(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098109
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】レドックスキャパシタおよびレドックスキャパシタシステム
(51)【国際特許分類】
H01G 11/02 20130101AFI20230703BHJP
H01G 11/10 20130101ALI20230703BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20230703BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20230703BHJP
H01G 11/70 20130101ALI20230703BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20230703BHJP
【FI】
H01G11/02
H01G11/10
H01G11/30
H01G11/78
H01G11/70
H01G11/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214646
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】中安 祐太
(72)【発明者】
【氏名】武樋 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】勝山 湧斗
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 崇
(72)【発明者】
【氏名】本間 格
【テーマコード(参考)】
5E078
【Fターム(参考)】
5E078AA10
5E078AA11
5E078AB12
5E078BA13
5E078BA18
5E078BA20
5E078DA07
5E078FA04
5E078HA04
5E078HA12
5E078HA21
5E078HA23
5E078JA02
5E078JA04
(57)【要約】
【課題】外部からの衝撃に対する安全性が高く、実用化可能なレドックスキャパシタおよびレドックスキャパシタシステムを提供する。
【解決手段】正極側導電性基板12と負極側導電性基板15とが、間隔をあけて対向するよう配置されている。正極材料11および負極材料14が、それぞれ正極側導電性基板12および負極側導電性基板15に対応して設けられ、活物質を含み、それぞれ対応する正極側導電性基板12および負極側導電性基板15に接触するよう、互いに間隔をあけて正極側導電性基板12と負極側導電性基板15との間に配置されている。酸性の電解質19が、正極側導電性基板12と負極側導電性基板15との間で、正極材料11および負極材料14に接するよう設けられている。正極側導電性基板12および負極側導電性基板15は、その電解質19に対する耐腐食性を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をあけて対向するよう配置された1対の導電性基板と、
各導電性基板に対応して設けられ、活物質を含み、それぞれ対応する導電性基板に接触するよう、互いに間隔をあけて各導電性基板の間に配置された1対の内側電極材料と、
各導電性基板の間で、各内側電極材料に接するよう設けられた酸性の電解質とを有することを
特徴とするレドックスキャパシタ。
【請求項2】
各導電性基板および各内側電極材料に対応して設けられ、対応する導電性基板との間に対応する内側電極材料を挟むよう、互いに間隔をあけて各導電性基板の間に配置された1対のメッシュ状の集電体を有することを特徴とする請求項1記載のレドックスキャパシタ。
【請求項3】
各導電性基板に対応して設けられ、活物質を含み、それぞれ対応する導電性基板に接触するよう、各導電性基板の外側に配置された1対の外側電極材料と、
少なくとも各外側電極材料の外側を覆うよう設けられたカバー部材とを、
有することを特徴とする請求項1または2記載のレドックスキャパシタ。
【請求項4】
各内側電極材料の間に、イオン交換膜から成る隔膜を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレドックスキャパシタ。
【請求項5】
前記電解質は硫酸を含み、
前記導電性基板は、オーステナイト系ステンレス鋼から成ることを
特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレドックスキャパシタ。
【請求項6】
前記活物質は、キノンまたはヒドロキノンを含み、
