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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000980
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】自己免疫疾患の予防又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20221222BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 31/37 20060101ALI20221222BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221222BHJP
   C12N 15/24 20060101ALN20221222BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P37/02
A61P27/02
A61K31/513
A61K31/519
A61K31/37
C12N15/12 ZNA
C12N15/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180537
(22)【出願日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2021101743
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健輔
(72)【発明者】
【氏名】園田 康平
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英一
(72)【発明者】
【氏名】山名 智志
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZB071
4C084ZB212
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA19
4C086BC43
4C086CB09
4C086GA16
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZB07
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、自己免疫性ぶどう膜炎をはじめとする自己免疫疾患に対する予防又は治療を提供することにある。
【解決手段】MR1拘束性T細胞に対するアゴニストを有効成分とする、自己免疫疾患の予防又は治療剤を作製する。MR1拘束性T細胞に対するアゴニストが、5-(2-オキソプロピリデンアミノ)-6-D-リビチルアミノウラシル(5-OP-RU)であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MR1拘束性T細胞に対するアゴニストを有効成分とする、自己免疫疾患の予防又は治療剤。
【請求項2】
MR1拘束性T細胞が、粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞であることを特徴とする請求項1記載の自己免疫疾患の予防又は治療剤。
【請求項3】
MR1拘束性T細胞に対するアゴニストが、5-(2-オキソプロピリデンアミノ)-6-D-リビチルアミノウラシル(5-OP-RU)、5-(2-オキソエチリデンアミノ)-6-D-リビチルアミノウラシル(5-OE-RU)、6-メチル-D-リビチルルマジン(rRL-6-CHOH)又は次の式(I)で表される2H-クロメン誘導体若しくはその塩であることを特徴とする請求項1又は2記載の自己免疫疾患の予防又は治療剤。
【化1】
[式中、R1は、置換又は無置換の炭素数2~8の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、或いは、置換又は無置換の炭素数3~8のシクロアルキル基を表す。]
【請求項4】
MR1拘束性T細胞に対するアゴニストが、5-OP-RUであることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の自己免疫疾患の予防又は治療剤。
【請求項5】
2H-クロメン誘導体が、次の式(V)で表される4-(シクロペンチルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オンであることを特徴とする請求項3記載の自己免疫疾患の予防又は治療剤。
【化2】
【請求項6】
自己免疫疾患が、自己免疫性ぶどう膜炎であることを特徴とする請求項1~5のいずれか記載の自己免疫疾患の予防又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己免疫疾患の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ぶどう膜炎は、虹彩、毛様体及び脈絡膜からなるぶどう膜が炎症を起こす眼の病気である。ぶどう膜炎には、細菌やウイルスによる感染性の他、サルコイドーシス、ベーチェット病やフォークト-小柳-原田病(VKH)等の非感染性のものがある。上記VKHは、欧米に比較してアジアで多く、日本では全ブドウ膜炎患者の8.1%を占めている。かかるVKHは、目、皮膚、内耳、髄膜等の複数の臓器に存在するメラニンを標的とし、メラノサイトに富む組織に特有のT細胞性自己免疫疾患である。このVKHは、通常、持続性の眼炎症や視力低下を引き起こし、最終的には失明に至るものの、その進行メカニズムは完全には解明されていない。
【0003】
上記のVKHの他、サルコイドーシス、及びベーチェット病においても、特定のヒト白血球抗原ハプロタイプが関連していることを踏まえると、この非感染性ぶどう膜炎の発症には、白血球の一種であるT細胞が中心的な役割を果たすとされている。T細胞を介した自己免疫反応が発症の引き金となることが、網膜アレスチン、リカバーリン及び光受容体間結合タンパク質を含む網膜抗原で免疫された自己免疫性ブドウ膜炎の動物モデルや網膜抗原特異的T細胞移植実験等から明らかにされている。しかしながら、非感染性ぶどう膜炎に関して、その発症機序やT細胞サブセットの保護的役割は解明されていない(非特許文献1参照)。
【0004】
ここで自己免疫反応に関与するT細胞の一つに、粘膜関連インバリアント(Mucosal-Associated Invariant)T細胞(以下、「MAIT細胞」ともいう)がある。このMAIT細胞は、病原体の排除や、組織修復を促進することによって恒常性を維持する上で重要な役割を果たすT細胞である。また、このMAIT細胞は多様なTCRβ鎖と対になったユニークな不変のTRAV1-TRAJ33鎖を持っており、かかるTRAV1-TRAJ33鎖を介して5-(2-オキソプロピリデンアミノ)-6-D-リビチルアミノウラシル(5-OP-RU)や5-(2-オキソエチリデンアミノ)-6-D-リビチルアミノウラシル(5-OE-RU)等の微生物ビタミンB2前駆体由来の代謝物や同族のリガンドを認識し、IL-17A、IL-22、TNFα、IFNγ、IL-10、グランザイムB等のサイトカインを分泌する(非特許文献2~4参照)。
【0005】
上記免疫調整性サイトカインのうち、IL-22は、主にヘルパーT細胞、CD8T細胞、γδT細胞、自然リンパ球等のリンパ球によって産生され、IL-22受容体(IL-22R)は、肺、腸、皮膚、肝臓、腎臓に発現することが知られている。IL-22の受容体への結合は、宿主の防御、組織の修復、及び再生に関与する多種多様な分子を状況依存的に誘導することで免疫制御に関わる。具体的には、ヒトとマウスにおいては、IL-22を介したシグナルは、組織バリア機能と自己免疫疾患にとって重要であることが報告されている(非特許文献4参照)。さらに、IL-22は、眼の神経細胞死を救うことで、自己免疫性ぶどう膜炎に保護効果を誘導することが報告されている(非特許文献5、6参照)。
【0006】
MAIT細胞に関する医療の応用としては、たとえば、MAIT細胞機能抑制剤を有効成分とする炎症性疾患改善剤又は虚血性疾患急性期改善剤や(特許文献1参照)、MAIT細胞が初期化された人工多能性幹細胞の分化誘導により得られたMAIT様細胞、がんの治療及び/又は予防剤(特許文献2参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-89735号公報
【特許文献2】国際公開第2021/085450号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Pedro, P.H., et al. (2014) Autoimmun Rev 13, 909-916
【非特許文献2】Rahimpour, A., et al. (2015) J Exp Med 212, 1095-1108.
