(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098052
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
H01G4/30 201N
H01G4/30 201L
H01G4/30 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214546
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋一
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E082AB03
5E082BC35
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082GG28
5E082PP03
(57)【要約】
【課題】信頼性の高い積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】積層セラミックコンデンサは、積層体と、一対のサイドマージン部と、を具備する。積層体は、第1軸方向に積層された複数のセラミック層と、複数のセラミック層の間に位置する複数の内部電極と、第1軸と直交する第2軸に垂直であり、複数の内部電極の第2軸方向の端部が位置する一対の側面と、を有する。一対のサイドマージン部は、一対の側面を被覆する。一対のサイドマージン部では、Aサイトにカルシウム及びストロンチウムの少なくとも一方が含まれ、Aサイトにカルシウムが含まれる場合にはAサイトのカルシウムの原子比が複数のセラミック層よりも大きく、Aサイトにストロンチウムが含まれる場合にはAサイトのストロンチウムの原子比が複数のセラミック層よりも大きく、多結晶体中に複数のガラス粒子が分散され、シリコンの原子比が1at%以上10at%以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸方向に積層された複数のセラミック層と、前記複数のセラミック層の間に位置する複数の内部電極と、前記第1軸と直交する第2軸に垂直であり、前記複数の内部電極の前記第2軸方向の端部が位置する一対の側面と、を有する積層体と、前記一対の側面を被覆する一対のサイドマージン部と、を具備し、
前記複数のセラミック層及び前記一対のサイドマージン部はいずれも、Aサイトにバリウムを含み、Bサイトにチタンを含むペロブスカイト構造の多結晶体で構成され、
前記一対のサイドマージン部では、
Aサイトにカルシウム及びストロンチウムの少なくとも一方が含まれ、Aサイトにカルシウムが含まれる場合にはBサイトのチタンに対するAサイトのカルシウムの原子比が前記複数のセラミック層よりも大きく、Aサイトにストロンチウムが含まれる場合にはBサイトのチタンに対するAサイトのストロンチウムの原子比が前記複数のセラミック層よりも大きく、
多結晶体中にシリコンを主成分とする複数のガラス粒子が分散され、Bサイトのチタンに対するシリコンの原子比が1at%以上10at%以下である
積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記一対のサイドマージン部では、Bサイトのチタンに対するAサイトのカルシウムの原子比が0.1at%以上10at%以下である
積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記一対のサイドマージン部では、Bサイトのチタンに対するAサイトのストロンチウムの原子比が0.1at%以上10at%以下である
積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記一対のサイドマージン部では、Bサイトのチタンに対するAサイトのバリウム、カルシウム、及びストロンチウムの合計の原子比が95at%以上110at%以下である
積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記一対のサイドマージン部では、Bサイトのチタンに対するシリコンの原子比が前記複数のセラミック層よりも大きい
積層セラミックコンデンサ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記一対のサイドマージン部では、Bサイトのチタンに対するシリコンの原子比が、Bサイトのチタンに対するAサイトのカルシウム及びストロンチウムの合計の原子比よりも大きい
