(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097973
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】う蝕検出装置
(51)【国際特許分類】
A61B 1/24 20060101AFI20230703BHJP
A61C 19/04 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
A61B1/24
A61C19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214409
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】佐山 篤
【テーマコード(参考)】
4C052
4C161
【Fターム(参考)】
4C052NN05
4C052NN15
4C052NN16
4C161AA08
4C161QQ02
4C161QQ03
4C161QQ07
4C161WW02
(57)【要約】
【課題】ラマン散乱光の検出によるう蝕の検出を短時間で実現する。
【解決手段】う蝕検出装置(1)は、光源(11)から近赤外線を歯(T)に照射して歯(T)の透過光を検出するスクリーニング光学系(10A)と、当該透過光の情報から検出される歯(T)におけるう蝕候補部に光源(11)から近赤外線を照射し、う蝕候補部から発生するラマン散乱光を検出するラマン散乱光検出光学系(10B)と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から第一の検査光を歯に照射し、前記歯の透過光または前記歯から発生する蛍光を検出するスクリーニング光学系と、
前記スクリーニング光学系で検出した前記透過光または前記蛍光の情報から特定される前記歯におけるう蝕候補部に前記光源から第二の検査光を照射し、前記う蝕候補部から発生するラマン散乱光を検出するラマン散乱光検出光学系と、
を有するう蝕検出装置。
【請求項2】
前記スクリーニング光学系で検出した前記透過光または前記蛍光の情報に応じて前記う蝕候補部を特定するう蝕候補部特定部をさらに備える、請求項1に記載のう蝕検出装置。
【請求項3】
前記ラマン散乱光検出光学系で検出した前記ラマン散乱光の情報に応じて前記う蝕候補部のう蝕を検出するう蝕検出部をさらに備える、請求項1または2に記載のう蝕検出装置。
【請求項4】
前記第一の検査光および前記第二の検査光はいずれも近赤外線である、請求項1~3のいずれか一項に記載のう蝕検出装置。
【請求項5】
前記第一の検査光は前記蛍光よりも短波長の光であり、前記第二の検査光は近赤外線である、請求項1~3のいずれか一項に記載のう蝕検出装置。
【請求項6】
前記スクリーニング光学系は、前記歯における前記第一の検査光の照射範囲を変化させることが可能な焦点距離可変光学系をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のう蝕検出装置。
【請求項7】
前記焦点距離可変光学系は液体レンズをさらに含む、請求項6に記載のう蝕検出装置。
【請求項8】
前記う蝕候補部の情報に応じて、前記う蝕候補部における前記第二の検査光の照射位置のずれを補正する第二検査光照射位置補正部をさらに備える、請求項1~7のいずれか一項に記載のう蝕検出装置。
【請求項9】
前記歯に対する前記スクリーニング光学系および前記ラマン散乱光検出光学系の揺れの影響を打ち消す揺れ補正部をさらに備える、請求項1~8のいずれか一項に記載のう蝕検出装置。
【請求項10】
前記ラマン散乱光検出光学系は、前記う蝕候補部から発生する前記ラマン散乱光から特定の波長の光のみを透過させるフィルタをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のう蝕検出装置。
【請求項11】
前記スクリーニング光学系で検出した前記透過光または前記蛍光の情報に基づく画像、および、前記ラマン散乱光検出光学系で検出した前記ラマン散乱光の情報に基づく画像、の一方または両方を表示する表示装置をさらに備える、請求項1~10のいずれか一項に記載のう蝕検出装置。
【請求項12】
前記スクリーニング光学系で検出した前記透過光または前記蛍光の情報に基づく特定のう蝕候補部の画像と、前記ラマン散乱光検出光学系で検出した前記ラマン散乱光の情報に基づく前記特定のう蝕候補部の画像とを前記表示装置に表示する表示制御部をさらに備える、請求項11に記載のう蝕検出装置。
【請求項13】
前記スクリーニング光学系で検出した前記透過光または前記蛍光の情報に基づく特定のう蝕候補部の画像と、前記ラマン散乱光検出光学系で検出した前記ラマン散乱光の情報に基づく前記特定のう蝕候補部の画像との位置の差分を検出する差分検出部をさらに備える、請求項12に記載のう蝕検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、う蝕検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯を失う要因としては「う蝕」および「歯周病」といった歯周疾患が大きな割合を示すことが知られている。歯周疾患の一つである「う蝕」に注目すると、「う蝕」の進行度を定量的に評価する技術として、分光技術の一つであるラマン分光を利用する技術が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-78978号公報
【特許文献2】国際公開第2019/106819号
