IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノンマシナリー株式会社の特許一覧

特開2023-97893ピックアップ装置およびピックアップ方法
<>
  • 特開-ピックアップ装置およびピックアップ方法 図1
  • 特開-ピックアップ装置およびピックアップ方法 図2
  • 特開-ピックアップ装置およびピックアップ方法 図3
  • 特開-ピックアップ装置およびピックアップ方法 図4
  • 特開-ピックアップ装置およびピックアップ方法 図5
  • 特開-ピックアップ装置およびピックアップ方法 図6
  • 特開-ピックアップ装置およびピックアップ方法 図7
  • 特開-ピックアップ装置およびピックアップ方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097893
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ピックアップ装置およびピックアップ方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
H01L21/52 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214265
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000110859
【氏名又は名称】キヤノンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100148987
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 礼子
(72)【発明者】
【氏名】永元 信裕
【テーマコード(参考)】
5F047
【Fターム(参考)】
5F047FA02
5F047FA04
5F047FA08
(57)【要約】
【課題】チップにダメージを与えることなく、迅速にチップをピックアップすることができ、しかも、ピックアップすべきチップの周辺のチップを変形させないピックアップ装置およびピックアップ方法を提供する。
【解決手段】複数の正方形乃至矩形のチップが貼り付けられた粘着シート体から前記チップをピックアップするものである。ステージ上に粘着シート体を受けている状態で、チップ対応面に凹窪部を有するコレットを、ピックアップすべきチップを前記凹窪部にて覆うようにステージに接近させる。その状態で、凹窪部を負圧状態として、チップ乃至粘着シート体のチップ対応部を、前記コレット側が凸状となるように変形させる。凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引する。これによって、チップ全体を粘着シート体から剥離する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の正方形乃至矩形のチップが貼り付けられた粘着シート体から前記チップをピックアップするものであり、前記粘着シート体を受けるステージと、このステージに付設されて粘着シート体上のチップを吸着するコレットとを備えたピックアップ装置であって、
ピックアップすべきチップの上方側において、前記コレットのチップ対応面の凹窪部およびチップが貼り付けられた粘着シート体にて形成される密封空間を負圧状態として、前記チップ乃至粘着シート体のチップ対応部を、前記コレット側が凸状となる変形を行う負圧供給手段と、
前記負圧供給手段による負圧供給状態で密封空間内において、前記凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引する吸引手段とを備えたことを特徴とするピックアップ装置。
【請求項2】
前記コレットのチップ対応面に、外形寸法がチップの外形寸法よりも大きい前記凹窪部を設けて、ピックアップすべきチップを前記凹窪部にて覆うようにして前記密封空間を形成することを特徴とする請求項1に記載のピックアップ装置。
【請求項3】
凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引している状態で、凸状となっている粘着シート体のチップ対応部の凸部外を正圧として、チップの凸状を解消させて平板形状に戻す正圧供給手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のピックアップ装置。
【請求項4】
凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引している状態で、チップの凸状を解消させて平板形状に戻す押上部材を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のピックアップ装置。
