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特開2023-97926スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097926
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/20 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
B23K9/20 D
B23K9/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214307
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】594083911
【氏名又は名称】ダイヘンスタッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 和章
(72)【発明者】
【氏名】江村 勝
(72)【発明者】
【氏名】仲地 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(57)【要約】
【課題】スタッド溶接作業により発生する火花等の拡散を抑制することが可能なスタッド溶接セット等を提供する。
【解決手段】溶接母材に溶接されるスタッドと、前記スタッドの溶接される側の端部の外周を覆って配置されるフェルールと、前記フェルールの位置決め孔を備え、前記溶接母材に密着させて対面されるテンプレートと、前記フェルールが挿通可能なフェルール挿通孔を備え、前記テンプレートに密着させて対面される対面プレートと、前記対面プレートの周面に、全周に亘って密着し前記テンプレートとは反対側に延出されたカバー部材と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接母材に溶接されるスタッドと、
前記スタッドの溶接される側の端部の外周を覆って配置されるフェルールと、
前記フェルールの位置決め孔を備え、前記溶接母材に密着させて対面されるテンプレートと、
前記フェルールが挿通可能なフェルール挿通孔を備え、前記テンプレートに密着させて対面される対面プレートと、
前記対面プレートの周面に、全周に亘って密着し前記テンプレートとは反対側に延出されたカバー部材と、
を有することを特徴とするスタッド溶接セット。
【請求項2】
請求項1に記載のスタッド溶接セットであって、
前記スタッドを保持するシャフトと、前記シャフトを軸方向に往復移動させる駆動部を備えた本体部と、を有する溶接装置を備え、
前記カバー部材は、前記対面プレートと前記本体部との間であって、前記シャフトを内包するように覆っていることを特徴とするスタッド溶接セット。
【請求項3】
溶接母材に溶接されるスタッドと、
前記スタッドの溶接される側の端部の外周を覆って配置されるフェルールと、
前記フェルールが嵌合されて位置決めされる位置決め孔を備え、前記溶接母材に密着させて対面されるテンプレートと、
を有し、
前記テンプレートは、前記位置決め孔より前記溶接母材側に、前記位置決め孔より大きな内径をなし前記溶接母材側が開放された凹部を有することを特徴とするスタッド溶接セット。
【請求項4】
請求項3に記載のスタッド溶接セットであって、
前記フェルールが挿通可能なフェルール挿通孔を備え、前記テンプレートに密着させて対面される対面プレートを有することを特徴とするスタッド溶接セット。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のスタッド溶接セットであって、
前記スタッドが挿通されて、前記フェルールを前記溶接母材に押圧する絶縁スリーブを有することを特徴とすることを特徴とするスタッド溶接セット。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のスタッド溶接セットを用いたスタッド溶接方法であって、
前記溶接母材に前記テンプレートを設置するテンプレート設置ステップと、
前記スタッドが挿通された前記フェルールを前記位置決め孔に配置するとともに前記溶接母材に当接させて前記スタッドを溶接する溶接ステップと、