積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドマージン部が後付けされる積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの製造過程においてサイドマージン部を後付けする技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術は、薄いサイドマージン部によっても複数の内部電極の両測端部を確実に被覆することができるため、積層セラミックコンデンサの小型化及び大容量化に有利である。
【0003】
一例として、特許文献1に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法では、内部電極が印刷されたセラミックシートを積層した積層シートを切断し、複数の内部電極が露出した切断面を側面とする複数の積層体を作製する。そして、積層体の側面でセラミックシートを打ち抜くことにより、積層体の両側面にサイドマージン部を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような積層セラミックコンデンサでは、積層シートを切断する際に加わる応力によって、積層体の側面において複数の内部電極の端部の間隔が不均一になりやすい。このため、このような積層セラミックコンデンサでは、複数の内部電極の端部に電界が集中することで、絶縁抵抗の低下などの不良が発生しやすい。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、信頼性の高い積層セラミックコンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミックコンデンサは、積層体と、一対のサイドマージン部と、を具備する。
上記積層体は、第1軸方向に積層された複数のセラミック層と、上記複数のセラミック層の間に位置する複数の内部電極と、上記第1軸と直交する第2軸に垂直であり、上記複数の内部電極の上記第2軸方向の端部が位置する一対の側面と、を有する。
上記一対のサイドマージン部は、上記一対の側面を被覆する。
上記一対のサイドマージン部では、Aサイトにカルシウム及びストロンチウムの少なくとも一方が含まれ、Aサイトにカルシウムが含まれる場合にはBサイトのチタンに対するAサイトのカルシウムの原子比が上記複数のセラミック層よりも大きく、Aサイトにストロンチウムが含まれる場合にはBサイトのチタンに対するAサイトのストロンチウムの原子比が上記複数のセラミック層よりも大きい。
上記一対のサイドマージン部では、多結晶体中にシリコンを主成分とする複数のガラス粒子が分散され、Bサイトのチタンに対するシリコンの原子比が1at%以上10at%以下である。
【0008】
この構成では、一対のサイドマージン部を構成するペロブスカイト構造の多結晶体におけるAサイトに含まれるカルシウム及びストロンチウムの少なくとも一方の作用によって、一対のサイドマージン部に被覆された積層体の側面における耐圧性が向上する。これにより、この積層セラミックコンデンサでは、複数の内部電極の端部に電界が集中しても、絶縁抵抗の低下などの不良が発生しにくくなる。また、この積層セラミックコンデンサでは、一対のサイドマージン部に適量のシリコンが含まれることで、静電容量の低下を抑えつつ、一対のサイドマージン部における高い焼結性が得られる。したがって、この積層セラミックコンデンサでは、高い信頼性が得られる。
【0009】
上記一対のサイドマージン部では、Bサイトのチタンに対するAサイトのカルシウムの原子比が0.1at%以上10at%以下であってもよい。
上記一対のサイドマージン部では、Bサイトのチタンに対するAサイトのストロンチウムの原子比が0.1at%以上10at%以下であってもよい。
上記一対のサイドマージン部では、Bサイトのチタンに対するAサイトのバリウム、カルシウム、及びストロンチウムの合計の原子比が95at%以上110at%以下であってもよい。
上記一対のサイドマージン部では、Bサイトのチタンに対するシリコンの原子比が上記複数のセラミック層よりも大きくてもよい。
上記一対のサイドマージン部では、Bサイトのチタンに対するシリコンの原子比が、Bサイトのチタンに対するAサイトのカルシウム及びストロンチウムの合計の原子比よりも大きくてもよい。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、本発明によれば、信頼性の高い積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
【
図2】上記積層セラミックコンデンサの
図1のA-A'線に沿った断面図である。
【
図3】上記積層セラミックコンデンサの
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【
