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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097896
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】歯ブラシ
(51)【国際特許分類】
   A46B 9/04 20060101AFI20230703BHJP
   A46D 1/04 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
A46B9/04
A46D1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214269
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】西野 将嗣
(72)【発明者】
【氏名】高下 典浩
(72)【発明者】
【氏名】堀越 諒
【テーマコード(参考)】
3B202
【Fターム(参考)】
3B202AA06
3B202AB15
3B202BA02
3B202EA01
3B202EB08
3B202EC05
3B202EE01
3B202HA03
(57)【要約】
【課題】刷毛部が柔軟性および復元性を有する歯ブラシを提供する。
【解決手段】ヘッド部と、ヘッド部の厚さ方向の正面側に位置する支持面から正面側に突出する複数の刷毛部と、を有する。刷毛部の断面中心を通る中心線のうち、刷毛部の基端側における中心線は、支持面から正面側に向かうにつれて、曲率をもって湾曲する湾曲部を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド部と、
前記ヘッド部の厚さ方向の正面側に位置する支持面から前記正面側に突出する複数の刷毛部と、
を有し、
前記刷毛部の断面中心を通る中心線のうち、前記刷毛部の基端側における前記中心線は、前記支持面から前記正面側に向かうにつれて、曲率をもって湾曲する湾曲部を有する歯ブラシ。
【請求項2】
前記刷毛部における前記基端側は、前記中心線が前記支持面と交差して延びる交差線を中心または中心付近として周回して螺旋状に延びる螺旋部を有する、
請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記中心線は、
前記螺旋部における線径をd(mm)とし、
前記螺旋部において前記支持面の法線方向で隣り合う前記刷毛部間の最小隙間寸法をS1(mm)とすると、
×S1で表される値は、0.000025mm以上、50mm以下である、
請求項2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記螺旋部における線径をd(mm)とし、
前記螺旋部において前記支持面と平行な方向の最大隙間寸法をS2(mm)とすると、
×(1/S2)で表される値は、0.000064mm以上、500mm以下である、
請求項2または3に記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記刷毛部は、前記螺旋部よりも先端側に前記支持面の法線方向に延びる第1直線部を有する、
請求項2から4のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項6】
前記刷毛部は、前記螺旋部の先端と連結される連結部を有し、
前記連結部は、前記支持面と平行な板状であり、
前記連結部から前記正面側に前記支持面の法線方向に直線状に延びる複数の第2刷毛部を有する、
請求項2から5のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項7】
前記刷毛部における前記基端側は、
前記中心線が前記正面側に向かうにつれて、前記支持面の法線方向と直交する方向を往復する波状部を有し、
前記波状部の前記中心線は、前記支持面と交差して延びる交差線を中心または中心付近として周回しないで延びる、
請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項8】
前記波状部において
前記法線方向の厚さをt(mm)とし、
厚さtの3乗をt3とし、
前記法線方向の隙間寸法をM(mm)とし、
隙間寸法Mの5乗根をM5とすると、
t3×M5で表される値は、0.01mm-2以上、5mm-2以下である、
請求項7に記載の歯ブラシ。
【請求項9】
前記波状部において前記法線方向と直交する方向の隙間寸法をC(mm)とし、
隙間寸法Cの逆数の2乗根をC2とすると、
t3×C2で表される値は、0.02mm-3/2以上、10mm-3/2以下である、
請求項7または8に記載の歯ブラシ。
【請求項10】
前記刷毛部は、前記波状部よりも先端側に前記法線方向に延びる第2直線部を有する、
請求項7から9のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項11】
前記刷毛部は、層毎に硬化した硬化体が前記支持面上の正面側に積層された積層造形体である、
請求項1から10のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、歯や歯肉への当たり心地と清掃実感に優れ、束にしたときの毛腰の強さを備えた歯ブラシが開示されている。特許文献1に開示された歯ブラシは、用毛がn角形柱を中心軸回りに捻ったスパイラル毛を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-37496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、用毛を束にした時に毛腰が強くなるが、毛束径が大きい場合は毛束同士が密となり、毛束の柔軟性が制限されることがある。また、毛束径を大きくした時には植毛面に形成される植毛穴径が大きくなるが、隣り合う植毛穴との距離が短い場合は、割れが生じやすい等、製造上の問題が生じかねず清掃実感の向上にも限界がある。
【0005】