【特許文献3】特表2018-521701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ラマン分光においては、一般にラマン散乱光の強度が小さい。このため、定量的な評価を行うだけの十分な光量を得るためには、積算時間を長くする必要がある。これは診断に時間を要することに繋がり、患者は長時間口を開けたままの状態が続いてしまうため、患者にとって非常に大きなストレスとなる。このように、ラマン散乱光を利用する従来のう蝕の検出技術には、う蝕の検出に要する時間を短くする観点から検討の余地が残されている。
【0005】
本発明の一態様は、ラマン散乱光の検出によるう蝕の検出を短時間で実現可能な技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るう蝕検出装置は、光源から第一の検査光を歯に照射し、前記歯の透過光または前記歯から発生する蛍光を検出するスクリーニング光学系と、前記スクリーニング光学系で検出した前記透過光または前記蛍光の情報から特定される前記歯におけるう蝕候補部に前記光源から第二の検査光を照射し、前記う蝕候補部から発生するラマン散乱光を検出するラマン散乱光検出光学系と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、ラマン散乱光の検出によるう蝕の検出を短時間で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態1に係るう蝕検出装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係るう蝕検出装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態1におけるう蝕検出の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施形態1におけるう蝕候補部のスクリーニングを説明するための図である。
【
図5】本発明の実施形態1におけるスクリーニングによるう蝕候補部を示す画像の一例を示す写真を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態1におけるう蝕の検出を説明するための図である。
【
図7】本発明の実施形態1におけるう蝕の検出結果の一例を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態2に係るう蝕検出装置の構成を模式的に示す図である。
【
図9】本発明の実施形態2におけるう蝕候補部のスクリーニングを説明するための図である。
【
図10】本発明の実施形態2におけるスクリーニングによるう蝕候補部を示す画像の一例を示す写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。本発明の実施形態におけるう蝕検出装置は、検査光の照射により、被測定物である歯の透過光画像もしくは当該歯から発せられる蛍光の画像を取得してう蝕が疑われる部分を特定する。そして、当該う蝕検出装置は、当該う蝕が疑われる部分に検査光を照射して当該部分から発せられるラマン散乱光を検出する。下記の本発明の実施形態は、当該う蝕検出装置を駆動するシステムを含む。
【0010】
[装置の構成]
図1は、本発明の実施形態1に係るう蝕検出装置の構成を模式的に示す図である。
図1に示されるように、う蝕検出装置1は、光源11、透過光受光センサ12、ラマン散乱光受光センサ13、光学系14および表示装置15を有する。また、う蝕検出装置1は、これらの各部の動作を制御するための制御部を備える。
【0011】
光源11は、近赤外領域の検査光(近赤外線)を発生させる光源である。光源11には、半導体レーザー、ファイバーレーザーなどの高出力な光源を用いることができる。
【0012】
透過光受光センサ12は、近赤外線で照射されている被測定物である歯Tを透過する透過光を検出するためのセンサである。なお、本実施形態において、透過光とは、歯Tに照射されている近赤外線のうちの歯Tを透過した光である。透過光受光センサ12には、CMOS(相補型金属酸化物半導体)カメラおよびCCD(電荷結合素子)カメラなどのイメージセンサを用いることができ、本実施形態では、例えばCMOSカメラである。
【0013】
ラマン散乱光受光センサ13は、近赤外線で照射されている歯Tから発生するラマン散乱光を検出するためのセンサである。ラマン散乱光受光センサ13には、フォトダイオードおよび光電子増倍管などの光学検出素子を用いることができ、本実施形態では、例えばフォトダイオードである。
【0014】
光学系14は、光源11から透過光受光センサ12に至る検査光および透過光の経路を形成するための構成であり、また、光源11からラマン散乱光受光センサ13に至る検査光およびラマン散乱光の経路を形成するための構成である。光学系14は光学素子の組み合わせによって構成することが可能である。光学系14は、光学フィルタ141および焦点距離可変レンズ142、によって構成することができる。
【0015】
光学フィルタ141は、光源11からの近赤外線を歯Tに向けて反射し、かつ歯Tからのラマン散乱光を透過させる光学素子である。光学フィルタ141には、バンドパスフィルタ、エッジフィルタ、ロングパスフィルタおよびノッチフィルタなどの、特定の波長の光を反射あるいは透過させる光学フィルタを用いることができる。本実施形態では、光学フィルタ141は、例えばノッチフィルタ、エッジフィルタあるいはロングパスフィルタである。
【0016】
