(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097873
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】耐ハロゲン性のガラス材、ガラス被膜、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 3/062 20060101AFI20230703BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20230703BHJP
C03B 5/02 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C03C3/062
H01L21/302 101G
C03B5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214238
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】浜島 和雄
(72)【発明者】
【氏名】森笹 真司
【テーマコード(参考)】
4G062
5F004
【Fターム(参考)】
4G062AA01
4G062BB01
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4G062MM05
4G062MM28
4G062MM35
4G062NN34
5F004AA16
5F004BA04
5F004BA20
5F004BB29
5F004BD04
(57)【要約】
【課題】腐食性ハロゲンガス又は当該ガスを含むプラズマへの耐性(耐ハロゲン性)が高く、かつプラズマ処理プロセスで生じるパーティクルの発生を抑制できるガラス材、ガラス材被膜、それらの製造方法などを提供する。
【解決手段】Yを45~52重量%、Alを5~10重量%、Siを7~12重量%、Oを23~30重量%、およびFを7~12重量%含有する耐ハロゲン性ガラス材、当該ガラス材を成膜して得られるガラス被膜、それらの製造方法、当該ガラス材若しくはガラス被膜備える処理装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Yを45~52重量%、Alを5~10重量%、Siを7~12重量%、Oを23~30重量%、およびFを7~12重量%含有することを特徴とする耐ハロゲン性ガラス材。
【請求項2】
Yを47~50重量%、Alを6~8重量%、Siを7~10重量%、Oを25~28重量%、およびFを8~11重量%含有する請求項1に記載の耐ハロゲン性ガラス材。
【請求項3】
前記ガラス材が、Y2O3-Al2O3-SiO2系ガラスの有するOの一部をFに置換したガラス材である請求項1または2に記載の耐ハロゲン性ガラス材。
【請求項4】
前記ガラス材が、当該ガラス材を成膜して得られるガラス被膜である請求項1~3のいずれか1項に記載の耐ハロゲン性ガラス材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の耐ハロゲン性ガラス材の製造方法であって、Y2O3粉末、Al2O3粉末、SiO2粉末、並びに、YF3粉末、および/またはAlF3粉末を混合し、当該混合した粉末を1250℃~1400℃で熱処理する製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の耐ハロゲン性ガラス材を基材の表面に塗布し、当該ガラス材の溶融温度以上に加熱して成膜せしめる耐ハロゲン性ガラス被膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の耐ハロゲン性ガラス材を基材の表面に溶射法により成膜せしめる耐ハロゲン性ガラス被膜の製造方法。
【請求項8】
前記成膜せしめた後に、その表層を再溶融せしめる請求項6または7に記載の耐ハロゲン性ガラス被膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の耐ハロゲン性ガラス材を構成部材として備える処理装置。
【請求項10】