【非特許文献3】Corbett, A.J., et al. (2014) Nature 509, 361-365.
【非特許文献4】Hinks, T.S.C., et al. (2019) Cell Rep 28, 3249-3262.
【非特許文献5】Yan Ke et al., (2011) J Immunol, 187, 2130-2139
【非特許文献6】Mattapallil, M. J., et al., (2019) J Autoimmun 102, 65-76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自己免疫性ぶどう膜炎の原因となるVKHは、眼を含むメラノサイトに富む組織に特有の自己免疫疾患であり、通常、慢性的な眼の炎症を示し、視力の低下と失明を引き起こすがそのメカニズムは完全には解明されていない。このVKHに対する一次治療として臨床的には、ステロイド療法が適用されるが、その治療効果は十分ではなかった。そこで、本発明の課題は、自己免疫性ぶどう膜炎をはじめとする自己免疫疾患に対する予防又は治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、自己免疫性ぶどう膜炎に対する予防又は治療において、MAIT細胞を標的とすることに着目して研究を進めた。マウスに自己免疫性ぶどう膜炎を誘発後、硝子体内にMAIT細胞に対するアゴニストである5-OP-RUを投与したところ、眼内でMAIT細胞の拡大が認められ、網膜病態の減弱がみられることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕MR1拘束性T細胞に対するアゴニストを有効成分とする、自己免疫疾患の予防又は治療剤。
〔2〕MR1拘束性T細胞が、粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞であることを特徴とする上記〔1〕記載の自己免疫疾患の予防又は治療剤。
〔3〕MR1拘束性T細胞に対するアゴニストが、5-(2-オキソプロピリデンアミノ)-6-D-リビチルアミノウラシル(5-OP-RU)、5-(2-オキソエチリデンアミノ)-6-D-リビチルアミノウラシル(5-OE-RU)、6-メチル-D-リビチルルマジン(rRL-6-CHOH)又は次の式(I)で表される2H-クロメン誘導体若しくはその塩であることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕記載の自己免疫疾患の予防又は治療剤。
【0012】
【化1】
[式中、R1は、置換又は無置換の炭素数2~8の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、或いは、置換又は無置換の炭素数3~8のシクロアルキル基を表す。]
〔4〕MR1拘束性T細胞に対するアゴニストが、5-OP-RUであることを特徴とする上記〔1〕~〔3〕のいずれか記載の自己免疫疾患の予防又は治療剤。
〔5〕2H-クロメン誘導体が、次の式(V)で表される4-(シクロペンチルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オンであることを特徴とする上記〔3〕記載の自己免疫疾患の予防又は治療剤。
【0013】
【化2】
〔6〕自己免疫疾患が、自己免疫性ぶどう膜炎であることを特徴とする上記〔1〕~〔5〕のいずれか記載の自己免疫疾患の予防又は治療剤。
【0014】
本発明の他の態様としては、自己免疫疾患の予防又は治療剤を調製するためのMR1拘束性T細胞に対するアゴニストの使用や、MR1拘束性T細胞に対するアゴニストを対象に投与することを特徴とする、自己免疫疾患の予防又は治療方法や、MR1拘束性T細胞に対するアゴニストの、自己免疫疾患の予防又は治療のための使用を挙げることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、自己免疫性ぶどう膜炎をはじめとする自己免疫疾患の予防又は治療を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1において、持続性炎症を有する再発性VKH患者(Relapse)、眼炎症のない健常者(Healthy)又は寛解期のVKH患者(Remission)における末梢血単核細胞(PBMC)中の様々なT細胞サブセットの頻度をマルチパラメトリック解析により調べた結果を示す図である。
図2】実施例1において、マルチパラメトリック解析のデータを視覚化するために、UMAP(uniform manifold approximation and projection)解析を行った結果を示す図である。
図3】実施例1において、hMR1/5-OP-RU-Tetを用いて末梢血単核細胞(PBMC)中におけるMR1反応性T細胞サブセットの頻度をフローサイトメトリー解析により調べた結果を示す図である。
図4】実施例2において、野生型(WT)及びMr1-/-マウスの実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)モデルマウスにおける臨床スコア(Clinical score)を調べた結果を示す図である。
図5】実施例2において、野生型(WT)及びTraj33-/-マウスの実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)モデルマウスにおける臨床スコア(Clinical score)を調べた結果を示す図である。
図6】野生型(WT)、Mr1-/-マウス及びTraj33-/-マウスにおける網膜眼底画像を示す図である。
図7】実施例3において、5-OP-RU又はPBSを投与したEAUモデルマウスにおける臨床スコア(Clinical score)を示す図である。
図8】実施例3において、5-OP-RU又はPBSを投与したEAUモデルマウスにおける網膜眼底画像を示す図である。
図9】実施例3において、5-OP-RU又はPBSを投与したEAUモデルマウスにおける摘出した眼の病理組織学的スコア(Histopathological score)を示す図である。
図10】実施例3において、5-OP-RU又はPBSを投与したEAUモデルマウスにおける摘出した眼を固定した後の組織切片写真を示す図である。
