(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098111
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ろう付時の反りを抑制するアルミニウム合金ブレージングシートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/22 20060101AFI20230703BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20230703BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20230703BHJP
B23K 35/40 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
B23K35/22 310D
B23K35/28 310B
C22C21/00 D
C22C21/00 E
C22C21/00 J
B23K35/40 340J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214650
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中村 優希
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 祥平
(57)【要約】
【課題】本発明は、ろう付時の反りを抑制できるアルミニウム合金ブレージングシートとその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明のアルミニウム合金ブレージングシートは、非ろう材層が2層以上積層されて積層体が構成され、該積層体の積層方向両面にろう材が配置されたアルミニウム合金ブレージングシートであって、前記非ろう材層の組成が質量%で、Mn、Si、Fe、Cu、Mg、Zn、Ti、Zrのうち1種、あるいは2種以上を規定量含有し、残部Alおよび不可避不純物からなり、前記ろう材の組成が質量%で、Si、Mg、Cu、Mn、Ti、Zr、BiとFe,Sr,Na,Cr,B,Niのうち、一種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、さらに、前記非ろう材層間のろう付熱処理後の平均結晶粒径の差が20μm以内であり、ろう付時の反りを抑制できることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ろう材層が2層以上積層されて積層体が構成され、該積層体の積層方向両面にろう材層が配置されたアルミニウム合金ブレージングシートであって、前記非ろう材層の組成が質量%で、Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.3%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.05~2.0%、Mg:0.05~1.5%、Zn:0.05~8.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%のうち1種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、
前記ろう材層が2.0~14.0質量%のSiを含むアルミニウム合金からなり、さらに、前記非ろう材層間のろう付熱処理後の平均結晶粒径の差が20μm以内である、ろう付時の反りを抑制するアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項2】
前記ろう材層が、質量%で、前記Siに加え、Mg:0.05~1.5%、Cu:0.05~1.0%、Mn:0.05~1.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%、Bi:0.01~1.0%、0.003~0.6%のFe,Sr,Na,Cr,B,Niのうち、一種、あるいは2種以上を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1に記載のろう付時の反りを抑制するアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項3】
前記積層方向に隣接する複数の非ろう材層の結晶粒界のうち、全結晶粒界に対する30°以上の方位差を有する結晶粒界の割合の差が、前記積層方向に隣接する複数の非ろう材層間で15%以内である、請求項1または請求項2に記載のろう付時の反りを抑制するアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項4】
非ろう材層が2層以上積層されて積層体が構成され、該積層体の積層方向両面にろう材層が配置されたアルミニウム合金ブレージングシートであって、前記非ろう材層の組成が質量%で、Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.3%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.05~2.0%、Mg:0.05~1.5%、Zn:0.05~8.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%のうち1種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、
前記ろう材層が2.0~14.0質量%のSiを含むアルミニウム合金からなり、さらに、前記非ろう材層間のろう付熱処理後の平均結晶粒径の差が20μm以内である、アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法であって、
前記各組成のアルミニウム合金の鋳塊に均質化処理と熱間圧延を施して前記非ろう材層用のシートと前記ろう材層用のシートを得た後、これらシートを積層してクラッド圧延し、ブレージングシートを製造するに際し、クラッド圧延中に行う冷間加工において、板厚1mm以上の範囲において1パス当たりの圧下率を25%以上、板厚1mm未満の範囲において1パス当たりの圧下率を10%以上に設定して1mm未満の目的の板厚まで180℃以下の温度範囲でトータル圧下率70%以上の圧下率で冷間圧延することを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項5】