半導体製造・加工工程におけるCVD装置、又はプラズマエッチング装置である請求項9に記載の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造・加工工程に用いられるCVD装置やプラズマエッチング装置等の処理装置の構成部材として使用可能であり、特に腐食性ハロゲンガス又はハロゲンガスを含むプラズマに対する耐性(耐ハロゲン性)が高く、かつ、プラズマ処理プロセスで生じるパーティクルの発生を抑制することが可能な耐ハロゲンガラス材、当該ガラス材の製造方法、当該ガラス材を用いたガラス被膜の製造方法、および当該ガラス材を備える処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程における前工程では、酸化、リソグラフィ、エッチング及び成膜などの工程が繰り返される。この内、エッチング工程には薬液処理による湿式エッチングが用いられる場合もあるが、ハロゲンガスなどによるプラズマエッチングが適用されている場合が殆どである。また、成膜工程では各種金属やセラミックスなどの多用な材料の被膜が物理蒸着法(PVD)または化学蒸着法(CVD)などによって形成される。
【0003】
半導体製造におけるプラズマエッチングは、ウエハに回路を作製するステップで採用されている。プラズマエッチングを開始する前に、ウエハはフォトレジスト若しくはハードマスク(通常、酸化物若しくは窒化物)でコーティングされ、その後のフォトリソグラフィーの工程で回路パターンに合わせて露光される(パターニング工程)。プラズマエッチングでは、パターニング後のウエハに対してプラズマエッチングを施すことにより、選択的に被エッチング材料を除去する(エッチング工程)。このパターニング工程とエッチング工程は、半導体製造工程において、複数回繰り返される。なお、プラズマエッチングでは、物理的なスパッタ効果のみではなく、フッ素系や塩素系などのハロゲン系ガスを用いたプラズマをウエハに浴びせて、化学的なスパッタ効果も併せて被エッチング材料を除去している。
【0004】
プラズマエッチングでは、高集積度の半導体回路を形成するに伴い、略垂直のプロファイルを作製する必要があるため、プラズマから高エネルギーかつ高密度のイオンやラジカルを放出させる。このため、エッチング対象であるウエハのみでなく、エッチングが行われるチャンバの内面を構成する材料もプラズマ照射の影響を受け消耗する。そして、このようにして生じたパーティクルがウエハの回路上に付着して、半導体チップ製造の歩留りを低下させる一因となっている。
【0005】
一般的に、プラズマエッチングを行うチャンバを構成する材料は、アルミニウム合金などの金属材料であり、ハロゲン系ガスプラズマの暴露に対する耐性は高くない。そこで、チャンバに耐プラズマ性を要求する場合には、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)などからなるセラミックス焼結体が用いられることが多い。
【0006】
しかしながら、セラミックス焼結体は、結晶粒子間で界面を形成し、ここから、プラズマ腐食が進行して、剥がれによるパーティクルの発生の一因となっていた。このため、このような結晶粒界の界面をなくすために、元来、結晶性を有しないガラス材、特に、耐蝕性のあるAl2O3、CaO、MgO、ZrO2、BaO等を含有するガラス材を用いること(特許文献1)や、そのようなガラス材を材料とした溶射膜を形成すること(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-121047号公報
【特許文献2】特開2004-253793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、先端技術分野に供される半導体は増々高集積化し、チップに形成される回路の線幅は20nm以下が要求されている。このため、プラズマを使用する半導体製造工程において以前は問題にならなかった数十nm程の大きさの微小パーティクルが問題となっており、以前にも増して耐プラズマ性への要求レベルも厳しくなっている。本発明者らは、既存のガラス材について、以下に記載する検討を行ったところ、近年の耐プラズマ性の要求レベルを十分に満たしているとは言えなかった。
【0009】