各内側電極材料は、前記活物質を担持した活性炭を含むことを
特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のレドックスキャパシタ。
【請求項7】
各内側電極材料の厚みが、0.5mm以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のレドックスキャパシタ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のレドックスキャパシタを複数有し、各レドックスキャパシタが直列に接続されていることを特徴とするレドックスキャパシタシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスキャパシタおよびレドックスキャパシタシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレドックスキャパシタとして、キノン系化合物を電極に用いる電気化学キャパシタが知られており、実際に製造されたものとして、正極にテトラクロロヒドロキノン(TCHQ)、負極にジクロロアントラキノン(DCAQ)を用い、電解質を酸性の水系電解液である硫酸水溶液(0.5M H2SO4 aq.)としたフルセルレドックススーパーキャパシタがある(例えば、特許文献1または非特許文献1参照)。
【0003】
このフルセルレドックススーパーキャパシタは、電極質量が 10 mg以下、電極径が 7 mm、電極の厚さが 100μm以下であり、まだ基礎研究段階のものであるが、約14 Wh/kgのエネルギー密度を有しており、優れたレート性能を示すことや、10000サイクル後でも容量が低下しないことが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2014/156511号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Tomai, S. Mitani, D. Komatsu, Y. Kawaguchi, I. Honma, “Metal-free aqueous redox capacitor via proton rocking-chair system in an organic-based couple”, Sci Rep 2014, 4, 3591.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および非特許文献1に記載のフルセルレドックススーパーキャパシタは、セルの容器として耐酸性のガラス製のビーカーを用いており、外部からの衝撃で簡単に割れてしまうため、非常に危険であり、このままでは実用化は困難であるという課題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、外部からの衝撃に対する安全性が高く、実用化可能なレドックスキャパシタおよびレドックスキャパシタシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るレドックスキャパシタは、間隔をあけて対向するよう配置された1対の導電性基板と、各導電性基板に対応して設けられ、活物質を含み、それぞれ対応する導電性基板に接触するよう、互いに間隔をあけて各導電性基板の間に配置された1対の内側電極材料と、各導電性基板の間で、各内側電極材料に接するよう設けられた酸性の電解質とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るレドックスキャパシタは、1対の導電性基板の間に、各内側電極材料および電解質が配置されているため、外部からの衝撃に対する安全性を高めることができ、実用化が可能である。本発明に係るレドックスキャパシタは、各内側電極材料の間に、イオン交換膜から成る隔膜を有することが好ましい。また、本発明に係るレドックスキャパシタは、一方の内側電極材料が正極材料から成り、その内側電極材料と対応する導電性基板とが正極側の電極体であり、他方の内側電極材料が負極材料から成り、その内側電極材料と対応する導電性基板とが負極側の電極体であることが好ましい。
【0010】
本発明に係るレドックスキャパシタで、各導電性基板は、導電性を有していれば、金属やその他の物質から成っていてもよく、例えば、電解質が硫酸を含む場合には、オーステナイト系ステンレス鋼から成っていてもよく、グラファイトなどの天然由来導電材料シート、導電性ポリマーなどから成っていてもよい。
【0011】