前記ろう材層が質量%で、前記Siに加え、前記ろう材層が、質量%で、前記Siに加え、Mg:0.05~1.5%、Cu:0.05~1.0%、Mn:0.05~1.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%、Bi:0.01~1.0%、0.003~0.6%のFe,Sr,Na,Cr,B,Niのうち、一種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項6】
前記積層方向に隣接する複数の非ろう材層の結晶粒界のうち、全結晶粒界に対する30°以上の方位差を有する結晶粒界の割合の差が、前記積層方向に隣接する複数の非ろう材層間で15%以内であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付時の反りを抑制するアルミニウム合金ブレージングシートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多くのアルミニウム製自動熱交換器がろう付接合を用いて製造されており、ろう付は多数の接合箇所を一度の熱処理で同時に接合できる点や、高い密閉性を持つ点などが利点として挙げられる。
ろう付は、他のアルミニウム合金より低融点のAl-Si合金からなるろう材と非ろう材を張り合わせたブレージングシートを用いて行われる。各熱交換器に合わせて様々な部品形状に成型加工したブレージングシートを組み付け、ろう付熱処理を施すことでろう付接合が達成される。
良好なろう付性を得るためには、ろう付熱処理中、主にろう溶融温度において各部材が近接している必要があるため、精度よく成型加工した部品ができるだけクリアランスを生じないように組付けられている。
【0003】
本願出願人は、従来、例えば以下の特許文献1に示すフラックスレスろう付方法を提案している。この特許文献1に記載の技術では、MgとSiを所定量含有するAl-Si系ろう材を芯材にクラッドしてアルミニウムクラッド材を構成し、減圧を伴わない非酸化性雰囲気において前記Al-Si系ろう材とろう付対象物を接触密着させ、559~620℃に加熱することでろう付を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年において熱交換器の小型化、軽量化に伴って複雑な構造を持つ製品が増える傾向にあり、これに伴い、ろう付接合の難易度は増す傾向にある。例えば、カップ状に成型した部品を積み重ねた構造を持つ熱交換器は、部品一つ当たりの接合長さが長くなるため、一部でもクリアランス過多となった場合は、ろう付接合不良が発生してしまう懸念がある。
実際に、このような複雑な構造を持つ熱交換器においてろう付接合不良が多発する場合がある。本発明者がろう付熱処理後の接合不良部を観察すると、部材が反るように変形していることを確認できた。この変形が原因で部材間のクリアランスが広がったため、接合不良が生じたものであると考えられる。
【0006】
さらに本発明者が調査を進めると、ブレージングシートはろう溶融に伴い反るように変形することがわかった。この挙動による変形は、溶融したろうがろう材と接する非ろう材側に浸透し、ろう材と非ろう材間の非ろう材側が膨張することで生じる。そのため、両面にろう材が配置され、かつ両ろう材の間に2層以上の非ろう材層が挟まれたブレージングシート(例えば4層材、ろう材/中間層/心材/ろう材)では、一般にそれぞれの非ろう材層のろう浸透性は異なるため、それぞれ非ろう材側界面の膨張が同じになるとは限らない。そのため、ろう浸透性の違いに起因した膨張差が生じる結果、よりろうが浸透する側が凸となるように反る形で部材が変形してしまう。
【0007】
本発明者の研究によると、部材変形を無くすためには、複数の非ろう材層のろう浸透性を同等になるように調製して膨張差を無くすことが対策となる。具体的には、ろう浸透性に関係する材料特性である、(1)ろう浸透が生じる寸前の結晶粒径(≒ろう付後の結晶粒径)を制御すること、および(2)30°以上の結晶方位差を有する粒界の割合差をろう材と該ろう材に接する非ろう材層間で無くすことで、部材変形を抑制することができると考えられる。
【0008】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、ろう付時の反りを抑制することができるアルミニウム合金ブレージングシートおよびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本形態は、非ろう材層が2層以上積層されて積層体が構成され、該積層体の積層方向両面にろう材層が配置されたアルミニウム合金ブレージングシートであって、前記非ろう材層の組成が質量%で、Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.3%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.05~2.0%、Mg:0.05~1.5%、Zn:0.05~8.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%のうち1種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記ろう材層が2.0~14.0質量%のSiを含むアルミニウム合金からなり、さらに、前記非ろう材層間のろう付熱処理後の平均結晶粒径の差が20μm以内である、ろう付時の反りを抑制するアルミニウム合金ブレージングシートに関する。
【0010】
(2)本形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記ろう材層が質量%で、前記Siに加え、Mg:0.05~1.5%、Cu:0.05~1.0%、Mn:0.05~1.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%、Bi:0.01~1.0%、0.003~0.6%のFe,Sr,Na,Cr,B,Niのうち、一種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなることが好ましい。