【請求項5】
押上部材は、チップの4隅をそれぞれ押上げるピン部材であることを特徴とする請求項4に記載のピックアップ装置。
【請求項6】
複数の正方形乃至矩形のチップが貼り付けられた粘着シート体から前記チップをピックアップするピックアップ方法であって、
ステージ上に前記粘着シート体を受けている状態で、チップ対応面に凹窪部を有するコレットを、ピックアップすべきチップを前記凹窪部にて覆うようにステージに接近させ、その状態で、前記凹窪部を負圧状態として、前記チップ乃至粘着シート体のチップ対応部を、前記コレット側が凸状となるように変形させて、凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引することによって、前記チップ全体を粘着シート体から剥離すること特徴とするピックアップ方法。
【請求項7】
凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引している状態で、凸状となっている粘着シート体のチップ対応部の凸部外を正圧として、チップの凸状を解消させて平板形状に戻すことにより前記チップを粘着シート体から剥離することを特徴とする請求項6に記載のピックアップ方法。
【請求項8】
凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引している状態で、押上部材の押し上げにて、チップの凸状を解消させて平板形状に戻すことにより前記チップを粘着シート体から剥離することを特徴とする請求項6に記載のピックアップ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体装置の製造工程において、ダイシングされた半導体チップ(以下、単にチップという。)を粘着シート体からピックアップする必要がある。従来のピックアップ装置として、特許文献1や特許文献2等がある。
【0002】
特許文献1に記載のピックアップ装置は、図6に示すように、ピックアップするチップ1の中央部下部に配置される凹部3を形成するとともに、この凹部3の底からこの凹部3内に針(ピン)4を突入させるものである。
【0003】
この場合、粘着シート体2は、ウエハ保持台(図示省略)に保持されたものであり、凹部3内を負圧状態とする。これによって、図7(a)に示すように、ピックアップするチップ1の中央部下部の粘着シート体2が凹部3内に吸引され、凹部3の底面に吸着された状態となる。チップ1はコレット5にて上方から吸着されており、凹部3内には吸引されない。このため、チップ1の中央部に対応する粘着シート体2がチップ1から剥離することになる。また、粘着シート体2が凹部3内に吸引される際には、ピン4にて、突き破られる。
【0004】
そのため、図7(b)に示すように、チップ1の中央部下方に中空室6が形成される。その後、チップ1の中央部下方に形成された中空室6に正圧を付加するとともに、図7(c)に示すように、チップ1を吸着しているコレット5を上昇させることによって、チップ1を粘着シート体2から剥離することができる。
【0005】
特許文献3に記載のピックアップ装置は、図8に示すように、突き上げユニット10と、コレット部11とを備えたものである。突き上げユニット10は、突き上げブロック部12と、突き上げブロック部12を取り囲む周辺部13とを有するものであり、突き上げブロック部12は、第1ブロック14と、第1ブロック14の内側に位置する第2ブロック15とを有するものである。また、周辺部13は複数の吸引孔を有する。
【0006】
コレット部11は、吸着部17と、吸着部17を保持する中央部18と、中央部18の外側に位置する外周部19と、この外周部19の上方に位置するベローズ(蛇腹)20とを備える。
【0007】
次に、図8に示すピックアップ装置を用いて、粘着シート体2に粘着されているチップ1をピックアップする方法を説明する。まず、図8(a)に示すように、粘着シート体2を突き上げユニット10上に配置する。この場合、周辺部13の吸引孔を介して粘着シート体2が吸引され、突き上げユニット10上に載置されている状態とする。この状態で、コレット部11を下降させて、吸着部17にてチップ1を吸着する状態とする。
【0008】
その後、突き上げユニット10の突き上げブロック部12の第1ブロック14及び第2ブロック15を上昇させる。この際、図8(b)に示すように、粘着シート体2は周辺部13に吸着されており、チップ1の周辺部で剥離が生じる。なお、第2ブロック15の上昇量を第1ブロック14の上昇量より多くする。
【0009】