本発明に係るレドックスキャパシタは、各導電性基板および各内側電極材料に対応して設けられ、対応する導電性基板との間に対応する内側電極材料を挟むよう、互いに間隔をあけて各導電性基板の間に配置された1対のメッシュ状の集電体を有することが好ましい。この場合、集電体により、各内側電極材料を各導電性基板に接触した状態に保持することができる。また、各内側電極材料を各導電性基板と各集電体との間に挟むことにより、比較的高い容量を得ることができる。なお、集電体は、特許文献1および非特許文献1では金のメッシュ板から成っていたが、金に限らず、いかなるものから成っていてもよい。各集電体は、導電性を有していてもよいが、導電性でなくてもよい。例えば、電解質が硫酸を含む場合には、各集電体は、オーステナイト系ステンレス鋼から成っていてもよく、グラファイトなどの天然由来導電材料シート、導電性ポリマーなどから成っていてもよい。この場合、金のものと比べて、各集電体が安価であり、材料費を低減することができる。
【0012】
本発明に係るレドックスキャパシタは、各導電性基板に対応して設けられ、活物質を含み、それぞれ対応する導電性基板に接触するよう、各導電性基板の外側に配置された1対の外側電極材料と、少なくとも各外側電極材料の外側を覆うよう設けられたカバー部材とを、有していてもよい。この場合、各外側電極材料の外側を覆うカバー部材により、外部からの衝撃に対する安全性を高めることができる。なお、各外側電極材は、カバー部材により、各導電性基板に接触した状態に保持されていてもよい。あるいは、各外側電極材料を各導電性基板に接触した状態に保持するために、対応する導電性基板との間に対応する外側電極材料を挟むよう、対応する導電性基板とカバー部材との間に配置された1対のメッシュ状の外側集電体を有していてもよい。
【0013】
本発明に係るレドックスキャパシタで、前記活物質は、キノンまたはヒドロキノンを含むことが好ましく、例えば、正極の場合、クロラニルやテトラクロロヒドロキノン(TCHQ)を含み、負極の場合、アントラキノン(AQ)やジクロロアントラキノン(DCAQ)を含んでいてもよい。また、各内側電極材料および各外側電極材料は、前記活物質を担持した活性炭を含むことが好ましい。活性炭は、ガス賦活やアルカリ賦活などにより製造された市販のものなど、いかなるものであってもよく、例えば、木質の活性炭であってもよい。各内側電極材料および各外側電極材料は、活性炭の他に、例えば、CMC(カルボキシメチルセルロース)ナトリウム等の増粘剤や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のバインダーなどを含んでいてもよい。
【0014】
本発明に係るレドックスキャパシタは、各内側電極材料の厚みが、0.5mm以上であることが好ましい。この場合、比較的高い比放電容量を得ることができる。また、各内側電極材料を厚くすることができ、実用的である。なお、各外側電極材料の厚みも、0.5mm以上であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るレドックスキャパシタシステムは、本発明に係るレドックスキャパシタを複数有し、各レドックスキャパシタが直列に接続されていることを特徴とする。
本発明に係るレドックスキャパシタシステムは、本発明に係るレドックスキャパシタを複数有しており、外部からの衝撃に対する安全性が高く、実用性が高い。また、レドックスキャパシタの数により、用途に応じて電圧を高くすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、外部からの衝撃に対する安全性が高く、実用化可能なレドックスキャパシタおよびレドックスキャパシタシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態のレドックスキャパシタを示す(a)断面図、(b)構成要素を分解した斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態のレドックスキャパシタの変形例を示す、カバー部材を除いた構成要素を分解した斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態のレドックスキャパシタシステムを示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施の形態のレドックスキャパシタの、TCHQを担持した電極材料を有する電極体を用いたハーフセルバッテリーの、1Cレートでの放電試験結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施の形態のレドックスキャパシタの、(a)DCAQを担持した電極材料を含む電極体および、その電極体の集電体を金(gold)の網にした電極体を用いたハーフセルバッテリーの、1Cレートでの充放電試験結果を示すグラフ、(b)DCAQを担持した電極材料を含む電極体を用いたハーフセルバッテリーの、1CレートおよびC/2レートでの充放電試験結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態のレドックスキャパシタの、(a)TCHQを担持した電極材料、(b)DCAQを担持した電極材料を、pH=0、3、4の電解液(0.5M H
