(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098004
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】フィラメント装着体及び電子ビーム真空蒸着装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20230703BHJP
C23C 14/30 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
H01J37/06 Z
C23C14/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214460
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】592115825
【氏名又は名称】日新技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110559
【弁理士】
【氏名又は名称】友野 英三
(72)【発明者】
【氏名】長岡 美津也
(72)【発明者】
【氏名】若田 浩明
【テーマコード(参考)】
4K029
5C101
【Fターム(参考)】
4K029DB21
5C101AA36
5C101BB03
5C101BB05
5C101DD08
5C101DD16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フィラメント装着体の部品内における熱伝導率差及び熱膨脹率差に起因するフィラメント装着体の損傷を抑制し、電子ビーム真空蒸着装置の保守点検頻間隔を延長、生産性を向上、各部品の長寿命化を実現、高い品質の電子ビーム蒸着膜が成膜されるフィラメント装着体の提供。
【解決手段】フィラメントコイル部211とフィラメント棒状端子部と212が連続するフィラメント210であり、フィラメント棒状端子部が長手方向に装入され、溝凹設平面317-2を有するフィラメントホルダー310と、溝凹設平面に相対し、フィラメント棒状端子部に当接する押止平面323を有するフィラメント押え320と、押止平面が溝に装入されているフィラメント棒状端子部を圧接してフィラメントを保持する緊結手段と、緊結手段による溝凹設平面と押止平面との相対する位置関係の不整合を防止する平面位置関係整合手段とを具備しているフィラメント装着体300。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを放出するフィラメントコイル部と前記フィラメントコイル部の両端に電圧を印加するフィラメント棒状端子部とが連続するタングステン系の成形体であるフィラメントと、
前記フィラメント棒状端子部の長手方向に対して直角に切断される断面積よりも小さい断面積であり、前記フィラメント棒状端子部が前記長手方向に装入される溝が形成されている溝凹設平面を有しているステンレス系のフィラメントホルダーと、
前記溝凹設平面に相対し、前記フィラメント棒状端子部の長手方向に対し略直角に当接する押止平面を有しているステンレス系のフィラメント押えと、
前記押止平面が、前記溝に装入されている前記フィラメント棒状端子部を圧接して前記フィラメントを保持すると共に、前記フィラメントホルダーと前記フィラメント押えとを結合する緊結手段と、
前記緊結手段による前記溝凹設平面と前記押止平面との相対する位置関係の不整合を防止する平面位置関係整合手段と、
を具備していることを特徴とするフィラメント装着体。
【請求項2】
前記平面位置関係整合手段が、
前記押止平面から前記溝凹設平面方向及び/又は前記溝凹設平面から前記押止平面方向に突出して凸設される少なくとも一つの第一のバンプと、
前記第一のバンプと相対する前記溝凹設平面及び/又は前記押止平面の位置に、前記第一のバンプと嵌合する立体形状で前記溝凹設平面から前記押止平面方向及び/又は前記押止平面から前記溝凹設平面方向と反対方向に凹設されるキャビティと、
の組合せであることを特徴とする請求項1に記載のフィラメント装着体。
【請求項3】
前記平面位置関係整合手段が、
前記溝の中点に関して対称な位置関係にある少なくとも一組の前記第一のバンプ及び前記キャビティであることを特徴とする請求項2に記載のフィラメント装着体。
【請求項4】
前記平面位置関係整合手段が、
前記溝に関して線対称な位置関係にある少なくとも一組の前記第一のバンプ及び前記キャビティであることを特徴とする請求項2に記載のフィラメント装着体。
【請求項5】
前記平面位置関係整合手段が、
前記押止平面及び/又は前記溝凹設平面の周縁部に凸設される前記第一のバンプであり、
前記溝凹設平面及び/又は前記押止平面の周縁部に凹設される前記キャビティであることを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載のフィラメント装着体。
【請求項6】
前記平面位置関係整合手段が、
前記押止平面及び/又は前記溝凹設平面と底面を共有する角柱状、円柱状、円筒状、角錐状、円錐状、及び、半円柱状、並びに、前記押止平面及び/又は前記溝凹設平面と側面を共有する角柱状、及び、半円柱状の中から選択されるいずれかの立体形状である前記第一のバンプであり、
前記溝凹設平面及び/又は前記押止平面と底面を共有する角柱状、円柱状、円筒状、角錐状、円錐状、及び、半円柱状、並びに、前記溝凹設平面及び/又は前記押止平面と側面を共有する角柱状、及び、半円柱状の中から選択されるいずれかの立体形状である前記キャビティであることを特徴とする請求項2~6のいずれか一項に記載のフィラメント装着体。
【請求項7】
前記平面位置関係整合手段が、
前記押止平面から前記溝凹設平面方向及び/又は前記溝凹設平面から前記押止平面に突出して凸設され、前記押止平面と前記溝凹設平面が接触することなく前記押止平面が前記フィラメント棒状端子部を圧接可能に、前記溝に装入されている前記フィラメント棒状端子の前記溝凹設平面から突出している高さよりも低く、略等しい高さの二つ以上の第二のバンプであることを特徴とする請求項1に記載のフィラメント装着体。
【請求項8】
前記平面位置関係整合手段が、
前記溝の中点に関して対称な位置関係にある少なくとも一組の前記第二のバンプであることを特徴とする請求項7に記載のフィラメント装着体。
【請求項9】
前記平面位置関係整合手段が、
前記溝に関して線対称な位置関係にある少なくとも一組の前記第二のバンプであることを特徴とする請求項7に記載のフィラメント装着体。
【請求項10】
前記平面位置関係整合手段が、
前記押止平面及び/又は前記溝凹設平面の周縁部に凸設される前記第二のバンプであることを特徴とする請求項7~9のいずれか一項に記載のフィラメント装着体。
【請求項11】
前記平面位置関係整合手段が、
前記押止平面及び/又は前記溝凹設平面と底面を共有する角柱状、円柱状、円筒状、角錐台状、円錐台状、及び、半円柱状、並びに、前記押止平面及び/又は前記溝凹設平面と側面を共有する角柱状、及び、半円柱状の中から選択される立体形状である前記第二のバンプであることを特徴とする請求項7~10のいずれか一項に記載のフィラメント装着体。
【請求項12】
電子ビームを放出するフィラメントコイル部と前記フィラメントコイル部の両端に電圧を印加するフィラメント棒状端子部とが連続するタングステン系の成形体であるフィラメントと、
前記フィラメント棒状端子部の長手方向に対して直角に切断される断面積よりも小さい断面積であり、前記フィラメント棒状端子部が前記長手方向に装入される溝が形成されている溝凹設平面を有しているステンレス系のフィラメントホルダーと、
前記溝凹設平面に相対し、前記フィラメント棒状端子部の長手方向に対し略直角に当接する押止平面を有し、主構成成分の融点が1,000℃以上、熱伝導率が170±50W/(m・k)、及び、熱膨張率が4×10~10×10-6/℃の合金であるフィラメント押えと、
前記押止平面が、前記溝に装入されている前記フィラメント棒状端子部を圧接して前記フィラメントを保持すると共に、前記フィラメントホルダーと前記フィラメント押えとを結合する緊結手段と、
を具備していることを特徴とするフィラメント装着体。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載のフィラメント押えの主構成成分の融点、熱伝導率、及び、熱膨張率が、それぞれ、1,000℃以上、熱伝導率170±50W/(m・k)、及び、熱膨張率4×10-6~10×10-6/℃の合金であることを特徴とするフィラメント装着体。
【請求項14】
前記合金が、銅合金であることを特徴とする請求項12又は13に記載のフィラメント装着体。
【請求項15】
