成分がフィプロニルの場合、ベイト組成物に対しフィプロニルは0.1ppm~100ppmであり、0.1ppm~20ppmが好ましく、0.1ppm~15ppm、0.1ppm~10ppmがより好ましい。
【0051】
-評価試験1-
本発明のスズメバチ科昆虫のベイト組成物の殺虫成分として、ジノテフラン5.0ppm配合した場合における、コガタスズメバチの巣の駆除効果を確認した。
【0052】
試料12に苦味剤(ビトレックス)0.0001%を配合したベイト組成物を用い、
図1(a)及び
図1(b)に示した防除容器にベイト組成物をセットした。
評価試験に用いた防除容器は、開口部直径93mm、深さ110mmとし、蓋の中央に直径3.2cmの孔を開け、外径3cmのネトロン・プロテクターC-16・黒(大日本プラスチックス株式会社製、以下「アミ筒」と称する。)を長さ10cmに切断し、プラカップ蓋の孔に通したものである(
図1(b)参照)。プラカップの内部に苦味剤を配合した試料12を250ml注ぎ入れ、さらに風雨よけとなるカバーを組み立てた(
図1(a)参照)。なお、評価試験に用いた防除容器の蓋及び本体の色は、黄色であった。
【0053】
駆除対象となるコガタスズメバチの巣3個に対し、2m~20mの範囲に苦味剤を配合した試料12のベイト組成物を備えた防除容器を5個設置した。
巣の直径及び地上からの高さ、及び、各巣と防除容器間の距離を、表7に示した。また、各防除容器の地上からの高さを表8に示した。さらに、巣1~3とベイト組成物を備えた防除容器A~Eの位置の上面概略図を、
図2に示した。
【0054】
【0055】
【0056】
図2に示すとおり、各巣に対し、ベイト組成物を備えた防除容器を各巣に対し最短距離で2m~3.5mの距離に1つ設置した。なお、各巣に対して設置された防除容器の一部は、他の巣に対しても3.5m~5.5m程度の距離となる。さらに、防除容器D及びEを、多くのスズメバチ科昆虫が飛来する、いわゆる餌場付近に設置した。
また、スズメバチ科昆虫が飛翔しやすく食餌しやすいように、防除容器の地上高さが1.5m~2.5mとなるように設置した。
【0057】
評価試験開始前において、巣1~3はいずれもコロニーの活動が活発であることを確認した。巣を刺激して出入りするコガタスズメバチの頭数を数えた。なお、1個の巣内に50~100頭程度のコガタスズメバチが生息していると推定された。
【0058】
ベイト組成物を備えた防除容器設置から1週間後、巣を刺激してコガタスズメバチの出入りの有無を確認した。出入りする個体がない場合は、巣を解体し、生存虫の有無を確認した。出入りする個体がいた場合は、さらに1週間ごとに評価を継続し、出入りする個体がなくなったら、巣を解体し、生存虫の有無を確認した。
週1回の経過観察においては、上記のように巣を刺激したときのコガタスズメバチの出入りの有無の確認の他、巣周辺の死亡個体の確認、巣解体調査時の巣内の状況の確認、さらに防除容器内のベイト組成物の減少量の確認を行った。
上記確認結果を総合的に判断し、ベイト組成物によりコロニー崩壊が起きたか否かを判定した。
表9に評価試験1の評価結果を示す。また、表10にベイト組成物の減少量を示す。
さらに、
図3(a)に試験開始時の巣1の状況、
図3(b)に試験開始時の巣2の状況、
図3(c)に試験開始時の巣3の状況を示した。また、
図4(a)に設置2週間後の解体した巣1の状況、
図4(b)に設置2週間後の解体した巣2の状況、
図4(c)に設置2週間後の解体した巣2の状況を示した。
【0059】
【0060】
【0061】
表9及び表10、
図3及び