この場合、チップ1の周辺部は、下側への応力を受け、湾曲する。このため、コレット下面とチップ1との間に隙間ができ、空気がコレット部11内に流入する(リークが発生する)。しかしながら、コレット部内がいわゆる真空切れを起こすが、ベローズ20の復元力によって、図8(c)に示すように、コレット部11の外周部が押し下げられ、リークが収まる。
【0010】
その後、コレット部11を上昇させることにより、図8(d)に示すように、チップ1が粘着シート体2から剥離する。その後は、リークが収まっているのでコレット部11が真空状態となり、ベローズ20が上方に狭まり、外周部が引き上げられ、図8(e)に示すように、チップ1の外周部も平坦状に戻ることになって、チップ1をピックアップすることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2021-136265号公報
【特許文献2】特許第6643197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載のものでは、チップ1の下面中央部側に設けられる凹部3に、粘着シート体2を吸引することになるが、この場合、チップ1が粘着シート体2とともに、凹部3へ吸引されるおそれがある。このように、チップ1が凹部3内へ吸引されれば、凹部3内に突出しているピンによって、チップ1がダメージを受けることになる。
【0013】
しかも、チップ1を粘着シート体2から剥離する場合、特許文献1に記載のものでは、まず、図7(a)に示すように、チップ1の中央部を剥離し、その状態から全体を剥離することになる。しかしながら、端部を起点に剥離していく場合と相違して、中央部から剥離する場合では、大きな剥離力を必要とする。このため、チップ1を損傷させたり、変形させたりするおそれもあった。
【0014】
特許文献2に記載のものでは、コレット部11が、吸着部17と、吸着部17を保持する中央部18と、中央部18の外側に位置する外周部19と、この外周部19の上方に位置するベローズ(蛇腹)20とを備えるものであり、部品点数が多く、生産性に劣ることになる。また、突き上げユニット10の突き上げスピード、コレット部11の押え込み量、ピックアップ荷重等のパラメータ変更にベローズ機能を追従させにくく、安定したピックアップ動作ができない場合がある。
【0015】
しかも、特許文献2に記載のものでは、チップ1が突き上げユニット10にて突き上げられることによって、チップ1の外周部が湾曲乃至折り曲げられる。しかも、図8(c)に示すように、ベローズ20にてコレット部11の外周部が下降して、この湾曲乃至折り曲げが促進される場合がある。このように、チップ1の外周部が湾曲乃至折り曲げられれば、チップ1が損傷したり、曲がり癖がついたりするおそれがあった。また、ピックアップすべきチップ1を突き上げることによって、このチップの周辺のチップも持ち上げられ、周辺のチップ1を変形させるおそれもあった。
【0016】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、チップにダメージを与えることなく、迅速にチップをピックアップすることができ、しかも、ピックアップすべきチップの周辺のチップを変形させないピックアップ装置およびピックアップ方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のピックアップ装置は、複数の正方形乃至矩形のチップが貼り付けられた粘着シート体から前記チップをピックアップするものであり、前記粘着シート体を受けるステージと、このステージに付設されて粘着シート体上のチップを吸着するコレットとを備えたピックアップ装置であって、ピックアップすべきチップの上方側において、前記コレットのチップ対応面の凹窪部およびチップが貼り付けられた粘着シート体にて形成される密封空間を負圧状態として、前記チップ乃至粘着シート体のチップ対応部を、前記コレット側が凸状となる変形を行う負圧供給手段と、前記負圧供給手段による負圧供給状態で密封空間内において、前記凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引する吸引手段とを備えたものである。
【0018】
本発明のピックアップ装置によれば、負圧供給手段による負圧供給状態で、チップ乃至粘着シート体のチップ対応部を、前記コレット側が凸状となる変形を行うことができる。これによって、少なくとも、チップの外周部のみ、粘着シート体から剥離することができる。すなわち、チップは、コレット側に吸引されており、しかも、粘着シート体よりもチップが剛性大であるため、粘着シート体の凸状の曲率半径がチップの凸状の曲率半径よりも小となってチップの外周側で粘着シート体の剥離が発生する。この場合、チップ全体が湾曲するものであり、外周部のみが湾曲する場合を比較して、チップのダメージを少なくすることができる。