一方、柔軟性を優先させて曲がりやすくした場合には、曲がった用毛が戻りにくくなり、復元性に欠けるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、刷毛部が柔軟性および復元性を有する歯ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に従えば、ヘッド部と、前記ヘッド部の厚さ方向の正面側に位置する支持面から前記正面側に突出する複数の刷毛部と、を有し、前記刷毛部の断面中心を通る中心線のうち、前記刷毛部の基端側における前記中心線は、前記支持面から前記正面側に向かうにつれて、曲率をもって湾曲する湾曲部を有する歯ブラシが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、刷毛部が柔軟性および復元性を有する歯ブラシを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る歯ブラシ1の外観斜視図である。
図2】一つの刷毛部21を拡大した図である。
図3】円形の螺旋部30における線径の6乗とバネ定数との関係を示す図である。
図4】円形の螺旋部30における最小隙間寸法S1とバネ定数との関係を示す図である。
図5】螺旋部30における支持面5と平行な方向の最大隙間寸法の逆数の2乗とバネ定数との関係を示す図である。
図6】第2実施形態に係る歯ブラシ1を短軸方向に見た側面図である。
図7】第3実施形態に係る歯ブラシ1の外観斜視図である。
図8】第4実施形態に係る歯ブラシ1の外観斜視図である。
図9】波状部32を短軸方向に見た側面図である。
図10】波状部32における厚さtの3乗とバネ定数との関係を示す図である。
図11】波状部32における隙間寸法Mの5乗根とバネ定数との関係を示す図である。
図12】隙間寸法Cの逆数の2乗根とバネ定数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の歯ブラシの実施の形態を、図1ないし図12を参照して説明する。
なお、以下の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせている。
【0011】
[歯ブラシの第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る歯ブラシ1の外観斜視図である。
図1に示すように、歯ブラシ1は、ハンドル体10とブラシ部20とを備えている。
ハンドル体10は、ヘッド部3と、ヘッド部3より長軸方向の後端側に配置される把持部(図示せず)と、ヘッド部3と把持部とを接続するネック部4とを備える。ヘッド部3は、ハンドル体10の長軸方向の先端側に位置する。
【0012】
ブラシ部20は、複数の刷毛部21を備えている。刷毛部21は、ヘッド部3の厚さ方向の正面側に位置する支持面5から正面側に突出する。刷毛部21は、支持面5から支持面5の正面側に突出する。
【0013】
以下の説明では、支持面5の法線方向でありヘッド部3の厚さ方向を法線方向と呼ぶ。ヘッド部3の幅方向であり、法線方向と直交するとともに、ハンドル体10の長軸方向と直交する方向を短軸方向と呼ぶ。法線方向において、ヘッド部3の支持面5側を正面側と呼ぶ。
【0014】
図1に示すように、刷毛部21は、格子状に配列されている。刷毛部21の配列は、格子状であっても千鳥状であってもよい。
【0015】
図2は、一つの刷毛部21を拡大した図である。
刷毛部21の断面形状は、円形、楕円形、多角形等を選択できる。刷毛部21の断面を星形や多角形にすることで摩擦力が大きくなり、清掃力を高めることができる。刷毛部21は、刷毛部21の断面中心を通る中心線Jに沿って線状に延びる。
刷毛部21の断面形状が円形の場合、断面中心は、円形断面の曲率中心である。刷毛部21の断面形状が楕円形の場合、断面中心は、楕円形断面の長軸と短軸の交点である。刷毛部21の断面形状が多角形の場合、断面中心は、断面における重心位置である。刷毛部21は、基端部から先端部に向けて先端側が錐状であってもよい。
【0016】
刷毛部21の断面形状が円形の場合、線径d(mm)は、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。また、1.5mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましく、0.6mm以下がさらに好ましい。また、0.3mm以上、1.5mm以下が好ましく、0.5mm以上、1.0mm以下がより好ましく、0.3mm以上、0.6mm以下がさらに好ましい。
また、刷毛部21の断面形状が楕円形の場合、長軸の長さが上記範囲であることが好ましい。
また、刷毛部21の断面形状が多角形の場合、外接円の直径が上記範囲であることが好ましい。
【0017】
図2の実施形態では、刷毛部21は、螺旋部30と第1直線部40とを有する。
螺旋部30は、刷毛部21における基端側に位置する。
螺旋部30における刷毛部21の断面中心を通る中心線Jは、支持面5と交差して延びる第1交差線L1(支持面5の法線)に沿って正面側に向かうにつれて、第1交差線方向(支持面5の法線方向)に見て連続的に円弧状に湾曲しながら延びる。すなわち、螺旋部30は、湾曲部を構成する。図2のように、本実施形態の螺旋部30における刷毛部21の断面中心を通る中心線Jは、正面側に向かうにつれて周回する。
図2の本実施形態における第1交差線L1は、支持面5の法線であり、また、第1交差線方向は、支持面5の法線方向である。従って、以下では、第1交差線L1を法線と呼び、第1交差線方向を法線方向と呼ぶ。
ただし、図2の実施形態における第1交差線L1は、あくまで支持面5と交差する交差線の一例であり、支持面5と交差すれば法線でなくてもよい。すなわち、図2の実施形態のように、支持面5に対して垂直な(90度の角度)第1交差線方向(支持面5の法線方向)に、連続的に円弧状に湾曲しながら延びてもよく、支持面5に対して傾いた(0度超、90度未満の角度)第1交差線方向に、連続的に円弧状に湾曲しながら延びてもよい。
基端側に位置する螺旋部30の刷毛部21の断面中心を通る中心線Jが、法線方向に沿って正面側に向かうにつれて、円弧状に湾曲しながら延びることで、刷毛部21は、基端部側が法線方向に沿った方向および支持面5に沿った方向に弾性変形可能である。そのため、刷毛部21は、曲がりやすく(柔軟性)、かつ、弾性復元力で戻りやすい(復元性)。その結果、刷毛部21は、例えば、後述する3Dプリンタを用いて造形した場合でも、ブラッシング時に折れることなく、良好な清掃性が得られる。
【0018】
特に、図2の実施形態では、螺旋部30における刷毛部21の断面中心を通る中心線Jは、支持面5の法線方向に延びる第1法線(第1交差線)L1を『中心』として螺旋状に延びて周方向に湾曲する。中心線Jは、第1法線L1を『中心』とする一定の曲率半径で螺旋状に延びて周方向に湾曲する。なお、必ずしも『中心』でなくてもよく、『中心付近』で螺旋状に延びて周方向に湾曲する形状であってもよい。