すなわち、本発明者らは、以下の検討をおこなった。建築等に用いる一般的なソーダ石灰ガラス(ガラスA)、ガラスフリットとして用いられるフッ素が添加された特殊ソーダ石灰ガラス(ガラスB)、およびY2O3-Al2O3-SiO2耐熱性ガラス(ガラスC)の3種の溶融凝固体の試験片を作製した。また、参考としてAl2O3緻密質焼結体、Y2O3緻密質焼結体の2種の試験片を作製した。これらの各試験片の原料組成を表1に示す。
各試験片は、(縦)20mm×(横)20mm×(厚み)2mmの角板状であり、表面を平滑に研削し、さらに微粒ダイヤモンドスラリーを用いて表面粗さRa(JIS B 0601)が0.01μmになるように調整した。
【0010】
上記の5種の試験片を、誘導結合型プラズマ方式のエッチング装置を用いたプラズマ曝露試験に供し、消耗量を確認した。ここで、消耗量は、プラズマ曝露されないようマスキングを行った部位とプラズマに暴露された部位との段差を、レーザー顕微鏡を用いて測定した段差の大きさにより定義した。試験にはドライエッチング装置(サムコ株式会社製 商品名:Model RIE-101iPH)を用い、ウエハ上に焼結体を静置し、プラズマに曝露した。プラズマの生成は、表2の条件で行った。本試験で使用したドライエッチング装置の模式図を
図1に示す。
【0011】
各試験片のプラズマ曝露試験の結果を表3に示す。ここで、表3中の消耗比とは、各試験片の消耗量とY2O3焼結体の消耗量とを比較した値であり、Y2O3焼結体の消耗量を1.0として示したものである。
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
上記表3に示されるように、プラズマ曝露による消耗比はY2O3焼結体を1.0とすると、Al2O3焼結体が7.5、ガラスAが5.8、ガラスBが2.6、ガラスCが2.1であった。かかる結果からして、ガラス試料中、最も消耗量が少ないガラスCであっても、Y2O3焼結体の2倍以上消耗しており、これらの組成のガラスでは依然として消耗量に課題があり、結晶粒子間のプラズマ腐食に起因するパーティクルの発生を抑制するというガラス材の優位性を十分に発揮できないことが分かった。
【0016】
本発明は、このような状況の下でなされた発明であり、上記した半導体製造・加工工程に用いられるCVD装置、プラズマエッチング装置等の処理装置の構成部材として使用可能である、特にフッ素系や塩素系の腐食性ハロゲンガス又はハロゲンガスを含むプラズマに対する耐性(耐ハロゲン性)が高く、かつ、プラズマ処理プロセスで生じるパーティクルの発生を抑制することが可能なガラス材、ガラス被膜、当該ガラス材・ガラス被膜の製造方法、ならびに、当該ガラス材・ガラス被膜を備える処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記目的を達成するものであり、下記の実施形態を有する。
(1)Yを45~52重量%、Alを5~10重量%、Siを7~12重量%、Oを23~30重量%およびFを7~12重量%含有することを特徴とする耐ハロゲン性ガラス材。
(2)Yを47~50重量%、Alを6~8重量%、Siを7~10重量%、Oを25~28重量%、およびFを8~11重量%含有する上記(1)に記載の耐ハロゲン性ガラス材。
(3)前記ガラス材が、Y2O3-Al2O3-SiO2系ガラスの有するOの一部をFに置換したガラス材である上記(1)または(2)に記載の耐ハロゲン性ガラス材。
(4)前記ガラス材が、当該ガラス材を成膜して得られるガラス被膜である上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の耐ハロゲン性ガラス材。
【0018】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の耐ハロゲン性ガラス材の製造方法であって、Y2O3粉末、Al2O3粉末、SiO2粉末、並びに、YF3粉末、および/またはAlF3粉末を混合し、当該混合した粉末を1250℃~1400℃で熱処理する製造方法。
(6)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の耐ハロゲン性ガラス材を基材の表面に膜状に形成し、当該ガラス材の溶融温度以上に加熱して成膜せしめる耐ハロゲン性ガラス被膜の製造方法。
(7)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の耐ハロゲン性ガラス材を基材の表面に溶射法により成膜せしめる耐ハロゲン性ガラス被膜の製造方法。