前記銅合金が、銅-タングステン系合金又は銅-モリブデン系合金であることを特徴とする請求項14に記載のフィラメント装着体。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載のフィラメント装着体を装備することを特徴とする電子ビーム真空蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム真空蒸着装置の電子銃に内蔵されている電子ビームを放出するフィラメントを保持するフィラメント装着体に関する。より詳しくは、フィラメントが、電子ビームを放出するフィラメントコイル部と電圧が印加されるフィラメント端子部との連続した成形体であり、フィラメントホルダーの溝に装入されているフィラメント端子部にフィラメント押えを圧接することによって、フィラメントホルダーとフィラメント押えとの間に保持される様式のフィラメント装着体において、電子ビーム真空蒸着装置の長時間の連続的又は断続的稼動においても、フィラメント装着体に保持されているフィラメントの移動、変形、及び、溶着等を抑制及び防止し、フィラメント及びその装着体の寿命及び保守点検間隔を延長することができるフィラメント装着体及びそれを配備した電子ビーム真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム真空蒸着装置は、1964年の東京オリンピックでのカラーテレビ放送が契機となり、抵抗加熱法では対応できない高融点誘電体材料による多層反射防止膜を実現する成膜装置として次第に普及すると共に、導電体及び絶縁体を選ぶことなく成膜可能であるため、現在では、光の透過又は反射が制御されるフィルターやミラー等の光学部品の屈折率の異なる金属酸化物薄膜の積層、半導体素子やディスプレイ等の絶縁膜や透明導電膜等として利用する酸化物薄膜の形成、パワーデバイスやLED等の各種電子素子の電極や配線等として利用される電気抵抗の低い金属膜の形成、食品包装材等のガスバリヤー膜として機能する酸化物薄膜の形成等広範囲の産業分野で不可欠な存在となっている(非特許文献1)。
【0003】
そのため、電子ビーム真空蒸着装置は完成された装置であるように考えられているところがあるが、現在も、各種製品の高機能化に伴う品質の向上及び多様化、並びに、コストダウンを含む生産性の向上に対する要求が厳しい状況にあり、電子ビーム真空蒸着装置の改良は不可欠である。
【0004】
本発明は、電子ビーム真空蒸着用電子銃固有の本質的な問題として内在していたが、生産性の向上に対する要求に応えた生産性を改善する技術が生産性を阻害する要因として顕在化されたものと考えられる電子ビーム真空蒸着用電子銃の電子ビーム放射源であるフィラメント及びフィラメント装着体の移動、変形、及び、溶着の問題を解決しようとするものである。
【0005】
電子ビーム真空蒸着装置は、生産性向上を図るために、例えば、
図1に示すように、被成膜基材が連続したシート20の場合、真空排気系12を付設した真空蒸着成膜室11の前後に、真空排気系14、16を付設した真空シール室13、14を連設した連続式電子ビーム真空蒸着装置10が古くから開発されており、広範囲の産業分野で利用されている(特許文献1及び非特許文献2)。被成膜基板が断裁された枚葉シートであっても、前後の真空シール室に相当する基板供給室と基板取出し室を設けることによって連続成膜が可能である。このような連続式電子ビーム真空蒸着装置により、電子ビーム真空蒸着による成膜の連続稼働及び断続稼働が可能となり、蒸着材料用坩堝装着部19の坩堝191に収容される蒸着源に電子ビームを照射する、フィラメント装着部101と偏向磁石及びヨーク装着部102を主構成要素とする電子ビーム蒸着用電子銃100に掛かる負荷が、バッチ式電子ビーム真空蒸着装置と比較して顕著に増大した。特に、材質の異なる蒸着膜の多層化及び複合化が要求される場合には、複数の坩堝が駆動可能に装着され、断続的に成膜されるので、電子ビーム真空蒸着の稼動と停止に伴う1,000℃以上の温度差の昇温降温が頻繁に行われ、電子ビーム蒸着用電子銃100に掛かる負荷は極めて厳しいものがある(非特許文献2)。
【0006】
その後も生産性が追及され、連続式電子ビーム真空蒸着装置10の連続稼働及び断続可動の弊害となるメンテナンスの為の大気開放を削減する無効蒸着物の低減(特許文献2)、防止(特許文献5)、及び、回収(特許文献6)、並びに、異常放電防止(特許文献3)及び坩堝無交換化(特許文献4)等が進められ、電子ビーム蒸着用電子銃100に掛かる負荷が増大の一途を辿っている。
【0007】
特に、電子ビーム蒸着用電子銃100のフィラメント装着部101は、
図2及び
図3から分かるように、高圧接続ステイ109が接続されており、大電流が流されて加熱されたフィラメントは、瞬時に2,300℃以上の高温となるため、フィラメント装着部101近辺には、冷却給排水口114が配備されていることから分かるように、冷却されている。しかし、フィラメントの主成分であるタングステンの2次再結晶温度(2000~2200℃)を超える温度は、タングステンの結晶粒の粗大化を招くと共に、蒸発物質との衝撃や真空蒸着成膜室11の酸素による酸化等による変形、劣化、及び、断線が生起する。このため、フィラメントの長寿命対策が、窒化チタンの被覆(特許文献7)、酸素分圧制御(特許文献8)、高融点金属の配合(特許文献9)、及び、形状(特許文献10)等により試みられてきた。
【0008】
しかし、このようなフィラメント装着部101に対する負荷の顕著な増大は、フィラメント自体だけではなく、フィラメント装着体にも及んでいることが分かってきた。
【0009】
従来のフィラメント装着部101には、フィラメントから電子を放出するための高圧電源やアノード等の各種部品が備えられているが、フィラメント装着体に及ぶ負荷を説明するため、
図4には、従来のフィラメント装着体1000の分解斜視模式図を示す。フィラメント装着体1000には、フィラメント210から電子ビームを放出するためのウェーネルト電極220及び絶縁体としての板碍子210が備えられており、これらに設けられたボルト孔222、231に六角ガス抜きボルト242、243を螺合して左右のフィラメントホルダー1010-1、1010-2と結合されている。フィラメント210は、左右のフィラメントホルダー1010-1、1010-2とフィラメント押え1020との間に装入され、左右のフィラメントホルダー1010-1、1010-2とフィラメント押え1020とが堅く結合されることよって保持される。より詳しく説明すると、次のようにして保持される。フィラメント210は、電子ビームを放出するフィラメントコイル部211の両側に電圧を印加する2本のフィラメント棒状端子部212が連続する成形体であり、このフィラメント棒状端子部212が載置される左右のフィラメント端子装入溝1011-1、1011-2が形成された左右のフィラメントホルダー1010-1、1010-2の溝凹設平面1017―1、1017-2と、溝凹設平面1017―1、1017-2と相対するフィラメント押え1020の押止平面1023との間にフィラメント棒状端子部212が溝長手方向であるX軸方向に装入される。そして、これらの溝1011-1、1011-2から頭をのぞかせているフィラメント棒状端子部212の円柱側面がフィラメント押え1020の押止平面1023と接触し、フィラメント押え1020のボルト孔1022及びフィラメントホルダー1010のフィラメントホルダー間ボルト孔1014と螺合する4つのフィラメント押え締結六角ガス抜き穴付きボルト241の緊結手段により、フィラメント棒状端子部212の円柱側面が押止平面1023で圧接されると共に、フィラメントホルダー1010とフィラメント押え1020とが結合してフィラメント210が保持される。ここで、タングステンであるフィラメント210、セラミックスである板碍子230を除き、フィラメントホルダー1010、フィラメント押え1020、各種ガス抜き穴付きボルト241、242、243等のフィラメント装着体構成部品は一般的なステンレスである。なお、右のフィラメント端子装入溝1011-1及び溝凹設平面1017-1は、フィラメントホルダー1010-1の反対面にあり図示されていない。
【0010】
このような構造及び材質のフィラメント装着体1000であるが故に、瞬時に2,300℃以上の高温に加熱されるフィラメント210自体の変形、劣化、及び、断線等に至らないとしても、タングステンと比較して熱伝導率が小さい(約1/10)ステンレス製のフィラメント押え127やフィラメント押え締結六角穴付きボルト241等も、数分~10分程度すれば、1,000℃以上に加熱されるので、タングステンと比較して熱膨張率が大きい(約5倍)ステンレスの熱膨張に起因すると推測される次のような損傷が発生する。すなわち、フィラメント押え127の膨張に追随したフィラメント210の膨張が生起しないため、締結六角穴付きボルトの熱膨張に伴ってフィラメント押えがフィラメントを圧接して押止する力を低下させることによって、フィラメント押え締結六角穴付きボルト241が弛緩し、フィラメント押え127の平面がフィラメント棒状端子部212の円柱側面を圧接して押止する力を低下させ、フィラメント210を保持することが困難となり脱落する。また、フィラメント押え締結六角穴付きボルト241の弛緩が少ない場合は、フィラメント210が変形し、正常な電圧がフィラメント210に印加されず、電子ビームの発生に異常を来す。
【0011】
更に、タングステンと比較して、ステンレスの熱伝導率が低く熱伝導が必ずしも均一に行われないことに加え、ステンレスの熱膨張率が大きく変形量が不均一であるためと推測されるが、フィラメント押え127を固定しているフィラメント押え締結六角穴付きボルト241が均等に弛緩するとは限らず、フィラメント押え127がフィラメント210に対して捻じれるように移動するため、フィラメント210に負荷される捻りトルクが、フィラメント210の押し上げ、押し下げ、及び、捻れが生起するだけでなく、断線に至る場合も認められる。更に、フィラメント押え締結六角穴付きボルト241の不均一な弛緩によるフィラメント押え127のフィラメント210に対する圧接力が低下するため、接触抵抗による発熱が、フィラメント210とフィラメント押え127との溶着を発生させることもある。この場合、フィラメント210は、フィラメント押え127と溶着しているので、フィラメント押え127の移動量と同じ移動量となり、上記フィラメントの変形が激しくなり、断線に至る確率が高まる。
【0012】