焦点距離可変レンズ142は、光学フィルタ141よりも歯T側に配置され、歯Tに照射される近赤外線の歯Tにおける照射範囲を変化させるための光学素子である。焦点距離可変レンズ142は、焦点距離を可変な光学的な構成であればよく、液体レンズのような単体の光学素子であってもよいし、二以上のレンズの間隔を変化させて焦点距離を変えるレンズユニットのような複数の光学素子で構成されていてもよい。本実施形態では、焦点距離可変レンズ142について、液体レンズを適用した形態として説明する。
【0017】
光学系14は、上記の光の経路を構成するために、光ファイバーおよび各種ミラーなどの他の光学機器をさらに含んでいてよい。
【0018】
ここで、光源11、透過光受光センサ12および光学系14は、光源11から近赤外線を歯Tに照射し、歯Tの透過光を検出する光学系を構成している。本実施形態における当該光学系を、スクリーニング光学系10Aとも言う。本実施形態において、スクリーニング光学系10Aは、歯Tにおける近赤外線の照射範囲を変化させることが可能な焦点距離可変光学系として、焦点距離可変レンズ142、より具体的には例えば液体レンズ、をさらに含んでいる。
【0019】
また、光源11、ラマン散乱光受光センサ13および光学系14は、歯Tにおける後述のう蝕候補部に光源11から近赤外線を照射し、う蝕候補部から発生するラマン散乱光を検出する光学系を構成している。本実施形態における当該光学系を、ラマン散乱光検出光学系10Bとも言う。本実施形態において、ラマン散乱光検出光学系10Bは、う蝕候補部から発生するラマン散乱光から特定の波長の光のみを透過させる光学フィルタ141をさらに含んでいる。
【0020】
表示装置15は、スクリーニング光学系10Aで検出した透過光の情報に基づく画像、および、ラマン散乱光検出光学系10Bで検出したラマン散乱光の情報に基づく画像、の一方または両方を表示するための装置である。「検出した光の情報に基づく画像」とは、う蝕検出装置の使用者が当該情報として視認可能な画像であればよく、その例には、歯Tの画像、検出した光の特徴(強度あるいは波長など)を示すスペクトルおよびグラフが含まれる。表示装置15は、上記の情報を視覚的に出力する装置であり、例えば液晶ディスプレイである。
【0021】
なお、本実施形態において、光源11は、スクリーニング光学系10Aおよびラマン散乱光検出光学系10Bのいずれにおいても、近赤外線を出力する装置である。すなわち、本実施形態では、スクリーニング光学系10Aにおける第一の検査光、および、ラマン散乱光検出光学系10Bにおける第二の検査光、はいずれも近赤外線である。
【0022】
本実施形態において、光源11、透過光受光センサ12、ラマン散乱光受光センサ13および光学系14は、口腔の歯Tに対して検査可能に、検査用治具に保持されている。検査用治具は、ヒトの口腔に挿入可能な器具であり、例えば口腔の歯Tに対して検査可能なように少なくとも透過光受光センサ12および焦点距離可変レンズ142を保持している。本実施形態において、当該検査用治具は、歯Tを挟んで口腔の奥側に透過光受光センサ12を保持し、口腔の手前側に光源11、光学系14およびラマン散乱光受光センサ13を保持している。
【0023】
[機能的構成]
図2は、本実施形態に係るう蝕検出装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。う蝕検出装置1は、制御部16をさらに備えている。制御部16は、例えばプロセッサであり、特定の制御ブロックとして機能するためのプログラムによって、所期の制御を実現する。
図2に示されるように、制御部16は、う蝕候補部特定部161、う蝕検出部162、焦点距離制御部163、表示制御部164、第二検査光照射位置補正部165、揺れ補正部166および差分検出部167を備えている。
【0024】
[う蝕の検出]
う蝕検出装置1を用いるう蝕の検出は、歯科医などのユーザがう蝕検出装置1を手動で操作して実施してもよいし、制御装置によって一部または全部を自動で実施してもよい。以下、本実施形態では、う蝕検出装置1を用いるう蝕の検出について、その一例として、制御装置による制御を利用する形態を説明する。
図3は、本実施形態におけるう蝕検出の処理の一例を示すフローチャートである。
【0025】
<スクリーニング>
う蝕候補部特定部161は、被検者の歯Tのう蝕のスクリーニングの測定を開始する(ステップS301)。当該スクリーニングは、近赤外線で歯Tを照射することによって実施される。制御部16は、光源11から近赤外線を発生させる。光源11で発生した近赤外線は、光学フィルタ141で反射し、液体レンズである焦点距離可変レンズ142を通って歯Tに照射される。
【0026】
図4は、本実施形態におけるう蝕候補部のスクリーニングを説明するための図である。近赤外線は、歯Tのエナメル質および象牙質を透過する。よって、透過光受光センサ12は、近赤外線の透過光を受光し、検出する。
【0027】
このようにして、例えば被検者の全ての歯Tに対して順次近赤外線を照射していくと、被検者の全ての歯Tの近赤外線の透過光の情報が歯Tの当該透過光の画像として得られる。こうして、う蝕候補部特定部161は、スクリーニング用の画像として、歯Tを透過した近赤外線の画像を取得する(ステップS302)。
【0028】
次いで、う蝕候補部特定部161は、当該画像を解析する(ステップS303)。
図5は、本実施形態におけるスクリーニングによるう蝕候補部を示す画像の一例を示す写真を示す図である。なお、
図5に示す写真は、Graham C. Jones, Robert. S. Jones and Daniel Fried, Proc. of SPIE, 5313, 17 (2004)より引用している。
【0029】