(8)前記成膜せしめた後に、その表層を再溶融せしめる上記(6)または(7)に記載の耐ハロゲン性ガラス被膜の製造方法。
【0019】
(9)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の耐ハロゲン性ガラス材を構成部材として備える処理装置。
(10)半導体製造・加工工程におけるCVD装置、又はプラズマエッチング装置である上記(9)に記載の処理装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、半導体製造・加工工程などに用いられるCVD装置、プラズマエッチング装置等の処理装置の構成部材として使用可能であり、特にフッ素系や塩素系の腐食性ハロゲンガス又はハロゲンガスを含むプラズマに対する耐性(耐ハロゲン性)が高く、かつ処理プロセス中に生じるパーティクルの発生を抑制することが可能なガラス材、当該ガラス材の成膜方法、当該ガラス材を用いたガラス被膜の製造方法、更には当該ガラス被膜を備えるプラズマ処理装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】実施例1、2の板状試験片についての紫外・可視光の透過率を示す。
【
図3a】実施例1のガラス被膜の表面の原子間力顕微鏡法による鳥観図を示す。
【
図3b】実施例2のガラス被膜の表面の原子間力顕微鏡法による鳥観図を示す。
【
図3c】比較例3の板状試験片の表面の原子間力顕微鏡法による鳥観図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<ガラス材>
本発明のガラス材は、半導体製造・加工工程に用いられるハロゲンガスを使用するCVD装置や、ハロゲンガスから生成されたプラズマによるドライエッチングを供するプラズマエッチング装置等を構成する部材として好ましく適用されうる。CVD装置を構成する部材としては、ハロゲンガスなど腐食性ガスに晒されるドームチャンバーなどのチャンバ内部材や、覗き窓などの透明部材が挙げられる。また、プラズマエッチング装置を構成する部材としては、プラズマプロセス中にプラズマに晒される部材、例えば、チャンバ内部材、静電チャック等が挙げられる。
【0023】
本発明のガラス材は、Y2O3-Al2O3-SiO2系ガラスのOの一部をFに置換した材料であり、Yを42~52重量%、好ましくは45~52重量%、Alを5~10重量%、好ましくは6~8重量%、Siを7~12重量%、好ましくは7~10重量%、Oを23~30重量%、好ましくは25~28重量%、およびFを7~12重量%、好ましくは8~11重量%を含有するガラス材である。これらのガラス材および当該ガラス材を用いて成膜した被膜は、ハロゲンガスおよびハロゲンガスを含むプラズマに対して高い耐食性を有することが見出された。
【0024】
本発明のガラス材、および当該ガラス材を用いて成膜した被膜は、ハロゲンガスおよびハロゲンガスを含むプラズマに対して高い耐性を備えるが、これは下記の経緯により到達されたものである。
本発明のガラス材料の主たる構成成分であるY2O3は、ハロゲンガスやハロゲンガスを含むプラズマに対して耐性が高い材料の一つとして知られている。しかし、難焼結性で高融点のY2O3を単独で焼結、または溶射法などによって被膜化すると微小な開気孔やクラックが生じ易く、ハロゲンガス、特にハロゲンガスを含むプラズマに晒されると、微小な開気孔やクラックを起点とした選択的腐食が生じて加速的に消耗が進行する。
【0025】
また、セラミック焼結体や被膜の表面を平滑化する方法としては、研磨が挙げられる。セラミックス焼結体やセラミックスのエアロゾルデポジション被膜はダイヤモンドスラリーなどによって研磨することによって、見掛けの表面粗さはRa=0.01μmレベルまで平滑化することが出来る。しかし、これらの材料は、焼結時に生じる気孔や加工を行うことによって生じるマイクロクラックなどの表面欠陥を排除することは出来ない。これらの欠陥は表面がプラズマに暴露された際には、消耗の起点となり、その結果、半導体製品の歩留まり低下の原因となるパーティクルが発生しやすくなる。
【0026】