【0019】
また、凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を吸引手段にて反チップ側へ吸引することができる。これにより、チップから粘着シート体のチップ対応部を引き離す力が作用し、外周部を起点として、チップ全体が粘着シート体から剥離することになる。
【0020】
このため、初期段階において、ピックアップしようとするチップに対して、少なくとも外周部を粘着シート体から剥離することができ、その状態から、さらに粘着シート体を反チップ側へ引っ張ることができて、チップから粘着シート体を剥離することができる。しかも、ピックアップしようとするチップを持ち上げることがないので、周辺部のチップは持ち上がらない。
【0021】
前記コレットのチップ対応面に、外形寸法がチップの外形寸法よりも大きい前記凹窪部を設けて、ピックアップすべきチップを前記凹窪部にて覆うようにして密封空間を形成するのが好ましい。このように設定することによって、チップが凹窪部に吸引された際に、チップが凹窪部からはみ出さず、安定して、チップ乃至粘着シート体のチップ対応部を凸状形状にすることができ、剥離動作が安定する。
【0022】
凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引している状態で、凸状となっている粘着シート体のチップ対応部の凸部外を正圧として、チップの凸状を解消させて平板形状に戻す正圧供給手段を備えたものが好ましい。このように正圧をかけることにより、チップの外周側をコレット側に押圧する力が生じ、チップを平板状として、凹窪部の底面にその平板状となったチップが吸着することになるとともに、粘着シート体がステージ側に吸着することになって、剥離作業が促進される。なお、コレットが凹窪形状(凹窪部を有する形状)になっており、コレット周辺部(外形側)がピックアップすべきチップの周辺チップを押さえることができる。このため、チップを平板状に戻す正圧をかけてもその正圧が周辺チップ側へ漏れることがなく、チップを平板状に戻す動作を促進することができる。
【0023】
凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引している状態で、チップの凸状を解消させて平板形状に戻す押上部材を備えたものであってもよい。このように、押上部材を備えたものであっても、チップを平板状として、凹窪部の底面にその平板状となったチップが吸着することになるとともに、粘着シート体がステージ側に吸着することになる。すなわち、剥離作業が促進される。
【0024】
押上部材は、チップの4隅をそれぞれ押上げるピン部材であるのが好ましい。このようなピン部材を用いれば、より安定してチップを平板状とすることができる。
【0025】
本発明のピックアップ方法は、複数の正方形乃至矩形のチップが貼り付けられた粘着シート体から前記チップをピックアップするピックアップ方法であって、ステージ上に前記粘着シート体を受けている状態で、チップ対応面に凹窪部を有するコレットを、ピックアップすべきチップを前記凹窪部にて覆うようにステージに接近させ、その状態で、前記凹窪部を負圧状態として、前記チップ乃至粘着シート体のチップ対応部を、前記コレット側が凸状となるように変形させて、凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引することによって、前記チップ全体を粘着シート体から剥離するものである。
【0026】
本発明のピックアップ方法によれば、凹窪部内を負圧状態とすることにより、チップ乃至粘着シート体のチップ対応部を、コレット側が凸状となる変形を行うことができる。これによって、チップの外周部のみ、粘着シート体を剥離することができる。この場合、チップ全体が湾曲するものであり、外周部のみが湾曲する場合と比較して、チップのダメージを少なくすることができる。
【0027】
また、凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引することによって、チップから粘着シート体のチップ対応部を引き離す力が作用し、チップが粘着シート体から剥離することができる。
【0028】
凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引している状態で、凸状となっている粘着シート体のチップ対応部の凸部外を正圧として、チップの凸状を解消させて平板形状に戻すことにより前記チップを粘着シート体から剥離するようにしてもよい。また、凸状となっている粘着シート体のチップ対応部を反チップ側へ吸引している状態で、押上部材の押し上げにて、チップの凸状を解消させて平板形状に戻すことにより前記チップを粘着シート体から剥離するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、チップ全体が湾曲するものであって、外周部のみが湾曲する場合と比較して、チップのダメージを少なくすることができ、しかも、まず、チップの外周部が剥離されるものであるので、チップ全体の剥離を安定してしかも迅速に行うことができる。また、ピックアップすべきチップのみをコレットにて吸引し、しかも、このチップを粘着シート体から剥離する間は、ステージを上昇させないで済み、ピックアップすべきチップの周辺のチップを変形させない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明のピックアップ装置のステージとコレットを示す簡略断面図である。
図2】本発明のピックアップ装置を用いたピックアップ方法を示し、(a)は粘着シート体がステージ上に配置された状態で、コレットがタッチダウンした状態を示す簡略断面図であり、(b)はチップ乃至粘着シート体のチップ対応部が凸状となる変形状態の簡略断面図であり、(c)はチップが平板形状に戻っている状態の簡略断面図であり、(d)はチップが粘着シート体から剥離した状態の簡略断面図である。
図3】本発明のピックアップ装置の簡略ブロック図である。
図4】本発明のピックアップ方法の工程図である。
図5】押上部材にてチップを受けた状態で、凸状となっている粘着シート体を反チップ側へ吸引している状態で押上部材を下降させている状態のステージの簡略図である。
図6】従来のピックアップ装置の要部簡略図である。
図7図6に示したピックアップ装置を用いたピックアップ方法を示し、(a)は粘着シート体を凹部に吸引した状態の要部簡略図であり、(b)は凹部に吸引された吸着シート体の凹部に正圧を付与している状態の要部簡略図であり、(c)はコレットを上昇させて粘着シート体からチップを剥離した状態の簡略断面図である。
図8】従来の他のピックアップ装置を示し、(a)はピックアップすべきチップにコレットをタッチダウンさせた状態の簡略断面図であり、(b)は突き上げユニットを上昇させた状態の簡略断面図であり、(c)はベローズによりコレット部の外周部が下降した状態の簡略断面図であり、(d)はコレット部を上昇させて粘着シート体からチップを剥離した状態の簡略断面図であり、(e)はチップを平板状に戻した状態の簡略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下本発明の実施の形態を図1図5に基づいて説明する。
【0032】
図1に本発明のピックアップ装置を示す。このピックアップ装置は、複数の正方形乃至矩形のチップ30が貼り付けられた粘着シート体31からチップ30をピックアップするものであり、粘着シート体31を受けるステージ32と、このステージ32に付設されて粘着シート体31上のチップ30を吸着するコレット33とを備える。
【0033】
チップ30はウエハを素材とし、この素材を正方形や短冊状(矩形)に切断することによって最終製品となる。このため、チップ30には正方形や短冊状(矩形)のものある。すなわち、ウエハ全体として円形であり、ダイシングにより個々のチップ30に分割され、複数のチップ30が粘着シート体31に貼り付けられている。
【0034】
このピックアップ装置は、ステージ32は、複数個の吸引孔35と、上下動可能な押上部材36としてのピン部材37とを備えたものである。また、各吸引孔35には、図示省略の負圧発生器が接続され、この吸引孔35と負圧発生器とで、後述する負圧供給手段(吸引手段)40(図3参照)を構成する。この真空発生器の駆動にて吸引孔35のエアが吸引される。真空発生器としては、真空ポンプを用いるものであっても、高圧空気を開閉制御してノズルよりディフューザに放出して拡散室に負圧を発生させるエジェクタ方式のものであってもよい。
【0035】
ところで、ピン部材37は、中空体にて構成され、正圧供給手段41が接続されている。ここで、正圧供給手段41は図示省略の正圧ポンプ等からなる。また、このピン部材37の先端は先細部37aになっている。
【0036】
この実施形態ではピン部材37としては、チップ30の4つの隅部に対応して配設している。この場合、ピン部材37は、図示省略の上下動機構にて上下動を可能として、ステージ32に設けられた挿通孔42に挿入されている。上下動機構としては、シリンダ機構、ボールねじ機構、ピニオン・ラック機構、及びリニアガイド機構等の種々の公知・公用の往復動機構を用いる。なお、挿通孔42としては、この実施形態では、吸引孔35を用いることができる。この場合、この挿通孔42の孔径としては、ピン部材37の外径よりも大きく設定することにより、ピン部材37が挿入されている挿通孔42を介して粘着シート体31をステージ側に吸引することができる。また、ピン部材37が挿入されている挿通孔42の孔径とピン部材37の外径とを同一径として、挿通孔42から粘着シート体31をステージ側に吸引することができないものであってもよい。ここで、同一径とは、寸法公差内に収まる範囲を含み、ピン部材37がこの吸引孔35(挿通孔42)内を上下動できるものであればよい。
