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  • 特開-金型および鋳造品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098035
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】金型および鋳造品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/22 20060101AFI20230703BHJP
   B22C 9/06 20060101ALI20230703BHJP
   B22D 18/04 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
B22D17/22 H
B22D17/22 C
B22C9/06 C
B22D18/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214519
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005256
【氏名又は名称】株式会社アーレスティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】和田 隆弘
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093NA01
4E093NA02
4E093NB01
(57)【要約】
【課題】シリンダーが動作する距離を短くできる金型および鋳造品の製造方法を提供する。
【解決手段】金型は、型と、型に配置され第1の方向へスライドする第1の中子と、第1の中子に配置され第2の方向へスライドする第2の中子と、型に配置されたシリンダーと、を備える。第2の中子は、第2の中子の第2の方向の反対側に配置される受け部を含む。受け部は、第1の中子が第1の方向へスライドしたときに、シリンダーが伸長する軌道上に位置する。第2の中子は、シリンダーが伸長すると、シリンダーに受け部が押され、第2の方向へスライドして第1の中子の外に出る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
型と、
前記型に配置され第1の方向へスライドする第1の中子と、
前記第1の中子に配置され第2の方向へスライドする第2の中子と、
前記型に配置されたシリンダーと、を備え、
前記第2の中子は、前記第2の中子の前記第2の方向の反対側に配置される受け部を含み、
前記受け部は、前記第1の中子が前記第1の方向へスライドしたときに、前記シリンダーが伸長する軌道上に位置し、
前記第2の中子は、前記シリンダーが伸長すると、前記シリンダーに前記受け部が押され、前記第2の方向へスライドして前記第1の中子の外に出る金型。
【請求項2】
前記シリンダーは、前記第1の中子が前記第1の方向へスライドしたときに、前記受け部の少なくとも一部よりも前記軌道上の前方に位置する対向部を含み、
前記第2の中子は、前記シリンダーが収縮すると、前記対向部に前記受け部が押され、前記第2の方向の反対側へスライドして前記第1の中子の中に入る請求項1記載の金型。
【請求項3】
前記シリンダーは、前記第1の中子が前記第1の方向へスライドしたときに、前記シリンダーの先端が前記型と前記第1の中子との間の空間に位置する請求項1又は2に記載の金型。
【請求項4】
前記第2の方向の反対側を向く復元力を前記第2の中子に加える弾性体を備え、
前記復元力は、前記シリンダーが伸長する力よりも小さい請求項1から3のいずれかに記載の金型。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の金型に溶湯を入れて成形する鋳造品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金型および鋳造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中子を備える金型において、中子によって形成される鋳造品の面に凹部を形成するために、シリンダーを伸長させて、ピンが中子に挿入されるものが知られている。特許文献1の鋳造品を製造する方法では、シリンダーが動作する距離は、中子の外にあるピンが中子を貫通して中子から出るまでの距離である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-128961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術では、シリンダーを動作させる距離が長くなるという問題点がある。シリンダーを動作させる距離が長くなると、それに伴い、金型のダイハイトが大きくなり、金型自体を大きくする必要がある。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、シリンダーが動作する距離を短くできる金型および鋳造品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の金型は、型と、型に配置され第1の方向へスライドする第1の中子と、第1の中子に配置され第2の方向へスライドする第2の中子と、型に配置されたシリンダーと、を備える。第2の中子は、第2の中子の第2の方向の反対側に配置される受け部を含む。受け部は、第1の中子が第1の方向へスライドしたときに、シリンダーが伸長する軌道上に位置する。第2の中子は、シリンダーが伸長すると、シリンダーに受け部が押され、第2の方向へスライドして第1の中子の外に出る。
