(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098008
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】電解槽ケース、電解槽ケースの製造方法、溶融塩電解装置及び金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/00 20060101AFI20230703BHJP
C25C 3/04 20060101ALI20230703BHJP
C22B 26/22 20060101ALI20230703BHJP
C22B 5/02 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C25C7/00 302B
C25C3/04
C22B26/22
C22B5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214467
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高 智弥
【テーマコード(参考)】
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4K001AA38
4K001BA08
4K001DA05
4K001HA12
4K001KA08
4K058AA13
4K058BA05
4K058BB05
4K058CB05
4K058DD02
4K058DD03
4K058EB12
4K058EB13
4K058ED03
(57)【要約】
【課題】容易に運搬することが可能な電解槽ケースを提供する。
【解決手段】レンガ製の電解槽の外面を覆うための鋼製の電解槽ケース10であって、電解槽の側壁の外面を覆うための筒状部材11と、電解槽の底壁の外面を覆うための、筒状部材11に接続された底部材12とを備え、筒状部材11が、一対の半筒状分割材13と、周方向における一対の半筒状分割材13の端面同士が突き合わされて接合された接合部位15とを有し、接合部位15が、筒状部材11の高さ方向に形成されている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンガ製の電解槽の外面を覆うための鋼製の電解槽ケースであって、
前記電解槽の側壁の外面を覆うための筒状部材と、
前記電解槽の底壁の外面を覆うための、前記筒状部材に接続された底部材とを備え、
前記筒状部材が、一対の半筒状分割材と、周方向における一対の半筒状分割材の端面同士が突き合わされて接合された接合部位とを有し、
前記接合部位が、前記筒状部材の高さ方向に形成されている、電解槽ケース。
【請求項2】
前記電解槽の隔壁の基端部の外側に位置する面に、前記電解槽ケースの前記筒状部材の前記接合部位が位置する、請求項1に記載の電解槽ケース。
【請求項3】
前記電解槽は、塩化マグネシウムの電気分解用である、請求項1又は2に記載の電解槽ケース。
【請求項4】
レンガ製の電解槽を覆うための鋼製の電解槽ケースの製造方法であって、
電解槽の底壁の外面を覆うための底部材の上に、一対の半筒状分割材を配置する配置工程と、
前記配置工程後、周方向における一対の半筒状分割材の端面同士を突き合わせて溶接することで一対の半筒状分割材から筒状部材が形成される溶接工程とを含む、電解槽ケースの製造方法。
【請求項5】
レンガ製の電解槽と、該電解槽を覆うための鋼製の電解槽ケースとを含む溶融塩電解装置であって、
前記電解槽ケースが、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解槽ケースであり、
前記電解槽が、底壁と、該底壁から高さ方向にそれぞれ延設された前後壁部及び該前後壁部にそれぞれ接続された左右壁部を有する側壁と、該左右壁部の間に延設された隔壁とを備える、溶融塩電解装置。
【請求項6】
前記電解槽ケースの前記筒状部材の前記接合部位が、前記左右壁部の外側に位置する、請求項5に記載の溶融塩電解装置。
【請求項7】
前記電解槽ケースを外側から補強する壁体を更に含む、請求項5又は6に記載の溶融塩電解装置。
【請求項8】
前記壁体は、鉄筋コンクリート製である、請求項7に記載の溶融塩電解装置。
【請求項9】
前記鉄筋コンクリート製の壁体に含まれる鉄筋は、オーステナイト系ステンレス鋼製である、請求項8に記載の溶融塩電解装置。
【請求項10】