を有することを特徴とするスタッド溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッド溶接セット及びスタッド溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドを溶接する作業は、例えば、特開文献1に開示されているような溶接装置により行われる。つまり、溶接ガンのチャックにスタッドボルトを装着し、溶接対象にスタッドボルトをアーク方式でスタッド溶接する溶接装置を用いて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-133409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような溶接装置によりアーク溶接作業を行うと、火花、粉塵等が発生するので、火花による火事の発生、粉塵による健康被害等を招くおそれがある。このため、作業者が火花や粉塵等を避けるための防護装備を備えたり、作業現場を養生するなど、煩雑な準備や大がかりな養生が必要であった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、スタッド溶接作業により発生する火花、粉塵等の拡散を抑制することが可能なスタッド溶接セット及びスタッド溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、溶接母材に溶接されるスタッドと、
前記スタッドの溶接される側の端部の外周を覆って配置されるフェルールと、
前記フェルールの位置決め孔を備え、前記溶接母材に密着させて対面されるテンプレートと、
前記フェルールが挿通可能なフェルール挿通孔を備え、前記テンプレートに密着させて対面される対面プレートと、
前記対面プレートの周面に、全周に亘って密着し前記テンプレートとは反対側に延出されたカバー部材と、
を有することを特徴とするスタッド溶接セットである。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スタッド溶接作業により発生する火花等の拡散を抑制することが可能なスタッド溶接セット及びスタッド溶接方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】スタッド溶接セットを示す図である。
図2】溶接ガンに取り付けられた溶接ユニットを鋼材に設置されたテンプレートにセットした状態を示す断面図である。
図3】フェルールを示す斜視図である。
図4図1におけるA矢視図である。
図5図1におけるB矢視図である。
図6】スタッド溶接セットを用いたスタッド溶接方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
溶接母材に溶接されるスタッドと、
前記スタッドの溶接される側の端部の外周を覆って配置されるフェルールと、
前記フェルールの位置決め孔を備え、前記溶接母材に密着させて対面されるテンプレートと、
前記フェルールが挿通可能なフェルール挿通孔を備え、前記テンプレートに密着させて対面される対面プレートと、
前記対面プレートの周面に、全周に亘って密着し前記テンプレートとは反対側に延出されたカバー部材と、
を有することを特徴とするスタッド溶接セット。
【0010】
このようなスタッド溶接セットによれば、対面プレートの周面に全周に亘って密着してテンプレートとは反対側に延出されたカバー部材を有しているので、スタッドが溶接されるときには、溶接部材、テンプレート、対面プレートは互いに密着しており、フェルールは、位置決め孔及びフェルール挿通孔に配置されているのでテンプレート及び対面プレートに囲まれており、さらに対面プレートはテンプレートとは反対側に延出しているカバー部材により囲まれている。このため、スタッド溶接時に発生する火花、粉塵等の拡散を、テンプレート、対面プレート及びカバー部材により抑制することが可能となる。
【0011】
また、溶接装置には、溶接母材に密着させて対面されるテンプレートに密着させて対面される対面プレートが設けられており、対面プレートには、テンプレートにより位置決めされたフェルールが挿通可能なフェルール挿通孔が設けられているので、溶接箇所がカバー部材等により視認しにくい状態であっても、テンプレートの位置決め孔にフェルールを配置して、溶接母材における所望の位置にスタッドを容易に溶接することが可能となる。
【0012】
かかるスタッド溶接セットであって、
前記スタッドを保持するシャフトと、前記シャフトを軸方向に往復移動させる駆動部を備えた本体部と、を有する溶接装置を備え、
前記カバー部材は、前記対面プレートと前記本体部との間であって、前記シャフトを内包するように覆っていることを特徴とする。
【0013】
このようなスタッド溶接セットによれば、スタッド溶接時に発生する火花、粉塵等が対面プレートと本体部との間にから拡散することを抑制することが可能となる。
【0014】
また、溶接母材に溶接されるスタッドと、
前記スタッドの溶接される側の端部の外周を覆って配置されるフェルールと、
前記フェルールが嵌合されて位置決めされる位置決め孔を備え、前記溶接母材に密着させて対面されるテンプレートと、
を有し、
前記テンプレートは、前記位置決め孔より前記溶接母材側に、前記位置決め孔より大きな内径をなし前記溶接母材側が開放された凹部を有することを特徴とするスタッド溶接セット。