図11】実施例4における網膜電位(ERG)解析におけるERG波形を示す図である。
図12】実施例4における網膜電位(ERG)解析における各光強度での振幅を示す図である。
図13】実施例5において、5-OP-RUを硝子体内に投与したEAUモデルマウスにおけるIL-22、IL-19、及びNgfの遺伝子発現を調べた結果を示す図である。
図14】実施例6において、5-OP-RUを精製T細胞に投与し、抗MR1ブロッキング抗体あり/なしの場合におけるIL-22の発現を調べた結果を示す図である。
図15】実施例7において、MAIT細胞のアゴニストの候補とした化合物D1-D7におけるGFP蛍光強度を示す図である。
図16】実施例7において、MAIT細胞のアゴニストの候補とした化合物D6、D8-D10におけるNFAT-GFP陽性細胞の割合(%)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の自己免疫疾患の予防又は治療剤は、MR1拘束性T細胞に対するアゴニストを有効成分とする、自己免疫疾患の予防又は治療剤であればよく、以下、「本件自己免疫疾患の予防又は治療剤」ともいう。
【0018】
本明細書における「MR1拘束性T細胞」とは、T細胞受容体(T cell receptor:TCR)を介して、主要組織適合性複合体クラスI関連分子(MHC-related 1分子:MR1)に提示された非ペプチド性抗原を認識するT細胞サブセットを意味する。上記MR1拘束性T細胞としては、ユニークな不変のTRAV1-TRAJ33鎖を有しており、比較的多様なβ鎖と会合して抗原認識に関わる粘膜関連インバリアントT(mucosal-associated invariant T:MAIT)細胞や、MR1によって抗原提示されるがMAIT細胞特有のT細胞受容体を持たない非定型MR1制限T細胞を挙げることができるが、これらに制限されない。
【0019】
上記MAIT細胞は、2012年に初めて、その認識抗原が非ペプチド性代謝産物のビタミンB合成中間体であることが同定されている細胞である(Kjer-NielsenLetal. (2012) Nature 491: 717-723)。その後の研究で、それらの認識抗原は、様々な病原体(結核菌、病原性大腸菌、サルモネラ菌、レジオネラ菌)より産生されること、及び、MAIT細胞は、TRAV1-TRAJ33鎖を介してそれらの抗原を認識することで、感染細胞に対して細胞傷害活性を有すること、更に、MAIT細胞が、末梢組織で感染防御を維持した記憶細胞として長期間維持されることが明らかとなっている。
【0020】
本明細書において、「自己免疫疾患」としては、組織特異的自己免疫疾患、全身性自己免疫疾患、又は移植片対宿主病を挙げることができる。組織特異的自己免疫疾患としては、クローン病や潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患;多発性硬化症;I型糖尿病;脳炎;眼炎症等の組織特異的自己免疫疾患を挙げることができるが、これらに限定されない。全身性自己免疫疾患としては、シェーグレン症候群;全身性エリテマトーデス;慢性関節リウマチ等の関節炎;血管炎;乾癬・皮膚炎等の炎症性皮膚疾患;強直性脊椎炎等を挙げることができるが、これらに制限されない。
【0021】
上記自己免疫性ぶどう膜炎は、虹彩、毛様体及び脈絡膜からなるぶどう膜が、網膜抗原を認識する病原性T細胞により誘導される炎症である。この自己免疫性ぶどう膜炎は、主に全身性自己免疫疾患のサルコイドーシス、ベーチェット病、又はフォークト-小柳-原田病(VKH)を含む疾患で観察される。したがって、本明細書において自己免疫性ぶどう膜炎の予防又は治療剤には、全身性自己免疫疾患のサルコイドーシス、ベーチェット病、又はVKHの予防又は治療剤を包含する。
【0022】
本明細書において、「MR1拘束性T細胞に対するアゴニスト」としては、MAIT細胞に結合してMR1拘束性T細胞を活性化する物質であれば特に制限されない。上記アゴニストとしては、具体的には、5-(2-オキソプロピリデンアミノ)-6-D-リビチルアミノウラシル(5-OP-RU)、5-(2-オキソエチリデンアミノ)-6-D-リビチルアミノウラシル(5-OE-RU)、6-メチル-D-リビチルルマジン(rRL-6-CHOH)又は次の式(I)で表される2H-クロメン誘導体若しくはその塩を挙げることができる。
【0023】
【化1】
【0024】
[式中、R1は、置換又は無置換の炭素数2~8の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、或いは、置換又は無置換の炭素数3~8のシクロアルキル基を表す。]
【0025】
炭素数2~8の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基としては、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、i-ヘキシル基、n-オクチル基を挙げることができる。炭素数2~8の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基としては、エテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、イソプロペニル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基、1-シクロヘキセニル基を挙げることができる。炭素数3~8のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、又はシクロオクチル基を挙げることができる。
【0026】
本明細書において、「無置換」とは、母核となる基のみであることを意味する。母核となる基の名称のみで記載しているときは、別段の断りがない限り「無置換」の意味である。一方、「置換」は、母核となる基のいずれかの水素原子が、母核と同一又は異なる構造の基で置換されていることを意味する。従って、「置換基」は、母核となる基に結合した他の基である。置換基は1個であってもよいし、2個以上であってもよい。2個以上の置換基は同一であってもよいし、異なるものであってもよい。
【0027】