一方、ガラス材は一般的に溶解法によって製造され、その凝固によって形成される表面は大きなうねりを生じる可能性はあるものの平滑であり、微細な表面欠点は生じにくい。このため、選択的消耗を抑制するためには、気孔や微小クラックの生じにくいガラス材を使用することは極めて有効であると考えられる。
【0027】
上記のように、Y2O3を単独でガラス化することは困難であるが、ガラスネットワーク形成要素であるSiO2をAl2O3とともに添加することによってY2O3-Al2O3-SiO2系ガラスを得ることができる。一方、溶融・凝固させたY2O3-Al2O3-SiO2系ガラスの表面は極めて平滑となり、微小な開気孔やクラックを排することができ、ハロゲンガスやハロゲンガスを含むプラズマに晒されても選択的消耗が生じにくい。しかし、当該ガラス材のマトリックスであるSi-Oの網目状構造のハロゲンガスやハロゲンガスを含むプラズマに対する耐食性は、それほど高くない。そこで、本発明者らは、Si-Oの網目状構造のOの一部をFに置換えることによって、構造変化を引き起こす化学反応を抑制し、ハロゲンガスやハロゲンガスを含むプラズマに対する耐食性を十分に改善できるものと考えた。
【0028】
本発明者らは、Y2O3-Al2O3-SiO2系ガラスのO(酸素原子)の一部をF(フッ素原子)で置換することを試みた。この結果、Yが42~52重量%、好ましくは45~52重量%であり、Alが5~10重量%、好ましくは6~8重量%であり、Siが7~12重量%、好ましくは7~10重量%であり、Oが23~30重量%、好ましくは25~28重量%であり、およびFが7~12重量%、好ましくは8~11重量%の組成範囲において、結晶が晶出しないガラス材が得られることを見出した。また、溶融・凝固させた当該ガラス材のバルク体およびガラス被膜は微小な開気孔やクラックを含まないため、ハロゲンガスやハロゲンガスを含むプラズマによる選択的消耗が生じにくいことを見出した。
このため、これらのガラス材のバルク体またはガラス被膜を、半導体製造に用いるCVD装置の構成部材やプラズマエッチング装置の構成部材として用いると、半導体製品の歩留まり低下の原因となるパーティクルを大きく減じることが可能になることが判明した。
【0029】
<ガラス材の製造方法>
本発明のガラス材の製造方法について説明する。
本発明のガラス材は、金属酸化物と金属フッ化物の粉末を素原料とし、これらを混合し、溶解・凝固させることによって作製することができる。好適な粗原料の組合せとしては、Y2O3、Al2O3、SiO2およびYF3の組合せや、Y2O3、Al2O3、SiO2およびAlF3の組み合わせなどが挙げられる。中でも、Y2O3、Al2O3、SiO2およびYF3の組合せが溶解中の大幅な組成変動を抑制する点で好ましい。本発明のガラス材の製造に好適な粉末原料としては、純度が好ましくは99.5重量%以上、より好ましくは、99.9重量%以上であり、また、粒径の範囲が好ましくは1~500μmであり、より好ましくは、10~200μmである。
【0030】
本発明におけるガラス材の原料粉末の混合は、回転ボールミルやアイリッヒ型ミキサーなどを用いて行うことができ、乾式または湿式のいずれによっても実施することが出来るため、高度な粉砕効果は必要としない。なお、回転ボールミルのように多量のメディアを用いる方法においては、メディアはセラミックス製を用いることが好ましい。
【0031】
上記混合した粉末原料の溶解は、好ましくは、原料を白金または白金合金製の坩堝に充填し、電気炉などによって加熱することで実施できる。溶解した原料からバルク体のガラスを得るには、溶融ガラスを水冷された金属製などの型に流し込み、冷却することにより行うのが好ましい。
ガラス材を被覆用粉末として用いる場合には、溶融ガラスを次のような工程に供するのが好ましい。溶融ガラスを冷却された双ロールの間に流し込み、凝固させると共に粉砕してフレーク状のガラスを得て、その後に得られたフレーク状のガラスを、回転ボールミルなどを用いた粉砕によって、被覆方法に適した粒度の粉末とする。
【0032】
<ガラス被膜の製造方法>
本発明のガラス被膜は、例えば、本発明のガラス材を用いて、以下のようにして、厚みが好ましくは30~300μm、より好ましくは、50~200μmとして製造される。