螺旋部30は、短軸方向に見た側面視において、第1法線L1に対して少なくとも2回以上交差する。
基端側に位置する螺旋部30の刷毛部21の断面中心を通る中心線Jが、法線方向に延びる第1法線L1を中心(または中心付近)として周回し螺旋状に延びて周方向に湾曲することで、刷毛部21は、法線方向に延びるコイルバネと等価となり、基端部側が法線方向および支持面5に沿った方向に伸縮自在に弾性変形可能である。そのため、刷毛部21は、曲がりやすく(柔軟性)、かつ、弾性復元力で戻りやすい(復元性)。その結果、刷毛部21は、例えば、後述する3Dプリンタを用いて造形した場合でも、ブラッシング時に折れることなく、良好な清掃性が得られる。
【0019】
螺旋部30における刷毛部21の断面中心を通る中心線Jは、第1法線L1を中心(または中心付近)とする一定の曲率半径で周回し螺旋状に延びて周方向に湾曲する構成の他に、第1法線L1を中心とする漸次小さくなる曲率半径で周回し螺旋状に延びて周方向に湾曲する構成であってもよい。この構成を採った場合には、正面側が先細る螺旋部30が得られる。
【0020】
刷毛部21における螺旋部30の周回数(有効巻き数;Na)は、1.5回以上、10回以下が好ましく、2回以上、6回以下がより好ましく、2.5回以上、4回以下がさらに好ましい。
【0021】
コイルバネとしての螺旋部30のバネ定数k(N/mm)は、荷重をP(N)とし、変位をδ(mm)とし、螺旋部30の材料の横弾性係数をG(N/mm=MPa)とし、螺旋部30の線径をd(mm)とし、有効巻き数Naとし、螺旋部30の平均径((外径+内径)/2)をD(mm)とすると、以下の式(1)で表される。なお、本願においては、線径dおよび平均径Dは、刷毛部21の断面形状が円形の場合は、その直径として考える。また、刷毛部21の断面形状が楕円形の場合は、長軸と短軸の長さの平均径として考える。また、刷毛部21の断面形状が多角形の場合は、外接円の直径として考えることとする。
【0022】
【数1】
【0023】
式(1)で表されるように、螺旋部30の線径dが大きく、有効巻き数Naが少なく、螺旋部30の平均径Dが小さいほど、バネ定数kは大きくなり硬いコイルバネとなる。換言すると、螺旋部30の線径dが小さく、有効巻き数Naが多く、螺旋部30の平均径Dが大きいほど、バネ定数kは小さくなり、クッション性(緩衝性)が高い軟らかいコイルバネとなる。
【0024】
螺旋部30において法線方向に隣り合う刷毛部21間の最小隙間寸法S1としては、0.2mm以上、2.0mm以下であることが好ましい。
最小隙間寸法S1とは、図2のように法線方向に隣り合う刷毛部21間において、最も外側の最短の隙間の寸法と定義する。
最小隙間寸法S1が0.2mm未満の場合には、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。最小隙間寸法S1が2.0mmを超えた場合には、曲がりにくくなり柔軟性が低下する一方で、戻りやすくなり復元性が高くなる。
最小隙間寸法S1としては、0.3mm以上であることがより好ましい。最小隙間寸法S1としては、1.5mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
図3は、刷毛部21の断面形状が円形の螺旋部30における「線径の6乗」と「バネ定数」との関係を示す図である。
図4は、刷毛部21の断面形状が円形の螺旋部30における「最小隙間寸法S1」と「バネ定数」との関係を示す図である。
【0026】
図3に示すように、「線径の6乗」と「バネ定数」とは比例関係にある。
図4に示すように、「最小隙間寸法S1」と「バネ定数」とは比例関係にある。
従って、「最小隙間寸法S1」と「線径の6乗」との積と、バネ定数とは比例関係にある。この関係にあることで、螺旋部30における最小隙間寸法S1が大きい場合および線径が大きい場合は、曲がりにくくなり柔軟性が低下する一方で、戻りやすくなり復元性が高くなる。
また、螺旋部30における最小隙間寸法S1が小さい場合および線径が小さい場合は、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。
また、線間の法線方向の隙間寸法と線径の6乗との積と、バネ定数とが比例関係にあることで、螺旋部30における線間の法線方向の隙間寸法が小さい場合および線径が小さい場合は、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。
【0027】
螺旋部30における線径d(mm)を用い、d×S1で表される値(単位はmm、後述では単位記載は省略する)は、0.000025以上が好ましく、0.0001以上がより好ましく、0.004以上がさらに好ましい。また、50以下が好ましく、1以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましい。0.000025以上、50以下であることが好ましく、0.0001以上、1以下がより好ましく、0.004以上、0.01以下がさらに好ましい。
×S1で表される値が、0.000025未満の場合には、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。
×S1で表される値が、50を超えた場合には、曲がりにくくなり柔軟性が低下する一方で、戻りやすくなり復元性が高くなる。
【0028】
図5は、刷毛部21の断面形状が円形の螺旋部30における支持面5と平行な方向の最大隙間寸法(内径S2)の逆数の2乗とバネ定数との関係を示す図である。
螺旋部30における支持面5と平行な方向の最大隙間寸法は、図2に示すように、螺旋部30の内径S2である。
図5に示すように、「内径S2の逆数の2乗」と「バネ定数」とは比例関係にある。
また、上述のように、「線径の6乗」と「バネ定数」とは比例関係にある。
従って、「線径の6乗」と「内径S2の逆数の2乗」との積は、「バネ定数」と比例関係にある。
この関係にあることで、「内径S2」が大きい場合および「線径」が小さい場合は、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。また、「内径S2」が小さい場合および「線径」が大きい場S合は、曲がりにくくなり柔軟性が低下する一方で、戻りやすくなり復元性が高くなる。
【0029】