上記置換基は化学的に許容され、本発明の効果を有する限りにおいて特に制限されない。置換基となり得る基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などの炭素数1~6アルキル基挙げることができる。
【0028】
上記式(I)で表される2H-クロメン誘導体としては、具体的には以下の式(II)~(VIII)で表される化合物を挙げることができる。
【0029】
化合物番号D3(以下、「D3」ともいう。):4-(プロピルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オン。
【0030】
【化2】
【0031】
化合物番号D4(以下、「D4」ともいう。):4-(ブチルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オン。
【0032】
【化3】
【0033】
化合物番号D5(以下、「D5」ともいう。):4-(アリルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オン。
【0034】
【化4】
【0035】
化合物番号D6(以下、「D6」ともいう。):4-(シクロペンチルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オン。
【0036】
【化5】
【0037】
化合物番号D7(以下、「D7」ともいう。):4-(イソプロピルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オン。
【0038】
【化6】
【0039】
化合物番号D8(以下、「D8」ともいう。):4-(シクロへキシルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オン。
【0040】
【化7】
【0041】
化合物番号D9(以下、「D9」ともいう。):4-(2-メチル-シクロへキシルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オン。
【0042】
【化8】
【0043】
2H-クロメン誘導体の付加塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に制限されない。具体的には、(1)酸付加塩として、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩若しくはリン酸塩等の無機酸塩;又は酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、安息香酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、グルタミン酸塩若しくはアスパラギン酸塩等の有機酸塩、或いは(2)塩基性塩として、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩若しくはマグネシウム塩等の金属塩;アンモニウム塩等の無機塩;又はトリエチルアミン塩若しくはグアニジン塩等の有機アミン塩等を好適に挙げることができる。
【0044】
MR1拘束性T細胞の活性化は、たとえばCD69やCD25等のMR1拘束性T細胞の表面マーカーの発現やMR1拘束性T細胞の抗原特異的増殖等によって評価することができる。
【0045】
上記式(I)で表される2H-クロメン誘導体は、公知の方法により合成することができるほか、市販の4-ヒドロキシ-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オンを入手し、かかる化合物を出発原料として合成してもよい。
【0046】
本件自己免疫疾患の予防又は治療剤を医薬のような形態で投与する場合に、その薬剤の投与経路及び投与量は特に限定されないが、ヒトへの投与を行う場合には、投与経路としては経口又は非経口のいずれかの投与経路を選択することができる。例えば、対象に対して、適合する投与量を選択し、経口的又は非経口的に投与することが選択される。
【0047】
本件自己免疫疾患の予防又は治療剤を、医薬のような形態で投与する場合には、有効成分であるMR1拘束性T細胞に対するアゴニストを、1又は2以上の薬学的に許容される製剤用添加物を含む医薬組成物の形態で提供することができる。当該医薬組成物は、例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、又は液剤などの経口投与用の医薬組成物として投与することができる。或いは、硝子体内投与、静脈内投与、筋肉内投与、若しくは皮下投与用の注射剤又は点滴剤、坐剤、点鼻剤、又は点眼剤などの非経口投与用の医薬組成物として投与することができる。製剤用添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、膨張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、又は粘着剤等、通常、医薬の製剤化に用いられる添加剤を用いることができ、医薬組成物の形態に応じて適宜のものを選択して使用することができる。
【0048】
本件自己免疫疾患の予防又は治療剤の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年齢、体重、医師の判断等に応じて適宜変えることができるが、非経口的には、成人に対し1日あたり硝子体内、皮下、静脈内、筋肉内に0.000001~10%(W/V)、好ましくは0.00001~3%(W/V)、より好ましくは0.0001~1%(W/V)の有効成分濃度のものを1回又は数回投与することができる。経口剤の場合、成人に対し1日あたり0.01~5000mg、好ましくは0.1~2500mg、より好ましくは0.5~1000mgを1回又は数回に分けて投与することができる。また、眼軟膏の場合には、1日あたり0.00001~10%(W/W)、好ましくは0.0001~3%(W/W)、より好ましくは0.001~1%(W/W)の有効成分濃度のものを1回又は数回投与することができる。
【0049】
本明細書中において、「予防」とは、細胞、組織、臓器の欠損及び機能障害、機能不全に関連する疾患の発症及び再発を抑制、防止することを目的とする手段を意味する。