本発明のガラス材を好ましくは25~105μmの粒径に粉砕し、当該ガラス粉末をメチルセルロース、水溶性フェノール樹脂などの水溶液などによりペースト化し、これを基材の表面にスクリーン印刷などにより塗布する。塗布される基材の表面は、欠けやクラックは少ない方が好ましい。基材の表面は、研削砥石などにより、研磨などの加工を施してあっても良いが、油脂などの汚れは十分に取り除かれているのが好ましい。
【0033】
次いで、基材の表面に被覆されたガラスペーストは十分に乾燥させた後、セラミックス基材を電気炉などに配置し、好ましくはガラス材の溶融温度以上である1300~1450℃で加熱処理することによって、溶融したガラスがセラミック基材の表面全体に広がり、厚みが、好ましくは20~250μm、より好ましくは50~150μmの本発明のガラス被膜を得ることができる。
上記加熱処理における温度が低すぎると、ガラスが十分に広がらず被膜の厚みが不均一となり、高すぎるとガラスの一部が流れ落ち、被膜の厚みが十分とならない。なお、ガラス被膜の算術表面粗さRaは好ましくは1.0nm以下、より好ましくは0.5nm以下であることが好ましい。
【0034】
基材の材質は特に限定されないが、ムライト、アルミナ、安定化ジルコニアなどのセラミックス、白金合金、モリブデンなどの金属、石英ガラス、耐熱結晶化ガラスなどの耐熱ガラスなどの耐熱性強度の高いものが挙げられる。
基材が、上記のような耐熱性強度の高い場合でも、また、本発明のガラス材の溶融する温度に対して十分な耐熱性を有しない場合でも、本発明のガラス材の上記した粉末原料として、好ましくは溶射法による基材の表面に本発明のガラス被膜を得ることができる。かかる溶射法としては、プラズマ溶射法、フレーム溶射法などの既知の方法が使用できる。
また、上記で基材の表面に形成されたガラス被膜が連続した平滑な表面になりにくい場合には、レーザービームなどの高エネルギービームを被膜に照射するなどして、表層を再溶融させるのが好ましい。かかる高エネルギービームによる被膜の表層の再溶融処理は、ガラス被膜が当該波長の光を吸収することによって発熱することによって行われる。
【0035】
<ガラス材、およびガラス被膜の使用>
本発明のガラス材、およびそれから得られるガラス被膜は、ハロゲンガスやハロゲン元素を含むプラズマに対して高い耐性を有する。このため、本発明のガラス材およびそれから得られるガラス被膜は、半導体製造・加工工程におけるCVD装置やプラズマエッチング装置などの処理装置などの部材として好適に適用される。例えば、プラズマエッチング装置において、プラズマプロセス中にプラズマに晒される部材である、例えば、エッチングチャンバ内部材、静電チャック材に使用される。
【実施例0036】
以下、実施例によって本発明について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
表4に示すガラス組成となるように、各原料粉末を秤量し、混合した。原料には平均粒径(D50)が約3μmのY2O3粉末(純度99.9%)、平均粒径(D50)が約1μmのYF3粉末(純度99.9%)、平均粒径(D50)が約2μmのAl2O3粉末(純度99.9%)および平均粒径(D50)が約4μmのSiO2粉末(純度99.9%)を用いた。混合は乾式で行い、混合機としてV型ミキサーを用いた。次に、作製した混合粉末を、10%ロジウム-白金合金製のるつぼに充填し、ガラス溶解用電気炉により、大気中で1350℃に1時間加熱した。
【0038】
バルク体のガラスを、溶融状態のガラスをカーボン型に流し出して冷却することによって作製し、ダイヤモンドカッターを用いて、(縦)20mm×(横)20mm×(厚み)3mmの板状試験片に切出した。この試験片の20mm×20mmの一面を算術平均粗さRa=0.01μmとなるように研磨し、当該面が暴露面となるように
図1に示したプラズマエッチング装置に設置してプラズマ暴露試験に供した。プラズマ暴露試験は表2に示した条件で実施し、その結果を表4に示す。かかる表4と表2との比較から、このガラス材の耐プラズマ性は、既存のガラス材よりも高いことがわかった。
【0039】
また、両面をRa=0.01μmとなるように研磨した20mm×20mm×3mmの板状試験片に対して、波長250~2500nmの紫外・可視光を用いて透過率を測定した結果、