図4】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】上記製造方法のステップS01で準備される未焼成の積層体の斜視図である。
【
図6】上記製造方法のステップS02で得られる未焼成のセラミック素体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10について説明する。なお、図面には、適宜、相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は、積層セラミックコンデンサ10に対して固定された固定座標系を規定する。
【0013】
[積層セラミックコンデンサ10の基本構成]
図1~3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。
図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。
図2は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0014】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15と、を備える。セラミック素体11は、X軸と直交する一対の端面と、Y軸と直交する一対の側面と、Z軸と直交する一対の主面と、を有する6面体として構成される。外部電極14,15は、セラミック素体11の一対の端面を被覆している。
【0015】
セラミック素体11の一対の端面、一対の側面、及び一対の主面はいずれも、平坦面として構成される。本実施形態に係る平坦面とは、全体的に見たときに平坦と認識される面であれば厳密に平面でなくてもよく、例えば、表面の微小な凹凸形状や、所定の範囲に存在する緩やかな湾曲形状などを有する面も含まれる。
【0016】
外部電極14,15は、セラミック素体11を挟んで相互にX軸方向に対向している。外部電極14,15はそれぞれ、セラミック素体11の各端面から主面及び側面に延出している。これにより、外部電極14,15では、X-Z平面に平行な断面、及びX-Y平面に平行な断面がいずれもU字状となっている。
【0017】
なお、外部電極14,15の形状は、
図1に示すものに限定されない。例えば、外部電極14,15は、セラミック素体11の両端面から一方の主面のみに延び、X-Z平面に平行な断面がL字状となっていてもよい。また、外部電極14,15は、いずれの主面及び側面にも延出していなくてもよい。
【0018】
外部電極14,15は、電気の良導体により形成されている。外部電極14,15を形成する電気の良導体としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。なお、本実施形態で主成分とは最も含有比率の高い成分を言うものとする。
【0019】
セラミック素体11は、積層体16と、一対のサイドマージン部17と、を有する。積層体16は、セラミック素体11の一対の主面及び一対の端面を構成し、Y軸に垂直な一対の側面Fを有する。一対のサイドマージン部17はそれぞれ、積層体16の一対の側面Fを被覆し、セラミック素体11の一対の側面を構成する。
【0020】
積層体16は、X-Y平面に沿って延びる平板状の複数のセラミック層20がZ軸方向に積層された構成を有する。積層体16は、容量形成部18と、一対のカバー部19と、を有する。一対のカバー部19は、容量形成部18をZ軸方向上下から被覆しており、セラミック素体11の一対の主面を構成している。
【0021】
容量形成部18は、複数のセラミック層20の間に配置され、X-Y平面に沿って延びるシート状の複数の第1及び第2内部電極12,13を有する。内部電極12,13は、Z軸方向に沿って交互に配置されている。つまり、容量形成部18では、内部電極12,13がセラミック層20を挟んでZ軸方向に対向している。
【0022】
第1内部電極12は、第1外部電極14に覆われた端面に引き出されている。一方、第2内部電極13は第2外部電極15に覆われた端面に引き出されている。これにより、第1内部電極12は第1外部電極14のみに接続され、第2内部電極13は第2外部電極15のみに接続されている。
【0023】
内部電極12,13は、容量形成部18のY軸方向の全幅にわたって形成され、そのY軸方向の両端部が積層体16の両側面F上に位置している。これにより、セラミック素体11では、複数の内部電極12,13のY軸方向の端部の位置が積層体16の両側面F上においてY軸方向に0.5μm以内の範囲で揃っている。
【0024】