図4より、巣1は防除容器設置2週間後には巣周辺のハチの活動は確認できず、巣内に幼虫の死亡個体が多数確認された。また、巣1の周辺に設置した防除容器Aにセットしたベイト組成物は、設置1週間後から2週間後の間に減少が見られた。以上の結果から、巣1はベイト組成物による影響を受けて、コロニー崩壊が起きていることが分かった。
【0062】
巣2も防除容器設置2週間後には巣周辺のハチの活動は確認できず、巣内に幼虫の死亡個体が多数確認された。また、巣2から3.5mの距離に設置した防除容器Bにセットしたベイト組成物の減少は見られなかったものの、巣2から5.5mの距離に設置された防除容器Cにセットされたベイト組成物が設置1週間後から2週間後の間に大きく減少していた。以上の結果から、巣2はベイト組成物による影響を受けて、コロニー崩壊が起きていることが分かった。なお、解体した巣内に生存幼虫や卵等も確認されたことから、コロニー崩壊から間もないと推測された。
【0063】
一方、巣3については、防除容器設置3週間後から巣周辺で活動するハチの頭数の減少が確認された。しかしながら、設置3週間後から4週間後に台風の直撃を受けて巣盤の崩壊が見られたため、巣3については評価を中止した。
【0064】
-評価試験2-
本発明のスズメバチ科昆虫のベイト組成物の殺虫成分として、ジノテフラン5.0ppm配合した場合における、コガタスズメバチの巣の駆除効果を確認し、かつ、コガタスズメバチ成虫死亡個体にジノテフランが含まれているかの分析を行った。
【0065】
試料12に苦味剤(ビトレックス)0.0001%を配合したベイト組成物を用い、
図1(a)及び
図1(b)に示した防除容器にベイト組成物をセットした。
評価試験に用いた防除容器は、開口部直径93mm、深さ110mmとし、蓋の中央に直径3.2cmの孔を開け、外径3cmのネトロン・プロテクターC-16・黒(大日本プラスチックス株式会社製)を長さ10cmに切断し、プラカップ蓋の孔に通したものである(
図1(b)参照)。プラカップの内部に苦味剤を配合した試料12を250ml注ぎ入れ、さらに風雨よけとなるカバーを組み立てた(
図1(a)参照)。なお、評価試験に用いた防除容器の蓋及び本体の色は、黄色であった。
【0066】
駆除対象となるコガタスズメバチの巣3個(巣4、5、6)に対し、それぞれの巣から5m~7mの範囲に上記ベイト組成物を備えた防除容器を3個(防除容器F、G,H)設置した。
巣の直径及び地上からの高さ、及び、各巣と防除容器間の距離を、表11に示した。また、各防除容器の地上からの高さを表12に示した。さらに、巣4~6とベイト組成物を備えた防除容器F~Hの位置の上面概略図を、
図5に示した。
【0067】
【0068】
【0069】
図5に示すとおり、各巣に対し、ベイト組成物を備えた防除容器を最短距離で5.0m~7.0mの距離に1つ設置した。なお、巣5に対して設置された防除容器Gは、巣6に対して10.0m程度の距離となる。
また、スズメバチ科昆虫が飛翔して到達しやすく食餌しやすいように、防除容器の地上高さが1.5m~3.0mとなるように設置した。
【0070】
評価試験開始前において、巣4~6はいずれもコロニーの活動が活発であることを確認した。巣を刺激して出入りするコガタスズメバチの頭数を数えた。なお、1個の巣内に50~100頭程度のコガタスズメバチが生息していると推定された。
【0071】
ベイト組成物を備えた防除容器設置から1週間後、巣を刺激してコガタスズメバチの出入りの有無を確認した。出入りする個体がない場合は、巣を解体し、生存虫の有無を確認した。出入りする個体がいた場合は、さらに1週間ごとに評価を継続し、出入りする個体がなくなったら、巣を解体し、生存虫の有無を確認した。