う蝕のない、正常な歯Tでは、近赤外線は、エナメル質または象牙質を透過する。一方で、う蝕のようにエナメル質または象牙質に空洞あるいは変質などの特異部が存在する歯Tでは、近赤外線は、当該特異部において吸収、反射あるいは散乱する。そのため、歯Tにおけるう蝕の疑いのある部分(う蝕候補部)は、歯Tの近赤外線の透過光の画像では、
図5の枠A1に示すように、暗部として表される。よって、
図5に示す写真のような暗部は、う蝕候補部と決めることができる。う蝕候補部特定部161は、このような明暗の差の有無を、例えば予め決められている閾値に基づいて判定するなどして、スクリーニング光学系10Aで検出した透過光の情報に応じてう蝕候補部を特定する。
【0030】
<ラマン分光によるう蝕の検出>
次いで、う蝕検出部162は、ラマン分光の測定を開始する(ステップS304)。
図6は、本実施形態におけるう蝕の検出を説明するための図である。まず、焦点距離制御部163は、焦点距離可変レンズ142としての液体レンズへの印加電圧を制御して、特定の歯Tにおいてう蝕候補部特定部161が決定したう蝕候補部へ光源11からの近赤外線を集光させる。う蝕候補部とは、例えば
図5の枠A1内の暗部である。このようにして、う蝕検出部162は、う蝕候補部に近赤外線を集光し、ラマン分光を開始する。
【0031】
次いで、う蝕検出部162は、ラマンスペクトルを取得する(ステップS305)。う蝕候補部は、歯Tのごく一部分であり、光源11からの近赤外線が集中して当該う蝕候補部に照射される。う蝕候補部で発生したラマン散乱光を含む光は、光学フィルタ141に到達する。当該光のうち、ラマン散乱光のみが光学フィルタ141を通過する。よって、う蝕候補部で発生したラマン散乱光の一部は、光学系14を介してラマン散乱光受光センサ13に到達し、検出される。ラマン散乱光は、通常、微弱な光であるが、検査光である近赤外線がう蝕候補部に集中して照射されるため、う蝕候補部のラマンスペクトルが短時間で取得される。
【0032】
次いで、う蝕検出部162は、ラマンスペクトルを解析する(ステップS306)。
図7は、本実施形態におけるう蝕の検出結果の一例を示す図である。
図7に示されるように、歯Tのラマン散乱光は、いずれも900~1000cm
-1の間の同じ位置にピークを有するが、歯Tの正常な部分に比べて歯Tにおけるう蝕の部分は、ラマン散乱光の強度が明らかに小さくなる。う蝕検出部162は、う蝕候補部ごとに、例えば
図7に示されるように、個々のラマンスペクトルを重ね、あるいは特定のピーク強度若しくは複数のピーク間の強度比を比較するなどして、ラマンスペクトルを解析する。
【0033】
次いで、う蝕検出部162は、う蝕の診断を実施する(ステップS307)。う蝕検出部162は、う蝕候補部のうち、ラマンスペクトルにおける特定の要件を満たすう蝕候補部をう蝕と判定する。たとえば、う蝕検出部162は、予め決められているピーク強度の閾値に基づいて、う蝕か否かを判定する。あるいは、う蝕検出部162は、う蝕候補部におけるラマン散乱光の強度と正常な部分でのラマン散乱光の強度との差(あるいは比率)を算出し、当該差または比率について予め決められている閾値に基づいて、う蝕か否かを判定する。このようにして、ラマン散乱光検出光学系10Bで検出したラマン散乱光の情報に応じてう蝕候補部のう蝕を検出する。
【0034】
<誤診の防止>
う蝕の検出の作業において、患者などの被験者、あるいは歯科医などのユーザの動きを連続して完全に止めることは難しい。よって、ラマン分光測定を行う位置がスクリーニング用画像におけるう蝕候補部と一致しなくなる可能性がある。このような不一致による誤診を防止するために、本実施形態では、ラマン散乱光の検出の後にスクリーニングを行ってもよい。たとえば、本実施形態では、
図3の破線の矢印に示すように、ラマンスペクトルの取得(ステップS305)を一定回数測定した後にステップS302のスクリーニング用画像の取得に戻ってもよい。そして、必要に応じてステップS303の画像解析を実施し、ラマン分光の測定の位置の補正の要否の判断材料としてもよい。あるいは、ステップS302への移行は、ラマンスペクトルの取得から一定時間が過ぎた後に行ってもよい。
【0035】
制御部16は、う蝕の検出(診断)に際し、誤診を防止するための制御を必要に応じて実施する。歯科医などのユーザがう蝕を診断する場合では、表示制御部164は、スクリーニング光学系10Aで検出した透過光の情報に基づく特定のう蝕候補部の画像と、ラマン散乱光検出光学系10Bで検出したラマン散乱光の情報に基づく特定のう蝕候補部の画像とを表示装置15に表示する。制御部16は、ここで言う「スクリーニング光学系10Aで検出した透過光の情報に基づく特定のう蝕候補部の画像」を、ラマン散乱光検出光学系10Bによる当該特定のう蝕候補部のラマン散乱光の画像を取得した後に、改めて撮像して取得する。
【0036】
制御部16は、表示装置15におけるこのような画像の表示を、例えばユーザからの入力信号に応じて、あるいは前述のステップS307のう蝕の診断に伴い自動で実施する。表示制御部164は、上記の二つ画像を、表示装置15において、一画面中に並べて表示し、あるいは同じスケールの画像として重ねて表示する。このような処理によれば、う蝕候補部のラマン分光を測定した後に当該ラマン分光における測定位置を参照することが可能となり、ラマン分光の測定後に撮影されたスクリーニング画像に基づいて、歯Tにおける検査光の集光位置が確認される。これにより想定とは異なる位置を測定していたとしても、ユーザがこのような測定位置の間違いに容易に気づくことができ、測定位置の間違いによる誤診断が防がれる。
【0037】
<測定のブレの抑制>