このような電子ビーム蒸着用電子銃100の稼働時におけるフィラメント装着体120の昇温がフィラメント210に及ぼす悪影響だけでなく、電子ビーム蒸着用電子銃100の停止時においても、タングステンとステンレスの大きな熱伝導率及び熱膨張率の違いに起因すると推測される次のような問題が発生する。すなわち、フィラメント210に印加されていた電圧が切断されると、フィラメント210は急激に放射冷却を起こし、僅か30 秒足らずで600℃迄降温するのに対し、フィラメント押え127やフィラメント押え締結六角穴付きボルト241等のステンレス製部品は600℃迄降温するには3分以上を要するため、熱収縮量の差に基づいたフィラメント210の脱落が生じる。また、フィラメント装着体120全体及びフィラメント装着体120を構成する各部品の冷却速度が不均一である為、フィラメント装着体120を構成する各部品間に歪が生起して、フィラメント210に損傷を与える場合もある。
【0013】
しかも、このような電子ビーム蒸着用電子銃100の稼動及び停止は、各種製品の高機能化に伴う品質の向上及び多様化、並びに、コストダウンを含む生産性の向上に対する要求が厳しくなるに従って頻繁に行われるようになっており、電子ビーム蒸着用電子銃100の連続稼働条件及び断続稼働条件の多様化によるフィラメント210を中心としたフィラメント装着体120の損傷が顕著に増加している。
【0014】
上記フィラメント装着体の損傷は、フィラメントの交換及びフィラメント装着体の洗浄等の保守点検頻度を高め、生産性の低下を招くばかりか、洗浄ではショットブラスト等の各種ブラスト加工が施され、フィラメント装着体各部品の劣化を促進し、それらの寿命が短くなる。また、フィラメント装着体の損傷は、電子ビーム蒸着皮膜の品質を低下する要因にもなる。
【0015】
以上の問題に対する解決手段としては、例えば、新たに設けられたフィラメントホルダーに嵌合する新たな付勢手段により、フィラメント押えがフィラメント端子を圧接してフィラメントの安定した固定を実現すると記載されているフィラメント固定機構が開示されている(特許文献11)。しかし、この固定機構は、フィラメントホルダーに形成された腕部と付勢手段に形成された鉤部とが嵌合し、それぞれの平坦部が対面しており、これらの平坦部の間に移動自在なフィラメント押えとフィラメント端部とを挟んで、付勢手段をボルトで押圧してフィラメントを固定する構成となっているので、図示されている板状のフィラメント端子であれば効果的と考えられるが、フィラメント端子が円柱状の場合、フィラメント押えが上下左右に自在に揺動し得るので、上記フィラメント装着体の昇温及び高温に伴う課題を解決することはできない。また、板状のフィラメント端子であれば、新たな付勢手段を設ける必要も認められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平9-143727号公報
【特許文献2】特開平1-21067号公報
【特許文献3】特開平3-64463号公報
【特許文献4】特開平6-212425号公報
【特許文献5】特開平9-143736号公報
【特許文献6】特開平10-183346号公報
【特許文献7】特開平2-121225号公報
【特許文献8】特開2003-301261号公報
【特許文献9】特開2009-134974号公報
【特許文献10】特開2015-222616号公報
【特許文献11】特開2008-25431号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】上岡 昌典,谷口 明,高島 徹,「成膜加工に利用される電子ビーム蒸着の最新技術」,[on line],日本電子news,Vol. 49, No. 8,[令和3年12月8日検索],インターネット<https://www.jeol.co.jp/applications/detail/1718.html#>
【非特許文献2】日本電子株式会社ホームページ,「電子ビーム蒸着用電子銃」,[on line],[令和3年12月8日検索],インターネット<https://www.jeol.co.jp/science/eb.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したように、電子ビーム真空蒸着装置の長時間の連続的又は断続的稼動は、フィラメントを含むフィラメント装着体が1,000℃以上の温度差の熱履歴を被ることになり、主として、タングステン製のフィラメントとステンレス製のフィラメント押えやフィラメントホルダー等のフィラメント装着体を構成する部品との極めて大きな熱伝導率差及び熱膨脹率差に起因するフィラメント装着体の損傷、特に、フィラメントの移動、変形、及び、溶着等の問題を発生する。そして、これらの損傷は、電子ビーム真空蒸着装置の保守点検頻度を高め、著しく生産性を低下し、フィラメント装着体各部品の寿命が短くなるばかりか、電子ビーム蒸着膜の品質低下を招く。
【0019】
本発明は、フィラメントとフィラメント押えやフィラメントホルダー等のフィラメント装着体を構成する部品との極めて大きな熱伝導率差及び熱膨脹率差に起因するフィラメント装着体の損傷、特に、フィラメントの移動、変形、及び、溶着等を抑制し、電子ビーム真空蒸着装置の保守点検間隔を延長でき、生産性を向上するばかりか、フィラメント装着体各部品の長寿命化を実現し、高い品質の電子ビーム蒸着膜が成膜されるフィラメント装着体を提供することを目的としている。また、本発明のフィラメント装着体を装備した電子ビーム真空蒸着装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するために、タングステン製のフィラメントとステンレス製のフィラメント押えやフィラメントホルダー等のフィラメント装着体を構成する部品との極めて大きな熱伝導率差及び熱膨脹率差に起因すると推測されているフィラメント装着体の損傷に至る過程を詳細に分析しシミュレーションした結果、フィラメント押えの熱膨脹及び熱収縮が主たる要因であることを究明した上で、電子ビームを放出するフィラメントコイル部の両側に電圧を印加するフィラメント棒状端子部が連続する成形体であるフィラメントのフィラメント棒状端子部とフィラメント押えとの位置関係、分かり易い表現としては、フィラメント端子を挟み相対するフィラメントホルダー平面とフィラメント押え平面の位置関係を大きな温度変化に対しても整合させることができれば、上記フィラメント装着体の損傷が抑制できることが分かった。また、この結果に基づいて、従来のステンレス製フィラメント押えを、フィラメントのタングステンに近い熱伝導率及び熱膨脹率の高融点金属又は合金のフィラメント押えに置き換えることによって、同様の効果を奏する安定したフィラメント装着体を提供ができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0021】
すなわち、本発明は、電子ビームを放出するフィラメントコイル部とフィラメントコイル部の両端に電圧を印加するフィラメント棒状端子部とが連続するタングステン系の成形体であるフィラメントと、フィラメント棒状端子部の長手方向に対して直角に切断される断面積よりも小さい断面積であり、フィラメント棒状端子部がその長手方向に装入される溝が形成されている溝凹設平面を有しているステンレス系のフィラメントホルダーと、この溝凹設平面に相対し、フィラメント棒状端子部の長手方向に対し略直角に当接する押止平面を有しているステンレス系のフィラメント押えと、この押止平面が、溝に装入されているフィラメント棒状端子部を圧接してフィラメントを保持すると共に、フィラメントホルダーとフィラメント押えとを結合する緊結手段と、この緊結手段による溝凹設平面と押止平面との相対する位置関係の不整合を防止する平面位置関係整合手段とを具備していることを特徴とするフィラメント装着体である。ここで、溝凹設平面と押止平面との相対する位置関係の不整合とは、相対する溝凹設平面と押止平面の平面方向の位置関係が破壊されることであり、これら平面の直角方向の位置関係としての両平面の平行関係が破壊されることである。従って、言い換えれば、本発明のフィラメント装着体は、フィラメントホルダーの溝凹設平面とフィラメント押えの押止平面との相対する位置関係の整合が保持されることを特徴としている。なお、以下、特に断りがない限り、フィラメントは、タングステンを主成分とすタングステン系のフィラメントであり、フィラメント押え、フィラメントホルダー、及び、ガス抜き穴付きボルト等のフィラメント以外のフィラメント装着体は、JIS鋼種に従えば、SUS304やS316等のオーステナイト系、SUS410等のマルテンサイト系、及び、SUS405等のフェライト系等の一般的なステンレス系、並びに、モリブデン等である。
【0022】
上記緊結手段は、フィラメントホルダーとフィラメント押えとを堅く結合し、弛緩することが少ない方法であれば限定されるものではないが、基本的には、フィラメントホルダー及びフィラメント押えに形成されるネジ山を有するボルト孔と、そのネジ山に螺嵌するボルトとから構成されることが好ましい。このボルトには、真空系を保持するという観点から、ガス抜き穴付きボルトであることがより好ましい。また、この緊結手段の弛緩を防止するために、ガス抜き構造を備え、弛緩防止効果を発現する凹凸構造のダブルナットを付設することがより更に好ましい。例えば、このようなダブルナットとしては、偏心加工したダブルナットであるハードロックナットを上げることができるが、これに限定されるものではない。