内部電極12,13は、電気の良導体により形成されている。内部電極12,13を形成する電気の良導体としては、典型的にはニッケル(Ni)が挙げられ、この他にも銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。
【0025】
このような構成により、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間に電圧が印加されると、第1内部電極12と第2内部電極13との間の複数のセラミック層20に電圧が加わる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間の電圧に応じた電荷が蓄えられる。
【0026】
[セラミック層20及びサイドマージン部17の構成]
(概略構成)
積層セラミックコンデンサ10のセラミック素体11では、複数のセラミック層20、一対のカバー部19、及び一対のサイドマージン部17がいずれもペロブスカイト構造の誘電体セラミックスの多結晶体で構成されている。ペロブスカイト構造は、AサイトとBサイトと酸素(O)とで構成され、一般式ABO3で表される。
【0027】
セラミック素体11では、複数のセラミック層20、一対のカバー部19、及び一対のサイドマージン部17を構成する多結晶体がいずれも、高い比誘電率が得られやすいチタン酸バリウム(BaTiO3)系の材料で構成され、つまりAサイトにバリウムを含み、Bサイトにチタンを含むペロブスカイト構造を有する。
【0028】
積層セラミックコンデンサ10では、複数のセラミック層20とサイドマージン部17とを構成する多結晶体の組成を相互に異ならせる。より詳細に、複数のセラミック層20を構成する多結晶体では比誘電率を重視した組成とし、サイドマージン部17を構成する多結晶体では耐圧性を重視した組成とする。
【0029】
積層セラミックコンデンサ10では、複数のセラミック層20を高い比誘電率の多結晶体で構成することで大きい静電容量が得られる。この一方で、積層セラミックコンデンサ10では、静電容量の形成に寄与しないサイドマージン部17を構成する多結晶体において、比誘電率にこだわらずに耐圧性の高さを追求した組成とする。
【0030】
これにより、積層セラミックコンデンサ10では、積層体16の側面Fに位置する内部電極12,13の端部に電界が集中しても、耐圧性の高いサイドマージン部17の作用によって絶縁抵抗の低下などの不良が生じにくくなる。つまり、積層セラミックコンデンサ10では、静電容量を犠牲にすることなく、信頼性の向上を図ることができる。
【0031】
(詳細構成)
セラミック素体11における複数のセラミック層20とサイドマージン部17とを構成する多結晶体では、ペロブスカイト構造のAサイトの組成が異なり、具体的にペロブスカイト構造のAサイトのバリウムをカルシウムで置換する量が異なる。つまり、チタン酸バリウムに対して固溶させるチタン酸カルシウム(CaTiO3)の量が異なる。
【0032】
チタン酸カルシウムは、チタン酸バリウムに比べ、比誘電率が低く、耐圧性が高い性質を有する。このため、多結晶体では、Aサイトにカルシウムを多く含むほど、比誘電率が低下する一方で、耐圧性が向上する。したがって、Aサイトにおけるカルシウムの量によって比誘電率と耐圧性とのバランスの調整を図ることができる。
【0033】
静電容量の形成に寄与する複数のセラミック層20を構成する多結晶体では、Aサイトのカルシウムの量を少なくし、Aサイトに実質的にカルシウムを含まないことが好ましい。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、比誘電率の高い多結晶体で構成された複数のセラミック層20の作用によって大きい静電容量が得られる。
【0034】
これに対し、静電容量の形成に寄与しないサイドマージン部17では、多結晶体のAサイトに多くのカルシウムを含ませることができる。このため、積層セラミックコンデンサ10では、サイドマージン部17を構成する多結晶体のAサイトに多くのカルシウムを含ませることで、サイドマージン部17の耐圧性を向上させる。
【0035】
具体的に、サイドマージン部17では、Aサイトのカルシウムが複数のセラミック層20よりも多く、つまりAサイトのカルシウムの原子比Rが複数のセラミック層20よりも大きい。なお、特定の元素の原子比Rとは、チタンの原子の数を基準とし、つまりBサイトに含まれるチタンの原子の数に対する当該元素の原子の数の比率とする。
【0036】
サイドマージン部17では、Aサイトのカルシウムの原子比Rが0.1at%以上であることが好ましい。この一方で、積層セラミックコンデンサ10では、サイドマージン部17から複数のセラミック層20へのカルシウムの拡散による静電容量の低下を抑えるために、Aサイトのカルシウムの原子比Rを10at%以下に留めることが好ましい。