週1回の経過観察においては、上記のように巣を刺激したときのコガタスズメバチの出入りの有無の確認の他、巣周辺の死亡個体の確認、巣解体調査時の巣内の状況の確認、さらに防除容器内のベイト組成物の減少量の確認を行った。
上記確認結果を総合的に判断し、ベイト組成物によりコロニー崩壊が起きたか否かを判定した。
表13に評価試験2の評価結果を示す。また、表14にベイト組成物の減少量を示す。
さらに、
図6(a)に試験開始時の巣4の状況、
図6(b)に試験開始時の巣5の状況、
図6(c)に試験開始時の巣6の状況を示した。また、
図7(a)に設置3週間後の巣4の巣内の状況、
図7(b)に設置3週間後の巣4の白化した個体(水分の抜けた明らかな異常個体)の状況、
図7(c)に設置3週間後の巣4の死亡幼虫個体の状況、
図8(a)に設置3週間後の巣6の巣内の状況、
図8(b)に設置3週間後の巣6の死亡成虫個体の状況、
図8(c)に設置4週間後の巣5の巣内の状況を示した。
【0072】
【0073】
【0074】
表13及び表14、
図6~8より、巣4は防除容器設置1週間後には巣周辺のハチの頭数が減少し、巣の真下には成虫の死亡個体が多数存在した。設置3週間後には巣周辺のハチの活動は確認できず、巣内に幼虫の死亡個体が多数確認された。幼虫の死亡個体の中には白化した(水分の抜けた明らかな異常個体となった)状態の死亡個体も確認された。また、巣内には羽化直前の生存幼虫が確認でき、コロニー崩壊直前まで営巣活動していた形跡が確認された。巣4の周辺に設置した防除容器Fにセットしたベイト組成物は、設置1週間後には減少が見られた。以上の結果から、巣4はベイト組成物による影響を受けて、コロニー崩壊が起きていることが分かった。
【0075】
巣5は防除容器設置3週間後から巣周辺で活動するハチの頭数が減少し、設置4週間後には巣周辺のハチの活動は確認できなくなった。巣内には幼虫の死亡個体が多数確認された。また、羽化直前の生存幼虫や卵等も確認でき、コロニー崩壊直前まで営巣活動していた形跡が確認された。また、巣5には飛行が困難ではあるものの、生存している成虫が確認された。巣5から5.0mの距離に設置した防除容器Gにセットしたベイト組成物も設置3週間後から減少は見られた。以上の結果から、巣5はベイト組成物による影響を受けて、コロニー崩壊が起きていることが分かった。
【0076】
巣6は防除容器設置1週間後から巣周辺で活動するハチの頭数が減少し、設置3週間後には巣周辺のハチの活動は確認できなくなった。巣内には羽化直前の幼虫の死亡個体が確認でき、さらに成虫の死亡個体が40頭程度確認された。羽化直前の生存幼虫や卵等も確認でき、コロニー崩壊直前まで営巣活動が行われていた形跡が確認された。巣6から5.0mの距離に設置した防除容器Hにセットしたベイト組成物も設置2週間後から減少が確認された。以上の結果から、巣6はベイト組成物の影響を受けて、コロニー崩壊が起きていることが分かった。
【0077】
なお、巣4で観察された巣内の白化した(水分の抜けた明らかな異常個体となった)死亡幼虫や、巣4~6で観察された大量の死亡成虫は、自然条件で観察されることはあり得ないことが知られている。
また、巣5では巣周辺のハチの活動が確認できず、ベイト組成物の減少も見られていた中で解体した巣内において、成虫の生存個体が確認された。これは、ベイト組成物を備えた防除容器を設置する前に蛹化した蛹に対しては栄養交換が行われず、殺虫効果がなく通常通り羽化する可能性が高いことを示している。
【0078】
巣6で確認された大量の成虫死亡個体にジノテフランが含まれるか否かを、液体クロマトグラフィー質量分析法にて分析した。
分析結果を表15に示す。
【0079】
【0080】