(3)本形態に係る(1)または(2)に記載のアルミニウム合金ブレージングシートであって、前記積層方向に隣接する複数の非ろう材層の結晶粒界のうち、全結晶粒界に対する30°以上の方位差を有する結晶粒界の割合の差が、前記積層方向に隣接する複数の非ろう材層間で15%以内であることが好ましい。
【0011】
(4)本形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、非ろう材層が2層以上積層されて積層体が構成され、該積層体の積層方向両面にろう材層が配置されたアルミニウム合金ブレージングシートであって、前記非ろう材層の組成が質量%で、Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.3%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.05~2.0%、Mg:0.05~1.5%、Zn:0.05~8.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%のうち1種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記ろう材層の組成が質量%で、前記ろう材層が2.0~14.0質量%のSiを含むアルミニウム合金からなり、さらに、前記非ろう材層間のろう付熱処理後の平均結晶粒径の差が20μm以内である、アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法であって、前記各組成のアルミニウム合金の鋳塊に均質化処理と熱間圧延を施して前記非ろう材層用のシートと前記ろう材層用のシートを得た後、これらシートを積層してクラッド圧延し、ブレージングシートを製造するに際し、クラッド圧延中に行う冷間加工において、板厚1mm以上の範囲において1パス当たりの圧下率を25%以上、板厚1mm未満の範囲において1パス当たりの圧下率を10%以上に設定して1mm未満の目的の板厚まで180℃以下の温度範囲でトータル圧下率70%以上の圧下率で冷間圧延することを特徴とする。
【0012】
(5)本形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法では、前記ろう材層が、前記Siに加え、Mg:0.05~1.5%、Cu:0.05~1.0%、Mn:0.05~1.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%、Bi:0.01~1.0%、0.003~0.6%のFe,Sr,Na,Cr,B,Niのうち、一種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなることが好ましい。
(6)本形態のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法では、(4)又は(5)に記載のアルミニウム合金ブレージングシートが、前記積層方向に隣接する複数の非ろう材層の結晶粒界のうち、全結晶粒界に対する30°以上の方位差を有する結晶粒界の割合の差が、前記積層方向に隣接する複数の非ろう材層間で15%以内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、非ろう材層を2層以上積層した積層体の両面にろう材層を配置したアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、非ろう材層のMn、Si、Fe、Cu、Mg、Zn、Ti、Zrのいずれかの組成を規定し、ろう材層のSi、あるいは、Mg、Cu、Mn、Ti、Zr、BiあるいはFe,Sr,Na,Cr,B,Niのいずれかの組成を規定し、非ろう材層間のろう付熱処理後の平均結晶粒径の差を20μm以内としたので、ろう付時に積層体両面の非ろう材層側に浸漬するろうの量を均等化することができ、ろう付後の反り量の少ないブレージングシートを提供することができる。
このため、本発明のブレージングシートを用いることで、フィンやチューブあるいはカップ状の成型部材など、微細構造化された部材どうしをろう付する場合であっても、ろう付接合不良を生じないろう付ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートの第1実施形態を示す断面図。
【
図2】本形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートの第2実施形態を示す断面図。
【
図3】実施例において作成した熱交換器試験体の構成を示す略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照し、実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0016】
図1は本発明に係る第1実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートの断面構造を示すもので、この形態のアルミニウム合金ブレージングシートAは、第1の非ろう材層1と第2の非ろう材層2が積層されて積層体4が構成され、該積層体4の積層方向(厚さ方向)一面側に第1のろう材層5が同積層方向(厚さ方向)他面側に第2のろう材層6がそれぞれ積層された4層構造とされている。
【0017】
「非ろう材層」
第1の非ろう材層1と第2の非ろう材層2は、いずれも、質量%で、Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.3%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.05~2.0%、Mg:0.05~1.5%、Zn:0.05~8.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%のうち1種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる。
あるいは、第1の非ろう材層1と第2の非ろう材層2は、いずれも質量%で、Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.3%、Fe:0.05~0.7%を含有し、さらに、Cu:0.05~2.0%、Mg:0.05~1.5%、Zn:0.05~8.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%のうち、1種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる。