【0050】
本明細書中において、「治療」とは、細胞、組織、臓器の欠損及び機能障害、機能不全に関連する疾患の進行、増悪を減速又は停止すること、及び細胞、組織、臓器の欠損及び機能障害、機能不全に関連する疾患を軽快、改善、治癒することを目的とする手段を意味する。
【0051】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの
例示に限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]VKH患者における血中のMAIT細胞
これまでの研究で、VKHの病態形成にT細胞が寄与することが明らかとなっているが、病態と相関して変化するT細胞サブセットは詳細には解析されていなかった。そこでまず、アクティブなVKHと関係するT細胞レパートリーを同定するために、マスサイトメトリーを用いたマルチパラメトリック解析を行った。末梢血単核細胞(PBMC)中における様々なT細胞サブセットの頻度を、持続性炎症を有する再発性VKH患者(Relapse:n=6)、眼炎症のない健常者(Healthy:n=8)又は寛解期のVKH患者(Remission:n=7)とで比較した。
【0053】
(マルチパラメトリック解析)
表1及び2に示した36種の金属標識抗体(Fluidigm社、Biolegend社)を用いて解析した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
1×10個/サンプルの細胞を、まずは氷上20分間、Fc受容体結合阻害剤存在下で3個の異なる金属を結合したCD45抗体によって染色し、3つの細胞サンプルをプールし、表面染色を行った。氷上で4分間、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でシスプラチン類似体であるジクロロ-(エチレンジアミン)パラジウム(II)で細胞を染色した後、氷上で30分間、金属共役表面染色抗体カクテルで染色し、その後細胞染色バッファーで2回洗浄した。次に、Cell-ID Intercalator-Ir in Fix and Permバッファー(Fluidigm社)で室温下、60分間インキュベートした。最後に、細胞を1.6%ホルムアルデヒド溶液(Thermo Fisher Scientific社)中で一晩再懸濁した。翌日、細胞をHeliosマスサイトメーター(Fluidigm社)で分析した。データはFlowJo ver.10ソフトウェア(BD Biosciences社)により分析した。結果を図1に示す。
【0057】
図1では、横軸に示すそれぞれのT細胞サブセットの、末梢血単核細胞(PBMC)中におけるCD3細胞中の割合(%)を示している。それぞれのT細胞サブセットは以下のように定義した。Th1細胞 CD4CXCR3CCR4CCR6;Th2細胞 CD4CXCR3CCR4CCR6;Th17細胞 CD4CXCR3CCR4CCR6CD161;Th22細胞 CD4CCR4CCR6CCR10;TFH細胞 CD4CXCR5;ThGM-CSF細胞 CD4CXCR3CCR4CCR6CCR10;Naive CD8細胞 CD8CD45RACCR7;central memory(CM) CD8細胞 CD8CD45RACCR7;Effector memory(EM)CD8細胞 CD8CD45RACCR7;Effector CTLs CD8CD45RACD27;γδ T細胞 γδTCR;MAIT細胞 TRAV1-2CD161
【0058】
図1に示すように、MAIT細胞に関して、再発性VKH患者では、炎症のない被検者(眼炎症のない健常者及び寛解期のVKH患者)と比較して有意に頻度が低下した。また、非活性化ナイーブCD8T細胞頻度は、再発性VKH患者では、健常者と比較して有意に低下した。対照的に、活性化エフェクター細胞傷害性T細胞(CTL)の頻度は有意な増加は認められなかった。また、眼炎症との関連が指摘されているTh1、Th2、Th17、Th22、TFH細胞等のヘルパーT細胞サブセットは、再発性VKHと眼炎症のない被験者との比較で有意差は認められなかった。ThGM-CSF細胞頻度においても、眼炎症がない被験者と比較して有意差がなかった。
【0059】
(UMAP解析)
上記マルチパラメトリック解析のデータを視覚化するために、UMAP解析を行った。UMAPで可視化したT細胞クラスターのアノテーションのため、FlowSOM解析を行った。各コホートにおいて被験者あたり3,000個のCD3細胞のデータを連結し、各コホートそれぞれ10,000個の細胞を分析に用いた。結果を図2に示す。
【0060】
図2により、MAIT細胞クラスターは炎症のない被検者(Healthy又はRemission)で頻度が増加していたが、再発性VKH患者(Relapse)では頻度は低かった。
【0061】
(フローサイトメトリー解析)
次にフローサイトメトリーを行うことにより、末梢血単核細胞(PBMC)中におけるMR1反応性T細胞サブセットの頻度を、持続性炎症を有する再発性VKH患者(Relapse)、眼炎症のない健常者(Healthy)又は寛解期のVKH患者(Remission)とで比較した。
【0062】
5-OP-RUをヒトMR-1四量体に結合させて作製したMAIT細胞特異的検出試薬(hMR1/5-OP-RU-Tet)を細胞と共に30分、氷上でインキュベートして細胞を染色した。上記5-OP-RUは、5-アミノ-6-リビチルアミノウラシル(5-A-RU:Toronto Research Chemicals社)とメチルグリオキサ-ル(シグマアルドリッチ社)を反応させて作製した。次に、染色した細胞をFACS Verse(BD Biosciences社)にて解析した。そのデータはFlowJo ver.10ソフトウェア(BD Biosciences社)により分析した。死細胞は、7-アミノ-アクチノマイシンD含有溶液(Biolegend社)で染色することで除外した。hMR1/5-OP-RU-Tetを用いて解析した結果を図3に示す。
【0063】
図3に示すように、再発性VKH患者(Relapse)は、寛解期のVKH患者(Remission)と比較して末梢血単核細胞に含まれるMR1拘束性T細胞の割合が有意に低下していることが明らかとなった。したがって、MR1拘束性T細胞の頻度の低下がVKH患者の眼炎症と関わる可能性が高いことが明らかとなった。