【0007】
鋳造品の製造方法は、本発明の金型の中に溶湯を入れて成形する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の金型によれば、シリンダーが伸長すると、受け部がシリンダーに押され、第2の中子が第2の方向へスライドして第1の中子の外に出る。従ってシリンダーが動作する距離を、第2の中子がシリンダーによって押されて第1の中子の外に出るまでの距離にできる。よって、第2の中子が第1の中子の外に出るときのシリンダーが動作する距離を短くできる。
【0009】
請求項2記載の金型によれば、シリンダーが収縮すると、受け部が対向部に押され、第2の中子が第2の方向の反対側へスライドして第1の中子の中に入る。よって、請求項1記載の金型の奏する効果に加え、第2の中子が第1の中子の外に出たままになることを防止できる。
【0010】
請求項3記載の金型によれば、シリンダーの先端が型と第1の中子との間の空間に位置する。よって、請求項1又は2に記載の金型の奏する効果に加え、第2の中子が第1の中子の外に出るときのシリンダーが動作する距離をさらに短くできる。
【0011】
請求項4記載の金型によれば、弾性体の第2の方向の反対側を向く復元力が第2の中子に加わるから、シリンダーが受け部を押す力を解除すれば、第2の中子が第1の中子の中に入る状態を維持できる。よって、請求項1から3のいずれかに記載の金型の奏する効果に加え、第2の中子が第1の中子の中に入るときのシリンダーの動作を容易にできる。
【0012】
請求項5記載の鋳造品の製造方法によれば、請求項1から4のいずれかに記載の金型に溶湯を入れて成形するから、請求項1から4のいずれかに記載の金型の奏する効果と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態における金型の部分断面図である。
図2図2(a)は、図1のIIaで示した範囲を拡大した金型の部分断面図であり、図2(b)は、図2(a)のIIb-IIb線で切断したシリンダーの断面図であり、図2(c)は、図2(a)の矢印IIc方向から見た第2の中子の部分側面図である。
図3図3(a)は、第1の中子が型に配置され、シリンダーが伸長する前の状態における金型の部分断面図であり、図3(b)は、図3(a)の状態からシリンダーが伸長した後の状態における金型の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施形態における金型10の部分断面図である。図1では、ランナー、分流子、冷却パイプ、押出ピン及び鋳込み口ブッシュ等の図示が省略されている(図2(a)から図3(b)においても同じ)。また、図1は、金型10の右側および上側の図示が省略され、型閉じされていない状態で図示されている。さらに、図1では、図を見やすくするため第2の中子60、ねじ71及びシリンダー80の後端側の断面の図示が省略されている(図2(a)から図3(b)においても同じ)。
【0015】
金型10は、例えば、ダイカスト鋳造、重力鋳造、高圧鋳造および低圧鋳造に用いられる。金型10は、第1型30と、第1型30に対して開閉方向に相対移動する第2型40と、を含む型20を備える。第1型30は、第1おも型31と、第1おも型31に配置される第1入れ子型32と、を備える。第2型40は、第2おも型41と、第2おも型41に配置される第2入れ子型42と、を備える。第2型40は第1型30に対して閉方向に相対移動して金型10が型閉じされる。
【0016】
第1おも型31及び第2おも型41の材料は、機械構造用炭素鋼、鋳鋼や鋳鉄が用いられる。第1入れ子型32及び第2入れ子型42の材料は、鋳造品を成形するときに金型10に入れられる溶湯の温度に耐えうる耐溶損性および耐ヒートチェック性の優れた熱間工具鋼が用いられる。
【0017】
金型10は、第1型30を前進可能および後退可能にスライドする第1の中子50を備えている。第1の中子50は、鋳造品のアンダーカット部を形成するために使用され、図示しないコアプラーや傾斜ピンで動作する。第1の中子50の材料は、鋳造品を成形するときに金型10に入れられる溶湯の温度に十分耐えうる耐溶損性および耐ヒートチェック性に優れた熱間工具鋼が用いられる。
【0018】