【0015】
このようなスタッド溶接セットによれば、溶接母材に密着させて対面されるテンプレートは、フェルールが嵌合されて位置決めされる位置決め孔と、溶接母材側が開放されて位置決め孔よりも大きな内径をなす凹部と、を有しているので、テンプレートが溶接母材に密着されてフェルールが配置されると、スタッドの溶接される側の端部の外周を覆うフェルールと、溶接母材と、テンプレートとにより区画された空間が形成される。このため、スタッドを溶接するときに発生する火花及び粉塵等が外部に飛散することを抑制することが可能となる。また、溶接時に発生するスパッタ等を区画された空間内に留めることが可能となる。
【0016】
かかるスタッド溶接セットであって、
前記フェルールが挿通可能なフェルール挿通孔を備え、前記テンプレートに密着させて対面される対面プレートを有することを特徴とする。
【0017】
このようなスタッド溶接セットによれば、フェルールが挿通可能なフェルール挿通孔を備え、テンプレートに密着させて対面される対面プレートを有しているので、溶接母材に密着されているテンプレートに対面プレートを密着させることにより、テンプレートにより位置決めされた位置にスタッドを容易に溶接することが可能となる。
【0018】
かかるスタッド溶接セットであって、
前記スタッドが挿通されて、前記フェルールを前記溶接母材に押圧する絶縁スリーブを有することを特徴とすることを特徴とする。
【0019】
このようなスタッド溶接セットによれば、スタッドが挿通されてフェルールを溶接母材に押圧する絶縁スリーブが設けられているので、絶縁スリーブによりフェルールを溶接母材に確実に当接させた状態で溶接することが可能である。また、フェルールを押圧するのは絶縁スリーブなので、スタットが挿通されて溶接する際に、対面プレートやテンプレートなどの導通性を有する部材との間でアークが発生することを防止することが可能となる。
【0020】
かかるスタッド溶接セットを用いたスタッド溶接方法であって、
前記溶接母材に前記テンプレートを設置するテンプレート設置ステップと、
前記スタッドが挿通された前記フェルールを前記位置決め孔に配置するとともに前記溶接母材に当接させて前記スタッドを溶接する溶接ステップと、
を有することを特徴とするスタッド溶接方法。
【0021】
このようなスタッド溶接方法によれば、テンプレートを溶接部材に設置することにより、スタッドを設けたい所望の位置にフェルールを配置することが可能となる。そして、スタッドが挿通されたフェルールを、テンプレートの位置決め孔に配置して位置決めし、フェルールを溶接母材に当接して溶接することにより、スタッド溶接時に発生する火花、粉塵等の拡散を抑制しつつ、所望の位置にスタッドを容易に溶接して設けることが可能となる。
【0022】
===本実施形態===
本実施形態に係るスタッド溶接セットについて図を用いて説明する。
本実施形態に係るスタッド溶接セット1は、アーク方式によってスタッド2を溶接母材となる鋼材3に溶接するために用いられる。スタッド溶接セット1は、図1に示すように、鋼材3に溶接されるスタッド2と、鋼材3に密着させて対面されるテンプレート5と、溶接装置としての溶接ガン4に取り付けられて鋼材3に密着される溶接ユニット6と、スタッド2の先端部(溶接される側の端部)2aに配置されるフェルール7と、を有している。
【0023】
以下の説明においては、溶接ユニット6が取り付けられた溶接ガン4にスタッド2が装着され、溶接ユニット6が鋼材3に密着された状態で、スタッド2の溶接される先端が向く側(方向)を先端側(先端方向)とし、スタッド2のチャック4aに保持されている端部が向く側を後端側(後端方向)として説明する。
【0024】
溶接ガン4は、スタッド2を保持するチャック4aが設けられているシャフト4bを備え、当該シャフト4bを軸方向に移動させる駆動部(不図示)を備える本体部4cと、を備ている。本体部4cは、シャフト4bと直交する面を形成してシャフト4bが挿通される端部板4dと、作業者が把持するためのグリップ4eと、を備えている。
【0025】
チャック4aは、シャフト4bと同軸に形成されており、スタッド2は、チャック4aと同軸になるように保持される。このため、チャック4aに保持されたスタッド2は、シャフト4bと一直線上に配置される。端部板4dは、角部を弧状に形成した略矩形状をなし、中央にシャフト4bが軸方向に移動可能に貫通している。
【0026】
グリップ4eには、スイッチ4fが設けられており、スイッチ4fを操作することにより、シャフト4bが所定時間、軸方向に沿って後端側に移動し、その後、軸方向に沿って先端方向、すなわち鋼材(溶接母材)3側に移動して、チャック4aに保持されたスタッド2が溶接される。
【0027】