図2の結果を得た。なお、測定には紫外可視光分光高度計(日本分光社製V-670型)を用いた。透過率は、波長400nm~2500nmの範囲では80%を超えており、覗き窓などのガラスとして使用できる値であった。
【0040】
さらに、ガラス粉末を得るために、溶融ガラスを水冷された金属製双ロールに流し出し、ガラスフレークを作製した。次いで、このガラスフレークを回転ボールミルにより粉砕した後、篩分けして25μm~75μmの粒径範囲の被覆用粉末を得た。粉砕は蒸留水を用いた湿式で、純度99.9%のアルミナ製の粉砕ポットおよびボールを用いた。
この被覆用粉末を2%メチルセルロース水溶液と混合して、純度99.95%、開気孔率0.05%の板状アルミナ焼結体(30mm×30mm×3mm)の鏡面研磨された表面(Ra=0.01μm)にスクリーン印刷法により塗布した。塗布試験片を十分に乾燥させた後、電気炉内で1300℃に10分間加熱すると、表面がほぼ均一な厚みが80μmのガラス被膜が得られた。
【0041】
このガラス被膜の中心部を、原子間力顕微鏡法(Atomic Force Microscopy:AFM)によって測定すると、算術平均粗さRaは0.11nmであった。なお、Al
2O
3焼結体の基板をHIP処理し、可能な限り研磨したときの算術平均粗さRaは1.14nmであり、本実施例のガラス被膜の表面粗さは、これに対してはるかに小さな値となった。本実施例のコーティング層の表面状態を原子間力顕微鏡法により測定して得られた鳥観図を
図3(a)に示す。
【0042】
(実施例2)
表4に示すガラス組成となるように調整した以外は実施例1と同じの粉末原料、装置、方法を使用することにより、実施例2の板状試験片、被覆用ガラス粉末、およびガラス被膜を作製した。また、得られた板状試験片、被覆用ガラス粉末、および、ガラス被膜を用いて、実施例1と同様の評価・測定を行った。
プラズマ暴露試験による板状試験片の消耗比を表4に、板状試験片に対して紫外可視光透過率測定を行った結果を
図2に、ガラス被膜の表面状態を原子間力顕微鏡法により測定して得られた鳥観図を
図3(b)に各々示した。このガラス被膜の中心部をAFMによって測定すると、算術平均粗さRaは0.20nmであった。当該ガラスはガラス中に微小な結晶が晶出する組成であって失透するため透過率は低かったが、耐プラズマ性、表面粗さ、厚みは実施例1のガラス被膜と同程度であった。
【0043】
(実施例3~5)および(比較例1)
表4に示すガラス組成となるように調整した以外は実施例1と同一の粉末原料、装置、方法を使用することにより、実施例3~5および比較例1の板状ガラス試験片、被覆用ガラス粉末、および、ガラス被膜を作製した。また、得られた板状試験片、ガラス粉末、および、ガラス被膜を用いて、実施例1と同様の評価・測定を行った。
プラズマ暴露試験による板状試験片の消耗比を表4に示した。実施例3~5の板状ガラス試験片は、実施例1および2と同等の耐プラズマ性を示した。一方、比較例1の板状ガラス試験片は、実施例1~5と同等の耐プラズマ性を示さなかった。
【0044】
(比較例2、3)
比較例2および3として、セラミック焼結体の板状試験片を用意した。各々の組成は、表4に示したとおりである。比較例2の試験片は1250℃および1700℃における二段焼結を行ったY2O3の緻密質セラミックス焼結体(開気孔率は0.2%)であり、比較例3の試験片は市販の緻密質Al2O3焼結体(純度:99.9%、吸水率:0%)である。
【0045】
これら板状試験片に対し実施例1と同一条件でプラズマ暴露試験を行ったところ、消耗比は表4に示す通りであった。表4の結果から、実施例1~5のガラス材は、結晶粒子間のプラズマ腐食に起因するパーティクルの発生を抑制するというガラス材の優位性を有しながら、既存の焼結体と同等程度以上の消耗比を示すことが分かる。また、実施例1と同様の方法にて測定した比較例3の板状試験片の表面状態を原子間力顕微鏡法により測定して得られた鳥観図を
図3cに示す。この板状試験片の中心部をAFMによって測定すると、算術平均粗さRaは1.14nmであった。このことから、比較例3の板状試験片の表面粗さは、実施例1および実施例2のガラス被膜に比べて大きいことが分かる。
【0046】
本発明のガラス材は、半導体製造・加工工程におけるCVD装置やプラズマエッチング装置などの処理装置をはじめとする半導体分野などの幅広い装置において有効である。