第1の中子50は、第1型30及び第2型40が開閉する方向に交わる第1の方向に向かって第1型30をスライドする。本実施の形態では、第1の中子50が第1型30をスライドする第1の方向は、第1型30及び第2型40が開閉する方向に交わる方向であるが、第1型30及び第2型40が開閉する方向に平行な方向であっても良い。第1の中子50は、第1入れ子型32に当接して、当接した位置から第1の方向へのそれ以上の移動が規制される。第1の中子50には、第2の中子60が配置される。
【0019】
図2(a)は、図1のIIaで示した範囲を拡大した金型10の部分断面図であり、図2(b)は、図2(a)のIIb-IIb線で切断したシリンダー80の断面図であり、図2(c)は、矢印IIc方向から見た第2の中子60の部分側面図である。図2(c)では、第2の中子60の第1の中子50から出ている部分以外の図示が省略されている。第1の中子50は、第1型30をスライドした状態で第2型40側を向く第1面51を有し、第1面51の反対側には第2面52を有している。第1の中子50は、第1面51から第2面52まで貫通する孔53を有している。孔53は、第1面51から第2面52に向かうにつれて内周面の大きさが順に大きくなる第1孔部53a、第2孔部53b、第3孔部53cを備えている。第1孔部53aは第1面51に開口し、第3孔部53cは第2面52に開口している。第2孔部53bは、第1孔部53aと第3孔部53cとの間に位置する。
【0020】
第2孔部53bの内側には、第1面51から第2面52方向に延びる弾性体73(圧縮ばね)が配置されている。弾性体73の第1面51側の一端は、第2孔部53bの内周面から第1孔部53aの内周面に接続する第2孔部53bの上面に接している。
【0021】
第3孔部53cの内側には、第3孔部53cに対応するブロック70が配置され、ねじ71によって第1の中子50に螺合されている。ブロック70は、第2の方向に貫通する貫通孔72を備える。ブロック70が第1の中子50にねじ71によって螺合された状態で、貫通孔72の中心は、第1孔部53a及び第2孔部53bの中心と一致する。
【0022】
第1の中子50の孔53には、第1面51から第2面52に向かって延びる第2の中子60が配置され、第1の中子50の内側をスライドする。第2の中子60は、第1の中子50が第1型30をスライドする第1の方向に交差し、第2型40に向かう第2の方向にスライドする。
【0023】
第2の中子60の材料は、鋳造品を成形するときに金型10に入れられる溶湯の温度に耐えうる耐溶損性および耐ヒートチェック性の優れた熱間工具鋼が用いられる。第2の中子60は、例えば、鋳造品の気密性が必要な部分であるシールリング溝などの凹部を形成するのに用いられる。
【0024】
第2の中子60は、第1の中子50の第1面51から第2面52に向かって順に、先端部61、張出部62、柱状部63、受け部64を備えている。先端部61は、自身の先端に、周方向に延びて、先端側に環状に突出する突起部61aを備える柱状の部分である。先端部61の断面形状は、円、楕円または多角形の形状が採用され得る。
【0025】
本実施形態では、突起部61aは鋳造品にシールリング溝を形成する部分であるが、突起部61aは、そのほかに、鋳造品の凹部の所望の形状に合わせた形状にすれば良い。先端部61の後端は、張出部62の先端と接続している。先端部61は、いずれの形状においても、先端部61の先端側から後端側に向かって断面積が大きくなるように抜き勾配を有している。先端部61の外周の大きさは、第1孔部53aの内周の大きさよりも小さく、第1孔部53aの内側をスライド可能に配置される。先端部61は、ばね(コイルばね)である弾性体73の内側に挿入されている。本実施形態では、弾性体73がコイルばねであるものを例示したが、このほかに、皿ばね、板ばねが採用され得る。また、弾性体73の材料は、金属製のものやエラストマー(例えば、ゴム)が採用され得る。
【0026】
張出部62は、先端部61の外周から外側に張り出して、第2の方向に一定の厚さを有している。張出部62の断面形状は、円、楕円または多角形の形状が採用され得る。張出部62の後端は、柱状部63の先端と接続している。張出部62の外周の大きさは、第2孔部53bの内周の大きさよりも小さく、第2孔部53bの内側を第2の方向へスライド可能に配置される。弾性体73の他端が第2の中子60の張出部62の上端面に接している。
【0027】
柱状部63は、外周の大きさが張出部62の外周の大きさよりも小さく、先端から後端まで柱状に延びている。柱状部63の断面形状は、円、楕円または多角形の形状が採用され得る。柱状部63の後端は、受け部64の先端に接続している。柱状部63の外周の大きさは、ブロック70の貫通孔72の内周の大きさよりも小さく、貫通孔72の内側を第2方向にスライド可能に、貫通孔72の内側に配置される。
【0028】
受け部64は、第2の中子60の第2の方向の反対側に配置され、柱状部63の外周から外側に張り出している。受け部64は、第2の方向の反対側を向く第1受け面65と、第2の方向を向く第2受け面66と、を備えている。受け部64は、ブロック70の貫通孔72の内周の大きさよりも外周の大きさが大きく設定される。従って、ブロック70の下面は、受け部64の上面(第2受け面66)に当接して、ブロック70よりも第2方向の前方へ受け部64が移動することを規制している。