「線径の6乗」と「内径S2の逆数の2乗」との積であるd×(1/S2)で表される値(単位はmm、後述では単位記載は省略する)は、0.000064以上が好ましく、0.0001以上がより好ましく、0.005以上がさらに好ましい。また、500以下が好ましく、10以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましい。0.000064以上、500以下であることが好ましく、0.0001以上、10以下がより好ましく、0.005以上、0.05以下がさらに好ましい。
×(1/S2)で表される値が、0.000064未満の場合には、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。
×(1/S2)で表される値が、500を超えた場合には、曲がりにくくなり柔軟性が低下する一方で、戻りやすくなり復元性が高くなる。
【0030】
内径S2は、0.2mm以上であることが好ましく、0.25mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることがさらに好ましい。内径S2は、2.0mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。
また、内径S2は、0.2mm以上、2.0mm以下であることが好ましい。内径S2が、0.2mm未満の場合には、曲がりにくくなり柔軟性が低下する一方で、戻りやすくなり復元性が高くなる。内径S2が、2.0mmを超えた場合には、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。
【0031】
第1直線部40は、螺旋部30よりも法線方向の先端側に位置し法線方向に直線状に延びる。刷毛部21における先端側に第1直線部40が設けられることで、清掃力、歯間への挿入性が向上する。第1直線部40は、先端部が正面側に向けて先細り形状であることが挿入性の観点からより好ましい。
【0032】
刷毛部21における支持面5側の基端から第1直線部40の先端までの法線方向の寸法である毛丈は、9mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましく、11mm以上がさらに好ましい。刷毛部21における支持面5側の基端から第1直線部40の先端までの法線方向の寸法である毛丈は、15mm以下が好ましく、14mm以下がより好ましく、12mm以下がさらに好ましい。
また、刷毛部21における支持面5側の基端から第1直線部40の先端までの法線方向の寸法である毛丈は、9mm以上、15mm以下が好ましい。
【0033】
刷毛部21の毛丈に対する第1直線部40の寸法の割合は、60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましく、25%以下であることがさらに好ましい。刷毛部21の毛丈に対する第1直線部40の寸法の割合は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。
刷毛部21の毛丈に対する第1直線部40の寸法の割合が5%未満の場合には、清掃力、歯間への挿入性が不十分となる。刷毛部21の毛丈に対する第1直線部40の寸法の割合が60%を超えた場合には、螺旋部30による刷毛部21の曲がりやすさと戻りやすさが不十分となる。刷毛部21の毛丈に対する第1直線部40の寸法の割合を5%以上、60%以下とすることで、清掃力、歯間への挿入性の向上と、刷毛部21の曲がりやすさと戻りやすさの向上を実現できる。
【0034】
上記構成の歯ブラシ1における刷毛部21の製造方法は特に限定されない。刷毛部21は、例えば、周知の樹脂製コイルバネの製造方法を用いて製造し、当該樹脂製コイルバネを溶着や接着剤によってヘッド部3の支持面5に固定してもよい。
【0035】
また、層毎に液体樹脂を硬化させることを複数回繰り返し、硬化した樹脂の硬化体を支持面5上に法線方向に沿って複数層に積層させた積層造形体として刷毛部21を製造することも可能である。積層造形体として刷毛部21を製造する際には、上下方向に移動可能なステージと、ステージに配置された素材に対してエネルギー光を照射して硬化させる光照射部とを有する3次元プリンタ(3Dプリンタ)を用いることができる。3Dプリンタを用いて刷毛部21を造形する際には、例えば、光造形方式またはインクジェット方式(マルチジェット・プリント方式)または粉末積層方式を選択できる。
【0036】
光造形方式は、ステージに配置された液体樹脂に対してエネルギー光として、例えば、紫外線(紫外光)を照射し、一層毎に液体樹脂を硬化させることと、ステージを上下方向に移動させた後に、次の層の液体樹脂に紫外線を照射して硬化させて硬化体を形成することとを繰り返して法線方向に沿って積層された積層造形体として刷毛部21を造形する方式である。
【0037】
インクジェット方式は、ステージ上に紫外線硬化樹脂の液滴を吐出することと、着弾した液滴に紫外線を照射して硬化体を形成することとを複数回繰り返し、法線方向に沿って積層された積層造形体として刷毛部21を造形する方式である。
【0038】
粉末積層方式は、ステージ上に配置された粉末状の素材に対してエネルギー光として、例えば、レーザ光を照射して素材を焼結して硬化体を形成することと、ステージを上下方向に移動させた後に、次の層の粉末状の素材にレーザ光を照射して硬化させて硬化体を形成することとを繰り返して法線方向に沿って積層された積層造形体として刷毛部21を造形する方式である。
【0039】
刷毛部21が線状であり1本の場合には、ノズルから押し出した加熱して溶融状態の線状の樹脂素材をステージとノズル、またはノズルを移動させながら硬化させる材料押出堆積法を用いて刷毛部21を造形することも可能である。
【0040】
樹脂製コイルバネの製造方法を用いて刷毛部21を製造する場合、刷毛部21の材質は、特に限定されず、ポリアミド(6-12ナイロン、6-10ナイロン、12-ナイロン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(ポリプロピレン等)、エラストマー(オレフィン系、スチレン系等)等の合成樹脂材料や天然材質を例示できる。
【0041】