テンプレート5は、鋼材3の溶接面3aに対面されるとともに密着させて配置される金属製の板状の部材である。テンプレート5には、フェルール7が嵌合される嵌合孔5aと、嵌合孔5aよりも大きな内径をなし溶接面3a側が開放された凹部5bと、が設けられている。嵌合孔5aと凹部5bとは同心に配置されている。すなわち、テンプレート5の厚み方向において、溶接面3a側に凹部5bが設けられており、反対側に嵌合孔5aが設けられている。嵌合孔5aに嵌合されたフェルール7は、テンプレート5に対して位置決めされるので、嵌合孔5aがフェルール7の位置決め孔に相当する。
【0028】
テンプレート5における、溶接面3aと対向する対向面5cには、マグネット8が固定されている。マグネット8は、対向面5cに設けられた窪み内に収容されており、対向面5cより外側には突出していない。テンプレート5は、マグネット8により鋼材3に密着した状態で設置される。このとき、テンプレート5は、嵌合孔5aの中心が、スタッド2を溶接する溶接位置に位置するように配置される。
【0029】
フェルール7は、耐熱のセラミックで形成されており、発生するアークを空気からシールドする機能、溶融した金属の鋳型の機能、急激に冷めすぎないように保温する機能等を有している。フェルール7は、図2図3に示すように、後端側にスタッド2の直径より僅かに大きな内径をなす第1筒部7aと、第1筒部7aの先端側に設けられ、第1筒部7aの内径よりも大きな内径をなす第2筒部7bと、が繋がって一体に形成されている。このため、スタッド2にフェルール7を挿通した状態では、第1筒部7aの内面とスタッド2との間には略隙間がなく、第2筒部7bの内面とスタッド2との間には、空隙が形成される。
【0030】
フェルール7の外形は、第1筒部7aの直径より第2筒部7bの直径の方が大きく、第1筒部7aと第2筒部7bの境界部分には段差が形成されている。フェルール7は、第2筒部7b側が、鋼材3側に位置するように嵌合孔5aに配置される。鋼材3に設置されたテンプレート5の嵌合孔5aに配置され、第2筒部7bの端が鋼材3の溶接面3aに当接された状態で第2筒部7bは、テンプレート5よりも後端側に突出している。また、フェルール7において溶接面3aに当接される側の端部には、周方向に適宜間隔を空けて、後端側に窪む窪み7cが複数設けられている。
【0031】
溶接ユニット6は、図1に示すように、溶接ガン4の端部板4dと軸方向に間隔を空けて対向する絶縁板60と、絶縁板60と端部板4dとをほぼ平行に対面させて連結する一対の第1連結ロッド61と、絶縁板60と軸方向に間隔を空けて対向する対向板62と、絶縁板60と対向板62とをほぼ平行に対面させて連結する一対の第2連結ロッド63と、端部板4dと対向板62との間の外周を覆うカバー部材64と、を有している。すなわち、スタッド2及びシャフト4bの軸方向において、端部板4dと絶縁板60との間は第1ロッド61の長さ分間隔が空けられており、絶縁板60と対向板62との間は第2ロッド63の長さ分間隔が空けられており、端部板4dと絶縁板60との間は第1ロッド61の長さ分間隔が空けられており、端部板4dと対向板62とに亘るようにカバー部材64が設けられている。第1連結ロッド61及び第2連結ロッド63は、何れも中空のパイプ材により形成されている。
【0032】
絶縁板60は、絶縁性を有する部材により形成された板状の部材である。絶縁板60は、対向板62とともに、端部板4dとほぼ同じ平面形状をなしている。絶縁板60は、図4に示すように、中央にシャフト4bが挿通するシャフト挿通孔60aが設けられており、端部板4dから突出しているシャフト4bの両側、すなわちシャフト挿通孔60aの両側に水平に並べて設けられた第1連結ロッド61により端部板4dと連結されている。
【0033】
対向板62は、金属製の板状をなす部材であり、中央に、フェルール7が挿通可能なフェルール挿通孔62aが設けられており、フェルール挿通孔62aを挟んで両側に第2連結ロッド63が配置されている。対向板62は、図2に示すように、貫通するビス9が第2連結ロッド63に螺合されて接合されており、溶接面3a側にビス9の頭部が突出しないように、対向板62の、溶接面3a側の面62bに座ぐり62cが設けられている。尚、図2においては、カバー部材64を省略して示している。
【0034】
第2連結ロッド63は、図4に示すように、第1連結ロッド61と固定位置が干渉しないように、水平に並べて配置された一対の第1連結ロッド61の位置からそれぞれ、時計回りに45度回転移動した位置に固定されている。ここで、対向板62が、フェルール7が挿通可能なフェルール挿通孔62aを備え、スタッド2の溶接時にテンプレート5に密着させて対面される対面プレートに相当する。
【0035】