上記平面位置関係整合手段についても、溝凹設平面と押止平面との相対する位置関係の不整合が生じることなく整合している状態を保持することができる方法であれば限定されるものではないが、押止平面から溝凹設平面方向に突出して凸設される少なくとも一つの第一のバンプと、第一のバンプと相対する溝凹設平面の位置に、第一のバンプと嵌合する立体形状で溝凹設平面から押止平面と反対方向に凹設されるキャビティとの組合せであることが好ましい。逆に、溝凹設平面から押止平面方向に突出して凸設される少なくとも一つの第一のバンプと、第一のバンプと相対する押止平面の位置に、第一のバンプと嵌合する立体形状で押止平面から溝凹設平面と反対方向に凹設されるキャビティとの組合せであってもよい。また、上記平面位置関係整合手段は、上記第一のバンプとキャビティが混在した組合せ、すなわち、溝凹設平面又は押止平面に凸設される第一のバンプと、その第一のバンプに嵌合するように、溝凹設平面又は押止平面に凹設されるキャビティとの組合せであってもよい。
【0023】
そして、このような第一のバンプとキャビティの組合せによる相対する溝凹設平面と押止平面の平面方向の位置関係及びこれら両平面の平行関係が保持されるのは、バンプとキャビティとの間に、溝凹設平面と押止平面の平面方向へのフィラメント押えの移動及びこれら両平面の直角方向へのフィラメント押えの移動を抑止する接触面が形成されることに基づいている。
【0024】
しかし、バンプ及びキャビティの立体形状は限定される必要はないが、バンプは、溝凹設平面と押止平面との相対する位置関係の整合を保持する範囲で、キャビティと相似な立体形状で、キャビティに挿嵌可能な大きさである必要があり、できる限り大きいものが好ましい。
【0025】
また、溝凹設平面と押止平面との相対する位置関係の整合をより安定して保持するためには、平面位置関係整合手段が、フィラメントホルダーに形成されている溝の中点に関して対称な位置関係にある少なくとも一組の第一のバンプ及びキャビティであることが好ましく、この溝に関して線対称な位置関係にある少なくとも一組の第一のバンプ及びキャビティであることがより好ましい。これは、特に、相対する溝凹設平面と押止平面の直角方向の両平面の平行関係を保持する効果を高めることができる。
【0026】
更に、溝凹設平面と押止平面との相対する位置関係の整合をより更に安定して保持するためには、平面位置関係整合手段が、溝凹設平面及び押止平面の周縁部に凸設及び凹設される少なくとも一組の第一のバンプ及びキャビティであることが好ましく、同時に上記溝の中点又は溝に関して対称な位置関係にあることがより好ましい。
【0027】
第一のバンプとキャビティの組合せが溝凹設平面及び押止平面の周縁部にあることが好ましい理由はてこの原理にある。すなわち、フィラメント押えが移動する全応力は重心付近に負荷されるので、この付近に支点が存在するとすれば、この応力の移動を防止するための作用点となるバンプとキャビティの組合せは、支点から離れた押止平面及び溝凹設平面の周縁部に形成されることで小さなバンプとキャビティの組合せで大きな応力を支えることが可能となる。
【0028】
一方、このような平面位置関係整合手段である第一のバンプ及びキャビティの立体形状は、上記の通り限定されるものではないが、溝凹設平面と押止平面との相対する位置関係の整合を保持することに加え、これらの立体形状を容易に成形することも考慮すると、次のような立体形状が適している。特に、押止平面及び/又は溝凹設平面と底面を共有する角柱状、円柱状、円筒状、角錐状、円錐状、及び、半円柱状、並びに、押止平面及び/又は溝凹設平面と側面を共有する角柱状、及び、半円柱状の中から選択されるいずれかの立体形状である第一のバンプであることが好ましい。従って、バンプと嵌合し相似な立体形状であるキャビティは、溝凹設平面及び/又は押止平面と底面を共有する角柱状、円柱状、円筒状、角錐状、円錐状、及び、半円柱状、並びに、溝凹設平面及び/又は押止平面と側面を共有する角柱状、及び、半円柱状の中から選択されるいずれかの立体形状であることが好ましい。
【0029】
このようなバンプとキャビティの組合せの平面位置関係整合手段を分析し、実験した結果、簡易な構造で、溝凹設平面と押止平面との相対する位置関係の不整合を防止する機能を発現する平面位置関係整合手段を備えるフィラメント装着体を見出した。すなわち、本発明の平面位置関係整合手段は、押止平面から溝凹設平面方向に突出して凸設され、押止平面と溝凹設平面が接触することなく押止平面がフィラメント棒状端子部を圧接可能に、溝に装入されているフィラメント棒状端子の溝凹設平面から突出している高さよりも低く、略等しい高さの二つ以上の第二のバンプだけとすることも可能であることを見出した。従って、逆に、平面位置関係整合手段は、溝凹設平面から押止平面方向に突出して凸設され、押止平面と溝凹設平面が接触することなく押止平面が前記フィラメント棒状端子部を圧接可能に、溝に装入されているフィラメント棒状端子の溝凹設平面から突出している高さよりも低く、略等しい高さの二つ以上の第二のバンプだけであってもよいし、このような高さの押止平面に突設される第二のバンプと溝凹設平面に凸設される第二のバンプとが混在していている平面位置関係整合手段であってもよい。
【0030】
この第二のバンプによる相対する溝凹設平面と押止平面の平面方向の位置関係及びこれら両平面の平行関係が保持されるのは、第二バンプの先端と溝凹設平面又は押止平面との摩擦力により溝凹設平面と押止平面の平面方向へのフィラメント押えの移動が抑止され、第二のバンプの高さによりこれら両平面の直角方向へのフィラメント押えの移動が抑止されることに基づいている。
【0031】
平面位置関係整合手段がこのような第二のバンプも、第一のバンプとキャビティの組合せと同様の理由で、フィラメント棒状端子部がその長手方向に装入される溝の中点に関して対称な位置関係にある少なくとも一組の第二のバンプであることが好ましく、この溝に関して線対称な位置関係にある少なくとも一組の前記第二のバンプであることがより好ましい。
【0032】
そして、第一のバンプとキャビティの組合せと同様の理由で、第二のバンプも溝凹設平面又は押止平面の周縁部にあることが好ましく、同時に溝の中点又は溝に関して対称な位置にあることがより好ましい。
【0033】
平面位置関係整合手段が第二のバンプである場合、その立体形状は、相対する溝凹設平面と押止平面の平行方向の位置関係の整合が、第二バンプの先端と溝凹設平面又は押止平面との摩擦力に依存するため、両者の接触面積が大きいことが好ましい。そのため、特に、第二のバンプの立体形状は、溝凹設平面又は押止平面と底面を共有する角柱状、円柱状、円筒状、角錐台状、円錐台状、及び、半円柱状、並びに、溝凹設平面又は押止平面と側面を共有する角柱状、及び、半円柱状の中から選択される形状である第二のバンプであることが好ましい。
【0034】
なお、平面位置関係整合手段を備える本発明のフィラメント装着体の力学的解決手段から、フィラメント棒状端子を装入する溝を深くするが容易に考えられるのと同様、フィラメント棒状端子とその溝には応力の作用しない面積が増加し、接触抵抗の発熱による溶着が容易に発生して本発明の課題を解決することはできない。
【0035】
以上の平面位置関係整合手段を備える本発明のフィラメント装着体は、従来のタングステン製フィラメントとステンレス製フィラメント押えとで異なる熱伝導率及び熱膨張率に起因して生起する溝凹設平面と押止平面の平面方向の位置関係の不整合及びこれら両平面の平行関係の不整合を力学的に解決する手段である。従って、この効果は、フィラメント押えの物性をタングステンに類似させるように材質を変更することによっても発現し、これらの不整合を解決できる可能性があることを示唆していると考えられる。そこで、フィラメント押えの融点、熱伝導率、及び、熱膨張率を、それぞれ、1,000℃以上、170±50W/(m・k)、及び、4×10-6~10×10-6/℃である金属の合金であるフィラメント押えとしたところ、溝凹設平面と押止平面の平面方向の位置関係の不整合及びこれら両平面の平行関係の不整合を防止できることが確認された。また、力学的解決手段との併用によって、溝凹設平面と押止平面の平面方向の位置関係の不整合及びこれら両平面の平行関係の不整合を防止できる効果が一層高まることも認められた。
【0036】
すなわち、本発明のフィラメント装着体は、電子ビームを放出するフィラメントコイル部とフィラメントコイル部の両端に電圧を印加するフィラメント棒状端子部とが連続するタングステン系の成形体であるフィラメントと、フィラメント棒状端子部の長手方向に対して直角に切断される断面積よりも小さい断面積であり、フィラメント棒状端子部が長手方向に装入される溝が形成されている溝凹設平面を有しているステンレス系のフィラメントホルダーと、この溝凹設平面に相対し、フィラメント棒状端子部の長手方向に対し略直角に当接する押止平面を有し、主構成成分の融点が1,000℃以上、熱伝導率が170±50W/(m・k)、及び、熱膨張率が4×10~10×10-6/℃の合金であるフィラメント押えと、この押止平面が溝に装入されているフィラメント棒状端子部を圧接してフィラメントを保持すると共に、フィラメントホルダーとフィラメント押えとを結合する緊結手段とを具備していることを特徴としている。これは、本発明のフィラメント装着体は、緊結手段による溝凹設平面と押止平面との相対する位置関係の不整合を防止する平面位置関係整合手段が、フィラメント押えの材質として、融点が1,000℃以上、熱伝導率が170±50W/(m・k)、及び、熱膨張率が4×10~10×10-6/℃の合金を使用することを特徴としていると表現することもできる。
【0037】