2SO
4水溶液)に浸漬したときの、サイクリックボルタンメトリーの測定結果を示すサイクリックボルタグラムである。
【
図7】本発明の実施の形態のレドックスキャパシタの、各電極材料の厚みが(a)0.5 mm、(b)1.0 mm、(c)1.5 mmのときの、フルセルバッテリーによる充放電試験結果を示すグラフ、(d)各電極材料の厚みでのレート性能を示すグラフ、(e)各電極材料の厚みが 1.0 mm、1Cレートのときの、2サイクル目および100サイクル目の充放電プロファイル、(f)各電極材料の厚みが 1.0 mm、1Cレートのときの、1~100サイクルまでの容量保持率(Capacity retention rate)を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態のレドックスキャパシタの、各電極材料の厚みが0.5 mm、1.0 mm、1.5 mmのときの、1Cレートでの容量を基準とした、Cレートに対する容量保持率の変化を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施の形態のレドックスキャパシタシステムの、(a)充放電試験を示すグラフ、および、(挿入図)1Cレートでの容量を基準とした、Cレートに対する容量保持率の変化を示すグラフ(b)1Cレートのときの、2サイクル目および100サイクル目の充放電プロファイル、(c)各電極材料の厚みが 1.0 mm、1Cレートのときの、1~100サイクルまでの容量保持率を示すグラフ、(d)フル充電後の7日間の開放電圧の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面および実施例等に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図9は、本発明の実施の形態のレドックスキャパシタおよびレドックスキャパシタシステムを示している。
図1に示すように、レドックスキャパシタ10は、正極材料11と正極側導電性基板12と正極側集電体13と負極材料14と負極側導電性基板15と負極側集電体16と隔膜17とガスケット18と電解質19とを有している。なお、正極材料11、正極側導電性基板12、および正極側集電体13が、正極側の電極体21を成し、負極材料14、負極側導電性基板15、および負極側集電体16が、負極側の電極体22を成している。
【0019】
正極材料11は、電極材料であり、薄い板状に形成され、キノンまたはヒドロキノンを含浸した正極活物質を担持した活性炭を含んでいる。正極材料11に含まれる正極活物質は、例えば、クロラニルやテトラクロロヒドロキノン(TCHQ)から成っている。正極側導電性基板12は、導電性で板状を成し、一方の表面が正極材料11の一方の表面に接するよう配置されている。正極側集電体13は、メッシュ板状を成し、正極側導電性基板12との間に正極材料11を挟むよう、一方の表面が正極材料11の他方の表面に接するよう配置されている。正極側集電体13は、正極材料11の側面も覆って、正極材料11の周囲で正極側導電性基板12に接するよう設けられている。
【0020】
負極材料14は、電極材料であり、薄い板状に形成され、キノンまたはヒドロキノンを含浸した負極活物質を担持した活性炭を含んでいる。負極材料14に含まれる負極活物質は、例えば、ジクロロアントラキノン(DCAQ)から成っている。負極側導電性基板15は、導電性で板状を成し、一方の表面が負極材料14の一方の表面に接するよう配置されている。負極側集電体16は、メッシュ板状を成し、負極側導電性基板15との間に負極材料14を挟むよう、一方の表面が負極材料14の他方の表面に接するよう配置されている。負極側集電体16は、負極材料14の側面も覆って、負極材料14の周囲で負極側導電性基板15に接するよう設けられている。なお、正極材料11および負極材料14が、内側電極材料を成している。
【0021】
図1(a)に示すように、レドックスキャパシタ10は、正極側導電性基板12と負極側導電性基板15とを外側にして、正極側集電体13と負極側集電体16とを向かい合わせた状態で、正極側集電体13と負極側集電体16との間に間隔をあけて設けられている。
【0022】