【0037】
コレット33は、弾性変形可能なゴムや樹脂製の矩形平板形状体からなり、金属等の剛体からなるコレットホルダ45に装着されている。なお、コレットホルダ45は、コレット受け45bと、コレット受け45bから立設される軸部材45aを有し、この軸部材45aに図示省略の揺動アームが連結される。
【0038】
コレット33の下面つまりチップ対応面33aに凹窪部46が設けられ、この凹窪部46の底面に、コレットホルダ45乃至コレット30に連通された吸引孔47が開口している。また、吸引孔47は、コレットホルダ及び揺動アームを介して負圧供給手段48が接続されている。ここで、負圧供給手段48は、図外の真空発生器等で構成される。この真空発生器の駆動にて吸着孔のエアが吸引される。真空発生器としては、吸引手段40と同様、真空ポンプ等で構成される。
【0039】
また、この凹窪部46の外形寸法は、チップ30の外形寸法よりも大きく設定される。さらには、凹窪部46の深さ寸法としては、チップ30の肉厚の2倍程度が好ましい。ところで、コレット33の外形寸法として、図2(a)に示すように、ピックアップすべきチップ30上方からコレット33が下降して、凹窪部46に対応するように、いわゆるタッチダウンさせた状態で、コレット33のチップ対応面(下面)33aの外周部で、ピックアップすべきチップ30の周辺のチップ30を押さえることができる。これによって、この凹窪部46が密封空間Sとなる。
【0040】
ところで、周辺のいずれかのチップ30が無い場合(例えば、すでにピックアップ済等の場合)も生じる。このような場合であっても、コレット33が弾性変形可能であるので、生じている段差に応じて変形し、凹窪部46を密封空間Sとすることができる。
【0041】
コレット33を保持している揺動アームは、駆動機構を介してX、Y、Z及びθ方向に駆動することができる。この場合、駆動機構としては、ロボットアーム機構やXYZθ軸ステージ等で構成できる。このため、この駆動機構による揺動アームの駆動によって、コレット33にて、ステージ32上の粘着シート体31に貼り付けられたチップ30をピックアップし、そのピックアップしたチップ30を中間ステージ等の他のステージに供給することができる。なお、本ピックアップ装置でチップ30をピックアップすれば、図2(d)に示すように、チップ30が凹窪部46の底に吸着された状態となって、コレット33のチップ対応面33aよりもチップ30が後退した状態となっている。このため、このチップ30を供給する中間ステージ等の被供給部位が凸状となっているのが好ましい。なお、チップ30のコレット33のチップ対応面33aからの後退量が僅かであれば、中間ステージ等の被供給部位が凸状となっていなくても対応可能である。
【0042】
ところで、図例のコレット33は、弾性変形可能なゴムや樹脂製の一体構造のものであったが、図8に示す従来のコレットと同様、外周部と内周部等を備えた複数の部材で構成してもよい。このような場合、ピックアップ中は外周部を下降させ、ボンディング中は外周部を上昇させるように構成すれば、被供給部位が凸状となっているものに対して、チップを供給することができる。
【0043】
次に、前記のように構成されたピックアップ装置にてチップ30をピックアップする方法を説明する。この場合、図4に示すように、粘着シート体セット工程S1と、コレット下降工程S2と、負圧供給工程S3と、押上げ工程S4と、吸引工程S5と、コレット上昇工程S6等を備える。
【0044】
すなわち、粘着シート体セット工程S1とは、図2(a)に示すように、ステージ32上に、粘着シート体31をセットして、吸引手段40を介して、吸引孔36から粘着シート体31を吸引して、粘着シート体31をステージ32上に吸着している状態とする。その後、コレット下降工程S2を行って、ピックアップすべきチップ30上方からコレット33が下降して、凹窪部46に対応するように、いわゆるタッチダウンさせる。この状態では、コレット33のチップ対応面(下面)33aの外周部で、ピックアップすべきチップ30の周辺のチップ30を押さえることができ、これによって、この凹窪部46を密封空間Sとする。
【0045】