【0029】
第1受け面65は、矢印IIc方向から見たとき、第1受け面65と第2の方向に延びる軸Oとのなす角θ1が180°>θ1>0°の範囲内にあれば良い。第2受け面66は、矢印IIc方向から見たとき、第2受け面66と第2の方向に延びる軸Oとのなす角θ2が180°>θ2>0°の範囲内にあれば良い。好ましくは、135°>θ1>45°であり、135°>θ2>45°である。
【0030】
柱状部63又は受け部64の少なくとも一方は、張出部62に分離可能にねじ(図示しない)で接続されている。従って、張出部62から第2方向の反対側に位置する柱状部63又は受け部64は、張出部62から分離できる。ブロック70のねじ71を外せば、ブロック70を第1の中子50から分離でき、張出部62から柱状部63又は受け部64を分離できるから、第2の中子60を第1の中子50から分離することができる。よって、第2の中子60は、第1の中子50とのスライドによる摩擦によって損耗しても交換することができる。
【0031】
第2の中子60と孔53との間には、ブッシュ74が配置されている。ブッシュ74は、第2の中子60が第2の方向へスライドするときに、第2の中子60の外周面が孔53の内周面と擦れる部分の摩耗を減らし、第2の中子60の第2の方向へのスライド動作をスムーズにする。よって、第2の中子60の外周面の損耗を抑制する。
【0032】
金型10は、第1型30に配置されるシリンダー80を備える。シリンダー80は、伸縮駆動する動力シリンダーであって、先端81から後端82に向かって延びる柱状のロッド83と、ロッド83の後端82側に接続される動力源84と、を有している。シリンダー80は、動力源84からの動力によって、後端82から先端81に向かう方向(以下「伸長方向」と称す)にロッド83を前進してシリンダー80を伸長させ、先端81から後端82に向かう方向(以下「収縮方向」と称す)にロッド83を後退してシリンダー80を収縮させる。本実施形態では油圧シリンダーであるが、これに限られない。
【0033】
シリンダー80の先端81側には、ロッド83の外周から自身の内側に凹む凹部85を有している。本実施形態では凹部85は、シリンダー80の伸長方向を向く第1対向面86と、シリンダー80の収縮方向を向く第2対向面87と、を有している。凹部85は、少なくとも第1の方向の反対側に開口している開口部が設けられている。開口部の大きさは、柱状部63の一部および受け部64の外形の大きさよりも大きく設定される。凹部85には、柱状部63の一部および受け部64がスライドして挿入される部分の開口部に向かって広がる案内(ガイド)を備えている。
【0034】
シリンダー80は、第1の中子50が第1の方向へスライドしたときに、受け部64の少なくとも一部よりもシリンダー80が伸長する軌道上の前方に位置する対向部88を含んでいる。対向部88は、第2対向面87を有している。
【0035】
シリンダー80は、ロッド83の外周の一部に回転止め機構89を有している。回転止め機構89は、例えば、キー溝、押え板やDカットが採用され、シリンダー80の周方向の回転を規制する。本実施の形態では、回転止め機構89は、シリンダー80の先端81側の外周の一部にキー溝が形成され、キー溝にキーが嵌め込まれている。第1型30には、シリンダー80が配置される部分に、シリンダー80の伸長方向および収縮方向に延びる溝が形成される。シリンダー80は、キーがシリンダー80の周方向の回転を規制しつつ、第1型30の溝に嵌りながら、伸長方向および収縮方向に第1型30をスライドする。
【0036】
図3(a)及び図3(b)を参照して、金型10において成形される鋳造品の製造方法について説明する。図3(a)は、第1の中子50が第1型30に配置され、シリンダー80が伸長する前の状態における金型10の部分断面図であり、図3(b)は、図3(a)の状態からシリンダー80が伸長した後の状態における金型10の部分断面図である。図3(a)及び図3(b)では、金型10は、型閉じされた状態で図示されている。
【0037】
まず、第2型40が第1型30に対して開いた状態で、第1の中子50が第1型30を第1の方向へスライドする。第1の中子50と第1型30との間には、第1の中子50の第1面51の反対側(第1の中子50の第2面52側)に空間Sが形成され、少なくとも受け部64及びシリンダー80の先端81が空間S内に位置している。
【0038】