表15に示すように、巣6の巣内で確認された大量の成虫死亡個体を分析した結果、成虫死亡個体1匹あたりから0.001μg/匹(0.07ppm)のジノテフランが検出された。
すなわち、巣6のコロニー崩壊には、ベイト組成物に含まれる殺虫成分がコガタスズメバチに取り込まれていることが確認された。
【0081】
-評価試験3-
本発明のスズメバチ科昆虫のベイト組成物の殺虫成分として、フィプロニル10ppm配合した場合における、コガタスズメバチ又はキイロスズメバチの巣の駆除効果を確認した。
【0082】
ベイト組成物として試料19を用い、
図1(a)及び
図1(b)に示した防除容器にベイト組成物をセットした。
評価試験に用いた防除容器は、開口部直径93mm、深さ110mmとし、蓋の中央に直径3.2cmの孔を開け、外径3cmのネトロン・プロテクターC-16・黒(大日本プラスチックス株式会社製)を長さ10cmに切断し、プラカップ蓋の孔に通したものである(
図1(b)参照)。プラカップの内部に試料12を250ml注ぎ入れ、さらに風雨よけとなるカバーを組み立てた(
図1(a)参照)。なお、評価試験に用いた防除容器の蓋及び本体の色は、黄色であった。
【0083】
駆除対象となるコガタスズメバチ又はキイロスズメバチの巣各1個(巣7~8)に対し、5mの範囲に試料19のベイト組成物を備えた防除容器を3個(防除容器I、J)設置した。
巣の直径及び地上からの高さ、防除容器の地上からの高さ、及び、各巣と防除容器間の距離を、表16に示した。
【0084】
【0085】
表16に示すとおり、各巣に対し、ベイト組成物を備えた防除容器を5mの距離に設置した。また、スズメバチ科昆虫が飛翔して到着しやすく食餌しやすいように、防除容器の地上高さが1.5mとなるように設置した。なお、互いの巣は15m程度の間隔で設置した。
【0086】
評価試験開始前において、巣7、8はいずれもコロニーの活動が活発であることを確認した。巣を刺激して出入りするコガタスズメバチ又はキイロスズメバチの頭数を数え、1個の巣内に50~100頭程度のハチが生息していると推定された。
【0087】
ベイト組成物を備えた防除容器設置から1週間後、巣を刺激してコガタスズメバチ又はキイロスズメバチの出入りの有無を確認した。出入りする個体がない場合は、巣を解体し、生存虫の有無を確認した。出入りする個体がいた場合は、さらに1週間ごとに評価を継続し、出入りする個体がなくなったら、巣を解体し、生存虫の有無を確認した。
週1回の経過観察においては、上記のように巣を刺激したときのコガタスズメバチ又はキイロスズメバチの出入りの有無の確認の他、巣周辺の死亡個体の確認、巣解体調査時の巣内の状況の確認、さらに防除容器内のベイト組成物の減少量の確認を行った。
上記確認結果を総合的に判断し、ベイト組成物によりコロニー崩壊が起きたか否かを判定した。
表17に評価試験3の評価結果を示す。また、表18にベイト組成物の減少量を示す。
さらに、
図9(a)及び
図9(b)に巣8の解体時の状況を示した。
【0088】
【0089】
【0090】
表17及び表18、
図9より、巣7は防除容器設置1週間後には巣周辺で活動するハチの頭数の減少が確認でき、活動状況も低下していた。設置2週間後には、巣周辺で活動するハチが存在しなくなったため、巣の解体調査を実施した。巣内には幼虫死亡個体が多数存在していた。また、評価試験期間中、防除容器Iに備えられたベイト組成物の減少が認められていることから、ベイト組成物の影響によるコロニーの崩壊が起きていると考えられる。
【0091】