図1に示すように、隔膜17は、イオン交換膜から成り、正極側集電体13と負極側集電体16との間に配置されている。隔膜17は、例えば、エチレン樹脂やポリプロピレン、和紙から成っている。ガスケット18は、正極材料11、負極材料14、正極側集電体13、負極側集電体16、および隔膜17の側方を囲って、正極側導電性基板12と負極側導電性基板15との隙間を塞ぐよう設けられている。ガスケット18は、例えば、シリコンゴムから成っている。
【0023】
図1(a)に示すように、レドックスキャパシタ10は、正極側導電性基板12、負極側導電性基板15、およびガスケット18の内側に、密封された収納室20を有し、その収納室20に正極材料11、負極材料14、正極側集電体13、負極側集電体16、および隔膜17が収納されている。電解質19は、硫酸を含む酸性の液体であり、収納室20に充填されている。これにより、電解質19は、正極材料11と負極材料14との間に設けられている。
【0024】
正極側導電性基板12、正極側集電体13、負極側導電性基板15、および負極側集電体16は、電解質19に対する耐腐食性を有している。正極側導電性基板12および負極側導電性基板15は、導電性を有し、さらに電解質19に対する耐腐食性を有していれば、いかなる材料から成っていてもよい。また、正極側集電体13および負極側集電体16は、電解質19に対する耐腐食性を有していれば、いかなる材料から成っていてもよい。正極側導電性基板12、正極側集電体13、負極側導電性基板15、および負極側集電体16は、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼や、グラファイトなどの天然由来導電材料シート、導電性ポリマーなどから成っている。
【0025】
次に、作用について説明する。
レドックスキャパシタ10は、各電極体21,22が、正極側集電体13と負極側集電体16とを互いに向かい合わせた状態で設けられており、正極材料11、負極材料14、正極側集電体13、負極側集電体16、隔膜17、および電解質19を間に挟んで覆うよう、正極側導電性基板12および負極側導電性基板15が外側に配置されている。このため、外部からの衝撃に対する安全性が高く、実用的である。また、レドックスキャパシタ10は、正極材料11および負極材料14がそれぞれ正極側導電性基板12と正極側集電体13との間、および、負極側導電性基板15と負極側集電体16との間に挟まれているため、比較的高い容量を得ることができる。
【0026】
なお、
図2に示すように、レドックスキャパシタ10は、正極側導電性基板12の外側の面、すなわち正極材料11とは反対側の面に、正極側導電性基板12に接触するよう配置された外側正極材料11aと、負極側導電性基板15の外側の面、すなわち負極材料14とは反対側の面に、負極側導電性基板15に接触するよう配置された外側負極材料14aと、少なくとも外側正極材料11aおよび外側負極材料14aの外側を覆うよう設けられたカバー部材(図示せず)とを有していてもよい。この場合にも、カバー部材により、外部からの衝撃に対する安全性が高く、実用的である。なお、外側正極材料11aは正極材料11と同じ電極材料からなることが好ましく、外側負極材料14aは負極材料14と同じ電極材料からなることが好ましい。また、外側正極材料11aおよび外側負極材料14aが、外側電極材料を成している。
【実施例0027】
[レドックスキャパシタ10の作製]
図1に示すレドックスキャパシタ10を作製した。材料として、正極活物質をテトラクロロヒドロキノン(TCHQ)、負極活物質をジクロロアントラキノン(DCAQ:東京化成工業株式会社製)とし、活性炭をMaxsorb(登録商標:関西熱化学株式会社製)とした。なお、クロラニルの方が、TCHQよりも空気中での安定性が高く、安価であるため、正極活物質の材料としてクロラニル(東京化成工業株式会社製)を使用し、フルセルバッテリーを作製する前に、クロラニルをTCHQに変換した。
【0028】
まず、クロラニル3 gをアセトン 3 Lに溶解させ、1時間の超音波処理を行った。超音波処理後のその溶液に活性炭 7 gを加え、さらに1時間の超音波処理を行って、活性炭を溶液中に分散させた。その後、その溶液を80℃に保持して撹拌することにより、アセトンを蒸発させて、活性炭のナノ細孔に、クロラニルを含浸させた。こうして得られた粉末と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バインダーとを、9:1の重量比で混合し、ペレット状に成型した。なお、このとき、導電性添加剤は使用していない。こうして、クロラニルを担持したペレット状の正極材料11を作製した。また、同様にして、クロラニル 3gの代わりにDCAQ 3 gを用いて、DCAQを担持したペレット状の負極材料14を作製した。