特に、主構成成分の融点が1,000℃以上、熱伝導率が170±50W/(m・k)、及び、熱膨張率が4×10~10×10-6/℃である合金としては、銅系合金が適している。更に、銅合金が、銅-タングステン系合金又は銅-モリブデン系合金であるフィラメント押えであることがより適している。このような合金が好ましい理由は、タングステン系フィラメントの種類及び形状、並びに、フィラメント装着体の構造及びそれを構成する部品の材質等に応じ、融点及び熱伝導率を変更する必要性がある場合に対応できることにある。なお、銅-タングステン系合金及び銅-モリブデン系合金を構成する成分である、タングステン、モリブデン、及び、銅の融点は、それぞれ、約3,400℃、約2,600℃、及び、約1,100℃である。また、銅-タングステン系合金の熱伝導率及び熱膨張率は、組成によって異なるが、それぞれ、約180W/(m・k)及び6×10-6/℃、銅-モリブデン系合金の熱伝導率及び熱膨張率も、組成によって異なるが、それぞれ、約200W/(m・k)及び8×10-6/℃である。一方、ステンレスの融点、熱伝導率、及び、熱膨張率は、組成によって異なるが、それぞれ、約1,100℃、約15W/(m・k)、及び、約20×10-6/℃である。
【0038】
以上説明した本発明のフィラメント装着体を装備した電子ビーム真空蒸着装置は、特に連続式装置に適しており、長時間の連続稼働及び断続的稼動においても、フィラメント装着体の損傷が少ないため、保守点検間隔の延長及び保守点検時間の短縮を図ることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明のフィラメント装着体によれば、電子ビーム真空蒸着装置の稼働時及び停止時におけるフィラメントとフィラメント以外の構成部品との熱伝導率及び熱膨張率の顕著な相違に起因する、フィラメントの移動、変形、及び、溶着等を抑制してフィラメント装着体の損傷を防止し、電子ビーム真空蒸着装置の保守点検間隔を延長でき、生産性を向上するばかりか、フィラメント装着体各部品の長寿命化を実現し、高い品質の電子ビーム蒸着膜が成膜されるという優れた効果を奏する。また、本発明のフィラメント装着体を備えた電子ビーム真空蒸着装置は、連続式装置として適しており、長時間の連続稼働及び断続的稼動においても、フィラメント装着体の損傷が少なく、保守点検間隔の延長及び保守点検時間の短縮を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明のフィラメント装着体が提供されるに至った要因の一つである代表的な連続式電子ビーム真空蒸着装置の断面概要模式図である。
【
図2】本発明のフィラメント装着体が配備される電子ビーム真空蒸着用電子銃の概要を示す平面模式図である。
【
図3】本発明のフィラメント装着体が配備される電子ビーム真空蒸着用電子銃の概要を示す正面模式図である。
【
図4】従来のフィラメント装着体の分解斜視模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る第一のフィラメント装着体の分解斜視模式図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る
図5に示す分解されている第一のフィラメント装着体構成部品を組立てた第一のフィラメント装着体において、X軸のXb方向から視た正面模式図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る
図6の第一のフィラメント装着体に表記されている断面指示線Aにおいて、紙面に対して垂直方向(X軸方向)に切断され、Z軸のZr方向から視た断面模式図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る
図7の第一のフィラメント装着体に表記されている断面指示線Bにおいて、紙面に対して垂直方向(Z軸方向)に切断され、X軸のXf方向から視た断面模式図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る
図6の第一のフィラメント装着体において、Y軸のYu方向から視た平面模式図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る第一のフィラメント装着体を構成する第一のフィラメントホルダー(a)と第一のフィラメント押え(b1、b2)の斜視模式図と、従来のフィラメント装着体を構成する第一のフィラメントホルダー(c)と第一のフィラメント押え(d)の斜視模式図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係るフィラメント装着体の平面模式図(
図9)に表記されている断面指示線C、すなわち、
図10の断面指示線Cを通過するようにY軸方向に切断され、X軸のXb方向から視た断面模式図(a)で、フィラメント押えに形成されている四角柱バンプの効果を説明する図である。比較のため、従来のフィラメント装着体について、(図示されていない)
図9に相当する平面模式図の断面指示線C、すなわち、
図10の断面指示線Cを通過するようにY軸方向に切断され、X軸のXb方向から視た断面模式図(b)を示した。
【
図12】本発明の一実施形態に係る第一のフィラメント装着体の平面模式図(
図9)に表記されている断面指示線D、すなわち、
図10の断面指示線Dを通過するようにY軸方向に切断され、Z軸のZl方向から視た断面模式図(a)で、第一のフィラメント押えに形成されている四角柱バンプの効果を説明する図である。比較のため、従来のフィラメント装着体について、(図示されていない)
図9に相当する平面模式図の断面指示線D、すなわち、
図10の断面指示線Dを通過するようにY軸方向に切断され、Z軸のZl方向から視た断面模式図(b)を示した。
【
図13】
図10における、第一のフィラメントホルダーのフィラメントが装入される溝が形成された溝凹設平面とフィラメント押えの押止平面とに挟まれたフィラメント付近の拡大図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る第二のフィラメント装着体を構成する第二のフィラメント押え(a)及び第二のフィラメントホルダー(b)の分解斜視模式図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係る第二のフィラメント装着体で、
図8に相当する断面模式図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る第三のフィラメント装着体を構成する第三のフィラメント押え(a)及び第三のフィラメントホルダー(b)の分解斜視模式図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係る第四のフィラメント装着体を構成する第四のフィラメント押え(a)及び第四のフィラメントホルダー(b)の分解斜視模式図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係る第五のフィラメント装着体を構成する第五のフィラメント押え(a)、第六のフィラメント装着体を構成する第六のフィラメント押え(b)、及び、第七のフィラメント装着体を構成する第七のフィラメント押え(c)の分解斜視模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面に描かれた一実施形態に基づき、本発明のフィラメント装着体及び電子ビーム真空蒸着装置を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想によってのみ限定されるものである。
【0042】
図5は、本発明の一実施形態に係る第一のフィラメント装着体300の分解斜視模式図である。この第一のフィラメント装着体300も、
図4に示した従来のフィラメント装着体1000同様、フィラメント210、ウェーネルト電極220、絶縁体としての板碍子210、これらに設けられたボルト孔222、231、及び、これらに螺合する六角ガス抜きボルト242、243の構成部品を備え、これらが第一のフィラメントホルダー310及びそれらに設けられたボルト孔314、315、316、並びに、第一のフィラメント押え322及びそれらに設けられたボルト孔322を用いて組立てられ、第一のフィラメント押え320のボルト孔322及び第一のフィラメントホルダー310のフィラメントホルダー間ボルト孔314と螺合する4つのフィラメント押え締結六角ガス抜き穴付きボルト241の緊結手段により、第一のフィラメント押え320と第一のフィラメントホルダー310との間に装入されているフィラメント210のフィラメント棒状端子部211が圧接されてフィラメント210が保持される。
【0043】