請求項5~9のいずれか一項に記載の溶融塩電解装置を使用して金属塩化物の溶融塩電解を行うことで、該金属塩化物から金属を生成する電解工程を含む、金属の製造方法。
【請求項11】
前記電解工程において、前記溶融塩電解装置を使用して塩化マグネシウムの溶融塩電解を行うことで、該塩化マグネシウムから金属マグネシウムを生成する、請求項10に記載の金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解槽ケース、電解槽ケースの製造方法、溶融塩電解装置及び金属の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属チタンやチタン合金の鋳塊等は、工業的にはクロール法によって製造されたスポンジチタンを使用して製造されている。そして、このクロール法を含むスポンジチタン製造プロセスは、塩化工程、還元分離工程、破砕工程及び電解工程の四工程に大別しうる。これらの工程のうち、還元分離工程では、四塩化チタンを金属マグネシウムで還元してスポンジチタンを製造する。そして、電解工程は、還元分離工程の副生成物である塩化マグネシウムを、溶融塩電解により分解して、金属マグネシウムを得る工程である。
【0003】
スポンジチタンを得るためには、還元分離工程で多量の金属マグネシウムを使用する。多量の金属マグネシウムを生成するため、多数の溶融塩電解装置の電解槽を同時に操業することがある。この場合、前記多数の電解槽は並べて配置されることがあり、これにより送電設備の有効利用や製造される金属マグネシウムの効率的な回収運搬が図られることがある。また、多量の金属マグネシウムを効率的に製造するため、電解槽の操業時間は長いことが好ましく、電解槽を数年の長期に渡り使用することがある。
【0004】
容器形状の電解槽は、安全面等の観点から、例えば耐火性のレンガ製である。多孔質体であるレンガ製の電解槽の周囲には、その外面を覆って電解槽ケースを配置することがある。例えば、特許文献1の
図1には、「内側を耐火材料12でライニングしたスチール製の容器11である多極型の電解セル10」が示されている。また例えば、特許文献2では、「電解槽1は、鉄製外板3、断熱煉瓦層4、及び耐火煉瓦層5を備える」ことが記載されている(特許文献2の
図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002-520490号公報
【特許文献2】特開2005-171354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電解槽ケースは鋼製とされることがある。その理由は、電解槽ケースを部材組立て式とした場合に溶接が容易であること、レンガ製である電解槽を液漏れ防止のため隙間なく覆うこと、機械的強度が高いこと、等である。
前述のように電解槽ケースを部材組立て式とした場合は溶接作業が必須となる。溶融塩電解槽が複数並べて設置された敷地内にて鋼の溶接を行う場合、他の溶融塩電解槽由来の磁場等の影響を受けて溶接が安定しないという問題がある。すなわち、電解槽ケースを設置する際には他の溶融塩電解槽の操業を停止しなければならないので、生産性の低下を少しでも抑制するため、溶接作業期間を短くしたいという要望がある。
ところで、電解槽ケースは大型であり、複数の構造用鋼材を組み合わせて作製されうる。そのため、溶融塩電解槽の設置場所で複数の構造用鋼材から電解槽ケースを組み立てるまでの時間がかかる。また、複数の溶融塩電解槽がすでに配置されているので、前記構造用鋼材を仮置きする場所など作業用として利用可能なスペースもほとんどない。そこで、溶融塩電解槽の設置場所とは別の場所において、ある程度大きな分割材まで組立て、その後前記溶融塩電解槽の設置場所まで該分割材を搬送して組み立てることがある。そのような場合、例えば、電解槽ケースの構成部材が
図3Bに示すような形状の角筒状分割材213を含むものとすれば、その運搬に大きな手間がかかるだけでなく、適切に積載できないことも想定され得る。
【0007】
そこで、本発明の一実施形態において、容易に運搬することが可能な電解槽ケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は一側面において、レンガ製の電解槽の外面を覆うための鋼製の電解槽ケースであって、前記電解槽の側壁の外面を覆うための筒状部材と、前記電解槽の底壁の外面を覆うための、前記筒状部材に接続された底部材とを備え、前記筒状部材が、一対の半筒状分割材と、周方向における一対の半筒状分割材の端面同士が突き合わされて接合された接合部位とを有し、前記接合部位が、前記筒状部材の高さ方向に形成されている、電解槽ケースである。