【0029】
次に、ペレット状の正極材料11および負極材料14を、SUS316製の網(7 cm×7 cm、100メッシュ、Φ0.05 mm)から成る正極側集電体13および負極側集電体16に、それぞれ圧着させた。このとき、正極材料11および負極材料14は、それぞれ表面積が 15~20 cm2、厚みが 0.5~1.5 mm、重さが 1 gである。その後、正極側集電体13と正極側導電性基板12との間にクロラニルを担持した正極材料11を、負極側集電体16と負極側導電性基板15との間にDCAQを担持した負極材料14を挟むよう、SUS316製の板(10 cm×10 cm、厚さ0.1 mm)から成る正極側導電性基板12および負極側導電性基板15に、それぞれ正極側集電体13および負極側集電体16をスポット溶接し、正極側の電極体21および負極側の電極体22を作製した。各電極体21,22を、それぞれ電解液(0.5M H2SO4水溶液)に浸して1時間の真空引きを行い、正極材料11および負極材料14の細孔に溜まったガスを除去した。
【0030】
次に、クロラニルを担持した正極材料11を有する電極体21を、ハーフセルバッテリーにて、1.3Cレートで充放電を行うことにより、クロラニルをTCHQに変換した。このとき、参照電極にはAg/AgCl(3M NaCl aq.)を、対極には過剰な量の活性炭電極(活性炭:ケッチェンブラック:PTFE=7:2:1)を使用し、充放電には、ポテンショスタット(Solartron Analytical社製)および電源装置(菊水電子工業株式会社製「PWR801L」)を用いた。こうして、TCHQを担持した正極材料11を有する正極側の電極体21と、DCAQを担持した負極材料14を含む負極側の電極体22を作製した。なお、正極側の電極体21と負極側の電極体22の重さは同じである。
【0031】
隔膜17には、厚さ 0.2 mm のポリプロピレン製のセパレータを用いた。ガスケット18には、厚さ 5 mm のシリコンゴムを用い、カッターで外側が10 cm×10 cm、内側が8 cm×8 cmの枠状に成形した。このガスケット18を、液体のRTVシリコンで、SUS316製の正極側導電性基板12および負極側導電性基板15に接着した。電解質19には、0.5MのH
2SO
4の水系電解液(以下では、特に断らない限り、pH=0)を用い、収納室20に充填した。こうして、
図1に示す単セルのレドックスキャパシタ10を作製した。単セルの大きさは、縦 10 cm、横10 cm、厚み 0.52 cmである。
【0032】
[レドックスキャパシタシステム30の作製]
次に、作製した単セルのレドックスキャパシタ10を12個準備し、隣り合う単セルの正極側導電性基板12と負極側導電性基板15とが対向するよう、各単セルの厚み方向に沿って一列に並べた。隣り合う単セルの正極側導電性基板12と負極側導電性基板15とを被覆銅線で電気的に接続することにより、
図3に示す複数セルから成るレドックスキャパシタシステム30を作製した。なお、作製したレドックスキャパシタシステム30は、厚さが 1.0 mmの正極材料11および負極材料14を使用している。
【0033】
[ハーフセルバッテリーによる電気化学測定]
まず、厚さ0.5 mmのTCHQを有する正極側の電極体21を用いて、ハーフセルバッテリーにより定電流放電試験を行った。試験には、ポテンショスタット(Solartron Analytical社製)を用いた。1Cレートでの放電試験結果を、
図4に示す。
【0034】
図4に示すように、総容量(Specific Capacity)が 181.3 mAh g
-1、電気二重層(EDL)容量が 20.4 mAh g
-1であり、総容量から電気二重層(EDL)容量を差し引いた酸化還元容量は、160.9 mAh g
-1であることが確認された。また、クロラニルの理論酸化還元容量が 217.9mAh g
-1であるため、試験に用いた正極側の電極体21の利用率は、73.8%となる。試験に用いた正極側の電極体21は、質量負荷が非特許文献1に示す基礎研究段階の電極に比べて5倍以上大きいにもかかわらず、その非特許文献1に示す基礎研究段階での電極の利用率 75~86%と同程度の利用率であった。
【0035】
次に、厚さ0.5 mmのDCAQを有する負極側の電極体22を用いて、ハーフセルバッテリーにより充放電試験を行った。また、比較のため、負極側の電極体22の集電体を金の網にしたものについても、同様に充放電試験を行った。試験には、ポテンショスタット(Solartron Analytical社製)を用いた。集電体がSUS316製および金(gold)のときの、1Cレートでの充放電試験結果を、