【0037】
また、サイドマージン部17では、Aサイトのカルシウムの量が多いほど、焼結温度が高くなり、つまり積層体16との焼結温度のギャップが大きくなる。サイドマージン部17では、積層体16に比べて焼結のタイミングが遅くなるほど、ポアが多く生じることで積層体16側への水分の侵入が発生しやすくなる。
【0038】
これに対し、サイドマージン部17は、シリコン(Si)を含む。シリコンは、焼成時にガラス成分として溶融相を形成することで、サイドマージン部17の焼結温度を低下させる作用を有する。このため、積層セラミックコンデンサ10では、積層体16とサイドマージン部17との焼結温度のギャップを縮小することができる。
【0039】
これにより、積層セラミックコンデンサ10では、サイドマージン部17の焼結のタイミングを積層体16と揃えることができるため、サイドマージン部17にポアが生じにくくなる。したがって、サイドマージン部17では、ポアを伝う経路での積層体16側への水分の侵入の発生を抑制することができる。
【0040】
サイドマージン部17では、シリコンの作用によって、多結晶体中に複数のガラス粒子が分散された組織となる。サイドマージン部17中の複数のガラス粒子は、主に非晶質で構成された粒子であり、シリコンを主成分として含む。つまり、サイドマージン部17では、シリコンが多結晶体中ではなく複数のガラス粒子中に存在する。
【0041】
サイドマージン部17では、多結晶体に分散された複数のガラス粒子が、多結晶体に発生したクラックの進展を阻止する作用を有する。これにより、サイドマージン部17では、厚み方向に貫通するクラックの発生が抑制され、クラックを介した積層体16側への水分の侵入の発生を抑制することができる。
【0042】
このように、積層セラミックコンデンサ10では、サイドマージン部17にシリコンを含ませることで、耐湿性が向上し、つまりサイドマージン部17の内側への水分の侵入による絶縁抵抗の低下が生じにくくなる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、更に高い信頼性が得られる。
【0043】
サイドマージン部17では、上記のようなシリコンの作用を充分に得るために、多結晶体のBサイトのチタンに対するシリコンの原子比Rが、1at%以上であり、3.0at%以上であることが好ましい。なお、複数のセラミック層20では、静電容量の確保のために、シリコンの含有量がサイドマージン部17よりも少ないことが好ましい。
【0044】
この一方で、サイドマージン部17では、シリコンの含有量が多すぎると、柔軟性が高くなりすぎることで、製造過程において外面の平坦性が損なわれるなど正常な形状を保つことが難しくなる。このため、サイドマージン部17では、シリコンの原子比Rを10at%以下に留めることが好ましい。
【0045】
なお、本実施形態では、複数のセラミック層20及びサイドマージン部17の成分を、成分の相互拡散が生じる境界領域以外において評価するものとする。つまり、セラミック層20の成分は、Y軸方向の両端部を除く中央領域において評価する。サイドマージン部17の成分は、積層体16の側面Fに隣接する部分を除く領域において評価する。
【0046】
(その他の実施形態)
サイドマージン部17では、Aサイトのバリウムに置換する元素として上記のカルシウムに代えてストロンチウムを用いてもよい。つまり、チタン酸バリウムに対してチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)を固溶させてもよい。この構成でも、ストロンチウムがカルシウムと同様に作用することで、上記と同様の効果が得られる。
【0047】
この場合、積層セラミックコンデンサ10では、静電容量及び信頼性の両立のために、サイドマージン部17におけるAサイトのストロンチウムの原子比Rが複数のセラミック層20よりも大きい必要がある。また、サイドマージン部17では、Aサイトのストロンチウムの原子比Rが1at%以上10at%以下であることが好ましい。
【0048】
また、サイドマージン部17では、Aサイトのバリウムに置換する元素としてカルシウムとストロンチウムとを併用してもよい。つまり、チタン酸バリウムに対してチタン酸カルシウム及びチタン酸ストロンチウムを固溶させてもよい。この構成でも、カルシウム及びストロンチウムの作用によって、上記と同様の効果が得られる。
【0049】