【0009】
本発明に係る電解槽ケースの一実施形態においては、前記電解槽の隔壁の基端部の外側に位置する面に前記電解槽ケースの前記筒状部材の前記接合部位が位置する。
【0010】
本発明に係る電解槽ケースの一実施形態においては、前記電解槽は、塩化マグネシウムの電気分解用である。
【0011】
また、本発明は別の側面において、レンガ製の電解槽を覆うための鋼製の電解槽ケースの製造方法であって、電解槽の底壁の外面を覆うための底部材の上に、一対の半筒状分割材を配置する配置工程と、前記配置工程後、周方向における一対の半筒状分割材の端面同士を突き合わせて溶接することで一対の半筒状分割材から筒状部材が形成される溶接工程とを含む、電解槽ケースの製造方法である。
【0012】
また、本発明は別の側面において、レンガ製の電解槽と、該電解槽を覆うための鋼製の電解槽ケースとを含む溶融塩電解装置であって、前記電解槽ケースが、先述した電解槽ケースであり、前記電解槽が、底壁と、該底壁から高さ方向にそれぞれ延設された前後壁部及び該前後壁部にそれぞれ接続された左右壁部を有する側壁と、該左右壁部の間に延設された隔壁とを備える、溶融塩電解装置である。
【0013】
本発明に係る溶融塩電解装置の一実施形態においては、前記電解槽ケースの前記筒状部材の前記接合部位が、前記左右壁部の外側に位置する。
【0014】
本発明に係る溶融塩電解装置の一実施形態においては、前記電解槽ケースを外側から補強する壁体を更に含む。
【0015】
本発明に係る溶融塩電解装置の一実施形態においては、前記壁体は、鉄筋コンクリート製である。
【0016】
本発明に係る溶融塩電解装置の一実施形態においては、前記鉄筋コンクリート製の壁体に含まれる鉄筋は、オーステナイト系ステンレス鋼製である。
【0017】
さらに、本発明は別の側面において、先述した溶融塩電解装置を使用して金属塩化物の溶融塩電解を行うことで、該金属塩化物から金属を生成する電解工程を含む、金属の製造方法である。
【0018】
本発明に係る金属の製造方法の一実施形態においては、前記電解工程において、前記溶融塩電解装置を使用して塩化マグネシウムの溶融塩電解を行うことで、該塩化マグネシウムから金属マグネシウムを生成する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一実施形態によれば、容易に運搬することが可能な電解槽ケースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】本発明に係る電解槽ケースの実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図1C】
図1Aの電解槽ケースの筒状部材を構成する一対の半筒状分割材を運搬する際の状態の一例を示す平面図である。
【
図2A】本発明に係る溶融塩電解装置の実施形態を模式的に示す、鉛直方向に沿う断面図である。
【
図2B】
図2Aに示す溶融塩電解装置(電極配置前)の内部構造を示す、水平方向に沿う断面図である。
【
図3A】比較例1に示す電解槽ケースを模式的に示す斜視図である。
【
図3C】
図3Aの電解槽ケースの筒状部材を構成する一対の角筒状分割材を運搬する際の状態の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は以下に説明する各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除して発明を形成してもよい。
【0022】
[1.電解槽ケース]
図1に示す電解槽ケース10は、レンガ製の電解槽20(
図2A参照)の外面を覆うためのものである。電解槽ケース10は、上側に開口部が形成された容器形状であり、筒状部材11と、底部材12とを備え、耐熱性等の観点から、炭素鋼及びステンレス鋼等から適宜選択される鋼製である。
なお、電解槽ケース10が、塩化マグネシウムの電気分解に用いられることを一例として以下説明する。
【0023】
(筒状部材)
筒状部材11は、電解槽20の側壁22(