図5(a)に示す。また、1CレートおよびC/2レートでの充放電試験結果(集電体はSUS316製)を、
図5(b)に示す。
【0036】
図5(a)に示すように、全体的には、集電体がSUS316製のものは、金のものに比べて容量低下がなく、ほぼ同様の充放電曲線になっていることが確認された。また、細かい部分では、SUS316製の放電曲線は、金のものに比べて、プラトー部の過電圧が約20 mV大きく、スロープ部ではやや緩やかな曲線となっていることが確認された。これは、金とSUS316の導電率の違いに起因するものと考えられる。このように、SUS316と金とでは、僅かな違いしか認められないことから、高価な金の集電体を使用するよりも、より安価なSUS316製の集電体を使用する方が、コスト面で有利であると考えられる。
【0037】
[サイクリックボルタンメトリー]
厚さ0.5 mmのTCHQを担持した正極材料11、および、厚さ0.5 mmのDCAQを担持した負極材料14を、pH=0、3、4の電解液(0.5M H
2SO
4水溶液)にそれぞれ浸漬して、サイクリックボルタンメトリーを行った。なお、サイクリックボルタンメトリーでのスキャンレートは、10mV/sとした。TCHQを担持した正極材料11のサイクリックボルタグラムを、
図6(a)に、DCAQを担持した負極材料12のサイクリックボルタグラムを、
図6(b)に示す。
【0038】
図6(a)および(b)に示すように、正極材料11および負極材料14も共に、pH=0のときに鋭いピークを示し、pH=3および4のときには、ピークは認められなかった。この結果から、レドックスキャパシタ10は、強酸の状態のときにのみ作動するといえる。
【0039】
[単セルのレドックスキャパシタ10による電気化学測定]
図1に示す単セルのレドックスキャパシタ10を用いて、フルセルバッテリーにより充放電試験を行った。試験には、ポテンショスタット(Solartron Analytical社製)を用い、電圧範囲を-0.2V~1.2Vとし、充放電レートを1Cレート、2Cレート、4Cレート、8Cレートとした。TCHQを担持した正極材料11、および、DCAQを担持した負極材料14の厚みを、0.5 mm、1.0 mm、1.5 mmとしたときの充放電試験結果を、それぞれ
図7(a)~(c)に示す。また、各電極材料(正極材料11および負極材料14)の厚みでのレート性能を
図7(d)に、各電極材料の厚みが 1.0 mm、1Cレートのときの、2サイクル目および100サイクル目の充放電プロファイルを
図7(e)に、各電極材料の厚みが 1.0 mm、1Cレートのときの、1~100サイクルまでの容量保持率(Capacity retention rate)を
図7(f)に示す。なお、Cレートは、TCHQを担持した正極材料11の理論容量に基づいて計算している。
【0040】
図7(a)~(c)に示すように、比放電容量は、0.5 mm厚の各電極材料のとき、1Cレートで 216 mAh g
-1であるが、1.0 mmおよび1.5 mm厚の各電極材料のときには、それぞれ166 mAh g
-1および140 mAh g
-1であり、質量負荷の増加に伴い、低下する傾向が確認された。また、平均放電電圧は、0.387 Vであることが確認された。
図7(a)~(c)の結果から、1Cレートでの容量を基準として、2Cレート、4Cレート、8Cレートでの電極の容量保持率を求め、
図8に示す。
【0041】
図8に示すように、2Cレートでは、0.5 mm厚と1.0 mm厚の各電極材料のとき、約75%の容量が維持されているのに対し、1.5 mm厚の各電極材料では、44%しか維持されていないことが確認された。さらに、充放電レートが4Cのとき、0.5 mm、1.0 mm、1.5 mmの各電極材料で、それぞれ44%、36%、14%の容量が維持されており、8Cのとき、16%、8.5%、4.3%の容量が維持されているいることが確認された。この結果から、各電極材料を厚くすることにより、レート性能が低下していくといえる。これは、厚い各電極材料では、プロトンの拡散が遅くなり、キノンでの酸化還元反応が進まないためであると考えられる。
【0042】
この充放電試験結から、0.5 mm厚の各電極材料での単セルのエネルギー密度を求めると、1Cレートのとき、全電極で10.9 Wh kg
-1であり、非特許文献1に示す基礎研究段階でのエネルギー密度 12.5 Wh kg
-1の87.2%であった。このように、基礎研究段階のものと比べても遜色なく、十分にエネルギー密度が高いため、