その後は、負圧供給工程S3を行って密封空間Sを負圧空間とする。すなわち、負圧供給手段40を駆動させて、吸引孔47を介して、密封空間Sにおいて、ピックアップすべきチップ30の上方側のエアをこの密封空間Sから抜いていく。これによって、チップ30の上面中央部が凹窪部46の吸引孔47側に吸引され、図2(b)に示すように、チップ30乃至粘着シート体31のチップ対応部を、コレット側が凸状となる変形を行う。
【0046】
次に、ピン部材37を上昇させて、粘着シート体31を突き破るとともに、このピン部材37の中空孔から正圧供給手段41を介して正圧を供給する。これによって、チップ30の4つの隅部が、矢印にように押し上げられ、図2(c)に示すように、凸状となっていたチップ30が、元の平板状に復帰する。
【0047】
その後、ピン部材37でチップ30を受けた状態で、ピン部材37からの正圧の供給を停止して、吸引工程S5を行う。なお、図2(a)~図2(b)の工程中は、凹窪部46に対応する吸引孔35からのエアの吸引を停止しておくのが好ましい。これに対して、凹窪部46に対応する吸引孔35以外の吸引孔35からはエアの吸引を行っているのが好ましい。
【0048】
このように、ピン部材37からの正圧の供給を停止して、吸引工程S5を行えば凸状となっている粘着シート体31のチップ対応部を反コレット側へ吸引する。これによって、図2(d)に示すように、この粘着シート体31のチップ対応部は、平面状に戻ることになって、チップ30が粘着シート体31から剥離する。その後は、コレット33を上昇させる上昇工程S6を行えば、ピックアップ動作が終了する。
【0049】
ところで、図2(c)に示すように、チップ30を平板状に戻す際に、ピン部材37を介して正圧をチップ30に負荷したり、ピン部材37による押上にて、コレット33がステージから浮き上がらないように、ピックアップ荷重(コレットによる粘着シート体31への押圧力)を制御する必要がある。また、図2(c)に示すように、チップ30を平板状に戻した後、負圧をかける際に、図5の矢印で示すように、ピン部材37を下降させてもよい。
【0050】
ところで、このピックアップ装置のコレット33の動作(揺動アームの動作)、コレット33の吸引・吸引解除動作、ステージ32の吸引・吸引解除動作、ピン部材37の上下動動作、ピン部材37を介した正圧供給・正圧非供給動作等は、コンピュータにて制御される。
【0051】
ところで、コンピュータは、基本的には、入力機能を備えた入力手段と、出力機能を備えた出力手段と、記憶機能を備えた記憶手段と、演算機能を備えた演算手段と、制御機能を備えた制御手段にて構成される。入力機能は、外部からの情報を、コンピュータに読み取るためのものであって、読み込まれたデータやプログラムは、コンピュータシステムに適した形式の信号に変換される。出力機能は、演算結果や保存されているデータなどを外部に表示するものである。記憶手段は、プログラムやデータ、処理結果などを記憶して保存するものである。演算機能は、データをプログラムの命令に随って、計算や比較して処理するものである。制御機能は、プログラムの命令を解読し、各手段に指示を出すものであり、この制御機能はコンピュータの全手段の統括をする。
【0052】
入力手段には、キーボード、マウス、タブレット、マイク、ジョイスティック、スキャナ、キャプチャーボード等がある。また、出力手段には、モニタ、スピーカー、プリンタ等がある。記憶手段には、メモリ、ハードディスク、CD・CD-R,PD・MO等がある。演算手段には、CPU等があり、制御手段には、CPUやマザーボード等がある。
【0053】
本発明のピックアップ装置によれば、負圧供給手段40による負圧供給状態で、チップ30乃至粘着シート体31のチップ対応部を、コレット側が凸状となる変形を行うことができる。これによって、少なくともチップ30の外周部のみ、粘着シート体31から剥離することができる。すなわち、チップ30は、コレット側に吸引されており、しかも、粘着シート体31よりもチップ30が剛性大であるため、粘着シート体31の凸状の曲率半径がチップ30の凸状の曲率半径よりも小となってチップ30の外周側で粘着シート体31の剥離が発生する。この場合、チップ全体が湾曲するものであり、外周部のみが湾曲する場合を比較して、チップ30のダメージを少なくすることができる。
【0054】
また、凸状となっている粘着シート体31のチップ対応部を吸引手段40にて反チップ側へ吸引することができる。これにより、チップ30から粘着シート体31のチップ対応部を引き離す力が作用し、外周部を起点として、チップ全体が粘着シート体31から剥離することになる。
【0055】