【0064】
[実施例2]眼炎症に関与するMR1拘束性T細胞
実施例1では、眼の炎症においてMR1拘束性T細胞の関与が示された。そこで、さらに実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)モデルマウスを用いて眼炎症におけるMR1拘束性T細胞の関与について調べた。
【0065】
Traj33遺伝子のホモ接合性欠損であり、MAIT細胞を特異的に欠くTraj33遺伝子欠損マウス(Traj33-/-)は、C57BL/6の胚を用いたCrisPR-Cas9系により作製した。オフターゲット解析はCRISPRdirectソフトウエア(URL:crispr.dbcls.jp)又はCRISPRデザインソフトウエア(URL:crispr.mit.edu)を用いた。Traj33遺伝子を破壊するための標的配列は配列番号1に示す塩基配列(AGCAACTATCAGTTGATCTG)とした。
【0066】
MR1反応性T細胞を全て欠くMR1欠損マウス(Mr1-/-)は、Dr.Susan Gilfillan(Washington University in St. Louis, MO, USA)より提供を受けた。
【0067】
EAUモデルマウスは、武田らの文献(Jpn J Ophthalmol (2018) 62, 398-406.)に基づいて作製した。簡潔に説明すると、まず、7~8週齢のC57BL/6マウス(野生型 n=12:Kyudo社)、Traj33-/-(n=14)又はMr1-/-(n=7)を、マイコバクテリウムツベルクローシス H37Raを含む完全フロイントアジュバント(BD Biosciences社)中に200μgのヒト光受容体間レチノイド結合タンパク質ペプチド残基1~20(GPTHLFQPSLVLDMAKVLLD:配列番号2)を含むエマルジョンで免疫化した。PTX 0.5μgを単回腹腔内注射した後、上記エマルジョンを皮下注射した。
【0068】
slit-lamp microscopy及びArimaらによって開発されたポータブルカメラ(In Acta Ophthalmol, pp. e814-e816.)を用いて、3~4日毎に0-4のスケールで眼炎症の臨床スコア(Clinical score)をAgarwalらの方法(Methods Mol Biol 900, 443-469.)により等級付けした。野生型(WT)及びMr1-/-の結果を図4に、野生型(WT)及びTraj33-/-の結果を図5に示す。図4、5中、横軸は免疫(immunization)してEAUを誘発してからの日数、縦軸は臨床スコア(Clinical score)である。また、それぞれのマウスの10日目、14日目、21日目の網膜眼底画像を図6に示す。
【0069】
図4及び5から明らかなように、Mr1-/-マウス及びTraj33-/-マウスでは、EAUを誘発してから14日目から臨床スコアが増加し、17日目には野生型と比較して有意な差がみられた。また、図6に示すように、Mr1-/-マウス及びTraj33-/-マウスのいずれも14日目、21日目に網膜血管炎や網脈絡膜浸潤を含むEAUの病理的な特徴が観察された。また、Mr1-/-マウスでは、組織病理学分析において、血管炎及び光受容体損傷に関連する炎症が確認された(図示なし)。
【0070】
図4及び5の結果より、MR1欠損マウス(Mr1-/-)及びMAIT細胞を特異的に欠くTraj33遺伝子欠損マウス(Traj33-/-)の2つのモデルでMR1拘束性T細胞が自己免疫性ぶどう膜炎における炎症の進行を負に制御していることが示唆された。
【0071】
[実施例3]MAIT細胞のアゴニストによるぶどう膜炎の治療
MAIT細胞のアゴニストである5-OP-RUによってぶどう膜炎の治療が可能か否かを、上記EAUモデルマウスを用いて調べた。
【0072】
実施例1に記載したEAUモデルマウスにおいて、EAUを誘発してから8日目に、PBSに溶解した5-OP-RU(76pmol(25.1ng)/eye:n=12)を硝子体内投与した。コントロールとしてPBS(n=11)を硝子体内に投与した。EAUを誘発してから10日目、14日目、17日目に実施例1と同様に臨床スコアを求めると共に網膜眼底画像を得た。臨床スコアの結果を図7に、網膜眼底画像の結果を図8に示す。さらに、病理組織学的解析として、摘出した眼を4%パラホルムアルデヒドで固定後、ヘマトキシリン・エオジン染色を行い、病理組織学的スコア(histopathological score)をAgarwalらの方法(Methods Mol Biol 900, 443-469.)によって等級付けした結果を図9に、ヘマトキシリン・エオジン染色後の組織切片写真を図10に示す。
【0073】
図7、8より、5-OP-RU投与によって、臨床スコアを低減し、網膜眼底においても眼内炎症の顕著な低下が認められた。さらに、図9、10より、5-OP-RU投与によって、網膜組織におけるEAUの病理学的特徴の改善がみられた。なお、上記改善は、Traj33-/-マウスに5-OP-RUを投与した場合にはみられなかった(図示なし)。また、EAUに対する保護効果が示唆されているIL-22を投与した場合にも同様のEAUの病理学的特徴の改善がみられた。したがって、5-OP-RU等のMAIT細胞のアゴニストによってMAIT細胞を活性化することにより、網膜における炎症を低減することが可能であることが明らかとなった。
【0074】
[実施例4]5-OP-RUによる視機能の回復
ぶどう膜炎の治療においては、炎症の抑制だけでなく、視機能の回復が大事である。そこで、5-OP-RUの投与で、EAUモデルマウスによって低下した視機能が回復するか否かを網膜電位(ERG)解析により調べた。このERG解析を用いれば、暗順応(暗所)または明順応(明所)条件のいずれかで、光刺激に対する網膜細胞の電気応答を測定することにより、視機能を評価することができる。なお、ERG解析において、a波は桿体や錐体などの光受容体によって産生され、b波は光受容体や双極細胞、アマクリン細胞、網膜ミュラー細胞などの神経網膜細胞を含むさまざまな網膜細胞によって産生される波形である。
【0075】