積層造形体として刷毛部21を製造する場合、刷毛部21の材質は、特に限定されず、(A)アクリル酸骨格を有する成分と、(B)2価以上の末端アミンを有する成分によって重合された材料を例示できる。(A)成分としては、トリメチロールプロパントリメタクリラート、メタクリル酸ドデシル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリラートウレタンジメタクリラート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジアクリラート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、ポリジメチルシロキサンアクリレートが好ましい。(B)成分としては、4,4'-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン、ポリエーテルアミン、トリメチロールプロパンポリ(オキシプロピレン)トリアミン、ポリ(プロピレングリコール)トリアミン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニル スルホンが好ましい。
【0042】
本実施形態の歯ブラシ1では、刷毛部21の基端側における中心線Jが、支持面5の正面側に向かうにつれて、法線方向と交差する方向に延びて湾曲するため、刷毛部21が柔軟性および復元性を有することができる。
【0043】
また、従来の歯ブラシ1では、柔らかい当たりを硬くする場合には、毛束径を大きくしていたが、植毛穴間の隙間を確保するために、毛束径の大きさには制約があった。これに対して、本実施形態の歯ブラシ1では、このような場合には、例えば、螺旋部30の平均径Dを小さくすることでバネ定数kが大きくなり硬くすることができ、支持面5への刷毛部21を配置する際の制約がなくなり設計の自由度が大きくなる。また、螺旋部30の径方向に依らず、例えば有効巻き数Naを少なくする等、法線方向の諸元を調整することでも当たりを硬くすることが可能であり、ユーザの要望に応じて当たり強さや刷掃性等を容易に調整することが可能になる。
【0044】
[歯ブラシの第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る歯ブラシ1について図6を参照して説明する。
この図において、図1図5に示す第1実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0045】
図6は、第2実施形態に係る歯ブラシ1を短軸方向に見た側面図である。
図6に示すように、本実施形態では、3本の刷毛部21が第1法線L1を中心として周方向に等間隔で配置されている。3本の刷毛部21は、第1法線L1を中心として周方向に120°間隔で配置されている。3本の刷毛部21が第1法線L1を中心として周方向に等間隔で配置されることで、3本の刷毛部21における螺旋部30は、互いに法線方向に等間隔の隙間をあけて配置される。
他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0046】
本実施形態の歯ブラシ1では、上記第1実施形態と同様の作用・効果が得られることに加えて、第1直線部40が複数本設けられることで、歯面との接触面積を増やし、清掃効果を向上させることができるとともに、毛腰を高めることができる。また、本実施形態の歯ブラシ1では、3本の刷毛部21のうちの1本が基端部から折れた場合でも、他の刷毛部21と絡み合って保持されることで抜け落ちることを抑制できる。
【0047】
なお、本実施形態では、3本の刷毛部21が第1法線L1を中心として周方向に等間隔で配置される構成を例示したが、この構成に限定されない。刷毛部21は、周方向に等間隔で2本配置される構成や4本以上配置される構成であってもよい。
【0048】
[歯ブラシの第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る歯ブラシ1について図7を参照して説明する。
この図において、図6に示す第2実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0049】
図7は、第3実施形態に係る歯ブラシ1の外観斜視図である。
図7に示すように、刷毛部21は、螺旋部30と連結部31と第2刷毛部21Aとを有する。螺旋部30は、第1法線L1を中心として周方向に等間隔で3本配置されている。
【0050】
連結部31は、螺旋部30の先端と連結されている。連結部31は、支持面5と略平行で螺旋部30の最大径とほぼ同一寸法の板状である。略平行とは、側面視において、支持面5と平行な仮想線に対して、連結部31の厚み方向の仮想線との交差が±10度以内をいう。図7のように、円柱状でもよい。また、連結部31の第2刷毛部21A側は凹凸状、湾曲状であってもよい。連結部31の支持面5側は凹凸状、湾曲状であってもよい。連結部31は、第1法線L1を中心とする円盤状である。連結部31には、第2刷毛部21Aが設けられている。
【0051】
第2刷毛部21Aは、連結部31から法線方向に延びる。第2刷毛部21Aは、基端部が連結部31に連結されている。第2刷毛部21Aは、第1法線L1を中心とする周方向に間隔をあけて複数本(図7では5本)配置されている。第2刷毛部21Aの本数は、4本以下でも6本以上でもよい。図7の態様では、第2刷毛部21Aの本数は、螺旋部30の本数と異なっている。支持面5と略平行な平面における第2刷毛部21Aの少なくとも一つの位置は、螺旋部30が連結部31と連結される位置とは異なっている。なお、第2刷毛部21Aの本数は、螺旋部30の本数と同じであっても良い。螺旋部30が連結部31と連結される位置とは同じであってもよい。
他の構成は、上記第2実施形態と同様である。
【0052】
本実施形態の歯ブラシ1では、上記第2実施形態と同様の作用・効果が得られることに加えて、連結部31を設けることによって、螺旋部30における螺旋状の部分の本数および位置に依存しない本数および位置に第2刷毛部21Aを設けることが可能になる。また、本実施形態の歯ブラシ1では、3本の螺旋部30のうちの1本が折れた場合でも、折れた螺旋部30の先端が連結部31に連結されていることで抜け落ちることを抑制できる。
【0053】
なお、本実施形態では、螺旋部30が第1法線L1を中心として周方向に等間隔で配置される構成を例示したが、この構成に限定されない。螺旋部30は、1本配置される構成、周方向に等間隔で2本配置される構成や3本以上配置される構成であってもよい。螺旋部30が折れた場合でも、連結部31に連結されて抜け落ちることを抑制できる観点から螺旋部30は複数配置されることが好ましい。
【0054】
[歯ブラシの第4実施形態]