上述のようにう蝕の検出において被験者およびユーザの動きを完全に止めることは難しい。よって、制御部16は、スクリーニングにおける透過光の検出時あるいはラマン散乱光の検出時での測定のブレを抑止する制御をさらに実施してもよい。
【0038】
たとえば、第二検査光照射位置補正部165は、う蝕候補部の情報に応じて、う蝕候補部における近赤外線の照射位置のずれを補正する。照射位置のずれの補正は、例えば、当該照射位置が当初の照射位置を維持している場合にそれを表す第一の信号をう蝕検出装置1が発信し、当該照射位置が当初の位置からずれた場合にそれを表す第二の信号をう蝕検出装置1が発信することによって実現可能である。
【0039】
第一の信号および第二の信号は、いずれも、表示装置15に表示される画像のような視認可能な信号であってもよいし、音声などの画面に表示されない形態の信号であってもよい。第二の信号は、当初の位置からのずれの大きさに応じて変化してもよい。このような制御によれば、ラマン分光測定を行っている間に近赤外線を集光する位置が随時かつ適切に補正され、近赤外線の集光位置を一定にする観点から有利である。よって、測定を行うユーザの動き(例えば手の震えなど)による測定結果への影響が抑制される。
【0040】
また、例えば、揺れ補正部166は、歯に対する前記スクリーニング光学系および前記ラマン散乱光検出光学系の揺れの影響を打ち消す。このような制御は、例えば前述した検査用治具の手振れによる揺れを検出し、当該揺れに応じて当該揺れを打ち消す方向へ近赤外線の光路を動かすことにより実現される。当該制御は、カメラあるいは望遠鏡などの光学機器における手振れ防止機能と同様に実施することが可能である。当該制御も、測定を行うユーザの動き(例えば手の震えなど)による測定結果への影響を抑制する観点から有効である。
【0041】
また、例えば、差分検出部167は、スクリーニング光学系10Aで検出した透過光の情報に基づく特定のう蝕候補部の画像と、ラマン散乱光検出光学系10Bで検出したラマン散乱光の情報に基づく特定のう蝕候補部の画像との位置の差分を検出する。このような位置の差分は、フレーム間差分法および背景差分法などの公知の手法を利用して実施可能である。より詳しくは、移動前後の差分画像と三角測量などの位置を決定する手法と組み合わせることで、どれくらいの距離動いたのか(すなわち位置の差分)を求めることが可能である。当該制御によれば、ユーザが位置のずれを確認することが可能であり、位置のずれの方向およびタイミングなどから、位置のずれの原因をユーザが認識し、ユーザが当該原因となった動作により注意を払うことが可能である。当該制御も、測定を行うユーザの動き(例えば手の震えなど)による影響を取り除く観点から有効である。
【0042】
[本実施形態の主な作用効果]
世界的に人類の寿命が延びつつある中、介護を必要とせずに暮らすことができる期間である健康寿命を延ばすことは重要な社会課題となってきている。これまでの研究および調査の結果、歯の本数が多い高齢者は健康寿命が長い傾向にあることが分かってきている。歯を失う要因としては「う蝕」あるいは「歯周病」といった歯周疾患が大きな割合を示す。従って、如何に歯周疾患を予防または早期発見するかが重要である。
【0043】
歯周疾患の一つである「う蝕」に注目すると、「う蝕」の検知は、レントゲンあるいは歯科医師による触診などで行われてきた。しかし、普及しているほぼ唯一の検査装置であるレントゲンは、初期段階の「う蝕」は検知が難しく、検知できた時にはすでに削らなければならない段階になっていることも多い。
【0044】
また、歯科医師による触診は本人の経験に頼る部分が大きく、誤診の問題が避けられない。近年、初期段階の「う蝕」であれば歯を削ることなく治療できることが明らかになり、「う蝕」を進行させない予防歯科の概念が大きくなっている。このように、初期の「う蝕」を精度よく検知する技術は、近年注目され、また望まれている。
【0045】
ラマン分光は、歯のう蝕部を高い精度で検出することが可能であり、初期段階の「う蝕」を検出する観点から有利である。一方、検査光の歯への照射によるラマン散乱光は弱く、このためラマン分光の測定時間は長くなる。正常な歯は、う蝕部に比べてはるかに広い表面積を占めており、歯全体と言う、う蝕部に比べて広い空間範囲からう蝕を検出するには、適切な測定時間との観点からであればラマン分光法は不向きと言わざるを得ない。
【0046】
本実施形態では、近赤外線による歯Tの透過光画像情報によって歯Tのう蝕候補部を検出し、当該う蝕検出部のそれぞれについての近赤外線によるラマン散乱光の検出によって歯Tのう蝕を検出する。このように本実施形態では、広範囲を測定できる近赤外線によるスクリーニング技術とラマン分光法とを組み合わせることで、「う蝕」が疑われる箇所のみを選択的にラマン分光で測定することが可能となる。このため、ラマン分光法のみでう蝕を検出する場合に比べて、測定時間が短縮する。よって、本実施形態では、初期のう蝕を迅速に、また精度よく検出することが可能である。
【0047】
また、本実施形態では、スクリーニング光学系10Aおよびラマン散乱光検出光学系10Bのいずれにおいても検査光は近赤外線である。よって、光源11から発生する光が近赤外線のみであることから、光源11の構成を簡素にすることが可能である。また、検査光が単一であるため、検出すべきラマン散乱光は、単一の検査光(近赤外線)と分離可能であればよいことから、ラマン散乱光検出光学系10Bの構成を簡素にする観点から有利である。
【0048】