なお、質量%の範囲について「~」を用いて表記する場合、特に指定しない限り、下限と上限を含む表記とする。よって、一例として0.3~2.0%は、0.3%以上2.0%以下の含有量であることを意味する。
【0018】
以下に第1の非ろう材層1と第2の非ろう材層2に含まれている成分元素の組成限定理由について説明する。
Mn:0.3~2.0%
MnはAl-Mn、Al-Mn-Si、Al-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として組織内に析出し、ピン止め効果、または、再結晶の核として、再結晶後の粒径制御に寄与する。Mnの含有量が下限未満であると不均一な析出状態となり粒径が制御できず、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0019】
Si:0.1~1.3%
Siは、Alに対する固溶、および、Mg2SiやAl-Mn-Si、Al-Mn-Si-Fe金属間化合物として組織内に析出し、ピン止め効果、または、再結晶の核として、再結晶後の粒径制御に寄与する。Siの含有量が下限未満であると不均一な析出状態となり粒径が制御できず、上限越えであるとろう材層の融点が低下してエロージョン過多となる。
Fe:0.05~0.7%
FeはAlにほとんど固溶しないため不純物として存在し、これが再結晶の核となって再結晶後の粒径制御に貢献する。Feの含有量が下限未満であると再結晶の核が不均一な分布となり粒径が制御できず、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0020】
Cu:0.05~2.0%
CuはAlに固溶して材料強度を向上させるために添加される。Cuの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると耐食性が低下する。
CuはAlに対する固溶、および、Al2Cuなどの金属間化合物として組織内に析出し、ピン止め効果、または、再結晶の核として、再結晶後の粒径制御に寄与する。Cuの含有量が下限未満であると不均一な析出状態となり粒径が制御できず、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物が生成し、圧延性が低下する。
Mg: 0.05~1.5%
MgはMg2Siなどの金属間化合物として組織内に析出して材料強度を向上させるために添加される。Mgの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると材料強度が高すぎて素材製造が困難になる。
MgはAlに対する固溶、および、Mg2Siなどの金属間化合物として組織内に析出し、ピン止め効果、または、再結晶の核として、再結晶後の粒径制御に寄与する。Mgの含有量が下限未満であると不均一な析出状態となり粒径が制御できず、上限越えであると材料強度が高すぎて素材製造が困難になる。
【0021】
Zn:0.05~8.0%
ZnはAlに固溶して材料の自然電位を他部材より卑にし、犠牲防食効果によってクラッド材の耐孔食性を向上させるために添加される。Znの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると電位が過剰に卑化して自己腐食速度が増加する。
Ti:0.05~0.3%
Tiは濃度差を持ちながらAlに固溶して耐食性を向上させるために添加される。Tiの含有量が下限未満であると効果が不十分で、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0022】
Zr:0.05~0.3%
ZrはAl-Zrなどの金属間化合物を析出して材料強度を向上させるために添加される。Zrの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
ZrはAl-Zrなどの金属間化合物として組織内に析出し、ピン止め効果として再結晶後の粒径制御に寄与する。Zrの含有量が下限未満であると不均一な析出状態となり粒径が制御できず、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物が生成し、圧延性が低下する。
【0023】
「非ろう材層間のろう付熱処理後の平均結晶粒径の差が20μm未満」
ろう溶融に伴うブレージングシートの反り変形は、本実施形態の場合、第1の非ろう材層1と第2の非ろう材層2間のろう浸透差に起因した膨張差によって生じる。ろうの浸透性に寄与する要素には、ろう付熱処理時の入熱量や非ろう材層の固相線温度などが挙げられるが、最も寄与度が大きいのは非ろう材層の平均結晶粒径である。
平均結晶粒径が小さいほど、ろう浸透量は増大し、大きい場合はろうの浸透は制限される。よって、反りを抑制するためには、第1の非ろう材層1と第2の非ろう材層2間の平均結晶粒径の差を小さくして、すなわち、ろう浸透による膨張差を小さくすることが重要であり、2つの非ろう材層間の平均結晶粒径の差が大きくなると膨張差が大きくなり、反り変形が生じてしまう。そのため、所定量以下にする必要がある。
【0024】
「ろう材層」
第1のろう材層5と第2のろう材層6は、いずれも、質量%でSiを2.0~14.0%含有するアルミニウム合金からなることが好ましい。また、第1のろう材層5と第2のろう材層6は、いずれも、前述のSiに加え、質量%で、Mg:0.05~1.5%、Cu:0.05~1.0%、Mn:0.05~1.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%、Bi:0.01~1.0%、0.003~0.6%のFe,Sr,Na,Cr,B,Niのうち、一種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなる。
あるいは、第1のろう材層5と第2のろう材層6は、いずれも、前記Siに加え、質量%で、Mg:0.05~1.5%、Cu:0.05~1.0%、Mn:0.05~1.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%、Bi:0.01~1.0%を含有し、0.003~0.6%のFe,Sr,Na,Cr,B,Niのうち、一種、あるいは2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなる。