図2B参照)の外面を覆うためのものである。筒状部材11は、一対の半筒状分割材13と、周方向における一対の半筒状分割材13の端面14同士が突き合わされて接合された接合部位15とを有する。この接合部位15は、筒状部材11の高さ方向に形成されている。このように高さ方向に接合部位15が形成される筒状部材11によれば、その接合前に一対の半筒状分割材13を移動させる際に、運搬の手間が小さく、かつ、適切に運搬できる。
なお、筒状部材11の形状としては特に限定されず、例えば角筒状、円筒状及び楕円筒状等が挙げられる。ただし、多くの場合、筒状部材11の形状は角筒状である。
【0024】
(一対の半筒状分割材)
一対の半筒状分割材としての好ましい形態では、
図1Cに示すように、一対の半筒状分割材13を平面視した場合、角が略直角のU字状である。そのため、一対の半筒状分割材13のU字の内側を対面させ、U字の幅方向(
図1Cでは左右方向)にずらして、半筒状分割材13の一方の端部を互いの内側に入り込ませるように配置することで、一対の半筒状分割材13が占めるスペースを十分に小さくすることができる。したがって、一実施形態において、当該一対の半筒状分割材13は、トラックの荷台に配置することが可能であり、運搬の負荷を適切に低減できる。
また、一対の半筒状分割材13及び底部材12で電解槽ケース10を製造するには、筒状部材11と底部材12とを溶接等で接合する他、筒状部材11の周方向における一対の半筒状分割材の端面同士を突き合わせて溶接すればよい。ここで、電解槽ケース10の全周の長さが該電解槽ケース10の高さ方向の長さの2倍より長いとき、
図3A及びBに示すものに比べて、溶接等で接合する必要がある接合部位15の長さが短くなるので、電解槽ケース10の製造を短時間で終わらすことができ、当該態様が好ましい。
【0025】
(接合部位)
接合部位15は、一対の半筒状分割材13の周方向の端面14同士を突き合わせて接合したことで、それらの端面間に形成される部位である。例えば、接合部位15は、溶融塩電解装置100(
図2B参照)の電解槽110の隔壁25の基端部25dの外側に位置する面に位置すればよい。
【0026】
詳細については後述するが、電解槽20内には、塩化マグネシウムを含む溶融塩を電気分解するための電解室23と、該電気分解で得られる金属マグネシウムを回収するための金属回収室24とを区分けするため、隔壁25が設けられている。容器形状の電解槽20は、安全面等の観点から、例えば耐火性等のレンガ製である。溶融塩電解装置100の操業中、多孔質体であるレンガ製の隔壁25内の複数の孔に溶融塩が浸入して隔壁25が膨張し、当該隔壁25の膨張に伴い、電解槽20が、
図2Bに矢印で示すように、次第に外側に向かって膨らんで変形することがある。このとき、溶融塩電解中に隔壁25(
図2A及び
図2B参照)が延設方向に膨張しても耐え得るようにより確実な機械的強度を確保するため、隣り合う半筒状分割材13同士を接合部位15の周囲でボルト締め等の固定具によって固定してもよい。
【0027】
(底部材)
底部材12は、電解槽20の底壁21(
図2A参照)の外面を覆って底壁21の直下に配置される。通常、底部材12は、筒状部材11(一対の半筒状分割材13)の下方の縁部16に接続されている。なお、底部材12の外側を補強部材等で補強してもよい。
【0028】
[2.電解槽ケースの製造方法]
先述した電解槽ケースの製造方法は、配置工程と、溶接工程とを含む。以下、各工程の一例を説明するが、先述した内容と重複する内容については割愛する。
【0029】
<配置工程>
配置工程では、
図1Bに示すように、電解槽の底壁の外面を覆うための底部材12上に、一対の半筒状分割材13を配置する。このとき、周方向における一対の半筒状分割材13の端面14同士をそれぞれ突き合わせる。
【0030】
<溶接工程>
溶接工程では、配置工程後、周方向における一対の半筒状分割材13の突き合わせた端面14同士を溶接する。これにより、一対の半筒状分割材13から筒状部材11が形成される。溶接の実施順序は限定されず、例えば、まずは一対の半筒状分割材13と底部材12とを溶接すべく、一対の半筒状分割材13の下方側の縁部16と、底部材12とを溶接してもよい。その後、一対の半筒状分割材13同士を溶接すべく、一対の半筒状分割材13の端面14同士を溶接してよい。また例えば、先に説明した溶接の順序を逆にしてもよい。また例えば、一対の半筒状分割材13同士の溶接と、一対の半筒状分割材13と底部材12との溶接とを同時に行ってもよい。
【0031】
(溶接手段)