次に、第4実施形態に係る歯ブラシ1について図8から図12を参照して説明する。
これらの図において、図1から図5に示す第1実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0055】
図8は、第4実施形態に係る歯ブラシ1の外観斜視図である。
本実施形態の刷毛部21は、図8に示すように、波状部32と第2直線部41とを有している。波状部32は、刷毛部21における基端側に位置する。
図9は、波状部32を短軸方向に見た側面図である。波状部32における刷毛部21の断面中心を通る中心線Jは、法線方向に沿って正面側に向かうにつれて、法線方向と直交する方向(第1方向)を往復する。
すなわち、刷毛部21の断面中心を通る中心線Jは、支持面5と交差する第2交差線L2の法線方向を複数回横断するように正面側に向かって延びる。そのため、図9の態様では、波状部32は、湾曲部33を有する。
湾曲部33は、波状部32が法線方向と直交する方向で反転する位置に配置されている。湾曲部33は、正面側に向かうにつれて、曲率をもって湾曲する。
第4の実施形態と第1~3の実施形態との一番の相違点は、第1~3の実施形態では「中心線Jが前記支持面と交差して延びる交差線を中心または中心付近として周回して延びる(即ち、螺旋状に延びる)」のに対して、第4の実施形態では「周回しないで延びる」ことである。
【0056】
湾曲部33を有する波状部32が基端側に設けられることで、刷毛部21は法線方向に弾性変形して伸縮することができる。刷毛部21の基端側で波状部32が伸縮できることで、刷毛部21は基端部側が法線方向に沿った方向および支持面5に沿った法線方向と直交する方向に弾性変形可能である。そのため、刷毛部21は、曲がりやすさ(柔軟性)と戻りやすさ(復元性)を確保できる。
【0057】
波状部32の断面形状は、円形、楕円形、多角形等を選択できる。本実施形態の波状部32の断面形状は、長辺と短辺を有する矩形状である。矩形状の断面形状のうち、湾曲部33は長辺を構成する面によって形成される。
【0058】
波状部32における法線方向の厚さをt(mm)とする。厚さtは、波状部32の矩形断面のうち短辺方向の寸法である。
波状部32において、図9のように波状部32を短軸方向に見た側面視において、法線方向と直交する方向の刷毛部21の幅方向W2の中央付近を通り、支持面5と交差する第2交差線L2上に位置する波状部32の隙間寸法をM(mm)とする。なお、本実施形態の第2交差線L2は支持面5の法線である。従って、以下では、第2交差線L2を第2法線L2と呼び、第2交差線方向を法線方向と呼ぶ。ただし、第2交差線L2は、支持面5と交差する交差線の一例であり、支持面5と交差すれば法線でなくてもよい。すなわち、図9の実施形態のように、支持面5に対して垂直な(90度の角度)第2交差線方向(支持面5の法線方向)に、法線方向と直交する方向を往復しながら延びてもよく、支持面5に対して傾いた(0度超、90度未満の角度)第2交差線方向に法線方向と直交する方向を往復しながら延びてもよい。
【0059】
波状部32における厚さtは、0.2mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.4mm以上であることがさらに好ましい。波状部32における厚さtは、2.0mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。
【0060】
波状部32における隙間寸法Mは、0.2mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましく、1.0mm以上であることがさらに好ましい。波状部32における隙間寸法Mは、3.0mm以下であることが好ましく、2.0mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。
隙間寸法Mが0.2mm未満の場合には、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。隙間寸法Mが3.0mmを超えた場合には、曲がりにくくなり柔軟性が低下する一方で、戻りやすくなり復元性が高くなる。
【0061】
図10は、波状部32における「法線方向の短辺方向における厚さtの3乗」と「バネ定数」との関係を示す図である。
図11は、波状部32における「法線方向の短辺方向における隙間寸法Mの5乗根」と「バネ定数」との関係を示す図である。
【0062】
図10に示すように、「法線方向の短辺方向における厚さtの3乗」と「バネ定数」とは比例関係にある。
図11に示すように、「法線方向の短辺方向における隙間寸法Mの5乗根」と「バネ定数」とは比例関係にある。
従って、「法線方向の短辺方向における厚さtの3乗」と「法線方向の短辺方向における隙間寸法Mの5乗根」との積と、「バネ定数」とは比例関係にある。
この関係にあることで、厚さtが大きい場合および隙間寸法Mが大きい場合は、曲がりにくくなり柔軟性が低下する一方で、戻りやすくなり復元性が高くなる。
また、この関係にあることで、厚さtが小さい場合および隙間寸法Mが小さい場合は、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。
【0063】
「法線方向の短辺方向における厚さtの3乗」をt3とし、「法線方向の短辺方向における隙間寸法Mの5乗根」をM5とした時、t3×M5で表される値(単位はmm3/5、後述では単位記載は省略する)は、0.001以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましい。また、5以下が好ましく、1以下がより好ましく、0.2以下がさらに好ましい。また、0.01以上、5以下であることが好ましく、0.05以上、1以下がより好ましく、0.1以上、0.2以下がさらに好ましい。
t3×M5で表される値が0.01未満の場合には、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。t3×M5で表される値が5を超えた場合には、曲がりにくくなり柔軟性が低下する一方で、戻りやすくなり復元性が高くなる。
【0064】
波状部32において、法線方向の隙間寸法をC(mm)とする。隙間寸法Cは、法線方向に隣り合う湾曲部33に関する。
具体的には、図9に示すように、法線方向と直交する方向の一方側に突出する湾曲部33における第1位置Q1と、法線方向に隣り合って第1位置Q1とは他方側に突出する湾曲部33における第2位置Q2との法線方向と直交する方向の距離である。すなわち、法線方向と直交する方向に往復して延びる場合のL2付近の繰り返しの距離である。