第1型30を第1の方向へ第1の中子50がスライドすると、シリンダー80の先端81側に形成されている凹部85に第2の中子60の受け部64が挿入されて、受け部64がシリンダー80に係り合う。このとき、シリンダー80の第1対向面86は、第1受け面65に対向し、シリンダー80の第2対向面87は、第2受け面66に対向している。本実施形態では、第1対向面86がシリンダー80の伸長方向を向き、第2対向面87がシリンダー80の収縮方向を向いているが、必ずしもこれに限らない。第1対向面86は、第1型30を第1の方向へ第1の中子50がスライドするとき、第1対向面86が第1受け面65と対向し、第2対向面87が第2受け面66と対向するものであればよい。シリンダー80は、シリンダー80(特にロッド83)の内側を冷却液が流れ、冷やされる構造であっても良い。この場合、第1の中子50が第1の方向へスライドするときに、シリンダー80は、シリンダー80の熱膨張による凹部85の受け部64に対する位置ずれを発生し難くできる。
【0039】
また、凹部85に受け部64が挿入されるとき、受け部64の外形と凹部85の開口部との間の隙間は、十分大きく設定されており、挿入されるときの受け部64とシリンダー80との相対的な位置のばらつきに対して十分な余裕を持っている。従って、受け部64の凹部85への係り合い不足を発生し難くできる。
【0040】
次に、図3(a)に示すように、第2型40を第1型30に対して閉じて型20が型閉じされる。型閉じされた型20は、第1入れ子型32、第2入れ子型42及び第1の中子50とで、キャビティCを形成する。第1の中子50は、第1型30をスライドした状態で、第1面51がキャビティCの表面であるキャビティ表面C1の一部を形成している。このとき、第2の中子60がスライドする第2の方向は、第1の中子50が第1型30をスライドする第1の方向に交差する方向であって、キャビティCに向かう方向である。
【0041】
図3(b)に示すように、シリンダー80が伸長すると、シリンダー80に受け部64が押され、第2の中子60が第2の方向へスライドして第1の中子50の第1面51の外に出る。このとき、第2の中子60の先端部61(突起部61a)はキャビティ表面C1から突出している。
【0042】
第2の中子60が第2方向にスライドすると、弾性体73の他端は、第2の中子60の張出部62の上端部に押される。押された弾性体73の一端が第2孔部53bの上面に動きが規制される。弾性体73は、復元力によって第2の中子60の張出部62の上端部を第2の方向の反対側に押す。即ち、弾性体73は、第2の方向の反対側を向く復元力を第2の中子60に加える。このとき、弾性体73が第2の中子60に加える復元力は、シリンダー80が伸長する力よりも小さい。
【0043】
金型10は、型閉めした状態で溶湯がキャビティCの中に入る。溶湯の材料は、アルミニウム、銅、鉄のそれぞれの合金や純金属が例示される。第2の中子60の先端部61がキャビティ表面C1から突出した状態で、溶湯がキャビティC内に充填されて成形される。第2の中子60が第1の中子50から外に出ている部分には溶湯が充填されず、第2の中子60の先端部61(突起部61a)の形状によって、得られる鋳造品に凹部、溝などを形成する。
【0044】
鋳造品を成形後、シリンダー80を収縮させる。シリンダー80が収縮するとき、対向部88に受け部64が押され、第2の中子60が第2の方向の反対側へスライドして第1の中子50の中に入る。このとき、第2の中子60の先端部61はキャビティ表面C1から後退している。その後、第2型40を第1型30に対して相対移動して型20を開く。
【0045】
次いで、第1の中子50を第1方向の反対側にスライドすると、第2の中子60は受け部64が凹部85から離れる。第2の中子60は、弾性体73の復元力によって、第2の中子60の先端部61が第1の中子50の中に入る状態を維持する。
【0046】
金型10は、シリンダー80の伸長する軌道上に受け部64が位置し、シリンダー80が伸長すると、受け部64がシリンダー80に押され、第2の中子60が第2の方向へスライドして第1の中子50の外に出る。シリンダー80が動作する距離を、第2の中子60がシリンダー80によって押されて第1の中子50の外に出るまでの距離にできる。よって、第2の中子60が第1の中子50の外に出るときのシリンダー80が動作する距離を短くできる
金型10は、第1の中子50が第1型30をスライドしたときに、受け部64よりもシリンダー80の伸長する軌道上の前方に位置する対向部88が、シリンダー80が収縮するときに受け部64を押し、第2の中子60が第1の中子50の中に入る。よって、第2の中子60が第1の中子50の外に出たままになることを防止できる。
【0047】
さらに、シリンダー80が伸長する軌道上の前方に対向部88が位置し、シリンダー80が収縮すると、受け部64が対向部88に押され、第2の中子60が第2の方向の反対側へスライドして第1の中子50の中に入る。シリンダー80が動作する距離を、第2の中子60が対向部88によって押されて第1の中子50の中に入るまでの距離にできる。よって、第2の中子60が第1の中子50の中に入るときのシリンダー80が動作する距離を短くできる。
【0048】
金型10は、シリンダー80に設けた回転止め機構89によって、シリンダー80の周方向の回転が規制されるから、受け部64とシリンダー80との周方向の位相を合わせやすくできる。よって、第1型30を第1の中子50がスライドした状態でシリンダー80が動作するときに、受け部64をシリンダー80の伸長する軌道上、又は、収縮する軌道上に位置させ易くできる。