また、本実施形態では、スクリーニング光学系10Aは、焦点距離可変光学系として焦点距離可変レンズ142、例えば液体レンズ、をさらに含む。これにより、検査光の照射範囲を歯Tの全体からう蝕候補部まで容易に変更することが可能となる。よって、う蝕候補部のスクリーニングからう蝕の検出までを同一の装置で実施する観点から有利である。
【0049】
また、本実施形態では、ラマン散乱光検出光学系10Bは光学フィルタ141をさらに含む。光学フィルタ141は、ラマン散乱光のうちのう蝕候補部から発生する成分などの特定の波長の光のみを透過させ得るため、有効な波長のみを検出し、あるいは特定の異なる波長の光の成分を検出してこれらの強度比を容易に求めることを可能とし得る。このため、う蝕の検出のさらなる短縮が実現され得る。
【0050】
また、本実施形態では、う蝕検出装置1は表示装置15をさらに有している。よって、ラマン分光によるう蝕の検出において、スクリーニングにおける歯Tの透過光の画像を利用する観点から有利である。
【0051】
加えて、う蝕をラマン分光を用いて診断する際には、う蝕が疑われる箇所を固定して光を集光する必要があるが、現実的には患者の動きや歯科医の手の動きを完全に固定することは困難である。そのため、実際はう蝕ではない箇所をう蝕箇所と思いこみ測定してしまうことで、誤診断してしまう可能性が十分に考えられる。本実施形態では測定位置を補正する種々のシステムが導入され得るので、そのような誤診断の可能性をより一層小さくすることが可能となる。
【0052】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0053】
[装置の構成]
図8は、本実施形態に係るう蝕検出装置の構成を模式的に示す図である。
図8に示されるように、う蝕検出装置2は、スクリーニング光学系20Aとラマン散乱光検出光学系20Bとを含んでいる。スクリーニング光学系20Aは、光源21、蛍光受光センサ22、および光学系24によって構成されている。スクリーニング光学系20Aは、光源21から第一の検査光である励起光を歯Tに照射し、歯Tから発生する蛍光を検出するための光学系である。ラマン散乱光検出光学系20Bは、光源21、ラマン散乱光受光センサ13および光学系24によって構成されている。ラマン散乱光検出光学系20Bは、上記の蛍光の情報から検出される歯Tにおけるう蝕候補部に光源21から第二の検査光である近赤外線を照射し、う蝕候補部から発生するラマン散乱光を検出するための光学系である。
【0054】
なお、本実施形態において、蛍光とは、第一の検査光である励起光で照射されている歯Tが発生する蛍光である。当該励起光は、う蝕を有する歯においてう蝕に特有の励起を引き起こし、う蝕に特有の蛍光を発生させる光であればよい。当該励起光には、波長300~800nmの範囲の一部の波長の可視光が適用され得る。
【0055】
光源21は、励起光と近赤外線とを発生させる装置である。励起光は、スクリーニング用の検査光であり、う蝕を有する歯から蛍光を発生させる光である。励起光は当該蛍光よりも短波長の光であり、例えば波長300~800nmの範囲から選ばれる一部の波長を含む可視光である。近赤外線は、ラマン散乱光検出用の検査光であり、う蝕候補部からラマン散乱光を発生させる光である。光源21には、半導体レーザーおよびファイバーレーザーなどの高出力な光源が用いられる。光源21は、波長可変光源であってもよいし、励起光および近赤外線のそれぞれに応じた複数の光源であってもよい。
【0056】
蛍光受光センサ22は、第一の検査光である励起光を歯Tに照射したときに発生する蛍光を検出するためのセンサである。蛍光受光センサ22には、CMOSカメラおよびCCDカメラなどのイメージセンサを用いることができる。本実施形態では、例えばCMOSカメラである。
【0057】
光学系24は、光学フィルタ241および243と、焦点距離可変レンズ242とによって構成されている。
【0058】
光学フィルタ241は、光源21と歯Tとの間に配置され、光源21からの励起光を歯Tに向けて反射し、それ以外の光を透過する。光学フィルタ241には、バンドパスフィルタ、エッジフィルタ、ロングパスフィルタ、ダイクロイックミラーおよびノッチフィルタなどを用いることができる。本実施形態において、光学フィルタ241は、例えばノッチフィルタ、エッジフィルタ、ダイクロイックミラーまたはロングパスフィルタである。
【0059】
焦点距離可変レンズ242は、光学フィルタ241と歯Tとの間に配置され、光学フィルタ241からの検査光、および、歯Tからの蛍光またはラマン散乱光の光路上に配置されている。焦点距離可変レンズ242は、少なくとも、光学フィルタ241からの検査光を歯Tの表面に集光可能である。本実施形態において、焦点距離可変レンズ242は、焦点距離可変レンズ142と同様の、焦点距離を可変な光学的な構成であり、例えば液体レンズである。
【0060】
光学フィルタ243は、光学フィルタ241に対して焦点距離可変レンズ242とは反対側であって、光学フィルタ241と蛍光受光センサ22およびラマン散乱光受光センサ13との間に配置されている。光学フィルタ243は、歯Tからの蛍光を蛍光受光センサ22に向けて反射し、その他の光を透過する。本実施形態において、光学フィルタ243は、例えばエッジフィルタ、ダイクロイックミラーまたはロングパスフィルタである。
【0061】
なお、本実施形態における機能的な構成は、透過光受光センサ12に代えて蛍光受光センサ22が制御部16に接続される以外は、
図2に示される構成と実質的に同じである。
【0062】
[う蝕の検出]
う蝕検出装置2を用いるう蝕の検出は、スクリーニング以外は、前述した実施形態1のそれと実質的には同様に実施することができる。
【0063】
<スクリーニング>