溶接手段は特段限定されない。例えば、溶接手段としては金属同士を繋ぎ合わせるアーク溶接が好適である。当該アーク溶接としては、例えばMIG(Metal Inert Gas)溶接及びTIG(Tungsten Inert Gas)溶接等が挙げられるが、電気分解で製造される金属マグネシウムにタングステンが混入するおそれを回避する観点から、MIG溶接がより好適である。
なお、溶融塩電解装置の操業中、その電解槽内の電極間に大電流を通電しているので、強力な磁場(磁界)が発生している。仮に周囲にて操業中の多数の電解槽を停止しなかった場合、強力な磁場の影響をアークが受け、該アークの方向性が定まらなくなると考えられる。よって、磁場の影響による溶接不良の発生を抑制するため、電解槽ケースの部材間をアーク溶接で溶接する場合、その周囲で操業中の他の電解槽を停止することが好ましい。溶接不良は、ホール(穴)等の発生による電解槽ケース外への液漏れ、溶接部の機械的強度の不良、など様々な不具合を引き起こすことがある。
【0032】
[3.溶融塩電解装置]
図2Aに示す溶融塩電解装置100は、レンガ製の電解槽20と、先述した電解槽ケース10と、上蓋30とを含む。
【0033】
(電解槽)
電解槽20は、上側に開口部が形成された容器形状であり、底壁21と、側壁22(
図2B参照)と、電解室23と金属回収室24とを区画するための隔壁25とを備える。側壁22は、底壁21から高さ方向にそれぞれ延設された前後壁部22aと該前後壁部22aにそれぞれ接続された左右壁部22bとを有する。隔壁25は、左右壁部22bの間に延設され、第1の隔壁25a及び第2の隔壁25bを含む。
なお、電解槽20の材質は、耐火性及び熱間強度の観点から、例えば主成分として酸化アルミニウム、酸化ケイ素等のレンガである。
【0034】
この電解槽20には、その内部に供給された金属塩化物を含む溶融塩からなる溶融塩浴Bfが貯留される。電解室23で塩化マグネシウムの電解で生成された金属マグネシウムを金属回収室24に送るとともに、溶融塩を金属回収室24から電解室23に送って、溶融塩浴Bfを循環させるため、第1の隔壁25a及び第2の隔壁25bが配置される。ここでは、溶融塩電解装置100は、第1の隔壁25aと第2の隔壁25bとの間に、流通口25cを形成したことで、矢印Aに示す溶融塩浴の流動(電解室23から金属回収室24への流れ)を確保することができる。また、第2の隔壁25bの下面側にも溶融塩浴Bfの流動が可能な通路が形成されており、矢印Bの流動(金属回収室24から電解室23への流れ)を確保できる。
【0035】
(溶融塩)
塩化マグネシウムの電気分解により、溶融金属として金属マグネシウム(Mg)が生成されるとともに、ガスとして塩素ガス(Cl2)が発生する。溶融塩には、上記の塩化マグネシウム(MgCl2)の他、支持塩として、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)及び/又は、フッ化カルシウム(CaF2)等を含ませる場合がある。支持塩として使用される成分は、塩化マグネシウムよりも電気分解される電圧が高いものを使用することが好ましい。金属マグネシウムは、金属チタンを製造するクロール法における四塩化チタンの還元に、また塩素ガスは、チタン鉱石の塩化にそれぞれ用いることができる。この電気分解の原料とする塩化マグネシウムとしては、クロール法で副次的に生成されるものを使用可能である。
【0036】
(電解槽ケース)
溶融塩電解中、多孔質体であるレンガ製の隔壁25内の複数の孔に溶融塩が侵入することで、隔壁25が延設方向に膨張する。そのため、電解槽ケース10が、適切な強度である場合、レンガの膨張により電解槽20の左右壁部22bが外側に膨れる向きに変形し、左右壁部22b及び隔壁25が破損せずに電解槽20の寿命が長くなる。そこで、
図2Bに示すように、電解槽ケース10の筒状部材11の接合部位15は、左右壁部22bの外側に位置させることが好ましい。この場合、接合部位15は、隔壁25の延設方向(矢印C)に位置させないこと、すなわち、電解槽20の外側における隔壁25の延長線上からずらして位置させることがより好ましい。
【0037】
(上蓋)
上蓋30は、溶融塩浴Bfが高温であることから電解槽20の外部に対する断熱の役割を果たす。また、上蓋30を配置して電解槽20を閉空間とし、溶融塩電解時に陽極26から生じる塩素ガスの漏洩を防止するために外部に対して電解槽20内を負圧にする。