この場合、積層セラミックコンデンサ10では、サイドマージン部17におけるAサイトのカルシウム及びストロンチウムの合計の原子比Rが複数のセラミック層20のAサイトのカルシウム及びストロンチウムの合計の原子比Rよりも大きい必要がある。また、サイドマージン部17では、Aサイトのカルシウム及びストロンチウムの合計の原子比Rが1at%以上10at%以下であることが好ましい。
【0050】
また、上記のいずれの場合にも、サイドマージン部17では、Aサイトのバリウム、カルシウム、及びストロンチウムの合計の原子比Rが95at%以上110at%以下であることが好ましい。これにより、サイドマージン部17を構成する多結晶体を、より安定したペロブスカイト構造とすることができる。
【0051】
[積層セラミックコンデンサ10の製造方法]
図4は、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。
図5,6は積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、
図4に沿って、
図5,6を適宜参照しながら説明する。
【0052】
(ステップS01:積層体準備)
ステップS01では、
図5に示す未焼成の積層体16を準備する。未焼成の積層体16は、大判の複数のセラミックシートがZ軸方向に積層された積層シートを用いて作製することができる。容量形成部18に対応するセラミックシートには内部電極12,13を形成するための導電性ペーストがパターニングされる。
【0053】
積層シートを構成するセラミックシートの成分は、複数のセラミック層20の組成に応じて決定することができる。また、積層シートでは、一対のカバー部19に対応するセラミックシートを、複数のセラミック層20に対応するセラミックシートと異なる成分で構成してもよく、例えばサイドマージン部17に対応するセラミックシートと同じ成分で構成してもよい。
【0054】
未焼成の積層体16は、上記の積層シートをX-Z平面及びY-Z平面に沿って切り分けることで得られる。積層シートの切断には、例えば、押し切り刃や回転刃などを備えた切断装置を用いることができる。これにより、積層体16では、内部電極12,13のY軸方向の両端部が揃って位置する切断面として一対の側面Fが得られる。
【0055】
(ステップS02:サイドマージン部形成)
ステップS02では、ステップS01で作製した未焼成の積層体16の一対の側面Fにそれぞれ未焼成の一対のサイドマージン部17を設ける。これにより、
図6に示すように、未焼成のサイドマージン部17によって一対の側面が構成される未焼成のセラミック素体11が得られる。
【0056】
サイドマージン部17は、任意の方法で形成可能である。サイドマージン部17は、例えば、セラミックスラリーをシート状に成形したセラミックシートを用いて形成することができる。この場合、セラミックシートは、例えば、積層体16の側面Fで打ち抜くことや、予め切断して積層体16の側面Fに貼り付けることができる。
【0057】
また、サイドマージン部17を形成するために、予めシート状に成形されたセラミックシートではなく、成形されていないセラミックスラリーをそのまま用いることもできる。この場合、セラミックスラリーは、例えば、積層体16の側面Fを浸漬させることで、積層体16の側面Fに塗布することができる。
【0058】
セラミックスラリーの成分は、サイドマージン部17の組成に応じて決定することができる。一例として、セラミックスラリーでは、多結晶体を構成する成分として、チタン酸バリウムの粉末と酸化カルシウム(及び/又は酸化ストロンチウム)の粉末とを用い、ガラス粒子を構成する成分としてシリカ粉末を用いることができる。
【0059】
(ステップS03:焼成)
ステップS03では、ステップS02で得られたセラミック素体11を焼成することにより、
図1~3に示すセラミック素体11を作製する。上記のように原料粉末としてチタン酸バリウムの粉末を用いる場合には、セラミック素体11の焼成の過程において、サイドマージン部17においてチタン酸バリウムのバリウムがカルシウムで置換される。
【0060】
つまり、焼成時のサイドマージン部17では、まずシリコンがガラス成分としてチタン酸バリウム中のバリウムを取り込みながら溶融する。そして、チタン酸バリウムにおけるバリウムが抜けたAサイトにカルシウムが入る。このように、シリコンの作用によって、チタン酸バリウムのAサイトにカルシウムを配座させることができる。
【0061】
一対のサイドマージン部17では、添加したカルシウム及びストロンチウムの少なくとも一方の全量をチタン酸バリウムのバリウムに置換させるために、充分な量のシリコンを添加することが好ましく、具体的に、シリコンの原子比RがAサイトのカルシウム及びストロンチウムの合計の原子比Rよりも大きいことが好ましい。
【0062】