対向板62における絶縁板60側の面62dにはフェルール挿通孔62aに配置されるフェルール7を溶接面3a側に押圧する押圧機構65が設けられている。押圧機構65は、スタッド2が挿通される絶縁スリーブ66と、絶縁スリーブ66に当接する当接板67と、当接板67を対向板62側に付勢するスプリング68と、スプリング68の伸縮をガイドするピンをなすビス69と、を有している。ビス69及びスプリング68は、絶縁スリーブ66を挟んで両側に設けられている。ビス69は、図5に示すように、第2連結ロッド63と干渉しないように、第2連結ロッド63の位置からそれぞれ、90度回転移動した位置に設けられている。
【0036】
絶縁スリーブ66は、内径がスタッド2の外形よりも大きなパイプ状のスリーブ本体部66aと、スリーブ本体部66aの長さ方向における中央から全周において外側に突出した円盤状のフランジ部66bと、を有している。スリーブ本体部66aの外径は、対向板62に設けられたフェルール挿通孔62aよりも小さく形成されている。
【0037】
当接板67は、中央にスリーブ本体部66aの外径よりも僅かに大きな内径をなすスリーブ挿通孔67aが設けられており、スリーブ挿通孔67aを挟んで両側に、対向板62から突接されるビス69が貫通する貫通孔67bが設けられている。
【0038】
当接板67は、スリーブ本体部66aがスリーブ挿通孔67aに挿入された状態で、対向板62との間に絶縁スリーブ66が配置される。当接板67は、貫通孔67bを貫通するビス69が対向板62に螺合されると共に、ビス69の頭部と当接板67との間に介在されたスプリング68により、絶縁スリーブ66と共に対向板62側に押圧されている。
【0039】
このため、フェルール挿通孔62aにフェルール7が存在しない状態では、当接板67が対向板62側に押圧されると絶縁スリーブ66のフランジ部66bが対向板62に当接し、フェルール挿通孔62aにフェルール7が配置されると、絶縁スリーブ66の対向板62側の端66cは、フェルール7の端7dに当接してフェルール7を溶接面3a側に押圧する。
【0040】
カバー部材64は、シリコンゴム製のチューブであり、対向板62と端部板4dとの間を覆うように設けられている。カバー部材64は、シリコンゴムの伸縮性を利用して、図1に示すように、対向板62及び端部板4dの周面62e、4gに亘って密着している。このため、溶接ガン4と対向板62との間には、対向板62に設けられたフェルール挿通孔62aだけが外部と連通する空間が形成され、シャフト4bが内包される。
【0041】
上記スタッド溶接セット1を用いたスタッド溶接方法は、まず、図6に示すように、テンプレート5を鋼材3の溶接面3aにマグネット8により設置する(テンプレート設置ステップ)。このとき、溶接面3aにおいて、スタッド2を溶接する位置に、テンプレート5に設けられた嵌合孔5aの中心を合わせてテンプレート5を設置する。
【0042】
次に、溶接ユニット6が取り付けられた溶接ガン4のチャック4aにスタッド2を装着し、装着したスタッド2にフェルール7を挿通しておく。
【0043】
次に、装着されているフェルール7をテンプレート5の嵌合孔5aに配置しつつ対向板62をテンプレート5に密着させて、溶接ユニット6が設けられた溶接ガン4をセットする。このとき、フェルール7は、スプリング68に付勢された当接板67に押圧された絶縁スリーブ66により溶接面3aに当接される。
【0044】
溶接ガン4がセットされた状態では、スタッド2はフェルール7に囲まれており、テンプレート5の凹部5b内に配置されたフェルール7と凹部5b及び溶接面3aとにより区画された空間Sが、フェルール7の周りに形成される。フェルール7の内部とフェルール7の周りの空間Sとは、フェルール7に設けられた窪み7cにより連通している。
【0045】
また、テンプレート5には、対向板62が密着して対面しているので、テンプレート5と対向板62との間にも隙間は生じない。そして、対向板62と溶接ガン4の端部板4dとの間はカバー部材64により覆われているので、溶接面3aに設置されたテンプレート5の凹部5bと溶接ガン4の端部板4dとの間には、ほぼ閉鎖された空間が形成されている。
次に、スイッチ4fを操作してスタッド2を鋼材3に溶接する(溶接ステップ)。
【0046】
本実施形態のスタッド溶接セット1によれば、鋼材3に密着させて対面されるテンプレート5に、密着させて対面される対向板62が設けられており、対向板62には、テンプレート5により位置決めされたフェルール7が挿通可能なフェルール挿通孔62aが設けられているので、テンプレート5により所望の位置にフェルール7を配置して、溶接ガン4にてスタッド2を所望の位置に溶接することが可能となる。
【0047】