【0065】
隙間寸法Cは、0.5mm以上、3.0mm以下であることが好ましい。隙間寸法Cは、1.0mm以上であることがより好ましく、1.5mm以上であることがさらに好ましい。隙間寸法Cは、2.9mm以下であることがより好ましく、2.8mm以下であることがさらに好ましい。隙間寸法Cが0.5mm未満の場合には、曲がりにくくなり柔軟性が低下する一方で、戻りやすくなり復元性が高くなる。隙間寸法Cが3.0mmを超えた場合には、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。
【0066】
図12は、「法線方向と直交する方向の隙間寸法Cの逆数の2乗根」と「バネ定数」との関係を示す図である。
図12に示すように、「法線方向と直交する方向の隙間寸法Cの逆数の2乗根」と「バネ定数」とは比例関係にある。
また、上述のように、「法線方向の短辺方向における厚さtの3乗」と「バネ定数」とは比例関係にある。
従って、「法線方向の短辺方向における厚さtの3乗」と「法線方向と直交する方向の隙間寸法Cの逆数の2乗根」との積と、「バネ定数」とは比例関係にある。
この関係にあることで、厚さtが大きい場合および隙間寸法Cが大きい場合は、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。
また、この関係にあることで、厚さtが小さい場合および隙間寸法Cが小さい場合は、曲がりにくくなり柔軟性が低下する一方で、戻りやすくなり復元性が高くなる。
【0067】
「法線方向と直交する方向の隙間寸法Cの逆数の2乗根」をC2とすると、t3×C2で表される値(単位はmm3/2、後述では単位記載は省略する)は、0.02以上、10以下であることが好ましい。
t3×C2で表される値が0.02未満の場合には、戻りづらくなり復元性が低下する一方で、曲がりが大きくなり柔軟性が高くなる。t3×C2で表される値が10を超えた場合には、曲がりにくくなり柔軟性が低下する一方で、戻りやすくなり復元性が高くなる。
t3×C2で表される値は、0.04以上がより好ましく、0.4以上がさらに好ましい。t3×C2で表される値は、4以下がより好ましく、1以下がさらに好ましい。
【0068】
図8に示す波状部32の長軸方向の寸法W1は、0.2mm以上、2.0mm以下が好ましく、0.7mm以上、1.8mm以下がより好ましく、1.0mm以上、1.5mm以下がさらに好ましい。図9に示す波状部32の短軸方向の寸法W2は、一例として2.0mmである。波状部32を有する刷毛部21における支持面5側の基端から第2直線部41の先端までの法線方向の寸法である毛丈は、9mm以上、15mm以下が好ましく、10mm以上、14mm以下がより好ましく、11mm以上、12mm以下がさらに好ましい。
【0069】
波状部32のピッチ(折り返し間隔)W3は、0.5mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましく、1.0mm以上がさらに好ましい。波状部32のピッチ(折り返し間隔)W3は、3.0mm以下が好ましく、2.5mm以下がより好ましく、2.0mm以下がさらに好ましい。
また、波状部32のピッチ(折り返し間隔)W3は、0.5mm以上、3.0mm以下が好ましい。
波状部32のピッチ(折り返し間隔)の回数は、1.5回以上が好ましく、2回以上がより好ましく、2.5回以上がさらに好ましい。波状部32のピッチ(折り返し間隔)の回数は、10回以下が好ましく、6回以下がより好ましく、4回以下がさらに好ましい。
また、波状部32のピッチ(折り返し間隔)の回数は、1.5回以上、10回以下が好ましい。
【0070】
第2直線部41は、波状部32よりも法線方向の先端側に位置し法線方向に直線状に延びる。第2直線部41は、短軸方向に間隔をあけて2本配置されている。刷毛部21における先端側に第2直線部41が設けられることで、清掃力、歯間への挿入性が向上する。第2直線部41は、先端部が正面側に向けて先細り形状であることが挿入性の観点からより好ましい。第2直線部41は、1本の波状部32に対して1本配置される構成であってもよい。
【0071】
刷毛部21における支持面5側の基端から第2直線部41の先端までの法線方向の寸法である毛丈に対する第2直線部41の寸法の割合は、65%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、55%以下であることがさらに好ましい。刷毛部21の毛丈に対する第2直線部41の寸法の割合は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましい。
刷毛部21の毛丈に対する第2直線部41の寸法の割合が5%未満の場合には、清掃力、歯間への挿入性が不十分となる。刷毛部21の毛丈に対する第2直線部41の寸法の割合が65%を超えた場合には、波状部32による刷毛部21の曲がりやすさと戻りやすさが不十分となる。刷毛部21の毛丈に対する第2直線部41の寸法の割合を5%以上、65%以下とすることで、清掃力、歯間への挿入性の向上と、刷毛部21の曲がりやすさと戻りやすさの向上を実現できる。
【0072】
本実施形態の歯ブラシ1では、上記第1実施形態と同様の作用・効果が得られることに加えて、波状部32が正面側に向かうにつれて、長軸方向を往復して延びているため、曲がりやすさ、および戻りやすさを発現する方向に異方性を有している。そのため、本実施形態の歯ブラシ1では、曲がりやすさおよび戻りやすさを発現する方向と、曲がりにくい反面、ブラッシング時の清掃性が高い方向とを異ならせることができる。従って、本実施形態の歯ブラシ1では、曲がりやすさおよび戻りやすさを発現する方向と、ブラッシング時の清掃性が高い方向とを任意に設定することが可能になる。
【0073】
上記波状部32を有する歯ブラシ1では、刷毛部21が波状部32の先端側に第2直線部41が設けられる構成を例示したが、この構成に限定されない。先端側に第2直線部41が設けられない刷毛部21であってもよい。
【実施例0074】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0075】
(実施例1~27、比較例1)