【0025】
以下に第1のろう材層5と第2のろう材層6に含まれている成分元素の組成限定理由について説明する。
Si:2.0~14.0%
Siはろう付時に溶融ろうを形成し、接合部のフィレット形成するために添加される。
Siの含有量が下限未満であると、溶融ろうが不足する。Siの含有量が上限越えであるとアルミニウム合金ブレージングシートAが硬く脆くなるため素材製造が困難になることや、鋳造維持に粗大Siが生成されて耐食性が低下する。
【0026】
Mg:0.05~1.5%
MgはMg2Siなどの金属間化合物として組織内に析出して材料強度を向上させるために添加される。Mgの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると材料強度が硬すぎて素材製造が困難になる。
Cu:0.05~1.0%
CuはAlに固溶してろう付熱処理後に共晶α相に濃縮することで初晶α相と共晶α相の電位差を小さくしてろう材の腐食形態を改良することで耐食性を向上させるために添加される。Cuの含有量が下限未満であると効果が得られず、上限越えであると金属Cuが析出して耐食性が低下する。
【0027】
Mn:0.05~1.0%
MnはAl-Mn、Al-Mn-Siなどの金属間化合物として組織内に析出しブレージングシート表面において腐食の起点を増やすことで、孔食の板厚方向進展速度を低下させるために添加される。Mnの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
Ti:0.05~0.3%
Tiは溶融ろうの濡れ性向上のために添加される。Tiの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0028】
Zr:0.05~0.3%
Zrは溶融ろうの濡れ性向上のために添加される。Zrの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
Bi:0.01~1.0%
Biは溶融ろうの濡れ性向上のために添加される。Biの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0029】
Fe,Sr,Na,Cr,B,Ni(これらの元素を総称して元素Xと称する):0.003~0.6%
元素Xは、元素Xを含む金属間化合物を形成して直上の酸化皮膜(Al2O3)を脆弱にすることで接合性を向上させる。さらに、溶融ろうの濡れ性向上のために添加される。元素Xの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0030】
本実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートAでは、非ろう材層1、2に関し、それぞれの全結晶粒界に対する30°以上の方位差を有する結晶粒界の割合の差が、非ろう材層1、2間で15%以内であることが好ましい。
結晶粒界の方位差が30°未満ではろう浸透がほとんど生じない。よって、先に記述したように非ろう材層1、2間の平均結晶粒径の差を小さくできたとしても、全結晶粒界に対する30°以上の方位差を有する結晶粒界の割合の差が、非ろう材層1、2間で所定の範囲を超えてしまった場合は、非ろう材層1、2間のろう浸透性に差が生じて、すなわち膨張差が生まれてアルミニウム合金ブレージングシートAにろう付後に反りが発生してしまう。
結晶粒界の方位差が大きいほどろう浸透は生じやすい。特に、方位差が30°以上の粒界で顕著となる。そのため、各非ろう材層1、2において、30°以上の粒界の占有率に違いがあると、たとえ結晶粒径が同一の材料であっても、ろう浸透に差が生じて反りが発生するおそれがある。
【0031】
前述のように、本実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートAにおいては、非ろう材層1、2間のろう付後の平均結晶粒径の差が20μm未満であることが好ましい。
組成が異なる非ろう材層1、2間の平均結晶粒径の差を小さくするには、ろう付前の非ろう材層1、2の組織をできるだけ同じ状態にすることが重要である。ろう付前の非ろう材層1、2の組織はアルミニウム合金ブレージングシートAの製造条件によって制御することができる。
【0032】
本実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートAにおいて、全結晶粒界に対する30°以上の方位差を有する結晶粒界の割合の差が、非ろう材層1、2間で15%以内であることが望ましい。この状態は、本質的にはろう溶融直前(約550℃)の状態を示すが、ろう付後でも同じ状態が維持される。
再結晶後の結晶方位は、冷間圧延組織の影響を強く受け、圧下率が高いほど同方向に揃いやすい。よって、非ろう材層1、2間における結晶方位分布の差を小さくするためには、熱間圧延上がり、もしくは、再結晶を伴う中間焼鈍から最終板厚までのトータル圧下率が高いことが望ましい。トータル圧下率は、以下に説明するアルミニウム合金ブレージングシートAの製造条件により決定される。
【0033】
「製造条件」
ろう材層5、6を準備する場合に、特に制限はなく、一般的なブレージングシートを製造する場合にろう材層を作製する条件に基づき作製することができる。必要組成のアルミニウム合金溶湯から鋳造により目的のシートを得、通常条件の均質化処理と面削を行い、熱間圧延により所望の板厚とする。
非ろう材層1、2を準備する場合に、特に制限はなく、一般的なブレージングシートを製造する場合にろう材層を作製する条件に基づき作製することができる。必要組成のアルミニウム合金溶湯から鋳造により目的のシートを得、通常条件の均質化処理を行った後、面削を行う。ただし、均質化処理の条件は、非ろう材層1、2の組み合わせに応じ、非ろう材層間の平均結晶粒径の差が小さくなるようにそれぞれ決定する必要がある。詳細条件については、後述する実施例において説明する。均質化処理温度については、400~600℃で1~12時間の範囲が望ましい。
なお、非ろう材層が後述する第2実施形態のように3層構造となる場合、中間層の厚さ方向両側に非ろう材層が積層される。この構造のように中間層を設ける場合、熱間圧延も実施することができる。
【0034】
「クラッド圧延」