制御部16は、光源21から励起光を発生させる。光源21で発生した励起光は、光学フィルタ241で反射し、焦点距離可変レンズ242(液体レンズ)を通って歯Tに照射される。
図9は、本実施形態におけるう蝕候補部のスクリーニングを説明するための図である。励起光は、正常な歯Tには反射し、あるいは散乱する。一方、う蝕を有する歯Tに対しては、励起光は、
図9に示されるように、う蝕部に吸収され、より長波長の蛍光を発生する。たとえば、励起光がう蝕を有する歯Tに照射されると、
図10中の枠A2で示されるように、赤色の蛍光を発生する。
図10は、本実施形態におけるスクリーニングによるう蝕候補部を示す画像の一例を示す写真を示す図である。なお、
図10に示す写真は、Tokuji HASEGAWA, Dental Medicine Research, 33, 259-264 (2013)より引用している。
【0064】
当該蛍光は、焦点距離可変レンズ242を通過し、光学フィルタ241を通過し、光学フィルタ243において蛍光受光センサ22に向けて反射し、蛍光受光センサ22に受光され、検出される。本実施形態では、う蝕候補部特定部161は、このような蛍光の有無を、例えば予め決められている閾値に基づいて判定するなどして、スクリーニング光学系20Aで検出した蛍光の情報に応じてう蝕候補部を特定する。
【0065】
<その他>
本実施形態において、ラマン分光によるう蝕の検出は、光源21が発生する検査光を励起光から近赤外線に切り替える以外は前述した実施形態1と同様に実施される。また、本実施形態における誤診の防止および測定のブレの抑制についての制御は、実施形態1のそれと同様に実施され得る。
【0066】
[本実施形態の主な作用効果]
本実施形態では、励起光の照射によるによる歯Tの蛍光画像情報によって歯Tのう蝕候補部を検出し、当該う蝕検出部のそれぞれについての近赤外線によるラマン散乱光の検出によって歯Tのう蝕を検出する。本実施形態では、歯Tのう蝕に特有の蛍光によって歯Tをスクリーニングすることから、前述した実施形態1と同様に、早期のう蝕を迅速かつ精度よく検出することが可能である。
【0067】
また、本実施形態では、スクリーニングにおける検査光は、う蝕を有する歯からう蝕に特有の蛍光を発生させる光、例えば蛍光よりも短波長の光、であり、ラマン散乱光の検出における検査光は近赤外線である。そして本実施形態では、当該蛍光のうち、検査光の進行方向に対して反対方向に発生するものを集光し、検出可能である。よって、スクリーニング光学系20Aおよびラマン散乱光検出光学系20Bは、いずれも、歯Tに対して被検者の口腔の手前側に配置される。したがって、歯Tに対して口腔の手前側から検査光を照射し、当該手前側で検出光が検出される。このため、患者などの被検者の口腔におけるう蝕候補部およびう蝕の検出をより容易にすることが可能である。
【0068】
〔その他の実施形態〕
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0069】
たとえば、本発明の実施形態において、表示装置15はユーザのための入力装置を兼ねてもよい。たとえば、表示装置15はタッチパネルをさらに含んでもよい。
【0070】
また、本発明の実施形態において、う蝕候補部およびう蝕部の決定は、それぞれ、歯科医などのユーザが実施してもよい。ユーザがう蝕候補部を決定する場合では、ユーザによる決定結果の入力により、その後のラマン散乱光の検出が自動で実施されてもよい。あるいは、自動的に決定されたう蝕候補部について、ユーザがラマン散乱光分析を手動で実施し、その結果に基づいてう蝕の検出の最終的な判断を下してもよい。
【0071】
また、本発明の実施形態において、制御部16に所期の制御を実現させるためのプログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して制御部16に供給されてもよい。また、制御部16における各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。制御部16は、例えば上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路であってもよい。また、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0072】
また、本発明の実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。たとえば、本発明の実施形態において、う蝕候補部の決定、う蝕部の決定あるいはう蝕の診断をAIに実行させてもよい。前述の特許文献3は、歯のラマンスペクトルからう蝕の進行度合いを定量的に評価するための計算式を提案している。このような定量的な評価の知見に基づいて、う蝕候補部、う蝕部およびその診断について十分に有用な結果がAIによってもたらされることが期待される。本発明の実施形態において、AIは制御部で動作してもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作してもよい。
【0073】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態におけるう蝕検出装置(1、2)は、光源(11、21)から第一の検査光を歯(T)に照射し、歯の透過光または歯から発生する蛍光を検出するスクリーニング光学系(10A、20A)と、スクリーニング光学系で検出した当該透過光または蛍光の情報から特定される歯におけるう蝕候補部に光源から第二の検査光を照射し、う蝕候補部から発生するラマン散乱光を検出するラマン散乱光検出光学系(10B、20B)と、を有する。よって、当該う蝕検出装置は、ラマン分光によってスクリーニングおよびう蝕の検出を実施する場合に比べて、ラマン散乱光の検出によるう蝕の検出をより短時間で実現することができる。