従って、本発明では、チップ全体が湾曲するものであって、外周部のみが湾曲する場合と比較して、チップ30のダメージを少なくすることができ、しかも、まず、チップ30の外周部が剥離されるものであるので、チップ全体の剥離を安定してしかも迅速に行うことができる。また、ピックアップすべきチップ30のみをコレット33にて吸引し、しかも、このチップ30を粘着シート体31から剥離する間は、ステージ32を上昇させないで済み、ピックアップすべきチップ30の周辺のチップ30を変形させない。
【0056】
コレット33のチップ対応面に、外形寸法がチップ30の外形寸法よりも大きい凹窪部46を設けて、ピックアップすべきチップ30を凹窪部46にて覆うようにして密封空間Sを形成するのが好ましい。このように設定することによって、チップ30が凹窪部に吸引された際に、チップ30が凹窪部46からはみ出さず、安定して、チップ30乃至粘着シート体31のチップ対応部を凸状形状にすることができ、剥離動作が安定する。
【0057】
凸状となっている粘着シート体31のチップ対応部を反チップ側へ吸引している状態で、凸状となっている粘着シート体31のチップ対応部の凸部外を正圧として、チップ30の凸状を解消させて平板形状に戻す正圧供給手段41を備えたものが好ましい。このように正圧をかけることにより、チップ30の外周側をコレット側に押圧する力が生じ、チップ30を平板状として、凹窪部46の底面にその平板状となったチップ30が吸着することになるとともに、粘着シート体31がステージ側に吸着することになって、剥離作業が促進される。なお、コレット33が凹窪形状(凹窪部46を有する形状)になっており、コレット周辺部(外形側)がピックアップすべきチップ30の周辺チップ30を押さえることができる。このため、チップ30を平板状に戻す正圧をかけてもその正圧が周辺チップ30側へ漏れることがなく、チップ30を平板状に戻す動作を促進することができる。
【0058】
凸状となっている粘着シート体31のチップ対応部を反チップ側へ吸引している状態で、チップ30の凸状を解消させて平板形状に戻す押上部材36を備えたものであっても、チップ30を平板状として、凹窪部46の底面にその平板状となったチップ30が吸着することになるとともに、粘着シート体31がステージ側に吸着することになる。すなわち、剥離作業が促進される。
【0059】
押上部材36は、チップ30の4隅をそれぞれ押上げるピン部材37であるのが好ましい。このようなピン部材37を用いれば、より安定してチップ30を平板状とすることができる。
【0060】
本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、押上部材36として、ピン部材37に限るものでなく、ブロックで構成してもよい。また、ブロックで構成する場合、複数のブロックを備えたものであってもよい。ブロックで構成する場合、チップ乃至粘着シート体のチップ対応部を、コレット側が凸状となる形状に合わせて、外周側が順次低くなるようにすればよい。また、ピン部材37を用いる場合、チップ30の4隅に配設されるのが好ましいが、このように、4隅に配設されないものであってもよい。
【0061】
ピン部材37として、中空体で構成することなく、中実体で構成してもよい。しかしながら、ピン部材37を中実体で構成した場合、ピン部材37を介して正圧を供給することができない。そのため、押上部材36が中空体でない場合では、チップ30を押し上げ保持して剥離を補助する機能のみを発揮する。また、押上部材36を中空体としない場合、他の部材を介して正圧を供給するようにしても、装置として、正圧を供給しない構成にしたりしてもよい。また、ピン部材37が、中空体であっても、中実体であっても、外形として、円形のものに限らず、角形状のものであってもよい。さらに、ピン部材37の外形寸法として、挿通孔42に挿入できて、この挿通孔42内で上下動できればよい。
【0062】
なお、凹窪部46の深さ寸法として、実施形態では、チップ30の肉厚の倍程度としていたが、これは、ヒックアップするチップ30の周辺にチップ30が全くない場合であっても、このような深さとすれば、コレット側が凸状となる変形を行うことが可能な密封空間Sを形成することができるからである。しかしながら、周辺にチップ30が少なくとも1個ある場合や、チップではないが、他の凸隆部を有するものであれば、チップ30の肉厚の倍の深さを有することなく、チップ30乃至粘着シート体31のチップ対応部を、前記コレット側が凸状となる変形を行うことが可能な密封空間Sを形成することができる。
【符号の説明】
【0063】
30 チップ
31 粘着シート体
32 ステージ
33 コレット
33a チップ対応面
36 押上部材
37 ピン部材
40 負圧供給手段
40 吸引手段
41 正圧供給手段
46 凹窪部
48 負圧供給手段
S 密封空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8