また、上蓋30の材質は特に限定されるものではないが、溶融塩電解時に上蓋30と陽極26との間で生じる短絡を防ぐ観点から、該上蓋30の溶融塩浴Bf側である蓋裏面31側が絶縁性材料であればよく、また上蓋30の溶融塩浴Bf側の蓋裏面31側にセラミック材料を配置してよく、また、キャスタブル耐火物を施工してもよい。このキャスタブル耐火物を設ける方法は公知の方法でよく、例えば乾式吹付けや湿式吹付け等にて蓋裏面31側にキャスタブル耐火物を施工すればよい。
【0038】
上蓋30には、第1のガス回収口32と、第2のガス回収口33と、給排口34とが設けられてよい。これらの口はそれぞれ1つでもよく、複数でもよい。
第1のガス回収口32は、電解室23において塩化マグネシウムの電気分解により生成した塩素ガスを回収することに用いられる。第1のガス回収口32は、電解室23が位置する領域に設けられている。
また、第2のガス回収口33では、電解室23において塩化マグネシウムの電気分解により生成したガスが回収されることがある。第2のガス回収口33は、金属回収室24が位置する領域に設けられている。第2のガス回収口33は、電気分解で発生したガスのうち、第1のガス回収口32で回収されずに金属回収室24に流れた残りのガスの回収に用いられることがある。
また、給排口34は、電解室23において塩化マグネシウムの電気分解により生成した溶融金属マグネシウムの回収や、電解槽20内への溶融塩の供給に使用される。給排口34は、金属回収室24が位置する領域に設けられている。
【0039】
(電解室)
電解室23では、塩化マグネシウムを電気分解して、該電気分解により溶融金属マグネシウム及び塩素ガスが生成される。電解室23の内部には、
図2A及び
図2Cに示すように、溶融塩浴Bfの深さ方向(
図2Aでは上下方向)と略平行な電解面を有する陽極26、複極27a、27b、陰極28が配置されている。図示の電解室23内には、複極27a、27bが2つ配置されているが、複極は少なくとも1つ配置されていればよい。また、複極がない場合であっても電気分解は実施できる。
【0040】
陽極26は、上蓋30に挿通され下方に延在し、溶融塩浴Bfにその一部が浸漬するように配置されている。陽極26の形状としては特に限定されず、例えば板状、円柱状及び角柱状等が挙げられる。溶融金属マグネシウムの製造効率の観点から、溶融塩電解装置100は陽極26及び陰極28をそれぞれ複数備えるものとしてよい。
なお、陽極26の材質は特に限定されるものではないが、黒鉛等が挙げられる。また、陰極28の材質は特に限定されるものではないが、黒鉛、炭素鋼等が挙げられる。
【0041】
陽極26と陰極28とは、ブスバーや導電線等を介して電源に接続されている。溶融塩電解では、該陽極26及び該陰極28で、例えば下記化学式(1)等といった所定の反応に基づいて、塩化マグネシウムが塩素と金属マグネシウムに分解される。
MgCl2→Mg+Cl2・・・化学式(1)
【0042】
陰極28は、
図2Aに示すように、外側に延長する延長部分28aを有し、この延長部分28aが、側壁22及び電解槽ケース10を貫通してこれらの外部へ突き出るように配置されている。陰極28の形状は、板状とすることがあるが、陽極26の形状等を勘案して適宜変更可能であり、角筒状や円筒状等でもよい。この場合であっても、延長部分28aを陰極28は有する。
【0043】
なお、陽極26と複極27a、陰極28と複極27a、複極27aと複極27bの極間距離はそれぞれ、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0044】
(金属回収室)
金属回収室24では、電解室23において電気分解により生成した溶融金属を回収する。金属回収室24は、電解室23と連通しており、熱交換器(不図示)を有することがある。熱交換器は、電解槽20内の溶融塩浴Bfの温度を調整することができる。該熱交換器は、その内部に流体を流す流入口と、流体を排出する流出口と、該流入口と流出口とを連結する管とを備えている構成としてよい。そして、管は炭素鋼及びステンレス鋼等の鋼製であってよい。
【0045】