すなわち、本発明の第一のフィラメント装着体300も、フィラメント210から電子ビームを放出するためのウェーネルト電極220及び絶縁体としての板碍子210が備えられており、これらに設けられたボルト孔222、231に六角ガス抜きボルト242、243を螺合して左右の第一のフィラメントホルダー310-1、310-2と結合されている。また、フィラメント210は、左右の第一のフィラメントホルダー310-1、310-2と第一のフィラメント押え320との間に装入され、左右の第一のフィラメントホルダー310-1、310-2と第一のフィラメント押え320とが次のように結合されることよって保持される。フィラメント210は、電子ビームを放出するフィラメントコイル部211の両側に電圧を印加する2本のフィラメント棒状端子部212が連続する成形体であるので、このフィラメント棒状端子部212が載置される左右のフィラメント端子装入溝311-1、311-2が形成された左右の第一のフィラメントホルダー310-1、310-2の溝凹設平面317―1、317-2と、溝凹設平面317―1、317-2と相対する第一のフィラメント押え320の押止平面323との間にフィラメント棒状端子部212が溝長手方向であるX軸方向に装入される。そして、これらの溝311-1、311-2から頭をのぞかせているフィラメント棒状端子部212の円柱側面が第一のフィラメント押え320の押止平面323と接触し、第一のフィラメント押え320のボルト孔322及びフィラメントホルダー310のフィラメントホルダー間ボルト孔314と螺合する4つのフィラメント押え締結六角ガス抜き穴付きボルト241の緊結手段により、フィラメント棒状端子部212の円柱側面が押止平面323で圧接されると共に、第一のフィラメントホルダー310と第一のフィラメント押え320とが結合してフィラメント210が保持される。この場合も、タングステンであるフィラメント210、セラミックスである板碍子230を除き、第一のフィラメントホルダー310、第一のフィラメント押え320、各種ガス抜き穴付きボルト241、242、243等のフィラメント装着体構成部品は一般的なステンレスである。なお、右のフィラメント端子装入溝311-1及び溝凹設平面317-1は、第一のフィラメントホルダー310-1の反対面にあり図示されていない。
【0044】
しかし、この実施形態のフィラメント装着体300と
図4に示す従来のフィラメント装着体1000と異なる点は、第一のフィラメントホルダー310と第一のフィラメント押え320の僅かな構造ではあるが、第一のフィラメント装着体300の損傷を顕著に防止する効果を奏する。第一のフィラメントホルダー310については、左右の第一のフィラメントホルダー310-1、310-2のフィラメント210のフィラメント棒状端子部212が装入される左右のフィラメント端子装入溝311-1、311-2が凹設されている溝凹設平面317-1、317-2において、Y軸のYu及びYd方向かつX軸のXf方向の周縁部に、右の第一のフィラメントホルダー310-1の場合はZ軸のZl方向に、左の第一のフィラメントホルダー310-2の場合はZ軸のZr方向に、それぞれ、嵌合周縁四角柱状キャビティ右312-1及び嵌合周縁四角柱状キャビティ左312-2が形成されている。一方、第一のフィラメント押え320については、左右の第一のフィラメント押え320の、第一のフィラメントホルダー310-1、310-2の溝凹設平面317-1、317-2に相対し、フィラメント棒状端子部212の長手方向であるX軸方向に対し、略直角なZ軸方向に当接する押止平面323において、溝凹設平面317-1、317-2に形成された嵌合周縁四角柱状キャビティ312-1、312-2と嵌合する位置及び大きさの嵌合周縁四角柱状バンプ321が形成されている。そして、これらそれぞれ二つのキャビティ312-1、312-2及びバンプ321は、同じ大きさで、フィラメント装入溝311-1、311-2に関して線対称な位置に成形されている。
【0045】
これらのキャビティ312とバンプ321とが嵌合されることによって、
図5に示す、第一のフィラメントホルダー310の溝凹設平面317と押止平面323との相対する位置関係の不整合、すなわち、相対する溝凹設平面317と押止平面323の平面方向であるX軸方向及びY軸方向のずれの位置関係の不整合、及び、これら平面の直角方向であるZ軸方向の平行な位置関係の不整合が防止される。その結果、フィラメント210の棒状端子部212及びフィラメント端子装入溝311の長手方向であるX軸方向、その直角方向であるY軸方向及びZ軸方向への第一のフィラメント押え320の移動及びそれと関連したフィラメント210のX軸方向への移動が抑制され、フィラメント210の捻じれ等の変形及び接触抵抗生成による第一のフィラメントホルダー310や第一のフィラメント押え320との溶着が大幅に低減する。
【0046】
それでは、キャビティ312とバンプ321との嵌合が、このように相対する溝凹設平面317と押止平面323の位置関係の不整合を防止できるメカニズムを以下詳細に説明する。
【0047】
図6は、本発明の一実施形態に係る
図5に示す分解されている第一のフィラメント装着体構成部品を組立てた第一のフィラメント装着体300において、X軸のXb方向から視た正面模式図であり、
図7は、その断面指示線Aを紙面に対して垂直方向(X軸方向)に切断し、Z軸のZr方向である矢印方向に視た断面模式図である。
【0048】
図7から、第一のフィラメント押え320の嵌合周縁四角柱状バンプ321と右のフィラメントホルダー310-1の右の嵌合周縁四角柱状キャビティ312-1との嵌合した接触面より、X軸方向及びY軸方向への移動が制限され、相対する溝凹設平面317と押止平面323の平面方向のずれの位置関係の不整合が防止されることが分かる。
【0049】
そして、
図7の断面指示線Bを紙面に対して垂直方向(Z軸方向)に切断し、X軸のXf方向である矢印方向に視た断面模式図の
図8では、第一のフィラメント押え320の嵌合周縁四角柱状バンプ321と左右のフィラメントホルダー310-1、310-2の左右の嵌合周縁四角柱状キャビティ312-1、312-2との嵌合した接触面より、Y軸方向及びZ軸方向への移動が制限され、相対する溝凹設平面317と押止平面323の一平面方向であるY軸方向のずれの位置関係の不整合が防止されと共に、その平面の直角方向であるZ軸方向の平行な位置関係の不整合が防止されることが分かる。
【0050】
より分かり易くするため、更に、
図9及び10に示す断面指示線C、Dを用いた断面模式図である
図11~13を示す。
図9は、本発明の一実施形態に係る
図6の第一のフィラメント装着体300において、Y軸のYu方向から視た平面模式図であり、
図10は、本発明の一実施形態に係る第一のフィラメント装着体を構成する第一のフィラメントホルダー(a)と視野角が異なる第一のフィラメント押え(b1、b2)の斜視模式図と、従来のフィラメント装着体を構成するフィラメントホルダー(c)とフィラメント押え(d)の斜視模式図である。
【0051】
そして、
図11(a)は、
図9に示す第一のフィラメント装着体300の平面模式図に表記されている断面指示線C、すなわち、
図10の断面指示線Cを通過するようにY軸方向に切断され、X軸のXb方向である矢印方向に視た断面模式図である。比較のため、
図11(b)には、従来のフィラメント装着体1000について、(図示されていない)
図9に相当する平面模式図の断面指示線C、すなわち、
図10の断面指示線Cを通過するようにY軸方向に切断され、X軸のXb方向である矢印方向に視た断面模式図を示した。
【0052】
図11(a)から分かるように、第一のフィラメント押え320の嵌合周縁四角柱状バンプ321と左の第一のフィラメントホルダー310-2の左の嵌合周縁四角柱状キャビティ312-2との嵌合が、嵌合周縁四角柱状バンプ321の上側下面321-2及び下側上面321-4と嵌合周縁四角柱状キャビティ312-2の壁面との接触により、第一のフィラメント押え320のY軸方向及びZ軸方向への移動が制限され、相対する溝凹設平面317と押止平面323の一平面方向であるY軸方向のずれの位置関係の不整合が防止されと共に、その平面の直角方向であるZ軸方向の平行な位置関係の不整合が防止されることが分かる。それに対し、
図11(b)の従来のフィラメント装着体1000は、フィラメント棒状端子部212とフィラメントホルダー1010との溶着のために深くできないフィラメント端子装入溝1011が形成されているので、フィラメント棒状端子部212はフィラメント端子装入溝左1011-2から大きく突出しており、フィラメント押え1020がフィラメントホルダー左1010-2の溝凹設平面左1017―2と傾斜した状態で圧接され、フィラメント押え締結六角ガス抜き穴付きボルト241がそのボルト孔1014と均一に螺合されることは困難で、実質的にあり得ないと考えられる。ボルトの弛緩を強く調整すると、ボルトが折れることもある。従って、フィラメント棒状端子212がフィラメント押え1020で強く圧接されることはできず、昇温降温に伴う熱膨張及熱収縮によって、フィラメント押え1020の移動、フィラメント210の脱落や変形、フィラメントホルダー1010及びフィラメント押え1020とフィラメント210との溶着等のフィラメント装着体1000の損傷が多発することになる。
【0053】
図12(a)は、
図9に示す第一のフィラメント装着体300の平面模式図に表記されている断面指示線D、すなわち、
図10の断面指示線Dを通過するようにY軸方向に切断され、Z軸のZl方向である矢印方向に視た断面模式図(a)である。第一のフィラメント押えに形成されている四角柱バンプの効果を説明する図である。比較のため、
図12(b)には、従来のフィラメント装着体1000について、(図示されていない)
図9に相当する平面模式図の断面指示線D、すなわち、
図10の断面指示線Dを通過するようにY軸方向に切断され、Z軸のZl方向である矢印方向に視た断面模式図を示した。
【0054】
図12(a)から明らかなように、第一のフィラメント押え320の嵌合周縁四角柱状バンプ321と左の第一のフィラメントホルダー310-2の左の嵌合周縁四角柱状キャビティ312-2との嵌合が、嵌合周縁四角柱状バンプ321の上側下面321-2及び下側上面321-4と嵌合周縁四角柱状キャビティ312-2の壁面との接触により、第一のフィラメント押え320のY軸方向への移動が制限されると共に、嵌合周縁四角柱状バンプ321の上側フィラメントホルダー接触面321-3及び下側フィラメントホルダー接触面321-6と嵌合周縁四角柱状キャビティ312-2の壁面との接触により、第一のフィラメント押え320のX軸方向への移動が制限され、相対する溝凹設平面317と押止平面323の平面方向のずれの位置関係の不整合が防止されることが分かる。それに対し、