上述のように用意したろう材層のシートと非ろう材層のシートを組み付け、均熱処理、熱間圧延、冷間圧延を施し、必要に応じて、冷間圧延途中に中間焼鈍、および最終焼鈍を行う。組み付けと均熱処理、熱間圧延については、一般的なブレージングシートを製造する場合と同等の条件で行えば良い。
【0035】
「冷間圧延」
クラッド圧延を行う場合、冷間圧延の1パス当たりの圧下率を以下のように制御する。
冷間圧延において、アルミニウム合金ブレージングシートの板厚が1mm以上の場合、1パス当たりの圧下率を25%以上、板厚が1mm未満の場合、1パスあたりの圧下率を10%以上と規定する。
冷間圧延において、1パス当たりの圧下率が規定値を満足しない場合、2層以上で構成される非ろう材層に均一にひずみが分布せず、各層でのろう付後の平均結晶粒径に差が生じてしまう。
【0036】
「冷間圧延、トータル圧下率」
熱延上がり、もしくは、再結晶を伴う中間焼鈍から、最終板厚までの冷間圧延のトータル圧下率を70%以上と規定する。規定未満であると、結晶方位分布に差が生じやすくなり、全結晶粒界に対する望ましい方位差の結晶粒界の割合の差を規定範囲に調製できなくなる。即ち、積層方向に隣接する複数の非ろう材層の結晶粒界のうち、全結晶粒界に対する30°以上の方位差を有する結晶粒界の割合の差が、前記積層方向に隣接する複数の非ろう材層間で15%以内となる条件を満足できなくなる。
また、冷間圧延におけるトータル圧下率が高いと、ひずみが多く導入されるため、非ろう材層1、2に均一にひずみが分布することでろう付後の平均結晶粒径の差が小さくなる。よって、トータル圧延率はできるだけ高いことが望ましい。
【0037】
「冷間圧延時の材料温度」
冷間圧延時の材料温度は、180℃未満であることが望ましい。
冷間圧延によって材料温度は上昇するが、非常に短い時間であるため、180℃を超えてしまうと再結晶の核が粗に形成されてしまい、非ろう材層間の平均結晶粒径の差が大きくなってしまう。よって、冷間圧延時の材料温度は180℃未満とすることが望ましい。
【0038】
「再結晶安定化焼鈍:T0」
再結晶安定化焼鈍温度(T0)については、200℃≦T≦240℃の範囲が望ましい。
再結晶安定化焼鈍温度(T0)を上述の範囲とするならば、再結晶の核となる亜結晶粒を均一に生成させることができ、ろう付熱処理時に各非ろう材層1、2の再結晶速度を揃えることができるため、ろう付後平均結晶粒径の差を小さくすることができる。再結晶安定化焼鈍により、ろう付熱処理中に生じる再結晶を安定かつ均一に調整することができる。
再結晶安定化焼鈍温度(T0)が200℃未満では亜結晶の生成が不十分で十分な効果が得られず、240℃を超えると非ろう材層の一部が再結晶してしまい、ろう付後の平均結晶粒径に差が生じてしまう。
「最終焼鈍」
最終焼鈍を負荷しない場合でも本実施形態の目的を満足可能であるが、負荷した方が非ろう材層間の平均結晶粒径の差をより小さく調製でき、かつ、安定して小さい平均結晶粒径の差を得ることができる。最終焼鈍を行う場合の昇温速度は、30-70℃/hが望ましい。
【0039】
最終焼鈍温度(T)については、300℃≦T≦400℃の範囲が望ましい。
最終焼鈍温度(T)を上述の範囲とするならば、ろう付熱処理よりも昇温速度が遅い最終焼鈍によって再結晶させると、均一に再結晶が生じるため、安定的に非ろう材層間の平均結晶粒径の差を小さすることができる。最終焼鈍温度(T)が300℃未満では非ろう材層が再結晶を完了できず、400℃を超える場合、二次再結晶が生じて不均一な結晶粒となる。
最終焼鈍は、再結晶を完了させる目的で施す。仮に、最終焼鈍を240<T<300℃の温度範囲で負荷してしまうと、中途半端に再結晶が進行するため、再結晶の核となる亜結晶粒を均一生成できず、ろう付後平均結晶粒の差を小さくすることができず、非ろう材層間の平均結晶粒径の差を小さくすることができなくなる。
【0040】
以上説明のアルミニウム合金ブレージングシートAは、熱交換器などを製造する場合のろう付温度、例えば、室温から平均昇温速度70℃/分で昇温し、590~620℃程度の温度範囲である不活性ガス雰囲気中に1~30分程度保持後、50℃/分の降温速度で降温冷却する熱処理の条件でろう付する目的に使用される。
例えば、種々の熱交換器のフィンやチューブあるいはカップ状成形体などのろう付部材と積層する形式で熱交換器の組立に利用され、フィンやチューブ、あるいは、カップ状成形体を組み付け後、全体をろう付温度に加熱し、アルミニウム合金ブレージングシートAを溶融させた後、常温に冷却することでろう付が完了する。なお、上述のろう付条件は、一例に過ぎず、上述の条件に限定されるものではない。
【0041】
本実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートAは、非ろう材層1、2間のろう付熱処理後の平均結晶粒径の差が20μm以内であるため、ろう材層5、6が溶融してろうとして濡れ広がり、ろう付を行ったとして、非ろう材層1、2の反りを小さくすることができる。
非ろう材層1、2間のろう付熱処理後の平均結晶粒径の差が20μm以内であると、濡れ拡がった溶融ろうが非ろう材層1、2側に浸透した場合、非ろう材層1、2からなる積層体4の厚さ方向両面側に均等に溶融ろうの浸漬が生じる。
このため、ろう付後に非ろう材層1、2の反り量を少なくすることができる。このことは、複雑で微細な構造を有する部材どうしのろう付により構成される熱交換器において、ろう付に伴い、部材間のクリアランスに変動を生じないことを意味する。これにより、ろう付するべき部材どうしのクリアランスが小さい微細構造であっても接合不良を生じないろう付が可能となる。
【0042】
図2は本発明に係る第2実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートBを示す断面図である。
図2は本発明に係る第2実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートの断面構造を示すもので、この実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートBは、第1の非ろう材層1と第2の非ろう材層2の間に第3の非ろう材層(中間層)3が積層されて3層構造の積層体7が構成され、該積層体7の積層方向(厚さ方向)一面側に第1のろう材層5が同積層方向(厚さ方向)他面側に第2のろう材層6がそれぞれ積層された5層構造とされている。
【0043】