(ステップS04:外部電極形成)
ステップS04では、ステップS03で焼成されたセラミック素体11のX軸方向両端部に外部電極14,15を形成することにより、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10を作製する。ステップS04における外部電極14,15の形成方法は、公知の方法から任意に選択可能である。
【0063】
以上により、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10が完成する。この製造方法では、内部電極12,13が露出した積層体16の側面Fにサイドマージン部17が形成されるため、セラミック素体11における複数の内部電極12,13のY軸方向の端部の位置が、Y軸方向に0.5μm以内の範囲で揃う。
【0064】
[実施例]
実施例1~3として、セラミック素体の構成が異なる積層セラミックコンデンサのサンプルを作製した。各実施例1~3に係るサンプルは、以下で特に説明する構成以外について共通の構成とした。チタン酸バリウムのAサイトのバリウムを置換する元素としては、実施例1,3ではカルシウムを用い、実施例2ではストロンチウムを用いた。
【0065】
(実施例1)
実施例1-1~1-4及び比較例1-1~1-3として、一対のサイドマージン部及び複数のセラミック層におけるAサイトのカルシウムの原子比Rが異なるサンプルを作製した。各サンプルの一対のサイドマージン部及び複数のセラミック層におけるAサイトのカルシウムの原子比Rは表1に示す通りである。
【0066】
各サンプルについて、絶縁抵抗及び静電容量の評価を行った。絶縁抵抗については、100MΩ以上のサンプルを良品と判定した。静電容量については、4.0μFを基準とし、その±20%以内の3.2μF以上4.8μF以下のサンプルを良品と判定した。絶縁抵抗及び静電容量の評価結果は表1に示す通りである。
【0067】
【0068】
表1に示すように、実施例1-1~1-4に係るサンプルではいずれも良品との判定結果となった。なお、サイドマージン部におけるAサイトのカルシウムの原子比Rが10at%を超える実施例1-4に係るサンプルでは、実施例1-1~1-3に係るサンプルと比べて静電容量がやや低くなった。
【0069】
この一方で、比較例1-1に係るサンプルでは、絶縁抵抗が100MΩ未満となり、不良品との判定結果となった。これは、比較例1-1に係るサンプルでは、サイドマージン部及びセラミック層がいずれもカルシウムを含まないため、電解の集中によって絶縁抵抗の低下が生じたためであると考えられる。
【0070】
また、比較例1-2,1-3に係るサンプルではいずれも、静電容量が3.2μF未満となり、不良品との判定結果となった。これは、比較例1-2,1-3に係るサンプルでは、複数のセラミック層にサイドマージン部と同等以上のカルシウムが含まれることで、静電容量の低下が生じたためであると考えられる。
【0071】
(実施例2)
実施例2-1~2-4及び比較例2-1~2-3として、一対のサイドマージン部及び複数のセラミック層におけるAサイトのストロンチウムの原子比Rが異なるサンプルを作製した。各サンプルの一対のサイドマージン部及び複数のセラミック層におけるAサイトのストロンチウムの原子比Rは表2に示す通りである。
【0072】
各サンプルについて、絶縁抵抗及び静電容量の評価を行った。絶縁抵抗については、100MΩ以上のサンプルを良品と判定した。静電容量については、4.0μFを基準し、その±20%以内の3.2μF以上4.8μF以下のサンプルを良品と判定した。絶縁抵抗及び静電容量の評価結果は表2に示す通りである。
【0073】
【0074】
表2に示すように、実施例2-1~2-4に係るサンプルではいずれも良品との判定結果となった。なお、サイドマージン部におけるAサイトのストロンチウムの原子比Rが10at%を超える実施例2-4に係るサンプルでは、実施例2-1~2-3に係るサンプルと比べて静電容量がやや低くなった。
【0075】
この一方で、比較例2-1に係るサンプルでは、絶縁抵抗が100MΩ未満となり、不良品との判定結果となった。これは、比較例2-1に係るサンプルでは、サイドマージン部及びセラミック層がいずれもストロンチウムを含まないため、電解の集中によって絶縁抵抗の低下が生じたためであると考えられる。
【0076】
また、比較例2-2,2-3に係るサンプルではいずれも、静電容量が3.2μF未満となり、不良品との判定結果となった。これは、比較例1-2,1-3に係るサンプルでは、複数のセラミック層にサイドマージン部と同等以上のストロンチウムが含まれることで、静電容量の低下が生じたためであると考えられる。