図12(b)から明らかなように、相対する溝凹設平面1017と押止平面1023の平面方向のずれの位置関係の不整合を防止するものは認められない。
【0055】
そして、
図13は、
図10における、第一のフィラメントホルダー310及び従来のフィラメントホルダー1010のフィラメントが装入されるフィラメント端子装入溝が形成された溝凹設平面とフィラメント押えの押止平面とに挟まれたフィラメント付近の拡大図である。
【0056】
図から分かるように、従来のフィラメント装着体1000では、フィラメントホルダーに垂直に掛けられたフィラメント押えがフィラメントを圧接する応力P1がフィラメント棒状端子部212の中心方向の応力P2と接戦方向の応力P3に分散して締結力が低下するのに対し、本発明の第一のフィラメント装着体は、このような分散がなく、堅く締結され、フィラメント押え320及びフィラメント210の移動が抑制され、フィラメントの変形及び溶着が大幅に削減される。
【0057】
以上、本発明のフィラメントホルダー装着体について、第一のフィラメントホルダー装着体を例として説明してきたが、これに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術思想に基づいた多種多様な実施形態が包含される。以下、代表的な実施例を示す。
【0058】
図14(a)及び(b)には、それぞれ、本発明の一実施形態に係る第二のフィラメント装着体400を構成する第二のフィラメント押え420及び第二のフィラメントホルダー右410-1(b)の分解斜視模式図を示した。第二のフィラメント装着体400は、図示していないが、
図5における左右の第一のフィラメントホルダー310-1、310-2と第一のフィラメント押え320を左右の第二のフィラメントホルダー410-1、410-2と第二のフィラメント押え420だけを置換したものであり、その組立てられた第二のフィラメント装着体400の断面模式図は
図15に示されている。
【0059】
本発明の第一のフィラメント装着体300における、第一のフィラメントホルダー310の溝凹設平面317と第一のフィラメント押え320の押止平面323との相対する位置関係の不整合を防止する平面位置関係整合手段に相当する平面位置関係整合手段は、
図14の実施例では、第二のフィラメントホルダー右410-1の溝凹設平面右417-1と側面を共有する三角柱状で、X軸とY軸が作る平面で切断した断面が三角形状で陥没している嵌合三角形状キャビティ右412-1と第二のフィラメント押え420の押止平面423と側面を共有する嵌合三角形状キャビティ右412-1と相似な三角柱状であり、同じくX軸とY軸が作る平面で切断した断面が三角形状で隆起しているある嵌合三角形状バンプ421の組合せである。そして、これらそれぞれ二つのキャビティ412-1とバンプ421は、同じ大きさで、フィラメント装入溝右411-1に関して対称な位置に成形されている。
【0060】
図14に示す平面位置関係整合手段を使用した本発明の第二のフィラメント装着体400で、
図8に相当する断面模式図である
図15から分かるように、これらキャビティ412-1、412-2とバンプ421の嵌合によって、X軸方向、Y軸方向、及び、Z軸方向の第二のフィラメント押え420の移動が制限され、左右の相対する溝凹設平面417-1、417-2と押止平面323の平面方向であるX軸方向及びY軸方向のずれの位置関係の不整合が防止されと共に、その平面の直角方向であるZ軸方向の平行な位置関係の不整合が防止される。そして、この場合、X軸方向の移動の制限は、キャビティ412-1、412-2とバンプ421の接触面の摩擦力により、Y軸方向及びZ軸方向の移動の制限は、隆起物の障害によるところが大きい。従って、第二のフィラメント装着体400においても、フィラメントの変形、脱落、及び、溶着等の損傷が大幅に改善される。
【0061】
図16(a)及び(b)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係る第三のフィラメント装着体を構成する第三のフィラメント押え520及び第三のフィラメントホルダー右510-1(b)の分解斜視模式図である。
【0062】
本発明の第一のフィラメント装着体300における、第一のフィラメントホルダー310の溝凹設平面317と第一のフィラメント押え320の押止平面323との相対する位置関係の不整合を防止する平面位置関係整合手段に相当する平面位置関係整合手段は、
図16の実施例では、第三のフィラメントホルダー右510-1の溝凹設平面右517-1と側面を共有する四角柱状で、X軸とY軸が作る平面で切断した断面が四角形状で陥没している嵌合四角形状キャビティ右512-1と第三のフィラメント押え520の押止平面523と側面を共有する嵌合四角形状キャビティ右512-1と相似な四角柱状であり、同じくX軸とY軸が作る平面で切断した断面が四角形状で隆起している嵌合四角形状バンプ421の組合せである。そして、これらそれぞれ二つのキャビティ512-1及びバンプ521は、同じ大きさで、フィラメント装入溝511-1に関して対称な位置に成形されている。
図14及び15に示す嵌合三角形状キャビティ412と嵌合三角形状バンプ420の変形であり、その作用効果はほぼ等しいため、詳細は省略する。
【0063】
図17(a)及び(b)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係る第四のフィラメント装着体を構成する第四のフィラメント押え620及び第四のフィラメントホルダー右612-1(b)の分解斜視模式図である。
【0064】
本発明の第一のフィラメント装着体300における、第一のフィラメントホルダー310の溝凹設平面317と第一のフィラメント押え320の押止平面323との相対する位置関係の不整合を防止する平面位置関係整合手段に相当する平面位置関係整合手段は、
図17の実施例では、第四のフィラメントホルダー右610-1の溝凹設平面右617-1と底面を共有する円筒状で、X軸とY軸が作る平面に垂直に陥没している嵌合円筒状キャビティ右612-1と、第四のフィラメント押え620の押止平面623と底面を共有する嵌合円筒状キャビティ右612-1と相似な円筒状であり、同じくX軸とY軸が作る平面に垂直に隆起している嵌合円筒状バンプ621の組合せである。これらそれぞれ二つのキャビティ612-1及びバンプ621は、同じ大きさで、ボルト孔周縁の、フィラメント装入溝611-1に関して対称な位置に成形されている。これまでの全ての実施例に示すキャビティとバンプとの組合せの平面位置関係整合手段の変形であり、その作用効果はほぼ等しいので、詳細は省略するが、次の点において優れている。この場合、X軸方向、Y軸方向、及び、Z軸方向の移動は、Z軸方向において接触面の摩擦力が作用するが、隆起物の障害による均等な制限であり、より安定した平面位置関係手段として機能する。
【0065】
更に、本発明のフィラメント装着体における、平面位置関係整合手段は、必ずしも、キャビティを必要とするわけではない。本発明の平面位置関係整合手段は、押止平面から溝凹設平面方向に突出して凸設され、押止平面と溝凹設平面が接触することなく押止平面がフィラメント棒状端子部を圧接可能に、溝に装入されているフィラメント棒状端子の溝凹設平面から突出している高さよりも低く、略等しい高さの二つ以上のバンプだけとすることも可能である。従って、逆に、平面位置関係整合手段は、溝凹設平面から押止平面方向に突出して凸設され、押止平面と溝凹設平面が接触することなく押止平面が前記フィラメント棒状端子部を圧接可能に、溝に装入されているフィラメント棒状端子の溝凹設平面から突出している高さよりも低く、略等しい高さの二つ以上のバンプだけであってもよい。また、このような高さの押止平面に突設されるバンプと溝凹設平面に凸設される第二のバンプとが混在していている平面位置関係整合手段であってもよい。更に、平面位置関係整合手段として、バンプとキャビティの組合せと上記バンプだけが混在していてもよい。
【0066】
このようなバンプだけによる相対する溝凹設平面と押止平面の平面方向の位置関係及びこれら両平面の平行関係が保持されるのは、バンプの先端と溝凹設平面又は押止平面との摩擦力により溝凹設平面と押止平面の平面方向へのフィラメント押えの移動が抑止され、バンプの高さによりこれら両平面の直角方向へのフィラメント押えの移動が抑止されることに基づいている。
【0067】
このようなバンプだけによる平面位置関係整合手段の代表例を
図18に示すが、これに限定されるものではなく、特許請求の範囲の技術思想に基づいて種々変形することが可能である。
図18(a)、(b)、及び、(b)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係る第五のフィラメント装着体を構成する第五のフィラメント押え720、第六のフィラメント装着体を構成する第六のフィラメント押え820、及び、第七のフィラメント装着体を構成する第七のフィラメント押え920の分解斜視模式図である。
【0068】
第五のフィラメント押え720は、押止平面723と半円柱の底面を長手方向に切断した四角形の面を共有する、押止平面723に垂直に切断した断面が半円形状の同じ二つの半円形状バンプ721が、フィラメント装入溝に関して線対称の位置に成形されている。第六のフィラメント押え820には、押止平面823と四角柱の底面を共有する、押止平面823に略垂直に隆起している同じ二つの四角柱状バンプ821が、フィラメント装入溝の中点に関して点対称の位置に成形されている。そして、第七のフィラメント押え920には、押止平面923と円柱の底面を共有する、押止平面923に略垂直に隆起している同じ二つの円柱状バンプ921が、フィラメント装入溝の中点に関して点対称の位置に成形されている。これらを用いたフィラメント装着体は、いずれも、安定した平面位置関係整合手段として機能し、フィラメントの変形、脱落、及び、溶着等を防止することができた。