また、対向板62と端部板4dとの間は、対向板62及び端部板4dの周面62e、4gに全周に亘って密着するカバー部材64により囲まれているので、スタッド2が溶接されるときには、鋼材3、テンプレート5、対向板62は互いに密着しており、フェルール7は、嵌合孔5a及びフェルール挿通孔62aに配置されているのでテンプレート5及び対向板62に囲まれており、対向板62と端部板4dとの間はカバー部材64により囲まれている。このため、スタッド2の溶接時に発生する火花、粉塵等の拡散を、テンプレート5、対向板62及びカバー部材64により抑制することが可能となる。
【0048】
また、対向板62と端部板4dとの間は、カバー部材64により覆われているので、スタッド2を溶接するときには、スタッド2及びフェルール7を目視することができないが、テンプレート5によりフェルール7の位置決めをする嵌合孔5aが設けられているので、溶接ユニット6が取り付けられた溶接ガン4をセットする際に、フェルール7を鋼材3に設置されたテンプレート5の嵌合孔5aに嵌合するだけで、適切な位置にスタッド2を容易に溶接することが可能となる。
【0049】
また、スタッド2が挿通されてフェルール7を鋼材3に押圧する絶縁スリーブ66が設けられているので、カバー部材64により覆われてフェルール7を目視することができない状態であっても、絶縁スリーブ66によりフェルール7を鋼材3に確実に当接させた状態で溶接することが可能である。また、フェルール7を押圧するのは絶縁スリーブ66なので、スタッド2が挿通されて溶接する際に、対向板62やテンプレート5などの導通性を有する部材との間でアークが発生することを防止することが可能となる。
【0050】
また、鋼材3に密着させて対面されるテンプレート5は、フェルール7が嵌合されて位置決めされる嵌合孔5aと、溶接面3a側が開放されて嵌合孔5aよりも大きな内径をなす凹部5bと、を有しているので、テンプレート5が鋼材3に密着されてフェルール7が配置されると、鋼材3、テンプレート5及びフェルール7により区画された空間Sが形成される。このため、スタッド2を溶接するときに発生するスパッタ等を区画された空間S内に留めることが可能となる。
【0051】
上記実施形態においては、対向板62と端部板4dとの間をカバー部材64により覆う例について説明したが、これに限るものではない。例えば、カバー部材は、対向板62の周面62eに全周に亘って密着してテンプレート5とは反対側に延出されていれば、スタッド2の溶接時に発生する火花、粉塵等の拡散を抑制することが可能である。
【0052】
上記実施形態においては、溶接装置として溶接ガン4を例に挙げて説明したが、これに限らず、自動化された溶接ロボットなど、スタッドを保持するシャフトを軸方向に往復移動させる駆動部を備えた溶接装置であれば構わない。
【0053】
また、本実施形態のスタッド溶接方法によれば、テンプレート5を鋼材3に設置することにより、スタッド2を設けたい所望の位置にフェルール7を容易に配置することが可能となる。そして、溶接ユニット6が取り付けられた溶接ガン4に装着したスタッド2を、テンプレート5の嵌合孔5aにフェルール7を配置することで位置決めすることが可能となるので、カバー部材64により対向板62と端部板4dとの間を覆って火花、粉塵等の拡散を抑制しつつも、所望の位置にスタッド2を容易に溶接して設けることが可能となる。上記実施形態においては、溶接ユニット6が取り付けられた溶接ガン4のチャック4aにスタッド2を装着する際に、装着したスタッド2にフェルール7を挿通しておく例について説明したが、フェルール7は、鋼材3に設置されたテンプレート5の嵌合孔5aに嵌合しておいても構わない。
【0054】
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0055】
1 スタッド溶接セット
2 スタッド
2a 溶接される側の端部
3 鋼材(溶接母材)
3a 溶接面
4 溶接ガン(溶接装置)
4a チャック
4b シャフト
4c 本体部
4d 端部板
4e グリップ
4f スイッチ
4g 端部板の周面
5 テンプレート
5a 嵌合孔(位置決め孔)
5b 凹部
5c 対向面
6 溶接ユニット
7 フェルール
7a 第1筒部
7b 第2筒部
7c 窪み
7d フェルールの端
8 マグネット
9 ビス
60 絶縁板
60a シャフト挿通孔
61 第1連結ロッド
62 対向板(対面プレート)
62a フェルール挿通孔
62b 溶接面側の面
62c 座ぐり
62d 絶縁板側の面
62e 対向板の周面
63 第2連結ロッド
64 カバー部材
65 押圧機構
66 絶縁スリーブ
66a スリーブ本体部
66b フランジ部
66c スリーブの端
67 当接板
67a スリーブ挿通孔
67b 貫通孔
68 スプリング
69 ビス
S 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6