さらに、溶融塩電解装置100は、電解槽ケース10を外側から補強する壁体(不図示)を更に含んでよい。壁体は、強度の面から鉄筋コンクリート製であればよい。鉄筋コンクリートに含まれる鉄筋は、例えばオーステナイト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼が挙げられるが、その中でも非磁性であるオーステナイト系ステンレス鋼が好適である。この理由としては、溶融塩電解装置の操業中、電極間を通電することで系内に磁場が生じるため、オーステナイト系ステンレス鋼製の鉄筋を含む壁体であれば、その影響をほとんど受けないことが挙げられる。他方、フェライト系ステンレス鋼は磁場の影響を受けて応力を受けるため、鉄筋コンクリートの寿命が比較的短くなる傾向にある。
【0046】
別の実施形態としては、溶融塩電解装置に、横方向に並んで電解室、金属回収室の他、熱交換器(不図示)を有する熱交換室(不図示)を更に備えてもよい。例えば、溶融金属の回収は金属回収室の給排口を使用して行い、溶融塩化マグネシウム等の溶融塩の補充は熱交換室に対して行うことができる。その結果、金属回収室内にて溶融金属をより安定して貯留できる。熱交換室はこれらの他、溶融塩浴を撹拌するための撹拌機(不図示)を更に有してよい。
【0047】
[4.金属の製造方法]
本発明に係る金属の製造方法の一実施形態は、先述した溶融塩電解装置100を用いて塩化マグネシウムを電気分解して金属マグネシウムを製造する電解工程を含んでいる。以下、
図2A乃至
図2Cに示す溶融塩電解装置100を用いた場合を例として好適な態様を説明する。なお、更なる実施形態では塩化マグネシウム以外の金属塩化物の溶融塩電解とすることもできる。
【0048】
<電解工程>
電解工程においては、溶融塩浴Bfに含有される塩化マグネシウムの電気分解を実施する。溶融塩浴Bfが、
図2Aに示す矢印Aのように電解室23から流通口25cを通って金属回収室24に流動し、
図2Aに示す矢印Bのように金属回収室24から第2の隔壁25bの下側を通って電解室23に流動する。電解室23では、溶融塩浴Bf中の塩化マグネシウムが電気分解されて、溶融金属マグネシウムが生成される。そして、この溶融金属マグネシウムは、溶融塩浴Bfの流動によって金属回収室24に流入する。その後、溶融塩に対する比重の小さい溶融金属マグネシウムは、金属回収室24の浅い箇所に浮上してそこに溜まる。金属回収室24で浮上した溶融金属マグネシウムは、給排口34に回収用のパイプ等を挿通して回収することができる。
【実施例0049】
本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例及び比較例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための試験的な具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
【0050】
[試験例1]
(溶接方法の検討)
図1Aに示す電解槽ケース10を作製するために後述する一対の半筒状分割材13をMIG溶接で溶接するにあたって、その周囲で操業中の他の電解槽を停止した後、一対の半筒状分割材13と底部材12をそれぞれ溶接した。その結果、MIG溶接のアークの方向性に揺らぎが確認されなかった。
【0051】
[試験例2]
電解槽ケース10を作製する周囲で操業中の他の電解槽を停止しなかったこと以外、試験例1と同様に一対の半筒状分割材13と底部材12をそれぞれ溶接することを試みた。しかしながら、MIG溶接のアークの方向性が定まらなかったので、溶接を断念した。溶接を断念した理由としては、溶融塩浴の漏れや電解槽ケースの機械的強度の低下が懸念されたことが挙げられる。
次に、溶融塩電解装置の組み立て及び操業を実施したことを説明する。
【0052】
[実施例1]
(電解槽の操業準備)
実施例1においては、
図2A~
図2Cに示す構成を備える溶融塩電解装置100を組み立てるため、以下のように実施した。
まず、
図1Aに示す構成を備える電解槽ケース10を鉄筋コンクリートの上に組み立てた。このとき、表1に示すように、一対の半筒状分割材(大きさ:幅W2000m×奥行D750m×高さ1500mm(
図1C参照))13と底部材12を、表1に示すように、MIG溶接でそれぞれ接合した。次いで、電解槽ケース10の外側周囲を鉄筋コンクリートで補強した。当該鉄筋コンクリートに含まれる鉄筋は、オーステナイト系ステンレス鋼製とした。
なお、一対の半筒状分割材13については、溶融塩電解装置100の設置場所とは別の場所で、複数の構造用鋼材を組み合わせて組立体とし、更に組立体の内面側を鋼製板材で接合することで作製した。いずれの材質も炭素鋼とした。作製後、