図2に示す5層構造のアルミニウム合金ブレージングシートBであっても、先の第1実施形態のブレージングシートAと同様、第3の非ろう材層(中間層)3の厚さ方向両側に積層されている第1の非ろう材層1と第2の非ろう材層2の間のろう付熱処理後の平均結晶粒径の差が20μm以内である。このため、ろう材層5、6が溶融してろうとして濡れ広がり、ろう付を行ったとして、非ろう材層1、2と第3非ろう材層を含む積層体7の反りを小さくできる。
従って、第2実施形態のブレージングシートBにおいても第1実施形態のブレージングシートAと同等の作用効果を得ることができる。即ち、ろう付により微細ろう付構造の熱交換器を製造した場合、ろう付接合不良を生じていない熱交換器を製造することができる。
【実施例0044】
表1に示すNo.1~43のアルミニウム合金を非ろう材層として用い、表2に示す製造条件に従い、表3~表10に示す構成からなる4層構造または5層構造のブレージングシートを作製した。各ブレージングシートの最終板の板厚は0.2mmである。また、ろう材層は、以下に示すAl-Si合金を用いた。
ろう材:No.1、Al-7.5Si合金、ろう材:No.2、Al-14Si合金、ろう材:No.3、Al-2Si合金、ろう材:No.4、Al-16Si合金、ろう材No.5、Al-1Si合金。
表1に示す組成の合金鋳塊をアルミニウム合金溶湯から鋳造により得、均質化処理、熱間圧延を施した後、表2に示す製造条件に従い、2層の非ろう材層と2層のろう材層をクラッド圧着した4層構造のブレージングシートを製造した。また、3層の非ろう材層と2層のろう材層をクラッド圧着した5層構造のブレージングシートを製造した。
表2に示すように条件Xは、冷間圧延において板厚1mm以上の場合の1パス当たりの圧下率(%)を示し、条件Yは、冷間圧延において板厚1mm未満の場合の1パス当たりの圧下率(%)を示し、上限温度は冷間圧延時の上限温度(℃)を示し、冷間圧延圧下率(%)は冷間圧延のトータルの圧下率を示す。
【0045】
表3~表7に示すように、4層構造のブレージングシートにおいて非ろう材層は、非ろう材層Aと非ろう材層Bの2層構造であり、各非ろう材層A、Bは、表1に示すNo.1~43の各組成のアルミニウム合金から形成し、非ろう材層Aと非ろう材層Bを製造する場合の均質化処理温度(℃)と処理時間(hr)をHOMOと表題を付した欄に示した。
表8~表10に示すように、5層構造のブレージングシートにおいて非ろう材層は、非ろう材層Aと中間層と非ろう材層Bの3層構造であり、各非ろう材層A、B、中間層は、表1に示すNo.1~43の各組成のアルミニウム合金から形成し、非ろう材層Aと中間層と非ろう材層Bを製造する場合の均質化処理温度(℃)と処理時間(hr)をHOMOと表題を付した欄に示した。
表2に示すNo.1~20に記載のいずれかの製造方法を採用し、表3~表7に記載のNo.1~132の4層構造のブレージングシート試料と、表8~表10に示すNo.133~198の5層構造のブレージングシート試料について表2に示す製造方法の欄に記載の製造方法に従い作製した。
【0046】
板厚0.2mmの最終板のブレージングシートについて、RD方向(圧延方向:Rolling Direction)120mm、TD方向(圧延直角方向:transverse direction)100mmの長方形切り出した供試材について、片方の短辺の中心に一つ穴を開けて棒を通して吊るし、ろう付熱処理を模擬して平均昇温速度100℃/minで600℃まで加熱し、600℃に到達した後、室温まで空冷(急冷)し、各試験片とした。
【0047】
「評価項目」
(非ろう材層の平均結晶粒径の測定)
供試材ブレージングシートについて各層の板厚中央まで研磨し、EBSD(電子線後方散乱回折:Electron Back Scattered Diffraction Pattern法)を用いてRD-TD面の結晶粒を観察した。得られた観察像から、切断法によって平均結晶粒径を測定し、平均結晶粒径の差を求めた。
平均結晶粒径の差(=xμm)について、○は(10<x≦20)の範囲となったことを評価した結果、○○は(0≦x≦10)の範囲となったことを評価した結果、×は(20<x)の範囲となったことを評価した結果を意味する。
【0048】
(結晶粒界の方位差分布)
供試材ブレージングシートについて各層の板厚中央まで研磨し、EBSDを用いてRD-TD面の結晶粒を観察した。得られた観察像から、方位差分布を算出した。
これより、30°以上の結晶方位差を有する粒界長さ/全結晶粒界長さより全結晶粒界に対する30°以上の方位差を有する結晶粒界の割合(方位割合の差)を算出した。
方位割合の差(=y)において、○は(5<y≦15)となったことを評価した結果、○○は(0≦y≦5)となったことを評価した結果、×は(15<y)となったことを評価した結果を意味する。表3~表10では見出し欄に単に方位差と記載している。
【0049】
(反り評価)
ろう付熱処理後の供試材ブレージングシートの外観観察より評価した。上述のろう付熱処理後のブレージングシートを測定基準水平面上に水平に載置し、このブレージングシートを側面視した場合の外観写真を撮影し、この写真から各供試材ブレージングシートの反りの最大値を求めた。
反り評価の測定には、弓状に反った板材試料を上に凸となるように平面上に設置し、試料の長さ方向両端が平面に接する2点を結ぶ長さを弦の長さL(mm)と仮定し、弓状に反った試料の平面からの最大高さを矢高h(mm)と仮定する。この仮定において、以下の(1)式に結果を代入して求めた曲率σ(/mm)を反り量(Z)とした。
【0050】
σ={8×h/(L2+4×h2)}…(1)式
【0051】
表3~表10に記載の反り評価結果(=z mm-1)において、○は(0.002<Z≦0.005)となったことを評価した結果、○○は(0≦z≦0.002)となったことを評価した結果、×は(0.005<z)となったことを評価した結果を意味する。
【0052】
<接合率>
板厚0.7mmのAA3003合金板をコルゲート加工した
図3に示すフィン10とアルミニウム合金製ブレージングシート11を用い、15枚のブレージングシートの間にフィン10を配置する15段組の構成として組み付け、ろう付相当熱処理を施し、熱交換器試験体を作成した。この熱交換器試験体において、フィン接合率を(接合数/総接触数)×100で求めた。総接触数はフィンの折曲部がブレージングシートと接触している箇所の数を示す。