【0049】
金型10は、弾性体73の第2の方向の反対側を向く復元力が第2の中子60に加わるから、シリンダー80が受け部64を押す力を解除しただけで、第2の中子60が第1の中子50の中に入る状態を維持できる。よって、第2の中子60が第1の中子50の中に入るときのシリンダーの動作を容易にできる。
【0050】
この製造方法により得られる鋳造品は、第2の中子60が第1の中子50の外に出た部分によって鋳造品の凹部が形成される。切削して凹部を形成する場合に比べ、凹部の表面に鋳巣が表れ難いので、シールリングが配置される凹部の気密性が低下するのを防ぐことができる。
【0051】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明はこれらに何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば第2の中子60の先端部61の形は適宜設定できる。第2の中子60に先端部61を複数設けることは当然可能である。
【0052】
本実施の形態では、第1の中子50が第1型30に配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。第1の中子50を第2型40に配置することは当然可能である。この場合、シリンダー80も第2型40に配置される。
【0053】
本実施の形態では、第2の中子60の先端部61がキャビティ表面C1から突出して、鋳造品にシールリング溝などの凹部を形成する場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。金型10に溶湯を入れた後、鋳造品の密度を高めるために、第2の中子60をキャビティ表面C1から突出させ、鋳造品の機能的に重要でない部分を圧縮するものであっても良い。即ち、本実施の形態とは異なり、製品として最終的に残らない部分や機能的に重要でない部分に第2の中子60を使用して凹部を形成することは当然可能である。
【0054】
本実施の形態では、第2の中子60の受け部64がシリンダー80の凹部85に挿入される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。シリンダー80の先端81と受け部64とを分離可能に嵌合させるものであっても良い。シリンダー80のロッド83が往復運動を行い、且つ、回転運動を行うものであれば、シリンダー80の先端81又は受け部64の一方を、シリンダー80の先端81又は受け部64の他方にねじ込んで螺合させるものでもあっても良い。この場合、回転止め機構は、シリンダー80および第2の中子60のどちらにも設けない。さらに、本実施の形態では、シリンダー80の先端81に凹部85を設けたが、受け部64に凹部を設けても良い。この場合、シリンダー80の先端81が受け部64の凹部に挿入され、回転止め機構は、第2の中子60に設けられる。
【0055】
また、シリンダー80の一部が、第2の中子60に向かって開口し、第2の中子60から離れるにつれて縮径するテーパ状に形成されているテーパ面を備え、第2の中子60が、シリンダー80のテーパ面に対応する受け部を備えていても良い。この場合、シリンダー80が第2の方向に前進して、受け部がテーパ面に押されて、第2の中子60の先端部61(突起部61a)が第1の中子50の外に出る。
【0056】
本実施の形態では、第2の中子60は、シリンダー80の力が、受け部64によってそのまま第2の中子60に伝達されるものを説明したが、必ずしもこれに限られない。第2の中子60は、シリンダー80の力の方向を変位させる変位機構を備えていても良い。変位機構は、傾斜ピン、カム、ラック・ピニオンが例示される。この場合、シリンダー80の力の向きと、第2の中子60がスライドする方向(第2の方向および第2の方向の反対側)とを異ならせることができるから、シリンダー80の伸長および収縮する方向によらずに第2の中子60をスライドさせることができ、金型10の設計の自由度を向上できる。
【0057】
本実施の形態では、弾性体73が張出部62を押す方向に復元力が働くもの(圧縮ばね)を説明したが、必ずしもこれに限られない。張出部62に引張方向の復元力が働くように弾性体73を引張ばねにすることは当然可能である。また、圧縮ばねである弾性体73の内側に第2の中子60の先端部61が挿入されるものを説明したが、必ずしもこれに限られない。弾性体73は、第2の中子60に対して第2の方向の反対側に復元力が働くように、第2の中子60の先端部61の周りに複数設けられても良い。この場合、複数の弾性体73は、第2の中子60の周方向に等間隔に設けられることが好ましい。
【符号の説明】
【0058】
10 金型
20 型
50 第1の中子
60 第2の中子
64 受け部
73 弾性体
80 シリンダー
88 対向部
89 回転止め機構
図1
図2
図3