図1Cに示した一対の半筒状分割材13をトラックの荷台に配置した後、表2に示すように溶融塩電解装置100の設置場所に1回で運搬した。
【0053】
次に、酸化アルミニウムを含む定型耐火物(レンガ)で、側壁22、底壁21及び第1の隔壁25aと第2の隔壁25bを作製し、電解槽20を作製した。次に、陽極26、陰極28、2枚の複極27a、27bを電解室23内に配置した。これらの電極は、いずれも板状とした。電解槽20の上部側の開口部を閉じるため、炭素鋼の上蓋30を電解槽20に載せた。この上蓋30の蓋裏面31に絶縁性であるキャスタブル耐火物の層を施工した。
【0054】
次に、溶融塩電解装置100に、溶融塩を投入して、溶融塩の温度を650~700℃に調整した。なお、溶融塩の組成は塩化マグネシウム-塩化カルシウム-塩化ナトリウムの三元浴とし、塩化マグネシウムは10~25質量%の範囲内とした。また、陽極26の材質は黒鉛とし、陰極28の材質は炭素鋼とした。複極27a、27bの材質は黒鉛とした。また、極間距離は、以下のように調整した。
<極間距離>
陽極26と、複極27aとの極間距離:10mm
複極27aと、複極27bとの極間距離:10mm
複極27bと、陰極28との極間距離:10mm
【0055】
(金属マグネシウムの製造)
電源から導電線を介して陽極26と陰極28との間に電流を供給することで電解工程を実施した。電気分解の開始時から36ヶ月経過した後、電流の供給を停止した。
【0056】
[評価]
(工期)
一対の半筒状分割材と底部材とから、MIG溶接により電解槽ケースを作製するまでの工期を確認した。次に、後述する比較例1の工期を100%とした場合における、実施例1の工期の相対値を算出した。
【0057】
(左右壁部の最大膨張距離)
溶融塩電解装置100の操業開始前と溶融塩電解装置100の操業停止後とについて、平面視した場合における左右壁部22bの最大膨張距離を測定した。なお、膨張方向は
図2Bに示す矢印Cに沿う方向である。左右壁部22bのうち左側壁部(
図2Bに示す左右壁部の下側)と右側壁部(
図2Bに示す左右壁部の上側)とで膨張距離が異なる場合は膨張距離が大きい方を最大膨張距離とした。
【0058】
(隔壁の損傷)
溶融塩電解装置の解体時に、第1の隔壁及び第2の隔壁の損傷を目視で確認した。
【0059】
[比較例1]
比較例1においては、
図3Aに示す構成を備える電解槽ケース210をオーステナイト系ステンレス鋼製の鉄筋コンクリートの上に組み立てた。このとき、
図3Bに示すように、底部材212の上に一対の角筒状分割材(大きさ:幅W2000m×奥行D1500m×高さ750m(
図3C参照))213を配置し、表1に示すように、MIG溶接でそれぞれ接合した。
なお、一対の角筒状分割材213については、溶融塩電解装置の設置場所とは別の場所で、複数の構造用鋼材を組み合わせて組立体とし、更に組立体の内面側を鋼製板材で接合することで作製した。いずれの材質も炭素鋼とした。作製後、
図3Cに示すように角筒状分割材213をトラックの荷台に配置した後、溶融塩電解装置の設置場所に2回に分けて運搬した。すなわち、トラックの荷台には角筒状分割材213を1つしか積載できなかった。
【0060】
次いで、電解槽ケース210の外側周囲をオーステナイト系ステンレス鋼製の鉄筋コンクリートで補強した。このこと以外、実施例1と同様に、溶融塩電解装置を設置した。電源から導電線を介して陽極と陰極との間に電流を供給することで電解工程を実施した。電気分解の開始時から36ヶ月経過した後、電流の供給を停止した。
なお、表2に各評価結果を示す。
【0061】
【0062】
【0063】
(実施例による考察)
実施例1と比較例1と比較し、実施例1における電解槽ケースで使用した一対の半筒状分割材は運搬回数を少なくすることができた。さらに、実施例1では、溶接の工期を短くすることができた。この理由としては、電解槽ケースの接合部位が一対の半筒状分割材の端面同士の突き合わせ部位に形成されるようにしたこと、よって、接合部位が筒状部材の高さ方向に形成されるようにしたことが有用であったと推察される。
なお、実施例1における36ヶ月の溶融塩電解装置の操業中、多孔質体であるレンガ製の隔壁内の複数の孔に溶融塩が侵入したことでレンガ製の隔壁が延設方向にそれぞれ同程度膨張した。ここで、実施例1における電解槽ケースが外側に変形することで隔壁の膨張を緩衝し、隔壁の膨張に基づく電極同士の接触など、すなわち短絡の発生等は適切に回避できていたと推察される。