【0077】
(実施例3)
サイドマージン部におけるAサイトのカルシウムの原子比R及びシリコンの原子比Rが様々に異なる構成A1~A8、構成B1~B8、及び構成C1~C8に係るサンプルを作製した。カルシウムの原子比Rは、構成A1~A8において0at%とし、構成B1~B8において2at%とし、構成C1~C8において5at%とした。
【0078】
構成A1~A8の各原子比Rは、表3に示すとおりである。構成A1~A8はいずれも、サイドマージン部にカルシウムを含まない点で比較例である。また、構成A1~A8では、サイドマージン部におけるシリコンの原子比Rを0.1at%以上12at%以下の範囲において様々に変化させた。
【0079】
構成B1~B8の各原子比Rは、表4に示すとおりである。構成B1~B8では、サイドマージン部におけるシリコンの原子比Rを様々に変化させた。構成B2~B7はいずれも実施例である。一方、シリコンの原子比Rが1at%未満の構成B1、及びシリコンの原子比Rが10at%を超える構成B8はいずれも比較例である。
【0080】
構成C1~C8の各原子比Rは、表5に示すとおりである。構成C1~C8では、サイドマージン部におけるシリコンの原子比Rを様々に変化させた。構成C2~C7はいずれも実施例である。一方、シリコンの原子比Rが1at%未満の構成C1、及びシリコンの原子比Rが10at%を超える構成C8はいずれも比較例である。
【0081】
各構成に係るサンプルについて、サイドマージン部の外観、サイドマージン部のポア率、及び絶縁不良率の評価を行った。サイドマージン部の外観については、各構成に係るサンプルについてサイドマージン部の形状が正常であるか否かをレーザー顕微鏡で観察し、正常であるサンプルを「a」と評価し、正常でないサンプルを「b」と評価した。具体的に、サイドマージン部のY軸方向の寸法がZ軸方向の最外層に位置する内部電極に隣接する位置においてZ軸方向中央部の25%以上であるサンプルを正常と判断した。
【0082】
サイドマージン部のポア率を求めるために、例えば、サイドマージン部の断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によって撮像した微細組織画像を用いることができる。具体的に、サイドマージン部のポア率は、微細組織画像の所定の領域におけるポアの断面の占める面積の割合として求めることができる。
【0083】
絶縁不良率の評価では、各構成に係るサンプル各1000個について、温度85℃、湿度85%の環境で100時間保持する耐湿試験を行った。そして、各構成について、1000個のサンプルのうち耐湿試験後の絶縁抵抗が1MΩ未満となったサンプルの比率を絶縁不良率とした。各構成についての評価結果は表3~5に示す通りである。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
表3に示すように、サイドマージン部におけるAサイトにカルシウムを含まない構成A1~A8ではいずれも、シリコンの量に関わらずポア率が低く、耐湿試験後に絶縁抵抗が1MΩ未満となるサンプルが1つも発生しなかった。つまり、Aサイトにカルシウムを含まない構成ではポア率による問題が生じないことがわかる。
【0088】
この一方で、表4,5に示すように、サイドマージン部におけるAサイトにカルシウムを含む構成では、サイドマージン部におけるシリコンの原子比Rが大きくなるほどポア率が低減される傾向が見られた。特に、シリコンの原子比Rについて、1at%以上では絶縁不良率が大幅に抑えられ、3at%以上では絶縁不良がほぼ発生しなかった。
【0089】
また、構成A8,B8,C8ではいずれも、外観の評価が「B」となり、正常な形状のサイドマージン部が得られなかった。これは、サイドマージン部におけるシリコンの原子比Rが10at%を超える構成A8,B8,C8に係るサンプルでは、サイドマージン部の柔軟性が高すぎることで正常な形状を保つことができなかったためと考えられる。
【0090】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0091】
例えば、複数のセラミック層及び一対のサイドマージン部を構成するペロブスカイト構造の多結晶体の組成は、目的とする性能などに応じて様々に設計可能である。つまり、多結晶体は、Aサイトにバリウム、カルシウム、及びストロンチウム以外の元素を含んでいてもよく、Bサイトにチタン以外の元素を含んでいてもよい。
【符号の説明】
【0092】
10…積層セラミックコンデンサ
11…セラミック素体
12,13…内部電極
14,15…外部電極
16…積層体
17…サイドマージン部
18…容量形成部
19…カバー部
20…セラミック層