ERG解析は、コントロールとしての5-OP-RUの投与なしの野生型マウス(Normal:n=4)、5-OP-RUの投与なしでEAU誘導後17日のEAUモデルマウス(non-treated:n=7)、及び5-OP-RUを投与ありでEAU誘導後17日のEAUモデルマウス(5-OP-RU-treated:n=7)を一晩暗順応させた後、PuREC(メイヨー社)を用いて薄暗赤色光下でERG波形を記録することにより行った。具体的には、上記マウスにケタミン(100mg/kg)及びキシラジン(5~10mg/kg)の混合物を腹腔内注射して麻酔した。次に、0.5%トロピカミドと0.5%フェニレフリンを併用した溶液で散瞳を誘発した。さらに、0.4%オキシブプロカイン点眼により角膜の局所麻酔を行った。これらの処理後、上記マウスを37℃に保ちながらERG波形を20分間記録した。ERGは、Ganzfeldボウル又は発光ダイオード内臓コンタクトレンズ電極(メイヨー社)を用いて両眼で同時に行った。コンタクトレンズ電極を角膜上のアクティブ電極として配置した。基準電極と接地電極をそれぞれ口と尾に配置した。反応を10,000回測定し、その結果を0.3~500Hzのバンドパスフィルター処理をした。1×10-4~10cd・s/m-2の強度で0.3ミリ秒の白色フラッシュを同間隔で照射することにより暗順応のERG(Scotopic ERG)を誘発した。10分間ブリーチした後、3×10-1~10cd・s/m-2の強度の白色フラッシュにより明順応のERG(photopic ERG)を誘発した。結果を図11、12に示す。記録されたERG波形を図11に、各光強度における振幅を図12に示す。図11中、横軸のスケールバーは100ms、縦軸のスケールバーは500μVである。また、図12中、横軸は光の強度(cd・s/m-2)、縦軸は振幅(μV)である。
【0076】
図11から明らかなように、5-OP-RUの投与なしでEAU誘導後17日のEAUモデルマウス(non-treated)は、コントロールとしての5-OP-RUの投与なしの野生型マウス(Normal)と比較して暗順応(Scotopic)および明順応(Photopic)の両方のERG反応の振幅の明らかな低下が観察されたことから、EAUによって視機能が低下したことが示唆された。一方、図11及び12から明らかなように、5-OP-RU投与後、低下した振幅は部分的に回復した。なお、EAUを誘発したTraj33-/-マウスでは、5-OP-RUの投与なしの野生型マウスと比較して、5-OP-RU投与後に視機能の回復は認められなかった(図示なし)。これらの結果から、5-OP-RUはMAIT細胞依存的に、EAUによって低下した視機能を回復することが確認された。
【0077】
[実施例5]MAIT細胞のアゴニスト投与による抗炎症因子の発現
MAIT細胞のアゴニスト投与による抗炎症因子の発現をリアルタイムPCR法によって調べた。実施例3において5-OP-RUを硝子体内に投与したEAUモデルマウスにおいて、EAUを誘発してから10日目の網膜からNucleoSpin RNA(takara社)を用いてトータルRNAを抽出した。得られたRNAからTranscriptor First Strand cDNA Synthesisキット(Roche Molecular Biochemicals社)を用いてcDNAを得た。眼炎症の組織修復に関わる因子として、IL-22、IL-19、及びNgfの遺伝子発現は、TB Green(登録商標) Premix Ex Taq又はMightyAmpTM for Real Time (Takara Bio社)を用い、LightCycler(登録商標) 96 System (Roche Life Science社)によってリアルタイムに遺伝子発現を半定量的に調べた。なお、IL-22、IL-19及びNgfは抗炎症作用や神経保護作用を有すると考えられている物質である。使用したプライマーは以下の表3のとおりである。
【0078】
【表3】
【0079】
IL-22、IL-19及びNgfそれぞれの発現を図13に示す。図13における縦軸はβアクチンに対する相対発現量を示す。
【0080】
図13より、5-OP-RUによってIL-22、IL-19及びNgfの発現が有意に増加していることが確認された。
【0081】
[実施例6]MAIT細胞に対するアゴニストによるIL-22の発現
【0082】
実施例5において、MAIT細胞のアゴニストである5-OP-RUを硝子体内に投与することで、IL-22の発現が増加することが確認されたが、このIL-22の発現がMAIT細胞から発現しているか否かを確認した。
【0083】
EAU誘導後9日のEAUモデルマウス由来の精製T細胞を、マイトマイシンC(ナカライテスク社)処理した抗原提示細胞存在下で、5-OP-RU(10μM)投与群、又はコントロールとして5-OP-RU投与なし群に分けて37℃で72時間ほど共培養した。また、5-OP-RU投与群において、抗MR1ブロッキング抗体(αMR1 Ab:Biolegend社)添加ありの群、なしの群に分けた。それぞれの群の共培養後の上清を採取し、IL-22の濃度をELISAキット(Thermo Fisher Scientific社)により測定した。結果を図14に示す。なお、抗MR1ブロッキング抗体を用いることによって、MAIT細胞からのTCR依存性のIL-22の産生が抑制される。
【0084】
図14に示すように、5-OP-RUを投与した場合において、抗MR1ブロッキング抗体が非存在下ではIL-22の発現がコントロールと比較して上昇するが、抗MR1ブロッキング抗体の存在下ではIL-22の発現がコントロールと同レベルまで低下した。したがって、5-OP-RUの添加によりMAIT細胞からIL-22が発現していることが確認された。なお、上記EAUモデルマウス由来の精製T細胞の代わりにヒトの末梢血由来MAIT細胞を用いた場合においても同様の傾向がみられた(図示なし)。
【0085】
[実施例7]MAIT細胞のアゴニストの探索
MAIT細胞のアゴニストとしては、5-OP-RUや5-OE-RUが知られているが、医薬用途への利用に向けてより構造的に安定なアゴニストを探索した。
【0086】
MAIT細胞のアゴニストを探索するために、MR1を過剰発現させた抗原提示細胞とMAIT細胞特有のT細胞受容体を発現させたレポーター細胞を作製し、化合物ライブラリー(国立大学法人東京大学創薬機構より入手)を用いたスクリーニングを行った。概要を以下に示す。