図1に示す厚い電極を用いた実用的なレドックスキャパシタ10は、1Cレートでも十分に使用可能であるといえる。なお、エネルギー密度がわずかに低下しているのは、主に有機活物質の利用率が低下したことに起因していると考えられる。また、正極側のTCHQは、負極側のDCAQよりも理論容量が大きいため、電極の重さが同じであるときには、その容量をすべて使い切ることができないことも、エネルギー密度低下の原因の一つであると考えられる。なお、エネルギー密度は、両電極の総質量をもとに算出している。
【0043】
また、
図7(e)に示すように、1Cレートでの2サイクル目の充放電プロファイルと、100サイクル目の充放電プロファイルとの間にはほとんど差がないことが確認された。このことから、100サイクルを超えても容量は低下しないものと考えられる。また、
図7(f)に示すように、1Cレートで100サイクル後でも、101.1%の容量が保持されていることが確認された。非特許文献1に示す基礎研究段階のものでも、容量の低下が見られないことを考慮すると、実用的な大きさにスケールアップしたレドックスキャパシタ10でも、優れたサイクル性能が維持されているといえる。
【0044】
[複数セルのレドックスキャパシタシステム30による電気化学測定]
図3に示す複数セルのレドックスキャパシタシステム30(各電極材料の厚み 1.0 mm)を用いて、充放電試験を行った。試験には、ポテンショスタット(Solartron Analytical社製)を用い、電圧範囲を-0.2V~12.0Vとし、充放電レートを1Cレート、2Cレート、4Cレート、8Cレートとした。充放電試験結果を
図9(a)に、1Cレートのときの、2サイクル目および100サイクル目の充放電プロファイルを
図9(b)に、1Cレートのときの、1~100サイクルまでの容量保持率を
図9(c)に、フル充電後の7日間の開放電圧の推移を
図9(d)に示す。
【0045】
図9(a)に示すように、比放電容量は、1Cレートで 142 mAh g
-1であり、
図7(b)に示す単セルでの容量の86%であることが確認された。また、平均放電電圧は、4.39 Vであり、これは単セルの平均放電電圧(0.387 V)の12倍であることが確認された。この結果から、1Cレートでの容量を基準として、2Cレート、4Cレート、8Cレートでの電極の容量保持率を求め、
図9(a)の挿入図に示す。なお、この挿入図には、
図8に示す単セル(1.0 mm厚の電極材料)での容積保持率も示している。挿入図に示すように、容量保持率は、2Cレートで62.6%、4Cレートで20.3%、8Cレートで8.5%であり、単セルよりもやや低いことが確認された。
【0046】
また、充放電試験結果から、1Cレートでのエネルギー密度を求めると、7.1 Wh kg-1であり、単セルのエネルギー密度よりも低いことが確認された。単セルを直列に接続した場合、全体の容量は、接続されたすべての単セルの中で最も容量の小さい単セルによって決定される。さらに、それぞれの単セルの電圧が異なると、すべての単セルを完全に充電・放電することができなくなるため、すべての単セルを効率よく利用するためには、すべての単セルの電圧が同じでなければならない。これらのことから、単セルに比べて、高電圧セルの容量がやや低く、レート性能が劣るのは、直列に接続された12個の各単セルの容量および電圧が若干異なることに起因するものと考えられる。
【0047】
図9(b)に示すように、1Cレートでの2サイクル目の充放電プロファイルと比べて、100サイクル目の充放電プロファイルは、プラトー容量が低下していることが確認された。また、
図9(c)に示すように、100サイクル後の容量保持率は、85%であることが確認された。これらの結果は、
図7(e)および(f)に示す、サイクル特性に優れた単セルでの結果とは異なっている。この原因は、以下のように考えられる。すなわち、12個の単セルを直列に接続したレドックスキャパシタシステム30では、各単セルのわずかな電圧差が、一部の単セルを過充電や過放電にしてしまい、電解質19が電気化学的に分解されて、各電極体21,22にガスが発生する。この発生したガスに接している各電極材料の部分が、電気化学的に不活性となり、キノン類の酸化還元反応ができなくなる。このため、サイクル特性が悪化するものと考えられる。
【0048】
図9(d)に示すように、7日間経過後の開放電圧は6.6 Vであり、放電プラトー電圧よりも高い値を示していることが確認された。これは、電圧低下は電気二重層(EDL)の破壊によってのみ引き起こされ、ほとんどのキノン類は充電状態で安定しており、7日後でも劣化しないためであると考えられる。
【0049】
なお、レドックスキャパシタシステム30を用いて、電流レギュレータを介してスマートフォンを充電する試験を行った。試験では、スマートフォンとの間に、赤、緑、青の3色の電球を直列に接続したところ、スマートフォンが充電されて、各電球が点灯するのが確認された。