本実施例では、下記[表1]に示す仕様に従い図1に示した第1実施形態の歯ブラシと同様の実施例1~7のサンプルを作製した。本実施例では、下記[表2]に示す仕様に従い図6に示した第2実施形態の歯ブラシに対して、2本の刷毛部が第1法線を中心として周方向に等間隔で配置された実施例8~12のサンプルを作製した。本実施例では、下記[表3]に示す仕様に従い図6に示した第2実施形態の歯ブラシと同様に、3本の刷毛部が第1法線を中心として周方向に等間隔で配置された実施例13~18のサンプルを作製した。本実施例では、下記[表3]に示す仕様に従い図7に示した第3実施形態の歯ブラシと同様に、3本の刷毛部が第1法線を中心として周方向に等間隔で配置され、先端で連結部に連結された実施例19のサンプルを作製した。
【0076】
本実施例では、下記[表4]に示す仕様に従い図8に示した第4実施形態の歯ブラシに対して、刷毛部が第2直線部を有さず波状部のみで形成された実施例20~26のサンプルを作製した。本実施例では、下記[表4]に示す仕様に従い図8に示した実施例23のサンプルに対して、刷毛部が第2直線部を有する実施例27のサンプルを作製した。
【0077】
比較例1は、下記[表4]に示す仕様に従い、刷毛部が螺旋部および波状部を有さず、円柱状である歯ブラシをサンプルとした。
【0078】
[評価方法]
全ての実施例1~27、比較例1のサンプルを3Dシステムズ社製3Dプリンタ「Projet MJP 3600」で樹脂「VisiJet M3 Crystal」を用いて造形し各評価項目を比較した。実施例の一部をCarbon社製3Dプリンタ「Carbon M2」で樹脂「FPU50」を用いて造形し、各項目を追加比較した。
【0079】
[評価項目]
[曲げやすさ]
5人のモニターが、各例の歯ブラシの毛先を指先で押して変形させ、その際の指先の感触を比較、評価した。5人のモニターの平均点が、4点以上を「◎」、2点以上4点未満を「○」、2点未満を「×」とした。
<評価基準>
5点:非常に曲げやすい。
4点:曲げやすい。
3点:どちらともいえない。
2点:曲げにくい。
1点:非常に曲げにくい。
【0080】
[戻りやすさ]
5人のモニターが、各例の歯ブラシの毛先を指先で押して変形させ、毛先から指先を放した際の毛先の戻りやすさを比較、評価した。5人のモニターの平均点が、4点以上を「◎」、2点以上4点未満を「○」、2点未満を「×」とした。
<評価基準>
5点:非常に戻りやすい。
4点:戻りやすい。
3点:どちらともいえない。
2点:戻りにくい。
1点:非常に戻りにくい。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
[表1]から[表4]に示されるように、刷毛部が螺旋部および波状部の何れかを有する実施例1~27のサンプルでは、曲げやすさおよび戻りやすさの双方で良好な評価が得られた。
【0086】
刷毛部が螺旋部を有するサンプルについては、3本の刷毛部が第1法線を中心として周方向に等間隔で配置された実施例13~19のサンプルのうち、「線径dの6乗」と「最大隙間寸法S2の逆数の2乗」の積が0.000064以上、500以下の範囲にあり、「線径dの6乗」と「最小隙間寸法S1」の積が0.000025以上、50以下の範囲にある実施例15~16、19のサンプルが、曲げやすさおよび戻りやすさの双方で特に良好な評価が得られた。特に、螺旋部と第1直線部とが連結部を介して連結された実施例19のサンプルは、曲げやすさおよび戻りやすさの双方の平均点で最高値の評価が得られた。
【0087】
刷毛部が波状部を有するサンプルについては、「厚さtの3乗」と「隙間寸法Mの5乗根」の積が0.01以上、5以下の範囲にあり、「厚さtの3乗」と「隙間寸法Cの逆数の2乗根」の積0.02以上、10以下の範囲にある実施例22~24のサンプルが、曲げやすさおよび戻りやすさの双方で特に良好な評価が得られた。
【0088】
一方、刷毛部が螺旋部および波状部をいずれも有さない比較例1のサンプルでは、戻りやすさについて良好な評価が得られなかった。
【0089】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0090】
例えば、上記実施形態では、螺旋部30を有する刷毛部21に第1直線部40が設けられる構成を例示したが、この構成に限定されない。先端側に第1直線部40が設けられない刷毛部21であってもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、螺旋部30および波状部32をそれぞれ独立して設ける構成を例示したが、螺旋部30および波状部32が支持面5上に混在して設けられる構成であってもよい。
この構成を採る場合、支持面5と平行な面方向の曲げに関し、等方性を有する螺旋部30と異方性を有する波状部32のそれぞれの数および位置を設定することにより、柔軟性および復元性に関する方向特性を種々設定することが可能である。
【0092】
また、上記実施形態では、波状部32が正面側に向かうにつれて長軸方向に往復して折り返す構成を例示したが、この構成に限定されない。例えば、波状部32が正面側に向かうにつれて短軸方向に往復して折り返す構成や、長軸方向および短軸方向と交差する斜め方向に往復して折り返す構成であってもよい。また、正面側に向かうにつれて長軸方向に往復して折り返す波状部32と、正面側に向かうにつれて短軸方向に往復して折り返す波状部32と、正面側に向かうにつれて斜め方向に往復して折り返す波状部32とが混在して設けられる構成であってもよい。
この構成を採る場合、柔軟性および復元性に関する方向特性を種々設定することが可能である。
【0093】
また、上記実施形態では、螺旋部30の先端に連結部31が設けられる構成を例示したが、この構成に限定されない。例えば、支持面5と平行な面方向で複数(例えば4本)の波状部32に跨がる大きさの連結部を設け、複数の波状部32の先端が連結部に連結され、当該連結部から法線方向に複数の第2直線部41が延びる構成であってもよい。
この構成を採ることで、螺旋部30の先端に連結部31が設けた場合と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0094】
1…歯ブラシ、 3…ヘッド部、 5…支持面、 21…刷毛部、 21A…第2刷毛部、 30…螺旋部(湾曲部)、 31…連結部、 32…波状部、 33…湾曲部、 40…第1直線部、 41…第2直線部、 J…中心線、 L1…第1法線(第1交差線)、 L2…第2法線(第2交差線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12