【0087】
NFATの下流にGFPの配列が組み込んであり、抗原を認識すればGFPの発現が誘導されるレポーター細胞(国立大学法人大阪大学山崎氏より入手)にレトロウイルスベクターを用いてMAIT細胞受容体遺伝子を導入し、MAIT細胞受容体発現GFPレポーター細胞を作製した。T細胞受容体遺伝子情報はProtein Data Bankより入手した。ヒトの抗原提示細胞は、ヒトMR1を過剰発現させたヒトメラノーマ細胞株A375を用いた。
【0088】
1日目にMulti-dropperを用いてヒトの抗原提示細胞を1ウェルに0.25×10個/40μLになるように捲き、一晩培養させた。2日目には、まずMulti-dropperで化合物ライブラリーの化合物が入った384プレートに培地(RPMI-1640 Medium10×(シグマ・アルドリッチ社)50mL、HO 445mL、GlutaMAX(gibco社)5mLとNaHCO 1gを混合した後にフィルターに通し、FBS10%、ペニシリン-ストレプトマイシン混合液1%、2-ME0.1%を加えて調製)を20μL加え、2000rpm、5分ボルテックスで懸濁した。ポジティブコントロールとして5-OP-RU(1μM)を0.4μLずつ加えた。Biomek(BECKMAN社)を用いて培地を除去し、化合物が入っているプレートでピペッティングした後、溶液全てをヒトの抗原提示細胞を培養したプレートに移した。そして、1時間培養した後、Multi-dropperを使ってヒトMAIT細胞クローン4L4Tが1ウェルに1.25×10個となるように調整した細胞懸濁液を20μLずつ加えた。さらに一晩培養し、3日目にIn Cell Analyzer2000で解析した。
【0089】
1000化合物のスクリーニングを終え、蛍光値とcluster値によって12個の化合物がアゴニスト候補として選出された。さらに2ndスクリーニングとしてフローサイトメトリーで解析し、1stヒット化合物として次の式(VX)に示す4-(エチルアミノ)-3-ニトロ-2H-1-ベンゾピラン-2-オンを得た。
【0090】
【化9】
【0091】
次に、上記式(VX)において芳香環以外の構造がT細胞受容体との結合に重要であると推測し、上記D3~D7及び以下の式(X)、(XI)に示すD1、D2の類縁化合物を国立大学法人東京大学創薬機構より入手し、5-OP-RUと共に上記と同様の方法でIn Cell Analyzer2000によりGFPの発現を調べた。結果を図15に示す。なお、活性相関を確かめるために、各化合物10μM、1μM、0.1μM、0.01μMの濃度で解析した。
【0092】
化合物番号D1(以下、「D1」ともいう。):4-アミノ-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オン。
【0093】
【化10】
【0094】
化合物番号D2(以下、「D2」ともいう。):4-(メチルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オン。
【0095】
【化11】
【0096】
図15より、4位のエチルアミノ側鎖をアミノ側鎖(D1)若しくはメチルアミノ側鎖(D2)に変換した化合物では活性は見られなかった。一方、4位のエチルアミノ側鎖をプロピルアミノ側鎖(D3)、ブチルアミノ側鎖(D4)、アリルアミノ側鎖(D5)、シクロペンチルアミノ側鎖(D6)、イソプロピルアミノ側鎖(D7)に変換した化合物では、1stヒット化合物よりも高いGFP発現がみられた。また、側鎖が長い化合物ほどGFP発現が高いことが確認された。なお、D6によるGFPの発現は、抗MR1ブロッキング抗体を入れると阻害されたため(図示なし)、上記化合物による刺激はT細胞受容体を介して行われることが確認された。上記結果から、5-OP-RUと同様にD3~D7もMAIT細胞のアゴニストであることが明らかとなり、D3~D7も自己免疫疾患の予防又は治療剤となりうる。
【0097】
さらに、最も活性が高かった上記D6の類縁化合物として以下の式(XII)~(XIV)に示すD8-D10を国立大学法人東京大学創薬機構より入手し、5-OP-RUと共に上記と同様の方法でIn Cell Analyzer2000によりGFPの発現を調べてNFAT-GFP陽性細胞の割合(%)を求めた。
【0098】
化合物番号D8(以下、「D8」ともいう。):4-(シクロへキシルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オン
【0099】
【化12】
【0100】
化合物番号D9(以下、「D9」ともいう。):4-(2-メチルシクロへキシルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オン。
【0101】
【化13】
【0102】
化合物番号D10(以下、「D10」ともいう。):4-(シクロオクチルアミノ)-3-ニトロ-2H-クロメン-2-オン。
【0103】
【化14】
【0104】
結果を図16に示す。図16中、「no」はMAIT細胞のアゴニストの候補化合物なしであり、D6、D8~D10は各化合物の濃度を10μMとなるように加えた場合である。
【0105】
図16より、D6と共にD8~D10もMAIT細胞のアゴニストであることが明らかとなり、D8~D10も自己免疫疾患の予防又は治療剤となりうる。
【0106】
なお、上記のように1stヒット化合物及びD3~D10についてはMAIT細胞のアゴニスト活性を有していた。MAIT細胞は自己免疫反応に関与するT細胞の1つであることから、1stヒット化合物及びD3~D10はMAIT細胞が関与する、感染症や癌等における免疫細胞の免疫機能を活性化し、当該免疫細胞の人為的機能制によって、感染症や癌に対する防御や、治療のための薬剤として提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、自己免疫性ぶどう膜炎をはじめとする自己免疫疾患の予防又は治療に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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