巣8は防除容器設置1週間後から巣周辺で活動するハチの頭数は減少する傾向が確認できた。活動状況も低下する傾向が認められた。設置2週間後には巣周辺で活動するハチが見られなくなったことから、巣の解体調査を実施した。巣内には幼虫死亡個体が多数存在し、成虫死亡個体も10頭程度存在した。また、評価試験中に防除容器Jのベイト組成物の減少も確認された。成虫死亡個体のフィプロニルの含有量を、液体クロマトグラフィー質量分析法にて分析したところ、フィプロニルが0.014ppm検出された。これらの結果から、ベイト組成物の影響によるコロニーの崩壊が起きていると考えられる。
【0092】
以上、評価試験1~3の結果から、本発明の組成を有するベイト組成物を備えた防除容器を設置することにより、スズメバチ科昆虫がベイト組成物を摂食し、巣に戻り、栄養交換により幼虫や成虫に殺虫成分を与え、死亡させ、最終的には巣のコロニーを崩壊させ得ることが分かった。
【0093】
-殺虫成分の濃度検討試験4-
殺虫成分としてホウ酸系化合物のうちのホウ酸(オルトホウ酸)を選択した場合、スズメバチ科昆虫の防除に適した濃度を検討するため、以下の試験を行った。
【0094】
表19に示すように、ホウ酸の濃度を変えたベイト組成物を用意した。
【0095】
【0096】
ガラスシャーレ(直径3cm、蓋なし)に脱脂綿を入れ、試料1を8ml浸み込ませた。これを試験容器(プラスチックケージ、18x9x10cm)の隅に置いた。絶食させたコガタスズメバチ成虫1頭を低温麻酔し、試験容器に入れ、経時的に死亡の有無を確認し、累積死亡率を調査した。累積死亡率とは、行動停止を示した個体の割合である。なお、試験開始時は、コガタスズメバチ成虫が試料を摂取した直後とした。
濃度検討試験4は、試料25~27について、それぞれ3回行った。
表20に各試料における累積死亡率の推移を示す。
【0097】
【0098】
表20に示すように、試料25~27いずれも摂食後6時間までは死亡が確認されなかった。また、試料25(ホウ酸1.0質量%)は摂食後26時間で累積死亡率が100%となった。試料26(ホウ酸0.5質量%)は試験を行った摂食後46時間で累積死亡率は100%とならなかったが、摂食後37時間で一部のコガタスズメバチ成虫の死亡が確認された。
【0099】
本発明のスズメバチ科昆虫のベイト組成物は、スズメバチ科昆虫がベイト組成物を摂食した後、巣に戻ることができ、巣内及び巣付近の幼虫や成虫と栄養交換を行い、殺虫成分が含まれるいわゆる毒餌を摂取した個体、幼虫、成虫が死亡するような組成であることが求められる。ここで、スズメバチ科昆虫の餌の採取時間は、5分~20分程度とされていることから、ベイト組成物の摂取後、30分程度行動(あるいは飛翔)可能な個体であればよいと考えられる。よって、ベイト組成物の濃度の上限は、摂食(食餌)後30分間は死亡しない範囲に設定されればよい。
一方、ベイト組成物の濃度の下限は、最終的に毒餌を摂取した個体、栄養交換をした幼虫、成虫、卵から孵化後餌を与えられない幼虫が死亡し、巣のコロニーが崩壊する可能性がある濃度に設定される。
【0100】
殺虫成分の濃度検討試験4の結果は、前述したホウ酸系化合物の濃度検討試験1の結果と併せ、殺虫成分がホウ酸系化合物のうちのホウ酸の場合の濃度の上限は、ベイト組成物全量に対し、15質量%、好ましくは10質量%、8質量%、より好ましくは6質量%に設定すればよく、摂取後30分程度行動可能となることが分かった。一方、濃度の下限は、ベイト組成物全量に対し、0.5質量%、好ましくは1.0質量%に設定すればよいことが分かった。
よって、殺虫成分がホウ酸系化合物の場合、ベイト組成物全量に対しホウ酸は0.5質量%~15質量%であり、0.5質量%~10質量%が好ましく、0.5質量%~8質量%、0.5質量%~6質量%がより好ましい。