【0074】
本発明の実施形態におけるう蝕検出装置は、スクリーニング光学系で検出した透過光または蛍光の情報に応じてう蝕候補部を特定するう蝕候補部特定部をさらに備えていてもよい。この構成は、う蝕候補部を迅速に決定し、よってう蝕の検出を短時間で実現する観点からより一層効果的である。
【0075】
また、本発明の実施形態におけるう蝕検出装置は、ラマン散乱光検出光学系で検出したラマン散乱光の情報に応じてう蝕候補部のう蝕を検出するう蝕検出部をさらに備えていてもよい。この構成は、う蝕の検出を短時間で実現する観点からより一層効果的である。
【0076】
また、本発明の実施形態において、第一の検査光および第二の検査光はいずれも近赤外線であってもよい。この構成は、光源が単一の光(近赤外線)を発生する装置であればよいことから、う蝕検出装置の構成の簡素化の観点からより一層効果的である。
【0077】
あるいは、本発明の実施形態において、第一の検査光は蛍光よりも短波長の光(励起光)であり、第二の検査光は近赤外線であってもよい。この構成は、検出対象の歯に対して、口腔の手前側からう蝕候補部およびう蝕を検出可能なう蝕検出装置を構成することが可能であるので、う蝕の検出の操作を容易にする観点からより一層効果的である。
【0078】
また、本発明の実施形態において、スクリーニング光学系は、歯における第一の検査光の照射範囲を変化させることが可能な焦点距離可変光学系をさらに含んでもよい。この構成は、う蝕候補部とう蝕の両方を検出可能な簡素な光学系を構築する観点からより効果的である。
【0079】
さらに、本発明の実施形態において、焦点距離可変光学系は液体レンズをさらに含んでもよい。この構成は、う蝕候補部とう蝕の両方を検出可能な簡素な光学系を構築する観点からより一層効果的である。
【0080】
また、本発明の実施形態におけるう蝕検出装置は、う蝕候補部の情報に応じて、う蝕候補部における第二の検査光の照射位置のずれを補正する第二検査光照射位置補正部をさらに備えていてもよい。この構成は、ラマン分光測定時に検査光を集光する位置を随時補正して集光位置を一定にすることを可能とするため、測定を行う歯科医などのユーザの動き(例えば手の震えなど)による検出結果への影響を抑制する観点からより一層効果的である。
【0081】
また、本発明の実施形態におけるう蝕検出装置は、歯に対する前記スクリーニング光学系およびラマン散乱光検出光学系の揺れの影響を打ち消す揺れ補正部をさらに備えていてもよい。この構成は、う蝕候補部およびう蝕の検出時におけるユーザの手振れの検出結果に対する影響を抑制する観点からより一層効果的である。
【0082】
また、本発明の実施形態において、ラマン散乱光検出光学系は、う蝕候補部から発生するラマン散乱光から特定の波長の光のみを透過させるフィルタをさらに含んでもよい。この構成は、特定の波長の光の成分、あるいは異なる波長の光の成分の強度比を検出可能であり、う蝕の検出を短時間で実現する観点からより一層効果的である。
【0083】
また、本発明の実施形態におけるう蝕検出装置は、スクリーニング光学系で検出した透過光または蛍光の情報に基づく画像、および、ラマン散乱光検出光学系で検出したラマン散乱光の情報に基づく画像、の一方または両方を表示する表示装置(15)をさらに備えていてもよい。この構成は、う蝕候補部およびう蝕の検出時に取得する画像を利用したう蝕の検出が可能となり、う蝕の検出の精度を高める観点からより一層効果的である。
【0084】
また、本発明の実施形態におけるう蝕検出装置は、スクリーニング光学系で検出した透過光または蛍光の情報に基づく特定のう蝕候補部の画像と、ラマン散乱光検出光学系で検出したラマン散乱光の情報に基づく特定のう蝕候補部の画像とを表示装置に表示する表示制御部をさらに備えていてもよい。この構成は、う蝕候補部およびう蝕の検出時に取得する画像を利用してそれぞれの検出箇所の確認を容易にすることが可能であり、う蝕の誤検出を防止する観点からより一層効果的である。
【0085】
また、本発明の実施形態におけるう蝕検出装置は、スクリーニング光学系で検出した透過光または蛍光の情報に基づく特定のう蝕候補部の画像と、ラマン散乱光検出光学系で検出したラマン散乱光の情報に基づく特定のう蝕候補部の画像との位置の差分を検出する差分検出部をさらに備えていてもよい。この構成は、う蝕候補部の検出位置と当該う蝕候補部に基づくう蝕の検出位置との正誤をう蝕検出後に容易に確認することが可能である。よって、う蝕の誤検出を防止する観点からより一層効果的である。
【0086】
本発明の実施形態における上記のような構成によれば、う蝕などの歯周疾患をその初期段階から正確に、迅速に、また容易に検出することが可能となる。よって、本発明の実施形態によれば、歯周疾患の早期発見による健康寿命の延伸につながり、持続可能な開発目標(SDGs)における人々の健康的な生活の確保への貢献が期待される。
【符号の説明】
【0087】
1、2 う蝕検出装置
10A、20A スクリーニング光学系
10B、20B ラマン散乱光検出光学系
11、21 光源
12 透過光受光センサ
13 ラマン散乱光受光センサ
14、24 光学系
15 表示装置
16 制御部
22 蛍光受光センサ
141、241、243 光学フィルタ
142、242 焦点距離可変レンズ
161 う蝕候補部特定部
162 う蝕検出部
163 焦点距離制御部
164 表示制御部
165 第二検査光照射位置補正部
166 揺れ補正部
167 差分検出部