判定は、〇:80%以上100%未満、×:80%未満とした。
以上説明の、非ろう材層組成、ろう材層組成、製造方法、測定結果を以下の表1~表10に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
表1に示すNo.1~No.27のアルミニウム合金は、Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.3%、Fe:0.05~0.7%、Cu:0.05~2.0%、Mg:0.05~1.5%、Zn:0.05~8.0%、Ti:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.3%のうち1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金である。
表2に示す製法No.1~13に記載の製造方法は、ろう付時の反りを抑制できるアルミニウムブレージングシートを製造するために好適の条件とした製造方法である。表2の製法No.15は板厚1mm以上の1パス当たりの圧下率(条件X)が低く、製法No.16は板厚1mm未満の1パス当たりの圧下率(条件Y)が低く、製法No.17は上限温度が高く、製法No.14は冷間圧延時の圧下率が低い条件、製法No.18~20は望ましい再結晶安定化焼鈍温度や望ましい最終焼鈍温度から外れた製造方法である。
【0064】
表3に示すNo.1~27の試料、表4、表5に示すNo.44~69の試料、表6に示すNo.86~97の試料、表6、表7に示すNo.105~116の試料は望ましい組成の非ろう材層を用い、非ろう材層におけるろう付熱処理後の平均結晶粒の差がいずれも20μm以内の試料である。これらの試料は、非ろう材層のそれぞれにおいて、全結晶粒界に対する30°以上の方位差を有する結晶粒界の割合の差が、非ろう材層間で15%以内の試料であった。これらの試料は、そり評価においても優れた結果を示し、ろう付後の反りの少ない4層構造のアルミニウムブレージングシートであることが判った。
【0065】
これらに対し、表4に示すNo.28~43の試料は、非ろう材層Bとして表1のNo.28~43に示す比較例のいずれかのアルミニウム合金を適用した試料である。Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.3%、Fe:0.05~0.7%の範囲から外れた組成の非ろう材層Bを適用すると、製造時に問題を生じてブレージングシートを製造できないか、ろう付時にエロージョン過多となってろう付が満足になされないか、結晶粒、方位差の結果が悪い試料となる。
表5、表6に示すNo.70~85の試料は、非ろう材層Bとして表1のNo.28~43に示す比較例のいずれかのアルミニウム合金を適用した試料である。Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.3%、Fe:0.05~0.7%の範囲から外れた組成の非ろう材層Bを適用すると、製造時に問題を生じてブレージングシートを製造できないか、ろう付時にエロージョン過多となってろう付が満足になされないか、結晶粒、方位差の結果が悪い試料となる。
表6に示すNo.98~104の試料は、非ろう材層Aと非ろう材層Bについて、No.1のアルミニウム合金を適用した上に、表2に示す製法No.14~20のいずれかを適用した試料である。表2に示す製法No.14~20に記載の製造方法を採用すると、本発明で目的とする結晶粒と方位差の条件を満たさない試料となる。
【0066】
表7に示す試料No.117~123は、非ろう材層Aと非ろう材層Bについて、No.1とNo.12のアルミニウム合金を適用した上に、表2に示す製法No.14~20のいずれかを適用した試料である。表2に示す製法No.14~20に記載の製造方法を採用すると、本発明で目的とする結晶粒と方位差の条件を満たさない試料となる。
表7に示す試料No.124~132は、ろう材1~5のいずれかを適用した試料である。ろう材No.2は、14.0質量%のSiを含有し、ろう材No.3は、2.0質量%のSiを含有するアルミニウム合金であるが、ろう材4は、Si含有量が多過ぎる試料、ろう材5は、Si含有量が少な過ぎる試料である。
試料No.126、131はSi含有量が多すぎるため、ブレージングシートを製造できず、試料No.127、132はSi含有量が少なすぎたため、ろう付接合率が低下した。
【0067】
表8に示すNo.133~159の試料、表9に示すNo.176~187、表10に示すNo.195、196の試料は望ましい組成の非ろう材層を用い、非ろう材層におけるろう付熱処理後の平均結晶粒の差がいずれも20μm以内の試料である。これらの試料は、非ろう材層のそれぞれにおいて、全結晶粒界に対する30°以上の方位差を有する結晶粒界の割合の差が、非ろう材層間で15%以内の試料であった。これらの試料は、そり評価においても優れた結果を示し、ろう付後の反りの少ない5層構造のアルミニウムブレージングシートであることが判った。
【0068】
これらに対し、表8に示すNo.160の試料、表9に示すNo.161~175の試料は、非ろう材層Bとして表1のNo.28~43に示す比較例のいずれかのアルミニウム合金を適用した試料である。Mn:0.3~2.0%、Si:0.1~1.3%、Fe:0.05~0.7%の範囲から外れた組成の非ろう材層Bを適用すると、製造時に問題を生じてブレージングシートを製造できないか、ろう付時にエロージョン過多となってろう付が満足になされないか、結晶粒、方位差の結果が悪い試料となる。
表10に示す試料No.188~194の試料は、非ろう材層Aと非ろう材層Bについて、No.1とNo.12のアルミニウム合金を適用した上に、表2に示す製法No.14~20のいずれかを適用した試料である。表2に示す製法No.14~20に記載の製造方法を採用すると、本発明で目的とする結晶粒と方位差の条件を満たさない試料となる。
表10に示すNo.197の試料は、Si含有量が多いろう材4を用いた試料、No.198の試料は、Si含有量が少ないろう材5を用いた試料である。No.197の試料は、ブレージングシートを製造できず、No.198の試料は、ろう付接合率が低下した。
A、B…アルミニウム合金ブレージングシート、1…第1の非ろう材層、2…第2の非ろう材層、3…第3の非ろう材層(中間層)、4、7…積層体、5…第1のろう材層、6…第2のろう材層。