【0069】
以上、平面位置関係整合手段として、力学的に効果を奏する解決手段を説明してきたが、フィラメント押えの物性をタングステンに類似させるように材質を変更することによっても発現し、これらの不整合を解決できる可能性があることを示唆していると考えられる。実際、フィラメント押えとして、銅-タングステン(含有量:銅/タングステン=11/89%)合金及び銅-モリブデン合金(含有量:銅/モリブデン=35/65%)をフィラメント押えとしてフィラメント装着体を作製して電子銃に適用した結果、溝凹設平面と押止平面の平面方向の位置関係の不整合及びこれら両平面の平行関係の不整合を防止でき、フィラメントの変形、脱落、及び、溶着等の損傷を大幅に削減することが確認された。なお、使用した銅-タングステン合金の熱伝導率及び熱膨張率は、それぞれ、180W/(m・k)及び6.1×10-6/℃であり、使用した銅-モリブデン合金の熱伝導率及び熱膨張率は、それぞれ、210W/(m・k)及び8.6×10-6/℃である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のフィラメントホルダー装着体及びそれを配備した電子ビーム真空蒸着装置は、多種多様な産業界で使用されている電子ビーム真空蒸着による成膜を行うために利用することに適しており、産業上の利用可能性が極めて高い。それに加え、熱伝導率及び熱膨張率の異なる金属材料の弊害を解決する考え方を提供しており、より広い産業で利用される可能性があるものと考えられる。
【符号の説明】
【0071】
10 連続式電子ビーム真空蒸着装置
11 真空蒸着成膜室
12 真空蒸着成膜室真空排気系
13 被成膜シート供給真空シール室
14 被成膜シート供給真空シール室真空排気系
15 被成膜シート取出真空シール室
16 被成膜シート排出真空シール室真空排気系
17 シャッター
18 膜厚計
19 蒸着材料用坩堝装着部
191 坩堝
20 被成膜シート
100 電子ビーム蒸着用電子銃
101 電子ビーム放射源(フィラメント)装着部
102 偏向磁石及びヨーク装着部
103 第一ポールピース
103-1 第一ポールピース右
103-2 第一ポールピース左
104 第二ポールピース
104-1 第二ポールピース(1)右
104-2 第二ポールピース(1)左
104-3 第二ポールピース(2)右
104-4 第二ポールピース(2)左
105 第三ポールピース
105-1 第三ポールピース右
105-2 第三ポールピース左
106 第四ポールピース
106-1 第四ポールピース右
106-2 第四ポールピース左
107 スキャンコイルユニット
1071 スキャンコイル電流入力端子部
108 サイドヨーク
108-1 サイドヨーク右
109 高圧接続ステイ
109-1 高圧接続ステイ右
109-2 高圧接続ステイ左
110 高圧ステイ部カバー
110-1 高圧ステイ部カバー右
111 高圧カバー
112 カバー
1121 カバー開口部
113 ベース
114 冷却給排水口
200 フィラメント装着体共通部品
210 フィラメント
211 電子ビーム放出コイル部
212 フィラメント棒状端子部
220 ウェーネルト電極
221 ウェーネルト電極開孔部
222 ウェーネルト電極ボルト孔
230 板碍子
231 板碍子ボルト孔
240 六角ガス抜き穴付きボルト
241 フィラメント押え締結六角ガス抜き穴付きボルト
242 ウェーネルト電極締結六角ガス抜き穴付きボルト
243 板碍子締結六角ガス抜き穴付きボルト
300 第一のフィラメント装着体
310 第一のフィラメントホルダー
310-1 第一のフィラメントホルダー右
310-2 第一のフィラメントホルダー左
311 第一のフィラメント端子装入溝
311-1 第一のフィラメント端子装入溝右
311-2 第一のフィラメント端子装入溝左
312 嵌合周縁四角柱状キャビティ
312-1 嵌合周縁四角柱状キャビティ右
312-2 嵌合周縁四角柱状キャビティ左
313 第一のアッセンブリガイド装入孔
313-1 第一のアッセンブリガイド装入孔右
313-2 第一のアッセンブリガイド装入孔左
314 第一のフィラメントホルダー間ボルト孔
314-1 第一のフィラメントホルダー間ボルト孔右
314-2 第一のフィラメントホルダー間ボルト孔左
315 第一のフィラメントホルダー右-板碍子間ボルト孔
316 第一のフィラメントホルダー左-ウェーネルト/板碍子間ボルト孔
317 第一のフィラメントホルダー溝凹設平面
317-1 第一のフィラメントホルダー溝凹設平面右
317-2 第一のフィラメントホルダー溝凹設平面左
320 第一のフィラメント押え
321 嵌合周縁四角柱状バンプ
321-1 上側上面
321-2 上側下面
321-3 上側フィラメントホルダー接触面
321-4 下側上面
321-5 下側下面
321-6 下側フィラメントホルダー接触面
322 第一のフィラメント押えボルト孔
323 第一のフィラメント押え押止平面
400 第二のフィラメント装着体
410 第二のフィラメントホルダー
410-1 第二のフィラメントホルダー右
410-2 第二のフィラメントホルダー左
411 第二のフィラメント端子装入溝
411-1 第二のフィラメント端子装入溝右
411-2 第二のフィラメント端子装入溝左
412 嵌合三角形状キャビティ
412-1 嵌合三角形状キャビティ右
412-2 嵌合三角形状キャビティ左
413 第二のアッセンブリガイド装入孔
413-1 第二のアッセンブリガイド装入孔右
413-2 第二のアッセンブリガイド装入孔左
414 第二のフィラメントホルダー間ボルト孔
415 フィラメントホルダー右-板碍子間ボルト孔
416 フィラメントホルダー左-ウェーネルト/板碍子間ボルト孔
417 第二のフィラメントホルダー溝凹設平面
417-1 第二のフィラメントホルダー溝凹設平面右
417-2 第二のフィラメントホルダー溝凹設平面左
420 第二のフィラメント押え
421 嵌合三角形状バンプ
422 第二のフィラメント押えボルト孔
423 第二のフィラメント押え押止平面
510 第三のフィラメントホルダー
510-1 第三のフィラメントホルダー右
511-1 第三のフィラメント端子装入溝右
512-2 嵌合四角形状キャビティ右
513-1 第三のアッセンブリガイド装入孔右
514-1 第三のフィラメントホルダー間ボルト孔右
515 第三のフィラメントホルダー右-板碍子間ボルト孔
517-1 第三のフィラメントホルダー溝凹設平面右
520 第三のフィラメント押え
521 嵌合四角形状バンプ
522 第三のフィラメント押えボルト孔
523 第三のフィラメント押え押止平面
610 第四のフィラメントホルダー
610-1 第四のフィラメントホルダー右
611-1 第四のフィラメント端子装入溝右
612-1 嵌合円筒状キャビティ右
613-1 第四のアッセンブリガイド装入孔右
614-1 第四のフィラメントホルダー間ボルト孔右
615 第四のフィラメントホルダー右-板碍子間ボルト孔
617-1 第四のフィラメントホルダー溝凹設平面右
620 第四のフィラメント押え
621 嵌合円筒状バンプ
622 第四のフィラメント押えボルト孔
623 第四のフィラメント押え押止平面
720 第五のフィラメント押え
721 半円形状バンプ
722 第五のフィラメント押えボルト孔
723 第五のフィラメント押え押止平面
820 第六のフィラメント押え
821 四角柱状バンプ
822 第六のフィラメント押えボルト孔
823 第六のフィラメント押え押止平面
920 第七のフィラメント押え
921 円柱状バンプ
922 第七のフィラメント押えボルト孔
923 第七のフィラメント押え押止平面
1000 従来のフィラメント装着体
1010 従来のフィラメントホルダー
1010-1 従来のフィラメントホルダー右
1010-2 従来のフィラメントホルダー左
1011 従来のフィラメント端子装入溝
1011-1 従来のフィラメント端子装入溝右
1011-2 従来のフィラメント端子装入溝左
1013 従来のアッセンブリガイド装入孔
1013-1 従来のアッセンブリガイド装入孔右
1013-2 従来のアッセンブリガイド装入孔左
1014 従来のフィラメントホルダー間ボルト孔
1014-1 従来のフィラメントホルダー間ボルト孔右
1014-2 従来のフィラメントホルダー間ボルト孔右
1015 従来のフィラメントホルダー右-板碍子間ボルト孔
1016 従来のフィラメントホルダー左-ウェーネルト/板碍子間ボルト孔
1017 従来のフィラメントホルダー溝凹設平面
1017-2 フィラメントホルダー溝凹設平面左
1020 従来のフィラメント押え
1022 従来のフィラメント押えボルト孔
1023 従来のフィラメント押え押止平面
A、B、C、D 断面指示線
X フィラメント装着体前後方向(坩堝-電子銃方向)
Xf フィラメント装着体前方向(坩堝方向)
Xb フィラメント装着体後方向(電子銃方向)
Y フィラメント装着体上下方向(鉛直方向)
Yu フィラメント装着体上方向
Yd フィラメント装着体下方向
Z フィラメント装着体左右方向
Zr フィラメント装着体右方向(坩堝に向かって右方向)
Zl フィラメント装着体左方向(坩堝に向かって左方向)
P1、P2、P3 フィラメントに負荷される応力